(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】多糖類のシリルエーテル化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/05 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
C08B15/05
(21)【出願番号】P 2021566424
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050555
(87)【国際公開番号】W WO2021130848
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大祐
(72)【発明者】
【氏名】サムエル ブディ ウォーデァナ クスマ
(72)【発明者】
【氏名】和田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
(72)【発明者】
【氏名】松村 裕之
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-519740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0281303(US,A1)
【文献】国際公開第2016/068053(WO,A1)
【文献】BORDWELL、F. G. et al.,Equilibrium acidities in dimethyl sulfoxide solution,Accounts of Chemical Research,1988年,Vol. 21, No. 12,pp. 456-463,DOI: 10.1021/ar00156a004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類を、ジメチルスルホキシド中での酸解離定数pKaが12~19の酸に対応するアニオン
であって、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、酪酸アニオン、吉草酸アニオン、及びピリドネートアニオンからなる群より選択されたアニオンを有する4級アンモニウム塩の存在下、ヒドロシラン化合物又はカルボン酸シリルエステルと反応させ、前記多糖類の水酸基をシリルエーテル化する工程を含む多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩を構成するカチオンが、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1、R
3は、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す。R
2、R
4、R
5は、同一又は異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表されるイミダゾリウムカチオンである請求項1記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項3】
前記4級アンモニウム塩を構成するカチオンが、下記式(2)
【化2】
[式中、R
6、R
7、R
8、R
9は、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表されるアンモニウムカチオンである請求項1記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項4】
前記アニオンが、
酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、酪酸アニオン、及び吉草酸アニオンからなる群より選択されたカルボキシラートアニオンである請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロシラン化合物がモノヒドロシラン化合物である請求項1~4のいずれか1項に記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロシラン化合物が、モノヒドロシラン化合物であり、且つケイ素原子に結合する水素原子以外の3個の置換基のうち少なくとも1つが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である請求項1~5のいずれか1項に記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項7】
多糖類とヒドロシラン化合物との反応を二酸化炭素雰囲気下で行う請求項1~6のいずれか1項に記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【請求項8】
前記カルボン酸シリルエステルがギ酸シリルエステルである請求項1~4のいずれか1項に記載の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類のシリルエーテル化物(多糖シリルエーテル)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースなどの多糖類の水酸基をシリルエーテル化した多糖類のシリルエーテル化物は、熱可塑性プラスチックとして利用できる。また、多糖類のシリル化は、多糖類の水酸基の保護に利用されるほか、多糖類の成形性の向上のため、撥水性の付与のため、また、他の材料との相溶性向上のために利用される。
【0003】
従来、多糖類のシリル化による多糖類のシリルエーテル化物の合成は、多糖類を、塩基の存在下、液体アンモニアなどの特殊な溶媒中、高活性シリル化剤(例えば、モノクロロシラン、モノブロモシラン、シリルトリフラートなど)と反応させることにより行われてきた。しかし、この方法では、腐食性が高く取扱いが困難な高活性シリル化剤を用いなければならないこと、液体アンモニアなどの特殊な溶媒を使用しなければならないこと、反応後には塩が副生し、廃棄物となることなどの欠点を有していた。
【0004】
