(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】被服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20240426BHJP
A41D 27/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
A41D13/12 145
A41D27/00 A
A41D13/12 154
(21)【出願番号】P 2022208620
(22)【出願日】2022-12-26
【審査請求日】2022-12-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522502738
【氏名又は名称】ノボ ノルディスク ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮介
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第212014602(CN,U)
【文献】特開2005-054317(JP,A)
【文献】中国実用新案第205813638(CN,U)
【文献】登録実用新案第3211046(JP,U)
【文献】特開2012-251280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/12
A41D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表面を覆う被覆部と、
前記被覆部に形成されており、前記被覆部の表面から裏面に向けて貫通する、注射用の貫通孔と、
前記被覆部における前記表面上に配置され、前記表面に対して交差する方向で見た場合に前記貫通孔を覆い隠す重複部と、を備え、
前記重複部は、
前記被覆部の前記表面に沿わせて配置され、
前記被覆部に固定又は固定可能とされており、
前記貫通孔を介して、前記体表面を露出可能とされており、
前記被覆部に折り目を付けて山部と谷部とを形成し、前記山部を前記被覆部に重ね合わせた重ね合わせ部として形成されており、
前記貫通孔は
、
前記谷部に配置され、
2個以上形成されており、患者が起立して着衣した状態において、鉛直方向に沿って配列され、
鉛直方向において隣接する前記貫通孔は、各回の注射位置を異ならせるのに必要な距離だけ離れている被服。
【請求項2】
前記重複部は、前記貫通孔を介して前記体表面を露出可能とする開口部を有する請求項1に記載の被服。
【請求項3】
前記貫通孔は、一列に配列されている請求項1
又は2に記載の被服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被服に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、襟と、二つの肩部分と、二つの袖と、本体部とを含む在宅医療介護服の構造が開示されている。この在宅医療介護服には、襟より本体部の中央縦方向に両方向ファスナーが設けられている。この在宅医療介護服の袖は、ほぼ同じ長さの長尺状の開口が延伸されている。そして、長尺状の開口部分は複数の粘着ストッパーによって迅速な開閉が可能で、注射、点滴、または手当などの医療作業時に使用される。また、この在宅医療介護服の肩部分にはそれぞれ肩上ファスナーが設けられている。肩上ファスナーは肩部分より本体部の胸方向へ延伸され、化学治療または透析チューブを通す時に使用される。また、この在宅医療介護服の本体部は、両方向ファスナーの両側にウェスト開口部がそれぞれ設けられている。ウェスト開口部は面ファスナーによる一時的な閉鎖を奏することで、尿管または人口肛門を通す時に使用される。この在宅医療介護服では、患者に対して医療行為が速やかに行えるとともに、快適性や保温性を兼ね備得るようになっている。また、介護服の局部を開けると患者の検査や治療を行えることから、患者のプライバシーが保たれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような介護や医療行為を考慮した被服は、介護の対象となるような患者を対象としたものである。そのため、このような従来技術に係る被服では、介護の対象となることなく日常生活を送ることができるが、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性の確保やプライバシーの保護が十分ではなかった。また、従来技術に係る被服は、日常生活において躊躇なく着用できるようなデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えていなかった。
