(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】記録媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20240430BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B41M5/52 110
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020021970
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019033982
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019039133
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 有佳
(72)【発明者】
【氏名】金子 義之
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177712(JP,A)
【文献】特開平11-078218(JP,A)
【文献】特開2002-096555(JP,A)
【文献】特開2004-181813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/50-5/52
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に設けられたインク受容層と、を有し、
前記インク受容層が、湿式シリカ、バインダ、下記式(1-1)~(1-9)のいずれかで表される紫外線吸収剤、前記紫外線吸収剤を乳化させるための界面活性剤、及びカチオン性ポリマーを含有し、
前記インク受容層中、前記湿式シリカ100質量部に対する、前記紫外線吸収剤の含有量が、10質量部以上20質量部以下であり、
前記界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるインクジェット用の記録媒体の製造方法であって、
前記湿式シリカ、前記バインダ、前記カチオン性ポリマー、及び、前記界面活性剤によって乳化された前記紫外線吸収剤の乳化物を含むインク受容層形成用の塗工液を調製する塗工液調製工程と、
前記塗工液を前記基材の少なくとも一方の面に塗工し、その後、塗工された前記塗工液を乾燥するインク受容層形成工程と、
を有することを特徴とする記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記塗工液調製工程において、
前記湿式シリカ及び前記カチオン性ポリマーを含有する分散液と、前記界面活性
剤によって前記紫外線吸収剤を水中に乳化させた前記乳化物と、を混合して、前記塗工液を調製する請求項
1に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記インク受容層中、前記湿式シリカ100質量部に対する、前記紫外線吸収剤の含有量が、12質量部以上20質量部以下である請求項1
又は2に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項4】
前記インク受容層中、前記湿式シリカ100質量部に対する、前記紫外線吸収剤の含有量が、16質量部以上20質量部以下である請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項5】
前記インク受容層中、前記界面活性剤の含有量(質量部)が、前記紫外線吸収剤の含有量(質量部)に対する質量比率で、0.2倍以上1.0倍以下である請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項6】
前記インク受容層中、前記界面活性剤の含有量(質量部)が、前記紫外線吸収剤の含有量(質量部)に対する質量比率で、0.2倍以上0.6倍以下である請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項7】
前記界面活性剤のHLB値が、8.0以上13.0以下である請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項8】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤の融点が、140℃以下である請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項10】
前記紫外線吸収剤の融点が、120℃以下である請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項11】
前記紫外線吸収剤の分子量が、350以上500以下である請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項12】
前記紫外線吸収剤の分子量が、358以上500以下である請求項1乃至
11のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【請求項13】
前記インク受容層中、前記湿式シリカに対する、前記カチオン性ポリマーの含有量が、5質量%以上30質量%以下である請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の記録媒体
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用の記録媒体は、発色性及び耐光性の良好な画像を記録可能であることが求められている。なかでも、インクジェット記録装置で記録した画像を販売する分野の記録媒体に対しては、より発色性及び耐光性に優れた画像を記録可能であることが要求されている。このような分野では、耐光性に優れた画像を記録しうるインクとして、顔料を色材として含有するインク(顔料インク)が用いられている。そして、インクジェット記録装置を使用し、染料インクで記録した画像の耐光性及び発色性を両立すべく、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を含有する耐光性付与層を設けた記録媒体が提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-341421号公報
