(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】光学素子および画像投影装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2020100442
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】尾形 洋一
(72)【発明者】
【氏名】コリチバ ニキタ
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090562(JP,A)
【文献】特開2016-085426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0234485(US,A1)
【文献】国際公開第2012/140845(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0031171(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
G02B 5/18
G02B 6/00,6/02,6/245-6/25,6/46-6/54
H04N 5/64-5/655
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凸部および凹部が周期的に形成された回折格子部と、
前記回折格子部
より小さい屈折率の材料からなり、前記回折格子部を覆って形成される導光板部とを備え、
前記導光板部は、一方に延伸された第1延伸部を有し、前記第1延伸部の端部近傍には平坦な第1光出射部が形成されており、
前記凸部は、主面に対して角度φだけ傾斜してスランテッドグレーティングを構成し、
前記第1延伸部は、前記凸部の傾斜方向と反対側に延伸されており、
前記回折格子部による回折光のうち少なくとも一方の一次回折光が、前記第1延伸部内を全反射して導波され、前記第1光出射部まで到達することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子であって、
前記導光板部は、前記第1延伸部と反対側に延伸された第2延伸部を有し、前記第2延伸部の端部近傍には平坦な第2光出射部が形成されており、
前記回折格子部による回折光のうち他方の二次回折光が、前記第2延伸部内を全反射して導波され、前記第2光出射部まで到達することを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学素子であって、
前記第1光出射部は、前記第1延伸部の端面、表面または裏面の何れか一箇所に設けられていることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項
1から3の何れか一つに記載の光学素子であって、
前記回折格子部による回折光のうち、0次回折光および他方の一次回折光は、前記導光板部の主面を透過して出射することを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項
1から4の何れか一つに記載の光学素子と、
前記回折格子部に対して光を照射する光源部を備え、
前記光源部は、前記凸部の傾斜方向と同じ方向に角度Θだけ傾斜した方向から前記回折格子部に光を照射することを特徴とする画像投影装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の画像投影装置であって、
前記導光板部と光学的に結合されて、内部で光を導波するライトガイド部とを備え、
前記ライトガイド部は、前記第1光出射部と対向する光入射部と、導波された光を出射する光出射部を備えることを特徴とする画像投影装置。
【請求項7】
請求項
5または6に記載の画像投影装置であって、
前記光出射部には、回折格子が形成されていることを特徴とする画像投影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および画像投影装置に関し、特に回折格子を用いた光学素子および画像投影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両内に各種情報を表示する装置として、アイコンを点灯表示する計器盤が用いられている。また、表示する情報量の増加とともに、計器盤に画像表示装置を埋め込むことや、計器盤全体を画像表示装置で構成することも提案されている。
【0003】
しかし、計器盤は車両のフロントガラスより下方に位置しているため、計器盤に表示された情報を運転者が視認するには、運転中に視線を下方に移動させる必要があるため好ましくない。そこで、フロントガラスに画像を投影して、運転者が車両の前方を視認したときに情報を読み取れるようにするヘッドアップディスプレイ(以下HUD:Head Up Display)も提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなHUDでは、フロントガラスの広い範囲に画像を投影するための光学装置が必要であり、光学装置の小型化および軽量化が望まれている。
【0004】
一方で、小型の光学装置を用いて光を投影する画像表示装置としては、メガネ形状をしたヘッドマウント型のHUDが知られている(例えば、特許文献2を参照)。ヘッドマウント型のHUDでは、光源から照射された光を視聴者の眼に直接照射して、視聴者の網膜に画像を投影している。このようなヘッドマウント型のHUDでは、光源から視聴者に光を照射する際に回折格子を備えた光学素子を用いている。このような回折格子を備える光学素子を用いたHUDでは、光源から所定の入射角度で回折格子に光を照射し、回折光が光学素子の内部を導波して光出射部から外部に投影される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-118669号公報
