(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】経皮吸収抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20240430BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240430BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20240430BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/06
A61K8/37
A61K8/44
A61K8/55
A61Q17/00
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020060585
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】浅井 健史
(72)【発明者】
【氏名】伊達 正剛
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189281(JP,A)
【文献】特開2015-113297(JP,A)
【文献】特開2009-298748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 17/00-17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン界面活性剤、
炭素数16以上の高級アルコールから選択される1種以上の高級アルコール、
及び細胞間脂質を流動化する成分(
脂質流動化成分)である炭素原子数3乃至20である脂肪族アルコールのエステル、を構成成分とするαゲル構造体を有し、
水中油型乳化物であることを特徴とする、
水中油型乳化物中に含まれる前記脂質流動化成分の経皮吸収抑制剤。
(前記脂質流動化成分は、脂質流動化成分の共存下で測定した場合の擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化が、脂質流動化成分が無い場合の擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化の半分以下である成分のことをいう)
【請求項2】
前記アニオン界面活性剤が
N-アシルグルタミン酸塩又はアルキルリン酸塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1
に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項3】
前記アニオン界面活性剤が
セチルリン酸塩であることを特徴とする請求項1
に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項4】
前記アニオン界面活性剤及び高級アルコールの含有量が、細胞間脂質を流動化する成分1質量部に対して、0.03質量部以上であることを特徴とする請求項1~請求項3いずれか
1項に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項5】
前記細胞間脂質を流動化する成分がメトキシケイヒ酸エチルヘキシルであることを特徴とする請求項1~請求項4いずれか
1項に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項6】
前記メトキシケイヒ酸エチルヘキシルが6.5質量%以上であることを特徴とする請求項5に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項7】
前記細胞間脂質を流動化する成分がミリスチン酸イソプロピルであることを特徴とする請求項1~請求項4いずれか1項に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項8】
経皮吸収抑制剤が、脂質流動化成分の皮膚への浸透抑制剤である請求項1~請求項6いずれか1項に記載の経皮吸収抑制剤。
【請求項9】
請求項1~請求項
7いずれか
1項に記載の経皮吸収抑制剤を用い、
前記細胞間脂質を流動化する成分が惹起する油溶性皮膚刺激成分の皮膚刺激を緩和する方法
(但し、ヒトに対する医療行為は除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン界面活性剤と高級アルコールで形成するαゲルの層間および/又は内部に、細胞間脂質を流動化する成分(以下、脂質流動化成分)を内包した乳化粒子で構成される構造体(以下、αゲル構造体)を有し、水中油型乳化物であることを特徴とする経皮吸収抑制剤、及びαゲル構造体を用いて細胞間脂質の流動化による皮膚バリア機能の低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にスキンケア化粧料は、経皮吸収を促進することに注力して研究が行われてきた。スキンケア化粧料を皮膚に適用した時、含有される薬物の主な皮膚透過・吸収ルートは、毛包や汗腺等の付属器官を介する経付属器官ルートと角層を透過する経角層ルートの2通りが考えられている。付属器官を介した皮膚透過は角層を通るより速やかであるが、皮膚表面積に対する付属器官の割合は0.1%ほどであるため、付属器官の寄与率は多くの物質において無視し得る。よって、薬物の経皮吸収を促進するには経角層ルートが主と考えられ、皮膚透過の最大の障壁である角層バリアを克服する方法が検討されてきた。
