(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】改質リサイクルカーボンブラック及びゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
C09C1/48
(21)【出願番号】P 2023067333
(22)【出願日】2023-04-17
【審査請求日】2023-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 研吾
(72)【発明者】
【氏名】桐山 大志
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113667328(CN,A)
【文献】特公昭37-017807(JP,B1)
【文献】特表2012-521443(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114381290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C08J 11/00-28
C10B 53/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N
2SAが50m
2/g以上250m
2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
【請求項2】
灰分含有量が3.0%以上50.0%以下であることを特徴とする請求項1記載の改質リサイクルカーボンブラック。
【請求項3】
800℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程を行い得られたものであり、
N
2SAが50m
2/g以上250m
2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
【請求項4】
800℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程と、炭化水素ガスを接触させる工程と、を行い得られたものであり、
N
2SAが50m
2/g以上250m
2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
【請求項5】
前記ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックが、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が112以上200以下であるカーボンブラックであることを特徴とする請求項3又は4記載の改質リサイクルカーボンブラック。
【請求項6】
ゴム成分と、
該ゴム成分100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下の請求項1記載の改質リサイクルカーボンブラックと、
を含有することを特徴とするゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面状態が改質されたリサイクルカーボンブラック、その製造方法、及びそれが用いられているゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境への負荷低減のため、カーボンニュートラルやサステナブルといった取り組みが盛んになされている。そして、カーボンブラック業界においても、サステナブル活動の一環として、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解して得られるリサイクルカーボンブラックの利用が検討されている。
【0003】
廃タイヤの熱分解によるリサイクルカーボンブラックの製造方法としては、例えば、特許文献1には、窒素ガスを循環させ、約500℃で廃タイヤを熱分解する内容が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5813985号公報
【文献】WO2013/095145A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解することにより得られるリサイクルカーボンブラックの表面には、ゴム炭化物を主成分とするゴム残分が付着しており、このゴム残分が、ゴム組成物に混合したときに、リサイクルカーボンブラックのゴム成分との吸着を阻害する。
【0006】
そのため、リサイクルカーボンブラックには、ゴム成分との結合が弱いために、ゴム製品の補強性が低いという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、ゴム成分との結合が強く、ゴム製品の補強性が高いリサイクルカーボンブラックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、
リサイクルカーボンブラックに、加熱下で酸化性ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分を酸化して取り除くことで、リサイクルカーボンブラックの表面を露出させることができ、そのことにより、ゴム成分との結合を強くできるので、ゴム製品の補強性を高くすることができることを見出した。
また、本発明者らは、以下のことを見出しした。すなわち、
リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム残分を酸化分解して除去したときに、リサイクルカーボンブラック自体の酸化が進み過ぎると、ゴム成分との結合は高くなるものの、比表面積が高くなり過ぎて、リサイクルカーボンブラックの凝集力が大きくなり過ぎるため、ゴム中の分散が悪くなり、ゴム補強性が高くならない。しかし酸化性ガスと接触することで比表面積が大きくなったリサイクルカーボンブラックに、加熱下で炭化水素に接触させて、炭化物を生成させ、その炭化物で、リサイクルカーボンブラックの表面に発生した細孔を埋めることにより、比表面積を調節し、凝集力を小さくして、ゴム製品の補強性を高くすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)N2SAが50m2/g以上250m2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
(2)灰分含有量が3.0以上50.0%以下であることを特徴とする(1)の改質リサイクルカーボンブラック。
(3)800℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程を行い得られたものであり、
N2SAが50m2/g以上250m2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
(4)800℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程と、炭化水素ガスを接触させる工程と、を行い得られたものであり、
N2SAが50m2/g以上250m2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
(5)前記ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックが、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が112以上200以下であるカーボンブラックであることを特徴とする(3)又は(4)の改質リサイクルカーボンブラック。
(6)ゴム成分と、
該ゴム成分100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下の(1)の改質リサイクルカーボンブラックと、
を含有することを特徴とするゴム組成物。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴム成分との結合が強く、ゴム製品の補強性が高いリサイクルカーボンブラックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の改質リサイクルカーボンブラックにおける、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度の算出方法を示す説明図である。
【
図2】本発明の改質リサイクルカーボンブラックにおいて、ラマンスペクトルの測定方法を説明するための図である。
【
図3】改質前のリサイクルカーボンブラックの形態例のラマンスペクトルである。
【
図5】実施例、比較例、参考例及びrCB1の動的貯蔵弾性率(E’)と引張応力(M300)関係を示す図である。
【
図6A】未使用カーボンブラック(SEAST6)の電子顕微鏡写真である。尚、白抜き部分はスケールを示す。
【
図6B】改質前のリサイクルカーボンブラック(改質前rCB rCB1)の電子顕微鏡写真である。尚、白抜き部分はスケールを示す。
【
図6C】改質リサイクルカーボンブラック(改質後rCB 実施例7)の電子顕微鏡写真である。尚、白抜き部分はスケールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の本発明の詳細な説明は実施形態の例示のひとつであり、本発明は本実施形態に何ら限定して解釈されるものではない。
