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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】米飯用の風味改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240430BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23L7/10 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020004311
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021108626
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 織会
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-164446(JP,A)
【文献】特開平07-274861(JP,A)
【文献】特開2013-240322(JP,A)
【文献】甘酒さくらご飯,cookpad,2018年06月06日,p.1,retrieved on 2023.12.22, retrieved from the internet,<https://cookpad.com/recipe/5109373>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00-7/25
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH調整剤を含む米飯用の風味改善剤であって、
米麹糖化液及び/又は米を原料とするもろみ、を含み、
酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する、
前記風味改善剤。
【請求項2】
前記米麹糖化液が、米麹を40℃-70℃で保温処理することによって得られる、請求項1に記載の風味改善剤。
【請求項3】
前記米麹糖化液が、米麹を2時間-7時間保温処理することによって得られる、請求項1又は2に記載の風味改善剤。
【請求項4】
前記米麹糖化液が、米麹を40℃-70℃で、2時間-7時間、保温処理することによって得られる、請求項1-3のいずれか1項に記載の風味改善剤。
【請求項5】
前記米麹糖化液を得るための保温処理をpH4-pH6の間で行う、請求項1-4のいずれか1項に記載の風味改善剤。
【請求項6】
前記pH調整剤が、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α-ケトグルタル酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択される、請求項1-5のいずれか1項に記載の風味改善剤。
【請求項7】
上記米飯の炊飯時の炊き水に、0.1-5.0容量%の濃度で添加される、請求項1-6のいずれか1項に記載の風味改善剤。
【請求項8】
pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法であって、
上記米飯の炊飯時に、請求項1-7のいずれか1項に記載の風味改善剤を炊き水に添加する、
ことを含む、前記方法。
【請求項9】
上記米飯の炊飯時の炊き水に、請求項1-7のいずれか1項に記載の風味改善剤を、0.1-5.0容量%の濃度で添加する、ことを含む、請求項は8に記載の方法。
【請求項10】
米飯食品の製造方法であって、
(1)下記を含む原材料:
米;
pH調整剤;
請求項1-7のいずれか1項に記載の風味改善剤;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を加熱調理して、米飯食品を得る
ことを含む、米飯食品の製造方法。
【請求項11】
上記水に対し、請求項1-7のいずれか1項に記載の風味改善剤を、0.1-5.0容量%の濃度で使用する、
請求項10に記載の製造方法
【請求項12】
請求項10又は11の記載の方法によって得られた米飯食品。
【請求項13】
容器入り米飯食品である、請求項12に記載の米飯食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯用の風味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品中の微生物の上昇を抑制するために、酢酸やグルコン酸を用いることが知られている。酢酸やグルコン酸は、食品に添加する場合には日持ち向上剤として、また、無菌で充填され長期間保存される容器入りご飯(本明細書において「パックご飯」と呼称する場合がある)においては、その保存性を向上させる酸味料として使用される。一方、酸味料を添加するとその酸味を強く感じるために、食品の呈味性を低下させることが知られている。ご飯、特に容器入りご飯について、以下のような酸味の抑制方法が知られている。
【0003】
(1)甘み(糖類など)によるマスキング
以下のように、酢酸、アジピン酸、グルコン酸などが有する先に感じる酸味(酢かど)を糖質などの甘みなどでマスキングする技術が知られている。
【0004】