【0003】
薬物の効果的な経皮吸収促進手段としては、大別すると1.薬物自体の経皮吸収を促進させる、2.角層の透過抵抗を低下させる、という2つの手段がとられる。1は最も妥当なアプローチであり、薬物の化学修飾、カプセル化などの手法が知られている。しかし、これらの手法は薬物の安定化や安全性、及びコストの面において、実現するためには技術的なハードルが高い。一方、2について、角層を通る経路には角質細胞内を通る経細胞ルートと細胞間隙を通る細胞間ルートがある。角質細胞間隙は細胞間脂質と呼ばれる脂質がラメラ構造を形成しており、角層構造はしばしばレンガ(角質細胞)とモルタル(細胞間脂質)の関係にたとえられる。細胞間ルートは角質細胞を迂回するため、薬物の移動する道のりは長くなるが、透過抵抗は経細胞ルートを通るより小さい。そのため、経皮吸収促進剤と呼ばれる成分を使用し、細胞間脂質と強く相互作用させ秩序構造を流動化することで薬物の経皮吸収を促進する方法が用いられてきた。実際に、経皮吸収促進剤として知られているミリスチン酸イソプロピルにより細胞間脂質のラメラ周期構造が大きく乱されることが、放射光X線回折実験(非特許文献1)で示唆されている。
【0004】
しかしながら、細胞間脂質構造を流動化させることで薬物の皮膚透過効果を得るということは、角層のバリア機能を弱めるものであり、実質的には角層に対してダメージを与え、体外からの物質透過を促進させやすくしている。そのため、経皮吸収促進剤のような脂質流動化成分は皮膚に対する損傷性が強く、刺激感や接触皮膚炎を引き起こす可能性が高い。さらに、角層のバリア機能を弱めることは、皮膚に悪影響を及ぼす他の成分についても皮膚透過を促進してしまうリスクを伴う。
【0005】
一方、経皮吸収を抑制する技術については、特許文献1では、水素添加リン脂質からなる経皮吸収抑制剤が開示されている。しかし水素添加リン脂質により経皮吸収を抑制される成分について、特段細胞間脂質の流動化作用との関連性を示す記載はなかった。特許文献2ではポリプロピレングリコールにより、紫外線吸収剤の経皮吸収が抑制されたことが開示されている。しかし、これら紫外線吸収剤についても特段細胞間脂質の流動化作用との関連性を示す記載はなかった。
【0006】
同様に経皮吸収を抑制する方法として、αゲルを利用する技術が知られている。例えば特許文献3では、ラメラ液晶のα型ゲル(αゲル)を含有する化粧料にて、水溶性成分リボフラビンの経皮吸収が抑制されたことを開示している。これは予めαゲルを含有する化粧料をブタ皮膚に塗布した後に、4cm2の脱脂綿に5%の水溶液を1ml含ませた実験である。つまり、外部から添加した微量の親水性成分の経皮吸収抑制効果を示したものである。また、特許文献4では、αゲルを含有する化粧料が、汚染物質が惹起する皮膚細胞への傷害を緩和することを示している。これは予めαゲルを含有する化粧料を再構築表皮モデルに塗布した後に、親油性の物質が含まれているディーゼル粒子抽出物(SRM1975)を1%添加した実験である。これも外部から添加した微量物質をαゲルがブロックすることで、皮膚への侵入を防いでいることを示したにすぎない。つまり、αゲルは外部由来の微量物質の皮膚へ侵入を防ぐ機能等の有用性は知られていたが、更なる有効性を求めた取り組みはなされていなかった。例えば、組成中に特定の脂質流動化成分を含有する組成物に関して、アニオン界面活性剤、高級アルコールと脂質流動化成分を構成成分とするαゲル構造体を形成することの有用性は何ら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】加藤知、中沢寛光、ヒト皮膚角層の構造と物質透過性、オレオサイエンス、第15巻、第11号、p.503-509、2015
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-126190号公報
【文献】特開2002-284622号公報
【文献】特開2009-298748号公報
【文献】特開2016-088866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記を鑑み、本発明ではアニオン界面活性剤と高級アルコールで形成するαゲルの層間および/又は内部に、脂質流動化成分を内包した乳化粒子で構成されるαゲル構造体を有し、水中油型乳化物であることを特徴とする経皮吸収抑制剤を提示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、αゲル構造体を形成することで、組成物内に存在する脂質流動化成分の作用を抑制する経皮吸収抑制剤を見出した。
【0011】
前述の通り、脂質流動化成分により皮膚バリアが低下すると、刺激感や接触皮膚炎といった安全性面の問題を生ずる。本発明者らは、この点について鋭意研究したところ、脂質流動化成分が、細胞間脂質を流動化させ、経皮吸収性を促進してしまうことを明らかにした。そして、脂質流動化成分を含有した従来の水中油型乳化物を皮膚に塗布した際、製剤中の水分が蒸発することで水分以外の含有成分の構成比は変化する。この時、元々は乳化滴内に存在していた脂質流動化成分の濃度が高まることで、皮膚中へ浸透してしまう挙動を確認した。つまり、乳化が壊れて局所的に遊離した脂質流動化成分が細胞間脂質を流動化させてしまい、結果的に脂質流動化成分自体の皮膚浸透性が促進されてしまうと考えられた。
【0012】
