(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】2液型歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20240430BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20240430BHJP
A61K 6/66 20200101ALI20240430BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20240430BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20240430BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/62
A61K6/66
A61K6/60
A61K6/70
(21)【出願番号】P 2020106137
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】沖汐 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岸 裕人
(72)【発明者】
【氏名】風間 秀樹
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/034212(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104406(WO,A1)
【文献】特開2010-120864(JP,A)
【文献】特開2010-215573(JP,A)
【文献】特開2013-136628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61C 19/00-19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分包された第1剤および第2剤を有し、使用時に前記第1と前記第2剤とを混合して歯科用接着性組成物とする2液型歯科用接着性組成物であって、
前記歯科用接着性組成物は、
酸成分として機能する酸性基含有重合性単量体(a1)を含む、重合性単量体成分(A);
酸成分と共存することにより重合促進剤として機能するボレート化合物成分(B);
色素成分(C);及び
有機溶媒(D);を含み、
前記色素成分(C)は、(i)単独では光退色性を有しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光退色性が発現するクマリン系色素からなる第一の色素系からなるか、又は(ii)前記第一の色素系と、単独では光退色性を有しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光退色性が発現する色素からなり、前記第一の色素系とは異なる色調を有する、トリフェニルメタン系色素又はタール系色素からなる第二の色素系と、からなり、
前記第1剤は、前記酸性基含有重合性単量体(a1)を含んで前記ボレート化合物成分(B)を含まず、
前記第2剤は、前記ボレート化合物成分(B)を含み、前記酸性基含有重合性単量体(a1)及びそれ以外の酸成分を含まず、
前記(i)及び(ii)の場合における第一の色素系は、前記第1剤又は第2剤の何れか一方のみに含まれ
、前記(ii)の場合における前記第二の色素系は、前記第一の色素系が含まれない第2剤又は第1剤の何れか一方のみに含まれる、
ことを特徴とする2液型歯科用接着性組成物。
【請求項2】
前記第二の色素系がトリフェニルメタン系色素からなる、請求項1
に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項3】
前記歯科用接着性組成物が、前記成分(A)~(D)以外の成分として、有機バナジウム化合物及び有機過酸化物をさらに含み、前記有機バナジウム化合物は第1剤のみに含まれ、前記有機過酸化物は前記第2剤のみに含まれる、請求項1
に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項4】
前記歯科用接着性組成物が、前記重合性単量体成分(A)として酸性基非含有重合性単量体(a2)を更に含むと共に、前記成分(A)~(D)以外の成分として水を更に含み、前記酸性基非含有重合性単量体(a2)並びに前記水は、夫々前記第1剤及び前記第2剤の両方又は何れか一方に含まれる、請求項1
に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項5】
前記歯科用接着性組成物が、光硬化性の歯科材料を接着させるための歯科用接着性組成物である、請求項1
に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項6】
請求項1
に記載の2液型歯科用接着性組成物における前記第1剤と前記第2剤とを分包して保管すると共に使用時において分包された両剤を混合して前記歯科用接着性組成物を調製するためのキットであって、
一方端部と他方端部とを有する第一袋体からなり、その内部に前記第1剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第1剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第1剤を流出する第1剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第二袋体からなり、その内部に前記第2剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第2剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第2剤を流出する第2剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第三袋体からなり、その一方端寄りの内部に前記第一袋体の一方端部及び前記第二袋体の一方端部を固定して前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を内部に収納する外袋と、を含み、
該外袋は、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を収納する保持部収納スペースと、該保持部収納スペースより他方端側に位置する貯留スペースと、を有し、
該貯留スペースは、前記外袋の内部に固定された前記第1保持部及び前記第2剤保持部の内部に夫々保持されている前記第1剤及び前記第2剤に押圧力を加えることによって、前記第一袋体の他方端部及び前記第二袋体の一他方端部よりこれら剤を流出させたときに流出した剤の混合物からなる前記歯科用接着性組成物の全てを、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部と接触させること無く保持可能であり、
前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようにした、
ことを特徴とする前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成成分が2つの剤に分けて保存され、使用時に混合して使用される2液型歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用接着性組成物とは、接着対象となる歯牙及び/又は歯科材料に対して物理的親和性を有する重合性単量体又は化学反応により結合する重合性単量体(以下これら重合性単量体を「接着性モノマー」ともいう。)を必須成分として含有し、更に必要に応じて接着性モノマー以外の重合性単量体、重合開始剤、水、(水溶性)有機溶媒等の任意成分を含み、重合開始剤を含む場合にはその重合開始剤によって、重合開始剤を含まない場合には外部から供給される重合開始剤によって、前記接着性モノマーを重合・硬化させて接着性を発現する組成物を意味する。例えば、小規模な窩洞を修復するための材料であるコンポジットレジンと歯質とを接着する場合に使用される“光重合型や化学重合型のボンディング材”や、大きな欠損を修復するためのセラミックス製或いは金属製の歯冠材料と歯質とを接着する場合に使用される“歯科用セメント”及び“前処理材(プライマー)”などが歯科用接着性組成物に該当する。なお、前処理材(プライマー)は歯質及び/又は歯冠材料の接着面に施用され、歯質と歯冠材料との間に介在する歯科用セメントとの接着性を発現することにより、歯質と歯冠材料とを接着するものである。また、歯科用セメントは、それ自体が接着性を有さない場合もあるが、プライマー機能を兼ねてプライマー処理を省略できる歯科用セメントも存在し、また、プライマーを用いる場合でも(成分として含まれる多官能重合性単量体が接着性モノマーとして機能して)プライマー処理された歯冠材料と歯質とを接着することから歯科用接着性組成物の範疇とされることが多い。
【0003】