【文献】特開2002-96555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、プロの写真家やグラフィックデザイナー向けのファインアート紙の需要が高まっている。このような分野では記録した画像を商品として販売するため、発色性及び耐光性が特に重要である。発色性に優れた画像を記録するには、透明性の高いマット系のインク受容層が必要とされている。また、耐光性に優れた画像を記録するには、紫外線吸収剤などの耐光性向上剤を、その透明性が損なわれない範囲でインク受容層に含有させることが必要とされている。
【0005】
本発明者らは、特許文献1及び2で提案された記録媒体について検討した。その結果、これらの記録媒体は要求レベルの高い上記のような分野で用いられることまで想定されておらず、画像の発色性と耐光性が未だ十分に両立していないことがわかった。なかでも、耐光性については、染料インクで記録した場合について検討されており、顔料インクで記録した際に要求されるレベルにまで達するものではなかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、発色性及び耐光性に優れた画像を記録することが可能なインクジェット用の記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、基材と、前記基材に設けられたインク受容層と、を有し、前記インク受容層が、湿式シリカ、バインダ、下記式(1-1)~(1-9)のいずれかで表される紫外線吸収剤、前記紫外線吸収剤を乳化させるための界面活性剤、及びカチオン性ポリマーを含有し、前記インク受容層中、前記湿式シリカ100質量部に対する、前記紫外線吸収剤の含有量が、10質量部以上20質量部以下であり、前記界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるインクジェット用の記録媒体の製造方法であって、前記湿式シリカ、前記バインダ、前記カチオン性ポリマー、及び、前記界面活性剤によって乳化された前記紫外線吸収剤の乳化物を含むインク受容層形成用の塗工液を調製する塗工液調製工程と、前記塗工液を前記基材の少なくとも一方の面に塗工し、その後、塗工された前記塗工液を乾燥するインク受容層形成工程と、を有することを特徴とする記録媒体の製造方法が提供される。
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発色性及び耐光性に優れた画像を記録することが可能なインクジェット用の記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<記録媒体>
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明の記録媒体は、基材と、この基材に設けられたインク受容層とを有するインクジェット用の記録媒体である。インク受容層は、湿式シリカ、バインダ、下記一般式(1)で表される紫外線吸収剤、及び界面活性剤を含有する。また、インク受容層中、湿式シリカ100質量部に対する、紫外線吸収剤の含有量は、10質量部以上20質量部以下である。そして、界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。以下、本発明の記録媒体を構成する各成分などについて説明する。
【0011】
(前記一般式(1)中、R
1は、水素原子又はハロゲン原子を表し、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、エステル基を含むアルキル基、又はアルキルフェニル基を表す)
【0012】
(基材)
基材としては、紙基材などの基材のみから構成される透気性基材や、基紙と樹脂層を有するもの、すなわち、基紙が樹脂で被覆されているものなどを挙げることができる。なかでも、基材のみから構成される透気性基材を用いることが好ましい。すなわち、紙基材やコットン基材のみを基材として用いることが、顔料インクの浸透性の観点から好ましい。透気性を有する基材を用いると、顔料インク中の溶剤成分が浸透しやすく、特定のインク受容層と組み合わせることで画像の発色性をより向上させることができる。
【0013】
基紙は、木材パルプを主原料とし、必要に応じてポリプロピレンなどの合成パルプや、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維を加えて抄紙される。木材パルプとしては広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹溶解パルプ(LDP)、針葉樹溶解パルプ(NDP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)などを挙げることができる。木材パルプのなかでも、短繊維成分の多いLBKP、NBSP、LBSP、NDP、LDPを用いることが好ましい。パルプとしては、不純物の少ない化学パルプ(硫酸塩パルプや亜硫酸塩パルプ)が好ましい。また、漂白処理して白色度を向上させたパルプも好ましい。基紙には、サイズ剤、白色顔料、紙力増強剤、蛍光増白剤、水分保持剤、分散剤、柔軟化剤などを適宜添加してもよい。
【0014】
プロ写真家やグラフィックデザイナー用の高級ファインアート紙として、自然な風合いや凹凸を表現するために、コットン原料を用いたコットン紙を基材とすることが好ましい。「コットン紙」は、繊維原料として、綿(コットン)を10質量%以上、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは100質量%含有するシート状物である。コットン紙には、綿以外の繊維原料として、木材パルプなどの通常の紙に含有される繊維原料を含有させてもよい。「綿」とは、ゼニアオイ科ワタ属Gossipiumの植物とその種子に生えている繊維をいい、具体的には、シーアイランド綿、エジプト綿、アップランド綿、アジア綿などを挙げることができる。綿は、長繊維でも短繊維(リンター)でもよく、記録媒体に要求される風合い等に応じて適宜選択される。綿は、通常、木材パルプと同様に蒸解処理や漂白処理がされてから繊維原料として用いられる。綿は、リグニンなどのセルロース以外の成分の含有量が少ない。このため、綿の蒸解処理や漂白処理の条件は、通常の木材パルプに対して施される処理条件に比して温和であってよい。具体的には、綿は、約5質量%アルカリ中で蒸解処理された後、次亜塩素酸などを用いた一段程度の漂白処理を施されてから用いられる。
【0015】
