(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】咳を止め、痰を減らし、免疫力を向上させるイナゴマメ多糖類およびその調製方法と使用
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20240426BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240426BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20240426BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240426BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240426BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20240426BHJP
A61P 11/10 20060101ALI20240426BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20240426BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240426BHJP
A61K 36/48 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C08B37/00 Q
A23L5/00 N
A23L29/238
A23L33/105
A23L33/125
A61K31/715
A61P11/10
A61P11/14
A61P37/04
A61K36/48
(21)【出願番号】P 2023058589
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-03-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523118886
【氏名又は名称】ナガヨシ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オウ・コウトウ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ・キンキン
(72)【発明者】
【氏名】有賀 庸介
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・ウエイ
(72)【発明者】
【氏名】カン・ビカ
(72)【発明者】
【氏名】カン・ケンエイ
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-279486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0271896(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103356691(CN,A)
【文献】Heliyon,2019年,Vol. 5, No. 1,e01175, p. 1-19
【文献】International Journal of Molecular Sciences,2016年,Vol. 17, No. 11,p. 1-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
A23L 5/00
A23L 29/00
A23L 33/105
A23L 33/125
A61K 31/715
A61P 11/10
A61P 11/14
A61P 37/04
A61K 36/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトースおよびグルコースの2種類の単糖類からなり、ガラクトースとグルコースとのモル比が(88~92):(0.8~1.2)であり、グリコシド結合(1→4)-Glu、(1→3,4,6)-Glu、(1→3)-Gal、(3→6)-Gal、(2→4,6)-Gal、(2→6)-Gal、(1→)-Galにより結合して組み合わせてなるものであることを特徴とする、イナゴマメ多糖類。
【請求項2】
前記イナゴマメ多糖類において、ガラクトースとグルコースとのモル比が、89.666:1.068であることを特徴とする、請求項1に記載のイナゴマメ多糖類。
【請求項3】
前記イナゴマメ多糖類の分子量が(1~6)×10
6であり、(4.8~5)×10
6であってもよく、さらに4.895×10
6であってもよく;および/または
前記イナゴマメ多糖類の分子量分布の幅(Mw/Mn)が1.5~1.6であり、1.574であってもよいことを特徴とする、請求項1に記載のイナゴマメ多糖類。
