(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】レンズ位置決め機構、レンズ製造装置およびレンズ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
G02C13/00
(21)【出願番号】P 2020059560
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】浜中 明
(72)【発明者】
【氏名】横山 伸一
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-120936(JP,A)
【文献】特開平9-189643(JP,A)
【文献】特開2005-81540(JP,A)
【文献】実公昭57-47778(JP,Y2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0094184(US,A1)
【文献】東ドイツ国経済特許第226512(DD,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02B 1/10- 1/18
B25B11/00-11/02
B29D11/00-11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状の光学面である第1面および前記第1面と対向する光学面である第2面を有するレンズ部材の前記第2面を保持するとともに、保持した前記レンズ部材を前記第1面の側へ向けて付勢する機能を有する部材保持部と、
前記部材保持部に付勢される前記レンズ部材の前記第1面における複数個所の
エッジ位置のそれぞれに対応して配される複数の支持爪と、前記レンズ部材の付勢方向に向けて広がるように前記複数の支持爪のそれぞれに設けられたテーパ部と、を有し、前記複数
個所のエッジ位置が前記支持爪と前記テーパ部との境界に位置するように前記エッジ位置を規制して、前記レンズ部材を所定の姿勢に位置決めする姿勢制御部と、
を備えるレンズ位置決め機構。
【請求項2】
前記姿勢制御部は、前記複数の支持爪を移動させて前記レンズ部材の把持状態と非把持状態とを切り替える爪駆動部を有する
請求項1に記載のレンズ位置決め機構。
【請求項3】
前記部材保持部は、
真空吸着によって前記レンズ部材の前記第2面を保持するパッド部と、
前記パッド部を揺動自在に支持するとともに、揺動箇所の可動状態と固定状態とを切り替え可能に構成されたジョイント部と、
を有する請求項1または2に記載のレンズ位置決め機構。
【請求項4】
前記部材保持部は、前記レンズ部材の付勢方向に沿って伸縮する弾性部材を有する
請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズ位置決め機構。
【請求項5】
前記部材保持部は、前記弾性部材が撓んだ状態を維持するブレーキ部を有する
請求項4に記載のレンズ位置決め機構。
【請求項6】
前記レンズ部材の前記第1面における所定ポイントについて、前記姿勢制御部によって位置決めされたときの規制位置に対する相対位置を測定するセンサ部
を備える請求項1から5のいずれか1項に記載のレンズ位置決め機構。
【請求項7】
前記レンズ部材は、眼鏡レンズである
請求項1から6のいずれか1項に記載のレンズ位置決め機構。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のレンズ位置決め機構と、
前記レンズ位置決め機構によって所定の姿勢に位置決めされた前記レンズ部材の前記第1面に対して所定の処理を行う部材処理部と、
を備えるレンズ製造装置。
【請求項9】
凸状の光学面である第1面および前記第1面と対向する光学面である第2面を有するレンズ部材を前記第1面の側へ向けて付勢する工程と、
付勢される前記レンズ部材の前記第1面における複数個所の
エッジ位置のそれぞれに対応して配される複数の支持爪と、前記レンズ部材の付勢方向に向けて広がるように前記複数の支持爪のそれぞれに設けられたテーパ部と、を用い、前記複数
個所のエッジ位置が前記支持爪と前記テーパ部との境界に位置するように前記エッジ位置を規制して、前記レンズ部材を所定の姿勢に位置決めする工程と、
前記所定の姿勢に位置決めされた前記レンズ部材の前記第1面に対して所定の処理を行う工程と、
を備えるレンズ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ位置決め機構、レンズ製造装置およびレンズ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡レンズとして、レンズ基材の光学面上における薄膜(SnO2膜またはCr膜等)に所定パターンのパターニングを施したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズに対するパターニングを高精度で行うためには、被処理面となる光学面の位置決めが不可欠である。しかしながら、光学面が凸状の曲面である場合には、当該光学面の位置決めを精度よく行うことが必ずしも容易ではない。
【0005】
本発明は、凸状の光学面を有するレンズ部材の位置決めを容易かつ高精度に行うことができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
凸状の光学面である第1面および前記第1面と対向する光学面である第2面を有するレンズ部材の前記第2面を保持するとともに、保持した前記レンズ部材を前記第1面の側へ向けて付勢する機能を有する部材保持部と、
前記部材保持部に付勢される前記レンズ部材の前記第1面における複数個所のエッジ位置を規制して、前記レンズ部材を所定の姿勢に位置決めする姿勢制御部と、
を備えるレンズ位置決め機構である。
【0007】
本発明の第2の態様は、
前記姿勢制御部は、前記レンズ部材の付勢方向に向けて広がるテーパ部によって前記エッジ位置を規制するように構成されている
第1の態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0008】
本発明の第3の態様は、
前記姿勢制御部は、前記複数個所のそれぞれに対応する複数の支持爪を有しており、
前記複数の支持爪のそれぞれに前記テーパ部が設けられている
第2の態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0009】
本発明の第4の態様は、
前記姿勢制御部は、前記複数の支持爪を移動させて前記レンズ部材の把持状態と非把持状態とを切り替える爪駆動部を有する
第3の態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0010】
本発明の第5の態様は、
前記レンズ保持部は、
真空吸着によって前記レンズ部材の前記第2面を保持するパッド部と、
前記パッド部を揺動自在に支持するとともに、揺動箇所の可動状態と固定状態とを切り替え可能に構成されたジョイント部と、
を有する第1から第4のいずれか1態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0011】
本発明の第6の態様は、
前記レンズ保持部は、前記レンズ部材の付勢方向に沿って伸縮する弾性部材を有する
第1から第5のいずれか1態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0012】
本発明の第7の態様は、
前記レンズ保持部は、前記弾性部材が撓んだ状態を維持するブレーキ部を有する
第6の態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0013】
本発明の第8の態様は、
前記眼鏡レンズの前記第1面における所定ポイントについて、前記姿勢制御部によって位置決めされたときの規制位置に対する相対位置を測定するセンサ部
を備える第1から第7のいずれか1態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0014】
本発明の第9の態様は、
前記レンズ部材は、眼鏡レンズである
第1から第8のいずれか1態様に記載のレンズ位置決め機構である。
【0015】
本発明の第10の態様は、
第1から第9のいずれか1態様に記載のレンズ位置決め機構と、
