(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】フッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/08 20060101AFI20240430BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240430BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C22B3/08
C22B26/12
C22B21/00
(21)【出願番号】P 2023012499
(22)【出願日】2023-01-31
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】生頼 真一郎
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107587167(CN,A)
【文献】KUANG, Ge et al.,Lithium Extraction Mechanism from α-Spodumene by Fluorine Chemical method,Advanced Materials Research,2012年05月14日,vols.524-527,pp2011-2016,doi:10.4028/www.scientific.net/AMR.524-527.2011
【文献】FURUKAWA T., George,Heat Capacity and Thermodynamic Properties of β-Lithium Hexafluoroaluminate Li3AlF6, from 15 to 380 K,Journal of Research of the National Bureau of Standards-A. Physics and Chemistry,1970年,vol.74A,No.5,p.631-639,doi:10.6028/jres.074A.050
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化リチウムアルミニウムを
H
2
SO
4
として10~80質量%の希硫酸に溶解させる工程
を含む、
リチウム濃度がLi
2
Oとして0.5~1.6質量%であるフッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池に対する需要が急増していることを受け、リチウム資源からのリチウムの生産だけでなく、リチウムを含有する産業廃棄物からのリチウムの回収についても技術開発が進められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、フッ化リチウムアルミニウム(化学式:Li3AlF6。リチウム氷晶石とも称される)を生成させる方法を別途開発した。その一方法は、水を溶媒とし、鉱酸イオン及びフッ化物イオン並びにリチウム成分を含有したリチウム溶解液とアルミニウム塩とを混合する方法である。しかし、フッ化リチウムアルミニウムは水への溶解度が低いために、リチウム源として利用するのは容易ではなかった。
【0005】
本発明は、リチウム利用の観点から、フッ化リチウムアルミニウムを溶解させることによるフッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
[1]フッ化リチウムアルミニウムを希硫酸に溶解させる工程を含む、フッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明において、数値範囲に関する「数値1~数値2」という表記は、数値1を下限値とし数値2を上限値とする、両端の数値1及び数値2を含む数値範囲を意味し、「数値1以上数値2以下」と同義である。
【0008】
本発明は、フッ化リチウムアルミニウムを希硫酸に溶解させる工程を含むフッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法に関する。
【0009】
希硫酸としては、例えば、H2SO4として1~80質量%の範囲が好ましい。下限値は、3質量%がより好ましく、特に好ましくは5質量%であり、特により好ましくは10質量%である。上限値は、70質量%がより好ましく、特に好ましくは50質量%であり、特により好ましくは30質量%である。よって、より好適な範囲として、1~70質量%、1~50質量%、1~30質量%、3~80質量%、3~70質量%、3~50質量%、3~30質量%、5~80質量%、5~70質量%、5~50質量%、5~30質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~50質量%、10~30質量%を例示できる。これらのうち、溶解性の高さの観点から、10~50質量%がとりわけ好ましく、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0010】
フッ化リチウムアルミニウムを希硫酸に溶解させる方法は特に限定されず、好ましくは希硫酸にフッ化リチウムアルミニウムを添加し撹拌等の操作によって溶解させる。希硫酸の量は、フッ化リチウムアルミニウムの全量を溶解すべく多量に使用してもよいし、フッ化リチウムアルミニウムの飽和溶液を作製すべくフッ化リチウムアルミニウム全量の溶解に必要な希硫酸量以下の量で使用してもよい。フッ化リチウムアルミニウムの再析出又はその可能性が許容される場合には、高いリチウム濃度のフッ化リチウムアルミニウム溶解液が得られる観点から、フッ化リチウムアルミニウムの飽和溶液を作製する後者を実施することが好ましい。
【0011】
フッ化リチウムアルミニウム溶解液中のリチウム濃度は、希硫酸の濃度によってフッ化リチウムアルミニウムの溶解量が決まるため一概に定めることはできないが、例えば、Li2Oとして0.2~1.6質量%の範囲であることが好ましい。上記範囲の下限値は、0.3質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは0.5質量%である。上記範囲の上限値は、1.5質量%であることがより好ましい。よって、より好適な範囲として、0.2~1.5質量%、0.3~1.6質量%、0.3~1.5質量%、0.5~1.6質量%、0.5~1.5質量%を例示できる。例えば、H2SO4として10~50質量%の濃度の希硫酸を用いた場合には、Li2Oとして1.0質量%以上のリチウム濃度とすることも可能である。
【0012】
以上により製造されたフッ化リチウムアルミニウム溶解液には、Li、Al、SO4及びFが含有される。AlとFは、フッ化リチウムアルミニウム由来の他に、フッ化リチウムアルミニウムの不純物としてフッ化アルミニウム(AlF3)が含有された場合にはフッ化アルミニウムにも由来する。AlとFは、公知の精製処理によって除去できるため、特に支障となることはない。さらに、精製処理後にソーダ灰を添加することによって、炭酸リチウムを生成させることもできる。例えば、特許文献1には、鉱石から製造した硫酸リチウム水溶液を精製しこれに炭酸ナトリウムを添加することによって炭酸リチウムの沈殿を得る方法が記載されているが、この硫酸リチウム水溶液をフッ化リチウムアルミニウム溶解液に置き換えて適用することができる。すなわち、特許文献1の段落[0027]には、硫酸リチウム水溶液中の「過剰の硫酸は石灰で中和し、生じた石膏はアルミナ、シリカとともに濾過除去してリチウムの浸出液を得る。また、リチウムの回収は浸出液から炭酸リチウムを沈殿させることで行う。具体的には、得られた浸出液に少量のソーダ灰、消石灰を加えて浄液し、多重効用缶を用いて硫酸リチウムが飽和溶液になるまで濃縮し、ソーダ灰の飽和溶液と反応させて炭酸リチウムの沈殿を得る。」と記載されており、これをフッ化リチウムアルミニウム溶解液に適用することができる。炭酸リチウムは、周知のように、電池用途を始めとして各種用途に幅広く使用されている。
