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特許74797465G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/23 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
C03C17/23
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024026070
(22)【出願日】2024-02-23
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511002478
【氏名又は名称】ヘラクレスガラス技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181009
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 日出海
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 正樹
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 治江
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 正宏
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144418(JP,A)
【文献】特開2018-039713(JP,A)
【文献】特開2008-101111(JP,A)
【文献】特開平03-151038(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
27/00-29/00
E06B 3/54-3/88
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単板ガラスの表面に一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜が2μm以上4.5μm以下の厚みで形成されていて、前記アンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)のMxWOyに対する割合が0.5wt%以上1.5wt%以下であって、前記金属MのタングステンWに対するモル比xが0.8~1.1の範囲にあり、金属Mが少なくともアルミニウム(Al)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)を含有しており、光学特性が、紫外線透過率は2.0%以下、可視光線透過率は60%以上及び日射透過率は35%以下であり、さらに第5世代移動通信システムで用いられるミリ波帯である周波数28GHz帯の電波減衰率が3.5dB以下、同じく第5世代移動通信システムで用いられるSub6帯の電波減衰率が2.5dB以下であることを特徴とする5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラス。
【請求項2】
前記アンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)中のSbのドープ割合が5mol%である請求項1に記載の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラス。。
【請求項3】
前記複合酸化タングステン微粒子の平均粒径が40nm~60nmである請求項1又は請求項2に記載の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単板で使用できるところの、日射光の紫外線を遮蔽し、かつ近赤外線領域の光をほとんど遮蔽しつつ、高い可視光透過率を有する日射遮蔽高可視光ガラスで、かつ第5世代移動通信システムに用いられるミリ波帯である周波数28GHz帯及びSub6帯である周波数4.5GHz帯及び周波数3.7GHz帯の電波を透過する5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスに関する。なお、28GHz帯の周波数範囲は27.0GHz~29.5GHzであり、4.5GHz帯の周波数範囲は4.4GHz~4.9GHzであり、3.7GHz帯の周波数範囲は3.6GHz~4.2GHzであって、これらの点は当業者にとって周知であり、自明な事項である。
【背景技術】
【0002】
単板で使用できる日射遮蔽ガラスとしては、熱線吸収ガラスや熱線反射ガラスがある。熱線吸収ガラスは、熱線の吸収を高めるためにガラス成分中の原料に着色成分を含有させたもので、日射(熱線)を30~40%吸収することによって、遮熱性を高めている。しかしながら、原料に着色成分を含有していることから、可視光線の透過率も減少し、厚みが厚くなるほど色が濃くなる。熱線吸収ガラスで可視光の透過率が70%程度と高いものも存在するが、その場合は熱線の透過率も高くなる。また、380nmの紫外線の多くを透過する。