前記レンズ位置決め機構によって所定の姿勢に位置決めされた前記レンズ部材の前記第1面に対して所定の処理を行う部材処理部と、
を備えるレンズ製造装置である。
【0016】
本発明の第11の態様は、
凸状の光学面である第1面および前記第1面と対向する光学面である第2面を有するレンズ部材を前記第1面の側へ向けて付勢する工程と、
付勢される前記レンズ部材の前記第1面における複数個所のエッジ位置を規制して、前記レンズ部材を所定の姿勢に位置決めする工程と、
前記所定の姿勢に位置決めされた前記レンズ部材の前記第1面に対して所定の処理を行う工程と、
を備えるレンズ部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、凸状の光学面を有するレンズ部材の位置決めを容易かつ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの構成例を示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの構成例を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの製造手順の一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明の一実施形態において被処理物となる眼鏡レンズの一例を示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るレンズ位置決め機構の一具体例の概略構成例を示す平面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るレンズ位置決め方法における一手順(行程)の概要を模式的に示す説明図(その1)である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るレンズ位置決め方法における一手順(行程)の概要を模式的に示す説明図(その2)である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るレンズ位置決め方法における一手順(行程)の概要を模式的に示す説明図(その3)である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るレンズ位置決め方法における一手順(行程)の概要を模式的に示す説明図(その4)である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るレンズ位置決め機構の他の具体例の要部構成例を示す側断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズにおけるパターン部の一具体例を示す部分拡大図であり、(a)は本実施形態に係るパターン部の顕微鏡観察結果を示す図、(b)は比較例となるインクジェット記録法を利用して得られたパターン部の顕微鏡観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(1)眼鏡レンズの概略構成
まず、本実施形態で扱うレンズ部材として、眼鏡レンズを例に挙げ、その概略構成を説明する。
図1は本実施形態で例に挙げる眼鏡レンズの構成例を示す平面図であり、
図2はその断面図である。
【0021】
(全体構成)
眼鏡レンズ10は、光学面として、物体側の面と眼球側の面とを有する。「物体側の面」は、眼鏡レンズ10を備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面である。「眼球側の面」は、その反対、すなわち眼鏡レンズ10を備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。物体側の面は凸面であり、眼球側の面は凹面であること、つまり眼鏡レンズ10はメニスカスレンズであることが一般的である。
以下、眼鏡レンズ10の物体側の面を「第1面」、眼球側の面を「第2面」ともいう。その場合に、眼鏡レンズ10は、凸状の光学面である第1面と、第1面と対向する光学面である第2面と、を有して構成されたものとなる。
【0022】
本実施形態における眼鏡レンズ10は、
図1に示すように、第1面または第2面の少なくとも一方に、複数の微細なドット21が等方的に均一に配置されており、当該ドット21により所定パターンが形成されている。本実施形態においては、眼鏡レンズ10の全面に所定パターンが形成された例を示しているが、所定パターンは部分的に形成されていてもよい。また、所定パターンは、複数の微細なドット21によって構成されたものではなく、例えば文字や図形等によって構成されたものであってもよい。
【0023】
所定パターンを構成する複数のドット21は、それぞれが同一形状(例えば円形状)に形成されている。これらのドット21が「等方的に均一に配置された」とは、隣り合うドット21の間隔が一定ピッチPで配置されていることを意味する。
【0024】
このような所定パターンを有する眼鏡レンズ10は、
図2に示すように、光学基材であるレンズ基材11と、その両面側(すなわち、第1面および第2面のそれぞれの側)に形成されたハードコート膜(HC膜)12と、一方の面(具体的には、第1面)側のHC膜12上に形成されたパターニング薄膜13と、両面側に形成された反射防止膜(AR膜)14と、を備えて構成されている。ここでは、パターニング薄膜13が第1面の側に配されている場合を例に挙げているが、これに限定されることはなく、少なくとも一方の面に配されていればよい。また、眼鏡レンズ10は、HC膜12、パターニング薄膜13およびAR膜14に加えて、さらに他の膜が形成されたものであってもよい。
【0025】
(レンズ基材)
レンズ基材11は、光学レンズに用いられる一般的な樹脂材料からなり、所定のレンズ形状に成形されてなるものである。所定のレンズ形状は、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれを構成するものであってもよい。
レンズ基材11を構成する樹脂材料は、例えば屈折率(nD)1.50~1.74程度のものが用いられる。このような樹脂材料としては、例えば、アリルジグリコールカーボネート、ウレタン系樹脂、ポリカーボネート、チオウレタン系樹脂およびエピスルフィド樹脂が例示される。なお、レンズ基材11は、上述した樹脂材料ではなく、所望の屈折度が得られる他の樹脂材料によって構成してもよいし、また無機ガラスによって構成したものであってもよい。
【0026】
(HC膜)
HC膜12は、例えば、ケイ素化合物を含む硬化性材料を用いて構成されたもので、3μm~4μm程度の厚さで形成された膜である。HC膜12の屈折率(nD)は、上述したレンズ基材11の材料の屈折率に近く、例えば1.49~1.74程度であり、レンズ基材11の材料に応じて膜構成が選択される。このようなHC膜12の被覆によって、眼鏡レンズ10の耐久性向上が図れるようになる。
【0027】
(パターニング薄膜)
パターニング薄膜13は、レンズ基材11の光学面上にHC膜12を介して形成されたもので、例えば、数nm~数十nm程度の厚さの薄膜によって構成されたものである。パターニング薄膜13を構成する材料としては、例えば、後述するレーザ光を吸収する特性を有した金属または酸化金属を用いる。つまり、パターニング薄膜13は、吸収を有する酸化金属膜または金属膜である。このような膜としては、例えば、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、銀(Ag)、スズ(Sn)およびアルミニウム(Al)の中から選ばれる少なくとも一種の金属または酸化金属を含む膜であり、好ましくは二酸化スズ(SnO2)膜またはCr膜である。以下の説明では、主として、パターニング薄膜13がSnO2膜またはCr膜である場合を例に挙げる。
【0028】
また、パターニング薄膜13は、当該薄膜が部分的に除去されてなるパターン部20を有している。パターン部20は、上述の所定パターンを構成するものである。具体的には、パターン部20は、複数の同一形状部分21が配されて構成されている。この同一形状部分21は、部分的な薄膜除去によって形成されるもので、上述のドット21に相当するものである。
