(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】MCrAl-Xコーティング層を含むコーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240430BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C23C14/06 N
C23C14/14 D
(21)【出願番号】P 2020556953
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2019060488
(87)【国際公開番号】W WO2019206979
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-17
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ウィドリグ,ベノ
(72)【発明者】
【氏名】ジャリー,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ヒューノルド,オリバー
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-506458(JP,A)
【文献】特開2007-262447(JP,A)
【文献】特表2003-535976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性コーティングフィルム(5)からなるまたは機能性コーティングフィルム(5)を含むコーティングシステム(7)でコーティングされる金属表面(11)を含む基板(1)を含むコーティングされた基板であって、前記機能性コーティングフィルム(5)は、少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層からなるまたは少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層を含み、MはNiまたはCoまたはNi-Coであり、XはYまたはErまたはZrであり、
前記少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層は、前記金属表面(11)上に直接蒸着されるか、または
前記少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層は、少なくとも1つの基板マッチング層(31)から形成された中間コーティング層(3)上に蒸着されており、前記少なくとも1つの基板マッチング層(31)は、前記金属表面(11)上に直接蒸着され、
ここで、前記金属表面(11)に直接蒸着された前記層は、これが前記金属表面(11)に直接蒸着された場合にはそれは前記MCrAl-Xコーティング層を意味し、またはこれが前記金属表面(11)に蒸着された場合にはそれは前記基板マッチング層(31)を意味し、
部分的もしくは全体的に、エピタキシャル成長、または
部分的もしくは全体的に、ヘテロエピタキシャル成長、を呈し、
I.前記基板(1)の主成分の濃度は、前記基板マッチング層(31)または前記金属表面(11)に直接蒸着された前記MCrAl-Xコーティング層の主成分の濃度とは、組成で30%(wt.%)以下異なる、
あるいは
II.前記基板マッチング層(31)および前記基板(1)の金属表面(11)の両方が、格子定数の最大の不一致が5%であれば類似すると定義される類似の結晶構造を有する、または前記MCrAl-Xコーティング層が前記金属表面(11)に直接蒸着される場合、前記MCrAl-X層および前記基板(1)の前記金属表面(11)の両方が、前記格子定数の前記最大の不一致が5%であれば類似すると定義される類似の結晶構造を有することに該当
し、
前記MCrAl-Xコーティング層は、少なくとも2つのサブレイヤー、第1サブレイヤーおよび第2サブレイヤーを含み、前記第1サブレイヤーは前記金属表面(11)に最も近く蒸着され、前記第2サブレイヤーは前記第1サブレイヤー上に蒸着され、前記第1サブレイヤーおよび前記第2サブレイヤーは同じ元素を含むが、前記第2サブレイヤーは前記第1サブレイヤーよりも高いAl含有量を有し、
前記MCrAl-X層は、少なくとも2つのサブレイヤー、第1サブレイヤーおよび第2サブレイヤーを含み、第2層は酸素を含み、よってMCrAl-X-O層であることを特徴とする、コーティングされた基板。
【請求項2】
前記金属表面(11)の材料は、ニッケルベースの超合金もしくはコバルトベースの超合金もしくはニッケル/コバルトベースの超合金またはニッケルアルミニドであることを特徴とする、請求項1に記載のコーティングされた基板。
【請求項3】