【0003】
一方、熱線反射ガラスは、ガラス表面に主に金属膜からなる熱線反射膜をコーティングしたもので、熱線の遮蔽性能は熱線吸収ガラスよりも高いが、可視光の反射率も高いことから、一般に可視光の透過率は50%以下である。また、380nmの紫外線の多くを透過する。さらに、熱線反射膜コーティングが電波を反射するという問題もある。
【0004】
近年普及した特殊金属膜をコーティングしたLowEガラスは、可視光領域では高い透過率を有し透明性を確保するととも、日射光透過率が低いことから夏場の遮熱性を高めることが期待できるが、特殊金属膜が腐食するため、単板では使用できず、複層ガラスの1枚のガラスとして、コーティング膜を空気層側に向けて、利用されるだけである。
【0005】
また、このようなLowEガラスは、最近の研究によると、次世代(第5世代)移動通信システムで用いられる28GHzのミリ波を1/10000に減衰することがわかっている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-229388号公報
【文献】WO2013―147029号公報
【文献】特開2018-039713号公報
【文献】特開平7-10609号公報
【文献】特開平9-100139号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/05529/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、第5世代移動通信システムに用いられる5G電波のミリ波帯である周波数28GHz帯及びSub6帯である周波数4.5GHz帯及び周波数3.7GHz帯の電波を屋外から屋内に取り込み易くする5G電波透過型ガラスを実現するものであるとともに、熱線を多く含む日射光の多くを遮蔽し、紫外線を遮蔽し、逆に可視光の多くを透過する「5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラス」を提供するものである。
【0009】
日射遮蔽ガラスとして機能するには、高い日射遮熱性能を有すると同時に、高い可視光透過率を有する必要があって、特に、住宅やビルの窓として機能するには、日射光を遮蔽する中で、可視光の多くを透過し、透明である必要があるからである。
【0010】
このような日射遮蔽ガラスにおいて、紫外線透過率が2.0%以下で、可視光透過率が60%以上、日射透過率が35%以下という性能を満足することは難しい。
【0011】
本発明では、これらの日射や可視光に関する性能を満足させつつ、さらに5Gの電波も透過させることを目的とする。5Gの電波を透過させるとは、具体的にはミリ波帯である周波数28GHz帯及びSub6帯である周波数4.5GHz帯及び周波数3.7GHz帯の電波が、本発明の日射遮蔽高可視光透過ガラスを透過した後も、周波数28GHz帯の周波数範囲の電波の強度が2/3以上(66.7%以上)あり(これは、電波の電圧減衰率が3.5dB以下に相当する。)、さらにSub6帯の周波数範囲での電波の強度が75%以上ある(これは、電波の電圧減衰率が2.5dB以下に相当する。)という意味である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、単板ガラスの表面に一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜が2μm以上4.5μm以下の厚みで形成されていて、前記アンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)のMxWOyに対する割合が0.5wt%以上1.5wt%以下であって、前記金属MのタングステンWに対するモル比xが0.8~1.1の範囲にあり、金属Mが少なくともアルミニウム(Al)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)を含有し、光学特性が、紫外線透過率は2.0%以下、可視光透過率は60%以上及び日射透過率は35%以下であり、さらに第5世代移動通信システムで用いられるミリ波帯である周波数28GHz帯の電波減衰率が3.5dB以下、同じく第5世代移動通信システムで用いられるSub6帯の電波減衰率が2.5dB以下であることを特徴とする5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスである。
【0013】
