(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】混雑度推定装置、混雑度推定システム、混雑度推定プログラム及び学習方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/40 20240101AFI20240430BHJP
【FI】
G06Q50/40
(21)【出願番号】P 2021149312
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021046113
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521116587
【氏名又は名称】早川 智義
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 智義
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0077932(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0201092(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2030373(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第111984879(CN,A)
【文献】「バスのリアルタイム混雑度表示」の実証実験を開始,[online],株式会社ナビタイムジャパン,2021年01月12日,https://corporate.navitime.co.jp/topics/pr/202101/12_5322.html,[検索日 2024.02.02]
【文献】前川 勇樹,鉄道におけるBluetooth RSSI特性を用いた乗車車両および混雑の推定手法,情報処理学会論文誌,2014年06月,Vol.55 No.6,pp.1614-1624
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内の対象領域内の複数の携帯端末それぞれから発信された近距離無線信号であって、
前記車両の外部に設けられた無線通信モジュールで検出された
前記近距離無線信号の強度を示す受信信号強度のリストを含む入力データを取得するデータ取得部と、
前記入力データを入力とし、前記対象領域の現在の混雑の度合いを示す混雑度を出力とする学習済みモデルを含み、
前記車両毎に前記混雑度を推定する混雑度推定器と、
を備え
、
前記リストでは、前記無線通信モジュールによって前記近距離無線信号が検出されている前記複数の携帯端末が存在する前記車両の車両番号とその車両番号に対応する前記車両に存在する前記複数の携帯端末それぞれから発信された前記近距離無線信号の前記受信信号強度とが関連付けられており、
前記車両番号は、測距センサと前記車両との間の前記車両の移動方向に直交する水平な方向についての距離を測定する前記測距センサからの測距結果に基づいて特定されることを特徴とする混雑度推定装置。
【請求項2】
前記入力データは、前記リストの生成時刻を示す時刻情報をさらに含む、請求項1に記載の混雑度推定装置。
【請求項3】
前記対象領域は複数の目的地が設定された所定の区間を運行する車両内の領域であり、
前記入力データは、前記車両の次の目的地を示す目的地情報をさらに含む、請求項1又は2に記載の混雑度推定装置。
【請求項4】
前記対象領域は列車の鉄道車両内の領域であり、
前記入力データは、前記列車の編成数を示す編成数情報と、前記鉄道車両が運行している路線を示す路線情報と、前記複数の携帯端末と前記近距離無線信号を通信することにより前記受信信号強度を得る無線通信モジュールが前記列車の何号車に配置されたものであるかを示す車両番号特定情報と、のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の混雑度推定装置。
【請求項5】
前記入力データは、前記リスト中の各受信信号強度から得られる統計量、確率密度及び確率分布、前記近距離無線信号の総検出数、nを自然数とすると前記リストにおいて前記受信信号強度が小さい順からn番目にあたる前記受信信号強度、並びに前記リストにおいて所定の強度以下の受信信号強度の個数のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の混雑度推定装置。
【請求項6】
前記対象領域は車両内の領域であり、
情報提示装置と複数の携帯端末との少なくとも一方に前記混雑度が所定の基準より低い低混雑度車両を提示させる情報提示部と、
乗客が前記低混雑度車両の提示に基づいて前記低混雑度車両に移動したか否かを判断する移動判断部と、
前記移動した乗客の所有する前記携帯端末にインセンティブ情報を送信するインセンティブ情報送信部と、
を備える、請求項1から
5のいずれか1項に記載の混雑度推定装置。
【請求項7】
前記情報提示部は、前記情報提示装置に前記低混雑度車両を提示させる、請求項
6に記載の混雑度推定装置。
【請求項8】
インセンティブ情報送信部は、前記混雑度が相対的に小さい前記低混雑度車両に前記乗客が移動した場合には、前記混雑度が相対的に大きい前記低混雑度車両に前記乗客が移動した場合と比べて、経済的価値が大きい前記インセンティブ情報を送信する、請求項
6又は7に記載の混雑度推定装置。
【請求項9】
前記近距離無線信号に用いられる近距離無線通信方式は、Bluetooth(登録商標)である、請求項1から
8のいずれか1項に記載の混雑度推定装置。
【請求項10】
前記データ取得部は、前記複数の携帯端末と前記近距離無線信号を通信可能な無線通信モジュールにおいて得られる前記受信信号強度のリストを受信し、
前記無線通信モジュールは、前記混雑度推定装置とともに同じマイクロコントローラに内蔵されることを特徴とする請求項1から
9のいずれか1項に記載の混雑度推定装置。
【請求項11】
請求項1から
9のいずれか1項に記載の前記混雑度推定装置と、
前記混雑度推定装置の外部に設けられ、前記複数の携帯端末と前記近距離無線信号を通信可能な無線通信モジュールであって、ネットワークを介して前記混雑度推定装置と通信可能な無線通信モジュールと、
を備えることを特徴とする混雑度推定システム。
【請求項12】
プロセッサに、
車両内の対象領域内の複数の携帯端末それぞれから発信された近距離無線信号であって、
前記車両の外部に設けられた無線通信モジュールで検出された
前記近距離無線信号の強度を示す受信信号強度のリストを含む入力データを取得するステップと、
前記入力データを入力とし、前記対象領域の現在の混雑の度合いを示す混雑度を出力とする学習済みモデルを用いて、
前記車両毎に前記混雑度を推定するステップと、
を実行させ
、
前記リストでは、前記無線通信モジュールによって前記近距離無線信号が検出されている前記複数の携帯端末が存在する前記車両の車両番号とその車両番号に対応する前記車両に存在する前記複数の携帯端末それぞれから発信された前記近距離無線信号の前記受信信号強度とが関連付けられており、
前記車両番号は、測距センサと前記車両との間の前記車両の移動方向に直交する水平な方向についての距離を測定する前記測距センサからの測距結果に基づいて特定される、混雑度推定プログラム。
【請求項13】
コンピュータが、車両内の対象領域内の複数の携帯端末それぞれから発信された近距離無線信号であって、
前記車両の外部に設けられた無線通信モジュールで検出された近距離無線信号の強度を示す受信信号強度のリストを含む入力データと前記対象領域の現在の混雑の度合いを示す混雑度の正解データとの組を取得するステップと、
前記コンピュータが、前記入力データと前記正解データとの組を含む学習用データセットを生成するステップと、
前記コンピュータが、前記学習用データセットを用いて機械学習することにより、前記入力データを入力とし、
前記車両毎の前記混雑度を出力とする学習済みモデルを生成するステップと、
を含
み、
前記リストでは、前記無線通信モジュールによって前記近距離無線信号が検出されている前記複数の携帯端末が存在する前記車両の車両番号とその車両番号に対応する前記車両に存在する前記複数の携帯端末それぞれから発信された前記近距離無線信号の前記受信信号強度とが関連付けられており、
