(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】振動センサ
(51)【国際特許分類】
G01H 11/06 20060101AFI20240430BHJP
G01B 7/16 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G01H11/06
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2020087565
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501465757
【氏名又は名称】新川センサテクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 英二
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-156939(JP,A)
【文献】特開2007-327863(JP,A)
【文献】特開平03-018728(JP,A)
【文献】特開2000-292294(JP,A)
【文献】特開2017-049191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 11/06
G01B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対向する主面を有する板状の起歪体と、
前記起歪体の周縁部に沿って全周にわたり連続的または離散的に延在し、前記起歪体の主面から突出している外側突出部と、
前記起歪体の主面に配置されている、当該主面方向に等方的なゲージ率を有する導電性部材と、
前記起歪体の前記外側突出部よりも内側において前記起歪体の主面から突出している内側突出部と、を備え、
前記起歪体に対して主面の垂線方向成分を有する力が作用した際に
前記起歪体の極点を基準とした前記起歪体の経線方向についての第1ひずみ量および前記起歪体の緯線方向についての第2ひずみ量の和の大きさが基準値以上となる指定緯度範囲において、前記導電性部材が1箇所で分断された前記極点を取り囲む環状に延在するように前記起歪体の主面に配置され
、
前記基準値が第1ひずみ量および第2ひずみ量の和の絶対値の大きさの最大値の80%の値であることを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
請求項1記載の振動センサにおいて、
前記起歪体の形状が、前記極点を通る主面の垂線に平行な軸線を基準とする回転対称性または前記極点を通る主面に垂直な平面を基準とする鏡像対称性を有し、
前記外側突出部の配置態様が、前記軸線を基準とする回転対称性または前記平面を基準とする鏡像対称性を有し、
前記導電性部材が、前記軸線を基準とする回転対称性または前記平面を基準とする鏡像対称性を有するように前記起歪体の主面に配置され、かつ、
前記内側突出部の配置態様が、前記軸線を基準とする回転対称性または前記平面を基準とする鏡像対称性を有することを特徴とする振動センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動センサにおいて、
前記起歪体に設置され、前記導電性部材とともにひずみ検知用回路を構成する導線部材をさらに備えていることを特徴とする振動センサ。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の振動センサにおいて、
前記導電性部材がCr基薄膜により構成されていることを特徴とする振動センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材を用いた振動センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題の解決手段の一つとして天然ガス、メタンガス、および水素等の有効利用が挙げられている。それらの精製、運搬には液化が有効であり、この過程でコンプレッサ等の回転機械が重要な役割を果たす。また、発電設備等においては、効率が優れることからガスタービンの有効性が認められ、その利用が促進されている。そのようなプラント関連設備の保全を目的とした状態監視は重要であるが、その大きな要素の一つに振動測定があり、高温下において安定して容易な振動計測を可能とするセンサが必要とされる。
【0003】
高温下で使用可能な従来の主要な振動センサは電磁誘導の法則を利用する動電形で、ソレノイドコイルの中に棒磁石の上下を弦巻ばねで支え、コイルと磁石の相対速度によりコイルに誘起する起電圧を振動速度として検知する構造からなる。その振動センサは構成が比較的簡素で、電源を必要とせず、出力電圧を直接取り出せる等のメリットがある。しかし、その一方、自己共振周波数を使用する周波数の1/4以下にする必要があるためばねの撓み量が大きくなり、ばねの弾性係数の安定性ならびに極低温度や高温度における長期安定性と磁石の変化等が発生起電圧に直接影響することから、それらの温度域では使用できないという問題がある。
【0004】
本発明者は、複雑なバネ構造を用いずに単純なダイアフラム構造を採用し、振動時の振幅に比例してダイアフラム内に生じるひずみを高感度なひずみセンサにより計測することで振動およびその強度を検出することを考えた。
【0005】