【請求項4】
粉砕された種子抜きのイナゴマメの莢を取り、90~95%のエタノールを用いて脱脂を行い、脱脂後の微粉末を乾燥させること、
水を加えて、抽出を行うこと、
抽出液を遠心分離し、上清液を濃縮して、エタノールの質量分率が55~60%となるようにエタノールを加え、遠心分離して沈殿物を収集すること、
得られた沈殿物を水で分散させ、Sevage法によりタンパク質を除去した後、マクロポーラス吸着樹脂D101を用いて吸着を行い、蒸留水で溶出して移動相成分を収集し、
DEAE(商標)-52セルロースカラムクロマトグラフィーを行い、蒸留水で溶出を行い、
Sephadex(登録商標) G-100ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行い、移動相を脱イオン水として溶出液を収集し、さらに
Sephadex(登録商標) G-150ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行い、移動相を脱イオン水として溶出液を収集し、同じ溶出ピークのものを合併して、減圧濃縮を行い、凍結乾燥させ、イナゴマメ多糖類を得ること
を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のイナゴマメ多糖類の調製方法。
【請求項5】
前記イナゴマメの莢を80~300メッシュまで粉砕し、および/または
抽出時の固液比がg/mLで1:(2~5)であり、および/または
抽出温度が40~50℃である
ことを特徴とする、請求項4に記載のイナゴマメ多糖類の調製方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイナゴマメ多糖類の医薬としての使用であって、
咳を止め、痰を減らすための医薬および/または免疫力を向上させるための医薬の調製における前記イナゴマメ多糖類の使
用。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイナゴマメ多糖類を含み、さらに薬学的に許容される担体を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイナゴマメ多糖類を含み、さらに食品主原料および食品副原料を含むことを特徴とする、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬および保健食品の分野に関するものであり、具体的には、咳を止め、痰を減らし、免疫力を向上させるイナゴマメ多糖類およびその調製方法と使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イナゴマメは、地中海沿岸、アメリカのカリフォルニア州およびオーストラリアなどの各地に分布し、主に中国の広西、四川、雲南、広東などの各地に植えられている。イナゴマメは、カロリーが低く、脂肪を含まず、天然の多糖類、複数種のビタミン、タンパク質、微量元素を豊富に含み、現在、イナゴマメ抽出物は主に食品香料、天然食品増粘剤および安定剤の分野で使用されている。イナゴマメは栄養価が非常に高いだけでなく、薬効も極めて高い。イナゴマメの莢から作られたシロップは、風邪、咳嗽および喉の痛みに良好な緩和効果を果たすことができる。イナゴマメの莢の主成分は糖類である。
【0003】
呼吸器疾患は一般的な疾患の1つであり、一般的には、咳嗽、喀痰、さらには喀血などの症状があり、生体の免疫力の低下を引き起こすことが多々ある。現在市販されている鎮咳去痰薬にはさまざまな種類がある。西洋薬による治療は、病気を根本的に治癒することができず、そして、薬剤耐性が生じやすく、副作用も大きい。漢方薬製品は、治療効果が遅く、臭いがきつい。一方、味や香りが良い製品は、治療効果を兼ねることが難しい。したがって、効き目が早く、治癒効果が高く、同時に免疫力を向上できる製品を開発することが非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施例は、気道を改善し、咳を止め、痰を減らすことができ、さらに免疫力を向上させることもできるイナゴマメ多糖類を提供する。本発明の実施例のイナゴマメ多糖類は、適用範囲が広く、治療過程が短く、効き目が早く、毒性および副作用がない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、ガラクトースおよびグルコースの2種類の単糖類からなり、ガラクトースとグルコースとのモル比が(88~92):(0.8~1.2)であり、グリコシド結合(1→4)-Glu、(1→3,4,6)、(1→3)-Gal、(3→6)-Gal、(2→4,6)-Gal、(2→6)-Gal、(1→)-Galにより結合して組み合わせてなるイナゴマメ多糖類を提供する。
【0006】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類において、ガラクトースとグルコースとのモル比は、89.666:1.068である。
【0007】
本明細書において、Gluはグルコースを示し、Galはガラクトースを示す。
【0008】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類の分子量は(1~6)×106であり、(4.8~5)×106であってもよい。
【0009】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類の分子量は、(1~2)×106である。
【0010】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類の分子量は、(2~3)×106である。
【0011】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類の分子量は、(3~4)×106である。
【0012】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類の平均分子量は、(4.8~5)×106である。
【0013】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類の分子量分布の幅(Mw/Mn)は1.5~1.6であり、1.574であってもよい。
【0014】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類は、イナゴマメの莢から分離されたものである。
【0015】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメ多糖類は、少なくとも咳を止め、痰を減らし、免疫力を向上させる作用を有する。
【0016】
本発明の別の態様によれば、本発明に記載のイナゴマメ多糖類の医薬または保健品としての使用を提供する。
【0017】
本発明の別の態様によれば、咳を止め、痰を減らすための医薬の調製における本発明に記載のイナゴマメ多糖類の使用を提供する。
【0018】
本発明の別の態様によれば、免疫力を向上させるための医薬の調製における本発明に記載のイナゴマメ多糖類の使用を提供する。
【0019】
本発明の別の態様によれば、さらに、疾患を治療する有効量の上記イナゴマメ多糖類を提供する。
【0020】
ここで、前記疾患は、咳嗽、喀痰、免疫力低下を含む。
【0021】
本発明の別の態様によれば、本発明に記載のイナゴマメ多糖類を含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明の別の態様によれば、本発明に記載のイナゴマメ多糖類を含み、さらに食品主原料および食品副原料を含む食品を提供する。
【0023】
本発明の一部の実施例において、前記食品は、機能性食品、栄養補助食品を含む。
【0024】
本発明の一部の実施例において、前記食品は、飲料、キャンディー、シロップ、甘味料、香料などのうちの1種または複数種であってもよい。
【0025】
本発明の別の態様によれば、さらに、経口経路または非経口経路により、需要のある被験者または患者に、有効量の上記イナゴマメ多糖類、上記医薬組成物もしくは上記食品を投与することを含む、疾患の治療方法を提供する。ここで、前記疾患は、咳嗽、喀痰、免疫力低下を含む。
【0026】
本発明の別の態様によれば、さらに、イナゴマメ多糖類の調製方法を提供し、当該方法により本発明に記載のイナゴマメ多糖類を調製することができ、その純度は93%以上に達することができる。
【0027】
イナゴマメ多糖類の調製方法であって、粉砕された種子抜きのイナゴマメの莢を取り、90~95%のエタノール(1~5倍の重量)を用いて脱脂を行い、脱脂後の微粉末を乾燥させること、水を加えて、抽出を行うこと、抽出液を遠心分離し、上清液を濃縮して、エタノールの質量分率が55~60%となるようにエタノールを加え、遠心分離して沈殿物を収集すること、および、得られた沈殿物を水で分散させ、Sevage法によりタンパク質を除去した後、マクロポーラス吸着樹脂D101を用いて吸着を行い、蒸留水で溶出して移動相成分を収集し、DEAE-52セルロースカラムクロマトグラフィーを行い、蒸留水で溶出を行い、Sephadex G-100ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行い、移動相を脱イオン水として溶出液を収集し、さらにSephadex G-150ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行い、移動相を脱イオン水として溶出液を収集し、同じ溶出ピークのものを合併して、減圧濃縮を行い、凍結乾燥させ、イナゴマメ多糖類を得ることを含む、イナゴマメ多糖類の調製方法。
