(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】クラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出方法および検出用多ウェルプレート
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240426BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240426BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 B
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2022171386
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2018067143の分割
【原出願日】2018-03-30
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 桃子
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/005370(WO,A1)
【文献】特開2003-135093(JP,A)
【文献】特開2017-055716(JP,A)
【文献】Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2016年,Vol.60, No.1,pp.393-399
【文献】Diagnostic Microbiology and Infectious Disease,2014年,Vol.79,pp.252-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地を用いて微量液体希釈法によりカルバペネマーゼ産生菌を検出する方法であって、前記液体培地が以下の(a)および(b)であること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌が腸内細菌科細菌のクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とするカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(a)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地であって、メロペネムの濃度が0.12μg/mL以上1μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地、
(b)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地それぞれに、阻害剤として1μg/mL以上32μg/mL以下の範囲内の一定濃度のクラブラン酸または2μg/mL以上16μg/mL以下の範囲内の一定濃度のタゾバクタムを含有する液体培地であって、
メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上0.25μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地。
【請求項2】
前記液体培地に加え、さらに以下の(f)を用いること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌が、腸内細菌科細菌のクラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とする請求項1に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(f)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地それぞれに、阻害剤として2μg/mL以上8μg/mL以下の範囲内の一定濃度のアビバクタムを含有する液体培地であって、
メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上0.25μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地。
【請求項3】
阻害剤を含有せずメロペネムを含有する液体培地を用いた場合の最小発育阻止濃度(MIC)が0.125μg/mLより大きい腸内細菌科細菌をカルバペネマーゼ産生菌であるとする基準を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
【請求項4】
液体培地を用いて微量液体希釈法によりカルバペネマーゼ産生菌を検出する方法であって、前記液体培地が以下の(a)および(b)であること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌が腸内細菌科細菌のクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とするカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(a)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地であって、メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上1μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地、
(b)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地それぞれに、阻害剤として1μg/mL以上32μg/mL以下の範囲内の一定濃度のクラブラン酸または2μg/mL以上16μg/mL以下の範囲内の一定濃度のタゾバクタムを含有する液体培地であって、
メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上1μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地。
【請求項5】
前記液体培地に加え、さらに以下の(f)を用いること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌が、腸内細菌科細菌のクラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とする請求項4に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(f)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地それぞれに、阻害剤として2μg/mL以上8μg/mL以下の範囲内の一定濃度のアビバクタムを含有する液体培地であって、
メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上1μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地。
【請求項6】
前記液体培地がミュラーヒントンブイヨン培地、陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地、溶血添加ミュラーヒントンブイヨン培地、ハートインフュージョンブイヨン培地、普通ブイヨン培地およびトリプトソイブイヨン培地から選択されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
【請求項7】
液体培地を収容するための複数のウェルからなる複数の収容部を備え、請求項1~6のいずれか1項に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法に用いられる多ウェルプレートであって、前記複数の収容部が、各ウェルに以下の(a)を含む第1収容部および各ウェルに以下の(b)を含む第2収容部を含むことを特徴とする前記多ウェルプレート。
(a)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地であって、メロペネムの濃度が0.12μg/mL以上1μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地、
(b)メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地それぞれに、阻害剤として1μg/mL以上32μg/mL以下の範囲内の一定濃度のクラブラン酸または2μg/mL以上16μg/mL以下の範囲内の一定濃度のタゾバクタムを含有する液体培地であって、
メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上0.25μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地。
【請求項8】
各ウェルに含まれる前記液体培地が凍結されていることを特徴とする請求項7に記載の多ウェルプレート。
【請求項9】
液体培地を収容するための複数のウェルからなる複数の収容部を備え、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法に用いられる多ウェルプレートであって、前記複数の収容部が、各ウェルに以下の(a’)を含み、各ウェルの薬剤が乾燥固定化されている第1収容部および各ウェルに以下の(b’)を含み、各ウェルの薬剤が乾燥固定化されている第2収容部を含むことを特徴とする前記多ウェルプレート。
(a’)カルバペネマーゼ産生菌検出のために微量液体希釈法による薬剤感受性試験を行う使用時、液体を添加して試薬組成物1を溶解させた際に、メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地であって、メロペネムの濃度が0.12μg/mL以上1μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地となるように、調製された前記試薬組成物1、
