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特許7479689微生物検査用前処理装置、微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】微生物検査用前処理装置、微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 1/00 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
B02C1/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020193131
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2022081903
(43)【公開日】2022-06-01
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】599067053
【氏名又は名称】株式会社ピーエムティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】230110397
【弁護士】
【氏名又は名称】田中 雅敏
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】茂木 一
(72)【発明者】
【氏名】武居 修
(72)【発明者】
【氏名】杉田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】今出 浩志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】戸丸 勝博
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一大
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-117861(JP,A)
【文献】特開2007-044600(JP,A)
【文献】特開平07-284679(JP,A)
【文献】特開2009-220065(JP,A)
【文献】特表昭58-500337(JP,A)
【文献】特開平03-292880(JP,A)
【文献】特開2005-095134(JP,A)
【文献】特開2015-8663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 1/00
C12M 1/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の試料が収納された収納袋に、希釈溶液を注入し、前記収納袋を押圧して前記所定の試料を破砕分散させて懸濁化すると共に、懸濁化した試料を採取する、一連の作業を自動的に行う微生物検査用前処理装置であって、
前記収納袋を搬送する搬送機構と、
前記所定の試料及び前記収納袋の質量を秤量する秤量部と、
前記秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、前記希釈溶液を前記収納袋に注入し、前記所定の試料を調製する試料調製部と、
前記試料調製部で調製した試料を収納した収納袋が、固定して配置される袋配置部と、前記袋配置部に配置される収納袋を押圧して、前記調製した試料を破砕分散させて懸濁化する破砕部と、を有するホモジナイザーと、
前記破砕部で懸濁化した試料を採取する試料採取部とを備える
微生物検査用前処理装置。
【請求項2】
前記試料採取部が、前記懸濁化した試料を採取する際に、前記収納袋に注入した前記希釈溶液の液量に応じて、前記収納袋の前記懸濁化した試料の液面高さを、一定範囲の高さに調整する制御機構を備える
請求項1に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項3】
前記破砕部は、前記袋配置部に配置される前記収納袋の側面と、略平行な向きに形成された押圧面を有すると共に、前記押圧面と前記収納袋の側面とを結ぶ方向に沿って往復運動可能に構成され、
前記制御機構は、前記押圧面が前記収納袋の側面に向かう方向における、同押圧面の位置を制御して、前記液面高さを調整する
請求項2に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項4】
前記収納袋が前記袋配置部に配置された際に、前記制御機構は、前記押圧面が前記収納袋の側面に向かう方向における、同押圧面の位置を制御して、前記液面高さを調製しながら、前記押圧面が同収納袋を押圧して、同収納袋の上部から内部空間の空気を抜き、
前記袋配置部は、前記押圧面が前記収納袋を押圧しながら所定の位置に来ると、同収納袋の上部を両側から挟み込み、同収納袋の上部を閉塞する閉塞機構を有する
請求項3に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項5】
前記破砕部は複数設けられ、
複数の前記破砕部は、前記収納袋の側面に向かう方向と略直交する方向に沿って並べて配置され、かつ、それぞれの前記押圧面が、鉛直方向において略同一の高さ位置に設けられ、
前記制御機構は、前記押圧面が前記収納袋の側面に向かう方向における、複数の前記押圧面の位置を揃える
請求項3または請求項4に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項6】
前記収納袋は、その端部に取り付けられると共に、前記収納袋の内部に連通する採取口が形成されたクリップ部を有し、
前記搬送機構は、前記クリップ部を把持して前記収納袋を搬送する
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項7】
前記クリップ部は、その端部側に前記採取口が形成され、
前記試料調製部及び前記試料採取部では、前記採取口が所定の位置に来るように、前記収納袋及び前記クリップ部の配置位置が設定された
請求項6に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項8】
前記試料採取部が採取した前記懸濁化した試料を前記希釈溶液で段階希釈する段階希釈部と、
前記段階希釈部で希釈した試料溶液を所定の培地に接種する試料接種部とを備える
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項9】
前記所定の培地は、微生物を培養可能な培地を有するシート状のフィルム培地本体と、前記フィルム培地本体を覆う保護フィルムを有するフィルム培地であり、
前記試料接種部は、前記フィルム培地本体から前記保護フィルムを持ち上げるフィルム持ち上げ機構を有する
請求項8に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項10】
前記所定の培地に識別情報を付与する識別情報付与機構を備える
請求項8または請求項9に記載の微生物検査用前処理装置。
【請求項11】
所定の試料が収納された収納袋に、希釈溶液を注入し、前記収納袋を押圧して前記所定の試料を破砕分散させて懸濁化すると共に、懸濁化した試料を採取する、一連の作業を自動的に行う微生物検査用前処理機構であって、
前記収納袋の端部に取り付けられると共に、前記収納袋の内部に連通する採取口が形成されたクリップ部と、
前記クリップ部を介して前記収納袋を搬送する搬送機構と、
前記所定の試料及び前記収納袋の質量を秤量する秤量部と、
前記秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、前記希釈溶液を前記採取口から前記収納袋に注入し、前記所定の試料を調製する試料調製部と、
前記試料調製部で調製した試料を収納した収納袋が、固定して配置される袋配置部と、前記袋配置部に配置される収納袋を押圧して、前記調製した試料を破砕分散させて懸濁化する破砕部と、を有するホモジナイザーと、
前記破砕部で懸濁化した試料を前記採取口から採取する試料採取部とを備える
微生物検査用前処理機構。
【請求項12】
所定の試料が収納された収納袋に、希釈溶液を注入し、前記収納袋を押圧して前記所定の試料を破砕分散させて懸濁化すると共に、懸濁化した試料を採取する、一連の作業を自動的に行う微生物検査用前処理方法であって、
前記所定の試料及び前記収納袋の質量を秤量する秤量工程と、
前記秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、前記希釈溶液を前記収納袋に注入し、前記所定の試料を調製する試料調製工程と、
前記試料調製部で調製した試料を収納した収納袋を押圧して、前記調製した試料を破砕分散させて懸濁化するストマッカー処理工程と、
前記ストマッカー処理工程で懸濁化した試料を採取する試料採取工程とを備える
微生物検査用前処理方法。
【請求項13】
前記試料採取工程は、前記収納袋に注入した前記希釈溶液の液量に応じて、前記収納袋の前記懸濁化した試料の液面高さを、一定範囲の高さに調整する制御工程を有する
請求項12に記載の微生物検査用前処理方法。
