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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】高流動性ポリフェニルスルホン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/06 20060101AFI20240430BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20240430BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20240430BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C08L81/06
C08K7/04
C08L71/00 Z
H01B3/30 J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018556396
(86)(22)【出願日】2017-04-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2017060217
(87)【国際公開番号】W WO2017186922
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-03-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】62/329,482
(32)【優先日】2016-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16187796.4
(32)【優先日】2016-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/456,955
(32)【優先日】2017-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エル-ヒブリ, モハマド ジャマール
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】大畑 通隆
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/016643(WO,A1)
【文献】特表2009-530461(JP,A)
【文献】特表2015-502441(JP,A)
【文献】特開平2-4828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーブレンドを含むポリマー組成物であって、前記ポリマーブレンドが、
(i)少なくとも50mol%の式(I):
(式中、各Rは、互いに同じであるか異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリもしくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリもしくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;各hは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数である)の繰り返し単位を含む、75~60重量%のポリフェニルスルホン(PPSU);及び
(ii)- 式(II):
の繰り返し単位(RPEEK)と;
- 式(III):
の繰り返し単位(RPEDEK)と;
(式中、各R’は、互いに同じであるか異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリもしくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリもしくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;各iは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数であり、各jは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数である)
を含み、
繰り返し単位のモル比(RPEEK)/(RPEDEK)が、90/10~65/35であり、
繰り返し単位(RPEEK)と(RPEDEK)の合計濃度が前記PEEK-PEDEKコポリマー中の繰り返し単位の総モル数に対して少なくとも50mol%である、
~40重量%のPEEK-PEDEKコポリマー
からなり、前記PEEK-PEDEKコポリマーと前記ポリフェニルスルホン(PPSU)の重量パーセントが、前記PEEK-PEDEKコポリマーと前記ポリフェニルスルホン(PPSU)の合計重量に対するものであり、
ポリマー組成物が、前記ポリフェニルスルホン(PPSU)単独のメルトフローレートよりも30%大きいメルトフローレートを有しており、前記メルトフローレートはASTM D1238に従って5.0kgの荷重で365℃で測定される、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニルスルホン(PPSU)が、少なくとも50mol%の式(Ib):
の繰り返し単位を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記PEEK-PEDEKコポリマーが、
- 式(IIb):
の繰り返し単位(RPEEK)と、
- 式(IIIb):
の繰り返し単位(RPEDEK)と、
を含む、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