(b’)カルバペネマーゼ産生菌検出のために微量液体希釈法による薬剤感受性試験を行う使用時、液体を添加して試薬組成物2を溶解させた際に、メロペネムを希釈系列濃度で含有する液体培地それぞれに、阻害剤として1μg/mL以上32μg/mL以下の範囲内の一定濃度のクラブラン酸または2μg/mL以上16μg/mL以下の範囲内の一定濃度のタゾバクタムを含有する液体培地であって、
メロペネムの濃度が0.03μg/mL以上0.25μg/mL以下のすべての範囲に亘る希釈系列濃度を必ず含むものである液体培地となるように、調製された試薬組成物2。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバペネム系抗菌薬を加水分解するカルバペネム分解酵素(以下、カルバペネマーゼという。)の検出方法、特にクラスAに属するカルバペネマーゼ(以下、クラスA型カルバペネマーゼという。)産生菌の検出方法に関する。より詳細には、微量液体希釈法によるクラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出方法およびそれに用いる多ウェルプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
β-ラクタム系抗菌薬(以下、β-ラクタム薬という。)は、その分子構造母核中にβ-ラクタム環を持つ抗菌薬の総称で、ペニシリンの発見以来多くのβ-ラクタム薬が開発されている。このβ-ラクタム薬の開発に伴い、その分子構造中のβ-ラクタム環を加水分解して、その抗菌作用を無効化する酵素(以下、β-ラクタマーゼという。)を産生する耐性菌が出現し、感染症の治療を困難にしている。中でもカルバペネマーゼを産生する菌はカルバペネム系をはじめ複数系統の抗菌薬に耐性を示すことがあるため、近年、カルバペネマーゼ産生菌の増加が世界的に問題視されている。
【0003】
β-ラクタマーゼはAmblerらによって酵素タンパクのアミノ酸一次配列の相同性により、クラスA~D型に分類された。クラスAに属するβ-ラクタマーゼは、活性中心にセリン残基を有するセリンペプチダーゼである。その原型となる酵素はペニシリン系抗菌薬を加水分解するペニシリナーゼであるが、基質特異性が拡張することにより、ペニシリン系抗菌薬のみでなくセファロスポリン系抗菌薬やモノバクタム系抗菌薬に対する加水分解作用も示すようになった基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase、以下、ESBLという。)もクラスAのβ-ラクタマーゼに含まれる。クラスBに属するβ-ラクタマーゼは、活性中心に亜鉛イオンを有しているため、メタロ-β-ラクタマーゼ(metallo-β-lactamase、以下、MBLという。)と呼ばれる。このクラスに属するβ-ラクタマーゼは、ペニシリン系抗菌薬、セファロスポリン系抗菌薬及びカルバペネム系抗菌薬まで幅広く加水分解するものが多い。クラスCに属するβ-ラクタマーゼは、活性中心にセリン残基を有し、主としてセファロスポリン系抗菌薬を加水分解するセファロスポリナーゼである。クラスCに属するβ-ラクタマーゼをコードする遺伝子であるampCは、一部の菌種を除き、腸内細菌科細菌からブドウ糖非発酵菌に属する菌種の染色体に存在しており、そのようなβ-ラクタマーゼを産生する菌株は染色体性AmpC産生株と呼ばれ、セファマイシン系抗菌薬に感受性を示す。一方、プラスミド上にampCがコードされたプラスミド性AmpC(例えば過剰産生型AmpC)は、AmpCが効率的に産生されるために、セファマイシン系抗菌薬、オキサセフェム系抗菌薬に耐性を示す。クラスDに属するβ-ラクタマーゼは、クラスAに属する酵素と同様に活性中心にセリン残基を有し、原型となる酵素は主としてペニシリン系抗菌薬を加水分解する。オキサシリンを分解する効率がペニシリン分解効率よりも高いことがクラスAのβ-ラクタマーゼとの違いであり、クラスDに属するβ-ラクタマーゼはオキサシリナーゼと呼ばれる(非特許文献1)。
【0004】
カルバペネマーゼはクラスA、B、D型から見つかっているが、米国ではクラスAに属するKPC(Klebsiella pneumoniae carbapenemase)型カルバペネマーゼの産生菌が問題となり、また、欧州などではKPC型に加え、クラスDに属するOXA(oxacillinase)-48とその変異型酵素を産生する菌が問題となっている。一方、日本で多く検出されるIMP(imipenemase)型や東南アジア諸国で蔓延しているNDM(New Delhi metallo-β-lactamase)型、欧米で多く検出されるVIM(Verona imipenemase)型のカルバペネマーゼ産生菌はいずれもクラスBに属する(非特許文献2)。
【0005】
カルバペネマーゼを産生する腸内細菌科細菌は、Carbapenemase-producing Enterobacteriaceae(以下、CPEという。)と呼ばれるが、その中には、カルバペネム系抗菌薬に感性を示す「ステルス型CPE」と呼ばれるものが存在することが知られている。一方、CPEがカルバペネム系を含む複数系統の抗菌薬に耐性を示すこと、さらに、カルバペネマーゼ遺伝子がプラスミドなどを介して他の菌種の腸内細菌科細菌に伝播することから、院内感染のみでなく市中感染対策上においてもCPEの検出と制御が重要視されており、海外渡航歴の無い患者を対象とした検査においても、KPC型、OXA型、NDM型を含めたCPEの試験を行う必要性が増している(非特許文献2)。
【0006】
CPEは、第一段階として微量液体希釈法またはディスク法による薬剤感受性試験を実施し、カルバペネマーゼの産生が疑われた場合に、第二段階としてアシドメトリー法の原理によるCarba NP Test(特許文献1)、ディスクを用いるmCIM法(modified Carbapenem Inactivation Method)(非特許文献3)などによるCPE全般の試験や、カルバペネム系抗菌薬とカルバペネマーゼ阻害剤を組み合わせた鑑別試験などによって検出される。しかし、ステルス型CPEは、日常的に実施される第一段階としての薬剤感受性試験ではカルバペネム抗菌薬に対して感性を示すため、見逃される可能性がある。
【0007】
カルバペネマーゼ阻害剤を使用する試験としては、カルバペネム系抗菌薬と阻害剤としてメルカプト酢酸ナトリウム(SMA)を使用するMBLの判別(特許文献2)、発色性セファロスポリンと特異的阻害剤を組み合わせたCica β-TestによるMBLの検出、ファロペネムとEGTA、ファロペネムとクロキサシリンを組み合わせて使用するカルバペネマーゼ鑑別ディスク(特許文献3)などが知られている。しかし、これらの方法はいずれも、定性的な判定はできるが、定量的な最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration、以下、MICという。)を求めることはできない。
【0008】
以上の方法の他に、PCR法による遺伝子検査によりカルバペネマーゼの遺伝子型を検出することも可能である。しかし、この方法は高価な装置と高度の専門知識を必要とするため、より簡易な方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2014-519833号公報
【文献】特開2000-224998号公報
【文献】国際公開第2017/098206号
【非特許文献】
【0010】
【文献】臨床検査,54(5),473-480,2010
【文献】日本化学療法学会雑誌,66(1),119-128,2017
【文献】Journal of Clinical Microbiology,55(8),2321-2333,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌を簡易、正確かつ定量的に検出可能な方法およびそれに用いる多ウェルプレートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、メロペネム(MEPM)を基質として用い、阻害剤としてクラブラン酸(CVA)を組み合わせて、特にメロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地並びに、メロペネム0.015~256μg/mLおよびクラブラン酸1~64μg/mLを含有する液体培地を用いて微量液体希釈法を行うことにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌を高感度かつ特異的に検出できることを見出した。さらに、本発明者らは、メロペネムを基質として用い、阻害剤としてタゾバクタム(TAZ)を組み合わせて、特にメロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地並びに、メロペネム0.015~256μg/mLおよびタゾバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地を用いて微量液体希釈法を行うことにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌を高感度かつ特異的に検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のような構成からなるものである。
(1)液体培地を用いて微量液体希釈法によりカルバペネマーゼ産生菌を検出する方法であって、前記液体培地が以下の(a)および(b)であること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌がクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とするカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(a)メロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地、
(b)メロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてクラブラン酸1~64μg/mLまたはタゾバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地。
