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特許7479928電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/14 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
G03G5/14 101E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020087655
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021182083
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】薮田 久人
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-181868(JP,A)
【文献】特開平04-303846(JP,A)
【文献】特開平03-284759(JP,A)
【文献】特開2012-021066(JP,A)
【文献】特開2016-006476(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0028601(KR,A)
【文献】特開昭62-296152(JP,A)
【文献】特開平09-044032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、中間層および感光層をこの順に有する電子写真感光体であって、
該中間層は、酸化タングステン粒子を有し、
該酸化タングステン粒子は、セシウム原子を含有し、
該酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率が、タングステン原子に対して組成比で0.1%以上10.0%以下であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率が、タングステン原子に対して組成比で0.1%以上5.0%以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記酸化タングステン粒子の数平均粒子径が、50nm以上800nm以下である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
帯電手段、現像手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、
を一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段と、を有する電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、基本的には、支持体と、該支持体上に形成された感光層とから構成される。しかしながら、現状は、支持体表面の欠陥の隠蔽、感光層の電気的破壊に対する保護、帯電性の向上、支持体から感光層への電荷注入阻止性の改良などのために、支持体と感光層との間には、各種の層が設けられることが多い。
【0003】
支持体と感光層との間に設けられる層の中でも、帯電電位を安定化する目的、あるいは、支持体表面の凹凸や支持体表面における光の反射に起因する画像欠陥の問題を解決する目的として、中間層を設ける技術が知られている。また、中間層の樹脂中に金属酸化物粒子を分散した技術も知られている。一般的に、金属酸化物粒子を含有する中間層は、金属酸化物粒子を含有しない場合に比べて導電性が高いため、画像形成に適した明部電位を電子写真感光体の表面に形成することが容易になる。
【0004】
特許文献1には、金属酸化物粒子として酸化タングステン粒子を樹脂中に分散した中間層を有する電子写真感光体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-195067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によると、特許文献1に記載の電子写真感光体では、長期使用に伴った明部電位の変動が課題であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、長期使用における明部電位の変動が抑制された電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の一態様に係る電子写真感光体は、支持体、中間層および感光層をこの順に有する電子写真感光体であって、該中間層は、酸化タングステン粒子を有し、該酸化タングステン粒子は、セシウム原子を含有し、該酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率が、タングステン原子に対して組成比で0.1%以上10.0%以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の態様に係るプロセスカートリッジは、上記の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のさらに別の態様に係る電子写真装置は、上記の電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期使用における明部電位の変動が抑制された電子写真感光体を提供することができる。
また、本発明によれば、高品位な画像形成に資するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真画像形成装置の概略構成の一例を示す図である。