基材の厚さは、100μm以上800μm以下であることが好ましく、200μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。基材の厚さは、以下に示す方法にしたがって算出することができる。まず、マイクロトームで切り出した記録媒体の断面を走査型電子顕微鏡で観察する。そして、基材の任意の5点以上の厚さを測定し、その平均値を基材の厚さとする。なお、基材以外の層(膜)の厚さも同様の方法で算出する。
【0016】
基材の坪量は、150g/m2以上600g/m2以下であることが好ましく、200g/m2以上350g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0017】
自然な風合いや凹凸感を表現するという観点から、基材の内部に隙間が多く存在することが好ましい。すなわち、紙基材は低密度であることが好ましい。具体的には、JIS P 8118:2014で規定される基材の紙密度は、1.0g/cm3以下であることが好ましく、0.5g/cm3以上0.9g/cm3以下であることがさらに好ましい。また、0.6g/cm3以上0.8g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0018】
ISO535に記載のコッブ法(Cob60)による基材の浸透性は、5g/m2以上30g/m2以下であることが好ましく、5g/m2以上20g/m2以下であることがさらに好ましい。基材の浸透性が5g/m2以上であると、顔料インクの浸透性が特に良好となる。また、基材の浸透性が30g/m2以下であると、顔料インクをインク受容層の表面側に定着させやすくなり、画像の発色性をより高めることができる。
【0019】
JIS B 0601:2001で規定される基材表面の算術平均粗さRaは、記録媒体の表面の凹凸の質感の点から、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。
【0020】
(インク受容層)
記録媒体は、上記の基材に設けられたインク受容層を有する。インク受容層は単層であってもよく、2層以上の複層であってもよい。2層以上のインク受容層(基材側から、第1のインク受容層、第2のインク受容層、…、第nのインク受容層)を有することが、画像の発色性と耐光性を両立する上でより好ましい。インク受容層全体の厚さは、インク受容層の耐光性の点から、40μm以下であることが好ましく、36μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。また、インク受容層全体の厚さは、顔料インクで記録される画像の発色性の観点から、12μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、18μm以上であることが特に好ましい。
【0021】
インク受容層は、例えば、インク受容層に含有される材料を含む塗工液を調製し、調製した塗工液を塗工及び乾燥することで形成することができる。すなわち、インク受容層に含まれる材料は、インク受容層を形成するために用いる塗工液に含まれる材料と概ね同一であることが好ましい。インク受容層全体の塗工量は、耐光性の観点から、20g/m2以下であることが好ましい。また、発色性の観点から、10g/m2以上であることが好ましい。
【0022】
[湿式シリカ]
インク受容層は湿式シリカを含有する。2層以上のインク受容層を有する場合、2層以上のインク受容層(第1のインク受容層、第2のインク受容層、…)は、それぞれ湿式シリカを含有する。湿式シリカは、乾燥質量で、SiO2:93%以上、Al2O3:約5%以下、Na2O:約5%以下を含む粒子であり、いわゆるホワイトカーボン、シリカゲル、多孔性湿式シリカなどがある。
【0023】
シリカの製造方法は、乾式法と湿式法に大別される。乾式法には、燃焼法と加熱法がある。また、湿式法には、沈澱法とゲル法がある。乾式燃焼法は、一般に、気化させた四塩化ケイ素と水素を混合したものを1,600~2,000℃の空気中で燃焼させる方法であり、気相法とも呼ばれる。湿式沈澱法は、通常、ケイ酸ソーダと硫酸などを水溶液中で反応させてSiO2を沈澱させる方法であり、反応温度や酸の添加速度などの条件を設定することで、シリカの比表面積や一次粒子径などを調整することができる。シリカの二次粒子径や物性は、乾燥条件や粉砕条件によって微妙に変化する。湿式ゲル法は、一般に、ケイ酸ソーダと硫酸を同時添加などで反応させる方法であり、例えば、シラノール基の脱水縮合が進んで三次元的なヒドロゲル構造を有するシリカを得ることができる。湿式ゲル法によれば、一次粒子が比較的小さいヒドロゲル構造を有するとともに、比表面積の大きな二次粒子を得ることができる。反応条件などを設定して一次粒子の大きさを調整し、吸油量の異なる二次粒子径を製造することができる。
【0024】
湿式シリカの市販品としては、以下商品名で、AY-603(10μm)、BY-001(16μm)(以上、東ソー・シリカ製);SYLOID C807(7μm)、ED5(8μm)、C809(9μm)、CP510-10025(11μm)、CP4-9117(11μm)、C812(12μm)(以上、GRACE社製);GasilHP39(10μm)、GasilHP395(14μm)(以上、PQコーポレーション製);P78D(12μm)(以上、水澤化学製);などを挙げることができる。なお、商品名に付した括弧内の数値は、湿式シリカの平均粒子径である。湿式シリカの平均粒子径は、7μm以上であることが好ましい。
【0025】
本明細書における「平均粒子径」とは、レーザー回折式の粒子径分布測定装置(例えば、商品名「SALD-2300」(島津製作所製)など)を使用して測定及び算出される体積平均粒子径を意味する。湿式シリカは、通常、一次粒子が会合して形成された二次粒子の状態で存在する。このため、上記の「平均粒子径」は、「体積平均二次粒子径」を意味する。
【0026】
湿式シリカの細孔容積は、インク吸収性の観点から、1.3mL/g以上であることが好ましく、1.6mL/g以上であることがさらに好ましい。湿式シリカの比表面積は、200m2/g以上400m2/g以下であることが好ましい。また、基材側から、第1のインク受容層、第2のインク受容層の順に、2つのインク受容層を有する場合を想定する。この場合、第1のインク受容層に含有される湿式シリカ(A)と、第2のインク受容層に含有される湿式シリカ(B)は、下記式(I)及び(II)の関係を満たすことが好ましい。
