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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】前立腺がんの診断に関連する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240426BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
G01N33/50 B
G01N33/574 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022562491
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 CN2021089209
(87)【国際公開番号】W WO2021213494
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】63/014,178
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521535102
【氏名又は名称】ニュー ライフ メディシン テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ン イン ラム ケネス
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0252652(US,A1)
【文献】特表2020-507320(JP,A)
【文献】特表2016-527483(JP,A)
【文献】国際公開第2020/016800(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/069580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生物学的試料から前立腺がんの指標を検出する方法であって、前記方法が、
a.前記被験者から得られた尿試料中のスペルミンの量を測定することと、
b.年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、及び直腸診(DRE)結果のそれぞれの変数を得ることと、
c.ステップで測定された前記スペルミンの量、及びステップで測定された複数の変数を含む多変量リスクモデルを構築することと、
.前記被験者が前立腺がんを発症する尤度又は前立腺がんを有する尤度を予測するためのスペルミン・リスクスコア値を計算することと、
を含み、
前記スコア値の増加が、前立腺がんの存在または前立腺がんを発症するリスクの指標となる、方法。
【請求項2】
前記スペルミン・リスクスコア値が、
i)受信者操作特性(ROC)の曲線下面積(AUC)、ロジスティック回帰、赤池情報量基準(AIC)、及びベイズ情報量規準(BIC)、
ii)スチューデントのt検定、マン・ホイットニーU検定、カイ二乗検定、両側t検定からなる群から選択される検定に基づくp値、ならびに/又は、
iii)サポートベクターマシンアルゴリズム、ロジスティック回帰アルゴリズム、多項ロジスティック回帰アルゴリズム、フィッシャーの線形判別アルゴリズム、二次分類アルゴリズム、パーセプトロンアルゴリズム、k近傍法アルゴリズム、人工ニューラルネットワークアルゴリズム、ランダムフォレストアルゴリズム、決定木アルゴリズム、単純ベイズアルゴリズム、適応ベイズネットワークアルゴリズム、及び複数の学習アルゴリズムを組み合わせたアンサンブル学習法からなる群から選択される分類アルゴリズム、
を用いて計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対照のスペルミンの量と、前記対照の年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、及び直腸診(DRE)結果のそれぞれの変数とを使用して、前記分類アルゴリズムに事前学習をさせる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分類アルゴリズムが、被験者から得られた前記試料中に存在するスペルミンの量及び前記複数の変数を対照のものと比較し、前記被験者が前記対照に属する又は属さない尤度を識別する数学的なスコアを返す、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記スペルミンの量が正規化される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記正規化がクレアチニンにより行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対照が、ISUP<2の前立腺がんを有する被験者であるか、又はがんを有さない被験者である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者が、前記方法を実施する前に、少なくとも4ng/mLの前立腺特異抗原(PSA)濃度を有すると判定されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記前立腺特異抗原(PSA)濃度が4ng/mL~20ng/mLである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に従って使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月23日に出願された米国仮特許出願第63/014,178号の優先権の利益を主張し、その内容は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、分子生物学及びバイオインフォマティクスの分野に関する。より具体的には、本開示は、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定する方法、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、2021年までに180万件の新たながんの症例及び60万件超のがんによる死亡があると予測されている。米国がん協会(American Cancer Society)によれば、33,000人超が前立腺がんで死亡すると推定されており、これは米国における男性の全てのがん死の10%を占める。この前立腺がんの高発生率及び前立腺がんによる死亡率は、公衆衛生上の重要な課題が存在していることを示す。
【0004】
1986年に米国食品医薬品局(FDA)により承認されて以来、前立腺がんの検診及び早期検出は、主に血清中の前立腺特異抗原(PSA)を検出することによって行われている。前立腺特異抗原量の上昇は、典型的には異常を示す結果とみなされ、前立腺がんの診断を確認する更なるフォローアップ検査、例えば、直腸診(DRE)、磁気共鳴画像法(MRI)、及び特定の場合では前立腺生検などを必要とする指標として扱われる。しかしながら、前立腺がんに対する前立腺特異抗原の診断性能は4.0~10.0ng/mLの範囲内に限られており、アジア人に関しては、4.0~20.0ng/mLの範囲であるとする報告が複数存在する。前立腺特異抗原の使用は、この範囲では偽陽性率が高くなり、低リスクの腫瘍を過剰診断することとなり、そしてその後の不要かつ侵襲的な生検につながることが示されている。したがって、前立腺特異抗原の検出のみに依存せずに前立腺がんを検出する方法を開発するという、未解決のニーズが存在する。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本開示は、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法であって、被験者から得られた体液試料中の1種以上のポリアミンの量を測定することと、年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変数を測定することと、1種以上のポリアミンの量及び少なくとも1つの変数を、対照と比較することと、を含み、対照と比較した、1種以上のポリアミンの量の減少又は増加が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示し、対照と比較した、前立腺体積の減少及び/又は前立腺特異抗原(PSA)の増加が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示し、直腸診の陽性結果が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示し、1種以上のポリアミンが、スペルミン、スペルミジン、及びプトレシンからなる群から選択される、方法に関する。
【0006】
別の態様では、本開示は、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法であって、被験者から得られた体液試料中の1種以上のポリアミンの量を測定することと、年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変数を測定することと、前記測定された1種以上のポリアミンの量、及び前記測定された少なくとも1つの変数に基づいてスコア値を取得して、被験者が前立腺がんを発症する尤度又は前立腺がんを有する尤度を予測することと、を含み、スコア値の増加が、被験者の前立腺がんの発症リスクが増加していること、又は前立腺がんに罹患していることを示す、方法に関する。
【0007】
更に別の態様では、本開示は、本明細書に開示される方法に従って使用するためのキットに関する。
【0008】
本発明は、非限定的な実施例及び添付の図面を考慮しながら詳細な説明を参照することにより、十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】被験者162名の記述統計を示す表1を表す。
図2】被験者162名からなるデータセットの、予測因子として尿ポリアミンを用いたロジスティック回帰によるオッズ比及びp値を示す表2を表す。