前記車両番号は、測距センサと前記車両との間の前記車両の移動方向に直交する水平な方向についての距離を測定する前記測距センサからの測距結果に基づいて特定されることを特徴とする学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混雑度推定装置、混雑度推定システム、混雑度推定プログラム及び学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、特定のエリアにおける混雑状況を推定する混雑状況推定システムが開示される。特許文献1の混雑状況推定システムでは、混雑検知端末によって検出された無線通信可能な携帯端末の数に基づいて、混雑検知端末が設置されたエリアの混雑状況を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象領域の混雑度をリアルタイムで高精度に監視するための新しい手法が求められている。この点、携帯端末から発信される近距離無線信号の受信信号強度は、データ量が比較的小さいことから解析時間が短くて済むため、リアルタイム性が要求される処理に用いられるのに適しているといえる。
【0005】
本発明の目的の1つは、対象領域の混雑度をリアルタイムで高精度に監視するための新しい手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、対象領域内の複数の携帯端末それぞれから発信される近距離無線信号の強度を示す受信信号強度のリストを含む入力データを取得するデータ取得部と、前記入力データを入力とし、前記対象領域の現在の混雑の度合いを示す混雑度を出力とする学習済みモデルを含み、前記混雑度を推定する混雑度推定器と、を備えることを特徴とする混雑度推定装置である。
【0007】
本発明の他の態様は、上記混雑度推定装置と、前記混雑度推定装置の外部に設けられ、前記複数の携帯端末と前記近距離無線信号を通信可能な無線通信モジュールであって、ネットワークを介して前記混雑度推定装置と通信可能な無線通信モジュールと、を備えることを特徴とする混雑度推定システムである。
【0008】
本発明のさらに他の態様は、プロセッサに、対象領域内の複数の携帯端末それぞれから発信される近距離無線信号の強度を示す受信信号強度のリストを含む入力データを取得するステップと、前記入力データを入力とし、前記対象領域の現在の混雑の度合いを示す混雑度を出力とする学習済みモデルを用いて、前記混雑度を推定するステップと、を実行させるための混雑度推定プログラムである。
【0009】
本発明のさらに他の態様は、対象領域内の複数の携帯端末それぞれから発信される近距離無線信号の強度を示す受信信号強度のリストを含む入力データと前記対象領域の現在の混雑の度合いを示す混雑度の正解データとの組を取得するステップと、前記入力データと前記正解データとの組を含む学習用データセットを生成するステップと、前記学習用データセットを用いて機械学習することにより、前記入力データを入力とし、前記混雑度を出力とする学習済みモデルを生成するステップと、を含むことを特徴とする学習方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象領域の混雑度をリアルタイムで高精度に監視するための新しい手法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の混雑度推定システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1の無線通信モジュールの機能ブロック図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は第1実施形態のRSSIのリストの例をそれぞれ示す図である。
【
図4】第1実施形態の混雑度推定装置の機能ブロック図である。
【
図5】第2実施形態の無線通信モジュールの配置例を示す図である。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は第2実施形態の鉄道車両2と測距センサ40とを上面視したときの図である。
【
図7】第2実施形態の無線通信モジュールの機能ブロック図である。
【
図8】第2実施形態のRSSIのリストの例を示す。
【
図9】第2実施形態の無線通信モジュールの配置例を示す。
【
図10】第3実施形態の混雑度推定システムの概略構成を示す図である。
【
図11】第3実施形態の携帯端末の機能ブロック図である。
【
図12】第3実施形態の混雑度推定装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
<第1実施形態>
(全体構成)
図1は、第1実施形態に係る混雑度推定システムの概略構成を示す。本実施形態の混雑度推定システム1は、鉄道車両2の乗客が所持する携帯端末5から発信される近距離無線信号を検出可能に構成された無線通信モジュール10と、鉄道車両2の現在の混雑の度合いを示す混雑度を推定する混雑度推定装置30と、情報提示装置50と、を含む。無線通信モジュール10及び情報提示装置50は、通信ネットワークNWを介して混雑度推定装置30と通信可能に構成される。
【0014】
携帯端末5は、鉄道車両2の乗客が携帯して使用する、例えば、スマートフォン、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、タブレット型コンピュータ、デジタルオーディオプレーヤー、これらと無線接続するイヤホン、ウェアラブルデバイスなどの近距離無線通信を利用する携帯端末装置である。本実施形態の携帯端末5が発信する近距離無線信号に用いられる近距離無線通信方式は、Bluetooth(登録商標)であり、具体的にはBLE(Bluetooth Low Energy(登録商標))である。
【0015】
無線通信モジュール10は、鉄道車両2内の複数の携帯端末5のそれぞれから発信される近距離無線信号の強度を示す受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を検出する。本実施形態の鉄道車両2は、対象領域の一例である。RSSIは負の値を取り、近距離無線信号を発信する携帯端末5と無線通信モジュール10との間の距離が大きくなるほど、RSSIは小さくなる(RSSIの絶対値は大きくなる)。無線通信モジュール10は、携帯端末5から発信される近距離無線信号を、例えば10秒~30秒毎に検出可能に構成される。無線通信モジュール10は、携帯端末5からの近距離無線信号に含まれる携帯端末5のMACアドレスを、通信ネットワークNWを通じて送信せずに破棄するように構成されている。
【0016】
無線通信モジュール10は、各鉄道車両2の天井面の中央部に配置される。この配置の場合、例えば、RSSIは、-40dBから-100dB程度の範囲の値をとる。無線通信モジュール10の受信半径(Bluetooth(登録商標)での通信半径)は例えば15m程度であるため、一台の無線通信モジュール10によって鉄道車両一両分の検出範囲がカバーされる。より詳細には、本実施形態の無線通信モジュール10は、無線通信モジュール10の配置された鉄道車両2に隣接する両側の鉄道車両2内の長手方向の半分程度までを検出範囲として含む(
図1参照)。
【0017】
無線通信モジュール10では、最大混雑時でも全ての携帯端末5からの近距離無線信号を検出できるように、その対象路線での最大混雑実績に基づいて、その検出可能な無線信号の総数が設定される。例えば、最大混雑実績が混雑率180%の路線を運行する鉄道車両2に設けられた無線通信モジュール10については、検出可能な無線信号の総数が鉄道車両2の定員×1.8倍以上に設定される。無線通信モジュール10は、鉄道車両2の蛍光灯電源に接続され、蛍光灯電源から電力供給される。
【0018】
図2は、
図1の無線通信モジュール10の機能ブロック図である。以下の図に示す各機能ブロックは、ハードウェア的には、演算機能、制御機能、記憶機能、入力機能、出力機能を有するコンピュータや、各種の電子素子、機械部品等で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックが描かれる。したがって、これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによって様々な形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。無線通信モジュール10は、記憶部11と、RSSI取得部12と、RSSIリスト生成部13と、RSSIリスト送信部14と、を含む。
【0019】
記憶部11は、無線通信モジュール10を識別するためのタグ番号や、後述するRSSIのリストを記憶している。RSSI取得部12は、各携帯端末5から発信された近距離無線信号のRSSIを取得して、RSSIリスト生成部13に供給する。RSSIリスト生成部13は、供給された各RSSIに基づいて、RSSIのリストを生成する。
【0020】
図3(a)~
図3(c)は、RSSIのリストの一例を示す。本例では、10秒毎に、
図3(a)のリスト、
図3(b)のリスト、
図3(c)のリストの順でそれぞれ異なるRSSIのリストが生成されている。
図3(a)~