【請求項14】
前記制御工程は、前記ストマッカー処理工程で、往復運動して前記収納袋を押圧する破砕部を用いて、前記収納袋を押圧し、前記収納袋を押圧する方向に沿った同破砕部の位置を制御して、前記液面高さを調整する
請求項13に記載の微生物検査用前処理方法。
【請求項15】
前記試料採取工程で採取した試料を段階希釈した試料溶液を接種して、微生物を培養する培地が、微生物を培養可能な培地を有するシート状のフィルム培地本体と、前記フィルム培地本体を覆う保護フィルムを有するフィルム培地であり、
前記フィルム培地本体から前記保護フィルムを持ち上げるフィルム持ち上げ工程を有する
請求項12、請求項13または請求項14に記載の微生物検査用前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物検査用前処理装置、微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理方法に関する。詳しくは、微生物検査における試料の前処理を自動化することができ、正確、かつ、高い再現性を有する処理が可能な微生物検査用前処理装置、微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品における微生物検査において、種々の試料に対する細菌学的分析または微生物検査が行われている。この微生物検査では、厚生労働省監修の食品衛生検査指針等によるガイドライン、日本局法やJIS等に実施内容が規定され、試料から細菌を抽出し、抽出物を培地で培養する一連の操作がなされている。
【0003】
また、微生物検査の流れは、一般的には次のような手順で行われている。
【0004】
まず、対象となる試料を、一定範囲の質量となるように細かくして、試料の質量を秤量し、ストマッカー袋と呼ばれる滅菌された収納袋に試料を入れる。
【0005】
また、収納袋に、試料質量に対して10倍希釈等となるように、滅菌リン酸緩衝液等の希釈溶液を入れる。
【0006】
そして、パドル等の往復運動による押圧力で、希釈溶液中の試料を粉砕するホモジナイザーを用いて、収納袋中の試料を破砕分散させて懸濁化し、試料から細菌を抽出する(ストマッカー処理)。
【0007】
また、ホモジナイザーによる抽出処理を経た収納袋の溶液を採取して、希釈溶液で段階希釈する。さらに、各希釈濃度の希釈溶液を、微生物が培養可能な培地に接種して、培地をインキュベータ等で一定期間培養して、生菌数の測定等の微生物検査を行う。
【0008】
また、培養時において、もとの試料に含有されている細菌数によっては、菌数の計測が困難となることから、適宜段階的に希釈することで計測範囲を調整して、希釈率を逆算することにより、試料含有細菌数を計数する手法が一般的に用いられている。
【0009】
以上のように、微生物検査においては、試料を秤量して、希釈溶液を入れ、試料から細菌を抽出し、抽出溶液を希釈して、培地に接種するという、一連の複数の工程を経る必要がある。
【0010】
また、細菌の抽出処理に用いるホモジナイザーでは、操作性や処理効率を向上させるために改良がなされており、例えば、パドルの停止位置やスピードを制御して、処理の迅速化を図った装置が提案されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-44600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、現状、微生物検査における、収納袋における試料の秤量、収納袋への希釈溶液の注入、ストマッカー処理による細菌の抽出、破砕後の溶液の採取までの、複数の工程を機器で自動化した技術は存在していない。
【0013】
また、微生物検査では一回の検査で、試料の数が数十点以上になる場合もあり、秤量、希釈溶液の注入、細菌の抽出、溶液の採取の各種作業を、試料の数だけ行うには、多くの手間と労力を要していた。
【0014】
また、秤量や希釈溶液の注入の工程は、人の手で作業するケースが多く、分注機(ピペット)の操作における人為的要因に伴う分注誤差や、秤量誤差に起因して、誤差が生じることがあり、処理の正確性に欠けていた。さらに、誤差が生じることで、検査結果の再現性が低くなる問題もあった。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、微生物検査における試料の前処理を自動化することができ、正確、かつ、高い再現性を有する処理が可能な微生物検査用前処理装置、微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の微生物検査用前処理装置は、所定の試料が収納された収納袋に、希釈溶液を注入し、前記収納袋を押圧して前記所定の試料を破砕分散させて懸濁化すると共に、懸濁化した試料を採取する、一連の作業を自動的に行う微生物検査用前処理装置であって、前記収納袋を搬送する搬送機構と、前記所定の試料及び前記収納袋の質量を秤量する秤量部と、前記秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、前記希釈溶液を前記収納袋に注入し、前記所定の試料を調製する試料調製部と、前記試料調製部で調製した試料を収納した収納袋が、固定して配置される袋配置部と、前記袋配置部に配置される収納袋を押圧して、前記調製した試料を破砕分散させて懸濁化する破砕部と、を有するホモジナイザーと、前記破砕部で懸濁化した試料を採取する試料採取部とを備える。
【0017】
ここで、収納袋を搬送する搬送機構によって、試料を収納した収納袋を所望の位置に、自動で搬送することが可能となる。即ち、収納袋に対する各処理を行う部材の間で、収納袋を移動させることができる。なお、ここでいう収納袋とは、使用前に滅菌された袋であり、その内部に試料及び溶液等を一定量収納することが可能な袋を意味する。
【0018】
また、秤量部が、所定の試料及び収納袋の質量を秤量することによって、微生物検査に供する試料の正確な質量を測定することができる。また、測定の操作を自動的に行うことができる。
【0019】
また、試料調製部が、秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、希釈溶液を収納袋に注入し、所定の試料を調製することによって、収納袋の中で、対象の試料を所定の希釈倍率に希釈して、ホモジナイザーに供する試料の前処理を自動で行うことが可能となる。また、試料の質量に対して、所定の希釈倍率となるように、正確な量の希釈溶液を注入することができる。なお、ここでいう所定の希釈倍率とは、例えば、試料と希釈溶液を併せた合計の質量を、試料のみの質量の10倍にする希釈を含むものである。また、後の工程で、更に、段階希釈をすることを考慮した場合、この収納袋における希釈溶液の注入が、一段階目の希釈となる。
【0020】
また、所定の試料及び収納袋の質量を秤量する秤量部と、秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、希釈溶液を収納袋に注入し、所定の試料を調製する試料調製部によって、試料の秤量と、試料の質量に応じた希釈溶液を注入する作業を自動で行い、試料の前処理に必要な手間をなくすことができる。即ち、例えば、予め規定された希釈率を得るための、正確な試料の計量作業等が不要となり、作業者は、例えば10~15gの誤差範囲で試料を調製すれば良いこととなり、作業者の手を煩わせることなく、迅速かつ正確に、ホモジナイザーに供するための試料の前処理を行うことができる。
【0021】
また、ホモジナイザーの袋配置部に、試料調製部で調製した試料を収納した収納袋が、固定して配置されることによって、希釈溶液で希釈した試料を含む収納袋を固定して、収納袋を押圧することができる。即ち、破砕部の押圧力を試料に付与することが可能となる。また、試料の破砕を促進することができ、微生物検査の精度を向上させることができる。
【0022】
また、ホモジナイザーの破砕部が、袋配置部に配置される収納袋を押圧して、調製した試料を破砕分散させて懸濁化することによって、試料を破砕して、試料中の細菌を希釈溶液に抽出することができる。
【0023】
また、試料採取部が、破砕部で懸濁化した試料を採取することによって、試料中の細菌が抽出された希釈溶液を、自動で採取することができる。また、試料の採取を自動で行うため、正確な量の溶液を採取可能となる。
【0024】
また、試料採取部が、懸濁化した試料を採取する際に、収納袋に注入した希釈溶液の液量に応じて、収納袋の懸濁化した試料の液面高さを、一定範囲の高さに調整する制御機構を備える場合には、より一層、正確かつ確実に、試料中の細菌が抽出された希釈溶液を、自動的に採取することが可能となる。
【0025】
また、破砕部が、袋配置部に配置される収納袋の側面と、略平行な向きに形成された押圧面を有すると共に、押圧面と収納袋の側面とを結ぶ方向に沿って往復運動可能に構成された場合には、往復運動する破砕部の押圧面で、収納袋の側面を繰り返し押圧することで、希釈溶液中の試料を破砕して、試料中の細菌を抽出することができる。
【0026】
