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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】ステーターコア及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20240426BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K15/02 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023567821
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2022046089
(87)【国際公開番号】W WO2023112969
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021203169
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田村 達二
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208955(JP,A)
【文献】特開2017-005785(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のヨーク片の内周にティース片を有するステーター片が積層されたステーターコアであって、
前記ステーター片の外縁に備えられた径方向の凹部と、
前記径方向の凹部内に備えられた径方向の凸片部と、
前記径方向の凸片部の表裏にそれぞれ備えられた積層方向の凹部及び凸部と、
前記ステーター片相互間で前記積層方向の凹部及び凸部が締結により嵌合した嵌合部と、
前記嵌合部の凹部及び凸部を積層方向に溶接した溶接部と、
を備え
前記凸片部の前記径方向の先端縁は、周方向の幅を有し、
前記積層方向の凹部及び凸部は、前記凸片部の前記先端縁に至るように形成され
ステーターコア。
【請求項2】
環状のヨーク片の内周にティース片を有するステーター片が積層されたステーターコアであって、
前記ステーター片の外縁に備えられた径方向の凹部と、
前記径方向の凹部内に備えられた径方向の凸片部と、
前記径方向の凸片部の表裏にそれぞれ備えられた積層方向の凹部及び凸部と、
前記ステーター片相互間で前記積層方向の凹部及び凸部が締結により嵌合した嵌合部と、
前記嵌合部の凹部及び凸部を積層方向に溶接した溶接部と、
を備え、
前記凸片部の前記径方向の先端縁は、周方向の幅を有し、
前記積層方向の凹部及び凸部は、前記径方向の凸片部に半抜き状に備えられた、
ステーターコア。
【請求項3】
請求項1又は2のステーターコアであって、
少なくとも前記積層方向の端部で前記ステーター片に積層される第2のステーター片と、
前記第2のステーター片の外縁に備えられた径方向の第2の凹部と、
前記径方向の第2の凹部内に備えられた径方向の第2の凸片部と、
前記第2の凸片部に設けられ前記積層方向の凸部が嵌合する径方向に凹形状の開口部と、
前記凹形状の開口部に前記積層方向の凸部が締結により嵌合した第2の嵌合部と、
を備え、
前記溶接部は、前記第2の嵌合部の前記開口部の周縁及び前記積層方向の凸部まで及ぶ、
ステーターコア。
【請求項4】
請求項1又は2のステーターコアであって、
前記積層方向の凹部及び凸部は、前記凸片部よりも周方向の幅が狭い、
ステーターコア。
【請求項5】
請求項1又は2のステーターコアであって、
前記溶接部を、前記凸片部内に形成した、
ステーターコア。
【請求項6】
請求項1又は2のステーターコアであって、
前記積層方向の凹部及び凸部を、前記凸片部内に形成した、
ステーターコア。
【請求項7】
請求項1又は2のステーターコアであって、
前記溶接部によって前記嵌合部の全部が消失した、
ステーターコア。
【請求項8】
請求項3のステーターコアであって、
前記溶接部によって前記嵌合部及び前記第2の嵌合部の全部が消失した、
ステーターコア。
【請求項9】
請求項1のステーターコアであって、
前記積層方向の凹部及び凸部の前記周方向両側に前記凸片部の本体部が位置し、
前記積層方向の凹部及び凸部の前記径方向における先端縁と前記本体部の前記径方向における先端縁とが前記周方向に連続する、
ステーターコア。
【請求項10】
