(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】病変壁剪断応力記述子に基づいて、心筋梗塞の尤度を計算する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240426BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20240426BHJP
【FI】
A61B6/00 550C
A61B6/00 550D
A61B6/50 500B
A61B6/50 511E
(21)【出願番号】P 2023530509
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2021082251
(87)【国際公開番号】W WO2022106594
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-07-12
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504048537
【氏名又は名称】パイ メディカル イメージング ビー ヴイ
【氏名又は名称原語表記】PIE MEDICAL IMAGING B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アーベン、ジャン-ポール
(72)【発明者】
【氏名】コレット ボルトーン, カルロス
(72)【発明者】
【氏名】コーエン、デニス
【審査官】佐藤 賢斗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/173830(WO,A1)
【文献】特表2017-535340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0249620(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110866914(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105095534(CN,A)
【文献】国際公開第2013/031741(WO,A1)
【文献】U. Morbiducci et al.,Wall Shear Stress Topological Skeleton Independently Predicts Long-Term Restenosis After Carotid Bifurcation Endarterectomy,Annals of Biomedical Engineering,2020年09月14日,Vol. 48, Issue 12,pp. 2936-2949,DOI: 10.1007/S10439-020-02607-9
【文献】K. Masdjedi et al.,Validation of a three-dimensional quantitative coronary angiography-based software to calculate fractional flow reserve: the FAST study,EuroIntervention,2020年09月18日,Vol. 16, No. 7,pp. 591-599,DOI: 10.4244/EIJ-D-19-00466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/58
A61B 5/055
G06T 1/00
G06T 7/00 - 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータで実行される方法であって、
患者固有の画像データを取得するステップ、
前記患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップであって、前記対象血管が、病変を含む冠動脈ツリーのサブセットを表す、ステップ、
前記病変を含む前記3D再構成の一部に少なくとも部分的に基づいて、圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つを計算するステップ、
前記病変を含む前記血管の表面のセグメントに対して、前記3D再構成に基づいて壁剪断応力(WSS)記述子を計算するステップであって、WSS記述子が、心周期の少なくとも一部の間にセグメント内の表面要素に適用される収縮または拡張の変動量に関する情報を含む、ステップ、並びに
前記WSS記述子、および前記圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つに基づいて、心筋梗塞(MI)インデックスを計算するステップであって、前記MIインデックスが、前記病変がMIと言う結果になる尤度を表す、ステップ
を備える方法。
【請求項2】
前記WSS記述子を計算するステップが、さらに、前記セグメント内の対応する表面要素でWSSベクトルを計算すること、および前記WSSベクトルに基づいて前記WSS記述子を計算すること、を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
境界条件が、前記3D再構成の近位側で前記心周期の前記少なくとも一部に渡る速度プロファイルのセットを表す入口条件を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
提供される速度のセットからの第1の速度プロファイルが、前記心周期内の対応する運動量における、前記3D再構成の近位側での前記血管の断面に渡る速度プロファイルを表す、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記WSS記述子が、トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI)を含み、前記TSVIが、前記表面要素に適用される収縮または膨張の変動量を表し、前記方法が
、WSSベクトルの発散に基づいて前記TSVIを計算することを備える、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記TSVIが、前記心周期内の対応する時点における瞬間的な発散と、前記心周期に渡る平均発散とに基づいている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記発散の負の値と正の値が、それぞれ
、対応する表面要素における収縮と膨張を示す、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記表面要素のそれぞれに対して、前記心周期に渡
るWSSベクトルの大きさを平均化することによって時間平均WSS(TAWSS)を計算するステップ
であって、前記WSS記述子が、時間平均WSS(TAWSS)である、ステップを、さらに、備える、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記MIインデックスを計算するステップが、前記WSS記述子、前記解剖学的パラメータ、および前記圧力パラメータの加重和を計算することを含む、請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記血管を、病変セグメント、上流セグメント、および下流セグメントに分割するステップを、さらに、備え、前記病変セグメントが、最小内腔面積(MLA)を有しそして近位境界および遠位境界によって区切られる血管の領域を含み、前記上流セグメントが、前記近位境界で前記血管の直径と所定の関係を有する近位長さだけ前記近位境界から近位方向に延在し、前記下流セグメントが、前記遠位境界で前記血管の直径と所定の関係を有する遠位長さだけ前記遠位境界か
ら遠位方向に延在する、請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記WSSが、軸方向成分と円周方向成分とを含むWSSベクトルを表す、請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記MIインデックスが、前記病変が破裂する前記尤度を表す、請求項1~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記WSS記述子を計算するステップが、さらに、
3D再構成を3Dボリューム・メッシュに変換するステップ、
少なくとも前記心周期の部分に対する境界条件に基づいて、前記3Dボリューム・メッシュ全体のボリューム要素での速度を得るために、数値流体力学を使用するステップ、
前記3Dボリューム・メッシュの表面に沿
う対応するボリューム要素でのWSSベクトルを計算するステップ、および
前記WSSベクトルに基づいて、前記WSS記述子を計算するステップ
を備える、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象血管が、単一の血管、分岐部、分岐血管、または血管ツリーの内の1つを表す、請求項1~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記冠動脈ツリーが、前記3D再構
成に含まれない分岐血管を含み、さらに、
前記患者固有の画像データから分岐血管を識別するステップと、
前記分岐血管を、前記対象血管の前記3D再構成上に投影するステップと、
前記分岐血管に近位の前記対象血管内の第1のフローを計算するステップと、
前記分岐血管から遠位の前記対象血管内の第2のフローを計算するステップと、
前記第1のフローと前記第2のフローの間の差を、前記分岐血管に割り当てるステップと、
前記差に基づいて、前記対象血管の表面に境界条件を割り当てるステップと、
を備え、
前記WSS記述子が、部分的に前記境界条件に基づいて計算される、
請求項1~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
プログラム命令を保存するメモリと、
前記プログラム命令を実行するときに、以下のステップ:
患者固有の画像データを取得するステップ;
前記患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップであって、前記対象血管が、病変を含む冠動脈ツリーのサブセットを表す、ステップ;
前記病変を含む3D再構成の一部に少なくとも部分的に基づいて、圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つを計算するステップ;
前記病変を含む前記血管の表面のセグメントに対して、前記3D再構
成に基づいて壁剪断応力(WSS)記述子を計算するステップであって、前記WSS記述子が、心周期の少なくとも一部の間の前記セグメント内の表面要素に適用される収縮または拡張の変動量に関する情報を含む、ステップ;並びに
前記WSS記述子および前記圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つに基づいて、心筋梗塞(MI)インデックスを計算するステップであって、前記MIインデックスが、前記病変がMIと言う結果になる尤度を表す、ステップ、
を実行するように構成されているプロセッサと
を備えるシステム。
【請求項17】
前記プロセッサが、さらに、前記セグメント内の対応する表面要素におけ
るWSSベクトルを計算し、そして前記WSSベクトルに基づいて前記WSS記述子を計算するように構成されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
境界条件が、前記3D再構成の近位側で前記心周期の少なくとも一部に渡る一組の速度プロファイルを表す入口条件を含む、請求項16または17に記載のシステム。
【請求項19】
提供される速度のセットからの第1の速度プロファイルが、前記心周期内の対応する運動量における、前記3D再構成の近位側での前記血管の断面に渡る速度プロファイルを表す、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記WSS記述子が、トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI)を含み、前記TSVIが、前記表面要素に適用される収縮または膨張の変動量を表し、前記プロセッサが、さらに
、WSSベクトルの発散に基づいて前記TSVIを計算するように構成されている、請求項16~19の何れか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記TSVIが、前記心周期内の対応する時点における瞬間的な発散と、前記心周期に渡る平均発散とに基づいている、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記発散の負の値と正の値が
、対応する表面要素での収縮と膨張を、それぞれ、示す、請求項20または21に記載のシステム。
【請求項23】
前記プロセッサが、さらに、前記心周期に渡
るWSSベクトルの大きさを平均化することによって、前記表面要素のそれぞれについて、時間平均WSS(TAWSS)を計算するように構成されてい
て、前記WSS記述子が、時間平均WSS(TAWSS)である、請求項16~22の何れか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記プロセッサが、さらに、前記WSS記述子、前記解剖学的パラメータ、および前記圧力パラメータの加重和を計算することによって、前記MIインデックスを計算するように構成されている、請求項16~23の何れか1項に記載のシステム。
【請求項25】
前記プロセッサが、さらに、前記血管を病変セグメント、上流セグメント、および下流セグメントに分割するように構成されていて、前記病変セグメントが、最小管腔面積(MLA)を有しそして近位境界および遠位境界によって区切られている前記血管の領域を含み、前記上流セグメントが、前記近位境界で前記血管の直径と所定の関係を有する近位長だけ近位境界から近位方向に延在し、前記下流セグメントが、前記遠位境界で前記血管の直径と所定の関係を有する遠位長だけ前記遠位境界から遠位方向に延在する、請求項16~24の何れか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記MIインデックスが、前記病変が破裂するであろう前記尤度を表す、請求項16~25の何れか1項に記載のシステム。
【請求項27】
前記プロセッサが、さらに、以下のステップ:
3D再構成を3Dボリューム・メッシュに変換するステップ;
前記心周期の少なくとも一部に対する境界条件に基づいて、前記3Dボリューム・メッシュ全体のボリューム要素での速度を取得するために、数値流体力学(CFD)を利用するステップ;
前記3Dボリューム・メッシュの前記表面に沿っ
た対応するボリューム要素でのWSSベクトルを計算するステップ;および
前記WSSベクトルに基づいて、前記WSS記述子を計算するステップ
により、前記WSS記述子を計算するように構成されている、請求項16~26の何れか1項に記載のシステム。
【請求項28】
前記対象血管が、単一の血管、分岐部、枝分かれした血管、または血管ツリーの内の1つを表す、請求項16~27の何れか1項に記載のシステム。
【請求項29】
前記冠動脈ツリーは、前記3D再構
成に含まれない分岐血管を含み、前記プロセッサが、さらに、次のステップ:
前記患者固有の画像データから分岐血管を識別するステップ;
前記分岐血管を前記対象血管の3D再構成上に投影するステップ;
前記分岐血管に近位の前記対象血管内の第1のフローを計算するステップ;
前記分岐血管から遠位の前記対象血管内の第2のフローを計算するステップ;
前記第1のフローと前記第2のフローの差を前記分岐血管に割り当てるステップ;および
前記差に基づいて前記対象血管の前記表面に境界条件を割り当てるステップであって、前記WSS記述子が、部分的に前記境界条件に基づいて計算される、ステップ
を実行するように構成されている、請求項16~28の何れか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医療画像処理の技術分野、特に、心筋梗塞の尤度を計算する経皮的インターベンションに関する。
【背景技術】
【0002】
急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)および心臓突然死は、冠動脈疾患の最初の症状となる可能性があり、そして世界人口の大多数の主な死因となっている。経皮的冠動脈インターベンション(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)および薬物療法は、冠動脈疾患(CAD:Coronary Artery Disease)を患う患者の予後を改善しているが、心筋梗塞は、依然としてCADの最も致命的な合併症であり、そしてほとんどの症例では軽度の閉塞性冠動脈病変からのプラーク破裂が原因で発生する。壁剪断応力(WSS:Wall Shear Stress)および圧力勾配の様な冠動脈内のレオロジ量は、プラークの不安定化のメカニズムに関与していると考えられて来ている。加えて、血管のリモデリングおよびアテローム性動脈硬化性プラークの表現型も、プラーク破裂の素因となる役割を果たしている。最後に、加えられた力が、プラーク強度を超えると破裂が発生する。壁剪断応力(WSS)は、血液と内皮の界面に作用する血行力学的刺激を表す。特定のWSSパターンは、アテローム性動脈硬化性病変の発生および脆弱な変化に関連している。低いWSSはアテローム性動脈硬化の進行に関連しているのに対し、高いWSSはプラーク破裂および血小板の活性化に関連している。同様に、心外膜病変に渡る圧力勾配は、急性冠症候群の独立した血行動態予測因子として認識されている。WSSおよび冠血流予備量比(FFR:Fractional Flow Reserve)は、何れも、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)シミュレーションを使用して侵襲的冠動脈造影から正確に導出することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2017/236,326号明細書(発明の名称:二次元血管造影投影の選択のためのユーザーガイダンスのための方法および装置)
【文献】米国特許第7,155,046号明細書(特許権者:Aben外、発明の名称:身体構造の物理的パラメータを決定する方法)
【文献】米国特許第8,155,422号明細書(発明の名称:複数の2D血管造影画像を使用した3Dでの定量的分岐分析のための方法、装置およびコンピュータ・プログラム)
【文献】米国特許第10229,516号(発明の名称:3D+時間再構成を改善する方法および装置)
【文献】米国特許出願公開第2016/739,718号明細書(発明の名称:動的冠動脈ロードマッピングのための方法およびシステム)
【文献】米国特許第9,576,360号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/438,955号明細書(特許権者:Bowman外、発明の名称:定量的血行力学フロー分析のための方法および装置)
【文献】米国特許出願公開第2015/971,275号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】Masdjedi外による「冠血流予備量比を計算するための3次元定量的冠動脈造影ベースのソフトウェアの検証:狭窄重症度の高速評価(FAST)-研究」、EuroIntervention : journal of EuroPCR in collaboration with the Working Group on Interventional Cardiology of the European Society of Cardiology. 2019
【文献】Pan外による「リアルタイムQRS検出アルゴリズム」、IEEE Transactions on Biomedical Engineering. BME-32 (3): 230-236