本発明者らは、本発明で得られたαゲル構造体を有する水中油型乳化物が皮膚に塗布された後、水分の蒸発により脂質流動化成分の比率が大幅に増加した時でも、αゲル構造体として脂質流動化成分を皮膚上に保持し、脂質流動化成分の遊離を防ぐ効果を見出した。これにより、脂質流動化成分が、角層中の細胞間脂質と相互作用することを起因とする流動化を抑制するので、脂質流動化成分が皮膚浸透することによる痛みやかゆみ等の刺激感や接触皮膚炎等の安全性上の問題が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、αゲル構造体を形成することにより、水中油型乳化物中に含まれる脂質流動化成分の経皮吸収が抑制され、角層のバリア機能を保全することができる。特に有効な例として、日焼け止め剤における紫外線吸収剤が細胞間脂質に及ぼす流動化が起因する皮膚刺激性の緩和や紫外線防御効果の長時間維持が期待できる。また、脂質流動化成分が惹起する油溶性皮膚刺激成分の経皮吸収を阻害し、皮膚刺激性の緩和が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】メトキシケイヒ酸エチルヘキシルが擬似細胞間脂質構造へ及ぼす影響
【
図3】製剤の含有成分比変化が擬似細胞間脂質へ及ぼす影響
【
図4】経皮吸収促進剤が擬似細胞間脂質構造へ及ぼす影響
【発明を実施するための形態】
【0015】
αゲルは親水部に多量の水を保持した両親媒性分子の結晶である。液晶ラメラ構造(ラメラ液晶)と同様の規則的な層状配列をもつが、αゲルはラメラ液晶とは異なり疎水鎖が液体状態ではなく、またコアゲル(固体結晶)とは異なり分子の回転自由度をもつ特徴がある。X線解析においても小角側ではラメラ液晶、αゲル共に層状構造を示す繰り返しピークが得られるが、広角側ではαゲルだけに六方晶充填を示す一本の鋭いピークが得られることが特徴である。
【0016】
αゲルは、アニオン活性剤、カチオン界面活性剤、あるいはノニオン界面活性剤などの界面活性剤と高級アルコールを配合し、公知の方法に従って調製されるのが一般的である。ここで、本発明におけるαゲル構造体とは、
図1に示すように界面活性剤と高級アルコールで形成するαゲルの層間及び/又は内部に、脂質流動化成分を内包した乳化粒子で構成される構造体と定義する。
【0017】
特に本発明におけるαゲル構造体は、アニオン界面活性剤が適している。カチオン界面活性剤を用いた場合、電荷による皮膚吸着を生じてしまうことで、αゲル構造体自体の皮膚刺激に懸念がある。また、ノニオン界面活性剤を用いた場合、αゲル構造体の強固さが充分ではなく、皮膚に塗布されて水分以外の含有成分の構成比が変化した際に、脂質流動化成分をαゲル構造体として保つことができない。一方、アニオン界面活性剤を用いた場合、安全性、安定性、さらには使用感に優れたαゲル構造体を形成することができる。
【0018】
本発明で用いるアニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸アルギニン等の炭素数12~24の脂肪酸を由来とする脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウロイルサルコシンナトリウム等のN-アシルサルコシン塩;N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム、N-ミリストイル-N-メチルタウリンナトリウム等の脂肪酸アミドスルホン酸塩;モノセチルリン酸カリウム等のアルキルリン酸塩;ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩;ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩;N-ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸アルギニン、N-ステアロイルグルタミン酸ナトリウム、N-ミリストイル-L-グルタミン酸ナトリウム等の長鎖N-アシルグルタミン酸塩などが挙げられる。これらのうち、アルキルリン酸塩、長鎖N-アシルグルタミン酸塩が好ましく、形成するαゲル構造体が及ぼす固体膜の強固さの観点から、セチルリン酸塩、ステアロイルグルタミン酸塩がより好ましい。
【0019】
本発明に用いる高級アルコールの炭素数は特に限定されないが、形成するαゲル構造体が及ぼす固体膜の強固さの観点から炭素数16以上の直鎖状飽和アルコールが好ましい。例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0020】
本発明において脂質流動化成分は、DSC(示差走査熱量測定器)を用いて擬似細胞間脂質の構造に与える影響を測定することで決定することができる。擬似細胞間脂質は、セラミド、コレステロール、及びパルミチン酸を2:1:1の質量比で混合し、クロロホルム:メタノール=5:1混液を加え、超音波処理により溶解する。これを、90℃で加熱して溶媒を除去した後に冷却し、擬似細胞間脂質を得ることができる。次に擬似細胞間脂質と脂質流動化成分を秤量容器中で1:1の質量比で混合し、これをDSCで測定する。測定条件は、0~100℃の温度条件で、5℃/分の昇温条件にて測定を行う。得られたDSCプロファイルから、測定したサンプルで最大となる吸熱ピークのエンタルピー変化を求めて、数1より擬似細胞間脂質1mg当たりのエンタルピー変化を算出する。
【数1】