図3(c)に示すように、RSSIのリストは、無線通信モジュール10のタグ番号と、各携帯端末5から取得した各RSSIを含む。一方で、無線通信モジュール10は携帯端末5のMACアドレスを送信せずに破棄するように構成されているため、RSSIのリストは携帯端末5のMACアドレスを含まない。RSSIリスト生成部13は、RSSIのリストを生成したタイミングでRSSIリスト送信部14に供給するとともに、記憶部11に記憶させる。
【0021】
RSSIリスト送信部14は、供給されたRSSIのリストを混雑度推定装置30に送信する。このとき、RSSIリスト送信部14は、記憶部11からその無線通信モジュール10のタグ番号を読み出し、例えばLTE-M方式を用いて、RSSIのリストを通信ネットワークNWを介してタグ番号と共に混雑度推定装置30に送信する。
【0022】
混雑度推定装置30は、無線通信モジュール10から受信したRSSIに基づいて、後述の学習済みモデル103aを用いて鉄道車両2の混雑度を推定する。本実施形態の混雑度推定装置30は、列車を構成する複数の鉄道車両2の各々について、6段階で混雑度を出力する。例えば、1段階目の混雑度1は、座席に空きがあるような状況(座席が0~50%埋まっている状況)を示す。例えば、2段階目の混雑度2は、座席がほとんど埋まっているような状況(座席が51~100%埋まっている状況)を示す。例えば、3段階目の混雑度3は、立って乗車できる状況(座席が埋まっており且つ吊革が0~50%埋まっている状況)を示す。例えば、4段階目の混雑度4は、混雑している状況(座席が埋まっており且つ吊革が51~100%埋まっている状況)を示す。例えば、5段階目の混雑度5は、鉄道車両内で身動きができない状況(座席が埋まっており且つ吊革が51~100%埋まっており、さらに吊革の間に人がいる状況)を示す。例えば、6段階目の混雑度6は、鉄道車両2に乗車できない状況(鉄道車両2の乗降口まで満員のような状況)を示す。
【0023】
図1を再び参照すると、混雑度推定装置30は、制御装置31と、記憶装置32と、通信装置33と、を含む。制御装置31は、例えば、CPU、GPU、DSP等によって構成される。記憶装置32は、例えば、ROM、RAMなどの各種メモリによって構成される。記憶装置32は、通信装置33を介して取得した各種データ等を記憶する。また、記憶装置32は、制御装置31における各種制御を実行するための各種プログラムや学習済みモデル103aを記憶している。通信装置33は、通信ネットワークNWを介して無線通信モジュール10及び情報提示装置50との間のデータ通信を行う。
【0024】
情報提示装置50は、混雑度推定装置30から受信した各鉄道車両2の混雑度を提示する。情報提示装置50は、次に到着する列車の鉄道車両毎の混雑度を、例えば、駅の電光掲示板に表示させたり、音声案内させることができる。情報提示装置50は、携帯端末5、駅務室等に設けられたPC、駅改札口やプラットホームに設けられたモニター、サイネージ等であってもよい。情報提示装置50が例えば駅務室等に設けられたPC等である場合、情報提示装置50は混雑度推定装置30や列車の車両室等に設けられた管理装置等に情報を送信してもよい。
【0025】
図4は、
図1の混雑度推定装置30の機能ブロック図である。
図4の混雑度推定装置30は、記憶部101と、データ取得部102と、混雑度推定器103と、情報提示部104と、データセット生成部105と、学習部106と、を含む。
【0026】
記憶部101は、学習済みモデル103aの各種の入力データを格納している。例えば、記憶部101は、RSSIのリストや無線通信モジュール10が設置された鉄道車両2に関する各種データ等を無線通信モジュール10のタグ番号に紐付けて記憶している。ここでのRSSIのリストは、機械学習用に蓄積した過去の複数のRSSIのリストを含む。また、記憶部101は、学習済みモデル103aの入力データとその入力データの各々に対して付与された混雑度の正解データとの組を記憶している。本実施形態では、鉄道車両2の混雑度を目視により上述の6段階で評価し、その評価結果を混雑度の正解データとして予め記憶部101に記憶させておく。
【0027】
データ取得部102は、学習済みモデル103aの各種の入力データを取得する。例えば、データ取得部102は、学習済みモデル103aの入力データとして、無線通信モジュール10から送信されたRSSIのリストを通信装置33を介して受信する。ここでのRSSIのリストは、無線通信モジュール10からリアルタイムで得られるRSSIのリストである。また、データ取得部102は、記憶部101から無線通信モジュール10のタグ番号に関連付けられた入力データを読み出すことにより取得する。本実施形態のデータ取得部102は、取得した入力データを混雑度推定器103に供給する。また、データ取得部102は、学習済みモデル103aの入力データの各々に対して作業者が付与した正解データを取得し、入力データと正解データの組を記憶部101に記憶させる。データ取得部102は、図示しない外部記憶装置や有線/無線のネットワークを介して他の装置から入力データを取得するようにしてもよい。
【0028】
ここで、学習済みモデル103aの入力データについて説明する。入力データは、RSSIのリストを少なくとも含む。上述したように、RSSIの絶対値は携帯端末5と無線通信モジュール10との間の距離が大きいほど大きくなる。したがって、各携帯端末5からのRSSIを得ることにより、無線通信モジュール10とその携帯端末5との間の距離を把握することが可能である。本実施形態の学習済みモデル103aは、このように無線通信モジュール10とその携帯端末5との間の距離に関係性を有するRSSIを入力データとすることにより、混雑度を精度良く出力することができる。
【0029】
入力データは、例えば、RSSIのリストの生成時刻を示す時刻情報をさらに含むことができる。時刻情報は、例えば、混雑度推定装置30において生成される。あるいは、時刻情報は、無線通信モジュール10において生成され、RSSIのリストに含めて無線通信モジュール10から混雑度推定装置30に送信されてもよい。例えば、朝の通勤ラッシュ時と正午付近の時間帯とで混雑度は大きく異なる。そのため、この時刻情報を入力データとすることは、混雑度の推定精度の向上に寄与する。時刻情報は、例えば、無線通信モジュール10において生成され、近距離無線信号とともに混雑度推定装置30に供給されてもよい。
【0030】
入力データは、例えば、鉄道車両2を含む列車の編成数を示す編成数情報と、鉄道車両2が運行している路線を示す路線情報と、無線通信モジュール10が列車の何号車に配置されたものであるかを示す車両番号特定情報と、のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。編成数情報、路線情報及び車両番号特定情報は、例えば、RSSIのリストと共に無線通信モジュール10から送信される無線通信モジュール10のタグ番号に基づいて記憶部101から取得される。記憶部101は、例えば、外部装置から通信装置33を介して編成数情報、路線情報及び車両番号特定情報を受け、これらを定期的に更新する。例えば、その列車の編成数が少ない場合、編成数が多い場合に比べて混雑しやすい傾向にある。また、その鉄道車両が運行している路線が例えば都心に近いほど混雑しやすい傾向にある。また、駅に停車時に対象の鉄道車両2が例えば改札につながる階段に近いほど混雑しやすい傾向にある。したがって、編成数、路線、何号車であるかによって、混雑度は大きく異なる。そのため、これらを入力データとすることは、混雑度の推定精度の向上に寄与する。
【0031】
混雑度推定器103は、RSSIのリストを含む入力データを入力とし、鉄道車両2の混雑度を出力とする学習済みモデル103aを含む。混雑度推定器103は、データ取得部102によって取得された入力データを学習済みモデル103aに入力することにより、混雑度を推定する。本実施形態の学習済みモデル103aは、ニューラルネットワークを用いて構成されるが、これに限定されず、サポートベクターマシン、決定木、ランダムフォレストなどの周知の任意の機械学習方法を用いて構成されてもよい。混雑度推定器103は、推定した混雑度を情報提示部104に供給する。
【0032】
情報提示部104は、混雑度推定器103によって推定された混雑度を通信ネットワークNWを介して情報提示装置50に送信し、情報提示装置50に推定した混雑度を提示させる。
【0033】
データセット生成部105は、RSSIのリストを含む入力データと混雑度の正解データとの組を含むデータセットを生成する。データセット生成部105は、記憶部101に記憶された複数のデータについて、予め定めた所定の数又は所定の割合のデータを学習用データセットとし、その他のデータをテスト用データセットとして分割する。
【0034】
学習部106は、学習用データセットを用いて機械学習することにより、学習済みモデル103aを生成する。学習部106は、上述したような周知の任意の機械学習方法を用いる。
