(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】光学装置およびレーザシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 27/09 20060101AFI20240426BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20240426BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20240426BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
G02B27/09
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
G02B5/00
G02B26/10 105Z
G02B26/08 C
G02B26/10 101
(21)【出願番号】P 2022560065
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2021058130
(87)【国際公開番号】W WO2021198165
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】102020108648.2
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506065105
【氏名又は名称】トルンプフ レーザー- ウント ジュステームテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF Laser- und Systemtechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Johann-Maus-Strasse 2, D-71254 Ditzingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ツェラー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ティルコアン
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン ヘルシュテアン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ハイメス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リンゲル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ イリオン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル イェンネ
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/243042(WO,A1)
【文献】特開2013-181926(JP,A)
【文献】特表2009-529155(JP,A)
【文献】特開2001-127004(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0042080(US,A1)
【文献】特開2004-252275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00、27/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの入力レーザビーム(18)を線状の出力ビーム(12)に変換するための光学装置(20)であって、
前記線状の出力ビーム(12)は、伝搬方向(z)に沿って伝搬し、かつ作業平面(14)において、線方向(x)に沿って延在する消失しない強度を有する線状のビーム断面を有し、
・前記光学装置(20)は、変形光学系(24)を含み、前記変形光学系(24)は、入力アパーチャ(38)と、長細く形成された出力アパーチャ(40)とを有し、前記入力アパーチャ(38)を通って、前記少なくとも1つの入力レーザビーム(18)が入射可能であり、
前記変形光学系(24)は、前記入力アパーチャ(38)を通って入射した前記入力レーザビーム(18)が、前記出力アパーチャ(40)を通って出射する、複数のビームセグメント(48a,48b,48c)を有するビームパケット(26)に変換されるように構成されており、
・前記光学装置(20)は、均質化光学系(28)を含み、前記均質化光学系(28)は、前記ビームパケット(26)を前記線状の出力ビーム(12)に変換するために寄与し、
前記ビームパケット(26)の複数の異なるビームセグメント(48a,48b,48c)は、前記線方向(x)に沿って混合および重畳される、
光学装置(20)において、
偏向光学系(22)が設けられており、
前記偏向光学系(22)は、前記変形光学系(24)の前記入力アパーチャ(38)における前記少なくとも1つの入力レーザビーム(18)の入射位置および/または入射方向(68,68’)が時間に依存して変化するように、前記少なくとも1つの入力レーザビーム(18)を偏向させるように構成されており、
前記偏向光学系(22)は、前記入力レーザビーム(18)の前記入射位置を、入力アパーチャ長手方向(42)に沿って変化させるように、前記入力アパーチャ長手方向(42)に沿って往復シフトさせるように構成されており、
前記変形光学系(24)は、前記入力レーザビーム(18)の隣り合うビームセグメント(46a,46b,46c)が、前記変形光学系(24)を通過する際に、前記ビームパケット(26)のビームセグメント(48a,48b,48c)に再配列されるように構成されており、
前記ビームパケット(26)の隣り合うビームセグメント(48a,48b,48c)は、前記ビームパケット(26)が低減された空間コヒーレンスを有するように、インコヒーレントになるように、前記変形光学系(24)を通過する際にそれぞれ異なる光路長を進む、
ことを特徴とする、光学装置(20)。
【請求項2】
少なくとも1つの入力レーザビーム(18)を線状の出力ビーム(12)に変換するための光学装置(20)であって、
前記線状の出力ビーム(12)は、伝搬方向(z)に沿って伝搬し、かつ作業平面(14)において、線方向(x)に沿って延在する消失しない強度を有する線状のビーム断面を有し、
・前記光学装置(20)は、変形光学系(24)を含み、前記変形光学系(24)は、入力アパーチャ(38)と、長細く形成された出力アパーチャ(40)とを有し、前記入力アパーチャ(38)を通って、前記少なくとも1つの入力レーザビーム(18)が入射可能であり、
前記変形光学系(24)は、前記入力アパーチャ(38)を通って入射した前記入力レーザビーム(18)が、前記出力アパーチャ(40)を通って出射する、複数のビームセグメント(48a,48b,48c)を有するビームパケット(26)に変換されるように構成されており、
・前記光学装置(20)は、均質化光学系(28)を含み、前記均質化光学系(28)は、前記ビームパケット(26)を前記線状の出力ビーム(12)に変換するために寄与し、
前記ビームパケット(26)の複数の異なるビームセグメント(48a,48b,48c)は、前記線方向(x)に沿って混合および重畳される、