【0013】
本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、N2SAが50m2/g以上250m2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、
を特徴とする。
【0014】
本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解して得られるリサイクルカーボンブラックの表面が改質されたものである。より具体的には、本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解して得られるリサイクルカーボンブラックの表面に付着していたゴム炭化物を主成分とするゴム残分の全部又は一部が除去されたものである。
【0015】
表面にゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が112以上である。
【0016】
そのような表面にゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに対して、本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分が除去されているので、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピーク(Dバンド)のピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピーク(Gバンド)のピーク強度(以下、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度とも記載する。)が84以上111以下である。リサイクルカーボンブラックのDバンド強度を100としたときのGバンド強度が、上記範囲にあることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム残分が無いか又は非常に少なく、リサイクルカーボンブラックのゴム成分との結合が高くなるため、ゴム製品の補強性が高くなる。Dバンド強度を100としたときのGバンド強度は、リサイクルカーボンブラック表面のゴムとの適度な結合力を確保する観点から、好ましくは85以上110以下であり、より強固な結合力を確保する観点から、より好ましくは86以上109以下である。一方、リサイクルカーボンブラックのDバンド強度を100としたときのGバンド強度が、上記範囲を超えていると、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム残分が多く、リサイクルカーボンブラックのゴム成分との結合が低くなり、また、上記範囲未満だと、カーボンブラック表面のグラファイト構造の欠陥が多く、表面活性が高すぎる状態となり、ゴム中でのカーボンブラック同士の凝集が促進され、ゴムの補強性が低下する。
【0017】
図1は、本発明の改質リサイクルカーボンブラックにおける、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度の算出方法を示す図である。
図1に示すように、本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピーク(Dバンド)と、1580±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピーク(Gバンド)が検出される。
【0018】
そして、Dバンドのピーク強度の値とGバンドのピーク強度の値から、Dバンドのピーク強度を100としたときのGバンドのピーク強度を計算する。本発明者等の検討によれば、リサイクルカーボンブラックのゴム炭化物の付着量が多いほど、Gバンドの強度が大きくなるので、Dバンドのピーク強度と比較したときのGバンドのピーク強度の大きさによって、リサイクルカーボンブラックからのゴム炭化物の除去状態を把握できることがわかった。
【0019】
本発明において、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度は、以下の(1)の測定条件で測定した後、(2)のデータ処理を施して得られるラマンスペクトルから算出される値を意味する。
(1)レーザーラマン分光装置として株式会社堀場製作所製 HR-800を用い、測定対象となるカーボンブラック試料を数粒スライドグラス上に載置し、スパチュラで数回こすり表面を平らにした状態のものを、以下の測定条件で測定する。
YAGレーザー(励起波長):532nm
刻線数 :600gr/mm
フィルター :D0.6
対物レンズ倍率 :100倍
露光時間 :150秒
積算回数 :2回
このとき得られるスペクトル例を
図2に示す。
(2)得られたスペクトルの測定波長(Raman Shift)2100cm
-1における信号強度を0とし、スペクトルを構成するデータ点のうち、隣接する39点毎に平均値を求め、次いでスムージング処理して上記各平均値を結ぶスペクトル曲線を得る。次いで、各サンプル毎の比較を容易にするために、測定波長1350±20cm
-1の範囲に観察されるピークトップ強度を100とする。
このとき得られるラマンススペクトル例が、
図1に例示するようなラマンスペクトルである。
【0020】
図1は、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの形態例のラマンスペクトルであり、Dバンドのピーク強度を100としたとき、Gバンドのピーク強度は、95であり、84以上111以下の範囲にある。一方、
図3は、改質する前のリサイクルカーボンブラックの形態例のラマンスペクトルであり、Dバンドのピーク強度を100としたとき、Gバンドのピーク強度は、113であり、84以上111以下の範囲を超えている。これらは、
図3に示す改質する前のリサイクルカーボンブラックでは、表面にゴム炭化物が付着しており、
図1に示す改質リサイクルカーボンブラックでは、それが改質されることにより、表面に付着していたゴム炭化物が除去されていることがわかる。
【0021】
本発明の改質リサイクルカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、50m2/g以上250m2/g以下である。リサイクルカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが、上記範囲にあることにより、リサイクルカーボンブラックの凝集力が低く抑えられるので、ゴム製品の補強性が高くなる。リサイクルカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、ゴム組成物への分散性の観点からは、好ましくは55m2/g以上245m2/g以下であり、ゴム組成物の補強性の観点から、より好ましくは60m2/g以上240m2/g以下である。一方、リサイクルカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが、上記範囲未満だと、ゴムとリサイクルカーボンブラックの結合点が少なく補強性が弱くなり、また、上記範囲を超えると、リサイクルカーボンブラックの凝集力が高くなり過ぎるので、ゴム製品の補強性が低くなる。
【0022】
なお、本発明において、窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217-2 2017「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第2部、比表面積の求め方」に規定される方法に準拠して、窒素吸着量により測定される値を意味する。
【0023】
本発明の改質リサイクルカーボンブラックのDBP(Dibutylphthalate)吸収量は、ゴム組成物への分散性の点で、60cm3/100g以上200cm3/100g以下であるものが好ましく、70cm3/100g以上195cm3/100g以下であるものがより好ましく、80cm3/100g以上190cm3/100g以下であるものがさらに好ましい。一方、DBP吸収量が上記範囲未満であると、ゴム組成物に配合した際にカーボンブラックの分散性が悪化して得られるゴムの補強性が低下し易くなり、また、上記範囲を超えるとゴム組成物に配合した際に得られるゴムの加工性が低下する場合がある。
【0024】
なお、本発明において、DBP吸収量は、JISK6217-4 2017「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部、DBP吸収量の求め方」に規定された方法により測定される値を意味する。
【0025】
本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解して得られるリサイクルカーボンブラックを改質して得られたものなので、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの灰分含有量は、3.0%以上50.0%以下である。そして、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの灰分含有量は、好ましくは4.0%以上45.0%以下、より好ましくは5.0%以上40.0%以下である。
