(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/00 20060101AFI20240426BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240426BHJP
C21D 1/70 20060101ALI20240426BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20240426BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20240426BHJP
C21C 7/06 20060101ALI20240426BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240426BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20240426BHJP
B22D 11/115 20060101ALI20240426BHJP
B21B 1/16 20060101ALI20240426BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B22D11/00 A
C21D9/00 101A
C21D1/70 U
C21C1/02 108
C21C1/02 110
C21C5/28 Z
C21C7/06
C21D8/06 A
C21C5/28 H
C21C1/02 103
C22C38/18
B22D11/115 A
B21B1/16 B
C22C38/00 301Y
(21)【出願番号】P 2023513991
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 CN2021109957
(87)【国際公開番号】W WO2022078018
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】202011105232.5
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523025469
【氏名又は名称】中天鋼鉄集団有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】523025296
【氏名又は名称】常州中天特鋼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【氏名又は名称】譚 粟元
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【氏名又は名称】柳元 八大
(72)【発明者】
【氏名】廖 家明
(72)【発明者】
【氏名】来 永彪
(72)【発明者】
【氏名】左 錦中
(72)【発明者】
【氏名】桂 仲林
(72)【発明者】
【氏名】王 昆鵬
(72)【発明者】
【氏名】趙 陽
(72)【発明者】
【氏名】沈 艶
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109047697(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107186192(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111254363(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104789880(CN,A)
【文献】国際公開第2015/163409(WO,A1)
【文献】特開2007-297674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00-7/10
B22D 11/00-11/22
B21B 1/00-11/00
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法であって、
順次行われるKR溶銑前脱硫工程、BOF転炉製錬工程、LF炉精錬工程、連続鋳造CC工程、鋳片表面処理工程、鋳片加熱工程、圧延制御工程及び冷却制御工程を含み、
前記86級高強度コード鋼線材の成分重量百分率は、C:0.85-0.90%、Si:0.15-0.35%、Mn:0.40-0.60%、P:≦0.015%、S:≦0.010%、Cr:≦0.010%、Al:≦0.005%であり、残りが、Fe及び不可避的不純物元素であり、
BOF転炉製錬工程において、完成品中のP質量含有量≦0.010%、S質量含有量≦0.008%、かつ、P及びSの総質量含有量≦0.016%となるように制御し、
LF炉精錬工程において、精錬プロセスで炭化珪素による脱酸を採用し、精錬スラグはCaO-SiO