特開2019-8は、酢酸又はその塩の有する酢かどを有する日持ち向上剤を食品に用いた際に、その酢かどを抑えるための用いる酸味マスキング剤及び酸味マスキング方法を記載している。具体的には、糖類処理物、タンパク質処理物および植物処理物の3つの範疇のうちの少なくとも2つの範疇から選択される素材を3種以上含有することを特徴とする、酢酸又はその塩の酸味マスキング剤である。
【0005】
特開2003-144115は、酢酸、酢酸ナトリウム、アジピン酸の群から選ばれる一種又は2種以上にマルチトール又は/及びエリスリトールを組み合わせた粉末状の食品保存改良剤を記載している。酢酸等の日持ち向上剤の酸味が、マルチトール又は/及びエリスリトールによりマスキングされる。
【0006】
特許第5496609号は、米飯食品の製造方法を記載している。無菌常温米飯食品に対し、pH調整を行うことが重要であるが、米飯食品においてpH調整のために有効な量で酸を添加した場合には、酸由来の酸味・酸臭が、特に保温(加熱を含む)した際に、無視できないレベルとなることがあった。当該特許発明は、ある種のオリゴ糖に酸に対する顕著な効果があることの発見に基づき、特定のオリゴ糖混合物を使用することにより、酸特有の酸味及び酸臭を、米飯として許容可能なレべルにまで低減させる、というものである。具体的には、原材料として、米、水の他に、グルコノデルタラクトン、グルコン酸等から選択される特定された量のpH低下剤と、特定の量の特定の組み合わせのオリゴ糖混合物を使用することを特徴とする。
【0007】
(2)その他の添加物を添加する方法
特許第6426352号は、加工米飯用pH調整剤を記載している。当該加工米飯用pH調整剤は、有機酸と、青果の搾汁物とを含み、前記青果の搾汁物が、野菜の搾汁物と果実の搾汁物の混合物であり、前記野菜の搾汁物が、生姜搾汁液、人参搾汁液、ごぼう搾汁物、スイートコーン搾汁物又はグリーンピース搾汁物であり、前記果実の搾汁物が、グレープフルーツ搾汁液又はレモン搾汁液であり、前記有機酸は、グルコン酸又はグルコノデルタラクトンであることを特徴とする。
【0008】
また、米由来の発酵生成物である、みりん、日本酒などを添加すると、ツヤやテリを与えること、アルコール分により古米臭を低減させること、糖分により甘みを増すこと、が知られていた。しかしながら、パックご飯の製造時に添加する酸味料の酸味、酸臭の抑制効果については検討されていなかった。
【0009】
このように、糖類などの甘みを付加して酸味をマスキングする方法が知られていた。しかしながら、一定の甘味を有するため、その米飯らしい風味が変わってしまうという問題点を有していた。また、青果の搾汁液に酸味抑制効果があることは見出されていたが、呈味が異なるので、一定の違和感が残されていた。さらに、みりん・日本酒等についても、パックご飯の製造時に添加する酸味料の酸味、酸臭の抑制効果については検討されていなかった。
【0010】
パックご飯の製造時に添加する酸味料の酸味、酸臭をご飯の香り、旨味を損なうことなく、有効に抑制するpH調整剤を含む米飯用の風味改善剤の開発が希求されていた。特に、酸臭をマスキングするものは知られていたが、ご飯の香り、旨味を損なうことなく酸味を改善するものは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2019-8
【文献】特開2003-144115
【文献】特許第5496609号
【文献】特許第6426352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、米飯用の風味改善剤、一態様において、特にpH調整剤を含む米飯用の風味改善剤を提供することを目的とする。
本発明はまた、米飯、一態様において、特にpH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明はさらに、米飯食品の製造方法、及び、当該方法によって得られた米飯食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究に努めた結果、米加工品の中の米麹、もろみにおいて、酸味抑制効果を有しながら、米飯特有の風味を増強する効果があることを見出し、本発明を想到した。
【0015】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む
[態様1]
米飯用の風味改善剤 であって、
米麹糖化液及び/又は米を原料とするもろみ、を含み、
米飯味及び/又は米飯臭を付与する、前記風味改善剤。
[態様2]
pH調整剤を含む米飯用の風味改善剤であって、
米麹糖化液及び/又は米を原料とするたもろみ、を含み、
酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する、
前記風味改善剤。
[態様3]
前記米麹糖化液が、米麹を40℃-70℃で保温処理することによって得られる、態様1又は2に記載の風味改善剤。
[態様4]
前記米麹糖化液が、米麹を2時間-7時間保温処理することによって得られる、態様1-3のいずれか1項に記載の風味改善剤。
[態様5]
前記米麹糖化液が、米麹を40℃-70℃で、2時間-7時間、保温処理することによって得られる、態様1-4のいずれか1項に記載の風味改善剤。
[態様6]
前記米麹糖化液を得るための保温処理をpH4-pH6の間で行う、態様1-5のいずれか1項に記載の風味改善剤。
[態様7]
米飯において、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法であって、
上記米飯の炊飯時に、態様1-6のいずれか1項に記載の風味改善剤を炊き水に添加する、
ことを含む、前記方法。
