(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】連続焼成炉及び連続焼成方法
(51)【国際特許分類】
F27B 9/40 20060101AFI20240430BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240430BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
F27B9/40
G05B11/36 J
F27D19/00 A
F27D19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020039948
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】辻本 尚司
(72)【発明者】
【氏名】大野 一茂
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-298404(JP,A)
【文献】特表2002-501576(JP,A)
【文献】特開昭58-208582(JP,A)
【文献】特開平04-270884(JP,A)
【文献】特開2002-287803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/00 - 9/40
F27D 17/00 -99/00
C21D 1/00
C04B 35/622-35/84
G05B 11/00 -13/04
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口部及び出口部を有するマッフル内で被焼成体を前記入口部から前記出口部に向かって移動させながら連続的に焼成する連続焼成炉であって、
焼成中の前記連続焼成炉内の状態を検出する検出部と、
学習済みの学習器を用いて前記検出部が検出した情報から焼成条件を判定する判定部と
、
前記被焼成体の焼成後の状態を元にして、前記学習器をさらに学習させる学習部とを有することを特徴とする連続焼成炉。
【請求項2】
前記検出部は、前記マッフル内の温度、及び、前記マッフル内の雰囲気の少なくとも一方を検出
し、
前記マッフル内の雰囲気は、前記マッフル内のガスの種類とその濃度である請求項1に記載の連続焼成炉。
【請求項3】
前記判定部の判定結果を元にして、焼成条件の変更を指示する指示部を有する請求項1又は2に記載の連続焼成炉。
【請求項4】
入口部及び出口部を有するマッフル内で被焼成体を前記入口部から前記出口部に向かって移動させながら連続的に焼成する連続焼成方法であって、
検出部において、焼成中の連続焼成炉内の状態を検出し、
判定部において、学習済みの学習器を用いて前記検出部が検出した情報から焼成条件を判定
し、
前記被焼成体の焼成後の状態を元にして、学習部において前記学習器をさらに学習させることを特徴とする連続焼成方法。
【請求項5】
前記検出部は、前記マッフル内の温度、及び、前記マッフル内の雰囲気の少なくとも一方を検出
し、
前記マッフル内の雰囲気は、前記マッフル内のガスの種類とその濃度である請求項
4に記載の連続焼成方法。
【請求項6】
前記判定部の判定結果を元にして、指示部において焼成条件の変更を指示する請求項
4又は
5に記載の連続焼成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続焼成炉及び連続焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、被焼成体である脱脂体を搬入口から炉内に連続的に搬入し、マッフル内を移動させながら連続的に焼成して、焼成体を搬出口から連続的に搬出する連続焼成炉について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等の連続焼成炉は、マッフル内において脱脂体を移動させながら焼成を行うため、マッフルの長さが相対的に長くなる。そのため、マッフル内の温度や雰囲気等の焼成条件を、焼成に適した状態に管理することが難しいという課題があった。また、焼成後の焼成体を測定しなければ焼成条件の良否を判定することが難しいため、判定結果が出るまでに時間を要する。仮に、判定結果にともない焼成条件を変更する必要が生じた場合に、炉内を移動中の脱脂体が無駄になる虞があった。