【0005】
例えば、糖尿病を患っている患者であって、インスリンの注射(医療行為の一例)が日常的に必要となっている患者は、インスリンの注射さえ行えば、その他の私生活は健常者とさほど変わらない生活を送れる場合も多い。しかし、インスリンの注射は、例えば食事の直前もしくは食事開始後の所定期間内に行うことが必要である。インスリンの注射は、例えば、腹部や腿などに行うが、これらの部位は、被服で覆われている場合が多い。そのため、例えば外出中の患者は、人前で被服をめくって注射をすると、その際に人目に晒されて、自身が糖尿病患者であるという個人情報を、伝えたくない第三者に隠せなくなる場合がある。また、人前で被服をめくることで自身の体表面を他人の目にさらすことになり、羞恥心を抱く場合もある。また、他人の目に晒されたくない場合は、例えば個室トイレに移動して注射をするなどしなければならず、時間的、空間的に不便な場合もある。例えば特許文献1に記載されたような被服では、体表面を他人の目に晒すことなく注射することができるかもしれないが、このような被服は、日常生活において着用しても違和感のない自然なデザインを採用できる構造を有していない。そのため、例示したような糖尿病患者は、インスリンの注射さえ適切に行えば健常者と相違ない日常生活を送れる体調であるにもかかわらず、日常生活においてプライバシーの保護に欠け、もしくは利便性を失い、また、デザイン性に優れない被服を着用しなければならないという不利益を被る場合があった。また、インスリンの注射が日常的に必要となっている患者は、注射ごとに、注射する位置(患者の体表面における位置)を変更する必要がある。そのため、前回どの位置に注射したのかを記憶又は記録しておく必要があり、日常生活において不便を感じることがある。また、患者が子供の場合には、このような記憶や記録が困難な場合もある。このように、糖尿病の患者にとって、日常生活の一部としてインスリンの注射を行う場合の利便性の確保やプライバシーの保護が十分ではなかった。また、従来技術に係る被服は、日常生活において行うインスリンの注射の利便性向上のためだけに躊躇なく着用できるようなデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えていなかった。
【0006】
したがって、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性の確保、プライバシーの保護及びデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えた被服の提供が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性の確保、プライバシーの保護及びデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えた被服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る被服は、
体表面を覆う被覆部と、
前記被覆部に形成されており、前記被覆部の表面から裏面に向けて貫通する貫通孔と、
前記被覆部における前記表面上に配置され、前記表面に対して交差する方向で見た場合に前記貫通孔を覆い隠す重複部と、を備え、
前記重複部は、
前記被覆部の前記表面に沿わせて配置され、
前記被覆部に固定又は固定可能とされており、
前記貫通孔を介して、前記体表面を露出可能とされている。
【0009】
また、本発明に係る被服では、更に、
前記重複部は、前記被覆部から着脱自在とされていてもよい。
【0010】
また、本発明に係る被服では、更に、
前記重複部は、前記被覆部に折り目を付けて山部と谷部とを形成し、前記山部を前記被覆部に重ね合わせた重ね合わせ部として形成されており、
前記貫通孔は、前記谷部に配置されていてもよい。
【0011】
また、本発明に係る被服では、更に、
前記重複部は、前記貫通孔を介して前記体表面を露出可能とする開口部を有してもよい。
【0012】
また、本発明に係る被服では、更に、
前記貫通孔は、2個以上形成されており、着衣した状態において、鉛直方向に沿って配列されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性の確保、プライバシーの保護及びデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えた被服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る被服の一例であるシャツの正面図である。
