(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】管理システム、輸送方法、及び管理装置
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20240430BHJP
C01B 3/26 20060101ALI20240430BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
F17C11/00 Z
C01B3/26
F17C13/00 302E
(21)【出願番号】P 2020060412
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】清家 匡
(72)【発明者】
【氏名】壱岐 英
(72)【発明者】
【氏名】前田 征児
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171521(JP,A)
【文献】特開2005-126315(JP,A)
【文献】特開2007-225002(JP,A)
【文献】特開平06-312797(JP,A)
【文献】特開2000-194894(JP,A)
【文献】特開2008-046855(JP,A)
【文献】特開昭59-124299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
C01B 3/26
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を収容する収容体を備え
、前記収容体に収容された前記原料を脱水素拠点に分配することによって形成された空間に、前記脱水素反応により前記水素含有ガスと共に生成された脱水素生成物を収容する移動体
と、
前記移動体を管理する管理装置であって、前記移動体による、前記原料の製造拠点から前記原料の脱水素反応を行う脱水素拠点への前記原料の分配、および、前記脱水素拠点にて前記脱水素反応により前記水素含有ガスと共に生成された脱水素生成物の回収、を管理する、管理装置と、
を備える管理システムであって、
前記管理装置は、前記製造拠点、前記脱水素拠点、前記移動体と通信する通信部を備え、前記通信部は前記脱水素拠点にて貯留された前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量を受信し、
前記管理装置は、前記移動体が、前記原料の製造拠点から前記原料の脱水素反応を行う複数の脱水素拠点へ前記原料を分配することを管理する、管理システム。
【請求項2】
前記収容体は複数の収容室を備える、請求項1に記載の
管理システム。
【請求項3】
前記移動体は、収容体仕切部材によって複数の収容室に仕切られている、請求項1または2に記載の
管理システム。
【請求項4】
前記管理装置は、受信した前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量に基づいて、前記製造拠点の原料の製造量を計画する、
請求項1に記載の管理システム。
【請求項5】
前記管理装置は、受信した前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量に基づいて、前記製造拠点から前記複数の脱水素拠点への輸送経路を計画する、
請求項1に記載の
管理システム。
【請求項6】
前記管理装置は、前記移動体が、前記原料の製造拠点と前記脱水素拠点の間に設けられた中間拠点にて、前記原料
を分配
すること、および、前記脱水素生成物
を収容
することを管理する、
請求項1に記載の
管理システム。
【請求項7】
前記移動体は、前記脱水素拠点への前記原料の分配により形成された空間に、前記脱水素生成物を収容する、
請求項1に記載の
管理システム。
【請求項8】
脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を輸送する輸送方法であって、
前記原料を製造する原料製造拠点で収容体に前記原料を収容する工程と、
前記原料を用いて前記脱水素反応を行う脱水素拠点にて前記収容体の前記原料を分配する工程と、
前記脱水素拠点にて、前記原料の分配によって形成された空間に、前記脱水素反応により前記水素含有ガスと共に生成された脱水素生成物を収容する工程と、を備え
、
前記脱水素拠点にて貯留された前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量を通信部で受信する工程と、
移動体が、前記原料の製造拠点から前記原料の脱水素反応を行う複数の脱水素拠点へ前記原料を分配すること、を管理する工程と、を更に含む、輸送方法。
【請求項9】
前記原料製造拠点と前記脱水素拠点の間に設けられた中間拠点にて、前記原料の分配および前記脱水素生成物を収容する工程、を備える