2二元スラグ系を採用し、精錬最終スラグのアルカリ度を0.7-1.0に制御し、精錬の後期に
ボイラの底からアルゴンガス
をブローし、
ボイラの温度が溶鋼液相線の温度35~45℃よりも高いことが保証されるように溶鋼の成分と温度を調整し、精錬が終了し、アルゴンガスソフトブロー時間≧15minとし、
連続鋳造CC工程において、断面≦160*160mm
2の鋳片を調製し、連続鋳造は低過熱度鋳造を採用し、溶鋼の過熱度10~25℃となるように制御し、結晶器電磁攪拌電流250~350A、周波数2~4Hz、末端電磁攪拌電流300~400A、周波数5~10Hzであり、引抜き速度を1.60~1.75m/minに制御し、二次冷却全水分強冷却を採用し、二次冷却比水量を1.6~1.8L/kgに制御し、
出末端電磁攪拌の箇所で鋳片を鋳造し、
水冷を行
い、
鋳片表面処理工程において、得られた鋳片を風防スタックにより100℃以下に冷却し、ショットブラスト機を用いて鋳片表面の酸化鉄皮を除去し、その後、鋳片の表面に高温脱炭防止塗料の層を塗布し、塗料中の粉体と液体の質量比が3:2であり、塗膜の厚さを0.2~1.0mmに制御し、塗料が乾燥した後に鋼片加熱工程に入り、
鋳片加熱工程において、高温脱炭防止塗料が塗布された鋳片を、高温拡散工程により加熱し、かつ、加熱炉において等速で前進させ、加熱炉の予熱段の時間を30~55minに制御し、加熱一段温度950-1000℃、時間は40~65minであり、加熱二段温度1200-1230℃、時間は65~105minであり、均熱段の温度1220-1250℃、時間は50~85minであり、初期圧延温度1180-1220℃であり、加熱炉において還元性雰囲気で加熱し、空燃比を0.4~0.5に制御し、加熱炉抽出間隔は117-190s/本に従い、鋼片加熱合計時間190-300minであり、
圧延制御工程において、レイング温度を960~980℃に制御し、心部網状セメンタイトの析出を抑制すると同時に、酸化鉄皮の厚さを10~15μmに最適化し、圧延線材の仕様はφ5.5mmであり、
冷却制御工程において、線材を、レイングヘッドを経た後にステルモアローラーテーブルに散布し、ファン
を調節し、0~8sまで温度降下速度30-35℃/s
の風冷、その後、9-17s
まで温度降下速度15-30℃/s
の風冷を行うことで、前後の相対温度上昇
が30℃よりも小さくなるように制御する、
ことを特徴とする86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法。
【請求項2】
KR溶銑前脱硫工程において、溶銑鍋に石灰などの脱硫剤を3~6kg/トン鋼添加し、強力な機械的攪拌を施すことにより、転炉における溶銑のS含有量≦0.003%が保証されるように溶銑中のS含有量を除去し、その後、脱Sスラグを除去する、
ことを特徴とする請求項1に記載の86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法。
【請求項3】
BOF転炉製錬工程におけるP及びSの含有量の制御方法は、BOF製錬にBOF転炉の総金属装入量の10%~30%を占めるコード専用クリーン鋼屑を用い、転炉における吹錬により
5±1minのケイ素マンガン酸化期が終了する際に、出鋼のP含有量≦0.010%が保証されるようにガンを出し、脱Pスラグを除去し、ガンを再び入れ、スラグを作り、出鋼プロセスでスラグ止めコーンによるスラグ止めと滑り板によるスラグ止めの組み合わせを用いると同時に、スラグ流出検出技術を装備して出鋼プロセスにおけるスラグ流出量≦50kgとなるように制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法。
【請求項4】
連続鋳造CC工程において、10マシン10フロー弧形連続鋳造機により鋳片を調製し、鋳造機の弧形半径10mであり、末端電磁攪拌はメニスカスから7.2m離れ、末端電磁攪拌装置の長さ700mm、内径φ380mmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法。
【請求項5】
連続鋳造CC工程における二次冷却全水分強冷却
は、二次冷却
設備にて行われ、
前記二次冷却設備は、上流側から下流側に向かって順に配置された足置きローラ、二次冷却一段、二次冷却二段、二次冷却三段、二次冷却四段を備え、前記足置きローラ段
の冷却水流量を9.0~11.0m
3/h、
前記二次冷却一段
の冷却水流量を11.0~13.0m
3/h、
前記二次冷却二段
の冷却水流量を8.0~10.0m
3/h、
前記二次冷却三段
の冷却水流量を2.5~4.5m
3/h、
前記二次冷却四段の冷却水流量を1.5~3.5m
3/hに制御する
、
ことを特徴とする請求項1に記載の86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法。
