(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置および工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/013 20060101AFI20240430BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20240430BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B23Q15/013
G05B19/4093 M
G05B19/404 E
(21)【出願番号】P 2020101000
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宮 一彦
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-181100(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073907(WO,A1)
【文献】特開2018-83257(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 - 15/28
G05B 19/18 - 19/46
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持するワーク保持手段と、前記ワークを切削加工する切削工具を保持する刃物台と、前記ワーク保持手段と前記刃物台との相対移動によって前記ワークに対して前記切削工具を所定の加工送り方向に送り動作させる送り手段と、前記切削工具が前記加工送り方向に沿って往復移動しながら所定の送り量で前記加工送り方向に送られるように、前記ワーク保持手段と前記刃物台とを相対的に振動させる振動手段と、前記ワークと前記切削工具を相対的に回転させる回転手段と、を備えた工作機械に設けられ、
前記ワークと前記切削工具との相対的な回転動作と、前記ワークに対する前記切削工具の前記加工送り方向への前記振動を伴う送り動作とによって、前記切削工具に前記ワークの振動切削加工を実行させる工作機械の制御装置であって、
前記振動手段による前記振動の振幅量を、送り量に対する振幅量の比率および前記送り量から求めて設定する振幅設定手段と、
前記振動切削加工を実行する際に前記送り量に応じて前記送り量に対する振幅量の比率を補正する振幅送り比率補正手段、あるいは前記振動切削加工を実行する際に前記送り量に対する振幅量の比率に応じて前記送り量を補正する送り量補正手段と、を有する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記工作機械の振動を検出する振動センサを備え、前記振幅送り比率補正手段が、前記振動センサの検出値に基づいて前記送り量に対する振幅量の比率を補正する、あるいは前記送り量補正手段が、前記振動センサの検出値に基づいて前記送り量を補正する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の工作機械の制御装置を備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを保持するワーク保持手段と、ワークを切削加工する切削工具を保持する刃物台と、ワーク保持手段と刃物台との相対移動によってワークに対して切削工具を所定の加工送り方向に送り動作させる送り手段と、切削工具が加工送り方向に沿って往復移動しながら加工送り方向に送られるように、ワーク保持手段と刃物台とを相対的に振動させる振動手段と、ワークと切削工具を相対的に回転させる回転手段と、を備え、ワークと切削工具との相対的な回転動作と、ワークに対する切削工具の加工送り方向への振動を伴う送り動作とによって、切削工具にワークの振動切削加工を実行させる工作機械が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワーク保持手段や刃物台を工作機械のベッド上に設置し、所定の加工条件に設定して振動切削加工を行うと、条件によっては工作機械(ベッド全体)に加工精度を低下させる切削時の機械振動が生じる場合がある。このため、工作機械の切削時の機械振動を低減しつつ、振動切削加工を行うための工夫が望まれる。