図2】中間層の体積抵抗率の測定方法を説明するための上面図である。
図3】中間層の体積抵抗率の測定方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載の技術では、電子写真感光体を繰り返し使用することにより、中間層が含有する酸化タングステン粒子の導電性が低下していた。その結果、中間層の導電性が低下し、電子写真感光体の表面における明部電位が変動するという技術課題が発生していたことが分かった。
【0014】
そこで、上記の技術課題を解決するために、酸化タングステン粒子に別種の金属元素を導入する検討を行った。その結果、酸化タングステン粒子がセシウム原子を含有することで、特許文献1に記載の技術で発生していた長期使用に伴う電子写真感光体表面の明部電位の変動という技術課題を解決できることを見出した。即ち、酸化タングステン粒子がセシウム原子を含有することで、酸化タングステン粒子の導電性が安定化すると考えられる。そのため、電子写真感光体を長期にわたって使用した場合でも、中間層が含有する酸化タングステン粒子の導電性の低下が抑制されて中間層の導電性が安定化し、電子写真感光体の表面における明部電位の変動を抑制することができたと考えられる。
【0015】
[電子写真感光体]
本発明に係る電子写真感光体は、支持体、中間層および感光層をこの順に有する。
電子写真感光体を製造する方法としては、後述する各層の塗布液を調製し、所望の層の順番に塗布して、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布、ロール塗布、ダイ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、ワイヤーバー塗布、リング塗布などが挙げられる。これらの中でも、効率性および生産性の観点から、浸漬塗布が好ましい。
以下、支持体および各層について説明する。
【0016】
<支持体>
本発明において、電子写真感光体は支持体を有する。支持体は、導電性を有する導電性支持体であることが好ましい。また、支持体の形状としては、円筒状、ベルト状、シート状などが挙げられる。中でも、円筒状支持体であることが好ましい。また、支持体の表面に、陽極酸化などの電気化学的な処理や、ブラスト処理、センタレス研磨処理、切削処理などを施してもよい。
支持体の材質としては、金属、樹脂、ガラスなどが好ましい。
金属としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金、ステンレスや、これらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウムを用いたアルミニウム製支持体であることが好ましい。
また、樹脂やガラスには、導電性材料を混合または被覆するなどの処理によって、導電性を付与してもよい。
【0017】
<中間層>
本発明において、中間層は、支持体の上に形成され、酸化タングステン粒子と、結着材料と、を含有する。
【0018】
また、酸化タングステン粒子は、セシウム原子を含有する。酸化タングステン粒子がセシウム原子を含有することで、酸化タングステン粒子の導電性が安定化し、良好な導電性を維持することが可能な中間層を得ることができる。
【0019】
酸化タングステン粒子としては、球体状、多面体状、楕円体状、薄片状、針状等、種々の形状の粒子を用いることができる。
これらの中でも、黒ポチなどの画像欠陥が少ないという観点から、球体状、多面体状、楕円体状の粒子が好ましい。
本発明の酸化タングステン粒子は、球体状または球体状に近い多面体状であることがさらに好ましい。
【0020】
酸化タングステン粒子の数平均粒子径は、50nm以上800nm以下であることが好ましい。
酸化タングステン粒子の数平均粒子径が50nm以上であれば、中間層用塗布液を調製した後に酸化タングステン粒子の再凝集が起こりにくくなる。そのため、中間層用塗布液の安定性が低下せず、また、形成される中間層の表面にクラックが発生することを抑制することができる。
酸化タングステン粒子の数平均粒子径が800nm以下であれば、中間層の表面の粗面化を抑制することができる。そのため、感光層への局所的な電荷注入が起こりにくく、出力画像の白地における黒点(黒ポチ)が目立たなくなる。
酸化タングステン粒子の数平均粒子径は、100nm以上400nm以下であることがより好ましい。
なお、酸化タングステン粒子が、球体状以外の形状を有する場合は、同一体積となる球体の直径を、酸化タングステン粒子の粒径とする。
【0021】
酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率は、タングステン原子に対して組成比で0.1%以上10.0%以下である。即ち、セシウム原子を含有する酸化タングステン粒子を、組成式CsWOで表したとき、xが0.001以上0.100以下である。以下、酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率に関して、特に明記していない限り、すべてタングステン原子に対する組成比を表す。
酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率が0.1%以上であれば、電子写真感光体の表面における明部電位の変動を抑制する効果を高く得ることができる。また、酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率が10.0%以下であれば、酸化タングステン粒子の導電性が低下せず、中間層の膜抵抗が高くなることを抑制でき、初期感度の低下を抑制することができる。
【0022】
酸化タングステン粒子におけるセシウム原子の含有率は、タングステン原子に対して組成比で0.1%以上5.0%以下であることがより好ましい。