【請求項6】
冷却制御工程において、ファンは、風量が200000m
3/hである遠心式ファンであり、生産時に8台のファンをオンにし、線材の進行方向に沿った1~3台目のファンの風量を90%に制御し、4~6台目のファンの風量を80%に
し、その後、線材を7台目及び8台目のファンの位置で相転移させ、7台目及び8台目のファンの風量を70%に調節する、
ことを特徴とする請求項1に記載の86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コード鋼生産の技術分野に属し、具体的には、86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の自動車工業及び機械製造業の急速な発展により、コード鋼の需要量がますます大きくなるとともに、製品の品質要求がますます高くなる。自動車が軽量化とエコで環境に優しい方向に発展するにつれて、コード鋼線の強度と疲労強度を向上させることで、全体強度が同じであるタイヤにおいて、コード鋼線の使用量を少なくすることができ、タイヤの重量が低下し、タイヤの転がり抵抗が少なくなり、エネルギー消費が節約され、タイヤの生産コストが低下する。現在、高強度コード鋼86級は、高利潤、高付加価値製品に属し、かつ市場規模が大きく、見通しが良好である。
【0003】
コード鋼は、その動作条件及び安全性能の要求により、その化学成分、介在物、機械的性質及び金属組織などのいずれにも厳しく要求されている。高Al2O3含有量の変形しない硬質介在物、線材心部偏析(網状炭化物)は、顧客における深絞りやカール破断を引き起こす二つの大きな問題である。86級コードは、それ自体のC含有量が高いため(銘柄がLX86Aである86級コード鋼線の成分重量百分率は、C:0.85-0.90%、Si:0.15-0.35%、Mn:0.40-0.60%、P:≦0.015%、S:≦0.015%、Cr:≦0.10%)、連続鋳造偏析が重く、線材は、網状セメンタイトを形成しやすく、基地組織を切り離し、コードの引抜き加工プロセスにおいてカップコーン状の断線を引き起こし、生産効率が低く、コード品質が悪い原因となる。
【0004】
86級コードの国内のほとんどの鉄鋼企業は、大ビレット(投入軽圧下)+高温拡散+分塊仕上げ+二回加熱成形という工程を採用し、ステルモア空冷と組み合わせることで線材の網状炭化物及び脱炭の品質を制御している。世界的な景気低迷の中で、自動車業界は競争が激化し、生産と製造コストを如何に低下させてより高い利幅を獲得するかは、サプライチェーン企業全体が追求する目標である。二回加熱成形工程を採用することは、プロセスが長く、コストが高く、競争力が欠如するという弱点を有する。例えば中国特許文献(出願番号201910798924.3)には、二回加熱成形工程を採用した高強度コード鋼ビレットの生産方法が開示されている。すなわち、大ビレットを小ビレットに圧延し、冷却した後、小ビレットを再び加熱することにより、5.5線材に圧延するが、工程経路が長くコストが高いという欠点を有する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、従来の「KR→BOF→LF→CC→表面抜取検査→加熱→分塊→皮はぎ→加熱→圧延制御→制御冷却」の代わりに、「KR→BOF→LF→CC→表面処理→加熱→圧延制御→冷却制御」という工程を採用している。製鋼工程、圧延工程の合理的な設計により、二次加熱成形を経ず、皮をはぐ必要がなく、かつ連続鋳造機械の軽圧下技術にサポートされずに、86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物を改善し、当該問題による顧客の引抜き断線を低減させる86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法が提供される。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明で採用される技術的手段は以下のとおりである。
【0007】
86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法は、順次行われるKR溶銑前脱硫工程、BOF転炉製錬工程、LF炉精錬工程、連続鋳造CC工程、鋳片表面処理工程、鋳片加熱工程、圧延制御工程及び冷却制御工程を含み、前記86級高強度コード鋼線材の成分重量百分率は、C:0.85-0.90%、Si:0.15-0.35%、Mn:0.40-0.60%、P:≦0.015%、S:≦0.010%、Cr:≦0.010%、Al:≦0.005%であり、残りが、Fe及び不可避的不純物元素である。
【0008】