【0005】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、工作機械の切削時の機械振動を低減しつつ、振動切削加工を行うことができる工作機械の制御装置および工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1に、ワークを保持するワーク保持手段と、前記ワークを切削加工する切削工具を保持する刃物台と、前記ワーク保持手段と前記刃物台との相対移動によって前記ワークに対して前記切削工具を所定の加工送り方向に送り動作させる送り手段と、前記切削工具が前記加工送り方向に沿って往復移動しながら所定の送り量で前記加工送り方向に送られるように、前記ワーク保持手段と前記刃物台とを相対的に振動させる振動手段と、前記ワークと前記切削工具を相対的に回転させる回転手段と、を備えた工作機械に設けられ、前記ワークと前記切削工具との相対的な回転動作と、前記ワークに対する前記切削工具の前記加工送り方向への前記振動を伴う送り動作とによって、前記切削工具に前記ワークの振動切削加工を実行させる工作機械の制御装置であって、前記振動手段による前記振動の振幅量を、送り量に対する振幅量の比率および前記送り量から求めて設定する振幅設定手段と、前記振動切削加工を実行する際に前記送り量に応じて前記送り量に対する振幅量の比率を補正する振幅送り比率補正手段、あるいは前記振動切削加工を実行する際に前記送り量に対する振幅量の比率に応じて前記送り量を補正する送り量補正手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
第2に、前記工作機械の振動を検出する振動センサを備え、前記振幅送り比率補正手段が、前記振動センサの検出値に基づいて前記送り量に対する振幅量の比率を補正する、あるいは前記送り量補正手段が、前記振動センサの検出値に基づいて前記送り量を補正することを特徴とする。
第3に、上記の工作機械の制御装置を備えた工作機械であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以下の効果を得ることができる。
工作機械の切削時の機械振動を低減するように加工条件の補正を行うことにより、加工精度の安定化や振動切削加工の加工時間を短くすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例による工作機械の概略を示す図である。
【
図3】切削工具の往復移動および位置を説明する図である。
【
図4】主軸のn回転目、n+1回転目、n+2回転目の刃先経路を示す図である。
【
図5A】振幅送り比率の補正を含む動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の工作機械の制御装置および工作機械について説明する。
図1に示すように、工作機械100は、主軸110と、ワークWを加工するバイト等の切削工具130と、制御装置180とを備えている。
主軸110の先端にはチャック120が設けられており、ワークWはチャック120を介して主軸110に保持されている。主軸110は、主軸台110Aに回転自在に支持され、例えば主軸台110Aと主軸110との間に設けられた主軸モータ(例えばビルトインモータ)の動力によって回転する。主軸台110AはZ軸方向送り機構160に設置されている。
【0011】
Z軸方向送り機構160は、ベッドと一体のベース161と、Z軸方向送りテーブル163をスライド自在に支持するZ軸方向ガイドレール162とを備えている。Z軸方向送りテーブル163が、リニアサーボモータ165の駆動によって、ワークWの回転軸線方向に一致する図示のZ軸方向に沿って移動すると、主軸台110AがZ軸方向に移動する。リニアサーボモータ165は可動子165aおよび固定子165bを有し、可動子165aはZ軸方向送りテーブル163に設けられ、固定子165bはベース161に設けられている。
【0012】
切削工具130は刃物台130Aに装着され、刃物台130Aは、X軸方向送り機構150に設置される。