本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼成条件の管理を容易に行うことを可能にした連続焼成炉及び連続焼成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の連続焼成炉は、入口部及び出口部を有するマッフル内で被焼成体を上記入口部から上記出口部に向かって移動させながら連続的に焼成する連続焼成炉であって、焼成中の上記連続焼成炉内の状態を検出する検出部と、学習済みの学習器を用いて上記検出部が検出した情報から焼成条件を判定する判定部とを有することを要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、判定部において、学習済みの学習器を用いて検出部が検出した情報を判定することにより、より迅速、且つ、より正確に焼成条件を判定することが可能になる。そのため、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
【0007】
本発明の連続焼成炉について、上記検出部は、上記マッフル内の温度、及び、上記マッフル内の雰囲気の少なくとも一方を検出することが好ましい。この構成によれば、焼成具合に及ぼす影響が大きいマッフル内の温度、及び、マッフル内の雰囲気の少なくとも一方を検出することにより、焼成条件をより正確に判定することが可能になる。
【0008】
本発明の連続焼成炉について、上記判定部の判定結果を元にして、焼成条件の変更を指示する指示部を有することが好ましい。この構成によれば、指示部の指示に従って焼成条件を変更することにより、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
【0009】
本発明の連続焼成炉について、上記被焼成体の焼成後の状態を元にして、上記学習器をさらに学習させる学習部を有することが好ましい。この構成によれば、判定部における判定結果の精度を向上させることができる。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の連続焼成方法は、入口部及び出口部を有するマッフル内で被焼成体を上記入口部から上記出口部に向かって移動させながら連続的に焼成する連続焼成方法であって、検出部において、焼成中の上記連続焼成炉内の状態を検出し、判定部において、学習済みの学習器を用いて上記検出部が検出した情報から焼成条件を判定することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、学習済みの学習器を用いて検出部が検出した情報を判定することにより、より迅速、且つ、より正確に焼成条件を判定することが可能になる。そのため、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
【0012】
本発明の連続焼成方法について、上記検出部は、上記マッフル内の温度、及び、上記マッフル内の雰囲気の少なくとも一方を検出することが好ましい。この構成によれば、焼成具合に及ぼす影響が大きいマッフル内の温度、及び、マッフル内の雰囲気の少なくとも一方を検出することにより、焼成条件をより正確に判定することが可能になる。
【0013】
本発明の連続焼成方法について、上記判定部の判定結果を元にして、指示部において焼成条件の変更を指示することが好ましい。この構成によれば、指示部の指示に従って焼成条件を変更することにより、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
【0014】
本発明の連続焼成方法について、上記被焼成体の焼成後の状態を元にして、学習部において上記学習器をさらに学習させることが好ましい。この構成によれば、判定部における判定結果の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の連続焼成炉及び連続焼成方法によれば、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は連続焼成炉の水平断面図、(b)は連続焼成炉の縦断面図。
【
図2】連続焼成炉の加熱室を幅方向に切断した縦断面図。
【
図3】連続焼成炉の予熱室を幅方向に切断した縦断面図。
【
図5】ハニカム構造体に用いる多孔質セラミック部材の斜視図。
【
図9】学習済みの学習器を用いた明度の予測値と、明度の実測値の相関図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
連続焼成炉の一実施形態を説明する。
図1(a)、(b)に示すように、連続焼成炉10は、外壁を構成する冷却ジャケット等の冷却用炉材11と、冷却用炉材11の内部に設けられた断熱材12と、断熱材12の内部に設けられた筒状のマッフル13とを備えており、マッフル13の軸方向に沿って全体が長く延びた形状を有している。被焼成体14(