【0023】
また、酸化タングステン粒子は、所謂コアシェル構造であってもよい。この場合、シェル構造部分が、セシウム原子を含有する酸化タングステンであればよい。コア構造部分としては、例えば、酸化チタンや硫酸バリウムなどの金属酸化物が挙げられる。
酸化タングステン粒子は、表面をシランカップリング剤などで処理してもよい。
【0024】
中間層は、酸化タングステン粒子を中間層の全体積に対して20体積%以上50体積%以下含有することが好ましい。
中間層中の酸化タングステン粒子の含有量が、中間層の全体積に対して20体積%以上であれば、酸化タングステン粒子同士の距離が遠くなり過ぎることがない。酸化タングステン粒子同士の距離が遠くなるほど、中間層の体積抵抗率が高くなりやすい。中間層の体積抵抗率が高くなると、画像形成時に電荷の流れが滞り、残留電位が上昇する要因となる。さらに、残留電位の上昇により、明部電位の変動が生じる場合がある。
中間層中の酸化タングステン粒子の含有量が、中間層の全体積に対して50体積%以下であれば、酸化タングステン粒子同士が接しにくくなる。酸化タングステン粒子同士が接した場合、その酸化タングステン粒子同士が接した部分は、局所的に中間層の体積抵抗率が低い部分となり、電子写真感光体にリークを生じる要因となる。
【0025】
中間層は、酸化タングステン粒子を中間層の全体積に対して30体積%以上45体積%以下含有することがより好ましい。
【0026】
中間層は、さらに、酸化タングステン粒子以外の別の導電性粒子を有しても良い。別の導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属などが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
【0027】
別の導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
【0028】
また、別の導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
【0029】
酸化タングステン粒子以外の導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0030】
中間層が酸化タングステン粒子以外の別の導電性粒子を有する場合、中間層における酸化タングステン粒子と別の導電性粒子とを合わせた含有割合は、中間層の全体積に対して20体積%以上50体積%以下であることが好ましい。
【0031】
結着材料としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
【0032】
結着材料としては、熱硬化性のフェノール樹脂または熱硬化性のポリウレタン樹脂が好ましい。中間層の結着材料として硬化性樹脂を用いる場合、中間層用塗布液が含有する結着材料は、該硬化性樹脂のモノマーおよび/またはオリゴマーとなる。
【0033】
また、中間層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などをさらに含有してもよい。
【0034】
中間層の膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0035】
酸化タングステン粒子における、タングステン原子に対するセシウム原子の割合(組成比)は、ICP発光分析装置を用いて測定することが可能である。測定対象としては、電子写真感光体の中間層以外の層を剥離し、中間層を削り取り、その削り取った中間層を使用することができる。また、中間層に用いた酸化タングステン粒子と同じ材料の粉末を測定対象として使用することも可能である。それらを硫酸などの酸で溶解させて得られる溶液について測定を行う。
【0036】
本発明において、中間層の体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm以上1.0×1013Ω・cm以下であることが好ましい。中間層の体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以下であれば、画像形成時に電荷の流れが滞りにくく、残留電位が上昇しにくくなり、明部電位の変動が抑制される。また、中間層の体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上であれば、電子写真感光体の帯電時に中間層中を流れる電荷の量が多くなり過ぎにくく、リークが発生しにくくなる。さらには、中間層の体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm以上1.0×1012Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0037】
図2および図3を用いて、電子写真感光体の中間層の体積抵抗率を測定する方法を説明する。図2は、中間層の体積抵抗率の測定方法を説明するための上面図であり、図3は、中間層の体積抵抗率の測定方法を説明するための断面図である。
【0038】
中間層の体積抵抗率は、常温常湿(温度23℃/相対湿度50%)環境下において測定する。中間層202の表面に銅製テープ203(例えば、住友スリーエム製、型番No.1181)を貼り、これを中間層202の表面側の電極とする。また、支持体201を中間層202の裏面側の電極とする。銅製テープ203と支持体201との間に電圧を印加するための電源206、および、銅製テープ203と支持体201との間を流れる電流を測定するための電流測定機器207をそれぞれ設置する。また、銅製テープ203に電圧を印加するため、銅製テープ203の上に銅線204を載せ、銅線204が銅製テープ203から外れないように銅線204の上から銅製テープ203と同様の銅製テープ205を貼り、銅製テープ203に銅線204を固定する。銅製テープ203には、銅線204を用いて電圧を印加する。