3.0nm≦(rA-rB)≦6.0nm ・・・(I)
VA>VB ・・・(II)
【0027】
前記式(I)中、rAは湿式シリカ(A)の平均細孔半径を表し、rBは湿式シリカ(B)の平均細孔半径を表す。前記式(II)中、VAは湿式シリカ(A)の細孔容積を表し、VBは湿式シリカ(B)の細孔容積を表す。湿式シリカ(A)の細孔容積VAは、1.5mL/g以上であることが好ましい。また、湿式シリカ(B)の細孔容積VBは、1.0mL/g以上であることが好ましい。前記式(I)及び(II)の関係を満たす市販の湿式シリカの組み合わせとしては、例えば以下のものを挙げることができる。すなわち、湿式シリカ(A)としては、商品名「GasilHP39」(PQコーポレーション製、平均粒子径10μm、細孔容積1.8mL/g、平均細孔半径8.7nm)などがある。また、湿式シリカ(B)としては、商品名「GasilEBN」(PQコーポレーション製、平均粒子径8μm、細孔容積1.2mL/g、平均細孔半径4.0nm)などがある。
【0028】
[その他無機顔料]
インク受容層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、湿式シリカ以外の無機顔料(その他の無機顔料)をさらに含有させることができる。その他の無機顔料としては、アルミナ水和物、気相法シリカなどを挙げることができる。
【0029】
アルミナ水和物は、下記一般式(X)で表されるものが好ましい。
Al2O3-n(OH)2n・mH2O ・・・(X)
【0030】
一般式(X)中、nは0、1、2、又は3を表し、mは0~10、好ましくは0~5の数を表す。但し、mとnが同時に0となることはない。mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水を意味する。このため、mは整数又は整数以外の数である。また、加熱することでmが0になることがある。
【0031】
アルミナ水和物の結晶構造としては、熱処理する温度に応じて、非晶質、キブサイト型、及びベーマイト型がある。いずれの結晶構造を有するアルミナ水和物であっても用いることができる。なかでも、ベーマイト型の構造を有するアルミナ水和物、及び非晶質のアルミナ水和物が好ましい。アルミナ水和物の具体例としては、特開平7-232473号公報、特開平8-132731号公報、特開平9-66664号公報、特開平9-76628号公報などに記載されたアルミナ水和物を挙げることができる。
【0032】
インク受容層全体の平均細孔半径が、好ましくは7.0nm以上10.0nm以下、さらに好ましくは8.0nm以上となるアルミナ水和物を用いる。インク受容層全体の平均細孔半径が7.0nm以上10.0nm以下であると、インク吸収性が向上するとともに、画像の発色性をより高めることができる。インク受容層全体の平均細孔半径が7.0nm未満であると、アルミナ水和物に対するバインダの量を調整したとしても、インク吸収性が不足しやすくなる場合がある。一方、インク受容層全体の平均細孔半径が10.0nm超であると、インク受容層のヘイズが大きくなり、画像の発色性がやや不十分になる場合がある。また、インク受容層には、半径25.0nm以上の細孔が存在しないことが好ましい。25.0nm以上の細孔がインク受容層に存在すると、インク受容層のヘイズが大きくなり、画像の発色性がやや不足する場合がある。
【0033】
インク受容層が、基材側に設けられる第1のインク受容層と、第1のインク受容層上に設けられる第2のインク受容層とを含む場合について想定する。この場合において、第2のインク受容層にアルミナ水和物を含有させる際には、第2のインク受容層中のアルミナ水和物の含有量は、湿式シリカの全体の含有量の20質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
[バインダ]
インク受容層は、湿式シリカを結着してインク受容層を形成しうる材料であるバインダを含有する。バインダとしては、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、ポリビニルアルコール、及びそれらの誘導体;ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体などの共役重合体ラテックス;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの重合体などのアクリル系重合体ラテックス;エチレン-酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックス;上記の重合体のカルボキシ基などの官能基を変性した官能基変性重合体ラテックス;カチオン基を用いて上記の重合体をカチオン化したもの;カチオン性界面活性剤を用いて上記の重合体の表面をカチオン化したもの;カチオン性ポリビニルアルコール下で上記の重合体を構成するモノマーを重合し、重合体の表面にポリビニルアルコールを分布させたもの;カチオン性コロイド粒子の懸濁分散液中で上記の重合体を構成するモノマーを重合し、重合体の表面にカチオン性コロイド粒子を分布させたもの;メラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂などの水性バインダ;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの重合体及び共重合体;ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂などの合成樹脂;などを挙げることができる。
【0035】
なかでも、ポリビニルアルコールやポリビニルアルコール誘導体を用いることが好ましい。ポリビニルアルコール誘導体としては、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなどを挙げることができる。カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61-10483号公報に記載されているような、第1~3級アミノ基又は第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖又は側鎖中に有するものが好ましい。
【0036】