[態様8]
pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法であって、
上記米飯の炊飯時に、態様1-6のいずれか1項に記載の風味改善剤を炊き水に添加する、」
ことを含む、前記方法。
[態様9]
上記米飯の炊飯時の炊き水に、態様1-6のいずれか1項に記載の風味改善剤を、0.1-5.0容量%の濃度で添加する、ことを含む、態様7又は8に記載の方法。
[態様10]
米飯食品の製造方法であって、
(1)下記を含む原材料:
米;
態様1-6のいずれか1項に記載の風味改善剤;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を加熱調理して、米飯食品を得る
ことを含む、米飯食品の製造方法。
[態様11]
米飯食品の製造方法であって、
(1)下記を含む原材料:
米;
pH調整剤;
態様1-6のいずれか1項に記載の風味改善剤;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を加熱調理して、米飯食品を得る
ことを含む、米飯食品の製造方法。
[態様12]
態様10又は11の記載の方法によって得られた米飯食品。
[態様13]
容器入り米飯食品である、態様12に記載の米飯食品。
【発明の効果】
【0016】
米飯用の風味改善剤は、米飯、一態様において、pH調整剤を含む米飯、特に、容器入り米飯、に通常用いる、pH調整剤である酸味料の酸味、酸臭をマスキングするのみならず、米飯特有の好ましい風味を付加することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.風味改善剤
本発明は、米飯用の風味改善剤に関する。当該風味改善剤は、米麹糖化液及び/又は米を原料としたもろみ、を含む。風味改善剤は、米飯味及び/又は米飯臭を付与する。一態様において、風味改善剤は、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する。
【0018】
1.麹、もろみ、米麹糖化液について
「麹」とは、米、麦、大豆などの穀物にコウジカビなどの食品発酵に有効なカビを中心とした微生物を繁殖させたものである。コウジカビは、増殖するために菌糸の先端からデンプンやタンパク質などを分解する様々な酵素を産生・放出し、培地である蒸米や蒸麦のデンプンやタンパク質を分解し、生成するグルコースやアミノ酸を栄養源として増殖する。コウジカビのの産生した各種分解酵素の作用を利用して日本酒、味噌、食酢、漬物、醤油、焼酎、泡盛など、発酵食品を製造する時に用いる。使用する穀物の種類に応じて、米麹、麦麹、大豆麹などの各種の麹が知られている。
【0019】
「米麹」は、蒸した米にコウジカビを繁殖させたものである。一態様において、清酒に用いる米麹は、1989年(平成元年)11月22日に、国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件」において、「米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでんぷんを糖化させることができるものをいい、特定の名称の清酒は、こうじ枚の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいう。)が、15%以上のものに限るものとする。」と定められている。
【0020】
米麹は、例えば、大黒印米麹(佐国屋糀店製)、白雪印米麹(倉繁醸造所社製)、五十嵐米麹(五十嵐こうじ屋製)、八海山の蔵出し生麹(八海醸造社製)、米こうじ・玄米こうじ(河村糀屋製)、みやここうじ(株式会社伊勢惣製)、甘酒麹・玄米麹(有限会社おたまや製)、羽場のこうじ(羽場こうじ店製)、甘酒糀(株式会社丸正醸造製)など、市販されているものを使用してもよい。各米麹は、使用される米の種類、精米歩合、精米形状(正常粒、砕粒)、コウジカビの種類、酵母(酒母)の種類、温度・湿度・時間などの培養条件等により、特徴的な香気を有する場合がある。
【0021】
「もろみ(醪・諸味とも書く)」とは、醤油・酒などを作るために醸造した液体の中に入っている、原料が発酵した柔らかい固形物のことである。日本酒のもろみ(醪)については酒税法第3条25項に定義されており、もろみから液体である酒を搾り出して残った固形物が酒粕となり、漬物・甘酒・酢の原料に使われる。なお、沖縄の「もろみ酢」はクエン酸を多く含む泡盛の酒粕を原料に使用し、これを酢酸発酵して製造している。
【0022】
「もろみ」には、米を原料とした酒もろみ、大豆、小麦などを原料とする味噌もろみ、醤油もろみ、などの種類がある。非限定的に、本発明には、米を原料とするもろみ(「酒もろみ」と呼称される場合がある)を使用する。酒もろみを原料として調味料として製造されている、塩もろみ(八峰白神自然食品社製)等を用いることも可能である。
【0023】
日本酒は、以下の方法で製造されている。
(i)麹に使用する米にコウジカビを添加して保温→(ii)酵母を添加して保温(培養)→(iii)「米麹」→(iv)米麹を蒸した米に添加して保温(培養)→(v)「もろみ」→(vi)酒(みりん)と酒粕に分離
本発明は、一態様において、米麹を保温処理等により糖化させた「米麹糖化液」を利用する。米麹糖化液は、米麹を例えば、保温処理等による酵素反応により糖化させて得たものである。
【0024】