【文献】特表2018-528446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、光学素子から光を投影するためには、回折格子やハーフミラーを光出射用の光学要素として、光学素子の導波板内部または外部に設ける必要があった。しかし、光学素子の内部に光出射用の光学要素を形成することは、製造工程が増加するうえに光学素子の小型化が困難になる。また、光学素子の外部に光出射用の光学要素を設けるためにも、光出射用の光学要素を配置できるサイズの導波板を用いる必要があるため、小型化が困難になる。また、微小サイズの光学要素を光出射用の光学要素として用いると、導波板での位置決め精度が必要であり組立工程が煩雑化し、製造歩留まりも低下する。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、簡便な構造により回折格子での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化が容易な光学素子および画像投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の光学素子は、複数の凸部および凹部が周期的に形成された回折格子部と、前記回折格子部より小さい屈折率の材料からなり、前記回折格子部を覆って形成される導光板部とを備え、前記導光板部は、一方に延伸された第1延伸部を有し、前記第1延伸部の端部近傍には平坦な第1光出射部が形成されており、前記凸部は、主面に対して角度φだけ傾斜してスランテッドグレーティングを構成し、前記第1延伸部は、前記凸部の傾斜方向と反対側に延伸されており、前記回折格子部による回折光のうち少なくとも一方の一次回折光が、前記第1延伸部内を全反射して導波され、前記第1光出射部まで到達することを特徴とする。
【0009】
このような本発明の光学素子では、回折格子部による回折光のうち少なくとも一方の一次回折光が、第1延伸部内を全反射して導波され第1光出射部まで到達し、平坦な第1光出射部から光学素子の外部に光が取り出される。これにより、簡便な構造により回折格子での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化が容易な光学素子および画像投影装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記導光板部は、前記第1延伸部と反対側に延伸された第2延伸部を有し、前記第2延伸部の端部近傍には平坦な第2光出射部が形成されており、前記回折格子部による回折光のうち他方の二次回折光が、前記第2延伸部内を全反射して導波され、前記第2光出射部まで到達する。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記第1光出射部は、前記第1延伸部の端面、表面または裏面の何れか一箇所に設けられている。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記回折格子部による回折光のうち、0次回折光および他方の一次回折光は、前記導光板部の主面を透過して出射する。
【0014】
また、本発明の画像表示装置は、上記何れか一つに記載の光学素子と、前記回折格子部に対して光を照射する光源部を備え、前記光源部は、前記凸部の傾斜方向と同じ方向に角度Θだけ傾斜した方向から前記回折格子部に光を照射することを特徴とする。
また、本発明の一態様では、前記導光板部と光学的に結合されて、内部で光を導波するライトガイド部とを備え、前記ライトガイド部は、前記第1光出射部と対向する光入射部と、導波された光を出射する光出射部を備える。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記光出射部には、回折格子が形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、簡便な構造により回折格子での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化が容易な光学素子および画像投影装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態における光学素子10の構造を示す模式断面図である。
【
図2】回折格子部11の構造例を示す部分拡大断面図である。
【
図3】第2実施形態における画像投影装置100の構造を示す模式断面図である。
【
図4】第2実施形態における画像投影装置100の構造を示す模式斜視図である。
【
図5】第3実施形態における光学素子10とライトガイド部20の配置例を示す模式図である。
【
図6】光学素子10の主面にライトガイド部20の表面または裏面を対向させた場合の光取り出しを説明する模式図である。
【
図7】光学素子10の端面にライトガイド部20の端面を対向させた場合の光取り出しを説明する模式図である。
【
図8】第4実施形態において、回折格子部11での光の回折と進行について説明する図であり、
図8(a)は模式断面図であり、
図8(b)は模式斜視図であり、
図8(c)は赤色光を入射させた場合の電場Ey分布を示すグラフであり、
図8(d)は緑色光を入射させた場合の電場Ey分布を示すグラフである。
【
図9】+1次光I1および-2次光I2を検出するための実験装置の概要を示す模式図である。
【
図10】光学素子10への入射光Linを角度Θで入射させた場合の+1次光I1および-2次光I2の出射を模式的に示す斜視図である。
【
図12】
図9に示した装置として赤色レーザを光源として用いて測定した、入射光Linの入射角度Θと光学素子10からの出射光強度の関係を示したグラフである。
【
図13】
図9に示した装置での実験を示す写真であり、
図13(a)は照明を点灯した状態での赤色光の照射を示し、
図13(b)は照明を消灯した状態での赤色光の照射を示し、
図13(c)は照明を点灯した状態での緑色光の照射を示し、
図13(d)は照明を消灯した状態での緑色光の照射を示している。
【
図14】光学素子10から出射される+1次光I1による遠視野像を観測するための実験装置の概要を示す模式図である。
【
図15】
図14に示した装置での実験を示す写真であり、
図15(a)~(c)は赤色光を入射した場合を示し、
図15(d)~(f)は赤色光を入射した場合を示している。
【
図16】
図14に示した装置での、テストターゲットを横方向に移動した場合の遠視野像の観測結果を示す図である。
【
図17】投影距離による投影画像の変形について説明する図であり、
図17(a)は光学素子10に入射光Linが集光して照射された場合の回折角度の分布について説明する模式図であり、
図17(b)は遠視野像の変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、本実施形態における光学素子10の構造を示す模式断面図である。