請求項8に記載の輸送方法。
【請求項10】
脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を収容する収容体を備え、前記収容体に収容された前記原料を脱水素拠点に分配することによって形成された空間に、前記脱水素反応により前記水素含有ガスと共に生成された脱水素生成物を収容する移動体を管理する管理装置であって、
前記管理装置は、
前記移動体による、前記原料の製造拠点から前記原料の脱水素反応を行う脱水素拠点への前記原料の分配、および、前記脱水素拠点にて前記脱水素反応により前記水素含有ガスと共に生成された脱水素生成物の回収、を管理し、
前記製造拠点、前記脱水素拠点、前記移動体と通信する通信部を備え、前記通信部は前記脱水素拠点にて貯留された前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量を受信し、
前記移動体が、前記原料の製造拠点から前記原料の脱水素反応を行う複数の脱水素拠点へ前記原料を分配することを管理する、管理装置。
【請求項11】
受信した前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量に基づいて、前記製造拠点の原料の製造量を計画する、請求項10に記載の管理装置。
【請求項12】
受信した前記原料の貯留量および前記脱水素生成物の貯留量に基づいて、前記製造拠点から前記複数の脱水素拠点への輸送経路を計画する、請求項10に記載の管理装置。
【請求項13】
前記移動体が、前記原料の製造拠点と前記脱水素拠点の間に設けられた中間拠点にて、前記原料を分配すること、および、前記脱水素生成物を収容することを管理する、請求項10に記載の管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収容体、及び輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を用いるシステムとして、例えば特許文献1に挙げるものが知られている。特許文献1の水素供給システムは、原料の芳香族炭化水素の水素化物を貯蔵するタンクと、当該タンクから供給された原料を脱水素反応させることによって水素を得る脱水素反応部と、脱水素反応部で得られた水素を気液分離する気液分離部と、気液分離された水素を精製する水素精製部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなシステムを備える脱水素拠点では、タンクローリーなどで輸送されてきた原料が用いられる。すなわち、タンクローリーなどの移動体は、原料を製造する原料製造拠点で収容体に原料を収容し、脱水素拠点へ輸送する。ここで、一つの原料製造拠点から複数の脱水素拠点へ原料を供給する場合、タンクローリーは、複数の脱水素拠点を巡回し、収容体が空になったら原料製造拠点へ戻り、再び収容体に原料を収容して巡回する。その一方で、各脱水素拠点では、脱水素生成物を貯留するタンクを有する。従って、当該脱水素生成物回収の専用のタンクローリーが、収容体を空にした状態で、複数の脱水素拠点を巡回し、原料製造拠点へ戻す。しかし、このような輸送方法は、タンクローリーなどの移動体の輸送頻度が高くなり、その結果輸送コストが上がり、最終的に水素のコストが上昇するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、原料及び脱水素生成物を輸送する移動体の輸送頻度を低減することができる収容体、及び輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明に係る収容体は、脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を収容する収容体であって、原料と、脱水素反応により水素含有ガスと共に生成された脱水素生成物と、を内部空間に混載可能である。
【0007】
ここで、移動体が収容体に所定の原料を収容して輸送する場合、コンタミネーションを避けるために、一つの収容体に対して原料と同時に他の物質を収容するようなことは一般的に行われない。すなわち、原料に対しては当該原料専用の収容体を準備し、他の物質に対しては当該物質専用の収容体を準備して、輸送を行うことが一般的である。しかし、本願発明者らは、鋭意研究の結果、次のような知見を見出すに至った。すなわち、本願発明者らは、脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を輸送する場合、当該原料を収容する収容体に、脱水素生成物を同時に収容しても問題が生じないことを見出した。従って、本発明に係る収容体は、原料と脱水素生成物とを内部空間に混載可能である。例えば、移動体は、ある脱水素拠点にて収容体内の一部の原料を供給した場合、当該供給分だけ収容体の内部空間に空きが生じる。収容体は、当該空いた内部空間に、脱水素拠点に貯留された脱水素生成物を収容することができる。この場合、移動体は、複数の脱水素拠点に対して、原料の分配を行いながら、脱水素生成物の回収も行うことができる。従って、原料専用の移動体とは別に脱水素生成物専用の移動体を別途準備する必要がなくなる。以上より、原料及び脱水素生成物を輸送する移動体の輸送頻度を低減することができる。
