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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】静電容量センサ
(51)【国際特許分類】
   H01H 36/00 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
H01H36/00 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023115695
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2023-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592070878
【氏名又は名称】株式会社アトライズヨドガワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田垣 貴康
(72)【発明者】
【氏名】古川 史郎
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-080703(JP,A)
【文献】特開2018-137189(JP,A)
【文献】特開2007-175163(JP,A)
【文献】特許第7299652(JP,B1)
【文献】特開2005-286479(JP,A)
【文献】国際公開第2022/014158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 36/00 - 36/02
H03K 17/975
G01V 3/08
E03C 1/00 - 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ電極の静電容量変化に基づき前記センサ電極に対するユーザの近接操作を検知する静電容量センサであって、
プラスの電荷がチャージされるセンサ電極と、
前記センサ電極の静電容量変化に基づいて前記センサ電極に対するユーザの近接操作を検知する検出装置と、
該静電容量センサが用いられる製品において前記センサ電極が絶縁された状態で設置されかつ前記センサ電極の周囲を囲む導電性を有するセンサ設置部に前記センサ電極と同相同電位となるように電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記検出装置は、前記センサ電極が組み込まれたモジュールの形態をなす、静電容量センサ。
【請求項2】
前記電圧印加手段は、前記センサ設置部に印加される電圧を補正するためのバッファ回路をさらに備える、請求項1に記載の静電容量センサ。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記センサ設置部に電荷を補充するための容量装置をさらに備える、請求項1又は2に記載の静電容量センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサ電極の静電容量変化に基づきセンサ電極に対するユーザの近接操作を検知する静電容量センサに関する。なお、本開示において、近接操作とは、ユーザの手や指などの体の一部分(以下、「被検知体」という。)をセンサ電極に近付ける操作を指し、センサ電極の近傍(センサ電極と接触しない近い位置)まで被検知体を近付ける場合の他、センサ電極と接触するまで被検知体を近付ける場合を含む。
【背景技術】
【0002】
例えばキッチン、洗面室、トイレ、浴室等の給水設備には、ユーザが手などを水栓金具に近付ける近接操作を人体検知センサによって検知して自動的に吐水及び止水の切り換えを行う自動水栓装置が普及している。この種の自動水栓装置に用いられる人体検知センサとしては、赤外線センサが広く用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、自動水栓装置の人体検知センサに赤外線センサを用いた場合、赤外線を送受信するために水栓金具に設置されるセンサ窓が黒色であるため、水栓金具が存在する空間のデザインとの間で違和感を与え、意匠性に問題が生じる場合がある。