図1に示すように光学素子10は、回折格子部11と、回折格子部11を覆って形成される導光板部12を備えている。回折格子部11は、複数の凸部および凹部が周期的に形成された光学要素である。導光板部12は回折格子部11とは異なる屈折率の材料からなる略平板状の部材である。なお
図1は、光学素子10の構造を模式的に示したものであり、図中の寸法や角度は光学素子10における実寸を示すものではない。
【0020】
図2は、回折格子部11の構造例を示す部分拡大断面図である。
図2に示すように回折格子部11は略平板状の板状部15と、板状部15の主面に形成された複数の凸部16を備えている。板状部15と凸部16は、同一の材料で一体に形成されている。複数の凸部16は周期的に並んで形成されており、隣り合う凸部16の間には凹部が構成される。
図1に示した例では、回折格子部11の凸部16と凹部は、それぞれ紙面の奥行方向にストライプ状に延伸して形成されている。凸部16は、板状部15の主面に対して所定の角度φだけ傾斜して形成されており、スランテッドグレーティングを構成している。
【0021】
図1に示したように、導光板部12の一面には回折格子部11の形状となる溝が形成されており、当該溝に回折格子部11の材料が埋め込まれることで回折格子部11が構成されている。したがって、導光板部12は回折格子部を覆って形成されている。
【0022】
また導光板部12には、回折格子部11が形成された領域から一方に板状の第1延伸部13aが延伸して形成されており、第1延伸部13aの端部近傍には平坦な第1光出射部14aが設けられている。同様に、導光板部12には、回折格子部11が形成された領域から一方に板状の第2延伸部13bが延伸して形成されており、第2延伸部13bの端部近傍には平坦な第2光出射部14bが設けられている。
【0023】
回折格子部11を構成する材料は限定されないが、導光板部12との屈折率差が大きな材料を用いることが好ましく、例えばTiO2を主成分とする屈折率2.5程度の誘電体を用いることが好ましい。回折格子部11は公知の方法で形成することができ、例えばフォトリソグラフィ技術やナノインプリント技術、EBL(Electron Beam Lithography)技術等を用いることができる。また、導光板部12を傾斜させた状態で保持し、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法等を用いることで、凸部16を角度φだけ傾斜して形成することができる。
【0024】
回折格子部11のサイズは特に限定されないが、面内方向にも光を導波できる厚さを有することが好ましく、例えば全厚hが788±12nm程度、凸部16の高さdが210±10.5nm程度、凸部16の幅wが230nm程度、凸部16の周期Λが696nm程度である。また、導光板部12のサイズは限定されないが、例えば幅d=15mm、厚さt=0.5~20mm程度の大きさが挙げられる。導光板部12を構成する材料は限定されないが、例えばSiO2を主成分とするガラスやポリマーを用いることが好ましい。
【0025】
凸部16の傾斜角度φは、-45度以上45度以下の範囲であることが好ましい。傾斜角度φが上記範囲外の場合には、凸部16の形成が困難になるうえに、凸部16が凹部の上方にオーバーハングする領域が大きくなりすぎ、回折格子部11の面内における周期的な屈折率差が小さくなり、回折格子の機能が低下する。傾斜角度φが小さすぎる場合には、凸部16が回折格子部11の主面に垂直なピラードグレーティングに近くなり、スランテッドグレーティングによる利点が生じ難くなる。ここで、スランテッドグレーティングを構成する凸部16と凹部の形状としては、凸部16の側面が平行に傾斜している場合だけではなく、凸部16の両側面の傾斜が異なっている場合も含める。このとき、凸部16の傾斜角度φとは、凸部16の上端と下端における中央を結んだ線が、回折格子部11の主面との間でなす角度である。
【0026】
次に
図1を用いて、光学素子10における光路について説明する。なお
図1は、矢印を用いて光学素子10における光の進行を模式的に示したものであり、正確な光の入射位置や進行経路、出射位置を反映したものではない。
【0027】
図示しない光源部からは、光学素子10に向けてレーザ光が照射される。ここでレーザ光は位相が揃ったコヒーレントな光であり、コリメートレンズ等によってコリメート光として照射される。光源部から照射された入射光Linは、回折格子部11の界面に傾斜角度Θで入射し、その一部が界面で反射光Rとして反射され、その他の光は回折格子部11内に入射する。ここで、入射光Linの傾斜角度Θと、回折格子部11における凸部16の傾斜方向φとは同じ方向である。また、入射光Linの偏光方向は、凸部16のストライプとは平行な方向とされている。
【0028】
回折格子部11内に入射した光は、周期的な凸部16と導光板部12との屈折率差により一部が回折光として所定角度で導光板部12内に到達し、一部は伝搬光として回折格子部11の板状部15の面内を漏れ伝搬光として伝搬する。
【0029】
図1に示した例では、回折格子部11により回折された光のうち、0次光T1は導光板部12を透過して導光板部12の外部に照射される。また、凸部16が傾斜した方向に回折された一次光(-1次光T2)も、導光板部12を透過して導光板部12の外部に照射される。これは、0次光T1と-1次光T2は、回折格子部11および導光板部12の主面に対して垂直に近い角度で回折されるため、導光板部12と空気層との界面における全反射条件を満たさないためである。
【0030】
また、凸部16の傾斜と反対方向に回折された一次光(+1次光I1)は、導光板部12と空気層の界面により全反射して第1延伸部13a内を伝搬し、第1延伸部13aの端部における平坦な第1光出射部14aに到達し、導光板部12の外部に照射される。同様に、凸部16の傾斜した方向に回折された二次光(-2次光I2)も、導光板部12と空気層の界面により全反射して第2延伸部13b内を伝搬し、第2延伸部13bの端部における平坦な第2光出射部14bに到達し、導光板部12の外部に照射される。
【0031】
導光板部12と空気層の界面での全反射条件は、導光板部12を構成する材料の屈折率で決まる。したがって、回折格子部11で回折される+1次光I1と-2次光I2の回折角が、当該全反射条件を満たすように回折格子部11を設計する。また、光源部からの入射光の傾斜角Θも回折条件と全反射条件を満たすように設定することで、