【0008】
内部空間は、仕切部材によって複数の収容室に仕切られてよい。これにより、収容体の内部空間に複数の収容室を容易に形成することが可能である。
【0009】
本発明に係る輸送方法は、上述の収容体を用いて原料を輸送する輸送方法であって、原料を製造する原料製造拠点で収容体に原料を収容する工程と、原料を用いて脱水素反応を行う複数の脱水素拠点にて収容体の原料を分配する工程と、複数の脱水素拠点にて、原料の分配によって形成された空間に、脱水素生成物を収容する工程と、を備える。
【0010】
この輸送方法によれば、上述の収容体と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料及び脱水素生成物を輸送する移動体の輸送頻度を低減することができる収容体、及び輸送方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る収容体を用いた輸送システムの概略図である。
【
図2】各脱水素拠点が備える水素供給システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)は、移動体に搭載された収容体を示す側面図であり、(b)は、収容体の使用例を示す概念図である。
【
図6】輸送システムにおけるエネルギーや原料の流れを模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る水素供給システムの好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る収容体50を用いた輸送システム200の概略図である。輸送システム200は、複数の脱水素拠点210(ここでは脱水素拠点A~Cが例示されている)に対して、収容体50を備える移動体60が原料を輸送して分配するシステムである。まず、
図2を参照して、各脱水素拠点210にてどのように水素の製造が行われるかについて説明する。
図2は、各脱水素拠点210が備える水素供給システム100の構成を示すブロック図である。
【0015】
水素供給システム100は、有機化合物(常温で液体)を原料とするものである。なお、水素精製の過程では、原料である有機化合物(常温で液体)を脱水素した、脱水素生成物(有機化合物(常温で液体))が除去される。原料の有機化合物として、例えば、有機ハイドライドが挙げられる。有機ハイドライドは、製油所で大量に生産されている水素を芳香族炭化水素と反応させた水素化物が好適な例である。また、有機ハイドライドは、芳香族の水素化化合物に限らず、2-プロパノール(水素とアセトンが生成される)の系もある。有機ハイドライドは、ガソリンなどと同様に液体燃料としてタンクローリーなどの移動体60によって水素供給システム100へ輸送することができる。本実施形態では有機ハイドライドとして、メチルシクロヘキサン(以下、MCHと称する)を用いる。その他、有機ハイドライドとしてシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、エチルデカリンなど芳香物炭化水素の水素化物を適用することができる(なお、芳香族化合物は特に水素含有量の多い好適な例である)。水素供給システム100は、燃料電池自動車(FCV)や水素エンジン車に水素を供給することができる。なお、メタンを主成分とした天然ガスやプロパンを主成分としたLPG、あるいはガソリン、ナフサ、灯油、軽油といった液体炭化水素原料から水素を製造する場合にも適用可能である。
【0016】
図2に示すように、本実施形態に係る水素供給システム100は液体移送ポンプ1、熱交換部2、脱水素反応部3、加熱部4、気液分離部6、圧縮部7、及び水素精製部8を備えている。このうち、液体移送ポンプ1、熱交換部2、及び脱水素反応部3は、水素含有ガスを製造する水素製造部10に属する。また、気液分離部6、圧縮部7、及び水素精製部8は、水素の純度を高める水素純度調整部11に属する。また、水素供給システム100は、ラインL1~L12を備えている。なお、本実施形態では、原料としてMCHを採用し、水素精製の過程で除去される脱水素生成物がトルエンである場合を例として説明する。なお、実際には、トルエンのみならず、未反応のMCHと少量の副生成物及び不純物も存在するが、本実施形態中では、トルエンに混じって当該トルエンと同じ挙動を示す。従って、以下の説明において、「トルエン」と称して説明するものには、未反応のMCHや副生成物も含むものとする。