【0039】
銅製テープ203と支持体201との間に電圧を印加しないときのバックグラウンド電流値をI(A)とし、直流電圧(直流成分のみの電圧)を-1V印加したときの電流値をI(A)とする。また、中間層202の膜厚d(cm)、中間層202の表面側の電極(銅製テープ203)の面積をS(cm)とするとき、数式[ρ=1/(I-I)×S/d]で算出される値を中間層202の体積抵抗率ρ(Ω・cm)とする。
【0040】
この測定では、絶対値で1×10-6A以下という微小な電流量を測定するため、電流測定機器207としては、微小電流の測定が可能な機器を用いて行うことが好ましい。そのような機器としては、例えば、横河ヒューレットパッカード製のpAメーター4140Bなどが挙げられる。なお、中間層の体積抵抗率は、支持体上に中間層のみを形成した状態で測定しても、電子写真感光体から中間層上の各層(感光層など)を剥離して支持体上に中間層のみを残した状態で測定しても、同様の値を示す。
【0041】
中間層は、上述の各材料および溶剤を含有する中間層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。中間層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0042】
<下引き層>
本発明において、中間層の上に、下引き層を設けてもよい。下引き層を設けることで、層間の接着機能が高まり、電荷注入阻止機能を付与することができる。
【0043】
下引き層は、樹脂を含有することが好ましい。また、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として下引き層を形成してもよい。
【0044】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0045】
重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、メチロール基、アルキル化メチロール基、エポキシ基、金属アルコキシド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、カルボン酸無水物基、炭素-炭素二重結合基などが挙げられる。
【0046】
また、下引き層は、電気特性を高める目的で、電子輸送物質、金属酸化物、金属、導電性高分子などをさらに含有してもよい。これらの中でも、電子輸送物質、金属酸化物を用いることが好ましい。
電子輸送物質としては、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、フルオレノン化合物、キサントン化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノビニル化合物、ハロゲン化アリール化合物、シロール化合物、含ホウ素化合物などが挙げられる。電子輸送物質として、重合性官能基を有する電子輸送物質を用い、上述の重合性官能基を有するモノマーと共重合させることで、硬化膜として下引き層を形成してもよい。
金属酸化物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。金属としては、金、銀、アルミなどが挙げられる。
また、下引き層は、添加剤をさらに含有してもよい。
【0047】
下引き層の膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0048】
下引き層は、上述の各材料および溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥および/または硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0049】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0050】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0051】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有する。
【0052】
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0054】
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤をさらに含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0055】
電荷発生層の膜厚は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0056】
電荷発生層は、上述の各材料および溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0057】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有する。
【0058】
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。 電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、特にポリアリレート樹脂が好ましい。
