(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240430BHJP
E06B 7/18 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H05K9/00 N
E06B7/18 A
(21)【出願番号】P 2021150971
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】596171395
【氏名又は名称】有限会社 エヌエー・メカニカル
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 政信
(72)【発明者】
【氏名】大塚 昌明
(72)【発明者】
【氏名】荒井 淳
(72)【発明者】
【氏名】山之城 隆
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-082049(JP,A)
【文献】特開平11-274790(JP,A)
【文献】特表平09-508949(JP,A)
【文献】特開2010-031565(JP,A)
【文献】国際公開第2008/117499(WO,A1)
【文献】特開平05-175681(JP,A)
【文献】特開平07-263893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
E06B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波のシールド機能を備えたシールド建築物の出入り口に設けられる電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉であって、
前記シールド建築物の高さ方向を直角座標系のZ軸、前記シールド建築物の出入り口側から前記シールド建築物の前記出入り口側とは反対の側に向かう方向を前記直角座標系のY軸、前記シールド建築物の出入り口側から前記出入り口の反対側の方向を見た状態での左から右に向かう方向を前記直角座標系のX軸と定義し、
前記大型シールド扉は、X―Z平面に沿って設けられた電磁波を遮蔽するための中央遮蔽パネルと、前記X―Z平面に沿って前記中央遮蔽パネルの外周を取囲むように設けられていて電磁波の漏洩を防止するための外周正面パネルを有する漏洩防止機構と、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネルを前記Y軸方向に移動するための多数の移動機構と、を有し、
前記多数の移動機構により前記外周正面パネルを前記Y軸方向に移動して、前記外周正面パネルを前記シールド建築物の前記出入り口の外周に密着させ、電磁波の漏洩を防止することを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記シールド建築物の前記出入り口の前記外周に沿ってシールド受枠が設けられており、
前記シールド受枠には、金属製の複数の第1ガスケットが設けられ、
前記漏洩防止機構が有する前記外周正面パネルは金属製の板で作られており、
前記外周正面パネルは、前記大型シールド扉が前記シールド建築物の前記出入り口を閉じている状態において、前記シールド建築物の前記シールド受枠に対向する位置に設けられており、
前記大型シールド扉は、前記外周正面パネルと前記中央遮蔽パネルとを電気的に接続するための内部接続機構を有し、
前記漏洩防止機構が前記シールド建築物の前記出入り口における電磁波の漏洩防止状態において、前記外周正面パネルが、多数の前記移動機構により前記Y軸方向に移動して、前記シールド受枠に設けられた複数の前記第1ガスケットを押圧し、前記外周正面パネルが前記シールド受枠に電気的に接続している、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記移動機構は、前記漏洩防止機構
の長辺およ
び短辺の軸方向に沿って所定間隔で配置された多数のエアーシリンダと、所定間隔で配置された多数のばねと
、圧縮空気を前記多数のエアーシリンダに供給するエアーパイプと、を備え、
前記各ばねは、その力が前記外周正面パネルを前記シールド受枠から遠ざける方向に作用し、
前記多数のエアーシリンダは、前記エアーパイプを介して供給される前記圧縮空気により、前記多数のばねの力に対向して前記外周正面パネルを前記シールド受枠に近づける方向に動作し、前記多数のエアーシリンダの力が前記多数のばねの力より大きくなることにより、前記外周正面パネルが前記複数の第1ガスケットを介して前記シールド受枠に電気的に接続される、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記X―Z平面に沿って前記大型シールド扉の前記中央遮蔽パネルの外周に設けられた電磁波の漏洩を防止するための前記漏洩防止機構は、多数の単位漏洩防止機構により構成されており、
前記単位漏洩防止機構はそれぞれ、単位外周正面パネルと、前記単位外周正面パネルを前記シールド受枠から遠ざける方向に作用する複数の前記ばねと、前記ばねに対抗する力を発生して前記単位外周正面パネルを前記シールド受枠に近づける方向に作用する前記エアーシリンダと、を備え、
多数の前記単位漏洩防止機構の前記単位外周正面パネルを互いにシーム溶接により接続することにより前記外周正面パネルを構成する、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【請求項5】
請求項3あるいは請求項4の内の一に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記外周正面パネルと前記中央遮蔽パネルとを電気的に接続するための前記内部接続機構は、前記外周正面パネルと機械的に接続されていて前記Y軸方向において前記シールド受枠とは逆の方向に伸びその先端部が折返し端部を形成する側面パネルと、
前記側面パネルの前記先端部である前記折返し端部において機械的につながり、前記側面パネルと平行に前記シールド受枠の方に伸びる折返しパネルと、
前記中央遮蔽パネルの端部につながり、前記側面パネルと前記折返しパネルとの間に位置して、前記Y軸に沿う方向であって前記シールド受枠とは逆の方向に伸びる中央側面パネルとを有し、
前記側面パネルと前記折返しパネルとの機械的な接続部である前記側面パネルの前記折返し端部の内側に第2ガスケットが設けられ、
さらに前記側面パネルの前記端部より前記外周正面パネルの方移動した位置において、前記側面パネルと前記中央側面パネルとの間に第3ガスケットが設けられ、
さらに前記側面パネルの前記端部より前記外周正面パネルの方移動した位置において、前記折返しパネルと前記中央側面パネルとの間に第4ガスケットが設けられ、
前記外周正面パネルと前記シールド受枠とが前記第1ガスケットを介して電気的に接続された状態において、前記中央側面パネルの端部が前記第2ガスケットを介して前記側面パネルの前記端部の内側に電気的に接続し、さらに前記第3ガスケットを介して前記側面パネルと前記中央側面パネルとが電気的に接続し、前記折返しパネルと前記中央側面パネルとが第4ガスケットを介して電気的に接続する、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の内の一に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、前記第1ガスケットはそれぞれ、金属線を編んで作成した金属網を複数回重ねて形成した棒状の金属網である、ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の内の一に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記中央遮蔽パネルは複数の単位中央遮蔽パネルを互いに接続して構成しており、
前記単位中央遮蔽パネルにはそれぞれ、その両端部が前記単位中央遮蔽パネルの中央部の面に対して直角に曲げられることにより接続部が形成され、さらに前記接続部の端部が直角に曲げられることにより折返し部が形成されるとともに前記接続部と前記折返し部との間に折曲部が形成され、
前記中央遮蔽パネルを形成する複数の前記単位中央遮蔽パネルは、それぞれの前記単位中央遮蔽パネルの前記接続部が互いに対向するように配置されることにより前記単位中央遮蔽パネルの前記折曲部が互いに接近して配置され、
前記互いに近接して配置された折曲部にシールド金属を押圧用金属板で押圧して、締付具で前記押圧用金属板を固定した、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の内の一に記載の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記大型シールド扉は、前記X軸と前記Z軸とに基づく前記X―Z平面において、長辺および短辺を有する形状であって、前記長辺が4m以上であり、さらに前記短辺が3m以上である、