請求項1又は2のステーターコアを製造する製造方法であって、
前記径方向の凹部及び凸片部と前記積層方向の凹部及び凸部とを備えたステーター片を形成し、
複数の前記ステーター片を積層して締結により前記嵌合部を形成し、
前記積層したステーター片に前記積層方向での溶接により前記溶接部を形成する、
ステーターコアの製造方法。
【請求項11】
請求項のステーターコアを製造する製造方法であって、
前記径方向の凹部及び凸片部と前記積層方向の凹部及び凸部とを備えたステーター片を形成し、
前記径方向に凹形状の開口部を備えた第2のステーター片を形成し、
複数の前記ステーター片を積層し、少なくとも積層方向の端部に前記第2のステーター片を積層配置し、締結により前記嵌合部及び第2の嵌合部を形成し、
前記積層したステーター片及び第2のステーター片に前記積層方向での溶接により前記溶接部を形成する、
ステーターコアの製造方法。
【請求項12】
請求項10のステーターコアの製造方法であって、
前記ステーター片の形成は、前記径方向の凹部及び凸片部の輪郭をプレスにより打ち抜いた後に、
前記積層方向の凹部及び凸部をプレスにより形成し、
前記ステーター片の外縁をプレスにより打ち抜く、
ステーターコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モーター等のステーターコア及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステーターコアとしては、特許文献1のように、積層された複数のステーター板から構成されたものがある。複数のステーター板は、カシメ固定部によって互いに固定され、カシメ固定部に重なる溶接部により溶接された構成となっている。
【0003】
かかる構成により、鉄損の原因となるカシメ固定部と溶接部とが重なり、ステーターコアの鉄損を抑えることができるとしている。
【0004】
しかし、カシメ固定部及び溶接部は、ヨークの範囲内で設けられている。このため、カシメによる残留応力や溶接による収縮作用がヨークに直接影響し、カシメ固定部と溶接部とが重なったとしても鉄損の抑制には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-5785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、鉄損の抑制に限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、環状のヨーク片の内周にティース片を有するステーター片が積層されたステーターコアであって、前記ステーター片の外縁に備えられた径方向の凹部と、前記径方向の凹部内に備えられた径方向の凸片部と、前記径方向の凸片部の表裏にそれぞれ備えられた積層方向の凹部及び凸部と、前記ステーター片相互間で前記積層方向の凹部及び凸部が締結により嵌合した嵌合部と、前記嵌合部の凹部及び凸部を積層方向に溶接した溶接部と、を備え、前記凸片部の前記径方向の先端縁は、周方向の幅を有し、前記積層方向の凹部及び凸部は、前記凸片部の前記先端縁に至るように形成されたステーターコアを提供する。
【0008】
また、本発明は、前記径方向の凹部及び凸片部と前記積層方向の凹部及び凸部とを備えたステーター片を形成し、複数の前記ステーター片を積層して締結により前記嵌合部を形成し、前記積層したステーター片に前記積層方向での溶接により前記溶接部を形成する、ステーターコアの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のステーターコアは、嵌合部及び溶接部による鉄損の影響範囲がステーターコアの外周面からヨーク内へ入り込むことを極力抑制することができる。
【0010】
本発明のステーターコアの製造方法は、嵌合部及び溶接部による鉄損の影響範囲がステーターコアの外周面からヨーク内へ入り込むことを極力抑制したステーターコアを容易且つ確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例に係るステーターコアの平面図である。
図2図2は、図1のII部を拡大して示す斜視図である。
図3図3は、図1のII部に対応したステーター片の斜視図である。
図4図4は、図1のII部に対応した第2のステーター片の斜視図である。
図5図5は、図1のII部に対応したステーター片の積層前の状態を示す斜視図である。
