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  • 特許-水性液剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】水性液剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7036 20060101AFI20240430BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240430BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240430BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240430BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240430BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A61K31/7036
A61K9/08
A61K47/38
A61P27/04
A61P27/02
A61P31/04
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2023554283
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2023001725
(87)【国際公開番号】W WO2023140357
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022007774
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512286174
【氏名又は名称】センジュ ユーエスエー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夢央
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】坂井 達也
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106420811(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106474149(CN,A)
【文献】国際公開第2005/046700(WO,A1)
【文献】特開2021-035984(JP,A)
【文献】特開2002-097129(JP,A)
【文献】特開2006-089460(JP,A)
【文献】特表2013-528589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む点眼液であって、
該水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、点眼液
【請求項2】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%である、請求項1に記載の点眼液
【請求項3】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.1w/v%~3.0w/v%である、請求項2に記載の点眼液
【請求項4】
前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、請求項1に記載の点眼液
【請求項5】
前記水溶性高分子の濃度が0.3w/v%~2.0w/v%である、請求項4に記載の点眼液
【請求項6】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%であり、
前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、
請求項1に記載の点眼液
【請求項7】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70である、請求項1~6のいずれか一項に記載の点眼液
【請求項8】
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、点眼液であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70である、点眼液
【請求項9】
前記点眼液の粘度が、5~50mPa・sである、請求項1、2、3、4、5、6、又は8に記載の点眼液
【請求項10】
C-(A+B)が0より大きい、請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の点眼液、
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
[数1]
あるいは、
c-(a+b)が0より大きい、請求項8に記載の点眼液。
a:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
b:ヒドロキシプロピルメチルセルロースによる粘度増加値(mPa・s)
c:アルベカシン及びヒドロキシプロピルメチルセルロースによる粘度増加値(mPa・s)
[数2]
粘度増加値(mPa・s)=(η 1’ - η 2’ )- η 3
η 1’ :水性液剤中の濃度でのアルベカシン及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液(1 mL)と6 w/v%ムチン溶液(1 mL)との混合溶液の粘度
η 2’ :水性液剤中の濃度でのアルベカシン及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液(1 mL)と0.1 Mリン酸緩衝液(1 mL)との混合溶液の粘度
η 3 :0.1 Mリン酸緩衝液(1 mL)と6 w/v%ムチン溶液(1 mL)との混合溶液の粘度
【請求項11】
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤であって、
該水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
アルベカシンの結膜移行性を向上するために使用される、水性液剤。
【請求項12】
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤であって、
該水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
細菌性外眼部感染症治療用である、水性液剤。
【請求項13】
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤であって、
該水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
涙液層安定化用である、水性液剤。
【請求項14】
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤であって、
該水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症治療用である、水性液剤。
【請求項15】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%である、請求項11~14のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項16】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.1w/v%~3.0w/v%である、請求項15に記載の水性液剤。
【請求項17】
前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、請求項11~14のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項18】
前記水溶性高分子の濃度が0.3w/v%~2.0w/v%である、請求項17に記載の水性液剤。
【請求項19】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%であり、
前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、
請求項11~14のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項20】
前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70である、請求項11~14のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項21】
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70である、
アルベカシンの結膜移行性を向上するために使用される、水性液剤。
【請求項22】
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70である、
細菌性外眼部感染症治療用である、水性液剤。
【請求項23】
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70である、
涙液層安定化用である、水性液剤。
【請求項24】
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70である、
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症治療用である、水性液剤。
【請求項25】
前記水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、請求項11~14及び21~24のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項26】
C-(A+B)が0より大きい、請求項11~14のいずれか一項に記載の水性液剤、
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
[数3]
あるいは、
c-(a+b)が0より大きい、請求項21~24のいずれか一項に記載の水性液剤。
a:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
b:ヒドロキシプロピルメチルセルロースによる粘度増加値(mPa・s)
c:アルベカシン及びヒドロキシプロピルメチルセルロースによる粘度増加値(mPa・s)
[数4]
粘度増加値(mPa・s)=(η 1’ - η 2’ )- η 3
η 1’ :水性液剤中の濃度でのアルベカシン及び/又ヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液(1 mL)と6 w/v%ムチン溶液(1 mL)との混合溶液の粘度
η 2’ :水性液剤中の濃度でのアルベカシン及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液(1 mL)と0.1 Mリン酸緩衝液(1 mL)との混合溶液の粘度
η 3 :0.1 Mリン酸緩衝液(1 mL)と6 w/v%ムチン溶液(1 mL)との混合溶液の粘度
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤及びその応用技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルベカシンは、アミノグリコシド系抗生物質の1つである。アルベカシンの硫酸塩は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin‐resistant Staphylococcus aureus;MRSA)に起因する肺炎や敗血症の治療に用いられている(特許文献1)。また、アルベカシンの硫酸塩は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性菌だけでなく、グラム陰性菌に対しても幅広い抗菌活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、水性液剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン等の水溶性高分子が、例えば、粘稠剤又は増粘剤として、一般的に用いられている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9511143号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/0016176号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0270378号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】ClinPharmacol. 2014 Sep 26;6:139-48.
【文献】PharmRes. 1990 May;7(5):491-5.
【文献】TFOSDEWS II Report Executive Summary、The Ocular Surface(2017)、http://dx.doi.org/10.1016/j.jtos.2017.08.003
【文献】Int.J. Pharm. Sci. Rev. Res. 2014, 24(1), 237-245.
【文献】あたらしい眼科 Vol.22,No.3, 2005, 289-294.
【文献】AdvClin Exp Med. 2019;28(2):165-169.
【文献】JColloid Interface Sci. 2003 Jun 1;262(1):130-48.
【文献】VetOphthalmol. Mar-Apr 2004;7(2):71-7.
【文献】InternationalJournal of Pharmaceutics, 1989;53(3):219-225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤に関する製剤技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤が、ムチン接着性に優れていることを見出し、さらに改良を重ねた。
【0008】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1-1.
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤であって、
該水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、水性液剤。
項1-2.
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%である、項1-1に記載の水性液剤。
項1-3.
前記アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.1w/v%~3.0w/v%である、項1-1又は1-2に記載の水性液剤。
項1-4.
前記水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、項1-1~1-3のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-5.
前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、項1-1~1-4のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-6.
前記水溶性高分子の濃度が0.3w/v%~2.0w/v%である、項1-1~1-5のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-7.
前記水溶性高分子の濃度が0.8w/v%~1.4w/v%である、項1-1~1-6のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-8.
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.8w/v%~1.4w/v%である、水性液剤。
項1-9.
前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70である、項1-1~1-8のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-10.
前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.1~20である、項1-1~1-9のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-11.
前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.25~14である、項1-1~1-10のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-12.
前記水性液剤のpHが、5.0~8.0である、項1-1~1-11のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-13.
前記水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、項1-1~1-12のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-14.
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、水性液剤。
項1-15.
C-(A+B)が0より大きい、項1-1~1-14のいずれか一項に記載の水性液剤。 A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
【数1】
項1-16.
前記C-(A+B)が0.1より大きい、項1-1~1-15のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-17.
前記C-(A+B)が0.5より大きい、項1-1~1-16のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-18.
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sであり、
C-(A+B)が0より大きい、水性液剤。
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
【数2】
項1-19.
アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率が5%以上である、項1-1~1-18のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-20.
アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率が25%以上である、項1-1~1-19のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-21.
点眼液である、項1-1~1-20のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-22.
水溶性高分子を含む水性液剤を眼表面で増粘するために使用される、項1-1~1-21のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-23.
ムチン接着性を向上するために使用される、項1-1~1-22のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-24.
涙液層安定化用である、項1-1~1-23のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-25.
アルベカシンの結膜移行性を向上するために使用される、項1-1~1-24のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-26.
細菌性外眼部感染症治療用である、項1-1~1-25のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-27.
細菌性角結膜炎治療用である、項1-1~1-26のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-28.
細菌性結膜炎治療用である、項1-1~1-27のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-29.
前記細菌がグラム陽性菌又はグラム陰性菌である、項1-1~1-28のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-30.