図3】被験者162名からなるデータセットの、前立腺がんの予測因子としてlog2変換した正規化されたスペルミン及びlog2変換した正規化されたプトレシンを用いたロジスティック回帰の係数及びその95%信頼区間を示す表3を表す。
図4】被験者162名からなるデータセットの、モデル1のロジスティック回帰の係数及びその95%信頼区間を示す表4を表す。
図5】被験者162名からなるデータセットの、モデル2のロジスティック回帰の係数及びその95%信頼区間を示す表5を表す。
図6】被験者162名からなるデータセットで検出された陽性の生検結果に対する、正規化したスペルミンの受信者操作特性(ROC)を示す。
図7】被験者162名からなるデータセットで検出された陽性の生検結果に対する、正規化したスペルミジンの受信者操作特性(ROC)を示す。
図8】被験者162名からなるデータセットで検出された陽性の生検結果に対する、正規化したプトレシンの受信者操作特性(ROC)を示す。
図9】被験者162名からなるデータセットで検出された陽性の生検結果に対する、モデル1の受信者操作特性(ROC)を示す。
図10】被験者162名からなるデータセットで検出された陽性の生検結果に対する、モデル2の受信者操作特性(ROC)を示す。
図11-1】被験者600名からなるデータセットの、いずれかのグレードの前立腺がん及び高グレードの前立腺がんに対するスペルミンのリスクスコアの内部検証の結果を示す。
図11-2】同上
図12】被験者600名からなるデータセットの、いずれかのグレードの前立腺がん(PCa)及び高グレードの前立腺がん(HGPCa)に対する意思決定曲線分析(DCA)を示す。
図13】被験者600名からなるデータセットの、がん患者及び非がん患者のベースライン特性を示す表6を表す。
図14】被験者600名からなるデータセットの、前立腺がん(PCa)及び高グレードのPCa(HGPCa)の正規化したスペルミン及びリスクを示す表7を表す。
図15】被験者600名からなるデータセットの、PCa及びHGPCa(ISUP異型度2以上のがん)の予測のための単変量解析及び多変量解析を示す表8を表す。
図16】被験者600名からなるデータセットの、異なる予測モデルで計算された確率の曲線下面積(AUC)を示す表9を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本明細書で使用される場合、「前立腺がん」及び「高グレード前立腺がん」という用語は、前立腺のがんを指す。前立腺は、膀胱の直下の尿道を取り囲む雄性生殖系に存在する腺である。ほとんどの前立腺がんは、増殖が遅い。がんは、身体の他の領域、例えば、限定されないが、骨及びリンパ節に転移し得る。
【0011】
前立腺がんには、2種類の病期分類、すなわち臨床病期分類及び病理病期分類がある。
【0012】
臨床病期分類は、直腸診、前立腺特異抗原検査、及びグリソンスコアの結果に基づく。これらの要素は、X線、骨スキャン、CTスキャン、又はMRIがその後必要かどうかを決定するのに役立つ。
【0013】
病理病期分類は、手術を介して得ることができる生検から得られる情報に基づく。手術は、多くの場合、前立腺全体及びいくつかのリンパ節の切除を含む。切除したリンパ節を検査することで、病理病期分類のためのより多くの情報を得ることができる。
【0014】
前立腺がんはまた、グリソンスコアと呼ばれるグレードが付与される。このスコアは、組織学的又は組織病理学的分析において、がんを健康な組織と比較したときに、どれほど類似しているか又は異なっているかに基づく。より悪性度の低い腫瘍は、一般に、健康な組織のように見える。転移性腫瘍は悪性であり、健康な組織とは類似しない。
【0015】
グリソン・スコアシステムは、前立腺がんで最も一般的に使用される評価指標である。病理医は、前立腺にがん細胞がどのように分布しているかを調べ、1~5のスケールでスコアを付ける。健康な細胞と同様に見えるがん細胞は、スコアが低い。健康な細胞のように見えないか、又はより高悪性度に見えるがん細胞は、スコアが高い。各グレードに分類するために、病理医は、試料で最も多く観察されるパターンを主な細胞増殖パターンとして判断し、次いで試料で2番目に多く観察されるパターンを探す。これらのパターンを、優勢病変及び随伴病変とする。これらの数値を合算すると、6~10の合計スコアとなる。
【0016】
グリソンスコアが6以下であると、低悪性度のがんであり、がん細胞はどちらかといえば正常細胞のように見える。グリソンスコア7のがん細胞は、正常な前立腺細胞とだいたい同じからあまり似ていないように見える。スコアが8、9、又は10であると、悪性度が高いがんであり、がん細胞は正常細胞としての分化が不十分である。低グレードのがんは増殖が遅く、高グレードのがんよりも広がる可能性が低い。したがって、本明細書で使用される場合、「高グレード前立腺がん」という用語は、グリソンスコアが少なくとも7である前立腺がんを指す。
【0017】
前立腺がんの重症度を分類するために使用される別のシステムには、国際泌尿器科病理学会(ISUP)の異型度分類として知られているものがある。ISUP異型度分類は、グリソンスコアと比較してグレードが少ない(1~5)が、同様に生検試料の病理分析に基づく。以下に提供される表は、ISUP異型度分類とグリソンスコアとの間の対応関係を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
本明細書で使用される場合、「陰性的中度」という用語は検査の的中度に関し、この値は、検査結果によって得られる、被験者とする条件についての可能性を示す。この値は、しばしば医学的検査に適用される。二項分類を検査結果に適用することができる場合、すなわち「はい」と「いいえ」とを比較できる場合(例えば、検査対象(例えば、物質、症状、若しくは徴候)が存在するか存在しないか、又は、陽性検査若しくは陰性検査のいずれか)、これらの2通りの結果の各々は別個の的中度を有する。例えば、陽性検査又は陰性検査の場合、的中度は、それぞれ、陽性的中度又は陰性的中度と呼ばれる。検査結果が連続的な値である場合、的中度は一般に値と共に連続的に変化する。例えば、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の尿中濃度を示す妊娠検査の場合、的中度は、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)値の上昇に伴い増加する。一定のカットオフ値を超える「陽性」として妊娠検査を表示するなどのように、連続値を二項の値へと変換することができるが、しかしながらこの変換は情報の喪失ももたらし、一般に、的中度の正確性が損なわれることになる。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「正規化」とは、統計の文脈で使用されるとおりの、一定の範囲の意味を有し得る。最も単純な場合において、評価の正規化は、異なる尺度で測定された値を、多くの場合平均化前に、理論上共通の尺度に調整することを意味する。より複雑な場合では、正規化は、調整された値の確率分布全体を整列させることを意図する、より精密な調整を指し得る。確率分布を正規化する別のアプローチには、異なる測定のクオンタイルを整列させるクオンタイル正規化がある。統計における別の用法では、正規化は、シフト及びスケーリングした統計を作成することを指し、これらの正規化を行った値を、別のデータセットの正規化した値と、例外的な時系列を含むなど何らかの統計上の影響(gross influence)が作用することを排除するようなやり方で比較可能にすることを意図する。いくつかのタイプの正規化は、いくつかのサイズ変数に関連する値に到達させるための再スケーリングのみを伴う。本開示では、ポリアミン(複数可)量が正規化される。別の例では、正規化はクレアチニンにより行われる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「ROC」、「受信者操作特性曲線」、又は「ROC曲線」という用語は、識別閾値を変化させて二項分類システムの診断性能を示すグラフプロットである。この方法は、元々軍事レーダーの受信機のオペレータのために開発されたものであることがこの命名の理由である。
【0022】
ROC曲線は、様々な閾値を設定して、偽陽性率(FPR)に対して真陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。真陽性率は、機械学習における検出の感度、再現率、又は確率としても知られている。偽陽性率は、誤報率としても知られており、(1-特異度)として計算することができる。また、決定則のタイプIの誤差の関数としての能力(power)のプロットとしても考えることができる(パフォーマンスが集団の試料のみから計算される場合、これらの量の推定値と考えることができる)。したがって、ROC曲線は、フォールアウト(偽陽性率)に対する感度又は再現率の関数である。一般に、検出及び誤報の両方についての確率分布が既知である場合、ROC曲線は、y軸の検出確率の累積分布関数(-∞から識別閾値への確率分布下面積)を、x軸の誤報率の累積分布関数に対してプロットすることによって作成することができる。
【0023】
受信者操作特性曲線との組み合わせにおいて、「AUC」という用語は、分類器が、ランダムに選択された陰性のインスタンスをランダムに選択された陽性のインスタンスより高くランク付けする(「陰性」よりも高く「陽性」ランクを仮定する)確率に等しい、曲線下面積(しばしば、単にAUCと呼ばれる)を指す。言い換えれば、値が1に近いほど(AUC値は0~1の範囲である)、選択されている検査の結果が正しい確率が高くなる。0.5のAUCは、結果が無意味なものであることを示すことに留意されたい。
【0024】
本明細書で使用される場合、ロジット回帰としても知られる「ロジスティック回帰」という用語は、限定されないが、合格/不合格、勝/負、生/死、又は健康/病気、などの特定のクラス又は存在する事象の確率をモデル化するために使用される統計モデルを指す。このモデルを拡張して、例えば、画像がネコ、イヌ、ライオンを含むかどうかを判定するなど、複数クラスの事象をモデル化することもできる。画像内で検出される各対象には、0~1の確率が割り当てられ、合計は1である。