つまり、本実施形態において、パターン部20は所定パターンであるドットパターンを構成するものであり、同一形状部分21はドットパターンにおけるドット21を構成するものである。
【0029】
(AR膜)
AR膜14は、屈折率の異なる膜を積層させた多層構造を有し、干渉作用によって光の反射を防止する膜である。ただし、必ずしも多層構造である必要はなく、光の反射防止効果が得られれば、単層構造であってもよい。
AR膜14が低屈折率層と高屈折率層との多層構造である場合、低屈折率膜は、例えば、屈折率1.43~1.47程度の二酸化珪素(SiO2)からなる。また、高屈折率膜は、低屈折率膜よりも高い屈折率を有する材料からなり、例えば、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、さらには酸化アルミニウム(Al2O3)等の金属酸化物を、適宜の割合で用いて構成される。
このようなAR膜14の被覆によって、眼鏡レンズ10を透した像の視認性向上が図れるようになる。
【0030】
(基本的な製造手順)
上述した構成の眼鏡レンズ10は、以下に説明する手順で製造される。
図3は、本実施形態に係る眼鏡レンズの製造手順の一例を示すフロー図である。
【0031】
眼鏡レンズ10の製造にあたっては、まず、第1の工程として、光学基材であるレンズ基材11を用意する(ステップ101、以下ステップを「S」と略す。)。
【0032】
そして、レンズ基材11を用意したら、続いて、第2の工程として、レンズ基材11の両面側にHC膜12を成膜する工程を行う(S102)。HC膜12の成膜は、例えば、ケイ素化合物を含む硬化性材料を溶解させた溶液を用いた浸漬法(Dipping method)によって行えばよい。
【0033】
HC膜12の成膜後は、次いで、第3の工程として、レンズ基材11の光学面上に、HC膜12を介して、パターニング薄膜13となるSnO2膜またはCr膜の薄膜13aを成膜する工程を行う(S103)。具体的には、第1面である凸面側について、HC膜12上にSnO2膜またはCr膜の薄膜13aを成膜する。このような薄膜13aの成膜は、例えば、真空蒸着またはスパッタリングによって行えばよい。
【0034】
薄膜13aの成膜後は、次いで、第4の工程として、薄膜13aを部分的に除去してパターン部20を形成する工程を行う(S104)。つまり、薄膜13aの部分的な除去により当該薄膜13aのパターニングを行う。薄膜13aのパターニングを行うと、凸面側のHC膜12上には、パターン部20を有するパターニング薄膜13が形成される。
パターニングの手法としては、例えば、光学面上にインクジェット記録法によりレジストパターンを形成し、そのレジストパターンを利用して行うことが知られている。しかしながら、眼鏡レンズ10は光学面が曲面状であるため、インクジェット記録法によるレジストパターン形成では、レジストパターンが光学面上において正確に形成されず、結果として高精度のパターニングを行えないおそれがある。そこで、本実施形態においては、所定パターン(すなわち、パターン部20)を得るためのパターニングを、レーザ光の照射を利用したレーザ加工によって行う。具体的には、パターン部20の形成にあたり、薄膜13aの除去すべき部分のみに選択的にレーザ光を照射し、そのレーザ光のエネルギーを利用して、当該薄膜13aの部分的な除去を行う。
このようなレーザ光の照射を利用したパターニングを行えば、そのパターニングの高精度化を図ることが実現可能となる。しかも、レーザ光の利用により、薄膜13aに直接パターニングを行えるので、レジストパターンの形成や除去等を省くことができる。
【0035】
そして、パターニング薄膜13の形成後は、第5の工程として、パターニングの際の残存物や付着物(異物)等を除去するための洗浄をする工程を行う(S105)。
【0036】
その後、第6の工程として、第1面である凸面側および第2面である凹面側のそれぞれに、AR膜14を成膜する工程を行う(S106)。AR膜14が多層構造である場合には、下層側から順に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層成膜する。この成膜は、例えば、イオンアシスト蒸着を適用して行えばよい。
【0037】
(2)発明者の知見
上述したように、眼鏡レンズ10の製造にあたっては、レーザ光の照射を利用したレーザ加工によって、凸面側の薄膜13aに対するパターニングを行う。かかるパターニングは、高精度で行うことが望ましい。パターニングの高精度化のためには、被処理面へのレーザ光の照射を、当該レーザ光の焦点位置の三次元制御に対応したレーザ加工機を用いて行うことが有効である。
【0038】
レーザ加工機としては、レーザ光を発振するレーザ発振器と、レーザ発振器からのレーザ光を集光して照射するレーザ光学系と、レーザ光が照射される被処理物(本実施形態においてはHC膜12および薄膜13aが形成された後のレンズ基材11)が固定されるレンズ保持部と、を備えたものを用いる。レーザ発振器とレーザ光学系とが一体化されてレーザヘッドを構成するものを用いてもよい。このような構成のレーザ加工機において、「レーザ光の焦点位置の三次元制御に対応」とは、レーザ光学系と被処理物との相対位置の移動またはレーザ光学系による光路調整の少なくとも一方により、被処理物に対して照射するレーザ光の焦点位置を、被照射面の面内に沿ったXY方向のみならずレーザ光の光軸方向に沿ったZ方向にも可変させ得るとともに、その可変の態様を制御可能であることを意味する。
【0039】
このような三次元制御に対応する場合には、被処理面となる光学面の位置決めが不可欠である。ただし、眼鏡レンズ10の場合、パターニングの被処理面となる光学面が曲面状である。特に、本実施形態においては、凸状の曲面である第1面(物体側の面)に対して、レーザ光照射によるパターニングを行う。しかも、第1面は、その曲率(カーブ)がレンズによって異なることがある。そのため、光学面が凸状の曲面である場合には、当該光学面の位置決めを精度よく行うことが必ずしも容易ではない。以下に、その理由について、具体例を挙げて説明する。
【0040】
図4は、本実施形態において被処理物となる眼鏡レンズの一例を示す説明図である。
図例は、眼鏡レンズ10がプリズムレンズである場合を示している。プリズムレンズは、プリズム処方がされた眼鏡レンズ10である。プリズムレンズの場合、レンズ基材11は、凸状の曲面である第1面(物体側の面)と、凹状の曲面である第2面(眼球側の面)とが、プリズム量を有して対向するように構成される。
【0041】
眼鏡レンズ10の位置決めは、例えば、
図4(a)に示すように、レンズ基材11の第2面におけるエッジ(端縁)位置を基準にして行うことが考えられる。具体的には、第2面の側を下方に向けた状態で平滑な面上にレンズ基材11を載置することで、凹状の曲面である第2面のエッジ位置を基準にして、当該エッジ位置が水平ラインに沿って配されるように位置決めを行う。
【0042】
ところが、眼鏡レンズ10がプリズムレンズである場合、第2面のエッジ位置を基準にして位置決めを行うと、
図4(b)に示すように、パターニングの被処理面となる第1面が、レーザ光の照射方向と直交する面(図中における直交面参照)に対して、プリズム量の分だけ傾いて配置されることになる。このような配置状態では、被処理面となる第1面の位置決めを精度よく行えているとは言えず、そのためにレーザ光の焦点位置の三次元制御を精緻に行うことが困難になるおそれがある。また、三次元制御を精緻に行うべくプリズム量の分を加味したデータ補正等を行うことも考えられるが、その場合には、精緻な制御のために処理が煩雑化してしまうことになる。
【0043】
つまり、処理の煩雑化を抑制しつつ光学面のパターニングの高精度化を図るためには、
図4(c)に示すように、パターニングの被処理面となる凸状の第1面を基準にした位置決めを行い、その第1面のエッジ位置がレーザ光の照射方向と直交する面(図中における直交面参照)に沿って配された状態で、その第1面に対してレーザ光照射によるパターニングを行うようにすることが望ましい。しかも、第1面を基準にした位置決めは、眼鏡レンズ10がプリズムレンズであるか否かにかかわらず、また眼鏡レンズ10における第1面がどのような曲率(カーブ)であるかにかかわらず、容易かつ高精度に行うことができることが望ましい。
【0044】
以上のことを踏まえつつ、本願発明者は、鋭意検討を重ねた結果、以下に説明するレンズ位置決め機構を案出するに至った。
