(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】高分散二酸化ケイ素を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
(21)【出願番号】P 2019571723
(86)(22)【出願日】2017-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2017067720
(87)【国際公開番号】W WO2019011435
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2019-12-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル、ソフィン
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-501510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B33/00-33/193
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉化二酸化ケイ素の製造方法であって、
-炭素を含有する少なくとも1つのケイ素化合物と、炭素を含有しない少なくとも1つのケイ素化合物との少なくとも2つのケイ素化合物の混合物をSi源として使用し、
-燃料ガスを供給し、
-酸素含有源を供給し、
-前記ケイ素化合物と、前記燃料ガスと、前記酸素含有源とを含有するこの混合物のC/Siモル比が、10/BET~35/BETであり、および
この混合物のモルH/Cl比が、0.45+(BET/600)~0.95+(BET/600)であり、
BETは、BET法(DIN ISO9277
に準拠)によって測定した、製造
される熱分解法二酸化ケイ素の比表面積であり、
-この混合物を主流として反応空間中へ導入し、強熱し、それを反応させ、ならびに
-得られた固体を単離すること、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
使用される前記炭素含有ケイ素化合物が、メチルトリクロロシラン(MTCS)、メチルジクロロシラン(MDCS)、またはMTCSとMDCSとの混合物を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される前記炭素非含有ケイ素化合物が、四塩化ケイ素(STC)、トリクロロシラン(TCS)、ジクロロシラン(DCS)、または前記化合物のうち少なくとも2つの混合物を含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
使用される前記Si源が、少なくとも3種のケイ素化合物の混合物を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
利用した前記Si源が、四塩化ケイ素、トリクロロシラン、ジクロロシラン、およびメチルトリクロロシランを含んでなる混合物を含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
使用される前記燃料ガスが、水素を含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
使用される前記酸素含有源が、空気を含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
火炎が、二次ガスによって包囲されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
使用される前記二次ガスが、空気を含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記主流に対する二次ガスの体積比が、0.01~0.4である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記二次ガスの流速と前記主流の流速との比率が、0.1~0.8である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応空間への導入における前記二次ガスが、前記主流の温度まで加熱されている、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
得られる単離された固体が、高温ガスで処理される、請求項1~12のいずれか一項以上に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、微粉化二酸化ケイ素を製造するための方法であって、
