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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】スポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
B23K11/11 540
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020054567
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021154303
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/088319(WO,A1)
【文献】特開2006-159235(JP,A)
【文献】特開2005-161391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板とその厚さ方向一方側に重ねて配された複数の厚板との重合部をスポット溶接で接合するための方法であって、
前記重合部に、一対の電極で挟持加圧した状態で通電するダイレクトスポット溶接を施して溶接点を形成する工程と、
前記溶接点に前記薄板側のみから電極を押し付けて通電するインダイレクトスポット溶接を施して、前記薄板とこれに隣接する厚板とを接合する工程とを有するスポット溶接方法。
【請求項2】
前記インダイレクトスポット溶接を施す前に、前記溶接点の前記薄板とこれに隣接する厚板とが接合されているか否かを判定する工程を有する請求項1に記載のスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接方法に関し、特に、板厚比の大きい板組みをスポット溶接により接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車体の組立工程では、重ね合わせた3枚以上の鋼板からなる板組みをスポット溶接により接合することがある。このような板組みの板厚比(=板組みの総板厚/最表面の薄板の板厚)が大きい場合、板組みの表面に設けられた薄板とこれに隣接する厚板とを接合することが困難であることが知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、スポット溶接の電流値を短時間に段階的に上昇させることで、ナゲットを縦方向(板厚方向)に成長させて薄板に溶け込ませる方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-98345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような方法で板厚比の大きい板組みを溶接した場合でも、ナゲットを薄板に溶け込ませることができず、溶接不良となることがある。
【0006】
そこで、本発明は、板厚比の大きい板組みを確実に接合できるスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、薄板とその厚さ方向一方側に重ねて配された複数の厚板との重合部をスポット溶接で接合するための方法であって、前記重合部にダイレクトスポット溶接を施して溶接点を形成する工程と、前記溶接点に前記薄板側からインダイレクトスポット溶接を施して、前記薄板とこれに隣接する厚板とを接合する工程とを有するスポット溶接方法を提供する。
【0008】
このように、薄板と複数の厚板との重合部にダイレクトスポット溶接を施すことにより、少なくとも厚板同士を接合するナゲットを形成することができる。このナゲットにより薄板とこれに隣接する厚板とが接合されていない場合でも、ナゲットの形成領域(溶接点)に対して薄板側からインダイレクトスポット溶接を施すことにより、当該溶接点の薄板とこれに隣接する厚板とを接合することができる。
【0009】
