(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】触媒パッド、その製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20240430BHJP
B01J 35/54 20240101ALI20240430BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20240430BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20240430BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B24D11/00 Z
B01J35/54 301Z
B01J37/00 K
B01J33/00 A
H01L21/304 622F
(21)【出願番号】P 2020036805
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020011631
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521310990
【氏名又は名称】株式会社東邦鋼機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英資
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 辰俊
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-117782(JP,A)
【文献】特開2019-75570(JP,A)
【文献】特開2015-28629(JP,A)
【文献】国際公開第2019/216203(WO,A1)
【文献】特開2014-027299(JP,A)
【文献】特開2019-217627(JP,A)
【文献】特開2002-160153(JP,A)
【文献】特開2000-117618(JP,A)
【文献】特表2015-517922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 11/00 - 11/08
B24B 37/00 - 37/34
B01J 35/50
B01J 37/00
B01J 33/00
H01L 21/304
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒基準の加工に使用する触媒パッドであって、パッド基体の表面に形成された開口の、少なくとも開口縁の断面が曲面に形成されており、このようなパッド基体の表面に触媒膜が形成されていることで、前記パッド基体と触媒膜の熱膨張係数の相違により前記開口縁に生じる応力が緩和されていることを特徴とする触媒パッド。
【請求項2】
触媒基準平坦加工に使用する触媒パッドであって、パッド基体の表面に形成された開口の、少なくとも開口縁の断面が曲面に形成されており、このようなパッド基体の表面に触媒膜が形成されていることで、前記パッド基体と触媒膜の熱膨張係数の相違により前記開口縁に生じる応力が緩和されていることを特徴とする触媒パッド。
【請求項3】
前記開口縁は、処理流体を供給する流体供給凹所の開口縁である請求項1又は2に記載の触媒パッド。
【請求項4】
前記開口縁は、紫外線を通過させる貫通穴の開口縁である請求項1又は2に記載の触媒パッド。
【請求項5】
前記開口縁を、パッド表面に接触する被加工物の移動方向にある被加工物周縁が通過しない領域にのみ形成した請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の触媒パッド。
【請求項6】
前記開口を形成する工具の刃部に、前記開口縁の断面形状に倣った曲面が形成されており、前記工具を前記パッド基体の表面に所定量進入させて前記パッド基体の表面に沿って移動させ、ないし前記工具を自転させつつ前記パッド基体の表面に進入させることによって前記開口を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【請求項7】
刃部に前記開口縁の断面形状に倣った曲面が形成された工具を前記流体供給凹所の間隔に等しい間隔で複数設け、これら工具を前記パッド基体の表面に所定量進入させて前記パッド基体の表面に沿って移動させる移動手段を設けた
請求項3に記載の触媒パッドの製造装置。
【請求項8】
前記開口を形成した前記パッド基体の表面に前記触媒膜を形成するのに先立って、前記表面に生じたバリを除去することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【請求項9】