【
図2】
図1におけるII‐II矢視の端面図である。
【
図3】
図1におけるIII‐III矢視の端面図である。
【
図4】重ね合わせ部における、重複部の部分の拡大図である。
【
図5】重複部において開口部が開いた状態を示す図である。
【
図6】ヒンジ機構、開閉機構及び板部材の動作の説明図である。
【
図7】貫通孔を介して注射を打つ場合の説明図である。
【
図8】二個以上の貫通孔が配列されている場合の説明図である。
【
図9】本実施形態に係る被服の一例であるズボンの正面図である。
【
図10】本実施形態に係る被服の一例であるスカートの正面図である。
【
図11】本実施形態に係る被服の一例であるTシャツの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る被服について説明する。
【0016】
(第一実施形態)
図1には、本実施形態に係る被服の一例として、上衣であるシャツ100を示している。なお、本実施形態における「上衣」とは、上下に分かれた衣服のうち、上半身に着る被服(いわゆる、トップス)のことである。
【0017】
シャツ100は、体表面を覆う被覆部1と、被覆部1に形成されており、被覆部1の表面から裏面に向けて貫通する貫通孔2と、被覆部1における表面(おもて面)上に配置され、表面に対して交差する方向で見た場合に貫通孔2を覆い隠す重複部3と、を備えている。重複部3は、被覆部1の表面に沿わせて配置され、被覆部1に固定又は固定可能とされており、貫通孔2を介して、体表面を露出可能とされている。
【0018】
シャツ100は、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性を確保し、また、患者のプライバシーの保護を可能としている。また、シャツ100は、デザイン性を兼ね備えることができる構造を備えたものとなっている。
【0019】
以下、シャツ100について詳述する。
【0020】
シャツ100は、上述のごとく、また、
図1に示すように、被覆部1と、被覆部1に形成された貫通孔2と、貫通孔2を覆い隠す重複部3と、を備えている。シャツ100では、貫通孔2を意識させないデザイン性を兼ね備えることができるように、貫通孔2を重複部3で覆い隠す構造となっている。
図1では、シャツ100が使用者である患者に着用された状態であって、患者が起立した状態である場合を図示している。
図1では、患者の正面側を図示している。
【0021】
以下の説明では、被覆部1における、患者の身体の体表面に対向する側の面を裏面と称し、裏面とは反対側の面を表(おもて)面と称する。また、以下の説明では、被覆部1の表裏方向と同じ方向を、単に表裏方向と称する。また、表裏方向における、被覆部1からみて体表面の側を単に裏側、被覆部1から見て体表面の側とは反対側を単に表側と称する。
【0022】
また、以下の説明では、患者に着用された状態のシャツ100において、鉛直方向における上側を単に上又は上側、下側を単に下又は下側などと称する。また、患者に着用された状態のシャツ100において、鉛直方向と直交する方向における、患者の体表面に沿う方向を、単に周方向と称する。例えば、患者の腰回りに沿う方向は、患者の胴部における周方向であり、患者の腕回りに沿う方向は、患者の腕部における周方向である。また、患者に着用された状態のシャツ100において、患者の正面となる側を、単に正面又は正面側と称し、その逆側の面を単に背面又は背面側と称する。加えて、患者に着用された状態のシャツ100において、患者の側面となる側を、単に側面又は側面側と称する場合がある。また、以下の説明において、右又は右側及び左又は左側と称する場合は、それぞれ、患者から見て右手側及び左手側のことを意味する。
【0023】
図1では、シャツ100が、患者の胴体(体幹)を収容する、被服の胴の部分である身頃61と、上肢を通す筒状で一対の袖62、62と、を備えたものである場合を示している。
【0024】
被覆部1は、体表面を覆う布状又はフィルム状の部材である。被覆部1は、患者の身体形状に合わせて折り合わされ、また縫われて立体的な形状に形成されてよい。本実施形態において、身頃61や袖62は被覆部1の一部である。
【0025】
貫通孔2は、