【0025】
ロジスティック回帰は、その基本的な使用形態では、二項の従属変数をモデル化するロジスティック関数である統計モデルであるが、多くのより複雑な拡張型が存在する。回帰分析では、ロジスティック回帰(又はロジット回帰)は、ロジスティックモデルのパラメータ(2項回帰の形態)を推定することである。
【0026】
数学的には、二項ロジスティックモデルは、合格/不合格などの2通りの可能値を有する従属変数を有し、その結果のそれぞれは、指標変数によって表され、2値は「0」及び「1」とラベル付けされる。ロジスティックモデルでは、「1」とラベル付けされた値の対数オッズ(オッズの対数)は、1つ以上の独立変数(「予測因子」とも呼ばれる)の線形結合であり、独立変数はそれぞれ、二項変数(指標変数によってコード化された2つのクラス)又は連続型変数(任意の実数)とすることができる。「1」とラベル付けされた値の対応する確率は、0(確かに「0」)~1(確かに値「1」)の間で変動することができ、これがラベル付けである。対数オッズを確率に変換する関数は、ロジスティック関数であり、これが名称である。対数スケールでのオッズの測定単位は、「ロジスティック」及び「ユニット」から取って「ロジット」であり、これが代替名称である。ロジスティック関数の代わりに、異なるシグモイド関数を有する、いわゆるプロビットモデルなどが挙げられるがこれらに限定されない類似モデルも使用することができる。ロジスティックモデルの決定的な特徴は、独立変数の1つを乗法的に増加させることにより、一定の率で所与の結果のオッズをスケーリングすることであり、その際、各独立変数はそれ自体のパラメータを有し、二項従属変数の場合、このモデルはオッズ比を一般化する。
【0027】
二項ロジスティック回帰モデルでは、従属変数は2つのレベル(カテゴリー)を有する。2を超える値を有するアウトプットは、多項ロジスティック回帰によってモデル化され、複数のカテゴリが順序立てられた場合、順序ロジスティック回帰によってモデル化される(例えば、比例オッズ・順序ロジスティックモデル)。ロジスティック回帰モデル自体は、インプットに関するアウトプットの確率を単純にモデル化するものであり、統計的分類は実行しない(したがって、分類器であるとはみなされない)。しかしながら、このことは、分類器を作成するためにロジスティック回帰モデルを使用可能にすることを妨げるものではない。これは、例えば、カットオフ値を選択し、カットオフ値を超える確率を有するインプットを1つのクラスとして分類し、カットオフ値よりも低い確率を有するインプットを別のクラスとして分類することによって行うことができる。これは、二項分類器を作成するための一般的な方法である。
【0028】
本明細書で使用される場合、「増加する」及び「減少する」という用語は、亜集団において選択された形質又は特徴の、集団全体に存在する同じ形質又は特性と比較した相対的変化を指す。したがって、増加は正の尺度での変化を示すのに対し、減少は負の尺度での変化を示す。本明細書で使用される場合、「変化」という用語は、分離された亜集団について選択された特性又は特徴を、集団全体における同じ特性又は特徴と比較した差も指す。しかしながら、この用語は、見られる差の評価を伴わない。
【0029】
本明細書で使用される場合、物質の濃度、物質のサイズ、時間の長さ、又は他の記載された値の文脈における「約」という用語は、記載された値の±5%、又は記載された値の±4%、又は記載された値の±3%、又は記載された値の±2%、又は記載された値の±1%、又は記載された値の±0.5%を意味する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「モニタリング」という用語は、疾患、症状、又は1つ若しくは複数の診療パラメータの経時的な(医療)観察を指す。これらのパラメータは、特定の疾患に関連していてもよく、又は関連していなくてもよい。このモニタリングは、医用モニターを使用して(例えば、ベッドサイドモニタによってバイタルサインを連続的に測定することによって)特定のパラメータを連続的に測定することによって、及び/又は医学的な検査(例えば、真性糖尿病患者におけるグルコース測定器での血糖モニタリングなど)を繰り返し実行することによって、実施することができる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「手術」という用語は、疾患又は損傷などの病的状態を検査及び/又は処置するために、被験者に対してマニュアルでの手術を行う、及び機器による技術を使用する行為を指す。外科手術は、美容上の理由からも実施することができる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「去勢」という用語は、精巣の摘出又は使用不能をもたらす医療行為を指す。この医療行為は、精巣摘出術又は精巣摘除術とも呼ばれる。この医療行為は、外科的に、化学的に、又は任意の他の方法を使用して実施することができ、その結果、精巣の不能、すなわち雄性生殖腺の不能をもたらす。外科的去勢は、両側精巣摘出術(両側の精巣の切除)であるのに対し、化学的去勢(内科的去勢(medical castration)とも呼ばれる)は、薬物を使用して精巣の働きを抑制する。去勢により不妊となり(去勢された人又は動物の繁殖は防がれ)、テストステロンなどの特定のホルモンの産生は大幅に低減する。
【0033】
発明の詳細な説明
前立腺特異抗原(PSA)は、初期前立腺がん(PCa)検出のためのツールとして一般的に使用されている。欧州で16年にわたり更新を続けた前立腺がんのスクリーニングに関するランダム化試験により、前立腺特異抗原によるスクリーニングが前立腺がん死亡率を低減できること、並びに570名の男性をスクリーニングし、18名の男性を治療することによって、1名の前立腺がんによる死亡を防止できたことが示された。しかしながら、主要なスクリーニングツールとして前立腺特異抗原を使用することにより、無痛性の前立腺がん(すなわち、増殖が遅く、低グレード)に多くの不要な生検、診断、及び治療がなされることになった。本発明の方法により、前立腺がんの診断精度を大幅に改善し、不必要な生検を減らす、多くの診断ツールの使用が、血液(例えば、限定されないが、前立腺健康指数、4-カリクレインパネル)、尿(例えば、限定されないが、PCA3及びSelectMDxにおける前立腺マッサージ試料)、又は画像診断(例えば、これらに限定されないが、前立腺のマルチパラメトリックMRI)の利用によって可能となる。
【0034】
ポリアミン類は、前立腺上皮細胞の生育及び増殖に関与し、例えば、スペルミジン及びプトレシンは、ヒト前立腺組織に多量に存在する。ポリアミン類、例えば、プトレシン及びスペルミジンは、増殖している前立腺がん細胞において増加することが示されている。例えば、スペルミンは、前立腺上皮細胞の分泌機能に関与することが示されており、通常、大きな内腔体積を有する良性の前立腺組織において濃縮されている。細胞構造の変化及び内腔体積の減少を伴う前立腺がん、特に細胞分化が不十分な場合では、がん組織におけるスペルミン量が少ないことが示されている。この比較は、高分化型前立腺がんと低分化型前立腺がんとの間で行われたものであり、より低分化型の前立腺がんでは、より高分化型の前立腺がんと比較してスペルミン量が少ないことが示されたことに留意されたい。
【0035】
本明細書に開示されるように、前立腺特異抗原濃度が4ng/mLを超える162名の患者の尿試料を収集した。これらの尿試料の患者の年齢は、51歳~86歳の範囲であった。前立腺特異抗原の濃度は、4.2ng/mL~299ng/mLの範囲であった。記述統計及びBx陽性群(陽性の前立腺生検結果、がん細胞が生検試料中に見られたことを意味する)とBx陰性群(陰性の前立腺生検結果、がん細胞が見られなかったことを意味する)との間の比較を表1に要約する(図1)。Bx陽性群とBx陰性群との間で、年齢、前立腺特異抗原(PSA)、正規化したスペルミン(spm)、及び正規化したスペルミジン(spd)の差を観察した。スペルミン、スペルミジン、及びプトレシンの曲線下面積(AUC)の値は、それぞれ0.83、0.64、及び0.51である(図6図8を参照)。生検結果を予測するために、検査した3種類の尿中ポリアミンを変数減少法のロジスティック回帰分析に供した。Log2Spm及びLog2Putは共に統計的有用性を示した。表2(図2)は、ロジスティック回帰から計算されたオッズ比を示す。
【0036】
陽性の生検結果の予測確率は、Log2Spm及びLog2Putを合わせて、95%の感度、44%の特異度で、閾値は0.180であり、90%の感度、49%の特異度で、閾値は0.196であり、最高点:80%の感度、72%特異度で、閾値は0.353となる。本明細書に開示される統計モデルは、2つの因子、すなわちlog2変換した正規化したスペルミン及びlog2変換した正規化したプトレシンを使用して、陽性の生検結果を計算し、予測する。
【0037】
式: Pr(Bx陽性|Log2Spm,Log2Put)=1/1+exp-(0.598-1.045Log2Spm+0.405Log2Put)
【0038】
上記の式は、162名の被験者から得られたデータを使用して、ロジスティック回帰で係数を導出した標準的なロジスティック回帰式である。具体的には、本明細書に開示される式に示される係数は、ロジスティック回帰関数で統計プログラミング言語を使用して導出した。収集された全てのデータをプログラミング環境にインポートし、係数をロジスティック回帰モデルで導出した。
【0039】
陽性の生検結果の合計スコアを計算するために、3種類のパラメータ(年齢、前立腺特異抗原(PSA)、及びlog2スペルミン(log2spm))についてのモデルと、年齢、前立腺特異抗原、log2スペルミン(log2spm)及びlog2プトレシン(log2put)についての他のモデルの、2種類の異なるモデルを導出した。他のパラメータもまた、予測モデルに追加することができる。
【0040】