本発明者により、Crおよび不可避不純物からなるCr基薄膜またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr基薄膜により構成されている導電性部材が提案されている(特許文献1参照)。この導電性部材は、測定用の電流が流れる方向である受感部の長手方向が、対象物のひずみの方向に対して垂直になるように配置することができる。その配置で機能するひずみに対する感度を横感度といい、測定用の電流が流れる方向である受感部の長手方向が、対象物のひずみの方向に対して平行になるように配置された場合(その場合に機能するひずみに対する感度を縦感度または主軸感度という)と、同程度のゲージ率(3以上)を有する。すなわち、この導電性部材は、ゲージ率について等方性を示す。そのほか、本発明者により、CrおよびMnからなるCr基薄膜またはCrおよびAlからなるCr基薄膜、ならびにCr、AlおよびNからなるCr基薄膜のそれぞれにより構成されている、同様の性質を持つ導電性部材が提案されている(特許文献2~3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6084393号公報
【文献】特開2018-091705号公報
【文献】特開2018-091848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、その問題を解決するために、ひずみに対する感度を示すゲージ率について等方性を有する導電性部材の応用範囲の拡張を図り得る振動センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
室温近傍から500℃近傍までの全温度領域において約3以上の大きなゲージ率および横感度を示すのはCr薄膜に固有の性質である。その性質はCr-N薄膜、Cr-Mn薄膜、Cr-Al薄膜、Cr-Al-N薄膜だけでなく、それ以外の元素を一つまたは複数または多数含むものでもCrの成分比率が多いものではその性質が現れることから、それらはCr基薄膜に含まれる。また、Cr-SiO2、Cr-Al2O3、Cr-SiC、Cr-Cr酸化物、Cr-Cr窒化物など、すなわちCr母相に別の化合物が分散析出した薄膜もCrの成分比率が多いものでは上記の性質が現れることから、それらもCr基薄膜に含まれる。さらに、CrとCr窒化物相、Cr酸化物相、Cr炭化物相のいずれか一つまたは複数が混在する薄膜もCrの成分比率が多いものでは上記Crの性質を保持するためCr基薄膜に含まれる。逆に言えば、Crを主成分とする上記性質を有する薄膜は全てCr基薄膜である。
【0009】
高感度なひずみセンサとして、そのようなCr基薄膜の内、500℃近傍まで安定に使用可能で、かつ、-50℃~350℃の温度範囲において約8の一定で大きなゲージ率を示すCr-Al-N薄膜などを用いることができる。また、小型で高感度な素子を実現するために、Cr基薄膜に特有の大きな横感度を利用して、ダイアフラムの周方向に一周の円形状からなる薄膜センサ素子パターンを用いることができる。その薄膜素子をダイアフラム内のひずみ量が絶対値で最大となる位置に配置し、ブリッジ回路を構成して安定で十分な出力が得られるようにすることもできる。そのような新規な構成とすることにより、低温から高温までの広い温度領域において、高精度に安定した振動計測が可能となる。
【0010】
すなわち、本発明の振動センサは、
一対の対向する主面を有する板状の起歪体と、
前記起歪体の周縁部に沿って全周にわたり連続的または離散的に延在し、前記起歪体の主面から突出している外側突出部と、
前記起歪体の主面に配置されている、当該主面方向に等方的なゲージ率を有する導電性部材と、
前記起歪体の前記外側突出部よりも内側において前記起歪体の主面から突出している内側突出部と、を備え、
前記起歪体に対して主面の垂線方向成分を有する力が作用した際に前記起歪体の極点を基準とした前記起歪体の経線方向についての第1ひずみ量および前記起歪体の緯線方向についての第2ひずみ量の和の大きさが基準値以上となる指定緯度範囲において、前記導電性部材が1箇所で分断された前記極点を取り囲む環状に延在するように前記起歪体の主面に配置され、
前記基準値が第1ひずみ量および第2ひずみ量の和の絶対値の大きさの最大値の80%の値であることを特徴とする。
【0011】
当該構成の振動センサによれば、起歪体の主面において、極点を取り囲むように環状に延在する指定緯度範囲に導電性部材が1箇所で分断された環状に延在するように配置されている。
【0012】
起歪体の周縁部に沿って連続的または離散的に延在し、当該起歪体の主面(一対の主面のうち少なくとも一方の主面)から突出している外側突出部を介して、支持部材により起歪体が支持されうる。この状態で起歪体10に振動により生じた力が作用した場合、
図1に示されているように、導電性部材20の緯度範囲において極点を挟んで反対側にある一対の箇所のそれぞれにおける起歪体10のひずみの垂線方向成分の極性が同じになる一方で当該ひずみの主面方向成分の極性が逆になる。
【0013】
このため、極点を取り囲む1箇所で分断された環状に延在する導電性部材20の当該一対の箇所において、起歪体10のひずみの垂線方向成分に応じた電気抵抗値の変化が重畳され、その一方で起歪体10のひずみの主面方向成分に応じた電気抵抗値の変化が相殺されうる。よって、導電性部材20の端点間の電気抵抗値の変化量に基づき、起歪体10に作用した振動のうち主面方向成分が少なくとも部分的に除去され、当該振動の垂線方向成分が測定されうる。
【0014】
また、起歪体の主面(一対の主面のうち少なくとも一方の主面)から突出している内側突出部によって、当該起歪体に作用する慣性力の増大が図られる。さらに、指定緯度範囲は、起歪体の経線方向についての第1ひずみ量および起歪体の緯線方向についての第2ひずみ量の大きさの和が基準値以上となる緯度範囲である。よって、導電性部材の端点間の電気抵抗値の変化量の増大、ひいては起歪体に作用した振動の垂線方向成分の測定精度の向上が図られる。