X軸方向送り機構150は、ベッドと一体のベース151と、X軸方向送りテーブル153をスライド自在に支持するX軸方向ガイドレール152とを備えている。X軸方向送りテーブル153が、リニアサーボモータ155の駆動によって図示のZ軸方向に対して直交するX軸方向に沿って移動すると、刃物台130AがX軸方向に移動する。リニアサーボモータ155は可動子155aおよび固定子155bを有し、可動子155aはX軸方向送りテーブル153に設けられ、固定子155bはベース151に設けられている。
【0013】
Y軸方向送り機構を工作機械100に設けてもよい。Y軸方向は図示のZ軸方向およびX軸方向に直交する方向である。Y軸方向送り機構は、Z軸方向送り機構160やX軸方向送り機構150と同様の構造とすることができる。従来公知のようにX軸方向送り機構150とY軸方向送り機構の組み合わせにより、切削工具130をX軸方向に加えてY軸方向にも移動させることができる。
【0014】
Z軸方向送り機構160、X軸方向送り機構150、Y軸方向送り機構は、リニアサーボモータを用いた例を挙げて説明したが、公知のボールネジとサーボモータを用いた構造としてもよい。
主軸110の回転、および、Z軸方向送り機構160等の移動は、制御装置180で制御される。
【0015】
図2に示すように、制御装置180は、制御部181、入力部182、記憶部183を有し、これらはバスを介して接続される。
制御部181は、CPU等からなり、記憶部183の例えばROMに格納されている各種のプログラムやデータをRAMにロードし、このプログラムを実行する。これにより、プログラムに基づいて工作機械100の動作を制御できる。
【0016】
制御部181は、主軸110の回転やZ軸方向送り機構160等の送りを制御可能であり、各モータの作動を制御するモータ制御部190を有する。
図1では、制御装置180は、例えば、主軸モータを駆動して主軸110に保持されたワークWを切削工具130に対して回転させ、例えば、Z軸方向送り機構160を駆動してワークWを切削工具130に対してZ軸方向に移動させて、切削工具130でワークWを振動切削加工している。このため、主軸モータが本発明の回転手段に、主軸110が本発明のワーク保持手段に、Z軸方向送り機構が本発明の送り手段や振動手段にそれぞれ相当する。
【0017】
制御装置180は、
図3に示すように、切削工具130をワークWに対し、例えば
図1に示したZ軸の負方向(
図1に示す右向きの矢印とは反対方向)に向けて所定の前進量で移動(往動)させた後、Z軸の正方向(
図1に示す右向きの矢印方向)に向けて所定の後退量で移動(復動)させるようにZ軸方向送り機構160を駆動する。制御部181は、Z軸方向送り機構160の駆動による主軸台110Aの移動によって切削工具130を往復移動で振動させながら、切削工具130を前進量と後退量との差(進行量)だけワークWに対してZ軸方向に送ることができる。切削工具130によってワークWの外周を切削すると、主軸110の位相に応じて、ワークWの周面は波状に加工される。
【0018】
ワークWの1回転分となる、主軸位相0°から360°まで変化する間の2回転分の半分が切削工具130の送り量Fになる。ワークWの1回転における切削工具130の往復移動の回数を振動回数Dとした場合、
図4は、振動回数Dが1.5(回/r)の例を示す。主軸110(ワークW)のn回転目における切削工具130の移動経路(n回転目の刃先経路:
図4に実線で示す)において、波形状の谷を通過する仮想線(1点鎖線の直線)が送り量を示す送りの直線となり、この送りの直線における主軸位相360°の位置がワークWの1回転あたりの送り量Fに相当する。
【0019】
つまり、切削工具130は、振動が1回完了する度に上記送りの直線上に到達し、この送りの直線上で復動から往動に切り替わっており、この例の切削工具130は、ワークWの1回転で1.5回、言い換えると、ワークWの2回転で3回振動するように、ワークWに対して送られている。
振動回数Dは、この1.5(回/r)のように整数ではないため、n回転目の刃先経路(
図4に実線で示す)とn+1回転目の刃先経路(
図4に破線で示す)とが、主軸位相方向(
図4のグラフの横軸方向)でずれ、n+1回転目の刃先経路とn回転目の刃先経路とは重複が発生する。
【0020】
n+1回転目の刃先経路がn回転目の刃先経路に含まれる刃先経路の重複範囲は、既にn回転目に切削済みであるため、切削工具130とワークWがZ軸方向で接触せず、切削工具130がワークWを実質上切削しない空振り期間になり、ワークWに生じた切屑が分断されて切粉になる。これにより、切屑を分断しながらワークWを円滑に加工することができる。