電荷輸送物質と樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、5:10~12:10がより好ましい。
【0060】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0061】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0062】
電荷輸送層は、上述の各材料および溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤または芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0063】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂および溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0064】
<保護層>
本発明において、感光層の上に、保護層を設けてもよい。保護層を設けることで、耐久性を向上することができる。
保護層は、導電性粒子および/または電荷輸送物質と、樹脂とを含有することが好ましい。
【0065】
導電性粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物の粒子が挙げられる。
電荷輸送物質としては、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0066】
また、保護層は、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として形成してもよい。その際の反応としては、熱重合反応、光重合反応、放射線重合反応などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーとして、電荷輸送能を有する材料を用いてもよい。
【0067】
保護層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤、などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0068】
保護層の膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0069】
保護層は、上述の各材料および溶剤を含有する保護層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥および/または硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、スルホキシド系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0070】
[プロセスカートリッジ、電子写真装置]
本発明に係るプロセスカートリッジは、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0071】
また、本発明に係る電子写真装置は、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段とを有することを特徴とする。
【0072】
図1に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体1の表面は、帯電手段3により、正または負の所定電位に帯電される。なお、図においては、ローラ型帯電部材によるローラ帯電方式を示しているが、コロナ帯電方式、近接帯電方式、注入帯電方式などの帯電方式を採用してもよい。帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写される。トナー像が転写された転写材7は、定着手段8へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。電子写真装置は、転写後の電子写真感光体1の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段9を有していてもよい。また、クリーニング手段9を別途設けず、上記付着物を現像手段5などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。電子写真装置は、電子写真感光体1の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、本発明に係るプロセスカートリッジ11を電子写真装置本体に着脱するために、レールなどの案内手段12を設けてもよい。
【0073】
本発明に係る電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、および、これらの複合機などに用いることができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0075】
[酸化タングステン粒子の合成]
以下の方法で、酸化タングステン粒子を合成した。
【0076】
(酸化タングステン粒子1の製造例)
酸化タングステン粒子1として、以下の方法で、数平均粒子径300nmのCsWO(x=0.10)粒子を製造した。
原料として、以下の材料を用意した。
・タングステン(VI)酸セシウム(CsWO)粉体(AlfaAesar社製、純度99.9%、数平均粒子径80μm)
・酸化タングステン(VI)(WO)粉体(高純度化学研究所社製、純度99.9%、数平均粒子径50μm)
・タングステン(W)粉体(高純度化学研究所社製、純度99.9%、数平均粒子径5μm)