原子百分率での金属成分M、CrおよびAlの濃度のみを考慮に入れると、前記第1サブレイヤーに対する前記第2サブレイヤーのAlの濃度は2倍であることを特徴とする、請求項
1に記載のコーティングされた基板。
【請求項4】
前記機能性コーティングフィルム(5)中に存在する前記MCrAl-X-O層の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、インデンテーション硬度(HIT)が、18GPa~35GPa+/-2GPaの範囲であり、前記範囲は、境界値18GPaおよび35GPaを含むことを特徴とする、請求項
1または
3に記載のコーティングされた基板。
【請求項5】
前記機能性コーティングフィルム(5)中に存在するMCrAl-X材料の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、インデンテーション硬度(HIT)が、9GPa+/-2GPaであることを特徴とする、請求項
1または
3に記載のコーティングされた基板。
【請求項6】
前記機能性コーティングフィルム(5)中に存在する前記MCrAl-X-O層の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、弾性率(EIT)が、270GPa~320GPa+/-5GPaの範囲であり、前記範囲は、270GPaおよび320GPaの境界値を含むことを特徴とする、請求項
1~
5のいずれか1項に記載のコーティングされた基板。
【請求項7】
前記機能性コーティングフィルム(5)中に存在するMCrAl-X材料の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、弾性率(EIT)が、220GPa+/-5GPaであることを特徴とする、請求項
1~
6のいずれか1項に記載のコーティングされた基板。
【請求項8】
前記MCrAl-X-O層の少なくとも1層は、前記機能性コーティングフィルム(5)中に存在し、この層は50at.%および60at.+/-3at.%の間の値に対応する酸素量を含み、前記範囲は50at.および60at.%の境界値を含み、原子%での元素組成の決定のために、この層に存在するすべての元素を考慮することを特徴とする、請求項
1~
7のいずれか1項に記載のコーティングされた基板。
【請求項9】
前記酸素量は、50at%超の値に対応することを特徴とする、請求項
8に記載のコーティングされた基板。
【請求項10】
前記酸素量は、60at%未満の値に対応することを特徴とする、請求項
8に記載のコーティングされた基板。
【請求項11】
MCrAl-X材料の少なくとも1層は、前記機能性コーティングフィルム(5)中に存在し、この層は、FCC結晶構造を示すことを特徴とする、請求項1~
10のいずれか1項に記載のコーティングされた基板。
【請求項12】
前記MCrAl-Xタイプの少なくとも1層は、物理的気相成長(PVD)技術を使用して蒸着され、前記使用されるPVD技術は、アーク蒸着またはマグネトロンスパッタリングであり、コーティングソース材料として、M、Cr、AlおよびXからなるターゲットが使用されることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか1項に記載のコーティングされた基板を製造する方法。
【請求項13】
高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)タイプのマグネトロンスパッタリング技術が使用されることを特徴とする、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
機能性コーティングフィルム(5)と少なくとも1つの金属表面(11)および前記機能性コーティングフィルム(5)の間に蒸着された中間コーティングフィルム(3)とを含むコーティングシステム(7)でコーティングされた前記少なくとも1つの金属表面(11)を含む基板(1)を製造する方法であって、前記機能性コーティングフィルム(5)は、MCrAl-Xタイプの少なくとも1層および/またはMCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層を含み、MはNiまたはCoまたはNi-Coであり、XはYまたはErまたはZrであり、
前記MCrAl-Xタイプの少なくとも1層および/または前記MCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層は、アーク蒸着またはマグネトロンスパッタリングによって、前記中間コーティングフィルム(3)上に蒸着され、前記中間コーティングフィルム(3)は、少なくとも1つの基板マッチング層(31)によって形成され、