-炭素を含有する少なくとも1つのケイ素化合物と、炭素を含有しない少なくとも1つのケイ素化合物との少なくとも2つのケイ素化合物の混合物をSi源として使用し、
-燃料ガスを供給し、
-酸素含有源を供給し、
-ケイ素化合物と、燃料ガスと、酸素含有源とを含有するこの混合物のC/Siモル比が、10/BET~35/BETであり、および
この混合物のモルH/Cl比が、0.45+(BET/600)~0.95+(BET/600)であり、
BETは、BET法(DIN ISO9277に準拠)によって測定した、製造される熱分解法二酸化ケイ素の比表面積であり、
-この混合物を主流として反応空間中へ導入し、強熱し、それを反応させ、ならびに
-得られた固体を単離すること、
を含んでなる、方法である。
【背景技術】
【0002】
火炎反応によって(熱分解法によって)生産される微粉化(高分散)二酸化ケイ素もまた、「ヒュームドシリカ」という用語を使用して称され、既に数十年間工業的に製造されている。この方法は、例えば、独国特許出願公開第2620737号または欧州特許出願公開第0790213号に記載されている。製造は、二酸化ケイ素を得るために、1個以上の揮発性のシリコン含有化合物が、加水分解および/または酸化を介して反応する火炎プロセスで行われる。この方法では、水生成燃料(通常、H2)および酸素含有ガス(通常、空気)を燃焼させて形成した火炎中に、シリコンを含有する揮発性化合物またはガス状化合物を供給する。反応後、反応生成物を冷却し、反応の残留ガス(ガス状の反応生成物および未消費の出発物質からなる)中に混入した二酸化ケイ素粉末を単離する。必要に応じて、得られた粉末状の微細に分割された生成物は、その表面上に吸着されたHClを除去することで続いて脱酸される。
【0003】
得られた二酸化ケイ素は、凝集体サイズが1μm未満の非常に微細な粉末を構成する。5~600m2/gであり得る高比表面積は、最も重要な物理的性質の1つと考えられる。N2吸着により通例測定して、DIN ISO9277に準拠する、Brunauer,Emmet,Teller法(BETとして知られる)に従って、吸着等温線を評価する。
少ない割合(0.1%未満)ではあるが工業的に製造される発熱性シリカはまた、多くの用途において、非常に低いレベルでも分裂的であるより粗い粒子(ほとんどの場合において、これは同様にSiO2であるが、粗く焼結された形態である)も含む。例えば、しばしば記載される1つの問題は、シリカが化学機械研磨および化学機械平坦化用途に使用される際のスクラッチによる欠陥である。コーティング材料、樹脂、およびシリコーンに使用される場合、このより粗い画分は、表面の加工性(特に、ろ過性)、透明性、および外観を目に見えて損なうことがある。ヒュームドシリカ中に存在する粗粒材料はしばしば、「グリット(grit)」とも呼ばれ、DIN EN ISO787-18に記載されている測定方法によって慣例的に測定される。この測定法は、特定のフィルタープロセス後、ふるいによって保持される粒子の質量分率を決定する。本発明では、40μmのメッシュサイズのフィルターを用いてグリットを測定した。
【0004】
文献には、ヒュームドシリカの製造における出発物質として役立ち得る多数のシリコン含有化合物が記載されている。例えば、特許出願である、欧州特許第1681265号、同第1681266号、同第1693343号、および同第1686093号は、次の数多くの好適な代表を含む:四塩化ケイ素、トリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン。四塩化ケイ素(STC、SiCl4)、トリクロロシラン(TCS、SiCl3H)、ジクロロシラン(DCS、SiCl2H2)、メチルトリクロロシラン(MTCS、CH3SiCl3)、およびプロピルトリクロロシラン(PTCS、C3H7SiCl3)について、これらの明細書はまた、微粉化二酸化ケイ素の具体的な製造例も示している。
【0005】
独国特許出願公開第19605672号はまた、一般式RnCl3-nSi-SiRmCl3-m(式中、Rは、水素または脂肪族もしくは芳香族炭化水素基であり、nおよびmは、0~3の整数である)を有するオルガノシラン化合物の使用も開示している。
【0006】
しかしながら、商業的生産は、主に四塩化ケイ素(STC)およびメチルトリクロロシラン(MTCS)を使用する。その理由は、第1に、原料の容易な入手性および低コスト、第2に、得られた製品の高品質性である。
【0007】
