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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】蓄圧容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
F17C1/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017208590
(22)【出願日】2017-10-27
(65)【公開番号】P2019082188
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】320005154
【氏名又は名称】日本製鋼所M&E株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋流
(72)【発明者】
【氏名】細矢 隆史
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕一
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】西堀 宏之
【審判官】稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141919(JP,A)
【文献】登録実用新案第3172853(JP,U)
【文献】特開2015-158243(JP,A)
【文献】実開昭62-183199(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C1/00-13/02, F16J12/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部が密閉され、直筒で円筒形状の鋼製のシリンダ部を有し、前記シリンダ部の前記両端部のうち少なくとも一方が開閉可能に密閉される開閉端部となり、50MPa以上のガス蓄圧圧力範囲で使用可能な蓄圧容器であって、
前記開閉端部の内周面に雌ねじが形成され、該雌ねじに螺合される雄ねじが外周面に設けられたねじ込み部を有し、前記ねじ込み部の軸方向内側に位置して軸方向外側が前記シリンダ部の端部に貫通する突き出し部を有し、前記突き出し部の外周側に設けられた軸方向外側面が前記ねじ込み部の内周側に設けられた軸方向内側面とが当接し、軸方向内側面を受圧面とする蓋部を有し、
前記蓋部の、前記雌ねじの軸方向内側位置にある外周側とシリンダ部内面側との間でシールを行うシール部を有し、
前記雌ねじと前記雄ねじとが螺合する螺合部分の全部を含む外周側位置で前記シリンダ部の外周に、前記シリンダ部の外径に対し、5%~10%の肉厚を有する補強リングが嵌め合わされており、かつ
前記補強リングの軸方向内側端部は、前記シール部から前記螺合部分の軸方向内側端部までの距離をLとして、前記シール部から軸方向内側に0.64Lの位置またはその位置よりも軸方向外側に位置していることを特徴とする蓄圧容器。
【請求項2】
前記補強リングの軸方向内側端部は、前記シール部の外周側端位置または該位置よりも軸方向内側に位置していることを特徴とする請求項1記載の蓄圧容器。
【請求項3】
前記補強リングの軸方向外側端部は、前記螺合部分の軸方向外側端位置または該位置よりも軸方向外側に位置していることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄圧容器。
【請求項4】
前記ねじ込み部において、安全係数2.4以上の薄肉パイプで設計した場合、82MPa~50MPaのガス蓄圧圧力範囲で運転されたときの応力範囲が300MPa以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄圧容器。
【請求項5】
前記補強リングは、シリンダ部に対し圧縮応力を加えた状態で嵌め合わされていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄圧容器。
【請求項6】