繰り返し単位のモル比(RPEEK)/(RPEDEK)が、80/20~70/30の範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリマー組成物が、1~21ft-lb/インチ(587~1121J/m)の範囲の、ASTM D256に従って測定されるノッチ付きIzod耐衝撃性を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記ポリマー組成物が、2.0%より大きな日焼け止めに対する環境応力亀裂抵抗臨界歪みを有し、
前記環境応力亀裂抵抗は、前記ポリマー組成物から成形したASTM D-246Cの5インチ×0.5インチ×0.125インチ(127mm×12.7mm×3.175mm)の曲げ試験片に日焼け止めクリームをコーティングし、72時間コーティングされた曲げ試験片に対して、65℃及び90%の相対湿度で、2%の相対歪みを印加した後の前記曲げ試験片の臨界歪みとして測定され、
前記日焼け止めは、少なくとも1.8重量%のアボベンゾン、少なくとも7重量%のホモサレート、及び少なくとも5重量%のオクトクリレンを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
補強フィラーを更に含有する、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記補強フィラーが、繊維状フィラーであり、前記ポリマー組成物が、前記ポリマー組成物の総重量を基準として、1重量%~40重量%の範囲の量で前記繊維状フィラーを含有する、請求項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリフェニルスルホン(PPSU)及び前記PEEK-PEDEKコポリマーを溶融混合することを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー組成物を含む、成形物品。
【請求項11】
前記成形物品が、携帯電子機器の構成要素、ワイヤコーティング、又は付加製造によって製造された物品である、請求項10に記載の成形物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月29日に出願された米国仮特許出願第62/329,482号、2016年9月8日に出願された欧州特許出願第16187796.4号、及び2017年2月9日に出願された米国仮特許出願第62/456,955号に基づく優先権を主張し、これらの出願それぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリフェニルスルホン(PPSU)とPEEK-PEDEKコポリマーとを含有する高流動ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
PPSUは、例えばポリスルホン(PSU)又はポリエーテルイミド(PEI)などよりも優れた耐衝撃性及び耐薬品性を備えた高性能ポリ(アリールエーテルスルホン)ポリマーである。PPSUは、多くのエンジニアリング用途のための優れた機械的靭性及び耐薬品性を有している。しかしながら、その比較的高い溶融粘度のため、これらの利点を常に生かせるわけではない。これは、携帯電子機器又はワイヤコーティングなどの非常に薄い部材又は層が必要とされる用途に特に当てはまる。もう1つの例は熱溶解付加積層製造である。低溶融粘度材料を用いるとポリマーの堆積に必要とされる粘度が低い温度で達成できることから、この製造では、極めて高い溶融温度を使用する必要なしにポリマーの堆積を可能にするために低い溶融粘度が必要とされる。高い温度は、経時的にポリマーを劣化させて炭化した材料を生じさせる場合があり、これは付加製造装置の堆積ノズルを詰まらせる、あるいは製造される部材の中に組み込まれる場合がある。
【0004】
そのため、PPSUの望ましい特性を損なわない高流動性PPSU組成物が必要とされている。
【0005】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書では、ポリフェニルスルホン(PPSU)と、PEEK-PEDEKコポリマー(後述する通り)とを含有するポリマー組成物、該ポリマー組成物の製造方法、及び該ポリマー組成物を含む成形物品について述べる。
【0006】
出願人らは、驚くべきことには、PEEK-PEDEKコポリマーをPPSUとブレンドすると、耐薬品性が低下することなく改善された流動性及び耐衝撃性を示すポリマー組成物が製造されることを発見した。
【0007】
従来、PPSUの流動性の増加は、耐衝撃性及び耐薬品性のトレードオフを意味していた。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、PSUなどの芳香族高流動性ポリマー、又は溶融加工可能なパーフルオロポリマー(MFA等)、テトラフルオロエチレンとビニルメチルエーテルとの共重合由来のコポリマーを添加することによりPPSUの流動性を改善するための試みが行われてきた。PEEKを添加すると、必ずPPSUの靭性の損失が生じる。PSUの添加もPPSUの靭性を損ない、流動性の改善は通常はあまり大きいものではない。MFAを添加すると、溶融流動性の有意な改善が得られるものの、溶融加工可能なフルオロポリマー(MFA等)とPPSUとが全体として熱力学的に非相溶性であるため、組成物から成形された部材の靭性の低下及び審美的な欠陥が生じることになる。
【0008】
出願人らは、PEEK-PEDEKコポリマーが、全ての前述の欠点を克服しながらも、PPSUの流動性を増加させることを見出した。上述の他の流動性を向上させる手法とは異なり、本手法は本発明のポリマー組成物の靭性を損なわず、むしろ改善する。更に、PEEK-PEDEKコポリマーは比較的耐薬品性が小さいものの、出願人は、驚くべきことには、PPSUへのPEEK-PEDEKコポリマーの添加が、かなりの量のPEEK-PEDEKコポリマーの添加にもかかわらず、PPSUの耐薬品性を損なわないことを見出した。