光学装置(20)において、
偏向光学系(22)が設けられており、
前記偏向光学系(22)は、前記変形光学系(24)の前記入力アパーチャ(38)における前記少なくとも1つの入力レーザビーム(18)の入射位置および/または入射方向(68,68’)が時間に依存して変化するように、前記少なくとも1つの入力レーザビーム(18)を偏向させるように構成されており、
前記偏向光学系(22)は、第1のレンズ(70)と第2のレンズ(72)とを有するレンズシステムを含み、
前記第2のレンズ(72)は、前記第1のレンズ(70)に対して相対的にシフト可能かつ/または傾斜可能である、
ことを特徴とする、光学装置(20)。
【請求項3】
前記偏向光学系(22)は、前記入力アパーチャ(38)における前記入力レーザビーム(18)の前記入射位置および/または前記入射方向(68,68’)を、周期的にまたは非周期的に反復する移動パターンで変化させるように構成されている、
請求項1または2記載の光学装置(20)。
【請求項4】
前記偏向光学系(22)は、前記入力レーザビーム(18)の前記入射位置を、入力アパーチャ長手方向(42)に沿って変化させるように、前記入力アパーチャ長手方向(42)に沿って往復シフトさせるように構成されている、
請求項
2記載の光学装置(20)。
【請求項5】
前記偏向光学系(22)は、前記入射方向(68,68’)と入力アパーチャ長手方向(42)とを含んでいる平面が、前記入力アパーチャ長手方向(42)を中心に旋回させられるように、往復旋回させられるように、前記入力レーザビーム(18)の前記入射方向(68,68’)を変化させるように構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の光学装置(20)。
【請求項6】
前記偏向光学系(22)は、少なくとも1つのミラー装置(56)を含み、
前記少なくとも1つのミラー装置(56)は、シフト可能かつ/または傾斜可能な少なくとも1つのミラー(58a,58b)を有し、相互に相対的にシフト可能かつ/または傾斜可能な2つのミラー(58a,58b)を有する、
請求項1から5までのいずれか1項記載の光学装置(20)。
【請求項7】
前記偏向光学系(22)は、回転可能に支持されている少なくとも1つの光学素子(92)を含む、
請求項1から6までのいずれか1項記載の光学装置。
【請求項8】
前記偏向光学系(22)は、第1の基礎(76)上に配置されており、
前記変形光学系(24)は、第2の基礎(78)上に配置されており、
前記第1の基礎(76)と前記第2の基礎(78)とは、相互に分離されて配置されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の光学装置。
【請求項9】
前記光学装置(20)は、フーリエレンズ(54)の形態の、少なくとも1つの変換レンズ手段(30)をさらに含み、
前記変換レンズ手段(30)は、ビーム経路上で前記均質化光学系(28)に後続して配置されている、
請求項1から8までのいずれか1項記載の光学装置(20)。
【請求項10】
前記変形光学系(24)の前記入力アパーチャ(38)は、長細く形成されており、入力アパーチャ長手方向(42)に沿って長細く延在しており、
前記出力アパーチャ(40)は、長細く形成されており、前記入力アパーチャ長手方向(42)とは異なる出力アパーチャ長手方向(44)に沿って延在している、
請求項1から9までのいずれか1項記載の光学装置(20)。
【請求項11】
前記変形光学系(24)は、前記ビームパケット(26)の隣り合うビームセグメント(48a,48b,48c)同士の間隔が、前記出力アパーチャ長手方向(44)に対して垂直であって、かつ前記伝搬方向(z)に対して垂直である前記ビームセグメント(48a,48b,48c)の拡がりよりも大きくなるように構成されている、
請求項10記載の光学装置(20)。
【請求項12】
前記変形光学系(24)は、プレート前面(34)と、前記プレート前面(34)に対して実質的に平行に延在するプレート背面(36)とを有するモノリシックでプレート状の透過性の材料から形成されており、
前記プレート前面(34)の領域は、前記入力アパーチャ(38)を提供し、前記プレート背面(36)の領域は、前記出力アパーチャ(40)を提供し、
前記変形光学系(24)は、前記入力レーザビーム(18)のビームセグメント(46a,46b,46c)が、前記入力アパーチャ(38)を通って入射した後、前記プレート前面(34)および前記プレート背面(36)で反射されることによって前記出力アパーチャ(40)へと案内されるように構成されている、
請求項1から11までのいずれか1項記載の光学装置(20)。
【請求項13】
前記均質化光学系(28)は、少なくとも1つのレンズアレイ(50a,50b)を含み、前記少なくとも1つのレンズアレイ(50a,50b)は、複数のシリンドリカルレンズ(52)を有し、
前記シリンドリカルレンズ(52)は、前記ビームパケット(26)が、隣り合って位置する複数のシリンドリカルレンズ(52)を通過するように幾何学的に寸法設定されている、
請求項1から12までのいずれか1項記載の光学装置(20)。
【請求項14】
線状の出力ビーム(12)を生成するためのレーザシステム(10)であって、
前記線状の出力ビーム(12)は、ビーム断面において線形の強度プロファイルを有する強度分布を有し、
前記レーザシステム(10)は、
・入力レーザビーム(18)を出力するための少なくとも1つのレーザ光源(16)、
・前記入力レーザビーム(18)を前記線状の出力ビーム(12)に変換するための、請求項1から13までのいずれか1項記載の光学装置(20)
を含む、レーザシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力レーザビームを線状の出力ビームに変換するための光学装置と、このような光学装置を含むレーザシステムとに関する。
【0002】
このようなレーザシステムは、線状に延在するビーム断面を有する強度分布を有するとりわけ高強度の放射を生成するために使用される。以下では、線状の拡がりによって定義される軸は、強度分布の「長軸」と称される。また、線状の拡がりに対して垂直であって、かつ伝搬方向に対して垂直である軸は、「短軸」と称される。ビームの幾何学的比率を説明するために、それぞれローカル座標系が仮定されるべきであり、この場合、長軸(x)、短軸(y)、および伝搬方向(z)が、方向付けられた右利きのデカルト座標系を定義する。
【0003】
上記の線状のビームプロファイルは、例えば、ガラスまたは半導体の表面を処理(例えば、テンパリング、アニーリング)するために使用される。この場合、線状のビームプロファイルは、処理されるべき表面にわたって長軸に対して実質的に垂直に走査される。例えば、再結晶プロセス、表面の溶融、処理されるべき材料への不純物の拡散プロセス、または表面の領域におけるその他の相転移を、放射によってトリガすることができる。このような処理プロセスは、例えば、TFTディスプレイの製造、半導体のドーピング、太陽電池の製造において使用されるが、建築用途のために美的に仕上げられるガラス表面を製造するためにも使用される。
【0004】
請求項1の上位概念に記載の特徴を有する光学装置は、国際公開第2018/019374号に記載されている。
【0005】