非限定的に、米麹糖化液は、非限定的に、好ましくは、米麹を40℃-70℃、50℃-65℃、50℃-60℃、約60℃、で保温処理することによって得られる。非限定的に、米麹糖化液は、非限定的に、好ましくは、米麹を2時間-7時間、2-6時間、3-5時間、約4時間、保温処理することによって得られる。
【0025】
上記温度と時間の組み合わせは、当業者が適宜選択可能である。一態様において、米麹糖化液は、米麹を40℃-70℃で、2時間-7時間、保温処理することによって得られる。一態様において、米麹糖化液は、米麹を50℃-65℃で、2時間-6時間、保温処理することによって得られる。
【0026】
非限定的に、一態様において、米麹糖化液を得るための保温処理をpH4-pH6の間、pH4.5-5.8の間、pH4.8-5.8の間、で行う。保温処理を行う際のpHを調整するために、例えば、「pH調整剤を含む米飯」の項目に記載のpH調整剤を適宜添加してもよい。pH調整剤の種類は特に限定されないが、酸味及び酸臭を強く呈しないものが好ましく、このようなpH調整剤の例は、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸である。
【0027】
本発明は、一態様において、「もろみ」を利用する。非限定的に、本発明には、米を原料とするもろみを使用する。もろみ、特に市販されている塩もろみは、製造後に保温処理により、殺菌(火入れ)されていてもよいが、特にその工程によって効果が制限されるものではない。もろみは、米麹を蒸した米に添加して保温(培養)して得られたものであっても、米を原料として直接発酵することによって得られたものであってもよい。
【0028】
2.pH調整剤を含む米飯
風味改善剤は、米飯、好ましくは、pH調製剤を含む米飯に使用される。風味改善剤は、好ましくは、米飯の炊飯時の炊き水に添加される。
【0029】
pH調整剤
本明細書において、「pH調整剤」とは、米飯食品のpHを調整し、保存性を向上させるために使用されるものであれば、特に限定されない。「pH調整」は、好ましくは、pH低下を意味する。本明細書において「pH調整」は「pH低下」と同義で使用される場合がある。
【0030】
非限定的に、一態様において、「pH調整剤」は、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、氷酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、α-ケトグルタル酸、これらの塩又は水和物、及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択される剤である。
【0031】
本発明において使用される好ましいpH調整剤は、米飯食品において適切な量を使用した場合に、酸味及び酸臭を強く呈しないものが好ましく、このようなpH調整剤の例は、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、クエン酸である。
【0032】
グルコノデルタラクトン(「D-グルコノ-1,5-ラクトン」、「GDL」、「グルコノラクトン」ということもある。)は、水溶液中ではグルコン酸と平衡状態にある。食品添加物として、豆腐、チーズ等の凝固剤、ビスケット、パン等の膨張剤、ハム、ソーセージ等のpH調整剤、ジュース等の酸味料として利用されている。グルコン酸((2R,3S,4R,5R)-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサン酸)は、天然物(蜂蜜、果物、米)の中に微量存在する成分である。クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸。3-ヒドロキシペンタン二酸-3-カルボン酸ということもある。)は、天然物では、かんきつ類等の中に比較的多く含有されている成分である。
【0033】
本発明におけるpH調整剤の量は、最終製品としての米飯食品が十分な保存安定性を有する有効な量であり、かつ、米飯食品に対してマスキング不能な酸味・酸臭を与えない範囲の量である。当業者であれば、用いるpH調整剤の種類に応じて、使用量を適宜設計することができる。
【0034】
例えば、pH調整剤としてグルコノデルタラクトンを用いる場合、米飯食品100重量部に対して、0.05-1重量部、好ましくは0.1-0.75重量部、より好ましくは、0.2-0.5重量部用いることができる。
【0035】
本発明においては、pH調整剤の量は、浸漬米(米に水を吸収させたもの)を炊飯する際に加える水(炊き水)へ添加する割合として示すこともできる。例えば、pH調整剤としてグルコノデルタラクトンを用いる場合、炊き水におけるpH調整剤の量は、グルコノデルタラクトンの量で0.05-2重量%であり、好ましくは0.1-2重量%であり、より好ましくは0.2-1重量%である。
【0036】
本発明においては、pH調整剤は製法に拠らず、合成物、天然物、発酵により生産されたもののいずれも用いることができる。

本発明で「米」というときは、特に記載した場合を除き、調理されていないものをいい、「米」は、玄米、分づき米、白米(精白米ということもある。)、これらの混合物を含む。本発明においては、米は、ジャポニカ種(日本型、短粒種)、インディカ種(インド型、長粒種)、ジャバニカ種(ジャワ型、大粒種)であってもよく、うるち米であってももち米であってもよく、品種も限定されないが、食味に優れた品種を特に好適に用いることができる。このましい品種の例には、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、きらら、はえぬき、ほしのゆめ、つがるロマンがある。