疲労き裂進展解析において、初期想定き裂を0.1mm深さの環状き裂をねじ底に想定した場合、40万回以上の疲労き裂寿命を確保可能なねじ構造を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄圧容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蓄圧した水素ガスなどの高圧ガスを内部に蓄圧でき、端部で蓋の開閉を行うことができる蓄圧容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧ガスを貯蔵するための施設や高圧機器全般において、高圧水素貯蔵・輸送、水素ステーションなどに用いられる蓄圧器では、従来、Cr-Mo鋼などの高強度低合金鋼などが材料として用いられる。しかし、この蓄圧器の内表面にき裂が存在した場合、水素と、き裂の先端が接触し、水素環境脆化が生じてき裂の進展が加速し、蓄圧器の破壊に至る懸念がある。
一般的な蓄圧器で、開閉用のねじ部が直接水素と接するような蓄圧器構造である場合は、ねじ部における応力集中部で水素環境脆性が生じ易くなり、蓄圧器の破壊安全性を著しく損なうことになる。水素以外にも内部充填物が金属を脆化させる性質である場合、同様の現象を引き起こす懸念がある。
【0003】
例えば水素ステーション用の蓄圧器では1日100回程度の車両への充填が想定されるため、10年使用した場合は数十万回の疲労強度を保証しなければならず、ねじ部の疲労強度が確保されていなければ、安全性が確保できず、水素ステーションでは安心して使用することができないという問題がある。
そこで、非特許文献1、2に示されるように、ねじ部が直接内部に充填した水素と接することのない、ねじ込みナット蓋構造とすることにより、ねじ底での水素環境脆性を避けることができ、より安全性を高めることができるものとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】John F.Harvey, “Pressure Component Construction design and materials application”, VAN NORSTAND REINHOLD COMPANY,(1980) P.382-P.384
【文献】JIS B 8265:2010
【文献】JIS B 8267:2010
【文献】“超高圧ガス設備に関する基準 KHKS(0220)2010”,2010, P.26、高圧ガス保安協会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献に示されるように一般的な蓄圧器では、両端の口を絞ったマンネスマン式、エルハルト式の継ぎ目なし容器(いわゆるボンベ)が使用されることがあるが、開口部が小さいため、直接的に内面のき裂の検査をすることができず、き裂の有無が十分に確認できない。
また、経済性を追求すると容器に用いる素材には中実の鍛造丸棒を用いるよりも、なるべく薄肉のパイプを用いることが歩留まり向上、加工費低減の点からは望ましい。蓄圧器の設計の考え方では、容器の肉厚を設定する際に、圧力で過大に変形したり、破裂しないよう、容器肉厚に対する安全係数が設定されている。安全係数は(容器鋼材にかかる最大応力)÷引張強さで定義され、非特許文献2、非特許文献3による圧力容器設計規格では、安全係数はたとえば各々3.5や4に定められている。しかし水素ステーション蓄圧器のように、運転する最大圧力が82MPa程度、設計圧力が99MPa程度に高くなると、パイプ鋼材にかかる応力が非常に高くなり、安全係数:3.5~4を確保することができない。一方で、応力解析、疲労解析を要求する非特許文献4の様な、より高度な圧力容器設計基準を適用すれば、安全係数は2.4まで低減することが認められており、この基準にしたがって設計すれば薄肉パイプを用いた水素ステーション用蓄圧器の製作が可能となる。しかしながら、ねじ込みナット蓋構造ではねじ部における肉厚が不足し、その結果所望の強度あるいは繰り返し疲労強度が確保できない場合がある。非特許文献1、2に示されるねじ込みナット蓋構造では、かみ合っている雄ねじと雌ねじに軸方向荷重が作用すると、ねじ山の荷重分担は均一にならず、はめ合いの第一ねじ山に最大荷重が作用し、2山目以降のねじ山の荷重分担は漸減する。このため、特に第一ねじ山からの疲労き裂発生が懸念される。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、開閉端部のねじが直接水素などと接触せず、ねじの強度改善がなされた蓄圧容器を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄圧容器のうち、第1の形態は、 両端部が密閉され、直筒で円筒形状の鋼製のシリンダ部を有し、前記シリンダ部の前記両端部のうち少なくとも一方が開閉可能に密閉される開閉端部となり、50MPa以上のガス蓄圧圧力範囲で使用可能な蓄圧容器であって、