図2参照)は、マッフル13内を移動しながら連続的に焼成されるように構成されている。
【0018】
連続焼成炉10は、焼成中の連続焼成炉10内の状態を検出する検出部としてのセンサ(図示省略)と、センサで検出された情報を取得するコンピュータ10aとを備えている。コンピュータ10aは、学習済みの学習器を有しており、学習済みの学習器を用いてセンサが検出した情報から焼成条件を判定することができるように構成されている。言い換えれば、コンピュータ10aは、学習済みの学習器を用いてセンサが検出した情報から焼成条件を判定する判定部を有している。
【0019】
さらに、コンピュータ10aは、判定部の判定結果を元にして、焼成条件の変更を指示する指示部と、被焼成体の焼成後の状態を元にして、学習器をさらに学習させる学習部を有している。検出部としてのセンサ、判定部、指示部、及び、学習部については後述する。
【0020】
連続焼成炉10の部材構成について説明する。
図1(a)、(b)に示すように、連続焼成炉10の冷却用炉材11の内部には、入口側脱気室(以下、「第1脱気室」ともいう。)20、予熱室21、加熱室22、徐冷室23、冷却室24、及び、出口側脱気室(以下、「第2脱気室」ともいう。)25がこの順で設けられている。
【0021】
第1脱気室20は、連続焼成炉10の長手方向の一端側の端部に設けられている。第1脱気室20の一端側の端部には、被焼成体14の搬入口(図示省略)が設けられている。第1脱気室20の他端側の端部には、予熱室21に連通する連通口20aが設けられている。連通口20aには、予熱室21との間を仕切る仕切扉20bが設けられている。
【0022】
第2脱気室25は、連続焼成炉10の長手方向の他端側の端部に設けられている。第2脱気室25の他端側の端部には、焼成された被焼成体(以下、単に「焼成体」ともいう。)の搬出口(図示省略)が設けられている。第2脱気室25の一端側の端部には、冷却室24に連通する連通口25aが設けられている。連通口25aには、冷却室24との間を仕切る仕切扉25bが設けられている。
【0023】
冷却用炉材11の内側において、第1脱気室20と第2脱気室25の間には、連続焼成炉10の長手方向に沿って断熱材12が配置されている。断熱材12の内側には、筒状のマッフル13が配置されている。
【0024】
図1(a)、(b)に示すように、マッフル13の一端側の端部は、第1脱気室20の連通口20aに位置するとともに、マッフル13の他端側の端部は、第2脱気室25の連通口25aに位置する。そのため、マッフル13の一端側の端部は被焼成体14の入口部として機能するとともに、マッフル13の他端側の端部は被焼成体14の出口部として機能する。マッフル13の内部に、予熱室21、加熱室22、徐冷室23、及び、冷却室24を構成する空間が設けられている。これらの空間は、マッフル13内において互いに連通している。
【0025】
図2、3に示すように、断熱材12は、マッフル13における冷却室24を構成する箇所の外側を除いて、予熱室21、加熱室22、及び、徐冷室23を構成する箇所の外側に配置されている。言い換えれば、断熱材12は、マッフル13における冷却室24を構成する箇所の外側には配置されていない。
【0026】
マッフル13における加熱室22を構成する箇所の外側であって、断熱材12との間には、所定の間隔をおいて複数のヒータ15が配置されている。複数のヒータ15は、端子15aを介して外部電源(図示省略)に接続されている。
【0027】
図2に示すように、加熱室22の外側に位置する冷却用炉材11には、導入管16が設けられている。この導入管16から冷却用炉材11と断熱材12の間に不活性ガスが導入される。不活性ガスは、断熱材12の隙間や断熱材12を通過して、マッフル13内に導入される。
【0028】
図3に示すように、予熱室21の外側に位置する冷却用炉材11、断熱材12、及び、マッフル13には、これらを貫通した状態で排気管17が設けられている。マッフル13内に導入された不活性ガスは、この排気管17から排出される。
【0029】
図2、3に示すように、被焼成体14は、蓋を有する箱型の焼成治具18内に載置され、この焼成治具18が複数積層された状態でマッフル13内を移動するように構成されている。以下、焼成治具18が複数積層されたものを積層治具19という。
【0030】
連続焼成炉10を用いた焼成手順について説明する。