もしくは、前記大型シールド扉は、前記X軸と前記Z軸とに基づく前記X―Z平面において、面積が12平方メートル以上である、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波の漏洩防止機能を備えた建築物の出入り口に設けられる、電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を遮断する機能(以下シールド機能と記す)を備えた建築物は、電気伝導体である金属板で覆われていて、前記建築物の内部と外部との間の電磁波の伝播を遮断する構造を備えている。前記建築物は、その使用目的により大きいものもあり、また小さいものもある。さらに一般的には、前記建築物の内部で電磁波が発生することを考慮して、前記建築物内部で発生した電磁波を吸収するための電磁波吸収構造が前記建築物の内側に設けられている。
【0003】
一般的なシールド機能を備えた建築物では、人が出入りするための出入り口に、人が出入りできる大きさの金属製の扉が設けられている。また前記建築物の出入り口と前記金属製の扉との間からの電磁波の漏れを防止するために、前記出入り口には電磁波の漏洩を防止する構造が設けられている。
【0004】
電磁波の漏洩防止構造としては、例えば、建築物の出入り口の外周に、前記外周に沿って固定されたドア枠が設けられ、前記出入り口の開口部に対して開閉自在にドア本体が設けられている。前記ドア枠と開閉動作をする前記ドア本体とは、互いに重なり合う部分を有していて、この重なり合う部分において、前記ドア本体と前記ドア枠とが電気的に接続する構造となっている。
【0005】
例えば具体的な構造としては、前記ドア枠の全周に亘って、導電性のシールドフィンガーが取り付けられていて、前記ドア本体には、その全周囲に前記シールドフィンガーに嵌合可能なナイフプレートが設けられている。前記ドア本体が閉じられることにより、前記ドア本体の前記ナイフプレートが前記シールドフィンガーに差し込まれて、これらが電気的な接続状態となる。このような構造により電磁波の漏洩を防止することができる。このような技術は、特許文献1、2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3439611号公報
【文献】特許第3253904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載の電磁波シールド技術は小型の開閉扉に適用することを目的としている。しかし世の中には、前記小型の開閉扉だけでなく、開口部の面積が大きい建築物に使用する大型の電磁波シールド扉に関するニーズも存在する。このような大型シールド扉では、扉全体がたいへん重くなること、さらに電磁波の漏洩を防止しなければならない部分の面積がたいへん大きくなること、などの新たに解決しなければならない課題がいろいろ存在する。このため従来の小型の開閉扉に適用されている電磁波シールド技術だけでは、前記大型シールド扉を製造することができない。
【0008】
本発明は、大型のシールド建築物の出入り口部分における電磁波の漏洩を防止できる電磁波シールド構造を備えた大型扉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔第1の発明〕
前記課題を解決する第1の発明は、電磁波のシールド機能を備えたシールド建築物の出入り口に設けられる電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉であって、
前記シールド建築物の高さ方向を直角座標系のZ軸、前記シールド建築物の出入り口側から前記シールド建築物の前記出入り口側とは反対の側に向かう方向を前記直角座標系のY軸、前記シールド建築物の出入り口側から前記出入り口の反対側の方向を見た状態での左から右に向かう方向を前記直角座標系のX軸と定義し、
前記大型シールド扉は、前記X軸と前記Z軸とに基づくX―Z平面に沿って設けられた電磁波を遮蔽するための中央遮蔽パネルと、前記X―Z平面に沿って前記中央遮蔽パネルの外周を取囲むように設けられていて電磁波の漏洩を防止するための外周正面パネルを有する漏洩防止機構と、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネルを前記Y軸方向に移動するための多数の移動機構と、を有し、
前記多数の移動機構により前記外周正面パネルを前記Y軸方向に移動して、前記外周正面パネルを前記シールド建築物の前記出入り口の外周に密着させ、電磁波の漏洩を防止することを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0010】
〔第1の発明の効果について〕
電磁波を遮蔽するための従来の大型扉は、電磁波の遮蔽性に優れた金属材料が使用されると共に、大型扉の強度を保つ構造を備えるため、大型扉の重量が非常に重くなる課題を有している。また電磁波の漏洩を効果的に遮蔽するためには、シールド建築物の出入り口と大型扉との間の電磁波の漏れを防止することがたいへん重要な課題であり、電磁波の漏洩を防止するためには、前記シールド建築物の出入り口と前記大型扉との間の電気的接続が前記出入り口の全周にわたって維持されることが必要となる。
【0011】
前記シールド建築物の出入り口の開閉は、前記出入り口に対して左右方向あるいは上下方向に、前記大型シールド扉を相対移動することにより可能となる。この前記出入り口の開閉動作に対して、前記出入り口と前記大型シールド扉との間の電磁波遮蔽のための動きは、全く異なる動きとなる。すなわち前記出入り口の開閉のための動きがX軸方向あるいはZ軸方向の動きであるのに対して、電磁波を遮蔽するための前記動きはY軸方向の動きとなる。
【0012】
第1の発明では、大型扉は、中央遮蔽パネルと前記中央遮蔽パネルの外周を取囲むように設けられた漏洩防止機構とを有している。前記漏洩防止機構はさらに、電磁波の漏洩防止のためのシールド建築物の出入り口との電気的な接続を行うための外周正面パネルを有している。前記外周正面パネルをY軸方向に移動させて前記シールド建築物の出入り口の外周と電気的に接続することにより電磁波の漏洩防止が達成される。前記シールド建築物の出入り口の外周と前記外周正面パネルとの電気的な接続に関して、前記中央遮蔽パネルの部分を移動する必要がなくなる。移動対象が少なくなり、電磁波の漏洩防止のためのY軸方向の移動対象の重量が軽減される。これにより前記シールド建築物の出入り口と前記大型扉の接続部との位置関係や電気的な接続のための押圧力の制御が容易となり、電磁波の漏洩防止の信頼性が向上する。
【0013】
また日本においては地震の発生が非常に多い。前記大型扉により前記建物の出入り口が閉鎖された状態において、仮に地震が発生しても、前記大型扉の漏洩防止機構の外周正面パネルと前記シールド建築物との接続が地震等で離間しない構造とすることが望ましい。第1の発明では、外周正面パネルが移動してシールド建築物と接続する構造であり、大型シールド扉の全体の質量に対して上記外周正面パネルの質量は非常に小さい。従って電気的な接続のための前記押圧力が安定に維持される効果を有している。地震に対しても、前記大型扉の漏洩防止機構の外周正面パネルと前記シールド建築物との接続を維持し易い効果がある。
【0014】
〔第2の発明〕
前記課題を解決する第2の発明は、第1の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記シールド建築物の前記出入り口の前記外周に沿ってシールド受枠が設けられており、
前記シールド受枠には、金属製の複数の第1ガスケットが設けられ、
前記漏洩防止機構が有する前記外周正面パネルは金属製の板で作られており、
前記外周正面パネルは、前記大型シールド扉が前記シールド建築物の前記出入り口を閉じている状態において、前記シールド建築物の前記シールド受枠に対向する位置に設けられており、
前記大型シールド扉は、前記外周正面パネルと前記中央遮蔽パネルとを電気的に接続するための内部接続機構を有し、
前記漏洩防止機構が前記シールド建築物の前記出入り口における電磁波の漏洩防止状態において、前記外周正面パネルが、多数の前記移動機構により前記Y軸方向に移動して、前記シールド受枠に設けられた複数の前記第1ガスケットを押圧し、前記外周正面パネルが前記シールド受枠に電気的に接続している、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0015】
〔第2の発明の効果について〕