また、破砕部が、袋配置部に配置される収納袋の側面と、略平行な向きに形成された押圧面を有すると共に、押圧面と収納袋の側面とを結ぶ方向に沿って往復運動可能に構成され、制御機構が、押圧面が収納袋の側面に向かう方向における、押圧面の位置を制御して、液面高さを調整する場合には、希釈溶液を収納袋から採取する際に、破砕部の動きを利用して、その移動距離を制御することで、収納袋の懸濁化した試料の液面高さを、一定の高さに調整することが可能となる。
【0027】
また、収納袋が袋配置部に配置された際に、制御機構が、押圧面が収納袋の側面に向かう方向における、押圧面の位置を制御して、液面高さを調整しながら、押圧面が収納袋を押圧して、収納袋の上部から内部空間の空気を抜く場合には、収納袋を破砕部で押圧して、試料を破砕する前に、収納袋の内部の余分な空気を除去して、収納袋内の希釈溶液中の試料に、充分に押圧力を作用させることが可能となる。
【0028】
また、収納袋が袋配置部に配置された際に、制御機構は、押圧面が収納袋の側面に向かう方向における、押圧面の位置を制御して、液面高さを調製しながら、押圧面が収納袋を押圧して、収納袋の上部から内部空間の空気を抜き、袋配置部が、押圧面が収納袋を押圧しながら所定の位置に来ると、収納袋の上部を両側から挟み込み、収納袋の上部を閉塞する閉塞機構を有する場合には、破砕部の押圧面で収納袋を押圧して、収納袋の内部の余分な空気を除去した上で、収納袋の上部を挟んで閉塞することができる。これにより、ホモジナイザーで試料を破砕する際に、収納袋の上部から外部に希釈溶液が[0]飛散すること、また、飛散に伴う周辺環境の汚染、試料間の混合、混入等を抑止できる。
【0029】
また、破砕部が複数設けられ、複数の破砕部が、収納袋の側面に向かう方向と略直交する方向に沿って並べて配置され、かつ、それぞれの押圧面が、鉛直方向において略同一の高さ位置に設けられた場合には、袋配置部に配置された1つの収納袋に対して、複数の破砕部で押圧することが可能となり、試料を破砕する効率を高めることができる。
【0030】
また、破砕部が複数設けられ、複数の破砕部が、それぞれの押圧面が、鉛直方向において略同一の高さ位置に設けられ、かつ、収納袋の側面に向かう方向と略直交する方向に沿って並べて配置され、制御機構が、押圧面が収納袋の側面に向かう方向における、複数の押圧面の位置を揃える場合には、複数の破砕部で、押圧面の位置を揃えながら収納袋の側面を押圧することができる。これにより、複数の押圧面で、収納袋の懸濁化した試料の液面高さを、均一に、かつ、より確実に上昇させることができる。
【0031】
また、収納袋が、その端部に取り付けられると共に、収納袋の内部に連通する採取口が形成されたクリップ部を有する場合には、採取口を通して溶液を注入したり、採取したりすることが可能となる。
【0032】
また、収納袋が、その端部に取り付けられると共に、収納袋の内部に連通する採取口が形成されたクリップ部を有し、搬送機構が、クリップ部を把持して収納袋を搬送する場合には、搬送機構が、柔らかく変形しやすい収納袋を把持することなく、クリップ部を把持することができるため、内部に試料や溶液を入れた収納袋を、安定して搬送可能となる。
【0033】
また、クリップ部は、その端部側に採取口が形成され、試料調製部及び試料採取部では、採取口が所定の位置に来るように、収納袋及びクリップ部の配置位置が設定された場合には、分注機等を自動で制御する際に、所定の位置を目標として分注機等を移動させるだけで、溶液を注入したり、採取したりすることが可能となる。即ち、採取口が位置する場所が変わることがないので、分注機等の移動の制御を簡易なものにすることができる。
【0034】
また、試料採取部が採取した懸濁化した試料を希釈溶液で段階希釈する段階希釈部を備える場合には、試料中の細菌が抽出された希釈溶液から採取した一定量の溶液を、自動で段階希釈することが可能となる。また、段階希釈を自動で行うため、採取した溶液の希釈溶液への懸濁、攪拌、及び、更なる溶液の採取を正確に行うことができる。この結果、段階希釈の作業における誤差が減り、培地で培養した検査結果の再現性を向上させることができる。また、例えば、試料の数が多数となる場合にも、1つの試料から複数の濃度の段階希釈液を作製する作業について、作業者の手を煩わせることなく、迅速かつ正確に、段階希釈液を準備することが可能となる。
【0035】
また、段階希釈部で希釈した試料溶液を所定の培地に接種する試料接種部を備える場合には、試料から抽出した菌体を段階希釈したものを、自動で培地に接種することができる。即ち、例えば、試料の数が、何十点以上の多数に及ぶ場合にも、これに由来する複数の濃度の段階希釈液を培地に接種する作業について、作業者の手を煩わせることなく、迅速かつ正確に行うことができる。なお、ここでいう所定の培地とは、例えば、微生物の培養が可能な、プレート状の培地、フィルム状の培地、混釈培養用の培地、穿刺用の培地、表面塗布用の培地等を含むものと意味する。
【0036】
また、所定の培地が、微生物を培養可能な培地を有するシート状のフィルム培地本体と、フィルム培地本体を覆う保護フィルムを有するフィルム培地である場合には、プレート状の培地に比べて、培地を調製する手間がなくなり、かつ、試料の接種が行いやすくなる。また、プレート状の培地よりもサイズが小さいため、より多くの数の培地を装置に供給することが可能となる。さらに、培地の形状等に起因する培養結果のばらつきを抑止できる。
【0037】
また、所定の培地が、微生物を培養可能な培地を有するシート状のフィルム培地本体と、フィルム培地本体を覆う保護フィルムを有するフィルム培地であり、試料接種部が、フィルム培地本体から保護フィルムを持ち上げるフィルム持ち上げ機構を有する場合には、各濃度の希釈溶液を接種する際に、自動で保護フィルムを持ち上げて、フィルム培地本体に接種することができる。また希釈溶液をフィルム培地本体に接種した後、持ち上げた保護フィルムを離して、保護フィルムで、再度、フィルム状培地を覆った状態にできる。例えば、試料の数が多数となる場合にも、保護フィルムを持ち上げて、フィルム状培地に試料を接種し、再度、保護フィルムで覆う作業について、作業者の手を煩わせることなく、かつ、作業者による異物等の混入による計測間違いを減少すること(人的コンタミの低減)が可能となる。
【0038】
また、所定の培地に識別情報を付与する識別情報付与機構を備える場合には、識別情報付与機構で識別情報を付与して、フィルム培地を識別することができる。即ち、試料を接種したフィルム培地に、作業者の手作業で識別情報を記載する必要がなくなり、作業の効率を高めることができる。
【0039】
また、上記の目的を達成するために、本発明の微生物検査用前処理機構は、所定の試料が収納された収納袋に、希釈溶液を注入し、前記収納袋を押圧して前記所定の試料を破砕分散させて懸濁化すると共に、懸濁化した試料を採取する、一連の作業を自動的に行う微生物検査用前処理機構であって、前記収納袋の端部に取り付けられると共に、前記収納袋の内部に連通する採取口が形成されたクリップ部と、前記クリップ部を介して前記収納袋を搬送する搬送機構と、前記所定の試料及び前記収納袋の質量を秤量する秤量部と、前記秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、前記希釈溶液を前記採取口から前記収納袋に注入し、前記所定の試料を調製する試料調製部と、前記試料調製部で調製した試料を収納した収納袋が、固定して配置される袋配置部と、前記袋配置部に配置される収納袋を押圧して、前記調製した試料を破砕分散させて懸濁化する破砕部と、を有するホモジナイザーと、前記破砕部で懸濁化した試料を前記採取口から採取する試料採取部とを備える。
【0040】
ここで、クリップ部が、収納袋の端部に取り付けられると共に、収納袋の内部に連通する採取口が形成されたことによって、採取口を通して溶液を注入したり、採取したりすることが可能となる。
【0041】
また、試料調製部が、秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、希釈溶液を採取口から収納袋に注入し、所定の試料を調製することによって、収納袋の中で、対象の試料を所定の希釈倍率に希釈して、ホモジナイザーに供する試料の前処理を自動で行うことが可能となる。また、試料の質量に対して、所定の希釈倍率となるように、正確な量の希釈溶液を注入することができる。
【0042】
また、所定の試料及び収納袋の質量を秤量する秤量部と、秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、希釈溶液を採取口から収納袋に注入し、所定の試料を調製する試料調製部によって、試料の秤量と、試料の質量に応じた希釈溶液を注入する作業を自動で行い、試料の前処理に必要な手間をなくすことができる。即ち、例えば、予め規定された希釈率を得るための、正確な試料の計量作業等が不要となり、作業者は、例えば10~15gの誤差範囲で試料を調製すれば良いこととなり、作業者の手を煩わせることなく、迅速かつ正確に、ホモジナイザーに供するための試料の前処理を行うことができる。
【0043】