非特許文献1には、セルロースを、イオン液体中で、ビス(トリメチルシリル)アミン(=1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン)と反応させると、セルロースのトリメチルシリル化が進行することが報告されている。しかし、この方法では、腐食性のアンモニアが副生することに加え、市販のジシラザンではトリメチルシリル化に限定され、汎用性に欠けるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Macromol. Biosci. 2009, 9, 369-375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、腐食性の高い反応剤を使用することなく、また、腐食性の高い副生物や処理の困難な塩等を生成しない多糖類のシリルエーテル化物の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、環境に配慮した、しかも汎用性に優れた多糖類のシリルエーテル化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、多糖類を特定の4級アンモニウム塩の存在下、ヒドロシラン化合物又はカルボン酸シリルエステルと反応させると、腐食性の高い副生物や処理の困難な塩等を生成することなく、環境への負荷を抑制しつつ、多糖類のシリルエーテル化物を製造できること、また、シリル化剤としてヒドロシラン化合物を用いる場合、二酸化炭素の存在下で上記反応を行うと、二酸化炭素を消費して有用なC1成分であるギ酸を生成しつつ、多糖類のシリルエーテル化物を製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、多糖類を、ジメチルスルホキシド中での酸解離定数pKaが12~19の酸に対応するアニオンを有する4級アンモニウム塩の存在下、ヒドロシラン化合物又はカルボン酸シリルエステルと反応させ、前記多糖類の水酸基をシリルエーテル化する工程を含む多糖類のシリルエーテル化物の製造方法を提供する。
【0009】
前記4級アンモニウム塩を構成するカチオンは、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1、R
3は、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す。R
2、R
4、R
5は、同一又は異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表されるイミダゾリウムカチオンであってもよい。
【0010】
前記4級アンモニウム塩を構成するカチオンは、下記式(2)
【化2】
[式中、R
6、R
7、R
8、R
9は、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表されるアンモニウムカチオンであってもよい。
【0011】
前記アニオンは、カルボキシラートアニオンであってもよい。
【0012】
前記ヒドロシラン化合物は、例えば、モノヒドロシラン化合物である。
【0013】
前記ヒドロシラン化合物は、モノヒドロシラン化合物であり、且つケイ素原子に結合する水素原子以外の3個の置換基のうち少なくとも1つが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0014】
前記製造方法において、多糖類とヒドロシラン化合物との反応を二酸化炭素雰囲気下で行ってもよい。
【0015】
前記カルボン酸シリルエステルは、ギ酸シリルエステルであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法によれば、特定の4級アンモニウム塩が溶媒と触媒の二役として機能し、均一系で多糖類をシリルエーテル化できる。また、この製造方法において、シリル化剤としてヒドロシラン化合物を用いる場合、理論上、廃棄物は最小の分子である水素分子のみであり、環境への負荷がほとんどない。水素は回収が容易であり、目的に応じて様々な利用が可能である。また、反応に用いるヒドロシラン化合物は、クロロシラン等の高活性シリル化剤と異なり、一般的に加水分解性や腐食性を示さない。また、シリル化剤としてカルボン酸シリルエステルを用いる場合、カルボン酸が生成するが、カルボン酸は、目的に応じて様々な利用が可能である。
このように、本発明の製造方法によれば、腐食性の高い反応剤を使用することなく、また、腐食性の高い副生物や処理の困難な塩等を生成させることなく、多糖類のシリルエーテル化物を製造することが可能である。
また、本発明の製造方法において、シリル化剤としてヒドロシラン化合物を用いる場合、上記反応を二酸化炭素の雰囲気下で行うと、二酸化炭素をギ酸に変換させつつ、多糖類のシリルエーテル化物を製造できる。すなわち、二酸化炭素を削減しながら有用なバイオベース材料を製造できる。また、ギ酸は有用なC1材料であり、目的に応じて様々な利用が可能である。
また、本発明の製造方法によれば、反応剤として種々のヒドロシラン化合物、カルボン酸シリルエステルを用いることができるので、従来のジシラザン化合物を用いるセルロースのシリル化法と比較して、汎用性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の多糖類のシリルエーテル化物(多糖シリルエーテル)の製造方法は、多糖類を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中での酸解離定数pKaが12~19の酸に対応するアニオンを有する4級アンモニウム塩の存在下、ヒドロシラン化合物又はカルボン酸シリルエステルと反応させ、前記多糖類の水酸基をシリルエーテル化する工程を含む。
【0018】
[多糖類]
本発明に適用可能な多糖類としては、特に制限はなく、一般的な多糖類のいずれであってもよい。また、複数の多糖類を組み合わせて用いてもよい。上記多糖類としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、キシラン、マンナン、グルコマンナン、グルクロノキシラン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、ペクチン、キチン、キトサン、アガロース、カラギーナン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、イヌリン、レバン、フルクタン、ガラクタン、アラビナン、ペントザン、アルギン酸、ペクチン酸、プロツベリン酸、コロミン酸、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアガムなどを挙げることができる。上記多糖類は、構造の一部が置換されていてもよい。例えば、セルロース等の多糖の水酸基の一部がエステル化及び/又はエーテル化されている多糖誘導体を原料として用いてもよい。