第2の発明は、既に第1の発明で説明したごとく、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネルを前記Y軸方向に移動するための多数の前記移動機構を、前記漏洩防止機構自身が備えている。前記大型シールド扉全体を前記Y軸方向に移動させるのではなく、また漏洩防止機構全体を前記Y軸方向に移動させるのでもない。前記漏洩防止機構自身に設けた多数の前記移動機構により、前記漏洩防止機構の外周正面パネルを移動させる構造としたことにより、前記大型シールド扉全体の構造およびこの大型シールド扉を支える機構を大変簡素化した構造とすることができる。さらに前記大型シールド扉の中央遮蔽パネル部分や前記漏洩防止機構の前記移動機構とこれを支持する部分は前記Y軸方向に移動する必要が無く、多数の前記移動機構は移動しない部分に固定された状態で、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネルを移動させることができ、前記移動のための制御が容易となり、制御精度を向上する。
【0016】
第2の発明を、例えば特に階高が高い大型のシールド建物の扉に適用した場合、地震による層間変形が大きくなるが、そのシールド建物の出入り口を塞いでいる大型シールド扉の変形はそれほど大きくならない。このため前記建物の出入り口の変形と本発明の対象である大型シールド扉の変形とは一致しない。このため両者の接触面でずれを生じることになる。しかし本発明では、このような挙動により、前記シールド受枠に設けられた第1ガスケットと前記大型扉の前記外周正面パネルとの接触面でずれが生じても、前記外周正面パネルの質量が小さいので振動エネルギーが小さいく、前記外周正面パネルの振動エネルギーは、前記第1ガスケットにより吸収される。また前記外周正面パネルの振動に対応して前記第1ガスケットが変形することが可能となり、電気的な接続状態が維持され、地震時でのシールド性能の低下が抑制される。
【0017】
〔第3の発明〕
前記課題を解決する第3の発明は、第2の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記移動機構は、前記漏洩防止機構の前記長辺および前記短辺の軸方向に沿って所定間隔で配置された多数のエアーシリンダと、所定間隔で配置された多数のばねと、前記圧縮空気を前記多数のエアーシリンダに供給するエアーパイプと、を備え、
前記各ばねは、その力が前記外周正面パネルを前記シールド受枠から遠ざける方向に作用し、
前記多数のエアーシリンダは、前記エアーパイプを介して供給される前記圧縮空気により、前記多数のばねの力に対向して前記外周正面パネルを前記シールド受枠に近づける方向に動作し、前記多数のエアーシリンダの力が前記多数のばねの力より大きくなることにより、前記外周正面パネルが前記複数の第1ガスケットを介して前記シールド受枠に電気的に接続される、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0018】
〔第3の発明の効果について〕
前述のとおり本発明の大型シールド扉では、前記中央遮蔽パネルと前記漏洩防止機構とに分け、前記中央遮蔽パネルは移動しないで、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネルを前記シールド建築物の出入り口に設けたシールド受枠の方に移動する構成としている。前記外周正面パネルを移動するのに、多数の前記移動機構が設けられている。電磁波の漏洩を防止するためには、前記外周正面パネル全体の前記シールド建築物の前記シールド受枠に対する押圧ができるだけ均一になることが望ましい。
【0019】
一方前記漏洩防止機構は金属材料で作られており、熱膨張係数が大きく、温度に依存して寸法関係が変化する。さらに大型扉では、溶接等の方法により前記大型シールド扉の据え付け場所で前記大型シールド扉を完成することが要求される。このような場合に高い製造精度が要求されない構造であることが好ましい。第3の発明では、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネル全体の前記シールド建築物の前記シールド受枠に対する押圧を、前記漏洩防止機構全体においてほぼ均一化でき、安定化できる効果がある。すなわち前記多数のエアーシリンダには同じ圧縮手段で作られた圧縮空気が前記エアーパイプを介して分配されて供給される。仮に各エアーシリンダにおいて、その内部の機械的な接触抵抗にばらつきがあったとしても、前記接触抵抗の違いが、各エアーシリンダの押圧に及ぼす値は、圧縮空気が作用する値に比べて非常に小さい。従って各エアーシリンダによる前記外周正面パネルへの力は前記圧縮空気の圧力と前記ばねの力との関係で定まるとみることができる。圧縮空気は同一の圧縮空気源から前記エアーパイプを介して分配しているので、前記各エアーシリンダの力はほぼ均一化される。従って各ばねの特性をほぼ均一にすれば、前記漏洩防止機構全体の前記シールド建築物の前記シールド受枠に対する前記押圧をほぼ均一化することができる。前記ばねはその特性を均一化し易い部品である。また前記シールド受枠と前記外周正面パネルとの間の複数の前記第1ガスケットの弾性力と、前記ばねと前記エアーシリンダとで定まる前記押圧と、がバランスしたところで、前記漏洩防止機構の前記外周正面パネルが保持されるので、熱膨張や製造誤差等の寸法のバラツキを解消できる。また前記各エアーシリンダへの圧縮空気の供給に若干時間差があっても、前記各エアーシリンダが前記ばね圧に対向して動作する構成としているので、前記圧縮空気の供給時における時間差の問題を解消できる。
【0020】
〔第4の発明〕
前記課題を解決する第4の発明は、第3の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記X―Z平面に沿って前記大型シールド扉の前記中央遮蔽パネルの外周に設けられた電磁波の漏洩を防止するための前記漏洩防止機構は、多数の単位漏洩防止機構により構成されており、
前記単位漏洩防止機構はそれぞれ、単位外周正面パネルと、前記単位外周正面パネルを前記シールド受枠から遠ざける方向に作用する複数の前記ばねと、前記ばねに対抗する力を発生して前記単位外周正面パネルを前記シールド受枠に近づける方向に作用する前記エアーシリンダと、を備え、
多数の前記単位漏洩防止機構の前記単位外周正面パネルを互いにシーム溶接により接続することにより前記外周正面パネルを構成する、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0021】
〔第4の発明の効果〕
本発明が対象としている扉は極めて大型である。このような大型シールド扉では、前記中央遮蔽パネルやその外周に設けられる電磁波の漏洩を防止するための前記漏洩防止機構も、従来のシールド扉と比べると、非常に大型化している。大型シールド扉を工場で製造して、据え付け場所に持ち込むことはほとんど不可能である。それだけではなく、前記漏洩防止機構を工場で完成して据え付け場所に持ち込むことは、ほとんど不可能である。このため、本発明では、前記漏洩防止機構を単位漏洩防止機構に分割し、分割した単位漏洩防止機構を工場で製造し、設置場所まで分割した状態で運搬し、設置場所で互いに接合して前記漏洩防止機構完成する。さらに前記単位外周正面パネルを互いにシーム溶接により接続することにより、他の溶接方法による接続と異なり、シーム溶接部を簡単に取り外すことができます。さらにメンテナンス後に簡単に再接続することが可能となります。
【0022】
一般的には、設置場所で接合して完成させた場合に製造精度が得られないため、希望する性能が出ないなどの問題が生じる。しかし本発明では十分な性能を確保できる。その理由は、上述したように漏洩防止機構の外周正面パネルをY軸に移動する前記移動機構が、前記単位外周正面パネルを前記シールド受枠から遠ざける方向に作用する複数の前記ばねと、前記ばねに対抗する力を発生して前記単位外周正面パネルを前記シールド受枠に近づける方向に作用する前記エアーシリンダと、を備えているためである。上述したように前記ばねと前記前記エアーシリンダとの互いに対抗する方向に作用する力により単位外周正面パネルを移動する構成としたことにより、前記単位外周正面パネルの接合において精度の要求を低減できる。すなわち本発明では、上述の前記単位外周正面パネル相互の接合精度を高くしなくても、一体化された前記外周正面パネルと前記シールド受枠に設けられた前記ガスケットとの圧着力や前記外周正面パネル全体の移動のタイミングを、前記外周正面パネルの全体において均一化できる。このため設置場所で、前記大型シールド扉を完成させても、安定した電気的な接続の確保が可能となる。
【0023】
〔第5の発明〕
前記課題を解決する第5の発明は、第3の発明あるいは第4の発明の内の一の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記外周正面パネルと前記中央遮蔽パネルとを電気的に接続するための前記内部接続機構は、前記外周正面パネルと機械的に接続されていて前記Y軸方向において前記シールド受枠とは逆の方向に伸びその先端部が折返し端部を形成する側面パネルと、
前記側面パネルの前記先端部である前記折返し端部において機械的につながり、前記側面パネルと平行に前記シールド受枠の方に伸びる折返しパネルと、