【0035】
(学習済みモデルの生成処理)
本実施形態に係る学習済みモデル103aの生成処理について説明する。まず、データ取得部102は、RSSIのリストを含む入力データと、その入力データに対応する混雑度の正解データとの組を取得する。例えば、データ取得部102は、記憶部101から入力データと混雑度の正解データとの組を読み出す。データ取得部102は、取得した入力データと混雑度の正解データとの組をデータセット生成部105に供給する。
【0036】
次に、データセット生成部105は、入力データと混雑度の正解データとの組を含む学習用データセットを生成する。データセット生成部105は、生成した学習用データセットを記憶部101に記憶させる。
【0037】
次に、学習部106は、学習用データセットを用いて機械学習することにより、学習済みモデル103aを生成する。学習部106は、記憶部101に記憶された学習用データセットを読み出すことにより、学習用データセットを取得し、これを用いて機械学習する。学習部106は、データセット生成部105から学習用データセットを直接取得してもよい。学習部106は、生成した学習済みモデル103aを混雑度推定器103に供給する。その後、学習済みモデル103aの生成処理は終了する。
【0038】
(混雑度の推定処理)
本実施形態に係る混雑度の推定処理につい説明する。まず、データ取得部102は、RSSIのリストを含む入力データを取得する。例えば、データ取得部102は、無線通信モジュール10から送信されたRSSIのリストを入力データとして取得する。また、データ取得部102は、RSSIのリストの取得に応答して、RSSIのリスト以外の入力データを取得することができる。本実施形態では、データ取得部102は、無線通信モジュール10からRSSIのリストが供給されるタイミングである10秒~30秒毎に、入力データを取得する。データ取得部102は、取得した入力データを混雑度推定器103に供給する。
【0039】
次に、混雑度推定器103は、入力データを学習済みモデル103aに入力することにより、鉄道車両2の混雑度を推定する。混雑度推定器103は、データ取得部102から入力データが供給される毎に、混雑度を推定する。混雑度推定器103は、推定した混雑度を情報提示部104に供給する。
【0040】
次に、情報提示部104は、推定した混雑度を情報提示装置50に提示させる。本実施形態では、10秒~30秒毎に混雑度が推定され、その後、情報提示装置50に提示されることになる。そのため、例えば、前駅を出発した電車が当該駅に到着する前に、その電車の各車両の現在の混雑度を駅に設置された電光掲示板などの情報提示装置50に提示することが可能となる。その後、混雑度の推定処理は終了する。
【0041】
(学習済みモデルの評価結果)
以下、本実施形態に係る学習済みモデル103aの評価結果について説明する。学習済みモデル103aの入力データの説明変数のパターンを変え、学習済みモデル103aとして、3種類の第1学習済みモデル103a1~第3学習済みモデル103a3を作成した。第1学習済みモデル103a1は、入力データとして、RSSIのリストを含む。第2学習済みモデル103a2は、入力データとして、RSSIのリストと、時刻情報と、を含む。第3学習済みモデル103a3は、入力データとして、RSSIのリストと、時刻情報と、編成数情報と、路線情報と、車両番号特定情報と、を含む。また、RSSIのリストを入力データとする効果を評価するために、時刻情報と、編成数情報と、路線情報と、車両番号特定情報とを入力データとして含む比較用の学習済みモデルも作成した。データセット生成部105が生成した9,840個の入力データと正解データとの組を含むテスト用データセットについて、各入力データを各学習済みモデルに入力することにより混雑度を推定した。その推定結果と正解データを比較することにより、機械学習の評価値である混雑度の正解率(Accuracy)、適合率(Precision)、再現率(Recall)、F値を算出した。ここでの正解率は、各々6段階の値(混雑度1~6)で評価した、推定した混雑度と混雑度の正解データとが同じである割合を示す。入力データは、11月~12月の冬の期間において、乗客が鉄道車両2から乗り降りしているときに得られたデータを除いて作成した。
【0042】
RSSIのリストを入力データとする第1学習済みモデル103a1の場合、正解率は74.36%、適合率は61.82%、再現率は57.50%、F値は58.96%であった。したがって、RSSIのリストを入力データとすることにより、高精度に混雑度を推定することが可能であることがわかる。
【0043】
RSSIのリストと時刻情報とを入力データとする第2学習済みモデル103a2の場合、正解率は81.28%、適合率は78.62%、再現率は69.50%、F値は72.84%であった。したがって、RSSIのリストに加え、時刻情報を入力データとすることにより、より高精度に混雑度を推定することが可能であることがわかる。
【0044】
RSSIのリストと、時刻情報と、編成数情報と、路線情報と、車両番号特定情報とを入力データとする第3学習済みモデル103a3の場合、正解率は85.25%、適合率は82.94%、再現率は78.73%、F値は80.59%であった。したがって、RSSIのリスト及び時刻情報に加え、編成数情報、路線情報及び車両番号特定情報を入力データとすることにより、より高精度に混雑度を推定することが可能であることがわかる。
【0045】
一方、RSSIのリストを入力データとして含まずに時刻情報と、編成数情報と、路線情報と、車両番号特定情報とを入力データとする比較例の学習済みモデルの場合、正解率は68.46%、適合率は66.81%、再現率は66.55%、F値は65.67%であった。したがって、RSSIのリストを入力データとして含まない場合、第3学習済みモデル103a3と比較すると、混雑度の推定度が著しく低下する。したがって、RSSIのリストは、混雑度の推定精度の向上に大きく寄与することがわかる。
【0046】
(作用及び効果)
以下、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
混雑度を推定する手法として、車両内に設置されたカメラによる画像認識や車両の応荷重に基づいて混雑度を推定する手法が想定される。しかし、車両内に設置されたカメラを用いた手法では、人の重なり等によって死角が生じる場合があるため、混雑度の推定精度に改善の余地がある。加えて、処理負担が比較的大きい画像認識を使用するため、処理時間が長くなり、リアルタイム性に欠けるという欠点があった。応荷重を用いる手法は、鉄道車両の振動等による影響により混雑度の推定精度を十分に得られるものではなかった。以上から、これらの方式は、リアルタイム且つ高精度に混雑度を推定できるものではなかった。
【0048】
混雑度を推定する他の手法として、無線通信可能な携帯端末の数に基づいて鉄道車両内の乗客の人数を推定することにより混雑度をリアルタイムで推定する手法が想定される。しかし、例えば、特定の通信装置との通信をオフにしている携帯端末を所持する乗客や携帯端末を所持していない乗客は人数としてカウントできず、混雑度の推定精度に改善の余地があった。そのため、特定の通信装置との通信をオフにしている携帯端末を所持する乗客、携帯端末を所持していない乗客等を考慮しつつ、車両の混雑度をリアルタイムで高精度に監視するための新しい手法が求められている。
【0049】
これに対し、本実施形態の混雑度推定装置30は、RSSIのリストを含む入力データを入力とし、鉄道車両2の現在の混雑の度合いを示す混雑度を出力とする学習済みモデル103aを用いて混雑度を推定する。本構成によると、上述したように機械学習された学習済みモデル103aを用いることにより、特定の通信装置との通信をオフにしている携帯端末を所持する乗客や携帯端末を所持していない乗客を考慮して混雑度を推定することができる。その結果、上述の第1学習済みモデル103a1の正解率等に示されるように、高精度に混雑度を推定することが可能となる。また、RSSIのリストは比較的送信データ量や解析データ量が少ないため、リアルタイムに混雑度を推定することが可能となる。
【0050】
ここで、携帯端末5からの近距離無線信号を用いる方式においては、同一の携帯端末5から送信された近距離無線信号が、各鉄道車両2に設置された複数の無線通信モジュール10で重複して検出されることが想定される。この場合、無線通信モジュール10間で重複して検出された近距離無線信号を区別することで混雑度の推定精度を向上させるために、MACアドレスを使用することが想定される。しかし、この手法では、個人情報の漏洩リスクが懸念される。一方で、本実施形態によると、MACアドレスを使用しなくても混雑度を高精度に推定できるため、個人情報の漏洩リスクを低減することができる。