図6図6は、図1のII部に対応したステーター片の積層状態を示す斜視図である。
図7図7は、実施例の変形例1に係り、凸片部の溶接範囲を示すステーター片の要部を拡大して概念的に示す平面図である。
図8図8は、実施例の変形例2に係り、凸片部の溶接範囲を示すステーター片の要部を拡大して概念的に示す平面図である。
図9図9(A)及び図9(B)は、実施例の変形例3に係り、図9(A)は、凸片部の凹部及び凸部の範囲を示すステーターコア片の要部を拡大して概念的に示す平面図、図9(B)は、さらに溶接範囲を示すステーターコア片の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
鉄損の抑制向上を可能にするという目的を、ステーター片の外縁の径方向の凹部内に設けた径方向の凸片部において、ステーター片相互間の凹部及び凸部を嵌合させて溶接するステーターコア及びその製造方法によって実現した。
【0013】
すなわち、ステーターコア1は、図1図7のように、環状のヨーク片20の内周にティース片21を有するステーター片17が積層される。各ステーター片17は、径方向の凹部23と、径方向の凸片部25と、積層方向の凹部27及び凸部29とを備え、ステーター片17の相互間には、嵌合部47と、溶接部5とを備える。
【0014】
凹部23は、各ステーター片17の外縁35に備えられている。凸片部25は、径方向の凹部23内に備えられている。凹部27及び凸部29は、径方向の凸片部25の表裏にそれぞれ備えられている。嵌合部47は、ステーター片17相互間で積層方向の凹部27及び凸部29が締結により嵌合する部分である。溶接部5は、嵌合部47の凹部27及び凸部29を積層方向に溶接したものである。
【0015】
積層方向の凹部27及び凸部29は、径方向の凸片部25の積層方向間で嵌合部47が形成できればよく、その形状は自由に実現できる。ただし、積層方向の凹部27及び凸部29は、径方向の凸片部25に半抜き状に備えてもよい。
【0016】
ステーターコア1は、第2のステーター片19と、第2の凹部41と、第2の凸片部43と、開口部39と、第2の嵌合部49とを備えてもよい。第2のステーター片19は、少なくとも積層方向の端部でステーター片17に積層される。第2のステーター片19の外縁には、径方向の第2の凹部41が備えられる。径方向の第2の凹部41内には、径方向の第2の凸片部43が備えられる。第2の凸片部43は、積層方向の凸部29が嵌合する径方向に凹形状の開口部39を有する。第2の嵌合部49は、開口部39に積層方向の凸部29が締結により嵌合する。この場合、溶接部5は、第2の嵌合部49の開口部39の周縁及び凸部29まで及ぶ。
【0017】
積層方向の凹部27及び凸部29は、凸片部25よりも周方向の幅が狭くてもよい。また、積層方向の凹部27及び凸部29は、凸片部25内に形成してもよい。
【0018】
溶接部5は、凸片部25,43内に形成してもよい。
【0019】
また、溶接部5によって、嵌合部47及49の全部が消失してもよい。
【0020】
ステーターコア1を製造する製造方法は、まず径方向の凹部23及び凸片部25と積層方向の凹部27及び凸部29とを備えたステーター片17を形成する。次いで、複数のステーター片17を積層してカシメにより嵌合部47を形成する。次いで、積層したステーター片17に積層方向での溶接により溶接部5を形成する。
【0021】
また、ステーターコアの製造方法では、径方向の凹部23及び凸片部25と積層方向の凹部27及び凸部29とを備えたステーター片17を形成すると共に径方向に凹形状の開口部39を備えた第2のステーター片19を形成してもよい。この場合、複数のステーター片17を積層し、少なくとも積層方向の端部に第2のステーター片19を積層し、締結により嵌合部47及び第2の嵌合部49を形成する。次いで、積層したステーター片17及び第2のステーター片19に積層方向での溶接により溶接部5を形成する。
【0022】
ステーター片17の形成は、径方向の凹部23及び凸片部25の輪郭をプレスにより打ち抜いた後に、積層方向の凹部27及び凸部29の輪郭をプレスにより形成し、ステーター片17の外縁35をプレスにより打ち抜いてもよい。
【実施例
【0023】
[ステーターコア]