【0009】
そのため、ポリマー組成物は、以下に記載の有利な化学的特性及び機械的特性を示し得る。
【0010】
ポリマー組成物の流動性は、メルトフローレート(MFR)及び溶融粘度を測定することによって決定することができる。
【0011】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、ASTM D1238に従って5.0kgの荷重で365℃で測定される、約25~約70g/10分、好ましくは約35~約60g/10分、より好ましくは約40~約50g/10分の範囲のMFRを有する。別の実施形態においては、ポリマー組成物は、約25~約45g/10分、好ましくは約27~約41g/10分の範囲のMFRを有する。いくつかの態様においては、ポリマー組成物のメルトフローレートは、PPSU単独(すなわち、ポリマー組成物中に他の成分が存在しないPPSU)のメルトフローレートよりも約30%、好ましくは約60%大きく、このメルトフローレートはASTM D1238に従って5.0kgの荷重で365℃で測定される。
【0012】
更に、ポリマー組成物は、380℃の温度、500s-1のせん断速度、及びオリフィス長が15.240±0.025mmでありオリフィス径が1.016±0.008mmであるダイを用いて、ASTM D3835に従って測定される、好ましくは約200~約550Pa・s、約250~約500Pa・s、約300~約450Pa・s、約350~約550Pa・s、約365~約500Pa・sの範囲の溶融粘度を有し得る。いくつかの態様においては、ポリマー組成物の溶融粘度は、PPSU単独の溶融粘度よりも約12%、好ましくは約25%小さい。
【0013】
Izod耐衝撃性は、ポリマーの靭性を測定するための一般的な方法である。ポリマー組成物は、好ましくは約11~約21ft-lb/インチ(約587~約1121J/m)、約12~約20ft-lb/インチ(約641~約1068J/m)、約13~約19ft-lb/インチ(約694~約1015J/m)、約14~約18ft-lb/インチ(約748~約961J/m)の範囲の、ASTM D256により測定されるノッチ付きIzod耐衝撃性を有し得る。
【0014】
極性有機薬品に対するプラスチックの耐薬品性は、一般に最も強い消費者向け薬品のうちの1つである日焼け止めローションに対するその耐性によって測定することができる。特に、日焼け止めローションは、一般に、プラスチックに対して非常に腐食性であり得る様々な紫外線吸収性薬品を含有する。代表的な日焼け止めとしては、少なくとも1.8重量%のアボベンゾン(1-(4-メトキシフェニル)-3-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3-プロパンジオン)、少なくとも7重量%のホモサレート(3,3,5-トリメチルシクロヘキシルサリチレート)、及び少なくとも5重量%のオクトクリレン(2-エチルヘキシル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート)を挙げることができる。前述の日焼け止め剤の例は、Edgewell(St.Louis,MO)から商品名Banana Boat(登録商標)Sport Performance(登録商標)(SPF 30)として商業的に入手可能である。
ポリマー組成物の耐薬品性は、環境応力亀裂抵抗(ESCR)試験を使用して測定することができる。ESCRは、試料を強い薬品に曝し、制御された環境の中でエージングした後に、ポリマー組成物の成形した試料中で亀裂又はひび割れを目視で観察するのに必要とされる最も小さい歪みを測定することによって評価される(「臨界歪み」)。一般に、臨界歪みが大きいほどポリマー組成物の耐薬品性が大きい。いくつかの実施形態においては、対象のポリマー組成物は、2.0%より大きな日焼け止めに対するESCR臨界歪みを有する。臨界歪みの測定は、下の実施例において詳しく説明される。
【0015】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、実施例で記載される手順に従って評価される、2.0%より大きい「日焼け止めに対する環境応力亀裂抵抗(ESCR)臨界歪み」を有する。
【0016】
上述の特性によって、非常に低い溶融粘度と共に靭性と耐薬品性の組み合わせが必要とされる用途での使用に適した、流動性が向上したPPSU配合物となる。そのような用途の例としては、薄肉物品(例えば2.0mm未満、好ましくは1.5mm未満の厚さと、50超、好ましくは100超、より好ましくは150超の、全体の厚さに対する平均流動長の比率とを有する部分を有する物品)、紡糸、薄い成形物品(例えば0.05mm未満、好ましくは0.025mm未満)の溶融押出、ワイヤー用の絶縁もしくは保護コーティング、及び熱溶解積層による成形物品の付加製造が挙げられる。
【0017】
ポリフェニルスルホン(PPSU)
本明細書で使用される「ポリフェニルスルホン」は、繰り返し単位の少なくとも50%が式(I):
(式中、各Rは互いに同じであるか異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリもしくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリもしくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;各hは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数である)の繰り返し単位(RPPSU)である任意のポリマーを意味する。