また、赤外線センサは、人体からの反射光の強さの違いにより検知距離が異なる、あるいは西日の影響で反応して誤作動を起こすおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-227146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者は、赤外線センサの代わりに静電容量センサを自動水栓装置の人体検知センサに用いることについて検討を行った。静電容量センサは、センサ電極を水栓金具と絶縁した状態で水栓金具に設置し、センサ電極の静電容量の変化をセンサ電極に接続された検出装置で検出するように構成されている。センサ電極はプラスの電荷がチャージされており、センサ電極にユーザの手など体の一部分(以下、「被検知体」という。)が近付いてセンサ電極から発生する電界に被検知体が干渉すると、センサ電極にチャージされたプラスの電荷の影響で被検知体に静電誘導が起こり、被検知体がセンサ電極に近付くに連れてセンサ電極の静電容量が増加する。このセンサ電極の静電容量変化を検出することで、センサ電極に対するユーザの近接操作を検知でき、これにより、自動水栓装置においては、水栓金具による吐水及び止水の切り換えが行われる。
【0006】
本発明者が鋭意検討した結果、水栓金具にセンサ電極を設置すると、以下の問題が生じることが判明した。つまり、図9に示すように、センサ電極2にチャージされたプラスの電荷の影響で、水栓金具10のセンサ電極2の周囲の部分に静電誘導が起こり、水栓金具10の前記周囲の部分においてセンサ電極2から近い部分にセンサ電極2のプラスの電荷に引かれて導体内におけるマイナスの電荷が移動し、センサ電極2から遠い部分にマイナスの電荷と等量のプラスの電荷が移動する。そして、センサ電極2と水栓金具10のマイナスの電荷が移動した部分との間に電界が形成され、水栓金具10のプラスの電荷が移動した部分からはセンサ電極2及びマイナス電荷間の電気力線と同数の電気力線が出る。その結果、水栓金具10におけるセンサ電極2の周囲の部分がセンサ電極化し、センサ電極2に被検知体101が近付いた場合だけでなく、センサ電極2の周囲の部分に被検知体101が近付いた場合でも、センサ電極2の静電容量が変化する。よって、センサ電極2ではなくセンサ電極2の周囲の部分に被検知体が近付いた場合でも、センサ電極2の静電容量変化が検出される結果、ユーザの近接操作を誤って検知してしまい、誤って吐水及び止水の切り換えを行う誤作動が生じる。
【0007】
上述した水栓金具のセンサ電極化を防止する対策としては、水栓金具を樹脂製にすることが考えられる。水栓金具を樹脂製にすると、水栓金具がセンサ電極に対して絶縁されるため、水栓金具に静電誘導が起こらず、水栓金具のセンサ電極化を防止できる。しかし、水栓金具を樹脂製にすると、水栓金具の耐久性が損なわれ、傷などが付きやすいうえ、温水及び冷水に対する対候性も損なわれるという課題がある。また、樹脂製の水栓金具では、金属製の水栓金具においてみられる美しい艶及び光沢が出ず、意匠性も損なわれるという課題がある。
【0008】
上述した水栓金具のセンサ電極化を防止するその他の対策としては、水栓金具をグランド化することが考えられる。水栓金具をグランド化すると、水栓金具に静電誘導が起こらず、水栓金具のセンサ電極化を防止できる。しかし、本発明者が検討した結果、水栓金具をグランド化すると、図10に示すように、センサ電極2から発生する電界がグランド化された水栓金具10と結合し、センサ電極2から被検知体を検知する方向へ発生する電界が損なわれることが分かった。そのため、水栓金具10をグランド化すると、センサ電極2から周囲の空間に発せられる電界が水栓金具10のグランド化によって弱まり、センサ電極2に対する被検知体の検知距離(検知感度)が低下し、センサ電極2に被検知体を接触するほど近付けなければ被検知体の近接操作を検知できないという課題がある。
【0009】
本開示は、上記課題を解決することに着目して、例えば自動水栓装置などの人体の近接操作を検知する製品に静電容量センサを用いた場合に、該製品のセンサ電極が設置されるセンサ設置部がセンサ電極化するのを抑制して誤作動が生じるのを抑制するとともに、センサ電極の検知距離(検知感度)の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の静電容量センサは、上記課題を解決するため、以下の項1に記載の静電容量センサを主題とする。
【0011】