【0045】
(3)レンズ位置決め機構の一具体例
次に、本実施形態に係るレンズ位置決め機構の一具体例について説明する。
図5は、本実施形態に係るレンズ位置決め機構の一具体例の概略構成例を示す平面図である。
【0046】
(全体構成)
本実施形態におけるレンズ位置決め機構は、レーザ加工機30に並設されるもので、大別すると、レンズ載置台40と、部材保持部50と、姿勢制御部60と、センサ部70と、コントロール部(ただし不図示)と、を備えて構成されている。
【0047】
(レンズ載置台)
レンズ載置台40は、レーザ加工機30によるパターニングの被処理物である眼鏡レンズ10がセットされるもので、眼鏡レンズ10の第2面が載置される平滑な平面(すなわち、レンズ載置面)を有して構成されている。なお、本実施形態において、被処理物は、正しくはHC膜12および薄膜13aが形成された後のレンズ基材11であるが、以下の説明では説明簡略化のために被処理物のことを単に眼鏡レンズ10と称する。レンズ載置台40にセットされる眼鏡レンズ10は、後述するように、姿勢制御部60の支持爪61によって把持される。そのため、レンズ載置台40には、姿勢制御部60の支持爪61との干渉を回避するための切り欠き部41が形成されている。また、レンズ載置台40は、レンズ載置面を昇降可能に構成されている。
【0048】
(部材保持部)
部材保持部50は、被処理物である眼鏡レンズ10の第2面を保持するように構成されている。そのために、部材保持部50は、真空吸着によって眼鏡レンズ10の第2面を保持するパッド部51と、そのパッド部51を揺動自在に支持するジョイント部52と、有している。そして、ジョイント部52は、揺動箇所の可動状態と固定状態とを切り替え可能に構成されている。状態切り替えは、例えば、真空吸着の有無を利用しつつ、揺動箇所がロックされる固定状態と、揺動箇所が固定されず自在に可動し得る状態とを、必要に応じて遷移させ機構を用して実現すればよい。このようなジョイント部52を介してパッド部51を支持するようにすれば、可動状態においては、眼鏡レンズ10の第2面の形状にパッド部51を追従させることが可能となる。また、固定状態においては、パッド部51に保持される眼鏡レンズ10の姿勢を維持することが可能となる。
【0049】
また、部材保持部50は、眼鏡レンズ10を保持する機能に加えて、保持した眼鏡レンズ10を第2面の側から第1面の側へ向けて付勢する機能を有して構成されている。そのために、部材保持部50は、パッド部51およびジョイント部52を付勢方向に沿って移動させるスライド機構部53と、その付勢方向に沿って伸縮する弾性部材54と、を有している。図例では、弾性部材54が圧縮コイルバネである場合を示している。このような構成により、部材保持部50は、保持した眼鏡レンズ10の第1面の側から第2面の側へ向けて外力が加わると弾性部材54が撓み、外力が緩和または解消すると弾性部材54の反力により眼鏡レンズ10を第2面の側から第1面の側へ向けて付勢するようになっている。
【0050】
また、部材保持部50は、弾性部材54が撓んだ状態を維持するブレーキ部55を有している。ブレーキ部55は、例えば、電磁ブレーキを利用して構成すればよい。このような構成により、部材保持部50は、弾性部材54の反力の大小にかかわらず、スライド機構部53の移動を任意の位置で停止させるとともに、その停止状態を維持することが可能となる。
【0051】
さらに、部材保持部50は、パッド部51、ジョイント部52、スライド機構部53および弾性部材54を一体で、眼鏡レンズ10の付勢方向に沿った方向(図中矢印A参照)に移動させる第1の電動アクチュエータ部56と、当該方向とは直交する方向(図中矢印B参照)に移動させる第2の電動アクチュエータ部57と、を有している。つまり、部材保持部50は、パッド部51に保持される眼鏡レンズ10を移動させる直交二軸ロボットとしての機能を有している。
【0052】
なお、部材保持部50は、眼鏡レンズ10を鉛直方向に立てた状態で保持するように構成されている。鉛直方向に立てた状態とは、眼鏡レンズ10の光学面が鉛直方向に沿って配されている状態のことをいい、特に本実施形態においては眼鏡レンズ10の第1面のエッジ位置が鉛直方向に沿って配された状態のことをいう。
【0053】
(姿勢制御部)
姿勢制御部60は、眼鏡レンズ10を所定の姿勢に位置決めするためのものである。所定の姿勢とは、例えば、眼鏡レンズ10の第1面を基準にした位置決めがされた姿勢のことをいい、特に本実施形態においては眼鏡レンズ10の第1面のエッジ位置が鉛直方向に沿って配された状態に位置決めされた姿勢のことをいう。
【0054】
所定の姿勢に位置決めをするために、姿勢制御部60は、部材保持部50に付勢される眼鏡レンズ10の第1面における複数個所のエッジ位置を規制するように構成されている。さらに詳しくは、姿勢制御部60は、複数個所のそれぞれに対応するように配されるピン状の複数(ただし3本以上、例えば4本)の支持爪61を有しており、各支持爪61のそれぞれにテーパ部62が設けられている。テーパ部62は、眼鏡レンズ10の付勢方向に向けて広がるように形成されている。そして、支持爪61の一端側に配されたテーパ部62に眼鏡レンズ10の第1面のエッジ位置が当接することで、当該エッジ位置の付勢方向への移動を規制するように構成されている。なお、姿勢制御部60による眼鏡レンズ10の姿勢制御については、詳細を後述する。
【0055】
また、姿勢制御部60は、複数の支持爪61をピン軸方向と直交する方向(図中矢印C参照)に移動させて、各支持爪61による眼鏡レンズ10の把持状態と非把持状態とを切り替える爪駆動部63を有して構成されている。爪駆動部63は、例えば、電動アクチュエータを用いて構成すればよい。爪駆動部63が各支持爪61を移動させて眼鏡レンズ10を把持することによって、姿勢制御部60は、レンズ載置台40に載置された眼鏡レンズ10を持ち上げて移動させることができる。
【0056】
さらに、姿勢制御部60は、支持爪61、テーパ部62および爪駆動部63を一体で、これらを回動させる方向(図中矢印D参照)に移動させる爪回動部64を有している。爪回動部64についても、爪駆動部63と同様に、例えば、電動アクチュエータを用いて構成すればよい。爪回動部64が支持爪61等を移動させることによって、支持爪61に把持された眼鏡レンズ10について、レンズ載置台40に水平方向にセットされた状態と鉛直方向に立てた状態とを遷移させることができる。
【0057】
(センサ部)
センサ部70は、眼鏡レンズ10の第1面における所定ポイントについて、姿勢制御部60によって位置決めされたときの規制位置に対する相対位置を測定するものである。第1面の所定ポイントとしては、例えば、凸状の曲面である第1面の頂点位置が挙げられる。このような所定ポイントの位置を測定するために、センサ部70は、当該所定ポイントに当接する接触子71と、その接触子71の位置を移動させる移動機構72と、を有している。そして、所定ポイントに当接したときの接触子71の位置を認識することで、姿勢制御部60による眼鏡レンズ10の規制位置(すなわち、第1面のエッジ位置)に対する所定ポイント(例えば、第1面の頂点位置)の相対位置を測定するように構成されている。なお、センサ部70は、眼鏡レンズ10の第1面についての位置測定を行い得るものであれば、本実施形態のような接触式のものではなく、例えばレーザ測長センサ等を用いた非接触式のものであってもよい。
【0058】
(コントロール部)
コントロール部は、上述した各部40~70の動作制御を行うものである。具体的には、コントロール部は、レンズ載置台40におけるレンズ載置面の昇降動作、部材保持部50における真空吸着動作並びに第1の電動アクチュエータ部56、第2の電動アクチュエータ部57およびブレーキ部55の動作、姿勢制御部60における爪駆動部63および爪回動部64の動作をコントロールするように構成されている。また、コントロール部は、センサ部70による測定結果を取得して、その測定結果に対し必要に応じてデータ処理を行った上で、そのデータ処理結果をレーザ加工機30に通知するように構成されている。このようなコントロール部は、例えば、所定プログラムを実行するコンピュータ装置を利用して構成すればよい。
【0059】
(4)レンズ位置決め方法の手順