前記開口を形成した前記パッド基体の表面に前記触媒膜を形成する際に少なくとも一つ以上の成分を用いて前記触媒膜を形成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【請求項10】
前記開口を形成した前記パッド基体の表面に前記触媒膜を形成する際に少なくとも一つ以上の層で前記触媒膜を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【請求項11】
前記開口を形成した前記パッド基体の表面に前記触媒膜を形成する際に前記触媒膜の一部が少なくとも金属結合になっていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【請求項12】
前記流体供給凹所は直線溝である請求項3に記載の触媒パッド。
【請求項13】
前記開口を、化学的加工によって形成した請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【請求項14】
前記パッド基体の所定領域以外の他領域に前記パッド基体の構成材を積層して前記他領域を相対的に高くすることによって、前記所定領域に前記開口を形成する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒基準の加工に使用する触媒パッド等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触媒基準の加工の一種である触媒基準平坦加工は、ゴム材等のパッド基体の表面に白金等の触媒膜を形成した触媒パッドを使用し、触媒パッドの表面(基準面)を被処理物の表面に接触させて両者を相対移動させることにより、処理流体の存在下で被加工物表面の微細な凸部を例えば加水分解反応によって選択的に除去して原子レベルでの平坦加工を行うもので、SiC半導体基板等の表面平坦加工方法として注目されている。
【0003】
ところで、従来の平坦加工方法である化学的機械研磨法(CMP)等では研磨パッドとこれに接する被加工物との間へ砥粒を含有する研磨スラリーを供給するためのスラリー供給溝をパッド表面に形成しており、この場合の溝断面は例えば特許文献1に示されるようにその開口縁は直角な矩形断面となっている。
【0004】
一方、触媒基準平坦加工においても処理流体を触媒パットと被加工物の間へ供給するためにパッド基体に処理流体を供給する流体供給溝を形成するが、触媒基準平坦加工では既述のようにゴム材等からなるパッド基体の表面に白金等の金属の触媒膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、触媒基準平坦加工や触媒基準のクリーニングである触媒基準クリーニング等の触媒基準の加工では常温よりも高い60℃~100℃でその加工効率が向上することが知られており、このような加温雰囲気下では、触媒膜とパッド基体の熱膨張係数(線膨張係数や体積膨張率の少なくともいずれか)が異なるために矩形断面とした流体供給溝の開口縁に応力が集中し、この状態で触媒パッドを被加工物に当接させて相対移動させると、応力が集中している流体供給溝の開口縁部で往々にして触媒膜が剥がれるという問題があった。これは特に特許第6127235号で開示されているような、触媒パッドを回転させるのに代えて高速で往復作動させて被加工物としての被加工基板の破損を防止しつつ原子レベルでの良好な平坦加工を行う場合に大きな問題であった。また、触媒基準クリーニングを行う場合にも大きな問題となる。
【0007】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、開口縁部分での触媒膜の剥がれを効果的に防止ないし低減して、良好な触媒基準の加工(触媒基準平坦加工や触媒基準クリーニング)を可能とする触媒パッド、その製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本第1発明の触媒パッドでは、触媒基準の加工に使用する触媒パッド(1)であって、パッド基体(11)の表面に形成された開口(2,5)の、少なくとも開口縁(21)の断面が曲面に形成されており、このようなパッド基体(11)の表面に触媒膜(3)が形成されて、前記パッド基体(11)と触媒膜(3)の熱膨張係数の相違により前記開口縁(21)に生じる応力が緩和されているものである。ここで、パッド基体には、母材や触媒や触媒と触媒パッドの中間材も含まれる。
【0009】