【0019】
原料として用いる多糖類の数平均重合度は、特に限定されないが、例えば30~10000、好ましくは40~2000、より好ましくは50~1000である。
【0020】
本発明では、多糖類として、多糖類を含有するバイオマスを用いることができる。多糖類含有バイオマスとしては、多糖類を含有するものであれば、特に制限されない。例えば、バガス(サトウキビ残渣):ケナフ;スギ、ユーカリ、アカマツ、ポプラ、ラワン、ヒノキ、マカンバ、シトカスプルースなどの木材;カニやエビなどの甲殻類の殻;米、小麦、トウモロコシ、ソルガムなどの穀類;ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバなどの芋類;その他のセルロース系植物由来原料(パルプ廃液、稲藁、もみ殻、果実繊維、ギンナンなどの果実核殻、空果房(エンプティ・フルーツ・バンチ))などを挙げることができる。また、これらのバイオマスを精製したパルプなども使用できる。上記多糖類含有バイオマスは、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。なお、上記多糖類含有バイオマスに裁断、乾燥など、必要に応じて種々の前処理を施し、多糖(例えば、セルロース)を分離抽出する工程を経て多糖の状態としたものを原料として用いることができる。
【0021】
[4級アンモニウム塩]
本発明では、ジメチルスルホキシド中での酸解離定数pKaが12~19である酸に対応するアニオンを有する4級アンモニウム塩(以下、「4級アンモニウム塩(A)」と称する場合がある)を用いる。すなわち、前記4級アンモニウム塩を構成するアニオンは、ジメチルスルホキシド中での酸解離定数pKaが12~19である酸に対応するアニオンである。なお、上記pKaは25℃での値をいう。このような4級アンモニウム塩はイオン液体の一種である。一般に、イオン液体とは、カチオンとアニオンから構成される塩のうち、比較的低温(例えば、150℃以下)において液体で存在するものを指す。
【0022】
本発明において、4級アンモニウム塩(A)は、多糖類との親和性や溶解性に優れる。また、前記4級アンモニウム塩(A)は、多糖類とヒドロシラン化合物との反応の触媒としても作用する。したがって、前記4級アンモニウム塩(A)は、溶媒及び触媒の二役として機能する。取り扱い性、操作性等の点で、前記4級アンモニウム塩(A)は、室温(例えば25℃)で液体であるものが好ましい。
【0023】
前記4級アンモニウム塩(A)を構成するアニオンとしては、ジメチルスルホキシド中での酸解離定数pKaが12~19である酸のアニオンであれば特に限定されず、例えば、カルボン酸アニオン(カルボキシラートアニオン)、ピリドネートアニオン(ピリジノールアニオン)、シアンアニオンなどが挙げられる。
【0024】
前記カルボン酸アニオン(カルボキシラートアニオン)の具体例として、例えば、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、酪酸アニオン、吉草酸アニオン、フマル酸アニオン、シュウ酸アニオン、ピルビン酸アニオンなどの炭素数1~18のモノ又はジカルボン酸のアニオンなどが挙げられる。
【0025】
前記ピリドネートアニオン(ピリジノールアニオン)の具体例として、例えば、2-ピリドネートアニオン(2-ピリジノールアニオン)、4-ピリドネートアニオン(4-ピリジノールアニオン)などが挙げられる。
【0026】
前記4級アンモニウム塩(A)を構成するアニオンとしては、特に、酢酸アニオン等のカルボン酸アニオン(カルボキシラートアニオン)、2-ピリドネートアニオン(2-ピリジノールアニオン)等のピリドネートアニオン(ピリジノールアニオン)が好ましい。
【0027】
前記4級アンモニウム塩(A)を構成するカチオンとしては、特に限定されないが、例えば、イミダゾリウムカチオン、窒素原子に炭化水素基(置換基を有していてもよい)が4個結合したアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオンなどが挙げられる。
【0028】
前記イミダゾリウムカチオンとして、例えば、下記式(1)
【化3】
[式中、R
1、R
3は、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す。R
2、R
4、R
5は、同一又は異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表されるイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0029】
前記R1、R3における脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、s-ヘキシル、t-ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などの炭素数1~18のアルキル基;ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、1-オクテニル基などの炭素数2~18のアルケニル基;プロピニル基などの炭素数2~18のアルキニル基などが挙げられる。
【0030】