【0028】
本発明の一部の実施例において、イナゴマメの莢を80~300メッシュの微粉末に粉砕して莢の細胞構造を壊し、これは細胞内物質の溶出に有利でありながら、莢粉末と抽出液との接触面積を大きくし、抽出率を高める。本発明の一部の実施例において、超微粉砕技術により、粉砕を行うことができる。
【0029】
本発明の一部の実施例において、脱脂に使用されるエタノールの重量は、種子抜きのイナゴマメの莢の重量の2~5倍である。
【0030】
本発明の一部の実施例において、抽出温度は40~50℃であり、例えば、45℃である。当該温度範囲内にあれば、イナゴマメ多糖類を十分に溶出させるのに有利である。
【0031】
本発明の一部の実施例において、抽出を2~4回行い、1回あたりの抽出時間は1~5時間である。
【0032】
本発明の一部の実施例において、超遠心分離により、ろ液(抽出液)を5000rpmで10分間遠心分離し、上清液を合併する。
【0033】
本発明の一部の実施例において、上清液を60℃、100Paの条件下において、粘稠な濃縮液になるまで減圧濃縮する。
【0034】
本発明の一部の実施例において、前記イナゴマメの莢は、マメ科イナゴマメ属の植物であるイナゴマメ(ラテン名:Ceratonia siliqua Linn.)の乾燥された莢である。
【0035】
実験において、マウスを濃アンモニア水が入った大型ビーカーに入れ、マウスの咳を誘発し、異なる濃度のイナゴマメ多糖類Hocacyの強制経口投与群、陽性群および空白対照群の咳の回数を測定して、さらに、マウスの気管におけるフェノールレッドの分泌量を分析したところ、本発明の実施例のイナゴマメ多糖類Hocacyが良好な鎮咳去痰効果を有することが示された。赤色蛍光を発する遺伝子組み換えゼブラフィッシュのT細胞の減少に対する改善効果を考察する実験では、本発明の実施例のイナゴマメ多糖類Hocacyが免疫力を高める効果を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施例のイナゴマメ多糖類Hocacyの分子量のクロマトグラムである。
【
図2】本発明の実施例のイナゴマメ多糖類Hocacyの赤外吸収スペクトルである。
【
図3】本発明の実施例のイナゴマメ多糖類HocacyのGC-MSによるトータルイオンクロマトグラムである。
【
図4】イナゴマメ多糖類HocacyのHPLCクロマトグラムである。
【
図5】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図6】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図7】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図8】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのグルコースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図9】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図10】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのグルコースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図11】イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのグルコースのフラグメントイオンの同定スペクトルである。
【
図12】本発明の実施例のイナゴマメ多糖類Hocacyのメチル化後の赤外吸収スペクトルである。
【
図13】イナゴマメ多糖類Hocacyの、マウスの咳の潜伏期に対する影響を示す模式図である。
【
図14】イナゴマメ多糖類Hocacyの、マウスの2分以内の咳の回数に対する影響を示す模式図である。
【
図15】イナゴマメ多糖類Hocacyの、マウスのフェノールレッド分泌量に対する影響を示す模式図である。
【
図16】イナゴマメ多糖類Hocacyの、マウスの毎日の体重変化に対する影響を示す模式図である。
【
図17】イナゴマメ多糖類Hocacyおよびモデル対照群のゼブラフィッシュのT細胞の蛍光強度の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施例を組み合わせて発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらに制限されない。