上述した処理プロセスのためには、長軸に沿った強度分布が、できるだけ均質で実質的に一定の強度推移を有すること、および短軸に沿った強度分布が、対応する品質要件を満たすことが重要である。しかしながら、実際には、強度プロファイルは、通常、強度推移における局所的な不均質性を有しており、この不均質性は、例えば、干渉アーチファクト(例えば、規則的な回折パターン)、および/または光学系の欠陥ならびに形状誤差(例えば、収差誤差)、および/または粒子による光学系の汚染(作業平面上での射影をもたらす)によって引き起こされる。
【0006】
本発明は、できるだけ均質な強度推移を提供するという課題に取り組んでいる。
【0007】
薄膜層を処理するためのレーザ放射の強度分布における不均質性を除去するための光学システムが、独国特許出願公開第102016006960号明細書に開示されている。この光学システムは、空間的に変化可能な少なくとも1つの絞り要素を有する絞り装置と、制御ユニットとを含み、制御ユニットは、ビームプロファイルにおける局所的に制限された湾曲部の大きさが所定の期間にわたって複数回拡大および縮小されるように、絞り要素の空間的な変化を制御するように構成されている。
【0008】
国際公開第2007/100608号は、レーザアニーリングシステムのためのレーザビームのマイクロ平滑化を開示している。いわゆるマイクロ平滑化は、レーザビームのプロファイルにおける微小な不均質性を平滑化するために、レーザビームを処理方向に対して垂直な方向にシフトさせることを含む。シフトは、ここではミラーペアを用いて達成されるか、またはこれに代えて、レーザビームのビーム経路上で均質化光学系の下流に配置されている回転式のウェッジプレートを用いて達成される。
【0009】
独国特許出願公開第102014204960号明細書と、同じ優先権を有する米国特許出願公開第2014/0268265号明細書とは、光量をより均一に分布させるためにレーザビームを傾斜させるための光学モジュールを開示している。このモジュールは、ミラーと、アクチュエータと、複数の関節機構を有する変形要素とを含む。アクチュエータと変形要素とを用いて、ミラーをシフトさせることができる。
【0010】
米国特許出願公開第2011/0097906号明細書は、ビーム経路上で均質化光学系の下流に配置されているミラーを用いて線状のレーザビームを振動させるための振動装置を開示している。米国特許出願公開第2016/0103313号明細書には、移動式のミラーを有するさらなるレーザ振動装置が開示されている。
【0011】
このような背景から、本発明の課題は、作業平面上での線形のレーザ照明のできるだけ均質な強度推移を可能にするような、これらに代わる光学装置を提供することである。
【0012】
上記の課題は、1つの態様によれば、冒頭で述べた形式の光学装置において、偏向光学系が設けられており、偏向光学系は、変形光学系の入力アパーチャにおける少なくとも1つの入力レーザビームの入射位置および/または入射方向が時間に依存して変化するように、少なくとも1つの入力レーザビームを偏向させるように構成されている、光学装置によって解決される。
【0013】
光学装置は、入力レーザビームを、線状の強度プロファイルを有する出力ビームに変換するための装置である。その限りにおいて、出力ビームは、(空間平均されて)伝搬方向に伝搬し、光学装置の光学的な作業平面において、この関連における「線方向」と称される方向に沿った線状の推移を有するビーム断面を有する強度分布を有する。ビームは、光学装置を通過する際に構成に応じて1回または複数回偏向させられる可能性があるので、線方向とは、ビーム断面が局所的に線方向に沿って引き延ばされていると理解されるべきである。
【0014】
光学装置は、変形光学系を含み、変形光学系は、入力アパーチャと、長細く形成された出力アパーチャとを有し、入力アパーチャを通って、入力レーザビームが入射可能である。出力アパーチャは、出力アパーチャ長手方向を定義している。とりわけ、出力アパーチャ長手方向に沿った出力アパーチャの寸法は、出力アパーチャ長手方向に対して垂直な寸法よりも格段に大きい。
【0015】
変形光学系は、入力アパーチャを通って入射した入力レーザビームが、出力アパーチャを通って出射するビームパケットに変換されるように構成されている。有利には、ビームパケットは、出力アパーチャの下流の観察平面において既にもう、とりわけ実質的に線形の特性を有する長細い強度分布を形成している。ビームパケットは、複数のビームセグメントを含み、これらのビームセグメントは、とりわけ、長細い出力アパーチャにわたって分布することができ、出力アパーチャを、好ましくは完全に充填する。
【0016】
この関連におけるビームパケットとは、とりわけベクトル場によって数学的に記述可能な光分布を表し、それぞれの空間点には、対応する電磁場のポインティングベクトルが局所的に対応付けられている。
【0017】
変形光学系は、好ましくは、十分にコヒーレントな入力レーザビームから、低減された空間コヒーレンスを有するビームパケット、または好ましくは、実質的にインコヒーレントなビームパケットを生成するように構成されている。
【0018】
光学装置は、均質化光学系をさらに含み、均質化光学系は、ビームパケットを(とりわけ局所的な線方向に沿って)所望の均質性を有するレーザ線に変換するように構成されている。均質化光学系は、ビームパケットの複数の異なるビームセグメントが、線方向に沿って混合および重畳されるように構成されており、したがって、強度推移は、ビーム断面が長細く延在する方向に関して均質化されている。
【0019】
光学装置は、ビーム経路上で変形光学系の上流に偏向光学系をさらに含み、偏向光学系は、変形光学系の入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置および/または入射方向が時間に依存して変化するように、入力レーザビームを偏向させるように構成されている。
【0020】
変形光学系の入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置を変化させることにより、有利には、出力アパーチャを通って出射するビームパケットのビーム重心の空間的なシフトがもたらされる(この関連におけるビーム重心とは、とりわけ、中間ビームパケットのビーム断面にわたる強度分布の重心を表す)。その結果、ビームパケットは、ビーム経路上で変形光学系に後続する均質化光学系に、変化させられた位置で当射する。ビームパケットのこのような空間的なシフトは、出力ビームのビーム成分の角度分布の変化をもたらす。換言すれば、ビームパケットのビーム重心の空間的な位置を変化させることにより、出力ビームの伝搬方向が変化させられる。
【0021】
したがって、変形光学系における入力レーザビームの入射位置を時間に依存して変化させることにより、ビーム経路上で変形光学系の下流に接続されている光学素子(例えば、テレスコープレンズ、偏向ミラー、集束レンズ)を時間に依存して種々異なる方向から照明することができる。したがって、ビーム経路上で光学装置の下流にある汚染(例えば、後続する光学素子上の粒子状の汚染)も、時間に依存して種々異なる方向から照明され、これにより、それらの汚染によって生成される射影が、時間に依存して変化させられ、ひいては平均して平滑化される。これにより、射影によって生成される、強度推移における不均質性を低減することができる。さらに、光学系の形状誤差から生じる不均質性を低減することができる。