図1(a)、(b)に示すように、被焼成体14が内部に載置された積層治具19を、連続焼成炉10の搬入口から第1脱気室20に搬入する。第1脱気室20内を脱気して内部を真空にした後、第1脱気室20内に不活性ガスを導入する。不活性ガスとしては特に限定されず、例えば、アルゴンガスを用いることができる。第1脱気室20内に不活性ガスを導入することにより、積層治具19の内部を不活性ガス雰囲気とする。
【0031】
同様に、連続焼成炉10の内部、具体的には、連続焼成炉10の外壁である冷却用炉材11の内部も不活性ガス雰囲気とする。これにより、マッフル13内における予熱室21、加熱室22、徐冷室23、及び、冷却室24も不活性ガス雰囲気となる。
【0032】
次に、第1脱気室20の仕切扉20bを開いて、連通口20aから積層治具19を予熱室21に進入させる。この際、積層治具19の後端側を搬送治具(図示省略)で押圧することにより、積層治具19は予熱室21内に移動する。予熱室21に進入した積層治具19は、加熱室22の外側に設けられたヒータ15の熱で加熱される。
【0033】
また、別の積層治具19を、第1脱気室20に搬入して、同様に第1脱気室20を不活性ガス雰囲気とする。この積層治具19を、搬送治具を用いて予熱室21に進入させる。この積層治具19を予熱室21に進入させる際に、最初に予熱室21に進入した積層治具19の後端側が押されることにより、最初に予熱室21に進入した積層治具19は加熱室22側に移動する。この操作を繰り返し行い、複数の積層治具19をマッフル内に進入させることによって、積層治具19はマッフル13内を第2脱気室25側に向かって間欠的に移動する。
【0034】
予熱室21に進入した積層治具19は、加熱室22のヒータ15の熱で徐々に加熱される。積層治具19が加熱室22側に移動するに伴い、積層治具19の温度は上昇する。積層治具19がある地点に到達した段階で、積層治具19の内部の温度は、被焼成体14の焼成温度に到達する。焼成温度に到達してから加熱室22を移動する間、被焼成体14は継続的に焼成される。
【0035】
マッフル13における徐冷室23の外側にはヒータ15は配置されていないため、積層治具19が徐冷室23に移動すると、積層治具19の温度は徐々に低下する。積層治具19は、徐冷室23から冷却室24へと移動するに伴いさらに冷却される。そして、搬送治具(図示省略)を用いて、積層治具19を連通口25aから第2脱気室25に退出させる。
【0036】
第2脱気室25内の雰囲気を不活性ガス雰囲気から大気雰囲気に戻した後、積層治具19を連続焼成炉10の搬出口から搬出させる。以上の手順によって被焼成体14を焼成することができる。
【0037】
被焼成体14について説明する。
連続焼成炉10で焼成する被焼成体14としては特に限定されないが、例えば、焼成されることによって炭化ケイ素を主成分に含む多孔質セラミック部材となる脱脂体を挙げることができる。ここで、脱脂体とは、炭化ケイ素の原料組成物を成形して得られた成形体を加熱して、成形体に含まれるバインダー等の有機物を消失させたものを意味するものとする。
【0038】
図4、5に示すように、多孔質セラミック30は、脱脂体を焼成して作製した複数の多孔質セラミック部材31を、シール材層を介して結束させる組立工程を行なうことによって作製される。
【0039】
図6に示すように、多孔質セラミック部材31には、長手方向に延びる複数の貫通孔32が形成されており、貫通孔32同士を隔てる隔壁33は多孔質に構成されている。隔壁33の平均気孔径は、例えば、5~25μmに設定される。複数の貫通孔32は、長手方向の両端部におけるいずれか一方が封止材34により封止されている。そのため、一の貫通孔32に流入したガスは、必ず貫通孔32同士を隔てる隔壁33を通過した後、他の貫通孔32から流出するように構成されている。
【0040】
一の貫通孔32に排気ガスを流入させると、排気ガスは貫通孔32同士を隔てる隔壁33を通過した後、他の貫通孔32から流出する。その際、排気ガス中の微粒子が隔壁33に捕捉されることによって排気ガスが浄化される。そのため、多孔質セラミック30は、粒子捕集用フィルタとして用いることができる。
【0041】
連続焼成炉10が備える検出部としてのセンサについて説明する。
連続焼成炉10の内部には、検出部としてのセンサが複数配置されている。
センサの種類としては特に限定されないが、例えば、温度センサ、ガスセンサ、電圧センサ、電流センサ、電力センサ、ガス流量センサ等が挙げられる。ガスセンサとしては、例えば、一酸化炭素濃度を測定するセンサや、酸素濃度を測定するセンサが挙げられる。
【0042】