この評価方法によると、擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化が大きいほど擬似細胞間脂質の堅牢性が維持されており、エンタルピー変化が小さいほど擬似細胞間脂質の堅牢性が低くなる、つまり流動化された状態にあると言える。よって、脂質流動化成分の共存下で測定した場合の擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化が、脂質流動化成分が無い場合の擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化の半分以下であることを指標とし、このような成分を脂質流動化成分と定義する。
【0021】
本発明において脂質流動化成分としては、細胞間脂質を流動化させる成分であればよい。例えば炭素原子数3乃至20である脂肪族アルコールのエステルが挙げられる。上記炭素原子数3乃至20である脂肪族アルコールのエステルとしては、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル等が挙げられる。
その他の脂質流動化成分としては、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリン酸ジエタノールアミド、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸、ケイ皮酸メチル、クレゾール、乳酸セチル、乳酸ラウリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、L-メントール、ボルネオロール、d-リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、dl-カンフル、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20 、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールモノカプリレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ホホバオイル、シリコーン油、n-メチル-2-ピロリドン、ハッカ油などが挙げられる。特に代表的な脂質流動化成分として、日焼け止め剤に汎用されている紫外線吸収剤のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルが挙げられる。また、経皮吸収促進剤として汎用されているミリスチン酸イソプロピルが挙げられる。これらは、化粧料中に5質量%以上含まれている場合に、顕著な皮膚刺激性を示すことで知られている。
【0022】
本発明のαゲル構造体を含有する水中油型乳化物の製造方法は、特に限定されず通常公知の方法で製造可能である。製造機器としては、一般のホモミキサーのような乳化機器であればいずれでもよい。例えば、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルやミリスチン酸イソプロピルのような脂質流動化成分、高級アルコールを加熱溶解させて均一にした油相に、アニオン界面活性剤や水溶性成分を加熱溶解させて均一にした水相を添加して乳化し、冷却することにより、αゲル構造体を含有する水中油型乳化物が得られる。
【0023】
αゲル構造体を形成していることは偏光顕微鏡観察、及びDSC測定の結果を組み合わせることで確認することができる。偏光顕微鏡像観察ではαゲル、ラメラ液晶など光学異方性を有する構造体の判別が可能である。DSC測定では、αゲル構造体の吸熱ピークは、アニオン界面活性剤、高級アルコール、及び脂質流動化成分それぞれ単独を水に溶解又は分散して測定した吸熱ピークと比較して、さらに高温側で単一のピークとして検出される。一方、αゲル構造体を含有しない水中油型乳化物の場合、吸熱ピークは検出されないか、あるいは50℃以下で検出される。本発明で用いるαゲル構造体としては、擬似細胞間脂質の吸熱ピークである約58℃よりも高温側で吸熱ピークを検出するαゲル構造体が適している。
【0024】
αゲル構造体が脂質流動化成分の作用を抑制する効果については、脂質流動化成分の判別方法と同様、DSCを用いて擬似細胞間脂質構造に与える影響を測定することで評価できる。具体的には、擬似細胞間脂質とαゲル構造体を有する水中油型乳化物を秤量容器中で1:1の質量比で混合し、これをDSCで測定する。測定条件は、0~100℃の温度条件で、5℃/分の昇温条件にて測定を行う。得られたDSCプロファイルから、測定したサンプルで最大となる吸熱ピークのエンタルピー変化を測定し、数1より擬似細胞間脂質1mg当たりのエンタルピー変化を算出する。この評価方法によると、擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化が大きいほど擬似細胞間脂質の堅牢性が維持されていることから、αゲル構造体が脂質流動化成分の作用を抑制していると言える。
【0025】
本発明のαゲル構造体を含有する水中油型乳化物には、本発明の効果を妨げない質的、量的範囲内で、その他添加成分を必要に応じて配合する事ができる。例えば、水性成分、高級アルコール以外の液状油、半固形油や固形油、アニオン界面活性剤以外の界面活性剤、粉体、色素、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル以外の紫外線吸収剤、水溶性高分子、保湿剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分、防腐剤、香料、清涼剤などを適宜配合することも可能である。