ヒュームドシリカはSTCから最も頻繁に製造され、これは一般に、Siと、HClとの反応(Si+4HCl=SiCl4+2H2)によって得られる。しかしながら、この反応の過程で、特にかなりの量のTCSといった副生成物もまた形成されることがある。他の可能性のある副生成物は、高沸点溶剤(例えば、ヘキサクロロジシラン、ペンタクロロジシランなどの高温で沸騰するポリクロロシラン)と呼ばれるものを含む。さらに、粗シリコン中に存在する多くの不純物(例えば、ホウ素またはアルミニウム)は、HClと反応して塩化物を形成し、これは次いでクロロシラン中に存在し、その結果、ヒュームドシリカ中にも存在する。粗シリコンとHClとの反応による上述の副生性物および不純物は、ヒュームドシリカを生成する操作を攪乱させ、および/または製品品質に悪影響を及ぼす。これらの理由のために、この経路で得られたSTCは、火炎反応においてヒュームドシリカを得る反応の前に苦労して精製されなければならず、これによって、この原料のコストは目に見えて増加する。
【0008】
四塩化ケイ素の別の供給源は、高純度ポリシリコンの調製であり、その場合、STCは副生性物としてかなりの量で生成される。しかしながら、この副生性物には一般に、TCS、DCS、およびMCS(モノクロロシラン、SiClH3)といった低沸点クロロシランが知覚可能な量で含まれる。まず、これらのクロロシランは反応性が高く、火炎プロセスをかなり攪乱させる。例えば、それらがフラッシュバックを引き起こすことで、プラントの故障、および生産の損失につながる可能性がある。さらに、これらの物質は、大部分の用途において望ましくない粗粒二酸化ケイ素粒子の形成を促進する。
【0009】
ヒュームドシリカの製造に最も重要な第2の出発物質は、メチルトリクロロシランである。この化合物は、ジメチルジクロロシラン(DMDCS、Si(CH3)2Cl2)の合成を特に目的とする、Mueler-Rochow法によるメチルクロロシランの合成において形成される。DMDCSはシリコーン製造の主原料として用いられる。MTCSは、この反応の過剰な副生性物として好ましい条件で入手できるが、発熱性二酸化ケイ素の生成には著しい欠点を示す。メチル基の酸化は多量のエネルギーを放出するので、MTCSの化学量論的反応は、非常に高い火炎温度を生じ、したがって許容できない生成物特性を生じる。これに対抗するために、MTCSを使用する場合の工業における実施とは、エネルギー源を希釈することで火炎温度を要求された範囲内にするために、反応に大量の追加の空気を加えることである。換言すると、非常に大量の空気を加えることで火炎が大幅に希釈される。この希釈は、生産プラントの時空収率を著しく低下させ、MTCSからヒュームドシリカを製造する経済性を損なう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、好ましいケイ素化合物を含んでなる混合物から、火炎反応で微粉化した二酸化ケイ素を製造するための経済的方法を提供することであって、該方法は、いかなる操作上の障害も伴わずに高品質の製品をもたらす。本発明に関連して好ましいケイ素化合物は、価格の点で好ましく、すなわち、安価であり、および/またはプロセス工学の観点で好ましく、例えば、別の方法における副生性物(例えば、望ましくない副生性物または「廃棄物」)として得られるかのいずれかによって、同定可能である。換言すれば、全体として経済的な観点からすれば好ましいものである。
【0011】
本目的は、本発明の微粉化二酸化ケイ素の製造方法であって、
-炭素を含有する少なくとも1つのケイ素化合物と、炭素を含有しない少なくとも1つのケイ素化合物との少なくとも2つのケイ素化合物の混合物をSi源として使用し、
-燃料ガスを供給し、
-酸素含有源を供給し、
-ケイ素化合物と、燃料ガスと、酸素含有源とを含有するこの混合物のC/Siモル比が、10/BET~35/BETであり、および
この混合物のモルH/Cl比が、0.45+(BET/600)~0.95+(BET/600)であり、
BETは、BET法(DIN ISO9277に準拠)によって測定した、製造される熱分解法二酸化ケイ素の比表面積であり、
-この混合物を主流として反応空間中へ導入し、強熱し、それを反応させ、ならびに
-得られた固体を単離すること、
ろ特徴とする方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
微粉化二酸化ケイ素はシリコン含有化合物から製造されるので、これはSi原子の供給源を表し、Si源と呼ばれる。本発明によれば、炭素を含有する少なくとも1つのケイ素化合物と、炭素を含有しない少なくとも1つのケイ素化合物(Si化合物)とを含んでなる、少なくとも2つのケイ素化合物の混合物が使用される。
【0013】