KR溶銑前脱硫工程において、S元素は、偏析しやすい有害元素であり、鋳片凝固中心におけるS元素の濃縮を低減させ、鋳片の偏析を低減させるために、溶銑を前処理する。したがって、KR工程において、溶銑鍋に石灰などの脱硫剤を3~6kg/トン鋼添加し、強力な機械的攪拌を施すことにより、転炉における溶銑のS含有量≦0.003%が保証されるように溶銑中のS含有量を除去し、その後、脱Sスラグを除去する。
【0009】
BOF転炉製錬工程において、Pも、偏析しやすい有害元素であり、完成品中のP含有量≦0.010%、S含有量≦0.008%、かつ、P+S含有量≦0.016%となるように制御する必要がある。具体的な制御方法は、完成品のP、S及びその他の有害元素が低いレベルにあることを保証するために、BOF製錬にコード専用クリーン鋼屑(成分は、主成分Fe、C、Si、Mn及び他の不可避的微量元素であり、総量が総金属装入量の10%~30%を占める)を用いる。また、転炉BOF製錬は「ダブルスラグ」工程を採用し、すなわち、転炉における吹錬により約5±1minのケイ素マンガン酸化期が終了する際に、出鋼のP含有量≦0.010%が保証されるようにガンを出し、転炉における吹錬後期のP戻りを防止するために脱Pスラグを除去し、ガンを再び入れ、スラグを作る。BOF転炉製錬工程において、転炉出鋼は「ダブル止め」出鋼工程を採用し、すなわち、出鋼プロセスでスラグ止めコーンによるスラグ止めと滑り板によるスラグ止めの組み合わせを用いると同時に、スラグ流出検出技術を装備して出鋼プロセスにおけるスラグ流出量≦50kgとなるように制御することで、精錬プロセスでP、S、Tiなどの有害元素のスラグから溶鋼への拡散が回避される。「ダブル止め」出鋼工程により、鋼中のP、S含有量が少なくなり、ひいては鋳片の偏析が少なくなる。
【0010】
LF炉精錬工程において、精錬プロセスで炭化珪素による脱酸を採用し、精錬スラグはCaO-SiO2二元スラグ系を採用し、精錬最終スラグのアルカリ度を0.7-1.0に制御する。精錬の後期に大きなアルゴンガスの攪拌を回避し(スラグ面をちょうど吹き分けるようにアルゴンガスの底吹きを制御する)、スラグ巻き込みを防止する。ブル取鍋の温度が溶鋼液相線の温度35~45℃よりも高いことが保証されるように溶鋼の成分と温度を調整する。精錬が終了し、アルゴンガスソフトブロー時間≧15minとする。
【0011】
連続鋳造CC工程において、10マシン10フロー弧形連続鋳造機により鋳片を調製し、二次冷却強度を保証するために、鋳片断面≦160*160mm2とする。鋳造機の孤形半径10mであり、末端電磁攪拌はメニスカスから7.2m離れる。末端電磁攪拌装置の長さ700mm、内径φ380mmである。連続鋳造による鋳片の偏析の制御キーポイントは、低過熱度、強い結晶器電磁攪拌と末端電磁攪拌、適切な引抜き速度、二次冷却強冷却及び熱ソフト圧下技術、鋳片中心炭素の偏析平均値≦1.07の保証である。具体的には、鋳片等軸晶の比率を向上させるために、連続鋳造は低過熱度鋳造を採用し、溶鋼の過熱度を10~25℃に制御する。強い電磁攪拌強度は、溶鋼温度の均一を促進し、柱状結晶の成長を断ち切り、核生成を促進し、等軸晶の比率を向上させ、凝固末端柱状結晶の「架橋」を回避することができるので、結晶器電磁攪拌電流250~350A、周波数2~4Hzで、末端電磁攪拌電流300~400A、周波数5~10Hzである。引抜き速度と末端電磁攪拌位置の適切な組み合わせを保証し、最適な末端攪拌効果を達成するために、引抜き速度を1.60~1.75m/minに制御し、目標1.70m/minである。鋳片凝固プロセスにおける元素の分別結晶を抑制するために、二次冷却全水分強冷却を採用し、二次冷却比水量を1.6~1.8L/kgに制御する。また、出末端の電磁攪拌箇所で鋳片を鋳造し、集中的な水冷を行うことで、鋳造流ハウジングを収縮させ、「熱ソフト圧下」という効果を奏し、鋳片の偏析が改善される。
【0012】
さらに、鋳片の二次冷却プロセスの温度変化に応じて、異なる二次冷却段の冷却水流量を次のように変化させるように設定する。足置きローラ段(長さ約0.3m)9.0~11.0m3/h、二次冷却一段(長さ約2.0m)11.0~13.0m3/h、二次冷却二段(長さ約2.3m)8.0~10.0m3/h、二次冷却三段(長さ約1.4m)2.5~4.5m3/hである。また、末端電磁攪拌箇所における鋳片の空冷温度戻りのため、その後の空冷段に長さが1.5mであり、水流量を1.5~3.5m3/hに制御する全水分冷却領域(二次冷却四段)が追加され、レベラーに入れる前の鋳片の温度戻りを効果的に低減させ、熱送鋳片のひび割れの発生確率を低下させるとともに、「熱ソフト圧下」という効果を提供し、鋳片の中心偏析を低減させることができる。同時に、酸化鉄皮の構造を改善し、金属材料の収率を向上させることができる。
【0013】