(2)前記液体培地に加え、さらに以下の(c)を用いること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌が、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスBに属するカルバペネマーゼ(以下、クラスB型カルバペネマーゼという。)産生菌であることを特徴とする(1)に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(c)メロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてジピコリン酸(2,6-ピリジンジカルボン酸)(DPA)100~1600μg/mLを含有する液体培地。
(3)前記液体培地に加え、さらに以下の(d)および(e)を用いること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌がクラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスB型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とする(2)に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(d)イミペネム(IPM)0.015~256μg/mLを含有する液体培地、
(e)イミペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてジピコリン酸100~1600μg/mLを含有する液体培地。
(4)前記液体培地に加え、さらに以下の(f)を用いること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌が、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスDに属するカルバペネマーゼ(以下、クラスD型カルバペネマーゼという。)産生菌であることを特徴とする(1)に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(f)メロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてアビバクタム(AVI)1~64μg/mLを含有する液体培地。
(5)前記液体培地に加え、さらに以下の(f)を用いること、並びに、前記カルバペネマーゼ産生菌がクラスA型カルバペネマーゼ産生菌、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌であることを特徴とする(2)または(3)に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(f)メロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてアビバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地。
(6)前記液体培地に加え、さらに以下の(g)を用いることを特徴とする(1)~(5)のいずれか1項に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(g)ラタモキセフ(LMOX)0.06~128μg/mLを含有する液体培地。
(7)前記液体培地がミュラーヒントンブイヨン培地、陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地、溶血添加ミュラーヒントンブイヨン培地、ハートインフュージョンブイヨン培地、普通ブイヨン培地およびトリプトソイブイヨン培地から選択されることを特徴とする(1)~(6)のいずれか1項に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
(8)液体培地を収容するための複数のウェルからなる複数の収容部を備え、(1)~(7)のいずれか1項に記載のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法に用いられる多ウェルプレートであって、前記複数の収容部が、各ウェルに以下の(a)を含む第1収容部および各ウェルに以下の(b)を含む第2収容部を含むことを特徴とする前記多ウェルプレート。
(a)メロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地、
(b)メロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてクラブラン酸1~64μg/mLまたはタゾバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地。
(9)各ウェルに含まれる前記液体培地が凍結されていることを特徴とする(8)に記載の多ウェルプレート。
(10)各ウェルに含まれる前記液体培地が乾燥固定化されていることを特徴とする(8)に記載の多ウェルプレート。
(11)液体培地を収容するための複数のウェルからなる複数の収容部を備え、(1)~(7)のいずれか1項に記載の方法に用いられる多ウェルプレートであって、前記複数の収容部が、各ウェルに以下の(a)を含み、各ウェルの薬剤が乾燥固定化されている第1収容部および各ウェルに以下の(b)を含み、各ウェルの薬剤が乾燥固定化されている第2収容部を含むことを特徴とする前記多ウェルプレート。
(a)使用時にメロペネム0.015~256μg/mLとなるように、調製された試薬組成物、
(b)使用時にメロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてクラブラン酸1~64μg/mLまたはタゾバクタム1~64μg/mLとなるように、調製された試薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微量液体希釈法においてメロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸1~64μg/mLまたはタゾバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地を組み合わせて用いることにより、従来法で必要であった第一段階の工程(第一段階として微量液体希釈法またはディスク法による薬剤感受性試験を実施し、カルバペネマーゼの産生が疑われる菌の有無を調べる工程)が不要となり、MICを求めることも可能であり、従来法よりも1日早く、簡易、正確かつ定量的に、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌を検出することができる。
【0015】
さらに、メロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸1~64μg/mLまたはタゾバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地の組み合わせに追加して、メロペネム0.015~256μg/mLと、阻害剤としてジピコリン酸100~1600μg/mLを含有する液体培地の組み合わせや、イミペネム0.015~256μg/mLと、阻害剤としてジピコリン酸100~1600μg/mLを含有する液体培地の組み合わせ、メロペネム0.015~256μg/mLと、阻害剤としてアビバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地の組み合わせを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼに加えて、クラスB型カルバペネマーゼやクラスD型カルバペネマーゼも同時に検出することができる。一方、ラタモキセフ0.06~128μg/mLを含有する液体培地を追加して用いることにより、カルバペネマーゼ産生菌のスクリーニングとクラスA、B、D型のカルバペネマーゼの検出を同時に行うことができるため、より確実にカルバペネマーゼの検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1-1】
図1-1は、本発明の一実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図1-2】
図1-2は、本発明の別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図2-1】
図2-1は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図2-2】
図2-2は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図3-1】
図3-1は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図3-2】
図3-2は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図4-1】
図4-1は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図4-2】
図4-2は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図5-1】
図5-1は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図5-2】
図5-2は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図6-1】
図6-1は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図6-2】
図6-2は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図7-1】
図7-1は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図7-2】
図7-2は、本発明のさらに別の実施形態におけるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法において使用する多ウェルプレートの薬剤配列の例を模式的に示した図である。