これら歯科用接着性組成物の中でもボンディング材及びプライマーは比較的粘度の低い液状であり、接着対象物に塗布することによって施用するという共通性を有する。ところが、臨床では、接着対象物ごとに適した歯科用接着性組成物を選定して使用する必要があり、操作が煩雑であった。たとえば、プライマーにおいてはこれを施用する接着対象物の材質ごとに歯質用プライマー、卑金属用プライマー、貴金属用プライマー及びセラミックス用プライマーを使い分ける必要があった。
【0004】
このような臨床操作における煩雑性を解消するために、施用対象を限定しない歯科用接着性組成物が望まれており、このような要求を満足する歯科用接着性組成物も開発されている(特許文献1及び2参照)。すなわち、接着性モノマーとして、酸性基含有重合性単量体、硫黄原子含有重合性単量体、多官能重合性単量体及びシランカップリング剤を併用する歯科用接着性組成物が開発されている。そして、この歯科用接着性組成物では、酸性基含有重合性単量体によって歯質、卑金属材料及び金属酸化物材料に対する接着性を高め、硫黄原子含有重合性単量体によって貴金属材料に対する接着性を高め、多官能重合性単量体によってコンポジットレジン等の重合性単量体を含む歯科材料との接着性を確保すると共に強度を高め、更にシランカップリング剤によってシリカ系酸化物、セラミックス材料及びこれらを含む複合材料に対する接着性を高めている。
【0005】
このような歯科用接着性組成物に関し、例えば、特許文献2には、「互いに分包された第1剤および第2剤を有し、(A)酸性基含有重合性単量体、(B)硫黄原子含有重合性単量体、(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物、および、(E)水からなる5成分を少なくとも含み、前記第1剤には、前記5成分のうち、前記(A)酸性基含有重合性単量体および前記(B)硫黄原子含有重合性単量体のみが含まれ、前記第2剤には、前記5成分のうち、前記(C)シランカップリング剤、前記(D)ボレート化合物および前記(E)水のみが含まれることを特徴とする2液型歯科用接着性組成物」が開示されている。そして特許文献2によれば、上記2液型歯科用接着性組成物は、(同一組成物内に含まれるか又は外部から供給される)有機過酸化物及びその分解促進剤(例えば有機バナジウム化合物)と共存することにより、極めて高い接着性を有し、更に2つの液状組成物に分包することにより長期間安定に保存することが可能であるとされ、保存安定性や被膜厚みのコントロールのためには有機溶媒を添加した方が好ましいとされている。
【0006】
ところで、歯科用接着性組成物を2液型の剤とした場合には、使用時に各剤をそれぞれ秤量して混合する必要があるが、キット化することにより使用時の利便性を高めることが可能となる。このようなキットに関し、特許文献3には、「歯科用液体を収容し且つ押圧されると片端縁が開封されると共に開封された該片端縁を通して該歯科用液体が流出せしめられる少なくとも1個の袋体を含有した合成樹脂製包装体であって、両側縁及び下端縁は全体に渡って閉じられていて、横方向に隣接して位置する塗布具挿入部と袋体収納部とが規定されており、上端縁は該袋体収納部に対応する部位は少なくとも部分的に閉じられているが該塗布具挿入部に対応する部位は開放されており、該袋体は該片端縁を下方に向けて該袋収納部内に位置せしめられており、該包装体を介して該袋体を押圧することによって、該袋体の該片端縁が開封されて該袋体内から該歯科用液体が該片端縁を通して該袋体収納部の下部に流出せしめられ、該塗布具挿入部の下部に流動し、開放されている上端縁を通して塗布具を該塗布具挿入部内に挿入することによって、該塗布具の先端部に該歯科用液体を付着せしめることができる、ことを特徴とする合成樹脂製包装体」が記載されている。上記合成樹脂製包装体は、1回の使用に必要な量の2つの液剤を、夫々脆弱シール部を有する小さな袋体に小分けして収容し、塗布具を挿入可能な外袋の内部にこの2つの袋体を収容し、外部から押圧することにより両袋体の前記脆弱シール部を開封して内部の液剤を流出させて、流出した2つの液剤を前記外袋内で混合できるようにしたキットといえるものであり、秤量の手間を省き、また混和皿の準備などを不要とすることができる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4726026号公報
【文献】国際公開第2018/034212号パンフレット
【文献】国際公開第2016/104406号パンフレット
【文献】特開平11-139920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載された前記2液型歯科用接着性組成物を前記したようなキットとすれば、接着対象により歯科用接着剤組成物を選択する必要がなくなって操作の煩雑化を回避できるばかりでなく、秤量・混合の利便性を高めることができると考えられる。しかし、このようなケースに限らず2液型の剤を前記のようにキット化して混合する場合には、押圧の仕方などによって外袋内に配置された前記袋体の開封が上手く行かず、2つの液剤が所定の量比で混合されず、所期の接着性能が得られなくなることが危惧される。
【0009】
本発明者等は、2液型歯科用接着性組成物を構成する2つの剤のどちらか一方に色素を配合するか、又は各々に夫々異なった色調の色素を配合すると共に、キット化する際の小袋や外袋の少なくとも一部を透明にし、液の色調を確認できるようにすれば、両剤を混合したときにおける色調の変化から、混合状態を確認できると考え、検討を行った。その結果、混合状態の確認はできるようになるものの、コンポジットレジン等の或る程度の透明性を有する材料を接合した場合には色素によって着色した接着層の色が透けて見えることにより、修復後の審美性が低下することがあるという問題が発生することが明らかとなった。
【0010】
そこで、本発明は、2液型歯科用接着性組成物を上記のようなキットとした場合において、使用時における2剤の混合状態を確認できるようにするための技術であって、しかも当該2液型歯科用接着性組成物及びコンポジットレジンを用いて歯牙修復を行った場合等において修復後の審美性に悪影響を与えることのない技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、互いに分包された第1剤および第2剤を有し、使用時に前記第1と前記第2剤とを混合して歯科用接着性組成物とする2液型歯科用接着性組成物であって、
前記歯科用接着性組成物は、
酸成分として機能する酸性基含有重合性単量体(a1)を含む、重合性単量体成分(A);
酸成分と共存することにより重合促進剤として機能するボレート化合物成分(B);
色素成分(C);及び
有機溶媒(D);を含み、
前記色素成分(C)は、(i)単独では光退色性を有しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光退色性が発現するクマリン系色素からなる第一の色素系からなるか、又は(ii)前記第一の色素系と、単独では光退色性を有しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光退色性が発現する色素からなり、前記第一の色素系とは異なる色調を有する、トリフェニルメタン系色素又はタール系色素からなる第二の色素系と、からなり、
前記第1剤は、前記酸性基含有重合性単量体(a1)を含んで前記ボレート化合物成分(B)を含まず、
前記第2剤は、前記ボレート化合物成分(B)を含み、前記酸性基含有重合性単量体(a1)及びそれ以外の酸成分を含まず、
前記(i)及び(ii)の場合における第一の色素系は、前記第1剤又は第2剤の何れか一方のみに含まれ、前記(ii)の場合における前記第二の色素系は、前記第一の色素系が含まれない第2剤又は第1剤の何れか一方のみに含まれる、
ことを特徴とする2液型歯科用接着性組成物である。
【0015】
上記本発明の第一の形態の2液型歯科用接着性組成(以下、「本発明の2液型歯科用接着性組成」とも言う。)では、前記第一の色素系がクマリン系色素からなり、前記第二の色素系がトリフェニルメタン系色素からなることが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明の2液型歯科用接着性組成物の他の好ましい態様として、前記歯科用接着性組成物が、前記成分(A)~(D)以外の成分として、有機バナジウム化合物及び有機過酸化物をさらに含み、前記有機バナジウム化合物は第1剤のみに含まれ、前記有機過酸化物は前記第2剤のみに含まれる態様、並びに前記歯科用接着性組成物が、前記重合性単量体成分(A)として酸性基非含有重合性単量体(a2)を更に含むと共に、前記成分(A)~(D)以外の成分として水を更に含み、前記酸性基非含有重合性単量体(a2)並びに前記水は、夫々前記第1剤及び前記第2剤の両方又は何れか一方に含まれる態様を挙げることができる。
【0017】
また、本発明の2液型歯科用接着性組成における前記歯科用接着性組成物は、光硬化性の歯科材料を接着させるための歯科用接着性組成物である、ことが好ましい。
【0020】
本発明の第三の形態は、本発明の2液型歯科用接着性組成物における前記第1剤と前記第2剤とを分包して保管すると共に使用時において分包された両剤を混合して前記歯科用接着性組成物を調製するためのキットであって、