図2に示すように、被覆部1を貫通する穴である。被覆部1の表面から裏面に向けて貫通している。シャツ100では、貫通孔2を介してシャツ100の外部から患者の体表面H(皮膚)に向けて、医療器具を通すことができる。例えば、貫通孔2を介してシャツ100の外部から患者の体表面Hに注射器(医療器具の一例)を導いて注射することができる。すなわち、貫通孔2は、患者がシャツ100を着た状態で、患者の体表面Hの露出を可能としている。なお、
図2は、
図1に示すII‐II矢視の端面図である。
【0026】
図1に示すように、貫通孔2は、シャツ100における、身頃61又は袖62に設けられてよい。貫通孔2は、身頃61又は袖62において、複数個(2個以上)形成されることが好ましい。患者がシャツ100を着て起立した状態において、複数の貫通孔2は、鉛直方向に沿って配列されるとよい。換言すると、患者がシャツ100を着衣した状態で、患者の胴体の延在方向や上肢の延在方向に沿って複数の貫通孔2が配列されるとよい。
【0027】
重複部3は、貫通孔2を隠す、布状又はフィルム状の部材である。重複部3は、被覆部1の一部であってもよいし、別体であってもよい。重複部3は、
図2に示すように、被覆部1における表面(おもて面)上に配置されて貫通孔2を覆い隠す。詳述すると、重複部3は、貫通孔2を被覆部1の表面に対して交差する方向、すなわち、表裏方向における裏向きに見た場合(表面に対して交差する方向で見た場合)に、貫通孔2が重複部3と重複し、重複部3が貫通孔2を覆い隠すような配置及び大きさとされている。
【0028】
重複部3は、被覆部1の表面に沿わせて配置されている。換言すると、重複部3は、被覆部1に重ね合わせるようにして配置されている。
【0029】
重複部3は、被覆部1に固定又は固定可能とされている。例えば、重複部3が被覆部1の一部として形成されており、被覆部1に固定されている場合がある。また、重複部3が被覆部1に縫い付けられたり、貼付されたりして被覆部1に固定されている場合がある。また、重複部3が被覆部1に線ファスナーや面ファスナーで着脱自在、すなわち、固定及び取り外し可能とされている場合がある。本実施形態では、後述するように、重複部3が被覆部1の一部として形成されている場合を例示して以下説明する。
【0030】
重複部3は、貫通孔2を介して患者の体表面Hを露出可能となるように、必要に応じて貫通孔2を外部に露出可能とされている。たとえば、重複部3と被覆部1との間には、重複部3と被覆部1とで挟まれた空間と外部とを連通する開口部31が設けられてよい。そして、貫通孔2は開口部31を介して外部に露出可能とされてよい。
【0031】
貫通孔2及び重複部3は、被覆部1に形成されたダーツやタック、プリーツなどの重ね合わせ部4に形成されることが好ましい。なお、貫通孔2及び重複部3は、患者がシャツ100を着て起立した状態において、鉛直方向に沿って形成されている重ね合わせ部4に形成されることが更に好ましい。換言すると、貫通孔2及び重複部3は、患者がシャツ100を着衣した状態で、胴体の延在方向や上肢の延在方向に沿って形成された重ね合わせ部4に形成されることが更に好ましい。
【0032】
本実施形態のシャツ100において、重ね合わせ部4は、
図3に示すように、被覆部1に折り目を付けて山部41と谷部42とを形成し、山部41を被覆部1の表側に重ね合わせて形成されている。なお、
図3は、
図1に示すIII‐III矢視の端面図である。
【0033】
図1に示すように、重ね合わせ部4は、例えば、シャツ100の身頃61や袖62に形成されてよい。
図1では、身頃61の正面側の、中心よりも右側寄りの位置及び左側寄りの位置に形成された重ね合わせ部4を、この順に胴部重ね合わせ部51R、51L、袖62における患者の左右の側面側に形成された重ね合わせ部4を、この順に腕部重ね合わせ部52L、52Rとして示している。以下の説明では、重ね合わせ部4として、胴部重ね合わせ部51Lを例示して説明する。
【0034】
図3に示すように、本実施形態において山部41は、被覆部1の表側に凸となり、被覆部1の表側に重ね合わされている。重ね合わせ部4では、表裏方向において、被覆部1が例えば3層に折り重ねられている(積層されている)。重ね合わせ部4において、谷部42は、被覆部1と被覆部1の一部である山部41との間の谷の部分である。
【0035】
貫通孔2及び重複部3は、
図1、
図2に示すように、重ね合わせ部4の一部に形成されている。貫通孔2及び重複部3は、例えば、重ね合わせ部4(胴部重ね合わせ部51R、51L)における、患者の腹に対応する位置に配置されてよい。
【0036】