前記中央遮蔽パネルの端部につながり、前記側面パネルと前記折返しパネルとの間に位置して、前記Y軸に沿う方向であって前記シールド受枠とは逆の方向に伸びる中央側面パネルとを有し、
前記側面パネルと前記折返しパネルとの機械的な接続部である前記側面パネルの前記折返し端部の内側に第2ガスケットが設けられ、
さらに前記側面パネルの前記端部より前記外周正面パネルの方移動した位置において、前記側面パネルと前記中央側面パネルとの間に第3ガスケットが設けられ、
さらに前記側面パネルの前記端部より前記外周正面パネルの方移動した位置において、前記折返しパネルと前記中央側面パネルとの間に第4ガスケットが設けられ、
前記外周正面パネルと前記シールド受枠とが前記第1ガスケットを介して電気的に接続された状態において、前記中央側面パネルの端部が前記第2ガスケットを介して前記側面パネルの前記端部の内側に電気的に接続し、さらに前記第3ガスケットを介して前記側面パネルと前記中央側面パネルとが電気的に接続し、前記折返しパネルと前記中央側面パネルとが第4ガスケットを介して電気的に接続する、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0024】
〔第5の発明の効果〕
第5の発明では、前記シールド建築物と前記大型シールド扉との間における電磁波の漏洩を防止するために、前記大型シールド扉の前記漏洩防止機構を前記シールド建築物のシールド受枠の方に移動し、前記シールド受枠に前記第1ガスケットを介して電気的に接続する。この時、前記大型シールド扉の前記中央遮蔽パネルは移動しない。従って前記中央遮蔽パネルと前記漏洩防止機構との間での電磁波の漏洩を防止することが必要となる。
【0025】
対象となる電磁波の周波数が非常に高い場合、例えば1ギガヘルツ(以下GHzと記載する)よりはるかに高い周波数である50GHzのような超高周波の場合、漏れを防止する特別な工夫が必要となる。第5の発明では、このような非常に高い周波数の電磁波に対しても漏れを極力抑制できるようにするために、2種類の漏洩遮断部を設けている。第1漏洩遮断部は、上述した前記側面パネルと前記中央側面パネルとの間に前記第3ガスケットを設け、前記折返しパネルと前記中央側面パネルとの間に前記第4ガスケットを設けて構成する構造であり、1GHzより高い周波数の電磁波の漏洩に大きな効果を発揮する。
【0026】
また第5の発明では、これより低い周波数、たとえば数GHz以下の周波数に対してより大きな漏洩防止効果を有する第2漏洩遮断部をさらに有している。前記第2漏洩遮断部は、前記側面パネルと前記折返しパネルとの機械的な接続部である前記側面パネルの前記折返し端部である。この前記折返し端部の内側に前記第2ガスケットが設けられ、前記第2ガスケットと前記中央側面パネルの端部が電気的に接続することにより、たとえば数GHz以下の周波数の漏洩防止に大きな効果を発揮する。本発明では前記第1漏洩遮断部と第2漏洩遮断部とを設けることにより、全体として数GHzより低い周波数の電磁波に対してもまた数GHzより高い周波数、例えば50GHzの周波数の電磁波に対しても、良好な漏洩防止効果を発揮する。
【0027】
〔第6の発明〕
前記課題を解決する第6の発明は、第2乃至第5の発明の内の一の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、前記第1ガスケットはそれぞれ、金属線を編んで作成した金属網を複数回重ねて形成した棒状の金属網である、ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0028】
〔第6の発明の効果〕
複数の前記第1ガスケットにより、1GHz以下から、1GHz以上例えば50GHz程度までの幅広い周波数の電磁波の漏洩を防止できる。電磁波は波長よりも細かい目を有する金属線を編んで作成した金属網を複数回重ねて形成した構造とすることにより、電磁波のエネルギーを消費・減衰させることができ、電磁波の漏洩を抑制することができる。発明者等が行った実験では、前記第1ガスケットとして金属線を編んで作成した金属網を複数回重ねて形成した構造とすることにより、1GHz以下から50GHz程度までの幅広い周波数の電磁波の漏洩を抑制できる効果が確認できた。
【0029】
〔第7の発明〕
前記課題を解決する第7の発明は、第1乃至第6の発明の内の一の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、前記中央遮蔽パネルは複数の単位中央遮蔽パネルを互いに接続して構成しており、
前記単位中央遮蔽パネルにはそれぞれ、その両端部が前記単位中央遮蔽パネルの中央部の面に対して直角に曲げられることにより接続部が作られ、さらに前記接続部の端部が直角に曲げられることにより折返し部が形成されるとともに前記接続部と前記折返し部との間に折曲部が形成され、
前記中央遮蔽パネルを形成する複数の前記単位中央遮蔽パネルは、それぞれの前記単位中央遮蔽パネルの前記接続部が互いに対向するように配置されることにより前記単位中央遮蔽パネルの前記折曲部が互いに接近して配置され、
前記互いに近接して配置された折曲部にシールド金属を押圧用金属板で押圧して、締付具で前記押圧用金属板を固定した、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0030】
〔第7の発明の効果〕
前記中央遮蔽パネルは、前記単位中央遮蔽パネルを繋ぎ合わせることにより作られる。さらに前記単位中央遮蔽パネルの接続方法として、互いに隣接する前記単位中央遮蔽パネルの前記折曲部に前記押圧用金属板により前記シールド金属を挟み込み。前記押圧用金属板により前記シールド金属に圧力を加えて変形させている。このようにして互いに隣接する前記単位中央遮蔽パネル間を電気的に接続する。これにより非常に信頼性の高い接続が可能となる。例えば一般に使用されている溶接により互いに隣接する前記単位中央遮蔽パネル間を接続しようとした場合に、前記中央遮蔽パネルの面積が大きくなると、信頼性の維持が大きな課題となる。本発明ではこのような課題を解決できる。
【0031】
〔第8の発明〕
前記課題を解決する第8の発明は、第1乃至第7の発明の内の一の発明の電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉において、
前記大型シールド扉は、前記X軸と前記Z軸とに基づく前記X―Z平面において長辺および短辺を有する形状であって、前記長辺が4m以上でありさらに前記短辺が3m以上である、
もしくは、前記大型シールド扉は、前記X軸と前記Z軸とに基づく前記X―Z平面において、面積が12平方メートル以上である、
ことを特徴とする電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉である。
【0032】
〔第8の発明の効果〕
近年電磁シールド機能を備えた大型のシールド建築物のニーズが出てきており、前記大型のシールド建築物には、その出入り口からの電磁波の漏洩を防止するための大型シールド扉が必要となる。従来のシールド扉を単に大きくしようとしても、上述したようにシールド扉の大型化に関する新たな課題のために、簡単には大型化することができない。この新たな課題は、上述した第1から第7の発明により解決できる。従って上記第1から第7の発明の構成を有する前記シールド扉を、大型シールド扉である、例えば前記X―Z平面において、長辺が少なくとも4m以上であり、さらに前記短辺が少なくとも3m以上であるシールド扉に適用すると、大きな効果が得られる。同様に前記シールド扉の前記X―Z平面におれる面積が、12平方メートル以上の大きさのシールド扉に本発明を適用すると、大きな効果が得られる。
【0033】
例えば、前記長辺が4m以上でありさらに前記短辺が3m以上である前記シールド扉であっても、あるいは12平方メートル以上の前記シールド扉であっても、前記第1の発明乃至前記第7の発明に記載した構成であれば、前記Y軸方向の移動対象の重量が大幅に低減され、移動機構の簡素化や制御のやり易さの点で大きな効果が発揮される。また前記長辺が4m以上でありさらに前記短辺が3m以上である前記シールド扉は、工場で製造して据え付け場所に運搬する、従来の方法で対応しようとすると、色々な問題が生じ、現実的ではない。前記大型シールド扉を分割し、分割した個々の部分について工場で製造し、据え付け場所で最終的に完成させる方法が現実的な方法である。この場合に最後の組み立てが容易であること、および高い製造精度を必要としないことがたいへん重要である。このような課題が、上述の第1の発明から第7の発明において、解決できる。従って前記長辺が4m以上でありさらに前記短辺が3m以上の大型シールド扉に大変有効である。さらには例えば長辺が10m以上、あるいは50m以上や100m以上であって、前記短辺の長さが5m以上、あるいは数10m以上、あるいは30メートル以上などのさらに長い場合に、もしくは前記X―Z平面におれる面積が12平方メートル以上、さらにはこれより何倍も大きな面積の前記シールド扉に適用した場合に、極めて有効である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、大型のシールド建築物の出入り口部分における電磁波の漏洩を防止できる電磁波シールド構造を備えた大型シールド扉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明である大型シールド扉が設けられたシールド建築物を説明する説明図である。