【
図8】
図8は、実施例1(1)で準備したマイクロプレートの薬剤配列を示した図である。
【
図9】
図9は、実施例2(1)で準備したマイクロプレートの薬剤配列を示した図である。
【
図10】
図10は、実施例3(1)で準備したマイクロプレートの薬剤配列を示した図である。
【
図11】
図11は、実施例4(1)で準備したマイクロプレートの薬剤配列を示した図である。
【
図12】
図12は、実施例5(1)で準備したマイクロプレートの薬剤配列を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明ではカルバペネム系の抗菌薬であるメロペネムを基質とし、阻害剤としてクラブラン酸またはタゾバクタムを組み合わせて微量液体希釈法による薬剤感受性試験を行うことにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌を検出する。具体的には、
図1-1、1-2に例示する様に、2倍の希釈系列でメロペネムを含有する液体培地を多ウェルプレートの第1収容部の各ウェルに分注し、第2収容部の各ウェルに、2倍の希釈系列のメロペネムおよび、一定量の阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地を分注した多ウェルプレートを準備し、その各ウェルの液体培地に被検菌を接種して培養する。培養後、MICを測定し、阻害剤を含まずにメロペネムを含有する液体培地におけるMICに比較して、メロペネムおよび阻害剤を含有する液体培地におけるMICが低下する場合、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定する。
【0018】
多ウェルプレートの各ウェルの液体培地が含有するメロペネムの濃度範囲は、0.001~256μg/mLを包含することができるが、0.015~256μg/mLを包含してもよい。例えば腸内細菌科細菌を検出対象微生物とする場合には、メロペネムの濃度範囲は、0.015~64μg/mLを包含することができ、0.015~32μg/mLを包含してもよい。特に、通常の薬剤感受性試験で試験されるメロペネムの濃度よりも低い、1μg/mL以下の濃度で試験を行うことにより、通常の薬剤感受性試験では感性(S)と判定されてしまい、検出できないカルバペネマーゼ産生菌、例えば、ステルス型CPEなども検出可能になる。さらにステルス型CPEを高感度に検出するためには、メロペネム濃度1μg/mL以下で試験を行い、例えばメロペネムのMICが0.125μg/mLより大きいものをカルバペネマーゼ産生菌であるとする基準を設定することがより好ましい。
【0019】
図1-1に例示する多ウェルプレートの第2収容部の各ウェルの液体培地中にメロペネムと共存させるクラブラン酸は、実施例に示した様に、1~64μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることで、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能であるが、より特異的にクラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出を行うためには、1~32μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることがより好ましく、2~32μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることがさらに好ましく、2~16μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることがよりさらに好ましい。
【0020】
一方、
図1-2に例示する多ウェルプレートの第2収容部の各ウェルの液体培地中にメロペネムと共存させるタゾバクタムは、実施例に示した様に、1~64μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることで、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能であるが、より特異的にクラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出を行うためには、1~32μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることがより好ましく、2~32μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることがさらに好ましく、2~16μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることがよりさらに好ましい。
【0021】
試験の際は、後に実施例に示した様に、阻害剤を含まずにメロペネムを含有する液体培地におけるMICと比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMICが2管(4倍)以上低下した場合、より好ましくは3管(8倍)以上低下した場合に、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。ここで「管」は、濃度希釈列管の濃度比の乗数を意味し、2倍希釈法である微量液体希釈法においては、1管の濃度比は21倍、2管の濃度比は22倍、3管の濃度比は23倍を意味する。
【0022】
本発明の一実施形態では、メロペネムを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸またはタゾバクタムを含有する液体培地の組み合わせに追加して、メロペネムと、阻害剤としてジピコリン酸を含有する液体培地の組み合わせを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスB型カルバペネマーゼ産生菌を検出する。すなわち、
図2-1、2-2に例示する様に、多ウェルプレートの第3収容部の各ウェルにメロペネムおよび、阻害剤としてのジピコリン酸を含有する液体培地を含む多ウェルプレートを用いてクラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスB型カルバペネマーゼ産生菌を検出可能である。
【0023】
多ウェルプレートの各ウェルの液体培地中にメロペネムと共存させるジピコリン酸は、100~1600μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることで、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能である。試験の際は、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。また、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびジピコリン酸を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスB型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。
【0024】
また、メロペネムと、阻害剤としてジピコリン酸を含有する液体培地の組み合わせに追加して、カルバペネム系の抗菌薬であるイミペネムと、阻害剤としてジピコリン酸を含有する液体培地の組み合わせを用いることにより、メロペネムとジピコリン酸の組み合わせでは検出できないクラスB型カルバペネマーゼ産生菌も含めて網羅的にクラスB型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能となる。すなわち、多ウェルプレートの第4収容部の各ウェルにイミペネムを含有する液体培地を含み、第5収容部の各ウェルにイミペネムおよび、阻害剤としてのジピコリン酸を含有する液体培地を含む、
図3-1、3-2に例示する多ウェルプレートを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスB型カルバペネマーゼ産生菌を高精度に検出可能になる。
【0025】
多ウェルプレートの各ウェルの液体培地が含有するイミペネムの濃度範囲は、0.001~256μg/mLを包含することができるが、0.015~256μg/mLを包含してもよく、0.015~32μg/mLを包含してもよい。一方、多ウェルプレートの各ウェルの液体培地中にイミペネムと共存させるジピコリン酸は、100~1600μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることで、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能である。試験の際は、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。また、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびジピコリン酸を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合、および/または阻害剤を含まず、イミペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、イミペネムおよびジピコリン酸を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスB型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。
【0026】
本発明の一実施形態では、メロペネムを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸またはタゾバクタムを含有する液体培地の組み合わせに追加して、メロペネムと、阻害剤としてアビバクタムを含有する液体培地の組み合わせを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌を検出する。すなわち、