次に、上述した構成のレンズ位置決め機構を用いて行うレンズ位置決め方法の手順の手順について説明する。なお、以下に説明する各部の処理動作は、コントロール部によって制御されるものとする。
【0060】
図6~
図9は、本実施形態に係るレンズ位置決め方法における一手順(行程)の概要を模式的に示す説明図である。
【0061】
レンズ位置決めにあたっては、まず、
図6に示すように、被処理物となる眼鏡レンズ10を、その眼鏡レンズ10の第2面の側を下方に向けた状態で、レンズ載置台40が有するレンズ載置面上に載置する。眼鏡レンズ10の載置は、搬送ロボットを用いて行うことが考えられるが、作業員が手に持って行うようにしてもよい。そして、レンズ載置面上への載置後は、姿勢制御部60の爪駆動部63が各支持爪61を移動させて(図中矢印C参照)、各支持爪61によって眼鏡レンズ10の端縁を把持する。このとき、レンズ載置台40に切り欠き部41が形成されているので、各支持爪61がレンズ載置台40と干渉してしまうことがない。
【0062】
なお、例えば、爪駆動部63が電動アクチュエータを用いて構成されており、当該爪駆動部63が各支持爪61の位置を認識する機能を有している場合には、各支持爪61によって眼鏡レンズ10の端縁を把持することによって、把持した眼鏡レンズ10の直径を測長することが可能である。
【0063】
各支持爪61によって眼鏡レンズ10を把持した後は、続いて、降下によりレンズ載置台40のレンズ載置面を退避させつつ、
図7に示すように、各支持爪61が眼鏡レンズ10を把持した状態のまま、姿勢制御部60の爪回動部64を動作させる(図中矢印D参照)。これにより、眼鏡レンズ10は、鉛直方向に立った状態で、各支持爪61によって把持されることになる。
【0064】
その後は、
図8に示すように、部材保持部50における第1の電動アクチュエータ部56を動作させて、パッド部51が眼鏡レンズ10の第2面に当接するように、パッド部51、ジョイント部52、スライド機構部53および弾性部材54を一体で移動させる(図中矢印A1参照)。パッド部51が眼鏡レンズ10の第2面に当接した後に、さらに第1の電動アクチュエータ部56を動作させると、弾性部材54が撓んだ状態となるように、スライド機構部53が動作する。これにより、眼鏡レンズ10の第2面にパッド部51を当接させる場合であっても、第1の電動アクチュエータ部56の移動ストロークを必要以上に精緻に制御する必要がなく、また眼鏡レンズ10に過剰な負荷が及んでしまうこともない。
【0065】
また、このとき、眼鏡レンズ10の第2面に当接するパッド部51がジョイント部52を介して支持されているので、ジョイント部52を可動状態にしておけば、眼鏡レンズ10の第2面の形状にパッド部51を追従させることが可能となる。
【0066】
パッド部51が眼鏡レンズ10の第2面に当接し、弾性部材54が撓んだ状態となった後は、パッド部51での真空吸着によって眼鏡レンズ10を仮保持する(すなわち、真空吸着を行うがパッド部51が揺動可能な状態にする)とともに、眼鏡レンズ10を把持する各支持爪61の間隔が若干量(例えば、0.05mm~0.1mm程度)だけ開くように爪駆動部63が各支持爪61を移動させる。そうすると、各支持爪61による把持力が弱まるので、眼鏡レンズ10は、
図9に示すように、パッド部51によって仮保持された状態のまま、弾性部材54が伸びようとする反力により、第2面の側から第1面の側へ向けて付勢され、各支持爪61に案内されるように第2面の側へ移動する(図中矢印A2参照)。そして、眼鏡レンズ10の第1面におけるエッジ位置がテーパ部62まで到達すると、そのテーパ部62に当接し、眼鏡レンズ10がそれ以上移動しなくなる。つまり、眼鏡レンズ10は、第1面における複数個所(すなわち、複数の支持爪61による被把持箇所)のエッジ位置が、姿勢制御部60のテーパ部62によって規制されることになる。
【0067】
第1面のエッジ位置がテーパ部62によって規制された後は、各支持爪61の間隔を狭める方向に爪駆動部63が各支持爪61を移動させる。そうすると、眼鏡レンズ10は、第1面における複数個所(すなわち、複数の支持爪61による被把持箇所)のエッジ位置が、支持爪61とテーパ部62との境界に位置する状態で、各支持爪61によって把持される。つまり、眼鏡レンズ10は、第1面のエッジ位置が支持爪61とテーパ部62との境界に位置するように、当該第1面を基準にした位置決めがされることになる。このとき、パッド部51による眼鏡レンズ10の仮保持は、解除されているものとする。
【0068】
ここで、センサ部70は、眼鏡レンズ10の第1面における所定ポイント(例えば、第1面の頂点位置)について、姿勢制御部60によって位置決めされたときの規制位置に対する相対位置を測定する。具体的には、接触子71が眼鏡レンズ10の第1面に当接するまで移動機構72が接触子71の位置を移動させ、第1面に当接したときの接触子71の位置(具体的には、当接位置までの移動量)を認識する。このとき、センサ部70にとって、姿勢制御部60における支持爪61とテーパ部62との境界位置(すなわち、眼鏡レンズ10の第1面のエッジ位置)までの距離値は、既知の固定値である。したがって、接触子71の当接位置がわかれば、第1面のエッジ位置に対する当該第1面の頂点位置の突出量を特定することが可能となる。
【0069】
このように、センサ部70は、眼鏡レンズ10の第1面について、頂点位置の突出量を特定することが可能である。また、上述したように、姿勢制御部60の爪駆動部63は、把持した眼鏡レンズ10の直径を測長することが可能である。したがって、例えば眼鏡レンズ10の第1面が球面状であれば、コントローラ部は、姿勢制御部60およびセンサ部70からの通知情報を基に、位置決めされた眼鏡レンズ10の第1面を構成する面形状の三次元形状データを認識することができる。認識した面形状データは、例えば、後述するように、コントローラ部からレーザ加工機30に送信され、そのレーザ加工機30で活用される。
【0070】
その後は、位置決めされた眼鏡レンズ10について、その第2面をパッド部51で真空吸着するとともに、そのパッド部51を支持するジョイント部52を固定状態に切り替える。さらに、弾性部材54が撓んだ状態を維持するように、ブレーキ部55がスライド機構部53の移動を停止させる。これにより、眼鏡レンズ10は、第1面を基準に位置決めされた姿勢を維持したまま、部材保持部50によって保持されることになる。
【0071】
部材保持部50が眼鏡レンズ10を保持すると、姿勢制御部60は、各支持爪61の間隔を広げる方向に爪駆動部63が各支持爪61を移動させ、各支持爪61による眼鏡レンズ10の把持を解除する。把持を解除しても、眼鏡レンズ10は、部材保持部50の保持によって、第1面を基準に位置決めされた姿勢が維持される。
【0072】
そして、部材保持部50は、眼鏡レンズ10を保持した状態のまま、眼鏡レンズ10が姿勢制御部60から離れる方向に移動するように第1の電動アクチュエータ部56を動作させるとともに、眼鏡レンズ10に対するレーザ加工をレーザ加工機30が行い得る位置まで移動するように第2の電動アクチュエータ部57を動作させる。レーザ加工を行い得る位置まで移動しても、眼鏡レンズ10は、部材保持部50の保持によって、第1面を基準に位置決めされた姿勢が維持される。しかも、ブレーキ部55によって弾性部材54が撓んだ状態が維持されるので、レーザ加工を行い得る位置までの眼鏡レンズ10の移動について、煩雑な処理を要することなく、容易かつ適切に制御することができる。つまり、テーパ部62による規制を解除しても、弾性部材54が撓んだ状態のままなので、弾性部材54の伸び量を反映させるための煩雑な位置補正処理を要することなく、第1の電動アクチュエータ部56および第2の電動アクチュエータ部57に対する動作制御のみで、眼鏡レンズ10を所望の位置まで精度よく移動させることができる。
【0073】
レーザ加工を行い得る位置まで移動すると、眼鏡レンズ10は、詳細を後述するように、第1面を基準に位置決めされた姿勢が維持されたまま、その第1面について認識された三次元形状データに基づいて、レーザ加工機30によるレーザ加工が行われることになる。つまり、レーザ加工機30は、本実施形態に係るレンズ位置決め機構によって所定の姿勢に位置決めされた眼鏡レンズ10の第1面に対して、所定の処理としてのレーザ加工を行うレンズ処理部として機能することになる。
【0074】
