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▶ 理研ビタミン株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】離型油
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
A23D9/00 508
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020057460
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021153491
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 尚美
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-279751(JP,A)
【文献】特開2007-306840(JP,A)
【文献】特開2012-249621(JP,A)
【文献】特開2001-299197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びクエン酸モノグリセリドを含有する油脂組成物である離型油であって、該離型油100質量%中、酵素処理レシチンの含有量が1~3質量%であり、酵素処理レシチン以外のレシチンの含有量が3~7質量%であり、クエン酸モノグリセリドの含有量が1~5質量%であることを特徴とする離型油(但し、酵素処理レシチンの含有量が3質量%のものを除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の加熱調理に使用される離型油に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄板、フライパン等の調理器具により肉、野菜等の食品材料を加熱調理する場合、調理器具への食品材料の焦げ付きを防止し、調理器具からの食品材料の離型性を高めるため、食用油脂に大豆、卵黄等から得られるレシチンを添加したレシチン含有油脂組成物を使用することが従来行われている。しかしながら、レシチン含有油脂組成物は、常温以下での保存安定性が悪く、またレシチン特有の風味が加熱調理される食品の風味を大きく損なう虞があるために添加量を増やせず、結果として十分な離型性が得られないという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、例えば、常温で液状の油脂に0.1~10重量%のレシチン(酵素処理レシチンを除く)とレシチン中のリン脂質重量の20~500重量%のポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及び同じく1~350重量%の主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である脂肪酸モノグリセリドとを透明に溶解してなる油脂組成物(特許文献1)、食用液状油脂にラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸の中から選ばれた少なくとも1種以上の構成脂肪酸を70%以上含有するプロピレングリコールモノ及び/又はジ脂肪酸エステルを1~10重量%、レシチンを0.5~10重量%配合することを特徴とする食品用離型油(特許文献2)、レシチンをホスホリパーゼで酵素処理してなる酵素処理レシチンとレシチンとの使用合計量が食用油脂に対して1~30重量%になるように食用油脂に配合し、かつ使用合計量に対する酵素処理レシチンの使用比率を50~90重量%に調整してなる離型油(特許文献3)、酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する油脂組成物であることを特徴とする離型油(特許文献4)等が提案されている。
【0004】
しかし、上記技術は、調理器具への食品材料の焦げ付きの点で未だ改善の余地があり、これらに替わり得る技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2568462号
【文献】特開平02-222646号公報
【文献】特開昭63-279751号公報
【文献】特開2012-249621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、調理器具への食品材料の焦げ付きを更に抑制できる離型油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びクエン酸モノグリセリドを併用すると、調理器具への食品材料のこげつきが格段に優れた離型油が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びクエン酸モノグリセリドを含有する油脂組成物であることを特徴とする離型油、から成っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の離型油は、調理器具への食品材料の焦げ付きを十分に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明でいうレシチンとは、大豆や菜種等の油糧種子又は卵黄等の動物原料から得られるリン脂質を主成分とする混合物であり、その種類としては、例えば、粗製レシチン、精製レシチン、分別レシチン、酵素処理レシチン等が挙げられる。本発明では、これらの中でも酵素処理レシチンと酵素処理レシチン以外のレシチンとを併用する。