使用される炭素含有Si化合物は、メチルトリクロロシラン(MTCS)、メチルジクロロシラン(MDCS)、またはMTCSとMDCSとの混合物が好ましい。
【0014】
使用される炭素を含まないSi化合物としては、四塩化ケイ素(STC)、トリクロロシラン(TCS)、ジクロロシラン(DCS)、または該化合物のうち少なくとも2つの混合物が好ましい。該化合物のうちの少なくとも2つの混合物とは、その混合物が、STC、TCS、およびDCSからなる群から選択される、少なくとも2つの化合物を含んでなることを意味する。
特に、少なくとも3種のケイ素化合物の混合物を、Si源として使用することが好ましい。
【0015】
Si源として用いるのに特に好ましいのは、四塩化ケイ素(STC)、トリクロロシラン(TCS)、ジクロロシラン(DCS)、およびメチルトリクロロシラン(MTCS)を含んでなる混合物である。
【0016】
本発明によれば、本方法は、H原子および随意にC原子の源としても機能するような、燃料ガスまたは燃料ガス混合物の存在下において行われる。使用される好ましい燃料ガスは、水素、メタン、天然ガス、エタン、プロパン、および/もしくは他のガス状炭化水素、またはこれらの混合物である。燃料ガスとして特に好ましいのは水素である。
【0017】
本発明によれば、一方では必要とされる温度を達成するために燃料ガスと共に働き、他方ではO原子の供給源であるような方法のために、酸素含有源が供給される。酸素含有源としての使用には、酸素、空気、またはこれらの混合物が好ましい。酸素含有源としての使用に特に好ましいのは空気である。本発明の目的に関して、この空気はまた、一次空気(PL)とも呼ばれる。
【0018】
本発明によれば、ケイ素化合物、燃料ガス、および酸素含有源を含んでなる混合物は、主流と称される。
【0019】
本発明によれば、主流のケイ素原子当たりの炭素原子のモル比(C/Si比)は、10/BET~35/BETであり、ここで、BETは、BET法(DIN ISO9277に準拠)により測定した、製造中の微粉化二酸化ケイ素の比表面積である。
【0020】
本発明によれば、主流の塩素原子当たりの水素原子のモル比(H/Cl比)は、0.45+(BET/600)~0.95+(BET/600)であり、ここで、BETは、BET法(DIN ISO9277に準拠)により測定した、製造中の微粉化二酸化ケイ素の比表面積である。
【0021】
ケイ素原子当たりの炭素原子のモル比、および塩素原子当たりの水素原子のモル比は、それぞれ、主流に使用される全化合物中に存在する炭素原子または水素原子の量を、主流の全化合物中に存在するケイ素原子または塩素原子の量で除算することによって決定される。
【0022】
本発明の特定の利点は、生成物の所望の比表面積(BET)に従って、利用可能な出発化合物を好ましくは使用されなければならない混合比を決定することが可能であること、または、更にもしくは異なる出発化合物が必要であるかどうかを決定することが可能であることである。
【0023】
主流はノズルによって反応空間へ導入される。これが発火して反応する、すなわち、火炎中で反応する。本発明の文脈において、用語「反応器室」、「反応器の燃焼室」、および「反応空間」は、同義的に使用される。同様に、用語「ノズル」、「バーナー」、および「バーナーノズル」も同義的に使用される。
【0024】
続いて、得られた固体を分離する。この固体は微粉化二酸化ケイ素を含んでなる。本発明の意味における微粉化二酸化ケイ素は、火炎プロセスによって得られ、かつ粒子表面上がシラノール基であるため、ケイ素の酸素酸と考えることができるので、しばしばヒュームドシリカとも称される。
【0025】
本発明の有利で好ましい一実施形態では、火炎は、二次ガスによって包囲されている。空気は二次ガスとして使用されることが好ましい。本発明の目的に関して、この空気はまた、用語「二次空気」(SL)とも呼ばれる。
主流に対する二次ガスの体積比は、好ましくは0.01~0.4、非常に好ましくは0.01~0.045である。二次ガスと主流との流速比は、0.1~0.8に維持されることが好ましい。
【0026】
二次ガスによる火炎の周囲は、バックファイアを防止し、ノズル上の生成物の破壊的な堆積を低減する。しかしながら、二次ガスは反応に直接関与しないため、プロセスの時空収率を低下させる。二次ガスと主流速との体積比を一定の比率内に維持することが好ましいと証明されている。さらに、驚くべきことに、二次ガスの流出速度が火炎反応に影響するということが観察されている。主流の流出速度に対してこの速度を一定比率内に維持すれば、バックファイアおよび堆積物へのプラスの効果を失うことなく、二次ガスの量を最小限に抑えることができる。さらに、二次ガスの導入は火炎温度の低下をもたらし、これはより多量の燃料ガスによって補償されなければならない。それゆえ、二次ガスの量をできるだけ少なくすることもまた、燃料ガスの節約に有利である。