前記開閉端部の内周面に雌ねじが形成され、該雌ねじに螺合される雄ねじが外周面に設けられたねじ込み部を有し、前記ねじ込み部の軸方向内側に位置して軸方向外側が前記シリンダ部の端部に貫通する突き出し部を有し、前記突き出し部の外周側に設けられた軸方向外側面が前記ねじ込み部の内周側に設けられた軸方向内側面とが当接し、軸方向内側面を受圧面とする蓋部を有し、
前記蓋部外周側とシリンダ部内面側との間でシールを行うシール部を有し、
前記雌ねじと前記雄ねじとが螺合する螺合部分の全部を含む外周側位置で前記シリンダ部の外周に、前記シリンダ部の外径に対し、5%~10%の肉厚を有する補強リングが嵌め合わされており、かつ
前記補強リングの軸方向内側端部は、前記シール部から前記螺合部分の軸方向内側端部までの距離をLとして、前記シール部から軸方向内側に0.64Lの位置またはその位置よりも軸方向外側に位置していることを特徴とする。
【0008】
他の形態の蓄圧容器の発明は、前記形態の発明において、前記補強リングの軸方向内側端部は、前記シール部の外周側端位置または該位置よりも軸方向内側に位置していることを特徴とする。
【0009】
他の形態の蓄圧容器の発明は、前記形態の発明において、前記補強リングの軸方向外側端部は、前記螺合部分の軸方向外側端位置または該位置よりも軸方向外側に位置していることを特徴とする。
【0010】
他の形態の蓄圧容器の発明は、前記形態の発明において、前記ねじ込み部において、安全係数2.4以上の薄肉パイプで設計した場合、82MPa~50MPaのガス蓄圧運転圧力範囲のときの応力範囲が300MPa以下であることを特徴とする。
【0011】
他の形態の蓄圧容器の発明は、前記形態の発明において、前記補強リングは、シリンダ部に対し圧縮応力を加えた状態で嵌め合わされていることを特徴とする。
【0015】
他の形態の蓄圧容器の発明は、前記形態の発明において、疲労き裂進展解析において、初期想定き裂を0.1mm深さの環状き裂をねじ底に想定した場合、40万回以上の疲労き裂寿命を確保可能なねじ構造を有することを特徴とする。
【0016】
他の形態の蓄圧容器の発明は、前記形態の発明において、前記疲労き裂進展解析が非特許文献4の基準に定められる手順で行われるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、開閉端部のねじと水素などとの直接接触を回避することができ、さらに開閉端部のねじの強度を改善して高い疲労寿命向上の効果が得られ、この結果、軽量化と高寿命化の両立が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の蓄圧容器を示す端面図である。
図2】同じく、蓄圧容器の一部を示す拡大端面図である。
図3】実施例で用いられた比較例の蓄圧容器の一部を示す端面図である。
図4】実施例で試験された発明例と比較例における繰り返し回数とき裂深さの進展を示すグラフである。
図5A】実施例における応力出力位置を説明する図である。
図5B】実施例における評価位置を説明する図である。
図6】実施例において補強リングの軸方向内側長さによる影響を確認した試験結果を示す図である。
図7】実施例において補強リングの軸方向外側長さによる影響を確認した試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態の蓄圧容器を説明する。
本実施形態の水素ガス蓄圧器10は、鋼製の円筒シリンダからなる円筒シリンダ部1と円筒シリンダ部1の両端部を開閉可能に密閉する蓋部2と、蓋部2を円筒シリンダ部1に固定するねじ込み部3を有している。蓋部2の軸方向内側面は高圧ガスの圧力を直接受ける受圧面2Aになっている。水素ガス蓄圧器10は、本発明の蓄圧容器に相当する。
また、この実施形態では、円筒シリンダ部1の両端部は開閉端部になっており、円筒シリンダ部1の両端側では、円筒シリンダ部1の外周側に補強リング4が嵌め合わされている。