本発明において、一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜中の複合酸化タングステンMxWOy中の金属Mは、酸化タングステンにおけるタングステン原子を置換するか酸化タングステン中に固溶して存在し、そのことにより酸素欠損を生じさせ、5価のタングステンイオンであるW5+を効率的に生成させ、酸化タングステンの近赤外光吸収効果、すなわち遮熱効果を促進する。本発明においては、金属Mとして、Al、Sn及びZnを含有することが必須であるが、これら以外にカリウム(K)、イットリウム(Y)及びジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、ニオビウム(Nb)及び鉄(Fe)を含有していてもよい。
【0014】
本発明において、金属MのタングステンWに対するモル比Xは、0.8~1.1であるのがよい。Xが1.1を超えると、金属イオンが過多になって可視光透過率が低下し、逆に、Xが0.8より小さいと、5価のタングステンイオンの生成が不足し、日射透過率が増大してしまうことがわかった。
【0015】
本発明では、複合タングステン酸化物が、W以外の金属MとしてZnを含有し、さらに少なくともAl及びSnを含有させる。これらの作用によって、近赤外線の吸収効果に加えて、紫外線の遮蔽効果を併せ持つことができる。
【0016】
本発明では、単板ガラスに塗布する前記一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)の混合被膜の膜厚は、2μm以上4.5μm以下である必要がある。2μm未満では、紫外線遮蔽性と日射遮蔽性が低下する。4.5μmを超えると可視光透過率が低下する(黄ばむ)とともに、膜のムラが大きくなり、表面にぶつぶつが発生する。前記混合被膜の膜厚が2μm以上4.5μm以下の範囲にある場合、紫外線透過率が2.0%以下となり、日射透過率が35%以下となり、可視光透過率が60%以上となる。
【0017】
本発明において一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜を形成する複合酸化タングステン微粒子は、特許文献1等に開示されている公知の方法を利用して作製することができる。すなわち、酸化タングステン原料としては酸化タングステン水和物(H2WO4)等を、酸化亜鉛原料としては酢酸亜鉛二水和物(Zn(CH3COO)2・2H2O)等を、酸化アルミニウム原料としては硫酸アルミニウム水和物(Al2(SO4)3・16H2O)等を、酸化スズ原料としては塩化スズ二水和物(SnCl2・2H2O)等を利用することができる。これら原料を所定の比率で含有させた水溶液を均一に撹拌し、不活性ガス雰囲気中で約650℃の温度で焼成することにより、分子レベルで均一な複合酸化タングステン微粒子を得ることができる。
【0018】
本発明において一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜を形成するアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子は、例えば特許文献2に開示された方法を用いて作製することができる。
【0019】
本発明の、一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜は、溶媒としてジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート27~30wt%、エチルアセテート10~13wt%、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート9~11wt%、メタクリレート共重合体7~9wt%、シラン共重合体3~4wt%の混合溶液に、前記複合酸化タングステン微粒子30~33wt%、アンチモンドープ酸化錫0.2~0.5%を分散させ、十分に撹拌したのち、スリットコーターにより板ガラス表面に、2μm以上4.5μm以下の厚みで塗布して形成することができる。
【0020】
なお、本発明の前記アンチモンドープ酸化錫微粒子としては、市販のものから選択することもできる。本発明の実施例においては、酸化錫中のアンチモンのドープ割合が5mol%のものを用いた。
【0021】
本発明において、複合酸化タングステン微粒子は平均粒径が50nm以下の球形とすることが望ましい。平均粒径を50nm以下の球形とすることにより、複合酸化タングステン微粒子の分散状態がよく、可視光の散乱が少ない被膜が得られる。また、微粒子の粒径が小さく、凝集体を形成することなく均一に分散していることから、微粒子の機能が向上し、可視光透過率を高く保ち、日射遮蔽性も向上し、ヘイズ率も低く抑えることができる。そして、このように凝集体を形成することなく、高度に分散していることも、5G電波の透過率を高めることに貢献しているものと考えられる。但し、複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径を40nm以下にすることは容易ではなく、実用上は平均粒径が40nm~60nmの複合酸化タングステン微粒子を利用することになる。なお、複合酸化タングステン微粒子の平均粒径は、発明者らによる特許文献3の段落[0050]に開示した方法で求めた。