鋳片表面処理工程において、得られた鋳片を風防スタックにより100℃以下に冷却し、ショットブラスト機を用いて鋳片表面の酸化鉄皮を除去し、その後、鋳片の表面に高温脱炭防止塗料の層を塗布する。脱炭防止効果を保証し、線材表面の炭素量増加を防止するために、塗料配合比(粉体と液体の質量比)3:2、塗膜の厚さを0.2~1.0mmに制御し、塗料が乾燥した後に鋼片加熱工程に入る。
【0014】
鋳片加熱工程において、高温脱炭防止塗料が塗布された鋳片を、高温拡散工程により加熱し、かつ、加熱炉において等速で前進させ、加熱炉の予熱段の時間を30~55minに制御し、加熱一段温度950-1000℃、時間は40~65minであり、加熱二段温度1200-1230℃、時間は65~105minであり、均熱段の温度1220-1250℃、時間は50~85minであり、初期圧延温度1180-1220℃である。当該鋳片加熱工程により、C、P、S、Mnなどの樹枝状結晶間の拡散が促進され、元素のミクロ偏析が低減され、かつ、鋳片中心の収縮孔のシーミングに有利である。
【0015】
圧延材の脱炭を制御するために、加熱炉において還元性雰囲気で加熱し、空燃比を0.4~0.5に制御する。加熱炉抽出間隔は117-190s/本に従い、鋼片加熱合計時間190-300minである。
【0016】
圧延制御工程において、高温レイング工程に従ってレイング温度を960~980℃に制御し、心部網状セメンタイトの析出を抑制すると同時に、酸化鉄皮の厚さを10~15μmに最適化し、線材の機械的剥離による酸化鉄皮の除去が容易になり、圧延線材の仕様はφ5.5mmである。
【0017】
冷却制御工程において、線材を、レイングヘッドを経た後にステルモアローラーテーブルに散布し、ファンの空冷強度を調節することにより、空冷0~8sで温度降下速度30-35℃/s、風冷9-17sで温度降下速度15-30℃/s、相転移プロセスは、恒温変換に近似する。さらに、圧延ファンは、風量が200000m3/hである遠心式ファンであり、生産時に8台のファンをオンにする。線材の進行方向に沿った1~3台目のファンの風量を90%に制御し、4~6台目のファンの風量を80%にすることで、線材の温度を二次セメンタイトの析出温度区間を急速に通過させ、その後、線材を7台目及び8台目のファンの位置で相転移させる。7台目及び8台目のファンの風量を70%に調節し、相転移を制御するプロセスは、線材組織の十分な変換が保証されるように恒温変換に近似する(相転移温度上昇<30℃)。
【0018】
本発明によれば、従来技術と比較して、以下の技術的利点が得られる。
【0019】
本発明の方法により製造されたφ5.5mm線材は、ソルバイト化率≧90%であり、線材中心の偏析が軽微であり、心部に網状セメンタイトがなく、ユーザの引抜き使用ニーズを満たしている。
【0020】
小ビレット連続鋳造+線材圧延により、線材の偏析及び網状炭化物が改善され、サイクル及びコストの大幅な低下が実現される。
【0021】
本発明の方法は、プロセスが単純であり、網状セメンタイトがなく、ソルバイト化率が高く、脱炭層が浅く、省エネを実現することができ、エコで環境に優しく、企業の競争力を高め、より良い利幅利益を創出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例1で製造された線材の金属組織の写真である。
【
図2】本発明の実施例における鋳造機の二次冷却設備の概略図であり、図中標尺の単位:mm。
【
図3】本発明の実施例における加熱炉の平面視概略図であり、図中標尺の単位:mm。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明については、以下の実施例を参照しながらさらに詳細に説明する。
(実施例1-4)
【0024】
86級高強度コード鋼線材の偏析及び網状炭化物の制御方法は、KR溶銑前(プリ)脱硫工程→BOF転炉製錬工程→LF炉精錬工程→連続鋳造CC工程→鋳片表面処理工程→鋳片加熱工程→圧延制御工程→冷却制御工程を含む。
【0025】
製錬製品の成分制御において、C:0.85-0.90%、Si:0.15-0.35%、Mn:0.40-0.60%、P:≦0.010%、S:≦0.010%、Cr:≦0.010%、Al:≦0.005%、残りが、Fe及び不可避的不純物要素である。
【0026】
溶銑は、KR溶銑前処理を経て、S含有量≦0.003%となり、コード専用クリーン鋼屑(成分は、主成分Fe、C、Si、Mn及び他の不可避的微量元素であり、総量が総金属装入量の10%~30%を占める)を用いる。また、転炉BOF製錬は「ダブルスラグ」工程を採用し、すなわち、転炉における吹錬により4~51minのケイ素マンガン酸化期が終了する際に、出鋼のP含有量≦0.008%が保証されるようにガンを出し、脱Pスラグを除去し、ガンを再び入れ、スラグを作る。転炉出鋼は「ダブル止め」出鋼工程を採用し、スラグ流出検出技術を装備してスラグ流出量≦50kgとなるように制御する。実施例1~4の鋼片の主要化学成分の重量百分率を表1に示す。