【0026】
なお、本発明において、灰分含有量は、JISK6218-2 2005「ゴム用カーボンブラック-付随的特性-第2部、灰分の求め方」に規定された方法により測定される値を意味する。
【0027】
本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法は、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程(以下、A1工程とも記載する。)を有することを特徴とする。
【0028】
A1工程は、所定の温度に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残部を酸化して分解し、除去する工程である。
【0029】
A1工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックは、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解することにより得られたカーボンブラックであり、表面にゴム炭化物を主成分とするゴム残分が付着しているカーボンブラックである。酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックとしては、例えば、Enrestec社製商品名PB365、Bolder Industries社製商品名BolderBlack、Delta Energy社製商品名DE-Black、ECOLOMONDO社製商品名MondoBlack等が挙げられる。このようなリサイクルカーボンブラックは如何なる製造方法で製造されたものでもよく、特に制限されないが、例えば、特許文献2に記載されている方法が挙げられる。
【0030】
A1工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度は、112以上200以下、好ましくは112以上190以下であるカーボンブラックである。
【0031】
A1工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックの灰分含有量は、好ましくは4.0%以上45.0%以下、より好ましくは5.0%以上40.0%以下である。
【0032】
A1工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックのN2SAは、10m2/g以上200m2/g以下、好ましくは20m2/g以上190m2/g以下、より好ましくは25m2/g以上185m2/g以下である。
【0033】
A1工程において、リサイクルカーボンブラックに接触させる酸化性ガスは、酸素ガス、酸素を含有するガス、空気等である。酸化性ガスの接触量は、処理対象のリサイクルカーボンブラック、ゴム残分の付着量、使用する酸化性ガスの種類、目標とする改質リサイクルカーボンブラックの比表面積等により適宜選択される。
【0034】
A1工程において、リサイクルカーボンブラックに酸化性ガスを接触させるときの反応炉内の温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。反応炉内の温度が上記範囲にあることにより、適度に酸化が進行しゴム残分の除去が容易となる。
【0035】
A1工程において、リサイクルカーボンブラックに酸化性ガスを接触させるときの反応炉内の温度、酸化性ガスの接触量及び時間等の条件は、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度及びN2SAが、本発明の改質リサイクルカーボンブラックに規定の範囲となるように、適宜選択される。
【0036】
A1工程では、反応炉内に、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを入れ、反応炉を所定の温度に加熱し、酸化性ガスを反応炉内に供給しつつ、分解ガスを反応炉外へ排出することにより、反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに所定の温度で酸化性ガスを接触させて、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分を酸化して分解し、除去する。
【0037】
例えば、
図4に示す流動床反応炉1等のような、流動床反応炉内に、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを配置した後、流動床反応炉内を所定の温度に加熱し、流動床反応炉の下部から酸化性ガスを供給しつつ、流動床反応炉の上部から、酸化分解により生じるガスを排出することにより、A1工程を行なう方法が挙げられる。
【0038】
図4に示す流動床反応炉1は概略円筒形状を有し、炉軸が垂直方向に伸びるものである。流動床反応炉1は、反応炉本体2の下部から上部方向に向かってカーボンブラックと接触させるガスを供給するガス導入口21を有するとともに、反応炉本体2の上部に排気口22を有するものである。また、
図4に示すように流動床反応炉1は、反応炉本体2の炉壁外周全体に電熱線を螺旋状に巻き付けたヒーターコイル3を有し、反応炉本体2の内部に設けられた攪拌領域4を加熱し得る構造を有している。また、反応炉本体2の下部のガス導入口21の入り口部には、反応炉本体2内のカーボンブラックが、反応炉本体2からガス導入口21へ漏れないように、フィルタ5が設けられている。
【0039】
そして、流動床反応炉1に酸化性ガスを供給してガス流を生じさせる。酸化性ガスは、予熱した状態で流動床反応炉1内に供給することが好ましく、この場合、予熱温度は400℃以上600℃以下が好ましく、450℃以上600℃以下がより好ましく、450℃以上550℃以下がさらに好ましく、480℃以上550℃以下が一層好ましく、480℃以上520℃以下がより一層好ましい。また、酸化性ガスは、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラック100gあたり、流動床反応炉1中に0.40Nm3/時以上3.50Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、0.450Nm3/時以上3.45Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、0.50Nm3/時以上3.40Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、0.55Nm3/時以上3.35Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、0.60Nm3/時以上3.30Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0040】
加えて、流動床反応炉1中に導入する酸化性ガスは、ガス導入口の圧力が1.0MPa以上2.0MPa以下となるように供給することが好ましく、1.1MPa以上2.0MPa以下となるように供給することがより好ましく、1.1MPa以上1.8MPa以下となるように供給することがさらに好ましく、1.2MPa以上1.8MPa以下となるように供給することが一層好ましく、1.2MPa以上1.5MPa以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0041】
流動床反応炉1を使用する場合、ガス導入口21から酸化性ガスを供給する。ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを予め流動床反応炉内に導入した状態で酸化性ガスを供給してもよいし、流動床反応炉内に酸化性ガスを供給した後、流動床反応炉に別途設けた供給口からゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを導入してもよい。
【0042】
流動床反応炉1内に導入されたゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックが、酸化性ガスのガス流によって加熱下に攪拌、流動される。加熱温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。また、攪拌、流動時間は、100秒以上300秒以下が好ましく、110秒以上300秒以下がより好ましく、110秒以上280秒以下がさらに好ましく、120秒以上280秒以下が一層好ましく、120秒以上250秒以下がより一層好ましい。
【0043】
流動床反応炉1を使用する場合には、ガス導入口21から酸化性ガスを供給した後、ヒーターコイル3によって昇温された攪拌領域4において、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを攪拌、混合する。加熱下において炉内に酸化性ガスを供給し、該酸化性ガスのガス流によってゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを攪拌、流動することによって両者を接触させる。