一方端部と他方端部とを有する第一袋体からなり、その内部に前記第1剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第1剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第1剤を流出する第1剤保持部と;一方端部と他方端部とを有する第二袋体からなり、その内部に前記第2剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第2剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第2剤を流出する第2剤保持部と;一方端部と他方端部とを有する第三袋体からなり、その一方端寄りの内部に前記第一袋体の一方端部及び前記第二袋体の一方端部を固定して前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を内部に収納する外袋と;を含み、
該外袋は、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を収納する保持部収納スペースと、該保持部収納スペースより他方端側に位置する貯留スペースと、を有し;該貯留スペースは、前記外袋の内部に固定された前記第1保持部及び前記第2剤保持部の内部に夫々保持されている前記第1剤及び前記第2剤に押圧力を加えることによって、前記第一袋体の他方端部及び前記第二袋体の一他方端部よりこれら剤を流出させたときに流出した剤の混合物からなる前記歯科用接着性組成物の全てを、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部と接触させること無く保持可能であり;前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようにした、ことを特徴とする前記キットである。
【0021】
上記本発明の第三の形態のキット(以下、「本発明のキット」とも言う。)においては、前記第一袋体及び/又は前記第二袋体の少なくとも一部、並びに前記外袋の前記保持部収納スペース少なくとも一部は透明で、前記第1剤及び/又は前記第2剤の色調を前記外袋の外部から確認できるようしてあることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、2液型歯科用接着性組成物における各剤を前記のようにキット化して2液剤を混合した場合に液の色調(具体的には、色相、明度、彩度の少なくとも1つ)が変化する。すなわち、本発明の2液型歯科用接着性組成物が第一の色素系のみを含む場合には、混合前後で色の濃さ(明度及び彩度に反映される)が変化し、第一の色素系と第二の色素系を含む場合には、混合前後で色相が変化する。このため、2つの液剤が所定の量比で均一に混合された状態の色調(色相、明度及び彩度)を予め認識しておき、実際に得られた混合液の色調がこの色調と一致するか否かを確認することにより、開封不良等に伴う不完全な混合を回避することが可能となる。すなわち、前記キットにおける外袋を押圧したときに前記袋体の開封が上手く行かなかった場合でも、得られる混合液の色調を確認し、それが所期の色調と異なる場合には開封状態や袋体中の液剤の残存状態等を確認して、不完全な混合を是正することが可能となる。
【0023】
しかも、塗布された前記歯科用接着性組成物中において色素成分は光退色性を有する状態となっているため、コンポジットレジンや歯科用セメントを硬化させる際の光照射によって退色し、修復後の審美性に悪影響を与えることがない。
【0024】
また、本発明の2液型歯科用接着性組成物においては、その保管状態において前記第一の色素系及び必要に応じて使用される前記第二の色素系は光退色性を有しないため環境光により退色し難く、前記キットを長期間保管した場合であっても前記特長が損なわれる難いと言う特長を有する。更に、2剤を混合して得られる歯科用接着性組成物は、着色しているため施用時において塗布した個所を視認し易い。このため、該歯科用接着性組成物の塗布面上にコンポジットレジンの充填又は歯科用セメントを上盛又は重ね塗りする際にも、前記塗布面を容易に確認できると言う効果を得ることもできる。
【0025】
なお、当該視認性及び前記審美性に関する効果に関して付言すると、1液性光硬型歯科用接着性組成物においては、同様の目的で光退色性色素を配合する技術は知られている(特許文献4参照。)。しかしながら、光退色性色素を配合した場合には、保存中における環境光によっても退色が起こるため、保存安定性の観点から遮光性容器に保管せざるを得ず、2液型歯科用接着性組成物をキット化すると各剤及び混合液の色調を確認することが困難となってしまう。
【0026】
さらにまた、本発明の好ましい態様では次のような副次的効果を得ることができる。
すなわち、第一に、前記第一の色素系及び必要に応じて使用される前記第二の色素系として溶媒の揮発によって色調が変化するものを用いた場合には、塗布面をエアブローによって乾燥させることによって色調が変化するので、乾燥処理の完了を目視で判断することも可能となる。
【0027】
第二に、前記第一の色素系及び必要に応じて使用される前記第二の色素系として、蛍光性を有し、単独では光照射によって蛍光性が低下又は消失しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光照射によって蛍光性が低下又は消失する色素からなるものを使用した場合には、2剤を混合して得られる歯科用接着性組成物の塗布面の蛍光を利用して、光硬化性修復材料(例えば、コンポジットレジンや歯科用セメント)を用いた修復時における光照射の状態を確認することもできる。すなわち、前記塗布面は光照射開始の時点では蛍光性を有し、光照射によって蛍光性が低下又は消失して行くので、塗布面からの蛍光が確認できることは、光が前記光硬化性修復材料の層を透過するに十分な程度で光照射が行われたことを意味し、また、塗布面においても色素の退色に必要な光照射が行われたことを意味する。一般に、歯科用コンポジットレジンや歯科用セメントの光硬化の際には、その色調や透明性により光の透過性が異なるため光が届く範囲の厚さに調整したり、光照射の強さや時間を調整したりする必要があるので、塗布面の発光の確認によりこれら調整が正しく行われているかどうかを判断することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明において2液型歯科用接着性組成物とは、歯科用接着性組成物を安定して保存(又は保管)できるようにするために、その構成成分を2つの剤(第1剤及び第2剤)に分けて包装(分包)し、使用時に両剤を混合することによって前記歯科用接着性組成物が構成されるようにした形態の歯科用接着性組成物を意味する。
【0029】
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、酸成分として機能する酸性基含有重合性単量体(a1)を含む、重合性単量体成分(A);酸成分と共存することにより重合促進剤として機能するボレート化合物成分(B);色素成分(C);及び有機溶媒(D);を含む歯科用接着性組成物を得るための2液型歯科用接着性組成物であり、色素成分として特定の性質を有する色素系を使用すると共に、特定の条件を満たすように各構成成分を分包した点に大きな特徴を有する。
【0030】
すなわち、本発明の2液型歯科用接着性組成物では、第一に、保存下において重合性単量体成分(A)の重合反応が進行しないようにするために、酸成分と前記ボレート化合物成分(B)が共存しないように分包する必要がある。
【0031】
第二に、色素成分(C)は、として単独では光退色性を有しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光退色性が発現する色素、からなる第一の色素系を含む必要があり、且つ当該第一の色素系は、第1剤又は第2剤の何れか一方のみに含まれるようにする必要がある。こうすることにより、第1剤と第2剤の混合状態を色調変化で確認でき、さらに、被接着体となるコンポジットレジンや歯科用セメントを硬化させる際の光照射によって退色するようになり、審美的な接着が可能となる。
【0032】
以下、本発明の2液型歯科用接着性組成物が含み得る任意成分を含めて本発明の2液型歯科用接着性組成物にについて詳しく説明する。
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0033】
1.構成成分について
本発明の歯科用接着性組成物は、本発明の2液型歯科用接着性組成物における第1剤と第2剤とを混合して得られる歯科用接着性組成物でもあることから、以下に説明する成分は本発明の歯科用接着性組成物における成分でもある。また、各成分の配合量に関する説明は、第1剤と第2剤とを混合して得られる歯科用接着性組成物中における各成分の配合量を表す。
【0034】
1-1.重合性単量体成分(A)
重合性単量体成分(A)は、酸成分として機能する酸性基含有重合性単量体(a1)を必須成分として含む。重合性単量体成分(A)は、酸性基含有重合性単量体(a1)のみからなっていてもよいが、接着対象物を広げたり接着層の強度を高めたりするという理由から、酸性基非含有重合性単量体(a2)を更に含むことが好ましい。