また、試料採取部が、破砕部で懸濁化した試料を採取口から採取することによって、試料中の細菌が抽出された希釈溶液を、自動で採取することができる。また、試料の採取を自動で行うため、正確な量の溶液を採取可能となる。
【0044】
また、上記の目的を達成するために、本発明の微生物検査用前処理方法は、所定の試料が収納された収納袋に、希釈溶液を注入し、前記収納袋を押圧して前記所定の試料を破砕分散させて懸濁化すると共に、懸濁化した試料を採取する、一連の作業を自動的に行う微生物検査用前処理方法であって、前記所定の試料及び前記収納袋の質量を秤量する秤量工程と、前記秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、前記希釈溶液を前記収納袋に注入し、前記所定の試料を調製する試料調製工程と、前記試料調製部で調製した試料を収納した収納袋を押圧して、前記調製した試料を破砕分散させて懸濁化するストマッカー処理工程と、前記ストマッカー処理工程で懸濁化した試料を採取する試料採取工程とを備える。
【0045】
ここで、秤量工程が、所定の試料及び収納袋の質量を秤量することによって、微生物検査に供する試料の正確な質量を測定することができる。また、測定の操作を自動的に行うことができる。
【0046】
また、試料調製工程が、秤量部が秤量した値に応じて、所定の希釈倍率となるように、希釈溶液を収納袋に注入し、所定の試料を調製することによって、収納袋の中で、対象の試料を所定の希釈倍率に希釈して、ホモジナイザーに供する試料の前処理を自動で行うことが可能となる。また、試料の質量に対して、所定の希釈倍率となるように、正確な量の希釈溶液を注入することができる。
【0047】
また、ストマッカー処理工程が、試料調製部で調製した試料を収納した収納袋を押圧して、調製した試料を破砕分散させて懸濁化することによって、試料を破砕して、試料中の細菌を希釈溶液に抽出することができる。
【0048】
また、試料採取工程が、ストマッカー処理工程で懸濁化した試料を採取することによって、試料中の細菌が抽出された希釈溶液を、自動で採取することができる。また、試料の採取を自動で行うため、正確な量の溶液を採取可能となる。
【0049】
また、試料採取工程が、収納袋に注入した希釈溶液の液量に応じて、収納袋の懸濁化した試料の液面高さを、一定範囲の高さに調整する制御工程を有する場合には、より一層、正確かつ確実に、試料中の細菌が抽出された希釈溶液を、自動的に採取することが可能となる。
【0050】
また、制御工程が、ストマッカー処理工程で、往復運動して収納袋を押圧する破砕部を用いて、収納袋を押圧し、収納袋を押圧する方向に沿った破砕部の位置を制御して、液面高さを調整する場合には、希釈溶液を収納袋から採取する際に、破砕部の動きを利用して、その移動距離を制御することで、収納袋の懸濁化した試料の液面高さを、一定の高さに調整することが可能となる。
【0051】
また、試料採取工程で採取した試料を段階希釈した試料溶液を接種して、微生物を培養する培地が、微生物を培養可能な培地を有するシート状のフィルム培地本体と、フィルム培地本体を覆う保護フィルムを有するフィルム培地である場合には、プレート状の培地に比べて、培地を調製する手間がなくなり、かつ、試料の接種が行いやすくなる。また、プレート状の培地よりもサイズが小さいため、より多くの数の培地を装置に供給することが可能となる。さらに、培地の形状等に起因する培養結果のばらつきを抑止できる。
【0052】
また、試料採取工程で採取した試料を段階希釈した試料溶液を接種して、微生物を培養する培地が、微生物を培養可能な培地を有するシート状のフィルム培地本体と、フィルム培地本体を覆う保護フィルムを有するフィルム培地であり、試料接種工程が、フィルム培地本体から保護フィルムを持ち上げるフィルム持ち上げ工程を有する場合には、各濃度の希釈溶液を接種する際に、自動で保護フィルムを持ち上げて、フィルム培地本体に接種することができる。また希釈溶液をフィルム培地本体に接種した後、持ち上げた保護フィルムを離して、保護フィルムで、再度、フィルム状培地を覆った状態にできる。例えば、試料の数が多数となる場合にも、保護フィルムを持ち上げて、フィルム状培地に試料を接種し、再度、保護フィルムで覆う作業について、作業者の手を煩わせることなく、迅速かつ正確に、培地に試料を接種することが可能となる。
【発明の効果】
【0053】
本発明に係る微生物検査用前処理装置、微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理方法は、微生物検査における試料の前処理を自動化することができ、正確、かつ、高い再現性を有する処理が可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の実施の形態である微生物検査用前処理装置の全体の装置構成を示す概略平面図である。
図2図1に示す装置の概略斜視図である。
図3図1に示す装置の搬送レールを含む内部構造の一部を示す概略斜視図である。
図4図1に示す装置の内部構造の一部を示す概略斜視図である。
図5】(a)は、フィルター付きのストマッカー袋及びクリップ部の内部構造を示す概略斜視図であり、(b)は、フィルター付きのストマッカー袋及びクリップ部の概略正面図である。
図6】(a)は、ストマッカー袋をスタンド部に収容した状態を示す概略斜視図であり、(b)は、図6(a)に対応する概略平面図である。
図7】(a)は、ストマッカー袋をストマッカーに収容した状態を示す概略斜視図であり、(b)は、図7(a)の図を別の角度から示した概略斜視図である。
図8】(a)は、試料溶液の採取時に、パドルでストマッカー袋を押圧する前の状態を示す概略側面図であり、(b)は、料溶液の採取時に、パドルでストマッカー袋を押圧した状態を示す概略側面図である。
図9】フィルム持ち上げ機構で保護フィルムを持ち上げた状態を示す概略斜視図である。
図10】前処理装置1を用いた各構成部における試料の処理の流れを示す概略図である。
図11図10に続いて、前処理装置1を用いた各構成部における試料の処理の流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
[実施の形態]
本発明を適用した微生物検査用前処理機構及び微生物検査用前処理装置の一例として、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す内容はあくまで、本発明を適用した構造の一例にすぎず、本発明の実施の形態は以下に示す構造に限定されるものではない。
【0056】
[装置の全体構成]
本発明を適用した微生物検査用前処理装置の一例である、前処理装置1は、スタンド部2と、天秤3と、ストマッカー用分注機4と、ストマッカー5と、試験管ミキサー6と、フィルム開閉器7と、培地ストッカー10を備えている(図1参照)。また、前処理装置1は、溶液分注機17を備えている(図2図4参照)。各部の詳細は後述する。
【0057】
また、前処理装置1は、チップラック11と、試験管ラック12を備えている(図1参照)。また、前処理装置1は、装置の各構成部及び機構の動作を制御するPC制御部(図示省略)を備えている。
【0058】
また、前処理装置1は、後述するクリップ部16を取り付けたストマッカー袋15を搬送する搬送部13を備えている(図1図3及び図4参照)。なお、前処理装置1及びクリップ部16を含めた構成が、本発明を適用した微生物検査用前処理機構の一例に該当する。
【0059】
また、前処理装置1は、フレーム部14(図2参照)及び保護カバー(図示省略)を有し、フレーム部14及び保護カバーは、前処理装置1の装置上部の外形を構成する。また、これらの部材により、装置の内部空間が外部から遮断されている。
【0060】
また、前処理装置1は、フレーム部14及び保護カバーで覆われた内部空間に、上記の各部材が配置収容され、へパフィルター等で内部空間のクリーン度を高めることが可能に構成されている。
【0061】
また、前処理装置1には開閉部(図示省略)が設けられ、装置内部と外部との間で、作業者が、ストマッカー袋、フィルム培地、チップ及び試験管等を搬入または搬出できるように構成されている。
【0062】
[各構成部の説明]
続いて、前処理装置1の各構成部について説明する。
[スタンド部]
スタンド部2は、試料を内部に収納したストマッカー袋15を、複数配置しておく部分である(図1図4、及び図6参照)。このスタンド部2に、微生物検査の対象となる試料を収納したストマッカー袋15がセットされ、前処理装置1の各構成部が担う工程に、ストマッカー袋15が供される。
【0063】
なお、ここでいうストマッカー袋15が、本願請求項における収納袋に相当する部材である。
【0064】
また、前処理装置1で用いられるストマッカー袋15は、上端に開口部が形成された樹脂製の袋状体であり、内部には滅菌処理が施されている(図5(a)及び図5(b)参照)。
【0065】
また、ストマッカー袋15には、フィルター150が設けられており、フィルター150を介して、ストマッカー袋15の内部空間は、試料領域151と、濾過領域152に仕切られている。