【文献】Dehkordi外による「診断と分析のための冠動脈血管造影図の最良のフレームの抽出」、J Med Signals Sens 2016;6:150-7
【文献】Ciusdel外による「冠動脈造影におけるECGの無い心相および拡張終期フレーム検知」、Computerized Medical Imaging and Graphics 2020 Sep;84:101749
【文献】Girasis外による「分岐部病変の高度な三次元定量的冠動脈造影評価:方法論とファントム検証」、EuroIntervention 2012 Mar;7(11):1326-35
【文献】Girasis外による「分岐部病変の高度な三次元定量的冠動脈造影評価:方法論およびファントム検証」、EuroIntervention 2013; 8: 1451-1460
【文献】Chen外による「シネ造影から再構築された4D冠動脈ツリーの運動学的および変形解析」、IEEE Transactions on medical imaging, Vol. 22, No. 6, June 2003 pp 710-721
【文献】Zheng外による「X線冠動脈血管造影シーケンスからの血管骨格の逐次再構築」、Computerized Medical Imaging and Graphics 34 (2010) 333-345
【文献】Lesage外による「3DCT造影からの冠動脈セグメンテーションのためのベイジアン最大パス」、MICCAI 2009, Part 1, LNCS 5761, pp 222-229
【文献】Kirissli外による「コンピュータ断層撮影血管造影における冠動脈狭窄検出、狭窄定量化、および内腔セグメンテーションアルゴリズムを評価するための標準化された評価フレームワーク」、Medical Image Analysis, vol. 17, no. 8, pp. 859-876, 2013
【文献】Dibildox外による「改善された画像誘導のための冠動脈CTAおよび複平面XA再構成の3D/3D位置合わせ」、Med Phys. 2014 Sep;41(9)
【文献】Baka外による「非剛体2D/3D冠動脈登録のための指向性ガウス混合モデル」、IEEE Trans Med Imaging. 2014 May;33(5):1023-34
【文献】Onuma外による「分岐部病変に対する新規の専用三次元定量的冠動脈解析方法論」、EuroIntervention 2011 Sep;7(5):629-35
【文献】Gronenschild E外による「CAAS II:オフラインおよびオンライン定量的冠動脈造影のための第2世代システム」、Cardiovascular Diagnosis 1994; 33: 61-75
【文献】Grisan外による「網膜血管屈曲度の自動評価のための新規な方法」、IEEE Transactions on Medical Imaging 2008 Mar;27(3):310-9
【文献】Griffiths外による「4D定量的大動脈動き分析:病変責任予想のための新規な方法」、international Journal of Cardiovascular and Cerebrovascular Disease 6(1): 7-12, 201
【文献】Gould外による「重大な冠動脈狭窄を評価するための生理学的基礎」冠血流予備力の尺度としての冠動脈充血時の瞬間的な血流反応と局所分布」、Am J Cardiol. 1974 Jan;33(1):87-94
【文献】Kirkeeide外による「薬理学的冠動脈拡張中の、心筋灌流画像化による冠動脈狭窄の評価」 VII. 全ての幾何学的次元を反映する狭窄重症度の単一の統合された機能的尺度としての冠血流予備力の検証」、J Am Coll Cardiol. 1986 Jan;7(1):103-13
【文献】Schoeberl外による「NETGEN:抽象ルールに基づいた進歩するフロント2D/3Dメッシュジェネレータ」、Computing and Visualization in Science 1:41-52, 1997
【文献】Marchandise外による「心臓血管流シミュレーションのための高品質オープンソースメッシュの生成」、Modeling of Physiological Flows, MS&A-Modeling, Simulation and Applications, Volume 5, 2012, pp 395-414
【文献】Niu外による「動的制御ポイントに基づく半径方向機能メッシュ変形」、Aerospace Science and Technology Volume 64, May 2017, Pages 122-132
【文献】Krams外による「アテローム性動脈硬化の発症を決定する要因としての内皮剪断応力と3D形状の評価並びに血管造影およびIVUS(ANGUS)からの3D再構成と計算流体力学を組み合わせた生体内でのヒト冠動脈のリモデリング」、Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, Vol 17, No 10, October 1997, pp 2061-2065
【文献】Zhang外による「自動冠動脈血流計算:冠動脈造影による定量的フロー比の検証」、The International Journal of Cardiovascular Imaging volume 35, pages 587-595 (2019)
【文献】Dodge外による「正常なヒト冠動脈の内腔直径の年齢、性別、解剖学的変化、および左、心室肥大または拡張の影響」、Circulation, Vol 86, No 1, July 1992 pp 232-246
【文献】van der Giessen外による「患者固有の冠動脈ツリーにおける壁剪断応力分布に対する境界条件の影響」、J Biomech 2011;44(6):1089-95
【文献】Murray外による「最小仕事の生理学的原理:I. 血管」)システムと血液量のコスト」、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 1926;12(3):207-14
【文献】Kassab外による「血管樹のスケーリング則:形態と機能」、Am J Physiol Heart Circ Physiol 2006;290(2):H894-903
【文献】Kim 外による「ヒト冠動脈における血流と圧力の患者固有のモデリング」、Ann Biomed Eng 2010;38(10):3195-209
【文献】Dadvand外による「開発のためのオブジェクト指向環境」、Arch Computat Methods Eng 17, 2010, pp 253-297
【文献】Krijger外による「脳底動脈モデルにおける定常三次元フローの計算」、J Biomechanics.. 1992;25:1451-1465
【文献】Sochi外による「血液循環における非ニュートンレオロジ」、2013年
【文献】Morbiducci外による「壁剪断応力トポロジー骨格は、頸動脈分岐部動脈内膜切除術後の長期再狭窄を独立して予測する」、Annals of Biomedical Engineering 2020; 1-14
【文献】De Nisco外による「生体力学特性に関連した上行胸部大動脈瘤血行動態の解読」、Med Eng Phys. 2020;82:119-29
【文献】Collet外による「冠動脈アテローム性動脈硬化のパターンを特徴付けるための充血引き戻し圧力勾配の測定」、J Am Coll Cardiology 2019 Oct 8;74(14):1772-1784
【文献】Saltelli外による「モデル評価を最大限に利用して感度インデックスを計算する」、Comput. Phys. Commun., vol. 145, no. 2, pp. 280-297, 2002
【文献】Saltelli外による「実際の感度分析。科学モデルを評価するためのガイド」、2004, ISBN 0-470-87093-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、破裂する傾向にある病変をより正確に特定する改良された方法およびシステムを必要とすることは、依然として残っている。プラーク応力を定量化し、プラーク破裂およびMIの信頼できる予測能力を提供するために、剪断ベースおよび圧力ベースの記述子および解剖学的パラメータを確実に組み合わせることが出来る方法およびシステムを必要とすることが、依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の新規かつユニークな態様により、コンピュータで実行される方法が記載されている。この方法は、患者固有の画像データを取得するステップと、患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップであって、対象血管が、病変を含む冠動脈ツリーのサブセットを表す、ステップと、病変を含む3D再構成の一部に少なくとも部分的に基づいて、圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つを計算する、ステップと、病変を含む血管の表面のセグメントに対して、3D再構成に基づいて壁剪断応力(WSS)記述子を計算するステップであって、WSS記述子が、心周期の少なくとも一部の間のセグメント内の表面要素に適用される収縮または拡張の変動量に関する情報を含む、ステップと、WSS記述子および圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つに基づいて心筋梗塞(MI)インデックスを計算するステップであって、MIインデックスが、病変がMIと言う結果になるであろう尤度を表す、ステップとを、備える。
【0007】
本明細書の態様によると、WSS記述子の計算は、セグメント内の対応する表面要素でWSSベクトルを計算することと、WSSベクトルに基づいてWSS記述子を計算することを備える。本明細書の態様によると、境界条件が、3D再構成の近位側で心周期の少なくとも一部に渡る一組の速度プロファイルを表す入口条件を含む。本明細書の態様によると、提供される速度のセットからの第1の速度プロファイルが、心周期における対応する運動量における3D再構成の近位側で血管の断面に渡る速度プロファイルを表す。本明細書の態様によると、WSS記述子は、トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI:Topological Shear Variation Index)を含み、TSVIは、表面要素に適用される収縮または膨張の変動量を表し、この方法は、WSSベクトルの発散に基づいてTSVIを計算することを備える。本明細書の態様によると、TSVIは、心周期内の対応する時点における瞬間的な発散と、心周期に渡る平均的な発散とに基づいている。本明細書の態様によると、発散の負の値と正の値は、それぞれ、対応する表面要素における収縮と膨張を示す。本明細書の態様によると、本方法は、表面要素のそれぞれについて、心周期に渡るWSSベクトルの大きさを平均化することによって時間平均WSS(TAWSS:Time-averaged Wall Shear Stress)を計算する。本明細書の態様によると、MIインデックスを計算することは、WSS記述子、解剖学的パラメータ、および圧力パラメータの加重和を計算することを含む。
【0008】
本明細書の態様によると、この方法は、さらに、血管を、病変セグメント、上流セグメント、および下流セグメントに分割するステップを備え、病変セグメントは、最小内腔面積(MLA:minimum lumen area)を有し、そして近位境界および遠位境界によって区切られる血管の領域を含み、上流セグメントは、近位境界で血管の直径と所定の関係を有する近位長さだけ近位境界から近位方向に延在し、下流セグメントは、遠位境界で血管の直径と所定の関係を有する遠位長さだけ遠位境界から遠位方向に延在する。本明細書の態様によると、WSSは、軸方向成分と円周方向成分を含むWSSベクトルを表す。本明細書の態様によると、MIインデックスは、病変が破裂するであろう尤度を表す。
【0009】
本明細書の態様によると、WSS記述子を計算するステップは、さらに、3D再構成を3Dボリューム・メッシュに変換するステップと、数値流体力学(CFD)を利用して、心周期の少なくとも一部の境界条件に基づいて、3Dボリューム・メッシュ全体のボリューム要素における速度を取得するステップと、
3Dボリューム・メッシュの表面に沿う対応するボリューム要素におけるWSSベクトルを計算するステップと、WSSベクトルに基づいてWSS記述子を計算するステップを、備える。
【0010】
本明細書の新規かつ独自の態様によると、プログラム命令を記憶するメモリとプロセッサを備えるシステムが提供される。このプロセッサは、プログラム命令を実行するときに、以下のステップ:患者固有の画像データを取得するステップ;患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップであって、対象血管が、病変を含む冠動脈ツリーのサブセットを表す、ステップ;病変を含む3D再構成の一部に少なくとも部分的に基づいて、圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つを計算するステップ;病変を含む血管の表面のセグメントに対して、3D再構築に基づいて壁剪断応力(WSS)記述子を計算するステップであって、WSS記述子が、心周期の少なくとも一部の間の前記セグメント内の表面要素に適用される収縮または拡張の変動量に関する情報を含む、ステップ;WSS記述子および圧力パラメータまたは解剖学的パラメータの内の少なくとも1つに基づいて、心筋梗塞(MI)インデックスを計算するステップであって、MIインデックスが、病変がMIと言う結果になる尤度を表す、ステップ、を実行するように構成されている。
【0011】
本明細書の態様によると、プロセッサは、さらに、セグメント内の対応する表面要素でWSSベクトルを計算し、そしてWSSベクトルに基づいてWSS記述子を計算するように構成されている。本明細書の態様によると、境界条件は、3D再構成の近位側で心周期の少なくとも一部に渡る一組の速度プロファイルを表す入口条件を含む。本明細書の態様によると、提供される速度のセットからの第1の速度プロファイルは、心周期における対応する運動量における3D再構成の近位側での血管の断面に渡る速度プロファイルを表す。本明細書の態様によると、WSS記述子は、トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI:topological shear variation index)を含み、TSVIは、表面要素に適用される収縮または膨張の変動量を表し、プロセッサは、さらに、WSSベクトルの発散に基づいてTSVIを計算する。本明細書の態様によると、TSVIは、心周期内の対応する時点における瞬間的な発散と、心周期に渡る平均的な発散とに基づく。本明細書の態様によると、発散の負の値と正の値は、それぞれ、対応する表面要素における収縮と膨張を示す。
【0012】
本明細書の態様によると、プロセッサは、さらに、心周期に渡るWSSベクトルの大きさを平均化することによって、表面要素のそれぞれについて時間平均WSS(TAWSS:time-averaged WSS)を計算するように構成されている。本明細書の態様によると、プロセッサは、さらに、WSS記述子、解剖学的パラメータ、および圧力パラメータの加重和を計算することによってMIインデックスを計算するように構成されている。本明細書の態様によると、プロセッサは、さらに、血管を病変セグメント、上流セグメント、および下流セグメントに分割するように構成されていて、病変セグメントが、最小管腔面積(MLA)を有しそして近位境界および遠位境界によって区切られている血管の領域を含み、上流セグメントが、近位境界で血管の直径と所定の関係を有する近位長だけ近位境界から近位方向に延在し、下流セグメントが、遠位境界で血管の直径と所定の関係を有する遠位長だけ遠位境界から遠位方向に延在する。
【0013】
本明細書の態様によると、MIインデックスは、病変が破裂する尤度を表す。本明細書の態様によると、プロセッサは、さらに、以下のステップ:3D再構成を3Dボリューム・メッシュに変換するステップ;心周期の少なくとも一部に対する境界条件に基づいて、3Dボリューム・メッシュ全体のボリューム要素での速度を取得するために、数値流体力学(CFD)を利用するステップ;3Dボリューム・メッシュの表面に沿った対応するボリューム要素でのWSSベクトルを計算するステップ;WSSベクトルに基づいてWSS記述子を計算するステップにより、WSS記述子を計算するように構成されている。
【0014】
本発明の特徴およびそれから得られる利点は、添付の図面に示される非限定的な実施形態の以下の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態によるフローチャートを示す。
【
図2】例示的なシングル・プレーン血管造影システムの機能ブロック図を示す。
【
図3】第1の画像フレームを取得するための例示的なワークフローのスクリーン・ショットを示す図である。
【
図4】3D再構成を実行するために必要な輪郭の方法のフローチャートを示す。
【
図5】投影ガイダンスを備えた例示的なワークフローのスクリーン・ショットを示す図である。
【
図6】取得された第2の画像フレームを含む例示的なワークフローのスクリーン・ショットを示す図である。
【
図7】内腔境界およびエピ極性線を含む例示的なワークフローのスクリーン・ショットを示す図である。
【
図8】冠動脈分岐部の3D再構成を生成するための例示的なワークフローのスクリーン・ショットを示す図である。
【
図9】3D再構成から抽出された解剖学的パラメータの例を示す図である。
【
図10】石灰化プラークの量を測定するための高レベルの方法を示す。
【
図11】3D再構成に沿って圧力降下を決定するための高レベルの方法を示す。
【
図12】WSS記述子を計算する方法のフローチャートを示す。
【
図14】3Dボリューム・メッシュおよび境界層を示す図である。
【
図15】流体の動きを記述する式を解く方法を高レベルで示す図である。
【
図16】入口に適用される血流速度プロファイルのいくつかの例を示す。
【
図17】本発明の一実施形態によるX線映画透視撮影ユニットのブロック図の一例を示す図である。
【
図19】X線血管造影画像に基づく2つのフレームにおける造影剤ボーラス・フロント検出の例を示す。
【
図20】分岐血管における出口境界条件を示す図である。
【
図21】3Dボリューム・メッシュの表面上のWSSベクトルの例を示す。
【
図22】WSSベクトルを計算する方法の図を示す。
【
図23】対象血管からのセグメント定義の例を示す。
【
図26】心筋リスク・インデックスを計算するステップの概要を示す。
【
図27】MIリスク・インデックスが色オーバーレイとして内腔表面に重ね合わされた冠状血管の例を示す。
【
図28】分析から得られたWSS結果を示すワークフローのスクリーン・ショット例を示す図である。
【
図29】色マップとして3D再構成に重ねられたWSS記述子を示す。
【
図30】複数のX線血管造影画像からの3D冠動脈ツリー再構成の一部を示す。
【
図31】X線血管造影画像内でセグメント化された血管の分岐血管を示す図である。
【
図32】3D再構成内の分岐血管を特定し、分岐血管のフロー減少を推定するための方法のフローチャートを示す。
【
図33】X線血管造影画像内のセグメント化された血管内に存在する分岐血管を定義する方法の図を示す。
【
図34】3D再構成時にX線画像シーケンス上で特定された分岐血管の位置を定義する例を示す。
【
図35】3D再構成の表面に分岐血管を配置する方法の例を示す。
【
図36】各側枝のフロー減少を推定する方法の図を示す。
【
図37】抽出された幾何学的情報を通る直線をフィットさせることによって健常血管の推定値を定義する例を示す。
【
図38A】指定された幾何学的情報を通る直線をフィットさせることによって健常血管の推定値を定義する例を示す。
【