【0037】
本発明における原材料の「水」としては、米飯製造において通常用いられるものを使用することができる。
本発明においては、原材料として、上述したもののほか、米以外の穀類(例えば、麦、あわ、ひえ、きび)、具材(例えば、豆類、野菜、果実、畜肉、魚貝類)、調味料、食品として許容される添加物(例えば、リゾチーム)を適宜使用することができる。
【0038】
本発明で「米飯食品」というときは、白飯、粥、具飯(米と種々の具材とを混合した食材を炊飯することで製造される米飯)を含む。
3.米飯において、米飯味及び/又は米飯臭を付与する;pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する
一態様において、風味改善剤は、米飯において、米飯味及び/又は米飯臭を付与する、という効果を奏する。一態様において、風味改善剤は、pH調整剤を含む米飯の酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する、という効果を奏する。
【0039】
「米飯味及び/又は米飯臭を付与する」とは、風味改善剤を使用しない場合と比較して、ご飯臭(香り)及び/又はご飯味(味)を感じるようになる、あるいはより強く感じるようになる、ことを意味する。ご飯臭は、炊飯をする際に感じる特有の香り、ご飯味は、炊き上がったご飯を食した際のご飯の味で、両者とも一般に好ましいとされる香り、味である。
【0040】
「酸味及び/又は酸臭を抑制する」とは、風味改善剤を使用しない場合と比較して、pH調整剤による酸臭(香り)及び/又は酸味(味)が抑制される、ことを意味する。言い換えれば、これらの一般に不快とされる香り、味をより感じにくくなる、ことを意味する。
【0041】
II.米飯において、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法;pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法
本発明はまた、米飯において、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法を提供する。本発明はまた、pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法を提供する。
【0042】
前記方法は、上記米飯の炊飯時に、本発明の風味改善剤を炊き水に添加する、ことを含む。「pH調整剤」、「米飯」、「米飯味及び/又は米飯臭を付与する」、「酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する」、「風味改善剤」等については、「I.風味改善剤」において説明した通りである。
【0043】
炊飯時の炊き水に、風味改善剤を添加する際の濃度は、特に限定されない。当業者は、使用する風味改善剤に応じて、「米飯味及び/又は米飯臭を付与する」、「酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する」という効果を得るのに適切な濃度を、適宜選択できる。非限定的に、一態様において、米飯の炊飯時の炊き水に、風味改善剤を、0.1-5.0容量%の濃度、0.2-3.0容量%の濃度、0.3-3.0容量%の濃度、0.5-3.0容量%の濃度、約0.5容量%の濃度で添加する。
【0044】
III.米飯食品の製造方法
本発明はさらに、米飯食品の製造方法に関する。
一態様において、前記製造方法は、
(1)下記を含む原材料:
米;
本発明のの風味改善剤;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を加熱調理して、米飯食品を得る
ことを含む。
【0045】
一態様において、前記方法は、
(1)下記を含む原材料:
米;
pH調整剤;
本発明の風味改善剤;及び

を準備し、そして、
(2)原材料の混合物を加熱調理して、米飯食品を得る
ことを含む。
【0046】
「米」、「pH調整剤」、「風味改善剤」、「水」、「米飯食品」等については、「I.風味改善剤」「II.米飯において米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法;pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法」において説明した通りである。
【0047】
一態様において、前記製造方法によって得られる米飯食品は、トレー等の容器入りである。非限定的には、前記製造方法は、好ましくは、開口部を有する容器内に原材料を充填した後に加熱調理し;そして加熱調理後に容器の開口部を予め殺菌処理したシール材で密閉する工程を含む。このような工程により製造された米飯食品は、常温保存で無菌状態を充分に長く(例えば、6か月を超えて)保つことができ、電子レンジ等に加熱直ちに喫食可能である。
【0048】
本発明の第1の工程では、必要な原材料を準備する。米は、常法により洗米・浸漬・水切りしておくことができる。具材を用いる場合は、必要に応じて下処理しておく。原材料の全部又は一部を混合し、炊飯のための機器又は開口部を有する個別の容器内に、所定量だけ充填する。
【0049】