【0038】
以下に記載のイナゴマメの莢は、マメ科イナゴマメ属の植物であるイナゴマメ(ラテン名:Ceratonia siliqua Linn.)の乾燥された莢であり、SHENZHEN AIMIN MEDICINE TECHNOLOGY CO.,LTD.が提供したものである。
【0039】
以下において使用されるマクロポーラス吸着樹脂D101、Sephadex G-150、Sephadex G-100、およびDEAE-52セルロースは、いずれも市販で購入したものである。
【0040】
実施例1 イナゴマメ多糖類Hocacyの抽出分離
種子抜きのイナゴマメの莢8kgを取って粉砕し、重量が3倍である95%のエタノールを用いて脱脂を行い、乾燥させた。固液比1:2.3(g/mL)で脱イオン水を加え、4回抽出し、1回当たり2時間抽出して、抽出温度を45℃とし、抽出液を合併した。抽出液を遠心分離(5000rpm、10min)し、上清液を60℃、100Paの条件下において粘稠になるまで減圧濃縮し、エタノールの質量分率が60%になるように、得られた濃縮液にエタノールをゆっくり加え、遠心分離し、沈殿物を収集して、粗多糖類を得た。粗多糖類を20倍の重量の精製水で分散させ、Sevage法によりタンパク質を除去し、これを6回繰り返した。タンパク質が除去された多糖類を10倍の重量の水で分散させ、マクロポーラス吸着樹脂D101を用いて吸着を行い、蒸留水により2個のカラムの体積で溶出を行い、移動相成分を収集し、DEAE-52セルロースカラムクロマトグラフィーを行い、カラム体積の2倍の蒸留水を用いて溶出を行い、Sephadex G-100ゲル濾過カラムクロマトグラフィーおよびSephadex G-150ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを順に行い、移動相を脱イオン水として溶出液を収集し、同じ溶出ピークのものを合併して、減圧濃縮を行い、凍結乾燥させ、イナゴマメ多糖類Hocacy(多糖類の含有量:93%)を得た。
【0041】
本実施例のイナゴマメ多糖類Hocacyの含有量の測定方法は以下のとおりである。
【0042】
イナゴマメ多糖類Hocacy 9.6mgを精確に計量し、純水で溶解して、濃度0.25mg/mLの溶液を調製した。被験溶液1.0mLについて、フェノール硫酸法によりグルコースの標準曲線を引き、回帰式により被検溶液における多糖類の質量濃度を測定した。
【0043】
グルコースの標準曲線は、y=1.3421x+0.2255(R2=0.9992)である。
【0044】
ここで、xは多糖類の濃度(mg/mL)であり、yは吸光度である。
【0045】
多糖類の含有量(%)=(質量濃度(μg/mL)×希釈倍数×体積(mL))/(多糖類の乾燥重量(g)×1000)
【0046】
実験例1 イナゴマメ多糖類Hocacy(実施例1で調製したもの)の構造解析
(1)イナゴマメ多糖類Hocacyの分子量測定
イナゴマメ多糖類Hocacy 10.0mgを精確に計量し、濃度2mg/mLの溶液を調製した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、示差屈折率検出器および光散乱検出器で検出を行い、移動相を0.1mol/LのNaNO3溶液とし、流速を0.7mL/minとした。
【0047】
イナゴマメ多糖類Hocacyの分子量の測定結果は
図1が示すとおりである(GPC)。分析・計算したところ、平均分子量は4.895×10
6であり、分子量分布の幅(Mw/Mn)は1.574であって、分布が狭く、イナゴマメ多糖類Hocacyの純度が高いことが証明された。
図1において、横軸は保持時間、縦軸は屈折率を示し、GPC chromatographyはGPCクロマトグラフィー、Refractive Index(mV)は屈折率、Right Angle Light Scattering(mV)は直角光散乱、Low Angle Light Scattering(mV)は低角度光散乱を示す。
【0048】
(2)イナゴマメ多糖類Hocacyの赤外吸収スペクトル(IR)分析
イナゴマメ多糖類Hocacyサンプル5mgを計量し、乾燥KBrを適量加えて研磨し、均一かつ透明な錠剤を作製して、4000cm-1~400cm-1の範囲において、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて分析を行った。
【0049】
イナゴマメ多糖類Hocacyの赤外吸収スペクトルは
図2が示すとおりである。
図2によれば、3385cm
-1に-OHの伸縮振動による吸収ピーク、2927cm
-1に-CH
2の伸縮振動による吸収ピークが示され、1020cm
-1に強い吸収ピークがあり、C-Oの伸縮振動による吸収ピークが示された。