【0015】
前記起歪体の形状が、前記極点を通る主面の垂線に平行な軸線を基準とする回転対称性または前記極点を通る主面に垂直な平面を基準とする鏡像対称性を有し、前記外側突出部の配置態様が、前記軸線を基準とする回転対称性または前記平面を基準とする鏡像対称性を有し、前記導電性部材が、前記軸線を基準とする回転対称性または前記平面を基準とする鏡像対称性を有するように前記起歪体の主面に配置され、かつ、前記内側突出部の配置態様が、前記軸線を基準とする回転対称性または前記平面を基準とする鏡像対称性を有することが好ましい。
【0016】
前記導電性部材がCr基薄膜(蒸着膜)により構成されている場合、導電性部材の電気抵抗は、縦ひずみおよび横ひずみによる形状変化への寄与分よりも、当該導電性部材の格子構造、ひいてはキャリア(電子)のバンドエネルギー構造の変化への寄与分によって大きく変化するので、起歪体に作用した振動(加速度)の垂線方向成分の測定精度のさらなる向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】極点を取り囲むように環状に延在する指定緯度範囲に1箇所で分断された環状に延在するように配置された導電性部材における振動により生じた力が作用した場合に発生するひずみに関する説明図。
【
図2】本発明の第1実施形態としての振動センサの構成に関する説明図。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った振動センサの断面図。
【
図5】第1実施形態におけるひずみ検知用回路の例示図。
【
図6A】第1の力作用態様に応じた振動センサの機能に関する説明図。
【
図6B】第2の力作用態様に応じた振動センサの機能に関する説明図。
【
図6C】第3の力作用態様に応じた振動センサの機能に関する説明図。
【
図7】本発明の第2実施形態としての振動センサの構成に関する説明図。
【
図8A】第2実施形態におけるひずみ検知用回路の第1例示図。
【
図8B】第2実施形態におけるひずみ検知用回路の第2例示図。
【
図9】本発明の第3実施形態としての振動センサの構成に関する説明図。
【
図10A】第3実施形態におけるひずみ検知用回路の第1例示図。
【
図10B】第3実施形態におけるひずみ検知用回路の第2例示図。
【
図11】本発明の第4実施形態としての振動センサの構成に関する説明図。
【
図12】第4実施形態におけるひずみ検知用回路の例示図。
【
図14】起歪体の径方向における構造解析結果に関する説明図。
【
図15】起歪体の周方向における構造解析結果に関する説明図。
【
図16】起歪体の中心を通る径方向における径方向、周方向およびZ軸方向それぞれについてのひずみ分布に関する説明図。
【
図17】径方向成分および周方向成分に基づく薄膜センサに寄与するひずみ分布の計算結果に関する説明図。
【
図18】センサ薄膜の配置パターンに関する説明図。
【
図19】4本の薄膜の折り返しパターンに関する説明図。
【
図21】4アクティブ4ゲージブリッジからなる薄膜素子回路に関する説明図。
【
図23】Cr-Al-N薄膜を用いたダイアフラム型振動センサ素子の出力の変化態様に関する説明図。
【
図24】ダイアフラム型振動センサ素子の非直線性に関する説明図。
【
図25】Cr-Al薄膜を用いたダイアフラム型振動センサ素子の出力変化態様に関する説明図。
【
図26】振動センサの出力信号の周波数依存性に関する説明図。
【
図27】振動センサの出力信号の温度依存性に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
(構成)
図2および
図3に示されている本発明の第1実施形態としての振動センサは、起歪体10(起歪体)と、外側突出部12と、内側突出部14と、4つの導電性部材21~24と、2つの導線部材41~42と、を備えている。振動センサの構成要素の位置および姿勢の説明のため、起歪体10の上面101の中心点を原点とする3次元直交座標系(X、Y、Z)を用いる。
【0019】
起歪体10は、Z方向を厚さ方向とし、一対の主面としてX-Y平面に略平行な一対の主面として上面101および下面102を有する略円板形状に形成されている。起歪体10の厚さは均一であってもよく、局所的に肉薄になる領域が存在する場合のように不均一であってもよい。起歪体10の形状は、極点Oを通る上面101の垂線に平行な軸線(z軸)を基準とする回転対称性または極点Oを通る上面101に垂直な平面(例えば、x-z平面)を基準とする鏡像対称性を有している。
【0020】
起歪体10は、外周縁の全周にわたり外側突出部12により支持されている。外側突出部12は略円筒状に形成されている。外側突出部12は、部分的に径方向外側に張り出しているフランジ様の張出部を有していてもよい。外側突出部12は、外形が軸線方向(z方向)に略同一の略円筒形状であってもよい。起歪体10の上面101の高さ位置と、外側突出部12の上端面の高さ位置と、は同じである。起歪体10および外側突出部12は切削加工および/または鋳造など一体成型された構造体である。起歪体10および外側突出部12は、ボルト-ナット等の機械的な固定方式のほか、接着または溶接などの固定方式によって固定されていてもよい。また、起歪体10の外周縁における外側突出部12による連続的な支持態様が、前記軸線を基準とする回転対称性(前記回転対称性と相違していてもよい。)または前記平面を基準とする鏡像対称性を有している。
【0021】
前記のように起歪体10が外周縁において全周にわたり外側突出部12によって支持されていることにより起歪体10に力が作用した際に起歪体10にひずみが生じる。
【0022】