【0022】
変形光学系の入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射方向を変化させることにより、とりわけ、出力アパーチャを通って出射するビームパケットの角度分布の変化がもたらされる。その限りにおいて、入力レーザビームの入射方向を変化させることにより、出力アパーチャからのビームパケットの出射方向を変化させることができる。さらに、変形光学系の出力アパーチャにおけるビームパケットの強度分布が、定性的に変化させられる。その結果、ビームパケットは、均質化光学系に、変化させられた位置で当射するだけではなく(このことは、上述したように出力ビームの伝搬方向の変化をもたらす)、変化させられた角度でも当射する。これにより、出力ビームのビーム重心は、さらに空間的にシフトさせられる。換言すれば、変形光学系における入力レーザビームの入射方向を時間に依存して変化させることにより、出力ビームのビーム重心を時間に依存して空間的にシフトさせることができる。このようにして、干渉作用を平均して平滑化することができ、このことは、強度推移の均質性に対してポジティブな作用を及ぼす。
【0023】
ここでは、時間的な変化が、変形光学系の上流において既にもう、ひいてはレーザビームのビーム経路上の比較的早期に実施されると有利である。なぜなら、このようにすれば、この変化を、比較的小型かつ比較的軽量の光学素子を用いて生成することができるからである。変形光学系の下流では、レーザビームが既にもう線形に拡大されており、この理由から、さらなるビーム経路上の光学素子を、少なくとも線軸において相応に大きく寸法設定しなければならなくなる。新しい本装置によれば、レーザシステムにおける機械的な振動をより簡単かつより低コストに最小化することができる。さらに、ビーム経路の前方の部分、とりわけ変形光学系の上流にある偏向光学系の調整は、より簡単であり、かつ公差に対してよりロバストである。
【0024】
したがって、要約すると、新しい本光学装置は、強度分布における局所的な不均質性を、簡単かつ効率的に時間的に平均して平滑化することを可能にし、かつ被加工物の表面処理における改善されたプロセス結果を達成することを可能にする。
【0025】
時間的に平均して均質な強度推移を得るために、偏向光学系が、入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置および/または入射方向を、反復する移動パターンで変化させるように構成されていると好ましい。好ましくは、変化の時間スケールは、線方向に沿った空間的に均質な強度が効果的に有効となるように、光学装置の使用分野のプロセス時間に比べて短い。反復とは、とりわけ、初期コンフィギュレーションが繰り返して使用または実施されることを意味する。このことは、基本的には周期的または非周期的に実施可能である。例えば、入射位置を、基準位置を中心として往復移動させることが考えられる。好ましくは、反復移動は、規定された周波数で周期的に実施されるのではなく、変化する周波数および/または振幅で、とりわけランダムに変化する周波数および/または振幅で、とりわけ無秩序に実施される。好ましくは、主たる周波数寄与は、50Hz~150Hzの範囲内、とりわけ75Hz~125Hzの範囲内にある(このことは、この関連においてとりわけ、反復する移動パターンのフーリエスペクトルが、これらの主たる周波数寄与において比較的高い振幅を有することを意味する)。
【0026】
さらに、偏向光学系が、入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置を、入力アパーチャ長手方向に沿って変化させるように構成されていると好ましく、この場合、入力アパーチャ長手方向とは、好ましくは長細く延在する入力アパーチャの長手方向を意味する。このような変化は、光学素子の調整に関して比較的簡単かつロバストである。その場合、出力アパーチャから出射するビームパケットのビーム重心の空間的なシフトは、長細く延在する出力アパーチャの長手方向(出力アパーチャ長手方向)に沿って実施される。好ましくは、偏向光学系は、入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置を、基準位置を中心にして入力アパーチャ長手方向に沿って往復シフトさせるように構成されている。好ましくは、往復移動は、変化する周波数で、とりわけランダムに変化する周波数で実施され、この場合、主たる周波数寄与は、とりわけ50Hz~150Hzの範囲内、さらにとりわけ75Hz~125Hzの範囲内にある。
【0027】
好ましくは、偏向光学系は、これに加えてまたはこれに代えて、入射方向と入力アパーチャ長手方向とを含んでいる平面が、入力アパーチャ長手方向を中心に旋回させられるように、とりわけ往復旋回させられるように、入力レーザビームの入射方向を入力アパーチャに対して相対的に変化させるようにさらに構成されている。入力レーザビームをこのように入力アパーチャに対して相対的に傾斜させることにより、出力アパーチャ長手方向に対して垂直であって、かつ伝搬方向に対して垂直である軸を中心にしたビームパケットの傾斜がもたらされる。この実施形態は、有利には、後続するビーム経路上のさらなる光学素子の正確な調整に関連している。好ましくは、往復移動は、変化する周波数で、とりわけランダムに変化する周波数で実施される。この場合、主たる周波数寄与は、とりわけ50Hz~150Hzの範囲内、さらにとりわけ75Hz~125Hzの範囲内にある。
【0028】
入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置および/または入射方向を変化させるために、偏向光学系は、ビーム経路上で変形光学系の上流に接続されている少なくとも1つのミラー装置を含むことができる。ミラー装置は、モータによってシフト可能かつ/または傾斜可能な少なくとも1つのミラーを有することができる。いくつかの実施例では、ミラー装置は、相互に相対的にシフト可能かつ/または傾斜可能な2つのミラーを含む。少なくとも1つのミラーをシフトおよび/または傾斜させることにより、入力レーザビームのビーム重心の位置、および/または入力レーザビームの伝搬方向を、簡単かつロバストに変化させることができる。とりわけ、少なくとも1つのミラーをシフトおよび/または傾斜させることにより、変形光学系の入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射位置および/または入射方向の変化がもたらされるように、ミラー装置をビーム経路上に配置することができる。
【0029】