【0044】
酸化性ガスによる攪拌後、酸化性ガスの供給を停止し、好ましくは窒素ガスを導入して、生成したカーボンブラックを自然冷却させることにより反応を停止させることができる。窒素ガスは、流動床反応炉1中に、6.50Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、7.00Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、7.00Nm3/時以上8.00Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、7.50Nm3/時以上8.00Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、7.50Nm3/時以上7.80Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0045】
冷却されたカーボンブラック粒子は、サイクロンやバッグフィルター等の分離捕集装置により分離捕集することにより、目的とする改質リサイクルカーボンブラックを回収することができる。
【0046】
そして、本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法では、A1工程を行なうことにより、N2SAが、50m2/g以上250m2/g以下、好ましくは55m2/g以上245m2/g以下、より好ましくは60m2/g以上240m2/g以下であり、且つ、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が、84以上111以下、好ましくは85以上110以下、より好ましくは86以上109以下である改質リサイクルカーボンブラックを得る。
【0047】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法は、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程と、炭化水素ガスを接触させる工程と、を有すること特徴とする。
【0048】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法の一例としては、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程(以下、A2工程)と、該酸化性ガスを接触させる工程が行なわれたリサイクルカーボンブラックに、炭化水素ガスを接触させる工程(B2工程)と、を有する改質リサイクルカーボンブラックの製造方法が挙げられる。つまり、酸化性ガスを接触させる工程を行なった後に、炭化水素ガスを接触させる工程を行なう。
【0049】
A2工程は、所定の温度に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残部を酸化して分解し、除去する工程である。
【0050】
A2工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックは、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解することにより得られたカーボンブラックであり、表面にゴム炭化物を主成分とするゴム残分が付着しているカーボンブラックである。酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックとしては、例えば、Enrestec社製商品名PB365、Bolder Industries社製商品名BolderBlack、Delta Energy社製商品名DE-Black、ECOLOMONDO社製商品名MondoBlack等が挙げられる。このようなリサイクルカーボンブラックは如何なる製造方法で製造されたものでもよく、特に制限されないが、例えば、特許文献2に記載されている方法が挙げられる。
【0051】
A2工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度は、112以上200以下、好ましくは112以上190以下であるカーボンブラックである。
【0052】
A2工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックの灰分含有量は、好ましくは3.0%以上50.0%以下、より好ましくは4.0%以上45.0%以下である。
【0053】
A2工程において、リサイクルカーボンブラックに接触させる酸化性ガスは、酸素ガス、酸素を含有するガス、空気等である。酸化性ガスの接触量は、処理対象のリサイクルカーボンブラック、ゴム残分の付着量、使用する酸化性ガスの種類、目標とする改質リサイクルカーボンブラックの比表面積等により適宜選択される。
【0054】
A2工程において、リサイクルカーボンブラックに酸化性ガスを接触させるときの反応炉内の温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。反応炉内の温度が上記範囲にあることにより、適度に酸化が進行しゴム残分の除去が容易となる。
【0055】
A2工程において、リサイクルカーボンブラックに酸化性ガスを接触させるときの反応炉内の温度、酸化性ガスの接触量及び時間等の条件は、透過型電子顕微等で観察した時にゴム残分の除去が確認できるように、適宜選択される。
【0056】
A2工程では、反応炉内に、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを入れ、反応炉を所定の温度に加熱し、酸化性ガスを反応炉内に供給しつつ、分解ガスを反応炉外へ排出することにより、反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに所定の温度で酸化性ガスを接触させて、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分を酸化して分解し、除去する。
【0057】
例えば、
図4に示す流動床反応炉1等のような流動床反応炉内に、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを配置した後、流動床反応炉内を所定の温度に加熱し、流動床反応炉の下部から酸化性ガスを供給しつつ、流動床反応炉の上部から、酸化分解により生じるガスを排出することにより、A2工程を行なう。
【0058】
流動床反応炉1に酸化性ガスを供給してガス流を生じさせる。酸化性ガスは、予熱した状態で流動床反応炉1内に供給することが好ましく、この場合、予熱温度は400℃以上600℃以下が好ましく、450℃以上600℃以下がより好ましく、450℃以上550℃以下がさらに好ましく、480℃以上550℃以下が一層好ましく、480℃以上520℃以下がより一層好ましい。また、酸化性ガスは、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラック100gあたり、流動床反応炉1中に2.50Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、2.55Nm3/時以上8.45Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、2.60Nm3/時以上8.40Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、2.65Nm3/時以上8.35Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、2.70Nm3/時以上8.30Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0059】
加えて、流動床反応炉1中に導入する酸化性ガスは、ガス導入口の圧力が1.0MPa以上2.0MPa以下となるように供給することが好ましく、1.1MPa以上2.0MPa以下となるように供給することがより好ましく、1.1MPa以上1.8MPa以下となるように供給することがさらに好ましく、1.2MPa以上1.8MPa以下となるように供給することが一層好ましく、1.2MPa以上1.5MPa以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0060】
流動床反応炉1を使用する場合、ガス導入口21から酸化性ガスを供給する。ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを予め反応炉内に導入した状態で酸化性ガスを供給してもよいし、反応炉内に酸化性ガスを供給した後、反応炉に別途設けた供給口からゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを導入してもよい。
【0061】