【0022】
本発明において前記一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜中のアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合割合は、この被膜を、2μm以上4.5μm以下で形成する場合において、複合酸化タングステン微粒子100部に対して0.5部から1.5部である。0.5部より少ないと、該混合被膜の外観が悪化してしまう。一方、1.5部を超えると混合被膜の可視光透過率が徐々に低下する。なお、本発明においては、前記複合酸化タングステン微粒子と前記アンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜の放射率は測定していないし、考慮に入れていない。
【0023】
前記複合酸化タングステンと前記アンチモンドープ酸化錫の混合被膜をスリットコーターで板ガラス表面に塗布してWET被膜を得て、その後、30秒で10Paに達するまで真空排気し、さらにその後、100°Cの温度設定のオーブンで約8分間加熱することで、複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫微粒子からなる被膜が形成され、本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスを作製することができる。
【0024】
なお、高い可視光透過率とは、複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合被膜が塗布された5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスにおいて、60%以上であって、住宅用やビル用の窓ガラスとするのに好適である。
【0025】
また、優れた日射遮蔽性とは、本発明の5G電波透過型高遮熱高可視光透過ガラスで、紫外線透過率が2.0%以下で、日射透過率が35%以下という性能を満足することができることを言う。これまで、可視光の高透過率を保ちながら、ここまで低い日射透過率と紫外線遮蔽を実現できた例はない。本発明の5G電波透過型高遮熱高可視光透過ガラスにおいては、前記混合被膜の厚みが2μm以上4.5μm以下のとき、これら両者の特性を満足することができる。
【0026】
そして、本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスにおいて、5G電波における高い電波透過性とは、ミリ波帯である周波数28GHz帯の電波の減衰率が1/3を上回らない(3.5dB以下である)こと及びSub6帯である周波数4.5GHz帯及び周波数3.7GHz帯の電波の減衰率が25%を上回らない(2.5dB以下である)ことである。逆に言えば、本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスを透過後も、28GHz帯の電波の透過率が、電波の強度として66.7%以上あり、4.5GHz帯及び3.7GHz帯の電波の透過率が、電波の強度として75%以上あることを言う。前記複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合被膜の膜厚が4.5μm以下の場合、前記5G電波の高い電波透過性を満足することがわかった。
【0027】
本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスに用いることのできる板ガラスとしては、一般的なクリアガラスであるフロート板ガラスを用いればよい。また、遮熱性を高めるために、グリーンガラスなどの熱線吸収ガラスを用いてもよい。
【0028】
ここで、本発明の特徴を明確にするため、いくつかの公知例と比較して、本発明の優位点を説明する。
【0029】
特許文献4は、熱遮断ガラスを開示したもので、熱線・紫外線吸収緑色系ガラスに、銀層を含む多層膜からなる垂直放射率0.2以下の低放射性膜を被膜形成した熱遮断ガラスである。優れた日射遮蔽性(40%以下)と比較的高い可視光透過性(67~69%)と断熱性を有するが、電波透過性についてはなんら言及がなく、導電性の高い銀層を含む多層膜を利用していることから第5世代移動通信システムに用いられる電波を反射するものと考えられる。
【0030】