前記細菌が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌、コリネバクテリウム菌、緑膿菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ、淋菌、セラチア、レンサ球菌、嫌気性菌、非定型抗酸菌肺炎球菌から選ばれる少なくとも1種である、項1-1~1-29のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-31.
ドライアイ治療用である、項1-1~1-30のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-32.
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症治療用である、項1-1~1-31のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-33.
ドライアイを伴う細菌性角結膜炎治療用である、項1-1~1-32のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-34.
ドライアイを伴う細菌性結膜炎治療用である、項1-1~1-33のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-35.
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
細菌性外眼部感染症治療用である、水性液剤。
項1-36.
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、水性液剤であって、
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症治療用である、水性液剤。
【0009】
項2-1.
細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、細菌性外眼部感染症の治療方法。
項2-2.
細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、細菌性外眼部感染症の治療方法。
項2-3.
細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、細菌性結膜炎の治療方法。
項2-4.
細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
細菌性外眼部感染症の治療方法。
項2-5.
細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程を含む、
細菌性結膜炎の治療方法。
項2-6a.
該水性液剤がムチンと接触する工程を含む、項2-1~2-5のいずれか一項に記載の治療方法。
項2-6b.
前記水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程が、
前記水性液剤がムチンと接触するように前記対象の眼表面に投与する工程である、
項2-1~2-5のいずれか一項に記載の治療方法。
項2-7a.
該水性液剤が眼表面で増粘する工程を含む、項2-1~2-6のいずれか一項に記載の治療方法。
項2-7b.
前記水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程が、
前記水性液剤が眼表面で増粘するように前記対象の眼表面に投与する工程である、
項2-1~2-6のいずれか一項に記載の治療方法。
項2-8a.
該水性液剤のムチン接着性を向上する工程を含む、項2-1~2-7のいずれか一項に記載の治療方法。
項2-8b.
前記水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程が、
投与後に前記水性液剤のムチン接着性が向上するように前記対象の眼表面に投与する工程である、
項2-1~2-7のいずれか一項に記載の治療方法。
項2-9a.
細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程を含み、
該水性液剤がムチンと接触することで、該水性液剤が増粘し、該水性液剤のムチン接着性を向上する工程を含む、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
細菌性外眼部感染症の治療方法。
項2-9b.
細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
当該投与は、該水性液剤がムチンと接触することで、該水性液剤が増粘し、該水性液剤のムチン接着性が向上するように行われる、
細菌性外眼部感染症の治療方法。
項2-9c.
細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程を含み、
該水性液剤がムチンと接触することで、該水性液剤が増粘し、該水性液剤のムチン接着性を向上する工程を含む、
細菌性結膜炎の治療方法。
項2-9d.
細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む水性液剤を、それを必要とする対象の眼表面に投与する工程を含み、
当該投与は、該水性液剤がムチンと接触することで、該水性液剤が増粘し、該水性液剤のムチン接着性が向上するように行われる、
細菌性結膜炎の治療方法。
項2-10.
アルベカシン及び/又はその塩の結膜移行性を向上する方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、結膜移行性を向上する方法。
項2-11.
前記水性液剤中、アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%である、項2-1~2-10のいずれか一項に記載の方法。
項2-12.
前記水性液剤中、前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、項2-1~2-11のいずれか一項に記載の方法。
項2-13.
前記水性液剤中、前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70である、項2-1~2-12のいずれか一項に記載の方法。
項2-14.
前記水性液剤のpHが、5.0~8.0である、項2-1~2-13のいずれか一項に記載の方法。
項2-15.
前記水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、項2-1~2-14のいずれか一項に記載の方法。
項2-16.
細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、細菌性外眼部感染症の治療方法。
項2-17.
前記水性液剤が、C-(A+B)が0より大きい水性液剤である、項2-1~2-16のいずれか一項に記載の方法。
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
【数3】
項2-18.
前記水性液剤が、アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率が5%以上の水性液剤である、項2-1~2-17のいずれか一項に記載の方法。
項2-19.
前記水性液剤が、点眼液である、項2-1~2-18のいずれか一項に記載の方法。
項2-20a.
細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与し、該水性液剤がムチンと接触する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、細菌性結膜炎の治療方法。
項2-20b.
細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に、該水性液剤がムチンと接触するように投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、細菌性結膜炎の治療方法。
【0010】
項3-1.
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症の治療方法。
項3-2.
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症の治療方法。
項3-3.
ドライアイを伴う細菌性結膜炎の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、ドライアイを伴う細菌性結膜炎の治療方法。
項3-4.
前記水性液剤中、アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%である、項3-1~3-3のいずれか一項に記載の治療方法。
項3-5.
前記水性液剤中、前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、項3-1~3-4のいずれか一項に記載の治療方法。
項3-6.
前記水性液剤中、前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70である、項3-1~3-5のいずれか一項に記載の治療方法。
項3-7.
前記水性液剤のpHが、5.0~8.0である、項3-1~3-6のいずれか一項に記載の治療方法。
項3-8.
前記水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、項3-1~3-7のいずれか一項に記載の治療方法。
項3-9.
ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症の治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症の治療方法。
項3-10.
前記水性液剤が、C-(A+B)が0より大きい水性液剤である、項3-1~3-9のいずれか一項に記載の治療方法。
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
【数4】
項3-11.
前記水性液剤が、アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率が5%以上の水性液剤である、項3-1~3-10のいずれか一項に記載の治療方法。
項3-12.
前記水性液剤が、点眼液である、項3-1~3-11のいずれか一項に記載の治療方法。
【0011】
項4-1.
ドライアイの治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、ドライアイの治療方法。
項4-2.
水溶性高分子を含む水性液剤を眼表面で増粘する方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、方法。
項4-3.
ムチン接着性を向上する方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、ムチン接着性を向上する方法。
項4-4.
涙液層の安定化方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、涙液層の安定化方法。
項4-5.
ドライアイの治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、ドライアイの治療方法。
項4-6.
前記水性液剤中、アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が、0.05w/v%~5.0w/v%である、項4-1~4-5のいずれか一項に記載の方法。
項4-7.
前記水性液剤中、前記水溶性高分子の濃度が0.05w/v%~8.8w/v%である、項4-1~4-6のいずれか一項に記載の方法。
項4-8.
前記水性液剤中、前記アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.04~70である、項4-1~4-7のいずれか一項に記載の方法。
項4-9.
前記水性液剤のpHが、5.0~8.0である、項4-1~4-8のいずれか一項に記載の方法。
項4-10.
前記水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、項4-1~4-9のいずれか一項に記載の方法。
項4-11.
ドライアイの治療方法であって、
アルベカシン及び/又はその塩、並びに水溶性高分子を含む水性液剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
該水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、
該アルベカシン及び/又はその塩の総濃度が0.1w/v%~3.0w/v%であり、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が0.3w/v%~2.0w/v%であり、
該アルベカシン及び/又はその塩の総含有量と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量との、質量比が、1:0.04~70であり、
該水性液剤のpHが、5.0~8.0であり、
該水性液剤の粘度が、5~50mPa・sである、ドライアイの治療方法。
項4-12.
前記水性液剤が、C-(A+B)が0より大きい水性液剤である、項4-1~4-11のいずれか一項に記載の方法。
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
【数5】
項4-13.
前記水性液剤が、アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率が5%以上の水性液剤である、項4-1~4-12のいずれか一項に記載の方法。
項4-14.