図4-1、4-2に例示する様に、多ウェルプレートの第3収容部の各ウェルにメロペネムおよび、阻害剤としてのアビバクタムを含有する液体培地を含む多ウェルプレートを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌を検出可能である。
【0027】
多ウェルプレートの各ウェルの液体培地中にメロペネムと共存させるアビバクタムは、1~64μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度とすることで、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能であるが、2~16μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度としてもよく、2~8μg/mLの濃度範囲内の一定の濃度としてもよい。試験の際に、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびアビバクタムを含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合には、クラスA型またはD型カルバペネマーゼ産生菌であると判定される。したがって、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合に、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。また、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が低下せず、かつ、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびアビバクタムを含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合に、クラスD型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。
【0028】
本発明の一実施形態では、メロペネムを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸またはタゾバクタムを含有する液体培地の組み合わせに追加して、メロペネムと、阻害剤としてジピコリン酸を含有する液体培地、並びに、メロペネムと、阻害剤としてアビバクタムを含有する液体培地の組み合わせを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌を検出する。すなわち、
図5-1、5-2に例示する様に、多ウェルプレートの第3収容部の各ウェルにメロペネムおよび、阻害剤としてのジピコリン酸を含有する液体培地を含み、第4収容部の各ウェルにメロペネムおよび、阻害剤としてのアビバクタムを含有する液体培地を含む多ウェルプレートを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌を検出可能である。試験の際は、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。なお、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびアビバクタムを含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下すること、より好ましくは3管以上低下することによっても検出可能である。また、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびジピコリン酸を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスB型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。さらに、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が低下せず、かつ、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびアビバクタムを含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合に、クラスD型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。
【0029】
本発明の一実施形態では、メロペネムを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸またはタゾバクタムを含有する液体培地の組み合わせに追加して、メロペネムとジピコリン酸を含有する液体培地、メロペネムとアビバクタムを含有する液体培地、並びにイミペネムを含有する液体培地と、阻害剤としてジピコリン酸を含有する液体培地の組み合わせを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌を検出する。すなわち、
図6-1、6-2に例示する様に、多ウェルプレートの第3収容部の各ウェルにメロペネムおよび、阻害剤としてのジピコリン酸を含有する液体培地を含み、第4収容部の各ウェルにメロペネムおよび、阻害剤としてのアビバクタムを含有する液体培地を含み、第5収容部の各ウェルにイミペネムを含有する液体培地を含み、第6収容部の各ウェルにイミペネムおよび、阻害剤としてのジピコリン酸を含有する液体培地を含む多ウェルプレートを用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌およびクラスD型カルバペネマーゼ産生菌を検出することができる。したがって、この組み合わせを用いることにより、カルバペネマーゼ産生菌がクラスA型、B型、D型のいずれであるのかを識別することが可能である。試験の際は、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。なお、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびアビバクタムを含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下すること、より好ましくは3管以上低下することによっても検出可能である。また、阻害剤を含まず、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよび阻害剤(クラブラン酸またはタゾバクタム)を含有する液体培地におけるMIC値が低下せず、かつ、メロペネムおよびアビバクタムを含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合に、クラスD型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。さらに、メロペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、メロペネムおよびジピコリン酸を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合、および/または阻害剤を含まず、イミペネムを含有する液体培地におけるMIC値と比較して、イミペネムおよびジピコリン酸を含有する液体培地におけるMIC値が2管以上低下した場合、より好ましくは3管以上低下した場合にクラスB型カルバペネマーゼ産生菌であると判定することができる。
【0030】
本発明の一実施形態では、それぞれの薬剤の組み合わせに追加して、オキサセフェム系抗菌薬であるラタモキセフを含有する液体培地を組み合わせることにより、クラス分類に関わらずカルバペネマーゼ産生菌を検出(スクリーニング)する。すなわち、多ウェルプレートの第7収容部の各ウェルにラタモキセフを含有する液体培地を含む、
図7-1、7-2に例示する多ウェルプレートを用いることにより、クラス分類に関わらずカルバペネマーゼ産生菌を検出(スクリーニング)することができる。多ウェルプレートの各ウェルの液体培地が含有するラタモキセフを0.06~128μg/mLの濃度範囲とすることで、クラス分類に関わらずカルバペネマーゼ産生菌を高感度に検出可能であるが、ラタモキセフを2~64μg/mLの濃度範囲としてもよい。判定をする際には、例えば、腸内細菌科細菌の場合には、8~16μg/mLの濃度範囲内の一定濃度を基準としてカルバペネマーゼ産生菌を検出可能である。
【0031】
さらに、本発明の薬剤の組み合わせに追加して、他の抗菌薬を用いてもよい。例えば、本発明の薬剤の組み合わせに追加して、ペニシリン系抗菌薬であるピペラシリン(PIPC)およびタゾバクタムを含有する液体培地と、阻害剤を含まずラタモキセフを含有する液体培地を組み合わせることができる。その場合、阻害剤を含まずメロペネムを含有する液体培地におけるMIC値、ピペラシリンおよびタゾバクタムを含有する液体培地におけるMIC値および、阻害剤を含まずラタモキセフを含有する液体培地におけるMIC値の基準を設けて、いずれかが基準を満たせばカルバペネマーゼ産生菌であると判定することにより、クラス分類に関わらずCPEを検出(スクリーニング)することが可能である。また、セフェム系抗菌薬であるセフポドキシム(4~128μg/mL)を含有する液体培地と、阻害剤として1~64μg/mLの範囲内の一定量のクラブラン酸を含有する液体培地の組み合わせを追加してESBLを検出することにより、カルバペネマーゼ産生菌とESBLを容易に識別することが可能となる。
【0032】