これらの原料を目的のCs含有量xに応じた化学当量に秤量した。Cs含有量xに対応する化学当量の計算には下記式(I)を用いた。
x/2[CsWO]+x/6[W]+(1-2x/3)[WO]→[CsWO] (I)
【0077】
化学当量に秤量した各原料粉体をジルコニア製の遊星ボールミル用ポットに入れた。また、秤量した原料粉体と同程度のかさ(体積)のジルコニア製ボール(直径1mmと3mmをほぼ同量混ぜたもの)と、原料粉体とボールがすべて浸る程度のエタノールをさらにポット内に加えた。その後、樹脂製のパッキンをポットとふたの間に挟み、ふたを閉じた。遊星ボールミル装置にポットを設置し、動作中にポットとふたの隙間から粉体およびエタノールがあふれ出ないように、装置に付随した押さえつけ冶具によりポットおよびふたをしっかり抑えつけた。その上で、500回転毎分の自公転を12時間行い、よく混合した。
【0078】
遊星ボールミルによる混合が終了した後、ポット内の内容物を取り出し、そこからジルコニア製ボールを除去することで、エタノールに分散した混合原料粉体を得た。これをホットスターラーにより撹拌しながら加熱し、エタノールを蒸発させた。エタノール蒸発後の混合原料粉体は固形になったので、乳鉢により粉砕し、再び粉体化した。
【0079】
この混合原料粉体をアルミナ製の坩堝内に、稠密に充填されないように静かに流し込み、坩堝を真空炉内に設置し密閉した。炉内から酸素を除去する目的で、炉内を真空引きした上で窒素置換する工程を3回繰り返した。この時、坩堝内の粉体が飛び散らないように、真空引きおよび窒素導入には排気速度および導入速度を極力遅くして実施した。3回目の窒素置換ののち、さらに真空引きを実施し、1パスカル程度またはそれ以下の真空度に到達するのを待って、炉内を850℃に加熱した。850℃で3時間の熱処理を行った後、炉内温度が50℃以下になるのを待って大気開放し、坩堝を炉外に取り出した。
【0080】
坩堝内の粉体を取り出したところ、一部結着して粗大粒子が形成されていたので、粉体をメノウ製の乳鉢に入れ、メノウ製の乳棒により粉砕した。光学式の粒度分布計により、乳鉢による粉砕後の粉体粒径を測定したところ、数10μm程度であった。
【0081】
この粉体をジルコニア製の遊星ボールミル用ポットに入れた。さらに、粉体と同程度のかさ(体積)のジルコニア製ボール(直径0.5mmと1mmをほぼ同量混ぜたもの)と、原料粉体とボールがすべて浸る程度のエタノールをさらにポット内に加えた。その後、樹脂製のパッキンをポットとふたの間に挟み、ふたを閉じた。遊星ボールミル装置にポットを設置し、動作中にポットとふたの隙間から粉体およびエタノールがあふれ出ないように装置に付随した押さえつけ冶具によりポットおよびふたをしっかり抑えつけた。その上で、500回転毎分の自公転を24時間実施した。
【0082】
遊星ボールミルによる混合が終了した後、ポット内の内容物を取り出し、そこからジルコニア製ボールを除去することで、粉体のエタノール分散液を得た。この分散液の一部をとり、さらにエタノールを揮発させたうえで光学顕微鏡により数平均粒子径を測定したところ、約300nmであった。
【0083】
所望の粒径の粉体が得られたことが確認できたので、粉体のエタノール分散液をホットスターラーにより撹拌しながら加熱し、エタノールを蒸発させた。エタノール蒸発後の混合原料粉体は固形になったので、乳鉢により粉砕し、再び粉体化した。
【0084】
以上の工程により、Cs含有量x=0.100を有する数平均粒子径300nmの酸化タングステン粒子1を得た。
【0085】
(酸化タングステン粒子2~5およびC1)
酸化タングステン粒子1の製造において、Cs含有量xが表1に示す通りとなるように、原料の割合を適宜変更した。また、表1に示す直径を有するジルコニア製ボールを熱処理後の遊星ボールミルによる混合に用い、熱処理後の遊星ボールミルによる混合の時間を表1に示す通りに変更した。それ以外は酸化タングステン粒子1と同様にして、表1に示すような数平均粒子径を有する酸化タングステン粒子2~5およびC1の粉末を得た。
【0086】
(酸化タングステン粒子6および7)
表1に示す直径を有するジルコニア製ボールを熱処理後の遊星ボールミルによる混合に用い、熱処理後の遊星ボールミルによる混合の時間を表1に示すように変更した。それ以外は、酸化タングステン粒子1と同様にして、表1に示すような数平均粒子径を有する酸化タングステン粒子6および7の粉末を得た。
【0087】
【表1】
【0088】
<電子写真感光体の製造>
[中間層用塗布液の調製例]
(中間層用塗布液1の調製例)
フェノール樹脂(フェノール樹脂のモノマー/オリゴマー)(商品名:プライオーフェンJ-325、DIC(株)製、樹脂固形分:60%、硬化後の密度:1.3g/cm)50部を用意した。これを、溶剤としての1-メトキシ-2-プロパノール35部に溶解させて溶液を得た。
この溶液に酸化タングステン粒子1を110部加え、これを分散媒体として平均粒子径1.0mmのガラスビーズ120部を用いた縦型サンドミルに入れた。その後、分散液温度23±3℃、回転数1500rpm(周速5.5m/s)の条件で4時間分散処理を行い、分散液を得た。この分散液からメッシュでガラスビーズを取り除いた。
レベリング剤としてシリコーンオイル(商品名:SH28 PAINT ADDITIVE、東レ・ダウコーニング(株)製)0.01部を用意した。また、表面粗さ付与材としてシリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、平均粒子径:2μm、密度:1.3g/cm)10部を用意した。これらをガラスビーズを取り除いた後の分散液に添加して攪拌し、PTFE濾紙(商品名:PF060、アドバンテック東洋(株)製)を用いて加圧ろ過することによって、中間層用塗布液1を調製した。