前記水性液剤が、点眼液である、項4-1~4-13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
水性液剤のムチン接着性を向上することができる。また、水性液剤の結膜移行性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】透析膜試験における、各検体の放出プロファイルを示す((a)検体20~23(アルベカシン1%、HPMC1%、ムチン1%の系)、(b)検体24、25(アルベカシン3%、HPMC1.5%、ムチン1%の系)、(c)検体26、27(アルベカシン0.5%、HPMC1.5%、ムチン1%の系))。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0015】
1.定義
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語及び科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
本明細書において、「水性液剤」とは、水を基剤として含み液状を呈する製剤である。
【0017】
本明細書において、「水溶性高分子」とは、水に可溶な高分子を指す。
【0018】
本明細書において、「アルベカシン」とは、3-アミノ-3-デオキシ-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-[2,6-ジアミノ-2,3,4,6-テトラデオキシ-α-D-エリスロ-ヘキソピラノシル-(1→4)]-1-N-[(2S)-4-アミノ-2-ヒドロキシブタノイル]-2-デオキシ-D-ストレプタミンを指す。「アルベカシン」は、アミノグリコシド系抗生物質として公知の化合物であり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して強い抗菌力を有する。アルベカシンは、特開昭56-051499号公報及び特開昭58-134099号公報にも記載されている。また、第十八改正日本薬局方の医薬品各条にも収載されている。本明細書において、アルベカシン及び/又はその塩の濃度や量は、特に明記しない限り、アルベカシンに換算された濃度や量である。
【0019】
本明細書において、「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」とは、セルロース系高分子の1種であり、セルロースのメチル及びヒドロキシプロピルの混合エーテルを指す。ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、ヒプロメロースと称されることもある。HPMCと略記することもある。
【0020】
本明細書において、「ヒドロキシエチルセルロース」とは、セルロース系高分子の1種であり、部分的にO-(2-ヒドロキシエチル)化したセルロースを指す。HECと略記することもある。
【0021】
本明細書において、「メチルセルロース」とは、セルロース系高分子の1種であり、セルロースのメチルエーテルを指す。MCと略記することもある。
【0022】
本明細書において、「ポリビニルピロリドン」とは、ポリビニル系高分子の1種であり、1-ビニル-2-ピロリドンの直鎖重合物を指す。ポリビニルピロリドンは、ポビドン、又はポリビドンと称されることもある。PVPと略記することもある。
【0023】
本明細書において、水性液剤の「粘度」は、第十八改正日本薬局方の一般試験法に定める「2.53粘度測定法」の「2.第2法 回転粘度計法」の「2.1.3.円錐-平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計)」に従って測定される(30℃±0.1℃、プレヒート時間:0s、回転速度100rpm、円錐-平板形回転粘度計、使用コーンロータ:3°×R17.65、測定時間:90s)。具体的には、水性液剤の粘度の測定は、東機産業株式会社製の粘度計TVE-25形(型式:TVE-25L)を用いて測定される。
【0024】
本明細書において、「粘度増加値」とは、アルベカシン及び/又は水溶性高分子とムチンとの混合溶液の粘度から、アルベカシン及び/又は水溶性高分子溶液の粘度、並びにムチン溶液の粘度を引いた値であり、より具体的には、下記算出式に従って求められる値を指す(非特許文献2)。
【数6】
アルベカシンによる粘度増加値は、下記算出式に従って求められる。
【数7】
水溶性高分子による粘度増加値は、下記算出式に従って求められる。
【数8】
アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値は、下記算出式に従って求められる。
【数9】
【0025】
本明細書において、「増粘する」とは、水溶性高分子を含有するアルベカシン水性液剤がムチンと相互作用することで、その水性液剤の粘度が上昇することを意味する。
【0026】
本明細書において、「アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率(%)」は、アルベカシンとムチンとの接着性を示す指標であり、低下率が高いほど、接着性が高いことを意味する。「アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率(%)」は、下述するIn vitro透析膜試験の結果に基づき、以下の式に従い算出される。
In vitro透析膜試験
1)2mL容量のガラス容器に検体(アルベカシン及び/又はその塩を含む)を500μL封入し、開口部を透析膜で覆い、周囲を固定する(当該ガラス容器内がドナー側)。
2)PBS(15mL)を満たしたビーカー(外液側)に、ビーカーの底面から一定の高さになるように1)を取り付け、ビーカー内の液を、スターラーを用いて攪拌する。
3)攪拌開始15~240分後の任意の時間で外液側から1mLをサンプリングしたものをサンプリング液とし、サンプリング液を適宜希釈し、液体クロマトグラフィー法により、以下の条件で測定する。
検出器:荷電化粒子検出器
カラム:内径4.6mm、長さ250mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクチルシリル化シリカゲルを充填した市販品。
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相:5mMヘプタフルオロ酪酸水溶液及び5mMヘプタフルオロ酪酸アセトニトリル溶液によるグラジエント
流量:毎分1.4mL
理論総量に対するドナー中の薬物残存率(%)=100-(サンプリング時までに外液中に放出した累計アルベカシン量(μg)/ドナー側に含まれるアルベカシンの理論総量(μg)×100)
放出速度(%/min):各サンプリング液について、前記薬物残存率(%)をy軸、サンプリング時間(min)をx軸としてプロットした時に得られる、最小二乗法による近似直線の傾きの絶対値
放出速度の低下率(%):100-(検体の放出速度/アルベカシン溶液単独の放出速度×100)
なお、放出速度の低下率算出式における「アルベカシン溶液」は、検体に含まれるアルベカシン量と同量のアルベカシンが含まれるアルベカシン及び/又はその塩の水溶液である。また、当該「アルベカシン溶液」は、検体に含まれるアルベカシン及び/又はその塩と同じ化合物を同量水に溶解させたものである。例えば、検体にアルベカシン換算量として1w/v%のアルベカシン硫酸塩が含まれる場合、「アルベカシン溶液」はアルベカシン換算量として1w/v%となるアルベカシン硫酸塩水溶液である。
【0027】
本明細書において、「ムチン接着性」とは、水溶性高分子を含有するアルベカシン水性液剤が、ムチンと混合されることで、水溶液中で水溶性高分子、アルベカシン及びムチンが相互作用し、これらが可逆的に結合する能力を意味する。
【0028】
本明細書において、「アルベカシンの結膜移行性を向上する」とは、水溶性高分子非含有アルベカシン水性液剤を投与したときの結膜中アルベカシン濃度のCmaxと比較し、水溶性高分子含有アルベカシン水性液剤を投与したときの結膜中アルベカシン濃度のCmaxが高くなることを指す。Cmaxは、薬物投与後の対象部位における最高の薬物濃度を意味する。
【0029】
本明細書において、「細菌性外眼部感染症」とは、細菌が外眼部に感染することによって起こる疾患を指す。「外眼部」とは、眼球の周囲に位置する器官を指し、例えば、結膜、角膜、眼瞼、涙腺、マイボーム線などが挙げられる。
【0030】
本明細書において、「細菌性角結膜炎」とは、細菌が角膜又は結膜に感染することによって炎症が起こる疾患を指す。「細菌性角膜炎」とは、細菌が角膜に感染することによって炎症が起こる疾患を指す。「細菌性結膜炎」とは、細菌が結膜に感染することによって炎症が起こる疾患を指す。
【0031】
本明細書において、「ドライアイ」とは、臨床上の診断基準に沿って「ドライアイ」と診断される疾患を指す。より具体的には、「涙液層の健常性の破綻によって特徴づけられる、多因子性の眼表面疾患であり、何らかの眼の自覚症状を有しており、涙液層の不安定性や高浸透圧、眼表面の炎症や傷害、知覚神経異常が病因的な役割を担っているもの」を指す(非特許文献3)。「ドライアイ」は、「乾性角結膜炎」と称されることもある。 本明細書において、「治療」とは、疾患又は症状の改善、軽減、緩和若しくは進行速度の低下を意味する。
【0032】
本明細書において、「涙液層」とは、脂質層(油層)、水層、及びムチン層の三層から構成される、眼の表面を覆う層を指す。水層とムチン層とを混合した一つの液層とした場合、水とムチンが混合した液層及び油層の二層から構成される、眼の表面を覆う層を指す(非特許文献3)。
本明細書において、「涙液層安定化」とは、眼の表面に涙液層が安定して保持されることを意味する。涙液層破壊時間(BUT)とは、涙液層が形成されてから破壊するまでの時間を意味する。涙液層が不安定になると、BUTが短縮する傾向がある。一つの例として、「涙液層安定化」とは、BUTが延長することを指す。
【0033】
2.水性液剤
本開示に包含される水性液剤は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む。本明細書において、当該水性液剤を「本開示の水性液剤」と表記することがある。
【0034】
アルベカシンの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されない。例えば、有機酸塩又は無機酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、例えば酒石酸塩、酢酸塩等が挙げられる。無機酸塩としては、例えば硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。また、アルベカシン又はその塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。アルベカシン又はその塩の中でも、アルベカシン硫酸塩は、医薬品として上市されており安全性が確立されているため、好適に使用される。
