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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】有機EL表示素子用封止剤
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/844 20230101AFI20240430BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240430BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240430BHJP
   C08G 65/14 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K50/10
H10K59/10
C08G65/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019521494
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016108
(87)【国際公開番号】W WO2019203180
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018081443
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 康雄
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特許第6228289(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/007219(WO,A1)
【文献】特開2017-226740(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167347(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/078006(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/052007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H10K 50/10
H10K 59/10
C08G 65/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂と熱カチオン重合開始剤とを含有し、
前記硬化性樹脂は、脂環式エポキシ化合物とオキセタン化合物とを含有し、
前記熱カチオン重合開始剤は、対アニオンがボレート系である第4級アンモニウム塩であり、
前記熱カチオン重合開始剤の含有量は、前記硬化性樹脂100重量部に対して1.5重量部以上5重量部以下であり、
安定剤としてアミン系化合物を更に含有し、
示差走査熱量測定において40℃/分の昇温速度で昇温し、100℃で保持した際の100℃で保持してから発熱ピークの立ち上がりまでの時間が3分以下であり、かつ、
40℃、22.5%RHの環境下で4日間保存した後の増粘率が20%以下である
ことを特徴とする有機EL表示素子用封止剤。
【請求項2】
前記脂環式エポキシ化合物は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートを含む請求項1記載の有機EL表示素子用封止剤。
【請求項3】
前記オキセタン化合物は、4,4’-ビス((3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル)ビフェニル及び3-エチル-3-(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタンの少なくともいずれかを含む請求項1又は2記載の有機EL表示素子用封止剤。
【請求項4】
前記脂環式エポキシ化合物と前記オキセタン化合物との合計中における前記脂環式エポキシ化合物の含有割合が20重量%以上80重量%以下である請求項1、2又は3記載の有機EL表示素子用封止剤。
【請求項5】
前記脂環式エポキシ化合物と前記オキセタン化合物との合計中における前記脂環式エポキシ化合物の含有割合が30重量%以上70重量%以下である請求項1、2又は3記載の有機EL表示素子用封止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布性、速硬化性、低アウトガス性、及び、保存安定性に優れ、かつ、表示性能に優れる有機EL表示素子を得ることができる有機EL表示素子用封止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス表示素子(有機EL表示素子)は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された薄膜構造体を有する。この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して自己発光を行う。バックライトを必要とする液晶表示素子等と比較して視認性がよく、より薄型化が可能であり、かつ、直流低電圧駆動が可能であるという利点を有する。
【0003】
ところが、このような有機EL表示素子は、有機発光材料層や電極が外気に曝されるとその発光特性が急激に劣化し寿命が短くなるという問題がある。従って、有機EL表示素子の安定性及び耐久性を高めることを目的として、有機EL表示素子においては、有機発光材料層や電極を大気中の水分や酸素から遮断する封止技術が不可欠となっている。
【0004】
特許文献1には、有機発光材料層を有する積層体を被覆して封止する面内封止剤からなる有機充填層と、水分吸収剤を含有する周辺封止剤からなり、該有機充填層の側面を覆う吸湿シール層とを有する構成により、有機EL表示素子を封止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-67598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の有機EL表示素子用封止剤を用いて有機EL表示素子を封止した場合、得られる有機EL表示素子にダークスポット等の表示不良が生じることがあるという問題があった。