図1は、本発明の実施例に係るステーターコアの平面図である。図2は、図1のII部を拡大して示す斜視図である。図3は、図1のII部に対応したステーター片の斜視図である。図4は、図1のII部に対応した第2のステーター片の斜視図である。図5は、図1のII部に対応したステーター片の積層前の状態を示す斜視図である。図6は、図1のII部に対応したステーター片の積層状態を示す要部拡大斜視図である。
【0024】
図1図2のように、ステーターコア1は、コイル(図示せず)を巻くことで電磁石になるものである。このステーターコア1は、複数のステーター片17を積層し、溶接部5によってステーター片17の相互間を接合して構成されている。ステーターコア1は、ほぼ円形の外周面3に溶接部5を備え、ヨーク7の内周にコイルを巻くための径方向に突出するティース9を備えている。
【0025】
径方向とは、ステーターコア1の径に沿った方向である。積層方向は、ステーターコア1の厚み方向又は軸方向であり、周方向は、ステーターコア1の外周に沿った方向である。
【0026】
溶接部5は、後述する嵌合部47及び第2の嵌合部49(図6参照)において積層方向の溶接により形成したものである。この溶接部5は、積層方向に連続しているが、積層方向で間隔を置いて形成してもよい。
【0027】
本実施例において、溶接部5は、嵌合部47及び第2の嵌合部49の積層方向、周方向、径方向の全体に備えられている。ただし、溶接部5は、嵌合部47及び第2の嵌合部49の積層方向、周方向、及び径方向の一部にのみ形成してもよい。
【0028】
図2の実施例において、図6の嵌合部47及び第2の嵌合部49は、溶接部5を形成した結果として完全に消失している。つまり、後述する積層方向の凹部27及び凸部29並びに開口部31も消失している。ただし、これらが残存するように溶接部5を形成してもよい。
【0029】
従って、ステーターコア1において、嵌合部47及び第2の嵌合部49である凹部27及び凸部29並びに開口部31は、溶接部5を形成する前提として設けられていればよく、溶接部5によって一部又は全部が消失し或いは残存する形態が含まれる。
【0030】
この溶接部5は、ステーターコア1の円形の外周面3に備えられた径方向に凹状の凹溝部11内に備えられている。具体的には、溶接部5は、その径方向外側への盛り上がりの表面位置が凹溝部11内の内側に位置している。本実施例において、溶接部5は、凸片部25よりも径方向内側のヨーク7へ範囲が若干及んでいる。
【0031】
凹溝部11は、周方向において溶接部5よりも大きな周方向の幅を備えている。溶接部5の周方向両側には、ステーターコア1の凹溝部11内での外周面13が位置している。外周面13は、周方向に伸び、その周方向両側の斜面15を介して最外周の円形の外周面3に連続している。斜面15は、径方向外側へ向けて相互に周方向に離間するように形成されている。
【0032】
図3のように、ステーター片17は、環状のヨーク片20の内周にティース片21を有する環状鉄心片である。ヨーク片20の外周に、径方向の凹部23及び凸片部25を備えている。
【0033】
ヨーク片20は、他のステーター片17のヨーク片20と積層されてヨーク7を構成する。ヨーク片20の内周には、径方向内側に突出したティース片21を周方向一定間隔で複数備えている。ティース片21は、他のステーター片17のティース片21と積層されてティース9を構成する。
【0034】
径方向の凹部23及び凸片部25は、ティース片21に対応してヨーク片20の径方向外側に備えられている。これら凹部23、凸片部25、積層方向の凹部27及び凸部29は、周方向でティース片21の複数本置きとなるように配置されている。本実施例では、中心角で30°毎に合計12箇所に配置されている。
【0035】
径方向の凹部23は、ステーター片17の外縁35に対して、径方向内側へ凹形状に形成されている。外縁35は、ステーター片17の積層後にステーターコア1の円形の外周面3を構成する。凹部23は、ステーター片17の積層後にステーターコア1の凹溝部11を構成する。
【0036】
凹部23の周方向両側には、ステーター片17の積層後にステーターコア1の斜面15を構成する第1傾斜縁23aが形成されている。この凹部23の凹形状の底部23bは、積層後に凹溝部11での外周面13を構成する。底部23bは、第1傾斜縁23aに連続する周方向の直線縁又は円弧縁で形成されている。
【0037】
凸片部25は、径方向の凹部23内に備えられている。凸片部25は、凹部23の周方向中央に配置され、凹部23の外縁23bから径方向外側へ突出している。凸片部25の先端縁25aは、直線縁又は円弧縁で形成され、径方向で凹部23内に位置している。