従来の水素ガス蓄圧器では、両端の口を絞ったマンネスマン式、エルハルト式の継ぎ目なし容器(いわゆるボンベ)が使用されることがあるが、開口部が小さいため、直接的に内面のき裂の検査をすることができず、き裂の有無が十分に確認できず、工場出荷時ならびに運用中の安全性が確保できない。このため、円筒シリンダ部を有することで、内面のき裂検査が容易になる。
【0020】
また、円筒シリンダ部1、蓋部2、ねじ込み部3および補強リング4の材料は特に限定されるものではないが、円筒シリンダ部1の材質として、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、またはその他の低合金鋼(ステンレス鋼を除く。)などを用いることができる。これら材質のように高い引張強さを有することで高い容器強度をもたらす。蓋部2、ねじ込み部3、補強リング4の材質は、上記円筒シリンダ部1と同じ材質としてもよく、また、その他の材質(例えば補強リング4で炭素繊維強化プラスチックなど)により構成されるものであってもよい。さらに、蓋部2、ねじ込み部3、補強リング4の各部材において異なる材質のものを用いることができる。
【0021】
円筒シリンダ部1は、鋼によって直筒状に形成されている。その製造方法は特に限定されるものではないが、欠陥の少ない加工方法が望ましく、例えば、鍛造や押し出しなどによって一体に成形される。
円筒シリンダ部1は、主内面1Aを鏡面加工して傷のない状態とするのが望ましい。円筒シリンダ部1の穴は、主内面1Aを有する部分で直円筒形状に形成されており、鏡面加工も容易に行うことができる。主内面1Aは、蓄圧された水素の圧力が負荷される部分である。
鏡面加工により、肉厚方向で深さ0.5mm、表面長さで1.6mm以上の傷を有さない表面形状に確実にして、水素脆化によるき裂進展を防止する。なお、このサイズを超える傷が円筒シリンダ部1の内面に残っていると、水素脆化によるき裂が進展しやすくなり、疲労き裂寿命を低下させるが、本発明としてはこの条件を必須とするものではない。
【0022】
円筒シリンダ部1は、その軸方向両端内面が主内面1Aよりも大径とした穴部1Bが形成されており、軸方向内側の一部を除いてその内面に、ねじ込み部3が螺合される雌ねじ部1Cが形成されている。ねじ込み部3は、筒形状からなり、外周面に前記雌ねじ部1Cに螺合される雄ねじ部30を有している。なお、円筒シリンダ部1におけるねじ込み構造は、開閉端部の両端側で同じ構造になっているが、両端側で異なる構造とすることも可能である。
【0023】
蓋部2は、軸方向外側にある一部がねじ込み部3の内周側に位置しており、その軸方向内側面に位置する大径部20と、大径部20の軸方向内側に連続して主内面1Aと小隙間を形成する内側軸部21とを有している。主内面1Aと内側軸部21先端側外周面との間には、図2に示すようにOリングなどによってシール部5を設けることができる。シール部5は、受圧面2Aよりも僅かに軸方向外側に位置している。このため、内側軸部21の軸方向先端側にはOリングが配置されるように僅かに小径に形成されている。
大径部20が位置する軸方向の所定位置では、軸方向内側に、穴部1Bとの境界にある主内面1Aの外側端が位置して大径部20の軸方向内側端の内面と当接して大径部20の内側への移動を規制する。主内面1Aの外側端は、ストッパ1Dに相当する。
【0024】
また、大径部20の軸方向外側には、大径部20よりも小径とした同軸の突き出し部22が円柱形状で形成されている。突き出し部22は、本発明の延材部に相当する。なお、この実施形態では、突き出し部22は円柱形状のものとして説明しているが、突き出し部、すなわち延材部の形状は特に限定されるものではなく、また、複数で構成されていてもよい。
【0025】
また、大径部20の軸方向外側には、突き出し部22よりも小径とした同軸で円柱形状の軸部23が軸方向外側に延伸しており、ねじ込み部3の内周側に位置している。
なお、突き出し部22は、大径部20と一体となったものでもよく、また、大径部20と別体になったものであってもよい。ここでは一体となったものとしている。大径部20から軸部23に亘って軸方向に貫通する水素通気穴25Dが形成されている。軸部23は、第2の突き出し部に相当する。なお、この実施形態では、軸部23は円柱形状のものとして説明しているが、軸部、すなわち第2の突き出し部の形状は特に限定されるものではなく、また、複数で構成されていてもよい。