上記のダイレクトスポット溶接により、薄板を含む全ての金属板が良好に接合された場合、この溶接点にインダイレクトスポット溶接を施すと、エネルギーが無駄になるだけでなく、溶接点が過剰に溶融して接合強度が低下する恐れがある。そこで、上記のスポット溶接方法では、インダイレクトスポット溶接を施す前に、溶接点の薄板とこれに隣接する厚板とが接合されているか否かを判定する工程を設けることが好ましい。この工程で、薄板とこれに隣接する厚板とが接合されていないと判定された場合にのみ、当該溶接点に前記インダイレクトスポット溶接を行うようにすれば、エネルギーの無駄が省かれると共に、溶接点の過剰な溶融による強度低下を回避できる。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、本発明のスポット溶接方法によれば、板厚比の大きい板組みを確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スポット溶接設備の側面図である。
図2】インダイレクトスポット溶接装置の溶接電極の断面図である。
図3】ワークにダイレクトスポット溶接を施す様子を示す断面図である。
図4】上記ダイレクトスポット溶接で形成された溶接点にインダイレクトスポット溶接を施す様子を示す断面図である。
図5】インダイレクトスポット溶接が施されたワークの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すスポット溶接設備は、ダイレクトスポット溶接装置1と、インダイレクトスポット溶接装置2とを備える。
【0014】
ダイレクトスポット溶接装置1は、同軸上で対向配置された一対の電極11、12と、一方の電極11を軸方向に移動させるシリンダ13と、一対の電極11、12間に流す電流を供給するトランス14とが設けられた溶接ガン10を備える。溶接ガン10は、ロボットアーム15の先端に取り付けられる。図示例の電極11、12の先端は、略球面状を成している。
【0015】
インダイレクトスポット溶接装置2は、溶接電極21、及び、溶接電極21を軸方向に移動させるシリンダ22を有する溶接ガン20と、アース電極23と、溶接電極21とアース電極との間に流す電流を供給するトランス24とを備える。溶接ガン20は、ロボットアーム25の先端に取り付けられる。
【0016】
図2に示すように、溶接電極21の先端には、軸心に設けられた先端面21aと、その周囲に設けられ、先端面21aから軸方向で離反するにつれて拡径した傾斜面21bとが設けられる。先端面21aは、例えば軸方向と直交する平坦面で構成される。先端面21aの直径は、例えば2mm以下とされる。先端面21aは、平坦面の他、凸曲面(例えば球面)で構成してもよい。
【0017】
溶接電極21の傾斜面21bは、略テーパ状に形成される。具体的に、傾斜面21bは、上端(外周円筒面21cとの境界)と下端(先端面21aとの境界)とを結ぶ仮想テーパ面C(点線参照)に対して、母線の中間部を凹ませた形状を成している。図示例では、傾斜面21bが、第一テーパ面21b1と、第一テーパ面21b1の下方に設けられた第二テーパ面21b2とを備える。第一テーパ面21b1と第二テーパ面21b2、及び、第二テーパ面21b2と先端面21aは、それぞれ曲線部を介して滑らかに連続している。第一テーパ面21b1の軸方向に対する角度αは、仮想テーパ面Cの軸方向に対する角度θよりも大きい。第二テーパ面21b2の軸方向に対する角度βは、仮想テーパ面Cの軸方向に対する角度θよりも小さい。尚、傾斜面21bの構成は上記に限らず、例えば、傾斜面21b全体を、仮想テーパ面Cと同形状のテーパ面で構成してもよい。
【0018】
アース電極23は、溶接電極21の先端面21aよりも面積が大きい平坦面23aを有する。平坦面23aは、例えば多数の金属線で形成され、具体的には平編銅線で形成される。
【0019】
以下、上記のスポット溶接設備でワークWにスポット溶接を施す方法を説明する。
【0020】
本実施形態で溶接を施すワークWは、図3に示すように、薄板W1と、薄板W1の厚さ方向一方側(図中下方)に重ねて配された複数の厚板とを有する。本実施形態では、ワークWが、薄板W1と2枚の厚板W2、W3とを備える。厚板W2、W3は、何れも薄板W1よりも肉厚が厚い。ワークWの重合部における板厚比(重合部の総板厚/薄板W1の板厚)は、例えば4以上とされる。
【0021】
薄板W1及び厚板W2、W3は、それぞれ金属板(例えば鋼板)で形成される。本実施形態では、薄板W1は厚板W2、W3よりも引張強度の低い材料で形成される。具体的には、例えば引張強度300MPa以下の軟鋼板(例えば溶融亜鉛メッキ鋼板)で薄板W1が形成され、引張強度490MPa以上の高張力鋼板、特に引張強度980MPa以上の超高張力鋼板で厚板W2,W3が形成される。本実施形態では、厚板W2、W3が何れも冷間圧延鋼板からなる超高張力鋼板である。