図2の縦軸は透過率(%)である。
【0050】
(3)イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成の分析
イナゴマメ多糖類Hocacyサンプル5.5mgを計量し、2mol/Lのトリフルオロ酢酸(TFA)を1mL加え、窒素ガスを充填して密閉し、110℃で120分間加熱して、加水分解させた。分解されたサンプルを溶解した後、NaBH4 90mgを加えて、還元反応を4時間行った。還元されたサンプルをオーブンに入れて乾燥させ、無水酢酸5mLを加え、110℃でアセチル化を行った。最終のアセチル化単糖類を酢酸エチルで溶解し、メンブレンを通過させ、GC-MSによって構造を同定した。
【0051】
イナゴマメ多糖類Hocacyを加水分解し、アセチル化した後、GC-MSによって同定し、トータルイオンクロマトグラムは
図3が示すとおりである。
図3において、横軸のTimeはピーク検出時間、縦軸のRelative abundanceは相対強度を示す。
【0052】
HPLC法、スペクトルライブラリ分析によれば、イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成(モル比)は、ガラクトース:グルコース=89.666:1.068であり、イナゴマメ多糖類Hocacy中のフルクトースの存在は、HPLC-ELSD法では検出されていない。HPLCクロマトグラムは
図4が示すとおりである。
図4の横軸は時間、縦軸のAbsorbance(mAU)は吸収度、solventは溶剤ピーク、PMPは誘導体化試薬(1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン)、Galはガラクトース、Gluはグルコースを示す。
【0053】
スペクトルライブラリで分析したところ、以下の結論を得た。
【0054】
イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成の分析結果は、
図5~
図11が示すとおりである。
【0055】
図5はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルであり、ここで、t=17.03である。
図6はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルであり、ここで、t=18.78である。
図7はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルであり、ここで、t=20.88である。
図8はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのグルコースのフラグメントイオンの同定スペクトルであり、ここで、t=30.21である。
図9はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのガラクトースのフラグメントイオンの同定スペクトルであり、ここで、t=30.51である。
図10はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのグルコースのフラグメントイオンの同定スペクトルであり、ここで、t=38.83である。
図11はイナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類組成としてのグルコースのフラグメントイオン(2-methyl-glucose(2-メチルグルコース))の同定スペクトルであり、ここで、t=61.04である。
【0056】
図5において、(mainlib)1,5-Anhydro-3-O-acetyl-2,4,6-tri-O-methyl-D-Galactitolは、(メインライブラリ)1,5-アンヒドロ-3-O-アセチル-2,4,6-トリ-O-メチル-D-ガラクトースを示す。
図6において、(mainlib)D-Galactitol,3-6-anhydro-1,2,4,5-tetra-O-methyl-は、(メインライブラリ)3-6-アンヒドロ-1,2,4,5-テトラ-O-メチル-D-ガラクトースを示す。
図7において、(mainlib)Galactitol,1,3,5-tri-O-methyl-,triacetateは、(メインライブラリ)1,3,5-トリ-O-メチルガラクトース,トリアセテートを示す。
図8において、(mainlib)D-Glucose,2,3,4,6-tetra-O-methyl-は、(メインライブラリ)2,3,4,6-テトラ-O-メチル-D-グルコースを示す。
図9において、(mainlib)D-Galactitol,1,3,4,5-tetra-O-methyl-,diacetateは、(メインライブラリ)1,3,4,5-テトラ-O-メチル-D-ガラクトース,ジアセテートを示す。