本第1発明によれば、開口縁の断面をここに生じる応力が緩和されるような曲面としたから、触媒膜が形成された開口に接して被加工物が頻繁にこれを通過しても開口縁部分の触媒膜が剥がれる問題を低減ないし防止できる。
【0010】
上記目的を達成するために、本第2発明の触媒パッドでは、触媒基準平坦加工に使用する触媒パッド(1)であって、パッド基体(11)の表面に形成された開口(2,5)の、少なくとも開口縁(21)の断面が曲面に形成されており、このようなパッド基体(11)の表面に触媒膜(3)が形成されて、前記パッド基体(11)と触媒膜(3)の熱膨張係数の相違により前記開口縁(21)に生じる応力が緩和されているものである。ここで、パッド基体には、母材や触媒や触媒と触媒パッドの中間材も含まれる。
【0011】
本第2発明によれば、開口縁の断面をここに生じる応力が緩和されるような曲面としたから、触媒膜が形成された開口に接して被加工物が頻繁にこれを通過しても開口縁部分の触媒膜が剥がれる問題を低減ないし防止できる。
【0012】
本第3発明の触媒パッドでは、前記開口縁は、処理流体を供給する流体供給凹所(2)の開口縁(21)である。
【0013】
本第4発明の触媒パッドでは、前記開口縁は、紫外線を通過させる貫通穴(5)の開口縁である。
【0014】
本第5発明の触媒パッドでは、前記開口縁(21)を、パッド表面に接触する被加工物(W)の移動方向にある当該被加工物周縁(W1)が通過しない領域にのみ形成する。
【0015】
本第5発明によれば、開口縁上を、被加工物の移動方向にある被加工物周縁が通過しないから、当該被加工物周縁の角部の擦れによる被加工物周縁部分の触媒膜の剥がれも効果的に防止または低減される。
【0016】
本第6発明の触媒パッドの製造方法では、前記開口(2,5)を形成する工具(42,6,81)の刃部に、前記開口縁の断面形状に倣った曲面が形成されており、前記工具(42,81)を前記パッド基体(11)の表面に所定量進入させて前記パッド基体(11)の表面に沿って移動させ、ないし前記工具(6)を自転させつつ前記パッド基体(11)の表面に進入させることによって前記開口(2,5)を形成する。
【0017】
本第6発明によれば、開口縁の断面が曲面に形成され開口を容易に形成することができる。
【0018】
本第7発明の触媒パッドの製造装置では、刃部(43,82)に前記開口縁(21)の断面形状に倣った曲面が形成された工具(42,81)を前記流体供給凹所(2)の間隔に等しい間隔で複数設け、これら工具(42,81)を前記パッド基体(11)の表面に所定量進入させて前記パッド基体(11)の表面に沿って移動させる移動手段(44,83)を設ける。
【0019】
本第7発明によれば、開口縁の断面が曲面に形成された流体供給凹所を容易に形成することができる。
【0020】
本第8発明の触媒パッドの製造方法では、前記開口(2,5)を形成した前記パッド基体(11)の表面に前記触媒膜(3)を形成するのに先立って、前記表面に生じたバリを除去する。
【0021】
本第8発明において、触媒基準平坦加工では触媒膜の形状が被加工物にそのまま転写されるので、バリを除去した平坦なパッド基体に触媒膜を形成することにより、加工後の被加工物の板面の平坦性が確保される。
【0022】
本第9発明の触媒パッドの製造方法では、前記開口(2,5)を形成した前記パッド基体(11)の表面に前記触媒膜(3)を形成する際に少なくとも一つ以上の成分を用いて前記触媒膜(3)を形成することを特徴とする。
【0023】
本第10発明の触媒パッドの製造方法では、前記開口(2,5)を形成した前記パッド基体(11)の表面に前記触媒膜(3)を形成する際に少なくとも一つ以上の層で前記触媒膜(3)を形成することを特徴とする。
【0024】
本第11発明の触媒パッドの製造方法では、前記開口(2,5)を形成した前記パッド基体(11)の表面に前記触媒膜(3)を形成する際に前記触媒膜(3)の一部が少なくとも金属結合になっていることを特徴とする。
【0025】
本第12発明では、前記流体供給凹所(2)は直線溝である
【0026】
本第13発明では、前記開口(2,5)を、化学的加工によって形成する。
【0027】
本第14発明では、前記パッド基体(11)の所定領域以外の他領域に前記パッド基体(11)の構成材を積層して前記他領域を相対的に高くすることによって、前記所定領域に前記開口(2,5)を形成する。なお、この場合の構成材としては触媒や触媒と触媒パッドの中間材を使用することができる。
