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特許7479910摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法
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  • 特許-摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法 図1
  • 特許-摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法 図2
  • 特許-摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法 図3
  • 特許-摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
B23K20/12 342
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020075484
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021171775
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 稔尚
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126810(JP,A)
【文献】特開2003-094276(JP,A)
【文献】特開2000-015457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に装着される回転部と、
前記工作機械の主軸ヘッドに接続される固定部と、
前記固定部に支持されて前記主軸の軸線方向に往復移動可能かつ前記主軸の軸線廻りに回転規制された往復部と、
前記往復部に回転自在に支持されて先端に接合ツールを装着可能な加工軸と、
前記加工軸を回転駆動する回転駆動部と、
前記回転部と前記往復部とを接続しかつ前記往復部に対して前記回転部が回転した際に前記往復部を往復移動させるカム機構と、を有し、
前記カム機構は、
前記回転部または前記往復部のいずれか一方に同軸配置されて前記主軸の軸線方向と交差するカム面を有するカム部材と、
前記回転部または前記往復部のいずれか他方に設置されて前記カム面に摺動または転動するカムフォロワと、
前記カムフォロワを前記カム面に押し付ける押圧部材と、を有することを特徴とする摩擦攪拌接合アタッチメント。
【請求項2】
請求項に記載の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、
前記カム機構は、複数の前記カムフォロワが、前記主軸の軸線を中心に点対称に配置されていることを特徴とする摩擦攪拌接合アタッチメント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、
前記回転駆動部は、前記主軸の軸心を通して供給されるエアで回転するエアモータであることを特徴とする摩擦攪拌接合アタッチメント。
【請求項4】
請求項に記載の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、
前記エアモータは、前記回転部に設置され、軸方向に変位可能な回転伝達機構を介して加工軸に接続されることを特徴とする摩擦攪拌接合アタッチメント。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合アタッチメントと、
前記摩擦攪拌接合アタッチメントに装着された前記接合ツールと、を有することを特徴とする摩擦攪拌接合ヘッド。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合アタッチメントと、
前記摩擦攪拌接合アタッチメントに装着された前記接合ツールと、
前記摩擦攪拌接合アタッチメントが装着された工作機械と、を有することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
請求項に記載の摩擦攪拌接合装置を用い、
前記回転駆動部により前記接合ツールを回転させてワークに対する摩擦攪拌接合を行うとともに、
前記主軸の回転により前記接合ツールを前記主軸の軸線方向へ往復移動させることを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の接合手法として摩擦攪拌接合が用いられている。
摩擦攪拌接合においては、十分な摩擦熱を得るために、接合ツールの回転に高トルクが必要であり、従来は専用の摩擦攪拌接合装置が用いられてきた。一方、高トルクが得られるものであれば、汎用の工作機械を摩擦攪拌接合装置として用いることができる(特許文献1参照)。