図2に示すように、重ね合わせ部4において、貫通孔2は谷部42(
図3参照)の谷底部に形成されてよい。本実施形態では、貫通孔2は、一例として谷部42を切り開くようにして形成されている。この場合、表裏方向において貫通孔2と重複している山部41の部分が重複部3となる。すなわち、重複部3が重ね合わせ部4を形成する被覆部1の一部として形成されており、被覆部1と一体に(被覆部1に固定)されている。そして、重複部3と、重複部3の裏側(重複部3と患者の体表面Hとの間)の被覆部1との間の開口が開口部31である。
【0037】
貫通孔2や開口部31となる被覆部1の端部は、それぞれ、折り返されるなどして端部がほつれないように処理されてよい。
【0038】
図4には、重ね合わせ部4における、重複部3の部分の拡大図を示している。
図4において、破線は縫い目を示している。重ね合わせ部4の延在方向(患者が起立した場合に鉛直方向に沿う方向)における、重複部3の上方及び下方の端部35、35は、山部41(
図3参照)全体が被覆部1に固定された状態となっている。端部35、35では、山部41が周方向に沿って被覆部1に縫い付けられて被覆部1に固定されてよい。これにより、開口部31を開きやすくすることができる。例えば、端部35、35同士を近づけるように重複部3を変形させると、
図5に示すように、開口部31を開くことができる。なお、
図5においても
図4と同様に、破線は縫い目を示している。
【0039】
図2に示すように、開口部31を形成する表側の被覆部1(重複部3)と裏側の被覆部1とには、弾性のある板状や細い棒状の部材を配置してよい。
図2では、開口部31を形成する表側の被覆部1(重複部3)と、裏側の被覆部1とには、弾性のある板状の板部材31a、31bを配置した場合を例示している。板部材31a、31bは、
図2に例示するように、表側の被覆部1(重複部3)と、裏側の被覆部1とで一対になるように配置してよい。板部材31a、31bのような、弾性のある板状や細い棒状の部材を配置することで、開口部31の型崩れを防ぎ、重複部3が貫通孔2を安定して覆い隠すことができるようになる。また、開口部31が板部材31a、31bの弾性で自然と閉じるようになり、開口部31が開いたままになることを防ぐことができる。板部材31a、31bとして、例えば、板バネを用いてよい。
【0040】
板部材31a、31bとして、磁石(例えば、ゴム磁石(ラバーマグネット))を用いてもよい。例えば、板部材31a、31bとして、ゴム磁石を用いれば、開口部31がより確実に自然と閉じるようになる。また、開口部31が不用意に開くことを防止することができる。
【0041】
板部材31aと板部材31bとは、互いの端部をヒンジ機構で連結されてもよい。この場合、例えばヒンジ機構を、端部35、35(
図4参照)に配置してよい。具体的には、ヒンジ機構を、端部35であって、積層された被覆部1、1間に配置してよい。被覆部1、1間に配置することで、ヒンジ機構を隠すことができる。
【0042】
図6に示す説明図のごとく、板部材31aと板部材31bとヒンジ機構で連結する場合、ヒンジ機構に更に開閉機構を更に付加してもよい。
図6では、板部材31aと板部材31bとを連結する両端のヒンジ38、38の一方に、ヒンジ38を開く駆動力を与える押し込み部39が付加されている場合を示している。例えば、押し込み部39を板部材31a、31bに向けて押し込むと、ヒンジ38が板部材31a、31bを開くような機構を開閉機構として採用してもよい。押し込み部39がヒンジ38を開かせる機構や、ヒンジ38が板部材31a、31bを開く機構は、任意の構造を採用しうる。
【0043】
図7に示す説明図のように、シャツ100では、開口部31を介してシャツ100の外部から貫通孔2に向けて、医療器具(
図7では一例として注射器9)を通すことができる。なお、
図7は、
図1におけるII‐II矢視の端面図に対応する位置及び端面を例示している。これにより、開口部31及び貫通孔2を介してシャツ100の外部から患者の体表面Hに向けて、医療器具を通すことができる。すなわち、シャツ100では、例えば、シャツ100の外部から、開口部31及び貫通孔2を介して、患者の体表面Hまで注射器9を導いて注射することができる。
【0044】
このように、シャツ100では、患者がシャツ100を着た状態で開口部31及び貫通孔2を介して患者の体表面Hの露出を可能としており、患者がシャツ100を着た状態で注射針90を有する注射器9などの医療器具による患者の身体への処置(