起歪体10は、下面102から下方に突出している略円柱状の内側突出部14を備えている。内側突出部14の下端の高さ位置(z座標値)は、外側突出部12の下端の高さ位置と同じである。内側突出部14は、円柱状のほか、角柱状、円錐台状、円錐状または角錐状など、様々な形状であってもよい。内側突出部14の下端の高さ位置は、外側突出部12の高さ位置よりも高くてもよく、低くてもよい。
【0023】
図4には、起歪体10の内側突出部14に上向き(zの正方向)に力が作用した場合における当該起歪体10のひずみ特性の計算結果が示されている。起歪体10の極点Oから周縁までの経線方向または径方向についての起歪体10のひずみ量である「第1ひずみ量」の変化態様が実線(εr)で示され、緯線方向または周方向についての起歪体10のひずみ量である「第2ひずみ量」の変化態様が二点鎖線(εθ)で示され、第1ひずみ量および第2ひずみ量の和が一点鎖線(εr+εθ)で示されている。「負」のひずみ量は起歪体10(正確には上面101(応力負荷側表面))の収縮量を表わしている一方、「正」のひずみ量は起歪体10(同上)の伸長量を表わしている。
【0024】
図4において、経線の長さDを基準として、極点Oからの距離0~0.25Dの範囲S1は、起歪体10の下面102において内側突出部14が存在する領域に相当する。極点Oからの距離0.75D~1.0Dの範囲S3は、起歪体10の下面102において外側突出部12が存在する領域に相当する。極点Oからの距離0.25D~0.75Dの範囲S2は、起歪体10の下面102において外側突出部12および内側突出部14に挟まれている中間領域に相当する。
【0025】
ここで、起歪体10、外側突出部12および内側突出部14は、SUS316L(ヤング率:193GPa、ポアソン比:0.28)により一体成形された。起歪体10は、厚さ0.05mm、径4.0mm(=φ)の円板により構成された。外側突出部12は、内径3.0mm(=0.75φ)、外径4.0mm(=1.0φ)、起歪体10の下面102からの突出量(高さ)0.55mm、側壁の厚さ0.60mmの略円筒形状の断面を有する円環により構成された。内側突出部14は、径1.0mm(=0.25φ)、起歪体10の下面102からの突出量(高さ)が0.85mmの円柱により構成された。
【0026】
起歪体10は、外側突出部12の外側面の全体を介して支持部材(図示略)に対して固定されている。外部からの振動によって生じる力(慣性力)として内側突出部14の端面に対してZ方向に一様に100Nの力が作用した場合、当該起歪体10の中心を基準とする円筒極座標系(r,θ,z)において定義された0.1mm刻みのメッシュのそれぞれにおけるひずみが有限要素法にしたがって計算された。
【0027】
第1ひずみ量および第2ひずみ量の和(正値)の大きさの最大値の80%が基準値として設定された場合、経線の長さDを基準として、極点Oから距離0.254D~0.321Dの範囲にある環状の第1指定緯度範囲R1において、当該ひずみ量の和(正値)の大きさが基準値以上である。第1ひずみ量および第2ひずみ量の和(正値)の大きさの最大値の95%が基準値として設定された場合、経線の長さDを基準として、極点Oから距離0.260D~0.292Dの範囲にある環状の第1指定緯度範囲R1において、当該ひずみ量の和(正値)の大きさが基準値以上である。
【0028】
第1ひずみ量および第2ひずみ量の和(負値)の絶対値の大きさの最大値の80%が基準値として設定された場合、経線の長さDを基準として、極点Oから距離0.685D~0.761Dの範囲にある環状の第2指定緯度範囲R2において、当該ひずみ量の和(負値)の絶対値の大きさが基準値以上である。第1ひずみ量および第2ひずみ量の和(負値)の絶対値の大きさの最大値の95%が基準値として設定された場合、経線の長さDを基準として、極点Oから距離0.718D~0.755Dの範囲にある環状の第2指定緯度範囲R2において、当該ひずみ量の和(正値)の絶対値が基準値以上である。
【0029】
起歪体10の上面101の第1指定緯度範囲R1において、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している第1導電性部材21および第2導電性部材22のそれぞれが内側から順に配置されている。起歪体10の上面101の第2指定緯度範囲R2において、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している第3導電性部材23および第4導電性部材24のそれぞれが内側から順に配置されている。
【0030】
一般的に、第1指定緯度範囲R1および第2指定緯度範囲R2は、起歪体10の形状およびサイズ、さらには振動によって起歪体10に作用する力(慣性力)に応じて変化する。このため、起歪体10に対する想定作用力に基づき、第1指定緯度範囲R1および第2指定緯度範囲R2が適応的に設定されうる。
【0031】
起歪体10は、例えば、弾性を有する金属もしくは合成樹脂またはこれらの組み合わせにより構成されている。起歪体10が金属などの導電性材料からなる場合、その上面101は少なくとも導電性部材21~24および導線部材41~42が形成される領域において、絶縁性薄膜により被覆されている。これにより、起歪体10と、導電性部材21~24および導線部材41~42とが電気的に絶縁されている。
【0032】
導電性部材21~24のそれぞれは、起歪体10の上面101に形成されている。導電性部材21~24のそれぞれは、ゲージ率(ゲージ率は3以上である。)について等方性を有しており、例えば、特許文献1に記載されているCrおよび不可避不純物からなるCr薄膜、または、Cr、Nおよび不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されている。Cr-N薄膜は、例えば、一般式Cr100-xNxで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30である。