図1に示したように+1次光I1と-2次光I2を導光板部12内で全反射させ、第1光出射部14aおよび第2光出射部14bまで到達させることができる。
【0032】
ここで、第1光出射部14aおよび第2光出射部14bは平坦な面として形成されており、全反射条件を満たしてしまうと光の取り出しができないため、空気層との屈折率差を小さくするための反射防止膜や屈折率調整膜を形成する等により光取り出しを行う。また、後述するように、他の導光部材を第1光出射部14aおよび第2光出射部14bに近接して配置することで、他の導光部材に光を伝搬させるとしてもよい。
【0033】
なお、導光板部12から照射される0次光T1、-1次光T2、+1次光I1および-2次光I2は、実際には導光板部12と外部との屈折率差によって屈折して角度が変化するが、
図1では簡便のために直線状の矢印で表現している。
【0034】
上述したように、本実施形態の光学素子10では、回折格子部11による回折光のうち凸部16の傾斜と反対側に回折される一次回折光(+1次光I1)が、第1延伸部13a内を全反射して導波され、第1光出射部14aまで到達し、平坦な第1光出射部14aから光学素子の外部に光が取り出される。これにより、簡便な構造により回折格子部11での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化が容易となる。
【0035】
また、回折格子部11による回折光のうち凸部16の傾斜と同じ側に回折される二次回折光(-2次光I2)が、第2延伸部13b内を全反射して導波され、第2光出射部14bまで到達し、平坦な第1光出射部14bから光学素子の外部に光が取り出される。これにより、一つの回折格子部11に一つの光源部から入射光Linを照射するだけで、+1次光I1とは反対方向にも-2次光I2を伝搬させることができる。
【0036】
また、回折格子部11による回折光のうち0次回折光(0次光T1)と、凸部16の傾斜と同じ側に回折される一次回折光(-1次光T2)は、回折格子部11が形成されて領域から外部に取り出される。これにより、+1次光I1および-2次光I2の他に、さらに二方向に対して光を照射することができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図3、
図4を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図3は、本実施形態における画像投影装置100の構造を示す模式断面図である。
図4は、本実施形態における画像投影装置100の構造を示す模式斜視図である。
図3,
図4に示すように、画像投影装置100は、第1実施形態で示した光学素子10と、ライトガイド部20と、プリズム部30と、投影板部40とを備えている。また、ライトガイド部20は、光入射部21と、導波部22と、光出射部23を備えている。
【0038】
ライトガイド部20は、光学素子10に隣接して設けられた光学部材であり、光学素子10が出射する光に対して透明な材料で構成されている。ライトガイド部20のうち、光学素子10の第1光出射部14a、第2光出射部14bと対向する領域には光入射部21が形成されており、光学素子10内部を伝搬して第1光出射部14a、第2光出射部14bまで到達した光が、ライトガイド部20内部に取り込まれる。また、ライトガイド部20は光入射部21と同じ材料で一体に形成された導波部22を備えており、光入射部21から取り込まれた光は、導波部22の内部を全反射しながら伝搬して光出射部23まで到達する。光出射部23は、ライトガイド部20から外部に光を取り出すための光学的な要素であり、例えば回折格子を用いることができる。
【0039】
図3では、光入射部21として導波部22の端面を傾斜させた形状を示しているが、光学素子10の第1光出射部14a、第2光出射部14bに対向して設けられていれば形状は限定されない。また、光入射部21と第1光出射部14aおよび第2光出射部14bとの間は、間隙が設けられていても接触していてもよい。また
図3では、導波部22として平板状の形状を示しているが、内部を光が全反射して伝搬できれば曲面形状であってもよい。また、光出射部23の回折格子は、導波部22の一部に溝を形成することで構成してもよく、導波部22とは別体で回折格子を形成して接着するとしてもよい。
【0040】
プリズム部30は、光学素子10の0次光T1と-1次光T2が照射される光路上に配置された光学部材であり、0次光T1と-1次光T2を屈折させて照射方向を変更する。
図3では、プリズム部30として二枚のプリズムを重ね合わせた構造を示しているが、さらに多数のプリズムを用いるとしてもよく、単一のプリズムを用いるとしてもよい。また、プリズム部30の代わりにレンズ等を用いるとしてもよい。また、プリズム部30はライトガイド部20とは別体に形成するとしてもよく、一体に形成するとしてもよい。
【0041】
投影板部40は、0次光T1と-1次光T2の光路上に配置された部材であり、0次光T1と-1次光T2の少なくとも一部を反射する部材で構成されている。0次光T1と-1次光T2が投影板部40に到達すると、光の一部が反射されるため視聴者は0次光T1と-1次光T2により照射された光により画像を視認することができる。投影板部40の具体的材料は限定されないが、紙や樹脂、ガラス等を用いることができる。また、車両のフロントガラスやヘルメットのウィンドシールド、スクリーンや壁面等を投影板部40として用いることができる。
【0042】
図3、
図4に示したように、光源部から照射された入射光Linは、光学素子10の回折格子部11に入射角Θで入射し、一部が反射光Rとして反射され、一部が回折格子部11内に到達する。回折格子部11内に到達した光は、回折条件を満たす方向に回折される。回折格子部11による0次光T1と-1次光T2は、導光板部12を透過してプリズム部30に入射し、画像投影装置100の前方(
図3における紙面上方)に照射される。回折格子部11による+1次光I1と-2次光I2は、第1光出射部14aおよび第2光出射部14bから光入射部21に到達し、導波部22内を全反射して光出射部23に到達し、画像投影装置100の後方(
図3における紙面下方)に照射される。
【0043】