【0013】
フッ化リチウムアルミニウム溶解液には、許容できる限度内において、酸として、例えば、硝酸、塩酸等が含有されていても構わない。また、Li及びAl以外の金属元素が含有されていても構わない。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。また、硫酸の濃度表記については、例えば、H2SO4として5質量%の硫酸は、5%硫酸と表記する。
【0015】
(フッ化リチウムアルミニウム粉末の調製)
2L容ポリプロピレン製容器に収容したイオン交換水685.4gに、98%硫酸102.0gを添加し水浴中で室温まで冷却した。次に、50%フッ酸200.0gを添加し、さらに炭酸リチウム12.55gをゆっくりと添加し、リチウム溶解液を作製した。
このリチウム溶解液に、撹拌下で、Al2O3濃度が8.1質量%の硫酸アルミニウム水溶液210.6gをゆっくりと添加した。その後、撹拌を停止し一晩静置したところ、容器の底部には析出物が生成し、上澄みはほぼ透明となっていた。
次に、析出物を洗浄し、洗浄物を得た。洗浄方法は、上澄みをできるだけ除去した後、イオン交換水を添加し、撹拌した後に静置する、という一連の操作を数回繰り返すものである。
次いで、洗浄物を90℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥物を16.0g得た。
この乾燥物を粉末X線回折で測定し、回折パターンをJCPDSカードと照合した。その結果、Li3AlF6として登録されているJCPDSカード No.01-088-0860との一致性より、Li3AlF6と同定された。なお、測定装置として、(株)島津製作所製 X線回折装置XRD-7000を用いた。
以下、この乾燥物を「フッ化リチウムアルミニウム粉末」と称する。
【0016】
〔実施例1〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末の溶解性について調べるため、少量のフッ化リチウムアルミニウム粉末を15%硫酸に添加し、室温で数時間撹拌したところ、すべて溶解した。
【0017】
以下の実施例と比較例では、フッ化リチウムアルミニウムの飽和溶液を作製した。
【0018】
〔比較例1〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.50gを5%硫酸 30.3gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして0.34質量%であった。
【0019】
〔実施例2〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.50gを、10%硫酸 9.1gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして1.14質量%であった。
【0020】
〔実施例3〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.58gを、15%硫酸 7.3gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして1.26質量%であった。
【0021】
〔実施例4〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.61gを、20%硫酸 6.8gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次いで、遠心分離機を用いて上澄みが透明になるように遠心沈降処理を行った。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして1.48質量%であった。
【0022】
〔実施例5〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.51gを、30%硫酸 7.6gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次いで、遠心分離機を用いて上澄みが透明になるように遠心沈降処理を行った。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして1.44質量%であった。
【0023】
〔実施例6〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.50gを、50%硫酸 9.1gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次いで、遠心分離機を用いて上澄みが透明になるように遠心沈降処理を行った。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして1.11質量%であった。
【0024】
〔実施例7〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.50gを、70%硫酸 13.0gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次いで、遠心分離機を用いて上澄みが透明になるように遠心沈降処理を行った。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして0.62質量%であった。
【0025】
〔比較例2〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.5gを、イオン交換水 30.3gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして0.03質量%であった。
【0026】
〔比較例3〕
フッ化リチウムアルミニウム粉末 0.5gを、濃硫酸(98%硫酸) 18.6gに添加し、室温で数時間撹拌した後、静置した。次いで、遠心分離機を用いて上澄みが透明になるように遠心沈降処理を行った。次に、沈殿した溶解残が混入しないように上澄み液を採取した。上澄み液中のリチウム濃度はLi2Oとして0.16質量%であった。
【要約】
【課題】本発明は、リチウム利用の観点から、水への溶解度が低いフッ化リチウムアルミニウム(化学式:Li3AlF6。リチウム氷晶石とも称される)をリチウム源として利用できるようにするため、フッ化リチウムアルミニウムを溶解させることによるフッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法の開発を課題とする。
【解決手段】フッ化リチウムアルミニウムを希硫酸に溶解させる工程を含む、フッ化リチウムアルミニウム溶解液の製造方法である。
【選択図】 なし