【0033】
導電性部材21~24のそれぞれは、一般式Cr100-xMnx(xは原子%であり、0.1≦x≦34である)または一般式Cr100-xAlx(xは原子%であり、4≦x≦25である)で表されるCr基薄膜により構成されていてもよい(特許文献2参照)。導電性部材21~24のそれぞれは、一般式Cr100-x-yAlxNy(x、yは原子%であり、4≦x≦25、0.1≦y≦20である。)で表されるCr基薄膜により構成されていてもよい(特許文献3参照)。当該薄膜は、スパッタリング法等により起歪体10の上面101に形成される。Cr-N薄膜は、抵抗温度係数(TCR)が極めて小さいため(<±50ppm/℃)、温度変化に対して安定である。
【0034】
室温近傍から500℃近傍までの全温度領域において約3以上の大きなゲージ率および横感度を示すのはCr薄膜に固有の性質である。その性質はCr-N薄膜、Cr-Mn薄膜、Cr-Al薄膜、Cr-Al-N薄膜だけでなく、それ以外の元素を一つまたは複数または多数含むものでもCrの成分比率が多いものではその性質が現れることから、それらも導電性部材21~24を構成するCr基薄膜に含まれる。また、Cr-SiO2、Cr-Al2O3、Cr-SiC、Cr-Cr酸化物、Cr-Cr窒化物など、すなわちCr母相に別の化合物が分散析出した薄膜もCrの成分比率が多いものでは上記の性質が現れることから、それらも導電性部材21~24を構成するCr基薄膜に含まれる。さらに、CrとCr窒化物相、Cr酸化物相、Cr炭化物相のいずれか一つまたは複数が混在する薄膜もCrの成分比率が多いものでは上記Crの性質を保持するため導電性部材21~24を構成するCr基薄膜に含まれる。逆に言えば、Crを主成分とする上記性質を有する薄膜は全て導電性部材21~24を構成するCr基薄膜である。
【0035】
第1導電性部材21は、一端部で端子T1および第2導線部材42を順に介して第4導電性部材24の他端部に接続され、他端部で端子T2を介して第2導電性部材22の一端部に接続されている。第2導電性部材22は、一端部で端子T2を介して第1導電性部材21の他端部に接続され、他端部で端子T3および第1導線部材41を順に介して第3導電性部材23の一端部に接続されている。第3導電性部材23は、一端部で第1導線部材41および端子T3を順に介して第2導電性部材22の他端部に接続され、他端部で端子T4を介して第4導電性部材24の一端部に接続されている。第4導電性部材24は、一端部で端子T4を介して第3導電性部材23の他端部に接続され、他端部で第2導線部材42および端子T1を順に介して第1導電性部材21の一端部に接続されている。
【0036】
導線部材41~42は、導電性部材21~24とともに4アクティブゲージ法のブリッジ回路を構成する(
図5参照)。
【0037】
導電性部材21~24のそれぞれの厚さ、幅および長さ、さらには電気伝導率などの電気特性のそれぞれは、ブリッジ回路(ひずみ検出用回路)を構成する観点から適当に設計されている。導線部材41~42の厚さ、幅および長さ、さらには素材(電気伝導率を定める。)のそれぞれは、導電性部材21~24のそれぞれと同様に当該ブリッジ回路を構成する観点から適当に設計されている。
【0038】
なお、断線等が生じないよう薄膜の連続性を確保するために導電性部材を構成するセンサ薄膜が導線部材および端子部分まで含めた形で一体成型されたうえで、その導線部材や端子および電極部分に比抵抗およびゲージ率の小さいNiおよび/またはAuなどの膜を重ねて形成し、導線部材や端子および電極とすることが好ましい。そうすることで、薄膜素子に断線が生じにくくなるとともに、導線部材および端子部分といった検知対象以外の無関係な場所からの出力(雑音)や抵抗値を無視できるほどに小さくすることが可能となる。さらに、電極部分を外部に信号を取り出すためのリード線を接続するのに適した材料とすることが必要である。
【0039】
(機能)
本発明の第1実施形態としての振動センサによれば、外側突出部12により周縁を全周にわたり連続的に支持されている起歪体10の主面101において、極点Oを取り囲むように環状に延在する指定緯度範囲に導電性部材が1箇所で分断された環状に延在するように配置されている。
【0040】
起歪体10に力Fが作用した場合、指定緯度範囲R1およびR2のそれぞれにおいて極点Oを挟んで反対側にある一対の箇所のそれぞれにおける起歪体10に垂直方向(z方向)の力が作用した時に生じるひずみの極性が同じになる(
図6A参照)。その一方、この場合、当該一対の箇所のそれぞれにおける起歪体10に主面方向(x、y方向)の力が作用した時に生じるひずみの極性が逆になる(
図6Bおよび
図6C参照)。
【0041】
このため、1箇所で分断された環状の導電性部材21~24のそれぞれの当該一対の箇所において、起歪体10に作用する力(慣性力)の垂線方向成分に応じた電気抵抗値の変化が重畳され、その一方で力(慣性力)の主面方向成分に応じた電気抵抗値の変化が相殺されうる。よって、導電性部材21~24のそれぞれの端点間の電気抵抗値の変化量に基づき、起歪体10に作用した力のうち主面方向成分が除去され、当該力の垂線方向成分が測定されうる。
【0042】
また、起歪体10の内側突出部14によって、当該起歪体10に作用する慣性力の増大が図られる。さらに、指定緯度範囲R1およびR2のそれぞれは、起歪体10の経線方向についての第1ひずみ量および緯線方向についての第2ひずみ量の和の絶対値の大きさが基準値以上となる緯度範囲である(