【0018】
好ましくは、PPSU中の繰り返し単位の少なくとも60mol%、70mol%、80mol%、90mol%、95mol%、最も好ましくは少なくとも99mol%が、繰り返し単位(RPPSU)である。
【0019】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位(RPPSU)は、次式(Ia):
によって表され、式中のR及びhは上述した通りである。いくつかのそのような実施形態においては、各hはゼロである。
【0020】
PPSUは、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からRADEL(登録商標) PPSUとして入手可能である。
【0021】
ASTM D1238に従って5.0kgの荷重で365℃で測定されるPPSUのメルトフローレート(MFR)は、約5g/10分~約60g/10分、好ましくは約10g/10分~約40g/10分、最も好ましくは約14~約28g/10分の範囲である。
【0022】
溶媒としての塩化メチレン又はN-メチルピロリドン(NMP)のいずれかとポリスチレン分子量校正標準とを使用するゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるPPSUの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは20,000~80,000ダルトン、好ましくは30,000~70,000ダルトン、最も好ましくは40,000~60,000ダルトンの範囲である。
【0023】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、PEEK-PEDEKコポリマーとPSSUの合計重量を基準として、約60~約99重量%、好ましくは約60~約75重量%の範囲の量でPPSUを含有する。
【0024】
PEEK-PEDEKコポリマー
本明細書で使用される「PEEK-PEDEKコポリマー」は、
- 式(II):
の繰り返し単位(RPEEK)と;
- 式(III):
の繰り返し単位(RPEDEK)と、
を含むコポリマーを意味し、
式中、各R’は、互いに同じであるか異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリもしくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリもしくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;各iは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数であり、各jは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数である。
【0025】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位(RPEEK)は、式(IIa):
の単位から選択され、繰り返し単位(RPEDEK)は、式(IIIa):
の単位から選択され、式中のR’、i、及びiは上述した通りである。
【0026】
好ましくは、各iはゼロであり、好ましくは各jはゼロであり、最も好ましくは、i及びjのそれぞれがゼロであり、結果としてPEEK-PEDEKコポリマーは:
- 式(IIb):
の繰り返し単位(RPEEK);及び
- 式(IIIb):
の繰り返し単位(RPEDEK);
を含む。
【0027】
繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)は、合計で、PEEK-PEDEKコポリマーの繰り返し単位の少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも60mol%、70mol%、80mol%、90mol%、95mol%、最も好ましくは少なくとも99mol%を占める。
【0028】
繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)は、90/10~65/35、好ましくは80/20~70/30の範囲のモル比(RPEEK)/(RPEDEK)で、PEEK-PEDEKコポリマーの中に存在する。
【0029】
ポリスチレン校正標準を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されるPEEK-PEDEKコポリマーの重量平均分子量Mwは、好ましくは50,000~110,000ダルトン、より好ましくは60,000~100,000ダルトン、最も好ましくは70,000~90,000ダルトンの範囲である。好ましくは、PEEK-PEDEKコポリマーは、0.5×3.175mmの炭化タングステンダイを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される、少なくとも30Pa-s、好ましくは少なくとも50Pa-s、より好ましくは少なくとも80Pa-sの溶融粘度を示す。
【0030】
好ましくは、(PAEK-1)は、0.5×3.175mmの炭化タングステンダイを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される、最大550Pa、より好ましくは最大450Pa-s、最も好ましくは最大350Pa-sの溶融粘度を示す。
【0031】
ある実施形態では、ポリマー組成物は、PEEK-PEDEKコポリマーを、PEEK-PEDEKコポリマー及びポリフェニルスルホン(PPSU)の合計重量を基準として、約1~約40重量%、好ましくは約25~約40重量%の範囲の量で含有する。