【0038】
なお、凸片部25は、周方向において何れかの第1傾斜縁23aに寄せて配置してもよい。また、凸片部25の先端縁25aの径方向位置は、ステーター片17の外縁35の径方向位置と同等であってもよい。
【0039】
周方向において、凸片部25と凹部23の第1傾斜縁23aとの間は、間隔を有して離間している。従って、凸片部25の周方向両側には、隙間が設けられている。
【0040】
凸片部25の周方向幅は、凹部23の周方向幅よりも狭く、本実施例において1/3程度となっている。凸片部25の周方向両側部には、第2傾斜縁25bが形成されている。第2傾斜縁25bは、凸片部25を径方向外側へ先細とするように形成されている。
【0041】
なお、凸片部25の周方向幅は、凹部23の周方向幅と近づけてもよく、凸片部25と凹部23の第1傾斜縁23aとの間は、ほとんど隙間のない切り込みで離間してもよい。
【0042】
かかる凸片部25の表裏には、積層方向の凹部27及び凸部29がそれぞれ備えられている。凹部27及び凸部29は、積層されたステーター片17相互間で締結により嵌合する。すなわち、積層されたステーター片17間において、一方のステーター片17の凹部27に他方のステーター片17の凸部29が締結により嵌合する。
【0043】
本実施例の凹部27及び凸部29は、凸片部25に半抜き状に設けられている。積層方向の凹部27及び凸部29の半抜き状は、プレスによる半抜き加工により実現できる。半抜きの深さは、板厚の50%程度である。ただし、半抜きの深さはこれに限定されるものではない。従って、半抜きとは、板厚の半分だけ抜きを行うことを意味するのではない。
【0044】
これら凹部27及び凸部29は、積層されたステーター片17間で締結により嵌合できればよく、例えば平面視で矩形形状に加工されている。また、凹部及び凸部は、凸片部25に周方向一対のスリットを形成し、このスリット間を積層方向に曲げて片持ち状に形成することも可能である。
【0045】
本実施例の凹部27及び凸部29は、径方向外側で凸片部25の先端縁25aに至るように形成されている。また、凹部27及び凸部29は、径方向内側で凸片部25の根元で凹部23内の外縁23bよりも若干内径側のヨーク片20に入り込むように形成されている。
【0046】
ただし、凹部27及び凸部29の径方向内側を凹部23内の外縁23bと同一の径方向位置、或は凹部23内の外縁23bよりも外径側位置に設定することもできる。凹部27及び凸部29の周方向幅は、先端縁25aの周方向幅よりも狭く設定されている。
【0047】
図4のように、積層前の第2のステーター片19は、開口部39を除いてステーター片17とほぼ同一の形状に形成されている。すなわち、第2のステーター片19は、ヨーク片20に対し、ティース片21、径方向の第2の凹部41、第2の凸片部43、及び開口部39を備えている。
【0048】
ヨーク片20及びティース片21は、ステーター片17と同一である。第2の凹部41は、第2のステーター片19の外縁45に備えられ、ステーター片17の径方向の凹部23に対応した構成となっている。
【0049】
第2の凸片部43は、径方向の第2の凹部41内に備えられて径方向の凸片部25に対応した構成であるが、凹部27及び凸部29に代えて、開口部39を有している。
【0050】
開口部39は、形状、大きさ、位置が、凹部27に対応して設けられている。開口部39は、平面視で径方向に凹形状に形成され、第2の凸片部43の先端縁43aで開放されている。この開口部39には、ステーター片17の積層方向の凸部29が締結により嵌合される。なお、開口部39は、積層方向で第2のステーター片19を貫通するが、第2のステーター片19を貫通しない凹部によって構成してもよい。
【0051】
その他、第2のステーター片19において、ステーター片17と同一の構成部分に同符号を付し、重複した説明は省略する。
【0052】
図5のように、ステーター片17及び第2のステーター片19は、積層方向の上下関係が設定される。第2のステーター片19は、重ねて配置された複数のステーター片17の積層方向の端部に配置されている。なお、第2のステーター片19は、積層されたステーター片17間に配置することもできる。
【0053】
本実施例において、ステーター片17間では、凹部27及び凸部29が締結(カシメ)により嵌合し、ステーター片17相互間で嵌合部47が形成される。締結とは、凹部27と凸部29とを合わせた状態で両者間を嵌合させるように積層方向の締結力を働かせることをいう。