特許文献1においては、摩擦攪拌接合における流動化部分の溢れを防止するために、工作機械の位置制御により接合ツールを昇降させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-127881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した摩擦攪拌接合においては、接合ツールの回転によりワークに対して摩擦熱を生じさせている。これに対し、接合ツールを高速で昇降させることで、ワークに対して回転による摩擦熱とは別に、往復移動による摩擦熱が得られ、摩擦攪拌性能の向上に寄与できる可能性がある。
しかし、前述した特許文献1では、工作機械の位置制御により接合ツールを昇降させており、その速度は数Hzないし数十Hz程度であって、摩擦熱が得られる速度には達していなかった。
【0005】
本発明の目的は、回転による摩擦熱に加えて往復移動による摩擦熱が得られる摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントは、工作機械の主軸に装着される回転部と、前記工作機械の主軸ヘッドに接続される固定部と、前記固定部に支持されて前記主軸の軸線方向に往復移動可能かつ前記主軸の軸線廻りに回転規制された往復部と、前記往復部に回転自在に支持されて先端に接合ツールを装着可能な加工軸と、前記加工軸を回転駆動する回転駆動部と、前記回転部と前記往復部とを接続しかつ前記往復部に対して前記回転部が回転した際に前記往復部を往復移動させるカム機構と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような本発明では、回転駆動部で加工軸を回転させることで、接合ツールの回転によるワークの摩擦攪拌接合を行うことができる。一方、主軸により回転部を回転させ、カム機構により往復部を往復移動させることで、ワークに接する接合ツールを往復移動させることができる。接合ツールの往復移動の速度は、例えばカム機構が一回転で一往復するならば、主軸の回転数に相当し、数百Hzないし数千Hzとすることができる。従って、接合ツールの往復移動によっても十分な摩擦熱を発生でき、十分な熱量でワークの摩擦攪拌接合を行うことができる。
その結果、回転による摩擦熱に加えて往復移動による摩擦熱が得られる摩擦攪拌接合アタッチメントを提供することができる。
【0008】
本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、前記カム機構は、前記回転部または前記往復部のいずれか一方に同軸配置されて前記主軸の軸線方向と交差するカム面を有するカム部材と、前記回転部または前記往復部のいずれか他方に設置されて前記カム面に摺動または転動するカムフォロワと、前記カムフォロワを前記カム面に押し付ける押圧部材と、を有することが好ましい。
このような本発明では、往復部に対して回転部が回転した際に、カムフォロワがカム面に摺動または転動することで、簡単な構造で効率よく往復部を主軸の軸線方向へ往復移動させることができる。
【0009】
本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、前記カム機構は、複数の前記カムフォロワが、前記主軸の軸線を中心に点対称に配置されていることが好ましい。
このような本発明では、カムフォロワからカム面に加えられる押圧部材による圧接力が、主軸の軸線を中心に点対称つまり周方向に均等となるため、このような押圧力の影響で往復部ないし接合ツールが傾くことを回避できる。
【0010】
本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、前記回転駆動部は、前記主軸の軸心を通して供給されるエアで回転するエアモータであることが好ましい。
このような本発明では、回転駆動部の動力源の確保が容易にできる。また、外部から往復部に接続される動力配管や配線が必要なく、周辺構造の簡素化も図れる。
なお、回転駆動部は、主軸ヘッドから固定部を経て電力供給される電動モータであってもよい。
【0011】
本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントにおいて、前記エアモータは、前記回転部に設置され、軸方向に変位可能な回転伝達機構を介して加工軸に接続されることが好ましい。
このような本発明では、主軸に近い部位にエアモータを設置でき、主軸からのエアの供給ラインも簡素化できる。一方、エアモータと回転軸とを、軸方向に変位可能な回転伝達機構を介して接続するので、加工軸が往復部とともに往復した際でも、エアモータに往復移動が伝達されることがない。
なお、エアモータは往復部に設置してもよい。この場合、軸方向に変位可能な回転伝達機構を省略できる。ただし、主軸からのエアを回転部で受け入れたのち、往復部まで導入する経路において往復移動を許容させる必要がある。