【0032】
任意選択的な補強フィラー
ポリマー組成物は、任意選択的に繊維状又は粒子状のフィラーなどの補強フィラーも含有していてもよい。繊維状補強フィラーは、平均長さが幅と厚さの両方よりもかなり大きい、長さ、幅、及び厚さを有する材料である。好ましくは、そのような材料は、少なくとも5の、長さと最小の幅及び厚さとの間の平均比と定義される、アスペクト比を有する。好ましくは、補強繊維のアスペクト比は、少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、更により好ましくは少なくとも50である。粒子状フィラーは、最大5、好ましくは最大2のアスペクト比を有する。
【0033】
好ましくは、補強フィラーは、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの無機フィラー;ガラス繊維;炭素繊維、炭化ホウ素繊維;珪灰石;炭化ケイ素繊維;ホウ素繊維、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)等から選択される。最も好ましくは、補強フィラーは、ガラス繊維、好ましくはチョップドグラスファイバーである。
【0034】
補強フィラーの量は、ポリマー組成物の総重量を基準として、粒子状フィラーの場合には、1重量%~40重量%、好ましくは5重量%~35重量%、最も好ましくは10重量%~30重量%であり、繊維状フィラーの場合には、5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、最も好ましくは15重量%~30重量%の範囲であってもよい。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は繊維状のフィラーを含まない。あるいは、ポリマー組成物は、粒子状フィラーを含まなくてもよい。好ましくは、ポリマー組成物は、補強フィラーを含まない。
【0035】
任意選択的な添加剤
PPSU、PEEK-PEDEKコポリマー、及び任意選択的な補強フィラーに加えて、ポリマー組成物は、二酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、紫外光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤(有機リン酸塩及び亜ホスホン酸塩等)、酸捕捉剤、加工助剤、造核剤、潤滑剤、難燃剤、発煙抑制剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、及び導電性添加剤(カーボンブラック等)などの任意選択的な添加剤を更に含有していてもよい。
【0036】
1種以上の任意選択的な添加剤が存在する場合、これらの合計濃度は、好ましくはポリマー組成物の総重量を基準として、10重量%未満、5重量%未満、最も好ましくは2重量%未満である。
【0037】
ポリマー組成物の製造方法
典型的な実施形態は、PPSU、PEEK-PEDEKコポリマー、任意選択的な補強フィラー、及び任意選択的な添加剤を溶融混合することによる本明細書に記載のポリマー組成物の製造方法を含む。
【0038】
ポリマー組成物は、熱可塑性成形組成物の調製に好適な任意の公知の溶融混合方法によって調製することができる。そのような方法は、ポリマーをその融点より上まで加熱してポリマーの溶融混合物を形成することによって行われてもよい。いくつかの態様においては、ポリマー組成物を形成するための成分が、溶融混合装置へ同時に又は別々に供給され、装置の中で溶融混合される。適切な溶融混合装置は、例えば、ニーダー、バンバリー(Banbury)ミキサー、単軸押出機、及び二軸押出機である。
【0039】
ポリマー組成物を含む成形物品
典型的な実施形態は、上述のポリマー組成物を含む成形物品も含む。
【0040】
成形物品は、射出成形、押出成形、回転成形、又はブロー成形などの、任意の適切な溶融加工方法を使用してポリマー組成物から製造することができる。
【0041】
上述したように、ポリマー組成物は、幅広い用途で有用な物品の製造に非常に適している場合がある。例えば、ポリマー組成物の高流動性であり、靭性を有しており、耐薬品性である特性は、ポリマーを、携帯電子機器、3D印刷などの付加製造、航空機の内装、フードサービス用の食器及び蒸し皿、織布及び不織布用の繊維、並びに電線のコーティングにおける使用に特に好適なものにする。
【0042】
いくつかの実施形態においては、成形物品は、例えば携帯電子機器のハウジング又はフレームの構成要素などの構造構成要素である。携帯電子機器は、例えば無線又はモバイルネットワーク接続を介してデータをやりとり/データにアクセスしながら運ばれ様々な場所で使用されるデバイスである。携帯電子機器の代表的な例としては、携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン、タブレットコンピュータ、ラジオ、カメラ及びカメラアクセサリ、腕時計、計算機、音楽プレーヤー、GPS受信機、携帯型ゲーム機、ハードドライブ、並びに他の電子記憶装置等が挙げられる。
【0043】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0044】
例示的な実施形態を以降の非限定的な実施例で説明する。
【実施例
【0045】
材料
次のPPSUを実施例で使用した。
【0046】
Solvay Specialty Polymers USA,LLCから入手可能なRadel(登録商標) PPSU R-5100 NT。これは、5.0kgの荷重を使用して365℃でASTM D1238に従ってメルトインデックス装置を使用して測定される14~20g/10分の範囲のメルトフローレート(MFR)を有する中程度の粘度グレードのPPSUである。実施例で使用した具体的なロットは17.0/10分のMFRを有していた。