ロジスティック回帰式
Pr(y=1|x)=1/1+exp-(ββ
(メインモデルの係数及びそれらの範囲については、表3(図3)を参照)
【0041】
上記の式に関して、βは回帰係数を表し、βは切片を表し、xはマッチングする独立変数の値である。結果(Pr(y=1|x))は、独立変数が事象を有する所与のパターンの値を観察する確率である。これらのPr(y=1|xi)は、受信者操作特性(ROC)曲線を構築するために使用されるスコアである。
【0042】
モデル1. 年齢、Psa、log2Spmの関数としての予測結果(表4(図4)を参照)。
AUC=0.871、95%CI:0.817~0.925(図9参照)。
式: Pr(Bx陽性|年齢、Psa、Log2Spm)=1/1+exp-(-6.219+0.090年齢+0.026PSA-1.032Log2Spm)
【0043】
式は、標準的なロジスティック回帰式であり、162名の患者データを使用してロジスティック回帰により係数を導出した。AUCは、モデルの予測確率について異なる閾値でプロットされたROC曲線下面積である。95%CIは、95%信頼区間を意味する。「95%CI」が「AUC」の後ろに記載されるとき、95%信頼区間がAUC値であることを示す。
【0044】
モデル1と組み合わせられたスコアのカットオフ値: 95%の感度、62%の特異性で、閾値は0.222であり、90%の感度、67%の特異性で、閾値は0.276でああり、最高点は、85%の感度、76%の特異性で、閾値は0.348である(表4(図4)を参照)。
【0045】
モデル2. 年齢、Psa及びLog2Spm及びlog2Putの関数としての予測結果(表5(図5)を参照)。
AUC=0.879(0.827~0.932)(図10を参照)。
式: Pr(PC|年齢、Psa、Log2Spm、Log2Put)=1/1+exp-(-5.106+0.077年齢+0.027PSA-1.122Log2Spm+0.367Log2Put)
【0046】
式は、標準的なロジスティック回帰式であり、162名の患者データを使用してロジスティック回帰により係数を導出した。AUCは、モデルの予測確率について異なる閾値でプロットされたROC曲線下面積である。95%CIは、95%信頼区間を意味する。「95%CI」が「AUC」の後に記載されるとき、これは、95%信頼区間がAUC値であることを示す。
【0047】
モデル2と組み合わせられたスコアのカットオフ値: 95%の感度、55%の特異度で、閾値は0.173であり、90%の感度、71%の特異度で、閾値は0.276であり、最高点は、89%の感度、73%の特異度で、閾値は0.309である。
【0048】
例えば、スペルミジン、プトレシン、及びスペルミンなどの尿ポリアミンは、様々な種類のがんに関連することが報告されている。複数の研究により、前立腺がんでは、非がん対照と比較して24時間の尿スペルミジン濃度の上昇の比率が高いことが報告されている。過去に30名の前立腺がん患者において、24時間の尿プトレシン(スペルミジンではない)の上昇が報告されている一方で、スペルミンは、クロマトグラフ分析を使用してもほとんどの尿試料で検出されないことが示されている。前立腺がんの予測において、24時間の尿ジアミン、尿スペルミジン、及び尿スペルミンに期待され得る役割は、17名の男性からなる小コホートで既報である。その後、同じグループにより、泌尿器がん用の24時間の尿ポリアミンの酵素検査キットが報告されているが、前立腺がんの予測能力は限られている。しかしながら、先行技術は全て、前立腺がん診断における尿ポリアミンの有用性に関していかなる結論も提示していないことに留意すべきである。本出願に開示されるデータ(162名に基づく)は、スペルミンが前立腺がんの検出において>0.8のAUCを有することを示す。更なる実験(600名の被験者)では、臨床データに加えてスペルミンの使用が、前立腺がんのリスク予測の予測モデルとして用いられている。
【0049】
一例では、ポリアミン類、例えば、尿ポリアミンを、前立腺がんの文脈におけるそれらの適用性について調査している。あるパイロット試験では、事前の前立腺マッサージなしで、尿スペルミンが前立腺がんと相関することが判明している。
【0050】
したがって、本明細書では、被験者における前立腺がんの存在を予測する際の尿ポリアミンの適用性及びリスクスコア(例えば、スペルミン・リスクスコア)について得られたデータが開示される。本明細書に開示される方法では、この試験は、前立腺がんのリスクのある男性の連続コホートで実施された。
【0051】
本明細書に開示される試験には、前立腺の生検を受け、かつスペルミン分析のために生検前の尿を提出した、905名の男性を含めた。前立腺特異抗原の中央値は、9.6ng/mL(四分位範囲(IQR)6.4~16.5ng/mL)であった。ほとんどの患者は、14のコアの中央値(IQR10~24)の体系的前立腺生検を受けた。コホート全体において、前立腺がん(PCa)及び高グレードの前立腺がん(HGPCa)は、それぞれ男性の44.5%(403/905)及び25.9%(234/905)で診断された。尿スペルミン量が少ないことは、前立腺がん(PCa)及び高グレードの前立腺がん(HGPCa)の高リスクと有意に関連していた(カイ二乗検定、PCa及びHGPCaにおいてp<0.001)。
【0052】
したがって、一例では、被験者は、方法を実施する前に少なくとも4ng/mLの前立腺特異抗原(PSA)濃度を有すると判定されている。別の例では、前立腺特異抗原(PSA)の濃度は、少なくとも4ng/mL、少なくとも5ng/mL、少なくとも6ng/mL、少なくとも7ng/mL、少なくとも8ng/mL、少なくとも9ng/mL、少なくとも10ng/mL、少なくとも11ng/mL、少なくとも12ng/mL、少なくとも13ng/mL、少なくとも14ng/mL、又は、約15ng/mL、約16ng/mL、約17ng/mL、約18ng/mL、もしくは約19ng/mL、又は少なくとも4ng/mL、少なくとも5ng/mL、少なくとも6ng/mL、少なくとも7ng/mL、少なくとも8ng/mL、少なくとも9ng/mL、少なくとも10ng/mL、少なくとも11ng/mL、少なくとも12ng/mL、少なくとも13ng/mL、少なくとも14ng/mL、又は、約15ng/mL、約16ng/mL、約17ng/mL、約18ng/mL、約19ng/mL、約20ng/mL、もしくは約21ng/mLである。別の例では、前立腺特異抗原(PSA)濃度は、3ng/mL~22ng/mL、3ng/mL~5ng/mL、5ng/mL~7ng/mL、3ng/mL~9ng/mL、4ng/mL~13ng/mL、6ng/mL~18ng/mL、7ng/mL~19ng/mL、8ng/mL~20ng/mL、9ng/mL~18ng/mL又は10ng/mL~20ng/mLである。
【0053】
最近の研究では、男性905名のうち、20ng/mLより高い前立腺特異抗原量を示す305名を分析から除外した。その結果、前立腺特異抗原量が4~20ng/mLの範囲内であり、かつ前立腺がんの事前診断なしの600名の男性を主要解析の群に含めた。これらの600名の男性のベースライン特性を表6に示す(図13)。20.8%(125/600)の男性のみが生検後MRIを受けており、また13.7%(82/600)のみがMRIガイド下生検を受けていた。
【0054】
前立腺がん(PCa)及び高グレードの前立腺がん(HGPCa)は、それぞれ男性の30.8%(185/600)及び17.2%(103/600)で診断され、前立腺がんの存在は、尿スペルミン量が少ないことと有意に相関していた(カイ二乗検定、p<0.001)(表2)。スペルミンの結果の最高四分位と最低四分位との間には、前立腺がんリスクの3倍の増加(49.3%対16.7%)、ISUP GG≧2PCaリスクの3.5倍の増加(31.3%対8.7%)、及びISUP GG≧3PCaリスクの11倍の増加(15.3%対1.3%)が観察された。前立腺がんについてのそれ以前の陰性生検又は家族歴が、生検結果に基づく前立腺がん又は高グレードの前立腺がんに相関することは示されなかった。
【0055】
年齢、直腸診(DRE)、並びにスペルミン、前立腺特異抗原(PSA)及び前立腺体積(PV)の自然対数値を、単変量解析及び多変量解析を用いて解析する。単変量解析は、年齢、前立腺体積、直腸診、及びスペルミンの全てが、前立腺がん及び高グレードの前立腺がんの有意な予測因子であることを示した(表8、図15)。多変量解析は、年齢、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺体積(PV)、直腸診(DRE)、及びスペルミンが、前立腺がんの独立した予測因子であり、更には前立腺特異抗原(PSA)、前立腺体積(PV)、直腸診(DRE)、及びスペルミンが、高グレードの前立腺がんの独立した予測因子であることを示した(表8、図15)。
【0056】
前立腺がん(PCa)及び高グレードの前立腺がんに関し、上記の因子及び因子の組み合わせの受信者操作特性(ROC)分析における曲線下面積(AUC)を表9に掲載する(図16)。
【0057】
本明細書に開示される変数及びポリアミン類を含む様々なモデルを示す。一例では、本明細書に開示される方法は、少なくとも1種のポリアミン及び少なくとも1つの変数を含む。
【0058】
一例では、スペルミン、前立腺体積、前立腺特異抗原、及び直腸診を含むモデルは、前立腺がん(0.78)及び高グレードの前立腺がん(0.82)の両方において最高のAUCを達成した。
【0059】
高グレードの前立腺がんの4因子スペルミン・リスクスコア(国際泌尿器科病理学会(ISUP)グレード≧2)を、AUC値、赤池情報量基準(AIC)、及びベイズ情報量基準(BIC)に基づいて得た。このリスクスコアは、ロジスティック回帰を用いて計算し、係数は、600名の患者データを使用して導出する。直腸診(DRE)の結果を、1(DRE結果陽性の場合)又は0(DRE結果陰性の場合)のいずれかとしてコード化した。
【0060】