【0035】
<酸性基含有重合性単量体(a1)>
酸性基含有重合性単量体(a1)は、接着性モノマーとして機能し、主に、エナメル質や象牙質などの歯質、卑金属材料及び金属酸化物材料に対する接着性を向上させる機能を有する。また、酸性基含有重合性単量体(a1)は、前記ボレート化合物成分(B)と共存することにより、当該ボレート化合物成分(B)を重合促進剤として機能せしめる酸成分としても機能する。
【0036】
本発明において酸性基含有重合性単量体(a1)とは、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を有する化合物を意味し、酸性基とは、pKa6以下である官能基及び加水分解してこのような官能基を与える酸無水物構造を有する基を意味する。歯質の脱灰作用が高く、歯質に対する接着力が高いという理由から、酸性基としてはリン酸基、カルボキシ基等が好適に採用される。また、前記重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基を挙げることができ、中でも、前記アクリロイル基、前記メタクリロイル基、前記アクリルアミド基、前記メタクリルアミド基が好ましい。
【0037】
酸性基含有重合性単量体(a1)は、従来の歯科用接着性組成物で使用される酸性基含有重合性単量体と特に変わる点は無く、例えば前記特許文献1や前記特許文献2における酸性基含有重合性単量体として使用されるとされるものが特に制限なく使用できる。好適に使用できる酸性基含有重合性単量体(a1)を例示すれば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ジ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート等を挙げることができる。
【0038】
なお、酸性基含有重合性単量体(a1)としては、これら化合物を単独で用いてもよいし、複数の化合物を併用してもよい。
【0039】
重合性単量体成分(A)における酸性基含有重合性単量体(a1)は、重合性単量体(A)の総質量100質量部に対して、1~100質量部であれば良いが、3~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることが特に好ましい。配合割合を3質量部以上とすることで、歯質などに対する接着性が担保され、30質量部を超えて添加しないことでと卑金属および金属酸化物に対する接着性およびその耐久性が高いものとなるためである。
【0040】
<酸性基非含有重合性単量体(a2)>
重合性単量体成分(A)には、接着対象物を広げたり接着層の強度を高めたりするという理由から酸性基非含有重合性単量体(a2)を配合することが好ましい。重合性単量体成分(A)中における酸性基非含有重合性単量体(a2)の配合量は、前記酸性基含有重合性単量体(a1)の配合量の残部となる。
【0041】
酸性基非含有重合性単量体(a2)としては、酸性基を有しない重合性単量体であれば特に限定されないが、(貴金属に対する接着性モノマーとして機能する)硫黄原子含有重合性単量体;(シリカ系酸化物、セラミックス材料及びこれらを含む複合材料に対する接着性モノマーとして機能する)重合性基を有するシランカップリング剤;(接着層の高強度のための架橋分子として機能する)多官能重合性単量体、(粘度調整、接着対象に合わせた濡れ性改善、親疎水性調整のために添加される)単官能性重合性単量体が好適に使用される。
【0042】
硫黄原子含有重合性単量体として、好適に使用されるものを例示すれば、次に示す化合物を挙げることができる。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
重合性基を有するシランカップリング剤として、好適に使用されるものを例示すれば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω-メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン等を挙げることができる。
【0047】
多官能重合性単量体として、好適に使用されるものを例示すれば、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2-ビス[(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を挙げることができる。
【0048】
また、単官能重合性単量体として、好適に使用されるものを例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0049】
さらに、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー等のスチレン、α-メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を配合することもできる
酸性基非含有重合性単量体(a2)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、重合性単量体成分(A)中における酸性基非含有重合性単量体(a2)の配合量は、前記酸性基含有重合性単量体(a1)の配合量の残部となる。
【0050】
1-2.ボレート化合物成分(B)
ボレート化合物成分(B)は、酸成分と共存することによって重合促進剤として機能するボレート化合物からなる。また、当該ボレート化合は、酸成分と共存することによって、色素成分(C)に含まれる第一の色素系及び必要に応じて配合される第二の色素系となる、単独では光退色性を有しない色素に光退色性を付与すると言う機能も発揮する。ここで、「酸成分」とは、水中に1mol/Lの濃度で溶解および/または分散させた水溶液あるいは水性分散液において、pHが4以下となる物質を意味する。前記酸性基含有重合性単量体(a1)は、酸成分に該当するので、本発明の2液型歯科用接着性組成物では、他の酸成分を特に配合しなくても、前記第1剤と前記第2剤を混合して前記酸性基含有重合性単量体(a1)と共存することにより、このような機能を発揮することが可能となる。
【0051】
このような機能を有するボレート化合物は、従来の歯科用接着性組成物で使用されるボレート化合物と特に変わる点は無く、例えば前記特許文献2におけるボレート化合物として使用されるとされるものが特に制限なく使用できるが、分子中にアリール基を有するアリールボレート化合物、特に1分子中に3個または4個のアリール基を有するアリールボレート化合物を使用することが好適である。中でも、第2剤の保管安定性及び第1材と混合されたときの前記重合促進効果及び光退色性付与効果の観点から、テトラアリールボレート化合物、特にテトラアリールボレートのアミン塩又はアルカリ金属塩を使用することが好ましい。
【0052】
好適に使用できるテトラアリールボレート化合物を例示すれば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5-ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等)のアミン塩又はアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0053】
ボレート化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。ボレート化合物成分(B)は、重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対して、0.1~15質量部とすることが好ましく、1~10質量部とすることがより好ましい。
【0054】
1-3.色素成分(C)
色素成分(C)は、単独では光退色性を有しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光退色性が発現すると言う性質(以下、「亜光退色性」ともいう。)を有する色素(以下、「亜光退色性色素」とも言う。)、からなる第一の色素系を含む。このような第一の色素系を含むことにより、第1剤と第2剤の混合状態が確認し易くなるばかりでなく、審美修復が可能となる。ある種の色素では、酸性成分と前記ボレート化合物成分(B)とが共存する条件下で色素の励起エネルギー相当するエネルギーが光照射によって与えられると、色素が励起されて自己分解反応が進行し、退色するようになり、亜光退色性を示すようになるものと考えられる。
【0055】
また、前記した“光硬化性のコンポジットレジン等を用いた修復時における光照射の状態を確認することが可能となると言う理由から、第一の色素系を構成する色素は、蛍光性を有し、単独では光照射によって蛍光性が低下又は消失しないが、酸成分及び前記ボレート化合物(B)の共存下では光照射によって蛍光性が低下又は消失するという性質(以下、「亜蛍光性」ともいう。)を併せ持つものであることが好ましい。さらに、溶媒の乾燥状態を確認できる等理由から、第一の色素系を構成する色素は、亜光退色性と共に、又は亜光退色性及び亜蛍光性と共に、有機溶媒、特に極性有機溶媒と共存するときと共存しないときとで色調が異なると言う性質(以下、「溶媒変色性」ともいう。)を併せ持つものであることが好ましい。