【0027】
本発明の目的のための流速とは、ガスまたはガス混合物が空間内を流れるまたは空間内へ流れ込む、例えば、ガスまたはガス混合物が、バーナーノズルを通って反応空間または反応器の燃焼室へ、流れ込むかまたは通過する流速を指す。これは、ガスまたはガス混合物の流速、および装置の供給面積(すなわち、二次ガスについては、例えば、主流のバーナーノズルの断面積、およびバーナーノズルを包囲するリングの断面積のそれぞれ)から算出することができる。より簡単には、本発明の目的のために、単位時間当たりの標準立方メートルでのガスの体積を、流速を計算する目的で調べる。構成部品の熱膨張による断面積の変化は無視した。流速はまた、ガスまたはガス混合物が流れる、または空間へ流れ込む流速である場合、用語「流出速度」とも称される。
【0028】
反応空間への導入に際して、二次ガスは、バーナーノズルから導入される主流とほぼ同じ温度を有することが好ましい。したがって、反応空間へ導入される二次ガスは、主流の温度まで加熱されることが好ましい。この温度は、70~120℃が特に好ましい。
【0029】
火炎反応後、得られた固体を単離する。形成された固体を単離する際には、ガス状物質を除去することが好ましい。単離後、得られた固体は高温ガスで処理されることが好ましい。高温ガスは、メタン、水素、または天然ガスの燃焼によって形成されることが特に好ましい。高温ガスに蒸気を混合しないことが特に好ましい。処理は、好ましくは400~600℃で行われる。特に好ましい一実施形態では、要求される温度は、燃焼オフガスへ空気を添加することによって設定される。
【0030】
本発明の方法は、特許請求の範囲に記載のC/SiおよびH/Cl比によって特徴付けられるケイ素化合物の特定の組成物が本方法で使用される場合、本方法は、破壊およびフラッシュバックなしで実行されるだけでなく、低グリット画分(low grit fraction)または粗材料画分を有する微粉化二酸化ケイ素を生成するため、したがって高品質であるという利点に注目する。同時に、この方法は優れた時空収率を示すことで、本方法が経済的に適切であることを意味する。驚くべきことに、高品質な微粉化二酸化ケイ素を製造するためには、あらゆる所望のSi源、特に、ポリシリコン製造によるクロロシランの混合物またはMueler-Rochow合成によるMTCSといった、好ましいSi源(価格および/または経済観点全体から)を使用することが可能であるが、但し、使用される混合物は、炭素を含有する少なくとも1つの化合物と、炭素を含有しない1つのケイ素化合物をと含み、かつ主流は、特許請求の範囲に記載のC/SiおよびH/Cl比を示す。
本発明の更なる利点は、方法の経済的利益関して、低レベルの燃料ガスの消費である(これは例えば、H/Cl比が低いことからも明らかである)。
【0031】
グリット画分または粗画分は、分析方法に記載されている通りに決定することができる。金属酸化物中の粗画分は品質の重要な決定因子であり、低粗画分は多くの用途で有利である。エラストマーの補強充填剤としての使用に関して、塗料、ワニス、接着剤、およびシーリング剤のレオロジー制御において、ならびに半導体セクターにおける表面の化学機械平坦化の分野において、特に、粗率が低いことが利点である。この種の粒子分散はまた、例えば、半導体素子の研磨においても使用され、ここで大きな粒子は引っかき傷を生じる。
【0032】
時空収率(S-T収率)は、1Nm3の出発物質(ケイ素化合物+燃料ガス+一次ガス+二次ガス)当たりの生成物(gにおけるSiO2)の量から算出される。S-T収率の値は、200-(BET/3)g/Nm3より大きくすることが好ましく、250-(BET/3)g/Nm3より大きくすることはより好ましく、300-(BET/3)g/Nm3より大きくすることが非常に好ましく、ここでBETは、BET法(DIN ISO9277に準拠)により測定した、製造中のヒュームド二酸化ケイ素の比表面積である。
【0033】
本発明によれば、本方法は安定していることで、微粉化二酸化ケイ素を製造するための反応器が、破壊およびフラッシュバックなしで作動することを意味する。主流は反応器の燃焼室でのみ点火される。破壊を伴わないということは、この反応器室に入る前に点火が起こらないことを意味する。また、このバーナーノズルの上流に位置する混合要素、フィルター、および/または区画へのバーナーノズルからのいかなるフラッシュバックもない。
【0034】
理解を補助するために、本発明は、以下に説明する本発明の実施例および比較例によって、限定されることなく説明される。