【
図2】
図1に記載のシールド建築物10のA-A断面図である。
【
図3】本発明が適用された大型シールド扉の一方側の漏洩防止機構の部分拡大図である。
【
図4】本発明が適用された大型シールド扉の他方側の漏洩防止機構の部分拡大図である。
【
図5】
図1に記載の漏洩防止機構の部分拡大図である。
【
図6】中央遮蔽パネルを構成する単位中央遮蔽パネルの接続構造を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例1】
【0037】
1.シールド建築物10の全体構造について
図1と
図2を用いてシールド建築物10の全体構造を説明する。なお以下の実施例の説明において、シールド建築物10の高さ方向を直角座標系のZ軸、前記シールド建築物10の出入り口側から前記シールド建築物10の前記出入り口側とは反対の側に向かう方向を前記直角座標系のY軸、前記シールド建築物10の出入り口側から前記出入り口の反対側の方向を見た状態での左から右に向かう方向を前記直角座標系のX軸、と定義して説明する。
図2は
図1のA-A断面図であり、一点鎖線で示すX-Y平面による断面を示している。シールド建築物10は一例であって、大きさや形状はこれに限るものではない。シールド建築物10は電気抵抗の小さい金属板で全体が覆われ、さらに図示しない接地手段により電気的に接地状態となっている。シールド建築物10の入口には大型シールド扉100が設けられている。大型シールド扉100もまた電気抵抗の小さい金属板を使用した構造となっており、大型シールド扉100自身が接地状態となっていても良いし、シールド建築物10と電気的に接続されることにより接地状態となるようになっていても良い。またこれらの両方であっても良い。
【0038】
大型シールド扉100がZ軸に沿って上下方向にあるいはX軸に沿って左右方向に移動することにより、シールド建築物10の出入り口が開放状態となる。またシールド建築物10が移動状態から元の位置に戻ることにより、シールド建築物10の出入り口が閉じた状態となる。シールド建築物10自身および大型シールド扉100自身は上述したように金属板で電磁波を遮断する構造となっているが、大型シールド扉100とシールド建築物10との間から電磁波が漏洩する。シールド建築物10の内部と外部との間で電磁波を良好に遮断するためには、上述の大型シールド扉100とシールド建築物10との間における電磁波の漏洩を防止することが必要となる。このため大型シールド扉100とシールド建築物10とを全周にわたって電気的に完全に接続することが求められる。
【0039】
2.新たなニーズと新たな課題について
一般的に使用されている電磁波の漏洩を防止するための扉は、人が出入りする程度の大きさである。しかし世の中には色々なニーズがあり、車両や船舶、航空機などを収容可能な、非常に大きな扉を使用したいとのニーズがある。大きさについては一例として長方形の形状で説明する。もちろん長方形に限る必要が無く、例えば蒲鉾形状であっても良いし、楕円形状であっても良い。このようなニーズに対応するために、本実施例で想定している大型シールド扉100の大きさは、例えば、長辺において4m以上、10m以上、さらに大きく50m以上、さらに数百m以上である。また長辺だけでなく大型シールド扉100の短辺についても、例えば、3m以上、あるいは10m以上、あるいは30m以上やそれ以上など、非常に大きな扉を想定している。あるいは大型シールド扉100の前記X軸と前記Y軸とに基づくX-Y平面における面積では、12平方メータ以上、あるいはその何倍もの大きさの面積をもつ大型シールド扉を、対象としている。なお、四角形以外の蒲鉾型の場合は、上記長辺が蒲鉾型の底辺であり、前記底辺に対して垂直な方向であって、蒲鉾型の曲線の頂点を通る線を短辺とする。また楕円形上の場合は楕円の長径を長辺、楕円の短径を短辺とする。
【0040】
このような大型シールド扉100を有するシールド建築物10における電磁波の漏洩防止を実現するためには、電磁波の電気的な課題を解決するだけでなく、例えば地震発生時におけるシールド建築物10の層間変化に対して、大型シールド扉100が追随しかつシールド性能を保持することができるか、という大型建造物としての課題を合わせて解決することが必要となる。さらに加えて、ニーズとして、遮断する電磁波の周波数が非常に高い周波数を含むことも求められている。例えば1GHz以下から1GHz以上、例えば50GHz程度の周波数を含む電磁波に対して、これを遮蔽したいとのニーズも存在する。
【0041】
上述したような電磁波の漏洩対策としては、シールド建築物10と大型シールド扉100との間の電磁波の漏洩をどのようにして防止するかが極めて重要となる。基本的な動作としては、
図1や
図2において、シールド建築物10に向かうY軸方向に大型シールド扉100を移動して、シールド建築物10と大型シールド扉100とを漏れが無いように完全に電気的に接続することが求められる。しかし上述したように大型で大重量の大型シールド扉100自身を上下あるいは左右方向だけでなく、シールド建築物10の方向であるY軸方向に移動することは非常に難しい。また大重量の大型シールド扉100を移動してシールド建築物10と大型シールド扉20との間の距離を所定の精度で制御できるかどうか、あるいは電気的な接続時に、大型シールド扉100がシールド建築物10に加える押圧を適正に制御できるのか等の大きな問題が存在する。
【0042】
3.大型シールド扉100の大型化に伴う課題の解決策について
上述した課題を解決するために、本実施例では、大型シールド扉100の構成を、少なくとも中央部に位置する中央遮蔽パネル132と、中央遮蔽パネル132を取囲むように設けた漏洩防止機構110とに分ける構成としている。上述のとおり、漏洩防止機構110は中央遮蔽パネル132の外周全体を取り囲むように設けられており、機械的に一体化された右側漏洩防止機構112と上側漏洩防止機構114と左側漏洩防止機構116と下側漏洩防止機構118とを備えている。
図1には表れていないが、シールド建築物10の入口を取囲むようにしてシールド建築物10の入口の外周に、シールド受枠12が受枠固定機構20により固定されている。漏洩防止機構110を構成する右側漏洩防止機構112と上側漏洩防止機構114と左側漏洩防止機構116と下側漏洩防止機構118はそれぞれ、シールド建築物10のシールド受枠12を構成する各辺に対向している。
図2において、右側漏洩防止機構112と右外周のシールド受枠12とが対向し、左側漏洩防止機構116と左外周のシールド受枠12とが対向している。
【0043】
本実施例では、シールド建築物10と大型シールド扉100との間からの電磁波の漏洩を防止するために、漏洩防止機構110が中央遮蔽パネル132に直角方向である、シールド建築物10に設けられたシールド受枠12の方向、言い換えるとY軸方向に移動して、漏洩防止機構110とシールド受枠12とが以下で記載するガスケット14を介してシールド受枠12と電気的に接続する。このようにして電磁波の漏洩が防止される。この実施例では、大型シールド扉100の全体をシールド建築物10の方向であるY方向に移動するのではなく、中央遮蔽パネル132の外周に設けた漏洩防止機構110の以下に記載する外周正面パネル220をシールド建築物10の方向に移動する構造としており、電磁波の漏洩防止のための移動対象の重量を大幅に低減できる。これにより漏洩防止のためのY軸方向への移動機構を大幅に簡素化できる。
【0044】
4.漏洩防止機構110の外周正面パネル220を移動することによる効果について
本実施例では、大型シールド扉100がシールド建築物10の入口に対向する位置で移動を停止してシールド建築物10の入口を閉じる。次に漏洩防止機構110の外周正面パネル220がシールド建築物10の入口の外周に設けたシールド受枠12に向かって移動する。これにより大型シールド扉100が非常に大きく、また重量が非常に重いにもかかわらず、電磁波の漏洩防止のための移動部分の重量がたいへん小さくなる。さらに電磁波の漏洩防止のための移動を行うための移動機構を大型シールド扉100自身に設けることができる。さらに、電磁波の漏洩防止のための移動状態においては、大型シールド扉100自身は移動を停止しているので、前記移動機構は移動を停止した状態で漏洩防止機構110の外周正面パネル220の移動を制御できることになり、制御が安定する効果がある。このようなことから、漏洩防止機構110とシールド建築物10に設けたシールド受枠12との間の電気的な接続がより確実になり、以下で説明する如く漏洩防止機構110とシールド受枠12との間の押圧をほぼ均一にでき、しかも安定した状態で電気的接続状態を維持できる。さらにこれらのことから耐久性においても優れている。日本においては、地震への対策も必要である。以下でも説明するが、上述の構成とすることにより、地震に対しても安定して上述の電気的な接続を維持でき、電磁波の漏洩防止を維持できる。言い換えると耐震性においても大変優れている。