【0051】
本実施形態では、入力データは、RSSIのリストの生成時刻を示す時刻情報を含むことができる。本構成によると、第2学習済みモデル103a2について上述した正解率、適合率、再現率及びF値から理解されるように、混雑度の推定精度をより向上させることができる。
【0052】
本実施形態では、入力データは、編成数情報と、路線情報と、車両番号特定情報と、のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。本構成によると、第3学習済みモデル103a3について上述した正解率、適合率、再現率及びF値から理解されるように、混雑度の推定精度をより向上させることができる。
【0053】
本実施形態では、データ取得部102は、鉄道車両2の天井面に配置された無線通信モジュール10からRSSIを取得する。本構成によると、比較的障害物が少ない天井付近の空間を介して近距離無線信号が伝達する。そのため、携帯端末5と無線通信モジュール10との間の障害物による近距離無線信号の遮蔽を少なくすることができ、無線通信モジュール10で検出されるRSSIの外乱を小さくすることができる。その結果、混雑度推定装置30における混雑度の推定精度を向上することが可能となる。
【0054】
本実施形態では、(A)近距離無線信号に用いられる近距離無線通信方式は、Bluetooth(登録商標)である。特に、本実施形態では、Bluetooth(登録商標)を通信ではなく、センサーとして空間の混雑度判定に使用した。それにより、送信データ量及び解析データ量が少ない手法によって混雑推定処理を実行でき、混雑度推定処理に時間がかからないため、混雑度推定のリアルタイム性を大幅に向上させることが可能となる。その結果、前駅を出発した電車が当該駅に到着する前に、その列車の鉄道車両2毎の混雑度を提供することが可能となる。また、Bluetooth(登録商標)による携帯端末5の位置検出精度は他の方式(例えば、WiFi(登録商標))と比較して高いため、高精度に混雑度を推定することが可能となる。特にBLEを用いる場合に、これらの効果を顕著に奏することができる。
【0055】
本実施形態では、上記(A)の構成に加え、(B)データ取得部102は、鉄道車両2の天井面の中央部に配置された無線通信モジュール10において得られるRSSIのリストを受信し、無線通信モジュール10は、その配置された鉄道車両2に隣接する鉄道車両2内の携帯端末5から発信された近距離無線信号のRSSIをさらに検出するように構成される。Bluetooth(登録商標)の信号検出可能範囲が半径15m程度であり、鉄道車両2の長手方向寸法は10m程度である。そのため、無線通信モジュール10を鉄道車両2の天井面の中央部に配置すると、無線通信モジュール10は、隣接する鉄道車両2内の携帯端末5から発信された近距離無線信号のRSSIをさらに検出することが可能となる。本構成によると、無線通信モジュール10は、隣接する鉄道車両2からの信号も拾う程度の弱い近距離無線信号(例えば、乗客の鞄の中の携帯端末5からの近距離無線信号)のRSSIも検出できるため、推定精度の低下を免れる。一方、隣接する鉄道車両2からのRSSIの使用は推定精度の低下を招きかねないが、その影響を学習済みモデル103aにより低減することができる。
【0056】
本実施形態では、上記(A)及び(B)の構成に加え、無線通信モジュール10において検出可能な近距離無線信号の総数は、鉄道車両2の定員及び鉄道車両2が運行している路線の最大混雑実績に基づいて設定される。この場合、入力データは、RSSIのリスト中の各RSSIの分散、標準偏差、最大値、最小値及び中央値、並びに近距離無線信号の総検出数のうちの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。これらは、例えば、RSSIのリストに基づいて制御装置31での演算により求められる。
【0057】
ここで、無線通信モジュール10は、その近くにある携帯端末5からの近距離無線信号を優先的に検出する。そのため、混雑度4~6に該当するような鉄道車両2が混雑している状況では、無線通信モジュール10での近距離無線信号の総検出数は、鉄道車両1両で上記の検出可能な近距離無線信号の総数に達する場合がある。そのため、無線通信モジュール10は、その設置された鉄道車両2と隣接する鉄道車両2からの近距離無線信号を拾わない場合が多い。一方で、混雑度1~3に該当するような鉄道車両2が混雑していない状況では、無線通信モジュール10での近距離無線信号の総検出数は、鉄道車両1両で上記の検出可能な近距離無線信号の総数に満たない。その結果、無線通信モジュール10がその設置された鉄道車両2と隣接する鉄道車両2(以下、隣接車両という場合がある)からの近距離無線信号を拾ってしまう場合がある。これを前提として、入力データの上記要素の各々について説明する。
【0058】
まず、RSSIの分散及び標準偏差について説明する。混雑度が1~3程度の低い混雑状況において、隣接車両からの近距離無線信号も拾うことを考慮すると、RSSIでは、混雑度毎にRSSIの散らばり具合に特徴がでてくる。そのため、RSSIの分散又は標準偏差を入力データとすることにより、低い混雑状況における混雑度を精度良く推定することが可能となる。
【0059】
RSSIの最大値について説明する。RSSIの最大値が小さい場合、無線通信モジュール10の近傍に人がおらず、その鉄道車両2は空いていると考えられる。RSSIの最大値が大きくなるほど(マイナスの値が小さくなる)、無線通信モジュール10の近傍に人が密集すると考えられる。そのため、RSSIの最大値を入力データとすることにより、低い混雑状況における混雑度を精度良く推定することが可能となる。
【0060】
RSSIの最小値又は中央値について説明する。RSSIの最小値又は中央値が小さい場合、無線通信モジュール10が遠く離れた場所に位置する携帯端末5からの近距離無線信号まで検出していることになるため、その鉄道車両2は空いていると考えられる。鉄道車両2が混雑してくると、無線通信モジュール10が隣接車両などの離れた場所に位置する携帯端末5からの近距離無線信号を検出しきれなくなる。そのため、RSSIの最小値が大きくなるほど、無線通信モジュール10から最も離れた携帯端末5が比較的近くに位置することになる。したがって、RSSIの最小値又は中央値を入力データとすることにより、低い混雑状況における混雑度を精度良く推定することが可能となる。
【0061】
近距離無線信号の総検出数について説明する。混雑度が1であるような混雑状況では、総検出数は例えば50に満たず、混雑度が2、3と増大するにつれて総検出数は増大する(上述したように、混雑度4~6では総検出数は上限に達する場合がある)。そのため、近距離無線信号の総検出数を入力データとすることにより、低い混雑状況における混雑度を精度良く推定することが可能となる。
【0062】
以上から、本構成によると、混雑度が1~3程度の低い混雑状況において、隣接車両の携帯端末5からのRSSIの影響を考慮しつつ、高精度に混雑度を推定することが可能となる。
【0063】
(変形例)
以下、実施形態の変形例について説明する。
【0064】
実施形態では、鉄道車両2を対象領域として例示したが、これに限定されず、バス、イベント会場等の座席から混雑していき、その後に特定の場所が混雑していくような不特定多数の人が訪れる特定の領域についても対象領域として適用可能である。
【0065】
学習済みモデル103aの入力データは、対象路線又は時間帯毎の携帯端末5の保有率を含んでもよい。対象路線又は時間帯毎に、例えば子供、会社員、老人などの鉄道使用者の種別が異なるため、携帯端末5の保有率(車両にいる人数に対してRSSIを検出可能な携帯端末5を保有している人数の割合)も対象路線や時間帯毎に異なることが想定される。そのため、対象路線又は時間帯毎の携帯端末5の保有率が把握できれば、この保有率を学習済みモデル103aの入力データとすることにより、学習済みモデル103aの推定精度をさらに向上させることが可能となる。
【0066】
入力データは、リスト中の各RSSIから得られる統計量、確率密度及び確率分布、RSSIのリストにおいてRSSIが小さい(RSSIの絶対値が大きい)順から数えてn番目(nは自然数。例えばn=15)にあたるRSSIの数値、並びにRSSIのリストにおいて所定の強度以下(例えば、-67以下、-85dB以下、-90dB以下等)のRSSIの個数のうちの少なくとも1つを含んでよい。上記統計量は、例えば、要約統計量、検定統計量及び順序統計量布のうちの少なくとも1つを含んでもよい。また、上記統計量は、例えば、最大値、最小値及び中央値、標準偏差、平均偏差、変動係数、四分位数、分散、歪度、尖度のうちの少なくとも1つを含んでもよい。上記確率分布は、例えば、離散型確率分布及び連続型確率分布のうちの少なくとも1つを含んでもよい。上記確率分布は、例えば、正規分布、二項分布、多項分布、多次元確率分布、ポアソン分布、カイ二乗分布、t分布、f分布に従う確率分布のうちの少なくとも1つを含んでもよい。これらは、例えば、RSSIのリストに基づいて制御装置31での演算により求められる。これらを学習済みモデル103aの入力データとしたとき、これらによる学習済みモデル103aの正解率等に対する寄与度が大きいことが実験的にわかった。したがって、これらを学習済みモデル103aの入力データとすることにより、学習済みモデル103aの推定精度をさらに向上させることが可能となる。