【実施例】
【0035】
分析方法および概説
1.測定
pHはDIN EN787-9に従って測定したが、水に試料の4%分散液を用いた。
【0036】
2.特定の比表面積の測定
比表面積をN2吸着により測定して、DIN ISO9277に準拠する、Brunauer,Emmet,Teller法(BETとして知られる)に従って、吸着等温線を評価する。
【0037】
3.粗粒子含有量の測定
粗粒子含有量(グリットまたは粗分画とも呼ばれる)は、粗粒子の画分を分離および測定するために、メッシュサイズ40μmのふるいを用いて、DIN EN ISO787-18法に従って測定した。
【0038】
特に明記しない限り、全ての割合は質量/重量に基づく。
【0039】
標準立方メートル(略称Nm3)は、プロセス工学で使用されるガスの標準体積の単位である。標準立方メートルの定義は、DIN1343およびISO2533に規定されている。標準立方メートルとは、圧力1.01325バール、大気湿度0%(乾性ガス)、および温度0℃(DIN1343)または15℃(ISO2533)で、ガスの1立方メートルに相当する量である。換言すれば、規定された条件の下では、標準立方メートルのガスの体積は1m3であるが、一般に、異なる条件の下では、異なる体積を有しており、特定の変換によって測定することができる。
【0040】
Nm3/hは、単位時間当たりに供給されるガスまたは蒸気の量である。
【0041】
全ての場合において、以下のパラメータおよび成分を用いて、従来技術(例えば、欧州特許第1693343号、同第1686093号、同第1681266号、同第1381265号、または独国特許第2620737号を参照)に記載されているように、微粉化二酸化ケイ素を製造した。
【0042】
ケイ素化合物の混合物を、別々にまたは一緒に蒸発させ、ケイ素化合物を含んでなる気相を、水素および空気と混合した。混合物中のケイ素化合物の画分は、質量パーセントで個々の例に記載されている。
各組成物の場合において、全ての重要な成分を列挙する。工業的実施において、混合物はまた、他のケイ素化合物の少数分画も含むことは不可能でない。しかしながら、これらの他に特定されない不純物は、常に0.5重量%未満であるため、製造プロセスに影響を及ぼさなかった。
【0043】
気化したケイ素化合物、燃料ガス(全ての例における水素)、および空気(一次空気、PLと称する)を含んでなる混合物Aを、反応器室へバーナーを介して主流として導入し、着火の後、火炎反応を行った。この混合物Aの周囲で反応器室中へ二次ガス(全ての例における空気)を導入し、これは火炎を包囲した。二次ガスである空気を、量および流出速度の両方を調節して、制御した手法で導入した。バーナーを通る主流の流出速度および二次空気について列挙した計算は、構成要素が幾分か高い温度で(全ての例において95℃で)導入されたという事実に関係なく、標準条件(20℃、1気圧)の下で行われた。反応後、固体をガス状物質から分離し、次いで高温ガスでpH4.0~5.0に脱酸した。高温ガスは天然ガスを空気で燃焼して生成した。
【0044】
比較例V1:
この比較例では、使用したSi源は、90%STC、5%TCS、および5%DCSからなるシランの混合物であった。このシラン混合物1000kg/hを気化させ、265Nm3/hの水素および850Nm3/hの一次空気(PL)と混合し、火炎中での初期点火後、反応へ導入した。バーナーノズル(v(HS))からの、上述したシラン混合物、水素、および一次空気成分から成る主流の出口速度は、44m/sであった。加えて、反応器の燃焼室内へ、速度(v(SL))40m/sの二次空気(SL)600Nm3/hを通過させ、火炎を包囲した。
【0045】
得られた二酸化ケイ素および反応ガスを、冷却システムに通し、ここでまず、200℃未満まで冷却した。続いて、サイクロンまたはフィルターによって固体をプロセスガスから単離した。二酸化ケイ素を、次いで、約500℃の温度で高温ガスによって処理することで、脱酸した。
【0046】
記述したプロセスは低い安定性を特徴とした。散発的なフラッシュバックにより、燃焼が中断することで、プラントが故障した。形成された生成物の比表面積は150m2/gであった。さらに、得られた粉末状生成物は、0.02重量%の比較的高い粗粒子含有量を有していた。
【0047】
実験データおよび分析データを表1に示す。
【0048】
比較例V2:
この比較例では、比較例V1と同じ方法でヒュームドシリカを製造した。MTCSのSi源としての使用が異なり、500kg/hの量で、50Nm3/hの水素および1000Nm3/hの空気と混合した。
【0049】