各センサが取り付けられる場所は特に限定されないが、温度センサは、例えば、第1脱気室20内や第2脱気室25内に取り付けられて、各脱気室内の温度を検出してもよい。また、マッフル13内における予熱室21、加熱室22、徐冷室23、及び、冷却室24に取付けられて、各室の温度を検出してもよい。冷却用炉材11や断熱材12に取りつけられて冷却用炉材11や断熱材12の温度を検出してもよい。
【0043】
ガスセンサが取り付けられる場所は特に限定されないが、例えば、不活性ガスの導入管16や、排気管17に取り付けられて、ガスの濃度を検出してもよい。ガスセンサによって、連続焼成炉10内の雰囲気、特に、マッフル13内の雰囲気を検出することができる。
【0044】
電圧センサ、電流センサ、電力センサが取り付けられる場所は特に限定されないが、複数のヒータ15の端子15aに取り付けられて、複数のヒータ15の電圧、電流、電力を検出してもよい。
【0045】
ガス流量センサが取り付けられる場所は特に限定されないが、例えば、連続焼成炉10の不活性ガスの導入管16や排気管17に取り付けられて、連続焼成炉10内へのガス流入量及び連続焼成炉10内からのガス排出量を検出してもよい。
【0046】
上記各センサで検出された情報は、連続焼成炉10が備えるコンピュータ10aに有線通信、もしくは無線通信により送信されるように構成されている。複数のセンサが連続焼成炉10の内部に配置されていることにより、焼成中の連続焼成炉10内の状態を検出することが可能になる。
【0047】
判定部による判定機構について説明する。
判定部は、学習済みの学習器を用いて、センサが検出した情報から焼成条件を判定する。
【0048】
まず、学習済みの学習器は、センサが検出した情報を元にして、現在の焼成条件で焼成した場合における焼成体の明度を予測する。
ここで、焼成体の明度とは、焼成体の表面の色の明るさを意味するものとする。焼成体の明度は、焼成体の表面における光の反射率によって変化し、焼成体の表面をカメラで撮像することによって測定することができる。
【0049】
図7に示すように、焼成体の隔壁の平均気孔径と明度の実測値との間には、相関関係が存在する。具体的には、
図7に線形を示すように、焼成体の隔壁の平均気孔径が大きくなるにつれて、焼成体の明度は低下する傾向にある。
【0050】
図8に示すように、平均気孔径が8μmである焼成体(図中左側の電子顕微鏡写真)と、平均気孔径が12μmである焼成体(図中右側の電子顕微鏡写真)とを比較すると、平均気孔径が8μmの焼成体の方がより小さい気孔を多く有しているため光を反射しやすい。そのため、平均気孔径が12μmである焼成体に比べて、平均気孔径が8μmの焼成体の方が明度の値は大きくなる。
【0051】
焼成温度が低すぎたり、焼成時間が短すぎたりすると、焼成が不十分になって平均気孔径が小さくなりやすい。そのため、焼成体の明度は大きくなりやすい。逆に、焼成温度が高すぎたり、焼成時間が長すぎたりすると、焼成が進行して、平均気孔径が大きくなりやすい。そのため、焼成体の明度は小さくなりやすい。
【0052】
これにより、焼成条件を、焼成体の平均気孔径や明度によって評価することが可能になる。すなわち、焼成体の平均気孔径や明度がある数値範囲に収まっていると、焼成条件が良好であると判断することができる。
【0053】
特に、焼成体の明度は、比較的簡単に、且つ、短時間に取得することができる。例えば、焼成後の組立工程を行なう前に、全ての焼成体の表面をカメラで撮像して、全ての焼成体の明度を測定することもできる。学習器を機械学習させるための教師データを揃えることが容易になるため、学習器の予測精度を向上させることが容易になる。
【0054】
学習済みの学習器は、ニューラルネットワーク、決定木、判別分析等を利用して構築されている。これらの中でも、決定木を利用することが好ましく、決定木の一種であるランダムフォレストを利用して構築されていることがより好ましい。
【0055】
学習器は、センサが検出した情報と、実際に焼成された焼成体の明度とを教師データに用いて機械学習を行う。
図9に示すように、学習済みの学習器を用いて予測した焼成体の明度の予測値(図中の丸で示した値)は、線形を示すように、焼成体の明度の実測値に近い値となっており、精度良く焼成体の明度を予測することができている。
【0056】
次に、コンピュータ10aの判定部は、学習済みの学習器によって予測された焼成体の明度から、焼成条件を判定する。予測された焼成体の明度が、所定の数値範囲に収まっている場合、焼成条件を良と判定する。また、予測された焼成体の明度が、所定の数値範囲に収まっていない場合、焼成条件を否と判定する。
【0057】