本発明は、塗布性、速硬化性、低アウトガス性、及び、保存安定性に優れ、かつ、表示性能に優れる有機EL表示素子を得ることができる有機EL表示素子用封止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、硬化性樹脂と熱カチオン重合開始剤とを含有し、上記硬化性樹脂は、脂環式エポキシ化合物とオキセタン化合物とを含有し、示差走査熱量測定において40℃/分の昇温速度で昇温し、100℃で保持した際の100℃で保持してから発熱ピークの立ち上がりまでの時間が3分以下であり、かつ、40℃、22.5%RHの環境下で4日間保存した後の増粘率が20%以下である有機EL表示素子用封止剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、有機EL表示素子にダークスポット等の表示不良が生じる原因が、用いた封止剤がアウトガスを発生させているためであると考え、低アウトガス性に優れる材料からなる有機EL表示素子用封止剤を用いて有機EL表示素子の封止を行うことを検討した。しかしながら、低アウトガス性に優れる封止剤を用いた場合であっても、得られる有機EL表示素子にダークスポット等の表示不良が生じることがあった。本発明者は、アウトガスの発生以外に、面内封止剤として用いた有機EL表示素子用封止剤が、硬化させる際等の加熱時に低粘度化することで有機発光材料層を有する積層体にしみ込んでいることも有機EL表示素子の表示不良の原因となっていると考えた。そこで本発明者は、有機EL表示素子用封止剤の速硬化性を向上させて該積層体へのしみ込みを防止するために、封止剤に用いる硬化性樹脂及び熱重合開始剤として低アウトガス性だけでなく反応性にも優れるものを用いることを検討した。しかしながら、得られた封止剤は、増粘しやすく保存安定性に劣るという問題があった。そこで本発明者は、硬化性樹脂として脂環式エポキシ化合物とオキセタン化合物とを組み合わせて用い、更に、封止剤の示差走査熱量測定をした際の発熱ピークの立ち上がりまでの時間と、40℃、22.5%RHの環境下で4日間保存した後の増粘率とをそれぞれ特定値以下に調整することを検討した。その結果、塗布性、速硬化性、低アウトガス性、及び、保存安定性の全てに優れる有機EL表示素子用封止剤を得ることができ、該有機EL表示素子用封止剤を用いることで表示性能に優れる有機EL表示素子を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、示差走査熱量測定において40℃/分の昇温速度で昇温し、100℃で保持した際の100℃で保持してから発熱ピークの立ち上がりまでの時間(以下、「硬化開始時間」ともいう)が3分以下である。上記硬化開始時間が3分以下であることにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、速硬化性に優れ、得られる有機EL表示素子が表示性能に優れるものとなる。上記硬化開始時間は2.5分以下であることが好ましく、2分以下であることがより好ましい。
なお、上記示差走査熱量測定は、アルミパンに入れた封止剤10mgについて、25℃、50%RHの環境下で、示差走査熱量計を用いて、昇温速度40℃/分、保持温度100℃の測定条件で測定することができる。上記示差走査熱量計としては、例えば、Thermo plusDSC 8230(Rigaku社製)等が挙げられる。
【0010】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、40℃、22.5%RHの環境下で4日間保存した後の増粘率が20%以下である。上記増粘率が20%以下であることにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、長期に亘って安定して使用することができるものとなる。上記増粘率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、0%であることが最も好ましい。
なお、本明細書において上記「増粘率」は、製造直後(保存前)の粘度をA、40℃、22.5%RHの環境下で4日間保存した後の粘度をBとしたとき、下記式により算出される値である。
増粘率(%)=((B-A)÷A)×100
また、本明細書において上記「粘度」は、E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定される値を意味する。上記E型粘度計としては、例えば、VISCOMETER TV-22(東機産業社製)等が挙げられ、CP1のコーンプレートを用いることができる。
【0011】
上記硬化開始時間及び上記増粘率は、後述する、硬化性樹脂、熱カチオン重合開始剤、及び、安定剤等のその他の成分について、これらの種類の選択及び含有割合の調整により、上述した範囲とすることができる。
【0012】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、硬化性樹脂を含有する。
上記硬化性樹脂は、脂環式エポキシ化合物とオキセタン化合物とを含有する。上記脂環式エポキシ化合物及び上記オキセタン化合物は、それぞれを単独で用いた場合には、得られる有機EL表示素子用封止剤が速硬化性等に劣るものとなるものであっても、これらを組み合わせて用いることにより、上記硬化開始時間及び上記増粘率を上述した範囲とすることが容易となる。
【0013】
上記脂環式エポキシ化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、1,2:8,9-ジエポキシリモネン、4-ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、3,4,3’,4’-ジエポキビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンジオキサイド等が挙げられる。なかでも、後述するオキセタン化合物と組み合わせて用いることで得られる有機EL表示素子用封止剤の硬化開始時間及び増粘率を調整することがより容易となることから、上記脂環式エポキシ化合物は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
なお、本明細書において上記「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0014】
上記オキセタン化合物としては、例えば、4,4’-ビス((3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル)ビフェニル、3-エチル-3-(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン、フェノキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-((2-エチルヘキシルオキシ)メチル)オキセタン、3-エチル-3-((3-(トリエトキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン、1,4-ビス(((3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ)メチル)ベンゼン等が挙げられる。なかでも、上記脂環式エポキシ化合物と組み合わせて用いることで得られる有機EL表示素子用封止剤の粘度、硬化開始時間、及び、増粘率を調整することがより容易となることから、上記オキセタン化合物は、4,4’-ビス((3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル)ビフェニル及び3-エチル-3-(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタンの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0015】