図4参照)。よって、導電性部材21~24のそれぞれの端点間の電気抵抗値の変化量の増大、ひいては起歪体10に作用した振動(加速度)の垂線方向成分の測定精度の向上が図られる。
【0043】
導電性部材21~24のそれぞれが(1)Crおよび不可避不純物からなるCr基薄膜またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr基薄膜、(2)CrおよびMnからなるCr基薄膜またはCrおよびAlからなるCr基薄膜、(3)Cr、AlおよびNからなるCr基薄膜、(1)、(2)、(3)に示される以外の添加元素を一つまたは複数または多数含むものでCrの成分比率が多いCr基薄膜、Cr-SiO2、Cr-Al2O3、Cr-SiC、Cr-Cr酸化物、Cr-Cr窒化物など、すなわちCr母相に別の化合物が分散析出した薄膜もCrの成分比率が多いCr基薄膜、CrとCr窒化物相、Cr酸化物相、Cr炭化物相のいずれか一つまたは複数が混在するCrの成分比率が多いCr基薄膜、などの、すなわち約3以上の大きなゲージ率および横感度を示すCr基薄膜のうちいずれか1つのCr基薄膜により構成されている。このため、導電性部材21、22の電気抵抗は、縦ひずみおよび横ひずみによる形状変化への寄与分よりも、当該導電性部材の格子構造、ひいてはキャリア(電子)のバンドエネルギー構造の変化への寄与分によって大きく変化するので、起歪体10に作用した振動(加速度)の測定精度のさらなる向上が図られる。
【0044】
(第2実施形態)
(構成)
図7に示されている本発明の第2実施形態としての振動センサでは、起歪体10の上面101の第2指定緯度範囲R2において、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している第1導電性部材21および第2導電性部材22が内側から順に配置されている。
【0045】
起歪体10の上面101の第1指定緯度範囲R1において、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している第1導電性部材21および第2導電性部材22が内側から順に配置されていてもよい。
【0046】
第1導電性部材21は、一端部で端子T1、第2導線部材41、第4端子T4および第1導線部材42を順に介して第2導電性部材22の他端部に接続され、他端部で端子T2を介して第2導電性部材22の一端部に接続されている。第2導電性部材22は、一端部で端子T2を介して第1導電性部材21の他端部に接続され、第1導線部材42、第4端子T4、第2導線部材41および端子T1を順に介して第1導電性部材21の一端部に接続されている。
【0047】
導線部材41~42は、第1導電性部材21および第2導電性部材22とともに2アクティブゲージ法のブリッジ回路を構成する(
図8A参照)。導線部材41~42は、第1導電性部材21および第2導電性部材22とともに1アクティブゲージ法(直列式)のブリッジ回路を構成していてもよい(
図8B参照)。
【0048】
第1導電性部材21および第2導電性部材22のそれぞれの厚さ、幅および長さ、さらには電気伝導率などの電気特性のそれぞれは、ブリッジ回路(ひずみ検出用回路)を構成する観点から適当に設計されている。導線部材41~42の厚さ、幅および長さ、さらには素材(電気伝導率を定める。)のそれぞれは、第1導電性部材21および第2導電性部材22のそれぞれと同様に当該ブリッジ回路を構成する観点から適当に設計されている。
【0049】
これら以外の点では、本発明の第2実施形態としての
振動センサは、本発明の第1実施形態としての振動センサ(
図2および
図3参照)とほぼ同様の構成であるため、共通の構成要素に対して同一の符号を用いるとともに説明を省略する。
【0050】
(機能)
本発明の第2実施形態としての振動センサによれば、導電性部材21、22の端点間の電気抵抗値の変化量の増大、ひいては起歪体10に作用した振動の垂線方向成分の測定精度の向上が図られる。
【0051】
(第3実施形態)
(構成)
図9に示されている本発明の第3実施形態としての振動センサでは、起歪体10の上面101の第1指定緯度範囲R1および第2指定緯度範囲R2のそれぞれにおいて、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している第1導電性部材21および第2導電性部材22が内側から順に配置されている。
【0052】
第1導電性部材21は、一端部で端子T1、第1導線部材41および端子T4を順に介して第2導電性部材22の他端部に接続され、他端部で端子T2、第2導線部材42および端子T3を順に介して第2導電性部材22の一端部に接続されている。第2導電性部材22は、一端部で端子T3、第2導線部材42および端子T2を順に介して第1導電性部材21の他端部に接続され、他端部で端子T4、第2導線部材41および端子T1を順に介して第1導電性部材21の一端部に接続されている。
【0053】
導線部材41~42は、第1導電性部材21および第2導電性部材22とともに対辺2アクティブゲージ法(2線式)のブリッジ回路を構成する(
図10A参照)。導線部材41~42は、第1導電性部材21および第2導電性部材22とともに対辺2アクティブゲージ法(3線式)のブリッジ回路を構成していてもよい(
図10B参照)。
【0054】