光出射部23から照射された0次光T1と-1次光T2は、光径を拡大しながら視聴者の視点に到達する。これにより、視聴者にはライトガイド部20よりも遠方に焦点を結んで進行してきた光と同じ光路となり、視聴者は空間上にエアリアルイメージA1,A2を視認する。また、プリズム部30を介して前方に照射された0次光T1と-1次光T2は、投影板部40の表面上に投影画像V1,V2を投影する。したがって視聴者は、空間上に結像されたエアリアルイメージA1,A2と、投影板部40表面に投影された投影画像V1,V2を同時に視認することができる。ここで、エアリアルイメージA1,A2の結像位置が投影画像V1,V2と視点との間になるように設計する場合には、投影画像V1,V2とエアリアルイメージA1,A2を重ね合わせて視認させることができる。
【0044】
上述したように本実施形態の画像投影装置100では、光学素子10に隣接してライトガイド部20を配置することで、光学素子10の内部を伝搬して第1光出射部14aおよび第2光出射部14bまで到達した光を良好に導波して、光出射部23で外部に対して光を照射することができる。光学素子10として第1実施形態に示したものを用いることで、簡便な構造により回折格子部11での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化が容易となる。
【0045】
また、光学素子10は回折条件や全反射条件、入射光Linの入射角度φ等の制約が厳しく自由度が低いが、光学素子10とは別体でライトガイド部20を構成することで、導波部22と光出射部23の設計を変更するだけで光出射方向を調整することができるため、画像投影装置100全体としての設計自由度は向上する。
【0046】
また、光学素子10の前方にプリズム部30を配置することで、光学素子10から照射される0次光T1と-1次光T2を適切な位置に投影して投影画像V1,V2を表示することが可能となる。
【0047】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について
図5~
図7を用いて説明する。第2実施形態と重複する内容は説明を省略する。本実施形態では、光学素子10とライトガイド部20の間で光学的な結合をするための他の構造例を説明する。
図5は、本実施形態における光学素子10とライトガイド部20の配置例を示す模式図である。
【0048】
図5(a)に示す例では、光学素子10の端面に光出射部14(第1光出射部14a、第2光出射部14b)が設けられており、ライトガイド部20の端面に光入射部21が設けられている。また、ライトガイド部20の厚さ方向における略中央の位置で、光出射部14と光入射部21とが対向して配置されている。
【0049】
図5(b)に示す例では、光学素子10の端面に光出射部14が設けられており、ライトガイド部20の端面に光入射部21が設けられている。また、ライトガイド部20の表面または裏面に近い位置で、光出射部14と光入射部21とが対向して配置されている。
【0050】
図5(c)に示す例では、光学素子10の主面に光出射部14が設けられており、ライトガイド部20の表面または裏面に光入射部21が設けられており、光出射部14と光入射部21が対向して配置されている。
【0051】
図6は、光学素子10の主面にライトガイド部20の表面または裏面を対向させた場合の光取り出しを説明する模式図である。
図6(a)は、光学素子10の主面全体を覆ってライトガイド部20が配置された例を示し、
図6(b)は、回折格子部11が設けられた領域を除いて延伸部13(第1延伸部13a、第2延伸部13b)にのみライトガイド部20が配置された例を示している。また、
図6(a)では光学素子10の光出射部14とライトガイド部20の光入射部21との間には間隙24が設けられた例を示しており、
図6(b)では、間隙24に屈折率調整層25が形成された例を示している。
【0052】
ここで間隙24としては、延伸部13内を伝搬してきた光が、光出射部14で全反射せずに導波部22に伝搬するように、光学的に結合されうる距離とすることが好ましい。具体的には、例えば100λμm以下の距離とすることが好ましい。また、屈折率調整層25としては、延伸部13および導波部22を構成する材料と屈折率が近い材料を用いることが好ましく、例えば両者との屈折率差が0.26以下であることが好ましい。屈折率調整層25としては例えば屈折率1.52の接触液を用いることができる。また、延伸部13と導波部22とが光学的に結合せず、延伸部13と空気層との界面で光を全反射させる距離の間隙24を設け、光出射部14および光入射部21との間にのみ屈折率調整層25を設けるとしてもよい。
【0053】
図6(a)(b)に示したように、回折格子部11に照射された入射光Linは、回折格子部11で回折されて0次光T1と-1次光T2が出射し、+1次光I1と-2次光I2が延伸部13内を全反射して伝搬する。回折光の出射角度は、入射光Linの波長、入射位置、入射角度および回折格子部11の光学設計によって決まるため、導光板部12の厚さと延伸部13の長さを適切に設定することで、光出射部14の位置を決めることができる。
【0054】
光出射部14まで到達した光は、間隙24または屈折率調整層25を介して対向配置された光入射部21から導波部22内に伝搬する。導波部22内に入射した光は全反射しながらライトガイド部20を伝搬して光出射部23まで到達し、外部に照射される。ここで、光出射部14から光入射部21に入射する光は、前述したように入射光Linの波長、入射位置、入射角度および回折格子部11の光学設計によって、光出射位置および光出射角度が決まる。したがって、ライトガイド部20の厚さや形状、長さを適切に設定することで、光出射部23に光を到達させることができる。
【0055】
図6では光学素子10の主面のうち、回折格子部11が設けられていない表面側に光出射部14を設けた例を示したが、回折格子部が設けられた裏面側に光出射部14を設けるとしてもよい。その場合には、ライトガイド部20の表面側に光入射部21を設け、光学素子10をライトガイド部20の表面側に対向して配置する。
【0056】
図7は、光学素子10の端面にライトガイド部20の端面を対向させた場合の光取り出しを説明する模式図である。
図7(a)に示す例では、ライトガイド部20の厚さ方向における略中央の位置で、光出射部14と光入射部21とが対向して配置されている。
図7(b)に示す例では、ライトガイド部20の表面または裏面に近い位置で、光出射部14と光入射部21とが対向して配置されている。