上記脂環式エポキシ化合物と上記オキセタン化合物との合計中における上記脂環式エポキシ化合物の含有割合の好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%である。上記脂環式エポキシ化合物の含有割合がこの範囲であることにより、得られる有機EL表示素子用封止剤の粘度、硬化開始時間、及び、増粘率を調整することがより容易となる。上記脂環式エポキシ化合物の含有割合のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0016】
上記硬化性樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で、粘度調整等の目的で他の硬化性樹脂を含有してもよい。
上記他の硬化性樹脂としては、例えば、上記脂環式エポキシ化合物以外のその他のエポキシ化合物や、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
上記その他のエポキシ化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記ビニルエーテル化合物としては、例えば、ベンジルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、ジシクロペンタジエンビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。
【0017】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、熱カチオン重合開始剤を含有する。
上記熱カチオン重合開始剤としては、アニオン部分(対アニオン)がBF 、PF 、SbF 、又は、(BX(但し、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)である、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、得られる有機EL表示素子用封止剤の硬化開始時間及び増粘率を調整することがより容易となり、かつ、低アウトガス性に優れることから、対アニオンがボレート系である第4級アンモニウム塩(以下、「ボレート系第4級アンモニウム塩」ともいう)が好ましい。上記ボレート系第4級アンモニウム塩の対アニオンは、BF 又は(BXであることが好ましい。
【0018】
上記スルホニウム塩としては、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0019】
上記ホスホニウム塩としては、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0020】
上記アンモニウム塩としては、例えば、ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート、ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルフェニル(4-メチルベンジル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート、ジメチルフェニル(4-メチルベンジル)アンモニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジメチルフェニル(4-メチルベンジル)アンモニウムヘキサフルオロテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、メチルフェニルジベンジルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルフェニルジベンジルアンモニウムヘキサフルオロアンチモネート、メチルフェニルジベンジルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリベンジルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルフェニル(3,4-ジメチルベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチル-N-ベンジルアニリニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N-ジエチル-N-ベンジルアニリニウムテトラフルオロボレート、N,N-ジメチル-N-ベンジルピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N-ジエチル-N-ベンジルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。なかでも、得られる有機EL表示素子用封止剤の硬化開始時間及び増粘率を調整することが更に容易となり、かつ、低アウトガス性に優れることから、ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0021】
上記熱カチオン重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、三新化学工業社製の熱カチオン重合開始剤、King Industries社製の熱カチオン重合開始剤等が挙げられる。
上記三新化学工業社製の熱カチオン重合開始剤としては、例えば、サンエイドSI-60、サンエイドSI-80、サンエイドSI-B3、サンエイドSI-B3A、サンエイドSI-B4等が挙げられる。
上記King Industries社製の熱カチオン重合開始剤としては、例えば、CXC1612、CXC1821等が挙げられる。
【0022】
上記熱カチオン重合開始剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が10重量部である。上記熱カチオン重合開始剤の含有量がこの範囲であることにより、得られる有機EL表示素子用封止剤が速硬化性及び保存安定性により優れるものとなる。上記熱カチオン重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0023】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で熱硬化剤を含有してもよい。熱硬化剤としては、例えば、ヒドラジド化合物、イミダゾール誘導体、酸無水物、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、変性脂肪族ポリアミン、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。