(5)レンズ位置決め機構の他の具体例
上述したレンズ位置決め機構の一具体例は、眼鏡レンズの外形が円形状である場合を想定している。ただし、被処理物となる眼鏡レンズには、外形が円形状のもの以外に、いわゆる玉形加工がされたものがあり得る。また、レンズ薄肉化やプリズム処方等のために、切削加工や研磨加工等が施されたものもあり得る。このように、玉形加工がされた眼鏡レンズに代表される、切削加工または研磨加工の少なくとも一方が施された後の眼鏡レンズを、以下「異形レンズ」と称する。
【0075】
異形レンズは、例えば切削加工や研磨加工等の影響でエッジ部分が先鋭になってしまう箇所が生じる可能性があることから、当該異形レンズの第1面のエッジ位置を基準にした位置決めを行うことが必ずしも適切ではない。そこで、被処理物となる眼鏡レンズが異形レンズである場合に、位置決めを適切に行い得るレンズ位置決め機構について、上述した一具体例とは異なる他の具体例として、以下に説明する。なお、以下の説明では、主として、上述した一具体例との相違点についてのみ説明する。
【0076】
ここで説明する他の具体例では、部材保持部50および姿勢制御部60の構成が、上述した一具体例の場合とは異なる。
図10は、本実施形態に係るレンズ位置決め機構の他の具体例の要部構成例を示す側断面図である。
【0077】
(部材保持部)
部材保持部50は、被処理物である異形レンズ10aの第2面に装着される補助具80を介して、その異形レンズ10aを保持するように構成されている。
【0078】
補助具80としては、例えば、眼鏡レンズの切削工程や研磨工程等で使用されるヤトイを用いることができる。ヤトイは、アロイと呼ばれる低融点金属部材の接着作用によって、眼鏡レンズの凹面(すなわち第2面)に装着されるようになっている。ただし、ヤトイ以外の治具を補助具80として用いるようにしても構わない。
【0079】
補助具80を介した異形レンズ10aの保持は、上述した一具体例の場合と同様に、パッド部51による真空吸着を利用して行うことが考えられる。その場合、パッド部51は、異形レンズ10aではなく、補助具80に対して真空吸着を行うことになる。ただし、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば、補助具80を機械的なクランプ動作によって保持するようにしても構わない。いずれの場合においても、ジョイント部52による揺動可否の切り替えが行われるものとする。
【0080】
(姿勢制御部)
姿勢制御部60は、異形レンズ10aの第1面の面上の所定箇所に当接することで当該所定箇所の位置を規制して、異形レンズ10aを所定の姿勢に位置決めするように構成されている。被処理物が異形レンズ10aである場合、例えば切削加工や研磨加工等の影響でエッジ部分が先鋭になってしまう箇所が生じる可能性があることから、エッジ位置を基準にした位置決めを行うことが必ずしも適切ではない。そこで、姿勢制御部60は、第1面のエッジ位置ではなく、当該第1面の面上の所定箇所を基準にした位置決めを行うのである。
【0081】
基準となる所定箇所としては、例えば、異形レンズ10aの第1面の頂点位置を中心とした当該第1面の面上の環状領域が挙げられる。その場合、姿勢制御部60は、異形レンズ10aの第1面の面上の環状領域に当接して位置規制を行うように構成されることになる。具体的には、キズや接触痕等が付き難い材質、例えばシリコンゴムやフッ素樹脂部材等で形成されたリング状の規制部材65が、上述した一具体例で説明したテーパ部62に代わって配されており、その規制部材65が異形レンズ10aの第1面の面上に当接することで、異形レンズ10aの第1面に対する位置規制を行う。これにより、異形レンズ10aは、所定の姿勢に位置決めされることになる。所定の姿勢とは、上述した一具体例の場合と同様に、第1面を基準にした位置決めがされた姿勢、特に本実施形態においては第1面のエッジ位置が鉛直方向に沿って配された状態に位置決めされた姿勢のことをいう。
【0082】
なお、基準となる所定箇所は、必ずしも環状領域である必要はなく、例えば、異形レンズ10aの第1面の頂点位置を中心とした当該第1面の面上における互いに離間した三箇所以上の点であってもよい。その場合、姿勢制御部60は、異形レンズ10aの第1面の面上における互いに離間した三箇所以上の点に当接して位置規制を行うように構成されることになる。このような構成であっても、異形レンズ10aは、所定の姿勢に位置決めされることになる。
【0083】
(レンズ位置決めの手順)
上述した構成のレンズ位置決め機構においても、レンズ位置決めを行う手順は、上述した一具体例の場合と同様である。よって、ここではその説明を省略する。
【0084】
(6)本実施形態に係るレンズ位置決め機構による効果
本実施形態に係るレンズ位置決め機構によれば、上述した一具体例の場合および他の具体例の場合のいずれにおいても、以下に示す効果が得られる。
【0085】
本実施形態では、被処理物となる眼鏡レンズ10または異形レンズ10aについて、凸状の曲面である第1面を基準にした位置決めを行うことができる。そして、第1面を基準にした位置決めは、眼鏡レンズ10または異形レンズ10aがプリズムレンズであるか否かにかかわらず、また眼鏡レンズ10または異形レンズ10aにおける第1面がどのような曲率(カーブ)であるかにかかわらず、容易かつ高精度に行うことができる。
【0086】
つまり、本実施形態によれば、凸状の光学面を有する眼鏡レンズ10または異形レンズ10aの位置決めを、容易かつ高精度に行うことができる。
【0087】
(7)レーザ加工の詳細
次に、眼鏡レンズ10または異形レンズ10aに対してレーザ加工機30が行うレーザ加工について、具体例を挙げて詳細に説明する。
【0088】
レーザ加工機30によるレーザ加工にあたっては、まず、これに先立ち、上述したように、レンズ位置決め機構によって眼鏡レンズ10または異形レンズ10a(以下、これらを纏めて「レンズ部材」という。)を所定の姿勢に位置決めする。そして、レンズ部材を所定の姿勢に位置決めした状態で、そのレンズ部材の第1面についてのセンサ部70による寸法測定結果を用いて、コントローラ部がレンズ部材の第1面の面形状データを認識する。その後、レンズ部材が位置決めされた姿勢を維持したまま、そのレンズ部材に対するレーザ加工をレーザ加工機30が行い得る位置まで、第1の電動アクチュエータ部56および第2の電動アクチュエータ部57がレンズ部材を移動させる。これにより、レーザ加工機30は、レンズ部材に対するレーザ加工を行うことが可能となる。
【0089】
つまり、レーザ加工によるパターニングがされたレンズ部材を得るためには、少なくとも、
凸状の光学面である第1面およびこれと対向する光学面である第2面を有するレンズ部材を所定の姿勢に位置決めする工程と、
位置決めされたレンズ部材の第1面についての寸法測定結果を用いて第1面の面形状データを認識する工程と、
レンズ部材における第1面にレーザ光を照射して第1面に対するレーザ加工を行うとともに、レーザ光の照射位置を面形状データに基づいて制御する工程と、
を経ることになる。
【0090】
なお、これらの各工程を行う場合には、被処理物となるレンズ部材を鉛直方向に立てた状態にしておく。これにより、いずれの工程(特に、レーザ加工を行う工程)においても、異物(例えば、レーザ加工による除去物)等が重力方向に落下するようになるので、当該異物がレンズ部材の光学面に付着してしまうのを抑制することができる。
【0091】
ここで、レンズ部材の第1面に対するレーザ加工を行う工程について、さらに詳しく説明する。
【0092】
(レーザ光の波長)
レンズ部材に対して照射するレーザ光は、薄膜13aを部分的に除去するためのものであり、薄膜13a以外のレンズ基材11およびHC膜12には照射によるダメージ等を与えないことが望ましい。そこで、本実施形態においては、レーザ光の照射にあたり、以下のような波長のレーザ光を用いる。
【0093】
レーザ光の透過率が大きい場合、レーザ光が照射された部材にはレーザ光のエネルギーが吸収され難いため(すなわち、レーザ光が透過し易いため)、その部材にダメージ等が生じるのを抑制し得る。一方、透過率が小さいと、照射したレーザ光のエネルギーの吸収率が高くなるため、そのエネルギー吸収を利用した加工等(例えば、部材の部分的な除去)を効率的に行い得るようになる。したがって、積層された部材同士の透過率差が大きければ、一方の部材のみに対して、レーザ光を利用した加工等を行うといったことが実現可能となる。