第2のインク受容層には、シラノール変性ポリビニルアルコールと、ケン化度98mol%以上のポリビニルアルコールとを含有させることが、インク受容層の強度を高めることができるために好ましい。第2のインク受容層中、シラノール変性ポリビニルアルコールの含有量(A)と、ケン化度98mol%以上のポリビニルアルコールの含有量(B)との質量比率(A/B)は、20/80以上80/20以下であることが好ましい。上記の質量比率とすることで、ことで、インク受容層の強度及び浸透性をさらに向上させることができる。
【0037】
[カチオン性ポリマー]
インク受容層には、カチオン性ポリマーを含有させることが好ましい。カチオン性ポリマーは、湿式シリカの分散液中で湿式シリカの分散剤として機能しうる成分である。また、カチオン性ポリマーを含有させると、バインダ(特に、ポリビニルアルコール)との相乗効果により、インク受容層の塗膜強度を高めることができる。さらに、第1のインク受容層にカチオン性ポリマーを含有させると、インク受容層と基材との密着性が向上し、インク受容層の塗膜強度を高めることができる。
【0038】
インク受容層中、カチオン性ポリマーの含有量は、インク受容層の強度及び発色性の観点から、湿式シリカの含有量に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。また、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
【0039】
カチオン性ポリマーとしては、ポリビニルピリジン塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリビニルイミダゾール、ポリビグアニド、ポリグアニド、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ジシアンジアミド-ポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリアルキレンポリアミン-ジシアンジアミドアンモニウム縮合物、ジシアンジアミド-ホルマリン縮合物、エピクロロヒドリン-ジアルキルアミンの付加ポリマー、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド及びジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化イオウのコポリマー、及びこれらの誘導体などを挙げることができる。なかでも、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミンが、発色性と塗膜強度を両立させる観点から好ましく、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドが特に好ましい。
【0040】
カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、2,000以上100,000以下であることが好ましく、5,000以上100,000以下であることが、発色性と塗膜強度を両立させる観点からさらに好ましい。また、10,000以上100,000以下であることが特に好ましい。
【0041】
[紫外線吸収剤]
インク受容層は、下記一般式(1)で表される紫外線吸収剤を含有する。一般的な紫外線吸収剤には、ヒドロキシベンゾトリアゾール系、ヒドロキシトリアジン系、ベンゾフェノール系などの種類がある。また、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノールなどのラジカル捕捉剤も紫外線吸収剤と呼ばれることがある。これに対して、本実施形態の記録媒体を構成するインク受容層に含有させる紫外線吸収剤は、下記一般式(1)で表される、ヒドロキシベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤のなかでも限られた構造を有する化合物である。
【0042】
(前記一般式(1)中、R
1は、水素原子又はハロゲン原子を表し、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、エステル基を含むアルキル基、又はアルキルフェニル基を表す)
【0043】
一般式(1)中、R1で表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などを挙げることができる。一般式(1)中、R2及びR3で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などを挙げることができる。一般式(1)中、R2及びR3で表されるエステル基を含むアルキル基としては、-R4-COO-R5で表される基などを挙げられる。ここで、R4はアルキレン基を表し、R5はアルキル基を表す。R4で表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基などを挙げることができる。R5で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基などを挙げることができる。
【0044】
一般式(1)で表される紫外線吸収剤の具体例としては、2-(2H-benzotriazol-2-yl)-4-methyl-6-dodecylphenol(商品名:Tinuvin 571)、2-(2H-benzotriazol-2-yl)-p-cresol(商品名:Tinuvin P)、2-(5-tert-butyl-2-hydroxyphenyl)benzotriazole(商品名:TinuvinPS)、2-(5-chloro-2-benzotriazolyl)-6-tert-butyl-p-cresol(商品名:Tinuvin 326)、3-(2H-benzotriazol-2-yl)-5-(1,1-dimethylethyl)-4-hydroxy-benzenepropanoic acid, C7-C9-branched and linear alkyl esters(商品名:Tinuvin 384-2)、2-(2H-benzotriazol-2-yl)-4,6-bis(1-methyl-1-phenylethyl)phenol(商品名:Tinuvin 234)、2-(2H-benzotriazol-2-yl)-6-(1-methyl-1-phenylethyl)-4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol(商品名:Tinuvin 928)、2-(2H-benzotriazol-2-yl)-4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol(商品名:Tinuvin 329FL)、2-(2’-hydroxy-3’,5’-di-tert-butylphenyl)-5-chlorobenzotriazole(商品名:Tinuvin 327)(以上、BASF製)などを挙げることができる。