【0056】
また、色素成分(C)は、亜光退色性色素からなり、第一の色素系とは異なる色調を有する第二の色素系を含むことが好ましい。例えば、第一の色素系と色相の大きく異なる第二の色素系を、第一の色素系を配合する剤とは別の剤に配合することにより、第1剤と第2剤の混合状態が、目視により確認し易い色相の変化という形で認識できるようになる。また、第二の色素系を構成する色素についても(第一の色素系とは異なる色調を有するという条件を満たし且つ)亜蛍光性及び/又は溶媒変色性を有するものを使用することが好ましい。
【0057】
亜光退色性色素としては、クマリン骨格を有するクマリン系色素、タール系色素及びトリフェニルメタン系色素を使用することができ、前記第一の色素系を構成する亜光退色性色素としては、クマリン系色素を使用し、必要に応じて配合される第二の色素系を構成する亜光退色性色素としては、タール系色素又はトリフェニルメタン系色素を使用する。中でも、クマリン骨格の7位に電子供与性の置換基を有する色素は、分子内で電荷移動が起こることに起因して強い光吸収性と発光を示すため好ましく、更にクマリン骨格の3位や4位に、電子吸引性基である-CF3、-CCl3、-NO2,-CN、-CHO、-COCH3、-COOC2H5、-COOH、-SO2CH3、-SO3H等や電子受容性のベンゾチアゾール環やベンゾイミダゾール環を有するものが、確認し易い色調(吸収・発光波長)を有し、高い発光輝度を有するため好ましい。
【0058】
好適に使用できるこれら色素を具体的に例示すれば、クマリン骨格を有する色素としては、クマリン521T、クマリン545T、クマリン545、クマリン504T、クマリン153、7-(ジメチルアミノ)-4-(トリフルオロメチル)クマリン、4-(トリフルオロメチル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、クマリン6、クマリン7、クマリン30、クマリン337、クマリン498、クマリン314、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸エチル、クマリン525、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸ヘキシル、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボニトリル、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸及び3-シアノ-7-(ジエチルアミノ)クマリン等を挙げることができる。
【0059】
また、タール色素としては、タートレジン、サンセットイエローFCF及びアシッドレッド等を挙げることができ、トリフェニルメタン系色素としては、ブリリアントブルーFCF、クリスタルバイオレット、クレゾールレッド、クマシーブリリアントブルー、アニリンブルー、ファストグリーンFCF、メチルブルー、及びマラカイトグリーン等を挙げることができる。
【0060】
これら色素の中でも、亜蛍光性及び溶媒変色性を兼ね備えると言う理由から、クマリン骨格を有する色素、特にクマリン骨格の2位にカルボニルを有する色素は、酸性基含有重合性単量体(a1)と共存させると、ケト―エノールの互変異性によると考えられる色調の変化を生じ、有機溶媒のソルバトクロミズムによる色調の変化を視認し易くなるため、好ましい。
【0061】
第一の色素系及び必要に応じて配合される第二の色素系は、夫々単一の色素からなるものであってもよく、また、複数の色素の混合物からなるものであっても良い。またこれら色素系は、亜光退色性色素のみからなることが好ましいが、これら色素系の亜光退色性を損なわない範囲で光退色性色素を有しない色素を含むこともできる。
【0062】
また、色素成分(C)は、審美修復の観点から、第一の色素系(のみ)からなるか、又は第一の色素系及び第二の色素系(のみ)からなることが好ましい。但し、本発明の効果を阻害しない範囲の量であれば亜光退色性色素を有しない色素を含むことができる。例えば、色素成分(C)が第一の色素系を含み第二の色素系を含まない場合には、目視により確認し易い色相の変化で第1剤と第2剤の混合状態を確認できるようにするために、二の色素系に代えて、第一の色素系と色相の大きく異なる光退色性色素を有しない色素を、審美修復を損なわない範囲で配合することができる。
【0063】
色素成分(C)の配合量は、使用する色素の種類に応じた発色状態から適宜決定すればよいが、通常は、重合性単量体成分(A)の総質量を基準として5~500ppm{重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対して0.0005~0.05質量部}の範囲であり、好ましくは10~100ppm{重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対して0.001~0.01質量部}の範囲である。
【0064】
1-4.有機溶媒(D)
有機溶媒(D)は、前記成分(A)~(C)の溶媒として機能し、成分の均一化を図り、また施用性を高めるという理由から配合される。さらに、第一の色素系や第二の色素系が溶媒変色性を有する場合において、その性質を顕在化させる機能をも有する。そして、この場合には、重合性単量体成分(A)に対して、等量以上の比較的多めの有機溶媒(D)を配合した場合でも、臨床操作時のエアブローによる溶媒除去を色調変化で確認することができるため、乾燥をより確実に行うことができるようになる。
【0065】
有機溶媒の存在の有無によって色素の調が変化する現象は、ソルバトクロミズム(溶媒の極性の変化によってその溶質物質の色調が変化する現象)によるものであり、当該現象の発現のし易さや顕著性からは、有機溶媒(D)は、極性有機溶媒、具体的には比誘電率が10~80、好ましくは20~60の範囲にある有機溶媒を含むことが好ましく、極性有機溶媒のみからなることがより好ましい。また、歯科用組成物の施用時の操作性等の観点も含めると、揮発性を有することが好ましい。
【0066】
このような理由から、有機溶媒(D)は、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールよりなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0067】
有機溶媒(D)の配合量は、重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対して、50質量部~900質量部とすることが好ましく、100質量部~400質量部とすることがより好ましい。
【0068】
1-5.その他成分
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、前記成分(A)~(D)以外の成分として、水、重合開始剤などの“その他成分”を適宜含むことができる。以下、これら任意成分について説明する。
【0069】
<水>
水は、酸性基含有重合性単量体(a1)が歯質に作用するための脱灰反応を促進する。そのため、歯質に対する接着機能を有する歯科用接着性組成物において通常配合されるものであり、本発明の2液型歯科用接着性組成物においても配合することが好ましい。使用される水は、従来の歯科用接着性組成物で使用されるものと特に変わる点は無く、脱イオン水、蒸留水、精製水等が好適に使用され、水の配合量は重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対して、5質量部~50質量部とすることが好ましく、10質量部~40質量部とすることがより好ましい。
【0070】
<重合開始剤>
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、重合促進剤として機能するボレート化合物成分(B)を含むが、重合活性をさらに向上させ、また、象牙質に対する接着強度を向上させるために、有機過酸化物およびその分解促進剤を添加することも好適である。ここで、分解促進剤とは、ボレート化合物成分(B)の共存下において有機過酸化物の分解を促進する作用を持つ化合物を意味する。
【0071】
有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が好適に使用できる。分解促進剤としては、バナジウム化合物、鉄化合物、銅化合物、モリブデン化合物、マンガン化合物、コバルト化合物およびタングステン化合物からなる群より選択される金属化合物を用いることが好ましく、バナジウム化合物を使用することが特に好ましい。
【0072】
有機過酸化物の配合量は特に限定されないが、重合活性の観点から、ボレート化合物1モルに対して0.1モル~10モルが好ましく、0.5モル~5モルがより好ましい。また、分解促進剤の使用量は特に限定されないが、重合活性の観点から、有機過酸化物1モルに対して0.001モル~1モルが好ましく、0.05モル~0.1モルがより好ましい。
【0073】