続く加熱調理工程の前に、個別の容器に充填された形態である場合は、殺菌処理を別に実施してもよい。この殺菌工程では容器入り原料に調理水を加えないで、そのまま所定短時間だけ高温加熱する。この場合の加熱方法は、140-145℃の高温度に維持させたチャンバー内に、1回につき例えば4-8秒間程度の短時間づつ間欠的に所定回数(例えば合計6-8回程度)だけ出し入れするようにして行うとよい。この殺菌工程は、高圧下(例えば1.2-4気圧程度)において行ってもよい。
【0050】
加熱調理工程では、水を含むすべての原料を、調理上有効な条件(例えば100-105℃程度の蒸気で、数十分間加熱する)で調理する。
個別の容器に充填された形態である場合は、調理工程に続いてシール工程を経ることができる。ここでは、殺菌処理したシール材を常法により調理済み容器入り食品の容器開口部に熱融着させて、該容器開口部を完全シールする。シール工程を終えた容器入り調理物は、さらに蒸らし工程(例えば、90℃-100℃で数十分)に投じてもよく、その後必要に応じ、水等を用いて冷却に投じてもよい。必要であれば、その後にさらに、各種検査(例えばピンホール検査や重量検査)を行って最終製品とすることができる。
【0051】
「米飯食品」は、容器入りである場合、容器の種類は特に限定されない。食品である米飯食品を衛生的に保存できるのに適したものであることが好ましい。非限定的に100℃以上の高温、電子レンジでの使用等に耐えられる耐熱性のものが好ましい。
【0052】
IV.米飯食品
本発明はさらにまた、前記製造方法によって得られた、米飯食品に関する。
米飯食品は、一態様において、容器入り米飯食品である。
【0053】
「米飯食品」、「容器」等については、「I.風味改善剤」「II.米飯において米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法;pH調整剤を含む米飯において、酸味及び/又は酸臭を抑制する、並びに、米飯味及び/又は米飯臭を付与する方法」、「III.米飯食品の製造方法」において説明した通りである。
【0054】
一態様において、「米飯食品」は、風味改善剤使用しない場合と比較して、米飯味及び/又は米飯臭を付与されている。一態様において、「米飯食品」は、風味改善剤使用しない場合と比較して、pH調整剤による酸味及び/又は酸臭が抑制されている。
【実施例
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
実験例1 パックご飯 製造条件
以下の実施例において、特に明記しない限り、パックご飯の製造は下記の条件で行った。
【0057】
(A)トレー入りパックご飯の製造
以下の方法で、トレー入りパックご飯を製造した。
1)新潟産コシヒカリ(白度43)を水に1時間浸漬した。
【0058】
2)得られた浸漬米101gをトレーに充填した。
3)加圧加熱機にて加熱時間5秒間を4ショット行い、殺菌した(F値は約10)。殺菌後、トレーに炊き水を72g加えて、コンベクションスチーマーで100℃前後で、32分間炊飯した。炊き水に、下記表1の配合で調合したpH調整剤を、それぞれ3.5重量%となるように配合した。つまり、炊き水中のグルコノデルタラクトン濃度はすべて0.455重量%とした。
【0059】
4)炊飯後、さらに、フィルムでトレー開口部をシールしてから、70℃以上で15分間蒸した。
(B)官能評価
酸臭(香り)、ご飯臭(香り)、試料特異臭(香り)、酸味(味)及びご飯味(味)について、以下のように官能評価を行った。官能評価は、訓練されたパネラーにより行った。以下の表における評価は、5名のパネラーによる評価の平均である。
(香り)
酸臭
1点;酸臭無い、あるいはかなり弱い。
【0060】
2点:炊き水中標準品添加品よりも弱い。
3点:炊き水中標準品添加した時の酸臭がする。
4点:標準品よりも酸臭が強い(喫食可能)。
【0061】
5点:標準品よりも酸臭がかなり強い(喫食不可)
ご飯臭(米を炊飯する際に感じる特有の香り)
1点;ご飯特有の臭いがしない。
【0062】
2点:ご飯特有の臭いがわずかにする。
3点:ご飯を炊いた時に感じる臭いがする。
4点:ご飯を炊いた時に感じる臭いが強く感じる。
【0063】
5点:ご飯を炊いた時に感じる臭いを特に強く感じる。
試料特異臭(添加する試料により臭いが異なる。臭いの強度は点数で、種類はコメントに記載した)
1点;臭いなし。
【0064】
2点:わずかに認識するが、何の臭いかはっきりしない程度である。
3点:特定の試料に特有の臭いを認識し、識別できる。
4点:強い臭いがするが、喫食可能である。
【0065】
5点:かなり強い臭いで、喫食できない。
(味)
酸味
1点;酸味を感じない。
【0066】
2点:酸味を、標準品よりも弱く感じる。
3点:酸味を標準品と同様に感じる。
4点:酸味を標準品よりも強く感じる(喫食可能)。
【0067】
5点:酸味を標準品よりもかなり強く感じる(喫食不可能)。
ご飯味
1点;炊き立てのご飯特有の味を感じない。
【0068】
2点:炊き立てのご飯特有の味をわずかに感じる。
3点:炊き立てのご飯特有の味がはっきりわかる程度に感じる。
4点:炊き立てのご飯特有の味を強く感じる。
【0069】
5点:炊き立てのご飯特有の味をかなり強く感じる。
pH調整剤は、以下の配合のものを使用した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1 米麹液の加工条件の検討1-1(糖化時間1)
本実施例では、米麹液の糖化時間についての検討を行った。