【0054】
また、ステーター片17及び第2のステーター片19間では、第2のステーター片19の開口部39にステーター片17の積層方向の凸部29が締結により嵌合し、ステーター片17及び第2のステーター片19相互間で第2の嵌合部49が形成される。
【0055】
図2の溶接部5は、図6で示す嵌合部47において積層方向に凹部27及び凸部29を溶接する。本実施例の溶接部5は、第2の嵌合部49まで及んでいる。この溶接により嵌合部47及び第2の嵌合部49が溶融して図2の形状となる。
【0056】
この結果、溶接部5は、嵌合部47の凹部27及び凸部29を積層方向で溶接すると共に、ステーター片17及び19間で第2の嵌合部49の開口部39の周縁及び凸部29を溶接する。
【0057】
[製造方法]
本実施例のステーターコアの製造方法は、鉄心形成工程と積層工程と溶接工程とを備えている。
【0058】
鉄心形成工程では、プレス加工によりステーター片17及び第2のステーター片19が形成される。本実施例において、ステーター片17のプレス加工(形成)は、第1の工程~第5の工程とを備えている。
【0059】
第1の工程では、1回目のプレスでステーター片17の内周の輪郭を打ち抜く。第2の工程では、ティース片21の輪郭を打ち抜く。
【0060】
第3の工程では、径方向の凹部23及び凸片部25の輪郭を打ち抜く。
【0061】
その後、第4の工程では、プレスの半抜き加工により積層方向の凹部27及び凸部29を形成する。第5の工程では、外周を打ち抜き、外縁35を形成しつつステーター片17が打ち落とされる。
【0062】
このように、本実施例では、径方向の凹部23及び凸片部25の輪郭をプレスにより打ち抜いた後に、積層方向の凹部27及び凸部29をプレスにより形成し、ステーター片17の外縁35を打ち抜くようになっている。
【0063】
なお、鉄心形成工程は、第1~第5の工程を単一の工程で行うこともできる。また、第1の工程及び第2の工程を単一の工程で行い、これに続いて第3~第5の工程を行ってもよい。
【0064】
かかる順番でプレス加工することで、凹部27及び凸部29を有する凸片部25、特に外周(凸片部25の径方向の先端)に至るまで凹部27及び凸部29を有する凸片部25を容易に成形できる。
【0065】
第2のステーター片19のプレス加工では、上記同様、第1の工程のプレスで内周を打ち抜き、第2の工程でティース片21の輪郭を打ち抜く。
【0066】
そして、第3の工程では、第2の凹部41及び第2の凸片部43、並びに開口部39の輪郭を打ち抜く。その後、第4の工程で、ステーター片17が打ち落とされる。なお、開口部39は、第2の凸片部43に後から異なる工程としてプレスにより打ち抜くこともできる。
【0067】
積層工程では、図5及び図6のように、複数のステーター片17を積層し、積層方向の端部に第2のステーター片19を積層する。この積層状態において、凸片部25相互間では、凹部27及び凸部29が締結により嵌合する。凸片部25及び第2の凸片部43間では、凸部29及び開口部39が締結により嵌合する。
【0068】
この嵌合により、ステーター片17及び第2のステーター片19の積層状態が固定されて、図6のようにステーター片積層体が形成される。ステーター片積層体では、ステーター片17及び第2のステーター片19が一時的に積層状態で固定される。これによって、ステーター片17相互間の位置ずれ、ステーター片17及び第2のステーター片19間の位置ずれが無いか抑制される。
【0069】
溶接工程では、一時的に積層状態で固定されたステーター片17及び第2のステーター片19が上下の治具により位置決めながら加圧され、積層方向の隣接するステーター片17間並びにステーター片17及び第2のステーター片19間の隙間が無くされるか一定以下となる。
【0070】
この状態で、ステーター片17及び第2のステーター片19に積層方向で溶接部5を形成する。この溶接部5は、嵌合部47及び第2の嵌合部49にレーザー溶接等を実行して形成する。
【0071】
この結果、各嵌合部47の凹部27及び凸部29が溶接され、各第2の嵌合部49の凸部29及び開口部39の周縁が溶接され、溶接部5が形成される。本実施例では、嵌合部47及び第2の嵌合部49を含めた凸片部25及び第2の凸片部43が溶接時の溶融によりほぼ消失し、図2のように溶接部5が凹溝部11内の外周面13に対して盛り上がったように形成される。