I.前記基板(1)の主成分の濃度は、前記基板マッチング層(31)の主成分の濃度とは、組成で30%(wt.%)以下異なる、
あるいは
II.前記基板マッチング層(31)および前記基板(1)の金属表面(11)の両方が、格子定数の最大の不一致が5%であれば類似すると定義される類似の結晶構造を有することを特徴とする、方法。
【請求項15】
前記MCrAl-Xタイプの少なくとも1層および/または前記MCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層は、物理的気相成長(PVD)技術を用いて蒸着され、使用される前記PVD技術は、アーク蒸着またはマグネトロンスパッタリングであり、M、Cr、AlおよびXからなるターゲットがコーティングソース材料として使用され、前記MCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層を蒸着する場合には、反応性ガスとして酸素フローガスが使用されることを特徴とする請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理蒸着技術を用いて合成された少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層を含む新規なコーティングシステムに関するものであり、このコーティングは、金属基板の保護、特にタービン部品の保護に適用可能である。
【0002】
本発明の主な目的は、「金属基板」に対して優れた界面を形成し、かつ剥離することなく基板材料の融点に近い温度にさらすことができるコーティングを合成することを可能にすることである。
【0003】
本明細書および本発明の文脈で使用される用語「金属基板」とは、金属特性を示す材料、例えばニッケルベースの合金またはニッケルアルミニドで作られた基板を指す。
【0004】
例えば、これらのタービンブレードチップの性能を向上させるために、本発明によるコーティングをタービンブレードチップの表面に設け得る。このように、本発明によれば、運転中に研磨され得る材料と接触(擦れ)するブレードチップの表面は、運転前に設けられたコーティングにより、機械的な摩耗や腐食から保護される。
【0005】
さらに、本発明によるコーティングは、金属基板の大幅な改善を提供し得る。特に、ニッケルベース合金またはニッケルアルミニドからなるまたは含む材料で作られたタービンブレードは、本発明によってコーティングされた後、有意に増加した耐酸化性を示す。
【0006】
本発明のコーティングの蒸着は、カソードアーク蒸着、スパッタリングまたはハイパワーパルススパッタリング(一般にハイパワーインパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)またはハイパワーパルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)として知られている)のような物理的気相成長(PVD)法によって好ましくは行われ、好ましくはカソードアーク蒸着である。
【0007】
本発明は、
図1a、
図1bおよび
図1cに模式的に示されているように、機能性コーティングフィルム5を含む新規で革新的で非常に有用なコーティング7を提供し、ここで、機能性コーティングフィルム5は、物理蒸着技術を用いて合成された少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層5から形成されている。
【0008】
任意に、コーティング7は、
図1bに示すように、機能性コーティングフィルム5の上に蒸着された1つのトップコーティングフィルム10を有し得る。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明のコーティングシステム7は、機能性コーティングフィルム5と中間コーティングフィルム3とを含み、中間コーティングフィルム3は金属基板1の表面11上に蒸着されて、中間コーティングフィルム3が表面11と機能性コーティングフィルム5との間に蒸着され、機能性コーティングフィルム5が少なくとも1つのMCrAl-Xコーティングフィルム層で形成され、中間コーティングフィルム3が金属基板1の表面11の材料と一致する材料で形成された少なくとも1層の基板整合層31で形成される。
【0010】
任意に、中間コーティングフィルム3は、
図1cに示されるように、金属基板1の表面11上に直接蒸着される基板マッチング層31上に蒸着される拡散バリア層33を含み得る。
【0011】
少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層が既に基板マッチング層を構成している場合、MCrAl-Xコーティング層の元素組成と金属基板の元素組成とが類似しており、MCrAl-Xコーティング層の元素組成が本明細書で定義されている基板マッチング層の元素組成の基準を満たすため、