図7では、注射針90を体表面Hに穿刺)を可能としている。これにより、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性が確保される。なお、貫通孔2を介した患者の体表面Hの露出は、注射器9などの医療器具による患者の身体への処置に最小限必要な範囲であり、患者のプライバシーが保たれる。具体的には例えば、開口部31及び貫通孔2は、これらに挿通することを要する注射器9などの医療器具の直径を少なくとも超える開口径を確保できれば足りる。換言すると、開口部31及び貫通孔2は、少なくとも注射器9などの医療器具を挿通できる程度の開口を確保できればよい。開口部31又は貫通孔2は、注射器9などの医療器具の直径の150%未満の開口径を確保できるものであれば十分である。
【0045】
また、シャツ100では、患者に医療器具による処置を施さなくてよい場合にあっては、貫通孔2が重複部3で隠される。貫通孔2が重複部3で隠されることで、患者の体表面Hも隠されて、患者のプライバシーが保たれる。
【0046】
また、貫通孔2が重複部3で隠されることで、患者は、貫通孔2を有するシャツ100を着用していることを他人に知られずに済む。このため、患者は、医療行為が必要な身体状況であることをことさら他人に知られることを避けることができ、プライバシーを保つことができる。
【0047】
また、貫通孔2が重複部3で隠されることで、シャツ100のデザインの選択肢を広げることができる。例えば、貫通孔2を隠してシャツ100のデザイン性を向上させることができる。
【0048】
すなわち、シャツ100によれば、患者は、貫通孔2の存在によるデザインの制約を受けることなく、好みのデザインのシャツ100の着用を日常生活(例えば外出時)において楽しむことが可能となる。また、例えば処置が必要な時には、シャツ100を着用したままで、即座に、もしくは、簡便に、医療器具による身体への処置を行うことができる。そして、患者が望まない場合には、自身が医療行為を受けていることを他人に秘することができる。
【0049】
具体例を挙げると、例えば、日常的にインスリンの注射による投与(医療行為の一例)が必要な糖尿病患者のQOL(Quality of life:生活の質)を向上させることができる。糖尿病患者は、自身の好みのデザインのシャツ100の着用を楽しみつつ、たとえば外出先においても、必要時に即時に、また、簡便に、インスリンの注射を開口部31及び貫通孔2を介して行うことができる。
【0050】
さて、上述の通り、シャツ100においては、
図1、
図8に示すように、2個以上の貫通孔2が鉛直方向に沿って配列されてよい。なお、本実施形態において貫通孔2が配列されるとは、2個以上の貫通孔2が、重ね合わせ部4に沿って配列されていることを言う。
【0051】
二個以上の貫通孔2が配列される場合、鉛直方向において隣接する貫通孔2、2は、互いに所定距離だけ離して配列するとよい。
【0052】
二個以上の貫通孔2が配列される場合、貫通孔2はそれぞれ、重複部3で覆い隠されていることが好ましい。この場合、一つの貫通孔2に一つの重複部3が対応して設けられてもよいし、2個以上の貫通孔2に対して一つの重複部3が設けられてもよい。
図8では、一つの貫通孔2に一つの重複部3が対応して対になるように設けられている場合を例示して示している。貫通孔2と重複部3との対は、一つの重ね合わせ部4に2対以上設けられてもよい。なお、
図8においても
図4などと同様に、破線は縫い目を示している。
【0053】
上述した糖尿病患者は、一日に2回以上のインスリンの注射が必要となる場合がある。糖尿病患者は、各回の注射ごとに、身体における注射位置を違えることが必要となる。貫通孔2と重複部3との対が複数対設けられていれば、患者は、各回の注射ごとに、異なる位置の対を利用して注射を行うことができる。これにより患者は、各回の注射ごとに、後述するように、身体における異なる位置に注射をすることができる。鉛直方向において隣接する貫通孔2、2は、互いに所定距離だけ離して配列するとよい。
【0054】
患者がシャツ100を着て起立した状態においては、重力の作用によって、シャツ100が下方に引っ張られた状態となる。貫通孔2が鉛直方向に沿って配列されている場合、この重力の作用により、それぞれの貫通孔2は、鉛直方向において、患者の体表面における概ね同じ位置に位置するようになる。そのため、シャツ100を着用した糖尿病患者は、各回の注射ごとに、異なる位置の貫通孔2を利用して注射をすれば、各回の注射ごとに、身体における異なる位置に注射することができる。例えば、重ね合わせ部4の延在方向に沿って、貫通孔2の並び順に、順次、異なる貫通孔2を利用して注射をすれば、鉛直方向に沿って、患者の身体の異なる位置に注射をすることができるようになる。なおこの場合、鉛直方向において隣接する貫通孔2、2は、注射位置を異ならせるのに必要な距離だけ離して配列するとよい。