【0045】
また、下記式(1-1)~(1-9)で表される紫外線吸収剤1~9が好ましい。なお、下記式(1-5)中の「-(C7H15-C9H19)」は、「-C7H15」、「-C8H17」、及び「-C9H19」のいずれかの基であることを意味する。
【0046】
【0047】
【0048】
インク受容層中、湿式シリカ100質量部に対する、紫外線吸収剤の含有量は、10質量部以上20質量部以下であり、好ましくは12質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは16質量部以上である。紫外線吸収剤の含有量が少なすぎると、画像を商品として販売する分野向けの耐光性を発現させることが困難になる。一方、紫外線吸収剤の含有量が多すぎても、画像の耐光性はそれ以上向上しない。また、紫外線吸収剤の含有量が多すぎると、インク受容層の透明性が低下しやすく、画像の発色性を向上させることが困難になる。
【0049】
検討の結果、本発明者らは、一般式(1)で表される紫外線吸収剤と、界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルとを併用することで、画像の耐光性が相乗的に向上することを見出した。このような効果が得られるメカニズムの詳細については必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。一般式(1)で表される紫外線吸収剤は、塗工液を乾燥させてインク受容層が形成される過程で、界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)とともにインク受容層の隅々にまで拡散する。これにより、より効率的に紫外線を吸収可能になると考えられる。特に、顔料インクで画像を記録する場合、インク受容層の表層付近において顔料の存在量が多くなる。このため、一般式(1)で表される紫外線吸収剤と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは、インク受容層の表層付近に効率的に拡散しやすい組み合わせであると推測される。
【0050】
融点が比較的低い紫外線吸収剤を用いると、画像の耐光性をより向上させることができるために好ましい。具体的には、一般式(1)で表される紫外線吸収剤の融点は、140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、110℃以下であることが特に好ましい。
【0051】
紫外線吸収剤は、光や熱によって分解などして劣化する場合がある。このため、光や熱などで劣化しにくい紫外線吸収剤を用いることで、画像の耐光性をより高めることができる。検討の結果、本発明者らは、一般式(1)で表される紫外線吸収剤は分子量が大きいほど劣化しにくいことを見出した。具体的には、一般式(1)で表される紫外線吸収剤の分子量は、300以上であることが好ましく、330以上であることがさらに好ましく、350以上500以下であることが特に好ましい。
【0052】
本実施形態の記録媒体に紫外線吸収剤として用いられない化合物を下記式(2)~(6)に例示する。下記式(2)で表される紫外線吸収剤10及び下記式(3)で表される紫外線吸収剤11は、いずれもヒドロキシベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤である。但し、これらは二量体であり、一般式(1)で表される紫外線吸収剤に該当しない。このため、紫外線吸収剤10及び11のみを紫外線吸収剤としてインク受容層に含有させても、所望とする効果を得ることはできない。また、下記式(4)で表される紫外線吸収剤12はヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤であり、下記式(5)で表される紫外線吸収剤13及び下記式(6)で表される紫外線吸収剤14はベンゾフェノン系の紫外線吸収剤である。このため、紫外線吸収剤12~14のみを紫外線吸収剤としてインク受容層に含有させても、所望とする効果を得ることはできない。
【0053】
【0054】
[界面活性剤]
インク受容層は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを界面活性剤として含有する。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、下記一般式(Y)で表される化合物である。下記一般式(Y)中、Rはアルキレン基を表し、mはアルキル基の鎖長を表し、nは酸化アルキレンの付加モル数を表す。また、Rは異なるアルキレン基を複数有していてもよい。例えば、R-Oはエチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットの両方を有する場合も含む。界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを所定の紫外線吸収剤とともにインク受容層に含有させることで、画像の耐光性を高めることができる。
H2m+1Cm-O-(R-O)n-H ・・・(Y)
【0055】
塗工液中の紫外線吸収剤をインク受容層の隅々にまで拡散させるには、水性化した状態の紫外線吸収剤と、湿式シリカやバインダなどのインク受容層中の他の成分との相溶性を高めることが必要である。このため、界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルによって紫外線吸収剤を乳化し、塗工液中で水分散した状態とする。これにより、インク受容層が形成される過程で紫外線吸収剤の乳化状態が破壊された後であっても、紫外線吸収剤と湿式シリカなどの成分との相溶状態が維持される。このため、表層付近を含むインク受容層の隅々にまで紫外線吸収剤を拡散させることが可能となり、画像の耐光性を向上させることができると考えられる。紫外線吸収剤の乳化方法としては、例えば、水、界面活性剤、及び紫外線吸収剤を混合した後、強撹拌してエマルション化する通常の乳化方法などがある。また、界面活性剤と紫外線吸収剤を先に混合した後、得られた混合物を撹拌しながら、水を少しずつ添加して乳化する、いわゆる転相乳化法であってもよい。