前記R1、R3における置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基において、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。前記芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル基などのアルキル基(炭素数1~6のアルキル基など);ビニル、アリル基などのアルケニル基(炭素数2~6のアルケニル基など);エチニル、プロピニル基などのアルキニル基(炭素数2~6のアルキニル基など);メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ブチルオキシ基などのアルコキシ基(炭素数1~6のアルコキシ基など);メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基(C1-6-アルコキシ-カルボニル基など);ニトロ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子;メチルスルホニル、エチルスルホニル基などのアルキルスルホニル基(C1-6-アルキルスルホニル基など);アミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ基などの置換もしくは非置換のアミノ基(アミノ基、ジC1-4アルキルアミノ基など);フェニル、2-メチルフェニル、4-メチルフェニル基などの置換もしくは非置換のフェニル基;フェノキシ、2-メチルフェノキシ、4-メチルフェノキシ基などの置換もしくは非置換のフェノキシ基;ピリジル、2-メチルピリジル、4-メチルピリジル基などの置換もしくは非置換のピリジル基などが挙げられる。
【0031】
前記脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基が複数個結合した基としては、例えば、ベンジル、2-フェニルエチル基などの炭素数7~12のアラルキル基などが挙げられる。
【0032】
前記R1、R3としては、それぞれ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などの炭素数1~18(特に、炭素数1~10)のアルキル基が好ましい。
【0033】
前記R2、R4、R5における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基としては、それぞれ、前記R1、R3における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基として例示した基と同様な基が挙げられる。
【0034】
前記R2、R4、R5としては、それぞれ、好ましくは、水素原子;メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などの炭素数1~18のアルキル基;置換基を有していてもよいフェニル基であり、より好ましくは、水素原子;炭素数1~10(特に、炭素数1~4)のアルキル基;置換基を有していてもよいフェニル基である。
【0035】
前記式(1)で表されるイミダゾリウムカチオンの具体例として、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1,3-ジメチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム、、1-デシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウム、1-テトラデシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキサデシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-オクタデシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクタデシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。
【0036】
前記窒素原子に置換基を有していてもよい炭化水素基が4個結合したアンモニウムカチオンとして、例えば、下記式(2)
【化4】
[式中、R
6、R
7、R
8、R
9は、同一又は異なって、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表されるアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0037】
前記R6、R7、R8、R9における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基としては、それぞれ、前記R1、R3における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基として例示した基と同様な基が挙げられる。
【0038】
前記R6、R7、R8、R9としては、それぞれ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などの炭素数1~18(特に、炭素数1~10)のアルキル基、ベンジル、2-フェニルエチル基などの炭素数7~12のアラルキル基などが好ましい。
【0039】
前記式(2)で表されるアンモニウムカチオンの具体例としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、ブチルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0040】
前記ピリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、1-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム、1-ヘキシルピリジニウム、1-ブチル-4-メチルピリジニウム、1-ブチル-3-メチルピリジニウム、1-ヘキシル-4-メチルピリジニウム、1-ヘキシル-3-メチルピリジニウム、1-オクチル-4-メチルピリジニウム、1-オクチル-3-メチルピリジニウム、1-ブチル-3,4-ジメチルピリジニウム、1-ブチル-3,5-ジメチルピリジニウムなどが挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法において好適に用いられる前記4級アンモニウム塩(A)の具体例としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム2-ピリドネート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム2-ピリドネート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム2-ピリドネート、1-エチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウムアセテート、1-ヘキシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム2-ピリドネート、1-ブチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム2-ピリドネート、1-ヘキシル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウム2-ピリドネートなどの、4級アンモニウム塩(A)を構成するカチオンが前記式(1)で表されるイミダゾリウムカチオンである化合物;テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムアセテート、トリメチルプロピルアンモニウムアセテート、ブチルトリメチルアンモニウムアセテート、ベンジルトリメチルアンモニウムアセテート、テトラメチルアンモニウム2-ピリドネート、テトラエチルアンモニウム2-ピリドネート、テトラブチルアンモニウム2-ピリドネート、トリメチルプロピルアンモニウム2-ピリドネート、ブチルトリメチルアンモニウム2-ピリドネート、ベンジルトリメチルアンモニウム2-ピリドネートなどの、4級アンモニウム塩(A)を構成するカチオンが前記式(2)で表されるアンモニウムカチオンである化合物が挙げられる。
【0042】
前記4級アンモニウム塩(A)としては、溶媒としての機能を高める点で、代表的な多糖類であるセルロースに対する溶解度が高いものが好ましい。例えば、前記4級アンモニウム塩(A)としては、当該4級アンモニウム塩(A)1gに対するセルロース(数平均重合度:105)の溶解度(120℃)が、例えば0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上、さらに好ましくは0.2g以上、特に好ましくは0.3g以上であるものが望ましい。前記の数平均重合度105のセルロースとしては、市販品を利用することができ、例えば、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」を挙げることができる。なお、前記数平均重合度は、ポリスチレン校正用標準物質換算(フェニルイソシアネートと反応させたカルバニル化セルロース試料)のテトラヒドロフラン(THF)中におけるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求められる数平均重合度をいう。上記測定法による商品名「Avicel PH-101」の見掛け上の数平均重合度は105である。
【0043】
前記4級アンモニウム塩(A)の使用量は、当該4級アンモニウム塩(A)の種類、原料として用いる多糖類の種類、反応温度、反応時間、滞留時間などの種々の条件に応じて適宜選択することができるが、原料として用いる多糖類の水酸基1モルに対して、例えば、0.5~20モル、好ましくは0.6~10モル、より好ましくは0.7~5モル、さらに好ましくは0.7~3モル、特に好ましくは0.8~1.5モルである。
【0044】
[有機溶媒]
本発明では、前記特定の4級アンモニウム塩(A)とともに有機溶媒を使用してもよい。この有機溶媒としては、前記特定の4級アンモニウム塩(A)との相溶性、原料として用いる多糖類や生成する多糖類のシリルエーテル化物との親和性、多糖類と前記特定の4級アンモニウム塩(A)の混合物の粘度などを考慮して適宜選択することができる。また前記有機溶媒は、前記特定の塩基性イオン液体と反応しないもの、当該4級アンモニウム塩(A)と混合した状態で原料となる多糖類、および生成する多糖類のシリルエーテル化物に対する溶解性が高いものが好ましい。このような有機溶媒を用いることにより、前記特定の4級アンモニウム塩(A)の使用量を低減させることができ、多糖類のシリルエーテル化物の製造コストを抑えることも可能となる。有機溶媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
【0045】
前記有機溶媒は、種々の有機溶媒のなかから適宜選択することができる。具体的には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン、ピリジンなどを挙げることができる。クロロホルムは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートなど、一部のイオン液体と反応するため適用できない場合あるが、本発明の範囲から除外されるものではない。
【0046】
前記有機溶媒の使用量は、当該有機溶媒の種類、前記4級アンモニウム塩(A)の種類、原料として用いる多糖類の種類などの条件に応じて適宜選択することができる。前記有機溶媒の使用量としては、原料として用いる多糖類に対する前記有機溶媒の重量比(有機溶媒/多糖類)として、例えば0~20、好ましくは0.5~10、より好ましくは0.7~7、さらに好ましくは0.8~3である。また、前記4級アンモニウム塩(A)に対する前記有機溶媒のモル比(有機溶媒/4級アンモニウム塩(A))としては、例えば0~1000、好ましくは0.5~200、より好ましくは1~100、さらに好ましくは2~80、特に好ましくは5~50、最も好ましくは10~40である。
【0047】
[ヒドロシラン化合物]
本発明において用いるヒドロシラン化合物としては、ケイ素原子に少なくとも1つの水素原子が結合しているシラン化合物であれば特に限定されず、目的とする多糖類のシリルエーテル化物に対応する化合物を適宜選択して用いることができる。ヒドロシラン化合物は一種のみを用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ヒドロシラン化合物として、例えば、下記式(3)
【化5】
[式中、R
10、R
11、R
12は、同一又は異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアラルキルオキシ基を示す。但し、R
10、R
11、R
12のすべてが水素原子であることはない]
で表される化合物が挙げられる。
【0049】
R10、R11、R12における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基としては、それぞれ、前記R1、R3における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基として例示した基と同様な基が挙げられる。