【0012】
本発明の摩擦攪拌接合ヘッドは、前述した本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントと、前記摩擦攪拌接合アタッチメントに装着された前記接合ツールと、を有することを特徴とする。
このような本発明では、前述した本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントと同様な効果を得ることができる。
【0013】
本発明の摩擦攪拌接合装置は、前述した本発明の摩擦攪拌接合アタッチメントと、前記摩擦攪拌接合アタッチメントに装着された前記接合ツールと、前記摩擦攪拌接合アタッチメントが装着された工作機械と、を有することを特徴とする。
このような本発明では、回転駆動部によりツールを回転させてワークに対する摩擦攪拌接合を行うとともに、主軸の回転によりツールを主軸の軸線に沿って往復移動させることで、ツールとワークとの摩擦を増加させ、摩擦攪拌接合を促進させることができる。
【0014】
本発明の摩擦攪拌接合方法は、前述した本発明の摩擦攪拌接合装置を用い、前記回転駆動部により前記接合ツールを回転させてワークに対する摩擦攪拌接合を行うとともに、前記主軸の回転により前記接合ツールを前記主軸の軸線方向へ往復移動させることを特徴とする。
このような本発明では、ツールが主軸の軸線まわりに回転しつつ、主軸の軸線に沿って往復移動することで、ツールとワークとの摩擦を増加させ、摩擦攪拌接合を促進させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転による摩擦熱に加えて往復移動による摩擦熱が得られる摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の摩擦攪拌接合装置を示す斜視図。
図2】前記実施形態の摩擦攪拌接合アタッチメントを示す断面図。
図3】前記実施形態のカムプロフィールを示す展開図。
図4】前記実施形態の接合ツールの動作を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、本実施形態の摩擦攪拌接合装置1は、縦型主軸を有する汎用の工作機械2に、本発明に基づく摩擦攪拌接合アタッチメント10と、摩擦攪拌接合用の汎用の接合ツール20と、を装着して構成される。
【0018】
工作機械2は、ワーク9が固定されるテーブル3と、先端に工具を装着可能な主軸4と、主軸4を回転自在に支持する主軸ヘッド5と、主軸ヘッド5を任意位置へ移動させる移動機構6と、を備えている。
移動機構6は、水平なガイドバー61に支持されたスライダ62を有し、主軸ヘッド5はスライダ62から下向きに支持されている。従って、スライダ62に対して主軸ヘッド5を昇降させることで、主軸4の先端をZ軸方向の指定された位置に移動可能である。また、ガイドバー61に沿ってスライダ62を移動させることで、主軸4の先端をX軸方向の指定された位置に移動可能である。
【0019】
主軸4は、軸線Rが垂直(Z軸方向)とされ、主軸ヘッド5内の駆動モータにより軸線R廻り(C軸方向)に回転可能かつ指定された角度位置に停止可能である。
テーブル3は、ベッド7に設置された駆動機構により、垂直な軸線廻り(C軸方向)に回転可能、かつ指定された角度位置に停止可能である。
これらのテーブル3、主軸4、主軸ヘッド5および移動機構6は、それぞれベッド7の上面に設置され、全体を開閉自在なカバー8で囲うことができる。
【0020】
主軸4には、本発明に基づく摩擦攪拌接合アタッチメント10を介して接合ツール20が装着されている。ここで、摩擦攪拌接合アタッチメント10に接合ツール20を装着することで、本発明の摩擦攪拌接合ヘッド19が構成される。
【0021】
図2において、摩擦攪拌接合アタッチメント10は、工作機械2の主軸4に装着される回転部11と、工作機械2のスライダ62(主軸ヘッド5)に接続される固定部12と、固定部12に支持されて主軸4の軸線R方向に往復移動可能かつ主軸4の軸線R廻りに回転規制された往復部13と、を有する。
さらに、摩擦攪拌接合アタッチメント10は、往復部13に回転自在に支持されて先端に接合ツール20を装着可能な加工軸14と、加工軸14を回転駆動する回転駆動部15と、回転部11と往復部13とを接続しかつ往復部13に対して回転部11が回転した際に往復部13を往復移動させるカム機構16と、を有する。
【0022】
回転部11は、規格に基づくテーパーシャンク111で主軸4に装着可能であるとともに、軸心に沿ってセンタースルーホール112を有し、センタースルーホール112には主軸4からセンタースルーエアが供給可能である。
固定部12は、回転部11のテーパーシャンク111とは反対側の端部の外周に装着され、軸受121を介して互いに回転可能である。
【0023】