さらなる有利な実施形態では、偏向光学系は、少なくとも1つの第1のレンズと少なくとも1つの第2のレンズとを有するレンズシステムを含み、第2のレンズは、少なくとも1つの第1のレンズに対して相対的に傾斜可能であり、かつ/または光軸に関して横方向にシフト可能である。いくつかの特に好ましい実施例では、第1のレンズおよび第2のレンズは、テレスコープ装置を形成することができ、このテレスコープ装置は、第2のレンズの静止位置においてビーム経路内にニュートラルに挿入され、したがって、レーザビームのビーム形状に対してほぼ影響を及ぼさないか、もしくは無視できる程度の影響しか及ぼさない。換言すれば、少なくとも1つの第1のレンズおよび少なくとも1つの第2のレンズは、いくつかの有利な実施例では、レンズテレスコープを形成しており、このレンズテレスコープは、少なくとも1つの第2のレンズがその静止位置から少なくとも1つの第1のレンズに対して相対的に移動させられている場合にのみ、レーザビームのビーム経路に対して感知可能な影響を及ぼす。これらの実施例は、作業平面の領域におけるビームプロファイルのマイクロ平滑化を選択的にアクティブ化または非アクティブ化することを、作業平面の領域におけるレーザ線そのものを変化させることなく簡単に可能にすることができる。さらに、このようなレンズシステムは、比較的古いレーザシステムまたは既に稼働中のレーザシステムにおいて簡単に後付け可能である。
【0030】
さらなる実施形態では、偏向光学系は、回転可能に支持されている光学素子を含む。いくつかの実施例では、回転可能な光学素子は、複屈折光学素子であってよい。ビーム経路上で変形光学系の上流にある回転式の光学素子は、有利には、レーザシステムにおける不所望な振動を最小化するために寄与することができる。回転移動は、例えば振動する並進移動よりもわずかな負荷変動で実施可能である。
【0031】
さらなる実施形態では、偏向光学系は、第1の基礎上に配置されており、変形光学系は、第2の基礎上に配置されており、第1の基礎と第2の基礎とは、相互に分離されて配置されている。いくつかの実施例では、第1の基礎および第2の基礎は、それぞれ1つの花崗岩プレートを含むことができ、それぞれの花崗岩プレートは、相互に分離されて、とりわけ相互に接触しないように配置されている。これに代えてまたはこれに加えて、第1の基礎および第2の基礎は、それぞれ、例えば金属製および/またはコンクリート製の鋳造用プレート、および/または鋼製基礎を含むことができる。基礎同士が分離されているということは、偏向光学系の変化の結果として発生する可能性のある振動が、レーザビームのビーム経路上で後続する要素からより良好に切り離されるという利点を有する。
【0032】
さらなる有利な実施形態では、光学装置は、ビーム経路上で均質化光学系の下流に接続されている少なくとも1つの変換レンズ手段をさらに含む。変換レンズ手段は、とりわけ、均質化光学系によって混合されたビームセグメントを重畳し、さらに線状の出力ビームへと集束させるように構成されている。その限りにおいて、変換レンズ手段は、とりわけ均質化のためにも寄与する。このために、例えば、作業平面は、変換レンズ手段の焦点領域内に延在することができる。例えば、捕捉されたビームのそれぞれの領域からビームセグメントを、線方向に沿ったそれぞれ異なる領域に、好ましくは全ての領域に集束させることが考えられる。
【0033】
変換レンズ手段の有利な実施形態は、(とりわけ、非結像型の)フーリエレンズの形態であり、とりわけフレネルゾーンプレートとして構成されている。
【0034】
出力ビームの特性は、変形光学系の構成によって決定的な影響を受ける。とりわけ、変形光学系の構成は、入力レーザビームの入射位置および/または入射方向が変化した場合に出力ビームの光分布がどのように変化するかに対して影響を及ぼす。変形光学系における光学的な過程は複雑であり、とりわけ、光分布の空間コヒーレンスに対する影響も及ぼし、このこと自体は、妨害的な干渉アーチファクトが形成されるかどうかにとって重要である。したがって、ビーム経路上で変形光学系の上流における放射の変化は、通常、さらなるビーム経路上での放射特性に対して特に大きな影響を及ぼす。
【0035】
出力ビームの線状のビーム断面を達成するために、変形光学系の入力アパーチャが、長細く形成されており、入力アパーチャ長手方向に沿って長細く延在しており、出力アパーチャが、出力アパーチャ長手方向に沿って延在していると好ましい。
【0036】
この場合、変形光学系は、好ましくは、出力アパーチャを通って出射するビームパケットが、出力アパーチャ長手方向に沿って相互に隣り合って配置されている複数のビームセグメントを有するように構成されている。入力アパーチャが長細く形成されていることによって既にもう、入力レーザビームは、長細いビーム断面を有することができ、このことは、入力レーザビームを、線状のビーム断面を有する出力ビームに変換することを促進する。例えば、予備成形光学系を設けることが考えられ、この予備成形光学系は、入力レーザビームが変形光学系に到達する前に、楕円形のビーム断面を有するように入力レーザビームを変形する。
【0037】
変形光学系の有利な実施形態は、さらに、出力アパーチャから出射するビームパケットの隣り合うビームセグメント同士の間隔が、出力アパーチャ長手方向に対して垂直であって、かつ(局所的な)伝搬方向に対して垂直である方向におけるビームセグメントの拡がりよりも大きいことにある。このように構成された変形光学系では、入射位置を入力アパーチャ長手方向に沿って比較的わずかにシフトさせることにより、ビームパケットのビーム重心が出力アパーチャ長手方向に沿って比較的大きくシフトさせられることとなる。その限りにおいて、ビームパケットのビーム重心の比較的大きなシフトを達成するために、入力レーザビームを(例えば、ミラー装置によって(上記を参照))わずかに偏向させるだけでよくなる。
【0038】
好ましくは、変形光学系は、入力アパーチャを通ってコヒーレントな入力レーザビーム(すなわち、入力アパーチャの拡がり全体にわたって空間コヒーレンスを有する入力レーザビーム)が入射した場合、または少なくとも部分的にコヒーレントな入力レーザビームが入射した場合に、出力アパーチャから出射する、低減された空間コヒーレンスを有する、好ましくは格段に低減された空間コヒーレンスを有するか、またはインコヒーレントであるビームパケットを生成するようにさらに構成されている。これにより、ビーム経路上で後続する均質化および/または集束における干渉作用が低減されるか、または完全に回避され、これにより、強度推移における不均質性をさらに低減することができる。
【0039】
上述した空間コヒーレンスの低減もしくは除去は、とりわけ、変形光学系を通過する際における入力レーザビームの隣り合うビームセグメントに対してそれぞれ異なる光路長が提供されるように、変形光学系を構成することによって達成可能である。とりわけ、変形光学系は、出力アパーチャを通って出射するビームパケットのビームセグメントがそれぞれ異なる光路長を進むように、入力レーザビームの隣り合うビームセグメントが、変形光学系を通過する際に再配列されるように構成されており、これにより、ビームパケットは、低減された空間コヒーレンスを有するようになり、とりわけインコヒーレントになる。とりわけ、変形光学系は、入力アパーチャの相対する両縁側の領域に入射するビームセグメントに対する光路長同士が、入力レーザビームのコヒーレンス長よりも大きい値の分だけ異なるように構成されている。
【0040】