【0035】
本開示の水性液剤において、アルベカシン又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0036】
本開示の水性液剤におけるアルベカシン及び/又はその塩の総濃度としては、アルベカシン換算で、例えば0.05~5.0w/v%程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は例えば0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、又は4.5w/v%であってもよい。例えば当該範囲は、好ましくは、0.1~3.0w/v%程度とすることができる。
【0037】
本開示の組成物に用いられる水溶性高分子としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。これら4種の水溶性高分子をまとめて本開示の水溶性高分子ということがある。中でも、経時的に粘度を維持しやすいという観点で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが特に好ましい。当該水溶性高分子は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本開示の組成物は、効果を損なわない範囲において、本開示の水溶性高分子以外の水溶性高分子を含んでもよい。
【0038】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度タイプは、メトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基の含有量によって定義される(第十八改正日本薬局方)。置換度タイプ1828は、メトキシ基の下限が16.5質量%、メトキシ基の上限が20.0質量%、ヒドロキシプロポキシ基の下限が23.0質量%、かつヒドロキシプロポキシ基の上限が32.0質量%のものを指す。置換度タイプ2208は、メトキシ基の下限が19.0質量%、メトキシ基の上限が24.0質量%、ヒドロキシプロポキシ基の下限が4.0質量%、かつヒドロキシプロポキシ基の上限が12.0質量%のものを指す。置換度タイプ2906は、メトキシ基の下限が27.0質量%、メトキシ基の上限が30.0質量%、ヒドロキシプロポキシ基の下限が4.0質量%、かつヒドロキシプロポキシ基の上限が7.5質量%のものを指す。置換度タイプ2910は、メトキシ基の下限が28.0質量%、メトキシ基の上限が30.0質量%、ヒドロキシプロポキシ基の下限が7.0質量%、かつヒドロキシプロポキシ基の上限が12.0質量%のものを指す。
【0039】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度タイプは、特に制限されず、1828、2208、2906、2910のいずれであってもよい。好ましくは2208、又は2910の置換度タイプが挙げられる。
【0040】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの分子量は、特に制限されない。例えば、重量平均分子量として1万~50万、好ましくは5万~50万、更に好ましくは5万~30万が挙げられる。例えば、重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として使用したゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法によって求められることができる。
【0041】
本開示の水性液剤におけるヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度としては、例えば0.2~3.5w/v%程度とすることができる。好ましくは0.3~2.0w/v%程度、より好ましくは0.3~1.5w/v%程度、さらにより好ましくは0.8~1.5w/v%程度、特に好ましくは0.8~1.4w/v%程度とすることができる。
【0042】
ヒドロキシエチルセルロースのヒドロキシエトキシ基のモル置換度(無水グルコース単位あたりに付加したヒドロキシエトキシ基の平均モル数)は、特に制限されない。例えば、1.5~3.0程度が挙げられる。好ましくは2.5程度が挙げられる。
【0043】
ヒドロキシエチルセルロースの分子量は、特に制限されない。例えば、重量平均分子量として1万~100万、好ましくは10万~100万、更に好ましくは60万~80万が挙げられる。
【0044】
本開示の水性液剤におけるヒドロキシエチルセルロースの濃度としては、例えば0.05~1w/v%程度とすることができる。例えば、0.08~0.6w/v%程度であってもよく、0.09~0.4w/v%程度であってもよく、0.2~0.4w/v%程度であってもよい。
【0045】
メチルセルロースの置換度(無水グルコース単位当たり、メトキシ基で置換された水酸基の平均個数)は、特に制限されない。例えば、1.5~3.0程度が挙げられる。好ましくは1.8程度が挙げられる。
【0046】
メチルセルロースの分子量は、特に制限されない。例えば、重量平均分子量として1万~50万、好ましくは10万~50万、更に好ましくは30万~50万が挙げられる。
【0047】
本開示の水性液剤におけるメチルセルロースの濃度としては、例えば0.1~1.8w/v%程度とすることができる。例えば、0.15~1.0w/v%程度であってもよく、0.15~0.75w/v%程度であってもよく、0.4~0.75w/v%程度であってもよく、0.4~0.7w/v%程度であってもよい。
【0048】
ポリビニルピロリドンの分子量は、特に制限されない。例えば、重量平均分子量として2000~150万、好ましくは4万~150万、更に好ましくは100万~150万が挙げられる。
【0049】
本開示の水性液剤におけるポリビニルピロリドンの濃度としては、例えば0.5~8.8w/v%程度とすることができる。例えば、0.75~5.0w/v%程度であってもよく、0.75~3.8w/v%程度であってもよく、2.0~3.8w/v%程度であってもよく、2.0~3.5w/v%程度であってもよい。
【0050】
本開示の組成物は、効果を損なわない範囲において、本開示の水溶性高分子以外の水溶性高分子を含んでもよい。このような、その他の水溶性高分子としては、例えば、本開示の水溶性高分子以外のセルロース系高分子、合成高分子等が挙げられる。
【0051】
より具体的には、当該セルロース系高分子としては、例えば、非イオン(ノニオン)性セルロース系高分子、イオン性セルロース系高分子等が挙げられる。非イオン性セルロース系高分子としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられ、イオン性セルロース系高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、等が挙げられる。
【0052】
当該合成高分子としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、等が挙げられる。
本開示の組成物が、このような、その他の水溶性高分子をも含む場合においては、組成物に含有される水溶性高分子の50質量%以上が、本開示の水溶性高分子であることが好ましく、55、60、65、70、75、80、85、90、又は95質量%以上が本開示の水溶性高分子であることがより好ましく、100質量%が本開示の水溶性高分子であることが特に好ましい。
【0053】
本開示の水性液剤における本開示の水溶性高分子の総濃度としては、例えば、0.05w/v%~8.8w/v%程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は例えば0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、又は8.7w/v%であってもよい。当該範囲は例えば、0.1~7w/v%程度であってもよく、0.2~6w/v%程度であってもよく、0.3~5w/v%程度であってもよい。
また、本開示の水性液剤における水溶性高分子の総濃度としては、例えば、0.05w/v%~8.8w/v%程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は例えば0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、又は8.7w/v%であってもよい。当該範囲は例えば、0.1~7w/v%程度であってもよく、0.2~6w/v%程度であってもよく、0.3~5w/v%程度であってもよい。
【0054】
本開示の水性液剤において、アルベカシン及び/又はその塩に対する本開示の水溶性高分子の比率は、効果が損なわれない範囲であれば、特に制限されない。例えば、アルベカシン及び/又はその塩のアルベカシン換算での総含有量と、本開示の水溶性高分子の含有量との、質量比(アルベカシン及び/又はその塩のアルベカシン換算での総含有量:本開示の水溶性高分子の含有量)が、1:0.01~180質量部程度とすることができる。当該範囲(0.01~180)の上限又は下限は例えば0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、又は170であってもよい。よって前記質量比は例えば、1:0.01~110質量部程度であってもよく、1:0.04~70質量部程度であってもよく、1:0.1~20質量部程度であってもよく、1:0.25~14質量部程度であってもよい。
また、本開示の水性液剤において、アルベカシン及び/又はその塩に対する水溶性高分子の比率は、効果が損なわれない範囲であれば、特に制限されない。例えば、アルベカシン及び/又はその塩のアルベカシン換算での総含有量と、水溶性高分子の含有量との、質量比が、1:0.01~180質量部程度とすることができる。当該範囲(0.01~180)の上限又は下限は例えば0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、又は170であってもよい。よって前記質量比は例えば、1:0.01~110質量部程度であってもよく、1:0.04~70質量部程度であってもよく、1:0.1~20質量部程度であってもよく、1:0.25~14質量部程度であってもよい。