流動床反応炉1内に導入されたゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックが、酸化性ガスのガス流によって加熱下に攪拌、流動される。加熱温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。また、攪拌、流動時間は、100秒以上300秒以下が好ましく、110秒以上300秒以下がより好ましく、110秒以上280秒以下がさらに好ましく、120秒以上280秒以下が一層好ましく、120秒以上250秒以下がより一層好ましい。
【0062】
流動床反応炉1を使用する場合には、ガス導入口21から酸化性ガスを供給した後、ヒーターコイル3によって昇温された攪拌領域4において、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを攪拌、混合する。加熱下において炉内に酸化性ガスを供給し、該酸化性ガスのガス流によってゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを攪拌、流動することによって両者を接触させる。
【0063】
B2工程は、所定の温度に加熱されている反応炉内で、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックに、炭化水素ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に形成されている細孔を、炭化水素ガスの熱分解によって生じる炭化物で埋め、リサイクルカーボンブラックの比表面積を小さくする工程である。
【0064】
B2工程において、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックに接触させる炭化水素ガスとしては、反応炉内で所定の温度で加熱されることで熱分解し、炭化物を生じるものであれば、特に制限されないが、例えば、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス等が挙げられる。炭化水素ガスの接触量は、処理対象のリサイクルカーボンブラックの比表面積、使用する炭化水素ガスの種類、目標とする改質リサイクルカーボンブラックの比表面積等により適宜選択される。
【0065】
B2工程において、リサイクルカーボンブラックに炭化水素ガスを接触させるときの反応炉内の温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。反応炉内の温度が上記範囲にあることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に存在している直径数nm以下の細孔に炭化水素ガスが吸着し炭化することにより適度に比表面積N2SAが低下する。
【0066】
B2工程において、リサイクルカーボンブラックに炭化水素ガスを接触させるときの反応炉内の温度、炭化水素ガスの接触量及び時間等の条件は、N2SAが、本発明の改質リサイクルカーボンブラックに規定の範囲となるように、適宜選択される。
【0067】
B2工程では、反応炉内に、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックを入れ、反応炉を所定の温度に加熱し、炭化水素ガスを反応炉内に供給しつつ、反応ガスを反応炉外へ排出することにより、反応炉内で、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックに所定の温度で炭化水素ガスを接触させて、炭化物を生成させ、リサイクルカーボンブラックの表面に形成されている細孔を、炭化物で埋める。
【0068】
例えば、
図4に示す流動床反応炉1等のような流動床反応炉内に、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックを配置した状態で、流動床反応炉内を所定の温度に加熱し、流動床反応炉の下部から炭化水素ガスを供給しつつ、流動床反応炉の上部から、反応ガスを排出することにより、B2工程を行なう。
【0069】
流動床反応炉1に炭化水素ガスを供給してガス流を生じさせる。炭化水素ガスは、予熱した状態で流動床反応炉1内に供給することが好ましく、この場合、予熱温度は400℃以上600℃以下が好ましく、450℃以上600℃以下がより好ましく、450℃以上550℃以下がさらに好ましく、480℃以上550℃以下が一層好ましく、480℃以上520℃以下がより一層好ましい。また、炭化水素ガスは、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラック100gあたり、流動床反応炉1中に0.30Nm3/時以上3.00Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、0.35Nm3/時以上2.95Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、0.40Nm3/時以上2.90Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、0.45Nm3/時以上2.85Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、0.50Nm3/時以上2.80Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0070】
加えて、流動床反応炉1中に導入する炭化水素ガスは、ガス導入口の圧力が1.0MPa以上2.0MPa以下となるように供給することが好ましく、1.1MPa以上2.0MPa以下となるように供給することがより好ましく、1.1MPa以上1.8MPa以下となるように供給することがさらに好ましく、1.2MPa以上1.8MPa以下となるように供給することが一層好ましく、1.2MPa以上1.5MPa以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0071】
流動床反応炉1を使用する場合、ガス導入口21から炭化水素ガスを供給する。A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックを予め流動床反応炉内に導入した状態で炭化水素ガスを供給してもよいし、流動床反応炉内に炭化水素ガスを供給した後、流動床反応炉に別途設けた供給口からA2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックを導入してもよい。
【0072】
流動床反応炉1内に導入されたA2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックが、炭化水素ガスのガス流によって加熱下に攪拌、流動される。加熱温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。また、攪拌、流動時間は、100秒以上300秒以下が好ましく、110秒以上300秒以下がより好ましく、110秒以上280秒以下がさらに好ましく、120秒以上280秒以下が一層好ましく、120秒以上250秒以下がより一層好ましい。
【0073】
流動床反応炉1を使用する場合には、ガス導入口21から炭化水素ガスを供給した後、ヒーターコイル3によって昇温された攪拌領域4において、A2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックを攪拌、混合する。加熱下において炉内に炭化水素ガスを供給し、該炭化水素ガスのガス流によってA2工程を行なった後のリサイクルカーボンブラックを攪拌、流動することによって両者を接触させる。
【0074】
炭化水素ガスによる攪拌後、炭化水素ガスの供給を停止し、好ましくは窒素ガスを導入して、生成したカーボンブラックを自然冷却させることにより反応を停止させることができる。窒素ガスは、流動床反応炉1中に、6.50Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、7.00Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、7.00Nm3/時以上8.00Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、7.50Nm3/時以上8.00Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、7.50Nm3/時以上7.80Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0075】
冷却されたカーボンブラック粒子は、サイクロンやバッグフィルター等の分離捕集装置により分離捕集することにより、目的とする改質リサイクルカーボンブラックを回収することができる。
【0076】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法の一例としては、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガス及び炭化水素ガスを接触させる工程(以下、C2工程)を有する改質リサイクルカーボンブラックの製造方法が挙げられる。