【0011】
本発明で用いられる酵素処理レシチンとしては、レシチンの2個ある脂肪酸残基のうちβ位のものを酵素を用いて加水分解により取り除き、リゾレシチンとした酵素分解レシチン及びレシチンのリン酸に結合している塩基を酵素によりグリセリンと置換してフォスファチジルグリセロールにした酵素転移レシチン等を挙げることができ、好ましくは酵素分解レシチンである。
【0012】
酵素処理レシチンとしては、例えば、レシマールEL(商品名;酵素分解レシチン;ペースト状;理研ビタミン社製)、SLP-ペーストリゾ(商品名;酵素分解レシチン;ペースト状;辻製油社製)、SLP-ホワイトリゾ(商品名;酵素分解レシチン;粉末状;辻製油社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0013】
本発明で用いられる酵素処理レシチン以外のレシチンとしては、例えば、粗製レシチン、精製レシチン(高純度レシチン)、分別レシチン等が挙げられ、好ましくは液状又はペースト状の粗製レシチンである。
【0014】
ここで、粗製レシチンは、通常、リン脂質、糖脂質、トリグリセリド等の単純脂質の混合物であり、微量成分として遊離の糖や色素等を含んでおり、大豆の場合、リン脂質組成的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールが主成分であり、その他、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン等が含まれる。
【0015】
酵素処理レシチン以外のレシチンとしては、例えば、トプシチン(商品名;粗製レシチン;ペースト状;カーギルジャパン社製)、大豆レシチンA(商品名;粗製レシチン;ペースト状;日清オイリオグループ社製)、レシチンDX(商品名;粗製レシチン;ペースト状;日清オイリオグループ社製)、イェルキンTS(商品名;粗製レシチン;ペースト状;エー・ディー・エム・ファーイースト社製)、レシオンP、LP-1(商品名;高純度レシチン;粉末状;理研ビタミン社製)、SLP-PC35(商品名;分別レシチン;ペースト状;辻製油社製)、SLP-PC70(商品名;分別レシチン;固形状;辻製油社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0016】
本発明で用いられるクエン酸モノグリセリドは、グリセリンが有するヒドロキシル基に、クエン酸及び脂肪酸がそれぞれ1つエステル結合した化合物である。
【0017】
また、本発明で用いられるクエン酸モノグリセリドは、離型油の製造において食用油脂に十分に溶解でき、本発明の効果が十分に発揮される点から、構成脂肪酸に不飽和脂肪酸を含むものが好ましい。本発明で用いられるクエン酸モノグリセリドの全構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸の割合は40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0018】
クエン酸モノグリセリドを構成する不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸又はエルシン酸等が挙げられ、好ましくはオレイン酸である。
【0019】
クエン酸モノグリセリドとしては、例えば、ポエムK-37V(商品名;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明にはこれを用いることができる。
【0020】
本発明の離型油には、上記酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びクエン酸モノグリセリドの他に、各種の乳化剤を含有させることができるが、離型油を常温(25℃)以下で保存する場合に乳化剤の結晶の析出が抑制される(保存安定性が付与される)観点から、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸不飽和脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン不飽和脂肪酸エステル、グリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル(以下、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル等という。)を含有することが好ましい。
【0021】
ソルビタン不飽和脂肪酸エステル等を構成する不飽和脂肪酸としては、例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸又はエルシン酸等が挙げられ、好ましくはオレイン酸である。
【0022】
ソルビタン不飽和脂肪酸エステル等としては、例えば、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(商品名:ポエムO-80V;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明にはこれを用いることができる。
【0023】
本発明の離型油は、食用油脂に、上記酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン、クエン酸モノグリセリド、及び、必要に応じソルビタン不飽和脂肪酸エステル等を添加し、約60~120℃に加熱して混合溶解することより容易に製造することができる。
【0024】