【0055】
本開示の水性液剤は、必要に応じて、緩衝剤、等張化剤、界面活性剤、防腐剤又は保存剤、清涼化剤、安定剤、pH調整剤等の添加剤を含有してもよい。
【0056】
緩衝剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノ酸緩衝剤等が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
ホウ酸緩衝剤としては、具体的には、ホウ酸及び/又はその塩が挙げられる。ホウ酸としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸等が挙げられる。これらのホウ酸の中でも、好ましくはオルトホウ酸及びテトラホウ酸が挙げられる。これらのホウ酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ホウ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として、特に制限されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン等の有機アミン塩等が挙げられる。また、ホウ酸/又はその塩は、ホウ砂等のように、水和物の形態であってもよい。ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸及びその塩の中から、1種を選択して単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ホウ酸及びその塩の中でも、好ましくはホウ酸及びホウ砂の少なくとも1種、より好ましくはオルトホウ酸及びホウ砂の少なくとも1種が挙げられる。
【0058】
クエン酸緩衝剤としては、具体的には、クエン酸及び/又はその塩が挙げられる。クエン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、クエン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。クエン酸緩衝剤として、クエン酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。クエン酸及びその塩の中でも、好ましくはクエン酸の塩、より好ましくはクエン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0059】
リン酸緩衝剤としては、具体的には、リン酸及び/又はその塩が挙げられる。リン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素二アルカリ金属塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素アルカリ金属塩;リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸三アルカリ金属塩等が挙げられる。また、リン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよく、例えば、リン酸水素二ナトリウムの場合であれば十二水和物の形態、リン酸二水素ナトリウムの場合であれば二水和物の形態等であってもよい。リン酸緩衝剤として、リン酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。リン酸及びその塩の中でも、好ましくはリン酸塩、より好ましくはリン酸水素二アルカリ金属塩及びリン酸二水素アルカリ金属塩の少なくとも1種、特に好ましくはリン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種が挙げられる。
【0060】
トリス緩衝剤としては、具体的には、トロメタモール及び/又はその塩が挙げられる。トロメタモールの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、酢酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩が挙げられる。トリス緩衝剤として、トロメタモール及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。トロメタモール及びその塩の中でも、好ましくはトロメタモールが挙げられる。
【0061】
酒石酸緩衝剤としては、具体的には、酒石酸及び/又はその塩が挙げられる。酒石酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、酒石酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。酒石酸緩衝剤として、酒石酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
酢酸緩衝剤としては、具体的には、酢酸及び/又はその塩が挙げられる。酢酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。また、酢酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。酢酸緩衝剤として、酢酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
アミノ酸緩衝剤としては、具体的には、酸性アミノ酸及び/又はそれらの塩が挙げられる。酸性アミノ酸としては、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸が挙げられる。酸性アミノ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。アミノ酸緩衝剤として、酸性アミノ酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
本開示の水性液剤における緩衝剤の濃度としては、水性液剤に所望の緩衝能を付与できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば0.01~3.0w/v%程度とすることができる。
【0065】
等張化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の金属塩等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
防腐剤又は保存剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸銀、ポリへキサニド、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの防腐剤又は保存剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
清涼化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油等が挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
安定剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エデト酸、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、ニトリロトリ酢酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、及びこれら塩等のキレート剤;チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、タウリン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。塩の形態としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらの安定剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
pH調整剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。これらのpH調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
これらの添加剤の濃度は、使用する添加剤の種類や水性液剤に付与すべき特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0072】
本開示の水性液剤のpHは、薬学的に許容されることを限度として特に制限されない。例えばpH5.0~8.0程度が挙げられる。例えば、5.4~7.5程度であってもよく、5.4~7.0程度であってもよく、5.4~6.0程度であってもよい。
【0073】
本開示の水性液剤の粘度は、特に制限されないが、例えば、5.0~100mPa・s程度とすることができる。例えば、5~50mPa・s程度であってもよく、10~35mPa・s程度であってもよく、20~35mPa・s程度であってもよい。
【0074】
水性液剤の浸透圧は、第十八改正日本薬局方の「一般試験法」の「2.47浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)」に規定されている方法に従って測定される値である。本開示の水性液剤の浸透圧は、目的とする用途に適用可能であることを限度として特に制限されない。例えば、眼粘膜に適用される場合、浸透圧として243~350mOsm/kg程度が挙げられる。
【0075】
水性液剤の浸透圧比とは、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する、水性液剤の浸透圧の比率を指す。本開示の水性液剤の浸透圧比は、目的とする用途に適用可能であることを限度として特に制限されない。例えば、眼粘膜に適用される場合、浸透圧比として、0.85~1.15が挙げられる。眼の刺激を緩和するという観点から好ましくは0.9~1.1、より好ましくは1.0が挙げられる。
【0076】
本開示の水性液剤は、アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値から、アルベカシンによる粘度増加値及び水溶性高分子溶液による粘度増加値を引いた値が0より大きいことが好ましい。換言すれば、本開示の水性液剤は、C-(A+B)が0より大きい(C-(A+B)>0である)ことが好ましい。
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン及び水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