【0021】
図4の例のように、n回転目の刃先経路とn+1回転目の刃先経路が180°反転し、n+1回転目の刃先経路とn+2回転目の刃先経路(
図4に1点鎖線で示す)も180°反転していると、切屑が最も分断し易くなる。
切屑を分断するための空振り期間を得るためには、例えば、n回転目の刃先経路とn+1回転目の刃先経路が一致(同位相)しなければよく、n回転目の刃先経路とn+1回転目の刃先経路が主軸位相方向でずれていればよい。
【0022】
ただし、振動波形の振幅の大きさ(振幅量)を一定に維持したまま送り量Fを増やした場合、n+1回転目の刃先経路がn回転目の刃先経路に含まれる刃先経路の重複範囲は減少する。そして、n+1回転目の刃先経路がn回転目の刃先経路に到達しない場合には、空振り期間が生じなくなる。
つまり、n+1回転目の刃先経路がn回転目の刃先経路に含まれる刃先経路の重複範囲は、振動の振幅量Aと送り量Fに応じて変化するため、制御部181は、空振り期間ができるだけ得られるように、送り量Fに比例して振幅量Aを設定するように構成されている。具体的には、振幅量Aは、振幅送り比率(本発明の「送り量に対する振幅量の比率」に相当する)Qを送り量Fに乗じて設定される(A=Q*F)。
【0023】
振動切削加工の刃先経路を作成するに際しては、加工プログラムあるいは入力部182での指定等により、主軸回転数S、振動回数D、送り量Fや振幅送り比率Qなどの加工条件のパラメータを決定する。振幅送り比率Qや振動回数Dについては、例えば加工プログラムあるいは入力部182で、Qに続く値(引数Q)やDに続く値(引数D)として指定することができる。
【0024】
制御部181は、振幅設定部(本発明の振幅設定手段に相当する)191、振幅送り比率補正部(本発明の振幅送り比率補正手段に相当する)192を有する。振幅設定部191は、刃先経路を作成する際におけるZ軸方向送り機構160によるZ軸方向への振動の振幅量Aを、振幅送り比率Qおよび送り量Fの積(Q*F)から求めて設定するように構成されている。また、振幅送り比率補正部192は、振動切削加工を実行するにあたり、指定された送り量Fに応じて振幅送り比率Qを自動的に補正するように構成されている。
なお、制御部181は、送り量補正部(本発明の送り量補正手段に相当する)193を有してもよい。例えば、切屑を容易に分断するために振幅送り比率Qを先に決めた場合、送り量補正部193は、振動切削加工を実行するにあたり、指定された振幅送り比率Qに応じて送り量Fを自動的に補正するように構成されている。
【0025】
ワークWに対する切削工具130の往復移動は、所定の指令周期Tに基づく振動周波数fで実行される。
【0026】
指令周期Tが例えば基準周期4(msec)の4倍の16(msec)である場合、モータ制御部190は、切削工具130がワークWに対して16(msec)毎に往復移動を実行するように、Z軸方向送り機構160に駆動信号を出力する。この場合、切削工具130は振動周波数f=1/T=1÷(0.004×4)=62.5(Hz)で往復移動を行える。
【0027】
なお、振動回数Dが上記のような1.5(回/r)の場合、振動周波数fを55.6(Hz)に選択すると、主軸回転数Sは2222(r/min)に、振動周波数fを62.5(Hz)に選択すると、主軸回転数Sは2500(r/min)に、振動周波数fを71.4(Hz)に選択すると、主軸回転数Sは2857(r/min)になる。工作機械100では、振動周波数fが大きくなるに連れて工作機械100の切削時の機械振動となるベッド全体の揺れが大きくなる。
【0028】
作業者が例えば入力部182で、主軸回転数S(例えば2500(r/min))を入力すると(
図5AのステップS10)、制御部181が、ワークWの振動切削加工で使用可能な主軸回転数の最大値Smax以下であるか否かを判定する(ステップS11)。入力した主軸回転数Sが主軸回転数の最大値Smax以下である場合(ステップS11のYES)、振動回数D、振幅送り比率Q、送り量Fなど加工条件の別のパラメータを指定する。
【0029】
まず、作業者が振動回数D(例えば1.5(回/r))を入力する(ステップS12)。振動周波数f=S*D/60であるので、主軸回転数S、振動回数Dを指定すると、振動周波数f(62.5(Hz))が決定する。