図10において、(mainlib)5-O-Acetyl-2,3,4,6-tetra-O-methyl-galactonitrileは、(メインライブラリ)2,3,4,6-テトラ-O-メチル-ガラクトニトリルを示す。
図11において、(mainlib)2-methyl-D-glucoseは、(メインライブラリ)2-メチル-D-グルコースを示す。
【0057】
(4)イナゴマメ多糖類Hocacyの単糖類結合位置の測定
イナゴマメ多糖類Hocacyサンプル20mgを計量し、ジメチルスルホキシド(DMSO)6mLに溶解して、多糖類サンプルが完全に溶解するまで、40℃で15時間磁気攪拌した。イナゴマメ多糖類Hocacyに対してメチル化、加水分解およびアセチル化処理を行った後、GC-MSによりトータルイオンクロマトグラムを得、それは
図3が示すとおりである。
図3において、横軸のTimeはピーク検出時間、縦軸のRelative abundanceは相対強度を示す。イナゴマメ多糖類Hocacyのメチル化後の赤外吸収スペクトルは
図12が示すとおりである。
【0058】
マススペクトルのフラグメントイオンを分析したところ、イナゴマメ多糖類Hocacyがグリコシド結合として、(1→4)-Glu、(1→3,4,6)、(1→3)-Gal、(3→6)-Gal、(2→4,6)-Gal、(2→6)-Gal、(1→)-Galを有することが明らかになり、分析結果は表1が示すとおりである。ここで、Gluはグルコース、Galはガラクトースを示す。
【0059】
【0060】
実験例2 イナゴマメ多糖類Hocacy(実施例1で調製したもの)の、アンモニア水によって咳をするように誘発・刺激されたマウスの気道機能に対する影響に関する実験
マウスを濃アンモニア水が入った大型ビーカーに入れ、マウスの咳を誘発した。
【0061】
1、マウスの咳の回数に対する薬物投与の影響
実験を5群に分け、各群を以下のとおりにした。即ち、第1群を生理食塩水を投与する空白群とし;第2群をベンプロペリンリン酸塩(Tonghua Changcheng Pharmaceutical Co.,Ltd.、承認番号:H22020149)を投与する陽性群(60mg/kg)とし;第3~5群を、イナゴマメ多糖類Hocacyを低用量(100mg/kg)、中用量(200mg/kg)および高用量(400mg/kg)で投与する投与群とし;14日間強制経口投与した。最後の強制経口投与が完了した1時間後に、1000mLの大型ビーカーを逆さに実験台に置き、噴霧器で25%の濃アンモニア水を10秒間噴霧し続けた後、マウスを大型ビーカーに入れ、時間の計測を始め、腹筋の収縮、口を大きくした呼吸、および咳の音を指標とし、マウスがビーカーにおいて初めて咳をした時までの時間(潜伏期)および2分以内の咳の回数を記録し、その結果は表2が示すとおりである。結果によって、アンモニア水で刺激し、咳を誘発した後、各群のマウスの咳の度合いが異なり、高・中・低用量のイナゴマメ多糖類Hocacyがいずれもアンモニア水によるマウスの咳の回数を顕著に低減し、潜伏期を延長でき、空白群に比べて、顕著もしくは非常に顕著な効果を示すこと(****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.05)が示され、イナゴマメ多糖類Hocacyが、アンモニア水によるマウスの咳に対して、ある程度の咳止めの作用を有し、用量依存性を呈することが示されている。高用量群(400mg/kg)の咳止め効果は最も顕著であり、高・中用量群の初回の咳までの時間はいずれも陽性群より顕著に延長されている(p<0.01、p<0.05)。
【0062】
高用量群の2分間の咳の回数は、陽性群と著しく異なっている(p<0.01)。よって、イナゴマメ多糖類Hocacyは、強い咳止め効果を有する。イナゴマメ多糖類Hocacyの、マウスの咳の潜伏期に対する影響を表す模式図は
図13が示すとおりであり、2分以内の咳の回数を表す模式図は
図14が示すとおりである。
【0063】
【0064】
2、マウスの喀痰に対する薬物投与の影響
各群のマウスに引き続き2日間投与を行い、16日目に、最後の投与の30分後に、0.5mL/匹で5%のフェノールレッド生理食塩水を腹腔内注射し、注射の30分後に頸椎脱臼法により安楽死させた。甲状軟骨から気管支にかけての気管を切り取り、マウス気管内のフェノールレッドが完全に放出されるように、生理食塩水3mLと1moL/Lの水酸化ナトリウム溶液0.1mLで10分間超音波洗浄した。溶液の吸光度を546nmで測定し、標準曲線の回帰式に従ってフェノールレッドの含有量を計算し、結果は表3が示すとおりである。結果は、イナゴマメ多糖類Hocacyがいずれもマウスの気管のフェノールレッド分泌量を顕著に向上させることができ、生理食塩水に比べていずれも有意差があること(***p<0.001)を示し、イナゴマメ多糖類Hocacyがある程度の痰を減らす作用を有することを示している。高用量の場合、陽性群に比べて有意差があり(p<0.005)、用量依存性を呈する。イナゴマメ多糖類Hocacyのマウスのフェノールレッド分泌量に対する影響を示す模式図は