【0066】
このストマッカー袋15の試料領域151は、検査対象となる試料が収納される空間である。また、フィルター150は、滅菌リン酸緩衝液等の希釈溶液は透過可能であり、試料片や試料と混在した異物等、一定サイズ以上の粒子を捕集する濾過部材である。また、濾過領域152は、ストマッカー用分注機4が注入した希釈溶液、及び、フィルター150を透過した希釈溶液が入る部分である。
【0067】
また、ストマッカー袋15の上部にはクリップ部16が取り付けられている(図5(a)及び図5(b)参照)。クリップ部16は、ストマッカー袋15の上部を両側から挟み込んで固定し、搬送部13がストマッカー袋15を搬送する際に、搬送部13に把持される部分となる。なお、ここでいうクリップ部16が、本願請求項におけるクリップ部に相当する部材である。
【0068】
また、クリップ部16は、その端部側に採取口160が形成されている。この採取口160は、ストマッカー袋15の濾過領域152に連通して形成され、希釈溶液をストマッカー袋15の内部に注入する際や、ストマッカー処理後の希釈溶液を、内部から採取する際に用いられる開口部である。
【0069】
なお、ここでいう採取口160が、本願請求項における採取口に相当する部材である。
【0070】
ここで、必ずしも、ストマッカー袋15にフィルター150が設けられる必要はなく、本発明の前処理装置1では、フィルター150を有しないストマッカー袋を用いることも可能である。この場合にも、ストマッカー袋の上端の開口部にクリップ部16が取り付けられる。但し、フィルター150により、一定サイズ以上の粒子を捕集することで、ストマッカー処理後の溶液に、試料片等が含まれにくくなり、後の工程の段階希釈の精度や、培地への接種に及ぼす不具合を減らすことができる。
【0071】
また、図5に示すように、クリップ部16の採取口160が設けられた方の端部には、第1の凸部161が形成され、その反対の端部には第2の凸部162が形成されている。
【0072】
これらの第1の凸部161及び第2の凸部162は、スタンド部2に設けられた嵌合部(符号省略)と嵌合して、スタンド部2における、個々のクリップ部16及びストマッカー袋15の配置位置、高さ及び向きを規定する部分となる。また、ここで規定された位置に、搬送部13が移動してきて、クリップ部16を把持するものとなる。
【0073】
そのため、スタンド部2では、決まった位置、高さ及び向き(図6(b)において、図中の下方向に採取口160が位置する向き)で、複数のストマッカー袋15が収容され、配置される。なお、天秤3及びストマッカー5においても、第1の凸部161及び第2の凸部162と対応する嵌合部が設けられ、ストマッカー袋15の配置位置、高さ及び向きが規定されている。
【0074】
ここで、必ずしも、クリップ部16の端部側に採取口160が形成される必要はなく、クリップ部16のいずれかの位置に、溶液を注入、または、採取可能な開口部が形成されていれば充分である。但し、ストマッカー袋15にフィルター150を設けて、その内部に濾過領域152が形成された際に、試料溶液が採取しやすくなる点から、クリップ部16の端部側に採取口160が形成されることが好ましい。
【0075】
また、必ずしも、クリップ部16の両端部に、第1の凸部161及び第2の凸部162が形成される必要はなく、スタンド部2、天秤3及びストマッカー5において、ストマッカー袋15の配置位置、高さ及び向きが規定可能な構造となっていれば、具体的な構造は特に限定されるものではない。
【0076】
[天秤]
天秤3は、クリップ部16を含むストマッカー袋15と、ストマッカー袋15の内部の試料領域151に収納された試料の、合計の質量を測定する部材である(図1参照)。即ち、1つずつの試料の質量が天秤3で測定される。なお、ここでいう天秤3が、本願請求項における秤量部に相当する部材である。
【0077】
また、天秤3は、ストマッカー袋15を保持する保持部と、保持部で保持したストマッカー袋15(クリップ部16及び試料含む)の質量を測定する計測部で構成されている(符号省略)。保持部には、第1の凸部161及び第2の凸部162と対応する嵌合部が設けられ、同部分を介して、ストマッカー袋15を保持する。
【0078】
また、前処理装置1では、使用されるクリップ部16を含むストマッカー袋15の質量が予め記録されており(空の質量)、PC制御部(図示省略)により、天秤3で測定した測定値から、この空の質量を引いて、個々の試料の質量が算出可能に構成されている。
【0079】
また、ストマッカー用分注機4は、天秤3で質量を測定されたストマッカー袋15に対して、滅菌リン酸緩衝液等の希釈溶液を注入する部材である(図1図3及び図4参照)。
【0080】
このストマッカー用分注機4は、希釈溶液が収容されたタンクと、タンクと連通して希釈溶液を排出する注入部と、天秤3の保持部に保持されたストマッカー袋15における採取口160に、注入部を位置させるように機器全体を移動させる駆動部で構成されている(図示省略)。
【0081】
また、ストマッカー用分注機4の注入部から採取口160に注入される希釈溶液の量は、天秤3の計測部で計測した試料の質量に対して、10倍希釈となるように、PC制御部が注入量を制御している。即ち、ストマッカー用分注機4は、個々の試料の質量に応じて、所定の希釈倍率となるように、自動で希釈溶液を注入可能に構成されている。
【0082】
なお、ここでいうストマッカー用分注機4及びPC制御部が、本願請求項における試料調製部に相当する部材である。また、10倍希釈とは、例えば、試料の質量が10gであれば、希釈溶液が90g注入され、合計100gとなるように希釈するものを意味している。
【0083】
また、スタンド部2に配置された試料入りのストマッカー袋15は、搬送部13を介して、天秤3の保持部に搬送されるように構成されている。
【0084】
ここで、必ずしも、ストマッカー用分注機4が採取口に注入する希釈溶液の量が、天秤3の計測部で計測した試料の質量に対して、10倍希釈となるように設定されるものではなく、微生物検査の条件等に合わせて、希釈倍率を変えることも可能である。
【0085】
[ストマッカー]
ストマッカー5は、試料及び希釈溶液を入れたストマッカー袋15に押圧力を与え、試料を破砕分散させて懸濁化することによって、試料中の細菌を希釈溶液に抽出する部材である(図1図4及び図7参照)。なお、ここでいうストマッカー5が、本願請求項におけるホモジナイザーに相当する部材である。
【0086】
また、ストマッカー5は、ストマッカー袋15を配置して固定する袋配置部50と、袋配置部50に固定されたストマッカー袋15に押圧力を付与するパドル部51及びパドル部52を有している(図7(a)及び図7(b)参照)。
【0087】
なお、ここでいう袋配置部50が、本願請求項における袋配置部に相当する部材であり、ここでいうパドル部51及びパドル部52が、本願請求項における破砕部に相当する部材である。
【0088】
また、袋配置部50には、1つのストマッカー袋15を配置して固定することが可能である。袋配置部50は、ストマッカー袋15の上部を両側から挟んで固定する閉塞ローラー部500と、受けローラー部501を有している。なお、ここでいう、閉塞ローラー部500と受けローラー部501が、本願請求項における閉塞機構に相当する部材である。
【0089】
この閉塞ローラー部500と受けローラー部501は、搬送部13が、ストマッカー袋15を袋配置部50に置いた際に、後述するように、PC制御部を介して、往復運動におけるパドル部51及びパドル部52の移動距離が制御され、希釈溶液が分注されたストマッカー袋15を、2つの押圧面510及び押圧面520が押圧し、希釈溶液の液面を上昇させつつ、ストマッカー袋15の内部の空気を一定量除去した時に、ストマッカー袋15の上部を両側から挟んで、閉塞する部材である。
【0090】
また、袋配置部50には、クリップ部16の第1の凸部161及び第2の凸部162と対応する嵌合部が設けられ(図示省略)、ストマッカー袋15の配置位置、高さ及び向きが規定されている。
【0091】
また、パドル部51及びパドル部52は、パドルシャフトを介してモーターに接続され(符号省略)、ストマッカー5の本体53と袋配置部50とを結ぶ直線方向(パドルシャフトの延びる方向)において往復運動が可能に構成されている。
【0092】
また、パドル部51及びパドル部52の先端面には、ストマッカー袋15と当接して押圧力を付与する、板状の押圧面510及び押圧面520が、それぞれ設けられている。なお、ここでいう押圧面510及び押圧面520が、本願請求項における押圧面に相当する部材である。
【0093】
また、押圧面510及び押圧面520は、袋配置部50に固定されたストマッカー袋50の側面と略平行な面を有している。また、押圧面510及び押圧面520は、鉛直方向において、同一の高さ位置に設けられている。
【0094】