【0067】
入力データは、春、夏、秋、冬のいずれに該当するかを示す季節情報をさらに含んでもよい。季節情報は、時刻情報に基づいて春、夏、秋、冬のいずれかに区別されることによって得られる。季節により着衣が変わり、例えば携帯端末5をコートのポケットに入れるのか手に持つのかによってRSSIが異なる。したがって、春、夏、秋、冬毎に、検出されるRSSIが異なる。したがって、季節情報を学習済みモデル103aの入力データとすることにより、学習済みモデル103aの推定精度をさらに向上させることが可能となる。また、同様に、晴れ、雨、曇り等の天気情報を学習済みモデル103aの入力データとしてもよい。
【0068】
実施形態では、無線通信モジュール10は、鉄道車両2の天井面に配置されたが、これに限定されず、例えば、鉄道車両2の網棚や壁面に配置されてもよい。実施形態では、無線通信モジュール10は、蛍光型電源から電力供給されたが、これに限定されず、個別に設置された電源や鉄道車両2に設けられた他の電源から電力供給されてもよい。
【0069】
各駅にそれぞれ異なるビーコン信号を発信するビーコン発信機を設置し、無線通信モジュール10をこのビーコン信号を検出して混雑度推定装置30に送信するように構成してもよい。この場合、混雑度推定装置30は、受信したビーコン情報に基づいて鉄道車両2の次の目的地を示す目的地情報を求め、この鉄道車両2を入力データとして用いて混雑度を推定してもよい。この態様は、複数の目的地(到着地点)が設定された所定の区間を運行するバス等の車両においても適用可能である。また、鉄道車両2にビーコン発信機を設置してもよい。
【0070】
実施形態では、混雑度推定装置30がデータセット生成部105及び学習部106を含み、混雑度推定装置30において学習済みモデル103aが生成されたが、これに限定されない。例えば、混雑度推定装置30の外部に設けられた学習装置が学習済みモデル103aを生成して、混雑度推定装置30に供給してもよい。
【0071】
実施形態では、目視による評価により混雑度の正解データを作成したが、これに限定されない。例えば、鉄道車両2内を撮影するカメラを用いた画像認識によって鉄道車両2内の人数をカウントすることによって混雑度の正解データが作成されてもよい。
【0072】
実施形態では、近距離無線信号に用いられる近距離無線通信方式は、Bluetooth(登録商標)であるが、これに限定されない。混雑度の推定精度は低下するが、WiFi等の近距離無線通信方式であってもよい。
【0073】
実施形態では、無線通信モジュール10は、混雑度推定装置30の外部に設けられたが、これに限定されず、混雑度推定装置30とともに同じマイクロコントローラに内蔵されてもよい。この場合、混雑度推定装置30は、無線通信モジュール10とともに鉄道車両2内に設置され、推定した混雑度を通信ネットワークNWを介して外部に供給すればよい。
【0074】
実施形態では、混雑度推定装置30は、6段階で混雑度を出力するように構成されたが、これに限定されない。例えば、混雑度推定装置30は、2段階以上で混雑度を判別して出力してもよいし、混雑度の指標となる連続的な数値を出力してもよい。
【0075】
実施形態では、無線通信モジュール10は、LTE-M方式を用いて各種データを混雑度推定装置30に送信したが、これに限定されない。例えば、無線通信モジュール10が駅で用いられるWiFi(登録商標)の通信範囲内に位置する場合には、無線通信モジュール10は、その駅で用いられるWiFi(登録商標)などを用いて各種データを混雑度推定装置30に送信してもよい。
【0076】
実施形態では、無線通信モジュール10がRSSIのリストを生成したが、これに限定されない。無線通信モジュール10は各携帯端末5から取得した近距離無線信号のRSSIを混雑度推定装置30に送信することにより、混雑度推定装置30がRSSIのリストを生成してもよい。
【0077】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0078】
図5は、第2実施形態の無線通信モジュール10の配置例を示す。
図6(a)及び
図6(b)は、第2実施形態の鉄道車両2と測距センサ40とを上面視したときの図である。説明の便宜上、
図5、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、列車の移動方向をX方向、X方向に直交する水平な方向をY方向、両者に直交する方向すなわち鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を定める。上述の第1実施形態では、無線通信モジュール10は鉄道車両2の天井面に設けられたが、これに限定されない。第2実施形態の無線通信モジュール10は、鉄道車両2の外部に設けられる。例えば、無線通信モジュール10は、駅のプラットホーム3に設けられる。しかし、これに限定されず、無線通信モジュール10は、ホームドア、架線電柱、トンネル等に設けられてもよい。第2実施形態では、無線通信モジュール10は、プラットホーム3で列車の到着を待っている利用者の所有する携帯端末5からの信号のRSSIを検出しないように、指向性アンテナ(不図示)を使用して、鉄道車両2側からプラットホーム3側に向かう信号のRSSIを検出する。また、無線通信モジュール10をプラットホーム3の端(乗客が立ち入れない場所など)に設置することにより、プラットホーム3で列車の到着を待っている利用者の所有する携帯端末5からの信号のRSSIによる影響を小さくすることもできる。もちろん、無線通信モジュール10をプラットホーム3の中央部に配置してもよい。
【0079】
また、第2実施形態の混雑度推定システム1は、鉄道車両2毎のRSSIを見分けるために、測距センサ40と鉄道車両2との間のY方向についての距離を検出する測距センサ40を備える(
図5参照)。測距センサ40と鉄道車両2との間のY方向についての距離は、測距センサ40からのY方向の検出範囲に連結部2bがある場合には測距センサ40と連結部2bとの間の距離D1(
図6(a)参照)となり、測距センサ40からのY方向の検出範囲に鉄道車両2のプラットホーム3側の外壁面2aがある場合には測距センサ40と鉄道車両2の外壁面2aとの間の距離D2となる。例えば、測距センサ40は、測距センサ40と鉄道車両2との間の距離が所定の距離範囲内である場合にオン信号を出力し、所定の距離範囲内ではない場合にオフ信号を出力する。
【0080】
第2実施形態における車両判断手法について説明する。
図6(a)及び
図6(b)に示すように、鉄道車両2は、隣接する鉄道車両2同士を連結する連結部2bを含む。ここで、鉄道車両2のプラットホーム3側の外壁面2aはプラットホーム3側から見て比較的手前側に位置するが、連結部2bはプラットホーム3側から見て比較的奥側に位置する。そのため、測距センサ40と連結部2bとの間の距離D1は、測距センサ40と鉄道車両2の外壁面2aとの間の距離D2よりも大きくなる。したがって、列車が移動して測距センサ40の検出範囲に連結部2bが到達した場合、それまでの検出されていた鉄道車両2の外壁面2aまでの距離D2よりも大きい距離D1が検出されることになる。上記所定の距離範囲を適切に設定することにより、測距センサ40は、外壁面2aまでの比較的小さい距離D2を検出した場合にはオン信号を出力し、連結部2bまでの比較的大きい距離D1を検出した場合にはオフ信号を出力することができる。これにより、測距センサ40の出力がオン信号とオフ信号との間で切り替わったことに応じて測距センサ40の検出範囲が隣接する次の鉄道車両2に到達したと判断することが可能となる。
【0081】
図7は、第2実施形態の無線通信モジュール10の機能ブロック図である。第2実施形態の無線通信モジュール10は、測距センサ40から入力されたオン信号又はオフ信号に基づいてRSSIが検出されている鉄道車両2を特定する車両番号特定部15をさらに備える。車両番号特定部15は、特定した車両番号をRSSIリスト生成部13に供給する。本実施形態のRSSIリスト生成部13は、車両番号特定部15によって特定された車両番号とその鉄道車両2におけるRSSIが関連付けられたRSSIのリストを生成する。混雑度推定装置30は、RSSIのリストに基づいて、特定された鉄道車両2毎に混雑度を推定する。