更に、所謂デュアルキュア型とするために光重合開始剤を配合することもできる。ただし、第1剤と第2剤とを混合する際、混和皿を用いて環境下で混合する場合の操作時間が長くなる場合には、操作中に重合が開始されることがあるので、注意を要する。また、コンポジットレジンや歯科用セメントを施用する前に本発明の歯科用接着性組成物を光硬化させる場合には、その時の光照射によって退色や蛍光性の消失が起こるため、本発明の効果の一部は得られなくなることに注意する必要がある。
【0074】
光重合開始剤としては、たとえば、α-ジケトン類及び第三級アミン類の組み合わせ,アシルホスフィンオキサイド及び第三級アミン類の組み合わせ、チオキサントン類及び第三級アミン類の組み合わせ,α-アミノアセトフェノン類及び第三級アミン類の組み合わせ等の光重合開始剤が使用できる。これら光重合開始剤は単独で用いても、2種類以上のものを混合して用いても良い。光重合開始剤を配合する場合の配合量は、有効量で且つ、接着性、保管安定性、色調に悪影響を与えない範囲で適宜決定すればよいが、通常は、重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対する光重合開始剤の総量が0.01~10質量部となる範囲であり、好ましくは0.1~8質量部となる範囲である。
【0075】
<被膜強化剤>
2液型歯科用接着性組成物をボンディング材やプライマーとして使用する場合、第1剤と第2剤を混合して調製した歯科用接着性組成物を歯質や歯冠材料からなる第1の被着体の表面に塗布し、溶媒を揮発させる等して皮膜を形成し、得られた皮膜上にコンポジットレジンや歯科用セメント(レジンセメント)からなる第2の被着体を配置してこれらを硬化させることにより第1の被着体と第2の被着体を接合させる(接着する)ことが一般的である。このような場合において前記皮膜の高強度化を図る目的で配合されるのが被膜強化剤であり、これを配合することにより、接着時にこれら被着体の間で被膜が押し潰されて被膜が極めて薄くなり、接着強度が低下することを防止することができる。
【0076】
本発明の2液型歯科用接着性組成物においても必要に応じて被膜強化剤を配合することができる。
【0077】
被膜強化剤としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂などの樹脂材料、シリカ粒子、シリカ-ジルコニア粒子、石英、フルオロアルミノシリケートガラスなどの無機充填材、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート-ポリエチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体などの有機高分子からなる粒子(有機充填材)、上述した無機粒子と重合性単量体とを混合した後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合充填材などを用いることができる。
【0078】
被覆強化剤を配合する場合の配合量は、通常、重合性単量体成分(A)の総質量100質量部に対する被覆強化剤の総量が0.1~100質量部となる範囲であり、好ましくは1~50質量部となる範囲である。
【0079】
2.分包方法並びに第1剤及び第2剤について
2-1.分包方法
前記したように、ボレート化合物成分(B)は、酸成分でもある酸性基含有重合性単量体(a1)と共存することによって重合促進剤として機能するため、ボレート化合物成分(B)と酸性基含有重合性単量体(a1)とは分包して保存(保管)する必要がある。本発明の2液型歯科用接着性組成物では、酸性基含有重合性単量体(a1)を第1剤に、ボレート化合物成分(B)を第2剤に、夫々配合するようにしている。
【0080】
分包の形態は、第1剤を構成する組成物と、第2剤を構成する組成物とが、保管時において互いに接触および混合しない限りは特に制限されないが、通常は、シリンジ、袋、瓶などの各種の容器内に、第1剤と第2剤とがそれぞれ別々に保管される。一方、使用時においては、第1剤と第2剤とを混合して混合組成物を調製し、次にこの混合組成物を歯質等の被着体表面に付与することが通常であるが、被着体表面に対して第1剤と第2剤とを同時に付与または別々に順次付与することで、被着体表面上において第1剤と第2剤とを混合することも可能である。
【0081】
前記特許文献3に記載されているようなキットとする場合には、第1剤及び第2剤を混合したときにおける各構成成分の配合割合が前記したような所期の配合割合となるように2つの袋体中に夫々小分けして収容されるようにすることができ、秤量の手間を削減することができる。このようなキットとせずに、2分包する場合には、第1剤と第2剤を夫々秤量してから混合することが必要となる。この場合には、使用時における第1剤と第2剤との混合比率(第1剤/第2剤)によって混合後に得られる歯科用接着性組成物(本発明の歯科用接着性組成物でもある。)の組成が変化するので、当該混合比に応じて第1剤及び第2剤の組成を決定するか、又は第1剤及び第2剤の組成に応じて混合の歯科用接着性組成物の組成が所定の範囲となるように混合比を決定する必要がある。前記したように混合の歯科用接着性組成物は一定の範囲を有するので、その範囲内で各成分の配合量を適宜の割合で2分割した場合であっても、混合比が1/1からある程度変動しても混合後の組成が所定の範囲から外れることは無い。このため、第1剤及び第2剤の組成は、混合比:1/1で混合したときの組成が目的とする歯科用接着性組成物の組成となるようにして決定することが好ましい。この場合において、目的とする歯科用接着性組成物の組成は、混合比率(第1剤/第2剤)が、体積比で1/5~5/1の範囲内、特に1/3~3/1の範囲内としたときに本発明の歯科用接着性組成物における好ましい組成の範囲内とすることが好ましい。また、質量基準での混合比率を採用する場合も、質量比で1/5~5/1の範囲内、特に1/3~3/1の範囲内としたときに本発明の歯科用接着性組成物における好ましい組成の範囲内とすることが好ましい。
【0082】
例えば、ある成分X、1質量部が混合比1/1で目的の組成物に含まれるように第1剤に0.5質量、第2剤0.5質量部と分割して分包した場合であって、混合比(第1剤/第2剤):1/3で剤1剤と第2剤を混合した場合において、得られる組成物中に含まれる成分Xの量:yは、y=0.5+0.5×3=2質量部となる。また、成分Xをa質量%で含む第1剤と成分Xをb質量%で含む第2剤を質量基準の混合比(第1剤/第2剤):1/3で混合した場合に得られる組成物中の成分Xの濃度:cは、(a+3b)/4 質量%となる。
【0083】
2-2.第1剤
第1剤は、前記酸性基含有重合性単量体(a1)を含み、前記ボレート化合物成分(B)を含まない。第2剤は酸性基含有重合性単量体(a1)を含まないので酸性基含有重合性単量体(a1)の全量が第1剤に含まれることになる。
【0084】
また、前記色素成分(C)は、第1剤又は第2剤の何れか一方のみ含まれるため、第2剤が色素成分(C)を含まない場合には、第1剤は、色素成分(C)を含む。第2剤が第色素成分(C)を含む場合、第1剤は、色素成分(C)は含まないが、第二の色素系を含むことが好ましい。この場合、第二の色素系の全量が第1剤に含まれることになる。
【0085】
前記有機溶媒(D)は、少なくとも第1剤または第2剤のどちらかに含まれていれば良いが、2剤の混合し易さ及び歯科用接着性組成物の保存安定性の観点からは、第1剤及び第2剤の両方に含まれていることが好ましい。なお、第1剤に色素成分(C)が含まれており、有機溶媒(D)が含まれていない場合は、第2剤に有機溶媒(D)が含まれることになる。この場合、第1剤の色素成分(C)の色調は、有機溶媒(D)を含んでいないため、有機溶媒(D)を含んだ場合とは異なった色調となっており、有機溶媒(D)を含んだ第2剤との混合時に色調の変化が生じるものとなる。
【0086】
さらに、本発明の2液型歯科用接着性組成物がその他成分として有機過酸化物およびその分解促進剤を含む場合には、分解促進剤は第1剤にのみ含まれ、第2剤には含まれない。これとは逆に、有機過酸化物は第2剤のみに含まれ、第1剤には含まれない。
【0087】
これら第1剤のみに含まれる成分(第2剤には含まれない成分)の配合量は、混合比:1/1で混合したときの組成が目的とする歯科用接着性組成物の組成となるように決定すればよい。
【0088】
上記した条件を満足する限りにおいて、第1剤は、酸性基非含有重合性単量体(a2)、水、光重合開始剤、被膜強化剤等の成分を適宜含むことができる。後述するようにこれら成分は第2剤においても含まれ得るものであるため、これら成分の第1剤における配合量は、混合比:1/1で混合したときの組成が目的とする歯科用接着性組成物の組成となるように適宜決定すればよい。
【0089】
2-3.第2剤
第2剤は、前記ボレート化合物成分(B)を含み、前記酸性基含有重合性単量体(a1)及びそれ以外の酸成分を含まない。第1剤はボレート化合物成分(B)を含まないのでボレート化合物成分(B)の全量が第2剤に含まれることになる。
【0090】