第1導電性部材21および第2導電性部材22のそれぞれの厚さ、幅および長さ、さらには電気伝導率などの電気特性のそれぞれは、ブリッジ回路(ひずみ検出用回路)を構成する観点から適当に設計されている。導線部材41~42の厚さ、幅および長さ、さらには素材(電気伝導率を定める。)のそれぞれは、第1導電性部材21および第2導電性部材22のそれぞれと同様に当該ブリッジ回路を構成する観点から適当に設計されている。
【0055】
これら以外の点では、本発明の第3実施形態としての振動センサは、本発明の第1実施形態としての振動センサ(
図2および
図3参照)とほぼ同様の構成であるため、共通の構成要素に対して同一の符号を用いるとともに説明を省略する。
【0056】
(機能)
本発明の第3実施形態としての振動センサによれば、導電性部材21、22の端点間の電気抵抗値の変化量の増大、ひいては起歪体10に作用した振動の垂線方向成分の測定精度の向上が図られる。
【0057】
(第4実施形態)
(構成)
図11に示されている本発明の第4実施形態としての振動センサでは、起歪体10の上面101の第2指定緯度範囲R2において、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している導電性部材20が配置されている。第1指定緯度範囲R1において、基準点Oを取り囲む1箇所において分断している略円環状に延在している導電性部材20が配置されていてもよい。
【0058】
導電性部材20の一端部は、端子T1、第1導線部材41、端子T2、第2導線部材42、端子T3、第3導線部材43および端子T4を順に介して導電性部材20の他端部に接続されている。
【0059】
導線部材41~43は、第1導電性部材21および第2導電性部材22とともに1アクティブゲージ法(2線式または3線式)のブリッジ回路を構成する(
図12参照)。導電性部材20の厚さ、幅および長さ、さらには電気伝導率などの電気特性のそれぞれは、ブリッジ回路(ひずみ検出用回路)を構成する観点から適当に設計されている。導線部材41~43の厚さ、幅および長さ、さらには素材(電気伝導率を定める。)のそれぞれは、導電性部材20と同様に当該ブリッジ回路を構成する観点から適当に設計されている。
【0060】
なお、断線等が生じないよう薄膜の連続性を確保するために導電性部材を構成するセンサ薄膜が導線部材および端子部分まで含めた形で一体成型されたうえで、その導線部材や端子および電極部分に比抵抗およびゲージ率の小さいNiおよび/またはAuなどの膜を重ねて形成し、導線部材や端子および電極とすることが好ましい。そうすることで、薄膜素子に断線が生じにくくなるとともに、導線部材および端子部分といった検知対象以外の無関係な場所からの出力(雑音)や抵抗値を無視できるほどに小さくすることが可能となる。さらに、電極部分を外部に信号を取り出すためのリード線を接続するのに適した材料とすることが必要である。
【0061】
これら以外の点では、本発明の第4実施形態としての振動センサは、本発明の第1実施形態としての振動センサ(
図2および
図3参照)とほぼ同様の構成であるため、共通の構成要素に対して同一の符号を用いるとともに説明を省略する。導電性部材20は、第1実施形態の導電性部材21~24のそれぞれと同様にCr基薄膜により構成されている
【0062】
(機能)
本発明の第4実施形態としての振動センサによれば、導電性部材20の端点間の電気抵抗値の変化量の増大、ひいては起歪体10に作用した振動の垂線方向成分の測定精度の向上が図られる。
【0063】
(実施例)
第1実施形態にしたがって4アクティブゲージ法のブリッジ回路により構成されている実施例の振動センサが作製された。
図13に、使用した起歪体の断面形状を示す。具体的には、径11mm×厚さ0.2mmのSUS443J1からなる略円形板状の起歪体10の一方の主面101に、SiO
2からなる絶縁性薄膜が形成された。その上で、1箇所で分断された略円環状のCr-Al-N薄膜またはCr-Al薄膜からなる導電性部材21~24が当該絶縁性薄膜の上に形成された。その位置は例えば、導電性部材21として内径4.2mm、外径4.9mm、導電性部材22として内径5.9mm、外径6.5mm、導電性部材23として内径8.5mm、外径9.0mm、導電性部材24として内径9.3mm、外径9.7mm付近に、また、各導電性部材21、22、23、24の分断箇所の周方向の長さはそれぞれ0.15mm、0.25mm、0.45mm、0.65mm程度に設計された。なお、それらの位置や長さは、素子製作上の都合等により問題のない範囲で変更されても良い。
【0064】
Cr-Al薄膜の作製には高周波マグネトロン方式のスパッタリング装置を使用し、さらにCr-Al-N薄膜の作製にはArとともに微量の窒素ガスを導入して成膜を行う反応性スパッタリング法を加えて用いた。ターゲットには公称純度99.9%で直径3インチのCr円盤の上にAlチップを8個載せた複合ターゲットを用いた。成膜前真空度(背景真空度)、ターゲット-基板間距離(T-S距離)、スパッタガス圧、スパッタガス総流量、窒素ガス流量比(Cr-Al-N薄膜の場合のみ)、入力電力および基板水冷温度をそれぞれ2×10-5Pa、43mm、0.67Pa、20SCCM、0.06%、10Wおよび20℃として成膜を行った。薄膜パターンはフォトリソグラフィーおよびエッチング技術を用いて上記の通り形成し、熱処理は大気中において500℃の温度で30分間保持して行った。作製した薄膜のリード線部分を含む所定の位置にAu/Ni/Cr薄膜を重ねて形成し、これを抵抗測定のための電極とした。4つの受感部はフルブリッジを構成することができ、振動によりダイアフラムに生じるひずみを電気信号に変換して出力する。
【0065】
図14および
図15に使用した起歪体の径方向および周方向における構造解析の結果をそれぞれ示す。また、