【0082】
図8は、第2実施形態のRSSIリスト生成部13の生成するRSSIのリストを例示する。第2実施形態のRSSIのリストは、検出した時間と、測距センサ40の出力と、特定した車両番号と、各携帯端末5から取得した各RSSIと、を含む。例えば、測距センサ40がオフ信号を出力している期間が6時4分1秒0ミリ秒までの所定期間継続している場合、車両番号特定部15は、列車が測距センサ40の検出範囲に到達していない状態であると判断する。この検出範囲に到達していない状態からオン信号が出力された場合には(6時4分1秒0.010ミリ秒の時点)、車両番号特定部15は、1両目の鉄道車両2が測距センサ40の検出範囲に到達したと判断する。その後、オフ信号が入力されて(6時4分1秒0.080ミリ秒の時点)、再びオン信号が入力された場合(6時4分1秒0.100ミリ秒の時点)、車両判断部107は、2両目の鉄道車両2が測距センサ40の検出範囲に到達したと判断し、特定する車両番号を1から2に増分する。車両番号特定部15は、このようなオン信号とオフ信号との切り替えに基づいて車両番号を1増分することにより、何両目の鉄道車両2が測距センサ40の検出範囲にあるかを特定する。なお、例えば、オフ信号が所定時間(例えば5秒)以上継続した場合に列車がプラットホーム3を離れたと判断し、次のオン信号の入力時から車両番号は1から再カウントする。
【0083】
図8に示すように、本実施形態の測距センサ40は、例えば10msの時間間隔で鉄道車両2との間の距離を検出する。なお、鉄道車両2の長手方向(X方向)についての連結部2bの長さは400mm程度であり、停車した列車が加速してプラットホーム3を通過するときの最大速度は17m/s程度に達するため、測距センサ40による検出の時間間隔が400mm÷17m/s=0.0235s=23.5ms以内であれば、外壁面2aと連結部2bとを判別することができる。また、
図8に示すように、無線通信モジュール10は、例えばRSSIを検出するスキャン時間を80msとしスキャン停止時間を20msとして合計100msの繰り返しでRSSIを検出する。なお、無線通信モジュール10の周辺の近距離無線信号の通信状況や無線通信モジュール10のバージョンに合わせて、無線通信モジュール10によるRSSIのスキャン時間及びスキャン停止時間が設定されることが望ましい。
【0084】
なお、
図8では、簡略化のため、6時4分1秒0.010ミリ秒から6時4分1秒0.070ミリ秒までの0.06sの間に1両目の鉄道車両2が測距センサ40の検出範囲を通過した例を示したが、実際に走行している鉄道車両2が無線通信モジュール10及び測距センサ40の前を通過するには1秒以上かかる場合もあり得ることに留意されたい。
【0085】
第2実施形態によると、駅のプラットホーム3に無線通信モジュール10を設置するだけで、同じプラットホーム3を通過する複数の異なる列車における各鉄道車両2のRSSIを取得することが可能となる。そのため、複数の列車の各々の鉄道車両2のRSSIを得るために、列車毎又は鉄道車両毎に無線通信モジュール10を設置しなくて済むため、無線通信モジュール10の設置コストを低減することが可能となる。また、乗り入れ路線のように他社線の鉄道車両が自社線まで運行する場合、第1実施形態のように車両内に無線通信モジュール10を設置した構成では自社の鉄道車両の混雑度しか基本的には提供できない。車両内にカメラを設置した構成や車両毎に応荷重装置を設置した構成も同様に、自社の鉄道車両の混雑度しか基本的に提供できない。第2実施形態では、車両外に無線通信モジュール10を設置することにより他社の鉄道車両の混雑度も提供することが可能となる。さらに、例えば車両外にカメラ等を設置して画像認識により混雑度を推定することも想定されるが、この方式では鉄道車両の窓ガラスのブラインドや結露によるくもり、昼夜、雨、雪等のカメラ画像の外乱による影響で精度が不十分になる。第2実施形態によると、外乱による影響を抑制することができるため、混雑度の推定精度を十分に確保できる。
【0086】
図9は、第2実施形態の無線通信モジュール10の配置例を示す。第2実施形態では、例えば、列車が停車する駅(図中、B駅、D駅)だけでなく、列車が停車しない駅(図中、A駅、C駅)のプラットホーム3に設置された無線通信モジュール10及び測距センサ40が使用されてもよい。ここで、急行列車などでは、最大で約110km/hでプラットホーム3を通過するが、連結部2bのX方向についての長さが400mmの場合、約13.1msで測距センサ40の前を通過するため、測距センサ40は、例えば10msの時間間隔で鉄道車両2との間の距離を検出することにより、検出対象の鉄道車両を特定することができる。したがって、無線通信モジュール10が列車の停車しない駅のプラットホーム3に設置された場合であっても、その駅を通過する急行列車などからのRSSIを車両毎に検出可能である。例えば、D駅の情報提示装置50に混雑度を提示する場合、D駅の前駅であるC駅や前々駅であるB駅で検出されたRSSIを用いて混雑度を推定することにより、先発列車T1や次発列車T2などの複数の列車の各鉄道車両2の混雑度を提示することが可能となる。
【0087】
第2実施形態では、測距センサ40を用いて無線通信モジュール10が何両目の鉄道車両のRSSIを検出しているのかが特定されたが、これに限定されない。例えば、画像センサを用いた画像認識により無線通信モジュール10の検出対象の鉄道車両2が特定されてもよい。
【0088】
第2実施形態では、無線通信モジュール10が車両番号を特定したが、これに限定されず、混雑度推定装置30が測距センサ40の出力に基づいて車両番号を特定してもよい。
【0089】
第2実施形態のRSSIのリストは、測距センサ40の出力を含んだが、これに限定されず、測距センサ40の出力を含まなくてもよい。
【0090】
第2実施形態では、鉄道車両2内の領域を対象領域として例示したが、バス等の車両内の領域を対象領域とする場合には、無線通信モジュール10はバス等の停留所に設置されればよい。
【0091】
実施形態では、指向性アンテナが使用されたが、これに限定されない。無線通信モジュール10が架線電柱やトンネル等に設けられる場合には指向性アンテナは使用されなくてもよい。
【0092】
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0093】
第3実施形態の混雑度推定装置30は、混雑度が所定の基準より低い低混雑度鉄道車両に移動した乗客の携帯端末5にインセンティブ情報を送信する。低混雑度鉄道車両に移動した乗客がインセンティブ情報を得ることにより、乗客に低混雑度鉄道車両への移動を効果的に促すことができるため、特定の鉄道車両2が混雑してしまうことを抑制することができる。本実施形態の低混雑度鉄道車両は、低混雑度車両の一例である。
【0094】
図10は、第3実施形態の混雑度推定システムの概略構成を示す。第3実施形態では、上記低混雑度鉄道車両に移動したか否かを判断するために、ビーコン60が使用される。ビーコン60は、例えば、列車の各鉄道車両2及び各駅70の構内に設けられる。各ビーコン60には、例えば、列車の鉄道車両2毎及び駅毎に異なるビーコンIDが設定される。各ビーコン60は、所定の周波数の電波を使用したBLE方式で、そのビーコンIDを含むビーコン信号を送信する。
【0095】
図11は、第3実施形態の携帯端末5の機能ブロック図である。第3実施形態の携帯端末5は、ビーコン信号受信部5aと、ビーコン応答部5bと、を備える。ビーコン信号受信部5aは、ビーコン60からビーコン信号を受信する。ビーコン応答部5bは、ビーコン信号の受信に応答して、応答信号を混雑度推定装置30に送信する。この応答信号は、そのビーコンID、受信日時及び携帯端末5の識別ID(MACアドレスなど)を含む。上述したように、鉄道車両2毎及び駅70毎に異なるビーコンIDが設定されているため、乗客の所有する携帯端末5の位置、すなわち乗客の位置を特定することが可能となる。これにより、乗客がどの駅から何両目の鉄道車両2に乗車したのかを特定することが可能となる。携帯端末5は、例えば、低混雑度鉄道車両への移動に応じてインセンティブ情報を付与するための専用のアプリケーションをインストールすることにより、ビーコン60からビーコン信号を受信し、その応答信号を送信することが可能となる。
【0096】