それ以外の成分については、第1剤で説明した通りである。すなわち、前記色素成分(C)は、第1剤又は第2剤の何れか一方のみ含まれるため、第1剤が色素成分(C)を含まない場合には、第2剤は、色素成分(C)を含む。第1剤が色素成分(C)を含む場合、第2剤は、色素成分(C)は含まないが、第二の色素系を含むことが好ましい。この場合、第二の色素系の全量が第2剤に含まれることになる。
【0091】
前記有機溶媒(D)は、少なくとも第1剤または第2剤のどちらかに含まれていれば良いため、第1剤に含まれていない場合は、第2剤に全量が含まれることになる。また、含まれる有機溶媒(D)は、第1剤と同じ種類でも良いし、別種類としてもよい。
【0092】
さらに、本発明の2液型歯科用接着性組成物がその他成分として有機過酸化物およびその分解促進剤を含む場合には、分解促進剤は第1剤にのみ含まれ、第2剤には含まれない。これとは逆に、有機過酸化物は第2剤のみに含まれ、第1剤には含まれない。
【0093】
これら第2剤のみに含まれる成分(第1剤には含まれない成分)の配合量は、混合比:1/1で混合したときの組成が目的とする歯科用接着性組成物の組成となるように決定すればよい。
【0094】
上記した条件を満足する限りにおいて、第2剤は、酸性基非含有重合性単量体(a2)、水、光重合開始剤、被膜強化剤等の成分を適宜含むことができる。これら成分の第2剤における配合量は、混合比:1/1で混合したときの組成が目的とする歯科用接着性組成物の組成となるように適宜決定すればよい。
【0095】
3.本発明のキットについて
本発明のキットは、2液型歯科用接着性組成物における前記第1剤と前記第2剤とを分包して保管すると共に使用時において分包された両剤を混合して前記歯科用接着性組成物を調製するためにキット化したものであり、
一方端部と他方端部とを有する第一袋体からなり、その内部に前記第1剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第1剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第1剤を流出する第1剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第二袋体からなり、その内部に前記第2剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第2剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第2剤を流出する第2剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第三袋体からなり、その一方端寄りの内部に前記第一袋体の一方端部及び前記第二袋体の一方端部を固定して前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を内部に収納する外袋と、を含み、
該外袋は、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を収納する保持部収納スペースと、該保持部収納スペースより他方端側に位置する貯留スペースと、を有し、
該貯留スペースは、前記外袋の内部に固定された前記第1保持部及び前記第2剤保持部の内部に夫々保持されている前記第1剤及び前記第2剤に押圧力を加えることによって、前記第一袋体の他方端部及び前記第二袋体の一他方端部よりこれら剤を流出させたときに流出した剤の混合物からなる前記歯科用接着性組成物の全てを、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部と接触させること無く保持可能であり、
前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようにした、ことを特徴とする。
【0096】
上記本発明のキットの基本的構造は、前記特許文献3に記載されているようなキット、具体的には、夫々組成の異なる「歯科用液体」を収容した2つの「袋体」を「袋収納部」に収容した「合成樹脂製包装体」と大きく変わる点は無く、第1剤保持部及び第2剤保持部(上記「袋体」に相当する)が外袋(上記「合成樹脂製包装体」に相当する)内に収容された基本構造を有し、第1剤及び第2剤(上記「歯科用液体」に相当する)を押圧したときに、これらが第1剤保持部及び第2剤保持部(袋体)から流出して外袋(合成樹脂製包装体)の保持部収納スペース(上記「袋収納部」に相当する。)の下部に位置する貯留スペースに溜まると言う基本構造を有する。また、各部材を構成するや材料や各部材及びキットを製造する方法も基本的には同様である。
但し、外袋の構造は、保持部収納スペース及び貯留スペースを有するものであれば特に限定されない。
【0097】
本発明のキットでは、第1剤及び第2剤を混合したときにおける各構成成分の配合割合が前記したような所期の配合割合となるように2つの袋体中に夫々小分けして収容されているので、使用時における秤量の手間を削減することができる。
【0098】
また、前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようになっているので、混合時の色調により、正しく混合できたかどうかを容易に判断することができる。本発明のキットにおいては、混合前の各剤の色調を確認することができると言う理由から、前記第一袋体及び/又は前記第二袋体の少なくとも一部、並びに前記外袋の前記保持部収納スペース少なくとも一部は透明で、前記第1剤及び/又は前記第2剤の色調を前記外袋の外部から確認できるようしてあることが好ましい。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでは無い。
【0100】
1.物質の略称
以下に、各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物において使用した物質の略称について説明する。
【0101】
<(A)重合性単量体成分>
(a1)酸性基含有重合性単量体(酸性モノマー)
・MDP:10-メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
・MHP:6-メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート
・PM2:ビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート。
【0102】
(a2)酸性基非含有重合性単量体(非酸性モノマー)
・BisGMA:2.2’―ビス[4―(2―ヒドロキシ―3―メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・HEMA:2―ヒドロキシエチルメタクリレート
・MTU-6:6-メタクリロイルオキシヘキシル 2-チオウラシル-5- カルボキシレート
・MPTS:メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル。
【0103】
<(B)ボレート化合物成分>
・PhB-TEOA:テトラフェニルホウ素のトリエタノールアミン塩
・PhB-Na:テトラフェニルホウ素のナトリウム塩。
【0104】
<(C)色素成分>
[亜光退色性色素]
(1)クマリン系色素:
・クマリン545T:10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン
・クマリン6:3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン
・クマリン314:2,3,6,7-テトラヒドロ-11-オキソ-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-10-カルボン酸エチル。
【0105】
(2)タール系色素:
・AR:アシッドレッド・・・6-[3,6-ビス(ジエチルアミノ)キサンテニウム-9-イル]ベンゼン-1,3-ジスルホン酸一ナトリウム)。
【0106】
(3)トリフェンニルメタン系色素:
・CR:クレゾールレッド・・・o-クレゾールスルホンフタレイン
・MB:メチルブルー・・・4-[[4-[ビス[4-[(4-ソジオスルホフェニル)アミノ]フェニル]メチレン]-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン]アミノ]ベンゼンスルホン酸
・BB:ブリリアントブルーFCF・・・N-エチル-N-[4-[[4-[エチル[(3-ソジオスルホフェニル)メチル]アミノ]フェニル](2-ソジオスルホフェニル)メチレン]-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン]-3-スルホナトベンゼンメタンアミニウム。
【0107】
[亜光退色性色素に該当しない色素(非亜光退色性色素)]
(1)アゾ系色素:
オイルオレンジSS:1-(o-トリルアゾ)-2-ナフトール;1-(2-メチルフェニルアゾ)ナフタレン-2-オール。
【0108】
<(D)有機溶媒>
・AC:アセトン
・IPA:イソプロピルアルコール
・EtOH:エタノール。
【0109】
<その他の成分>
・水:精製水
・BMOV:オキソバナジウム(IV)ビス(マルトラート)