項1.センサ電極の静電容量変化に基づき前記センサ電極に対するユーザの近接操作を検知する静電容量センサであって、
プラスの電荷がチャージされるセンサ電極と、
該静電容量センサが用いられる製品において前記センサ電極が絶縁された状態で設置される導電性を有するセンサ設置部に前記センサ電極と同相同電位となるように電圧を印加する電圧印加手段と、
を備える、静電容量センサ。
【0012】
また本開示の静電容量センサは、上記項1に記載の静電容量センサの好ましい態様として、以下の項2に記載の静電容量センサを包含する。
【0013】
項2.前記電圧印加手段は、前記センサ設置部に印加される電圧を補正するためのバッファ回路をさらに備える、項1に記載の静電容量センサ。
【0014】
また本開示の静電容量センサは、上記項1から項2に記載の静電容量センサの好ましい態様として、以下の項3に記載の静電容量センサを包含する。
【0015】
項3.前記電圧印加手段は、前記センサ設置部に電荷を補充するための容量装置をさらに備える、項1又は2に記載の静電容量センサ。
【発明の効果】
【0016】
本開示の静電容量センサによれば、該静電容量センサが用いられる製品においてセンサ電極が絶縁された状態で設置されるセンサ設置部がセンサ電極化するのを抑制できるので、誤作動が生じるのを抑制できる。また、センサ電極に対する被検知体の検知距離を大きく確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本実施形態の静電容量センサが用いられた自動水栓装置の外観を示す斜視図である。
図2図2は本実施形態の静電容量センサの機能構成を示す図である。
図3図3(A)はセンサ電極に印加される電圧のチャートを示し、図3(B)は水栓金具の導水部(センサ電極の設置部)に印加される電圧のチャートを示す。
図4図4は本実施形態の静電容量センサの動作原理を説明する図である。
図5図5(A)は図9のモデル図であり、図5(B)は図4のモデル図である。
図6図6(A)は本実施形態の静電容量センサにおいて電源ラインにLCR成分が発生した場合の機能構成を示す図であり、図6(B)は図6(A)の静電容量センサの動作原理を説明するモデル図である。
図7図7は本実施形態の静電容量センサの動作原理を説明するモデル図である。
図8図8は本実施形態の静電容量センサの動作原理を説明するモデル図である。
図9図9は自動水栓装置に従来の静電容量センサを用いた際の課題を説明する図である。
図10図10は自動水栓装置に従来の静電容量センサを用いた際に、水栓金具をグランド化した場合の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の静電容量センサの実施形態について、添付図面を参照して説明する。以下の実施形態では、本開示の静電容量センサを、センサ電極に対するユーザの近接操作を検知して水栓金具による吐水及び止水の切り換えを行うように構成された自動水栓装置に用いている。なお、本開示の静電容量センサは、以下の実施形態に限定されない。
【0019】
自動水栓装置の説明
自動水栓装置100は、図1及び図2に示すように、静電容量センサ1と、水栓金具10と、制御装置15と、を備える。自動水栓装置100は、例えばキッチン、洗面室、トイレ、浴室などの給水設備において、ユーザが手などの体の一部分(被検知体)を水栓金具10の所定の部位(一部分)に近付ける操作を検知して、水栓金具10による吐水及び止水の切り換えを自動で行うものである。自動水栓装置100は、ユーザの操作を検知する人体検知センサに静電容量センサ1を用いている。
【0020】
以下において、まずは、自動水栓装置100の各構成要素について説明する。
【0021】
水栓金具の説明
水栓金具10は、図1に示すように、基部11、導水部12及び吐水部13を含む。基部11、導水部12及び吐水部13は、金属製などの導電性材料で形成されており、例えば真鍮などの合金で形成される。基部11、導水部12及び吐水部13は、例えば互いの間に樹脂リングが介在することにより絶縁されている。水栓金具10には給水ホースが内蔵されており、給水ホースには電磁弁が設けられている。電磁弁は、制御装置15(図2に示す)に電気的に接続されており、制御装置15により電磁弁の開閉が制御される。
【0022】