ここで、必ずしも、ストマッカー5の構造は、袋配置部50と、2つのパドル部51及びパドル部52を有するものに限定されるものではなく、ストマッカー袋中の試料に押圧力を付与して、試料を破砕分散させて懸濁化することが可能な装置であれば、種々の機構を採用することができる。例えば、破砕部として、パドル部の代わりに、回転する2つのローラーでストマッカー袋15を挟んで、回転しながら押圧力を付与するローラー機構を採用することもできる。但し、後述するように、2つのパドル部の動きを用いて、ストマッカー処理後の試料溶液を採取しやすくなることから、ストマッカー5は、2つのパドル部51及びパドル部52を有することが好ましい。
【0095】
また、必ずしも、ストマッカー5が有するパドル部の数は2つに限定されるものではなく、単一のパドル部や、3つ以上のパドル部を設けた構造とすることも可能である。但し、後述するように、ストマッカー処理後の試料溶液を採取する際に、2つのパドル部の押圧面の位置を揃えて、試料溶液の液面を均一に上昇させることができる点から、パドル部は少なくとも2つ以上設けられることが好ましい。
【0096】
また、パドル部51及びパドル部52の往復運動は、PC制御部を介して、往復運動の速度が制御可能に構成されている。これにより、試料の種類、破砕状態、希釈溶液の注入量等により、パドル部51及びパドル部52で押圧する際の負荷が変化しても、一定の速度でパドル部を往復運動させ、試料の破砕条件を一定に揃えやすくなる。この結果、破砕条件に伴う誤差が減り、培養検査結果において、系統的なデータを得やすくなる。
【0097】
また、パドル部51及びパドル部52における往復運動の速度が制御することで、1つのストマッカー袋15に対して、パドル部51と、パドル部52が押圧するタイミングを異ならせて、2つのパドル部51、52で交互にストマッカー袋15を押圧することができる。この結果、試料の破砕効率を高めることができる。
【0098】
また、往復運動の速度を制御して、移動方向に沿った、2つの押圧面510及び押圧面520の位置を揃えて、ストマッカー袋15を押圧することができる。
【0099】
また、パドル部51及びパドル部52の往復運動は、PC制御部を介して、往復運動におけるパドル部51及びパドル部52の移動距離が制御可能に構成されている。即ち、移動方向に沿った、2つの押圧面510及び押圧面520の位置を変えることができる。また、パドル部51及びパドル部52の移動距離は、ストマッカー用分注機4が注入した希釈溶液の量に応じて、設定された位置に移動するように制御されている。
【0100】
これにより、希釈溶液の量に合わせて、2つのパドル部の移動方向において、押圧面510及び押圧面520の位置を変え、ストマッカー袋15を押す力を変えて、内部の希釈溶液の液面の高さを調整することができる。
【0101】
このようなパドル部の往復運動の制御により、ストマッカー処理を経たストマッカー袋15中の、破砕後の試料が懸濁した希釈溶液を、後述する溶液分注機17で採取する際に、ストマッカー袋15の中の希釈溶液の液面の高さを調整することができる。
【0102】
より詳しくは、図8を用いて説明する。図8(a)に示すように、ストマッカー処理を経たストマッカー袋15に対して、図中の符号Xで示す方向において、各パドル部の押圧面510及び押圧面520の位置を合わせて、同じ速度でストマッカー袋15の方に移動させる。
【0103】
また、図8(b)に示すように、各パドル部の押圧面510及び押圧面520は、図中符号Xで示す方向の位置が揃った状態で、ストマッカー袋15の側面に当接しながら、ストマッカー用分注機4が注入した希釈溶液の量に応じて設定された位置まで移動する。
【0104】
このような各パドル部の動きにより、ストマッカー袋15の中の希釈溶液の液面の高さ位置は、図8(a)に示す符号L1の位置から、図8(b)に示す符号L2の位置まで上昇する。この符号L2の位置は、溶液分注機17におけるピペット部のチップが、クリップ部16の採取口16を通過して、一定の量の希釈溶液を採取することが可能な高さ位置(範囲)である。
【0105】
また、図8(a)及び図8(b)の符号Xで示す方向において、各パドル部の押圧面510及び押圧面520の位置が揃えられたことで、1つのストマッカー袋15の側面に対して、均等に押圧力を付与することができる。この結果、ストマッカー袋15の内部空間で液面の高さがばらつくことなく、所望の位置(L2)まで、希釈溶液の液面を上昇させることができる。
【0106】
ここで、必ずしも、ストマッカー処理後の試料溶液を採取する際に、2つのパドル部の動きを用いて、試料溶液の液面を上昇させる必要はなく、パドル部とは別に、ストマッカー袋15に対して押圧力を付与する機構を設けて、試料溶液の液面を上昇させる態様も採用しうる。
【0107】
[搬送部]
搬送部13は、クリップ部16を取り付けたストマッカー袋15を、スタンド部2、天秤3、及び、ストマッカー5との間で搬送する機構である(図1図3及び図4参照)。なお、搬送部13が、本願請求項における搬送機構に相当する部材である。
【0108】
また、搬送部13は、クリップ部16を把持することで、ストマッカー袋15を把持する把持アーム130(図3及び図4参照)と、搬送レール131と、搬送レール131に沿って、把持アーム130を移動させると共に、鉛直方向に沿って、把持アーム130を移動させる駆動部132(図1図3及び図4参照)を有している。
【0109】
また、把持アーム130におけるクリップ部を把持するアーム部(符号省略)の開閉動作、搬送レール131に沿った把持アーム130の移動、及び、鉛直方向に沿った把持アーム130の移動は、PC制御部により、その動きが制御されている。
【0110】
ここで、必ずしも、搬送部13が、把持アーム130、搬送レール131及び駆動部132を有する必要はなく、所望の位置に、クリップ部16を取り付けたストマッカー袋15が搬送可能であれば、具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0111】
[溶液分注機]
溶液分注機17は、ストマッカー処理を経て、ストマッカー5の袋配置部50に置かれたストマッカー袋15の中から、破砕後の試料が懸濁した試料溶液を採取して、これを搬送し、次工程の段階希釈用の希釈液の入った試験管に、採取した試料溶液を注入する部材である。また、溶液分注機17は、段階希釈時の溶液の採取と分注、及び、段階希釈した試料溶液を、培地に接種する部材である。なお、ここでいう溶液分注機17が、本願請求項における試料採取部に相当する部材である。
【0112】
また、溶液分注機17は、ディスポーザブルのチップを着脱可能なピペット部と、ピペット部の位置を移動させる駆動部で構成されている(符号省略)。
【0113】
また、駆動部は、滅菌済みのチップが配置されたチップラック11と、袋配置部50に配置されたストマッカー袋15のクリップ部16の採取口160と、後述する試験官ミキサー6にセットされた希釈用の試験管と、フィルム開閉部7の吸引部70が保護フィルム102を持ち上げる位置と、使用済みのチップを捨てるチップ廃棄部の各位置に移動できるように、PC制御部を介して、水平方向及び鉛直方向の移動が制御されている。
【0114】
また、ピペット部は、チップの着脱、溶液の吸い上げ、溶液の分注等について、PC制御部を介して、各動作が制御されている。
【0115】
[試験管ミキサー]
試験管ミキサー6は、段階希釈用の希釈液を試験管に分注して、溶液分注機17と協働して、ストマッカー袋15から採取した、破砕後の試料を懸濁化した希釈溶液を段階希釈する部材である(図1図2及び図4参照)。なお、ここでいう溶液分注機17と、試験管ミキサー6が、段階希釈部に相当する部材である。
【0116】
また、試験官ミキサー6は、段階希釈時に試験管を保持する試験管保持部(符号省略)と、希釈溶液を収容したタンク(符号省略)と、タンクと連通して希釈溶液を所定の量、試験管保持部に保持された空の試験管に分注する希釈液分注部(符号省略)と、試験管ラック12から試験管を搬送する搬送ハンドユニット8(図1参照)を有している。
【0117】
また、試験官ミキサー6は、試験管保持部で保持した試験管に振動を与えて、試験官中の溶液を攪拌する攪拌部と、溶液分注機17のピペット部の使用済みのチップを捨てるチップ廃棄部を有している(符号省略)。
【0118】
また、試験管ミキサー6は、試験管保持部で、2つの空の試験管を保持でき、この空の試験管に、希釈液として、滅菌リン酸緩衝液等を一定量ずつ分注して、当初の試料を基準に、100倍希釈、及び、1000倍希釈の希釈溶液を調製可能に構成されている。
【0119】
即ち、天秤3で注入された希釈溶液により、当初の試料は10倍希釈され(1/10試料液)、試験管ミキサー6において、更に、100倍希釈(1/100試料液)及び1000倍希釈(1/1000試料液)へと段階希釈されるものとなる。
【0120】
また、溶液分注機17は、ストマッカー袋15から採取した希釈溶液の希釈溶液への分注(100倍希釈)、攪拌後の溶液の採取、さらなる希釈溶液への分注(1000倍希釈)、及び、使用済みチップの廃棄を行うように構成されている。
【0121】
ここで、試験管ミキサー6は、溶液分注機17と協働して、希釈溶液を入れた試験管中で、段階希釈を自動で行うことが可能であれば、具体的な構造は特に限定されるものではなく、種々の機構が採用しうる。