【0077】
C2工程は、所定の温度に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガス及び炭化水素ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残部を酸化して分解し、除去すると共に、ゴム炭化物を主成分とするゴム残部が除去されたリサイクルカーボンブラックに、炭化水素ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に形成されている細孔を、炭化水素ガスの熱分解によって生じる炭化物で埋め、リサイクルカーボンブラックの比表面積を小さくする工程である。
【0078】
C2工程において、酸化性ガス及び炭化水素ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックは、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解することにより得られたカーボンブラックであり、表面にゴム炭化物を主成分とするゴム残分が付着しているカーボンブラックである。酸化性ガス及び炭化水素ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックとしては、例えば、Enrestec社製商品名PB365、Bolder Industries社製商品名BolderBlack、Delta Energy社製商品名DE-Black、ECOLOMONDO社製商品名MondoBlack等が挙げられる。このようなリサイクルカーボンブラックは如何なる製造方法で製造されたものでもよく、特に制限されないが、例えば、特許文献2に記載されている方法が挙げられる。
【0079】
C2工程において、酸化性ガス及び炭化水素ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度は、112以上200以下、好ましくは112以上190以下であるカーボンブラックである。
【0080】
C2工程において、酸化性ガスと接触させるリサイクルカーボンブラックの灰分含有量は、好ましくは3.0%以上50.0%以下、より好ましくは5.0%以上45.0%以下である。
【0081】
C2工程において、リサイクルカーボンブラックに接触させる酸化性ガスは、酸素ガス、酸素を含有するガス、空気等である。また、C2工程において、リサイクルカーボンブラックに接触させる炭化水素ガスは、反応炉内で所定の温度で加熱されることで熱分解し、炭化物を生じるものであれば、特に制限されないが、例えば、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス等が挙げられる。酸化性ガスの接触量は、処理対象のリサイクルカーボンブラック、ゴム残分の付着量、使用する酸化性ガスの種類、目標とする改質リサイクルカーボンブラックの比表面積等により適宜選択される。また、炭化水素ガスの接触量は、処理対象のリサイクルカーボンブラックの比表面積、使用する炭化水素ガスの種類、目標とする改質リサイクルカーボンブラックの比表面積等により適宜選択される。
【0082】
C2工程において、リサイクルカーボンブラックに酸化性ガス及び炭化水素ガスを接触させるときの反応炉内の温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。反応炉内の温度が上記範囲にあることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に存在している直径数nm以下の細孔に炭化水素ガスが吸着し炭化することにより適度に比表面積N2SAが低下する。
【0083】
C2工程において、リサイクルカーボンブラックに酸化性ガス及び炭化水素ガスを接触させるときの反応炉内の温度、酸化性ガス及び炭化水素ガスの接触量及び時間等の条件は、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度及びN2SAが、本発明の改質リサイクルカーボンブラックに規定の範囲となるように、適宜選択される。
【0084】
C2工程では、反応炉内に、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを入れ、反応炉を所定の温度に加熱し、酸化性ガス及び炭化水素ガスを反応炉内に供給しつつ、分解ガス及び反応ガスを反応炉外へ排出することにより、反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに所定の温度で酸化性ガスを接触させて、リサイクルカーボンブラックの表面に付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分を酸化して分解し、除去すると共に、ゴム炭化物を主成分とするゴム残部が除去されたリサイクルカーボンブラックに、炭化水素ガスを接触させることにより、リサイクルカーボンブラックの表面に形成されている細孔を、炭化水素ガスの熱分解によって生じる炭化物で埋め、リサイクルカーボンブラックの比表面積を小さくする。
【0085】
例えば、
図4に示す流動床反応炉1等のような流動床反応炉内に、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを配置した後、流動床反応炉内を所定の温度に加熱し、流動床反応炉の下部から酸化性ガス及び炭化水素ガスを供給しつつ、流動床反応炉の上部から、酸化性ガスにより酸化分解された分解ガス及び炭化水素ガスが熱分解して生じる反応ガスを排出することにより、C2工程を行なう。
【0086】
流動床反応炉1に酸化性ガス及び炭化水素ガスを同時に供給してガス流を生じさせる。酸化性ガス及び炭化水素ガスは、予熱した状態で流動床反応炉1内に供給することが好ましく、この場合、予熱温度は400℃以上600℃以下が好ましく、450℃以上600℃以下がより好ましく、450℃以上550℃以下がさらに好ましく、480℃以上550℃以下が一層好ましく、480℃以上520℃以下がより一層好ましい。また、酸化性ガス及び炭化水素ガスは、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラック100gあたり、酸化性ガスを流動床反応炉1中に2.50Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、2.55Nm3/時以上8.45Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、2.60Nm3/時以上8.40Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、2.65Nm3/時以上8.35Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、2.70Nm3/時以上8.30Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましく、炭化水素ガスを流動床反応炉1中に0.30Nm3/時以上3.00Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、0.35Nm3/時以上2.95Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、0.40Nm3/時以上2.90Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、0.45Nm3/時以上2.85Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、0.50Nm3/時以上2.80Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0087】
加えて、流動床反応炉1中に導入する酸化性ガス及び炭化水素ガスは、ガス導入口の圧力が1.0MPa以上2.0MPa以下となるように供給することが好ましく、1.1MPa以上2.0MPa以下となるように供給することがより好ましく、1.1MPa以上1.8MPa以下となるように供給することがさらに好ましく、1.2MPa以上1.8MPa以下となるように供給することが一層好ましく、1.2MPa以上1.5MPa以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0088】
流動床反応炉1を使用する場合、ガス導入口21から酸化性ガス及び炭化水素ガスを供給する。ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを予め反応炉内に導入した状態で酸化性ガスを供給してもよいし、流動床反応炉内に酸化性ガス及び炭化水素ガスを供給した後、流動床反応炉に別途設けた供給口からゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを導入してもよい。
【0089】