したがって、一例では、スコア値は、i)受信者操作特性(ROC)の曲線下面積、ロジスティック回帰、赤池情報量基準(AIC)、及びベイズ情報量基準(BIC)、ii)スチューデントのt検定、マン・ホイットニーU検定、カイ二乗検定、両側t検定からなる群から選択される検定に基づくp値、並びに/又は、iii)限定されないが、サポートベクターマシンアルゴリズム、ロジスティック回帰アルゴリズム、多項ロジスティック回帰アルゴリズム、フィッシャーの線形判別アルゴリズム、二次(quadratic)分類アルゴリズム、パーセプトロンアルゴリズム、k近傍法アルゴリズム、人工ニューラルネットワークアルゴリズム、ランダムフォレストアルゴリズム、決定木アルゴリズム、単純ベイズアルゴリズム、適応ベイズネットワークアルゴリズム、及び複数の学習アルゴリズムを組み合わせたアンサンブル学習法などの分類アルゴリズムを用いて計算される。
【0061】
一例では、対照の1種以上のポリアミンの量と、対照の年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの変数と、を使用して分類アルゴリズムに事前学習させる。別の例では、分類アルゴリズムは、被験者から得られた試料中に存在する1種以上のポリアミンの量及び少なくとも1つの変数を、対照のものと比較し、被験者が対照に属する又は属さない尤度を識別する数学的なスコアを返す。
【0062】
したがって、一例では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法は、被験者から得られた体液試料中の1種以上のポリアミンの量を測定することと、年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変数を測定することと、1種以上のポリアミンの量及び少なくとも1つの変数を、対照と比較することと、を含む。
【0063】
別の例では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法であって、被験者から得られた体液試料中の1種以上のポリアミンの量を測定することと、限定されないが、年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせなどの変数を測定することと、ステップcで測定された1種以上のポリアミンの量、及びステップdで測定された少なくとも1つの変数に基づいてスコア値を取得して、被験者が前立腺がんを発症する尤度又は前立腺がんを有する尤度を予測することと、を含み、スコア値の増加が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示す、方法が開示される。
【0064】
一例では、変数は、以下:年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせであるが、これらに限定されない。別の例では、変数は、開示される変数のうちのいずれかの組み合わせである。別の例では、変数は、年齢及び前立腺体積、年齢及び前立腺特異抗原、年齢及び直腸診、前立腺体積及び前立腺特異抗原、前立腺体積及び直腸診、並びに前立腺特異抗原及び直腸診の組み合わせであるが、これらに限定されない。更に別の例では、変数は、年齢、前立腺体積、及び前立腺特異抗原の組み合わせ、年齢、前立腺体積、及び直腸診の組み合わせ、年齢、前立腺特異抗原及び直腸診の組み合わせ、並びに前立腺体積、前立腺特異抗原、及び直腸診の組み合わせであるが、これらに限定されない。更に別の例では、変数は、年齢、前立腺体積、前立腺特異抗原、及び直腸診の組み合わせである。
【0065】
すなわち、一例では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法であって、被験者から得られた体液試料中の1種以上のポリアミンの量を測定することと、年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変数を測定することと、1種以上のポリアミンの量及び少なくとも1つの変数を、対照と比較することと、を含み、対照と比較した、1種以上のポリアミンの量の減少又は増加が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示し、対照と比較した、前立腺体積の減少及び/又は前立腺特異抗原(PSA)の増加が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示し、直腸診の陽性結果が、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又はそれに罹患していることを示し、1種以上のポリアミンが、スペルミン、スペルミジン、及びプトレシンからなる群から選択される、方法が開示される。
【0066】
別の例では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定する方法であって、被験者から得られた体液試料中の1種以上のポリアミンの量を測定することと、年齢、前立腺体積(PV)、前立腺特異抗原(PSA)、直腸診(DRE)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変数を測定することと、前のステップで測定された1種以上のポリアミンの量、及び前のステップで測定された少なくとも1つの変数に基づいてスコア値を取得して、被験者が前立腺がんを発症する尤度又は前立腺がんを有する尤度を予測することと、を含み、スコア値の増加が、被験者の前立腺がんの発症リスクが増加していること、又は前立腺がんに罹患していることを示す、方法が開示される。
【0067】
当業者は、本明細書に開示される方法を使用して得られたスコア値と、前立腺がんを発症しているか、又は前立腺がんに罹患している被験者のリスクとが、互いに正の相関関係にあることを理解するであろう。すなわち、例えば、被験者が前立腺がんを発症するリスク、又は前立腺がんに罹患するリスクの増加は、被験者について得られるスコアの増加をもたらす。同じことが、逆のシナリオでも適用される。すなわち、被験者が前立腺がんを発症するリスク、又は前立腺がんに罹患するリスクの低下は、被験者について得られるスコアの減少をもたらす。
【0068】
一例では、本明細書に開示される方法は、1種以上のポリアミンを参照する。別の例では、ポリアミンは、スペルミン、スペルミジン、又はプトレシンであるが、これらに限定されない。ポリアミンはまた、本明細書に開示される複数種のポリアミンの組み合わせ(1種以上のポリアミン)であり得る。一例では、ポリアミンは、スペルミン及びスペルミジン、スペルミン及びプトレシン、並びにスペルミジン及びプトレシンの組み合わせであるが、これらに限定されない。別の例では、ポリアミンはスペルミンである。更に別の例では、ポリアミンは、プトレシン及びスペルミンとの組み合わせである。更に別の例では、ポリアミンは、プトレシン、スペルミジン、及びスペルミンの組み合わせである。
【0069】
前立腺特異抗原、スペルミジン、及び/又はプトレシンの増加は、発症のリスクの増加、又は前立腺がんの存在を示すことに留意されたい。更に、前立腺体積及び/又はスペルミンの減少もまた、発症のリスクの増加、又は前立腺がんの存在を示す。
【0070】
一例では、本方法は、本明細書に開示されるポリアミンのうちのいずれか1種と、本明細書に開示される変数とを使用する。したがって、一例では、スペルミジンであるポリアミンと、本明細書に開示される変数である。別の例では、プトレシンであるポリアミンと、本明細書に開示される変数である。別の例では、スペルミンであるポリアミンと、本明細書に開示される変数である。更に別の例では、ポリアミンはスペルミンであり、変数は前立腺体積である。更に別の例では、ポリアミンはスペルミンであり、変数は前立腺体積と前立腺特異抗原との組み合わせである。更なる例では、ポリアミンはスペルミンであり、変数は、前立腺体積、前立腺特異抗原、及び年齢の組み合わせである。一例では、ポリアミンはスペルミンであり、変数は、前立腺体積、前立腺特異抗原、及び直腸診の組み合わせである。更なる例では、ポリアミンはスペルミンであり、変数は、前立腺体積、前立腺特異抗原、年齢、及び直腸診の組み合わせである。更に別の例では、ポリアミンはスペルミンであり、変数は、前立腺特異抗原、年齢、及び直腸診の組み合わせである。
【0071】
一例では、対照と比較した、前立腺体積の減少及び/又は前立腺特異抗原(PSA)の増加は、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示す。同じように、対照と比較した、前立腺体積の増加及び/又は前立腺特異抗原(PSA)の減少は、被験者が前立腺がんを発症するリスクがないか、又は前立腺がんに罹患していないことを示す。
【0072】
一例では、直腸診は、陽性の結果を返す。別の例では、直腸診は、陰性の結果を返す。別の例では、陽性の直腸診結果は、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示す。同じように、陰性の直腸診結果は、被験者が前立腺がんを発症するリスクがないか、又は前立腺がんに罹患していないことを示す。本明細書で定義されるように、直腸診の結果は、それぞれ陰性の検査結果に対応する「0」又は陽性の検査結果に対応する「1」のいずれかとして定義される。
【0073】