【0026】
本発明のαゲル構造体を含有する水中油型乳化物は、外用剤として医薬品、医薬部外品、化粧品などで使用することができる。特にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルの場合、経皮吸収抑制による紫外線防御効果の持続の観点から、日焼け止め、日中用乳液、メークアップ下地、ファンデーションなどが好ましく、特に好ましくは日焼け止めである。
【実施例】
【0027】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。尚、配合量は特記しない限り質量%で示す。
【0028】
実験1.メトキシケイヒ酸エチルヘキシルが擬似細胞間脂質に及ぼす影響
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルが細胞間脂質の構造を流動化する挙動を確認するため、擬似細胞間脂質構造へ及ぼす影響を評価した。
[評価方法]
セラミド、コレステロール、及びパルミチン酸を2:1:1の質量比で混合し、クロロホルム:メタノール=5:1混液を加え、超音波処理により溶解した。これを、90℃で加熱して溶媒を除去した後に冷却し、擬似細胞間脂質を得た。得られた擬似細胞間脂質とメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを様々な質量比で秤量容器中で混合し、DSC((株)日立ハイテクサイエンス社製、DSC7020)を用いて測定した。なお、測定条件は、温度範囲:0~100℃、昇温速度:5℃/分で行い、得られたDSCプロファイルから擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化を算出した。
【0029】
実験1のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルが擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を
図2に示す。
図2より、擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化が、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの質量比の増加に伴って減少していることから、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルが擬似細胞間脂質の流動化を促していることが明らかとなった。
【0030】
実験2.製剤の含有成分比変化が擬似細胞間脂質に及ぼす影響
製剤塗布後の水分蒸発による含有成分の濃縮変化が、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの乳化状態とどのように関係しているのかを確認するため、実使用を想定し、濃縮されたと仮定した組成で調製した試料の乳化状態の評価、及び各試料が擬似細胞間脂質
構造に与える影響を評価した。
[評価方法]
表1に示したαゲル構造体形成乳化製剤(実施例1-1~1-5;以下、実施例1系統)、高分子乳化製剤(比較例1-1~1-5;以下、比較例1系統)が皮膚に塗布されて水分が蒸発し、水以外の成分が濃縮されたと仮定した場合のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルが7.5%、15%、30%、45%、60%の組成を調製した。製法は、油相成分を80℃以上で均一に溶解し、同様に80℃以上で均一に溶解した水相成分と混合して乳化し、ホモミキサーで処理した後、35℃まで冷却した。試料を20℃で一晩保管した後、乳化状態の外観評価、偏光顕微鏡で光学異方性の有無の観察、及びDSC測定でαゲル構造体形成の有無を評価した。
次に表1の各試料と、実験1で調製した擬似細胞間脂質を1:1の質量比で秤量容器中で混合し、DSCを用いて擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した。なお、測定条件は、温度範囲:0~100℃、昇温速度:5℃/分で行い、得られたDSCプロファイルから擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化を算出した。
[乳化状態の外観評価基準]
〇:均一な乳化状態である(分離していない)。
×:不均一な乳化状態で分離している。
[偏光顕微鏡像の評価基準]
〇:クロスニコル下で光学異方性が観察できる。
×:クロスニコル下で光学異方性が観察できない。
[DSC測定の評価基準]
〇:58℃以上で吸熱ピークを検出する。
×:58℃以上で吸熱ピークを検出しない。
【0031】
【0032】
実験2のαゲル構造体形成乳化製剤(実施例1系統)、高分子乳化製剤(比較例1系統)について、皮膚上で生じる水分蒸発による含有成分の濃縮変化を想定した組成で調製した試料の乳化状態、偏光顕微鏡像、DSC測定の評価を表1に示す。比較例1系統は水分が少なくなり、水以外の成分の構成比率が高くなるにつれて乳化状態が悪くなり、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル含有量が30%以上(比較例1-3~1-5)では分離した状態を呈した。また、偏光顕微鏡像、DSC測定より、比較例1系統は結晶構造の形成は確認できなかった。一方、実施例1系統はメトキシケイヒ酸エチルヘキシル含有量が60%(実施例1-5)でも均一な状態を保っており、すべての組成でαゲル構造体を形成していることを確認した。