固定部12には、外向きに張り出した部分にサブシャンク122が形成され、サブシャンク122は回転部11を主軸4に装着した際に主軸ヘッド5の受部に嵌合可能である。従って、回転部11を主軸4に装着することで、固定部12が主軸ヘッド5に接続されて回り止めされるとともに、回転部11および主軸4が固定部12および主軸ヘッド5に対して一体に回転可能である。
固定部12の主軸4とは反対側の端部には、円筒状のガイドスリーブ123が形成され、ガイドスリーブ123には往復部13が保持されている。
【0024】
往復部13は、円筒状の部材であり、ガイドスリーブ123の内部で主軸4の軸線Rに沿って往復移動可能である。ガイドスリーブ123の内周面と往復部13の外周面との間には、摺動性を高めるための低摩擦材料のコーティングなどが形成されている。
往復部13とガイドスリーブ123との間には、ボールスプラインなどを用いた回転規制機構131が形成され、往復部13とガイドスリーブ123とは軸線R廻りに回転規制されている。
【0025】
往復部13の軸心には、加工軸14が設置されている。
加工軸14は、軸受141を介して往復部13に回転自在に支持されている。軸受141は、軸線R方向へは変位を規制されており、加工軸14は往復部13に従って軸線R方向へ往復移動可能である。
加工軸14の一方の端部(図中下端)は、往復部13の端面から露出され、その先端に接合ツール20を装着される。
【0026】
加工軸14の他方の端部(図中上端)は、回転駆動部15に接続されている。
回転駆動部15は、回転部11に収容されたエアモータ151と、エアモータ151のシャフトと加工軸14とを接続するジョイント152とを有する。
エアモータ151は、回転部11のセンタースルーホール112に接続され、ここから供給される主軸4からのセンタースルーエアを受けて回転可能である。
ジョイント152は、ボールスプラインなどを用いて形成された軸方向に変位可能な回転伝達機構であり、エアモータ151からの回転力を加工軸14に伝達しつつ、加工軸14とエアモータ151との軸方向変位を吸収可能である。これにより、加工軸14が往復部13とともに往復した際でも、エアモータ151に往復移動が伝達されることがない。
【0027】
カム機構16は、回転部11に取り付けられた環状のカム部材161を有し、その往復部13側にはカム面162が形成されている。
往復部13には、ローラを用いた転動式のカムフォロワ163が設置されるとともに、固定部12のガイドスリーブ123との間に圧縮ばねなどの押圧部材164が設置されている。このため、押圧部材164により往復部13が回転部11側へ付勢され、カムフォロワ163がカム面162に常時押圧されている。
【0028】
図3に示すように、カム面162は、1周あたり1周期分の正弦波状のカムプロフィールを有し、回転部11が往復部13に対して1回転した際には、往復部13が回転部11に対して一往復分の往復移動が行われるようになっている。
本実施形態では、カム機構16のカムフォロワ163は計4つが周方向に均等配置され、往復部13とガイドスリーブ123との間の回転規制機構131は一対が直径方向に対抗配置され、それぞれ軸線Rに対して点対称に形成されている。
【0029】
このような本実施形態においては、次のように摩擦攪拌接合を実施する。
先ず、ワーク9として、摩擦攪拌接合する2部材を、接合線を介して突き合わせた状態でテーブル3に固定する。
次に、摩擦攪拌接合アタッチメント10の加工軸14の先端に接合ツール20を装着して摩擦攪拌接合ヘッド19を形成し、この摩擦攪拌接合ヘッド19をツールチェンジャなどにより主軸4に装着する。この装着動作により、回転部11が主軸4に接続され、固定部12が主軸ヘッド5に接続される。
【0030】
ワーク9および摩擦攪拌接合ヘッド19の準備ができたら、移動機構6により接合ツール20をワーク9の接合線に近接させ、摩擦攪拌接合を開始する。
すなわち、主軸4からセンタースルーエアを供給すると、回転駆動部15により加工軸14および接合ツール20が回転駆動され、接合ツール20の回転によりワーク9との間に摩擦熱が生じる。
さらに、主軸4を回転させることにより、カム機構16を介して往復部13および加工軸14が往復駆動され、接合ツール20の往復移動によりワーク9との間に摩擦熱が生じる。
【0031】
図4において、通常の摩擦攪拌接合では、接合ツール20を軸線R廻りに回転させた状態で、接合ツール20を軸線R方向に沿って図中下向きに移動させると、接合ツール20の先端ピン21がワーク9の接合線部分に圧入される。このとき、先端ピン21の周面22においてワーク9との間に摩擦熱が生じ、ワーク9には軟化ないし溶融した軟化部分91が形成される。
この状態で接合ツール20をワーク9の表面の接合線に沿って移動させることで、先端ピン21の進行方向前側(図中右側)で新たな軟化部分91が形成され、進行方向後側(図中左側)には再凝固部分92が形成され、接合線で突き合わされた2部材の摩擦攪拌接合が行われてゆく。