次に、作業者が、振幅送り比率Q(例えば1.3(-:無次元))を入力し(ステップS13)、続いて、送り量F(例えば0.06(mm))を入力すると(ステップS14)、振幅設定部191が振幅量Aを求めるので振幅量A(0.08(mm))が決定する。
【0030】
なお、工作機械100において、ワーク長L(mm)、加工時間T(sec)とすると、加工時間T=L*60/(F*S)で求められる。つまり、加工時間Tは、ワーク長Lに比例し、送り量Fや主軸回転数Sに反比例する。
【0031】
次いで、制御部181は、例えば、組み合わせテーブルの振幅量を参照して、決定した振幅量Aが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS15)。組み合わせテーブルは、振幅量Aと機械振動との対応関係を示したものであり、記憶部183に予め記憶されている。詳しくは、
図5Bに示すように、例えば、主軸回転数Sが2500(r/min)、振動回数Dが1.5(回/r)の場合に、機械振動を抑制できる振幅量Aについて、振幅送り比率Qや送り量Fと組み合わせて示されている。
【0032】
より具体的には、機械振動は切削速度に比例し、この切削速度は振幅量Aに比例する。上記のように振幅送り比率Qを1.3、送り量Fを0.06に指定して振幅量Aが0.08となった場合、組み合わせテーブルでは、機械振動を抑制可能とされている(
図5BにOKで示す)。つまり、振幅量Aが許容範囲内であるので(
図5AのステップS15のYES)、加工条件のパラメータ(S,D,F,Q)が決定する(ステップS16)。これにより、制御装置180がワークWの加工を開始させると、モータ制御部190は、主軸回転数SでワークWを回転させるとともに、Z軸方向送り機構160に動作指令を出力して、切削工具130をワークWに対して往復移動させる。
【0033】
一方、上記ステップS13において、作業者が振幅送り比率Q(例えば2.0(-))を入力し、ステップS14において送り量F(例えば0.06(mm))を入力すると、振幅量A(0.12(mm))が決定する。この振幅送り比率Qを2.0、送り量Fを0.06に指定して振幅量Aが0.12となった場合、組み合わせテーブルでは、機械振動を抑制不可とされている(
図5BにNGで示す)。
【0034】
そこで、制御部181は、振幅量Aが許容範囲内ではないと判定する(
図5AのステップS15のNO)。この場合にはステップS17に進み、振幅送り比率補正部192が、指定された送り量Fに応じて振幅送り比率Qを補正してからステップS15に戻る。なお、送り量補正部193が、指定された振幅送り比率Qに応じて送り量Fを補正してからステップS15に戻ってもよい。あるいは、振幅送り比率補正部192が振幅送り比率Qを補正するとともに、送り量補正部193が送り量Fを補正してからステップS15に戻ることも可能である。そして、振幅量Aが許容範囲内である場合には(ステップS15のYES)、加工条件のパラメータが決定する(ステップS16)。
【0035】
より詳しくは、作業者が、振幅送り比率Qを2.0、振動回数Dを1.5、そして加工時間Tを例えば短くするために、送り量Fを0.06のような大きな値を指定した場合には、振幅送り比率補正部192が、振幅送り比率Qを、作業者指定の2.0を例えば1.3のような小さな値に補正する。
図6AにQ=2.0の刃先経路とQ=1.3の刃先経路を上下に並べて示す。このように、2回転目の刃先経路(
図6Aに破線で示す)が1回転目の刃先経路(
図6Aに実線で示す)に含まれる刃先経路の重複範囲は、振幅送り比率Qを1.3にしたときの方が2.0にしたときの刃先経路の重複範囲よりも狭くなる。しかし、振幅送り比率補正部192が振幅送り比率Qを1.3に補正することにより、振幅量Aが0.08のような小さな値になるため、ベッド全体の揺れを抑えることができる。また、送り量Fは0.06のような大きな値に設定されているので、加工時間Tを短くできる。
【0036】
あるいは、作業者が、振幅送り比率Qを2.0、振動回数Dを1.5、そして送り量Fを0.06のような大きな値を指定した場合に、振幅送り比率補正部192は振幅送り比率Qを0.5に小さくしてもよい。このときには、振幅量Aが0.03とさらに小さくなるので、ベッド全体の揺れを抑えることができる。また、送り量Fは0.06のような大きな値を設定されているため、加工時間Tを短くできる。