【0026】
一方、ねじ込み部3は、前記軸部23が貫通する貫通穴31が形成され、さらに軸方向内側では、前記突き出し部22が凹入される円柱形状の凹部32が形成されている。貫通穴31は、第2の凹部に相当する。
凹部32は、突き出し部22の軸方向先端面が凹部32の底面に当接した状態で、ねじ込み部3の軸方向内側先端面と大径部20の軸方向外側先端面とは接触することなく互いに離隔して隙間が形成される。
また、ねじ込み部3が所定の位置までねじ込まれると、大径部20の軸方向内側面とストッパ1Dに当たって大径部20の移動が規制される。
また、ねじ込み部3の内面に雌ねじを形成し、軸部23の外周面に雄ねじを形成し、互いに螺合をするようにしてもよい。
【0027】
なお、突き出し部22の長さは、雌ねじ部1Cとねじ込み部の雄ねじ部30との間のかみ合いにおいて、かみ合いの内側2山目以上であり、かつ前記かみ合いの長さLの54%以下であることが望ましい。突き出し部の長さが短すぎると、突き出し部による効果が小さくなる。一方、突き出し部22の長さは長いほど効果が得られるが、あまりに長いと応力低減の効果が飽和する。
【0028】
また、突き出し部22の外周側の位置が、ねじ込み部の雄ねじの高さを含めた径方向厚さ(図2示T2)に対し、内周側から45%~80%の位置にあり、かつ突き出し部22の外周側の位置がねじ込み部の雄ねじに近いと(径方向厚さT2の80%超)、ねじ底近傍における応力分布に影響をおよぼしてしまう。突き出し部22の外周側の位置が雄ねじから遠いと(径方向厚さT2の45%未満)第一ねじ山の荷重分担軽減効果が小さくなってしまう。
また、リガメント部(ねじ込み部の雄ねじを含め、突き出し部外側に位置する外周厚さ;T3の厚さの部分)の厚さが薄くなりすぎると工作物を誤ってぶつけるなどすると変形するなどの問題が生じるため、リガメント部の厚さはねじ山の高さ(山の頂と谷底の距離)の180%以上、あるいは、ねじのピッチの120%以上であるのが望ましい。一方、突き出し部の位置が内周側にあって径が小さいと、突き出し部による効果が得られにくくなる。
【0029】
本実施形態では、円筒シリンダ部1に対し、内面側から高圧を負荷して自緊処理を行うことができる。自緊処理では、円筒シリンダ部1が外周方向に膨張して内周側で塑性変形をすることで残留応力が残り、強度を増加させ、一方で外周側は弾性変形領域となる。
【0030】
上記で構成される水素ガス蓄圧器は、ライナーを円筒状とすることで、精密な機械加工が可能となり、0.5mm深さ以上の加工傷が生じないように十分な品質管理が可能である。
また、内部検査も、ナット蓋を取り外すことで容易かつ正確に行うことができ、品質精度が向上する。検査後も、ナット蓋を円筒シリンダ部に容易に取り付けて使用状態にすることができ、作業負担も小さい。
【0031】
本実施形態の開閉蓋構造では、内圧の応力が蓋部2の大径部20から直接ねじ込み部3に伝わることはなく、突き出し部22を通してねじ込み部3の軸方向内側端よりも外側において凹部32の底面を通してねじ込み部3に応力が伝わる。この結果、第一ねじ山およびその近傍に破壊をもたらす荷重が掛かることなく、できるだけねじ山全体に、均等に荷重が伝わるようにすることができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、前記したように円筒シリンダ部1の両端外周側に補強リング4が嵌め合わされている。補強リング4は、円筒シリンダ部1の外径に対し、5%程度の厚みは必要であり、一方で10%を超える厚みに増してもさほどの効果は期待できないし、経済性や重量の点からも不利となる。したがって、5~10%の肉厚を有するなどの材料からなる金属材料を用いることができる。補強リング4は、例えば焼きばめによって円筒シリンダ部1の外周に嵌め合わせて固定することができる。ただし、本発明としては補強リングの嵌め合わせ方法は特に限定されるものではなく、例えば分割され補強リング部材同士を溶接などによって固定して円筒シリンダ部1への嵌め合わせを行うようにしてもよい。また、この嵌め合わせにおいては、補強リング4によって円筒シリンダ部1に圧縮応力が加えられた状態になっているのは望ましい。例えば、焼きばめによって補強リング4が円筒シリンダ部1に圧縮応力を加えた状態にすることができる。この応力の存在によってねじ部における補強効果をより高めることができる。ただし、本発明としてはこの応力が必須とされるものではない。