【0017】
ラインL1~L12は、MCH、トルエン、水素含有ガス、オフガス、高純度水素、または加熱媒体が通過する流路である。ラインL1は、液体移送ポンプ1がMCHタンク21からMCHをくみ上げるためのラインであり、液体移送ポンプ1とMCHタンク21を接続する。ラインL2は、液体移送ポンプ1と脱水素反応部3とを接続する。ラインL3は、脱水素反応部3と気液分離部6とを接続する。ラインL4は、気液分離部6とトルエンタンク22とを接続する。ラインL5は、気液分離部6と圧縮部7とを接続する。ラインL6は、圧縮部7と水素精製部8とを接続する。ラインL7は、水素精製部8とオフガスの供給先とを接続する。ラインL8は、水素精製部8と図示されない精製ガスの供給装置とを接続する。ラインL11,L12は、加熱部4と脱水素反応部3とを接続する。ラインL11,L12は、熱媒体を流通させる。
【0018】
液体移送ポンプ1は、原料となるMCHを脱水素反応部3へ供給する。なお、外部からタンクローリーなどの移動体60で輸送されたMCHは、MCHタンク21にて貯留される。MCHタンク21に貯留されているMCHは、液体移送ポンプ1によってラインL1,L2を介して脱水素反応部3へ供給される。
【0019】
熱交換部2は、ラインL2を流通するMCHとラインL3を流通する水素含有ガスとの間で熱交換を行う。脱水素反応部3から出てきた水素含有ガスの方がMCHよりも高温である。従って、熱交換部2では、水素含有ガスの熱によってMCHが加熱される。これにより、MCHは、温度が上昇した状態で脱水素反応部3へ供給される。なお、MCHは、ラインL7を介して水素精製部8から供給されたオフガスと合わせて、脱水素反応部3へ供給される。
【0020】
脱水素反応部3は、MCHを脱水素反応させることによって水素を得る機器である。すなわち、脱水素反応部3は、脱水素触媒を用いた脱水素反応によってMCHから水素を取り出す機器である。脱水素触媒は、特に制限されないが、例えば、白金触媒、パラジウム触媒及びニッケル触媒から選ばれる。これら触媒は、アルミナ、シリカ及びチタニア等の担体上に担持されていてもよい。有機ハイドライドの反応は可逆反応であり、反応条件(温度、圧力)によって反応の方向が変わる(化学平衡の制約を受ける)。一方、脱水素反応は、常に吸熱反応で分子数が増える反応である。従って、高温、低圧の条件が有利である。脱水素反応は吸熱反応であるため、脱水素反応部3は加熱部4からラインL11,L12を循環する熱媒体を介して熱を供給される。脱水素反応部3は、脱水素触媒中を流れるMCHと加熱部4からの熱媒体との間で熱交換可能な機構を有している。脱水素反応部3で取り出された水素含有ガスは、ラインL3を介して気液分離部6へ供給される。ラインL3の水素含有ガスは、液体であるトルエンを混合物として含んだ状態で、気液分離部6へ供給される。
【0021】
加熱部4は、熱媒体を加熱すると共に、当該熱媒体をラインL11を介して脱水素反応部3へ供給する。加熱後の熱媒体は、ラインL12を介して加熱部4に戻される。熱媒体は特に限定されないが、オイルなどが採用されてよい。なお、加熱部4は、脱水素反応部3を加熱することができるものであればどのようなものを採用してもよい。例えば、加熱部4は、脱水素反応部3を直接加熱するものであってもよく、例えばラインL2を加熱することによって脱水素反応部3に供給されるMCHを加熱してもよい。また、加熱部4は、脱水素反応部3と、脱水素反応部3へ供給されるMCHの両方を加熱してもよい。例えば、加熱部4としてバーナーやエンジンを採用することができる。
【0022】
気液分離部6は、水素含有ガスからトルエンを分離するタンクである。気液分離部6は、混合物としてトルエンを含む水素含有ガスを貯留することによって、気体である水素と液体であるトルエンとを気液分離する。また、気液分離部6に供給される水素含有ガスは、熱交換部2で冷却される。なお、気液分離部6は、冷熱源からの冷却媒体によって冷却されてよい。この場合、気液分離部6は、気液分離部6中の水素含有ガスと冷熱源からの冷却媒体との間で熱交換可能な機構を有している。気液分離部6で分離されたトルエンは、ラインL4を介してトルエンタンク22へ供給される。また、トルエンタンク22のトルエンは、タンクローリーなどの移動体60で回収される。気液分離部6で分離された水素含有ガスは、圧縮部7の圧力によりラインL5,L6を介して水素精製部8へ供給される。なお、水素含有ガスを冷やすと当該ガスの一部(トルエン)は液化し、気液分離部6によって、液化しないガス(水素)と分離することができる。ガスを低温とした方が、分離の効率は良くなり、圧力を上げると更に、トルエンの液化が進む。
【0023】