【0056】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを挙げることができる。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンセチルエーテル及びポリオキシエチレンラウリルエーテルが、紫外線吸収剤との相溶性の点で好ましい。
【0057】
紫外線吸収剤との相溶性の観点から、界面活性剤のHLB値は8.0以上13.0以下であることが好ましい。界面活性剤のHLB値は、下記式(Z)で表されるグリフィンの式により求められる値である。
HLB値=(親水基の分子量/界面活性剤全体の分子量)×20 ・・・(Z)
【0058】
インク受容層中、界面活性剤の含有量(質量部)は、紫外線吸収剤の含有量(質量部)に対する質量比率で、0.2倍以上1.0倍以下であることが好ましく、0.2倍以上0.6倍以下であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量を上記の範囲とすることで、画像の発色性と耐光性を両立しながらさらに向上させることができる。
【0059】
[その他の添加剤]
インク受容層には、上述の各種成分以外のその他の添加剤を含有させてもよい。その他の添加剤としては、多価金属塩、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、界面活性剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料定着剤、硬化剤、耐候材料などを挙げることができる。
【0060】
(バックコート層)
基材のインク受容層が設けられる面と反対側の面に、ハンドリング性、搬送適性、多数枚積載での連続印字時の耐搬送擦過性を向上すべく、バックコート層を設けることが好ましい。バックコート層は、白色顔料やバインダなどを含有することが好ましい。バックコート層の厚さは、乾燥塗工量が0.2g/m2以上2g/m2以下となる厚さであることが好ましい。
【0061】
(顔料インクの打ち込み量)
本実施形態の記録媒体は、顔料インクを具備するプロフェッショナル仕様のインクジェット記録装置で好適に用いられるインクジェット用の記録媒体である。プロカメラマンなどがファインアートの分野で利用する顔料インクを具備するインクジェット記録装置で記録される画像に対しては、極めて高い発色性が要求される。このため、単位面積当たりのインクの最大打ち込み量は、25g/m2以上40g/m2以下と非常に多い。このようにインクの打ち込み量が多い場合であっても、本実施形態の記録媒体を用いれば、発色性及び耐光性に優れた画像を記録することができる。
【0062】
<記録媒体の製造方法>
記録媒体は、例えば、以下の各工程を有する製造方法により製造することができる。すなわち、記録媒体の製造方法は、インク受容層形成用の塗工液を調製する工程(塗工液調製工程)と、塗工液を基材の少なくとも一方の面に塗工した後、塗工した塗工液を乾燥する工程(インク受容層形成工程)とを有する。以下、記録媒体の製造方法について説明する。
【0063】
(塗工液調製工程)
塗工液調製工程では、湿式シリカ、バインダ、一般式(1)で表される紫外線吸収剤、及び界面活性剤を含有する塗工液を調製する。無機粒子である湿式シリカは、分散剤によって液媒体中に分散された、いわゆる分散液の状態で塗工液に用いられることが好ましい。液媒体中に無機粒子を分散させる際には、ホモミキサー、アジテーター、ボールミル、超音波分散機などを使用することができる。
【0064】
調製した無機粒子の分散液と、バインダ、紫外線吸収剤、界面活性剤、及びその他の成分などとを混合することで、インク受容層用の塗工液を得ることができる。塗工液には、必要に応じて、多価金属塩、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、界面活性剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料定着剤、硬化剤、耐候材料などを含有させることができる。
【0065】
(インク受容層形成工程)
インク受容層形成工程では、調製した塗工液を基材の少なくとも一方の面に塗工した後、塗工した塗工液を乾燥する。これにより、インク受容層が形成され、目的とする記録媒体を得ることができる。
【0066】
基材は、抄紙装置を使用する一般的な抄紙方法により作製することができる。抄紙装置としては、長網抄紙機、丸網抄紙機、円胴、ツインワイヤーなどを挙げることができる。基材の表面平滑性を高めるために、抄紙工程中又は抄紙工程後に、熱及び圧力を加えて表面処理してもよい。具体的な表面処理方法としては、マシンカレンダーやスーパーカレンダーなどのカレンダー処理方法を挙げることができる。
【0067】
基材の表面に塗工液を塗工するには、公知の塗工方式を用いることができる。公知の塗工方式としては、スロットダイ方式、スライドビード方式、カーテン方式、エクストルージョン方式、エアナイフ方式、ロールコーティング方式、ロッドバーコーティング方式などを挙げることができる。
【0068】
基材の表面に塗工した塗工液を乾燥すれば、インク受容層を形成することができる。塗工液の乾燥には、例えば、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤーなどの熱風乾燥機を使用することができる。また、赤外線、加熱ドライヤー、マイクロ波などを利用した乾燥機などを使用することもできる。これらの乾燥機を適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは、特に断らない限り質量基準である。
【0070】
<基材の製造>
コットンリンターパルプをダブルディスクリファイナーで叩解し、カナダ標準濾水度330mLのパルプを得た。得られたパルプ100部、カチオン化澱粉0.6部、重質炭酸カルシウム10部、軽質炭酸カルシウム15部、アルキルケテンダイマー0.2部、及びカチオン性ポリアクリルアミド0.05部を混合した。固形分の含有量が3.0%となるように水を加えて、紙料を得た。長網抄紙機を使用して得られた紙料を抄造した後、3段のウエットプレスを行い、多筒式ドライヤーを使用して乾燥した。次いで、サイズプレス装置を使用して、乾燥後の固形分が1.0g/m2となるように酸化澱粉水溶液を含浸させた後に乾燥した。次いで、マシンカレンダー仕上げを実施して基材を得た。得られた基材の物性を以下に示す。なお、JIS B 0601:2001で規定される基材表面の算術平均粗さRa(カットオフ値0.8mm)は、1.5μmであった。