この混合物の燃焼は安定して行われ、同じ比表面積150m2/gに対して、0.01%の低いグリット画分を有する生成物が得られた。従来技術に係るこのプロセスレジームの主な欠点は、時空収率が低いことであった。本例では、したがって、S-T収率がたった約60%であったのに対し、比較例1とほぼ同じ総ガス量(シラン+水素+一次空気+二次空気)を処理した。
【0050】
実験データおよび分析データを表1に示す。
【0051】
比較例V3:
この比較例では、比較例V1と同じ方法でヒュームドシリカを製造した。STC(68%)とMTCS(32%)との混合物のSi源としての使用が異なり、700kg/hの量で、150Nm3/hの水素および1000Nm3/hの空気と混合した。
【0052】
混合物の安定燃焼を行うことができた。このプロセスは、しかしながら、比較的低い時空収率を有した。さらに、300m2/gの比表面積で製造した二酸化ケイ素は、0.015%の比較的高いグリット画分を有した。
【0053】
実験データおよび分析データを表1に示す。
【0054】
比較例V4:
この比較例では、比較例V1と同じ方法でヒュームドシリカを製造した。STC(76%)、TCS(19%)、およびMTCS(5%)の混合物のSi源としての使用が異なり、700kg/hの量で、250Nm3/hの水素および900Nm3/hの空気と混合した。
【0055】
火炎反応で述べた混合物の反応により、比表面積150m2/gであるヒュームドシリカを生成した。このプロセスは、しかしながら、火炎不安定性で特徴付けられることで、フラッシュバックの結果として連続的に反応を失敗させる。その上、製造された製品について測定されたグリット含有量は比較的高く、0.015%であった。
【0056】
実験データおよび分析データを表1に示す。
【0057】
実施例1(本発明実施例):
本実施例では、比較例V1と同様にSTC、TCS、およびDCSからなるポリシリコンの調製によるシラン混合物を、第4の成分であるMTCSと組み合わせて、STC81%、TCS4.5%、DCS4.5%、MTCS10%の組成を有する新規混合物を生成した。熱分解法二酸化ケイ素の製造のために、この新規4成分シラン混合物1000kg/hを、比較例V1と同じ方法で、220Nm3/hの水素および850Nm3/hの一次空気と共に混合し、点火によって反応させた。ノズルからの反応混合物の出口速度は43m/sであった。加えて、反応器の燃焼室内へ、40m/sで二次空気(SL)600Nm3/hを導入し、火炎を包囲した。単離および脱酸の後、150m2/gのBET表面積を有する生成物を得た。比較例V1とは対照的に、燃焼は乱されず、低粗粒子画分を有する微粉末(グリット含量0.008%)が生成された。比較例V2とは対照的に、反応は、有意に高い時空収率で進行した。
【0058】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0059】
実施例2(本発明実施例):
本発明の実施例では、使用されるSi源は、STC(68%)、TCS(17%)、およびMTCS(15%)のシラン混合物であった。水素(210Nm3/h)および一次空気(900Nm3/h)と、1000kg/hの量で混合して、点火によって反応させた。火炎周辺の二次空気量は600Nm3/hであった。
【0060】
燃焼は安定して行われ、比表面積150m2/gの微粉化二酸化ケイ素が形成された。微粉状生成物の粗粒子濃度は0.007%と低かった。
【0061】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0062】
実施例3(本発明実施例):
本実施例では、比較例V3と同様に、比表面積300m2/gの微粉化SiO2を作製した。使用したSi源は、異なる混合比のSTC(90.6%)およびMTCS(9.4%)ではあるが、同じシランであった。800kg/hの量のシラン混合物を、水素(210Nm3/h)および一次空気(900Nm3/h)と共に着火によって反応させた。
【0063】
比較例V3と同様に、本発明の方法は安定した燃焼を示した。この方法は、しかしながら、目に見えて高く、したがって経済的により有利な時空収率(140g/g/Nm3に対し157)を産生した。その上、300Nm3/gの比表面積で製造した二酸化ケイ素は、低グリット画分が0.007%で著しい。
【0064】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0065】
実施例4(本発明実施例):
本発明例では、STC(72%)、TCS(18%)、およびメチルジクロロシラン(10%)のシラン混合物を用いて、1000kg/hの量で、水素(190Nm3/h)および一次空気(950Nm3/h)と混合し、着火により反応させた。