【0028】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の触媒パッド、その製造方法および製造装置によれば、触媒基準の加工特有の問題である触媒パッドに形成された開口の開口縁部分での触媒膜の剥がれが効果的に防止または低減されて、良好な触媒基準平坦加工が実現される。なお、触媒基準の加工(触媒基準平坦加工や触媒基準クリーニング)は化学機械研磨(CMP)と異なり触媒パッドの最表面触媒部分にドレスをすると触媒膜が剥がれるためドレス加工を行わない。ドレス加工を行わないためCMPに比して触媒基準平坦加工を前提とした本発明においては初期の溝形状が重要となる。CMPはパッドブレークインというドレス加工を行った上で研磨を行い、研磨と研磨の合間にもドレス加工を行うので溝開口縁の形状が変化し、膜剥がれの問題も生じない。したがって、CMPで使用する研磨パッドと本発明で使用する触媒パッドでは異なる課題を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態における、触媒パッドの平面図である。
【
図2】パッド基体に形成された流体供給溝の拡大断面図である。
【
図3】パッド基体表面に触媒膜が形成された流体供給溝の概念的拡大断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態における、触媒パッドの平面図である。
【
図7】エンドミル先端部の輪郭を示す側面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態における、触媒パッドの部分平面図である。
【
図11】櫛状刃の切削加工時の断面図で、断面部は
図9のX-X線に沿うものである。
【
図12】櫛状刃をホルダに装着した状態の正面図である。
【
図13】本発明の他の実施形態における、触媒パッドの部分平面図である。
【
図14】
図13のXIV-XIV線に沿った拡大断面図である。
【
図15】従来例を示す、触媒膜を形成した流体供給溝の概念的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0032】
(第1実施形態)
図1には触媒基準の加工(触媒基準平坦加工や触媒基準クリーニング)装置で使用する触媒パッド1の一例を示す。触媒パッド1のパッド基体11は平面視で長方形の板体で、パッド基体11はバイトンゴム、ウレタン、エポキシなどのゴム、樹脂あるいはエラストマー等で構成されている。パッド基体11の表面には平坦加工時に処理流体を供給するための長手方向へ延びる多数の流体供給凹所の一例としての流体供給溝2が平行に形成されている。
【0033】
これら流体供給溝2の断面は
図2に示すように、溝本体22がパッド基体11の表面に開口する矩形断面をなすとともに、その開口縁21は外方へ八の字に開く所定の曲率の曲面となっている。流体供給溝2の断面形状の一例は深さ数mm、幅数mmである。
【0034】
流体供給溝2を形成したパッド基体11の表面には、
図3に示すように、スパッタリングやメッキ等で触媒膜3が形成されて触媒パッド1となる。触媒膜3の材質は、クロム、チタン、白金、ルテニウム、金等の金属やカーボン等の非金属であり、触媒膜3の膜厚は数十nm~数μm、好ましくは100nm程度である。
【0035】
ところで、パッド基体11を構成するバイトンゴム、ウレタンゴム、エポキシ樹脂の熱膨張係数はそれぞれ以下の通りである。
バイトンゴム:158×10**-6/K
ウレタンゴム:100~120×10**-6/K
エポキシ樹脂:62.0×10**-6/K
ここで、**は累乗を示し、Kは絶対温度である(以下、同じ)。
【0036】
また、触媒膜3を構成するクロム、チタン、白金、ルテニウム、金の熱膨張係数はそれぞれ以下の通りである。
クロム:4.9×10**-6/K
チタン:8.4×10**-6/K
白金:8.8×10**-6/K
ルテニウム:8.2×10**-6/K
金:14.2~14.3×10**-6/K
【0037】
このようにパッド基体11の材料とこれの表面に形成される触媒膜3の材料は膨張係数が大きく異なる。このため、触媒基準平坦加工の加工時の温度を、加工効率の良い、常温よりも高い60℃~100℃に設定すると、従来のような開口縁21´(
図15)を矩形断面とした流体供給溝2´では、開口縁21´に応力が集中する。なお、常温においても開口縁21´には応力が集中する。
【0038】
そして、このように応力が集中した状態で、触媒パッド1の表面に
図1の細線で示すように被加工物Wが上方(紙面手前側)から接触させられ、自転しつつ触媒パッド1の表面上を流体供給溝2と直交する方向へ往復振動(例えば350回/分)させられると、応力が集中している開口縁21´部分で往々にして触媒膜3が剥がれることがあった。
【0039】
ここにおいて、本実施形態では流体供給溝2(