好ましくは、変形光学系は、入力レーザビームの波長に対して光学的に透明または透過性の材料からプレート状に、かつ一体型に形成されている。この場合、変形光学系は、プレート前面と、プレート前面に対して実質的に平行に延在するプレート背面とを有する。その限りにおいて、プレート前面およびプレート背面は、面状に延在するプレートの大きな境界面を形成している。とりわけ、プレート前面の領域は、入力アパーチャを提供し、プレート背面の領域は、出力アパーチャを提供する。変形光学系は、有利には、入力レーザビームのビームセグメントが、入力アパーチャを通って入射した後、プレート前面およびプレート背面で少なくとも1回、好ましくは複数回反射されることによって出力アパーチャへと案内されるように構成されている。反射の回数は、とりわけ入力アパーチャにおける入射位置および入射角度に依存している。その限りにおいて、入力レーザビームの複数の異なるビームセグメントは、それぞれ異なる光路長を進む。とりわけ、反射は、入力レーザビームの複数の異なる(とりわけ、隣り合っている)ビームセグメントが、変形光学系を通過する際に再配列されて、出力ビームセグメントとして出力アパーチャを通って出射するように実施される。
【0041】
均質化光学系は、好ましくは、変形光学系から出射するビームパケットの複数の異なるビームセグメントを混合するように、かつ/または相互に重畳するように作用する。この目的で、均質化光学系は、例えば少なくとも1つのレンズアレイを含むことができ、少なくとも1つのレンズアレイは、それぞれの円筒軸に沿って延在する複数のシリンドリカルレンズを有することができる。とりわけ、シリンドリカルレンズは、ビームパケットが、隣り合って位置する複数のシリンドリカルレンズを通過するように幾何学的に寸法設定されている。
【0042】
冒頭で述べた課題は、線状の出力レーザビームを生成するために構成されたレーザシステムであって、線状の出力レーザビームは、ビーム断面において線形の強度プロファイルを有する強度分布を有する、レーザシステムによっても解決される。
【0043】
レーザシステムは、入力レーザビームを出力するための少なくとも1つのレーザ光源と、入力レーザビームを線状の出力ビームに変換するための、上述した形式の光学装置とを含む。光学装置は、入力レーザビームがレーザ光源から供給されるように配置されている。
【0044】
レーザ光源は、とりわけマルチモード動作に適しているか、またはマルチモード動作のために設計されている。レーザ光源のレーザ放射は、基本的に光学装置に直接的に入射することができる。しかしながら、レーザシステムがさらに予備成形光学系を含み、この予備成形光学系によってレーザ放射を、光学装置に入射する前に変形させることも考えられる。予備成形光学系は、例えばコリメート光学系として形成可能である。例えば、予備成形光学系は、アナモルフィックに作用することができ、したがって、入力レーザビームは、楕円形のビーム断面を有する。
【0045】
以下では、本発明を、図面に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】線形の強度分布を生成するためのレーザシステムにおけるビーム経路を説明するための概略図である。
【
図3】好ましい変形光学系におけるビーム経路を説明するための概略図である。
【
図4】均質化光学系および変換レンズ手段の作用を説明するための概略図である。
【
図5】偏向光学系の第1の実施形態を説明するための概略図である。
【
図6】偏向光学系の第2の実施形態を説明するための概略図である。
【
図7】変形光学系における入力レーザビームの入射位置を変化させる場合の、均質化光学系および変換レンズ手段におけるビーム経路を説明するための概略図である。
【
図8】入力アパーチャにおける入力レーザビームの入射方向を変化させる場合の、変形光学系におけるビーム経路を説明するための概略図である。
【
図9】変形光学系における入力レーザビームの入射方向を変化させる場合の、均質化光学系および変換レンズ手段におけるビーム経路を説明するための概略図である。
【
図10】偏向光学系の第3の実施形態を説明するための概略図である。
【
図11】偏向光学系の第4の実施形態を説明するための概略図である。
【0047】
以下の説明および図面では、同一の特徴または相互に対応する特徴に対してそれぞれ同一の参照符号が使用されている。
【0048】
図1は、出力ビーム12を生成するためのレーザシステム10を概略図で示し、この出力ビーム12は、作業平面14において、線方向(x方向)に沿って延在する消失しない強度を有する線状のビーム断面を有する。
【0049】
レーザシステム10は、レーザ放射を出力するための少なくとも1つのレーザ光源16を含む。レーザ光源16は、好ましくはマルチモードレーザとして構成されている。レーザ放射は、オプションとして予備成形光学系(図示せず)を介して入力レーザビーム18を供給する。予備成形光学系は、例えば、コリメート効果を有することができ、かつ/またはレーザ放射を、楕円形のビーム断面を有する入力レーザビーム18に変形することができる。例えば、まず始めに偏向ミラーおよび/またはレンズ手段を用いてレーザ放射を入力レーザビーム18に変形することが考えられる。
【0050】
レーザシステム10は、光学装置20をさらに含み、この光学装置20によって入力レーザビーム18が線状の出力ビーム12に変換される。
【0051】
ビームの局所的な幾何学的比率を説明するために、図面に直交座標系(x,y,z)が示されている。図示の例では、入力レーザビーム18は、z方向に沿って伝搬する。出力ビーム12の線状の拡がりによって定義される軸は、x軸(「長軸」)に沿って延在する。(局所的な)線方向に対して垂直であって、かつ伝搬方向に対して垂直である軸は、「短軸」(y軸)と称される。
【0052】
大きな面積を処理するためには、非常に長細く延びた線状の強度プロファイルを達成することが望ましいだろう。この限りにおいて、上述した形式(10,10’)の複数のレーザシステムを、隣り合うように設けて、それぞれの強度分布が補完し合って1つの長細く延びた線を形成するように配置することが考えられる。
【0053】
光学装置20は、ここではビーム経路上で相前後して配置されている複数の光学アセンブリを含む。
図1に簡略的に示されているように、入力レーザビーム18は、まず始めに偏向光学系22を通過し、次に、変形光学系24を通るように案内され、変形光学系24は、入力レーザビーム18をビームパケット26に変形する。ビームパケット26は、続いて、均質化光学系28によって均質化され、均質化光学系28の下流に配置されている変換レンズ手段30との相互作用により、線方向に沿って十分に均質な強度を有する線状の出力ビーム12に変換される。
【0054】
オプションとして、光学装置は、ビーム経路上で変換レンズ手段30の下流に接続されているコリメート光学系/集束光学系(図示せず)をさらに含むことができる。いくつかの好ましい実施例では、隣り合って配置されている上述した形式のレーザシステム10,10’は、それぞれ1つの独自の偏向光学系22,22’と、それぞれ1つの独自の変形光学系24,24’とを有することができ、後続する均質化光学系28および/または後続する変換レンズ手段30を共用することができる。換言すれば、いくつかの実施例では、均質化光学系28および/または変換レンズ手段30を、複数の隣り合うビームパケット26,26’によって照明することができる(ここには図示せず)。
【0055】
図2および
図3は、考えられる実施形態における変形光学系24を概略図で示す。図示の例では、変形光学系24は、レーザ放射に対して透過性の材料から一体型のプレート状の変形体32として形成されている。
【0056】
変形体32は、プレート前面34と、プレート前面34に対して平行に延在するプレート背面36とを有する。プレート前面34の領域は、光入射面として使用され、変形光学系24の入力アパーチャ38を提供し、この入力アパーチャ38を通って入力レーザビーム18が変形体32に入射することができる。プレート背面36の領域は、光出射面として作用し、出力アパーチャ40を提供し、この出力アパーチャを通ってビームパケット26が出射する。