図16に、それらの結果に関する、起歪体の中心を通る径方向における径方向、周方向およびZ軸方向それぞれについてのひずみ分布を示す。このうち、Z軸成分は表面の薄膜に直接は影響しないことから、径方向成分と周方向成分の和から薄膜センサに寄与するひずみ分布を計算した。その結果を
図17に示す。それらの最大値と最小値をとる位置に各2本の導電性部材21~24のセンサ薄膜を配置するパターンとした。その配置を
図18に示す。具体的には、
図19に示すように、4本の薄膜の抵抗値をそろえて高出力化のためにある程度抵抗値を高くするために周方向に多重の折り返しパターンとした。導電性部材21~24の分断箇所から導線部材をR1導電性部材の外側まで引き出し、
図20に示すように信号を取り出すための電極を形成した。それらを介して各導電性部材および入出力装置等を結線する4アクティブ4ゲージブリッジからなる薄膜素子回路を
図21に示す。
【0066】
実施例の
振動センサの起歪体10が外側突出部12および内側突出部14と一体成形により加工形成され外側突出部12に固定されている。その上で、振動強度としての加振加速度、加振周波数ならびに周囲温度を変えることが可能な振動台座に作製したダイアフラム型振動センサ素子を固定し、ダイアフラムのすぐ外側に電源および計測機器に結線された外部電極を同じ台座上に設置した。その外部電極とダイアフラム上の電極とをAu線でワイヤーボンディングにより結線し、信号を取り出した。信号はアンプで増幅され、電圧計等の計測機器・回路システムにより数値化され記録装置(コンピューター等)に記録された。
図22に、ダイアフラム型振動センサ素子とそれを組み込んで装置類に取り付けることができるようにした振動センサの内部構造図および外観を示す。
【0067】
(出力の直線性)
図23にCr-Al-N薄膜を用いたダイアフラム型振動センサ素子について、室温(約25℃)において1mAの定電流(電圧測定値:3.03V)を用いて測定した加速度に対する1000倍増幅した出力の変化を示す。この時の加振周波数は100Hzとした。
図23から、出力は十分大きく、加速度の増大に伴って増加していることがわかる。その各点データの非直線性の値を
図24に示す。非直線性は±1.5%以内と小さく、直線性が良好であることが確認できた。
【0068】
(周波数依存性)
図25にCr-Al薄膜を用いたダイアフラム型振動センサ素子について、室温(約25℃)において10Vの定電圧を用いて測定した加速度に対する1000倍増幅した出力の変化を示す。この時の加振周波数は100Hzとした。この素子においても加速度に対する十分大きな出力が得られ、直線性も良好であった。
図26にその素子に1G(=9.8m/s
2)の加速度で加振して測定した出力の周波数依存性を示す。10Hzから4kHzにわたって5.1±0.1mVとほぼ一定の出力を示し、この範囲で周波数に依存する変化を示さず、周波数に対して安定な計測が可能となることがわかった。
【0069】
(温度依存性)
図27にCr-Al-N薄膜を用いたダイアフラム型振動センサ素子について、室温(約25℃)、100℃、200℃、300℃および400℃の各温度において10Vの定電圧を用いて測定した加速度に対する1000倍増幅した起歪体10の加振加速度9.8m/s
2(=1G)、19.6m/s
2(=2G)、29.4m/s
2(=3G)、39.2m/s
2(=4G)および49m/s
2(=5G)のそれぞれに応じた振動センサの出力の変化を示す。この時の加振周波数は100Hzとした。この素子に関していずれの温度においても加速度に対する十分大きな出力が得られ、直線性も良好であった。図から25℃から300℃までの温度範囲においては温度の増加に伴って出力の単調な増加が見られ、300℃と400℃ではほぼ変化のない比較的大きな出力を示した。400℃までの高温域においても十分な振動検知能力を持つことが確認できた。
【0070】
(本発明の他の実施形態)
前記実施形態では、すべての導電性部材が起歪体10の上面101に形成されていたが、他の実施形態として、一部の導電性部材が上面101に形成される一方で残りの導電性部材が下面102に形成されていてもよい。この場合、導電性部材の位置および負荷の形態によっては上面101および下面102の別によって正負の符号が異なる場合があるので、注意を要する。ひずみ検知用回路を構成するための導線部材を配置するため、起歪体10に貫通孔が設けられていてもよく、ビア構造を有する導線部材が起歪体10に埋設されていてもよい。
【0071】
前記実施形態では、起歪体10が略円形板状であったが、他の実施形態として、起歪体10が略楕円形板状、略三角形状、略矩形板状、略平行四辺形板状、略台形板状または略正多角形板状(正方形、正十二角形板状、正二十角形板状など)、様々な形状とされてもよい。起歪体10は極点Oを通り、上面101に垂直な軸線(例えばZ軸)まわりの回転対称性を有する形状のほか、回転対称性を有しない形状であってもよい。起歪体10の極点Oが起歪体10の中心点からずれていてもよい。
【0072】
前記実施形態では、起歪体10が外側突出部12の外側面を介して支持部材に対して全周にわたり固定されていたが、起歪体10が外側突出部12の外側面を介して支持部材に対して周方向に離散的に固定されていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10‥起歪体、12‥外側突出部、14‥内側突出部、20、21、22、22、23、24‥導電性部材、41、42、43、44‥導線部材、101‥起歪体の上面(主面)、102‥起歪体の下面(主面)、O‥極点、R1‥第1指定緯度範囲、R2‥第2指定緯度範囲、R1-‥第1負ひずみ指定緯度範囲、R2-‥第2負ひずみ指定緯度範囲。