例えば、C-(A+B)は0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65のいずれかより大きくてもよい。中でも、0.1が好ましく、0.3がより好ましく、0.5がさらにより好ましい。
【0077】
本開示の水性液剤は、アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率が5%以上であることが好ましい。例えば、アルベカシン及び/又はその塩の放出速度の低下率は5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25%のいずれかより大きくてもよい。中でも、5%が好ましく、15%がより好ましく、25%がさらにより好ましい。
【0078】
本開示の水性液剤の製剤形態は、特に制限されず、水溶液状、懸濁液状、乳液状等のいずれであってもよい。好ましくは水溶液状が挙げられる。
【0079】
本開示の水性液剤は、その製剤形態に応じて、公知の調製法に従って製造すればよく、例えば、第十八改正日本薬局方製剤総則に記載された方法を用いて製造することができる。
【0080】
具体的には、例えば、本開示の水性液剤の製造方法は、アルベカシン及び/又はその塩とヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子とを、薬学上許容される水性媒体に配合する工程を含む。「薬学上許容される水性媒体」は、薬学的に許容される水性媒体を意味し、例えば、精製水が挙げられる。また、配合工程において、各成分の配合順については、特に制限されず、任意の順番で順次配合してもよく、また同時に配合してもよい。
【0081】
本開示の水性液剤は、例えば、眼科用、歯科用、耳鼻科用、皮膚科用等の様々な用途の医薬組成物に調製され、局所投与製剤として使用される。本開示の水性液剤は、例えば、眼科用、歯科用、耳鼻科用、又は皮膚科用等の組成物とすることができる。好ましくは眼科用組成物が挙げられる。
【0082】
眼科用組成物としては、具体的には、点眼液、洗眼液、コンタクトレンズ用剤、注射剤等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは点眼液が挙げられる。
【0083】
本開示の水性液剤に含まれるアルベカシン及び/又はその塩は、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対して抗菌効果を奏する。このため、本開示の水性液剤は、例えば、細菌性外眼部感染症、細菌性角結膜炎(細菌性結膜炎及び/又細菌性角膜炎)治療用途に好適に用いることができ、細菌性結膜炎治療用途により好適に用いることができる。
細菌性外眼部感染症の原因菌としては、グラム陽性菌、グラム陰性菌等が挙げられる。細菌性結膜炎の原因菌となるグラム陽性菌としては、例えば、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)、肺炎球菌、コリネバクテリウム属等が挙げられる。細菌性結膜炎の原因菌となるグラム陰性菌としては、例えば、インフルエンザ菌、モラクセラ属、淋菌等が挙げられる(稲田紀子、臨床眼科、75巻11号、2021)。
細菌性角膜炎の原因菌としては、例えば、肺炎球菌、ブドウ球菌、緑膿菌、モラクセラ、セラチア、レンサ球菌、淋菌、嫌気性菌、非定型抗酸菌等が挙げられる(感染性角膜炎診療ガイドライン(第2版)、日本眼科学会、2013)。
細菌性外眼部感染症及び細菌性角結膜炎の原因菌は、1種単独であってもよく、又は2種以上の組み合わせであってもよい。
細菌性外眼部感染症(より具体的には、細菌性角結膜炎)の原因菌は、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)、コリネバクテリウム菌、緑膿菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ、淋菌、セラチア、又はレンサ球菌が好ましく、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)、コリネバクテリウム菌、緑膿菌、インフルエンザ菌、又は肺炎球菌がより好ましく、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)がさらにより好ましく、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が特に好ましい。
【0084】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の非イオン性水溶性高分子は、ムチン接着性を有しないことが知られている(非特許文献4)。にもかかわらず、後述する実施例に示すとおり、本開示の水性液剤は、これらの水溶性高分子とアルベカシン及び/又その塩とを併用することにより、ムチンと相互作用し、増粘することを見出した。点眼液は、粘度が高くなると、眼表面に長時間滞留しやすくなり、角膜や結膜等の対象部位への薬物の移行性が向上する。また、本開示の水性液剤は、ムチンと混合されることで、水溶液中で水溶性高分子、アルベカシン及びムチンが相互作用する。これらが可逆的に結合する能力を有することで、移行性の向上に寄与している。ムチンは、遊離型ムチンと膜型ムチンに分類され、いずれも末端にカルボキシル基が存在し、陰性に荷電している。ムチン同士が互いに反発し、角膜及び結膜の上皮細胞に発現している膜型ムチンの上に、遊離型ムチンが広がるように、ムチン層が構成されている(非特許文献5)。また、遊離型ムチンと膜型ムチンはともに、涙液層の安定化に寄与していることが知られている(非特許文献6)。本開示の水性液剤は、涙液層の水層に浮遊している遊離型ムチンと相互作用することで、涙液に長時間滞留しやすくなっている。加えて、本開示の水性液剤は、角膜や結膜の上皮細胞の表面に生えるように発現している膜型ムチンと相互作用することで、眼表面に接着され、角膜や結膜等の標的部位近傍に集まりやすくなっている。よって、本開示の水性液剤は、点眼投与された場合、眼表面における増粘効果とムチンへの接着効果により、アルベカシンの角膜や結膜等の対象部位への優れた移行性を有している。また、本開示の水性液剤は、アルベカシンの移行性に優れるため、細菌性外眼部感染症治療(より具体的には、細菌性角結膜炎)に対する優れた効果を有している。
【0085】
また、ムチン層が増粘すると、眼表面の涙液層の破壊が抑制され、BUTが延長する。すなわち、涙液層が安定化することが知られている(非特許文献6・7)。本開示の水性液剤は、ムチンと相互作用することで、涙液層としても増粘し、涙液層を安定化することができる。また、本開示の水性液剤は、点眼投与された場合、涙液層を安定化することで、涙液層が長時間角膜に滞留し、眼表面の露出を防ぐため、眼表面の保護効果を有している。このため、本開示の水性液剤は、例えば、涙液層安定化用途に好適に用いることができる。
ドライアイの病態の一つに、涙液層が不安定化し、BUTが短縮することで、眼表面の保護が破綻し、点状表層角膜症(SPK)を引き起こすことなどがある。本開示の水性液剤は、点眼投与された場合、涙液層が安定化するため、BUTの延長やSPKを改善し、ドライアイ治療の用途に用いることができる。
【0086】
涙液層は、眼表面を菌から保護することが知られ、ムチンの抗菌活性にも注目されている(非特許文献8)。本開示の水性液剤は、点眼投与された場合、涙液層が安定化するため、涙液層により眼表面を保護することで、菌等の外敵が侵入しにくくなり、涙液が本来有する抗菌活性をより効果的に発揮することに加え、上述の増粘・接着性向上作用により、アルベカシンの抗菌効果も増強されていることから、細菌性外眼部感染症治療(より具体的には、細菌性角結膜炎)に対する優れた効果を有している。
【0087】
また、ドライアイでは、涙液層による眼表面の保護が破綻していて、菌等の外敵が侵入しやすくなっていることに加え、涙液が本来有する抗菌活性も低下している可能性がある。この状態で、細菌性結膜炎に罹患すると、その起炎菌が眼表面を通じて角膜を通過してしまうリスクが高まり、次いで細菌性角膜炎の原因となる可能性がある。本開示の水性液剤は、アルベカシンによる細菌性外眼部感染症の治療効果に加え、本開示の水性液剤による涙液層安定化効果が加わっているため、特に、ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症治療の用途に用いることができる。
【0088】
本開示の水性液剤の投与対象としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サル等)が挙げられる。 投与対象となるヒトとしては、例えば、細菌性角結膜炎患者又は細菌性角結膜炎が疑われるヒト、上述した細菌に感染しているヒト等が挙げられる。より具体的には、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)、コリネバクテリウム菌、緑膿菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ、淋菌、セラチア、又はレンサ球菌に感染しているヒト若しくは感染していることが疑われるヒトが好ましく、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)、コリネバクテリウム菌、緑膿菌、インフルエンザ菌、又は肺炎球菌に感染しているヒト若しくは感染していることが疑われるヒトがより好ましく、ブドウ球菌属(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等)に感染しているヒト若しくは感染していることが疑われるヒトがさらにより好ましく、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に感染しているヒト若しくは感染していることが疑われるヒトが特に好ましい。
また、投与対象となるヒトとしては、例えば、涙液層が不安定なヒト等が挙げられる。より具体的には、ドライアイ患者、又はドライアイが疑われるヒト;ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症(より具体的には、細菌性角結膜炎)患者又はドライアイを伴う細菌性外眼部感染症(より具体的には、細菌性角結膜炎)が疑われるヒト等が例示される。
【0089】
本開示の水性液剤の投与(摂取)量は、特に限定されず、投与する対象の年齢、体重、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。例えば、アルベカシンの投与量として、1日あたり0.004~1.5mg/kg体重程度とすることができる。