図1に示すように、MCrAl-Xコーティング層は、中間コーティングフィルムを用いることなく、金属基板の表面に直接蒸着され得る。
【0012】
本発明の文脈における金属基板(およびその結果として、本発明のコーティングがコーティングされた金属基板の表面)は、好ましくは、以下の材料のうちの1つからなる:
-超合金、
-インコネルのようなニッケルベースの超合金(例えば、インコネル718)
-アルミニド、より好ましくはニッケルアルミニド。
【0013】
本発明による基板マッチング層31は、例えば、コーティングされる金属基板表面11と同じまたは類似する化学組成物を含み得る。好ましくは、それはまた、同じまたは類似の結晶構造を含み得、好ましくは5%、より好ましくは5%未満の格子定数における最大の不一致を伴う。
【0014】
上記の材料が金属基板表面11として使用される場合、本発明による基板マッチング層31は、例えば、以下のようになり得る:
-超合金基板表面の場合:超合金基板材料と同じまたは類似の化学組成を含むコーティング層。例えば、インコネルの基板金属基板表面11の場合、適切な基板マッチング層31は、Ni-Cl層であり得る。
-Ni-アルミニドの場合:適切な基板マッチング層31は、Ni-Al層であり得る。
【0015】
既に上述したように、金属基板表面11に存在するこれらの元素の組成と比較して、マッチング層31に存在する元素の組成が類似しているものを使用することは有益である。同様に、コーティングが少なくとも1つのMCrAl-X層を含むまたはからなり、少なくとも1つのMCrAl-X層が金属基板表面に直接蒸着される場合、金属基板表面に存在するこれらの元素の組成と比較して、(金属基板表面に直接蒸着された)MCrAl-X層に存在する元素の類似の組成を使用することは有益である。
【0016】
金属基板表面に存在するこれらの元素の組成と比較して、基板マッチング層またはMCrAl-X層(金属基板表面に直接蒸着した場合)に存在する元素の「類似の組成」という用語は、本発明の文脈において、基板材料の主成分または2つの主成分(いずれもwt.%で測定される)を有益に指す。主成分または主成分(複数)の意味をより良く説明するために、
図11に示す表1を使用する。表1(
図11に示す)を参照すると、これは超合金1の基板材料および超合金2の基板材料ともに、元素Niが主成分であることがわかる。2つの主成分に関連する場合、超合金1の基板材料の場合、元素NiとCrが主成分であり、超合金2の基板材料の場合、NiとCoが主成分である。
【0017】
この点で類似の組成とは、基板中の主成分または主成分(複数)の濃度が、基板マッチング層または基板表面に直接蒸着されたMCrAl-Xコーティング層中の主成分または主成分(複数)の濃度とは、組成で30%(wt.%)以下、好ましくは10%以下(wt.%)で異なっていることを意味する。
【0018】
すなわち、金属基板を形成する材料の少なくとも主成分、または好ましくは2つの主成分が、それぞれコーティングされる金属基板表面、金属基板表面に直接蒸着される基板マッチング層またはMCrAl-X層中に存在し、「類似の組成」に関する上記基準の要件を満たさなければならないことを意味する。再び表1(
図11に示す)を参照すると、NiCrAlY1は、超合金基板1および2ともにNi含有量に関してこの要件を満たしていることがわかる。しかし、これはNiCrAlY2のNi、CrおよびCo含有量にはいずれも当てはまらない。しかし、NiCrAlY3は、超合金1ではCr、超合金2ではNiと同様にNiについてこの要件を満たす。すなわち、NiCrAlY1およびNiCrAlY3は超合金基板1および2に直接蒸着させることができるが、NiCrAlY2はマッチング層を必要とし、MCrAlYコーティングの組成に対して組成の勾配の形成を必要とする。
【0019】
さらに、すでに上述したように、好ましくは、基板マッチング層31および材料1の金属表面11の両方が、格子定数の最大の不一致が5%の場合には、同じ結晶構造または類似と定義される類似の結晶構造を有する。
【0020】
また、MCrAl-X層を任意の中間コーティング層を用いずに基板表面に直接蒸着する場合には、MCrAl-X層および材料1の金属表面11の両方が、格子定数の最大の不一致が5%の場合には、同じ結晶構造または類似と定義される類似の結晶構造を有することも可能である。
【0021】