【0057】
図3から見て取れるように、入力アパーチャ38は、長細く形成されており、入力アパーチャ長手方向42に沿って延在している。出力アパーチャ40も、長細く形成されており、出力アパーチャ長手方向44に沿って延在している(
図2を参照)。
【0058】
変形光学系24は、とりわけ、入力レーザビーム18の複数の隣り合うビームセグメント46a,46b,46cが、変形光学系24を通過する際にビームパケット26のビームセグメント48a,48b,48cに再配列されるように作用し、これらのビームセグメント48a,48b,48cは、出力アパーチャ長手方向(44)に沿って隣り合って配置されている(
図3を参照)。このことは、図示の例では、入力アパーチャ38を通って入射したビームセグメント46a,46b,46cが、プレート前面34とプレート背面36との間での変形体32内での内部反射によって出力アパーチャ40へと案内されることによって実施される。ビームセグメント46a,46b,46cは、それぞれ異なる位置で入力アパーチャ38を通って入射するので、出力アパーチャ40から出射するビームパケット26のビームセグメント48a,48b,48cは、それぞれ異なる光路長を進むこととなる。とりわけ、ビームパケット26が非常に低減された空間コヒーレンスを有するように、とりわけインコヒーレントになるように、複数の異なるビームセグメント48a,48b,48cの光路がそれぞれ相互に異なるように、変形体32が形成されている。このことは、とりわけ、ビームセグメント48a,48b,48cに関する光路長の差が、レーザ放射のコヒーレンス長に比べて大きいことによって実施される。
【0059】
図4は、均質化光学系28および変換レンズ手段30の機能方式を概略的に示す。基本的に、均質化光学系28は、ビームパケット26を捕捉して、ビームパケット26の複数の異なるビームセグメント48a,48b,48cを相互に混合および重畳するように配置されている。例えば、均質化光学系28は、ビーム経路上で相互に相前後して接続されている2つのレンズアレイ50a,50bを有することができ、これらのレンズアレイ50a,50bは、ビームセグメント48a,48b,48cに作用し、これらのビームセグメント48a,48b,48cを混合および重畳する。
図4に例示的に示されているように、レンズアレイ50a,50bは、それぞれの円筒軸に沿って延在する複数のシリンドリカルレンズ52を有する。この場合、シリンドリカルレンズ52は、ビームパケット26が、隣り合って位置する複数のシリンドリカルレンズ52を通過するように幾何学的に寸法設定されている。
【0060】
ビーム経路上で均質化光学系28の下流に接続されている変換レンズ手段30は、とりわけ、作業平面14において所望の線状の強度分布が生じるように、混合されたビームセグメント48a,48b,48cを重畳して線状の出力ビーム12を形成するように構成されている。例えば、好ましくは、変換レンズ手段30は、図示されていないフーリエレンズ54によって形成されている。フーリエレンズ54は、とりわけ、作業平面14がフーリエレンズ54の焦点平面上に延在するように配置されている(
図4を参照)。
【0061】
とりわけ、上述したように好ましくは入力レーザビーム18のコヒーレンスを十分に打ち消す変形光学系24と相互作用して、ビームパケット26のビームセグメント48a,48b,48cを混合および重畳することにより、出力ビーム12は、(局所的な)線方向xに沿って既にもう比較的均質になっている。しかしながら、とりわけ光学系の干渉作用および/または形状誤差に起因して、かつ/または光学系の汚染(上記を参照)に起因して、強度推移における局所的な不均質性が生じる可能性がある。
【0062】
以下に詳細に説明するように、変形光学系24の入力アパーチャ38における入力レーザビーム18の入射位置および/または入射方向68,68’を時間に依存して変化させることにより、これらの不均質性を平均して平滑化することができる。この目的で、偏向光学系22は、変形光学系24の入力アパーチャ38における入力レーザビーム18の入射位置および/または入射方向68,68’を時間に依存して変化させるように構成されている。
【0063】
図5には、偏向光学系22の第1の実施形態が示されている。偏向光学系は、ミラー装置56を含み、このミラー装置56は、相互に相対的に傾斜可能な2つのミラー58a,58bを有する。ミラー装置56は、ミラー58a,58bを相互に相対的に傾斜させることにより、変形光学系24の入力アパーチャ38における入力レーザビーム18の入射位置を変化させることができるように(
図5では破線によって示されている)、入力レーザビーム18のビーム経路上に配置されている。とりわけ、ミラー装置56は、ミラー58a,58bを相互に相対的に傾斜させることにより、入力アパーチャ長手方向42に沿った(
図5では局所的なy軸に沿った)入射位置のシフトがもたらされるように方向決めされている。
【0064】
図6には、偏向光学系22の第2の実施形態が示されており、ここでは、ミラー装置56は、相互に相対的にシフト可能な2つのミラー58a,58bを有する。
図6に破線によって示されているように、ミラー58a,58bを相互に相対的にシフトさせることによっても、入力アパーチャ長手方向42に沿った(
図5では局所的なy軸に沿った)入力レーザビーム18の入射位置の変化がもたらされる。
【0065】
入力アパーチャ長手方向42に沿って入力レーザビーム18の入射位置を変化させることにより、出力アパーチャ40におけるビームパケット26のビーム重心が、(
図5および
図6では、図平面に対して直交する)出力アパーチャ長手方向44に沿ってシフトするように、変形体32の内部で個々のビームセグメント46a,46b,46cが進む光路が変化させられる。
【0066】
その結果、ビームパケット26は、ビーム経路上で変形光学系24の下流に配置されている均質化光学系28に、変化させられた位置で当射し、ひいてはフーリエレンズ54にも、変化させられた位置で当射する(
図7では例示的に、中央の基準位置60から「上方への」ビームパケット26のシフトについて示されている)。ビームパケット26のそのようなシフトによって、フーリエレンズ54の特定の領域(
図7の例では下方の領域)は、ビームパケット26のより少ない強度寄与を受けることとなり、これによって、出力ビーム12の光分布は、(
図7の例では「下方への」)優先角度を得ることとなる。
【0067】
したがって、入射位置を往復移動させることによって、出力ビーム12の角度分布を時間に依存して変化させることができ、これにより、フーリエレンズ54の下流のビーム経路上の(例えば、後続する光学系64上の)汚染62(例えば、塵埃粒子)が、時間に依存して種々異なる方向から照明される。したがって、そのような汚染62によって生成される射影66は、時間的に変化させられるので、強度推移に対する射影の影響を平均して平滑化することができる。
【0068】
入射位置を変化させることに加えてまたはこれに代えて、変形光学系24の入力アパーチャ38における入力レーザビーム18の入射方向(