水栓金具10の一部分の筒状の導水部12には、図1及び図2に示すように、センサ窓14が開口している。センサ窓14は、ユーザの手などの被検知体101が近付けられる領域であり、ユーザの近接操作を検知する検知領域である。導水部12には、センサ窓14と対向するように、静電容量センサ1のセンサ電極2が配置される。センサ電極2は水栓金具10の導水部12によりその周囲が囲まれている。センサ電極2は、水栓金具10との間に隙間をあけて配置されており、水栓金具10と絶縁されている。なお、センサ窓14はカバーなどで覆われていてもよい。本実施形態では、水栓金具10の導水部12がセンサ設置部である。
【0023】
静電容量センサの説明
静電容量センサ1は、センサ電極2に被検知体が近付くことによって生じるセンサ電極2の静電容量変化を検出することで、センサ電極2に対するユーザの近接操作の有無を判別する。
【0024】
静電容量センサ1は、プラスの電荷がチャージされるセンサ電極2と、センサ電極2に対するユーザの近接操作をセンサ電極2の静電容量変化に基づいて検知する検出装置3と、電圧印加手段4と、を備える。
【0025】
センサ電極
センサ電極2は、従来から公知のものであり、従来から静電容量センサのセンサ電極に用いられている材料、例えば、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素;アルミニウム、銅、銀、金などの金属;チオフェン系導電性高分子、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などの導電性樹脂;あるいは、これらの複合材料により形成することができる。
【0026】
センサ電極2は、面状体の形態であり、例えば板状、シート状などを呈し、その外形は例えば長方形等の矩形、円形等である。センサ電極2の大きさは、特に限定されないが、好ましくは縦が30mm以上100mm以下、横が10mm以上40mm以下(円の場合は直径が6mm以上50mm以下)の大きさである。
【0027】
センサ電極2は、図3(A)に示すように、グラウンドに対してプラスのパルス電圧が検出装置3の検出部8(図2に示す)を介して印加されている。これにより、センサ電極2にはプラスの電荷(正電荷)がチャージされている。検出装置3の検出部8は、図示しない電源回路を備え、センサ駆動パルス信号に基づいて電源電圧を例えば増幅やパルス変調などすることで、センサ電極2にパルス電圧を印加する。
【0028】
センサ電極2には、センサ電極2の付近にあるグランドとみなせる物体(導体)との間に寄生容量が生じている。この寄生容量をセンサ電極2の静電容量の基準容量とし、センサ電極2に被検知体が近付くと、被検知体との間に発生する寄生容量が基準容量に加わるため、センサ電極2の静電容量が増加する。このセンサ電極2の静電容量の変化が検出装置3によって検出される。
【0029】
検出装置
検出装置3は、センサ電極2の静電容量変化に基づいてセンサ電極2に対するユーザの近接操作の有無を判別する。検出装置3は、図2に示すように、センサ電極2の静電容量変化を検出する検出部8と、検出部8から出力される検出信号に基づいてセンサ電極2に対するタッチ操作があったと判別する制御部9と、を含む。
【0030】
検出部8は、センサ電極2に電気的に接続されている。検出部8は、センサ電極2の静電容量変化を検出するための電気・電子回路を有する。センサ電極2の静電容量変化を検出するため、検出部8は、例えば、静電容量変化を電圧変化に変えるCVアンプと、感度を調整するためCVアンプのゲイン調整機能を有した検出回路とを含むように構成することが好ましい。センサ電極2に対するユーザの近接操作がない時は、センサ電極2の静電容量の変化もなくCVアンプからの電圧変化もない。一方で、センサ電極2に対するユーザの近接操作があると、センサ電極2の静電容量が増加し、CVアンプからの静電容量増加分に応じた電圧変化にゲインを掛けた電圧変化が検出回路から出力される。検出信号は、アナログデータの形態であってもよいし、デジタルデータの形態であってもよい。
【0031】
検出部8によりセンサ電極2の静電容量変化を検出する方法としては、上述した例に限定されず、(1)センサ電極2に一定電荷充電後、放電に要する時間差を計測する方法、(2)センサ電極2の静電容量の変化を発振回路の発振状態の変化により検出する方法、などの従来から公知の様々な方法を挙げることができる。検出部8は、(1)(2)の方法に適した従来から公知の静電容量センサに用いられている電気・電子回路やスイッチなどで構成することができる。