図38B】指定された幾何学的情報を通る直線をフィットさせることによって健常血管の推定値を定義する例を示す。
【
図39】参照位置を通る直線をフィットさせることによって健常血管の推定値を定義する例を示す。
【
図40】分岐血管をボリューム・メッシュに組み込む方法の図解とCFD計算の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載されるシステムおよび方法の実施形態は、ハードウェアまたはソフトウェア、またはその両者の組み合わせで実装させることが出来る。しかしながら、好ましくは、これらの実施形態は、それぞれが、少なくとも1つのプロセッサ、(揮発性および不揮発性メモリおよび/または記憶要素を含む)データ記憶システム、少なくとも1つの入力デバイス、および少なくとも1つの出力デバイスを備えるプログラマブル・コンピュータ上で実行されるコンピュータ・プログラムで実装される。例えば、プログラマブル・コンピュータは、これらには限定されないが、パーソナル・コンピュータ、ラップトップ、携帯情報端末、および携帯電話としても良い。プログラム・コードは、入力データに適用され、そして本明細書に記載される機能を実行し、そして出力情報を生成する。出力情報は、既知の方法で、1つまたは複数の出力デバイスに適用される。
【0017】
各プログラムは、コンピュータ・システムと通信するために、高レベルの手続き型またはオブジェクト指向プログラミングおよび/またはスクリプト言語で実装されることが好ましい。しかしながら、必要に応じて、プログラムは、アセンブリ言語または機械語で実装させることも出来る。何れの場合にも、言語は、コンパイル言語またはインタプリタ言語とすることが出来る。コンピュータが、記憶媒体またはデバイスが読み取って、本明細書に記載されるステップを実行するときに、コンピュータを構成および動作させるために、このような各コンピュータ・プログラムは、汎用または専用のプログラマブル・コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体またはデバイスに記憶されることが、好ましい。このシステムは、コンピュータ・プログラムで構成されたコンピュータ可読記憶媒体として実装されると考えても良い。この場合、そのように構成された記憶媒体は、コンピュータを特定の事前定義された方法で動作させて、本明細書に記載される機能を実行させる。
【0018】
画像または画像フレームという用語は、単一の画像を指し、そして画像シーケンスまたは画像ストリームという用語は、安定した視点を使用して時間に渡って取得された複数の画像を指す。X線血管造影画像シーケンスは、造影剤投与を含むことができ、そして造影剤投与に先立つ画像フレームは、造影剤を含まず、従って血管系の強調も行われないであろう。X線血管造影画像シーケンスは、心周期の1つまたは複数の位相をカバーする複数の画像フレームを含むことが出来る。血管造影投影、画像投影、または患者固有の画像データは、(取得中には変化しないCアームの特定の回転と角度を使用するX線血管造影の場合)単一の視点を使用して取得された画像シーケンスを指す。この特許出願全体を通じて、心周期は特許に固有であり、患者の1つの心拍をカバーする期間として定義される。心周期は、患者の心電図(ECG:electrocardiogram)信号内の連続するRトップ間の期間として定義することが出来る。位相とは、患者の心周期内の時点(または期間)を指す。
【0019】
本明細書の新規かつユニークな態様によると、共通のソフトウェア・パッケージに相互に完全に統合される1つまたは複数のソフトウェア・アプリケーションを使用して、従来の血管造影法から得られる全ての分析を実行する実施形態が、記載されている。本出願以前の従来のシステムは、3次元再構成を実行および管理するための1つのソフトウェア・パッケージ、メッシュ作成を管理するための別のソフトウェア・パッケージ、メッシュ作成を管理するための別のソフトウェア・パッケージおよび流体力学シミュレーションを実装するためのさらに別のソフトウェア・パッケージの様な、操作のサブセットを実行するために別個の独立したソフトウェア・パッケージを利用していた。加えて、従来のアプローチでは、個別のソフトウェア・パッケージのそれぞれは、血管生物学の分野の個別の工学専門家によるサポートが必要であった。
【0020】
本明細書の新規かつユニークな態様によると、WSSの計算を臨床医に近づけ、そして日常的な臨床診療におけるWSS分析の導入の実現可能性を高める方法およびシステムが、記載される。
【0021】
概要
心筋梗塞は、依然として冠動脈疾患(CAD)の最も致死性の高い合併症であり、ほとんどの場合、軽度の閉塞性病変からのプラーク破裂が原因で発生する。壁剪断応力(WSS)および圧力勾配の様な冠動脈内のレオロジ量は、プラークの不安定化のメカニズムとして関与していると考えられて来た。加えて、血管のリモデリングとアテローム性動脈硬化性プラークの表現型も、プラーク破裂の素因となる役割を果たしている。最後に、加えられた力がプラーク強度を超えると破裂が発生する。WSSは、血液と内皮の境界面で作用する血行力学的刺激を表す。特定のWSSパターンは、アテローム性動脈硬化性病変の発生と脆弱な変化に関連している。低いWSSが、アテローム性動脈硬化の進行と関連しているのに対し、高いWSSは、プラーク破裂および血小板の活性化に関連している。同様に、心外膜病変に渡る圧力勾配は、急性冠症候群の独立した血行動態予測因子として認識されている。WSSと冠血流予備量比(FFR)は、両者とも、数値流体力学(CFD)シミュレーションを使用して侵襲的冠動脈造影から正確に導出することが出来る。
【0022】
破裂する傾向にある病変を特定することにより、CAD患者の医療管理を個別化することが出来る。プラーク応力を定量化するために剪断ベースの記述子と圧力ベースの記述子を組み合わせることは、プラーク破裂と心筋梗塞を予測する可能性があることを証明することができる。本研究の目的は、MIになる傾向にある病変を特定するために、冠動脈造影とCFDに基づいて、包括的な血行力学評価の潜在的な有用性を評価することである。
【0023】
本明細書における新規かつユニークな態様によると、数値流体力学(CFD)および壁剪断応力(WSS)記述子を利用して、将来の潜在的な心筋梗塞(MI)の尤度を計算する方法およびシステムが、記載されている。ここでの新規かつユニークな態様に従って、約6885人のMI患者の患者集団が分析された。これらの患者の内80人は、三次元冠動脈再構築に適した侵襲性血管造影を既に受けていた。定量的冠動脈血管造影(QCA:Quantitative Coronary Angiography)、血管造影に由来する血流予備量比(vFFR)および壁剪断応力(WSS)が、76の将来の責任病変と102の非責任病変(制御)において分析された。内皮と血流の相互作用は、時間平均壁剪断応力(TAWSS)とトポロジカル剪断変動インデックス(TSVI)という2つのWSS記述子によって評価された。患者の平均年齢は70.3±12.77歳で、患者の29%が女性であった。
【0024】
侵襲的冠動脈カテーテル治療のために入院した急性心筋梗塞を呈する患者が、(1)インデックス・イベントより前の1か月から5年の間に行われた以前の冠動脈造影検査(以下、ベースライン血管造影と呼ぶ)を受けていた者、(2)ベースライン血管造影で将来のMIに対し視覚的に特定可能な軽度の病変(視直径が50%以下の狭窄)責任を有する者、および(3)他の2つの主要な、心外膜血管の少なくとも1つに少なくとも1つの追加の非責任病変(NCL:Non Culprit Lesion)があった者に、特定するためにスクリーニングされた。従って、各患者はそれ自身の制御として機能した。患者を除外した基準は、冠動脈バイパス移植(CABG:Coronary Artery Bypass Graft)後の状態、ステント内再狭窄または血栓症の結果としてのMI、血管造影で特定可能な冠状病変、入口部病変、または分岐血管径が2mm以上の冠状分岐部を伴う病変であった。急性イベントの前に複数の冠動脈造影検査が行われた場合には、最新の血管造影検査が分析のために選択された。
【0025】
将来の責任病変(FCL:Future Culprit Lesion)とNCLが、ベースライン血管造影で特定された。病変の判定(FCLとNCLの両者について)は、MIの位置情報無しに行われた。続いて、FCLとNCLの両者の冠動脈造影から得られた3次元再構成が、血流シミュレーションのために、生成された。
【0026】
本明細書おける新規かつユニークな態様によると、責任病変は、非責任病変(全てp<0.05)と比較して、より高い面積狭窄率(%AS:percent area stenosis)、デルタ病変vFFR、TAWSSおよびTSVIを示すことが判明した。また、MIの予測においてTSVIが、TAWSSよりも優れていることも判明した(AUCTSVI=0.75、95%CI 0.69-0.81 対 AUCTAWSS=0.61、95% CI 0.55-0.67、p<0.001)。TSVIの追加により、予想外に予測能力が大幅に増加し、そしてTSVIは、%ASおよびデルタ病変vFFRに基づくモデルに比較して再分類能力も予想外に大幅に増加した(正味再分類の改善=1.04、p<0.001、相対的な統合識別改善=0.21、p<0.001)。
【0027】
ここで得られた予想外の結果に基づいて、QCAベースのCFDを使用して将来のMIの責任病変を特定するために、新しくユニークな方法とシステムが、導出されて来た。実施形態は、管腔狭窄、圧力勾配、およびWSS記述子の重み付けされた組み合わせを利用して、MIの発生の尤度または予測を示すMIインデックスを導出する。心臓周期に沿った内皮に対する剪断力の収縮および拡張作用の変動を記載するWSSベースの記述子に部分的に基づいてMIインデックスを計算した場合、破裂する傾向にある病変を特定するためのMIインデックスの精度が、予想外に大幅に向上した。
【0028】
本明細書に記載されるように、三次元定量的冠動脈造影(3D-QCA)再構成は、第1ステップとして、CAAS Workstation WSSソフトウェア(Pie Medical Imaging社、オランダ、マーストリヒト)を使用して、少なくとも30度離れた2つの血管造影ビューを使用して実行された。自動内腔輪郭検出が有効にされ、そして必要に応じて手動で修正された。3D冠動脈再構成には、最小内腔直径(MLD)から少なくとも近位側20mm、および遠位側20mmが、含まれる。3D冠動脈再構成を使用して、CFDシミュレーションが、心周期に沿ったWSS分布を定量する有限要素ベースのコード(CAAS Workstation WSSプロトタイプソフトウェア、Pie Medical Imaging社)を使用して実行された。流入境界条件は、患者固有の平均フローに基づいて規定された。詳しくは、右冠動脈と左冠動脈に固有の一般的なドップラー速度曲線は、患者固有の管腔直径を使用して直径依存のスケーリング則を適用することによってスケーリングされ、そして流入境界での放物線速度プロファイルの観点から規定された。参照圧力が、出口境界条件として加えられた。血管の壁は硬いと仮定し、そして壁の境界に滑り止め条件が適用された。血液は、密度が1050kg/m3、動粘度が0.0035Pa・sである均質な非圧縮性のニュートン流体であると仮定された。
【0029】
30個の冠動脈モデルが、ランダムに選択され、そしてCAAS Workstation WSSプロトタイプソフトウェアの再現性を評価するために解析が繰り返された。
【0030】
3D-QCAおよび血管造影由来の血流予備量比(vFFR)は、WSS計算用に選択された同じ血管造影投影に対してCAAS Workstation vFFRソフトウェア(Pie Medical Imaging社)を使用して、取得された。解剖学的記述子には、狭窄の面積と直径のパーセンテージ(%AS)、最小管腔面積(MLA)と直径、参照血管直径、病変の長さ、入口部からのMLAの距離が、含まれていた。遠位vFFR、病変全体の圧力勾配、つまり、デルタ病変vFFR(または病変vFFR)、および血管の遠位部分における水銀柱ミリメートル(mmHg)での絶対圧力降下、つまり、遠位圧力勾配は、非特許文献1に記載されているように抽出された。
【0031】
内皮に対する剪断力の作用は、心周期に沿ったWSSの大きさの局所値を平均化することによって得られる、標準的なWSSベースの血行動態量時間平均壁剪断応力(TAWSS)を使用して定量化された。ここでは、TAWSSの定義と、低TAWSSと高TAWSSに対応する2つの可能なフローレジームの説明例が、提示されている。加えて、剪断力によって内皮に及ぼされる作用は、内皮表面に沿ったWSSの収縮/拡張領域を特定することによってさらに特徴付けられた。数学的には、WSSベクトル場の収縮/拡張が生じている内皮表面積は、WSS単位ベクトル場(DIVWSS)の発散により特定させることが出来る。負/正のDIVWSS値は、WSSの縮小/拡張領域を識別する。量トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI)は、心周期に沿ってWSSが発生させる収縮/拡張の局所作用の変動性の尺度として使用された。技術的には、TSVIは、心周期に渡る平均に対する単位WSSベクトル場の瞬時発散の二乗平均平方根偏差として定義される。
【数1】
ここで、Tは心周期の持続時間で、上付ラインは時間平均量を示す。定義上、TAWSSはパスカルで表され、TSVIはm
-1で表される。内皮細胞が経験する低TSVIおよび高TSVIに対応する心周期に沿った2つの可能なWSSベクトル場の構成の説明的な例が、本明細書に提示されている。
【0032】
各冠状血管は、3つのセグメント:(1)最小内腔面積(MLA)を含むセグメントとして定義され、そして面積関数線と補間された参照線の交点によって近位および遠位が区切られる病変、(2)病変の近位境界の直径の3倍の長さを有する上流セグメント、および(3)病変の遠位境界の直径の3倍の長さを有する下流セグメント、に分割された。TAWSSとTSVIは、病変、上流および下流セグメントの平均値として表示される。
【0033】
全ての統計分析は、FCLおよびNCL病変の特徴を比較するために、病変ごとに実行された。正規分布の連続変数は、平均±標準偏差(SD:Standard Deviation)として表示され、非正規分布変数は、中央値(四分位範囲、IQR:Inter-Quartile Range)として表示される。カテゴリ変数は、パーセンテージとして表示される。カテゴリ変数の比較にはカイ二乗(Chi-squared)テストが使用され、連続変数の比較にはスチューデント(Student)のt(または必要に応じてマン・ホイットニー(Mann-Whitney)テスト)が使用された。多重共線性は、許容誤差と分散膨張係数(VIF: Variance Inflation Factor)を調べることによって評価された。連続的な血行力学パラメータは、最適なカットオフ値に基づいてバイナリ変数に変換された。血管造影パラメータ、機能パラメータ、およびWSSパラメータの最良のカットオフ値は、受信オペレータ特性(ROC:Receiving Operator Characteristics)曲線分析を使用して計算された。WSS記述子(TAWSSおよびTSVI)の予測能力は、C統計を使用して評価され、そしてDeLong法を使用して比較された。MIを予測するためのより強力なWSS予測子が、%ASおよび圧力勾配に対するWSSの増分予測値を評価するために使用された。その後の心筋梗塞に関連する責任病変における血行動態パラメータの増分識別および再分類能力を決定するために、3つの予測モデルが、構築された。解剖学に基づくモデルは、狭窄面積率(%AS)に基づいている。続いて、病変vFFRが、追加され(モデル1=%ASおよび病変vFFR)、そして最後に、WSSが、TAWSS(すなわち、モデル2=%AS、病変vFFRおよびTAWSS)およびTSVI(モデル3=%AS、病変vFFRおよびTSVI)を使用して、先ず、一体化された。識別能力は、C統計によって評価され、そして各モデルの再分類パフォーマンスは、カテゴリーフリーのネット再分類インデックス(NRI:Net Reclassification Index)と相対統合識別改善(IDI:Integrated Discrimination Improvement)を使用して比較された。WSSの再現性は、クラス間係数(ICC:Interclass Coefficient)分析で評価された。全ての分析は、R統計ソフトウェア(R Foundation for Statistical Computing社、ウィーン、オーストリア)を使用して実行された。
【0034】
2008年1月から2019年12月までに、3つの参加施設で6885人の患者が、急性MIのために冠動脈カテーテル治療を受け、775人(11.3%)の患者が、以前に血管造影を受けており、そのうち80人(血管n=190;2.37±0.47血管/患者)が含まれていた。患者の平均年齢は、70.3±12.7歳で、そして28.7%が女性であった。心筋梗塞発生時、76.3%がアスピリンを、90.0%がスタチンを投与されていた。患者の65%が、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI:Non-ST Elevation Myocardial Infarction)を示し、35.0%が、STEMIを示した。経皮的冠動脈インターベンションは、症例の97.5%(78/80)で実施された。責任病変は、LADの症例の43.75%、LCXの症例の28.75%、RCAの症例の27.5%に位置していた。ベースラインとインデックス血管造影の間の時間の中央値は、25.9(IQR21.9-29.8)か月であった。vFFR解析は、94.7%(n=76の患者、180血管)で実行可能であったが、WSS解析は、98.9%の血管(n=80の患者、188血管)で実行可能であった。
【0035】
FCL(n=76)とNCL(n=104)の血管造影の特徴。%ASは、FCLグループの方が有意に高かった(63.58±12.49 対 56.010.4±12.38、p<0.001)。遠位vFFRは、NFCと比較してFCLで低かった(0.81±0.12 vs. 0.86±0.08、p=0.001)。一方、病変vFFRは、NFC(p=0.001)で17.59±11.86mmHg 対 12.72±7.9mmHgの圧力降下を有するNFC(0.11±0.09 vs.0.07±0.06、p<0.001)と比較して、FCLで、より高かった。%ASと病変vFFRは、両者とも、MIについて中程度の予測能力を示した(%AS AUC 0.61、95%CI 0.54~0.68、p=0.001、および病変vFFR AUC 0.58、95%CI 0.52~0.64、p=0.002)。%AS(モデル1)に病変vFFRを追加すると、MIの発生の予測性能が向上した(モデル1 AUC 0.64、95%CI 0.57~0.72、p=0.051)。
【0036】
WSSベースの記述子(つまり、TAWSSおよびTSVI)は、188個の血管(FCL n=80;NCL=108)で取得された。TAWSSおよびTSVIは、病変レベルでFCL群の方が有意に高かった(それぞれ、4.58Pa FCL 対 3.38PaNFC、p=0.01および89.0m-1 FCL 対 49.12m-1NFC、p<0.0001)。2つのWSSベースの記述子は、統計的に、有意なMIの予測能力を示した(TAWSSAUC 0.61、95%CI 0.55~0.67、p<0.001 およびTSVIAUC 0.75、95%CI 0.69~0.81、p<0.001)。TAWSSとTSVIの最良のカットオフ値は、それぞれ、5.01Paと40.5m-1であった。TSVIは、TAWSSと比較して、有意に強い予測能力を示した(p<0.001)。WSS分析の再現性は、優れていた(TAWSSICC 0.98、95%CI 0.95~0.99そしてTSVIICC 0.96、95%CI 0.91~0.98)。
【0037】