本明細書で使用される場合、試料分析の文脈で使用されるとき、「対照」、「対照群」、「陰性対照」、又は「対照」という用語は、疾患を有さない又は健康な被験者から得られた試料の使用を指し、その際、これらの試料は他の試料と同様に処理されるが、例えば、対象とする活性化合物又は活性分子を含まない緩衝剤で対照試料が処理されるという違いがある。1種以上の対象物の濃度の比較(例えば、対象物の絶対濃度又は相対発現レベルを比較する場合)、又は本明細書に開示される1種以上の対象物(例えば、1種以上のタンパク質、オリゴマー、又はオリゴヌクレオチド)の存在若しくは不在の決定は、罹患した被験者から得られた試料において測定された量と、疾患を有さない(又は健康な)被験者から得られた試料において測定された量との比較に基づいて決定される。言い換えれば、対象物の比較は、罹患している被験者において測定された1種以上の対象物の量と、対照群又は対照個体で測定された同じ1種以上の対象物の量との比較に基づく。本開示では、対照試料は、疾患を有さない個体から得られる。すなわち、対照試料が得られる個体は、検査しようとする疾患を有さない。通常、疾患を有さないという用語は、被験者が健康であることを意味する。したがって、一例では、対照は、がんを有さない被験者である。別の例では、対照は、ISUP<2の前立腺がんを有する被験者である。一例では、高グレードの前立腺がんのリスクスコアを計算するとき、対照はISUP<2の前立腺がんを有する。すなわち、この例では、対照には低グレードのがんに罹患している被験者が含まれることを意味する。別の例では、本明細書に開示される(リスク)スコアを計算するとき、対照は、がんを有さない被験者である。本明細書に開示されるこの(リスク)スコアは、前立腺がんの任意のグレードに適用され得ることに更に留意されたい。
【0074】
「試料」という用語には、生物又は以前には生存していた生物(formerly living thing)に由来する任意の量の物質を含むが、これらに限定されない。かかる生物としては、ヒト、マウス、サル、ラット、ウサギ、及び他の動物が含まれるが、これらに限定されない。かかる物質又は試料は、羊水、母乳、気管支洗浄液、脳脊髄液、初乳、間質液、腹水、胸水、唾液、精液、尿、涙、全血、血漿、血清血漿、及び血清の細胞成分及び非細胞成分であるが、これらに限定されない。一例では、方法は、体液試料に対して実施される。別の例では、体液試料は、尿、全血、血漿、血清血漿、及び血清であるが、これらに限定されない。更に別の例では、体液試料は尿である。
【0075】
ISUPグレード≧3の前立腺がんの予測においては、スペルミン、前立腺体積、前立腺特異抗原、年齢、及び直腸診を含むモデルのAUCは、0.85のAUCを達成した(表9、図16)。
【0076】
尿スペルミンが単独で又は他の因子と組み合わせて使用されるとき、異なる閾値にて不要な生検の割合を低減できることが示された。高グレードの前立腺がんについて、90%の感度(言い換えれば、10%の症例が欠落しているか、又は偽であるシナリオ)を用い、5.35のスペルミンカットオフを用いることで、92.4%の陰性的中度(NPV)で生検を22%(132/600)低減することができた。高グレードの前立腺がんについて90%の感度では、スペルミン、前立腺体積、前立腺特異抗原、及び直腸診を含むスペルミン・リスクスコアは、95.4%(208/218)の陰性的中度で生検を36.7%(218/594)低減し(スペルミン・リスクスコアのカットオフ7)、ISUPグレード1の前立腺がんの24.4%(20/82)で(偽)診断を回避することができた。陽性的中度(スペルミン・リスクスコアのカットオフ7)は、24.5%(92/376)であった。4因子のスペルミン・リスクスコアを有する高グレードな前立腺がんを有するリスクは、24.5%(スコア≧7)及び4.6%(スコア<7)であった(カイ二乗検定、p≦0.001)。
【0077】
高グレードの前立腺がんについて95%の感度(4.9のスペルミン・リスクスコア・カットオフ)では、スペルミン・リスクスコアは、96.3%(131/136)のNPVで生検を22.9%(136/594)低減し、12.2%(10/82)のISPU GG1前立腺がんで(偽)診断を回避することができた。
【0078】
ISUP GG≧3の前立腺がんについて90%の感度では、スペルミン、前立腺体積、前立腺特異抗原、年齢、及び直腸診を含むスペルミンモデルは、カットオフ値5にて97.3%(286/294)の陰性的中度で、生検を49.3%(294/596)低減することができた。このスペルミンモデルでISUP GG≧3の前立腺がんのリスクは、13.9%(スコア≧5)及び2.7%であった(スコア<5、カイ二乗検定、p≦0.001)。
【0079】
決定曲線分析(DCA、図12)は、スペルミン・リスクスコアが、前立腺がん及び高グレードの前立腺がんの両方の予測において、正規化したスペルミン、前立腺特異抗原密度、又は前立腺特異抗原のみよりも、最終的(net)に臨床上の利益を有することを示した(図11)。高グレードの前立腺がんの場合、5%を超える任意の閾値確率から臨床上の利益が観察された。高グレードの前立腺がんのスペルミン・リスクスコアを、ブートストラップ法を使用して内部検証したところ、0.81のAUC、0.96の勾配、及び-0.05の切片で良好な識別及び較正が得られた(図11)。
【0080】
本明細書に開示されるデータは、前立腺がんの検出におけるポリアミンの、例えば、限定されないが、尿スペルミンの役割を確認するために得られた。このデータは、上昇した前立腺特異抗原濃度(>4ng/mL)を示しかつ前立腺生検を受けた男性から収集した。本明細書では、正規化した尿スペルミンの量が少ないと、前立腺がん及び高グレードの前立腺がんのリスクが高いことと相関していることが示された。正規化したスペルミンを、四分位数によって異なる参照範囲に分割することにより、尿スペルミン量の減少は、任意のグレードの前立腺がん、ISUP GG≧2がん、及びISUP GG≧3がんのリスク増加が進んでいることと相関していることが示された(表9、図16)。この相関は、前立腺の悪性組織又は高グレードの前立腺がんにおいてスペルミンの存在量が少ないことと対応している。
【0081】
本明細書に示されるように、前立腺がん及び高グレードの前立腺がんは、前立腺特異抗原濃度が4~20ng/mLである中国人男性600名からなる本件のコホートにおいて、それぞれ、30.8%(185/600)及び17.2%(103/600)の男性で診断された。このがん検出率は、白人集団よりも低いことが周知である、同様のPSA範囲を有するアジア人男性において報告されている検出率と同様である。
【0082】
本明細書では、前立腺がんを検出する際に使用するための尿スペルミンの性能が、例えば、前立腺体積、前立腺特異抗原、及び直腸診所見/結果を含む多変量リスクモデルによって改善され得ることを示している。前立腺がん及び高グレードの前立腺がんのためのこの多変量リスクモデルのAUC値(すなわち、スペルミン・リスクスコア)は、前立腺特異抗原密度又はスペルミン単独に基づく検出の場合より高いことが見出されており、これによって、95.4%の陰性的中度で、不必要な生検を最大36.7%(高グレードの前立腺がんについて90%の感度)防止する。決定曲線分析では、前立腺がん及び高グレードの前立腺がんの両方の他のパラメータと比較して、スペルミン・リスクスコアの最終的な臨床上の利益が示された。
【0083】
したがって、一例では、スコア値の増加は、被験者が前立腺がんを発症するリスクがあるか、又は前立腺がんに罹患していることを示す。すなわち、スコア値の減少は、被験者が前立腺がんを発症する又は前立腺がんに罹患しているリスクが低いことを示す。
【0084】
600名の男性のうちの125名のみが、生検前に前立腺MRIを行っていた。したがって、スペルミン・リスクスコアの開発には、PI-RADSスコアが含まれなかった。生検前MRIを行っていたこれらの125名の男性についてROC分析を行ったところ、スペルミン・リスクスコアは他の予測因子よりも良好に機能した。すなわち、HGPCa予測におけるAUCは、スペルミン・リスクスコア、前立腺特異抗原密度、スペルミン、及び前立腺特異抗原で、0.79、0.74、0.64、及び0.52であった。
【0085】
経腸又は経直腸的前立腺生検のいずれにおいても、スペルミン・リスクスコアの効果が、他のパラメータを上回っていることが観察された。
【0086】
前立腺特異抗原が増加した男性における前立腺生検を決断する指標となる市販の血液及び尿の添加剤(blood and urine adjuncts)はいくつもあるが、尿スペルミンは、尿PCA3及びSelectMDxの場合のように標本の収集前の別途の血液採取又は注意深い直腸診を必要としない、簡便な非侵襲的試験である。
【0087】
注意深い直腸診(ローブあたり3回のストローク)後に、尿スペルミンを有する男性の小コホート(本件の試験には含まれていない患者)に対して、尿スペルミンの分析を行った。数値により、注意深い直腸診後の尿スペルミン値は、直腸診をしていない場合の試料よりも約3~4倍高かったことが示された。本明細書に開示される本件のコホートにおいては、直腸診なしの尿スペルミンで、前立腺がんと非前立腺がんとが良好に識別されたため、尿試料の採取前の直腸診は行わなかった。
【0088】
尿スペルミン及びスペルミン・リスクスコアの臨床利用において、尿試料は、尿採取前に直腸診を受けていない被験者から採取する。任意選択的に、一部の尿検査では、尿採取前の前立腺マッサージが必要となる場合がある。
【0089】
被験者が前立腺がんに罹患しているか、又は前立腺がんを発症するリスクがあると判定された場合、本明細書に開示される方法は、被験者に抗がん薬を投与することを更に含む。あるいは、被験者が前立腺がんを有すると判定された後、被験者は、例えば、限定されないがモニタリング、手術、外科的去勢、内科的去勢、及び/又はこれらの組み合わせから選択される規定された治療計画に供される。化学療法及び/又は抗がん薬は、前立腺がんの初期治療法ではないことに留意されたい。
【0090】
多くの他のがんと同様、前立腺がんは継続的な観察を必要とする。したがって、一例では、前立腺がんの治療応答に対する前立腺特異抗原(PSA)モニタリングが現在慣行されている。別の態様では、本明細書に開示される方法は、被験者が前立腺がんに罹患していると判定された後の、更なる治療計画及び/又は被験者のがん状態のモニタリングにおいて使用される。
【0091】
前立腺がんに罹患していると判定された、又は前立腺がんを発症するリスクを有すると判定された被験者の治療には、モニタリング、手術、外科的去勢、内科的去勢、及び/又はこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。場合によっては、前立腺がんに罹患しているとみなされた被験者に対し、限定されないが、ドセタキセル、カバジタキセル、ミトキサントロン、エストラムスチン、これらの組み合わせ、及び/又はこれらの誘導体などの、抗がん薬又は化学療法を投与することができる。