【0032】
制御部9は、例えばマイクロコンピュータにより構成することができる。制御部9は、受付部90、処理部91及び出力部92などを含む。
【0033】
受付部90は、検出信号を受け付けるインターフェースとして構成されている。検出信号がアナログデータの形態である場合、受付部は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を含むように構成される。処理部91は、検出信号に基づいてセンサ電極2に対するユーザの近接操作の有無を判別するように構成されている。例えば、処理部91は、センサ電極2の静電容量の変化量がメモリに記憶されている所定の閾値を超えると判定すると、センサ電極2に対するユーザの近接操作が行われたと判断する。出力部92は、制御装置15に制御信号を出力するインターフェースとして構成されている。処理部91は、センサ電極2に対するユーザの近接操作が行われたと判断することで、出力部92から制御信号を出力するように構成されている。制御信号は、アナログデータの形態であってもよいし、デジタルデータの形態であってもよい。制御信号がアナログデータの形態である場合、出力部は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を含むように構成される。
【0034】
検出装置3はセンサ電極2が組み込まれたモジュールの形態であってもよいし、センサ電極2と別個の形態であってもよい。
【0035】
電圧印加手段
電圧印加手段4は、水栓金具10の一部分でありかつセンサ電極2が設置される導水部12にセンサ電極2と同相同電位となるように電圧を印加する。つまり、導水部12は、図3(B)に示すように、センサ電極2に印加されるパルス電圧と同じ周波数及び振幅を有するプラスのパルス電圧が同期して印加されている。これにより、図5(B)に示すように、導水部12はセンサ電極2と電位差がない状態となり、導水部12とセンサ電極2との間は電界が生じず静電容量がゼロとなる。このように、導水部12がセンサ電極2と電位差がない状態であることで、導水部12は静電誘導を受けないためにセンサ電極化することがなく、センサ電極2と同相同電位の電極(シールド電極)となる。これにより、水栓金具10は、センサ電極2が様々な要因で周囲の導体と静電誘導するのを抑制する。
【0036】
つまり、センサ電極2を単に水栓金具10の導水部12に設置すると、図9でも説明しているが、図5(A)のモデル図に示すように、センサ電極2にチャージされたプラスの電荷の影響で導水部12に静電誘導が起こり、導水部12においてセンサ電極2から近い部分にセンサ電極2のプラスの電荷に引かれて導体内におけるマイナスの電荷が移動し、センサ電極2から遠い部分にマイナスの電荷と等量のプラスの電荷が移動する。そして、センサ電極2と導水部12のマイナスの電荷が移動した部分との間に電界が形成され、導水部12のプラスの電荷が移動した部分からはセンサ電極2及びマイナス電荷間の電気力線と同数の電気力線が出る。その結果、導水部12がセンサ電極化する。導水部12がセンサ電極化した場合、被検知体101が導水部12に近付いた際に導水部12及び被検知体101の間に発生する寄生容量がセンサ電極2の基準容量に加わるため、センサ電極2の静電容量が変化する。よって、センサ電極2(センサ窓14)ではなく導水部12に被検知体101が近付いた場合でも、センサ電極2の静電容量変化が検出される結果、ユーザの近接操作を検知してしまい、誤って吐水及び止水の切り換えが行われる誤作動が生じるといった課題がある。
【0037】
これに対して、導水部12がシールド電極化していると、図4及び図5(B)のモデル図に示すように、導水部12とセンサ電極2との間に電界が形成されておらず、導水部12に被検知体101が近付いた際には、導水部12に独自にチャージされたプラスの電荷の影響で被検知体101に静電誘導が起こり、センサ電極2に対する静電誘導が行われない。そのため、センサ電極2が有するプラスの電荷は被検知体101の接近の影響を受けず、導水部12に被検知体101が近付いた場合にセンサ電極2の静電容量が変化するのを抑制できる。よって、センサ電極2(センサ窓14)ではなく導水部12に被検知体101が近付いた場合にユーザの近接操作を検知することが抑制される結果、誤って吐水及び止水の切り換えが行われる誤作動が生じるのを抑制できる。