解剖学的、圧力、およびWSSベースの変数は、188個の血管(FCL=80およびNCL=108)で利用できた。解剖学的モデル(%AS)と比較して、病変vFFR(モデル1)を含めることは、判別能力を向上させた(%ASAUC 0.61、95%CI 0.54~0.68 対 モデル1AUC 0.64、95%CI 0.57~0.72、p=0.05)が、その後のMIの責任病変を特定するための再分類能力(NRI:-0.13、p=0.39)には有意な改善はみられなかった。TAWSSの追加は、再分類能力の改善と識別の改善(NRI:0.46、95%CI0.22~0.7、p<0.001および相対IDI:0.05、95%CI0.01~0.08、p=0.006)を伴い、FCL検出の予測能力の非有意な増加を実証した(モデル1AUC 0.64、95%CI 0.57~0.72 対 モデル2AUC 0.69、95%CI 0.61~0.76; p=0.058)。モデル1へのTSVIへの追加は、増分再分類および識別能力(NRI:1.04、95%CI 0.8~1.29、p<0.001;IDI:0.21、95%CI 0.15~0.27、p<0.001)によりMIの予測能力が大幅に向上することを示した(モデル1 AUC 0.64、95%CI 0.57~0.72 対 モデル3 AUC 0.79、95%CI 0.73~0.86; p<0.001)。
【0038】
本明細書の実施形態は、将来のMIの責任病変を特定するための、侵襲性冠動脈造影に基づく包括的なCFD評価を提供する。責任病変は、非責任病変に比べて、より広い範囲の狭窄、より高い圧力勾配、およびより高いTAWSSおよびTSVIを持つ。解剖学的狭窄重症度、圧力勾配およびWSSベースの記述子を統合した予測モデルは、解剖学的構造および圧力勾配に基づくモデルと比較して、将来の心筋梗塞の責任病変を特定する際の識別および再分類能力の向上を示した。QCAベースのソフトウェア・アプリケーションは、標準的な血管造影画像からWSSを計算しそして破裂の危険性のある病変を特定するのに役立つことを証明した。WSSベースの記述子TSVIは、将来のMIに対する強力な予測能力を示した。
【0039】
プラークの脆弱性とプラーク破裂のリスクは、過去30年間に渡り、心臓血管医学における広範な研究の焦点となって来た。初期の観察は、プラークの脆弱性を、脂質が豊富なアテローム性プラークおよび薄冠線維アテローム(TCFA:Thin-Cap Fibroatheroma)に関連付けていた。血管内画像に基づく研究が、主要な心血管イベントの予測因子として、TCFA、プラーク負荷量≧70%(PB)、および4mm2未満のMLAの様ないくつかの脆弱性マーカの特定に導いた。脂質コア負荷を統合した近赤外分光法(NIRS:Near-InfraRed Spectroscopy)も、MIの発生に関する予後情報を伝えることを示した。それにもかかわらず、これらの「高リスクプラーク」の大部分は、プラークの有害な特徴とMIとの関連にもかかわらず、時間の経過とともに静止状態になり、これは、脆弱性プラークの概念に疑問を投げかけている。最近、有害なプラークの特徴と圧力降下および剪断応力の様なレオロジ因子を組み合わせることが出来る冠動脈コンピュータ断層撮影血管造影法(CCTA)を使用して、EMERALD研究が、血行動態の特徴を統合することにより、破裂する尤度が、高い病変の特定に付加価値を与えることを実証した。従って、管腔狭窄、プラーク表現型、有害な血行力学的特徴(例:圧力降下および剪断応力)、および患者のリスクプロファイル(例:真性糖尿病、残存炎症リスク)を統合した拡張アプローチが、提唱されて来ている。本研究は、プラーク破裂とそれに続く心筋梗塞のリスクに関し、内皮にかかる力の寄与を理解することを目的として、解剖学的記述子と血行力学的記述子を組み合わせた。病変は、明白な臨床イベントに従って責任と非責任に分類され、そしてNCLが内部制御部として機能するので、これは、本質的な生物学的変動を記載する。以前の研究とは対照的に、責任の基準は、臨床的に関連するエンドポイント(つまり、MI)を参照したが、これは、解剖学的プラークの進行および標的血管の血行再建の様なよりソフトなエンドポイントに関連するバイアスを、最小限に抑える。さらに、MIの発生は、予後に重要な意味を持つ。
【0040】
解剖学的病変の重症度(%AS)と血流シミュレーションから導出された病変全体の圧力降下(病変vFFR)は、将来の原因を検出する上で、僅かではあるが、重要な能力を持っていた。これら2つの特徴は、MIの発生予測性能が向上したことを示した。この研究は、さらに、血液と内皮の界面における流体力の作用を調査した。流れる血液によって内皮細胞の管腔内表面に伝わる剪断力は、局所恒常性を調節する点と、プラークの不安定化と血小板およびフォン・ヴィレブランド(Von Willebrand)因子の活性化に関連する炎症誘発性プラーク表現型と言う結果になる点において、中心的な役割を果たす。これまでの研究では、低い(<1.5Pa)TAWSSは、内皮機能不全およびプラークの進行に関連し、他方、高い(>4.71Pa)アテローム硬化性プラークの近位セグメントのTAWSSは、プラーク破壊とMIを予測することが、示されて来ている。より最近では、3mmの血管セグメントに渡る4.95Paを超える最大TAWSSが、血行再建を必要とする重大で有害な心血管イベントを独立して予測することが、判明した。また、我々は、TAWSSとFCLの間に、中程度の識別能力(TAWSSAUC=0.61、95%CI0.55~0.67、p<0.001)と以前のレポートと同様のカット(つまり、 5.01Pa)を有する、有意な関連性(4.58Pa対3.38Pa、p=0.01)があることを見出した。EMERALD研究およびFAME 2WSSサブ解析とは対照的に、我々の研究コホートでは、血行動態的に重要な病変の割合で示されるように、機能的病変の重症度は低かった(EMERALDおよびFAME 2では、それぞれ、20.5%対49%対100%)。この発見は、軽度の病変を層別化し、従って予防および治療戦略を調整する際の現在のアプローチの潜在的な有用性を強調する。
【0041】
加えて、WSSベクトル・フィールド・スケルトンの特徴(つまり、TSVI)とMIの発生との間の関連性が、調査された。TSVIは、血管壁に流体力が及ぼす収縮/拡張作用、つまり、心周期に沿って内皮にWSSが及ぼす押し/引き作用を表す。TSVIは、以前は、頸動脈および冠動脈における壁近くの物質輸送に関連することにより、プラークの進行に関連付けられていた。本研究では、TSVIが、標準的なTAWSSを上回り、そして%ASおよび病変vFFRを含む解剖学的機能モデルに統合された場合、再分類および識別能力が大幅に向上した。これを機構的な意味に変換すると、(TSVIによって定量化された)内皮に対するWSSの収縮/拡張作用の高い時間的変動は、狭窄領域(%AS)およびプラーク上の血行力学的歪み(病変vFFR)が組み合わされて、時間の経過とともに、臨床アウトカムにインパクトを与える繊維状キャップの脆弱性、病気の加速進行およびプラーク破裂と言う結果になる可能性がある。この仮説は、更なる調査を保証する。
【0042】
本明細書の実施形態は、(1)圧力減衰プロファイル、(2)血管周囲度当たりの瞬間的なWSSベクトル、(3)TSVI、新規記述子、WSSベクトル・フィールド・スケルトンを含む、心外膜病変の包括的な生理学的評価を提供する。
【0043】
解剖学的病変の重症度および血管に沿った圧力降下は、MIにつながる冠動脈病変を特定する上で中程度の能力を示した。冠動脈造影とCFDから得られたWSSベースの記述子 (TAWSSおよびTSVI)に機能評価を拡張したことにより、MIに対する予測能力が向上した。正規のWSSベースの記述子であるTAWSSは、将来のMIの責任病変を特定することができたが、予測能力はそれほど高くはなかった。対照的に、心周期およびトポロジーに依存する剪断応力変動の不均一性に基づくTSVIは、将来のMIを強く予測した。
【0044】
システム
図1からわかるように、ワークフローは、いくつかのステップで構成されている。先ず、患者固有の画像データが、
図1のステップ101に記載されるように取得される。患者固有の画像データは、X線冠動脈造影中に取得される。これは、PCIインターベンションの一般的なステップである。X線冠動脈造影中に得られる患者固有の画像データの内、
図3のステップ301および
図4のステップ401に見られるように、対象となる冠状血管が明確に見える1つの画像シーケンスが、臨床医によって選択される。次いで、システムは、
図4のステップ402に記載されるように、分析を開始するために、画像シーケンス内の選択された(例、最適な)フレームを自動的に定義する。画像シーケンスは、心周期の1つまたは複数の位相をカバーする複数のフレームを含む。さらに、取得中のある時点で造影剤の注入が、開始され、これにより、冠状血管が視覚的に強調される。選択フレームは、造影液体が存在する冠動脈の動きが最小であるフレームとして定義される。選択フレームは、例えば、
図3の参照302として示される、医療におけるデジタル画像および通信(DICOM: Digital Imaging and Communications in Medicine)ファイルの「ヘッダ」により利用可能な信号である、患者のECG信号(存在する場合)を使用して、決定することが出来る。ECG信号内の特定の特徴(この場合はrトップ)の検出は、例えば、非特許文献2によって教示されているように実行させることが出来る。選択フレームは、2つの連続するrピーク間のパーセンテージとして定義することが出来る。この割合は、通常75%である。シーケンス内で、造影剤が注入される前と造影剤が注入された後とでは、グローバル・フレーム画像の強度は、異なる。シーケンスの開始時のフレームは、相対的に高い平均ピクセル強度を示すが、造影剤の注入後のフレームは、相対的に低い平均ピクセル強度を示す。これは、X線放射線が、注入された造影剤に吸収されると、ピクセル値が降下するためである。選択フレーム(造影液体が存在する、冠動脈の動きが最も少ないフレーム)の選択によって、この動作は、考慮に入れることが出来る。ECG信号が存在しない場合、例えば、非特許文献3、または非特許文献4によって教示されているように、選択フレームは、機械学習技術に基づいて識別することが出来る。
【0045】
この選択フレームでは、
図4のステップ403に記載されるように、対象となる冠状血管の内腔境界が検出される。この検出は、例えば、臨床医が、対象血管内の近位端ポイントと遠位端ポイントを特定して、半自動的に行うことが出来、そして血管ツリーの場合には各血管分岐部の遠位端ポイントが、検出され、そしてプロセッサが、例えば、非特許文献5に記載されているように、内腔境界を自動的に検出する。検出された内腔境界は、
図5のステップ501で見ることが出来る。オプションとして、臨床医は、必要に応じて、検出された内腔境界を修正することが出来る。
【0046】
標準的なPCI処置または診断用X線血管造影中の臨床医にとって困難な事の1つは、正確な3D再構成の画像を生成するために使用される第1の画像シーケンスと組み合わせて所望の(例、最適な)第2の画像投影を選択することである。結合された2つの画像シーケンスは、対象オブジェクトについて出来る限り多くの情報を含むべきである。この第2の画像投影の選択が、3D再構成の正確性を大きく左右するので、正しく選択することが、非常に重要である。臨床医にとってこの標準的なステップを簡素化および促進するために、例えば、特許文献1に教示されるように、第2の画像投影の選択に関するガイダンスが提供される。このガイダンスの結果、色マップが得られ、
図5のステップ502に見られるように、X線システムの回転と角度の組み合わせごとに、所望の値(例、最適値)が、対応する色またはグレー値を使用して示される。色マップでは、最も白い投影が、最適な投影であり、最も暗い投影はあまり適切ではない。
【0047】
この色マップを使用すると、臨床医は、
図4のステップ404に記載されるように、第2の画像シーケンスを取得するのにどの画像投影が最適であるかを正確かつ迅速に決定することが出来る。従って、臨床医に対するこのガイダンスにより、標準的な処置時間を短縮することが出来る。
【0048】
図4のステップ405に記載されるように、最適な画像投影に対応する画像シーケンスを取得するために、臨床医は、選択された第2の投影に対応する位置まで画像化システムのアームを手動で回転させる、またはステップを加えて簡素化することが出来る。臨床医が指示した場合、Cアーム制御モジュール1710は、計算された最適な投影まで画像化システムのアームを自動的に回転させることが出来る。次いで、
図6のステップ601に示されるように、取得された第2の画像シーケンスが、臨床医に提示される。
【0049】
第1の画像シーケンスと同様に、取得された第2の画像シーケンスは、心周期の1つ以上の位相をカバーする複数のフレームを備える。例えば、臨床医が、シングル・プレーン画像化システムを使用する場合、取得された第2の画像シーケンスは、第1の画像シーケンスとは異なる、心臓位相で構成されている可能性がある。3D再構成は、同じ心位相で取得された2つの画像シーケンスのフレームを使用して3D再構成を生成すると、より正確になる。従って、このシステムは、
図4のステップ406に記載されるように、第2の画像シーケンスに対して、対象血管を検出するための選択画像フレームも提供する。
【0050】
インターベンション中に発生する可能性がある別の側面は、テーブルの移動である。第1の画像シーケンスと第2の画像シーケンスを取得する間に、臨床医が、例えば、処置中に全体像をより良く把握するために患者テーブル1705を移動させることは珍しいことではない。しかしながら、画像取得中にテーブルの移動が、発生してしまうこともあり得る。テーブルの移動を考慮しないと、3D再構成の生成で不正確さが、発生する可能性がある。従って、X線管とX線検出パネルの間の距離、X線管とCアームアイソセンタの間の距離、Cアームのアイソセンタに対するテーブル回転ポイントの位置、通常は何れも3つの角度で表される、Cアームと調節可能なテーブルの3D方位、そして最後に、3D冠動脈再構成中にX線検出器上のピクセルの水平方向と垂直方向の間隔の様な、X線システムの情報が、3D冠動脈再構成の間にテーブルの動きを補正するために考慮される。
【0051】
第2の画像シーケンスの選択フレームでは、例えば、第1の画像フレームについて記載した方法を使用して、(
図7のステップ701に示され、そして
図4のステップ407に記載される)内腔境界も、検出される。
【0052】
臨床医が、第2の画像フレーム内で対象血管を指すのを支援するために、
図7の参照702として示されるいわゆるエピポーラ線が、第2の画像フレーム上に示される。第2の画像フレームに示されるエピポーラ線は、第1の画像フレームから第2の画像フレームを見る方向での第1画像フレームに示される血管の最近位および最遠位位置を表す。
【0053】
加えて、
図7の参照705に見られるように、共通画像ポイント(CIP:Common Image Point)が自動的に決定される。CIPは、両者の画像フレーム内の共通のランドマークを表し、
図7の703で示されるように同じ解剖学的位置を示す。このCIPは、 画像フレームのアイソセンタの発生し得るオフセットを補正するために必要である。CIPが正しくないと、3D再構成が不正確になる。必要に応じて、臨床医は、CIPの位置を変更することが出来る。
【0054】
加えて、対象血管の3D再構成を作成するためにステップ405、406、および407を入力として繰り返すことにより、複数の画像シーケンスを、対象血管の異なるビュー(投影)で使用することが出来る。
【0055】
両者の画像フレームにおける内腔境界の検出後、
図4に記載されるステップの結果として、プロセッサは、
図1のステップ102によって表される対象血管の3D再構成を作成する。X線画像と共にDICOMヘッダに記憶されたメタデータは、少なくとも、以下の情報:X線管とX線検出パネルの間の距離、X線管とCアームアイソセンタの間の距離、Cアームアイソセンタに対するテーブル回転ポイントの位置、通常は両者とも3つの角度で表される、Cアームと調節可能なテーブルの3D方位、そして最後にX線検出器上のピクセルの水平方向と垂直方向の間隔を、含む必要がある。このメタデータを使用すると、テーブルの位置変更の影響が考慮された、取得された画像間の完全な幾何学的関係を取得することが出来る。
【0056】
導出された幾何学的関係は、テーブルの位置決めの影響を考慮しているが、対象構造の実際の位置は、他の動きの原因によって変化している可能性がある。冠動脈の場合、これらの動きの原因は、心臓の動き、呼吸の動き、テーブルに対する患者の動きを含んでいた。
【0057】
残りの動きの並進成分を補償するために、同じ物理的ポイントに対応する全ての画像において、単一のポイントに、注釈(
図7で参照705として示されているCIP)を付することが出来る。これらのポイントの注釈は、手動または自動で実行することが出来る。対象構造が冠動脈である場合、自動注釈アルゴリズムの例は、内腔境界情報から抽出された局所直径情報に基づかせることが出来る。注釈付きのポイントを使用して画像間の幾何学的関係を調整することは、特許文献2に記載されているように行うことが出来る。
【0058】
全ての画像間の幾何学的関係に加えて、全ての画像内の対象構造の定義があれば、対象構造の3D再構成は、再構成させることが出来る。これを達成することが出来る多数の方法が、例えば、非特許文献6または特許文献3に記載されている。これらの手法のほとんどは、エピポーラ制約と三角形分割の概念に基づいている。2つのビューの相対位置が、一方の画像の3Dポイントの投影とともに既知である場合、他方の画像のエピポーラ線は、同じポイントの投影位置が含まれるように定義することが出来る。これは、エピポーラ制約と呼ばれる。他の画像内のエピポーラ線上に投影された位置が見出されると、当業者には知られているように、ポイントの三次元位置は、三角測量と呼ばれるプロセスにより再構成させることが出来る。対象構造の定義が、血管の中心線により構成されている場合、結果として得られる3D再構成は、3D中心線になるであろう。内腔境界が、対象構造の定義に含まれている場合、局所的な血管直径の情報は、3D再構成モデルに組み込むことが出来る。この場合、血管内腔の表面モデルを作成することが出来る。
【0059】
図1のステップ102に記載されるように、プロセッサは、複数の2次元画像を使用して、冠動脈ツリーの対象サブセットの患者固有の3D再構成を作成する。3D再構成の例は、単一の血管については
図7の参照704として、そして冠動脈分岐については
図8の参照801として示されている。患者固有の3D再構成では、
図30に示すような血管ツリーを提示することも出来る。
【0060】
オプションとして、3D再構成を生成した後、臨床医は、必要に応じて2D内腔境界を修正することが出来る。内腔境界が既に修正されている場合、新しい3D再構成は、自動的に生成されるであろう。
【0061】
代替実施形態では、ステップ102は、時間(3D+t)に沿った3D再構成の作成を含み、そして好ましくは少なくとも1つの心周期をカバーする。この代替実施形態は、3D+t再構成を作成するための2つの方法を記載する。第1の方法では、3D+t再構成が、ステップ101から得られる2つのX線血管造影画像シーケンスを処理することによって作成される。(造影剤注入後の)1心周期内の全てのフレームの3D+t再構成は、例えば、非特許文献7または非特許文献8によって教示される方法によって作成することが出来る。X線血管造影画像シーケンスが、バイプレーンシステムにより取得される場合、3D+tロードマップの時間分解能は、正面および側面の画像源に関して取得された各フレーム間の遅延を使用することにより改善することが出来る。
【0062】
3D+t再構成を作成する第2の方法は、追加の3Dモデルを使用する。この3Dモデルは、コンピュータ断層撮影(CT)、X線回転血管造影、3D超音波、磁気共鳴画像法(MRI)の様な3D血管造影画像化モダリティから生成されたボリューム画像データを使用して取得される。3Dモデルは、例えば、3D中心線、血管の内腔表面および/または血管外表面を表す3D表面輪郭、プラーク、3Dマスク、またはこれらの組み合わせの形態とすることが出来る。3D中心線は、例えば、3Dボリューム画像データ内の血管中心線を示すことによって手動で作成することも、例えば、非特許文献9によって教示されているように自動的に作成することも出来る。CT血管造影画像データからの冠動脈内腔、動脈壁、および冠状プラークの検出は、例えば、非特許文献10によって教示されているように、(半)自動的に行うことが出来る。非特許文献10には、CT血管造影画像データから冠動脈内腔、動脈壁、および冠動脈プラークを検出する方法が、記載されている。