【0050】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ基などの炭素数1~18(特に、炭素数1~10)のアルコキシ基が挙げられる。前記アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、トリルオキシ、ナフチルオキシ基などが挙げられる。前記アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ、2-フェニルエチルオキシ基などが挙げられる。
【0051】
前記R10、R11、R12としては、それぞれ、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ヘキシル、イソヘキシル、s-ヘキシル、t-ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル基などの炭素数1~18(特に、炭素数1~10)のアルキル基;アリル基などの炭素数2~18(特に、2~10)のアルケニル基;フェニル、2-メチルフェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-クロロフェニル、4-クロロフェニル、2-ニトロフェニル、3-ニトロフェニル、4-ニトロフェニル、ナフチル基などの、置換基(例えば、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基など)を有していてもよいフェニル基若しくはナフチル基;ベンジル、2-フェニルエチル基などの炭素数7~12のアラルキル基;メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ基などの炭素数1~10(特に、炭素数1~6)のアルコキシ基などが好ましい。
【0052】
ヒドロシラン化合物としては、モノヒドロシラン化合物(ケイ素原子に水素原子が1つ結合した化合物)、ジヒドロシラン化合物(ケイ素原子に水素原子が2つ結合した化合物)、トリヒドロシラン化合物(ケイ素原子に水素原子が3つ結合した化合物)のいずれであってもよいが、反応性や取り扱い性等の点で、特にモノヒドロシラン化合物[前記式(3)において、R10、R11、R12がいずれも水素原子ではない化合物)が好ましい。また、ヒドロシラン化合物としては、反応性や取り扱い性等の点で、モノヒドロシラン化合物であり、且つケイ素原子に結合する水素原子以外の3個の置換基のうち少なくとも1つが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(置換基を有していてもよいフェニル基又はナフチル基など)であることが好ましい。
【0053】
ヒドロシラン化合物の具体例として、例えば、トリメチルシラン、エチルジメチルシラン、ジメチルプロピルシラン、ジメチルプロピルシラン、イソプロピルジメチルシラン、ブチルジメチルシラン、t-ブチルジメチルシラン、ヘキシルジメチルシラン、t-ヘキシルジメチルシラン、ジメチルオクチルシラン、アリルジメチルシラン、ジメチルフェニルシラン、ベンジルジメチルシラン、トリエチルシラン、ジエチルメチルシラン、ジエチルプロピルシラン、ジエチルイソプロピルシラン、ブチルジエチルシラン、t-ブチルジエチルシラン、ジエチルフェニルシラン、ベンジルジエチルシラン、トリプロピルシラン、メチルジプロピルシラン、エチルジプロピルシラン、ブチルジプロピルシラン、フェニルジプロピルシラン、ベンジルジプロピルシラン、トリイソプロピルシラン、トリフェニルシラン、メチルジフェニルシラン、エチルジフェニルシラン、プロピルジフェニルシラン、ブチルジフェニルシラン、t-ブチルジフェニルシランなどが挙げられる。
【0054】
前記ヒドロシラン化合物の使用量は、当該ヒドロシラン化合物の種類、原料として用いる多糖類の種類、反応温度、反応時間、滞留時間などの種々の条件に応じて適宜選択することができる。前記ヒドロシラン化合物の使用量としては、原料として用いる多糖類の水酸基1モルに対して、例えば、0.5~20モル、好ましくは0.6~10モル、より好ましくは0.7~5モル、さらに好ましくは0.7~3モル、特に好ましくは0.8~1.5モルである。
【0055】
本発明の製造方法において、シリル化剤としてヒドロシラン化合物を用いる場合、下記式(5)で示されるように、多糖類とヒドロシラン化合物が反応して、対応する多糖類のシリルエーテル化物(多糖シリルエーテル)と水素が生成する。なお、前記多糖類の水酸基の一部のみを前記ヒドロシラン化合物と反応させて、生成物である多糖類のシリルエーテル化物に一部水酸基が残されたままであってもよい。
多糖類+ヒドロシラン→多糖類のシリルエーテル化物+H2 (5)
【0056】
[二酸化炭素]
本発明の製造方法において、多糖類とヒドロシラン化合物との反応を二酸化炭素雰囲気下で行うと、下記式(6)で示されるように、多糖類のシリルエーテル化物が生成するととともに、二酸化炭素が消費されてギ酸が生成する。そのため、二酸化炭素を削減しながら、バイオベース材料である多糖類のシリルエーテル化物と有用なC1成分であるギ酸を製造できるという利点がある。
多糖類+ヒドロシラン+CO2→多糖類のシリルエーテル化物+HCO2H (6)
【0057】
なお、前記4級アンモニウム塩(A)の存在下、ヒドロシラン化合物と二酸化炭素を反応させた後、多糖類を添加すると、目的の多糖類のシリルエーテル化物とギ酸が生成すること、及び前記ヒドロシランと二酸化炭素との反応の段階で、対応するギ酸シリルエステルが生成することを確認している。したがって、多糖類とヒドロシラン化合物との反応を二酸化炭素雰囲気下で行った場合、まず、ヒドロシラン化合物と二酸化炭素とが反応してギ酸シリルエステルが中間体として生成し、この中間体が多糖類と反応して、目的の多糖類のシリルエーテル化物とギ酸が生成するものと考えられる[下記式(7)及び(8)]。
ヒドロシラン+CO2→ギ酸シリルエステル (7)
ギ酸シリルエステル+多糖類→多糖類のシリルエーテル化物+HCO2H (8)
【0058】
二酸化炭素の量としては、原料として用いる多糖類の水酸基1モルに対して、例えば、0.5モル以上、好ましくは0.8モル以上、より好ましくは1モル以上である。また、反応系の気相中の二酸化炭素の濃度としては、例えば、10~100モル%、好ましくは50~100モル%、より好ましくは80~100モル%である。