【0045】
5.漏洩防止機構110の具体的な構造の説明
5.1 シールド建築物10の側の構造
図3に、
図2の左側漏洩防止機構116の部分拡大図(水平断面視)を示し、
図4に、右側漏洩防止機構112の部分拡大図(水平断面視)を示す。実際には右側漏洩防止機構112と左側漏洩防止機構116は左右が対称となる形状であるのみで、外周正面パネル220とシールド受枠12との関係は常に同じ状態である。すなわち右側漏洩防止機構112から下側漏洩防止機構118で構成される漏洩防止機構110は一体であり、以下で説明する多数のエアーシリンダ280からなる移動機構により、一体の状態で常に移動する。しかしここでは漏洩防止機構110の構造だけでなく、
図3と
図4とを使用して、漏洩防止機構110が電磁波の漏洩防止動作に入る前後の状態の説明も合わせて行う。このため
図3は漏洩防止機構110が電磁波の漏洩防止動作に入る前の状態を表している。一方
図4は電磁波の漏洩防止状態を表している。
図3と
図4とで異なる動作状態を表しているので、外周正面パネル220とシールド受枠12との位置関係が異なっている。なお、
図1から
図4で説明する構造は、上側漏洩防止機構114や下側漏洩防止機構118においても同様の構造である。
【0046】
先ず
図3において、図の下側がシールド建築物10の入口における外側の方向であり、逆に図の上側がシールド建築物10の内部方向である。上述したようにシールド受枠12はシールド建築物10の入口(図示せず)を取囲むように全周に渡って設けられている。さらにシールド受枠12を支えるための受枠固定機構20がシールド受枠12に対応してシールド建築物10の入口の全周に渡って設けられている。シールド受枠12および受枠固定機構20は、シールド建築物10と電気的につながっており、電気的に接地状態に維持されている。
【0047】
図3の表方向が
図1に記載の上側漏洩防止機構114の方向であり、逆に図の裏方向が
図1に記載の下側漏洩防止機構118の方向である。シールド受枠12や受枠固定機構20は図面の表裏方向であるZ軸方向に長く伸びており、上側漏洩防止機構114や下側漏洩防止機構118に対応する位置にある受枠固定機構20(図示せず)やシールド受枠12(図示せず)に繋がっている。シールド受枠12の外周正面パネル220側に複数のガスケット14が設けられている。この実施例では4個である。各ガスケット14は、シールド受枠12や受枠固定機構20と同様、紙面の表裏方向であるZ軸方向に長く伸びており、上側漏洩防止機構114や下側漏洩防止機構118に対向した位置のガスケット14(図示せず)にそれぞれ繋がっている。なおこの実施例では、大型シールド扉100の長辺の長さが50m程度を、言い換えると30m以上から70m程度を、想定している。このように大型シールド扉100の大きさを考慮して、4本のガスケット14を並列に配置している。前記長辺が30mより短い場合には2本のガスケット14を並列配置する構成でも対応できる。ただ、電磁波の漏洩をより完璧に防止するためには、ガスケット14の並列配置数を増やした方が良い。これらのことを総合的に判断してガスケット14の並列数を決めることが好ましい。
【0048】
5.2 ガスケット14の構造とその効果
各ガスケット14は外周正面パネル220からの押圧を受けることにより、外周正面パネル220と電気的に接続し、外周正面パネル220とシールド受枠12との間からの電磁波の漏洩を防止する働きをする。各ガスケット14は、金属線を編んで構成した目の細かい網を複数回、場合によっては5回以上重ね合わせて作っている。従ってガスケット14は棒状であり、断面は前記金属線の網が複数回重なった状態となっている。前記の金属線の網の目は、例えば50GHzの波長より遥かに短い寸法である。従ってこの金網自身は電磁波漏洩を防止する効果を有している。さらにそれが幾重にも重なった状態なので電磁波の漏洩防止の効果が大きい。前記ガスケット14における目の細かい金網を幾重にも重ねる構造としては、前記金網を渦巻き状に重ね巻にしても良い。あるいは折りたたむようにして重ねても良い。
【0049】
さらに本実施例では、シールド受枠12と外周正面パネル220との間に複数個の棒状のガスケット14を並列に配置している。本実施例では4本のガスケット14を並列に配置している。1個のみの場合に少し漏れたとしても複数個並列に配置することにより、電磁波の漏洩防止効果が非常に高くなる。以下に説明するが2本で構成される組を、エアーシリンダ280に対応させて2組並列に配置しているので、シールド受枠12と外周正面パネル220との間の押圧を均一にすることが容易となる。このように1個のエアーシリンダ280に対してガスケット14を2個並列に配置する構成とすることにより、シールド建築物10の入口の全周に渡ってシールド受枠12と外周正面パネル220との間の押圧を均一にすることができる。加えて以下で説明するが、シールド受枠12や外周正面パネル220の製造上の誤差や、温度変化による形状の変化に対しても、上述の均一性を維持することができ、電磁波の漏洩防止において大きな効果がある。なお、ガスケット14の並列数と大型シールド扉100の大きさとの関係は上述したとおりであり、大型シールド扉100が大きくなるにしたがって、漏洩防止機構110の幅が広くなり、エアーシリンダ280の並列数が増え、ガスケット14の並列数が増加する。
【0050】
5.3 漏洩防止機構110の大型シールド扉100側の構造の説明
図3は大型シールド扉100がシールド建築物10の入口を閉じる位置にある状態である。この後、
図4に記載のように、大型シールド扉100の外周正面パネル220がシールド受枠12の方である、Y軸方向に移動して複数のガスケット14を押圧して電気的に外周正面パネル220とシールド受枠12とが接続する。これにより電磁波の漏洩が防止され、シールド建築物10と外界との間の電磁波の伝播が遮断される。
【0051】
図3において、中央遮蔽パネル132の外周に設けられた外周正面パネル220は、シールド建築物10の入口の外周に設けられたシールド受枠12に対応している。従って外周正面パネル220は図面の表裏方向であるZ軸方向に伸びており、
図1に記載の上側漏洩防止機構114や下側漏洩防止機構118の外周正面パネル220と一体につながっている。外周正面パネル220をY軸方向であるシールド受枠12の方向に移動するための多数のエアーシリンダ280が、大型シールド扉100に設けられている。この実施例では2つのエアーシリンダ280が並列に設けられており、前記並列のエアーシリンダ280の組が外周正面パネル220に沿ってZ軸方向に多数配置されている。多数のエアーシリンダ280には、共通に使用する圧縮空気供給装置238からそれぞれエアーパイプ236を介して圧縮空気が供給される。多数のエアーシリンダ280は大型シールド扉100に固定機構284によりそれぞれ固定されている。従ってシールド建築物10の入口を開放するために大型シールド扉100がシールド建築物10の入口に対して上下左右の方向に移動すると、エアーシリンダ280や以下で説明する多数のばね290が大型シールド扉100と共に移動し、
図3に記載のように、前記入口を閉じる位置に戻ると大型シールド扉100と共に
図3に示す位置に戻る。
【0052】
並列に配置されたエアーシリンダ280に対して、複数のばね290がエアーシリンダ280を挟むように設けられ、それぞれ固定機構292により大型シールド扉100に固定されている。
図4を用いて以下で動作を説明するが、各ばね290は矢印F1で記載する如く、所定の力で外周正面パネル220をガスケット14から遠ざける方向の引っ張り力を発生している。一方各エアーシリンダ280は圧縮空気供給装置238からの圧縮空気に従って外周正面パネル220をガスケット14の方向に移動する方向の力を発生する。この力を矢印F2で示す。この実施例では、等間隔で並列に配置された3個のばね290の間に、均等にエアーシリンダ280がそれぞれ配置されている。各エアーシリンダ280の押圧はそれぞれ押圧板270および均等に配置された複数の弾性体272を介して外周正面パネル220に伝えられる。圧縮空気供給装置238から供給される圧縮空気の圧が上昇すると均等に配置された複数のばね290の力F1に対向して外周正面パネル220をシールド受枠12の方に移動する。この動作は以下で詳述する。
【0053】