図15が示すとおりである。
【0065】
【0066】
また、マウスの毎日の体重変化を追跡したところ、イナゴマメ多糖類Hocacy(高、中、低用量)を投与したマウスがいずれも陽性群(塩化アンモニウム、ベンプロペリンリン酸塩)よりも体重減少が少なく、空白群に次いで、体重が着実に増加する傾向があり、これに対して、2つの陽性群のマウスの体重がほとんど変化せず、多糖類群と比べて差異が顕著であり、体重が軽いことを見出し、イナゴマメの莢の多糖類が毒性や副作用を有さず、良好な適性を有することが証明された。体重の変化は、
図16が示すとおりである。
【0067】
上述のように、本研究により、イナゴマメ多糖類Hocacyが顕著な鎮咳去痰作用を有し、顕著な毒性や副作用がないことが証明され、本研究は、イナゴマメの莢の多糖類の新薬開発に一定の基礎を築いている。
【0068】
実験例3 イナゴマメ多糖類Hocacy(実施例1で調製したもの)のゼブラフィッシュのT細胞の減少に対する改善効果
T細胞が赤色蛍光を発するように遺伝子組み換えを行ったゼブラフィッシュは、自然交配により繁殖したものである。受精後3日齢(3dpf)のゼブラフィッシュをすべて、28℃の魚養殖水(水質:1L当たりの逆浸透水に、200mgの速溶性海塩を加えたものであり、伝導率が450~550μS/cmであり、pHが6.5~8.5であり、硬度が50~100mg/L CaCO3である)で飼育し、ゼブラフィッシュは北京環特智魚優検生物科技有限公司の養魚センターが繁殖し、提供したものである。
【0069】
3dpfのT細胞が赤色蛍光を発するように遺伝子組み換えを行ったゼブラフィッシュを6ウェルプレートに無作為に選択し、各ウェルで30匹のゼブラフィッシュを処理した(実験群)。水に溶解して投与する場合、標準希釈水で20.0mg/mLのHocacyを調製し(濃度を表4に示す)、陽性対照を濃度15.0μg/mLのBailing Capsule(Hangzhou Zhongmei Huadong Pharmaceutical Co.,Ltd.、承認番号:2111064)とし、正常対照群とモデル対照群を同時に設置し、各ウェルの容量を3mLとした。ゼブラフィッシュ免疫不全モデルを構築するために、ビノレルビン酒石酸塩注射液を正常対照群を除いた各実験群に静脈内注射した。28℃で5dpfまで処理し、各実験群から10匹のゼブラフィッシュを無作為に選択し、それらを蛍光顕微鏡下に置いて写真を撮り、NIS-Elements D 3.20高級画像処理ソフトウェアでデータを分析および収集して、ゼブラフィッシュのT細胞の蛍光強度を分析し、当該指標の統計分析の結果により、T細胞の減少に対するHocacyによる改善効果を評価した。統計処理の結果をmean±SEで表す。SPSS 26.0ソフトウエアで統計分析を行い、p<0.05は統計学的に有意な差があることを意味する。T細胞の減少に対するHocacyによる改善効果の実験結果は表5が示すとおりであり、Hocacy処理後のゼブラフィッシュのT細胞の蛍光強度とモデル対照群の蛍光強度の比較は
図17が示すとおりであり、結果はT細胞の減少に対するHocacyによる改善効果が良好であり、顕著な用量依存性を呈していないことを表している。従って、イナゴマメ多糖類Hocacyは、免疫力を向上させる効果を有する。
【0070】
【0071】
【0072】
なお、上記において、一般的な説明及び具体な実施形態で本発明を詳しく説明したが、本発明に基づき、いくつかの補正や改善を行い得ることは当業者にとって自明である。よって、本発明の趣旨から逸脱しない範疇で行われるこれらの補正や改善は、いずれも本発明の保護しようとする範囲に属する。
【要約】
【課題】本発明は咳を止め、痰を減らし、免疫力を向上させるイナゴマメ多糖類およびその調製方法と使用に関するものである。
【解決手段】イナゴマメ多糖類はガラクトースおよびグルコースの2種類の単糖類からなり、ガラクトースとグルコースとのモル比は(88~92):(0.8~1.2)であり、イナゴマメ多糖類は、グリコシド結合(1→4)-Glu、(1→3,4,6)、(1→3)-Gal、(3→6)-Gal、(2→4,6)-Gal、(2→6)-Gal、(1→)-Galにより結合して組み合わせてなるものである。イナゴマメ多糖類は、気道を改善し、咳を止め、痰を減らすことができ、免疫力を向上させることもできる。
【選択図】なし