本発明の離型油100質量%中の、酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びクエン酸モノグリセリドの含有量に特に制限はないが、例えば酵素処理レシチンが好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは1~3質量%であり、酵素処理レシチン以外のレシチンが好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは3~7質量%であり、クエン酸モノグリセリドが好ましくは0.1~6質量%、より好ましくは1~5質量%であり、残余が食用油脂となるように調整するのが好ましい。
【0025】
酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチン及びクエン酸モノグリセリドの含有量が上記範囲内であると、本発明の離型油を用いて製造される食品の風味を大きく損なうことなく本発明の効果が発揮されるため好ましい。
【0026】
また、本発明の離型油において、更にソルビタン不飽和脂肪酸エステル等を含有する場合、離型油100質量%中のソルビタン不飽和脂肪酸エステル等の含有量は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。該範囲内でソルビタン不飽和脂肪酸エステル等を含有することにより、本発明の離型油を常温(25℃)以下で保存する場合の乳化剤の析出が抑制される効果(保存安定性)が良好となる。
【0027】
上記食用油脂としては特に制限はないが、例えば15~25℃で液状の植物油脂であって食用に適するよう処理されたものが好ましく、より具体的には、例えばオリーブ油、キャノーラ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、大豆油、コーン油、パームオレイン、なたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、綿実油等が挙げられる。これらの油脂は、一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0028】
本発明の離型油の使用方法に特に制限はなく、フライパン、天板及び焼き型等の加熱調理器具の上で焼成して製造する食品の製造に際し、該加熱調理器具に噴霧又は塗布する方法、焼成前に該食品の原材料として添加する方法等により使用することができる。このような食品としては、例えば、食パン、菓子パン、カステラ、クッキー、ワッフル、シフォンケーキ、パウンドケーキ、マフィン、マドレーヌ、フィナンシェ、鯛焼き、今川焼き、大判焼き、たこ焼き、ピザ、クレープ、お好焼、ハンバーグ、玉子焼き、餃子、焼きそば等が挙げられる。離型油を噴霧又は塗布する方法としては、噴霧器を用いて噴霧する方法やはけ等を用いて塗布する方法等の自体公知の方法を選択することができる。
【0029】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0030】
[離型油の製造]
(1)原材料
1)酵素処理レシチン(商品名:レシマールEL;理研ビタミン社製)
2)粗製レシチン(商品名:トプシチン;ペースト状;カーギルジャパン社製)
3)クエン酸モノグリセリド(商品名:ポエムK-37V;理研ビタミン社製)
4)グリセリン不飽和脂肪酸エステル(商品名:エマルジーOL-100H;理研ビタミン社製)
5)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(商品名:ポエムO-80V;理研ビタミン社製)
6)なたね油(ボーソー油脂社製)
【0031】
(2)離型油の配合
上記原材料を用いて作製した離型油1~9の配合割合を表1に示した。この内、離型油1~4は本発明に係る実施例であり、離型油5~9はそれらに対する比較例である。
【0032】
【表1】
【0033】
(3)離型油の製造方法
表1に示した原材料の配合割合に基づいて、所定の原材料を500mlガラス製ビーカーに入れ、ガラス棒で攪拌しながら75℃まで加熱して溶解した後、室温まで冷却し、離型油1~9を製造した。離型油の作製量は各200gとした。
【0034】
[離型油の評価試験]
直径22cmのステンレス製フライパンに離型油1~9のうちいずれか5gを入れ、これを均一に伸ばしてフライパンに塗布し、中心の温度が200℃になるまでフライパンを加熱した。これに下記配合のハンバーグ生地50gを直径12cmの円形に成型したものを載せ、スプーンで押しつけながら1分間焼成した。フライパンを180°裏返してハンバーグを取り出し、該フライパン表面の付着物をスパチュラで掻き落とし、それでもなお付着している焦げ付きの付着量(g)を求めた。また、対照として、乳化剤を添加していないなたね油(ボーソー油脂社製)を用いて同様に実施し、付着量を求めた。これら付着量は、試験前後のフライパンの重量を測定し、試験後のフライパン重量から試験前のフライパン重量を減ずることにより算出した。結果を表2に示す。
【0035】
〔ハンバーグ生地の配合〕
合い挽肉 500g
ハンバーグの素(商品名:ハンバーグヘルパー;ハウス食品社製) 92g
水 240ml
【0036】
【表2】
【0037】
表2から明らかなように、本発明の実施例である離型油1~4は、焦げ付きの付着量が2.0g未満であり、焦げ付きの付着が十分に抑制されていた。これに対し、比較例の離型油5~9及び対照のものは、いずれも焦げ付きの付着量が5.0gを超えており、本発明のものに比べて明らかに劣っていた。