【0024】
上記ヒドラジド化合物としては、例えば、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
上記イミダゾール誘導体としては、例えば、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、N-(2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル)尿素、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、N,N’-ビス(2-メチル-1-イミダゾリルエチル)尿素、N,N’-(2-メチル-1-イミダゾリルエチル)-アジポアミド、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
上記酸無水物としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等が挙げられる。
これらの熱硬化剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記熱硬化剤のうち市販されているものとしては、例えば、大塚化学社製の熱硬化剤、味の素ファインテクノ社製の熱硬化剤等が挙げられる。
上記大塚化学社製の熱硬化剤としては、例えば、SDH、ADH等が挙げられる。
上記味の素ファインテクノ社製の熱硬化剤としては、例えば、アミキュアVDH、アミキュアVDH-J、アミキュアUDH等が挙げられる。
【0026】
上記熱硬化剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.5重量部、好ましい上限が30重量部である。上記熱硬化剤の含有量がこの範囲であることにより、得られる有機EL表示素子用封止剤用封止剤が優れた保存安定性を維持したまま、熱硬化性により優れるものとなる。上記熱硬化剤の含有量のより好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0027】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、安定剤を含有することが好ましい。上記安定剤を含有することにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、より保存安定性に優れるものとなる。
【0028】
上記安定剤としては、例えば、ベンジルアミン等のアミン系化合物やアミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0029】
上記安定剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.001重量部、好ましい上限が2重量部である。上記安定剤の含有量がこの範囲であることにより、得られる有機EL表示素子用封止剤が優れた速硬化性を維持したまま保存安定性により優れるものとなる。上記安定剤の含有量のより好ましい下限は0.005重量部、より好ましい上限は1重量部である。
【0030】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、シランカップリング剤を含有してもよい。上記シランカップリング剤は、本発明の有機EL表示素子用封止剤と基板等との接着性を向上させる役割を有する。
【0031】
上記シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記シランカップリング剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記シランカップリング剤の含有量がこの範囲であることにより、余剰のシランカップリング剤のブリードアウトを防止しつつ、得られる有機EL表示素子用封止剤の接着性を向上させる効果により優れるものとなる。上記シランカップリング剤の含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0033】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において、表面改質剤を含有してもよい。上記表面改質剤を含有することにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤の塗膜の平坦性を向上させることができる。
上記表面改質剤としては、例えば、界面活性剤やレベリング剤等が挙げられる。
【0034】
上記表面改質剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、フッ素系等のものが挙げられる。
上記表面改質剤のうち市販されているものとしては、例えば、BYK-300、BYK-302、BYK-331(いずれも、ビックケミー・ジャパン社製)、UVX-272(楠本化成社製)、サーフロンS-611(AGCセイミケミカル社製)等が挙げられる。
【0035】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、素子電極の耐久性を向上させるために、有機EL表示素子用封止剤中に発生した酸と反応する化合物又はイオン交換樹脂を含有してもよい。
【0036】
上記発生した酸と反応する化合物としては、酸と中和する物質、例えば、アルカリ金属の炭酸塩若しくは炭酸水素塩、又は、アルカリ土類金属の炭酸塩若しくは炭酸水素塩等が挙げられる。具体的には例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が用いられる。
【0037】
上記イオン交換樹脂としては、陽イオン交換型、陰イオン交換型、両イオン交換型のいずれも使用することができるが、特に塩化物イオンを吸着することのできる陽イオン交換型又は両イオン交換型が好適である。
【0038】
また、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、硬化遅延剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知の各種添加剤を含有してもよい。
【0039】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、アウトガスの発生を抑制する観点から、溶剤を含有しないことが好ましい。本発明の有機EL表示素子用封止剤は、該溶剤を含有しなくても、塗布性に優れるものとすることが容易である。
【0040】
本発明の有機EL表示素子用封止剤を製造する方法としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、硬化性樹脂と、熱カチオン重合開始剤と、必要に応じて添加する安定剤やシランカップリング剤等の添加剤とを混合する方法等が挙げられる。