次に、各試料が擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した結果を
図3に示す。比較例1系統はメトキシケイヒ酸エチルヘキシル含有量が高くなるに従い、擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化は顕著に低下し、擬似細胞間脂質の流動化に拍車がかかる傾向を確認した。一方、実施例1系統は、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル含有量が高くなった場合でも擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化の変化は緩やかであり、擬似細胞間脂質の流動化は明らかに抑制されていた。すなわち、比較例1系統の高分子乳化製剤では、水分含有量が少なくなり、水以外の成分の比率が高くなると、高分子乳化剤がメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを乳化滴として保持することができないと考えられる。その結果、遊離したメトキシケイヒ酸エチルヘキシルが擬似細胞間脂質を流動化する挙動が明らかとなった。対して、実施例1系統のαゲル構造体形成乳化製剤は、たとえ水分含有量が少なくなり、水以外の成分の比率が高くなったとしても、αゲル構造体が強固な固体膜を形成していた。その結果、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルをαゲル構造体内に留めたことで、擬似細胞間脂質の堅牢性を維持したと判断できた。
【0033】
実験3.乳化方法が擬似細胞間脂質に及ぼす影響
乳化方法によって乳化滴中にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを保持する能力が異なると予想されるため、αゲル構造体形成乳化方法及びその他の乳化方法が擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した。
[評価方法]
実使用を想定し、皮膚上で水分以外の成分が濃縮されたと仮定して、表2に示す乳化方法の異なる試料を調製した。製法は、油相成分を80℃以上で均一に溶解し、同様に80℃以上で均一に溶解した水相成分と混合して乳化し、ホモミキサーで処理した後、35℃まで冷却した。試料を20℃で一晩保管した後、乳化状態の外観評価、偏光顕微鏡で層状構造の形成有無の観察、及びDSCを用いた測定で結晶形成の有無を評価した。次に、表2に示す試料と、実験1で調製した擬似細胞間脂質を1:1の質量比で秤量容器中で混合し、DSCを用いて擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した。なお、測定条件及び解析方法は実験2と同様に行い、算出した擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化を擬似細胞間脂質流動化抑制度として3段階で評価した。
[擬似細胞間脂質流動化抑制度の評価基準]
〇:5mJ/mg以上(流動化を大きく抑制する)
△:2mJ/mg以上~5mJ/mg未満(流動化をわずかしか抑制しない)
×:2mJ/mg未満(流動化を抑制しない)
【0034】
【表2】
実験3の乳化方法の異なる試料の乳化状態、偏光顕微鏡像、DSC測定の評価を表2に示す。アニオン界面活性剤無配合(比較例3)、高分子乳化製剤(比較例4)、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤(比較例5)は、実験2の比較例1-5と同様、分離した状態を呈した。一方、αゲル構造体製剤(実施例2~実施例6)、高級アルコール無配合(比較例2)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系ノニオン乳化製剤(比較例6)、ポリグリセリン脂肪酸エステル系ノニオン乳化製剤(比較例7)、液晶乳化製剤(比較例8)は、乳化状態を維持していた。次に、比較例2~比較例7は、偏光顕微鏡像及びDSC測定の両項目でαゲル構造体の形成を示さなかった。比較例2、比較例3より、アニオン界面活性剤と高級アルコールの組み合わせがαゲル構造体の形成に必須であることが分かる。また、比較例5は、高級アルコールと共に配合するとαゲルを形成することが知られている親水性ノニオン界面活性剤であるが、本実験は皮膚上で水以外の成分が濃縮された状態を想定した実験であるため、この組成ではαゲル構造体を維持することができず、分離してしまったと考えられる。比較例6、比較例7は従来から水中油型化粧料で汎用されるノニオン界面活性剤であるが、この実験の組成では高級アルコールを併用してもαゲル構造体は形成していないことが分かる。そして、比較例8は、偏光顕微鏡像で光学異方性を確認したが、DSC測定では吸熱ピークは約44℃で検出された。αゲル構造体を含有しない水中油型乳化物の場合、吸熱ピークは50℃以下で検出されることから、比較例8はαゲル構造体とは異なる層状構造であると判断した。