図7(c)に示す例では、光学素子10の端面とライトガイド部20の端面における一部が傾斜して形成されており、それぞれの傾斜面が光出射部14と光入射部21として対向配置されている。
図7(a)~
図7(c)では、光出射部14と光入射部21の間に屈折率調整層25が設けられた例を示したが、両者の間に間隙24を設けて空気層を介在させるとしてもよい。
【0057】
図7に示した例でも、回折光の出射角度は、入射光Linの波長、入射位置、入射角度および回折格子部11の光学設計によって決まるため、導光板部12の厚さと延伸部13の長さを適切に設定することで、光出射部14の位置を決めることができる。また、ライトガイド部20の厚さや形状、長さを適切に設定することで、光出射部23に光を到達させることができる。
【0058】
本実施形態の光学素子10では、光出射部14(第1光出射部14a、第2光出射部14b)を平坦な面で構成しているため、ライトガイド部20の光入射部21を平坦な面で構成して対向させるだけで、内部を伝搬する光の結合を行うことができる。これにより光学素子10では、簡便な構造により回折格子部11での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化も容易となる。
【0059】
また、延伸部13(第1延伸部13a、第2延伸部13b)の表面、裏面または端面に光出射部14を設けることで、特別な加工を必要とせず導光板部12を略平板状の部材をそのまま用いることができる。また、延伸部13の端面を傾斜面として、傾斜面に光出射部14を設けることで、延伸部13内を全反射して伝搬してきた光が、光出射部14において全反射条件を満たさず、良好に光入射部21に対して光を伝搬することができる。
【0060】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について
図8~
図13を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図8は、本実施形態において、回折格子部11での光の回折と進行について説明する図であり、
図8(a)は模式断面図であり、
図8(b)は模式斜視図であり、
図8(c)は赤色光を入射させた場合の電場Ey分布を示すグラフであり、
図8(d)は緑色光を入射させた場合の電場Ey分布を示すグラフである。
図8(a)において紙面に垂直な方向をx軸とし、紙面右方向をy軸とし、紙面上方向をz軸としている。
図8(b)中に示したx軸y軸z軸は
図8(a)と同じ方向を示している。
【0061】
図8(a)(b)に示したように、回折格子部11は全体の厚さhのTiO
2からなり、主面に対して斜め方向に凹部を形成することでスランテッドグレーティングが形成されている。回折格子部11上には凸部16および凹部を覆ってSiO
2からなる導光板部12が形成されている(図示省略)。凸部16は高さがd、幅がW、ピッチがΛであり、-y方向に角度φだけ傾斜して形成されている。入射光Linは、x軸方向に偏光しており、回折格子部11の裏面に対して垂直から-y方向に角度Θだけ傾斜した方向から入射される。
【0062】
図8(c)(d)は、それぞれ入射光Linの波長を赤色の632.8nmと、緑色の532nmとして、有限差分時間領域FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて電場Ey分布をシミュレーションした結果を示している。図中横軸は凸部16と凹部が周期的に並ぶy軸方向の位置を示し、図中に示した縦に伸びる破線は入射光Linの光径の外周位置を示している。図中縦軸は高さ方向であるz軸方向の位置を示し、原点は回折格子部11の裏面を示している。また、図中に白抜きでグレーティング形状を示しており、図中の濃淡は電場分布を示している。
【0063】
シミュレーション条件としては回折格子部11の屈折率を2.52とし、導光板部12の屈折率を1.54とし、空気の屈折率を1.00とした。また、凸部16と凹部のピッチΛは704nmとし、凸部16の幅Wを230nmとし、凸部16の高さdを210nmとし、回折格子部11全体の厚さhを1.0μmとした。また、入射光Linを直径10μmの発散角6.12度とした。スランテッドグレーティングの傾斜角度φは55度に設定した。また、入射光Linの回折格子部11裏面への入射角度Θは23度とした。
【0064】
図8(c)(d)の上段に示したグラフは、入射光Linの入射位置よりも左側を示しており、入射光Linの入射位置よりも-y方向に進行する光を示している。
図8(c)(d)の下段に示したグラフは、入射光Linの入射位置よりも右側を示しており、入射光Linの入射位置よりも+y方向に進行する光を示している。図中に示した矢印は、光学素子10の内部における光の伝搬ベクトルである。
【0065】
図8(c)(d)に示すように、回折格子部11の内部では、入射光Linの入射位置よりも後方に対して進行する光と、前方に対して漏れ伝搬光として進行する光が存在する。また、スランテッドグレーティングで回折された光は導光板部12内で0次光T1、-1次光T2、+1次光I1および-2次光I2として進行する。
【0066】
次に、上述した回折格子部11を備える光学素子10を用意し、入射光Linを照射して+1次光I1および-2次光I2の検出する実験を行った。
図9は、+1次光I1および-2次光I2を検出するための実験装置の概要を示す模式図である。光源として、緑色レーザ(波長532nmの連続光)、波長可変レーザ(波長852.3±15nmの連続光)、赤色レーザ(波長632.8nmの連続光)を用意した。
【0067】
3つの光源の光路上に、それぞれミラーM1、フリップミラーFM1,FM2を配置し、同一光路でミラーM2に光を到達させる。ミラーM2で反射された光は、半波長板HWP、偏光子P、アパチャーAP、レンズを経てミラーM3に到達する。ミラーM3は回転ステージ上に配置されており、回転ステージの回転に伴って光路に対する角度を可変とされている。また、光学素子10は二重回転ステージ上に配置されており、二重回転ステージは移動ステージ上に配置されている。ミラーM3に到達した光は、反射されて光学素子10の回折格子部11に入射し、導光板部12内を全反射されて第1光出射部14aと第2光出射部14bから、それぞれ+1次光I1および-2次光I2が出射される。