上述した条件の少なくとも1つ、例えば、基板およびマッチング層またはMCrAl-X層の間の組成および/または結晶構造の類似性が満たされると、驚くべきことに、マッチング層のエピタキシャル成長またはMCrAl-X層のヘテロエピタキシャル成長が、基板と層との間の界面において達成され得ることが判明した。このエピタキシャル成長またはヘテロエピタキシャル成長とは、言い換えれば、基板と層との間の結晶学的なレジストリーが維持され、界面がコヒーレントであることを意味する。用語エピタキシー、ヘテロエピタキシーおよびコヒーレンスの定義については、L.B. Freund and S. Suresh: “Thin Film Materials: Stress, Defect Formation and Surface Evolution”, Cambridge, Cambridge University Press, 2003.の本が参照される。
【0022】
エピタキシャル成長またはヘテロエピタキシャル成長のための界面を調査するためのさまざまな方法がある。界面の断面を透過電子顕微鏡で観察する方法は、基板と層との間の格子面の配列を調べる方法の1つである。もう1つは、結晶方位をマッピングしたいわゆる電子後方散乱回折(EBSD)法である。
図10には、単結晶超合金基板(PWA1483-SX)とNiCrAlY1との界面の断面図が示される。基板と層との界面は破線で表示されている。同じ結晶方位の層成長が観察される界面より上の領域を丸印で示す。コヒーレント成長は、界面の大面積にわたって観察され得、コヒーレント成長の厚さは、典型的には200nmから2μmの間である。このコヒーレント成長は、超合金1基板上にNiCrAlY1を蒸着させた結果として達成された。これは、このコヒーレント界面が、蒸着中、すなわちin-situの間に既に達成されていたことを意味する。
【0023】
表1(
図11に示す)から、NiCrAlY1層と超合金1基板については、先の定義によれば、Niの化学組成が類似していることがわかる。また、NiCrAlY1と超合金基板1からなる格子定数をX線回折(XRD)法により測定した。NiCrAlY1は、a=3.591Åの超合金1基板(PWA1483)と比較して約1%だけ小さい(それは、上で説明したように、本発明による基板材料のような類似の結晶構造を有するMCrAl-Xコーティング層を確認する約1%の格子パラメータの最大の不一致に対応する)a=3.560Åの主要な立方体セルを有する。これは、エピタキシャル成長またはヘテロエピタキシャル成長の第2基準も満たしていたことを意味する。
【0024】
しかし、上記のコヒーレンシーの条件を満たさない場合の多くは、蒸着後1000℃程度の短時間のアニールを1時間程度行うことで、超合金基板とMCrAl-X層との間にコヒーレント界面が形成されることが観察され得た。これは、超合金基板とMCrAl-X層との間の元素組成の違いによって開始される界面の拡散過程に起因すると調査された。これらの差がそれほど大きくない限り、拡散過程ではホール形成および機械的不安定性が生じない。
【0025】
以下では、本発明によるMCrAl-X層およびMCrAl-X-O層のいくつかの例を示す。コーティングは、それぞれのMCrAl-X材料の粉末冶金的に製造されたターゲットを用いて、カソードアーク蒸着によって蒸着された。
【0026】
例えば、化学組成NiCrAlY1 67/22/10/1(wt.%)を有するターゲットを用いて、アーク蒸着によりNiCrAlY1層(M=Ni、X=YのMCrAl-X)を蒸着した。製造された層の組成は、以下の通りであった:
【表1】
【0027】
酸素フローは0sccmであり、ナノインデンテーション技術を用いて測定した機械的特性は以下の通りであった:
機械的特性:EIT=218Gpa、HIT=9GPa
【0028】
この炭化タングステン基板上に蒸着させたNiCrAlY(Ni
65.5Cr
24Al
10Y
0.5)層の断面のSEM-顕微鏡写真を
図3に示す。
【0029】
別の例では、化学組成NiCrAlY1 67/22/10/1(wt.%)を有するターゲットを用いて、アーク蒸着によりNiCrAlYO層(M=Ni、X=YのMCrAl-X-O)も蒸着した。製造された層の組成は、以下の通りであった:
【表2】
【0030】
酸素フローは800sccmであり、ナノインデンテーション技術を用いて測定した機械的特性は以下の通りであった:
機械的特性:EIT=280Gpa、HIT=25GPa
【0031】
この炭化タングステン基板上に蒸着させたNiCrAlYO(Ni
28Cr
8.5Al
9Y
0.5O
54)層の断面のSEM-顕微鏡写真を
図4に示す。本実施例では、層に酸素を添加することにより、インデンテーション硬度HITが飛躍的に上昇することを例示した。断面はまた、酸素を添加していないコーティングと比較して、合成されたコーティングのモルフォロジーが非常に緻密であることを示す。
【0032】