【0041】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、E型粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件で測定した粘度の好ましい下限が10mPa・s、好ましい上限が500mPa・sである。上記粘度がこの範囲であることにより、得られる有機EL表示素子用封止剤が塗布性に優れ、有機EL表示素子の面内封止剤として特に好適なものとなる。上記粘度のより好ましい下限は30mPa・s、より好ましい上限は250mPa・sである。
【0042】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、有機発光材料層を有する積層体を被覆して封止する面内封止剤として特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、塗布性、速硬化性、低アウトガス性、及び、保存安定性に優れ、かつ、表示性能に優れる有機EL表示素子を得ることができる有機EL表示素子用封止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0045】
(実施例1~8、比較例1~9)
表1、2に記載された配合比に従い、各材料を、撹拌混合機(シンキー社製、「AR-250」)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、実施例1~8、比較例1~9の有機EL表示素子用封止剤を作製した。
得られた有機EL表示素子用封止剤10mgをアルミパンに入れ、25℃、50%RHの環境下で、示差走査熱量計(Rigaku社製、「Therom plus DSC 8230」)を用いて、昇温速度40℃/分、保持温度100℃の測定条件で示差走査熱量測定を行った。100℃で保持してから発熱ピークの立ち上がりまでの時間(硬化開始時間)を表1、2に示した。
また、得られた有機EL表示素子用封止剤について、製造直後(保存前)の粘度と、40℃、22.5%RHの環境下で4日間保存した後の粘度とを測定し、上述した式から増粘率を算出した。結果を表1、2に示した。なお、ゲル化していたものについては、粘度の値に代えて「ゲル」と記載した。粘度の測定は、E型粘度計(東機産業社製、「VISCOMETER TV-22」)を用い、CP1型のコーンプレートにて、25℃、20rpmの条件で行った。
【0046】
<評価>
実施例及び比較例で得られた各有機EL表示素子用封止剤について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0047】
(1)塗布性
ピペットを用いて実施例及び比較例で得られた各有機EL表示素子用封止剤0.1mLをガラス基板上に塗布し、1分後に広がった直径を測定した。直径が15mm以上であった場合を「○」、10mm以上15mm未満であった場合を「△」、10mm未満であった場合を「×」として、塗布性を評価した。
【0048】
(2)低アウトガス性
実施例及び比較例で得られた各有機EL表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させた。更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて測定した。気化成分量が50ppm未満であった場合を「○」、50ppm以上100ppm未満であった場合を「△」、100ppm以上であった場合を「×」として低アウトガス性を評価した。
【0049】
(3)有機EL表示素子の表示性能
(有機発光材料層を有する積層体が配置された基板の作製)
ガラス基板(長さ45mm、幅45mm、厚さ0.7mm)にITO電極を1000Åの厚さで成膜したものを基板とした。上記基板をアセトン、アルカリ水溶液、イオン交換水、イソプロピルアルコールにてそれぞれ15分間超音波洗浄した後、煮沸させたイソプロピルアルコールにて10分間洗浄し、更に、UV-オゾンクリーナ(日本レーザー電子社製、「NL-UV253」)にて直前処理を行った。
次に、この基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、素焼きの坩堝にN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(α-NPD)を200mg、他の異なる素焼き坩堝にトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)を200mg入れ、真空チャンバー内を、1×10-4Paまで減圧した。その後、α-NPDの入った坩堝を加熱し、α-NPDを蒸着速度15Å/sで基板に堆積させ、膜厚600Åの正孔輸送層を成膜した。次いで、Alqの入った坩堝を加熱し、15Å/sの蒸着速度で膜厚600Åの有機発光材料層を成膜した。その後、正孔輸送層及び有機発光材料層が形成された基板を別の真空蒸着装置に移し、この真空蒸着装置内のタングステン製抵抗加熱ボートにフッ化リチウム200mgを、別のタングステン製ボートにアルミニウム線1.0gを入れた。その後、真空蒸着装置の蒸着器内を2×10-4Paまで減圧してフッ化リチウムを0.2Å/sの蒸着速度で5Å成膜した後、アルミニウムを20Å/sの速度で1000Å成膜した。窒素により蒸着器内を常圧に戻し、10mm×10mmの有機発光材料層を有する積層体が配置された基板を取り出した。
【0050】
(有機EL表示素子の作製)
積層体が配置された基板の外周に、周辺封止剤としてE-W207(積水化学工業社製)を線幅が6mmとなるよう塗布し、その内側に面内封止剤として実施例及び比較例で得られた各有機EL表示素子用封止剤を、積層体全体を覆うように塗布した後、別のガラス基板(長さ45mm、幅45mm、厚さ0.7mm)を重ね合わせた。その後、3000mJ/cmの紫外線を照射し、更に100℃で30分加熱することで面内封止剤及び周辺封止剤を硬化させて有機EL表示素子を作製した。
【0051】
(有機EL表示素子の発光状態)
得られた有機EL表示素子を、85℃、85%RHの環境下に1000時間暴露した後、10Vの電圧を印加し、有機EL表示素子の発光状態(ダークスポット及び画素周辺消光の有無)を目視で観察した。ダークスポットや周辺消光が無く均一に発光した場合を「○」、僅かにダークスポットや周辺消光が認められた場合を「△」、非発光部が著しく拡大した場合を「×」として有機EL表示素子の表示性能を評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、塗布性、速硬化性、低アウトガス性、及び、保存安定性に優れ、かつ、表示性能に優れる有機EL表示素子を得ることができる有機EL表示素子用封止剤を提供することができる。