【0038】
なお、水栓金具10が、例えば、基部11及び導水部12、あるいは、導水部12及び吐水部13が互いに絶縁されておらず、基部11及び導水部12、あるいは、導水部12及び吐水部13が一体化されているものであれば、基部11及び導水部12、あるいは、導水部12及び吐水部13がセンサ設置部となり、基部11及び導水部12、あるいは、導水部12及び吐水部13をシールド電極化する。また、水栓金具10が、基部11、導水部12及び吐水部13が互いに絶縁されておらず、基部11、導水部12及び吐水部13が一体化されているものであれば、水栓金具10全体がセンサ設置部となり、水栓金具10全体をシールド電極化する。
【0039】
電圧印加手段4は、例えば水栓金具10の導水部12にセンサ電極2と同相同電位の電圧を印加するための電気・電子回路を備えた基板で構成できる。電圧印加手段4は、図2に示すように、パルス電圧生成部5、バッファ回路6、容量装置7及び電源ライン16を備えている。電源ライン16が電圧印加手段4を介して検出装置3の検出部8と水栓金具10の導水部12とを接続していることで、検出部8からセンサ電極2に印加されるパルス電圧と同相同電位のパルス電圧が導水部12に印加される。電源ライン16は、例えば端子などが導電材料17を介して導水部12に固定される。導電材料17は、特に限定されず、金属製部材、銅箔テープなどの金属箔のテープ、導電性接着剤など、電源ライン16を導水部12に導通可能に固定できれば、特に制限されない。
【0040】
パルス電圧生成部5は、検出装置3の検出部8から送出されるセンサ駆動パルス信号もしくはこれと同期する電気信号に基づいて、センサ電極2に印加されるパルス電圧と同相同電位のパルス電圧を生成し、水栓金具10の導水部12に送出する。パルス電圧生成部5は、例えばカップリングコンデンサと増幅器(例えばオペアンプ)を用いて構成できる。カップリングコンデンサにより、検出装置3の検出部8から送出されるセンサ駆動パルス信号もしくはこれと同期する電気信号から直流成分を遮断して交流成分のみを取り出し、オペアンプにより、交流成分に適当なバイアスをかけることで、センサ電極2に印加されるパルス電圧と同じ周波数及び振幅を有するパルス電圧を生成できる。オペアンプは、入力オフセット電圧を補正するために、例えば外部から入力オフセット電圧と逆の電圧を加えるなどの公知の方法を用いることが好ましい。
【0041】
バッファ回路6は、電源ライン16においてパルス電圧生成部5の下流側(導水部12)に配置される。実際の環境では、図6(A)に示すように、電源ライン16に寄生容量、寄生インダクタンス、寄生抵抗などの目に見えないLCR成分が発生する。これにより、パルス電圧生成部5により導水部12に印加される電圧が下がり、図6(B)のモデル図に示すように、導水部12にチャージされるプラスの電荷が不十分になると、センサ電極2と導水部12との間に電位差が生じ、センサ電極2と導水部12との間に静電誘導が起こる。そのため、導水部12がセンサ電極化し、図6(B)のモデル図に示すように、導水部12に被検知体101が近付いた際に、導水部12にチャージされたプラスの電荷だけでなく、センサ電極2が有するプラスの電荷の影響により被検知体101に静電誘導が起こるため、センサ電極2の静電容量が変化するおそれがある。
【0042】
これに対して、バッファ回路6はパルス電圧生成部5から入力された電圧を補正する機能を有するため、バッファ回路6が電源ライン16に配置されていると、上述した電圧降下が起きても、図7のモデル図に示すように、バッファ回路6により降下した電圧が補正され、補正された電圧が導水部12に印加される。これにより、導水部12にはプラスの電荷が十分にチャージされることで、導水部12はセンサ電極2と電位差がない状態が維持され、導水部12とセンサ電極2との間の静電容量がゼロとなることで、導水部12は静電誘導を受けないためにセンサ電極化しない。そのため、導水部12に被検知体101が近付いても、導水部12に独自にチャージされたプラスの電荷の影響で被検知体101に静電誘導が起こり、センサ電極2が有するプラスの電荷は被検知体101の接近の影響を受けない。よって、被検知体101が導水部12に近付いた場合にセンサ電極2の静電容量が変化するのを効果的に抑制できる。その結果、センサ電極2(センサ窓14)ではなく導水部12に被検知体101が近付いた場合にユーザの近接操作を検知することが効果的に抑制されるため、誤って吐水及び止水の切り換えが行われる誤作動が生じるのを効果的に抑制できる。