【0089】
(中間層用塗布液2~9の調製例)
中間層用塗布液の調製の際に用いた酸化タングステン粒子の種類および使用量を、それぞれ表2に示すようにした以外は、中間層用塗布液1の調製例と同様の操作で、中間層用塗布液2~9を調製した。
【0090】
(中間層用塗布液10の調製例)
ブチラール樹脂(商品名:BM-1、積水化学工業(株)製)15部、および、ブロック化イソシアネート樹脂(商品名:TPA-B80E、80%溶液、旭化成(株)製)18.75部を用意した。これらを、メチルエチルケトン45部/1-ブタノール85部の混合溶剤に溶解させて溶液を得た。
この溶液に酸化タングステン粒子4を110部加え、これを分散媒体として平均粒子径1.0mmのガラスビーズ120部を用いた縦型サンドミルに入れた。その後、分散液温度23±3℃、回転数1500rpm(周速5.5m/s)の条件で4時間分散処理を行い、分散液を得た。この分散液からメッシュでガラスビーズを取り除いた。
レベリング剤としてシリコーンオイル(商品名:SH28 PAINT ADDITIVE、東レ・ダウコーニング(株)製)0.01部を用意した。また、表面粗さ付与材として架橋型のポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子(商品名:テクポリマーSSX-102、積水化成品工業(株)製、平均一次粒径:2.5μm)5部を用意した。これらをガラスビーズを取り除いた後の分散液に添加して攪拌し、PTFE濾紙(商品名:PF060、アドバンテック東洋(株)製)を用いて加圧ろ過することによって、中間層用塗布液10を調製した。
【0091】
(中間層用塗布液C1の調製例)
中間層用塗布液の調製の際に用いた酸化タングステン粒子の種類を表2に示すようにした以外は、中間層用塗布液1の調製例と同様の操作で、中間層用塗布液C1を調製した。
【0092】
【表2】
【0093】
(電子写真感光体1(実施例1)の製造例)
[支持体]
押し出し工程および引き抜き工程を含む製造方法により製造された、長さ257mm、直径24mmのアルミニウムシリンダー(JIS-A3003、アルミニウム合金)を支持体とした。
【0094】
[中間層]
常温常湿(23℃/50%RH)環境下で、中間層用塗布液1を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間150℃で乾燥および熱硬化させることによって、膜厚が30μmの中間層を形成した。
【0095】
[下引き層]
次に、以下の材料を用意した。
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス(株)製)4.5部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ(株)製)1.5部
これらを、メタノール65部/n-ブタノール30部の混合溶剤に溶解させることによって下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を中間層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を6分間70℃で乾燥させることによって、膜厚が0.85μmの下引き層を形成した。
[電荷発生層]
【0096】
次に、以下の材料を用意した。
・CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部
・ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX-1、積水化学工業(株)製)5部
・シクロヘキサノン250部
これらを、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、分散処理時間:3時間の条件で分散処理を行い、さらに、酢酸エチル250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0097】
[電荷輸送層]
次に、以下の材料を用意した。
・下記式(CT-1)で示されるアミン化合物(電荷輸送物質)6.0部
・下記式(CT-2)で示されるアミン化合物(電荷輸送物質)2.0部
・ビスフェノールZ型のポリカーボネート(商品名:Z400、三菱エンジニアリングプラスチックス製)10部
・下記式(B-1)で示される繰り返し構造単位および下記式(B-2)で示される繰り返し構造単位を有し、下記式(B-3)で示される末端構造を有するシロキサン変性ポリカーボネート((B-1):(B-2)=95:5(モル比))0.36部
これらをo-キシレン60部/ジメトキシメタン40部/安息香酸メチル2.7部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間125℃で乾燥させることによって、膜厚が12.0μmの電荷輸送層を形成した。
【化1】
【化2】
【化3】
以上のようにして、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体1を製造した。
【0098】
(電子写真感光体2~9(実施例2~9)の製造例)
電子写真感光体の製造の際に用いた中間層用塗布液を、中間層用塗布液1から、表3に示すように変更した以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電子写真感光体2~9を製造した。
【0099】
(電子写真感光体10および11(実施例10および11)の製造例)