別の例では、化学組成NiCrAlY1 67/22/10/1(wt.%)を有するターゲットを用いて、アーク蒸着によりNiCrAlYO層(M=Ni、X=YのMCrAl-X-O)も蒸着した。製造された層の組成は、以下の通りであった:
【表3】
【0033】
酸素フローは100sccmであり、ナノインデンテーション技術を用いて測定した機械的特性は以下の通りであった:
機械的特性:EIT=286Gpa、HIT=29GPa
【0034】
この炭化タングステン基板上に蒸着させたNiCrAlYO(Ni
26Cr
9Al
10.5Y
0.5O
54)層の断面のSEM-顕微鏡写真を
図5に示す。本実施例では再び、層に酸素を添加することにより、インデンテーション硬度HITが飛躍的に上昇することを例示した。断面はまた、酸素を添加していないコーティングと比較して、合成されたコーティングのモルフォロジーが非常に緻密であることを示す。また、層のモルフォロジーは、合成されたコーティングに追加された酸素の量によって影響を受け得ることを示す(
図4と5を比較して)。
【0035】
別の例では、化学組成NiCrAlY1 67/22/10/1(wt.%)を有するターゲットを用いて、アーク蒸着によりNiCrAlY/NiCrAlYO層(M=Ni、X=YのMCrAl-X+MCrAl-X-O)も蒸着した。製造されたNiCrAlYO最外層の組成は、以下の通りであった:
【表4】
【0036】
酸素フローは、NiCrAlY層の蒸着のために0sccmに設定され、その後、NiCrAlYO層の蒸着およびナノインデンテーション技術を使用してNiCrAlYO最外層の表面で測定された機械的特性のために200sccmに設定された:
機械的特性:EIT=240Gpa、HIT=27GPa
【0037】
この炭化タングステン基板上に蒸着させたNiCrAlY/NiCrAlYO(Ni
28Cr
9Al
8Y
0.5O
54.5)層の断面のSEM-顕微鏡写真を
図6に示す。この例は、MCrAl-XコーティングとMCrAl-X-Oコーティングの組み合わせが、真空を中断することなく、1回の蒸着プロセスで実現できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1a】本発明による基板上に蒸着されたコーティングシステムの異なる構造を概略的に示す。
【
図1b】本発明による基板上に蒸着されたコーティングシステムの異なる構造を概略的に示す。
【
図1c】本発明による基板上に蒸着されたコーティングシステムの異なる構造を概略的に示す。
【
図2】本発明のさらなる好ましい実施形態によるコーティングアーキテクチャの例を示しており、この場合、中間コーティングフィルム3は、基板1の表面11上に直接蒸着されたCrの第1層と、第1層上に蒸着されたAl-Crの第2層とを含む。さらに、機能性コーティングフィルム5は、中間コーティングフィルム3上に蒸着され、MCrAl-X層とMCrAl-X-O層とが交互に蒸着された多層フィルムを含む。
【
図3】基板上に直接蒸着したMCrAl-X層のSEM-顕微鏡写真を示す-酸素フロー:0sccm
【
図4】基板上に直接蒸着したMCrAl-X-O層のSEM-顕微鏡写真を示す-酸素フロー800sccm
【
図5】基板上に直接蒸着したMCrAl-X-O層のSEM-顕微鏡写真である-酸素フロー100sccm
図5は、基板上に直接蒸着したMCrAl-X/MCrAl-X-O層のSEM顕微鏡写真を示す-最初に、MCrAl-X層の蒸着のために酸素フローを0sccmに設定し、その後、MCrAl-X-O層の蒸着のために酸素フローを200sccmに設定した。
図5は、本発明によるコーティングされた基板を製造するための有利なコーティングシステムアーキテクチャを示す。
【
図6】本発明によるコーティングされた基板を製造するための有利なコーティングシステムアーキテクチャを示す。
【
図7】本発明によるコーティングされた基板を製造するための有利なコーティングシステムアーキテクチャを示す。
【
図8】本発明によるコーティングされた基板を製造するための有利なコーティングシステムアーキテクチャを示す。
【
図9】本発明によるコーティングされた基板を製造するための有利なコーティングシステムアーキテクチャを示す。
【
図10】単結晶超合金基板1(PWA1483SX)上に蒸着されたNiCrAlY層の界面の断面のEBSDに基づく結晶方位マッピングを示す。界面は破線でマークされている。基板に対する層のヘテロエピタキシャル成長(コヒーレンシー)の領域は、円でマークされている。これらの領域は、金属基板表面に直接蒸着されたMCrAl-X層の部分的なヘテロエピタキシャル成長(局所的なヘテロエピタキシャル成長を意味する)を確認する。局所的なエピタキシャルまたはヘテロエピタキシャル成長は、基板表面とMCrAl-Xコーティング層との間のより安定した界面を達成するために、好ましくは少なくとも100nm、より好ましくは500nmより厚い厚さ(コーティング厚さ方向)を有するほうがよい。