さらに、本実施形態では、接合ツール20の回転による摩擦に加え、接合ツール20の軸線R方向に沿った往復移動による摩擦熱が先端ピン21の周面22に生じる。接合ツール20の往復移動は、主軸4の回転速度に基づいて数百Hzないし数千Hz程度の速度とすることができ、回転による摩擦熱を補助するのに十分な摩擦熱が得られ、これにより摩擦攪拌接合を促進させることができる。
【0032】
このような本実施形態では、回転駆動部15で加工軸14を回転させることで、接合ツール20の回転によるワーク9の摩擦攪拌接合を行うことができる。一方、主軸4により回転部11を回転させ、カム機構16により往復部13を往復移動させることで、ワーク9に接する接合ツール20を往復移動させることができる。接合ツール20の往復移動の速度は、例えばカム機構16が一回転で一往復するならば、主軸4の回転数に相当し、数百Hzないし数千Hzとすることができる。従って、接合ツール20の往復移動によっても十分な摩擦熱を発生でき、十分な熱量でワーク9の摩擦攪拌接合を行うことができる。
その結果、回転による摩擦熱に加えて往復移動による摩擦熱が得られる摩擦攪拌接合アタッチメント10ないし摩擦攪拌接合ヘッド19を提供することができる。
【0033】
本実施形態では、往復部13を往復移動させるためにカム機構16を用いるものとし、とくにカム面162、カムフォロワ163、および押圧部材164を用いることで、往復部13に対して回転部11が回転した際に、カムフォロワ163がカム面162に円滑に転動するようにでき、簡単な構造で効率よく往復部13を主軸4の軸線R方向へ往復移動させることができる。
【0034】
本実施形態では、カム機構16は、複数のカムフォロワ163が、主軸4の軸線Rを中心に点対称に配置されており、カムフォロワ163からカム面162に加えられる押圧部材164による圧接力が、主軸4の軸線Rを中心に点対称つまり周方向に均等となるため、このような押圧力の影響で往復部13ないし接合ツール20が傾くことを回避できる。
【0035】
本実施形態では、回転駆動部15として、主軸4の軸心を通して供給されるセンタースルーエアで回転するエアモータ151を用いたので、回転駆動部15としての動力源の確保が容易にできる。また、外部から往復部13に接続される動力配管や配線が必要なく、周辺構造の簡素化も図れる。
本実施形態では、エアモータ151を回転部11に設置したので、主軸4に近い部位にエアモータ151を設置でき、主軸4からのエアの供給ラインも簡素化できる。一方、エアモータ151と加工軸14を、軸方向に変位可能な回転伝達機構であるジョイント152を介して接続したので、加工軸14が往復部13とともに往復した際でも、エアモータ151に往復移動が伝達されることがない。
【0036】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前記実施形態では、回転駆動部15は、主軸4の軸心を通して供給されるエアで回転するエアモータ151であるとした。これに対し、回転駆動部15は、主軸ヘッド5から固定部12を経て電力供給される電動モータであるとしてもよい。
また、エアモータ151は往復部13に設置してもよい。この場合、軸方向に変位可能な回転伝達機構としてのジョイント152を省略できる。ただし、主軸4からのエアを回転部11で受け入れたのち、往復部13まで導入する経路において往復移動を許容させる必要がある。
カム機構16としては、往復部13に向けて配置されたカム面162およびローラ式のカムフォロワ163を用いるものに限らず、カムフォロワ163は摺動式であってもよく、カム面162に変えてカム部材161の内周面に形成されたカム溝を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、摩擦攪拌接合アタッチメント、摩擦攪拌接合ヘッド、摩擦攪拌接合装置、および摩擦攪拌接合方法に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1…摩擦攪拌接合装置、2…工作機械、3…テーブル、4…主軸、5…主軸ヘッド、6…移動機構、61…ガイドバー、62…スライダ、63…主軸ヘッド、7…ベッド、8…カバー、9…ワーク、10…摩擦攪拌接合アタッチメント、11…回転部、111…テーパーシャンク、112…センタースルーホール、12…固定部、121…軸受、122…サブシャンク、123…ガイドスリーブ、13…往復部、131…回転規制機構、14…加工軸、141…軸受、15…回転駆動部、151…エアモータ、152…ジョイント、16…カム機構、161…カム部材、162…カム面、163…カムフォロワ、164…押圧部材、19…摩擦攪拌接合ヘッド、20…接合ツール、21…先端ピン、22…周面、91…軟化部分、92…再凝固部分、R…主軸の軸線。
図1
図2
図3
図4