水素精製部8は、脱水素反応部3で得られると共に気液分離部6で気液分離された水素含有ガスから、脱水素生成物(本実施形態ではトルエン)を除去する。これによって、水素精製部8は、当該水素含有ガスを精製して高純度水素(精製ガス)を得る。得られた精製ガスは、ラインL8へ供給される。なお、水素精製部8で生じたオフガスは、ラインL7を介して脱水素反応部3へ供給される。
【0024】
水素精製部8は、採用する水素精製方法によって異なるが、具体的には、水素精製方法として膜分離を用いる場合には、水素分離膜を備える水素分離装置であり、PSA(Pressure swing adsorption)法又はTSA(Temperature swing adsorption)法を用いる場合には、不純物を吸着する吸着材を格納する吸着塔を複数備えた吸着除去装置である。
【0025】
なお、ここでは、水素供給システムとしてFVCのための水素ステーションを例示したが、例えば常用電源や非常用電源などの分散電源のための水素供給システムであってもよい。
【0026】
図1に戻り、輸送システム200の構成について詳細に説明する。輸送システム200は、原料であるMCHを製造するMCH製造拠点201と、上述の水素供給システム100を有する脱水素拠点210と、収容体50で原料及び脱水素生成物を輸送する移動体60と、システム全体を管理する管理装置250と、を備える。なお、
図1では一台の移動体60だけが示されているが、多数の移動体60によって輸送がなされる。
【0027】
MCH製造拠点201は、原料であるMCHを製造する製造システムを有する拠点である。MCH製造拠点201は、各脱水素拠点210から回収した脱水素生成物であるトルエンに対して所定の処理を施して水素を付加することにより、MCHを製造することができる。MCH製造拠点201は、MCHタンク202と、トルエンタンク203と、を備える。従って、MCH製造拠点201では、製造されたMCHは、MCHタンク202に貯留される。そして、必要なタイミングにて、MCHタンク202のMCHは移動体60の収容体50に収容される。トルエンタンク203は、各脱水素拠点210から回収されたトルエンを貯留しておく。MCH製造拠点201では、MCHを製造するタイミングにて、所定量のトルエンがトルエンタンク203から取り出される。
【0028】
管理装置250は、輸送システム200全体を管理する装置である。管理装置250は、MCH製造拠点201と、脱水素拠点210と、移動体60と、の間で無線の通信手段を介して情報通信を行うことができる。管理装置250は、脱水素拠点210においてMCHタンク21に貯留されたMCHの量、及びトルエンタンク22内に貯留されたトルエンの量を受信する。また、管理装置250は、これらの脱水素拠点210におけるMCH及びトルエンの量に基づいて、どの程度の量のMCHを製造する必要があり、どのような経路でMCHの分配及びトルエンの回収を行うかの計画を立てる。管理装置250は、それらの情報をMCH製造拠点201、及び移動体60に送信する。
【0029】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る収容体50について詳細に説明する。
図3(a)は、移動体60に搭載された収容体50を示す側面図である。
図3(b)は、収容体50の使用例を示す概念図である。収容体50は、MCHとトルエンとを内部空間に混載可能である。混載とは、例えば、
図3(b)の中央の図に示すように、一つの収容体50の中に、MCHとトルエンとが同時に収容された状態である。
図3(a)に示すように、本実施形態に係る収容体50は、タンクローリーのタンクであり、前後方向に長手方向を有する略円柱状の形状を有する。内部空間とは、収容体50の後壁50a、前壁50b、及び周壁50cに囲まれた空間である。収容体50は、移動体60の後部における積載部に配置される。
【0030】
図3(a)に示すように、収容体50の内部空間は、仕切部材51によって複数の収容室52に仕切られている。仕切部材51は、収容体50の長手方向における所定の位置にて、周壁50cの内面に対して全周にわたって固定されている。これにより、仕切部材51は、収容体50の内部空間を前後方向に仕切ることができる。複数の仕切部材51は、前後方向に互いに対向するとともに、互いに離間した状態で配置される。これにより、収容体50の後壁50aと仕切部材51との間、一対の仕切部材51の間、及び収容体50の前壁50bと仕切部材51との間に収容室52が形成される。一の収容室52は、他の収容室52との間の水密性が確保されている。従って、一の収容室52に収容された液体は、他の収容室52へは漏れないようになっている。
【0031】
次に、
図3(b)及び
図4を参照して、収容体50を用いた輸送方法の一例について説明する。