【0072】
このように、本実施例では、凸片部25及び第2の凸片部43の嵌合部47及び第2の嵌合部49において溶接部5を形成するから、凹部27及び凸部29の形成や締結による残留応力をなくし又は低減させて鉄損を抑制することができる。
【0073】
さらに、嵌合部47及び第2の嵌合部49において、凹部27及び凸部29及び開口部39が溶接により消失することで、溶接部5に対し凝固時の積層方向の収縮に基づく反力での引張応力が作用せず、溶接部5が損傷することを抑制できる。
【0074】
しかも、径方向において、嵌合部47及び第2の嵌合部49と溶接部5とによる鉄損の影響範囲が、ステーターコア1の外周面3からヨーク7内へ入り込むことを極力抑制することができる。
【0075】
また、凸片部25及び第2の凸片部43の周方向の両側に隙間があるため、溶接部5による熱の周方向での影響及びかかる隙間に径方向で隣接するヨーク7の一部への影響も抑制することができる。
【0076】
結果として、本実施例では、嵌合部47及び第2の嵌合部49と溶接部5とによる鉄損の影響を抑制できる。
【0077】
また、凸片部25及び第2の凸片部43において溶接部5を形成することで、溶融を促進して、ステーター片17及び第2のステーター片19間の溶接を確実に行うことができる。
【0078】
溶接部5は、凸片部25を取り込むので溶接材の使用を減少させることができる。凸片部25の全体が溶接部5に取り込まれて凸片部25の原形を留めないときなどは、強固な結合剛性を保持させることができる。
【0079】
また、本実施例では、嵌合部47及び第2の嵌合部49での締結力が低くても、溶接部5のビード凝固時の収縮作用で積層間の隙間を無くすか抑制することができる。
【0080】
積層間の隙間が少ないと、ステーターコア1の積層間の結合剛性が高く、ハウジング組み付け時の変形も無いか、抑制することができる。しかも、ワニス含浸時にワニスの浸透も無いか抑制でき、ステーターコア1の変形も改善できる。
【0081】
また、本実施例のカシメによる嵌合部47及び第2の嵌合部49は、ステーターコア積層体の姿勢を一時的に保つために備えている。このため、本実施例では、カシメのみで姿勢や強度を保つ従来のカシメ積層体のようなカシメツールの厳格な精度管理は必要としない。従って、ツールのメンテナンスサイクルを伸ばすことができ、生産効率を向上させることができる。
【0082】
溶接部5は、凹溝部11内に位置する。このため、溶接部5による積層方向の結合力を、ステーターコア1の外周面3よりも径方向内側の外周面13においてヨーク7に対して及ぼすことができる。
【0083】
従って、ステーターコア1のヨーク7での積層間の結合剛性を強固に保持させることができる。溶接部5はステーターコア1の外周面3にも近いため、積層方向で隣接する外周面3間においても結合剛性を確実に保持させることができる。
【0084】
図6のステーター片積層体は、径方向の凹部23内の凸片部25、径方向の第2の凹部41内の第2の凸片部43にて結合が行われるから、外周面13及びヨーク7の何れへも結合力が伝達し易い。
【0085】
従って、ステーターコア1は、ステーター片17相互間及びステーター片17及び第2のステーター片19相互間の位置ずれが無いか抑制され、溶接後もこれが維持される。このため、ステーターコア1の精度が向上すると共に剛性を高めることができる。
【0086】
また、本実施例では、複数のステーター片17及び積層端部のステーター片19の位置決めた加圧による溶接で、ステーターコア1の姿勢を適正に保持し、一体化させることができる。
【0087】
凹部27及び凸部29は、凸片部25の周方向幅よりも狭く形成され、開口部39は、第2の凸片部43の周方向幅よりも狭く形成されている。このため、溶接部5の形成時に、凹部27及び凸部29の周方向両側及び開口部39の周方向両側から熱が逃げ難く、作業性を向上させることができる。
【0088】
[変形例1]
図7は、実施例の変形例1に係り、凸片部の溶接範囲を示すステーター片の要部を拡大して概念的に示す平面図である。なお、本変形例1においても基本的な構成は上記実施例と同様であり、同一又は対応する構成部分には同符号を付して説明し、重複した説明は省略する。
【0089】