【0122】
[フィルム開閉器、溶液分注機、スプレッダー機及び培地ストッカー]
培地ストッカー10は、使用前後のフィルム状培地が置かれる部材であり、別途の移動フレーム(図示省略)との間で、フィルム状培地を受け渡しする部分である。また、培地ストッカー10には、搬出用ストッカー(図示省略)が配置されている。試料溶液を接種した後のフィルム状培地は、搬出用ストッカーへ自動で搬出され、搬出用ストッカーごと、前処理装置1の外部に搬出されるように構成されている。
【0123】
また、前処理装置1では、試料溶液を接種して微生物検査を行う培地として、フィルム状培地100(図9参照)が用いられている。フィルム状培地100は、微生物を培養可能な培地を含むシート状の培地本体101と、培地本体を覆う保護フィルム102で構成されている(図示省略)。
【0124】
なお、ここでいうフィルム状培地100が、本願請求項におけるフィルム培地であり、ここでいう培地本体101が、本願請求項におけるフィルム培地本体であり、さらに、ここでいう保護フィルム102が、本願請求項における保護フィルムである。
【0125】
また、フィルム状培地100は、プレート状の培地に比べて、全体のサイズが小さく、厚みも小さいため、培地ストッカー10に数十枚単位でセットしておくことが可能である。なお、フィルム状培地100は、既知の微生物検査用のフィルム状培地を用いることができ、その詳細な構造の説明は省略する。
【0126】
フィルム開閉器7は、使用前のフィルム状培地100が搬送されて、配置され、試料溶液の接種前には、保護フィルム102を持ち上げて、培地本体101に試料溶液が接種可能な状態にする部材である。また、フィルム開閉器7は、培地本体101に試料溶液を接種した後、持ち上げた保護フィルム102を下ろして、再度、保護フィルム102で培地本体101を覆った状態にする部材である。
【0127】
なお、ここでいうフィルム開閉器7が、本願請求項におけるフィルム持ち上げ機構である。
【0128】
また、フィルム開閉器7は、保護フィルム102を吸引して把持する吸引部70を有している。即ち、吸引部70で吸引することで、保護フィルム102を持ち上げることができる。また、吸引部70の吸引を停止して、保護フィルム102を持ち上げた状態から、下ろすことができる。
【0129】
フィルム開閉器7には、複数の吸引部70が設けられ、一度に、複数のフィルム状培地100を処理可能に構成されている(図9参照)。また、フィルム開閉器7に動作は、PC制御部によって制御されている。
【0130】
ここで、必ずしも、フィルム開閉部7が吸引部70を有する必要はなく、所望のタイミングで、フィルム状培地100の保護フィルム102を持ち上げて、かつ、下すことができれば、本動作を行う機構の内容は特に限定されるものではない。
【0131】
また、溶液分注機17は、フィルム開閉部7の吸引部70が、フィルム状培地100の保護フィルム102を持ち上げた状態で、培地本体102に向けて、試験管ミキサー6で段階希釈した試料溶液を接種する部材である。
【0132】
スプレッダー機9は、溶液分注機17が試料溶液を接種して、フィルム開閉部7が、保護フィルム102を培地本体101に下した後に、保護フィルム102を押圧して、培地本体101上に、試料溶液を均一に広げるスプレッド処理を行う部材である(図11(d)参照)。
【0133】
また、スプレッダー機9は、試料溶液を接種した複数のフィルム状培地100を載置した移動フレームが、スプレッダー機9の下方に移動した状態で、鉛直方向に駆動して、保護フィルム102の上方から押圧力を付与するように構成されている。
【0134】
また、スプレッダー機9でスプレッド処理された複数のフィルム状培地100は、移動フレームに載置されたまま、培地ストッカー10に搬送され、搬出用ストッカーへと自動で搬出されるように構成されている。
【0135】
ここで、本発明の微生物検査用前処理装置は、上記の前処理装置1のように、フィルム状培地を対象とした装置機構を有するものに限定されるものではなく、プレート状の培地を処理する装置機構を有する態様とすることもできる。この場合、プレート状培地を、自動で処理するのに適した、培地ストッカー、プレート開閉器、及び、スプレッダー機を設けるものとなる。
【0136】
また、前処理装置1は、図示しない印字機構を備えている。印字機構は、フィルム状培地の所定の位置に、個々のフィルム状培地100を識別するための識別情報を印字する機構である。識別情報とは、例えば、試料の種類、供給元の情報、受入日時、検査実施日、検体番号、作業者名、検査項目、希釈乗数、検査のn数等の情報が含まれる。
【0137】
また、印字機構は、試料溶液の接種前、及び、試料溶液の接種後のいずれのタイミングでもフィルム状培地100に印字することが可能に構成されている。
【0138】
また、印字機構は、PC制御部によって、識別情報の内容や、印字対象となるフィルム状培地の選択等が制御されている。なお、ここでいう印字機構が、本願請求項における識別情報付与機構に相当する部材である。
【0139】
ここで、本発明における識別情報付与機構は、印字機構に限定されるものではなく、培地を識別可能な情報が付与できるものであれば、種々の機構が採用しうる。例えば、インクジェット、レーザー、サーマルプリンタ等の印字機構や、シールを張り付けるシール付与機構を用いることができる。
【0140】
PC制御部(図示省略)は、前処理装置1の各構成部及び機構の動作を制御する部分である。PC制御部は、上述した内容の制御の他、例えば、ストマッカー5によるストマカー処理を行う時間の設定、溶液分注機17がフィルム状培地100に接種する試料溶液の滴下量等も制御することが可能である。
【0141】
ここで、前処理装置1の各構成部及び機構の動作が、必ずしもPC制御部で制御される必要はなく、例えば、PLC制御部を用いて各制御を行うことも可能である。
【0142】
続いて、本発明を適用した微生物検査用前処理方法の一例として、上述した前処理装置1を用いた具体的な試料の前処理方法の事例を説明する。なお、以下で説明する内容はあくまで一例であり、本発明を適用した微生物検査用前処理方法は、適宜変更することが可能である。
【0143】
図10及び図11には、前処理装置1を用いた各構成部における試料の処理の流れを概略的に示している。
【0144】
まず、前処理装置1を用いた処理方法では、微生物の有無または菌数を検出したい検査対象の試料として、食品、医薬品、化粧品、化学工業品、環境水、土壌等、様々な種類の対象物が取扱い可能である。
【0145】
例えば、食品検査であれば、食品売り場の野菜、鮮魚、加工食品、弁当の具材等が試料となる。食品検査では一般的に、生菌数測定と、大腸菌群測定の検査を行う。このような検査の対象としたい試料を、細分化する等して、ストマッカー袋15に収容可能なサイズ(例えば、10~25g等)に調製する。
【0146】
そして、一定のサイズになった試料をストマッカー袋15の内部の試料領域151に入れる(図10(a)参照)。試料を入れた後、ストマッカー袋15の上端の開口部をクリップ16で挟んで固定して、ストマッカー袋15の開口部を閉塞する(図10(b)参照)。
【0147】
また、ストマッカー袋15は、検査対象としたい試料の数に合わせて準備する。そして、試料を入れたストマッカー袋15を、前処理装置1のスタンド2にセットする(図10(c)参照)。
【0148】
また、使用する各種の消耗品(希釈溶液、チップ、フィルム状培地等)を、前処理装置1の内部にセットする。また、PC制御部で制御する各種条件(ストマッカー処理の時間、希釈倍率、生菌数測定用及び大腸菌群測定用の培地の種類、n数、印字する識別情報等)を作業者が設定して、自動操作を実行する。なお、ここまでの流れは、作業者の手作業で行われる。
【0149】
また、ここから先の、スタンド2に複数のストマッカー袋15が置かれた状態から、試料の秤量、希釈溶液の注入、ストマッカー処理、ストマッカー処理後の試料溶液の採取、試料溶液の段階希釈、フィルム状培地への試料溶液の接種、スプレッド処理、フィルム状培地への識別情報の印字、排出用ストッカーへの搬出の各作業は、全て前処理装置1を介して自動操作で行われる。
【0150】
作業者が、前処理装置1の自動操作を実行すると、スタンド2に配置された試料入りのストマッカー袋15が、搬送部13により天秤3へと搬送される。搬送部13の搬送アーム130がクリップ部16を把持して、ストマッカー袋15は、天秤3の保持部へと搬送される(図10(d)参照)。
【0151】
また、天秤3では、保持部に保持されたストマッカー袋15の質量が計測される(図10(d)参照)。天秤3では、ストマッカー袋15と試料の合計の質量が計測され、PC制御部が、予め記録したストマッカー袋15のみの質量を引いて、試料のみの質量が算出される。例えば、試料の質量が10gと算出されたとする。
【0152】