電子写真感光体の製造の際に用いた中間層用塗布液を、中間層用塗布液1から、表3に示すように変更した。さらに中間層の膜厚が表3に示す値となるように変更した以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電子写真感光体10および11を製造した。結果を表3に示す。
【0100】
(電子写真感光体12(実施例12)の製造例)
電子写真感光体の製造の際に下引き層を設けなかった以外は、電子写真感光体4の製造例と同様の操作で、電子写真感光体12を製造した。
【0101】
(電子写真感光体13(実施例13)の製造例)
電子写真感光体の製造の際に用いた中間層用塗布液を、中間層用塗布液1から中間層用塗布液10に変更した。また、塗膜の乾燥および熱硬化の温度を170℃に変更した以外は、電子写真感光体1の製造と同様の操作で、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体13を製造した。
【0102】
(電子写真感光体C1(比較例1)の製造例)
電子写真感光体の製造の際に用いた中間層用塗布液を、中間層用塗布液1から中間層用塗布液C1に変更した以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電子写真感光体C1を製造した。結果を表3に示す。
【0103】
(電子写真感光体の中間層の分析)
上記で製造した各電子写真感光体から、5mm四方の切片を5つ切り出した。その後、それぞれの切片の電荷輸送層および電荷発生層をクロロベンゼン、メチルエチルケトンおよびメタノールで拭き取り、中間層を露出させた。このようにして、観察用サンプル片を各電子写真感光体につき5つずつ用意した。
【0104】
まず、各電子写真感光体について、それぞれ1つのサンプル片を用いて、中間層を厚さ150nmに薄片化した。中間層の薄片化は、集束イオンビーム加工観察装置(商品名:FB-2000A、日立ハイテクマニファクチャ&サービス製)を用いてFIB-μサンプリング法により行った。
【0105】
続いて、得られた薄片を用いて中間層の組成分析を行った。組成分析には電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(商品名:JEM-2100F、日本電子製)およびエネルギー分散形X線分析装置(EDX)(商品名:JED-2300T、日本電子製)を用いた。なお、EDXの測定条件は、加速電圧200kV、ビーム径1.0nmである。
【0106】
次に、各電子写真感光体について、それぞれ残りの4つのサンプル片を用いて、FIB-SEMのSlice&Viewで中間層の2μm×2μm×2μmの3次元化を行った。FIB-SEMのSlice&Viewのコントラストの違いから、中間層の全体積に占める、酸化タングステン粒子の含有割合(体積%)を算出した。Slice&Viewの条件は以下のようにした。
分析用試料加工:FIB法
加工および観察装置:SII/Zeiss製NVision40
スライス間隔:10nm
観察条件:
加速電圧:1.0kV
試料傾斜:54°
WD:5mm
検出器:BSE検出器
アパーチャー:60μm、high current
ABC:ON
画像解像度:1.25nm/pixel
解析領域は縦2μm×横2μmで行い、断面ごとの情報を積算し、縦2μm×横2μm×厚み2μm(8μm)当たりの酸化タングステン粒子の体積Vを求めた。また、測定環境は、温度23℃、圧力1×10-4Paである。なお、加工および観察装置としては、FEI製のStrata400S(試料傾斜:52°)を用いることもできる。また、断面ごとの情報は、特定した酸化タングステン粒子の面積を画像解析して得た。画像解析は、画像処理ソフト:Media Cybernetics製、Image-Pro Plusを用いて行った。
【0107】
得られた情報を基に、4つのサンプル片のそれぞれにおいて、2μm×2μm×2μmの体積(単位体積:8μm)中の酸化タングステン粒子の体積Vを求めた。そして、各サンプル片中の酸化タングステン粒子の含有割合を、式:(Vμm/8μm×100)に基づいて算出した。4つのサンプル片における酸化タングステン粒子の含有割合の平均値を、中間層の全体積に対する酸化タングステン粒子の含有割合(体積%)とした。
【0108】
各実施例および比較例に係る電子写真感光体について、上記解析により得られた中間層の全体積に対する酸化タングステン粒子含有割合(体積%)を、中間層の膜厚および体積抵抗率と共に表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
[評価]
(繰り返し使用時における明部電位の変動評価)
上記で製造した電子写真感光体をそれぞれレーザービームプリンター(商品名:Color LaserJet Enterprise M552、ヒューレットパッカード製)に装着して、温度23℃/相対湿度50%の環境下にて通紙耐久試験を行った。
【0111】
通紙耐久試験では、印字率2%の文字画像をレター紙に1枚ずつ出力する間欠モードでプリント操作を行い、25,000枚の画像出力を行った。そして、通紙耐久試験開始時並びに25,000枚画像出力終了に、露光時の電位(明部電位)を測定した。電位測定は、黒ベタ画像を用いて行った。初期(通紙耐久試験開始時)の明部電位をVl、25,000枚画像出力終了後の明部電位をVl’とした。そして、25000枚画像出力終了後の明部電位Vl’と初期の明部電位Vlとの差である明部電位変動量△Vl(=|Vl’|-|Vl|)を求めた。
結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【符号の説明】
【0113】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 案内手段
図1
図2
図3