【0059】
[カルボン酸シリルエステル]
本発明において、前記カルボン酸シリルエステルとしては、例えば、下記式(4)
【化6】
[式中、R
10、R
11、R
12は、同一又は異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアラルキルオキシ基を示す。但し、R
10、R
11、R
12のすべてが水素原子であることはない。R
13は、水素原子、脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はこれらが複数個結合した基を示す]
で表される化合物が挙げられる。
【0060】
R10、R11、R12は、前記と同様である。R13における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基としては、それぞれ、前記R1、R3における脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、これらが複数個結合した基として例示した基と同様な基が挙げられる。
【0061】
R13としては、水素原子、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、特に、水素原子が好ましい。
【0062】
カルボン酸シリルエステルの具体例として、例えば、トリメチルフォルメート、エチルジメチルフォルメート、ジメチルプロピルフォルメート、ジメチルプロピルフォルメート、イソプロピルジメチルフォルメート、ブチルジメチルフォルメート、t-ブチルジメチルフォルメート、ヘキシルジメチルフォルメート、t-ヘキシルジメチルフォルメート、ジメチルオクチルフォルメート、アリルジメチルフォルメート、ジメチルフェニルフォルメート、ベンジルジメチルフォルメート、トリエチルフォルメート、ジエチルメチルフォルメート、ジエチルプロピルフォルメート、ジエチルイソプロピルフォルメート、ブチルジエチルフォルメート、t-ブチルジエチルフォルメート、ジエチルフェニルフォルメート、ベンジルジエチルフォルメート、トリプロピルフォルメート、メチルジプロピルフォルメート、エチルジプロピルフォルメート、ブチルジプロピルフォルメート、フェニルジプロピルフォルメート、ベンジルジプロピルフォルメート、トリイソプロピルフォルメート、トリフェニルフォルメート、メチルジフェニルフォルメート、エチルジフェニルフォルメート、プロピルジフェニルフォルメート、ブチルジフェニルフォルメート、t-ブチルジフェニルフォルメートなどのギ酸シリルエステル;及び対応する他のカルボン酸のシリルエステルなどが挙げられる。
【0063】
本発明の製造方法において、シリル化剤としてカルボン酸シリルエステルを用いる場合、下記式(9)で示されるように、多糖類とカルボン酸シリルエステルが反応して、対応する多糖類のシリルエーテル化物(多糖シリルエーテル)とカルボン酸が生成する。なお、前記多糖類の水酸基の一部のみを前記カルボン酸シリルエステルと反応させて、生成物である多糖類のシリルエーテル化物に一部水酸基が残されたままであってもよい。生成するカルボン酸は、目的に応じて種々の用途に利用できる。
多糖類+カルボン酸シリルエステル→多糖類のシリルエーテル化物+カルボン酸 (9)
【0064】
[反応]
本発明の製造方法において、多糖類とヒドロシラン化合物又はカルボン酸シリルエステルとの反応は、バッチ式、セミバッチ式、連続式のいずれの方法で行うこともできる。反応の雰囲気としては、特に限定されないが、副反応の抑制、安全性等の点で、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で反応を行うのが好ましい。また、上述したように、シリル化剤としてヒドロシラン化合物を用いる場合、二酸化炭素雰囲気下で反応を行うことにより、二酸化炭素を消費しつつ、多糖類のシリルエーテル化物及びギ酸を製造することができる。
【0065】
反応温度としては、例えば20~150℃、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~90℃である。反応は、常圧下、減圧下、加圧下のいずれで行ってもよい。
【0066】
前記のように、多糖類とヒドロシラン化合物との反応により、対応する多糖類のシリルエーテル化物と水素が生成する。また、シリル化剤としてヒドロシラン化合物を用いる場合、反応を二酸化炭素雰囲気下で行うと、多糖類のシリルエーテル化物とギ酸が生成する。水素やギ酸は回収可能であり、種々の用途に利用できる。多糖類とカルボン酸シリルエステルとの反応により、対応する多糖類のシリルエーテル化物とカルボン酸が生成する。
【0067】
反応終了後、反応生成物を適宜の精製手段に供することにより、多糖類のシリルエーテル化物を単離することができる。精製手段としては、例えば、沈殿、再沈殿、濾過、洗浄、乾燥、抽出等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
本発明の製造方法によれば、多糖類の水酸基のシリルエーテル化率は、例えば10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。原料として用いる多糖類がセルロースの場合の全置換度(上限は3.0)は、例えば0.1以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.5以上である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0070】
実施例1
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を308mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルロースジメチルフェニルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.4であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1110, 840, 739.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.7-7.0 (br), 4.7-2.3 (br), 0.7-0.1(br).