図7のように本変形例1では、ステーター片17の凸片部25に対する凹部27及び凸部29の径方向位置をヨーク片20よりも外側位置とし、凹部27及び凸部29とヨーク片20との間と凹部27及び凸部29の周方向両側とに凸片部25の本体部26を残す形状とした。
【0090】
また、本変形例1においても第2のステーター片19と同様に第2のステーター片19が採用され、直接図示はしないが、図7に括弧により対応箇所に重ねて符号を付して説明する。第2のステーター片19は、ステーター片17と同様にして開口部39とヨーク片20との間及び開口部39の周方向両側に第2の凸片部43の本体部26を残す形状とした。
【0091】
溶接範囲W1は、凸片部25及び第2の凸片部43全体を含め、ヨーク片20にも入り込んでいる。凹部27及び凸部29を囲む凸片部25の本体部26及び開口部3を囲む第2の凸片部43の本体部26の存在により、凹部27及び凸部29の溶接と凸部29及び開口部39周縁の溶接とにおいて熱が逃げ難く、且つヨーク片20の積層によるヨーク7に対する熱影響も抑制することができる。
【0092】
その他、上記同様の作用効果を奏することができる。
【0093】
図7において、第1傾斜縁23a、第2傾斜縁25bは、傾斜を付けずに示したが、上記実施例と同様に傾斜させてもよい。
【0094】
[変形例2]
図8は、実施例の変形例2に係り、凸片部の溶接範囲を示すステーター片の要部を拡大して概念的に示す平面図である。なお、本変形例2においても基本的な構成は上記実施例と同様であり、同一又は対応する構成部分には同符号を付して説明し、重複した説明は省略する。
【0095】
図8のように本変形例2では、ステーター片17の凸片部25に対する凹部27及び凸部29の範囲と第2の凸片部43に対する開口部39の範囲とを変形例1と同様とした。第2のステーター片19については、変形例1と同様である。
【0096】
一方、本変形例2では、溶接範囲W2を凸片部25及び第2の凸片部43内とした。
【0097】
従って、本変形例2では、凹部27及び凸部29の溶接と凸部29及び開口部39周縁の溶接とにおいて熱がさらに逃げ難く、且つヨーク片20の積層によるヨーク7に対する熱影響もさらに抑制することができる。
【0098】
その他、上記同様の作用効果を奏することができる。
【0099】
図8においても、第1傾斜縁23a、第2傾斜縁25bは傾斜を付けずに示したが、傾斜させてもよい。
【0100】
[変形例3]
図9は、実施例の変形例3に係り、図9(A)は、凸片部の凹部及び凸部の範囲を示すステーターコア片の要部を拡大して概念的に示す平面図、図9(B)は、さらに溶接範囲を示すステーターコア片の要部を拡大して概念的に示す平面図である。なお、本変形例3においても基本的な構成は上記実施例と同様であり、同一又は対応する構成部分には同符号を付して説明し、重複した説明は省略する。
【0101】
図9のように、本変形例3では、ステーター片17の凸片部25に対する凹部27及び凸部29の範囲と第2の凸片部43に対する開口部39の範囲とを、変形例2に対し凸片部25及び第2の凸片部43の周方向全体に渡る構成とした。第2のステーター片19の採用は、変形例1と同様である。
【0102】
一方、本変形例3でも、変形例2同様に溶接範囲W3を凸片部25及び第2の凸片部43内とした。
【0103】
従って、本変形例3でも、凹部27及び凸部29の溶接と凸部29及び開口部39周縁の溶接とにおいてヨーク片20の積層によるヨーク7に対する熱影響を抑制することができる。
【0104】
その他、上記同様の作用効果を奏することができる。
【0105】
図9においても、第1傾斜縁23a、第2傾斜縁25bは、傾斜を付けずに示したが、傾斜させてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 ステーターコア
3 円形の外周面
5 溶接部
7 ヨーク
9 ティース
11 凹溝部
13 凹溝部内の外周面
15 斜面
17 ステーター片(環状鉄心片)
19 第2のステーター片(第2の環状鉄心片)
20 環状のヨーク片
21 ティース片
23 径方向の凹部
23a 外縁
25 径方向の凸片部
27 積層方向の凹部
29 積層方向の凸部
35 ステーター片の外縁
39 開口部
41 第2の凹部
43 第2の凸片部
45 外縁
47 嵌合部
49 第2の嵌合部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9