【0033】
また、補強リング4は、円筒シリンダ部1の開閉端部の外周側に嵌め合わされるため、開閉端部が一端側にある場合は、補強リング4は、この開閉端部に嵌め合わされていれば十分であり、開閉端部の両側に配置する必要はない。補強リングの位置は、雌ねじ部と雄ねじ部とが螺合している螺合部の一部または全部を含む外周側位置に配置される。ただし、軸方向内側にあるはめ合いの第一ねじ山またはその近傍に最大荷重が作用するため、この範囲を含むのが望ましく、雄ねじと雌ねじが螺合された範囲の外周側を全て含むように補強リング4が配置されているのがさらに望ましい。なお、最大荷重は、第ゼロないし第一、ねじ山、場合によっては第二ねじ以降にずれることがある。
【0034】
また、高圧ガスの圧力は、受圧面からシール部5に掛けて圧力が加わるため、補強リング4はシール部5に至る長さで軸方向内側まで延伸しているのが望ましい。シール部5付近を補強することでシール部5におけるシール性を確実に確保することができる。したがって、シール部5は、さらに軸方向内側に延伸していてもよいが、あまりに内側に延伸しても格別の効果は得られず無駄になるので、適宜位置、例えばシール部5から螺合部までの距離をLとして、シール部から軸方向内側に-0.35Lまでの位置が効率的である。
さらに、円筒シール部1に加わる高圧ガスの影響は、軸方向外側のはめ合いでの応力が間接的に第一ねじ山に影響を与える。このため、補強リング4は、螺合部の軸方向外側端まで延伸しているのが望ましく、さらに軸方向外側に延伸することで第一ねじ山における補強効果が高まる。ただし、あまりに外側に延伸しても格別の効果は得られず無駄になるので、適宜位置、例えば、螺合部の軸方向外側端から軸方向外側に2.8Lの位置までが効率的である。
【0035】
本実施形態の水素ガス蓄圧器は、水素ステーションとして、水素を使用する自動車などに水素を供給する用途に使用することができる。
例えば、燃料電池水素自動車に70MPa程度の水素を供給する水素ステーション(圧縮水素スタンド)用の蓄圧器として使用することができる。例えば、1日に65台、年間20,000回、15年間で400,0000回もの繰り返し内圧を受けることになる。このような耐久性を確保するために、本実施形態の水素ガス蓄圧器は、高強度、軽量を実現し、都市部などに設置する水素ステーションにおいて、絶対的な安全性、高信頼性を提供することができる。しかも耐疲労特性向上のために、部品点数を増やさず、改善によるコスト、質量は改善前と同等に抑えられる。
【0036】
また、ねじ込み部3を外して蓋部2の開閉を容易に行うことができ、内部点検なども容易に行うことができる。
したがって、内面の微小き裂検査が可能であり、蓋の開閉は定期的な内面き裂検査の際に、繰り返しの開閉が簡便に行える。
【実施例1】
【0037】
以下に、本実施形態の蓄圧容器と、補強リングを使用していない蓄圧容器との効果を比較するための試験を行った。なお、補強リングを使用していない蓄圧容器の断面図を図3に示す。補強リングを有していない以外は、本実施形態と同様の構成を有しており、その説明を省略する。
【0038】
比較例では、ねじ込みナット蓋構造に突き出し部と大径部の軸方向の長さとを設けている。突き出し部を有する比較例は、表1に示すようにいずれも突き出し部を設けない場合よりも応力が低減された。そして、ねじ山の荷重分担は均一になり、はめ合いの第一ねじ山の最大荷重が軽減されている。ねじ込み部3での最大荷重は300MPa以下になっている。
比較例では、非特許文献4の方法で設計された安全係数が2.4の薄肉パイプ(内径φ290mm、外形φ376mm)を用いて円筒シリンダ部とする構造を適用した。内圧は50MPaと82MPaの間で変動させた。その結果、第一ねじ山の最大荷重は開閉端部内側にあるBODY部で842MPaと高強度鋼の降伏応力785MPaを大きく超える結果となった。また、疲労寿命を確保するには応力範囲(表1中のStress range)を300MPa以内に抑えることが目安となるが、第一ねじ山部における応力範囲は329MPaと300MPaを超えており、ねじ部の疲労寿命確保が困難である。
【0039】