図4は、輸送方法の一例を示す概念図である。輸送方法は、MCH収容工程と、MCH分配工程と、トルエン収容工程と、トルエン返還工程と、を備える。
【0032】
MCH収容工程は、MCH製造拠点201で収容体50にMCHを収容する工程である。このとき、収容体50がMCHで満タンの状態となり、全ての収容室52にMCHが収容された状態となる(
図3(b)の左側の図参照)。移動体60は、当該状態となった収容体50を積載して、MCH製造拠点201を出発する。
【0033】
MCH分配工程は、所定の脱水素拠点にMCHを分配する工程である。移動体60は、分配対象となる脱水素拠点210に対して、収容体50に収容されたMCHの一部、または全部を分配する。トルエン収容工程は、MCHを分配することによって形成された空間にトルエンを収容する工程である。移動体60は、対象となる脱水素拠点210から、トルエンを回収する。
【0034】
図4に示す例では、移動体60は、脱水素拠点210のうちの「脱水素拠点A」に対してMCHを分配する。次に、移動体60は、脱水素拠点210のうちの「脱水素拠点B」からトルエンを回収する。このとき、「脱水素拠点A」でMCHを分配することで一部の収容室52が空になるため、「脱水素拠点B」では、当該収容室52に対してトルエンを収容する(
図3(b)の中央の図参照)。なお、MCHを分配した後の収容室52には微量のMCHが残存している。しかし、当該収容室52の洗浄を行う必要はなく、MCHが残存した状態で、収容室52にトルエンを収容してよい。
【0035】
同様に、移動体60は、脱水素拠点210のうちの「脱水素拠点C」に対してMCHを分配する。次に、移動体60は、脱水素拠点210のうちの「脱水素拠点D」からトルエンを回収する。これにより、全ての収容室52にトルエンが収容され、収容体50がトルエンで満タンになる(
図3(b)の右側の図参照)。次に、移動体60は、トルエン返還工程を実行する。
【0036】
トルエン返還工程は、各脱水素拠点210から回収したトルエンをMCH製造拠点201のトルエンタンク203へ返還する工程である。これにより、収容体50は空になるため、再びMCH収容工程から処理を繰り返すことができる。なお、トルエンを返還した後の収容室52には微量のトルエンが残存している。しかし、当該収容室52の洗浄を行う必要はなく、トルエンが残存した状態で、収容室52にMCHを収容してよい。
【0037】
なお、トルエン返還工程は、必ずしも収容体50がトルエンで満タンになったタイミングで実行されなくともよい。例えば、移動体60は、トルエンが満タンになっていない状態や、分配仕切れなかったMCHが残っている状態で、MCH製造拠点201に戻って、トルエンを返還してもよい。また、上述のMCHの分配及びトルエンの回収のパターンも適宜変更可能である。また、移動体60は、MCHを分配した脱水素拠点210から、そのままトルエンを回収してもよい。
【0038】
次に、本実施形態に係る収容体50、及び輸送方法の作用・効果について説明する。
【0039】
まず、比較例に係る収容体及び輸送方法について説明する。比較例に係る収容体は、MCHとトルエンとを混載することができない。また、当該収容体を用いた輸送方法では、一つのMCH製造拠点201から複数の脱水素拠点210へ原料を供給する場合、MCH輸送専用の移動体を準備する。当該MCH輸送専用の移動体は、複数の脱水素拠点210を巡回し、収容体が空になったらMCH製造拠点201へ戻り、再び収容体に原料を収容して巡回する。その一方で、トルエン回収専用の移動体を準備する。当該トルエン回収専用の移動体は、収容体を空にした状態で、複数の脱水素拠点210を巡回し、MCH製造拠点201へ戻す。しかし、このような比較例に係る輸送方法は、ローリーなどの移動体の輸送頻度が高くなり、その結果輸送コストが上がり、最終的に水素のコストが上昇するという問題がある。
【0040】
これに対し、本実施形態に係る収容体50は、脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含む原料を収容する収容体50であって、MCH(原料)と、脱水素反応により水素含有ガスと共に生成されたトルエン(脱水素生成物)と、を内部空間に混載可能である。
【0041】
ここで、一般的に、移動体が収容体に所定の原料を収容して輸送する場合、コンタミネーションを避けるために、一つの収容体に対して原料と同時に他の物質を収容するようなことは行われない。すなわち、上述の比較例のように、原料に対しては当該原料専用の収容体を準備し、他の物質に対しては当該物質専用の収容体を準備して、輸送を行うことが一般的である。
【0042】