【0090】
本開示の水性液剤を点眼液として使用する場合、1回数滴(例えば、1~3滴等)を、1日1回又は複数回(例えば、2~8回等)点眼すればよい。また、本開示の水性液剤の一態様では1回1滴を1日2回点眼される。
【0091】
3.治療方法
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、細菌性外眼部感染症(より具体的には、細菌性角結膜炎)の治療方法をも包含する。
また、本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、ドライアイの治療方法をも包含する。
また、本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、ドライアイを伴う細菌性外眼部感染症(より具体的には、細菌性角結膜炎)の治療方法をも包含する。
上述した治療方法においては、「2.水性液剤」の欄の記載を援用することができる。
【0092】
4.水溶性高分子を含む水性液剤を眼表面で増粘する方法
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、水溶性高分子を含む水性液剤を眼表面で増粘する方法をも包含する。
上述した水溶性高分子を含む水性液剤を眼表面で増粘する方法においては、「2.水性液剤」の欄の記載を援用することができる。
【0093】
5.ムチン接着性を向上する方法
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、ムチン接着性を向上する方法をも包含する。
上述したムチン接着性が向上する方法においては、「2.水性液剤」の欄の記載を援用することができる。
【0094】
6.結膜移行性を向上する方法
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、アルベカシン及び/又はその塩の結膜移行性を向上する方法をも包含する。
上述した結膜移行性を向上する方法においては、「2.水性液剤」の欄の記載を援用することができる。
【0095】
7.涙液層の安定化方法
本開示は、アルベカシン及び/又はその塩、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含む、水性液剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、涙液層の安定化方法をも包含する。
上述した安定化方法においては、「2.水性液剤」の欄の記載を援用することができる。
【0096】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes"consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0097】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0098】
本開示の内容を以下の試験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量対容量%」を意味する。
【0099】
試験例1:ムチン共存下の粘度測定
文献(EmadEldin Hassan and James M. Gallo, A Simple Rheological Method for the in VitroAssessment of Mucin-Polymer Bioadhesive Bond Strength. Pharmaceutical Research,1990, 7(5):非特許文献2)に記載された試験方法を参考に、検体及びムチン溶液を混合した時の粘度を測定した。また、それぞれの粘度を比較して、検体とムチンの相互作用について考察した。
【0100】
検体
表1に示す組成となるよう、各予備溶解液を混合して検体1~11を調製した。また、涙液(中性)と同様なpHとなるよう、0.1M(mol/L)リン酸緩衝液にムチン(ブタ胃由来、Type II、試薬、Sigma Aldrich社)を溶解させて、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、6w/v%ムチン溶液を調製した。
【0101】
予備溶解液の調製方法
25w/v%、16w/v%又は10w/v%アルベカシン溶液:精製水にアルベカシン硫酸塩を溶解した。
2.5w/v%HPMC溶液:加温(約80℃)した精製水にヒプロメロース2208(90SH-100SR、日本薬局方(日局)適合品、信越化学工業株式会社)を加えて分散し、室温まで冷却して溶解を確認した。
1Mリン酸緩衝液:精製水にリン酸二水素ナトリウム水和物(日局適合品、富士フイルム和光純薬株式会社)を溶解し、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH7.0に調整した。 0.1Mリン酸緩衝液:1Mリン酸緩衝液を精製水で1/10に希釈した。
【0102】
【表1】
【0103】
粘度測定
各検体(1mL)と6w/v%ムチン溶液(1mL)との混合溶液、各検体(1mL)と0.1Mリン酸緩衝液(1mL)との混合溶液、及び0.1Mリン酸緩衝液(1mL)と6w/v%ムチン溶液(1mL)との混合溶液の各溶液について、以下の条件に従い粘度を測定した。
【0104】
粘度の測定条件
測定装置:TVE-25形粘度計(東機産業株式会社)
ロータ:1°34’×R24又は3°×R17.65(測定する粘度に応じてロータを変更)
試料量:1.1mL(ロータ1°34’×R24使用時)又は0.8mL(ロータ3°×R17.65使用時)
プレヒート時間:120s
測定時間:90s
測定温度:34℃±0.1℃
回転速度:100rpm
【0105】
計算式
以下の式に従い、各検体及びムチンとの相互作用による粘度増加値を算出した。
【数10】
【0106】
ムチンと検体の相互作用に関する評価
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:HPMCによる粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン+HPMCによる粘度増加値(mPa・s)、と定義し、
C-(A+B)>0となるとき、アルベカシン及びHPMCを含む水性液剤がムチン溶液と接触する場合に相乗的増粘作用を有すると評価した。
アルベカシン及びHPMCの濃度毎に、A、B及びCの算出に使用した検体番号を表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
Aの算出に使用した検体について、アルベカシン単独の溶液では、濃度に関わらず、粘度に大きな差はないと想定されることから、アルベカシン濃度に関わらず、一律で検体7(アルベカシン3%溶液)のデータを採用した。
【0109】
各検体の粘度増加値及び各検体とムチンの相互作用について評価した結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
アルベカシン及びHPMCの混合物をムチンと共存させた場合には、相互作用の評価式C-(A+B)>0であったことから、相乗的に増粘することが示された。アルベカシン0.1w/v%~3w/v%、HPMC0.8w/v%~2w/v%の範囲で、相乗的増粘作用が認められた。すなわち、アルベカシンとHPMCが共存する時に限り、ムチンとの相互作用が生じ、増粘していること(ムチン接着性の向上)が示唆された。
【0112】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース以外の非イオン性水溶性高分子を使用し、ムチンとの相互作用を比較した。
【0113】
検体
表4に示す組成となるよう、各予備溶解液を混合して検体12~19を調製した。ヒプロメロース2208(90SH-100SR、日本薬局方(日局)適合品、信越化学工業株式会社)1.4w/v%溶液と同程度の粘度となるよう、各水溶性高分子溶液の濃度を設定した。また、涙液(中性)と同様なpHとなるよう、0.1Mリン酸緩衝液にムチン(ブタ胃由来、TypeII、試薬、Sigma Aldrich社)を溶解させて、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、6w/v%ムチン溶液を調製した。
【0114】
予備溶解液の調製方法
1w/v%HEC溶液:加温(約80℃)した精製水にヒドロキシエチルセルロース(日本薬局方(日局)適合品、Ashland,Inc.)を加えて分散し、室温まで冷却して溶解を確認した。
1.6w/v%MC溶液:加温(約80℃)した精製水にメチルセルロース(SM-400、日本薬局方(日局)適合品、信越化学工業株式会社)を加えて分散し、氷冷して溶解を確認した。
5w/v%PVP溶液:精製水にポリビニルピロリドン(Kollidon90F、日本薬局方(日局)適合品、BASF SE)を溶解した。
30w/v%PEG(ポリエチレングリコール)溶液:精製水にマクロゴール6000(日本薬局方(日局)適合品、日油株式会社)を溶解した。
なお、10w/v%アルベカシン溶液、1Mリン酸緩衝液及び0.1Mリン酸緩衝液は、上述した方法と同様の方法により調製した。
【0115】
【表4】
【0116】
上述した方法と同様の方法及び条件により、粘度を測定し、粘度増加値を算出した。
【0117】
ムチンと検体の相互作用に関する評価
A:アルベカシンによる粘度増加値(mPa・s)
B:各水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)
C:アルベカシン+各水溶性高分子による粘度増加値(mPa・s)、と定義し、
C-(A+B)>0となるとき、アルベカシン及び各水溶性高分子を含む水性液剤がムチン溶液と接触する場合に相乗的増粘作用を有すると評価した。
アルベカシン及び各水溶性高分子の濃度毎に、A、B及びCの算出に使用した検体番号を表5に示す。
【0118】
【表5】
【0119】
Aの算出に使用した検体について、アルベカシン単独の溶液では、濃度に関わらず、粘度に大きな差はないと想定されることから、アルベカシン濃度に関わらず、一律で検体7(アルベカシン3%溶液)のデータを採用した。
【0120】
各検体の粘度増加値及び各検体とムチンの相互作用について評価した結果を表6に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
試験例2:In vitro透析膜試験
アルベカシン及びHPMCを含む水性液剤とムチンの相互作用を調べる目的で、透析膜を用いてアルベカシンの放出速度を確認するIn vitro透析膜試験を実施した。