【0094】
このことを踏まえ、照射するレーザ光として、レンズ基材11に対する透過率と薄膜13aに対する透過率との差が1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、より一層好ましくは10%以上である波長帯に属する波長のレーザ光を用いる。さらには、レンズ基材11に対する透過率に加え、非除去膜であるHC膜12に対する透過率についても、薄膜13aに対する透過率との差が1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、より一層好ましくは10%以上である波長帯に属する波長のレーザ光を用いる。また、他の非除去膜であるAR膜14に対する透過率についても、薄膜13aに対する透過率との差が1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、より一層好ましくは10%以上である波長帯に属する波長のレーザ光を用いるようにしてもよい。なお、ここでいうレンズ基材11、HC膜12およびAR膜14の透過率は、これらの積層体についての透過率を含み得る。
【0095】
透過率差が5%以上(すなわち、より好ましい透過率差)である波長帯としては、例えば、380nm~1150nmの波長帯が挙げられる。そして、このような波長帯に属する波長のレーザ光として、除去工程(S104)では、例えば、波長が1064nmであるレーザ光を照射する。波長が1064nmのレーザ光であれば、透過率差が10%以上あり、レンズ基材11およびHC膜12の透過率が90%以上あり、レンズ基材11へのレーザ光の影響も抑制することが可能だからである。
【0096】
このように、透過率差を少なくとも1%以上とすることで、レーザ光を照射した際に、レンズ基材11やHC膜12等については透過するが(ダメージを与えないが)、薄膜13aについては吸収率が高いことから照射部分のみが除去される、といったことが実現可能となる。つまり、レーザ照射を利用して薄膜13aに直接パターニングを行うことが実現可能となる。また、透過率差を、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、より一層好ましくは10%以上とすれば、レーザ照射を利用した直接パターニングを確実なものとすることができる。
なお、透過率差の上限は、レンズ基材11、HC膜12、薄膜13a等がいずれも光透過性を有すること考慮すると、50%程度である。
【0097】
(レーザ光の焦点位置)
以上のようなレーザ光を照射する際の焦点位置の三次元制御は、以下のようにして行う。
【0098】
まず、レーザ加工機30は、被処理物となるレンズ部材の第1面についての面形状データを、レンズ位置決め機構のコントローラ部から取得する。その一方で、レーザ加工機30は、被処理物となるレンズ部材に形成すべきパターン部20についてのパターンデータを、レーザ加工機30の上位装置から取得する。
【0099】
そして、レーザ加工機30は、取得したパターンデータに従いつつレーザ光の焦点位置をXY方向に可変させるとともに、取得した面形状データに従いつつレーザ光の焦点位置をZ方向にも可変させる。このようにして、レーザ加工機30は、照射するレーザ光の焦点位置の三次元制御を行う。
【0100】
このような三次元制御の基になるレンズ部材の面形状データは、レンズ位置決め機構において、レンズ部材が第1面を基準にして所定の姿勢に位置決めされた状態で認識されたものである。しかも、レンズ部材は、レーザ加工機30によるレーザ加工を行い得る位置に配された状態でも、位置決めされた姿勢を維持している。したがって、レーザ加工機30は、レーザ光の焦点位置の三次元制御を精度よく行うことができる。
【0101】
また、例えば、レンズ部材がプリズムレンズである場合であっても、第1面を基準に位置決めされた状態で面形状データが認識されているので、第2面を基準にした場合とは異なり、レンズ部材が有するプリズム量の影響が三次元制御に及んでしまうことがない。したがって、レーザ加工機30は、プリズム量の分を加味したデータ補正等を要することなく、レーザ光の焦点位置の三次元制御を精緻に行うことができ、精緻な制御のために処理が煩雑化してしまうことを抑制することができる。
【0102】
また、レンズ部材の面形状データは、センサ部70による測定結果に基づいて認識されているので、例えば、レンズ部材の第1面の曲率(カーブ)がレンズ部材毎に異なる場合であっても、その曲率の違いが的確に反映されたものとなる。この点においても、レーザ加工機30は、レーザ光の焦点位置の三次元制御を精度よく行うことができる。
【0103】
つまり、レンズ位置決め機構での位置決めを経た上で、そのレンズ位置決め機構から面形状データを取得することで、レーザ加工機30は、被処理物となるレンズ部材がプリズムレンズであるか否かにかかわらず、また当該レンズ部材の第1面がどのような曲率(カーブ)であるかにかかわらず、レーザ光の焦点位置の三次元制御を容易かつ高精度に行うことができる。したがって、レンズ部材の第1面に対して、レーザ加工機30によるレーザ加工を利用したパターニングを行う場合に、処理の煩雑化を抑制しつつ、そのパターニングの高精度化が図れるようになる。
【0104】
(パターニングの具体例)
ここで、レーザ加工機30によるレーザ加工を利用したパターニングでパターン部20について、具体例を挙げて説明する。
【0105】
以下の説明では、処理対象物となるレンズ部材がプリズムレンズである場合を例に挙げる。プリズムレンズは、プリズム処方がされた眼鏡レンズであり、第1面(物体側の面)と第2面(眼球側の面)とがプリズム量を有して対向するように構成されている。プリズム量を有するとは、「0」でないプリズム量が与えられていることを意味する。
【0106】
処理対象物がプリズムレンズである場合においても、その第1面に形成されるパターン部20は、上述したように、第1面を基準にした位置決めを経た後にレーザ加工によって形成されたものであり、しかもそのレーザ加工が第1面の面形状データに基づくレーザ光の焦点位置の三次元制御に対応して行われる。したがって、パターン部20は、高精度にパターニングされたものとなり、具体的には以下に述べる精度で形成されたものとなる。
【0107】
図11は、本実施形態に係る眼鏡レンズにおけるパターン部の一具体例を示す部分拡大図である。なお、図例は、パターン部20が複数のドット(同一形状部分)21によって構成されたドットパターンであり、レンズ部材の第1面の中心近傍に配されたドットパターンの顕微鏡観察結果と、同光学面の周縁近傍に配されたドットパターンの顕微鏡観察結果とを、それぞれ並べて示している。また、
図11(a)にはレーザ加工で得られた本実施形態に係るドットパターンの例を示す一方で、
図11(b)には比較例となるインクジェット記録法を利用して得られたドットパターンの例を示している。
【0108】
図11(a)に示すように、本実施形態に係るドットパターンであるパターン部20は、光学面上にドット(同一形状部分)21が配されて構成されているとともに、各ドット21のそれぞれの寸法ばらつきが±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下となっている。
また、眼鏡レンズ10の光学面の中心近傍に配されたドットパターンを構成するドット21と、同光学面の周縁近傍に配されたドットパターンを構成するドット21とを比べてみても、それぞれの寸法ばらつきが±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下となっている。
ここでいう「寸法ばらつき」とは、(1)平面視したときに略真円形状の各ドット21の間の径寸法のばらつきと、(2)あるドット21における縦横の径寸法(アスペクト比)のばらつき、の少なくとも一方、好ましくは両方のことをいう。具体的には、上記(1)については、光学面の中心近傍および周縁近傍のいずれにおいても、各ドット21の径の寸法ばらつきが、例えば、440±44μm以下、好ましくは440±26μm以下、より好ましくは440±8μm以下に収まっている。また、上記(2)についても、各ドット21のアスペクト比のばらつきが、例えば、440±44μm以下、好ましくは440±26μm以下、より好ましくは440±8μm以下に収まっている。