特許文献5は、簡単な膜構成等で、透明性とミラー性並びに断熱性を効果的にバランスよく持たせて、人や環境に優しくかつ居住性に優れ、濃いグリーン色系ガラス面反射色調を呈しかつ電波透過性を有するガラス板を得ることを目途として、透明なガラス基板の一方の表面に、ガラス面側から第1層目として膜厚が10nm以上200nm 以下であるSnの酸化物薄膜、第1層の上に第2層目として膜厚が1nm以上15nm以下でかつその表面抵抗率が1kΩ/口以上であるTi、SUS、NiCrの金属ならびにこれらを主成分とする窒化物の群から選ばれた少なくとも一つの薄膜、さらに第2層の上に膜厚が30nm以上200nm 以下であるSnの酸化物薄膜を被覆積層した積層膜からなり、かつ第1層目と第3層目のうちどちらか一方の膜厚が70nm~200nm であり、しかもガラス面側からの反射光の可視光線波長域での刺激純度が10%以上である高彩度のグリ-ン色系のガラス面反射色調を呈する居住性を高めたガラス板が開示されている。この引例においては、電波透過性については、前記薄膜の表面抵抗値が1~5kΩ/□であったことが記載されているだけで5G電波を透過するかどうかは不明である。そして何よりも、可視光透過率を50~70%確保しようとすると日射透過率が50~60%と高い値となり、日射遮蔽性が極めて劣る。
【0031】
既に述べたように低放射率膜を形成したLowEガラスは、日射遮蔽性に優れるが、膜が腐食性であることから、複層ガラスを構成する1枚の板ガラスとしての使用に留まる。そして、その場合においても、通信等に用いられる電波を透過させようとすると、低放射率膜を斑点状や島状の不連続な膜として形成するか、電波を透過させるための切り欠きを設ける必要があったが、本発明においては、前記複合酸化タングステン微粒子と前記アンチモンドープ酸化錫微粒子の混合被膜は、そのような不連続な形態にしたり、切り欠きを設ける必要はない。
【発明の効果】
【0032】
本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスは、60%以上という高い可視光透過率を維持しながら、紫外線透過率が2.0%以下で、日射透過率が35%以下という優れた日射遮蔽性を示す。また、第5世代移動通信システムで用いられる5G電波であるミリ波帯の周波数28GHz帯の透過損失を3.5dB以下に、及びSub6帯の周波数4.5GHz帯及び周波数3.7GHz帯の透過損失を2.5dB以下に抑えることができる。これらのことから、本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスは、今後の住宅やビルに用いられる窓ガラスとして極めて好適である。
【0033】
また、本発明は単板ガラスに関するものであるが、本発明の電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスに塗布されている前記複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合被膜を、強化ガラスに塗布することにより、強化ガラスに5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過特性を付与することができる。さらに、本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスを、複層ガラスを構成する1枚のガラスとしても使うことができるし、合わせガラスを構成する1枚のガラスとしても使うことができる。こうすることにより、複層ガラスや合わせガラスについても、5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過という性能を持たせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の5G電波透過型高遮熱高可視光透過ガラスの分光光学特性を示す図である。
図2】本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスのミリ波帯域での電波透過性を示す図である(リファレンスは空気である)。
図3】本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスのミリ波帯域での電波減衰率を示す図である(空気の場合との差分である)。
図4】本発明の5G電波透過型高遮熱高電波透過ガラスのSub6帯域での電波透過性を示す図である(リファレンスは空気である)。
図5】本発明の5G電波透過型高遮熱高可視光透過ガラスのSub6帯域での電波減衰率を示す図である(空気の場合との差分である)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。可視光線透過率(波長範囲:380nm~780nm)、紫外線透過率(波長範囲:300nm~380nm)及び日射透過率(波長範囲:300nm~2500nm)は、神奈川県立産業技術総合研究所にて日立製作所(株)製の分光光度計UH-4150を用いて測定した。電波透過率の測定も同じく神奈川県立産業技術総合研究所で行った。
【実施例
【0036】
複合酸化タングステンは、酸化タングステン原料として酸化タングステン水和物(H2WO4)を、酸化亜鉛原料として酢酸亜鉛二水和物(Zn(CH3COO)2・2H2O)を、酸化アルミニウム原料として硫酸アルミニウム水和物(Al2(SO4)3・16H2O)を、酸化スズ原料として塩化スズ二水和物(SnCl2・2H2O)を、モル分率で1:0.1:0.25:0.4となるよう秤量し、乳鉢で粉砕して粉末とし、公知の方法で還元し焼成し複合酸化タングステン微粒子を得た。この例では、金属MのタングステンWに対するモル比xは化学量論的には1.0となる。