米麹(八海山の蔵出し生麹、八海山醸造製)100gに150gの水を添加し、60℃、4、8、24時間で各々保温処理を行った。その後、ホモジナイザーカップを用いて1分破砕処理を行い、パウチに充填し、沸騰しない温度(達温98℃)にまで加熱をし、各糖化液の特徴を検討した。さらに、本糖化液をパックご飯の炊飯する際の水に0.5容量%添加して、パックご飯を製造し、1週間常温に保存後、官能検査に供した。パックご飯は実験例1に記載方法で製造した。
【0072】
各時間保温した米麹液の特徴を以下の表に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
米麹を加水したのちに、そのままパックご飯炊飯用の水に添加する場合は、麹が均一に分散することが難しく、添加が容易ではなかった。一方、加水した米麹を、60℃で一定時間保温、攪拌することにより、均一に分散できるとともに、わずかに甘みを増強し、麹の効果により糖が放出されていることが示唆された。
【0075】
米麹に加水し、60℃での保温時間を変えたところ、8時間まではクリーム色の外観を有し、麹の有する穀物臭を有していたが、24時間においては、褐変しており、かつ、より進んだ発酵臭を感じるため、8時間以上の保温した場合には商品としては適していないことが示唆された。また、8時間保温品と比較して、4時間保温品は穀物臭を強く残していたことから4時間保温することがより好ましい結果であった。
【0076】
以下、パックご飯での評価結果を示す。
【0077】
【表3】
【0078】
パックご飯は、米麹を保温することによって発酵臭を感じ、徐々に強くなるが、8時間以上の保温においては発酵臭は特に差が感じられなかった。また、呈味については、甘みとともに、苦みも増し、24時間を超えるとパックご飯としては適さないレベルとなった。さらに、酸味マスキング効果についても保温時間を長くするに従って、甘みとともに、苦みが増し、酸味料の酸味をマスキングする効果は失われている印象を受けた。保温時間を過度に長くすることにより、力価アップにつながらないことが示唆された。
【0079】
実施例2 米麹液の加工条件の検討1-2(糖化時間2)
本実施例では、米麹液の糖化時間についてのさらに詳細な検討を行った。
米麹(八海山の蔵出し生麹、八海山醸造製)100gに150gの水を添加し、60℃、2、4、6、8、12時間で各々保温処理を行った。その後、ホモジナイザーカップを用いて1分破砕処理を行い、パウチに充填し、沸騰しない温度(達温98℃)にまで加熱し、各米麹糖化液の特徴を検討した。さらに、本米麹糖化液をパックご飯の炊飯する際の水に3容量%添加して、パックご飯を製造し、1週間常温に保存後、官能検査に供した。パックご飯は実験例1に記載方法で製造した。
【0080】
各時間保温した米麹液の特徴を以下の表に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
米麹液は保温2時間から甘い匂いや甘味を感じることができ、保温2時間から、6時間では、甘味や甘い香りのバランスがよい結果となっていた。保温時間が8時間を超え、長くなるにつれ、苦味が強くなる傾向になった。これは、実施例1と同様の結果であった。
【0083】
以下、パックご飯での評価結果を示す。
【0084】
【表5】
【0085】
米麹液の保温を2時間から6時間した場合では、パックご飯に添加した際に酸味酸臭は抑制されて、またご飯風味、甘味が付与され好ましい結果であった。保温時間が8時間以上になると酸味や苦味が感じられ、好ましくない結果となった。保温時間を変更した米麹液を添加したパックご飯の食味や香りの傾向は、実施例1と同様であった。
【0086】
実施例3 米麹液の加工条件の検討2(保温温度)
本実施例では、米麹液の保温温度についての検討を行った。
米麹(八海山の蔵出し生麹、八海山醸造製)100gに150gの水を添加し、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃で、4時間で各々保温処理を行った。その後、ホモジナイザーカップを用いて1分破砕処理を行い、パウチに充填し、沸騰しない程度(98℃達温)にまで加熱をした後、各米麹糖化液について、評価をおこなった。また、各米麹糖化液をパックご飯の炊飯する際の水に3容量%添加して、実験例1でパックご飯を製造し、評価を行った。
【0087】
各温度で保温した米麹液の特徴を以下の表に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
以下、パックご飯での評価結果を示す。
【0090】
【表7】
【0091】
保温時間40℃の品が、酸味、酸臭を一番強く感じた。保温時間50-60℃の品において、わずかに酸味、酸臭を抑えられた。ご飯風味、ご飯臭:保温時間50℃、60℃の品はご飯風味、ご飯臭強く感じた。米麹液の保温温度は、50℃、60℃程度が適している。
【0092】
実施例4 米麹液の加工条件の検討3(保温処理時のpH)
本実施例では、米麹液の保温処理時のpHについて、検討を行った。
米麹(八海山の蔵出し生麹、八海山醸造製)100gに150gの水を添加し、グルコノデルタラクトンを適量添加することによってpHを3.8、4.8、5.8に各々調整を行い、60℃、4時間で各々保温処理を行った。その後、ホモジナイザーカップを用いて1分破砕処理を行い、パウチに充填し、沸騰しない程度(98℃達温)にまで加熱をした後に、各米麹糖化液について、評価を行った。また、各米麹糖化液をパックご飯の炊飯する際の水に0.5容量%添加して、実験例1でパックご飯を製造し、同様に評価を行った。