外周正面パネル220と中央遮蔽パネル132との間の電磁波の漏れを防止するために、内部接続機構160が設けられている。この内部接続機構160は図面の表裏方向であるZ軸方向に伸びており、中央遮蔽パネル132の外周全体を取囲むように設けられている。内部接続機構160は、外周正面パネル220の端部とつながりシールド受枠12に対して遠ざかる方向に伸びる側面パネル222と、側面パネル222の端部である折返し端部226につながり、側面パネル222と平行にシールド受枠12の側に伸びる折返しパネル224と、次に記載の中央側面パネル134を備えている。中央側面パネル134は中央遮蔽パネル132の外周全体に設けられ、側面パネル222と折返しパネル224とに挟まれる位置でシールド受枠12から遠ざかる方向に伸びている。
【0054】
5.4 漏洩防止機構110の電磁波漏洩防止動作の説明
5.4.1 漏洩防止機構110の電磁波漏洩防止動作の概要
図4はシールド建築物10の入口からの電磁波の漏洩が防止される状態の配置関係を示している。ただし上述したように、
図3は
図1における左側漏洩防止機構116の断面を示しており、
図4は右側漏洩防止機構112の断面を示しているので、漏洩防止機構110と中央遮蔽パネル132との配置関係が、
図3と
図4とでは逆の関係になっている。
【0055】
図4において、圧縮空気供給装置238から多数のエアーシリンダ280に対して圧縮空気が供給されると、前記圧縮空気の圧により各エアーシリンダ280のロッド282が押圧板270や弾性体272を介して外周正面パネル220に矢印F2の力を加える。一方外周正面パネル220には各ばね290による矢印F1で示す力が作用している。多数のエアーシリンダ280のロッド282の全体の力が、多数のばね290の全体の力より大きくなると、外周正面パネル220はシールド受枠12の方に移動し、各ガスケット14には、多数のエアーシリンダ280が発生した全体の力と多数のばね290の全体の力を弾性体272の数で割った力が押圧として作用する。各ガスケット14は弾性体としての特性を有しており、各ガスケット14は外周正面パネル220からの押圧に対応した状態に変形して外周正面パネル220とシールド受枠12との位置関係が定まる。この状態で外周正面パネル220とシールド受枠12とが電気的に接続状態となり、この状態で維持される。
【0056】
次に内部接続機構160の動作について説明する。外周正面パネル220がY軸方向であるシールド受枠12の方向に移動することにより、側面パネル222と折返しパネル224およびガスケット152やガスケット142やガスケット144がシールド受枠12の方向に移動する。これにより、中央遮蔽パネル132に固定された中央側面パネル134の端部がガスケット152と電気的に接続し、中央側面パネル134の端部と側面パネル222の端部がガスケット152を介して電気的に接続状態となる。また中央側面パネル134はガスケット142や144を介して折返しパネル224や側面パネル222と電気的に常に接続状態となっている。
【0057】
5.4.2 漏洩防止機構110の電磁波漏洩防止作用とその効果の説明
(1)エアーシリンダ280とばね290とによる作用と効果の説明
図3や
図4で示す如くシールド受枠12のZ軸方向である図面の表裏方向に沿ってばね290やエアーシリンダ280が所定間隔で均等に配置されている。またシールド受枠12の幅の方向において、ばね290とエアーシリンダ280とが交互に均等に配置されている。さらにばね290の力とエアーシリンダ280の力が逆方向作用するようになっている。このような配置により、ばね290の力とエアーシリンダ280の力の差に基づいた押圧が弾性体である複数のガスケット14を押圧する構造となっている。エアーシリンダ280やばね290の力の大きさに対して、これより非常に小さい力は、制御精度の観点においてその影響が非常に小さく、無視することができる。また各エアーシリンダ280は共通の圧縮空気供給装置238から圧縮空気が送られる。エアーシリンダ280に送られは空気圧のアンバランスは無視できる状態である。従ってばね290の特性を管理することにより、中央遮蔽パネル132の全周に対して設けられている外周正面パネル220の押圧をほぼ均一にすることができる。また各エアーシリンダ280への圧縮空気の供給の時間的遅れも問題とはならない。
【0058】
大型シールド扉100が非常に大きいため、溶接等の方法で扉を製造することが必要となる場合が多々ある。大型シールド扉100が非常に大きいため、製造精度を上げることが困難な場合が多々生じる。大型シールド扉100が非常に大きいため、温度変化により寸法関係が変化も生じる。上述したように外周正面パネル220とシールド受枠12との関係が、ガスケット14に加わる押圧とガスケット14の弾力特性によって定まるので、中央遮蔽パネル132の全周に渡る大きな外周正面パネル220であるにもかかわらず、シールド受枠12と外周正面パネル220との間隔を、上述の方法によりほぼ均一にすることができる。
【0059】
上述したが、日本においては地震への対策を常に考えておくことが望ましい。特に本発明が対象としている大型シールド扉100は、従来のシールド扉に対して非常に大きいので、大型シールド扉100の面外方向振動の振幅が従来の物に対して大きくなる。本実施例では、上述したごとく外周正面パネル220のガスケット14に対する押圧は、移動機構280とばね290との力の差で定まる。ばね290の共振周波数を地震の振動周波数から外すことは比較的容易である。従って地震の振動に対して外周正面パネル220のガスケット14に対する押圧を、所定圧に維持することが比較的容易である。このため地震に対しても、安定した電磁波の漏洩防止効果が得られる。また内部接続機構160では、平行する側面パネル222と折返しパネル224とで挟み込むようにして中央側面パネル134との間での電磁波の漏洩を防止している。このため地震の振動に対して安定した電磁波の漏洩防止効果が得られる。
【0060】
本実施例では、外周正面パネル220を複数のガスケット14を介してシールド受枠12に電気的に接続する構造としている。上述のとおり各ガスケット14には、ほぼ均一の押圧が掛かるので、各ガスケット14と外周正面パネル220との電気的な接続状態が安定な状態になる。従って良好な電磁波の漏洩防止効果が得られる。特に周波数が1GHz程度の電磁波は50GHzの電磁波と比べると回り込みやすくこのため電磁波が漏れ易いとの課題がある。このような周波数帯においても優れた漏洩防止効果が得られる。
【0061】
本実施例では目の細かい金網を複数回、例えば5回以上重ね合わせて作成したガスケット14を使用している。このガスケット14を並列に2本以上配置している。並列配置したガスケット14の数を複数個、さらにはそれ以上にすることにより、これらの相乗効果により周波数が1GHz程度の帯域の電磁波に対しても大きな漏れ防止効果が得られる。
【0062】
(2) 内部接続機構160における作用効果の説明
内部接続機構160は2つの漏洩遮断部を有している。1つは第1漏洩遮断部140であり、他の一つは第2漏洩遮断部150である。第1漏洩遮断部140や第2漏洩遮断部150には、ガスケット142やガスケット144、ガスケット152が使用されている。これらのガスケットは状況に応じて異なる種類のものを選択することが好ましい。例えば第2漏洩遮断部150に使用するガスケット152は上述したように金属線を編んで製造した金属製網を複数回重ねて製造したものを使用し、他の第1漏洩遮断部140に使用するガスケット142やガスケット144は、ガスケット152とは異なるタイプの、フィンガータイプのガスケットを使用する。このように異なるタイプのガスケットを組み合わせることにより、1GHz以下の電磁波から1GHz以上の例えば50GHz程度の電磁波まで、幅広い電磁波に対して漏洩防止の効果を発揮できる。
【0063】
6.中央遮蔽パネル132や漏洩防止機構110などの製造方法の説明
上述したように発明の対象である大型シールド扉100は、従来のシールド扉に対して非常に大きい。このため工場で完成させて据え付け場所に運搬する従来の方法が適用できない。大型シールド扉100がたいへん大きいので、中央遮蔽パネル132や外周正面パネル220等を、分割して製造し、据え付け現場において完成させることが好ましい場合が多い。
図5に示す実施例は、漏洩防止機構110を多数の単位漏洩防止機構111に分割し、前記単位漏洩防止機構111をシーム溶接などの溶接および機械的な接続方法などにより互いに接続して、漏洩防止機構110を完成させる方法である。この方法であれば、工場で単位漏洩防止機構111を製造し、据え付け現場で漏洩防止機構110を完成させることができる。工場での製造も容易であり、運搬も容易である。また
図3や
図4を用いて説明した実施例を用いることにより、電磁波の漏洩効果を得るうえでそれほど高い製造精度が要求されない利点があり、据え付け現場で完成させる方法を採用することが可能となる。
【0064】