【0043】
容量装置7は、電源ライン16においてバッファ回路6の下流側でありかつパルス電圧生成部5と並列に接続される。容量装置7は電気(電荷)を蓄えたり、放出する電子部品である。
【0044】
水栓金具10の導水部12にユーザの手などの被検知体101が接触すると、導水部12には被検知体101との間に非常に大きな寄生容量が急激に発生し、これにより、パルス電圧生成部5により導水部12に印加される電圧が低下する。導水部12に印加される電圧が低下すると、センサ電極2と導水部12との間に電位差が生じ、センサ電極2と導水部12との間に静電誘導が起こるため、導水部12がセンサ電極化する。
【0045】
これに対して、電源ライン16のバッファ回路6の下流側に容量装置7が配置されていると、図8のモデル図に示すように、導水部12に被検知体101の接触による非常に大きな寄生容量が急激に発生した場合に、容量装置7に蓄えられている電荷が容量装置7から放出されて導水部12に補充されることで、導水部12に印加される電圧が増加し、導水部12はセンサ電極2と電位差がない状態に戻る。これにより、導水部12とセンサ電極2との間の静電容量はゼロとなり、導水部12は静電誘導を受けないためにセンサ電極化しない。そのため、被検知体101が導水部12に接触しても、センサ電極2が有するプラスの電荷は被検知体101の接触の影響を受けず、センサ電極2の静電容量が変化するのを抑制できる。その結果、導水部12に被検知体101が接触した場合にユーザの近接操作を検知することが抑制されるため、誤って吐水及び止水の切り換えが行われる誤作動が生じるのを抑制できる。
【0046】
容量装置7は、特に限定されないが、好ましくはバイパスコンデンサを用いることができる。バイパスコンデンサは、電源ライン16とグラウンドの間に接続されているコンデンサである。
【0047】
制御装置の説明
制御装置15は、例えばマイクロコンピュータにより構成することができる。水栓金具10のセンサ窓14にユーザが手などの被検知体101を近付けると、センサ電極2の静電容量が変化することで静電容量センサ1によりユーザの近接操作が検知され、この検知情報が制御信号として静電容量センサ1から制御装置15に有線又は無線で送信される。これにより、制御装置15は、電磁弁を開動作させて吐水部13からの吐水を自動で実行する。制御装置15は、吐水が所定時間行われると電磁弁を閉動作させて吐水部13からの吐水を自動で止める、あるいは、再度、ユーザが手などの被検知体101をセンサ窓14に近付ける近接操作を静電容量センサ1が検知することで、電磁弁を閉動作させて止水を自動で実行する。
【0048】
なお、制御装置15に代えて、静電容量センサ1の検出装置3における制御部9がユーザの近接操作を検知すると、電磁弁を開閉動作させて吐水及び止水の切り換えを自動で実行するように構成してもよい。
【0049】
静電容量センサの作用・効果
上述した本実施形態の静電容量センサ1は、プラスの電荷がチャージされたセンサ電極2と、センサ電極2が絶縁された状態で設置される水栓金具10の導水部12(センサ設置部)にセンサ電極2と同相同電位となるように電圧を印加する電圧印加手段4と、を備えることを特徴とする。
【0050】
これにより、本実施形態の静電容量センサ1では、上述したように、センサ電極2が設置される導水部12がシールド電極化され、導水部12がセンサ電極化するのを抑制できる。よって、ユーザの手などの被検知体101が水栓金具10の導水部12に近付いた場合にセンサ電極2の静電容量変化が抑えられるので、被検知体101が導水部12に近付くことではユーザの近接操作が検知されない。よって、本実施形態の静電容量センサ1によれば、静電容量センサ1が用いられる自動水栓装置100において誤って吐水及び止水の切り換えが行われる誤作動が生じるのを抑制できる。
【0051】
また、本実施形態の静電容量センサ1は、電圧印加手段4が水栓金具10の導水部12に印加される電圧を補正するためのバッファ回路6を備えることを特徴とする。