【0037】
また、5G電波透過型高可視光透過ガラス作製用の分散液の作製において、アンチモンドープ酸化錫は市販のアンチモンドープ酸化錫(三菱マテリアル電子化成製)を用いた。アンチモンのドープ割合は5mol%である。
【0038】
前記複合酸化タングステン微粒子31.7wt%及びアンチモンドープ酸化錫0.3wt%を、分散剤としてジプロピレングリコールメチルエーテルアセタート31wt%、エチルアセテート13wt%、プロピレングリコールメチルエーテルアセタート11wt%、メタクリレート共重合体9wt及びシラン重合体4wt%からなる有機溶剤に分散させた。分散をよくするために、撹拌機を用いて回転数1000rpmで10分間の処理を行い、複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合分散液を作製した。
【0039】
幅150mm×長さ150mm×厚み3mmの透明板ガラス(いわゆるFL3)の表面に少量の重曹粉末を散布し、水に濡らしたスポンジを擦り付けて洗浄した。このガラス表面の重曹を水で完全に洗い落とした。
【0040】
前記板ガラスの表面を洗浄した後、その表面に先に作製しておいた複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合分散液を、スリットコーターを用いて、スリットとガラス基板の間に120μmの塗布GAPを設け、塗布ノズルを進行速度100mm/秒で動かして、ガラス基板上に約25μmのWET膜厚を形成した。WET膜厚とは溶剤を含んだ膜厚である。そして、このWET被膜付きガラス基板を真空容器内で30秒間かけて10Paまで排気し、真空容器から取り出して、100°Cのオーブンで8分間加熱して、複合酸化タングステンとアンチモンドープ酸化錫微粒子の混合被膜を形成した被膜付きガラスを得た。被膜の厚みを測定したところ、狙い通りの4.5μm厚みの被膜であった。
【0041】
このようにして得た5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスの光学特性を評価した結果を図1に示した。また、可視光透過率、可視光反射率、日射透過率、日射反射率を、JIS R3106:2019に従って算出した結果を、表1に示した。なお、近赤外線とは、780m~2500nmの波長範囲のもので、その領域の透過率及び反射率をもとに、日射光に占める割合である重価係数を掛けて算出している。表1に示した結果から、本発明の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスは、可視光透過率が64.2%と60%を超える高い値であり、日射透過率は25.4%と35%を下回る低い値であり、近赤外線透過率は2.9%と極めて低く、日射透過率の25.4%のほとんどが可視光によるものであることがわかった。また、紫外線透過率は0.4%であり、紫外線のほとんどすべてを遮蔽していることがわかった。これらはいずれも住宅やビルの窓として極めて適した性能である。
【0042】
【表1】
【0043】
次に、光学測定を実施した本発明の実施例の5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスの電波透過性の測定を行った。ネットワークアナライザを用いて、アンテナを対向させた状態で、これらのガラスを挟んだ場合と挟まない場合(すなわち空気の場合)の受信電力比を測定することにより評価した。
【0044】
ミリ波帯である周波数28GHz帯の周波数領域を挟んだ測定領域である15GHz~40GHzの周波数範囲での電波透過率の測定結果を図2に示す。図2中、S21は透過した電波の強度に対応するもので、太い実線が本サンプル(凡例として、遮熱ガラス単体と記載している)の測定結果であり、細い実線がアンテナ間に何も挟まない状態での基準値を示している。本発明の実施例のサンプルでは基準値からの乖離は小さく、電波の減衰が少ないことがわかる。
【0045】
図3は、ガラスを挟まない状態、すなわち何もない空気だけの状態を基準値として本発明の実施例であるサンプルのミリ波帯(周波数28GHz帯)の受信電力の比である。つまり、空気の状態を0dBとして、本発明の実施例を挟んだ場合の電波減衰率を示している。第5世代移動通信システムで用いられる、いわゆる5G電波の周波数の1つであるミリ波帯(周波数28GHz帯)を挟んだ測定結果では、本発明の実施例のサンプルは、15GHzでの減衰率は0.65dBであり、その後、周波数28GHzに向けて、徐々に減衰率が増大するが、28GHzでの減衰率は3.3dBであって、約68%の電波が透過していて、電波の減衰率が小さいことがわかった。28GHzを超えると、29.5GHz~31.5GHzでは、電波減衰率は3.5~3.6dBである。32GHzを超えると徐々に減衰率は低下し、40GHzでの減衰率は0.4dB以下となる。