【0063】
3Dボリューム画像化モダリティから得られる追加の3Dを使用して3D+t再構成を作成するために、この3Dモデルは、ステップ101の結果であるx線血管造影データに基づいて、3D再構成と結合される。これは、例えば、特許文献4に記載されている方法論のように達成することが出来る。これには、オブジェクトの2つ以上の二次元x線画像からオブジェクトの経時的な三次元表面再構成を作成する方法が記載されている。これに代えて、3D+t再構成は、例えば、非特許文献11または非特許文献12が教示するように生成することも出来る。
【0064】
3D幾何学的情報の様な解剖学的パラメータは、
図1のステップ103に記載されるように、3D再構成から抽出することが出来る。この3D幾何学的情報は、例えば、3D画像の中心線に沿った
図9の902で示される対象血管の断面積および長さとすることが出来る。
図9内では、ステップ103の結果としての3D冠動脈再構成の例が、写真901によって提供されている。
図9内では、3D冠動脈再構成の例は、冠動脈分岐部を含む。前述したように、3D再構成は、単一の血管、分岐部、または血管ツリーから生成することが出来る。902が、冠動脈分岐部の3D再構成を示すので、2つの断面積曲線が計算される。その内の1つは、近位開始点
【数2】
から写真904内の905によって表される主分岐部の終点
【数3】
までであり、もう1つは、近位開始点
【数4】
から、写真907内の910で表される分岐血管の終点
【数5】
までである。直径は、中心線の各点に対し、断面積から決定することが出来る。この直径は、例えば、非特許文献13によって教示されているように、等価直径の最小値と最大値として断面積から導出することが出来る。
【0065】
閉塞領域は、最小位置(909)と、最小直径の位置の近位および遠位の対応する閉塞境界(908)とを備える。近位閉塞境界と遠位閉塞境界の間の距離(908)は、病変長として定義される。最小位置(909)は、純粋に血管形状(例えば、最小面積または直径)に依存させることが出来るが、これは、医師によって定義させることも出来る。閉塞境界は、閉塞領域の長さを定義する。閉塞境界(908)は、例えば、単一血管については、非特許文献14により教示されるように、または例えば、非特許文献6により教示されるように自動的に決定させることが出来る。
【0066】
血管狭窄量を計算するために、想定される健常血管の直径または面積に対する血管狭窄の面積比または直径比を、推定する必要がある。この健常血管の直径または面積は、参照直径または参照面積(906)とも呼ばれる。単一血管については、例えば、非特許文献14により、または分岐部または血管ツリーに対しては、例えば、非特許文献6によって教示されているように、参照直径または面積グラフを計算することが出来る多数の方法が、既存技術に記載されている。例えば、血管の中心線に沿った全ての直径または面積データは、全ての直径または面積データポイントを通る直線を自動的にフィットさせるために使用される。オプションとして、逸脱した血管直径または血管面積値は、直線にフィットさせる前に直径または面積データから破棄される。これらの逸脱した直径または面積値の決定は、例えば、全ての血管直径または血管面積データポイントの累積ヒストグラムを作成することによって達成することが出来、そして事前定義されたまたは動的閾値に基づいて、最小の血管直径または面積値は、破棄される。
【0067】
これに代えて、手動の参照位置は、血管の直径または面積のデータに従って医師によって指示される。参照位置は、健常血管部分を識別させる。次に、直線を、参照位置の直径または面積のデータ値にフィットさせる。このフィットされた線は、健常血管の直径または血管の中心線に沿った面積を表す。オプションとして、医師は、この位置を手動で選択することによって、血管内の異なる病変位置を定義することも出来る。病変位置および閉塞領域の選択は、生成された面積または直径グラフ(
図9、905または910)、2D血管造影画像、または3D再構成において直接行うことが出来る。これに代えて、複数の位置を、対象血管内で選択することも出来る。プロセッサ/システムは、血管内腔の局所的な狭窄も示す別の関心領域を決定する。これに代えて、医師は、別の病変位置を手動で選択することも出来る。
【0068】
閉塞領域および対象血管に沿った健常血管の直径および/または面積がわかれば、解剖学的病変の重症度は、計算することが出来る。解剖学的病変の重症度を評価するパラメータの1つ は、狭窄直径のパーセンテージ(式2)または狭窄面積のパーセンテージ(式3)で、次のように:
【数6】
計算することが出来る。
【0069】
ここで、MLDは、最小管腔直径として定義され、そして最小値(
図9、909)の直径に対応し、そしてMLD位置での参照直径は、MLDの位置での参照直径に対応する。
【数7】
【0070】
ここで、MLAは、最小管腔面積として定義され、そして最小値の面積に対応し(
図9、909)、そしてMLA位置の参照直径は、MLAの位置の参照面積に対応する。
【0071】
別の解剖学的パラメータは管腔プラークのボリュームであり、これは3D再構成(902)および3D健常再構成(903)を使用して計算することが出来る。一般に、プラークのボリュームは、式4で示されるように、事前定義された領域内の3D健常再構成のボリュームから3D再構成のボリュームを減算することによって、計算することが出来る。管腔プラークのボリュームは、通常、閉塞領域内で計算される。
【数8】
【0072】
別の解剖学的パラメータは、屈曲度である。屈曲度は、血管がどの程度屈曲している(または湾曲している)かについての情報を提供し、そして例えば、非特許文献15によって教示されているように計算することが出来る。
【0073】
別の解剖学的パラメータは、石灰化プラークの量である。石灰化プラークは、放射線不透過性であるが、その存在は、単一のX線画像フレームでは認識することが出来ず、そしてX線画像シーケンスを評価する場合にはほとんど視認できない。特許文献5は、X線血管造影画像シーケンスを使用することにより石灰化プラークを定量化する方法を開示する。この方法では、X線血管造影画像シーケンスは、造影剤の投与前後の画像データを含み、そして造影剤の投与前は、少なくとも1心周期が、そして造影剤の投与後は、少なくとも1心周期が含まれることが望ましいと仮定されている。
図10には、特許文献5に記載されている高レベルの方法が示されている。破線の円(1005)内には石灰化プラークが存在するが、これは、画像(1001、2002、1003、および1004)内ではほとんど評価することは出来ない。画像を登録した後、画像情報を単一の画像(1007)に追加することによって、石灰化プラーク(1008)は、強調されそして視認可能となる。登録中、解剖学的ランドマークには、例えば、血管骨格(1006)を使用することが出来る。加えて、増強された石灰化プラークについて定量分析を行うことが出来る。石灰化プラークの面積(1008)は、強調画像(1009)を用いて石灰化プラーク(石灰化プラーク領域)の手動および/または(半)自動検出によって計算することが出来る。ビデオ濃度測定分析も実行することが出来る。石灰化プラークのボリュームおよび/または質量は、石灰化プラーク領域の密度を、例えば、造影剤の投与による強調血管(放射線不透過性血管)のようなステップ101の結果としての強調画像またはX線血管造影画像シーケンス内の別の放射線不透過性領域と比較することによって導出することが出来る。幾何学的形状およびその(質量)減衰係数の様な、放射線不透過性領域の特性がわかっている場合は、石灰化プラーク領域のボリュームおよび/または質量は、ランベルト・ベール(Beer-Lambert)の法則を使用して計算することが出来る。放射線不透過性領域は、X線血管造影画像シーケンスから得られる血管の領域とすることが出来る。この状況では、ランバート・ベールの法則を使用して石灰化プラーク領域のボリュームおよび/または質量を計算することが出来るために、造影剤の(質量)減衰係数を知る必要がある。これに代えて、例えば、特許文献6に開示されるように、ビデオ濃度分析を実行することも出来る。
【0074】
ステップ102の結果が3D+t再構成を表す場合、いくつかの追加の解剖学的パラメータを計算することが出来る。例えば、非特許文献16が考えるように、冠動脈の動きの量または血管の蛇行の変化を考慮することが出来る。
【0075】
図1のステップ104内で、対象血管の圧力パラメータが計算される。好ましい実施形態では、圧力パラメータは、特許文献7に開示されているように計算される。要約すると、特許文献7によって開示された方法は、対象血管に沿った圧力降下を瞬時に計算する。ステップ102の結果としての3D再構成、およびステップ103によって定義された閉塞領域に基づいて、圧力降下は、非特許文献17および非特許文献18に記載されているように、冠動脈のフロー挙動に存在する粘性抵抗および分離損失効果を含む物理法則を適用することによって計算される。患者固有の圧力パラメータを取得するために、特許文献7に開示されている方法には、カテーテル挿入処置中に測定される患者固有の大動脈圧が組み込まれている。
図11は、1101が、
図1のステップ101および102に記載された対象血管の3D再構成を取得するステップを表す特許文献7によって開示された方法を示す。患者固有の大動脈圧は、1102によって示されているガイディング・カテーテルを使用して、測定された拡張終期圧および収縮終期圧から得ることが望ましい。ガイディング・カテーテルは、冠動脈入口部に配置され、そして大動脈圧はトランスデューサを接続することによって測定される。測定された大動脈圧トレースから、拡張終期圧および収縮終期圧は、例えば、拡張終期圧と収縮終期圧の両者の加重平均として計算することが出来る。これに代えて、患者固有の大動脈圧は、圧力カフ測定を使用して、上腕動脈で測定することも出来る。3D再構成から、直径または断面積のグラフは、1103で示されるように抽出され、そして閉塞領域(1105)とともに、圧力降下またはvFFR(血管FFR)が、特許文献7に開示されそして前述した方法によって3D再構成に沿って計算される。vFFRグラフは、血管長に沿った位置における冠動脈圧降下の割合を大動脈圧により除算したものとして計算される。最遠位のvFFR値は、大動脈圧から総圧降下
【数9】
を減算することにより、次式
【数10】
により計算することが出来る。
【0076】
更に、vFFRまたは圧力降下は、1106で分かるように、対応する色またはグレー値を使用して、3D再構成の表面上の色マップとして視覚化させることが出来る。色マップでは、緑色は、低い圧力降下または高いvFFRを表し、赤色が、高い圧力降下または低いvFFRを表す。
図1のステップ105内で、対象血管の壁剪断応力(WSS)ベースのパラメータ(記述子)が、計算され、そして
図12のフローチャートでさらに説明される。血液が動脈を流れるとき、血液は、それが受ける力の概略図を視覚化した
図13の1301で示されるように血管壁に力を及ぼす。その力ベクトルの垂直成分は、血圧に関連していて、血管壁の細胞が変形すると言う結果になる。壁剪断応力は、血管の内皮表面上を流れる血液の接線力である(1302)。壁剪断応力ベクトルは、軸方向壁剪断応力(1303)および円周壁剪断応力(1304)と呼ばれる、軸方向および円周方向の成分に分解することが出来る。軸方向成分は、血管の軸と平行な成分である。円周方向(または接線方向)成分は、血管の軸を囲むそのポイントでの接線に沿った方向の成分である。半径方向の壁剪断応力は、血管の中心軸に向かう、または中心軸から遠ざかる方向に向く(1305)。壁剪断応力は、血管内では直接測定することが出来ないので、流体の動きを記述する式、つまり、ナビエ・ストークス方程式を解くことにより計算する必要がある。これらの複雑な式を解くために最も広く使用される方法は、数値流体力学(CFD)と呼ばれる。これは、適切な入力データ(境界条件)が与えられた場合に、ボリューム・ジオメトリ(この場合は血管)内の速度分布を計算する。この速度情報に基づいて、血管の表面に沿った局所的な壁剪断応力分布は、導出することが出来、そして
図12のフローチャートでさらに説明される。
【0077】
図12の第1のステップ1201では、1つまたは複数のプロセッサが、ステップ1201に示される3Dボリューム・メッシュを作成する。例えば、3D再構成は、3D再構成内の血液の量を表すグリッド・ポイントを使用して、ステップ102の結果である3D再構成を埋めることによって3Dボリューム・メッシュに変換することが出来る。これらのグリッド・ポイントは、ステップ1203でさらに説明されるように、血流の支配方程式から速度を計算するために必要なボリューム・メッシュ要素の基礎を形成する。このメッシュ化ステップでは、個々のグリッド間隔またはメッシュ・サイズは、対象血管の複雑さによって決まる。一般に、管腔血管壁の様な、速度プロファイルの大きな変化が予想される領域では、より細かいグリッド間隔が、必要である。これは、より小さいボリューム要素が、血管壁(境界メッシュ層とも呼ばれる)で使用されることが多いのに対し、より大きなボリューム要素は、速度プロファイルの変化がより小さい血管の中心部分で許容されることを意味する。高い曲率または狭い血管セグメントでは、速度プロファイルの変化も予想され、その結果、これらの領域も、より小さなボリューム要素から恩恵を受けることになるであろう。3D再構成が分岐部または血管ツリーを表す場合、血管がより小さな要素に分割される領域は、特に、分岐部の入口側にあることが好ましい。ステップ1203によって実行されるCFD計算の計算速度を高めるために、ボリューム・メッシュの要素サイズおよび形状は、対象血管全体にわたって変更させることが出来る。これを達成することが出来る多数の方法は、例えば、非特許文献19または例えば、非特許文献20に教示されるような既存技術に記載されている。これらの調整は、血管内の位置(例、血管境界近くの小さな要素)、並びに局所的な曲率及び直径/面積の変化の様な幾何学的特性/特徴に依存させることが出来る。例えば、曲率の高い血管の領域では高解像度のボリューム要素が使用され、曲率の低い領域では低解像度の要素が使用される。これは、3Dボリューム・メッシュ内の要素の量を最小限に抑えるために、行われる。
図14は、1401が、閉塞近くのより微細な要素を有する3Dボリューム・メッシュを示し、そして1402が、境界層が見える血管の入口(1403)を示す、ステップ1201の出力の例を示す。オプションとして、3Dボリューム・メッシュの近位部分および/または3Dボリュームの遠位端は、例えば、ローカル直径の3倍の様な特定の長さに拡張することが出来る(3Dメッシュ拡張)。これは、ステップ1202に記載される境界条件に対するスムーズな移行を保証し、そして速度が対象血管に入るときに、強制されたフローが完全に発達することを保証し、これは、ステップ1203でさらに説明されるCFD計算に利益をもたらす。
【0078】
加えて、3Dボリューム・メッシュを生成するステップ1201のプロセスは、対象血管の多数の3D再構成(ステップ102に記載される3D+t再構成)に対して繰り返すことが出来る。ここで、各3D再構成は、画像データ・シーケンスで利用可能な心周期内の異なる時点を表す。単一の3Dボリューム・メッシュの代わりに、心周期内の時点ごとに3Dボリューム・メッシュ(動的3Dボリューム・メッシュとも呼ばれる)を生成することも出来る。心周期の時点ごとの3Dボリューム・メッシュの生成には、心周期中の血管の動的挙動が、組み込まれている。多数の3Dボリューム・メッシュが、ステップ1203でさらに使用される。
【0079】
これに代えて、対象血管の3D+t再構成から作成された動的3Dボリューム・メッシュは、動的3Dボリューム・メッシュ内のボリューム要素の量が一定である別のアプローチによって生成される。これは、先ず心周期の特定の時点(例えば、拡張末期)で最初の3Dボリューム・メッシュを作成することによって実行される。次に、心周期の残りの時点における対象血管の3D+t再構成を使用して、時点ごとの追加の3D再構成と、最初の3Dボリューム・メッシュの生成に使用された最初の3D再構成との間の幾何学的偏差が、取得される。3D再構成間の幾何学的偏差は、例えば、拡大、縮小、伸張または短縮を含むことが出来る。時点ごとに取得された幾何学的偏差は、最初に生成された3Dボリューム・メッシュに適用される。従って、最初に生成された3Dボリューム・メッシュは、3D再構成間で得られた偏差に従って適合化される。心周期の各時点で、3Dボリューム・メッシュが、最初の3Dボリューム・メッシュと同じ量のメッシュ・ノードとボリューム要素を使用して生成される。ここで、個々のボリューム要素のサイズのみが、適合化/変形されている。従って、ボリューム要素は、最初に生成された3Dボリューム・メッシュ内の対応するボリューム要素よりも大きくなったり、小さくなったりする可能性がある。3D+t再構成からの幾何学的偏差を表すこのメッシュ変形は、さまざまなメッシュ変形方法で実行することが出来、そして動径基底関数補間法は、これらの中で最も堅牢な方法の1つである。非特許文献21は、幾何学的変化を記述する制御ポイントに基づくメッシュ変形アプローチを記載している。これらの制御ポイントは、3D+t再構成から抽出することが出来る。このような制御ポイントの簡単な解剖学的例は、分岐部の入口側の位置であろう。心周期内の各時点に対する最初の3Dボリューム・メッシュの適合化には、心周期中の血管の動的挙動が、組み込まれていて、この結果、ステップ1203でさらに使用される動的3Dボリューム・メッシュが、得られる。
【0080】
1202で、1つまたは複数のプロセッサが、患者固有の境界条件を決定する。
図15は、流体の動きを記述する式、つまり、CFDによるナビエ・ストークス方程式、を解く方法を高レベルの例で示し、ここでは、オブジェクトのジオメトリが、例えば、1201に記載されるステップの結果である3Dボリューム・メッシュ(1502)として必要であり、そして境界条件が、ジオメトリの入口(1501)とジオメトリの出口で必要である(1503)。前述したように、3D再構成は、単一の血管、分岐部、または血管ツリーを表すことが出来る。単一の血管、分岐部、または血管ツリーの何れかの入口境界では、以下に記載する方法の何れかによって血流速度プロファイルが、適用される。出口条件は、血管の種類(単一、分岐部、または血管ツリー)によって異なる。単一の血管の場合、応力のない出口は、例えば、非特許文献22に教示されるように、通常はゼロパスカルである一定圧力により定義される。分岐部または血管ツリーの出口条件については、以下でさらに説明されるであろう。
【0081】
入口に適用される血流速度プロファイルは、
図16にさらに図示されるように、放物線形状または平坦形状を持つことが出来る。これらの一般的な血流速度プロファイルは、例えば、対象血管の幾何学的寸法に基づいて血流速度値をスケーリングすることにより、患者固有のプロファイルに適合化させることが出来る。例えば、第1の速度プロファイルは、提供される速度のセットから取得しても良い。個々の速度プロファイルは、心周期内の対応する時点での、3D再構成の近位側における血管の断面に渡る速度プロファイルを表す。速度プロファイルが平坦な形状を表す場合、ステップ1201に記載されるように、3Dボリューム・メッシュは、3Dメッシュ拡張分、拡張されることが好ましい。
図16において、1601は、3Dボリューム・メッシュを表す。3Dボリューム・メッシュの入口(1602)では、放物線状速度プロファイルの例が、1603で示されている。放物線状プロファイルは、患者固有の幾何学的形状に基づいていて、そして例えば、次のように計算される:
【数11】
ここで、
【数12】
は、最大速度(1605)であり、そして、