流動床反応炉1内に導入されたゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックが、酸化性ガス及び炭化水素ガスのガス流によって加熱下に攪拌、流動される。加熱温度は、600℃以上1400℃以下、好ましくは700℃以上1300℃以下、より好ましくは800℃以上1200℃以下である。また、攪拌、流動時間は、100秒以上300秒以下が好ましく、110秒以上300秒以下がより好ましく、110秒以上280秒以下がさらに好ましく、120秒以上280秒以下が一層好ましく、120秒以上250秒以下がより一層好ましい。
【0090】
流動床反応炉1を使用する場合には、ガス導入口21から酸化性ガス及び炭化水素ガスを供給した後、ヒーターコイル3によって昇温された攪拌領域4において、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを攪拌、混合する。加熱下において炉内に酸化性ガス及び炭化水素ガスを供給し、該酸化性ガス及び炭化水素ガスのガス流によってゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックを攪拌、流動することによって両者を接触させる。
【0091】
酸化性ガス及び炭化水素ガスによる攪拌後、酸化性ガス及び炭化水素ガスの供給を停止し、好ましくは窒素ガスを導入して、生成したカーボンブラックを自然冷却させることにより反応を停止させることができる。窒素ガスは、流動床反応炉1中に、6.50Nm3/時以上8.50Nm3/時以下となるように供給することが好ましく、7.00Nm3/時以上~8.50Nm3/時以下となるように供給することがより好ましく、7.00Nm3/時以上8.00Nm3/時以下となるように供給することがさらに好ましく、7.50Nm3/時以上8.00Nm3/時以下となるように供給することが一層好ましく、7.50Nm3/時以上7.80Nm3/時以下となるように供給することがより一層好ましい。
【0092】
冷却されたカーボンブラック粒子は、サイクロンやバッグフィルター等の分離捕集装置により分離捕集することにより、目的とする改質リサイクルカーボンブラックを回収することができる。
【0093】
そして、本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法では、A2工程及びB2工程を行なうことにより又はC2工程を行なうことにより、N2SAが、50m2/g以上250m2/g以下、好ましくは55m2/g以上245m2/g以下、より好ましくは60m2/g以上240m2/g以下であり、且つ、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が、84以上111以下、好ましくは85以上110以下、より好ましくは86以上109以下である改質リサイクルカーボンブラックを得る。
【0094】
本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法は、A1工程により、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分を酸化分解し、リサイクルカーボンブラックのDバンド強度を100としたときのGバンド強度とN2SAの両方を、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値にする方法である。
【0095】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法の一例は、A2工程により、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分の酸化分解で、リサイクルカーボンブラックのDバンド強度を100としたときのGバンド強度を、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値にすることはできたものの、酸化が進んだために、リサイクルカーボンブラックに細孔が多くできてしまったためにN2SAが本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値より大きくなった場合に、B2工程を行い、炭化物で細孔を埋めることにより、N2SAを、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値にする方法である。あるいは、本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法の一例は、A2工程により、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分の酸化分解で、リサイクルカーボンブラックのDバンド強度を100としたときのGバンド強度及びN2SAを、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値にすることはできたものの、更に、N2SAを調節したい場合に、B2工程を行い、炭化物で細孔を埋めることにより、N2SAを、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値の範囲内で調節する方法である。
【0096】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法の一例は、C2工程により、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに付着しているゴム炭化物を主成分とするゴム残分の酸化分解で、リサイクルカーボンブラックのDバンド強度を100としたときのGバンド強度を、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値にすることはできるものの、酸化が進んだために、リサイクルカーボンブラックに細孔が多くできてしまったためにN2SAが本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値より大きくなったり、N2SAを調節したい場合に、C2工程で同時に、炭化物で細孔を埋めることにより、N2SAを、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの規定値にしたり、規定値の範囲内で調節する方法である。
【0097】
本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックは、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程を行い得られたものであり、
N2SAが50m2/g以上250m2/g以下、好ましくは55m2/g以上245m2/g以下、より好ましくは60m2/g以上240m2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下、好ましくは85以上110以下、より好ましくは86以上109以下であること、
を特徴とする。
【0098】
本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックに係る600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程は、本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法に係るA1工程と同様である。
【0099】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックは、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程と、炭化水素ガスを接触させる工程と、を行い得られたものであり、
N2SAが50m2/g以上250m2/g以下、好ましくは55m2/g以上245m2/g以下、より好ましくは60m2/g以上240m2/g以下であり、
レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下、好ましくは85以上110以下、より好ましくは86以上109以下であること、
を特徴とする。
【0100】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの一例としては、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガスを接触させる工程(以下、A2工程)と、該酸化性ガスを接触させる工程が行なわれたリサイクルカーボンブラックに、炭化水素ガスを接触させる工程(B2工程)と、を行い得られたものである改質リサイクルカーボンブラックが挙げられる。
【0101】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの一例としては、600℃以上1400℃以下に加熱されている反応炉内で、ゴム炭化物が付着しているリサイクルカーボンブラックに、酸化性ガス及び炭化水素ガスを接触させる工程(以下、C2工程)を行い得られる改質リサイクルカーボンブラックが挙げられる。
【0102】