【
図11】2つの超合金基板(超合金1、超合金2)と3つのMCrAl-Xコーティング層(NiCrAlY 1、NiCrAlY 2、NiCrAlY 3)のwt.%で表した元素組成の例を含む表1を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
具体的には、本発明は以下に関する:
機能性コーティングフィルム(5)からなるまたは機能性コーティングフィルム(5)を含むコーティングシステム(7)でコーティングされる金属基板表面(11)を含む基板(1)を含むコーティングされた基板であって、前記機能性コーティングフィルム(5)は、少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層からなるまたは少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層を含み、
・少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層は、金属基板(11)上に直接蒸着されるか、または
・少なくとも1つのMCrAl-Xコーティング層は、少なくとも1つの基板マッチング層(31)から形成された中間コーティング層(3)上に蒸着されており、少なくとも1つの基板マッチング層(31)は、金属基板表面(11)上に直接蒸着され、
ここで、金属基板表面(11)に直接蒸着された層は、それが金属基板表面(11)に直接蒸着された場合にはそれはMCrAl-Xコーティング層を、またはそれが金属基板表面(11)に蒸着された場合にはそれは基板マッチング層(31)をそれぞれ意味し、
・部分的もしくは全体的に、エピタキシャル成長、または
・部分的もしくは全体的に、ヘテロエピタキシャル成長、を呈するコーティングされた基板。
【0040】
好ましくは金属基板表面(11)の材料は、超合金またはニッケルアルミニドである。
【0041】
好ましくは金属基板表面(11)の材料は、ニッケルベースの超合金またはコバルトベースの超合金またはニッケル/コバルトベースの超合金タイプの超合金である。
【0042】
本発明の好ましい実施形態によれば、MCrAl-Xコーティング層は、少なくとも2つのサブレイヤー、第1サブレイヤーおよび第2サブレイヤーを含み、第1サブレイヤーは金属基板表面(11)に最も近く蒸着され、第2サブレイヤーは第1サブレイヤー上に蒸着され、第1サブレイヤーおよび第2サブレイヤーは同じ元素を含むが、第2サブレイヤーは第1サブレイヤーよりも高いAl含有量を有する。
【0043】
好ましくは、MCrAl-X層は、少なくとも2つのサブレイヤー、第1サブレイヤーおよび第2サブレイヤーを含み、第2層は酸素を含み、よってMCrAl-X-O層である。
【0044】
好ましくは、原子百分率での金属成分M、CrおよびAlの濃度のみを考慮に入れると、第1サブレイヤーに対する第2サブレイヤーのAlの濃度は2倍である。
【0045】
第2サブレイヤーの酸素も徐々に増加し得る。
【0046】
第2サブレイヤーのアルミニウムは徐々に増加し得る。
【0047】
好ましくはMCrAl-X層において、存在する場合はMCrAl-X-O材料においても:
-MはNiまたはCoまたはNi-Coであり、
-XはYまたはErまたはZrである。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、機能性コーティングフィルム(5)中に存在するMCrAl-X-O材料の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、インデンテーション硬度(HIT)が、18GPa~35GPa+/-2GPaの範囲であり、この範囲は、境界値18GPaおよび35GPaを含む。
【0049】
好ましくは、機能性コーティングフィルム(5)中に存在するMCrAl-X材料の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、インデンテーション硬度(HIT)が、9GPa+/-2GPaである。
【0050】
好ましくは、機能性コーティングフィルム(5)中に存在するMCrAl-X-O材料の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、弾性率(EIT)が、270GPa~320GPa+/-5GPaの範囲であり、この範囲は、270GPaおよび320GPaの境界値を含む。
【0051】
好ましくは、機能性コーティングフィルム(5)中に存在するMCrAl-X材料の少なくとも1層は、ナノインデンテーション技術を用いて測定される、弾性率(EIT)が、220GPa+/-5GPaである。