【0037】
ここで、振幅送り比率Qを0.5のように小さくした場合には、
図6Bに示すように、2回転目の刃先経路(
図6Bに破線で示す)が、例えば主軸位相120°の位置で1回転目の刃先経路(
図6Bに実線で示す)に含まれていないので、空振り期間が生じていない。しかし、この主軸位相120°の位置では、1回転目の刃先経路(波形状の山)と2回転目の刃先経路(波形状の谷)との間隔(Z軸方向でみた経路間の幅)が小さくなっているので、切屑を分断しながらワークWを加工することができる。
【0038】
このように、作業者が、加工時間Tを短くするために送り量Fを例えば大きな値を指定した場合にも、工作機械100では、振幅送り比率Qを例えば小さくする補正を行ってから振動切削加工を開始するので、ベッド全体の揺れを許容範囲内に収めつつ、加工時間Tを短くすることが可能になる。また、この揺れに伴う工作機械周辺への振動も抑えることができる。
【0039】
上記実施例では、組み合わせテーブルの振幅量を参照して、この振幅量Aが許容範囲内(例えば、振幅量Aの閾値を0.08に設定)であるか否かを判定する例を挙げて説明した。しかし、本発明は、この例に限定されない。
例えば、
図7は別の実施例による動作フローチャートであり、ステップS15の内容を除いて
図5で説明した動作フローチャートと同じである。そこで、
図5の例と異なる点を中心に説明すると、
図7の例では、例えば加速度センサを用いて、ベッド全体の揺れを予め測定している。
【0040】
詳しくは、作業者が主軸回転数S、振動回数D、振幅送り比率Q、送り量Fを入力すると(
図7のステップS10~S14)、制御部181が、組み合わせテーブル(図示省略)の機械振動を参照して、機械振動が許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS15)。この組み合わせテーブルも、振幅量Aと機械振動との対応関係を示したものであり、記憶部183に予め記憶されている。
【0041】
そして、制御部181が、機械振動が許容範囲内であると判定した場合(ステップS15のYES)、加工条件のパラメータが決定する(ステップS16)。これに対し、制御部181が、機械振動が許容範囲内ではないと判定した場合(ステップS15のNO)、振幅送り比率補正部192が、指定された送り量Fに応じて振幅送り比率Qを補正する(ステップS17)。なお、送り量補正部193が、指定された振幅送り比率Qに応じて送り量Fを補正してもよい。あるいは、振幅送り比率補正部192が振幅送り比率Qを補正するとともに、送り量補正部193が送り量Fを補正することも可能である。
【0042】
なお、ベッド全体で生ずる振動は、加速度センサの他、ベッドに設置した振動センサで測定する等、公知の構成を用いることができる。また、ベッド全体の揺れの他、この揺れに伴う工作機械100の騒音を測定してもよい。
【符号の説明】
【0043】
100 ・・・ 工作機械
110 ・・・ 主軸(ワーク保持手段)
110A・・・ 主軸台
120 ・・・ チャック
130 ・・・ 切削工具
130A・・・ 刃物台
150 ・・・ X軸方向送り機構
151 ・・・ ベース
152 ・・・ X軸方向ガイドレール
153 ・・・ X軸方向送りテーブル
155 ・・・ リニアサーボモータ
155a・・・ 可動子
155b・・・ 固定子
160 ・・・ Z軸方向送り機構(送り手段、振動手段)
161 ・・・ ベース
162 ・・・ Z軸方向ガイドレール
163 ・・・ Z軸方向送りテーブル
165 ・・・ リニアサーボモータ
165a・・・ 可動子
165b・・・ 固定子
180 ・・・ 制御装置
181 ・・・ 制御部
182 ・・・ 入力部
183 ・・・ 記憶部
190 ・・・ モータ制御部
191 ・・・ 振幅設定部(振幅設定手段)
192 ・・・ 振幅送り比率補正部(振幅送り比率補正手段)
193 ・・・ 送り量補正部(送り量補正手段)
A ・・・ 振幅量
D ・・・ 振動回数(主軸回転度毎)
F ・・・ 送り量(主軸回転毎)
Q ・・・ 振幅送り比率(送り量に対する振幅量の比率)
S ・・・ 主軸回転数
W ・・・ ワーク