【0068】
回転ステージを回転させてミラーM3への光の入射角度を変化させると、ミラーM3での反射光が到達する位置は変化するが、移動ステージ上の二重回転ステージを図中上下方向に移動させることで、回折格子部11に反射光を入射させることができる。また、二重回転ステージを回転させることで、ミラーM3からの反射光が回折格子部11に入射する角度Θを変更することができる。したがって、+1次光I1および-2次光I2の出射方向に受光装置を配置することで、回折格子部11への入射光Linの入射角度Θと、+1次光I1および-2次光I2の出射光強度の関係を測定することができる。
【0069】
図10は、光学素子10への入射光Linを角度Θで入射させた場合の+1次光I1および-2次光I2の出射を模式的に示す斜視図である。入射光Linが入射した回折格子部11には発光が生じ、第1延伸部13aおよび第2延伸部13bには内部全反射(TIR:Total internal reflection)の輝点が生じる。第1延伸部13aおよび第2延伸部13bの端部に設けられた第1光出射部14aおよび第2光出射部14bからは、+1次光I1および-2次光I2が外部に照射される。また、回折格子部11が設けられた領域では、光学素子10の主面から0次光T1と-1次光T2が照射される。
【0070】
図11は、光学素子10の断面SEM写真である。図中下方の領域は空気層であり、TiO
2で構成された回折格子部11と、回折格子部11を覆って形成されたSiO
2からなる導光板部12が積層されている。図中に示したように、紙面に垂直方向がx軸方向であり、図中右方向がy軸方向であり、図中上方向がz軸方向である。空気層中に描かれた矢印は入射光Linの入射位置と反射光Rを模式的に示している。回折格子部11内に示された実線の矢印は、スランテッドグレーティングで回折される入射光Linの光路を示しており、破線で示された矢印は漏れ伝搬光を模式的に示している。導光板部12内に示された矢印はそれぞれ、回折格子部11で回折された0次光T1、-1次光T2、+1次光I1および-2次光I2の進行方向を示している。
【0071】
図11に示したように、入射光Linの入射角度Θ=23度の場合には、0次光T1は31度方向に回折され、-1次光T2は-12度方向に回折され、+1次光I1は56度方向に回折され、-2次光I2は-56度方向に回折される。導光板部12と空気層との屈折率から、導光板部12での全反射条件は42.7度であり、+1次光I1と-2次光I2は全反射条件を満たしている。
【0072】
図12は、
図9に示した装置として赤色レーザを光源として用いて測定した、入射光Linの入射角度Θと光学素子10からの出射光強度の関係を示したグラフである。丸印でプロットした線は、+1次光I1の出射光強度を示している。三角印でプロットした線は、-2次光I2の出射光強度を示している。大きい四角印でプロットした線は、0次光T1と-1次光T2の合計の出射光強度を示している。小さい四角印でプロットした線は、反射光Rの出射光強度を示している。
【0073】
図12に示したように、22度≦Θ≦27度の範囲で+1次光I1が観測され、23度≦Θ≦25度の範囲で最大の出射光強度が得られた。また、23度≦Θ≦25度および35度≦Θ≦37.5度の範囲で-2次光I2が観測され、23度≦Θ≦25度の範囲で最大の出射光強度が得られた。したがって、光源部が照射する光が赤色の場合には、入射光Linの入射角度Θを20度以上30度以下の範囲とすることで、第1光出射部14aから+1次光I1を出射することができる。また、入射角度Θを23度以上25度以下の範囲とすることで、第1光出射部14aからの+1次光I1と、第2光出射部14bからの-2次光I2を同時に出射することができる。また、入射角度Θを35度以上37.5度以下の範囲とすることで、第2光出射部14bからだけ-2次光I2を選択的に出射することができる。
【0074】
光源部が照射する光が緑色の場合には、入射光Linの入射角度Θは、15.0度以上30.0度以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは17.0度以上18.0度以下の範囲である。
【0075】
光源部が照射する光が青色の場合には、入射光Linの入射角度Θは、0度以上11.0度以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは5.0度以上6.0度以下の範囲である。
【0076】
図13は、
図9に示した装置での実験を示す写真であり、
図13(a)は照明を点灯した状態での赤色光の照射を示し、
図13(b)は照明を消灯した状態での赤色光の照射を示し、
図13(c)は照明を点灯した状態での緑色光の照射を示し、
図13(d)は照明を消灯した状態での緑色光の照射を示している。
【0077】
図13(a)(b)に示したように、赤色光をΘ=23度から照射した際には+1次光I1と-2次光I2が同時に出射され、出射方向は光学素子10の主面に垂直な方向から25度から37度の方向である。また、入射光Linの光強度を100%とすると、+1次光I1の光強度は23.0%であり、-2次光I2の光強度は19.0%であった。
【0078】
図13(c)(d)に示したように、緑色光をΘ=17.5度から照射した際には+1次光I1と-2次光I2が同時に出射され、出射方向は光学素子10の主面に垂直な方向から20度から38度の方向であった。また、入射光Linの光強度を100%とすると、+1次光I1の光強度は10.0%であり、-2次光I2の光強度は20.0%であった。ここで、
図13(c)(d)に示した実験例では、-2次光I2の出射方向が光学素子10の光入射面側となっている。しかし、第2延伸部13bの長さを適切に設定して全反射の回数を+1次光I1と同じにすることで、+1次光I1と同じ面側に出射させることができる。
【0079】
同様に青色光をΘ=5.5度から照射した際には、+1次光I1と-2次光I2が同時に出射される。また、入射光Linの光強度を100%とすると、+1次光I1と-2次光I2の光強度は赤色光および緑色光と同様の値となる。
【0080】
上述したように、本実施形態の光学素子10でも、簡便な構造により回折格子部11での回折光を導波して外部に光を照射でき、小型化が容易となる。また、入射光Linの入射角度Θを適切な範囲に設定することで、第1光出射部14aからの+1次光I1の出射と、第2光出射部14bからの-2次光I2の出射を選択することができる。