【数13】
は、局所半径(1604)である。
【0082】
平坦な速度プロファイルの図が、1606によって提供されている。この場合、この平坦な速度プロファイルの振幅(1607)は、心周期の対応する時点における血管の断面に沿った各ボリューム要素で、等しい。
【0083】
入口での血流量がわかっている場合は、血流速度プロファイルは、次の式:
【数14】
を使用して血流から計算することが出来る。
【0084】
例えば、血流が120ml/min、入口の面積が12mm
2の場合、平坦な速度プロファイルは、血流を断面積で除算することにより計算することが出来、この結果、速度は16.7cm/secになる。同じアプローチを放物線プロファイルにも使用することが出来る。この場合、式7が、平均速度を提供するので、(式6からの)最大速度
【数15】
は、式7で導出される速度の2倍になるであろう。
【0085】
上述した血流速度プロファイル(または血流プロファイル)は、時間変化を含まず、そして定常プロファイルとも呼ばれる。一般に、定常プロファイルは、心周期に渡る時間平均値を表すので、速度の時間変動は無視される。
【0086】
心周期内の血液循環の動態を反映するこの血管内の速度の時間変化には、動的プロファイルを定義することを考慮することが出来る。このような動的プロファイルは、放物線状の血流速度プロファイルと平坦な血流速度プロファイルの両者とすることが出来る。
図18は、動的プロファイルの例を示していて、グラフ内の各ドットは、上述した、心周期のある時点における血流速度プロファイルを表す。動的プロファイルは、本特許出願では、血流速度プロファイル、血流プロファイル、または速度プロファイルのセットとも呼ばれる。このような動的プロファイルの時間分解能は、例えば、0.03秒に固定することも、患者の心拍数に依存させることも出来る。
【0087】
入口血液速度プロファイルまたは血流プロファイルは、直接、速度またはフロー測定によって決定することも出来る。このような測定の例には、超音波ドップラー測定、侵襲的超音波ドップラー測定、2Dまたは4DMR位相コントラスト測定、熱希釈、および血流速度または血流を捕捉する他の全ての測定がある。
【0088】
これらの直接的な血流速度または血流の測定の他に、血流速度または血流は、画像データから取得することも出来る。例えば、血流速度は、X線血管造影画像のコントラスト伝播に基づいて抽出される。この方法は、特許文献8に記載されている。要約すると、特許文献8に記載された方法は、2つのフレーム内で造影剤ボーラス・フロントが移動した距離を測定する(
図19、1901、1902)。フレーム間の時間が分かると、対象血管内の速度またはフローが、計算される。同様のアプローチが、非特許文献23に開示されている。非特許文献23は、近位から遠位までフレームに沿って造影剤ボーラスを表す中心線を追跡し、そして中心線の長さの変化を使用して冠動脈速度を計算した。
【0089】
測定された血流速度プロファイルまたは血流プロファイルは、モデルの入口に直接適用することが出来る。測定された血流速度または血流を入口で直接適用する以外に、それらの測定値を使用して一般的な血流速度プロファイルまたは血流プロファイルを作成することも出来る。全ての血管タイプに適用可能な、一般的な血流速度または血流プロファイルを、作成することも出来る。また、右冠動脈、左冠動脈、左前下行枝、左回旋枝の様な特定の血管に適用できる一般的な血流速度プロファイルおよび血流プロファイルを作成することも可能である。
【0090】
一般的な血流速度プロファイルまたは血流プロファイルは、特定の形状(例、入口の直径または面積)を想定して定義される。汎用プロファイルの作成に使用されるジオメトリに依存しないように、汎用プロファイルの作成に使用されるプロファイルは、先ず、各値を心周期内の平均値で除算して正規化される。
図18は、左冠動脈(1801)および右冠動脈(1802)の一般的なプロファイルの例を示す。特定の冠動脈の、心周期に沿ったフロー/速度プロファイルを記述する複数の一般的なプロファイルを、作成することが出来る。一般的なプロファイルが使用される場合、これらの一般的なプロファイルには、スケーリングして、患者固有の血流速度プロファイルまたは入口における血流プロファイルを適用することが出来る(
図18、1803は、スケーリング後の患者固有の血流速度プロファイルの例を示す)。スケーリングは、入口における血管モデルの局所的な形状に基づいて行うことが出来る。これに代えて、血液速度プロファイルまたは血流プロファイルは、特定の血管に関する一般的な幾何学的情報、例えば、非特許文献24によって報告されている様に、冠状血管の寸法に基づいてスケーリングすることが出来る。スケーリングは、例えば、血流速度または血流プロファイルに入口血管の直径と一般的な血管の直径の比を乗算することにより、または非特許文献25に記載されるフロー直径関係を使用して実行することが出来る。
【0091】
入口血流速度プロファイルまたは血流プロファイルは、安静状態または充血状態における血流を表すことが出来る。利用可能な血流速度プロファイルまたは血流プロファイルは、両者の状態(それぞれ安静または充血)の何れかにあり、そして他の状態は、他の状態で利用可能なプロファイルから導出することが出来る。ある状態から他の状態への変換は、いくつかの方法で適用することが出来る。線形スケーリング係数を適用して、ある状態から他の状態への変換が可能である。例えば、係数5の適用により、安静状態のプロファイルが、充血血速度プロファイルまたは充血血流プロファイルに変換される。
【0092】
最大充血血流速度または充血血流は、特許文献7に開示されているように、3D再構成の幾何学的寸法に基づいて決定することが出来る。要約すると、特許文献7によって開示された方法は、冠動脈速度と冠動脈圧力との関係を利用した。この関係、安静時大動脈圧(1102)および3D再構成(血管の形状)から導出されるパラメータに基づいて、患者固有の充血速度を計算する方法が、特許文献7に記載されている。安静時大動脈圧は、例えば、経験的データに基づいて予め定められた一定値とし、これにより、患者固有の安静時大動脈圧の使用を排除することも出来る。
【0093】
前述したように、出口境界条件は応力がない状態と仮定されていて、これは、出口にゼロ圧力(例:0パスカル)を加えることにより実現される。3Dボリューム・メッシュ内に複数の出口境界が存在する場合、
図20の2003で示されるように、1つの血管出口は、ゼロ圧力に設定され、そして他の出口境界(2004)では出口血流速度プロファイルまたは血流プロファイルが、設定される。この出口血流速度プロファイルまたは血流プロファイルは、前述したような方法によって得ることが出来る。
【0094】
3Dボリューム・メッシュ(2002)の他の出口(2004)上の境界条件は、様々なスケーリング法則を使用することによって、入口(2001)に適用された境界条件に基づいて計算することが出来る。最も有名なスケーリング則であるマレーの法則は、20世紀初頭に遡り、そしてネットワークを介して流体を輸送するために必要なエネルギーの最小化を記述する物理的原理に基づいている(非特許文献26)。この法則は、直径と平均速度の間の3乗の関係を規定する。経験的データに基づいて最近開発されたさまざまなスケーリング則も同様に利用可能であり、そして冠動脈フローの場合、直径と平均速度を関連付けるインデックスの範囲は、例えば、非特許文献27または非特許文献28に記載されている様に2と3の間にある。このようなスケーリング則に基づいて、出口境界条件として冠動脈ツリーの枝を通るフローの分割を設定することも、例えば、非特許文献25 に記載されている様に、一般的で効果的なアプローチである。
【0095】
これに代えて、汎用プロファイルを使用することも出来る。これらの一般的なプロファイルは、患者固有の血流速度プロファイルまたは出口での血流プロファイルを適用するために、スケール変更させることが出来る。スケーリングは、出口における血管モデルの局所的な形状に基づいて適用することが出来る。これに代えて、血流速度プロファイルまたは血流プロファイルは、例えば、非特許文献24に報告されている様に、特定の血管に関する一般的な幾何学的情報に基づいて、スケール変更させることも出来る。
【0096】
図12に戻ると、1203で、1つまたは複数のプロセッサは、ステップ1201の結果である3Dボリューム・メッシュ全体に渡って速度分布を計算する。例えば、1つまたは複数のプロセッサは、数値流体力学(CFD)を利用して、心周期の少なくとも一部の境界条件に基づいて、3Dボリューム・メッシュ全体のボリューム要素での速度を取得する。速度分布は、ステップ1202の結果である境界条件を使用し、CFDによってナビエ・ストークス方程式を解くことによって計算される。この技術は、例えば、非特許文献29および例えば、非特許文献30に記載されている。
【0097】
血液は非ニュートン流体である。簡単にするために、血液は、ニュートン流体として扱われる。ニュートンアプローチの場合、血液の粘度は一定であると仮定され、そして例えば、粘度1035Pa/s、密度1050kg/m3を使用することが出来る。血液の非ニュートン近似は、血管壁面で計算された剪断速度を利用し、そして非ニュートンモデルを適用して局所的な血液粘度を計算することによって実現することが出来る。非ニュートン血液モデルは、文献に記載されていて、そしてそれらのモデルの多くは非特許文献31に記載されている。さらに、血管壁は、硬くそして滑りがない状態が、仮定されている。
【0098】
加えてまたはこれに代えて、血管の単一の3Dボリューム・メッシュを使用する代わりに、経時的な3Dボリューム・メッシュをCFD計算に使用することが出来る。後者は、心周期中の血管の動的挙動を表し、そして心周期中の血管の伸張性を含む。
【0099】
これに代えて、血管壁の機械的特性をCFD計算に適用することも出来、そして例えば、冠動脈または他の動脈の拍動特性は、心周期中の血管壁の伸張性を含むことを模倣させることも出来る。
【0100】
ナビエ・ストークス方程式を解くことは、例えば、モノリシックアプローチのいくつかの方法により行うことが出来る。ナビエ・ストークス方程式は、離散化および安定化させることができ、その結果一連の式が得られる。モノリシックアプローチは、式のこのシステムを解く。(速度と圧力は同時に解かれて、分割はされない)。モノリシックアプローチは、定常状態の解に到達するまでの計算時間ステップを大きくするので、計算時間の短縮が可能になる。モノリシックアプローチは、レイノルズ数が低い場合にはうまく機能する。しかしながら、乱流現象が発生した場合(レイノルズ数が高い場合)、モノリシックアプローチでは定常解に到達することは出来ない。
【0101】
乱流現象の解法問題に対処するために、RANS: Reynolds Averaged Navier Stokes(レイノルズ平均ナビエ・ストークス)は、モノリシック問題に乱流粘度という追加パラメータを追加することが出来る。このパラメータは、時間ステップごとに流体の粘度を変更することにより、乱流の影響を式に取り込もうとする。
【0102】
CFD計算は、計算時間ステップ内で実行され、入口境界条件が、計算時間ステップごとに適用され、そして出口境界条件が、血管ツリーに対応する計算時間ステップに従って適用される。(メッシュ・ノードごとの速度および圧力の様な)以前の計算時間ステップのCFD結果が、次の計算時間ステップで使用される。
【0103】
前述したように、3D再構成は、単一の血管(
図14、1401)、分岐部(
図20)、1つ以上の分岐血管、または血管ツリー(
図30)を表すことが出来る。分岐部または血管ツリーを3D再構成することの主な利点は、フローが、分岐冠動脈内に分布することである。これは、近位血管部分(
図20、2001)のフローが、両方の分岐血管(
図20、2003および2003)に分割されることが、CFD計算時に考慮されることを意味する。これは、
図20を参照して前述したように、出口境界条件を暗黙的に指定することによって実現される。一方、分岐部および特に冠動脈ツリーの3D再構成を形成することは、医師にとって時間がかかり、そしてオンラインでの使用を妨げる可能性がある。
【0104】
従って、本明細書の新規かつユニークな態様によると、
図31に示されている様に、(3D再構成には存在せず、そして対象血管から離れている)分岐冠状分岐血管による(3D再構成における)対象血管のフロー減少を自動的に統合するために、単一血管の3D再構成を、この3D再構成には含まれていない患者固有の画像データ(例、2D画像、X線画像等)の分析と組み合わせて使用する方法およびシステムが、記載されている。これは、入口境界がフローを表す場合のみである。
図31内では、対象血管(3101)は、左冠動脈入口部から左冠動脈回旋枝の遠位位置まで画定されている。
図31では、図示の目的上、単一のX線投影しか視覚化されていない。例えば、単一のX線投影は、3D再構成が対象血管3101しか対象としていない、患者固有の画像データを表しても良い。左主動脈が、左前下行動脈と左回旋枝動脈に分岐する、(側枝または分岐血管とも呼ばれる)大きな分岐部が、3102によって識別される。この分岐部(3102)は、左入口部
【数16】
からのフローを、左前下行枝
【数17】
へのフローと、左回旋枝
【数18】
へのフローの量とに分割し、そして質量保存を適用する必要がある:
【数19】
図31内では、主血管から側枝にフローが減少する結果となる、より小さな分岐動脈が、3103、3104、および3105によって識別される。以下に記載されるように、本出願の方法およびシステムは、フロー減少が、分岐血管(例、
図31の3102、3103、3104、3105によって示される分岐点)に向かうフローの損失によるものである、対象血管(3101)に沿ったフロー減少を考慮する。フロー減少は、CFD計算に含まれる。CFD計算(ステップ1203)中に対象血管に沿ったフロー減少を組み込むためには、例え、分岐血管が対象血管の3D再構成に含まれていないとしても、分岐血管の位置は特定する必要がある。全ての分岐血管を対象血管に沿って識別する必要はないが、少なくともフローの大幅な減少に寄与する分岐血管、例えば、
図31に示す3102 および3103は、考慮する必要がある。
【0105】
本明細書の新規でユニークな態様によると、方法およびシステムは、3D再構成に含まれない分岐血管を含む冠動脈ツリーのWSS記述子の計算に関連して、以下の操作を実行する。この方法およびシステムは、患者固有の画像データから(例、2DX線から)分岐血管を識別する。この方法およびシステムは、分岐血管を対象血管の3D再構成上に投影する。この方法およびシステムは、分岐血管に近位の対象血管内の第1のフローを計算し、そして分岐血管から遠位の対象血管内の第2のフローを計算する。この方法およびシステムは、第1のフローと第2のフローとの差を分岐血管に割り当て、そしてこの差に基づいて対象血管の表面に境界条件を割り当てる。この境界条件は、分岐血管の位置に対応する表面要素に配置される。次で、境界条件は、WSS記述子の計算に使用される。より具体的には、境界条件は、3Dボリューム・メッシュ全体のボリューム要素での速度を取得するときにCFDで利用され、そしてWSSベクトルは、ボリューム・メッシュの表面に沿った対応するボリューム要素で計算される。
【0106】
3D再構成内の分岐血管(側枝とも呼ばれる)の識別は、
図32のフローチャートによってさらに説明される。ステップ3201で、(患者固有の画像からの)少なくとも1つのX線血管造影画像フレーム内の分岐血管が、対象血管の3D再構築を作成するために
図4のフローチャートに記載されるステップ内で使用されるように、識別される。1つのX線血管造影画像フレーム内で分岐血管を識別する例は、
図33を参照してさらに説明される。
図4で表されるフローチャートの結果として、検出された内腔境界が、3301で示されている。検出された内腔境界のすぐ外側の2つのストリップ内で画像強度をサンプリングすることにより、2つのバックグラウンドグラフ:1つは左側用そしてもう1つは右側用が、得られる。左右は、内腔境界が、写真3300の
【数20】
で示されるように血管の近位位置から始まる場合、内腔境界の始点によって定義され、左側のバックグラウンドグラフ(3304)は、3302 で識別されるストリップに沿ってリサンプリングされ、そして右側のバックグラウンドグラフ(3305)は、3303 で識別されるストリップに沿ってリサンプリングされる。分岐血管が存在する場合、バックグラウンドグラフに沿った局所強度は、分岐動脈の存在による局所的な強度の降下を示すであろう。例えば、写真3300において
【数21】
によって識別される分岐血管は、3306によって示される局所的な強度の降下によって左バックグラウンドグラフ3304で視認可能である。同じことは、それぞれ3307および3308によって示される分岐血管
【数22】
および
【数23】
にも当てはまる。バックグラウンドグラフにおけるこれらの局所的な強度の降下は、自動的に検出し、これによって分岐血管を自動的に識別することが出来る。例えば、バックグラウンドグラフは、自動的に識別される最小値をアーカイブすることが出来るいくつかの基準によって、修正することが出来る(3309、3310)。このような方法は、例えば、写真3311に示されるように、曲線に沿って所定の半径のボールを転がすローリングボールアルゴリズムに基づくことが出来る。ローリングボールが通過する前のグラフは、3312に示されていて、そしてローリングボールを適用した後、グラフは3313により提示される。ボールの半径は、修正することが出来るグラフの幅を定義するであろう。そしてこの幅は、問題の分岐血管のサイズに関係する。バックグラウンドグラフ内の局所的最小値を特定する(分岐血管を定義する)ために、他の方法を適用することも出来る。他の実施形態では、1つまたは複数の機械学習システムまたは他の形式のコンピュータベースの人工知能は、画像シーケンスから直接、(例、検出された内腔境界に沿った)1つまたは複数の対象分岐血管を検出するように訓練させるまたは他の方法で構成することが出来る。この機械学習システムは、1つまたは複数の人工ニューラルネットワーク、デシジョンツリー、サポートベクタマシン、および/またはベイジアンネットワークによって実現させることが出来る。この機械学習システムは、トレーニングデータのセットを含む教師あり学習、教師なし学習、または半教師あり学習によってトレーニングさせることが出来る。
【0107】
ステップ3202で、分岐血管が3D再構成上に投影される。例えば、(ステップ3201の結果としての)1つまたは複数のX線血管造影画像フレーム内で識別された分岐血管は、対象血管の3D再構成の表面上の正しい空間位置に転送される。分岐血管を3D再構成上に投影する方法、すなわち、3D再構成上で検出された分岐血管の位置を画定する方法は、
図34を参照して記載されている。ここには、2つの2D画像3402および3403を使用することによる3D再構成3401の概略例が、示されている。2D画像3402内には、
図31のステップ3201に記載されるような方法によって識別することが出来る3404によって表される分岐血管が、存在する。3D再構成(3401)は、2D画像(3402、3403)から検出された内腔境界に基づいているので、2D画像と3Dモデルとの関係は既知である。これは、3Dモデル(3405)の断面、その断面積および位置に関する2D画像からの内腔境界の位置および直径が、既知であることを意味する。図示されるように、3D再構成(3401)の位置からの断面3405は、3406で示される位置と直径に基づいている。これは、分岐血管が2D画像(3404)内で検出されると、プロセスが、3Dモデル(3407)上の位置を識別することが出来ることを意味する。分岐血管が他の2D画像でも検出された場合、このプロセスは、3D再構成の作成に使用された2D画像間の投影の差を組み込むことにより、3D再構成の表面に沿った位置を推定することが出来る。例えば、画像間の投影差が90度で、そして分岐血管が両方の2D画像(
図35の画像
【数24】
と画像
【数25】
)で視認出来る場合、その分岐血管の真の3D位置は、
図35に示される
【数26】
と
【数27】
との間にまたがる象限の円周の中央にあると推定される。