図3)の開口縁21の断面を曲面としてあるから、パッド基体11と触媒膜3の熱膨張係数の相違により開口縁21に生じる応力の集中が緩和されており、往復振動する被加工物Wが接触しても触媒膜3の剥がれを効果的に防止または低減することができる。
【0040】
なお、
図1に示すように、振動する被加工物Wの、振動方向にある周縁W1が流体供給溝2の開口縁21上を通過しないように、被加工物Wの振動距離X(<Y)ないし流体供給溝2の形成範囲を設定すれば、触媒膜3の剥がれをさらに効果的に防止ないし低減することができる。なお、距離Yは、振動中立位置にある被加工物Wの周縁W1と、最外側にある流体供給溝2との間の距離である。
【0041】
ここで、
図4には、本実施形態の流体供給溝2を形成するために使用可能なメタルソー4の回転刃構造の一例を示す。駆動機構(図示略)によって回転させられる回転軸41に一定間隔(この間隔は例えば流体供給溝2の間隔と同じにするか、あるいは1つから3つ飛び間隔など間隔を別けて溝を入れても良い。または、1本1本入れても良い。)で複数の工具としての回転刃42が装着されており、回転刃42の外周部(刃先)43の断面は
図5に示すように、逆八の字をなす基部431から矩形の先端部432が突出するものとなっている。
【0042】
このような刃先断面を有する回転刃42を、触媒パッド1のパッド基体11の表面に回転する刃先43の基部431まで進入させ、回転軸41を支持する門型フレーム44を、図略の移動駆動機構によってパッド基体11の表面に平行に直線移動させる。これにより、溝本体22(
図2)がパッド基体11の表面に開口する矩形断面をなしその開口縁21の断面が外方へ八の字に開く所定曲率の曲面となった流体供給溝2が形成される。
【0043】
なお、回転刃42の設置数を、必要な流体供給溝2の数だけ設ければ、門型フレーム44の一度の移動で全ての流体供給溝2を形成することができる。このようにして流体供給溝2を形成したパッド基体11に生じたバリは、触媒膜3の形成に先立って除去しておく。回転軸41を支持する門型フレーム44は門型ではなく片持ち構造でも構わない。回転刃42による溝加工時にバリも同時に除去できる場合はそれでも良い。
【0044】
(第2実施形態)
図6に示すように、触媒基準の加工(触媒基準平坦加工や触媒基準クリーニング)を促進するための紫外線を通過させる貫通穴5を触媒パッド1に設けて、触媒パッド1に接触する被加工物Wの加工面に紫外線を照射するようにしたものがあり、このような貫通穴5の開口縁を、第1実施形態と同様の外方へ八の字に開く所定の曲率の曲面とすれば、開口縁部分での触媒膜の剥がれを防止ないし低減することができる。
【0045】
ここで、上記貫通穴5を形成するためにエンドミルを使用することができる。すなわち、ドリルでパッド基体に所定径の貫通導入穴を開けた後、この導入貫通穴をエンドミルで拡径成形する。この場合の工具としてのエンドミル6の先端部61の輪郭形状を
図7に示す。
図7に示すように、エンドミル6の先端部61は、逆八の字をなす基部611から矩形の先端部612が突出する断面形状を有し、エンドミル6を回転させつつパッド貫通導入穴の内周を拡径成形することによって、外方へ八の字に開く所定の曲率の曲面となった開口縁を有する貫通穴5を形成することができる。なお、本実施形態においても、貫通穴5を形成したパッド基体11に生じたバリを、触媒膜3の形成に先立って除去しておく。
【0046】
なお、パッド材質によっては貫通導入穴をドリルに代わってエンドミルで加工しても良い。また、エンドミルに代わってドリル加工で外方へ八の字に開く所定の曲率の曲面となった開口縁を有する貫通穴5を形成しても良い。この場合、貫通導入穴を開けた後、この貫通導入穴を拡径成形する必要はなく。貫通導入穴を開けるときに所定形状に加工しても良い。バリも同時に除去できる場合はそれでも良い。所定形状にできる回転工具であれば何でも良い。また、パンチやプレス加工で穴をあけて、回転工具で外方へ八の字に開く所定の曲率の曲面となった開口縁を加工しても良い。
【0047】
(第3実施形態)
大型の触媒パッドを回転させ、その周面に自転する被加工物(基板)を接触させて触媒基準の加工(触媒基準平坦加工や触媒基準クリーニング)を行う装置が従来から提案されており(例えば特開2006-114632)、この場合には、
図8に示すように、流体供給溝2は触媒パッド1の回転中心に対して同心円状に形成されることが多い。
【0048】
同心状の流体供給溝2を形成する場合には、
図9に示すような工具としての櫛状刃81を使用すると良い。櫛状刃81は矩形の板状本体の一側縁に三角断面の切削刃82を上記流体供給溝7と同じ間隔で複数形成したものである。各切削刃82は