図12は、第3実施形態の混雑度推定装置30の機能ブロック図である。第3実施形態の混雑度推定装置30は、車両判断部107と、移動判断部108と、インセンティブ情報送信部109と、をさらに備える。車両判断部107は、混雑度が所定の基準より低い(例えば、混雑度が4よりも低い)低混雑度鉄道車両を判断する。移動判断部108は、乗客が情報提示装置50による低混雑度鉄道車両の提示に基づいて低混雑度鉄道車両に移動したか否かを判断する。インセンティブ情報送信部109は、移動した乗客の所有する携帯端末5にインセンティブ情報を送信する。インセンティブ情報は、例えば、ある商品やサービス等を購入又は利用する際に使用されるクーポン、割引券、仮想通貨、現実通貨、ポイント等を含む。インセンティブ情報は、鉄道等の交通機関やその周辺施設において利用可能なものであってもよいし、これら以外でも利用可能なものであってもよい。
【0097】
ここで、例えば、ある列車がA駅を出発した時点で、1~3両目の鉄道車両2は混雑度が1~3で空いている一方で、4~10両目の鉄道車両2は混雑度が4~6で混雑している状況を想定する。混雑度推定装置30の混雑度推定器103は、各無線通信モジュール10からのRSSIのリストに基づいて各鉄道車両2の混雑度を推定し、その推定結果を車両判断部107に供給する。車両判断部107は、各鉄道車両2の混雑度に基づいて、その混雑度が所定の基準よりも低い低混雑度鉄道車両を判断し、その判断結果を情報提示部104及び移動判断部108に供給する。情報提示部104は、例えば、A駅を出発した列車の次の到着駅であるB駅のプラットホーム3や改札口に設けられた情報提示装置50に1~3両目の低混雑度鉄道車両に移動した乗客にインセンティブ情報を提供する旨を提示させる。この提示は例えばその列車がB駅に到着するまでの間継続される。この提示の継続中に、B駅に設置されたビーコン60のビーコン信号を乗客の携帯端末5のビーコン信号受信部5aが受信すると、ビーコン応答部5bがその応答信号を混雑度推定装置30の移動判断部108に送信する。また、乗客が1~3両目の低混雑度鉄道車両のいずれかの鉄道車両2に乗車すると、乗客の携帯端末5のビーコン信号受信部5aがその鉄道車両2に設置されたビーコン60のビーコン信号を受信し、ビーコン応答部5bがその応答信号を混雑度推定装置30の移動判断部108に送信する。移動判断部108は、同一の携帯端末5の識別IDを含む各応答信号について、それらのビーコンIDがB駅と低混雑度鉄道車両とを示し且つそれらの受信日時がインセンティブ情報を提供する旨を提示している期間中である場合に、その乗客が低混雑度鉄道車両に移動したと判断する。B駅と低混雑度鉄道車両との両方のビーコン信号を得た乗客は、B駅から低混雑度鉄道車両に乗車した乗客だけであるためである。これにより、乗客がこのインセンティブ情報を提供する旨が提示された情報提示装置50を見たことによって低混雑度鉄道車両に移動したか否かを適切に判断することができる。インセンティブ情報送信部109は、低混雑度鉄道車両に移動したと判断された乗客の携帯端末5にインセンティブ情報を送信する。インセンティブ情報を得た乗客は、そのインセンティブ情報を利用することが可能となる。そのため、低混雑度鉄道車両に積極的に移動しようとする動機が乗客に生まれることになる。その後、乗客が低混雑度鉄道車両に移動し、その車両の混雑度が所定の基準となって低混雑度鉄道車両に該当しなくなると、情報提示部104はその車両について低混雑度鉄道車両である旨の提示及びインセンティブ情報の提供を終了する。
【0098】
図13は、混雑度の提示例を示す。
図13中、1~10の番号は車両番号を示し、星マークは混雑度が例えば3以下の低混雑度鉄道車両を示す。例えば、情報提示部104は、駅に設置された情報提示装置50に、その駅での先発列車及び次発列車の各車両について推定した混雑度を表す混雑状況をそれぞれ提示させる。
図13の先発列車の混雑状況の例では、1、10両目の車両が混雑度1であり、2両目の車両が混雑度2~3であり、3、4、6、9両目の車両が混雑度4~5であり、5、7、8両目の車両が混雑度6である。
図13の次発列車の混雑状況の例では、1、9、10両目の車両が混雑度1であり、3両目の車両が混雑度2~3であり、2、6、8両目の車両が混雑度4~5であり、4、5、7両目の車両が混雑度6である。乗客は、混雑度1~3の車両に移動することにより、インセンティブ情報を取得できることを把握することができる。また、
図13の例のように駅に到着する複数の列車(先発列車及び次発列車など)の各車両の混雑度をリアルタイムで提示することにより、乗客はどの列車が比較的空いているのかを把握できるため、比較的混雑している先発列車ではなく比較的空いている次発列車に乗車するなどの各列車の混雑状況に応じて利用する列車を容易に選択することが可能となる。
【0099】
第3実施形態では、駅70の構内と鉄道車両2との少なくとも一方に設けられた情報提示装置50に低混雑度鉄道車両が提示される。ここで、例えば、乗客の携帯端末5に低混雑度鉄道車両を提示させる場合、乗客は携帯端末等において専用のアプリケーションを起動して低混雑度鉄道車両を確認する必要がある。そのため、アプリケーションを起動する手間がかかることから、乗客の数パーセントしか実際に低混雑度鉄道車両を確認せず、低混雑度鉄道車両への移動を効果的に促すことができなかった。情報提示装置50に低混雑度鉄道車両を提示させることにより、携帯端末等において専用のアプリケーションを起動しなくても低混雑度鉄道車両を確認することができるため、低混雑度鉄道車両への移動を効果的に促すことが可能となる。また、列車運行システムとの連携により、低混雑度鉄道車両に加え、各列車の運行情報(行先、出発時間等)も情報提示装置50や列車運行システム側のアプリ、発車標(電光掲示板)等に提示させることにより、利用者の利便性を大きく向上させることができる。
【0100】
第3実施形態では、低混雑度鉄道車両に移動した乗客にインセンティブ情報を提供する旨が提示されたが、これに限定されず、例えば低混雑度鉄道車両が何両目の鉄道車両2であるのかが提示されるだけでもよい。
【0101】
また、駅70の構内に設置された情報提示装置50に限定されず、その混雑度が推定された列車の各鉄道車両2に設けられた情報提示装置50によって低混雑度鉄道車両等が提示されてもよい。この場合、混雑している鉄道車両2から低混雑度鉄道車両に移動した乗客を判断することが可能となる。また、駅70等の周辺施設(例えばホテル)などに設置されたサイネージなど、車両の到着地点から所定の距離範囲内に設置された情報提示装置50にその到着地点に到着する低混雑度鉄道車両が提示されてもよいし、情報提示装置50の設置場所は限定されない。さらに、例えば乗客の携帯端末5の位置情報に基づいて、乗客の携帯端末5に乗客の利用する駅に到着する列車についての低混雑度鉄道車両が提示されてもよい。
【0102】
第3実施形態では、鉄道車両2内の領域を対象領域として例示したが、バス等の車両内の領域が対象領域であってもよい。バス等の1つの車両で構成されている乗り物の場合、例えば停留所に設けられた情報提示装置50に先発車両及び次発車両など複数の車両の混雑度を提示することにより、乗客は各車両の混雑状況に応じて利用する車両を容易に選択することが可能となる。
【0103】
第3実施形態では、低混雑度鉄道車両に移動したと判断された場合にインセンティブ情報が提供されたが、例えば、低混雑度鉄道車両に移動した乗客がその低混雑度鉄道車両において携帯端末5を用いて所定の情報(例えばCMなど)を閲覧した場合にインセンティブ情報が提供されてもよい。
【0104】
インセンティブ情報送信部109は、混雑度が相対的に小さい低混雑度車両に乗客が移動した場合には、混雑度が相対的に大きい低混雑度車両に乗客が移動した場合と比べて、経済的価値が大きいインセンティブ情報を送信してもよい。ここでの経済的価値は、例えば、インセンティブ情報が割引券であれば割引率の大きさ、現実通貨であれば金額の大きさ、ポイントであればポイントの大きさを示す。例えば、混雑度1の低混雑度車両に移動した場合にはインセンティブ情報として10ポイントが提供され、混雑度1の低混雑度車両に移動した場合にはインセンティブ情報として5ポイントが提供されればよい。本構成によると、混雑度に応じた変動性のインセンティブ情報を提供することが可能になるため、車両の混雑度の平準化を効果的に促すことが可能となる。
【0105】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【符号の説明】
【0106】
1 混雑度推定システム、2 鉄道車両、2a 外壁面、2b 連結部、3 プラットホーム、5 携帯端末、5a ビーコン信号受信部、5b ビーコン応答部、10 無線通信モジュール、11 記憶部、12 RSSI取得部、13 RSSIリスト生成部、14 RSSIリスト送信部、15 車両番号特定部、30 混雑度推定装置、31 制御装置、32 記憶装置、33 通信装置、40 測距センサ、50 情報提示装置、60 ビーコン、70 駅、101 記憶部、102 データ取得部、103 混雑度推定器、103a 学習モデル、104 情報提示部、105 データセット生成部、106 学習部、107 車両判断部、108 移動判断部、109 インセンティブ情報送信部。