本発明で検出対象となる微生物は、カルバペネマーゼを産生菌である。例えば、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌である、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)、(以下、大腸菌という。)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・アスブリエ(Enterobacter asburiae)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(以下、緑膿菌という。)およびサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella Enteritidis)、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌である、大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クレブシエラ・オキシトカ、セラチア・マルセッセンス、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロテウス・レットゲリ(Proteus rettgeri)、プロヴィデンシア・スチュアルッチ(Providencia stuartii)、モルガネラ・モルガニ(Morganella morganii)、シトロバクター・フロインディ、シトロバクター・アマロナチカス(Citrobacter amalonaticus)、シトロバクター・ヤンガエ(Citrobacter youngae)、エンテロバクター・クロアカエ、エンテロバクター・エロゲネス、緑膿菌、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アエロモナス・ジュニ(Aeromonas junii)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)およびシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、クラスD型カルバペネマーゼ産生菌である、大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、パンドラエア・ノメヌサ(Pandoraea pnomenusa)、ラルストニア・ピケッティ(Ralstonia picketti)およびシェワネラ・アルガエ(Shewanella algae)などが具体例として挙げられる。
【0033】
本発明で検出対象となる微生物は、特に、腸内細菌科細菌が好ましく、例えば、エシェリヒア属菌、クレブシエラ属菌、エンテロバクター属菌、セラチア属菌、シトロバクター属菌、サルモネラ属菌、プロテウス属菌、モルガネラ属菌、プロヴィデンシア属菌、シゲラ属菌、エルシニア属菌などが具体例として挙げられる。
【0034】
本発明で使用される被検試料は、細菌の存在が疑われるものであれば特に限定されない。ヒト、動物の尿、血液、喀痰、便などの生体由来試料、環境由来試料、食品由来試料などが具体例として挙げられる。
【0035】
本発明では、検出対象微生物の栄養源、陽イオン(カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなど)、緩衝剤などが含まれる液体基礎培地中に各抗菌薬や阻害剤(メロペネム、イミペネム、ラタモキセフ、クラブラン酸、タゾバクタム、ジピコリン酸、アビバクタムなど)を含有(溶解)させて液体培地として使用する。液体基礎培地の具体例としては、ミュラーヒントンブイヨン培地、陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地、溶血添加ミュラーヒントンブイヨン培地、ハートインフュージョンブイヨン培地、普通ブイヨン培地およびトリプトソイブイヨン培地などが挙げられる。なお、液体培地のpHは、本発明により検出される検出対象微生物が発育するpHであれば特に限定されない。
【0036】
本発明では、液体培地を収容するための複数のウェルからなる複数の収容部を備えた多ウェルプレートであって、複数の収容部が、各ウェルにカルバペネム系抗菌薬を含有する液体培地を含む第1収容部および各ウェルにカルバペネム系抗菌薬および阻害剤を含有する液体培地を含む第2収容部を含む多ウェルプレートを使用する。本発明の多ウェルプレートの各ウェルが含有する抗菌薬、阻害剤について、
図1-1~
図7-2に例示しているが、抗菌薬、阻害剤の濃度や抗菌薬、阻害剤を含む収容部のプレート内における位置などに関してはそれらの例示により限定されるものではない。
【0037】
本発明の多ウェルプレートは、液体培地を収容した状態で使用時まで冷凍保存することが可能であり、長期安定性を備えている。なお、-70℃で保存した場合、少なくとも6ヶ月間その効力を失うことは無い。
【0038】
液体培地を準備する際に、市販の粉末培地を使用する場合は、粉末を所定量の精製水に溶解し、オートクレーブなどの高圧滅菌処理を行う、市販の粉末培地を使用しない場合には、必要な成分(抗菌薬と阻害剤以外の培地成分)を調合した後、精製水に溶解し、(あるいは、成分毎に精製水に添加して溶解し)、オートクレーブ等の高圧滅菌処理を行う。次に、培地が十分に冷えたのを確認した後、各抗菌薬および阻害剤(メロペネム、イミペネム、ラタモキセフ、クラブラン酸、タゾバクタム、ジピコリン酸、アビバクタムなど)を適宜添加し、撹拌する。続いて、多ウェルプレートの収容部の各ウェルに培地を分注する。その後、多ウェルプレートを室温、冷蔵(例えば2~10℃)、または冷凍(例えば-4~-80℃)で保存する。なお、多ウェルプレートの作製のための全ての操作は原則として無菌環境下で行う。
【0039】
さらに、本発明の多ウェルプレートは、各ウェルに試薬組成物を含み、各ウェルの各試薬組成物を乾燥固定化して供給するようにしてもよい。試薬組成物は、使用時(本発明のカルバペネマーゼ検出のために薬剤感受性試験を行う際)にメロペネム0.015~256μg/mLとなるように調製された試薬組成物(a)、および使用時にメロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてクラブラン酸4μg/mLとなるように、調製された試薬組成物(b)を含むようにしてもよい。試薬組成物は、薬剤(抗菌薬および/または阻害剤)のみからなってもよく、薬剤と基礎培地成分を含んでもよい。
本発明の多ウェルプレートは、例えば、使用時にメロペネム0.015~256μg/mLとなるように、調製された試薬組成物が、多ウェルプレートの第1収容部の各ウェルに乾燥固定化され、使用時にメロペネム0.015~256μg/mLおよび、阻害剤としてクラブラン酸4μg/mLとなるように、調製された試薬組成物が、第2収容部の各ウェルに乾燥固定化された多ウェルプレートなどとして供給されうる。試薬組成物が基礎培地成分を含む場合は、多ウェルプレートの各ウェルに精製水などを添加して試薬組成物を溶解させて薬剤を含有する液体培地とし、本発明のカルバペネマーゼ検出法に用いられる。一方、試薬組成物が基礎培地成分を含まない場合は、多ウェルプレートの各ウェルに液体基礎培地を添加して試薬組成物を溶解させて薬剤を含有する液体培地とし、本発明のカルバペネマーゼ検出方法に用いられる。乾燥固定化方法としては、薬剤や培地成分が変質しない限り、特に制限されず、自然乾燥、送風乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥といった一般的な乾燥方法が挙げられる。乾燥固定化した多ウェルプレートの作製のための操作に関しても原則として全て無菌環境下で行う。
【0040】
本発明の多ウェルプレートは、カルバペネマーゼ検出用プレートとして提供されてもよいが、カルバペネマーゼ判定用プレート、カルバペネマーゼ鑑別用プレートあるいは薬剤感受性試験用プレートとして提供されてもよい。
【0041】
本発明の多ウェルプレートは、例えば収容部として複数のウェルを備えたプラスチック製プレートが挙げられ、具体的には24穴プレート、96穴プレート、192穴などのマイクロプレートが挙げられるが、ウェルの数は限定されない。
【0042】
本発明のカルバペネマーゼ産生菌の検出方法においては、例えば、被検試料を前培養後、菌株のコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁させて被検菌懸濁液を調製し、本発明の多ウェルプレートの各ウェルに収容された液体培地に被検菌を接種する。次に、被検菌を接種した培地を被検菌の発育に適した温度条件下(35±2℃)で所定時間(16時間~24時間)培養する。続いて、培養後の培地を観察し、被検菌の発育の有無を観察し、被検菌の発育状況とカルバペネム系抗菌薬の濃度からMICを求め、阻害剤を含まずにカルバペネム系抗菌薬を含有する液体培地におけるMICに比較して、カルバペネム系抗菌薬および阻害剤を含有する液体培地におけるMICが低下する場合、カルバペネマーゼ産生菌であると判定する。以上のように、本発明の検出方法は一度の薬剤感受性試験(微量液体希釈法)で、クラスAをはじめとする各種カルバペネマーゼ産生菌の検出、鑑別が可能となる。また、自動分析装置を用いて判定を行うことにより、さらに簡便で迅速な検出が可能である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
(微量液体希釈法によるクラスA型カルバペネマーゼ産生菌および非産生菌の確認1)
メロペネム(MEPM)を基質とし、阻害剤としてクラブラン酸(CVA)を組み合わせた微量液体希釈法において、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されているクレブシエラ・ニューモニエ3株、大腸菌1株、およびクラスA型カルバペネマーゼ非産生菌として確認されている大腸菌2株、緑膿菌1株を供試菌として用い、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出性能を調べた。なお、以下には、陽性コントロールについて記載しないが、抗菌薬および阻害剤を含有しない陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地を陽性コントロールとして使用し、被検菌が問題なく発育することを確認している。
【0045】
(1)マイクロプレートの作製
Clinical and Laboratory Standards Institute(以下、CLSIという。)で設定された標準法の微量液体希釈法に準じて、メロペネム0.015~32μg/mLを含有する陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を作成し、96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。同様に、その希釈系列にクラブラン酸1~64μg/mLを添加した陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。作製したマイクロプレートの薬剤配列は、