【0046】
これらをすべてのデータを記載すると膨大になるので、本発明のサンプルについて、ミリ波帯の測定結果として27GHzから29.5GHzまで0.5GHzピッチで、測定結果を表2に示す。ミリ波帯における電波減衰率が3.5dB以下であることがわかった。
【0047】
【表2】
【0048】
次に、Sub6帯である周波数4.5GHz帯及び3.7GHz帯の電波透過率の測定結果を図4及び図5に示す。測定した周波数領域は、Sub6帯を挟む2GHz~18GHzである。図4は、ガラスを挟まない状態(対向するアンテナ間に空気しかない状態)の基準値と本実施例のガラスを挟んだ場合を比較した測定結果であり(図中に凡例として遮熱ガラス単体と記載したものが本実施例のサンプルである)、図5は本実施例のサンプルの測定結果と基準値との差分を表したものである。
【0049】
本発明の実施例のサンプルは、2GHzでは電波の減衰が1.3dBであり、3.7GHzで減衰率は2.0dBであり、4.5GHzでは2.3dBであり、その後、9~11GHzの周波数領域では約3.8dBの極大値を示す。
【0050】
本発明の実施例であるサンプルについて、Sub6帯の5G通信の電波である3.7GHz帯及び4.5GHz帯での減衰率のデータを表3に示す。本発明のサンプルでは、Sub6帯における電波減衰率が2.5dB以下であることがわかった。
【0051】
【表3】
【0052】
以上の測定結果を整理して、第5世代移動通信システムに用いられるミリ波帯(周波数28GHz帯)及びSub6帯(周波数4.5GHz帯及び周波数3.7GHz帯)の電波が、本発明の実施例でどの程度減衰するのかを表4にまとめた。本発明の実施例では、第5世代移動通信システムに用いられるミリ波帯である28GHz帯の周波数27.0GHz~29.5GHzでは減衰率は3.0dB~3.5dBであり、Sub6帯である4.5GHz帯の周波数4.4GHz~4.9GHzでは減衰率は2.3~2.4dBであり、同じくSub6帯である3.7GHz帯の周波数3.6GHz~4.2GHzでは減衰率は2.0dB~2.2dBであることがわかった。すなわち、ミリ波帯の電波は、少なくとも66.7%以上が透過し、Sub6帯の電波は、少なくとも75%以上が透過することがわかった。
【0053】
【表4】
【0054】
本実施例の電波透過性の評価に用いた5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスサンプルの前記複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜の厚みが4.5μmであったことから、被膜の厚みが2μm以上4.5μm以下であれば、少なくとも表4に示した本評価結果以上の5G電波透過特性が得られるものと考えられる。
【0055】
なお、これまで電波の減衰率と電波の透過率の関係は、以下の関係式を用いて計算している。すなわち、出射電波の電圧と、電波透過率を測定するためネットワークアナライザの間に置いたガラスからの透過電波の電圧の比が、電波透過率であり、これの対数をとって20倍したものが電波減衰率(dB)であり、電波の受信電力比に相当する。この式に、例えば、電波の透過率として0.75(75%)を代入すると、電波の減衰率は-2.5dBと計算される。これを電波減衰率が2.5dBと表している。もう一例として、電波の透過率を0.667(66.7%)を代入すると、-3.5dBとなり、これを電波減衰率が3.5dBと表している。
電波の受信電力比=電波の減衰率(dB)=20log10[電波の透過率]
電波の透過率=透過電波の電圧(振幅)/出射電波の電圧(振幅)
【要約】
【課題】本発明は、高い可視光透過率と優れた日射遮蔽性能及び紫外線遮蔽性能を有し、かつ第5世代移動通信システムに使用されるミリ波帯(28GHz帯)及びSub6帯(周波数4.5GHz帯及び3.7GHz帯)の電波を透過する5G電波透過型日射遮蔽高可視光透過ガラスを提供することを目的する。
【解決手段】単板ガラスの表面に、一般式MxWOyで表される複合酸化タングステン微粒子とアンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)微粒子の混合被膜が、2μm以上4.5μm以下の厚みで形成されていて、前記アンチモンドープ酸化錫(SnO:Sb)のMxWOyに対する割合が0.5wt%以上1.5wt%以下であって、前記金属MのタングステンWに対するモル比xが0.8~1.1の範囲にあり、金属Mが少なくともアルミニウム(Al)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)を含有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5