【0123】
検体
1.5mLポリプロピレン製チューブ内に、下記に示す予備溶解液を必要量添加し、マイクロピペットで十分にピペッティングしたものを検体20~27(表7)とした。
【0124】
予備溶解液の調製方法
25w/v%及び16w/v%アルベカシン溶液:精製水にアルベカシン硫酸塩を加えて溶解した。
2.5w/v%HPMC溶液:加温(約80℃)した精製水にヒプロメロース2208(90SH-100SR、日局適合品、信越化学工業株式会社)を加えて分散し、室温まで冷却して溶解を確認した。
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4:精製水にPBS Tablet(試薬、タカラバイオ株式会社)を加えて溶解した。
2.5w/v%及び5w/v%ムチン溶液:PBS又は水にムチン(ブタ胃由来、生化学用、富士フイルム和光純薬株式会社)溶解した。
【0125】
【表7】
【0126】
試験方法
1)2mL容量のガラス容器に検体を500μL封入し、開口部を透析膜で覆い、周囲を固定した(当該ガラス容器内がドナー側)。ガラス容器と透析膜が密着し、液漏れしないことを確認した。なお、透析膜としては、次の仕様の市販品を用いた。分画分子量:12000~14000、メンブレン材質:再生セルロース。
2)PBS(15mL)を満たしたビーカー(外液側)に、ビーカーの底面から一定の高さになるように1)を取り付け、ビーカー内の液を、スターラーを用いて攪拌した。
3)攪拌開始15~240分後の任意の時間で外液側から1mLをサンプリングしたものをサンプリング液とし、後述する方法に従いアルベカシン量を測定した。以下の式に従いアルベカシンの残存率、放出速度及び放出速度の低下率を算出した。
【0127】
計算式
理論総量に対するドナー中の薬物残存率(%)=100-(サンプリング時までに外液中に放出した累計アルベカシン量(μg)/ドナー側に含まれるアルベカシンの理論総量(μg)×100)
放出速度(%/min):各サンプリング液について、前記薬物残存率(%)をy軸、サンプリング時間(min)をx軸としてプロットした時に得られる、最小二乗法による近似直線の傾きの絶対値
放出速度の低下率(%):100-(検体の放出速度/アルベカシン溶液単独の放出速度×100)
【0128】
アルベカシン量の測定
サンプリング液を適宜希釈し、次の条件で液体クロマトグラフィー(Ultimate3000,Thermo Fisher Scientific Inc.)による測定を行った。
【0129】
試験条件
検出器:荷電化粒子検出器Corona Veo RS
カラム:内径4.6mm、長さ250mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクチルシリル化シリカゲルを充填した市販品(Inertsil C8、5μm、4.6mm×250mm、GL Sciences)。
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相:5mMヘプタフルオロ酪酸水溶液及び5mMヘプタフルオロ酪酸アセトニトリル溶液によるグラジエント
流量:毎分1.4mL
【0130】
各時点におけるアルベカシンの残存率、放出速度及び放出速度の低下率を表8に示す。また、各検体の放出プロファイルを図1に示す。
【0131】
【表8】
【0132】
アルベカシン、HPMC及びムチンを混合した液(検体20、24及び26)において、アルベカシン溶液と比較した放出速度が著しく低下し、その低下率は25%以上を示した。一方、アルベカシン及びHPMCを混合した液(検体21)、並びにアルベカシン及びムチンを混合した液(検体22)においては、放出速度の低下率がほとんど変化しなかった。この結果より、アルベカシン及びHPMCは、単独ではムチンと混合しても相互作用しないが、両方を含む時に限りムチンと相互作用し得ることが示された。すなわち、アルベカシンとHPMCによるムチン接着性の向上が示唆された。
【0133】
試験例3:結膜移行性の評価
アルベカシンを含有する水性液剤を日本白色種ウサギに単回点眼投与し、結膜中アルベカシン濃度を評価した。
【0134】
検体
表9の通り、検体28及び29を調製した。
【0135】
【表9】
【0136】
調製方法
1)加温(約80℃)した精製水にHPMCを加えて分散し、室温まで冷却して溶解を確認した。この液を5μmメンブランフィルターで粗ろ過し、HPMCの濃縮液Aを得た。2)別に用意した精製水にトロメタモール、チオ硫酸ナトリウム水和物及びアルベカシン硫酸塩を加えて溶解した。この液に塩酸又は水酸化ナトリウムを加えてpH7.0に調整し、各成分を混合した濃縮液Bを得た。
3)濃縮液A(検体28の調製に使用)又は精製水(検体29の調製に使用)に、濃縮液B及びベンザルコニウム塩化物液を加えて均一になるまで攪拌した。
4)塩酸又は水酸化ナトリウムを加えてpH7.0に調整し、規定量まで精製水を加えた。
5)4)液を、0.22μmメンブランフィルターを用いてろ過滅菌し、水性液剤を得た。
【0137】
試験系等に関する事項
動物
種:ウサギ
系統:日本白色種
性別:雄
入荷時の体重範囲:約2.00~2.49kg
使用匹数:15匹
【0138】
動物実験に関する事項
試験の流れ
正常な日本白色種ウサギ(以下、ウサギ)にアルベカシンを含有する水性液剤を投与後の結膜中濃度を評価した。検体28及び29のうちいずれかを、ウサギの両眼に各々単回点眼投与した。投与後0.25、0.5、1時間に安楽死処置を行い、眼組織を採取した。例数は3眼/検体/時点とした。
【0139】
【表10】
【0140】
点眼投与
1)ウサギを保定し、前眼部に障害がないことを肉眼観察にて確認した。
2)マイクロピペットを用いて検体35μLを点眼投与し、強制的に2回瞬目させた。
3)投与後30分に保定を解除した。
【0141】
安楽死処置及び眼組織採取
投与後0.25、0.5、1時間に、安楽死処置し、眼組織を採取した。
1)ウサギを保定し、チオペンタールナトリウムの過剰投与により安楽死処置を行った。
2)眼球表面及び結膜嚢内を生理食塩液で洗浄し、水分を拭き取った。
3)眼瞼を切開し、結膜を含めて眼球を摘出した。
4)結膜及び眼球を採取した。
5)採取した試料は凍結し、超低温フリーザーで保存した。
【0142】
分析に関する事項
内標準物質(IS)をカナマイシン一硫酸塩とし、結膜中アルベカシン濃度をLC-MS/MS(Q TRAP 5500,AB SCIEX Pte.Ltd.)を用いて、ポジティブイオンモードで分析した。
【0143】
溶液の調製
20mM EDTA
エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物を0.672g採取した。次いで、水100mLを添加し、溶解した。
希釈用液
水/20mM EDTA/ギ酸(1000:2:1、v/v)とアセトニトリル/ギ酸(1000:1、v/v)を1:1で混合した。
IS溶液
カナマイシン一硫酸塩2mgを秤量し、20%メタノール20mLに溶解した。次いで、3.00μg/mLになるように、アセトニトリルで希釈した。
【0144】
結膜ホモジネート作成
1)20個の3mmジルコニアビーズを添加したチューブに結膜及び添加した結膜重量の4倍量の水を添加した。
2)ビーズホモジナイザーで結膜を破砕し、20%結膜ホモジネートを作成した。
破砕条件:6000rpmで30秒間破砕、30秒間休止を10サイクル(設定温度4℃)
3)20%結膜ホモジネートを水で2倍に希釈し、10%結膜ホモジネートを調製した。
【0145】
ブランク試料
1)ブランク10%結膜ホモジネート20μLを採取した。
2)アセトニトリル40μLを添加した。
3)アセトニトリル80μLを添加し、混合した。
【0146】
実試料
1)10%結膜ホモジネート20μLを採取した。
2)アセトニトリル40μLを添加した。
3)IS溶液80μLを添加し、混合した。
【0147】
前処理
1)希釈用液400μLを添加し、混合した。
2)4℃、20000×gにて10分間遠心分離した。
3)上清をLC-MS/MSへ注入した。
【0148】
測定条件
LC条件
カラム:InertSustain Amide 3μm UHPLC 2.1 I.D.x50mm
カラム温度:40℃
移動相:水/20mM EDTA/ギ酸(1000:2:1、v/v)及びアセトニトリル/ギ酸(1000:1、v/v)によるグラジエント
流速:0.8mL/min
【0149】
MS/MS条件
Scan Type:MRM
Polarity:Positive
Ion Source:Turbo Spray
【0150】
【表11】
【0151】
結膜移行性の評価
粘度が約15mPa・s(30℃±0.1℃、プレヒート時間:0s、回転速度100rpm、TVE-25形粘度計、使用コーンロータ:3°×R17.65、測定時間:90s)である、HPMC含有3%アルベカシン点眼液(検体28)をウサギに単回点眼投与した。別に、HPMC非含有3%アルベカシン点眼液(検体29)をウサギに単回点眼投与した。表12及び13に、結膜中アルベカシン濃度のCmax及び濃度-時間曲線下面積(AUC0-t)の詳細なデータを示す。
HPMC含有3%アルベカシン点眼液(検体28)を投与後の結膜中アルベカシンの最高濃度(Cmax)及び時間0から最終測定可能時間tまでのAUC0-tは、それぞれ58.5μg/g及び20.2μg・h/gであった。一方、HPMC非含有3%アルベカシン点眼液(検体29)を投与後の結膜中アルベカシン濃度のCmax及びAUC0-tは、それぞれ17.0μg/g及び10.5μg・h/gであった。つまり、HPMC含有製剤はHPMC非含有製剤に比べて、Cmaxが約3.4倍、AUC0-tが約1.9倍高値を示した。このことから、アルベカシン点眼液にHPMCを配合することで、眼表面におけるアルベカシン点眼液の滞留時間が延長し、結膜中アルベカシン濃度が高くなることが示唆された。この点、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有したクロモグリク酸ナトリウム点眼液の結膜移行性について、粘度なし製剤と、高粘度製剤(580mPa・s)とを比較すると、高粘度製剤(580mPa・s)において、Cmaxが2.1倍高いことが確認されている(非特許文献9)。HPMC含有製剤(検体28)の粘度は、上記の文献に記載の製剤の1/45程度にも関わらず、Cmaxが3.4倍と、予想以上に移行性が上昇したことが確認された。アルベカシン点眼液にHPMCを配合することで、ムチンと相互作用し、増粘効果に加えて、ムチン接着性に優れるため、移行性が向上したものである。
【0152】
【表12】
【0153】
【表13】
図1