【0092】
また、被験者における前立腺がんの発症リスクが僅かである若しくはないと判定されたとき、又は被験者が前立腺がんに罹患していることが見出されないときは、被験者を更なる治療から除外する方法も、本発明の範囲内で企図される。この方法は特許請求されているが、逆の観点から説明されるものであり、この方法により、被験者は前立腺がんを有さないことが示され、したがって更なる治療から除外される。したがって一例では、被験者が、前立腺がんを発症するリスクがないか、又は罹患するリスクがないと識別された場合、この被験者はこの識別の直後には更なる検査に供されない。
【0093】
本明細書では、前立腺特異抗原が上昇した男性における尿スペルミンの継続検査から得られたデータが示される。尿スペルミンは、スペルミンが十分に検出されなかったときには、より古い検査における蛍光検出器を伴う液体クロマトグラフィーと比べて高感度な三重四重極質量分析計(UPLC-MS/MS)を伴う超高速液体クロマトグラフィーによって検出した。尿スペルミンに臨床パラメータ(前立腺特異抗原、直腸診、及び前立腺体積)を追加するスペルミン・リスクスコア・アプローチを使用することにより、高グレードの前立腺がんの予測はAUC(0.82)と更に改善され、決定曲線分析が改善され、生検を回避し得ることが示された。スペルミン・リスクスコアの内部検証は、良好な較正及び識別を示した。
【0094】
理論に束縛されるものではないが、前立腺体積の追加によるリスクスコアの予測性能の改善は、良性の前立腺肥大の内腔体積には尿中に放出される多量のスペルミンが存在することに関連すると考えられる。前立腺体積の情報がない男性では、年齢、前立腺特異抗原、及び直腸診を含むスペルミンモデルのAUC値は、高グレードの前立腺がんに対して0.72のAUC値を達成することができる。直腸診情報がない男性では、年齢、前立腺特異抗原、及び前立腺体積を含むスペルミンモデルのAUCは、高グレードの前立腺がんに対して0.81のAUC値を達成することができる。
【0095】
本明細書に開示されるように、ほとんどの生検は、有意ながん検出を過小評価し得る、14のコア(IQR10~24)の中央値をガイドとするMRIではなく、体系的に行われた。外部検証されたコホートではないため、スペルミン・リスクスコアの性能をその他の前立腺がんリスクの計算手段とは比較しなかった。
【0096】
したがって、前立腺マッサージなしの尿スペルミン及び多変量スペルミン・リスクスコアは、高グレードの前立腺がんを予測することができ、前立腺特異抗原が上昇している男性における生検の決断の指標になり得ることが示される。
【0097】
本明細書では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定すること、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定することにおける、本明細書に開示される1種以上のポリアミン及び本明細書に開示される変数の使用が開示される。また本明細書では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定すること、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定することにおいて使用するための、本明細書に開示される1種以上のポリアミン及び本明細書に開示される変数が開示される。
【0098】
本明細書に記載の方法に従って使用するためのキットもまた、本発明の範囲内で企図される。一例では、キットは、試薬及び緩衝液、任意選択的な検出システム、及び本開示による方法を実施するために必要な物質を含む。別の例では、被験者における前立腺がんの発症リスクを判定するか、又は被験者が前立腺がんに罹患しているか否かを判定するためのキットで使用するための、本明細書に開示される1種以上のポリアミン及び本明細書に開示される変数が開示される。
【0099】
本願で使用する場合、単数形を表す「a」、「an」及び「the」には、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含まれる。例えば、「遺伝子マーカー」という用語は、混合物及び組み合わせを含む、複数種の遺伝子マーカーを含む。
【0100】
本開示を通して、特定の実施形態は、範囲形式で開示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性及び簡潔さのためであり、開示される範囲の柔軟性を欠く限定的なものと解釈すべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、全ての可能な部分範囲、及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5及び6も具体的に開示するとみなされるべきである。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0101】
本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素、限定、又は制限が存在しない場合であっても適切に実施され得る。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「包含する(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、拡大的に解釈され、限定的なものではない。更に、本明細書で用いられる用語及び表現は、説明的な用語として使用され、限定的なものではなく、かかる用語及び表現又はその一部の使用は、表示及び記載された特徴のいかなる均等物をも除外する意図はなく、特許請求される本発明の範囲内で様々な修正が可能であることが理解される。したがって、本発明は、好ましい実施形態によって具体的に開示されるものであり、本明細書に具体化された形で開示される本発明の任意選択的な特徴、修飾、及び変形は、当業者により再現され得、またかかる修飾及び変形は本発明の範囲内にあると考えられることを理解されたい。
【0102】
本発明は、本明細書において広範囲かつ一般的に記載されている。一般的な開示内に含まれるより狭い種及び準一般的なグループ化の各々もまた、本発明の一部を形成する。これは、個々の群から任意の主題を除外する但し書き又はネガティブ限定を伴う本発明の一般的な説明を含むものであり、除外される材料が本明細書に具体的に列挙されているか否かに関係ない。
【0103】
他の実施形態が、以下の特許請求の範囲及び非限定的な実施例内に存在する。加えて、本発明の特徴又は態様がマーカッシュグループとして記載される場合、当業者は、それによって、本発明がマーカッシュグループの任意の個々のメンバー、又はメンバーからなるサブグループに関して記載されていることを認識するであろう。
【実施例
【0104】
ポリアミン分析のための統計解析
ベースライン特性を、T検定(正規分布したデータ用)、マン・ホイットニーのU検定(非正規分布したデータ用)を使用して比較した。3種類のポリアミン全てについてのROC曲線下面積(AUC)を、それらが疾患及び非疾患をどの程度良好に区別するかを確認するために決定した。
【0105】
ロジスティック回帰(LR)を使用して、全3種類のポリアミンの関数として、並びに年齢、PSA量及びポリアミンによる予測モデルとして、陽性の生検結果についての結果予測を実施した。全ての尿中ポリアミンに対し、正規性及び線形性のために2を底とする対数変換を行い、より良好にロジスティック回帰にフィットさせる。モデルの識別能力をAUCによって評価した。合わせたスコアのカットオフ値は、95%及び90%の感度での閾値を使用して決定し、各モデルの最高点(「closest to topleft」法を使用することによって決定される)を決定した。全ての統計解析は、GraphPad Prism6(米国カリフォルニア州サンディエゴ、GraphPad Software社)、IBM SPSS Statistics for Windows version 25(米国ニューヨ-ク州アーモンク、IBM Corp.)及びRバージョン3.11(オーストリア共和国ウィーン、The R foundation for statistical computing)を使用して実施した。両側p値<0.05を統計的に有意とみなした。
【0106】
ヒトのコホートのための材料及び方法
本明細書に開示される試験は、香港の中国人男性から得られたデータに基づいて実施した。2箇所の異なる病院において、前立腺特異抗原(PSA)が増加している及び/又は直腸診(DRE)が異常を示す男性に対して、事前の前立腺がん(PCa)診断は行わずに前立腺生検を実施した。試験の前に、施設から倫理面での承認を取得した(CREC2015.444)。書面による同意を各患者から取得した。
【0107】
経腸経路又は経直腸経路を介した体系的経直腸超音波ガイド下前立腺生検の前に、30mLの尿をスペルミン分析のために採取した。尿採取前の直腸診(DRE)又は前立腺マッサージは行わなかった。
【0108】
以下に記載される標準手順に従って、採取直後に尿を-20℃で保存した。本出願で生成されたデータは、162名の被験者のコホート及び600名の被験者のコホートに対して実施されたものであることに留意されたい。
【0109】
材料及び化学物質
メタノール(HPLC/Spectroグレード、≧99.9%)は、TEDIA社から入手した。アセトニトリル(HPLCグレード、≧99.9%)は、ACS社から入手した。水は、MilliQ Direct Water Purification System(米国、ミリポア社)を使用して精製した。1,4-ジアミノブタン(Put、99%)、スペルミジン(Spd、≧99.0%)、スペルミン(Spm、≧99.0%)、1,4-ジアミノ(ブタン-d8)二塩酸塩(98原子%D)、スペルミジン-(ブタン-d8)三塩酸塩(98原子%D、95%CP)、スペルミン-(ブタン-d8)四塩酸塩(97原子%D、95%CP)、及びヘプタフルオロ酪酸(HFBA、≧99.0%)を含む全ての標準化合物は、Sigma-Aldrich社(中国、香港)から購入し、更に精製することなく使用した。強陰イオン交換固相抽出(SPE)カートリッジは、Phenomenex社(Strata,100mg/3mL,米国)から入手した。遠心分離は、エッペンドルフ社から入手した冷蔵遠心機(5417R,中国香港)を使用して行った。