【0108】
図32に戻ると、ステップ3203で、ステップ3202の結果としての、3D再構成上の各分岐血管について各分岐血管のフロー減少が、推定される。例えば、このプロセスは、分岐血管に近位の対象血管内の第1のフローを計算し、そして分岐血管から遠位にある対象血管内の第2のフローを計算する。次で、このプロセスは、第1のフローと第2のフローの間のフローの差を分岐血管に割り当てる。
【0109】
例として、フロー減少を推定するための1つのアプローチは、
図12のフローチャートのステップ1202で前述したようなスケーリング則に基づく。このアプローチは、分岐血管の直径が既知であると仮定する。この分岐血管の直径は、
図32のフローチャートのステップ3201に記載される補正方法によって補正されたバックグラウンド曲線の最小値(3314)の幅から推定することが出来る。分岐血管の位置は、3Dモデル内で既知であるので、分岐血管のすぐ近位の3Dモデルの直径/面積も既知である。この情報、3Dモデルの分岐血管のすぐ近くの直径、および側枝の直径を使用して、この分岐血管のフロー減少は、前述のスケーリング則によって計算することが出来る。各分岐血管のフロー減少を推定するための別の方法は、特許文献7によって開示される教示および方法に基づいている。特許文献7で、発明者らは、冠動脈ツリーが、1人の患者については、健常冠動脈全体で速度が一定であることを示した。これらの教示を組み込んだ各分岐血管のフロー減少を推定する方法が、
図36を参照してさらに説明される。
図36内では、
図1のステップ101および102を参照して前述した、2つのX線血管造影シーケンスにおける内腔境界セグメンテーションに基づく3D再構成が、提示されている。
図36内では、ステップ3201および3202の結果としての、3つの分岐血管が、検出され、そして3D再構成上で位置が特定される。ステップ103から、(3D中心線に沿った)3D再構成に沿った直径の様な解剖学的パラメータが、計算される。3D再構成は単一の血管であるので、3D再構成に沿ったその直径は、分岐血管
【数28】
、
【数29】
および
【数30】
に対する、3601、3602および3603によって示される、各血管が分岐した後の直径の減少によるステップダウンを示す。健常冠動脈ツリー全体に一定の速度を組み込むためには、3D再構成に沿った健常直径の推定が必要である。3D再構成は、少なくとも1つの疾患位置(例、3604)を含むことが出来るので、3D再構成の直径グラフは、
【数31】
個(nは、3D再構成上で特定された分岐血管の数を表す)のセグメントに分割される。各セグメントから健常直径(参照直径)が推定される。3D再構成に沿った直径のサブセグメント内の健常直径を計算する1つの方法は、サブセグメントの血管中心線(
図37の3701)に沿った全ての直径または面積データを含めることであり、そして全ての直径を通る直線は、自動的にフィットされる。このフィットされた線は、サブセグメント内の中心線に沿った健常血管の直径または面積を表す。このアプローチを使用すると、結果として得られる健常直径または面積の線は、血管サブセグメントに沿った全ての直径または面積の値に基づいているので、これらには、疾患血管部分内の直径または面積も含まれる。これは、計算された健常直径または面積の線がわずかに過小評価される原因となるかもしれない。参照直径面積の計算を改善するための1つのアプローチは、逸脱した血管直径または血管面積値を直径または面積データから破棄する任意のステップを実行することによるものであろう。これらの逸脱した直径または面積値の決定は、例えば、全ての血管直径または血管面積データポイント(
図38Bの3801)の累積ヒストグラムを作成することによって達成することが出来る。事前定義されたまたは動的な閾値(
図38Bの3802)に基づいて、最小の血管直径または面積の値が、破棄される(
図38Aの3803)。次に、残りの直径または面積のデータポイントを通る直線が、フィットされる。このフィットされた線は、サブセグメントの中心線に沿った健常血管の直径または面積を表す。これに代えて、手動参照位置は、血管の直径または面積データ(
図39の3901)に従って医師によって示される、または例えば、非特許文献14によって教示されるように自動的に検出される。参照位置は、健常サブセグメントの血管部分を識別する。次に、直線(
図37の3902)が、例えば、非特許文献14によって教示されているように、参照位置における直径または面積のデータ値にフィットされる。このフィットされた線は、健常血管の直径または血管の中心線に沿った面積を表す。各サブセグメントの健常直径を知れば、フロー減少は、計算することが出来る。速度は、フローの入口条件(ステップ1202)から、第1のサブセグメントからのまたは入口の形状(1501)からの参照直径に基づいて、計算することが出来る。この速度と各サブセグメントの正常な参照直径を使用して、フロー減少は、第1のフローと第2のフロー(対応する分岐血管に対する近位フローと遠位フローとも呼ばれる)の間のフローの差を表す、
【数32】
によって計算することが出来る。
【0110】
このプロセスは、この差に基づいて、対象血管の表面に境界条件を割り当てる。境界条件は、CFD計算において各分岐血管によるフロー減少を計算するために使用される。より具体的には、ステップ1201の結果として生成されたボリューム・メッシュ上で、ボリューム要素が、3D再構築上で特定された分岐血管の位置に対応する追加の出口(境界条件)として特定される。
図40は、単一の側枝の例を示し、4001は、3D再構成のボリューム・メッシュを表し、そして4002は、側枝の追加の出口を示す。各分岐血管に対して、少数のボリューム要素が、追加の出口として特定される(4003)。ボリューム要素の数は、問題の分岐血管によるフロー減少およびボリューム要素のサイズに依存させても良い。
図40では、CFD計算の結果が、速度が色スケールとして示されている写真4004に示されている。3D再構成の遠位部分を表すボリューム・メッシュの出口で、速度が、視覚化されていてそして4005は、側枝を表す追加の出口での速度を示す。オプションとして、側枝の位置で、3Dボリューム・メッシュは、例えば、局所分岐直径の3倍の様な特定の長さの分岐血管直径を表すチューブで拡張することが出来る。
【0111】
これに代えて、各ボリューム要素の圧力勾配が、ナビエ・ストークス方程式を解く一部であるので、
図1のフローチャートのステップ104に記載される圧力パラメータの計算は、ステップ1203の結果から計算することも出来る。
【0112】
WSS記述子は、部分的に境界条件に基づいて計算される。例えば、1204で、1つまたは複数のプロセッサが、ステップ1203の結果としての3Dボリューム・メッシュ全体に渡る速度分布からWSSを計算する。例えば、1つまたは複数のプロセッサは、3Dボリューム・メッシュの表面に沿った対応するボリューム要素でのWSSベクトルを計算する。3Dボリューム・メッシュの表面上の各ボリューム要素に対して、WSSは、
図21に示されるように、血管壁に近い速度分布によって決定される。
図21内で、緑色の矢印(2101)は、表面上のその特定のボリューム要素のWSSベクトルを表す。これらのWSSベクトルを取得するには、
図22に示されるように血管壁に垂直な速度勾配を決定する必要がある。壁に近い速度勾配は、壁剪断速度
【数33】
と呼ばれる。これを行うために、3つの直交方向全ての速度勾配が決定され、これが速度勾配ベクトルになる。WSSベクトルは、
【数34】
の様に計算される。ここで、
【数35】
は血液の粘度である。
【0113】
WSSベクトル
【数36】
から、WSSの大きさは、WSSベクトルの長さ
【数37】
によって計算される。WSSの大きさの次に、より指向性のあるWSSを、SSベクトルに基づいて導出することが出来る。例えば、軸方向WSSを導出することができ、ここで、軸方向WSS(WSSax)は、血管の軸方向のWSSを表す(1303、
図13)。血管の軸方向は、血管の中心線の接線の方向によって決まる。円周方向または二次WSS(WSSsc)(1304)は、血管中心線の接線に垂直な方向のWSSである。半径方向壁剪断応力(WSSrad)は、血管(1305)の中心軸に向く、または中心軸から遠ざかる方向に向いている。
【0114】
1205で、1つまたは複数のプロセッサが、病変を含む血管の表面のセグメントについて、3D再構成に基づいて壁剪断応力(WSS)記述子を計算する。WSS記述子は、心周期の少なくとも一部の間にセグメント内の表面要素に適用される収縮または拡張の変動量に関する情報を含む。例えば、1つまたは複数のプロセッサは、WSSベクトルに基づいてWSS記述子を計算することが出来る。例えば、WSSベースのパラメータ(WSS記述子)は、ステップ1204の結果を使用することによって計算される。
図18によって示されるような動的入口血流速度プロファイルまたは入口血流プロファイルを使用する場合、速度またはフローは、時間の経過とともに変化する。WSSは、
図18のグラフの各ポイントである動的プロファイルによって表される各時点について計算することが出来、そして一般に1心周期の持続時間をカバーする。WSS記述子は、複数の時点から導出されたWSS情報に基づくことも、単一の時点に基づくことも出来る。ある時点で得られるWSSベースの記述子は、例えば、ピークWSS、収縮末期WSS、または拡張末期WSSである。
【0115】
複数の時点からのWSS情報、例えば、心周期を組み込んだWSS記述子は、動的な血流情報を含み、それ故、血液循環による動態に関するより多くの情報を含む。
【0116】
加えてまたはこれに代えて、1つまたは多くのプロセッサが、さらに、セグメント内の対応する表面要素でWSSベクトルを計算し、そしてこのWSSベクトルに基づいてWSS記述子を計算するように構成されている。加えてまたはこれに代えて、WSS記述子は、トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI)を含む。このTSVIは、表面要素に適用される収縮または膨張の変動量を表す。1つまたは複数のプロセッサは、さらに、WSSベクトルの発散に基づいてTSVIを計算するように構成されている。TSVIは、心周期内の対応する時点における瞬間的な発散と、心周期に渡る平均的な発散とに基づいていても良い。発散の負の値と正の値は、それぞれ、対応する表面要素の収縮と膨張を示す。
【0117】
加えてまたはこれに代えて、1つまたは複数のプロセッサは、心周期に渡るWSSベクトルの大きさを平均化することによって、表面要素のそれぞれについて、時間平均WSS(TAWSS)をWSS記述子として計算するように構成しても良い。TAWSSは、心周期に沿った平均WSSを定義し、そして
【数38】
の様に計算される。ここで、
【数39】
は、心周期の持続時間を表す。
【0118】
加えてまたはこれに代えて、1つまたは複数のプロセッサは、内皮表面に渡る剪断応力差の大きさとして定義される壁剪断応力勾配を、WSS記述子として計算するように構成しても良い。この勾配は、WSSから計算する、または動的フロー・プロファイルを考慮する場合は、TAWSSから計算することが出来る。これに代えて、この勾配は、軸方向(1303)、円周方向(1304)、および半径方向(1305)において計算することも出来る。
【0119】
トポロジカル剪断変動インデックス(TSVI)は、時間情報を含むWSSベースの記述子の別の例である。TSVIは、非特許文献32および非特許文献33に記載されているように、心周期に沿ってWSSが発生させる収縮/拡張の局所作用の変動性の尺度である。技術的には、TSVIは、心周期に渡る平均に対する単位WSSベクトル場の瞬時発散の二乗平均平方根偏差として定義される。TSVIは、3つのステップで計算される。最初のステップが、次の式:
【数40】
を使用して正規化されたWSSベクトル場の発散を決定する。ここで、
【数41】
はWSSベクトル、
【数42】
はWSSベクトルの大きさ、
【数43】
は正規化されたWSSベクトルである。その後、時間の経過とともに平均化され正規化されたWSSベクトルの発散が次の式:
【数44】
で計算される。ここで、上棒はサイクル平均化された数量を示す。最後に、TSVIは、次の式:
【数45】
を使用してタイムステップ数Τを合計することによって計算される。
【0120】
WSSの収縮/膨張の変動量は、各表面ポイントのTSVI値によって特徴付けられる。
【0121】
追加のWSSパラメータは、心周期に渡るWSS値を使用して、計算することが出来る。例えば、振動剪断インデックス(OSI:Oscillatory Shear Index)、クロス・フロー・インデックス(CFI:Cross Flow Index)、相対滞留時間(RRT:Relative Residence Time)、および横方向WSS(transWSS)は、計算することが出来る。OSIが、主要な血流からのWSSベクトルの方向の変化を表すので、OSIは、心周期全体に渡るWSSベクトルとTAWSSベクトルの整合性を定量化し、そして次のように:
【数46】
計算される。
【0122】
CFIは、大きさを考慮せずにWSSの方向を表す。これは、時間平均WSSベクトルと瞬間的なベクトルの間の角度の正弦である。CFIは、これらの瞬間的な成分の時間平均であり、次のように:
【数47】
定義される。
【0123】
RRTは、大きさが低くかつ振動壁剪断応力(WSS)が高いことを特徴とする血流障害のマーカであり、そして次のように:
【数48】
計算される。
【0124】
transWSSは、心周期に渡る時間平均WSSベクトルに垂直な平均WSS成分であり、内皮細胞がこれに整合されていると仮定されている。これは、内皮細胞がクロス・フローによって悪影響を受ける可能性があるという生物学的仮説を提供する。高いtransWSSは、心周期の大部分に渡る小さな剪断ベクトルの大きな揺らぎ、大きな剪断ベクトルの小さな揺らぎ、または中程度の剪断ベクトルの小さな揺らぎから生じるかもしれない。transWSSは、次の式:
【数49】
で計算される。
【0125】
血管内の病変は、血流の乱れの原因となるかもしれない。血流は、乱流になるかもしれない。血管内の病変による血行力学的変化の評価は、病変の重症度の判定に貢献することが出来る。血管内の血流速度分布の変動または揺らぎは、乱流の運動エネルギーによって評価することが出来る。乱流の運動エネルギーは、時間の経過に伴う速度の変動または揺らぎを表す。乱流の運動エネルギーを決定するためには、複数の心周期(例、12周期)が、CFDステップ1203で計算される必要があり、そして血流の乱流を正しく解決するためには、乱流モデル(例、RANS)が存在しなければならない。次に、速度ベクトルが、レイノルズ分解手法を適用して分解される。速度成分
【数50】
は、定常成分
【数51】
と変動成分
【数52】
に分解される。
【数53】
【0126】
乱流の運動エネルギーは、次のように:
【数54】
計算される。ここで、
【数55】
、
【数56】
、および
【数57】
は、メッシュ・ノードごとの速度ベクトル (x,y,z) の変動速度成分である。
【0127】
106で、1つまたは複数のプロセッサが、リスク予測を定義する。例えば、1つまたは複数のプロセッサは、WSS記述子および圧力または解剖学的パラメータの内の少なくとも1つに基づいて、心筋梗塞(MI)インデックス(心筋リスク・インデックスとも呼ばれる)を計算する。MIインデックスは、病変がMIと言う結果になる尤度を表す。加えてまたはこれに代えて、1つまたは複数のプロセッサは、さらに、WSS記述子、解剖学的パラメータ、および圧力パラメータの加重和を計算することによって、MIインデックスを計算するように構成させても良い。本明細書の実施形態によれば、MIインデックスは、病変が破裂する尤度を表す。冠動脈病変の心筋リスク・インデックスは、1つまたは複数のセグメント内の解剖学的パラメータ(ステップ103)、圧力パラメータ(ステップ104)およびWSSベースの記述子(ステップ105)の重み付けによって計算される。
【0128】
MIインデックスは、様々な方法で提示/出力させても良い。例えば、MIインデックスは、病変が破裂またはMIと言う結果になる尤度を示すグラフィックおよび/または英数字のインデックスとして提示されても良い。一例として、MIインデックスは、尤度パーセンテージのみを表しても良い。別の例として、MIインデックスは、病変が破裂して激化する尤度が非常に低いことを示す第1の色から、病変が破裂して激化する尤度が非常に高いことを示す第2の色までの範囲の色スケールに沿った1つまたは複数の色として提示させても良い。本明細書に記載するように、色インデックスは、病変セグメント、上流セグメント、および下流セグメントに異なる色を重ねて、病変のグラフィック表示上に重ね合わせても良い。
【0129】
WSSベースの記述子が抽出されるセグメントは、
図23に示されるように、対象血管内の病変に関連している。
図23は、対象血管からのセグメント定義の例を示す。病変セグメント(2301)は、ステップ103によって定義される最小管腔面積(MLA)を含み、そしてステップ103内で計算される閉塞領域の近位境界および遠位境界によって限定される。1つまたは複数のプロセッサは、さらに、血管を、領域セグメント、上流セグメントおよび下流セグメントに分割するように構成されている。病変セグメントは、最小管腔面積(MLA)を有する血管の領域を含み、そして近位境界および遠位境界によって区切られている。上流セグメントは、近位境界で血管の直径と所定の関係を有する近位長さだけ近位境界から近位方向に延在する。下流セグメントは、遠位境界で血管の直径と所定の関係を有する遠位長さだけ遠位境界から遠位方向に延在する。上流セグメントと下流セグメントは、上流セグメントの近位境界と下流セグメントの遠位境界の閉塞境界で、それぞれの直径の、例えば、3倍延在していた。
【0130】
1つまたは複数のプロセッサは、病変セグメント、上流セグメント、および下流セグメントのそれぞれについて平均WSSベースの記述子を計算する。例えば、病変セグメントのTAWSS記述子は、病変セグメント内の全てのTAWSS値の平均によって計算される。複数のWSSベースのセグメント記述子は、例えば、セグメント内の特定のWSSベースの記述子の最大値、セグメント内のWSSベースの記述子の標準偏差、セグメント内の特定のWSSベースの記述子の中央値、または他の統計的アプローチを考慮することが出来る。
【0131】
図24は、心筋リスク・インデックスの計算中に使用することが出来る解剖学的パラメータ(ステップ103の結果)の例を示す。WSSベースの記述子のセグメント定義と同様に、病変セグメントは、2401(MLA)および2402(閉塞領域または病変の長さ)によって識別される重要なパラメータである。これらの解剖学的パラメータに加えて、
図24に示されるように、%病変重症度、入口と出口の直径、またはMLA位置からの面積と距離も、解剖学的パラメータとして使用することが出来る。
【0132】
図25は、心筋リスク・インデックスの計算中に使用することが出来る圧力パラメータ(ステップ104の結果)の例を示す。血管vFFR(2501)は、重要な圧力パラメータであり、そして3D再構成の最遠位位置におけるvFFR値を表す。再度、閉塞領域は、例えば、閉塞領域の遠位境界(2504)と近位境界(2503)の間のvFFR差を表す「経病変vFFR差」とも呼ばれる病変vFFRのような追加の圧力パラメータを抽出するために使用される。vFFR値のほかに、mmHgで表される圧力も、圧力パラメータとして使用することが出来る。圧力パラメータの別の例は、仮想プルバックの形状に基づく局所性またはびまん性病変の尤度である。この尤度は、例えば、非特許文献34に記載される教示に基づかせることが出来る。加えて、対象血管に沿ったプルバックvFFRまたはプルバック圧力曲線(
図11の1104)を追加パラメータとして使用することも出来る。
【0133】