図8(薬剤配列1)に示したとおりである。なお、作製したマイクロプレートは-70℃で保存し、使用時に融解して用いた。
【0046】
(2)菌の接種と培養
前培養した各菌株のコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁させMcFarland No. 1の菌液を作製した後、滅菌生理食塩水で10倍希釈して接種用菌液とした。その後、前記接種用菌液を2.5μLずつ、(1)で準備したマイクロプレートの各ウェルに接種し(これにより、各ウェルの培地100μLあたりの最終接種菌量は約5×104CFU(colony forming unit)/ウェルになる)、35±2℃で18時間好気培養した。
【0047】
(3)MIC測定と判定結果
培養後、それぞれのMICを測定し、判定を行った。MIC値の結果を以下の表1に示す。
【0048】
【0049】
表1の結果から、試験したメロペネム0.015~32μg/mLの濃度範囲において、メロペネム/クラブラン酸のMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管(4倍)以上とすることで、クラブラン酸の添加濃度1~64μg/mLの範囲でKPC型に代表されるクラスA型カルバペネマーゼ産生菌を検出可能であることが示された。
【実施例2】
【0050】
(微量液体希釈法によるクラスA型カルバペネマーゼ産生菌および非産生菌の確認2)
メロペネム(MEPM)を基質とし、阻害剤としてタゾバクタム(TAZ)を組み合わせた微量液体希釈法において、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されているクレブシエラ・ニューモニエ3株、大腸菌1株、およびクラスA型カルバペネマーゼ非産生菌として確認されている大腸菌2株、緑膿菌1株を供試菌として用い、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出性能を調べた。なお、以下には、陽性コントロールについて記載しないが、抗菌薬および阻害剤を含有しない陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地を陽性コントロールとして使用し、被検菌が問題なく発育することを確認している。
【0051】
(1)マイクロプレートの作製
CLSIで設定された標準法の微量液体希釈法に準じて、メロペネム0.015~32μg/mLを含有する陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を作成し、96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。同様に、その希釈系列にタゾバクタム1~64μg/mLを添加した陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。作製したマイクロプレートの薬剤配列は、
図9(薬剤配列2)に示したとおりである。なお、作製したマイクロプレートは-70℃で保存し、使用時に融解して用いた。
【0052】
(2)菌の接種と培養
前培養した各菌株のコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁させMcFarland No. 1の菌液を作製した後、滅菌生理食塩水で10倍希釈して接種用菌液とした。その後、前記接種用菌液を2.5μLずつ、(1)で準備したマイクロプレートの各ウェルに接種し(これにより、各ウェルの培地100μLあたりの最終接種菌量は約5×104CFU/ウェルになる)、35±2℃で18時間好気培養した。
【0053】
(3)MIC測定と判定結果
培養後、それぞれのMICを測定し、判定を行った。MIC値の結果を以下の表2に示す。
【0054】
【0055】
表2の結果から、試験したメロペネム0.015~32μg/mLの濃度範囲において、メロペネム/タゾバクタムのMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を1管(2倍)以上とすることで、タゾバクタムの添加濃度1~64μg/mLの範囲でKPC型に代表されるクラスA型カルバペネマーゼ産生菌を検出可能であることが示された。
【実施例3】
【0056】
(微量液体希釈法によるカルバペネマーゼ産生菌の検出1)
メロペネム(MEPM)を基質とし、阻害剤としてクラブラン酸(CVA)との組み合わせ、阻害剤としてジピコリン酸(DPA)との組み合わせ、および阻害剤としてアビバクタム(AVI)との組み合わせを用いた微量液体希釈法において、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されているクレブシエラ・ニューモニエ3株および大腸菌1株、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されているクレブシエラ・ニューモニエ1株、並びにクラスD型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されている大腸菌1株およびクレブシエラ・ニューモニエ1株を供試菌として用い、カルバペネマーゼ産生菌の検出性能を調べた。
【0057】
(1)マイクロプレートの作製
CLSIで設定された標準法の微量液体希釈法に準じて、メロペネム0.001~256μg/mLを含有する陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を作成し、96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。同様に、その希釈系列にクラブラン酸4μg/mL、ジピコリン酸175μg/mL、またはアビバクタム4μg/mLを添加した陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。作製したマイクロプレートの薬剤配列は、
図10(薬剤配列3)に示したとおりである。なお、作製したマイクロプレートは-70℃で保存し、使用時に融解して用いた。
【0058】
(2)菌の接種と培養
前培養した各菌株のコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁させMcFarland No. 1の菌液を作製した後、滅菌生理食塩水で10倍希釈して接種用菌液とした。その後、前記接種用菌液を2.5μLずつ、(1)で準備したマイクロプレートの各ウェルに接種し(これにより、各ウェルの培地100μLあたりの最終接種菌量は約5×104CFU/ウェルになる)、35±2℃で18時間好気培養した。
【0059】
(3)MIC測定と判定結果
培養後、それぞれのMICを測定し、メロペネム/クラブラン酸のMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上とし、メロペネム/ジピコリン酸のMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上とし、さらにメロペネム/アビバクタムのMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上として判定を行った。
【0060】
MIC値の結果は以下の表3に示すとおりである。試験したクラスA型カルバペネマーゼ産生菌はすべて、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびクラブラン酸の組み合わせによりクラスA型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。なお、試験したクラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびアビバクタムの組み合わせによっても検出可能であることが示された。すなわち、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下しており、かつ、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下している場合に、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判別可能である。また、試験したクラスB型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/ジピコリン酸のMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびジピコリン酸の組み合わせによりクラスB型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。さらに、試験したクラスD型カルバペネマーゼ産生菌2株はいずれも、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下せず、かつ、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびクラブラン酸の組み合わせ、並びにメロペネムおよびアビバクタムの組み合わせを用いることによりクラスD型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。
【0061】
【実施例4】
【0062】
(微量液体希釈法によるカルバペネマーゼ産生菌の検出2)
メロペネム(MEPM)を基質とし、阻害剤としてクラブラン酸(CVA)との組み合わせ、阻害剤としてジピコリン酸(DPA)との組み合わせ、および阻害剤としてアビバクタム(AVI)との組み合わせを用いた微量液体希釈法において、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されている大腸菌1株、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されているクレブシエラ・ニューモニエ1株、並びにクラスD型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されている大腸菌1株およびクレブシエラ・ニューモニエ1株を供試菌として用い、カルバペネマーゼ産生菌の検出性能を調べた。