図10に示すように、逆八の字をなす基部821から矩形の先端部822が突出する形状となっている。切削刃82の背後は傾斜面82a(
図11)となっており、かつその基部821は背面に向かって上がり傾斜して所定の逃げ角θを形成するようにしてある。これにより、切削時の流体供給溝2の開口縁21(
図3参照)のむしれを防止ないし低減できる。このような櫛状刃81は
図12に示すように上下方向に移動可能なホルダ83の下端に取り付けられ、回転させられるパッド基体11の径方向に沿って位置させられる。そしてパッド基体11の表面に切削刃82を進入させることにより、同心円状の複数の流体供給溝2を同時に形成することができる。なお、本実施形態においても、流体供給溝2を形成したパッド基体11に生じたバリを、触媒膜3の形成に先立って除去しておく。
【0049】
(その他の実施形態)
流体供給溝2の形状や貫通穴5の形状は開口縁のみを曲面とするのみならず全体を曲面に成形しても良い。
【0050】
上記各実施形態において、流体供給溝2に流通させる処理流体の温度を60℃~100℃にし、あるいは触媒パッド1の表面をこの温度範囲に維持するように加熱手段を設ければ、平坦加工効率を向上させることができる。なお、被加工物によっては加工温度を常温より下げる場合もあり、この場合にも、触媒膜とパッド基体の熱膨張係数の差による膜剥がれの防止ないし低減に本発明は有効である。
【0051】
パッド基体表面に形成される流体供給溝2の平面形状は第1実施形態や第3実施形態に示すものには限られない。例えば格子状、放射状、螺旋、自由な曲線、渦巻状等種々の形状とすることができる。
【0052】
上記各実施形態における流体供給溝や貫通穴の形状検出は、例えば、青色半導体レーザ(波長405nm可視光)で測定でき、この種のレーザとしては、例えば株式会社キーエンスの超高精細インラインプロファイル測定器(型式「LJ-V7060」)を使用することが可能である。この測定は、流体供給溝や貫通穴の形成時、触媒膜形成後の触媒パッドの完成時、および平坦加工時の少なくともいずれかで行うのが好ましい。
【0053】
被加工物Wとしては基板、任意形状の物、レンズ、エピタキシャル成長膜や成膜面、化合物、3元混晶、4元混晶、酸化物、InやAlやSiやCやGaやNやOやZnやFの成分のいずれかを少なくとも含む被加工物、SiCやGaNや酸化ガリウムやダイヤモンドやアルミニウムガリウムナイトライドなどの被加工物など触媒基準の加工(触媒基準平坦加工や触媒基準クリーニング)の対象となるものであれば何でも良い。
【0054】
触媒パッドの開口である流体供給凹所や貫通穴は、化学的加工であるエッチングやケミカル作用を用いたポリッシング、成膜やメッキや化学気相成長や物理気相成長や液相成長など積層で作るようにしても良い。具体的には触媒パッドの材料としては、加工溶液や気体に対する耐性のあるゴムや樹脂、セラミックス、ガラス、金属、ウェハー、InやAlやSiやCやGaやNやOやZnやFの成分のいずれかを少なくとも含む物、平らなものや凹凸など任意形状を含む研磨やエッチングされた表面物が使用できる。触媒や触媒と触媒パッドの中間材としては金属やCなどがある。金属の一例としては、クロム、金、白金、ルテニウム、チタン、ニッケル、鉄、Pt等の遷移金属、合金がある。触媒に金属を積層させる場合は、金属結合が望ましい。ただし触媒や触媒と触媒パッドの中間材は触媒基準エッチングで使用できる材質であれば何でも良い。またこの新しい触媒パッドを使用すると。被加工物側か触媒側単体の揺動運動、直線運動、回転運動という動作と触媒パッド側からバブルを噴出すると主加工にできる。またパッド部分や被加工物保持側にクッション層を設けても良い。
【0055】
図13には触媒パッド1の長方形のパッド基板11に、エッチングやケミカル作用を用いたポリッシングで形成した流体供給凹所の一例として、平行に多数の直線溝2を形成したものの一部を示す。
図14には直線溝2の断面を示す。
【0056】
開口はパッド材料に積層し、積層で溝や穴や凸の形成による開口でもよい。積層は触媒パッド材料(母材)と同様成分の他に例えば触媒と触媒パッド母材の間にある中間材や触媒で構成されていても良い。積層は膜剥がれ防止のために溝や凹凸や穴と積層が組み合わせられていても良い。触媒物を光透過物とし、光が透過しない部分の少なくとも一部の表面に触媒があるようにしても良い。触媒と触媒パッド母材の間にある中間材又は触媒が少なくとも研磨またはエッチング面に積層させてあるものでも良い。積層後に研磨し、研磨した積層表面に再度積層しても良い。触媒物の研磨した面はガラスか金属かセラミックスか樹脂か単結晶か半導体やレンズで使用される材料の少なくともいずれかからなり、その表面に少なくとも触媒があるようにしても良い。流体供給溝2の断面形状の一例は深さ数十nm~数mmである。被加工物保持側または触媒物側の少なくとも一方にクッション層が設けられていても良い。