図26は、心筋リスク・インデックス(MIリスク・インデックス、2608)を計算するステップの概要を示す。先ず、対象血管の3D再構成が、2601で示されるようにX線血管造影画像データ(ステップ101)に基づいて、作成され(ステップ102)そして2602で示される。3D再構成に基づいて、速度は、流体の動きを記述する式(ナビエ・ストークス方程式)を、2603で示されている例えば、CFDによって解く最新技術によって、計算される(ステップ1203)。3D再構成から抽出された解剖学的パラメータは、2605により示されていて、そして3D再構成から抽出された圧力パラメータは、2606により示されている。2607によって示されるWSSベースの記述子は、セグメント内で計算される(2604)。最後に、MIリスク・インデックス(2608)は、2605、2606、および2607の値を重み付けすることによって計算される。この重み付けは、全てのパラメータに対して均等に実行することが出来る。またはMIリスク・インデックスの計算に使用される異なるパラメータの重み付けパラメータを定義するために、より洗練された方法を適用することも出来る。例えば、非特許文献35または非特許文献36が教示する感度の高い分析が使用される。
【0134】
感度の高い分析は、結果との関係(この場合はMIまたはMACE)において前述した、関係する全てのパラメータ(入力)間の複雑な関係を記述する数学的モデルを、提供するであろう。このようにして、このモデルは、ブラックボックスであると見る、つまり、出力がその入力の「不透明な」関数であると見ることが出来る。多くの場合、このモデル入力の一部または全ては、測定誤差、情報の欠如、駆動力およびメカニズムの理解が不十分または部分的であることを含む不確実性の影響を受ける。この不確実性により、このモデルの応答または出力に対する信頼には限界が生じる。加えて、このモデルは、確率的イベントの発生の様な、システムの自然な固有の(偶発的)変動性に対処しなければならないかもしれない。適切なモデリングを実践するには、モデラーがこのモデルの信頼性の評価を提供することが必要である。これには、先ず、このモデル結果の不確実性を定量化(不確実性分析)する必要がある。次に、各入力が、出力の不確実性にどの程度関与しているかを評価する。感度分析は、出力の変動を決定する際の入力の強度と関連性を重要度によって順序付ける上で、各入力が、出力の不確実性にどの程度関与しているかを検討する。これにより、各パラメータの重み付けが最適化されて、MIリスク・インデックスが提供されるであろう。
【0135】
MIリスク・インデックスは、いくつかの方法で報告させることが出来る。第一に、MIリスク・インデックスは、各セグメント内で単一の値として表示される。第二に、MIリスク・インデックスは、事前定義された長さのセグメント量の3D再構成の下位区分内の単一の値として表示される。第三に、MIリスク・インデックスは、3Dボリューム・メッシュの各表面要素に対して計算され、そして例えば、
図27に示されているように、3D再構成に重ねられた色マップとして表示される。
【0136】
加えて、基礎となるWSS記述子を提示することも出来る。
図28は、分析から得られたWSS結果を示すワークフローのスクリーン・ショットの例を示す。この例では、WSSは、心周期(2803)を表す速度プロファイルのセット内の単一の時点(2801)に対応する3D再構成(2802)に重ねられた色マップとして視覚化される。前述の各WSS記述子は、例えば、記述されているWSS記述子の1つをドロップボックス2804によって選択することにより、3D再構成に重ねられた色マップとして視覚化させることが出来る。
図29は、1回の分析から得られたWSS記述子の相違を示す。これは、図示された全ての例:TAWSS(2901)、OSI(2902)、RRT(2903)、transWSS(2904)、CFI(2905)、TAWSSax(2906)、TAWSSSC(2907)、TSVI(2908)に対して、WSSベクトルが同一であることを意味する。
【0137】
操作は、スタンドアロンシステム上のプロセッサユニット、またはX線システムに接続された(
図2b)または例えば、X線透視システムに直接含まれているセミスタンドアロンシステム、または2次元の血管造影画像シーケンスを取得する他の任意の画像システム(
図2a)によって実行させることが出来る。
【0138】
図17は、X線シネ蛍光撮影システムの高レベルのブロック図の例を示す。このブロック図には、実施形態が、このようなシステムにどのように統合できるかについての一例が示されている。
【0139】
本発明は、主に冠動脈に関して開示されて来た。当業者であれば、この教示が、他の血管構造、例えば、末梢血管または静脈の血管構造にも同様に拡張できることを理解するであろう。加えて、本発明は、主にX線血管造影画像データセットを参照して開示されて来た。当業者であれば、この教示が、他の画像診断法、例えば、回転血管造影、MRI、コンピュータ断層撮影(CT)、SPECT、PET、超音波などにも同様に拡張できることを理解するであろう。
【0140】
(さまざまな機能ブロックによって定義される)システムの一部は、専用ハードウェア、アナログおよび/またはデジタル回路、および/またはメモリに記憶されたプログラム命令を動作させる1つ以上のプロセッサを用いて実装させても良い。
【0141】
図17のX線システムは、X線ビーム1703を発生する高電圧発生器1702を備えたX線管1701を含む。高電圧発生器1702は、電力を制御し、そしてX線管1701に電力を供給する。高電圧発生器1702は、X線管1701の陰極と回転陽極の間の真空ギャップに高電圧を印加する。X線管1701に印加される電圧により、X線管1701の陰極から陽極への電子移動が起こり、これは、制動放射(Bremsstrahlung)とも呼ばれるX線光子生成効果をもたらす。生成された光子は、画像検出器1706に向けられるX線ビーム1703を形成する。
【0142】
X線ビーム1703は、特にX線管1701に加えられる電圧および電流によって決定される最大値までの範囲のエネルギーのスペクトルを有する光子からなる。次いで、X線ビーム1703は、調節可能なテーブルに横たわる患者1704を通過する。X線ビーム1703のX線光子は、様々な程度で患者の組織を貫通する。患者1704の異なる構造は、放射線の異なる部分を吸収し、これによりビーム強度が変調される。患者1704から出た変調されたX線ビーム1703'は、X線管の反対側に位置する画像検出器1706によって検出される。この画像検出器1706は、間接または直接検出システムの何れかとすることが出来る。
【0143】
間接検出システムの場合、画像検出器1706は、X線出射ビーム1703'を増幅された可視光画像に変換する真空管(X線画像増強管)を備える。この増幅された可視光画像は、画像の表示と記録のためにデジタル・ビデオ・カメラの様な可視光画像受容体に送信される。これにより、デジタル画像信号が得られる。
【0144】
直接検出システムの場合、画像検出器1706は、フラット・パネル検出器を備える。フラット・パネル検出器は、X線出射ビーム1703'をデジタル画像信号に直接変換する。画像検出器1706から得られるデジタル画像信号は、デジタル画像処理ユニット1707を通過する。デジタル画像処理ユニット1707は、1706からのデジタル画像信号を、DICOMの様な標準画像ファイル形式で、補正された(例えば、反転されたおよび/またはコントラスト強調された)X線画像に変換する。次いで、補正されたX線画像は、ハード・ドライブ1708に保存させることが出来る。
【0145】
さらに、
図17のX線システムは、Cアーム1709を備える。Cアームは、患者1704と調節可能なテーブル1705が、X線管1701と画像検出器1706との間に位置するように、X線管1701と画像検出器1706を保持する。Cアームは、Cアーム制御1710を使用して制御された態様で特定の投影を取得するために、所望の位置に移動(回転および角度調整)させることが出来る。Cアーム制御により、手動入力または自動入力が、Cアームを、特定の投影でのX線記録の目的の位置に調整することが可能になる。
【0146】
図17のX線システムは、シングル・プレーンまたはダブル・プレーン画像化システムの何れかとすることが出来る。ダブル・プレーン画像化システムの場合、それぞれがX線管1701、画像検出器1706、およびCアーム制御装置1710からなる複数のCアーム1709が存在する。
【0147】
加えて、調節可能なテーブル1705は、テーブル制御部1711を使用して移動させることが出来る。調節可能なテーブル1705は、x、y、およびz軸に沿って移動させることができ、また特定のポイントの周りに傾けることも出来る。
【0148】
加えて、X線システムには、測定ユニット1713が存在する。この測定ユニットには、患者に関する情報、例えば、ECG、大動脈圧、バイオマーカ、および/または身長、長さなどに関する情報が、含まれている。
【0149】
X線システム内には、一般ユニット1712も存在する。この汎用ユニット1712は、Cアーム制御部1710、テーブル制御部1711、デジタル画像処理ユニット1707、および測定ユニット1713と対話するために使用することが出来る。
【0150】
一実施形態は、以下のように
図17のX線システムによって実施される。臨床医または他のユーザは、Cアーム制御部1710を使用してCアーム1709を患者1704に対して所望の位置に移動させることによって、患者1704の少なくとも2つのX線血管造影画像シーケンスを取得する。患者1704は、ユーザがテーブル制御部1711を使用して特定の位置に移動させた調節可能なテーブル1705上に横たわる。
【0151】
次いで、上述したように、X線画像シーケンスが、高電圧発生器1702、X線管1701、画像検出器1706、およびデジタル画像処理ユニット1707を使用して生成される。これらの画像は、次で、ハード・ドライブ1708に記憶される。一般処理ユニット1712は、これらのX線画像シーケンスを使用して、本出願に記載されるような方法、例えば、
図1に記載されるような方法を、測定ユニット1713、デジタル画像処理部1707、Cアーム制御部1710、テーブル制御部1711の情報を使用して実行する。
【0152】
本明細書では、速度成分の次数およびフローの方向に関する欠落情報を復元するための方法および装置のいくつかの実施形態を記載しそして図示して来た。本発明の特定の実施形態を記載したが、本発明は、当該技術分野で許される限り広い範囲にあり、明細書も同様に読まれることが意図されており、本発明がそれに限定されることは意図されていない。例えば、データ処理操作は、医用画像技術で一般的に使用されるPACSの様なデジタル・ストレージに保存された画像に対してオフラインで実行することが出来る。従って、当業者は、特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、提供された本発明に対して加えて他の修正を加えることが出来ることを、理解するであろう。
【0153】
本明細書に記載される実施形態は、上述したように、様々なデータストアおよび他のメモリおよび記憶媒体を含むことが出来る。これらは、1つ以上のコンピュータに対しローカルな(および/または常駐する)記憶媒体、またはネットワーク上の何れかまたは全てのコンピュータからリモートの記憶媒体の様な、さまざまな場所に存在することが出来る。特定の一連の実施形態では、情報は、当業者には良く知られたストレージ・エリア・ネットワーク(「SAN:storage-are network」)内に常駐させることが出来る。同様に、コンピュータ、サーバ、または他のネットワーク・デバイスに起因する機能を実行するために必要なファイルは、必要に応じて、ローカルおよび/またはリモートに保存することが出来る。システムが、コンピュータ化されたデバイスを含む場合、各デバイスは、バスを介して電気的に接続することが出来るハードウェア要素を含むことが出来、その要素には、例えば、少なくとも1つの中央処理装置(「CPU」または「プロセッサ」)、少なくとも1つの入力デバイス(例、マウス、キーボード、コントローラ、タッチスクリーンまたはキーパッド)および少なくとも1つの出力デバイス(例、ディスプレイ・デバイス、プリンタまたはスピーカ)が、含まれる。このようなシステムは、ディスク・ドライブ、光記憶デバイス、ランダム・アクセス・メモリ(「RAM」)または読み取り専用メモリ(「ROM」)の様な固体記憶デバイス、リムーバブル・メディア・デバイス、メモリカード、フラッシュカード等の1つ以上の記憶デバイスを含んでいても良い。
【0154】
このようなデバイスは、上述したコンピュータ可読記憶媒体リーダ、通信デバイス(例、モデム、ネットワーク・カード(無線または有線)、赤外線通信デバイス等)および上述した作業メモリも含むことが出来る。コンピュータ可読記憶媒体リーダは、リモート、ローカル、固定および/またはリムーバブル記憶デバイス、ならびに一時的および/またはより永続的にコンピュータ可読情報を格納、記憶、送信、および取得するための記憶媒体を表すコンピュータ可読記憶媒体と接続するか、またはそれを受け取るように構成することが出来る。システムおよび様々なデバイスは、また、典型的には、オペレーティング・システム、およびクライアント・アプリケーションまたはウェブブラウザの様なアプリケーション・プログラムを含む、少なくとも1つの作業記憶デバイス内に位置する多数のソフトウェア・アプリケーション、モジュール、サービス、または他の要素も含むであろう。代替実施形態が、上述のものからの多くの変形を有していても良いことは、理解されるべきである。例えば、カスタマイズされたハードウェアが、使用されるおよび/または特定の要素が、ハードウェア、(アプレットの様なポータブル・ソフトウェアを含む)ソフトウェア、またはその両者で実装されても良いかもしれない。さらに、ネットワーク入出力デバイスの様な他のコンピューティング・デバイスへの接続が採用されても良い。
【0155】
様々な実施形態は、さらに、コンピュータ可読媒体上で前述の記載に従って実装される命令および/またはデータを、受信、送信、または記憶することを含んでいても良い。コードまたはコードの一部を含む記憶媒体およびコンピュータ可読媒体は、揮発性および不揮発性、リムーバブル、およびこれらに限定されない記憶媒体および通信媒体を含む、RAM、ROM、電気的に消去可能なプログラム可能な読み取り専用メモリ(「EEPROM」)、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラム モジュール、または他のデータの様な情報を保存および/または送信するための方法または技術で実装された非リムーバブル・メディア、フラッシュ・メモリまたは他のメモリ・テクノロジ、コンパクト・ディスク読み取り専用メモリ(「CD-ROM」)、デジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)または他の光学式ストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク・ストレージまたは他の磁気ストレージ・デバイス、または他の必要な情報を保存するために使用でき、システム・デバイスによってアクセスできる媒体、を含む当技術分野で知られているまたは使用されている任意の適切な媒体を含むことが出来る。本明細書で提供される開示および教示に基づいて、当業者であれば、様々な実施形態を実装するための他の方法および/または方法を理解するであろう。
【0156】
従って、明細書および図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味としてみなされるべきである。しかしながら、特許請求の範囲に記載された本発明のより広い精神および範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更を行うことが出来ることは明らかであろう。
【0157】
他の変形も、本開示の精神の範囲内にある。従って、開示された技術には、さまざまな修正および代替構成が可能であるが、その特定の例示的な実施形態は、図面に示され、そして上述したように詳細に記載されている。しかしながら、本発明を、開示された特定の形態に限定する意図はなく、逆に、本発明が、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の精神および範囲内にある全ての修正、代替構造および均等物を網羅することが、意図されていることは、理解されるべきである。
【0158】
開示された実施形態を記載する文脈(特に特許請求の範囲)における用語「a」、「an」、「the」および同様の指示語の使用は、本明細書で別段の指示がある場合、または文脈と明らかに矛盾する場合を除き、単数形と複数形の両者をカバーすると解釈されるべきである。「備える」、「有する」、「含む」、および「包含する」という用語は、特に断りのない限り、無制限の用語(すなわち、「含むが、これらに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。「接続された」という用語は、そのままで物理的な接続を指す場合、例え、何かが介在している場合でも、部分的または全体的に内部に包含されているか、接続されているか、結合されていると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書に別段の記載がない限り、その範囲内にあるそれぞれの個別の値を個別に参照する簡略的な方法として機能することのみが意図されていて、個別の各値は、あたかも本明細書に個別に記載されているかのように明細書に組み込まれている。「セット」(例:「アイテムのセット」)または「サブセット」という用語の使用は、特に断りのない限り、または文脈と矛盾しない限り、1つ以上のメンバーを含む空ではないコレクションとして解釈されるものとする。さらに、特に断りのない限り、または文脈と矛盾しない限り、対応するセットの「サブセット」という用語は、必ずしも対応するセットの適切なサブセットを意味するわけではなく、サブセットと対応するセットは等しくても良い。
【0159】
本明細書に記載されるプロセスの動作は、本明細書に別段の指示がないか、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することが出来る。本明細書に記載されるプロセス(またはその変形および/または組み合わせ)は、実行可能命令で構成された1つまたは複数のコンピュータ・システムの制御下で実行することができ、コード(例えば、実行可能命令、1つまたは複数のコンピュータ・プログラム、または1つまたは複数のアプリケーション)として実装することが出来る)ハードウェアまたはハードウェアの組み合わせによって、1つ以上のプロセッサ上で集合的に実行される。コードは、例えば、1つまたは複数のプロセッサによって実行可能な複数の命令を含むコンピュータ・プログラムの形式で、コンピュータ可読記憶媒体に記憶され得る。コンピュータ可読記憶媒体は非一時的であっても良い。
【0160】
本明細書では、本発明を実施するための発明者に知られている最良の形態を含めて、本開示の好ましい実施形態が、記載されている。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の記載を読めば当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形を必要に応じて採用することを理解していて、本開示の実施形態が、本明細書具体的に記載されている以外の方法で実施されることも意図されている。従って、本開示の範囲は、適用される法律で許可されている、本明細書添付の特許請求の範囲に記載されている主題の全ての修正および均等物を含む。加えて、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本開示の範囲は、あらゆる可能な変形における上述の要素の任意の組み合わせを含有する。
【0161】
付録が本明細書に添付されている場合、その付録の内容は、本明細書の一部として扱われるものとし、その全体が参照により本明細書組み込まれる。
【0162】
本明細書で引用される出版物、特許出願および特許を含む全ての参考文献は、あたかも各参考文献が参照により組み込まれることが個別かつ具体的に示され、その全体が本明細書に記載されるのと同じ範囲で、参照により本明細書に組み込まれている。