【0027】
【0028】
LF炉精錬工程において、精錬プロセスで炭化珪素による脱酸を採用し、精錬スラグはCaO-SiO2二元スラグ系を採用し、実施例1-4の精錬最終スラグのアルカリ度を0.7-1.0に制御する。精錬の後期に大きなアルゴンガスの攪拌を回避し(スラグ面をちょうど吹き分けるようにアルゴンガスの底吹きを制御する)、スラグ巻き込みを防止する。実施例1-4の加熱ブル取鍋の温度が溶鋼液相線の温度38℃、38℃、41℃、36℃よりも高くなるように溶鋼の成分と温度を調整する。精錬が終了し、アルゴンガスソフトブロー時間≧15minとする。連続鋳造CC工程において、10マシン10フロー弧形連続鋳造機により160*160mm2の小ビレットを調製する。連続鋳造は、低過熱度鋳造を採用し、溶鋼の過熱度を10~25℃に制御し、結晶器電磁攪拌電流250~350A、周波数2~4Hzであり、末端電磁攪拌電流300~400A、周波数5~10Hzであり、引抜き速度を目標1.70m/minに従って制御し、二次冷却全水分強冷却を採用し、二次冷却比水量を1.6~1.8L/kgに制御する。また、出末端の電磁攪拌箇所で鋳片を鋳造し、水流量が3.0m3/hに制御されるように集中的な水冷を行うことで、鋳造流ハウジングを収縮させ、「熱ソフト圧下」という効果を奏し、鋳片の偏析が改善される。鋳片の断面160mm*160mm2、主要な連続鋳造工程パラメータを表2に示す。
【0029】
【0030】
上記工程による鋳片は、炭素偏析平均値(5点ドリルサンプリング法によるサンプリングで得られる)≦1.07となるように制御される。
【0031】
鋳片を風防スタックにより100℃以下に冷却し、ショットブラスト機を用いて鋳片表面の酸化鉄皮を除去し、その後、鋳片の表面に高温脱炭防止塗料(本実施例では、北京中科興業環境工程有限公司が製造するZK-003型鋼片用高温脱炭防止塗料を選定した)の層を塗布し、塗料が乾燥した後に圧延工場に送られて加熱される。高温脱炭防止塗料が塗布された鋳片を、高温拡散工程により加熱し、かつ、加熱炉において等速で前進させ、加熱炉(
図3に示す)の予熱段の時間を30~55minに制御し、加熱一段温度950-1000℃、時間は40~65minであり、加熱二段温度1200-1230℃、時間は65~105minであり、均熱段の温度1220-1250℃、時間は50~85minであり、初期圧延温度1180-1220℃である。加熱炉において還元性雰囲気で加熱し、空燃比を0.4~0.5に制御し、加熱炉抽出間隔は117-190s/本に従い、鋼片加熱合計時間190-300minである。
【0032】
高温レイング工程に従ってレイング温度を960~980℃に制御し、心部網状セメンタイトの析出を抑制すると同時に、酸化鉄皮の厚さを10~15μm(レイング温度と空冷工程を制御することにより酸化鉄の厚さを制御することができる)に最適化し、線材の機械的剥離による酸化鉄皮の除去が容易になる。
【0033】
線材を、レイングヘッドを経た後にステルモアローラーテーブルに散布し、ファンの空冷強度を調節することにより、空冷0~8sで温度降下速度30-35℃/s、風冷9-17sで温度降下速度15-30℃/s、相転移プロセスは、恒温変換に近似する。具体的な実現方法は、以下のとおりである。圧延ファンは、風量が200000m3/hである遠心式ファンであり、生産時に8台のファンをオンにし、線材の進行方向に沿った1~3台目のファンの風量を90%に制御し、4~6台目のファンの風量を80%にすることで、線材の温度を二次セメンタイトの析出温度区間を急速に通過させ、7台目及び8台目のファンの風量を70%に調節し、等温での相転移が保証されるとともに線材組織の十分な変換が保証されるように相転移温度上昇を30℃以内に制御する。
【0034】
上記工程により生産された線材の偏析、網状炭化物、脱炭に合格し、詳細は表3に示す。
【0035】
【0036】
上記は、本発明の具体的な好適実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲は、これに限定されず、如何なる当業者が本発明に開示された技術的範囲において、本発明の技術的手段及びその構想に基づいて加える同等の置換又は変更は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【0037】
本発明は、上述した具体的な実施形態に限定されるものではなく、当業者は、本発明に開示された内容に基づいて、他の多くの具体的な実施形態により本発明を実施し、又は本発明の設計構造や構想により行った単純な変化又は変更は、いずれも本発明の保護範囲に収まる。なお、本発明における実施例及び実施例における特徴は、衝突しない限り、互いに組み合わせることができる。