図8では参照符号68,68’が付された矢印によって示されている)を時間に依存して変化させるように、偏向光学系22を構成することも可能である。とりわけ、偏向光学系は、この場合、入射方向68,68’と(
図8では図平面に対して直交する)入力アパーチャ長手方向42とを含んでいる平面が、入力アパーチャ長手方向42を中心にして往復旋回させられるように、入力レーザビーム18の入射方向68,68’を変化させるように構成されている(
図8を参照)。この目的で、偏向光学系22は、例えば対応するミラー装置、レンズ、および/または他の光学素子(図示せず)を含むことができる。
【0069】
入力レーザビーム18の入射方向68,68’を変化させることにより、変形体32の内部におけるビームセグメント46a,46b,46cの光路の有利な変化がもたらされ、この場合には、とりわけ、出力アパーチャ40から出射するビームパケット26の角度分布が変化させられ、すなわち、出力アパーチャ40からのビームパケットの出射方向が傾斜させられる(
図8に概略的に示されている)。さらに、ビームパケット26の光強度分布も、定性的に変化させられる。この結果、ビームパケット26は、均質化光学系28およびフーリエレンズ54に、変化させられた位置で当射するだけでなく(上記の効果を参照)、変化させられた角度で当射するようにもなる。このような角度変化は、とりわけ出力ビーム12のビーム重心の空間的なシフトをもたらす。この限りにおいて、変形光学系24の入力アパーチャ38における入射方向68,68’を往復移動させることにより、出力ビーム12のビーム重心を空間的に往復シフトさせることができる。このようにして、干渉作用に起因する不均質性を平均して平滑化することができる(
図9に概略的に示されている)。
【0070】
図10は、偏向光学系22に関する第3の実施例を簡略化された概略図で示す。この実施例では、偏向光学系は、第1のレンズ素子70および第2のレンズ素子72を有し、これらの第1のレンズ素子70と第2のレンズ素子72とが一緒に1つのレンズテレスコープ74を形成している。レンズテレスコープ74は、いくつかの好ましい変形例では、独自の基礎76上に配置されており、この基礎76は、さらなる基礎78から空間的に分離されており、ひいては機械的に切り離されている。さらなる基礎78は、ここではさらなるテレスコープ80を支持しており、このさらなるテレスコープ80は、2つのさらなるレンズ素子82,84と、ビーム経路上に後続して、ここではもう1つのさらなるレンズ88と、変形光学系24とを有する。さらなるレンズ88は、この実施例のいくつかの変形例では省略可能である。テレスコープ80と、さらなるレンズ88とは、ここでは入力レーザビームを、出力ビーム12の所望のレーザ線の意味で最適に、変形光学系24の入力アパーチャへと向けるために使用される。この実施例では、レンズテレスコープ74が追加されており、このレンズテレスコープ74では、第2のレンズ素子72が、第1のレンズ素子70に対して相対的に移動可能となっている。有利な変形例では、
図10の下側の部分に矢印90によって示されているように、第2のレンズ素子72を、第1のレンズ素子70に対して横方向にシフトさせることができる。
【0071】
図10の上側の部分には、ニュートラルな静止位置における第2のレンズ素子72が示されている。このニュートラルな静止位置では、レンズテレスコープ74は、光学装置20のビーム経路上でニュートラルであり、すなわち、レンズテレスコープ74は、入力レーザビーム18が変形光学系24の入力アパーチャに当射する位置および方向に対して実質的に影響を及ぼさない。換言すれば、ニュートラルな静止位置では、変形光学系24の入力アパーチャにおける入力レーザビーム18の位置および入射方向が顕著に変化することなく、レンズテレスコープ74を省略することができるだろう。入力レーザビーム18は、ここに図示されているように所定の第1の位置で、かつ所定の第1のビーム方向で、変形光学系24の入力アパーチャに当射する。
【0072】
これに対して、
図10の下側の部分では、第2のレンズ素子72が第1のレンズ素子70に対して横方向に、すなわちビーム方向を横断する方向にシフトさせられている。これによって、ここでは、入力レーザビーム18が変形光学系24の入力アパーチャに当射するビーム方向が変化する。好ましくは、テレスコープ80は、偏向方向に沿って変形光学系24へのビーム入射を低減する。これにより、偏向角度が増大させられる。第2のレンズ素子72を第1のレンズ素子70に対して相対的に往復シフトさせることにより、変形光学系24の入力アパーチャへのビーム方向を変化させることができる。いくつかの実施例では、1つまたは複数の浸漬コイルを用いて、かつ/または1つまたは複数のピエゾアクチュエータを用いて、第2のレンズ素子72を第1のレンズ素子70に対して相対的に移動させることができる。
【0073】
図11は、偏向光学系22に関するさらなる実施例を簡略化された概略図で示す。この実施例では、偏向光学系22は、光学素子92を含み、この光学素子92は、ビーム経路上で変形光学系24の上流に回転可能に配置されている。図示の実施例では、光学素子92は、入力レーザビーム18の偏光回転を引き起こす波長板である。例えば、ここでは垂直の矢印によって概略的に示されているように、入力レーザビーム18を直線偏光させることができる。波長板は、いくつかの実施例ではλ/2板であってよい。光学素子92は、斜めに描かれた第2の矢印に基づいて示されているように、入力レーザビーム18の偏光方向を変化させる。変化させられた偏光方向を有する入力レーザビーム18は、ここでは、光軸96を有する複屈折素子の形態のさらなる光学素子94に当射する。光軸96に対して回転させられた偏光が、複屈折素子94に当射する。ビームは、複屈折に基づいて正規の部分ビーム98と非正規の部分ビーム100とに分割される。部分ビーム98,100は、それぞれ相互に異なるビーム方向を有する。部分ビーム98,100におけるエネルギ成分は、光学素子92から出射したレーザビームのそれぞれの偏光と、ひいては光学素子92のそれぞれの回転位置とに依存している。その結果、入力レーザビームが変形光学系24(ここには図示せず)に当射するビーム方向を、光学素子92の回転によって変化させることができる。
【0074】
この実施例のオプションの有利な変形例では、変形光学系24(ここには図示せず)に当射するレーザビームの偏光を入力側の状態に戻すために、ビーム方向において複屈折素子94の下流に、第2の回転可能な波長板102を配置することができる。
【0075】
さらなる実施例では、変形光学系24を入力レーザビーム18によって時間に依存して可変的に照明するために、回転式のプリズムおよび/または回転式のミラーを使用することができる。さらに、偏向光学系22は、アナモルフィックテレスコープを含むことができる。このアナモルフィックテレスコープは、入力レーザビーム18を顕著に楕円形のビームに変形する。ビームパラメータの保存に基づいて、幅wが減少すると、角度スペクトルθの幅が増大し、逆もまた同様である:
【数1】
【0076】
これにより、ビーム偏向は、実質的に方向成分のうちの1つに対して作用し、その一方で、その他の方向成分は、十分に影響を受けないまま維持されることができる。例えば、レーザ線がx方向に延在している作業平面上に、レーザビームが線形のレーザ照明を生成すべき場合には、δθ/θx~1または>1であり、その一方で、δθ/θy<<1であると有利である。