焼成条件が良と判定された場合は、良である旨をコンピュータ10aのディスプレイに表示して焼成を継続する。コンピュータ10aのディスプレイに表示することに代えて、連続焼成炉10付近に別途表示部を設け、この表示部に表示してもよい。良と判定された場合はディスプレイに表示せず、後述の否と判定された場合のみ、ディスプレイに表示するように構成されていてもよい。
【0058】
焼成条件が否と判定された場合は、否である旨をコンピュータ10aのディスプレイに表示する。コンピュータ10aのディスプレイに代えて、連続焼成炉10付近に別途表示部を設け、この表示部に表示してもよい。また、光や音で周知させるように構成されていてもよい。
【0059】
さらに、焼成条件が否であると判定された場合、学習済みの学習器を用いて、予測した焼成体の明度を良好な数値範囲内に収めるために焼成条件をどのように変更すべきかを表示して、作業者に指示してもよい。そのため、コンピュータ10aは、焼成条件の変更を指示する指示部を有していてもよい。焼成条件の変更を指示することなく、自動的に焼成条件を変更するように構成されていてもよい。
【0060】
コンピュータ10aは、焼成体の明度の実測値を用いて、さらに学習器を学習させるように構成されていてもよい。そのため、コンピュータ10aは学習器をさらに学習させる学習部を有していてもよい。
【0061】
本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)学習済みの学習器を用いて焼成体の明度を予測して、明度の予測値を元に焼成条件を判定する。したがって、より迅速、且つ、より正確に焼成条件を判定することが可能になるため、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
【0062】
(2)焼成後の焼成体を用いて明度を測定したうえで、焼成条件を判定する場合、判定結果が出るまでに時間を要するため、連続焼成炉内を移動中の脱脂体が無駄になる虞がある。これに対し、本実施形態では、学習済みの学習器で焼成体の明度を予測して、焼成条件を判定しているため、より早いタイミングで判定結果を得ることができる。判定結果が出た段階で焼成条件を変更することにより、連続焼成炉内を移動中の脱脂体の無駄を低減することができる。
【0063】
(3)焼成具合に及ぼす影響が大きいマッフル内の温度、及び、マッフル内の雰囲気を検出することにより、焼成条件をより正確に判定することが可能になる。
(4)学習済みの学習器は、焼成体の明度を予測している。焼成体における明度の実測値は、比較的簡単に、且つ、短時間に取得することができるため、焼成体の全数に対して明度を測定することができる。したがって、学習器を機械学習させるための教師データを揃えることが容易であるため、学習器の予測精度を向上させることが容易になる。
【0064】
(5)焼成条件の変更を指示する指示部を有する。したがって、指示部の指示に従って焼成条件を変更することにより、焼成条件の管理を容易に行うことができる。
(6)焼成体の状態を元にして、学習器をさらに学習させる学習部を有する。したがって、判定部における判定結果の精度を向上させることができる。
【0065】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態において、被焼成体は、焼成されることによって炭化ケイ素を主成分に含む多孔質セラミック部材となる脱脂体であったがこの態様に限定されない。例えば、連続焼成炉において、成形体の脱脂と焼成を連続して行うことができるように構成されていれば、被焼成体は、炭化ケイ素を主成分に含む成形体であってもよい。
【0066】
・本実施形態において、センサは、マッフル内の温度と雰囲気の両方を検出していたが、この態様に限定されない。センサは、マッフル内の温度と雰囲気のいずれか一方を検出し、いずれか他方は検出しないように構成されていてもよい。
【0067】
・本実施形態において、学習済みの学習器は、焼成体の明度を予測していたが、この態様に限定されない。学習済みの学習器は、焼成条件を判定することができる他の要素を予測してもよい。他の要素としては、例えば、焼成体の平均気孔径や、焼成体の強度を挙げることができる。
【0068】
・本実施形態において、コンピュータの指示部は、焼成条件をどのように変更すべきかを指示していたが、この態様に限定されない。コンピュータの指示部は、焼成条件を変更すべき旨のみを指示して、焼成条件をどのように変更すべきかまでは指示しないものであってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…連続焼成炉、13…マッフル、14…被焼成体。