【0081】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について
図14~
図17を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図14は、光学素子10から出射される+1次光I1による遠視野像を観測するための実験装置の概要を示す模式図である。
【0082】
図14(a)に示したように、光源として緑色レーザ、波長可変レーザ、赤色レーザを用意した。3つの光源の光路上に、それぞれミラーM1、フリップミラーFM1,FM2を配置し、同一光路で複数枚のレンズおよびテストターゲットを経て、ミラーM2に光を到達させる。ミラーM2で反射された光は、半波長板HWP、偏光子P、アパチャーAPを経てミラーM3に到達する。ミラーM3に到達した光は、反射されてレンズを介して光学素子10の回折格子部11に入射し、導光板部12内を全反射されて第1光出射部14aから+1次光I1が出射される。+1次光I1の光路上にスクリーンを置き、第1光出射部14aからの距離100mm、150mm、200mmの位置での遠視野像を観察した。
【0083】
図14(b)はレンズとミラーM2の間に配置したテストターゲットの構造を示している。テストターゲットは、透明板に光を遮るための黒色のパターンが形成された部材であり、照射された光のうちパターンが形成された領域は遮られ、パターンが形成されていない領域では光が透過する。
図14(b)中に描いた円形が、光源部から照射された光の光径を示しており、円内に配置されたパターンで光が遮られるため、光学素子10に入射される光の形状は、円の中央に四角い非照射領域が設けられたものとなる。
【0084】
図15は、
図14に示した装置での実験を示す写真であり、
図15(a)~(c)は赤色光を入射した場合を示し、
図15(d)~(f)は緑色光を入射した場合を示している。
図15(a)(d)は100mm位置での観測であり、
図15(b)(e)は150mm位置での観測であり、
図15(c)(f)は200mm位置での観測である。また、
図15(a)(d)内に示した拡大図は、
図14におけるミラーM3とレンズの間の位置での入射光Linの形状を示している。
【0085】
図中に破線で示した矢印は、入射光Linと+1次光I1の光路を表しており、矢印の先に置いたスクリーン上に遠視野像が観測されている。
図15(a)~(f)の何れにおいても、光が照射された領域の略中央に矩形上の非照射領域が形成されている。したがって、本実施形態の光学素子10では、入射光Linでの形状が反映された遠視野像を形成することが確認できる。
【0086】
図16は、
図14に示した装置での、テストターゲットを横方向に移動した場合の遠視野像の観測結果を示す図である。
図16(a)は、テストターゲット(T.T.)の移動方向と遠視野像の観測を示す模式図である。スクリーン位置は100mmとしている。テストターゲットは
図14(b)に示したものを用いている。
【0087】
図16(b)~(g)は、スクリーン上で観測された遠視野像を示す写真であり、
図16(b)~(d)は赤色光を入射した場合を示し、
図16(e)~(g)は緑色光を入射した場合を示している。また、テストターゲットの移動量は、
図16(b)(e)では+10mmであり、
図16(c)(f)では0mmであり、
図16(d)(g)では-10mmである。図中に示した破線の矢印は、テストターゲットでの矩形パターンの一辺の位置を示している。
図16(b)~(g)に示したように、テストターゲットを横方向に移動するに伴い、スクリーン上に投影された遠視野像も移動することが確認できる。
【0088】
図16(h)(i)は、遠視野像における光強度分布を示すグラフであり、
図16(h)は赤色の場合を示し、
図16(i)は緑色の場合を示している。グラフ中で最も濃い線が+10mm移動を示し、最も薄い線が0mm移動を示し、中程度の濃さの線が-10mm移動を示している。横軸はスクリーン上での横方向の位置を示しており、5mm近傍におけるグラフの落ち込みは矩形状のパターンによって光が遮られた非照射領域に対応している。
図16(h)(i)に示したように、テストパターンの移動に伴って非照射領域が移動していることが確認できる。
【0089】
図17は、投影距離による投影画像の変形について説明する図であり、
図17(a)は光学素子10に入射光Linが集光して照射された場合の回折角度の分布について説明する模式図であり、
図17(b)は遠視野像の変化を示す模式図である。
【0090】
図17(a)に示すように、レンズによって集光された入射光Linは、回折格子部11に到達する際の入射角度が照射領域によって異なる。したがって、回折格子部11のスランテッドグレーティングによる回折光の進行方向は、回折格子部11の面内位置によって異なり、導光板部12内を全反射(TIR)で伝搬する経路も異なる。これにより+1次光I1と-2次光I2は、
図17(b)に示したように、投影距離が100mmのとき、一軸方向に拡大されたものとなる。投影距離が長くなることによってイメージは更に一軸方向に拡大されている。したがって、投影距離に応じて予め画像の形状を一軸方向に圧縮したものを用いることや、光の出射側に一軸方向の拡大を補正するレンズを配置することで、投影距離による拡大変形を抑制して縦横比が同じ画像を投影することができる。
【0091】
上述したように、本実施形態の光学素子10では、入射光Linの画像形状が反映された投影画像を遠視野像として投影可能である。また、画像の移動に伴って遠視野像の投影位置を変化させることもできる。また、投影距離に応じて投影画像が一軸方向に拡大されるため、距離に応じて画像を一軸方向に圧縮することで、投影画像の縦横比を一定に保つことができる。
【0092】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
100…画像投影装置
10…光学素子
20…ライトガイド部
30…プリズム部
40…投影板部
11…回折格子部
12…導光板部
13…延伸部
13a…第1延伸部
13b…第2延伸部
14…光出射部
14a…第1光出射部
14b…第2光出射部
15…板状部
16…凸部
21…光入射部
22…導波部
23…光出射部
24…間隙
25…屈折率調整層