本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックに係るA2工程及びB2工程、並びにC2工程は、本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法に係るA2工程及びB2工程並びにC2工程と同様である。
【0103】
本発明の改質リサイクルカーボンブラック、本発明の第一の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法を行い得られる改質リサイクルカーボンブラック及び本発明の第二の形態の改質リサイクルカーボンブラックの製造方法を行い得られる改質リサイクルカーボンブラックは、ゴム炭化物を主成分とするゴム残分の付着がないか、付着があったとしても非常に少なく、且つ、凝集性が低く抑えられているので、一度もタイヤの充填材として使用されていないカーボンブラックと同程度に、ゴム成分との結合を強くできるので、ゴム製品の補強性を高くすることができる。
【0104】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、
該ゴム成分100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下の本発明の改質リサイクルカーボンブラックと、
を含有することを特徴とする。
【0105】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムなどのジエン系ゴムから選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
【0106】
本発明のゴム組成物は、本発明の改質リサイクルカーボンブラックを含有するものであり、ゴム組成物中に含まれる本発明の改質リサイクルカーボンブラックの詳細については上述したとおりである。
そして、本発明の改質リサイクルカーボンブラックは、リサイクルカーボンブラックの表面に付着していたゴム炭化物を主成分とするゴム残分が除去され、且つ、凝集性が低く抑えられたものなので、ゴム成分との結合が強いため、ゴム組成物の補強性が高いので、本発明のゴム組成物は、強度が高い。
【0107】
本発明のゴム組成物において、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの含有割合は、ゴム成分100質量部に対して1質量部以上100質量部以下であり、ゴム成分100質量部に対して10質量部以上80質量部以下であることが好ましく、ゴム成分100質量部に対して15質量部以上70質量部以下であることがより好ましい。本発明のゴム組成物において、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの含有割合が上記範囲内にあることにより、強度が高いゴム組成物を得ることができる。
【0108】
また、本発明のゴム組成物は、常用される、無機補強材、シランカップリング剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤などの必要成分を含有してもよい。本発明のゴム組成物は、これ等の成分を、合計で、1質量%以上40質量%以下含むものであることが好ましく、2質量%以上30質量%以下含むものであることがより好ましく、3質量%以上25質量%以下含むものであることがさらに好ましい。
【0109】
本発明のゴム組成物は、本発明の改質リサイクルカーボンブラックの所定量と、必要に応じ、無機補強材、シランカップリング剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤等の所望量とを、ゴム成分と混練することにより得ることができる。上記混練は、公知のミキサーやミル等の混練機を用いて行うことができる。
【0110】
本発明のゴム組成物は、所定形状に成形した後、適宜、130~180℃で加温して硬化することにより、所望のゴム成形体を得ることができる。
【実施例】
【0111】
本発明を以下の実施例を用いて説明する。
【0112】
(実施例1~9、比較例1~6)
図4に示す流動床反応炉に、表1に示す処理対象のリサイクルカーボンブラック(改質前)を100g配置し、表1に示す条件で、酸化性ガスとの接触工程(工程1)及び/又は炭化水素ガスとの接触工程(工程2)を行ない、改質リサイクルカーボンブラックを得た。なお、工程1と工程2の両方を行う場合は、実施例1~8及び比較例1~6では、工程1を行った後に工程2を行った。また、実施例9では、酸化性ガスと炭化水素ガスを同時に供給して、工程1と工程2を同時に行った。
【0113】
(参考例1~2)
未使用カーボンブラックとして、市販品のSEAST3(参考例1)、SEAST6(参考例2)の未使用品を用いた。
【0114】
次いで、改質前のリサイクルカーボンブラック、得られた改質リサイクルカーボンブラック及び未使用カーボンブラックの窒素吸着比表面積N
2SA、Dバンド強度を100としたときのGバンド強度を測定した。その結果を表2に示す。また、未使用カーボンブラック(SEAST6)、改質前のリサイクルカーボンブラック(改質前rCB rCB1)及び改質リサイクルカーボンブラック(改質後rCB 実施例7)を電子顕微鏡で観察して得られた電子顕微鏡写真をそれぞれ
図6A、6B、6Cに示す。
【0115】
次いで、表3に示すように、ゴム成分である天然ゴム(RSS#1)100質量部、上記実施例および比較例で得られた何れかの改質リサイクルカーボンブラック、改質前のリサイクルカーボンブラック又は未使用カーボンブラック45質量部、ステアリン酸3質量部、老化防止剤(川口化学(株)製 アンテージ6C)1質量部、亜鉛華4質量部を、密閉型ミキサー(神戸製鋼(株)製MIXTRON BB-2)で混練した後、得られた混練物に対し、加硫促進剤(川口化学工業(株)製アクセルNS)0.5質量部と、硫黄1.5質量部とをオープンロールで混練することによりゴム組成物を得た。
次いで、得られた各ゴム組成物を145℃の温度条件下、35分間加硫して加硫ゴムを形成した。
得られた加硫ゴムを用い、以下に示す方法により、動的貯蔵弾性率(E’)、引張応力(M300)を測定した。その結果を表2に示す。また、実施例、比較例及び未使用カーボンブラックの動的貯蔵弾性率(E’)と引張応力(M300)関係を
図5に示す。
【0116】
・リサイクルカーボンブラック1(rCB1)
廃タイヤの熱分解により得られたリサイクルカーボンブラック
Enrestec社製、PB365、
灰分含有量:18.6%、
Dバンド強度を100としたときのGバンド強度:113
N2SA:78m2/g
・酸化性ガス:空気ガス
・炭化水素ガス:メタンガス
【0117】
<(動的貯蔵弾性率)(E’)の測定>
得られた各加硫ゴムから切り出した、厚さ2mm、長さ35mm、幅5mmの試験片を用い、全自動粘弾性アナライザ((株)上島製作所製VR-7130)を用い、JISK6394 2007「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-動的性質の求め方-一般指針」にしたがい周波数50Hz、動的歪率1.26%、測定温度60℃の測定条件で、動的貯蔵弾性率(E’)を測定した。
【0118】
<(引張応力)(M300)の測定>
得られた各加硫ゴムから切り出した、JISダンベル状3号形の試験片を用い、東洋精機(株)社製ストログラフAE-CTを用い、JISK6251 2017「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」にしたがい300%の伸びにおける応力を測定した。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
実施例1~9は、E’が4.7MPa以上と高かった。一方、rCB1、比較例1~6は、E’が4.0MPa以下と低かった。よって、実施例1~9の改質リサイクルカーボンブラックは、ゴム成分との結合が強く、ゴム組成物の補強性が高くすることができることがわかった。
また、実施例1~9は、M300が100kgf/cm2以上と、M300も高くすることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、ゴム成分との結合が強く、ゴム製品の補強性が高い新規なリサイクルカーボンブラックを提供することができるので、廃タイヤ等のゴム製品を熱分解して得られるリサイクルカーボンブラックを用いて、未使用のカーボンブラックと同等の性能を有するゴム製品を製造することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 流動床反応炉
2 反応炉本体
3 ヒーターコイル
4 攪拌領域
5 フィルタ
21 ガス導入口
22 排気口
【要約】
【課題】ゴム成分との結合が強く、ゴム製品の補強性が高いリサイクルカーボンブラックを提供すること。
【解決手段】N
2SAが50m
2/g以上250m
2/g以下であり、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度を100としたとき、1580±20cm
-1の範囲にピークトップを有するピークのピーク強度が84以上111以下であること、を特徴とする改質リサイクルカーボンブラック。
【選択図】
図1