【0055】
シャツ100を着用した糖尿病患者が上述のように、各回の注射ごとに、異なる位置の貫通孔2を利用して注射を行うこととすれば、患者は、身体のどの位置に注射を打ったかを覚えておく必要が無くなるという利便性も得られる。例えば座標軸を描くようなことのできない体表面上において、前回の注射位置をいちいち記憶しておくような生活習慣は、患者にとって大変負担の大きいものである。また、患者が子供であれば、このような生活習慣の習得まで時間がかかる場合もある。しかし、本実施形態に係るシャツ100を着用した患者では、どの位置の重ね合わせ部4の、何番目の貫通孔2を利用して前回の注射を行ったのか程度を記憶しておけば、次回、確実に異なる位置に注射することができるため負担が軽くなる。
【0056】
(第二実施形態)
上記第一実施形態では、本発明の実施形態に係る被服の一例として上衣であるシャツ100を例示して説明した。しかし、本発明の実施形態に係る被服は上位に限られず、下衣であってもよい。第二実施形態では、本発明の実施形態に係る被服が下衣である場合を例示して説明する。以下の説明では、主としてシャツ100と相違する部分について説明し、シャツ100と同様の部分については適宜説明を省略する。
【0057】
図9には、下衣であるズボン200を示している。ズボン200は、患者の腰回りや尻を収容する、筒状の股上部55と、股上部55から下方に延出し、患者の脚を収容する、筒状で一対の股下部56、56とを有する。本実施形態において、股上部55や股下部56は被覆部1の一部である。
【0058】
ズボン200において、重ね合わせ部4は、例えば、股下部56における、患者の腿の正面側に対応する部分に配置されてよい。
図9では、左右の股下部56、56の正面側に形成された重ね合わせ部4、4を、この順に股下重ね合わせ部56L、56Rとして示している。なお、本実施形態で例示したズボン200では、股下部56における、患者の膝よりも下に対応する部分に、被覆部1につけた一山の折り目であるセンタークリース66aが鉛直方向に沿って形成されている場合を例示している。
図9に示すように、重ね合わせ部4(股下重ね合わせ部56R、56L)とセンタークリース66aとは、連続して形成されてよい。
【0059】
(第三実施形態)
上記第一実施形態では、本発明の実施形態に係る被服の一例として上衣であるシャツ100を例示して説明した。また、上記第二実施形態では、本発明の実施形態に係る被服の一例として下衣であるズボン200を例示して説明した。本発明の実施形態に係る被服が下衣である場合、下衣はズボン200に限られない。以下の説明では、
図10に示すように、下衣がスカート300である場合を例示して説明する。以下の説明では、主としてシャツ100やズボン200と相違する部分について説明し、シャツ100やズボン200と同様の部分については適宜説明を省略する。
【0060】
図10には、下衣であるスカート300を示している。スカート300は、患者の腰回りに巻き付けられる、筒状のヨーク部68と、ヨーク部68から下方に延出し、患者の脚を収容する、筒状のスカート部69とを有する。本実施形態において、ヨーク部68やスカート部69は被覆部1の一部である。
【0061】
スカート300において、重ね合わせ部4は、例えば、スカート部69における、患者の腿の正面側に対応する部分に配置されてよい。
図10では、スカート部69の正面側において、左右一対に形成された重ね合わせ部4、4を、この順にスカート重ね合わせ部59L、59Rとして示している。なお、本実施形態で例示したスカート300では、スカート部69に、貫通孔2が形成されている重ね合わせ部4と共に、貫通孔2が形成されない重ね合わせ部4が形成されている。
【0062】
(第四実施形態)
上記第一から第三実施形態では、本発明の実施形態に係る被服において、貫通孔2及び重複部3が重ね合わせ部4に形成される場合を説明した。また、重ね合わせ部4の一部(山部41)が重複部3となる場合を説明した。しかし、本発明の実施形態に係る被服において、重ね合わせ部4は必須ではない。以下では、
図11に示すように、本発明の実施形態に係る被服の一例として、上衣であるTシャツ400を例示して説明する。以下の説明では、主としてシャツ100と相違する部分について説明し、シャツ100と同様の部分については適宜説明を省略する。