図5に示す実施例について具体的に説明する。漏洩防止機構110を構成する右側漏洩防止機構112や上側漏洩防止機構114、左側漏洩防止機構116、下側漏洩防止機構118を多数の単位漏洩防止機構111に分割し、多数の単位漏洩防止機構111を互いに溶接および機械的な接続方法により接続し、漏洩防止機構110を完成する。ここでは上側漏洩防止機構114の部分D1を代表例として説明する。部分D1を拡大すると単位漏洩防止機構111N-1と単位漏洩防止機構111Nから構成されている。単位漏洩防止機構111N-1および単位漏洩防止機構111Nは同じ構成および大きさである。単位漏洩防止機構111N-1は単位外周正面パネル221N-1と単位内部接続機構161N-1を有している。単位外周正面パネル221N-1には
図3や
図4で説明したばね290やエアーシリンダ280が等間隔に設けられている。同様に単位漏洩防止機構111Nは単位外周正面パネル221Nと単位内部接続機構161Nとを備えており、単位外周正面パネル221Nには、
図3や
図4で説明したばね290やエアーシリンダ280が等間隔に設けられている。なお
図5に記載のばね290やエアーシリンダ280の数や配置は一例である。単位外周正面パネル221N-1や単位外周正面パネル221Nにおけるばね290やエアーシリンダ280の数や配置は同じであるが、
図5に示す状態より少ない場合があるし、逆に多い場合がある。
【0065】
単位漏洩防止機構111N-1や単位漏洩防止機構111Nは同様の構成および形状であり、これらは工場で製造し、据え付け現場に運搬して据え付け現場で互いにつなぎ合わせる方法が可能である。単位漏洩防止機構111N-1や単位漏洩防止機構111Nは、電磁波の漏洩を防止する金属板の部分と金属固定枠の部分から構成されている。金属固定枠の部分には、ばね290や移動機構280が据え付けられている。金属固定枠の部分は機械的な接続方法で簡単に繋ぐことができる。電磁波の漏洩を防止する金属板の部分は電気的な接続が保たれるように互いに接続することが必要である。本実施例では、以下で説明するシーム溶接により接続する。シーム溶接は接続も容易であり、また接続部を切り離すことも容易である。さらに切り離した後再びシーム溶接により接続することも可能である。このことからメンテナンスのために一部を切り離し、メンテナンスの終了後再びシーム溶接により接続することが可能となる。このシーム溶接により電磁波の伝播を完全に遮蔽することができる。
【0066】
中央遮蔽パネル132を据え付け現場で制作するための具体的な構造に付いて
図6を用いて説明する。中央遮蔽パネル132の金属板の厚みは、例えば厚さ2mmあるいは3mm程度である。この金属板を分割することなく中央遮蔽パネル132を作ろうとした場合に非常に大きな建屋を必要とする。それだけでなく、据え付け場所に運搬することがたいへんであり、実際上運搬が不可能である。従って本実施例では、中央遮蔽パネル132は多数の単位中央遮蔽パネル128を機械的につなぎ合わせることにより、作られている。さらに機械的な接続方法を用いているにもかかわらず、全体が一枚板で作られているのと変わらない非常に良好な電気的接続が得られる。
【0067】
図6に示す如く、中央遮蔽パネル132は多数の単位中央遮蔽パネル128で作られている。
図6は中央遮蔽パネル132の一部分である範囲D2の部分の構造を拡大して示している。各単位中央遮蔽パネル128はその両端において単位中央遮蔽パネル128の中央部の面に対して直角方向に折り曲げられることにより、接続部129が両端部に形成されている。各接続部129の端部はさらに接続部129の面に対して直角方向に曲げられることにより、折返し部130が形成されている。この折返し部130は単位中央遮蔽パネル128の中央部の面に対して、ほぼ平行の形状を成している。
【0068】
各単位中央遮蔽パネル128両端部において接続部129と折返し部130とのつながり部に折曲部131が形成されていて、各折曲部131は湾曲した形状を有している。これにより単位中央遮蔽パネル128と単位中央遮蔽パネル128とを、それぞれの接続部129が対向するように近接して配置すると、隣接する単位中央遮蔽パネル128の折曲部131が互いに近接した状態で配置され、それぞれの折曲部131が湾曲した形状を成しているので、この湾曲により空間が形成される。この空間に銅あるいは銅合金の金属棒からなるシールド金属135を配置し、押圧用金属板136でシールド金属135を、近接した状態で配置されている両方の折曲部131の中央部に押し付けることにより、その押圧によってシールド金属135は変形し、両方の折曲部131の隙間に入り込むと共に、両128の折曲部131に密着する。シールド金属135は電気伝導性に優れ、また延性を有する材料であれば、使用可能である。上述したように銅および銅合金はシールド金属135に使用する材料として適している。
【0069】
両方の折曲部131の中央部に強い力でシールド金属135を押し付けるために、隣接する単位中央遮蔽パネル128のそれぞれの折返し部130に押圧用金属板136の両端を締付具137により押し付けて固定している。これによりシールド金属135が変形した状態で隣接する単位中央遮蔽パネル128の折曲部131に密着すると共に、両方の折曲部131とシールド金属135と押圧用金属板136との間で、互いに押し合う力、言い換えると緊迫力のような力、が常に働いている。
【0070】
従って熱膨張や振動が生じても、隣接する両単位中央遮蔽パネル128とシールド金属135との間の電気的な接続が安定して維持される効果がある。また接続部129や折曲部131、折返し部130に関して、製造上の誤差を有していても、シールド金属135の変形によりこれらの誤差を吸収できる大きな効果がある。
【0071】
さらに加えて一方側から順に単位中央遮蔽パネル128を接続して、中央遮蔽パネル132を完成することができる効果がある。すなわち中央遮蔽パネル132が非常に大きいので、一度に中央遮蔽パネル132を完成することができない。順に単位中央遮蔽パネル128を上述の方法で接続することになる。単位中央遮蔽パネル128の一方側を上述の方法で接続し、次に他方側の接続作業を行い、接続する。この接続作業において、振動や応力変動が既に接続済みの方に加わる。しかし上述してように接続された部分には互いに押し合う緊迫力のような力が作用して、折曲部131や押圧用金属板136が密着している。このため接続作業に伴う上記振動等に十分に耐えられる効果がある。
【0072】
なお
図6で単位中央遮蔽パネル128や接続部129、折曲部131、折返し部130はそれぞれ
図6の紙面の表裏方向に長く伸びている。同様にシールド金属135や押圧用金属板136も
図6の紙面の表裏方向に長く伸びている。従って押圧用金属板136を折返し部130に押し付けるための締付具137は、
図6の紙面の表裏方向に伸びる軸に沿って、所定の間隔で多数設けられている。
図6の構造を用いて多数の単位中央遮蔽パネル128を機械的に接続して、中央遮蔽パネル132を形成することにより、多数の単位中央遮蔽パネル128は互いに良好な電気的な接続状態を維持することができ、良好な電磁波遮蔽特性を得ることができる。
【0073】
図7は第2漏洩遮断部150の拡大図である。側面パネル222と折返しパネル224の接続を行うために、例えば折返しパネル224の端部に接続部225を設け、ガスケット152や
図3に記載のガスケット142やガスケット144を挟み込むようにして、接続部225を機械的に側面パネル222に接続する。例えばガスケット152やガスケット142やガスケット144をはめ込む場合に、
図7に示すように側面パネル222と折返しパネル224とを、ネジとナットを使用した固定具228で機械的に着脱可能の構造とすることで、作業性が大きく向上する。また整備も容易である。なお、ガスケット152により、側面パネル222と接続部225との接続部への電磁波の伝播が遮断されるので、側面パネル222と接続部225とを溶接しなくても、電磁波の漏洩を防止できる。
【0074】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0075】
10:シールド建築物
12:シールド受枠
14:ガスケット
20:受枠固定機構
100:大型シールド扉
110:漏洩防止機構
112:右側漏洩防止機構
114:上側漏洩防止機構
116:左側漏洩防止機構
118:下側漏洩防止機構
128:単位中央遮蔽パネル
129:接続部
130:折返し部
131:折曲部
132:中央遮蔽パネル
134:中央側面パネル
140:第1漏洩遮断部
142:ガスケット
144:ガスケット
150:第2漏洩遮断部
152:ガスケット
160:内部接続機構
161:単位内部接続機構
220:外周正面パネル
221:単位外周正面パネル
224:折返しパネル
225:接続部
226:折返し端部
228:固定具
236:エアーパイプ
238:圧縮空気供給装置
270:押圧板
272:弾性体
280:エアーシリンダ
282:ロッド
284:固定機構
290:ばね
292:固定機構