【0047】
実施例で使用したコポリマーは、化学量論量のヒドロキノンが部分的にビフェノール(4,4’-ジヒドロキシフェニル)で置換されたPEEKコポリマーであった。これらのコポリマーは「PEEK-PEDEKコポリマー」としても知られており、「PEDEK」は、ビフェノールと4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとの重縮合由来のポリマー繰り返し単位を表す。
【0048】
実施例で使用されるPEEK-PEDEKコポリマーは:
80/20のPEEK-PEDEKコポリマー(80mol%のPEEK、20mol%のPEDEK)、400C及び1000s-1でMV=203Pa-s;
75/25のPEEK-PEDEKコポリマー(75mol%のPEEK、25mol%のPEDEK)、400C及び1000s-1でMV=150Pa-s;並びに
70/30のPEEK-PEDEKコポリマー(70mol%のPEEK、30mo %のPEDEK)、400C及び1000s-1でMV=194Pa-s;
であった。
【0049】
配合物の調製
実施例及び比較例の組成は下の表1に示されている。全てのポリマーブレンド物は、最初に樹脂のペレットをタンブルブレンドすることでそれぞれの量で約20分間ブレンドし、その後溶融混錬することによって調製した。
【0050】
配合物の試験
機械的特性は、1)タイプIの引張試験片、2)5インチ×0.5インチ×0.125インチ(127mm×12.7mm×3.175mm)の曲げ試験片、及び3)計装化衝撃(Dynatup)試験のための4インチ×4インチ×0.125インチ(101.6mm×101.6mm×3.175mm)の試験板からなる、射出成形されたASTM試験片を使用して全ての配合物について試験した。以下のASTM試験方法を、全ての組成物の評価に用いた。
D638:引張特性
D790:曲げ特性
D256:Izod耐衝撃性(ノッチ付き)
D3763:耐計装化衝撃性(Dynatup衝撃)
【0051】
溶融レオロジー及び溶融加工性は、1)5kgの荷重を用いて365℃でASTM-D1238によって測定するメルトフローレート;2)Dynisco(登録商標) LCR7000キャピラリーレオメーターを使用するキャピラリーレオメトリー;の2つの方法で評価した。キャピラリーレオメトリーは、オリフィス長が15.240±0.025mmでありオリフィス径が1.016±0.008mmであるダイを用いて、ASTM D3835に従って、25~3500s-1のせん断速度範囲にわたって、380℃の温度を使用して行った。
【0052】
日焼け止めクリームに対する耐薬品性は、Bergenパラボラ可変歪み固定治具(これは応力が加えられたアセンブリを形成するために、プラスチック材料に印加される歪みを約ゼロから約2.0%まで変更した)に取り付けられたASTM D-246C(5インチ×0.5インチ×0.125インチ)(127mm×12.7mm×3.175mm)曲げ試験片にBanana Boat(登録商標)SPF30ブロード・スペクトラム日焼け止めクリームを塗布することによって試験した。本明細書で使用されるx%印加歪みは、ポリマー組成物の成形試料をx%伸ばすために必要とされる歪みである。例えば、成形試料の長さが1インチ(25.4mm)であった場合、2%印加歪みは、印加歪みの方向に1.02インチ(25.9mm)まで成形試料を伸ばすために必要とされる歪みを意味する。応力がかけられたアセンブリを、約72時間約65℃の温度及び約90%の相対湿度で湿度が制御された環境チャンバーの中でエージングした。その後、アセンブリをチャンバーから取り出し、歪み治具上に取り付けられたASTM曲げ試験片を、亀裂又はひび割れの全ての兆候について検査した。破損臨界歪みを、亀裂又はひび割れがその上に観察されたパラボラ固定具上の最低歪みレベルとして記録した。
【0053】
PPSUの機械的特性、耐薬品性、及び流動特性に対するPEEK-PEDEKコポリマーの添加の影響は下の表1に示されている。
【0054】
【0055】
表1のデータから示されるように、少量のPEEK-PEDEKコポリマーの添加であっても、溶融流動性及び溶融粘度が大幅に改善された。更に、流動性の向上は、ポリマーの機械的靭性と溶融流動特性との間の周知のポリマーのトレードオフにおける通常の場合のような靭性の低下を犠牲にしての達成ではなかった。
【0056】
PEEK-PEDEKで修飾されたPPSU組成物(実施例E1~E6)の溶融流動性は、未修飾のPPSU(実施例C1)と比較して大きく向上した流動性と減少した溶融粘度を示した。実際、MFRは、PPSU(実施例C1)のMFRと比較して少なくとも63%(実施例E3)、そして139%も(実施例E5)増加した。低いせん断速度での溶融粘度は、PPSU(実施例C1)の溶融粘度と比較して最も優れた場合(実施例E5)で約40%低下した。
【0057】
驚くべきことには、PEEK-PEDEKコポリマーの添加はPPSUの機械的特性を全く損なわなかった。最も注目すべきことには、PEEK-PEDEKコポリマーを添加すると、靭性及び耐衝撃特性が実際に改善した。実施例の組成物のノッチ付きIzod衝撃は、比較例C1の無希釈のPPSUのノッチ付きIzod耐衝撃性よりも約25%~約50%大きかった。
【0058】
最後に、実施例E1~E6の組成物の環境応力亀裂抵抗(ESCR)試験では、2.0%の最大印加歪みまで影響が示されなかった。これは、比較例1の無希釈のPPSUについて観察された結果と同じであった。予期しなかったことには、比較的低いESCR性能を有しているPEEK-PEDEKコポリマー(比較例C2~C4)を40重量%も添加したにもかかわらず、流動性の向上の結果として、PPSUのこの重要な性能属性の低下は観察されなかった。