【0022】
まず、ダイレクトスポット溶接装置1により、ワークWの重合部の複数箇所に溶接点Pを形成する。具体的には、図3に示すように、一対の電極11、12でワークWの重合部を厚さ方向で挟持加圧し、この状態で一対の電極11、12間に所定の値の電流を通電することによりナゲットN1が形成される。
【0023】
上記のダイレクトスポット溶接では、薄板W1とこれに隣接する厚板W2との境界は、内部に冷却水が流通された電極11が薄板W1を介して近接しているため、温度が上昇しにくい。また、薄板W1は剛性が低く、電極11の加圧力で変形しやすいため、薄板W1と厚板W2との接触面積が大きくなって電流密度が上昇しにくい。以上により、薄板W1と厚板W2との境界を十分に発熱させることは難しい。その結果、厚板W2、W3の境界が優先的に溶融されてナゲットN1が形成されるが、このナゲットN1が薄板W1に溶け込まず、薄板W1と厚板W2とが十分な強度で接合されないことがある。本実施形態では、ナゲットN1により薄板W1とこれに隣接する厚板W2とが接合されているか否かに関わらず、平面視におけるナゲットN1の形成領域を「溶接点P」と言う。
【0024】
その後、ダイレクトスポット溶接装置1の溶接ガン10をワークWの溶接点Pから離反させ、この溶接点Pに、インダイレクトスポット溶接装置2により、薄板W1側(図中上側)からインダイレクトスポット溶接を施す。具体的には、ワークのうち、溶接点Pと異なる箇所にアース電極23を接触させると共に、溶接電極21を溶接点Pに薄板W1側から接触させて溶接点Pを加圧する。溶接点Pは、溶接電極21と反対側(図中下側)からは支持されていない。アース電極23は、例えばワークWの重合部の下面(厚板W3)に接触される。この状態で、溶接電極21とアース電極23との間に通電することにより、溶接電極21から、薄板W1と厚板W2との境界、及び、ナゲットN1を通ってアース電極23に至る通電経路Qが形成される。これにより、図5に示すように、溶接点Pの薄板W1と厚板W2との境界にナゲットN2が形成され、両金属板W1、W2が接合される。
【0025】
以上により、ダイレクトスポット溶接により薄板W1と厚板W2とが接合されていない場合でも、ダイレクトスポット溶接で形成された溶接点Pに、薄板W1側から溶接電極21を接触させてインダイレクトスポット溶接を施すことで、薄板W1と厚板W2とを接合することができる。
【0026】
尚、インダイレクトスポット溶接は、ダイレクトスポット溶接により溶接点Pを一つ形成する度に行ってもよいし、ダイレクトスポット溶接により複数箇所に溶接点Pを形成した後、アース電極23をワークWの一箇所に接触させた状態で、複数の溶接点Pにインダイレクトスポット溶接を連続的に施してもよい。
【0027】
また、インダイレクトスポット溶接を施す際に、溶接点Pは既にダイレクトスポット溶接において電極11、12で挟持加圧されているため、溶接点Pにおける薄板W1と厚板W2との間の隙間はほぼ0になっている。このようなワークWの溶接点Pを、インダイレクトスポット溶接装置2の溶接電極21で薄板W1側から加圧すると、薄板W1と厚板W2との接触面積が大きくなりやすいため、薄板W1と厚板W2との接触部における電流密度が不足して、これらが接合されない恐れがある。本実施形態では、比較的低い加圧力(例えば、50kgf以下)で溶接電極21を溶接点Pに薄板W1側から押し付けるため、薄板W1と厚板W2との接触面積が抑えられ、電流密度が高められる。
【0028】
ところで、ダイレクトスポット溶接装置1で溶接点Pを形成した後、再びダイレクトスポット溶接装置1の電極11、12で溶接点Pを低い加圧力で加圧した状態で通電すれば、薄板W1と厚板W2とを接合できるようにも思われる。しかし、ダイレクトスポット溶接装置1に設けられるシリンダ13は、通常、150~500kgfの加圧力を発生させることができる大型のものであり、このような大型のシリンダ13は、50kgf以下の低い値での加圧力の制御が困難であるものが多い。これに対し、インダイレクトスポット溶接装置2のシリンダ22には、出力が比較的小さいもの(例えば、最大加圧力が150kgf以下のもの)を使用できるため、50kgf以下の低い加圧力でも高精度に制御可能である。
【0029】