次に、ストマッカー用分注機4が、天秤3の保持部に保持されたストマッカー袋15の方に移動する。ストマッカー用分注機4は、その注入部が、クリップ部16の採取口の位置(図10(e)参照)に来るように移動して、試料の質量に対して、10倍希釈となるように滅菌リン酸緩衝液を分注する。ここでは、10gの試料に対して、90gの滅菌リン酸緩衝液が入れられる。
【0153】
このように、天秤3で測定した試料の質量に応じて、10倍希釈となるように滅菌リン酸緩衝液の量が自動で算出され、ストマッカー用分注機4がストマッカー袋15に注入する。
【0154】
また、滅菌リン酸緩衝液が注入されたストマッカー袋15は、搬送部13によりストマッカー5へと搬送される。この搬送時においても、搬送アーム130がクリップ部16を把持することで、安定した搬送が可能となる。
【0155】
続いて、搬送部13がストマッカー袋15を、ストマッカー5の袋配置部50に搬送して、袋配置部50にストマッカー袋15が配置される(図10(f)参照)。そして、各パドル部の押圧面510及び押圧面520は、ストマッカー袋15に当接し、その側面を押圧しながら、ストマッカー用分注機4が分注した滅菌リン酸緩衝液の液量に応じて設定された位置まで、押圧面510及び押圧面520が移動し、ストマッカー袋15の空気を上部から抜いていく。
【0156】
また、押圧面510及び押圧面520が設定位置まで来ると、閉塞ローラー部500が、ストマッカー袋15の方に向けて進み、ストマッカー袋15の上部を、閉塞ローラー部500と、受けローラー部501で挟んで、ストマッカー袋15の上部を閉塞する。これにより、ストマッカー処理の際に、希釈溶液が、ストマッカー袋15の上部から外部に飛び出ることを抑止する。
【0157】
また、ストマッカー5では、閉塞ローラー部500と、受けローラー部501が、ストマッカー袋15の上部を挟んで固定した後に、2つのパドル部51及びパドル部52が交互に往復運動して、ストマッカー袋15に押圧力を付与する。
【0158】
この各パドル部によるストマッカー処理により、滅菌リン酸緩衝液の中に試料が破砕分散され、懸濁化することで、溶液中に試料中の細菌が抽出される。また、ストマッカー処理は、設定した条件(処理時間及びパドルの速度)で実行される。
【0159】
また、ストマッカー5でのストマッカー処理が終了すると、2つのパドル部51及びパドル部52は、各パドル部がストマッカー袋15に向かう方向において、押圧面510及び押圧面520の位置を揃え、ストマッカー袋15に向けて進む(図10(g)参照)。
【0160】
そして、各パドル部の押圧面510及び押圧面520は、ストマッカー袋15に当接し、その側面を押圧しながら、ストマッカー用分注機4が分注した滅菌リン酸緩衝液の液量に応じて設定された位置まで、押圧面510及び押圧面520が移動する(図10(h)参照)。
【0161】
このように、押圧面510及び押圧面520が滅菌リン酸緩衝液の液量に応じて設定された位置まで移動して、ストマッカー袋15を押圧することで、内部の液面の高さ位置を、溶液分注機17のピペット部のチップで採取可能な位置(図10(h)中の符号L2で示す位置)まで上昇させることができる。
【0162】
また、押圧面510及び押圧面520が揃って移動することで、ストマッカー袋15に対して、均等に押圧力を付与し、液面の高さがばらつくことなく、所望の位置(L2)まで液面を上昇させることができる。なお、図10(g)では、上昇する前の液面の高さ位置を符号L1で示している。
【0163】
また、ストマッカー袋15内部の液面の高さ位置を上昇させた状態で、溶液分注機17のピペット部が、クリップ部16の採取口160の位置に移動して、ピペット部のチップで、試料溶液を1ml採取する。
【0164】
続いて、試料溶液を採取した溶液分注機17は、試験管ミキサー6の方に移動する(図11(a)参照)。試験管ミキサー6には、9mlの滅菌リン酸緩衝液が分注された2つの試験管が配置され、1つは1/100希釈用であり、もう1つは1/1000希釈用に用いられる。
【0165】
また、溶液分注機17は、試験管保持部に保持された1/100希釈用の試験管に試料溶液を分注する。また、試料溶液の分注後、試験管ミキサー6の攪拌部により、試験管が攪拌される。この作業により、試料が1/100希釈された希釈溶液が調製される。
【0166】
さらに、続いて、溶液分注機17は、チップを交換した後、ピペット部で1/100希釈した希釈溶液を1ml採取して、1/1000希釈用の試験管に試料溶液を分注する。また、試料溶液の分注後、試験管ミキサー6の攪拌部により、試験管が攪拌される。この作業により、試料が1/1000希釈された希釈溶液が調製される。このように、溶液分注機17と試験管ミキサー6が協働して、段階希釈が行われる。
【0167】
また、培地ストッカー10から、移動フレームを介して、複数のフィルム状培地100が、フィルム開閉器7の位置に供給される。フィルム開閉器7は、吸引部70によりフィルム状培地100の保護フィルム102を吸引して把持し、保護フィルム102を持ち上げた状態にする(図11(b)参照)。
【0168】
そして、溶液分注機17が、そのピペット部で、試験官ミキサー6で保持した試験官中の希釈溶液(1/100希釈または1/1000希釈)を採取して、保護フィルム102を持ち上げた状態の培地本体101の位置に移動する。溶液分注機17は、ピペット部で採取した試料溶液を、培地本体101に1ml滴下する(図11(c)参照)。
【0169】
また、試料溶液を滴下したフィルム状培地100では、フィルム開閉器7が保護フィルム102を下ろして、培地本体101が保護フィルム102で覆われた状態となる。さらに、スプレッダー機9が、保護フィルム102を上方から押圧して(図11(d)中の符号Yを付した矢印の方向)、培地本体101上に、試料溶液を均一に広げていく(スプレッダー処理)(図11(d)参照)。
【0170】
また、溶液分注機17による、フィルム状培地100への試料溶液の接種は、実施する試験のn数や、希釈溶液の濃度に合わせて、設定した条件に従って、必要な数だけ行われる。また、印字機構を介して、フィルム状培地100には、識別情報が印字される。
【0171】
続いて、スプレッダー処理を経たフィルム状培地100は、移動フレームを介して、培地ストック10に搬送され、搬出用ストッカーへと自動的に搬出される(図11(e)参照)。
【0172】
以上までの流れで、試料を入れたストマッカー袋15から、フィルム状培地100への接種が、前処理装置1により自動的に行われる。排出用ストッカーに入れられたフィルム状培地100は、前処理装置1の外部に搬出され、インキュベータにて培養を実施し、培養後のコロニー確認に供されるものとなる。
【0173】
このように、前処理装置1では、検査対象としたい試料をストマッカー袋15に入れ、前処置装置1のスタンド2にセットすることで、その後の作業は自動的に実施され、作業者の手を介することなく、培養前の段階のフィルム状培地を準備することができる。
【0174】
即ち、作業者は、試料入りのストマッカー袋15と、希釈溶液、チップ、フィルム状培地100等の消耗品を前処理装置にセットするだけの簡単な操作のみを行えばよく、非常に効率よく、微生物検査を実施することが可能となる。
【0175】
また、前処理装置1では、試料の秤量、希釈溶液、または、希釈溶液の分注、段階希釈、培地への試料溶液の接種、スプレッダー処理等、従前、人の手を介することで、誤差が生じていた各作業を自動化することで、正確な処理を実行でき、再現性の良い検査結果が得やすくなっている。
【0176】
以上のように、本発明の微生物検査用前処理装置は、微生物検査における試料の前処理を自動化することができ、正確、かつ、高い再現性を有する処理が可能なものとなっている。
また、本発明の微生物検査用前処理機構は、微生物検査における試料の前処理を自動化することができ、正確、かつ、高い再現性を有する処理が可能なものとなっている。
また、本発明の微生物検査用前処理方法は、微生物検査における試料の前処理を自動化することができ、正確、かつ、高い再現性を有する処理が可能なものとなっている。
【0177】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0178】
1 前処理装置
2 スタンド部
3 天秤
4 ストマッカー用分注機
5 ストマッカー
50 袋配置部
500 閉塞ローラー部
501 受けローラー部
51 パドル部
510 押圧面
52 パドル部
520 押圧面
53 本体
6 試験管ミキサー
60 プローブ
61 接触部
7 フィルム開閉器
70 吸引部
8 搬送ハンドユニット
9 スプレッダー機
10 培地ストッカー
11 チップラック
12 試験管ラック
13 搬送部
130 把持アーム
131 搬送レール
132 駆動部
14 フレーム部
15 ストマッカー袋
150 フィルター
151 試料領域
152 濾過領域
16 クリップ部
160 採取口
161 第1の凸部
162 第2の凸部
17 溶液分注機
100 フィルム状培地
101 培地本体
102 保護フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11