【0052】
本発明の好ましい実施形態によれば、MCrAl-X-O材料の少なくとも1層は、機能性コーティングフィルム(5)中に存在し、この層は50at.%および60at.+/-3at.%の間の値に対応する酸素量を含み、-範囲は50at.および60at.%の境界値を含み、-原子%での元素組成の決定のために、この層に存在するすべての元素を考慮する。
【0053】
好ましくは、酸素量は、50at.%より高い値に対応する。
【0054】
好ましくは、酸素量は、60at.%より低い値に対応する。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば、MCrAl-X材料の少なくとも1層は、機能性コーティングフィルム(5)中に存在し、この層は、FCC結晶構造を示す。
【0056】
上記実施形態のいずれかによるコーティングされた基板を製造する好ましい方法は、MCrAl-Xタイプの少なくとも1層は、物理的気相成長(PVD)技術を用いて蒸着され、使用されるPVD技術は、アーク蒸着またはマグネトロンスパッタリングであり、M、Cr、AlおよびXからなるターゲットは、コーティングソース材料として使用され、MCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層の蒸着の場合には、反応性ガスとして酸素フローガスが使用される工程を含む。
【0057】
MCrAl-Xコーティング層の少なくとも1層を蒸着するための蒸着方法は、タイプ高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)タイプのマグネトロンスパッタリング技術であり得る。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属基板表面(11)上に直接蒸着される層は、それぞれの金属基板表面(11)の金属基板(1)の材料の結晶構造と比較して類似の結晶構造を有し、格子パラメータの最大の不一致は、5%、好ましくは最大1%である。
【0059】
本発明はまた、機能性コーティングフィルム(5)と少なくとも1つの金属表面(11)および機能性コーティングフィルム(5)の間に蒸着された中間コーティングフィルム(3)を含むコーティングシステム(7)でコーティングされた少なくとも1つの金属基板表面(11)を含むコーティングされた基板であって、機能性コーティングフィルム(5)は、MCrAl-Xタイプの少なくとも1層および/またはMCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層ならびに中間コーティングフィルム(3)を含み、MCrAl-Xタイプの少なくとも1層および/またはMCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層は、アーク蒸着または(スパッタリングが好ましくはHiPIMSである場合は)マグネトロンスパッタリングによって、少なくとも1つの金属表面(11)上に直接蒸着されるコーティングされた基板に関する。
【0060】
直接上記された実施形態によるコーティングされた基板を製造する好ましい方法は、MCrAl-Xタイプの少なくとも1層はMCrAl-Xタイプの少なくとも1層によって蒸着され、および/またはMCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層は物理的気相成長(PVD)技術を用いて蒸着され、使用されるPVD技術は、アーク蒸着または(スパッタリングが好ましくはHiPIMSである場合は)マグネトロンスパッタリングであり、M、Cr、AlおよびXからなるターゲットがコーティングソース材料として使用され、MCrAl-X-Oタイプの少なくとも1層を蒸着する場合には、反応性ガスとして酸素フローガスが使用される工程を含む。
【0061】
本発明に記載されているようなMCrAl-X層およびMCrAl-X-O層のPVD蒸着のために、通常のコーティングパラメータを使用し得る。
【0062】
例えば、上述のようにアーク蒸着PVD技術およびM、Cr、Al、およびXからなるターゲットを用いてMCrAl-Xコーティング層を蒸着する場合、アーク電流は、このような種類のPVDプロセスの代表的な範囲またはアーク電流、例えば100A~200Aの間の値になるように調整され得る。また、蒸着中の基板温度は、既知の基板温度範囲、例えば200℃および800℃の間、または400℃および600℃の間になるように調整され得る。
【0063】
コーティング蒸着の前に、コーティングされる基板表面は、既知の方法(例えば、既知の洗浄プロセスおよびプラズマ前処理プロセスを使用することによって)で洗浄され、前処理されるべきである/が可能である。