・パーオクタH:1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DEPT:N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
・PTSNa:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム。
【0110】
2.実施例1~22及び比較例1~5
(1)歯科用接着性組成物の調製
表1~表3に示すように各成分を混合することで、第1剤および第2剤を調製し、得られた各剤をこれら表に示すように組み合わせて各実施例及び比較例の2液型の歯科用組成物とした。但し、比較例3の歯科用組成物に関しては、第1剤I-18のみからなる1液型歯科用組成物としている。なお、実施例22は、参考例である。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
(2)評価
調製された各例の歯科用接着性組成物について、各剤の安定性並びに、各例の歯科用接着性組成物用いた、歯質-コンポジットレジン間の接着強度及び各種被着体-歯科用レジンセメント間の接着強度の評価を行った。なお、歯質-コンポジットレジン間の接着強度評価の際には、2剤混合時の色調変化、乾燥処理時の色調変化、コンポジットレジン光硬化時の歯科用接着性組成物の発光状態及びコンポジットレジン光硬化後(修復後)の色調の評価も合わせて行った。以下に、各評価の詳細について説明する。
【0115】
(2-1)第1剤、第2剤の光安定性評価
各剤を夫々白色の採取皿に1滴採取して、その色調を目視で確認した。その後、採取した剤に可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)を用い、30秒間光照射を行いその色調変化の有無を確認した。結果を表4及び5に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
(2-2)歯質-コンポジットレジン間の接着強度評価及び色調評価
混合時色調変化確認:
各調整した第1剤、第2剤の色調および2剤を混合した後の色調を表3に示した。混合後の色調に関しては、第1剤のみに色素を添加している場合は、混合前後での色の濃さが変化した場合、第1剤及び第2剤のいずれにも色素を添加している場合は、第1剤及び第2剤とも異なる色相に変化し、混合状態が目視で確認できたものを良好と判断している。
【0119】
接着強度評価:
準備: 接着強度評価の準備として、屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質平面を削り出した被着体を準備した。
【0120】
剤の混合及び塗布: 次に、被着体の研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、表3に示す各実施例および各比較例の歯科用組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。歯科用組成物を塗布した際の色調とエアブロー後の色調を比較して、色調変化したものは良好と判断している。
なお、歯科用組成物は、第1剤と第2剤を混和皿上で混合液とし、接着面に塗布した。第1剤と第2剤との混合比率は、表1~表2に示す各成分の配合割合がそのまま維持されるように設定した。たとえば、実施例1であれば、第1剤:200.003質量部に対して第2剤:140.003質量部を混合した。また、歯科用組成物が第1剤のみからなる1液型の場合は、接着面に対して第1剤のみを塗布した。
【0121】
コンポジットレジンの充填:
次に、直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に透明性の高い歯科用コンポジットレジン(パルフィーククリア、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した。この時、歯科用組成物の塗布面の色調がCR越しに視認出来るか否かを確認した。
【0122】
コンポジットレジンの硬化、塗布面の発光確認及び硬化体(修復後)の色調評価:
次に、可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)を用い、光照射30秒による光硬化を行った。照射時に可視光照射器の遮光板越しに本発明に係る歯科用組成物の発光が認められる場合を蛍光性が良好であると判断した。さらに、30秒間の照射継続中に発光が減衰したことが視認できたものを蛍光性の低下が良好と判断した。
光照射後、CR越しに直径3mmに塗布した歯科用接着性組成物の色調を確認して、色調が退色し判別出来なかった場合を退色性良好と判断した。
【0123】
接着強度評価:
あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(ビスタイトII、トクヤマデンタル社製)で接着した。最後に、37℃の水中にて24時間浸漬することで接着強度測定用のサンプルを得た。
これらサンプルについて、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強度を測定した。各実施例および比較例について、5個のサンプルの測定値を平均し、測定結果とした。
【0124】
評価結果:
各色調の評価および得られ接着強度の測定結果を表6及び表7に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
(2-3)各種被着体-歯科用レジンセメント間の接着強度評価
下記に示す7種類の被着体を準備した。
1)屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質平面を削り出した被着体
2)屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質平面を削り出した被着体
3)歯科用金―銀―パラジウム合金「金パラ12」(トーワ技研社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後 にサンドブラスト処理した貴金属合金からなる被着体
4)歯科用コバルト―クロム合金「ワークローム」(トーワ技研社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラスト処理した卑金属合金からなる被着体
5)シリカ系酸化物「ジーセラコスモテックII」(ジーシー社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラストしたシリカ系酸化物(ポーセレン)からなる被着体
6)複合樹脂材料「エステライトブロック」(トクヤマデンタル製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラストした複合樹脂材料からなる被着体。なお、「エステライトブロック」は、樹脂マトリックス中にシリカ粒子を含有する複合樹脂材料である。
7)ジルコニアセラミックス「TZ-3Y-E焼結体」(東ソー社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラストした金属酸化物(ジルコニアセラミックス)からなる被着体。
【0128】
次に、これら7種類の被着体のそれぞれの研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、各実施例、比較例1~3及び比較例5の歯科用接着性組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。なお、歯科用接着性組成物は、第1剤と第2剤を混和皿上で混合液とし、接着面に塗布した。第1剤と第2剤との混合比率は、表1~表3に示す各成分の配合割合がそのまま維持されるように設定した。
【0129】
続いて、歯科用接着性組成物が付与された接着面に、さらに歯科用レジンセメント(エステセム、トクヤマデンタル製)を用いてあらかじめ研磨及び歯科用接着性組成物を付与したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)を接着した。なお、接着時に接着面からはみ出た余分なレジンセメントは、探針などを用い除去した。その後、温度37℃湿度100%に保たれた恒温槽に約1時間放置して歯科用接着性レジンセメントを化学重合させた。最後に、37℃の水中にて24時間浸漬することで接着強度測定用のサンプルを得た。なお、使用した歯科用接着性レジンセメントは、光重合開始剤およびベンゾイルパーオキシド-アミン化合物系の化学重合開始剤を含むものであり、重合硬化に際しては、光重合および化学重合のいずれも可能である。本接着試験においては、化学重合のみを利用してレジンセメントを硬化させた。これらサンプルについて、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強度を測定した。各実施例および比較例について、4個のサンプルの測定値を平均し、測定結果とした。また、測定 は、接着強度測定用のサンプルを水中から引き上げて約1日以内に実施した。接着強度の測定結果を表8に示す。
【0130】