・坪量:320g/m2
・コッブサイズ度:15g/m2(Cob60)
・透気度:50秒
・ベック平滑度:0.5秒
・ガーレー剛度:15.0mN
・厚さ:400μm
・紙密度:0.85
【0071】
<各成分の用意>
(紫外線吸収剤)
表1に示す種類の紫外線吸収剤1~13を用意した。
【0072】
【0073】
(界面活性剤)
表2に示す種類の界面活性剤を用意した。
【0074】
【0075】
<記録媒体の製造>
(実施例1)
[紫外線吸収剤の乳化物の調製]
紫外線吸収剤1 100部、界面活性剤1 50部、及び水100部を混合して混合物を得た。乳化機(商品名「クレアミックス」、エム・テクニック製)を使用し、得られた混合物を15,000rpmで1時間撹拌して、紫外線吸収剤の乳化物を得た。レーザー回折式の粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、島津製作所製)を使用して測定した乳化物中の粒子の平均粒子径は、1.5μmであった。
【0076】
[第1の塗工液の調製]
純水に、湿式シリカ(商品名「GasilHP39」、PQ Cooperation製、平均粒子径10μm)100部、カチオン性ポリマー5部を添加した。カチオン性ポリマーとしては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(商品名「CatioFastBP」、BASF製、重量平均分子量80,000)を用いた。さらに水を加えた後、ミキサーを使用して30分間撹拌し、分散液を得た。レーザー回折式の粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、島津製作所製)を使用して測定した分散液中の湿式シリカの平均粒子径は、10.0μmであった。得られた分散液に、バインダと紫外線吸収剤の乳化物を、湿式シリカ100部に対して、バインダが40部、紫外線吸収剤1が15部、及び界面活性剤1が7.5部となるようにそれぞれ添加した。バインダとしては、ポリビニルアルコール(商品名「PVA235」、クラレ製、重合度3,500、ケン化度98モル%)を用いた。ミキサーを使用して30分間撹拌し、第1の塗工液を得た。
【0077】
[第1のインク受容層の形成]
エアナイフを用いて第1の塗工液を基材の表面側に塗工した後、形成された塗工層を乾燥してインク受容層を形成し、記録媒体を得た。第1の塗工液の塗工量は、14g/m2とした。形成したインク受容層の厚さは、28μmであった。JIS B 0601:2001で規定されるインク受容層の最表面の算術平均粗さRa(カットオフ値0.8mm)は、1.5μmであった。
【0078】
(実施例2~24、比較例1~9)
表3-1及び3-2に示す種類及び量の各成分を用いて第1の塗工液を調製したこと以外は、前述の実施例1と同様にして第1のインク受容層を形成して記録媒体を製造した。
【0079】
【0080】
【0081】
(実施例25~27)
表4の「第1のインク受容層」に示す種類及び量の各成分を用いて第1の塗工液を調製したこと以外は、前述の実施例1と同様にして第1のインク受容層を形成した。さらに、表4の「第2のインク受容層」に示す種類及び量の各成分を用いて第2の塗工液を調製したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、第1のインク受容層の表面上に第2のインク受容層を形成して記録媒体を製造した。JIS B 0601:2001で規定される、インク受容層の最表面の算術平均粗さRa(カットオフ値0.8mm)は、1.5μmであった。
【0082】
【0083】
<評価>
インクジェット記録装置として、商品名「ImagePROGRAF Pro-1000」(キヤノン製)を用意した。また、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の4色の顔料インクを用意した。このインクジェット記録装置では、解像度1,200dpi×1,200dpiで1/1,200インチ×1/1,200インチの単位領域に約4ngのインクを1滴付与する条件で記録された画像を、記録デューティが100%であると定義する。上記のインクジェット記録装置を使用し、ファインアートスムース、色補正無しの印字モードで記録媒体に各色の画像を記録した。以下に示す各項目の評価基準において、「AA」、「A」、「B」、及び「C」を好ましいレベルとし、「D」を許容できないレベルとした。
【0084】
(発色性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の4色のベタ画像を各記録媒体に記録した。蛍光分光濃度計(商品名「FD-7」、コニカミノルタジャパン製)を使用して記録した各色画像のO.D.値を測定し、以下に示す評価基準にしたがって画像の発色性を評価した結果を表5に示す。なお、各色画像のO.D.値のうち、最も高いランクのO.D値を評価ランクとして採用した。
AA:Bk1.65以上、C1.40以上、M1.30以上、Y1.45以上
A:Bk1.63以上、C1.38以上、M1.28以上、Y1.43以上
B:Bk1.61以上、C1.36以上、M1.26以上、Y1.41以上
C:Bk1.59以上、C1.34以上、M1.24以上、Y1.39以上
D:Bk1.59未満、C1.34未満、M1.24未満、Y1.39未満
【0085】
(耐光性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の4色のベタ画像を各記録媒体に記録した。耐候性試験機(商品名「スーパーキセノンウエザーメーターSX75」、スガ試験機製)を使用し、照度180W/m2、ブラックパネル温度60度、層内湿度50%の条件で耐光性試験を実施した。各色画像のO.D.値(初期値)が「0.6」、「1.0」、及び「最大値」である3箇所について、試験後のO.D.値が初期値の70%にまで低下した時点(日数)を寿命と判断し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐光性を評価した。結果を表5に示す。
AA:150日以上(150年相当以上)
A:125日以上150日未満(125年相当以上)
B:100日以上125日未満(100年相当以上)
C:80日以上100日未満(80年相当以上)
D:80日未満(80年相当未満)
【0086】