また、図2に示すような略テーパ状の先端形状を有する溶接電極21で加圧することで、薄板W1と厚板W2との接触面積がさらに抑えられる。すなわち、溶接電極21の先端面21aの面積が小さいことで、溶接電極21による薄板W1の加圧領域が小さくなり、これにより薄板W1と厚板W2との接触面積が小さくなる。その後、溶接電極21の先端が薄板W1に食い込むにつれて溶接電極21による加圧領域が広がるが、溶接電極21の先端に設けられた第二テーパ面21b2の軸方向に対する角度βが小さいため、溶接電極21の先端の薄板W1への食い込みによる加圧領域の拡大が抑えられ、もって薄板W1と厚板W2との接触面積の増大が抑えられる。そして、軸方向に対する角度αが大きい第一テーパ面21b1が薄板W1に当接することで、この第一テーパ面21b1がストッパとして機能して、溶接電極21のそれ以上の薄板W1への食い込みが抑制される。
【0030】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0031】
例えば、インダイレクトスポット溶接を施す前に、溶接点Pの薄板W1とこれに隣接する厚板W2とが接合されているか否かを検査する工程を設けてもよい。このような検査は、例えば、ダイレクトスポット溶接中の溶接条件(電流値、抵抗値、加圧力、電極の変位等)の測定値に基づいて行うことができる。具体的には、予め、ダイレクトスポット溶接により薄板W1、厚板W2、W3を全て接合する良好なナゲットN1が形成されたときの溶接条件の良品範囲を取得する。そして、量産時に、ワークWに対するダイレクトスポット溶接中の溶接条件を測定し、この測定値が、予め取得した良品範囲内であるか否かにより、溶接点Pの良否を判定することができる。そして、溶接点Pが不良であると判定されたときのみ、当該溶接点Pに薄板W1側からインダイレクトスポット溶接を施して、薄板W1と厚板W2とを接合する。
【0032】
上記のような溶接点Pの検査は、インダイレクトスポット溶接装置2を用いて行うこともできる。具体的には、まず、ダイレクトスポット溶接により薄板W1、厚板W2、W3を全て接合する良好なナゲットN1が形成されたワークWに対し、図4と同様に溶接電極21及びアース電極23を接触させる。このとき、溶接電極21は、溶接点Pに薄板W1側から非常に低い圧力(例えば、10kgf以下)で接触させる。この状態で、両電極21、23間の通電抵抗を測定することにより、通電抵抗値の良品範囲を取得する。
【0033】
そして、量産時に、ワークWにダイレクトスポット溶接を施して溶接点Pを形成した後、上記と同様にワークWにアース電極23を接触させた状態で、溶接電極21を溶接点Pに薄板W1側から低加圧力で接触させ、この状態で両電極21、23間の通電抵抗を測定する。このとき、溶接点Pにおいて薄板W1と厚板W2とが十分に接合されていれば、通電抵抗値が上記の良品範囲内となる。一方、溶接点Pにおいて薄板W1と厚板W2とが十分に接合されていない場合、通電抵抗値が上記の良品範囲よりも大きくなる。従って、両電極21、23間の通電抵抗の測定値が、上記の良品範囲内であるか否かにより、溶接点Pの良否を判定することができる。そして、溶接点Pが不良であると判定されたときのみ、当該溶接点Pにインダイレクトスポット溶接を施して、薄板W1と厚板W2とを接合する。
【0034】
溶接点Pの検査方法は上記に限らず、例えば、タガネによる剥離検査を行ってもよい。
【0035】
以上の実施形態では、ダイレクトスポット溶接とインダイレクトスポット溶接とを別個の電極を用いて行う場合を示したが、これに限られない。例えば、ダイレクトスポット溶接を施した後、ダイレクトスポット溶接装置1の電極11を用いてインダイレクトスポット溶接を行ってもよい。具体的には、ダイレクトスポット溶接により溶接点Pを形成した後、一方の電極11を溶接点Pに薄板W1側から接触させると共に、他方の電極12をワークWから離反させ、さらにワークWの溶接点P以外の箇所にアース電極23を接触させる。この状態で、電極11とアース電極23間に通電することで、薄板W1と厚板W2とを接合することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ダイレクトスポット溶接装置
2 インダイレクトスポット溶接装置
10 溶接ガン
11、12 電極
20 溶接ガン
21 溶接電極
23 アース電極
N1 ナゲット
N2 ナゲット
P 溶接点
Q 通電経路
W ワーク
W1 薄板
W2,W3 厚板
図1
図2
図3
図4
図5