表2には、非特許文献4の基準に定められる手順にて、疲労き裂進展解析を行った事例を示す。水素ガス中における疲労寿命およびき裂があった場合の疲労き裂進展寿命計算事例を示す。き裂進展解析における初期き裂寸法は、非特許文献4の手順により、ねじ構造要素の疲労設計表面のき裂の有無を直接検査可能な浸透探傷検査又は磁粉探傷検査で確認することを想定し、0.1mm深さの環状き裂を想定した。その結果、疲労き裂進展寿命は82-50MPaの圧力変動で7.4万回となり、水素ステーション用蓄圧器として必要な40万回を大きく下回るため、疲労き裂進展寿命が不十分である。したがって、薄肉パイプを用いた比較例は、ねじ込みナット蓋構造のネジ部の強度改善は見込めない。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
そこで、図1に示すように薄肉パイプのネジ部分に補強リングを嵌合させた構造とした。本実施例では、SCM35からなる補強リングを長さ400mmとし、ねじ部上方のみだけではなく、大径部、シール部を超えて、0.64Lの長さで耐圧部まで補強してある。軸方向外側は雄ねじと雌ねじの螺合部端部まで延伸するものとした。摩擦係数0.3である。
また補強リング厚さは25mmとした。
図4に補強リングの有無による疲労き裂の進展曲線と許容繰り返し数(疲労き裂が貫通する回数の1/2)の違いを示した。補強リングなしの許容繰り返し数は7.4万回に対し、補強リングありでは20万回まで延長しており、疲労き裂進展寿命延長の効果が認められる。
【0043】
次に、図5Aに示すように、試験体の第1主応力の測定によって下記の条件で最適化を試みた。
なお、試験体では、図5Bに示すようにシール部の位置からネジ部までの基準距離をLとして、受圧面から螺合部の軸方向外側端までの距離が2.54L、シール部から螺合部の軸方向外側端までの距離が2.46L、螺合部の長さが1.46L、補強リングの外径が3.26L、補強リングの長さが3.10Lであるものとした。
【0044】
薄肉パイプ端面(図の右端)と補強リングの端部を揃えて補強リング長さを変動させた場合の最も応力の高い第0ねじ山底の応力値を出力した(図6)。軸方向内側における補強リング長さが長くなると応力範囲が低減する。また応力範囲の値は180MPaまで低減を達成しており、表1に示した補強リングを有さない329MPaに比べて大きく低減しており、疲労寿命を確保することが可能である。このとき、-0.33Lより長い-0.46Lに位置しても、応力範囲の低減度合いは-0.33Lのときと変化はない。したがって、最適な補強リング長さはシール位置より-0.35L程度までと見積もられる。
【0045】
次に補強リングの嵌め込み端(図の左端位置)を-0.46Lに固定し、補強リング(図の右端位置)長さを変動させた場合の応力値を図7に示す。リング端部位置が薄肉パイプ端部に近づくほど応力値が下がり、端部を越えると2.77Lまではさらに下がることが明らかとなった。したがって、補強リング端部位置は薄肉パイプより少し突き出す形にすることで補強効果が高くなり、その最適長さはシール位置から2.8L程度までと見積もられる。この際、非特許文献4の基準に定められる手順にて、疲労き裂進展解析を行った疲労き裂進展寿命は、68万回(初期想定き裂を0.1mm深さの環状き裂とした場合)となり、表1に示す改善前のき裂進展寿命7.4万回から大幅に寿命が増大し、水素ステーション用蓄圧器として想定される使用回数の40万回を十分上回ることができた。
以上より、補強リングの両端の延伸位置は適切に定めるのが望ましい。
【0046】
以上、本発明について上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明は上記説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは上記実施形態およぶ実施例の内容を適宜変更することはできる。
【符号の説明】
【0047】
1 円筒シリンダ部
1A 主内面
1B 穴部
1C 雌ねじ部
1D ストッパ
2 蓋部
2A 受圧面
3 ねじ込み部
4 補強リング
5 シール部
10 水素ガス蓄圧器
20 大径部
22 突き出し部
23 軸部
30 雄ねじ部
31 貫通穴
32 凹部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7