【0057】
触媒基準エッチングによる加工を行った後においては、被加工物の表面には、金属、例えば、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる成分が、品質を損なう有害成分の付着物として付着している。そのため、被加物の表面に付着した有害成分を除去するクリーニング(洗浄)を行う必要がある。
【0058】
品質を損なう有害成分が付着した被加工物を、有害成分及び被加工物との関係で触媒反応を生じさせる洗浄用物質と触媒反応を成立させる液体又は気体の少なくともいずれかに当接又は近接させることで、洗浄用物質による触媒反応によって、被加工物の表面に付着した有害成分の全部又は一部を、被加工物の表面の一部とともに除去しても良い。
【0059】
この触媒基準クリーニングは、被加工物に当接又は近接した部分のみを原子レベルで化学反応を用いて有害成分を除去可能である。特に、被加工物であるクリーニング対象物の表面がワンバイレーヤのステップテラス構造になっている場合等、表面の原子レベルの平坦性を維持したい場合の洗浄で、ステップテラス端から原子レベルでクリーニングが可能である。洗浄用物質としての触媒を用いて、被加工物の表面に付着した有害物質のクリーニングの処理を行うことが可能である。潜傷を発生させること無く、クリーニングを行うことが可能である。
【0060】
洗浄用物質として使用される触媒としては、貴金属、遷移金属、セラミックス系固体触媒、塩基性固体触媒、酸性固体触媒などの触媒がある。被加工物の表面に付着した有害物質(成分)や被加工物のクリーニングで除去される表面成分は、触媒基準のクリーニングで洗浄用物質と流体により液中に混ざる必要がある。洗浄用物質の選定は、被加工物と被加工物に付着する洗浄用物質の成分を考慮する必要がある。使用する洗浄用物質は、可能な限り被加工物へ悪影響を及ぼすこと無く、触媒基準クリーニング後のRCA洗浄等の一般洗浄により除去可能である必要がある。被加工物と洗浄用物質と洗浄手段との相性を考慮して、使用する触媒と触媒基準クリーニング後のRCA洗浄などを選択する必要がある。
【0061】
例えば、従来は、被加工物の表面に付着したPt(白金)などの有害物質は、煮沸王水などを使用しないと除去できないとされていたが、被加工物の表面は、被加工物の成分によっては王水や熱に対する耐性が低かった。また、従来、被加工物に付着している除去したい成分を除去可能な洗浄方法で被加工物を洗浄しようとしても、洗浄液や洗浄方法や被加工物の耐性により、被加工物に付着している除去したい成分の除去ができないこともあった。これに対して、第1メインクリーニング手段13aにおいて、液や気体中においてNiやFeやCrの成分からなる触媒を洗浄物質として使用すれば、被加工物の表面に付着したPt(白金)などの品質に悪影響を及ぼす有害物質を、煮沸王水を使用せずに、低減又は除去することができる。しかも、一般的な化学薬品を用いたクリーニングのように表面に薬品をかけるだけで表面全体を溶かす洗浄ではなく触媒基準クリーニングしたいところのみ選択的に除去や低減可能なため、被加工物の表面粗さを維持しやすい。
【0062】
通常の洗浄は、新たなパーティクル(ゴミ)や金属汚染の付着を避ける。しかし、本発明の洗浄では、被加工物に新しい金属汚染源になる成分などをあえて洗浄用物質として使用する。被加工物に付着する洗浄用物質(金属汚染等)の成分は、RCAなどの触媒基準クリーニング後の洗浄手段において、除去しやすいものを被加工物との相性で選択する。そうすれば、潜傷やピットを洗浄工程で発生させることなくもしくは、なるべく発生を抑えて被加工物の表面から有害成分を低減又は除去可能になる。
【0063】
なお、被加工物には、基板を用いることができ、基板以外にも、厚みや形状が異なる物も対応可能である。被加工物としては、例えば、円柱形状や角柱形状、円筒形状や角筒形状、凹凸や孔のある形状、又は立体形状も対応可能である。被加工物の材質は、エピタキシャル成長膜や成膜面、化合物、3元混晶、4元混晶、酸化物やセラミックやフッ化カルシウム(CaF2)やInやSiやCやGaやNやOやAlやZnやFの原子のいずれかを少なくとも含むものがある。紫外線(UV)を援用(使用)した研磨ができる方がよい。なお、被加工物の材料は、触媒反応で加工できるものであれば、これらに限定されない。
【0064】