次に擬似細胞間脂質流動化抑制度の評価では、比較例2~比較例7は擬似細胞間脂質の流動化に対する抑制効果を示さなかったのに対し、実施例2~実施例6は優れた流動化抑制効果を示した。比較例2~比較例7は、αゲル構造体を形成しておらず、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルを乳化滴として十分保持できていないと考えられる。また、比較例8はαゲル構造体とは異なる層状構造であるため、構造体の強度は脆弱であり、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルを乳化滴として十分保持できていないと考えられる。対して、実施例2~実施例6では、αゲル構造体が強固な固体膜を形成し、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルをαゲル構造体内に留めたことで、擬似細胞間脂質の流動化に対し優れた抑制効果を示したと考えられる。
【0035】
実験4.メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの皮膚浸透性、安全性の評価
本発明の皮膚浸透抑制効果を評価するため、製剤中のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルの皮膚浸透性を測定した。また、安全性上の効果確認のため、実使用試験を行った。
[評価方法]
表3に示す処方を調製した。製法は、油相成分を80℃以上で均一に溶解し、同様に80℃以上で均一に溶解した水相成分と混合して乳化し、ホモミキサーで処理した後、35℃まで冷却した。なお表3の処方は、表2における水以外の配合成分の比率は維持したまま、水のみの比率を増加した処方であり、言い換えると皮膚に塗布する前の製剤の状態である。ヒト前腕内側部を洗浄し10分間安静にした後、前腕内側2.25cm
2の範囲に試料7.5mgを適用した。室温で1時間放置した後、被験部位をティッシュでふきとり、皮膚表面に試料の残りがないようにした。測定は、室温20℃、相対湿度50%の条件で、in vivo共焦点ラマン分光装置(RiverD International B.V.社製、gen2-SCA)を用い、785nmの波長で測定した。具体的には、測定ステージに被験部位を乗せ、被験部位に対して共焦点ラマン分光装置からレーザー光を照射し、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルのラマン散乱(1590~1620cm-1)の強度相対値(対ケラチンのラマン散乱;1400~1500cm-1)を皮膚深さ2μmごとに算出した。この測定を試料塗布1時間後及び6時間後に実施し、数2より皮膚浸透抑制効果を算出した。また、過去にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルによる皮膚トラブルを経験したことのあるモニター10名に1週間使用してもらい、皮膚トラブルの有無についてアンケートを行い、安全性の評価を行った。
[皮膚浸透抑制効果の評価基準]
【数2】
〇:0.8以上(皮膚浸透性を、大きく抑制する)
△:0.5以上~0.8未満(皮膚浸透性を、わずかしか抑制しない)
×:0.5未満(皮膚浸透性を、抑制しない)
[安全性の評価基準]
〇:皮膚トラブルが有ったと回答したモニターが、10名中0名だった。
△:皮膚トラブルが有ったと回答したモニターが、10名中1~2名だった。
×:皮膚トラブルが有ったと回答したモニターが、10名中3名以上だった。
【0036】
【表3】
実験4のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルの皮膚浸透性、安全性の評価結果を表3に示す。皮膚浸透性及び安全性のいずれの結果においても、擬似細胞間脂質流動化抑制度の評価結果とおおよそ相関していた。つまり、αゲル構造体が強固な固体膜を形成し、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルをαゲル構造体内に留めたことで、角層中の細胞間脂質の流動化が抑制され、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの皮膚への浸透抑制、及びそれに伴う安全性の向上が確認された。
【0037】
実験5. 経皮吸収促進剤が擬似細胞間脂質に及ぼす影響
経皮吸収促進剤として知られているミリスチン酸イソプロピルが擬似細胞間脂質の構造を流動化させる挙動を確認するため、擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した。
[評価方法]
実験1と同様に、擬似細胞間脂質と経皮吸収促進剤を1:0.5、あるいは1:1の質量比で秤量容器中で混合し、DSCを用いて擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した。
【0038】
実験5の経皮吸収促進剤が擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を
図4に示す。ミリスチン酸イソプロピルもメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと同様、擬似細胞間脂質の流動化を促すことが分かった。皮膚中に浸透しない特性が知られているワセリンと比較すると、これらの成分の脂質流動化作用は明らかである。脂質流動化成分の共存下で測定した場合の擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化が、脂質流動化成分が無い場合の擬似細胞間脂質1mg当たりエンタルピー変化の半分以下であることから、ミリスチン酸イソプロピルはメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと同じく脂質流動化成分であると言える。