【0066】
記載した混合物の火炎反応により、比表面積150m2/gであるヒュームドシリカを生成した。この方法は、いかなる火炎不安定性の事例も示さなかった。製造した生産物について測定されたグリット含量は、0.006%と比較的低かった。
【0067】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0068】
実施例5(本発明実施例):
本実施例では、実施例1と同一のシラン混合物、すなわち、整合量の同一成分を用いた。実施例1と比較して、二次空気量を300Nm3/hまで半減させた。使用した水素および一次空気の量は、それぞれ、210および825Nm3/hであった。
【0069】
燃焼は安定して行われ、比表面積150Nm3/hのヒュームドシリカが生成された。二次空気に関して最適化したプロセスレジームの結果として、製品中のグリット画分を0.005%まで低減することができた。このプロセスは同様に、更にわずかに優れた時空収率でも注目に値する。
【0070】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0071】
実施例6(本発明実施例):
この実施例は、実施例5と同じ方法で実施された。出発物質は同一であり、実質的に同じ量が用いられた(下記の表2を参照)。相違点としては、火炎を包囲する二次空気の導入を再設計することで、その流出速度を10m/sまで低減した。この改良されたプロセスレジームによって、良好な火炎安定性を維持しながら、150m2/gの同じ製品表面積を有するが、0.003%の非常に低いグリット含有量を有する製品を製造することが可能であることが判明した。
【0072】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0073】
実施例7(本発明実施例):
この実施例は、実施例6と同じ方法で実施した。二次空気量を30Nm3/hまで大幅に削減し、その流出速度を同一に保つように導入した。使用した水素および一次空気の量は、それぞれ、190および775Nm3/hであった。
【0074】
この方法によるヒュームドシリカの製造は、再び安定して行われ、150m2/gの整合比表面積を有する生成物が得られた。この場合における粗粒子画分は、0.002%と非常に低かった。
【0075】
実験データおよび分析データを表2に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
表1および2において使用される略語:
-STC、四塩化ケイ素、SiCl4
-TCS、トリクロロシラン、SiCl3H
-DCS、ジクロロシラン、SiCl2H2
-MTCS、メチルトリクロロシラン、CH3SiCl3
-MDCS、メチルトリクロロシラン、Si(CH3)Cl2H
-PL、一次空気
-HS、主流
-v(HS)、バーナーノズルを通じて反応空間または反応器の燃焼室へ流れ込む主流の流速
(注:HSおよびSLの流速を算出する場合、それぞれ、標準立方メートルまたはNm3/hにおけるガス量およびガス処理量を使用した)
-SL、二次空気
-v(SL)、バーナーを通じて反応空間または反応器の燃焼室へ流れ込む火炎包囲二次空気の流速
-V‘(SL)/V‘(HS)、二次空気と主流との体積比
(注:体積について、体積については、割合/速度に対する記号vとの混同を避けるために、記号V’が、本発明の文脈において使用される。)
-C/Si、主流における炭素(C)とケイ素原子(Si)とのモル比
特許請求の範囲によれば、C/Si=10/BET~35/BETであるから、この値は、BET=150m2/gに対しては0.067~0.233、BET=300m2/gに対しては0.033~0.117になければならない。
-H/Cl、主流における水素(H)と塩素(Cl)とのモル比
特許請求の範囲によれば、主流におけるH/Cl比=0.45+(BET/600)~0.95+(BET/600)であるから、この値は、BET=150m2/gに対しては0.70~1.20、BET=300m2/gに対しては0.95~1.45になければならない。
-BET、 BET法によって測定した、得られた固体の比表面積
-グリット含有量、粗粒材料の画分
-燃焼特性
a)unst.、不安定、フラッシュバックにより特徴付け、または
b)st.、安定、燃焼注の障害なし、フラッシュバックなし
-ST収率、1Nm3の出発物質(シラン+燃料ガス+一次空気+二次ガス)当たりの生成物(g/hにおけるSiO2)の量から算出される時空収率
-割合は、重量%である。