【0110】
クレアチニンの測定
尿試料中のクレアチニン濃度は、ラボアッセイクレアチニンアッセイ(日本国、和光社)によって測定した。簡単に説明すると、尿試料及び標準物質を解凍し、除タンパクし、遠心分離した。上清を分離し、アルカリ溶液中でピコリン酸と反応させて、Jaffe反応を通じてタンジェリン縮合物を生成させた。試料中の全クレアチニンの定量は、Clariostar Monochromatorマイクロプレートリーダー(香港、BMG Labtech社)による吸光度の測定によって行った。較正点を超える濃縮尿試料は、試料調製前に水で適切な希釈倍率に希釈した。各試料を、相対標準偏差(RSD)15%未満で少なくとも2回測定した。
【0111】
ポリアミンの測定のための標準の調製
各ポリアミン(Put、Spm、Spd)の原液(5000μg/mL)を、別々に水で調製した。この3種類の原液を混合し、希釈して中間標準(50μg/mL)を得、次いで、それぞれ水中ポリアミン濃度10ng/mL、25ng/mL、50ng/mL、100ng/mL、250ng/mL、500ng/mL、1000ng/mLとなる一連の標準試薬を調製した。内部標準については、各ポリアミン(Put-d8、Spm-d8、Spd-d8)の原液(5000μg/mL)を個別に水で調製した。この3種類の原液を混合し、水で希釈し、内部標準(IS)の標準試薬(1μg/mL)を得た。化学分析で使用される内部標準(IS)とは、化学分析において試料、ブランク及び較正標準に対して一定量で添加される化学物質を指す。次いで、この内部標準をデータ分析に使用して、例えば、試料調製、試料注入、及びイオン化の間の分析物質の損失を補正する。
【0112】
ポリアミンの測定のための試料/標準の前処理
試料の調製手順は、当該技術分野で開発された方法にわずかに修正を加えたものとした。最初に、尿試料/標準を自然解凍し、13000rpm及び室温で5分間遠心分離した。120μLの尿試料/標準の上清及び60μLのIS標準試薬を、420μLの水と混合した。この550μLの十分混合された溶液を、調整済みの、1mLのメタノール及び水でそれぞれ平衡化されたSPEカートリッジに通した。450μLの水をカートリッジに通し、その後、全てのポリアミンを溶出した。次いで、SPE処理したこれらの試料400μLを、100μLの10%ヘプタフルオロ酪酸と混合し、最終混合物を機器分析に供した。較正点を超える濃縮尿試料は、試料調製前に水で適切な希釈倍率に希釈した。
【0113】
ポリアミンの測定のための品質管理用試料
試料分析の各バッチについて、3種類の品質管理(QC)用標準試薬を分析して、較正曲線の精度を検証し、バッチ間の比較性能を担保した。本発明者らの試験群から得た、分析済みの対照尿試料を使用して溶液を調製した。対照尿試料のポリアミン濃度を測定し、次いで均一に混合し、プール尿試料を得た。その後、このプール尿試料を標準溶液と混合することによって、異なるポリアミン濃度範囲(低、中、及び高)を有する3種類の品質管理用標準試薬を調製した。低濃度の品質管理用標準試薬の場合、SPE処理したプール尿試料を、SPE処理した10ng/mL標準と1:7の比で混合した。中濃度の品質管理用標準試薬の場合、SPE処理したプール尿試料を、SPE処理した100ng/mL標準と1:1の比で混合した。高濃度の品質管理用標準試薬の場合、SPE処理したプール尿試料を、SPE処理した1000ng/mL標準と1:1の比で混合した。
【0114】
安定性試験
安定性試験に際し、標準混合物及び品質管理試料は、当該技術分野においてこれまでに示されているように、室温で6時間保存した後(短期安定性)、-20℃及び-80℃で2か月保存した後(長期安定性)、並びに試料調製前の3サイクルの凍結融解の後(凍解安定性)において安定であった。更なる検証のために、標準及び選択された尿試料のいずれにおいても、ポリアミン及びクレアチニンの両方の含有量を分析した。5サイクルの凍結及び解凍後、-20℃で保存したとき、全ての内容物が6ヶ月間依然として安定していたことがわかった。SPE処理した試料の場合、4℃で保存したときに少なくとも2日間、-20℃で保存したときに最大1年間、安定であった。
【0115】
装置の設定及び統計分析
ポリアミンの定量は、2台の四重極質量分析計で構成されたタンデム質量分析計を連結した、超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)によって行った。液体クロマトグラフィー(LC)による分離は、Agilent 1290 Infinity Quaternary LCシステムを使用して実施し、質量スペクトル分析は、Agilent Jet Stream技術のエレクトロスプレーイオン化源を備えたAgilent 6460三重四重極質量分析計を使用して行った。カラムは、Agilent SB-C18ガードカラム(2.1×5mm、1.8μm)で保護されたAgilent EclipsePlus C18 RRHD(2.1×50mm、1.8μm)を使用した。
【0116】
液体クロマトグラフィー溶出プロファイルを、以下のように最適化した:溶離液Aは、0.1%ヘプタフルオロ酪酸/水とし、溶離液Bは、0.1%ヘプタフルオロ酪酸/アセトニトリルとした。溶離液Aを、10分間で95%~60%に、及び1分間で60%~10%に減少させた。その後、勾配を5分間一定に維持した。次いで、勾配を1分間で10%~95%に増加させ、更に8分間一定に維持した。(総流出時間=25分))
オートサンプラー及びカラムの温度を、それぞれ4℃及び35℃に設定した。注入は、溶離液Bで3回、FlushPortモードで5秒間のニードル洗浄によって実施した。各回10μLを注入した。
【0117】
ソース部のパラメータについては、乾燥ガス(窒素)温度を300℃に設定し、流量を5L/分とした。ネブライザー圧を45psiとした。シースガス温度を250℃に設定し、流量は11L/分とした。キャピラリー電圧を3500Vに設定した。質量検出のために、スケジュール設定(scheduled)した多重反応モニタリング(MRM)を実施した。
【0118】
結果は、Agilent MassHunter Workstationソフトウェアを使用して計算した。較正曲線は、いかなる重みづけもせず直線的にフィッティングした。相関係数は、0.995よりも小さくなければならない。精度を確保するために、各較正点及び品質管理標準試薬の許容値(acceptance value)を±30%とした。精密な検証のため、10回の試料注入ごとに、250ng/mLの標準を注入し、再現性が得られたか否か(±15%)を確認した。
【0119】
統計解析の際、受信者操作特性(ROC)曲線及び曲線下面積(AUC)を、Graph Pad Prism6(米国カリフォルニア州サンディエゴ、Graph Pad Software社)を使用して得た。スチューデントのt検定に基づく比較では、0.05未満のp値(両側)を統計的に有意であると見なした。
【0120】
凍結した尿及びスペルミン標準を解凍し、遠心分離し、続いて、内部標準としてスペルミン-(ブチル-d8)テトラヒドロクロリドを添加した。希釈した試料及びスペルミン標準試薬(10ng/mL、25ng/mL、50ng/mL、100ng/mL、250ng/mL、500ng/mL、1000ng/mL)を、固相抽出カートリッジ[Strata(登録商標)SAX(55μm、70Å)、100mg]に通し、不純物を除去した後で、三重四重極質量分析計に連結された超高速液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)により分析を行った。尿試料中のクレアチニン濃度は、クレアチニン酵素試薬(BioSystems社)によって測定した。尿スペルミン値(μmol/g)を尿中クレアチニン(μmol/g)で正規化して、正規化したスペルミン(単位なし)を得た。正規化したスペルミン値はすべてのスペルミン解析で利用した。
【0121】
尿検査に関与する従事者は、臨床結果及び病理結果について盲検とした。
【0122】
データの解釈及び分析は、前立腺特異抗原の濃度が4ng/mL~20ng/mLであり、前立腺がんの事前診断を行わなかった患者からなるコア群に焦点を当てて行った。国際泌尿器科病理学会(ISUP)の異型度分類(GG)2又はそれ以上であるとして定義された前立腺がん及び高グレード前立腺がん(HGPCa)のリスクを、様々な範囲の正規化したスペルミンにより計算した。直腸診では、結果を正常及び異常に分類した。
【0123】
前立腺体積(PV)は、Ellipsoid法(高さ×幅×長さ/2)を使用して経直腸超音波によって推定した。ほとんどの患者は生検前にMRIを受けなかったため、MRIパラメータは分析に含めなかった。
【0124】
様々な臨床変数及び正規化したスペルミン値による前立腺がん(PCa)及び高グレード前立腺がん(HGPCa)の予測を、単変量解析及び多変量解析で評価した。多変量ロジスティック回帰分析から導出された式からスペルミン・リスクスコアを得た。スペルミン及び異なるリスクモデルの性能を、受信者操作特性(ROC)の曲線下面積(AUC)と比較した。
【0125】
意思決定曲線分析(DCA、例えば、図12を参照)を実施して、パラメータを比較した。ブートストラップを用い内部検証を実施した。IBM SPSS Statistics for Windows version 25(米国ニューヨーク州アーモンク、IBM Corp.)及びRバージョン3.1.1(オーストリア共和国ウィーン、The R foundation for statistical computing)を統計解析に使用した。両側p値<0.05を有意とみなした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14
図15
図16