例えば、洗浄用物質としての触媒にNiを用いて、被加工物の表面に付着したPt(白金)などの付着成分を除去するクリーニングを行う。この場合、触媒基準クリーニング動作は、触媒基準エッチングを行う装置を用いて、触媒をPtとしてエッチングを行うのに代えて、触媒をNiとしてクリーニングを行うことで、被加工物に付着したPtを除去することができる。この場合、被加工物の表面からはPtが除去され、Ptが除去された被加工物の表面には、Niが付着する。
【0065】
なお、触媒基準クリーニングは、品質を損なう有害成分が付着した被加工物を洗浄用物質に当接又は近接させる前に、触媒の反応を阻害する触媒反応阻害成分を除去するために用いることが可能な液体、気体又は紫外線(UV)の少なくともいずれかを洗浄用物質に作用させる処理(触媒反応阻害成分除去工程)を実行してもよい。これにより、被加工物をクリーニングする際に、被加工物に付着した有害成分を効果的に除去可能である。また、被加工物を洗浄用物質に当接又は近接させる前に、被加工物の表面に、紫外線(UV)を照射してもよい。紫外線(UV)を作用させることで、被加工物の表面において、例えば原子の層において数層だけステップテラス端以外からも、有害成分を除去可能になる。紫外線(UV)を照射することにより、被加工物の表面から、有害成分を除去できる可能性を向上させることができる。
【0066】
また、触媒基準クリーニングは、品質を損なう有害成分が付着した被加工物を洗浄用物質に当接又は近接させる前後の少なくともいずれかにおいて、気体又は液体の少なくともいずれかからなる触媒反応を不活性にする触媒毒などの成分を、被加工物に付着した触媒成分に作用させる処理(触媒成分作用工程)を実行してもよい。これにより、被加工物をクリーニングする際に、被加工物に付着した触媒成分などの有害成分に対して、触媒毒を作用させることで、被加工物の表面に付着した有害触媒成分による触媒反応を低減可能である。
【0067】
RCAなどの一般的な洗浄は、触媒基準クリーニングにより被加工物の表面に付着した有害物質を除去するクリーニング処理を実行する。RCAなどの一般的な洗浄は、洗浄用物質の成分の全部又は一部を、ウエット洗浄、ドライ洗浄、スクラブ洗浄、又は超音波洗浄の少なくともいずれかの一般的なクリーニング手段(洗浄)により、洗浄用物質の成分が付着した被加工物から除去する(洗浄工程)。本実施形態においては、触媒基準クリーニングで使用される洗浄用物質について、一般的なクリーニング(洗浄)で除去可能な洗浄用物質を用いている。一般的な洗浄としては、洗浄用物質により付着した成分を、除去又は低減できる洗浄であれば良く、被加工物の使用用途の条件を満たす洗浄である必要がある。
【0068】
一般的なクリーニング(洗浄)としてのウエット洗浄、スクラブ洗浄について説明する。
ウエット洗浄は、水を媒体とする洗浄である。ウエット洗浄の代表的なものとして、例えば、RCA洗浄がある。被加工物との相性で被加工物に潜傷やピットが発生しないRCA洗浄などの洗浄が好ましい。
スクラブ洗浄は、被加工物(基板など)の表面に付着した汚染物質に物理的衝撃を与えて、被加工物(基板など)の表面から汚染物質を除去する洗浄である。
【0069】
従来、被加工物に付着した、例えば、Pt(白金)などの有害物質を被加工物の表面から除去する場合に、被加工物を王水に浸漬させることで、被加工物の表面に付着した白金を除去していた。被加工物に付着した白金を王水でクリーニングするには、王水が人体への危険性が高く、かつ、王水を高温にするなどの別の設備が必要となり、困難である。
【0070】
これに対して、本発明は、触媒基準クリーニングにより、洗浄用物質による触媒反応によって、被加工物の表面に付着した有害成分の全部又は一部を、被加工物の表面の一部とともに除去する。これにより、被加工物のクリーニングにおいて、管理及び使用のために別の設備が必要な王水などを使用しなくてよいため、被加工物に付着した有害成分を容易に除去できる。これは、被加工物と除去したい有害物質と洗浄液との関係で、洗浄することができない組み合わせの場合には、特に有効である。一例としては、被加工物に付着して除去したい有害物質が、Pt(白金)であり、被加工物が、材質的又は温度条件的に煮沸王水が耐えられない被加工物である場合などがある。
また、触媒基準クリーニング後に一般的なクリーニングを行うことで、触媒基準クリーニングの際に付着した洗浄用物質を容易に除去できる。
【符号の説明】
【0071】
1…触媒パッド、11…パッド基体、2…流体供給溝(開口)、21…開口縁、3…触媒膜、42…回転刃(工具)、43…刃先(刃部)、44…門型フレーム(移動手段)、5…貫通穴(開口)、6…エンドミル(工具)、81…櫛状刃(工具)、82…切削刃(刃部)、83…ホルダ(移動手段)、W…被加工物(基板も含む)。