【0109】
一方、
図11(b)に示すインクジェット記録法を利用して得られたドットパターンでは、各ドットの寸法ばらつきが±10%を超える程度、具体的には440±44μmを超えてしまう。また、特に、光学面の周縁近傍においては、インク着弾の時間差に起因して、ドット同士が繋がるドット繋がりや、本来のドット周辺に弾いたようなサテライト(小ドット)等が発生してしまうおそれがあり、アスペクト比のばらつきが大きくなる傾向が高い。
【0110】
つまり、レンズ部材の第1面が凸状の曲面である場合、例えばインクジェット記録法では、±10%を超える程度の寸法ばらつきやドット形状の崩れ(アスペクト比のばらつき)等が生じ得る。これに対して、本実施形態で説明したように、第1面を基準にした位置決めを経て一連の処理を行えば、処理対象物がプリズムレンズである場合においても、その第1面の側に形成されるパターン部20を±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下の寸法ばらつきに抑えることができる。特に、上記(2)のアスペクト比のばらつきについては、インクジェット記録法の場合に比べると改善の度合いが高い。したがって、曲面状の光学面に複数のドット21が配されて構成されるドットパターンを形成する場合であっても、そのドットパターンは、非常に高精度に形成されたものとなり、その結果としてパターニング後のレンズ部材について安定した品質を確保することができる。
【0111】
特に、第1面が凸状の曲面である場合には、第1面の中心近傍と周縁近傍とで最大寸法ばらつきが生じてしまう可能性が高いが、本実施形態で説明したように、焦点位置の三次元制御に対応しつつレーザ光を照射してパターニングを行えば、その最大寸法ばらつきを±2%以下に抑えることができる。したがって、例えば、第1面の全面にわたってドットパターンが配される場合であっても、そのドットパターンは、非常に高精度に形成されたものとなり、その結果としてパターニング後のレンズ部材について安定した品質を確保することができる。
【0112】
なお、上述の説明では、ドット21の径の寸法について具体的な値を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されるものではない。
ドット21の直径DDは、例えば、0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.1mm以上であり、そして、例えば、5.0mm以下、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下とすることが考えられる。
また、あるドット21の中心から隣接する他のドット21の中心までの間隔ADは、例えば、0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上であり、そして、例えば、5.0mm以下、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下とすることが考えられる。
間隔AD/直径DDは、好ましくは1.0超、より好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.2以上であり、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下とすることが考えられる。
いずれの場合においても、本実施形態において、寸法ばらつきは、±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下に抑えられているものとする。
【0113】
(8)本実施形態に係るレーザ加工による効果
本実施形態に係るレーザ加工によれば、以下に示す効果が得られる。
【0114】
本実施形態では、レンズ位置決め機構での位置決めを経た上で、そのレンズ位置決め機構から取得した面形状データに基づいて、レーザ加工機30がレーザ光の焦点位置の三次元制御を行う。そのため、被処理物となるレンズ部材がプリズムレンズであるか否かにかかわらず、また当該レンズ部材の第1面がどのような曲率(カーブ)であるかにかかわらず、プリズム量の分を加味したデータ補正等を要することなく、レーザ光の焦点位置の三次元制御を容易かつ高精度に行うことができる。したがって、レンズ部材の第1面に対して行うパターニングについて、処理の煩雑化を抑制しつつ、そのパターニングの高精度化が図れるようになる。
【0115】
また、本実施形態では、被処理物となるレンズ部材を鉛直方向に立てた状態で一連の処理を行うので、処理の過程で異物等がレンズ部材の光学面に付着してしまうのを抑制することができる。したがって、レンズ部材の品質向上を図る上で好適なものとなる。
【0116】
また、本実施形態において、パターニングによって形成されるパターン部20は、そのパターン部20を構成する各ドット21の寸法ばらつきが±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下となっている。処理対象物となるレンズ部材がプリズムレンズである場合、例えばインクジェット記録法では±10%を超える程度の寸法ばらつきが生じてしまうが、第1面を基準にした位置決めを経た上で、その第1面の面形状データに基づくレーザ光の焦点位置の三次元制御に対応してパターニングを行えば、±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下の寸法ばらつきに抑えることができる。したがって、複数のドット21が配されて構成されるパターン部20であっても、そのパターニングを高精度に行うことができる。
特に、第1面が凸状の曲面である場合、特に第1面の中心近傍と周縁近傍とで最大寸法ばらつきが生じてしまう可能性が高いが、その最大寸法ばらつきを±10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは2%以下に抑えることで、薄膜13aへのパターニングの高精度化が図れ、レンズ部材について安定した品質を確保する上で非常に好適なものとなる。
【0117】
(9)変形例等
以上に本発明の実施形態を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0118】
上述の実施形態では、主として、レンズ部材が眼鏡レンズ10または異形レンズ10aである場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、被処理物となるレンズ部材は、凸状の光学面である第1面およびこれに対向する光学面である第2面を有するものであれば、眼鏡レンズ10または異形レンズ10a以外のものであっても構わない。
また、眼鏡レンズ10または異形レンズ10aについても、プリズムレンズである場合を例に挙げたが、プリズム量を有していないレンズ部材についても、本発明によって扱うことが可能である。
【0119】
また、上述の実施形態では、パターン部20が複数のドット(同一形状部分)21によって構成されたドットパターンである場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、パターン部20は、例えば、ドット21によって構成されたものではなく、例えば文字や図形等によって構成されたものであってもよい。また、パターン部20は、眼鏡レンズ10の光学面の全面ではなく、部分的に形成されたものであってもよい。また、微細なドット21が集まって文字や図形等を構成するものであってもよい。
【符号の説明】
【0120】
10…眼鏡レンズ(レンズ部材)、10a…異形レンズ(レンズ部材)、11…レンズ基材、12…HC膜、13…パターニング薄膜、13a…薄膜、14…AR膜、20…パターン部、21…ドット、30…レーザ加工機、40…レンズ載置台、41…切り欠き部、50…部材保持部、51…パッド部、52…ジョイント部、53…スライド機構部、54…弾性部材、55…ブレーキ部、56…第1の電動アクチュエータ部、57…第2の電動アクチュエータ部、60…姿勢制御部、61…支持爪、62…テーパ部、63…爪駆動部、64…爪回動部、70…センサ部、71…接触子、72…移動機構、80…補助具