【0093】
以下、各pHで保温した米麹液の特徴及びパックご飯での評価結果を示す。
【0094】
【表8】
【0095】
保温時のpHは4.8の場合が、甘み、甘い匂いを有し、最も余計なにおい、味が無かった。また、パックご飯に添加した場合も、pH4.8が一番高い評価が得られ、4.8-5.8において高い評価が得られた。
【0096】
本実施例のpH条件の検討では、甘さが一つの要素となっているので、その元となる糖成分の量の指標として各米麹糖化液のBrixを測定した。その結果、pH3.8において28であったのに対して、pH4.8、5.8においてはBrixが30となっており、pHを変えることによって、屈折率が上がり、糖度が上昇されたことが示唆された。本Brixとパックご飯の評価が相関することより、米麹糖化液の糖度が酸味参集の改善効果、甘味の付与に関連することが示唆された。
【0097】
実施例5 市販の各米麹から調製した米麹糖化液の添加の効果
本実施例では、市販の各米麹から調製した米麹糖化液をパックご飯に添加した場合の効果の有無について確認を行った。米麹として、大黒印米麹(佐国屋糀店製)、白雪印米麹(倉繁醸造所社製)、五十嵐米麹(五十嵐こうじ屋製)の性質の異なる3種類の米麹を使用した。使用した各米麹の官能検査結果を以下の表にまとめた。麹特有の香気の中に、以下の特徴的な香気を有する
【0098】
【表9】
【0099】
米麹糖化液の調製方法
各米麹100gに150gの水を添加し、60℃、4時間で保温処理を行った。その後、沸騰しない程度にまで加熱をし、米麹糖化液を調製した。各米麹糖化液の香気の官能検査の結果を以下の表にまとめた。
【0100】
【表10】
【0101】
パックご飯の製造方法
A-Cの各米麹糖化液と、各米麹糖化液を遠心分離機で3000rpm、15分(5℃)で遠心分離して得た米麹糖化液の上清、沈殿の3種類を各々パックご飯を炊飯する際の炊き水に0.5容量%添加して、パックご飯を製造した。新潟産コシヒカリ(白度43)を用いて、実験例1の方法で、トレー入りパックご飯を製造した。
【0102】
各米麹糖化液、米麹糖化液の上清、米麹糖化液の沈殿を添加した場合の、パックご飯での評価結果を示す。
【0103】
【表11】
【0104】
ご飯臭、ご飯味:◎(強く感じる)→ ○ → △ → ×(感じない)
酸味、酸臭:◎(感じない)→ ○ → △ → ×(強く感じる)
米麹糖化液の添加により、pH調整剤を含むパックご飯の風味(味+香り)が変化した。具体的には以下の通りである。
【0105】
酸臭:水(pH調整剤なし)より上がり、酸味料(pH調整剤であるグルコン酸製剤)のみより低い(少し抑える)。
ご飯臭:水より低く、酸味料のみよりわずかに高い。
【0106】
試料得意臭:特有の成分が発生していると思われる臭いが、少し上がる
ご飯味:少し弱まる。
酸味:水より上がり、酸味料のみより下がる。
【0107】
以上、米麹糖化液の添加により、(i)酸味、酸臭は水より上がり、酸味料(pH調整剤であるグルコン酸製剤)のみより下がり;(ii)ご飯味、ごはん臭は若干変化し;そして、(iii)その他の臭いはあまり変化しない、ことが示された。
【0108】
米麹糖化液の上清と沈殿で上記効果に多きな相違はない。よって、風味改善剤としては、米麹糖化液そのもの(全体)を使用できる。
実施例6 塩もろみの呈味改善効果の検証
本実施例では、塩もろみによる呈味改善効果を検討した。
【0109】
塩もろみは、、塩もろみA(加熱品)と塩もろみB(非加熱品)(八峰白神自然食品社製)を使用した。いずれも蒸した米(あきたこまち)に米麹を入れ、60℃で3時間以上加温した後に、90℃以上で失活させ、その後塩を添加し、40℃程度まで温度を下げたのちに、乳酸菌を添加し、20℃で24時間発酵を行う。その後、酵母(白神こだま酵母)をいれ、20℃で1か月発酵させたものである。塩もろみA(加熱品)は、その発酵生成物をを60℃、pH3.8の条件下で4時間加熱したものであり、塩もろみB(非加熱品)は上記の加熱工程を行っていないものである。
【0110】
新潟産コシヒカリを使用し、pH調製剤を3.4重量%添加して、さらに上記の塩もろみをそのまま、下記の表12の濃度で添加して、実験例1の方法でパックご飯を製造し、評価した。
【0111】
【表12】
【0112】
全体的な傾向としては、塩もろみA、塩もろみBともアルコール臭、甘酒のような麹のまったりとした香りが付与されていた。
酸臭については減少したものの、酸味料添加した臭いとは別の塩もろみ由来の酸臭が非常に強く感じられた。酸味についてはもろみや麹の風味が感じられることで、若干酸味を抑制していた。米麹由来の塩もろみは、酸味抑制素材として添加素材の組み合わせ時に使用できる可能性が示唆された。
【0113】
実施例7 酸味料を入れていないパックご飯に対する、米麹糖化液及びもろみの添加の効果
本実施例では、酸味料を入れていないパックご飯に対する、米麹糖化液及びもろみの添加の効果を調べた。
【0114】
実験例1の方法で、トレー入りパックご飯を製造した。ただし、pH調整剤は加えなかった。実施例5の米麹糖化液、又は、実施例6の塩もろみを添加し、訓練されたパネラー(5名)により官能検査を行った。
【0115】
A. 米麹糖化液を添加しないもの
B. 実施例5の米麹糖化液を0.5容量%添加したもの
C、 実施例6の塩もろみを0.5容量%添加したもの
Aでは、炊飯時特有の蒸れ臭を感じた。これに対し、B,Cでは、良好な炊き立て感を有する風味が付加しており、良好であった。