【0063】
Tシャツ400の身頃61(被覆部1)における、例えば患者の腹の位置には、シャツ100(
図1参照)と同様に、2個以上の貫通孔2が鉛直方向に沿って配列されている。
【0064】
Tシャツ400には、シャツ100で例示した重ね合わせ部4(
図2、
図3など参照)の形成に変えて、被覆部1の表面上に沿わせて、カバー30が、重複部3として配置されている。カバー30は、布状又はフィルム状の部材である。
【0065】
カバー30は、貫通孔2を覆い隠す位置、すなわち、表裏方向における裏向きに見た場合(表面に対して交差する方向で見た場合)に、貫通孔2がカバー30と重複し、カバー30が貫通孔2を覆い隠すような配置及び大きさとされている。
【0066】
カバー30は、被覆部1から着脱自在、例えば、被覆部1に対して線ファスナーや面ファスナーで固定及び取り外し可能とされてよい。カバー30を被覆部1から取り外すことで、又は、カバー30の一部を被覆部1から取り外してめくるなどすることで、貫通孔2を露出させることができる。患者は、貫通孔2を介して体表面を露出させた状態で、注射などの医療器具による処置を自身に施すことが可能となる。
【0067】
以上のようにして、日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性の確保、プライバシーの保護及びデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えた被服を提供することができる。
【0068】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、被覆部1における、患者の腹(第一、第四実施形態参照)、腕(第一実施形態参照)及び腿(第二、第三実施形態参照)に対応する位置に貫通孔2が形成されており、この貫通孔2が重複部3で覆い隠されている場合を説明した。しかし、貫通孔2が配置される位置は、被覆部1における患者の腹、腕及び腿に限られない。患者の体調、症状又は病状に応じて、被覆部1における、その患者が医療器具による処置を受ける必要のある身体の部位に対応する位置に貫通孔2を形成してよい。
【0069】
(2)上記実施形態では、被覆部1における、患者の腹(第一、第四実施形態参照)、腕(第一実施形態参照)及び腿(第二、第三実施形態参照)に対応する位置に、2つ以上の貫通孔2が一列に配列されている場合を例示して説明した。しかし、列状に配列された貫通孔2は、隣接させて2列以上配列させてもよい。例えば、第一実施形態で例示したように、被覆部1における患者の腹の部分に対応する位置に貫通孔2を配列する場合、例えば右側の腹の部分に隣接させて2列、左側の腹の部分に隣接させて2列といった具合に貫通孔2の列を配列してよい。
【0070】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、被服に適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 :被覆部
100 :シャツ
2 :貫通孔
200 :ズボン
3 :重複部
30 :カバー
300 :スカート
31 :開口部
31a :板部材
31b :板部材
35 :端部
38 :ヒンジ
39 :押し込み部
4 :重ね合わせ部
400 :Tシャツ
41 :山部
42 :谷部
51L :胴部重ね合わせ部
51R :胴部重ね合わせ部
52R :腕部重ね合わせ部
52L :腕部重ね合わせ部
55 :股上部
56 :股下部
56R :股下重ね合わせ部
56L :股下重ね合わせ部
59R :スカート重ね合わせ部
59L :スカート重ね合わせ部
61 :身頃
62 :袖
66a :センタークリース
68 :ヨーク部
69 :スカート部
9 :注射器
90 :注射針
H :体表面
【要約】
【課題】日常生活の一部として医療行為が必要な患者の利便性の確保、プライバシーの保護及びデザイン性を兼ね備えることができる構造を備えた被服を提供することができる。
【解決手段】被服100は、体表面を覆う被覆部1と、被覆部1に形成されており、被覆部1の表面から裏面に向けて貫通する貫通孔2と、被覆部1における表面上に配置され、表面に対して交差する方向で見た場合に貫通孔2を覆い隠す重複部3と、を備え、重複部3は、被覆部1の表面に沿わせて配置され、被覆部1に固定又は固定可能とされており、貫通孔2を介して、体表面を露出可能とされている。
【選択図】
図2