【0071】
比較例1
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)と1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(EmimPF6)(569mg、2.22mmol)を混合し、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え、60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を111mg得た。回収物のIR測定の解析結果から、シリルエーテル構造に由来するピークはほとんど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0072】
比較例2
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)と1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(EmimCl)(325mg、2.22mmol)を混合し、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え、60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を128mg得た。回収物のIR測定の解析結果から、シリルエーテル構造に由来するピークはほとんど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0073】
比較例3
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)と炭酸カリウム(K2CO3)(307mg、2.22mmol)を混合し、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え、60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を83mg得た。回収物のIR測定の解析結果から、シリルエーテル構造に由来するピークはほとんど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0074】
比較例4
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を80℃で3時間減圧乾燥した。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え、60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を60mg得た。回収物のIR測定の解析結果から、シリルエーテル構造に由来するピークはほとんど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0075】
実施例2
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウム2-ピリドネート(EmimOPy)(455mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を226mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルロースジメチルフェニルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.7であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1120, 825, 741.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.7-7.0 (br), 4.7-2.6 (br), 0.8-0.1(br).
【0076】
実施例3
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチル-2-フェニルイミダゾリウムアセテート(EmpimOAc)(547mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を182mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルロースジメチルフェニルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.0であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1120, 825, 741.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.7-7.0 (br), 4.7-2.6 (br), 0.8-0.1(br).
【0077】
実施例4
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)をテトラブチルアンモニウムアセテート(TBAOAc)(669mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ジメチルフェニルシラン(344μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を283mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルロースジメチルフェニルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.2であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1120, 825, 739.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.8-7.0 (br), 4.7-2.7 (br), 0.7-0.1(br).
【0078】
実施例5
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、メチルジフェニルシラン(440mg、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を341mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルロースメチルジフェニルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.2であった。
IR (ATR, cm-1) 1430, 1250, 1110, 825, 739.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.8-7.0 (br), 4.7-2.7 (br), 0.7-0.1(br).
【0079】
実施例6
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、トリエチルシラン(354μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を119mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルローストリエチルシリルエーテルであることが確認された。置換度は0.2であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1110, 840, 750.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 5.50-2.90(br), 0.96-0.83 (br), 0.65-0.44 (br).
【0080】
実施例7
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、トリフェニルシラン(578mg、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を525mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルローストリフェニルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.7であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1110.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 7.80-6.70(br), 5.50-2.80 (br),
【0081】
実施例8
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)に二酸化炭素ガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部を二酸化炭素で置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、トリエチルシラン(354μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を199mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルローストリエチルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.1であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1110, 840, 750.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 4.90-3.00 (br), 1.20-0.44 (br).
【0082】
実施例9
20mLシュレンク管内で、セルロース(Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)(120mg、水酸基:2.22mmol)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc)(378mg、2.22mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器(シュレンク管)にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(3.15mL、44.4mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。撹拌後、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、トリエチルシリルフォルメート(=ギ酸トリエチルシリル)(405μL、2.22mmol)を反応溶液中に加え60℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、濾過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を199mg得た。IR及び1H NMR測定の結果から、回収物は目的のセルローストリエチルシリルエーテルであることが確認された。置換度は2.2であった。
IR (ATR, cm-1) 1250, 1110, 840, 750.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 4.90-3.00 (br), 1.20-0.44 (br).
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の多糖類のシリルエーテル化物の製造方法によれば、多糖類のシリルエーテル化物(多糖シリルエーテル)を工業的に効率よく製造できる。