【0039】
実験6. 経皮吸収促進剤を含有するαゲル構造体が擬似細胞間脂質に及ぼす影響
実験3と同様に、実使用を想定し、皮膚上で水分以外の成分が濃縮されたと仮定して、表4に示す試料を調製した。製法は、油相成分を80℃以上で均一に溶解し、同様に80℃以上で均一に溶解した水相成分と混合して乳化し、ホモミキサーで処理した後、35℃まで冷却した。試料を20℃で一晩保管した後、乳化状態の外観評価、偏光顕微鏡で層状構造の形成有無の観察、及びDSC測定で結晶形成の有無を評価した。次に、DSCを用いて擬似細胞間脂質構造に及ぼす影響を評価した。なお、測定条件及び解析方法は実験2及び実験3と同様に行った。
【0040】
【表4】
実験6のミリスチン酸イソプロピルを含有するαゲル構造体の評価を表4に示す。メトキシケイヒ酸エチルヘキシルを配合した場合(実施例2)と同様、ミリスチン酸イソプロピルの場合(実施例7)でもαゲル構造体を形成しており、その結果として優れた流動化抑制効果を確認した。αゲル構造体が強固な固体膜を形成することで、経皮吸収促進剤でさえもαゲル構造体内に留め、擬似細胞間脂質の流動化に対し優れた抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0041】
以下に本発明の水中油型乳化物の処方例を挙げる。公知の製造方法によりαゲル構造体を得る事が出来る。
【0042】
<日焼け止め乳液>
成分名 (%)
1,3-BG 7
グリセリン 5
セチルリン酸K 1
トリ酢酸テトラステアリン酸スクロース 2
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 9
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 2
ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン 2
オクトクリレン 2
シクロペンタシロキサン 2
イソノナン酸イソトリデシル 4
テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル 4
セタノール 1.5
ポリヒドロキシステアリン酸 0.5
シリカ 2
(ビニルピロリドン/エイコセン)コポリマー 0.5
防腐剤 適量
水 残余
合計 100
【0043】
<日焼け止めクリーム>
成分名 (%)
1,3-BG 10
グリセリン 5
PEG-50水添ヒマシ油 0.8
セチルリン酸K 1
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 14
ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン 2
オクトクリレン 2
シクロペンタシロキサン 3
エチルヘキサン酸セチル 2
セタノール 3
ポリヒドロキシステアリン酸 2
ポリアクリルアミド 0.8
(C13,14)イソパラフィン 0.48
ラウレス-7 0.12
酸化チタン 2
酸化亜鉛 4
キレート剤 適量
防腐剤 適量
水 残余
合計 100
【0044】
<保湿乳液>
成分名 (%)
1,3-BG 7
グリセリン 1
ステアロイルグルタミン酸Na 0.7
ミリスチン酸イソプロピル 9
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー 0.02
水酸化K 0.04
ベヘニルアルコール 0.3
ポリヒドロキシステアリン酸 0.1
シリカ 1
(ビニルピロリドン/エイコセン)コポリマー 0.3
防腐剤 適量
香料 適量
水 残余
合計 100
【0045】
<ファンデーション>
成分名 (%)
1,3-BG 10
グリセリン 3
PEG-50水添ヒマシ油 0.5
セチルリン酸K 0.8
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 6.5
ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン 0.5
イソノナン酸イソトリデシル 3
ジメチコン 2
シクロペンタシロキサン 3
セタノール 1.5
ポリヒドロキシステアリン酸 0.5
(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー 1.5
色顔料 0.7
酸化チタン 3
酸化亜鉛 4
防腐剤 適量
水 残余
合計 100
【産業上の利用可能性】
【0046】
上記の結果から、本発明によれば、強固な固体膜を形成するαゲル構造体は角層中の細胞間脂質と相互作用することを起因とする流動化を抑制するので、脂質流動性成分が皮膚浸透することによる痛みやかゆみ等の刺激感や接触皮膚炎等の安全性上の問題を低減することができる。また、水中油型乳化物中に配合した刺激性物質の皮膚浸透も副次的に抑制することができるので、さらに安全性上の問題を低減することが期待できる。加えて、脂質流動化成分がメトキシケイヒ酸エチルヘキシルのような紫外線吸収剤の場合、皮膚への浸透を抑制し、滞留することができるので、紫外線防御効果の持続性向上が期待できる。