【0063】
(1)マイクロプレートの作製
CLSIで設定された標準法の微量液体希釈法に準じて、メロペネム0.015~32μg/mLを含有する陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を作成し、96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。同様に、その希釈系列にクラブラン酸4μg/mL、ジピコリン酸175μg/mL、またはアビバクタム4μg/mLを添加した陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。作製したマイクロプレートの薬剤配列は、
図11(薬剤配列4)に示したとおりである。なお、作製したマイクロプレートは-70℃で保存し、使用時に融解して用いた。
【0064】
(2)菌の接種と培養
前培養した各菌株のコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁させMcFarland No. 1の菌液を作製した後、滅菌生理食塩水で10倍希釈して接種用菌液とした。その後、前記接種用菌液を2.5μLずつ、(1)で準備したマイクロプレートの各ウェルに接種し(これにより、各ウェルの培地100μLあたりの最終接種菌量は約5×104CFU/ウェルになる)、35±2℃で18時間好気培養した。
【0065】
(3)MIC測定と判定結果
培養後、それぞれのMICを測定し、メロペネム/クラブラン酸のMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上とし、メロペネム/ジピコリン酸のMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上とし、さらにメロペネム/アビバクタムのMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上として判定を行った。
【0066】
MIC値の結果は以下の表4に示すとおりである。試験したクラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびクラブラン酸の組み合わせによりクラスA型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。なお、試験したクラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびアビバクタムの組み合わせによっても検出可能であることが示された。すなわち、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下しており、かつ、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下している場合に、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判別可能である。また、試験したクラスB型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/ジピコリン酸のMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびジピコリン酸の組み合わせによりクラスB型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。さらに、試験したクラスD型カルバペネマーゼ産生菌2株はいずれも、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下せず、かつ、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびクラブラン酸の組み合わせ、並びにメロペネムおよびアビバクタムの組み合わせを用いることによりクラスD型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。
【0067】
【実施例5】
【0068】
(微量液体希釈法によるカルバペネマーゼ産生菌の検出3)
メロペネム(MEPM)を基質とし、阻害剤としてタゾバクタム(TAZ)との組み合わせ、阻害剤としてジピコリン酸(DPA)との組み合わせ、および阻害剤としてアビバクタム(AVI)との組み合わせを用いた微量液体希釈法において、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されている大腸菌1株、クラスB型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されているクレブシエラ・ニューモニエ1株、並びにクラスD型カルバペネマーゼ産生菌であることが確認されている大腸菌1株およびクレブシエラ・ニューモニエ1株を供試菌として用い、カルバペネマーゼ産生菌の検出性能を調べた。
【0069】
(1)マイクロプレートの作製
CLSIで設定された標準法の微量液体希釈法に準じて、メロペネム0.015~32μg/mLを含有する陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を作成し、96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。同様に、その希釈系列にタゾバクタム4μg/mL、ジピコリン酸175μg/mL、またはアビバクタム4μg/mLを添加した陽イオン調整ミュラーヒントンブイヨン培地の2倍希釈系列を96穴マイクロプレートに100μLずつ分注した。作製したマイクロプレートの薬剤配列は、
図12(薬剤配列5)に示したとおりである。なお、作製したマイクロプレートは-70℃で保存し、使用時に融解して用いた。
【0070】
(2)菌の接種と培養
前培養した各菌株のコロニーを釣菌し、滅菌生理食塩水に懸濁させMcFarland No. 1の菌液を作製した後、滅菌生理食塩水で10倍希釈して接種用菌液とした。その後、前記接種用菌液を2.5μLずつ、(1)で準備したマイクロプレートの各ウェルに接種し(これにより、各ウェルの培地100μLあたりの最終接種菌量は約5×104CFU/ウェルになる)、35±2℃で18時間好気培養した。
【0071】
(3)MIC測定と判定結果
培養後、それぞれのMICを測定し、メロペネム/タゾバクタムのMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上とし、メロペネム/ジピコリン酸のMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上とし、さらにメロペネム/アビバクタムのMIC値とメロペネム単独のMIC値の差の閾値を2管以上として判定を行った。
【0072】
MIC値の結果は以下の表5に示すとおりである。試験したクラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/タゾバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびタゾバクタムの組み合わせによりクラスA型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。なお、試験したクラスA型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびアビバクタムの組み合わせによっても検出可能であることが示された。すなわち、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/クラブラン酸のMIC値が2管以上低下しており、かつ、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下している場合に、クラスA型カルバペネマーゼ産生菌であると判別可能である。また、試験したクラスB型カルバペネマーゼ産生菌は、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/ジピコリン酸のMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびジピコリン酸の組み合わせによりクラスB型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。さらに、試験したクラスD型カルバペネマーゼ産生菌2株はいずれも、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/タゾバクタムのMIC値が2管以上低下せず、かつ、メロペネム単独のMIC値に比べてメロペネム/アビバクタムのMIC値が2管以上低下しており、メロペネムおよびタゾバクタムの組み合わせ、並びにメロペネムおよびアビバクタムの組み合わせを用いることによりクラスD型カルバペネマーゼ産生菌が検出可能であることが示された。
【0073】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のクラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出方法およびそれに用いる多ウェルプレートは、微量液体希釈法においてメロペネム0.015~256μg/mLを含有する液体培地と、阻害剤としてクラブラン酸1~64μg/mLまたはタゾバクタム1~64μg/mLを含有する液体培地を組み合わせて用いることにより、従来法で必要であった第一段階の工程(第一段階として微量液体希釈法またはディスク法による薬剤感受性試験を実施し、カルバペネマーゼの産生が疑われる菌の有無を調べる工程)が不要となり、従来法よりも1日早く、簡易、正確かつ定量的に、KPC型に代表されるクラスA型カルバペネマーゼ産生菌の検出が可能となる。さらに、メロペネムとジピコリン酸の組み合わせや、イミペネムとジピコリン酸の組み合わせ、メロペネムとアビバクタムの組み合わせ、オキサセフェム系抗菌薬であるラタモキセフを含有する液体培地を用いることにより、クラスA型カルバペネマーゼに加えて、クラスB型カルバペネマーゼやクラスD型カルバペネマーゼも同時に特異的に検出することが可能となるため、臨床現場や疫学研究その他の幅広い領域において有用である。