しかし、本願発明者らは、鋭意研究の結果、次のような知見を見出すに至った。すなわち、本願発明者らは、脱水素反応させることによって水素含有ガスを得ることができる水素化物を含むMCHなどの原料を輸送する場合、当該MCHを収容する収容体50に、トルエンなどの脱水素生成物を同時に収容しても問題が生じないことを見出した。トルエンは、MCHから水素を除いた物質である。従って、MCHの中に微量のトルエンが混入しても、脱水素反応部の反応ではトルエンが生じるものであるため、当該混入によって脱水素触媒が劣化するなどの悪影響がない。また、トルエンの中に微量のMCHが混入しても、水素を付加する処理によってトルエンが最終的にMCHとなるため、当該混入によって処理効率が落ちるなどの悪影響がない。
【0043】
従って、本実施形態に係る収容体50は、MCHとトルエンとを内部空間に混載可能である。例えば、移動体60は、ある脱水素拠点210にて収容体50内の一部のMCHを供給した場合、当該供給分だけ収容体50の内部空間に空きが生じる。収容体50は、当該空いた内部空間に、脱水素拠点210に貯留されたトルエンを収容することができる。この場合、移動体60は、複数の脱水素拠点210に対して、MCHの分配を行いながら、トルエンの回収も行うことができる。従って、MCH分配専用の移動体60とは別にトルエン回収専用の移動体60を別途準備する必要がなくなる。以上より、MCH及びトルエンを輸送する移動体60の輸送頻度を低減することができる。
【0044】
内部空間は、仕切部材51によって複数の収容室52に仕切られてよい。これにより、収容体50の内部空間に複数の収容室52を容易に形成することが可能である。
【0045】
本実施形態に係る輸送方法は、上述の収容体50を用いてMCHを輸送する輸送方法であって、MCHを製造するMCH製造拠点201で収容体50にMCHを収容する工程と、MCHを用いて脱水素反応を行う複数の脱水素拠点210にて収容体50のMCHを分配する工程と、複数の脱水素拠点210にて、MCHの分配によって形成された空間に、トルエンを収容する工程と、を備える。
【0046】
この輸送方法によれば、上述の収容体50と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0047】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、
図5に示すような輸送方法が採用されてもよい。
図5は、変形例に係る輸送方法を示す概念図である。
図5に示すように、MCH製造拠点201と脱水素拠点210(脱水素拠点C,D)が離れており、長距離輸送(例えば600km)が必要となる場合、MCHタンク222及びトルエンタンク223を備える中間拠点221(例えば300km地点)が設けられてよい。例えば、移動体60が、近距離輸送で対応可能な区間Aに存在する脱水素拠点210(脱水素拠点A,B)に対してMCHの分配及びトルエンの回収を行う場合、MCH製造拠点201にてMCHの収容及びトルエンの返還を行う。一方、移動体60が、長距離輸送での対応が必要な区間Bに存在する脱水素拠点210(脱水素拠点C,D)に対してMCHの分配及びトルエンの回収を行う場合、中間拠点221にてMCHの収容及びトルエンの返還を行う。
【0048】
上述の移動体として、陸上輸送を行う例としてタンクローリーが例示されていた。しかし、移動体は、列車などの他の陸上輸送を行う移動体であってもよい。また、移動体は、陸上輸送を行うもののみならず、河川及び海上輸送を行うことができる船舶などであってよい。河川や海上輸送を行う場合も、
図5のような中間拠点221を設けてもよい。
【0049】
なお、収容体50の形状は上述の実施形態に限定されない。また、仕切部材によってどのように内部空間が仕切られるかの態様も、適宜変更可能である。
【0050】
図6を参照して、輸送システム300におけるエネルギーや原料の流れについて説明する。
図6に示すように、輸送システム300は、MCHを製造するMCH装置301と、脱水素反応により水素を製造する脱水素装置302と、水素を供給する水素ステーション303と、を備える。MCH装置301は、工場などの副生水素供給部306から副生水素を供給され、再生可能エネルギー供給部307の再生可能エネルギーで水電解装置312にて製造した水素を供給される。また、MCH装置301は、各脱水素装置302から回収されたトルエンを供給される。これにより、MCH装置301は、MCHを製造する。MCH装置301は、トルエンタンク311にトルエンを貯めておく。MCH装置301は、MCHタンク313にMCHを貯める。MCHタンク313のMCHは、脱水素装置302側のMCHタンク314に貯められる。また、脱水素装置302で生成されたトルエンはトルエンタンク316に貯められる。水素ステーション303は、脱水素装置302からの水素を供給する。
【符号の説明】
【0051】
50…収容体、51…仕切部材、52…収容室、60…移動体、201…MCH製造拠点(原料製造拠点)、210…脱水素拠点。