【0052】
これにより、本実施形態の静電容量センサ1では、上述したように、電源ライン16に発生するLCR成分などの影響で導水部12に印加される電圧が降下しても、バッファ回路6により降下した電圧が補正され、補正された電圧が導水部12(センサ設置部)に印加される。よって、本実施形態の静電容量センサ1によれば、電源ライン16のLCR成分などの影響による電圧降下が起きても導水部12のシールド電極化が維持され、導水部12がセンサ電極化するのを抑制できる。
【0053】
また、本実施形態の静電容量センサ1は、電圧印加手段4が導水部12に電荷を補充するための容量装置7を備えることを特徴とする。
【0054】
これにより、本実施形態の静電容量センサ1では、上述したように、導水部12にユーザの手などの被検知体101が接触して非常に大きな寄生容量が急激に発生しても、容量装置7に蓄えられている電荷が容量装置7から放出されて導水部12(センサ設置部)に補充され、導水部12に印加される電圧が維持される。よって、本実施形態の静電容量センサ1によれば、導水部12に被検知体の接触による非常に大きな寄生容量が急激に発生しても、導水部12のシールド電極化が維持され、導水部12がセンサ電極化するのを抑制できる。
【0055】
変形例の説明
以上、本開示の静電容量センサの実施形態について説明したが、上述した実施形態は、あくまでも例示であって制限的なものではない。そのため、本開示静電容量センサは上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0056】
例えば上記実施形態では、水栓金具10においてセンサ設置部である導水部12のセンサ電極化を抑制して導水部12をシールド電極化するために、電圧印加手段4がバッファ回路6及び容量装置7を備えているが、電圧印加手段4はバッファ回路6及び容量装置7の少なくとも一方を備えていてもよい。あるいは、電圧印加手段4は、パルス電圧生成部5が十分高い能力を有していて導水部12(センサ設置部)にセンサ電極2と同相同電位のパルス電圧を印加できれば、バッファ回路6及び容量装置7の両方を備えていなくてもよい。
【0057】
例えば上記実施形態では、水栓金具10の導水部12にセンサ電極2を配置しかつ導水部12をシールド電極化しているが、水栓金具10の基部11又は吐水部13にセンサ電極2を配置する場合には、センサ設置部となる基部11又は吐水部13をシールド電極化してもよい。
【0058】
例えば上記実施形態では、キッチンの自動水栓装置100に本開示の静電容量センサを適用しているが、その他、洗面室、トイレ、浴室、あるいはその他の給水設備の自動水栓装置100にも本開示の静電容量センサ1を適用してもよい。
【0059】
例えば上記実施形態では、自動水栓装置100に本開示の静電容量センサを適用しているが、自動水栓装置100以外に人体検知センサによってユーザの近接操作を検知して各種の機能(例えば、扉の開閉、スイッチやボタンのオンオフなど)を実行する製品であって、センサ電極2の周辺が金属などの導電性材料で囲まれる製品にも本開示の静電容量センサを適用できる。例えば、冷蔵庫、厨房機器、レンジフード、エレベーター、ロボット、産業用コントローラなどの製品に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 静電容量センサ
2 センサ電極
3 検出装置
4 電圧印加手段
5 パルス電圧生成部
6 バッファ回路
7 容量装置
10 水栓金具
12 導水部(水栓金具の一部分)
100 自動水栓装置
【要約】
【課題】例えば自動水栓装置などの人体の近接操作を検知する製品に静電容量センサを用いた場合に、該製品のセンサ電極が設置される設置部がセンサ電極化するのを抑制して誤作動が生じるのを抑制することを目的とする。
【解決手段】センサ電極2の静電容量変化に基づきセンサ電極2に対するユーザの近接操作を検知する静電容量センサ1であって、プラスの電荷がチャージされるセンサ電極2と、該静電容量センサ1が用いられる自動水栓装置100(製品)においてセンサ電極2が絶縁された状態で設置される水栓金具10の導水部12(センサ設置部)にセンサ電極2と同相同電位となるように電圧を印加する電圧印加手段4と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10