(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】マイクロ流路デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20240430BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240430BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240430BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G01N35/08
G01N37/00 101
B81B1/00
B01J19/00 321
(21)【出願番号】P 2020130485
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019156719
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】松川 顕久
(72)【発明者】
【氏名】山本 毅
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 啓司
(72)【発明者】
【氏名】深津 慎
(72)【発明者】
【氏名】金澤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】田中 正典
(72)【発明者】
【氏名】水澤 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】関 真範
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131257(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038897(WO,A1)
【文献】特開2006-326704(JP,A)
【文献】特開2019-070079(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133207(WO,A1)
【文献】特開2012-066518(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0070878(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
B81B 1/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材内に、
流路と流路壁とを有するマイクロ流路デバイスであって、
該流路が、該流路壁に挟まれた多孔質基材領域であって、
該流路壁が、アルケンと環状オレフィンとの共重合体である環状オレフィンコポリマーを含
むことを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記環状オレフィンが、架橋構造を有する環状オレフィンである請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
前記アルケンが、エチレンであり、
前記環状オレフィンが、ノルボルネンである請求項2に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
前記多孔質基材の空隙率が20%~90%である請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
多孔質基材内の前記流路壁が、更に可塑成分を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
前記可塑成分が、結晶性樹脂、ワックス及びオイルからなる群から選択される少なくとも1つの成分である請求項5に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項7】
前記可塑成分の貯蔵弾性率が、前記環状オレフィンコポリマーの貯蔵弾性率よりも低い材料である請求項5又は6に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項8】
前記環状オレフィンコポリマーの溶解度パラメータと前記可塑成分の溶解度パラメータとの差の絶対値が3.5以下である請求項5~7のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項9】
前
記流路の少なくとも一方の表面側部分に保護層を備える請求項1~8のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項10】
前
記流路の一方の表面側部分に保護層が形成されており、他方の表面が支持基体で覆われている請求項1~8のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項11】
前記保護層が、アルケンと環状オレフィンとの共重合体である環状オレフィンコポリマーを含む請求項9又は10に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項12】
前記流路壁に含まれる環状オレフィンコポリマーと前記保護層に含まれる環状オレフィンコポリマーとが同じ環状オレフィンコポリマーである請求項11に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項13】
前記保護層が、流路壁を形成する樹脂とは異なる疎水性の樹脂を用いて形成されている請求項9~11のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項14】
該アルケンと該環状オレフィンの含有割合が、アルケン/環状オレフィン=20/1~1/20である請求項1~13のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質基材内部にマイクロ流路を形成したマイクロ流路デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロサイズの微細流路を利用して、生化学における分析を1つのチップ内で効率的(微量、迅速、簡便)に行うことができるマイクロ流路デバイスの開発が、幅広い分野で注目されている。具体的には、生化学の研究はもとより医療、創薬、ヘルスケア、環境、食品などの各分野において注目されている。その中でも、紙をベースとしたペーパーマイクロ分析チップは、従来のデバイスと比べて軽量かつ低コストであり、又、電源も使う必要がなく、更には廃棄性も高いという利点を有する。このため、医療設備の整っていない途上国や僻地ならびに災害現場での医療活動や、感染症の広がりを水際で食い止めなければならない空港等での検査デバイスとして期待されている。又、安価でかつ取り扱いが容易なことから、自身の健康状態を管理・モニタリングできるヘルスケアデバイスとしても注目を集めている。
【0003】
1990年代前半にフォトリソグラフィ法や金型等を用いてガラスやシリコン上にミクロンサイズの微細流路を形成し、サンプルの前処理、攪拌、混合、反応、検出を1チップ上で行うマイクロ分析チップが開発された。その結果、検査システムの小型化や迅速分析、ならびに検体や試薬や廃液の低減を実現した。しかし、これらフォトリソグラフィの技術を使って作製されたマイクロ流路は非常に高い精度を持つ一方、その製造コストは非常に高くなり、又、焼却も難しいため、廃棄性が低いものとなっていた。又、検査液を流路内に送る際、シリンジポンプ等の付帯装置が必要であるため、設備が整った環境での使用に限られており、主に生化学系の研究機関にて使用されてきた。
【0004】
これらの課題に対しペーパーマイクロ分析チップは、基材として紙や布のような安価な材料を用いてかつ、材料自体の毛細血管現象を利用することで、検体や検査液を駆動させることができるため、低コストでかつ無電環境での使用が可能となる。又、持ち運び(流通)が容易で、廃棄性も高い(燃やすだけで廃棄完了)。更に装置のメンテナンスも不要であるため、誰でも(知識がない老人や子供でも)、何処でも(電源が無い場所でも場所を問わず)、簡単にPOC(point of care)による診断を低コストで実現することが可能となる。よって現在、様々な感染症や特定疾病ならびにヘルスケア(持病管理、健康管理)を対象としたペーパーマイクロ流路デバイスの研究・開発が、世界中の研究機関で進められている。
【0005】
マイクロ流路デバイスは検体や検査液として液体を使用するため、液体の流路壁への染み出し防止や高湿度環境下でのデバイス使用時の吸水による流路壁の膨潤防止のために流路を形成する材料には高い疎水性が求められる。「流路壁」とは、液体が流れる流路を規定する壁を意味する。
その他に流路材料の特性としては検体や検査液の分析を阻害しないために高い耐溶剤性を持つことが好ましく、また高機械的強度、人体安全性なども同時に求められる。
【0006】
特許文献1ではポリスチレンを流路材料として利用したマイクロ流路デバイスが提案されている。また特許文献2ではUV硬化性インク、特許文献3、特許文献4ではワックスインクを流路として利用した例が提案されている。ポリスチレンやUV硬化性インク、ワックスインクといった材料は高い疎水性を示し、十分な機械的強度、人体安全性を有する。しかし有機溶剤に対する耐溶剤性が低く、アルコール類、ケトン類、エステル類といった溶剤に対して容易に相溶してしまう。その結果、有機溶剤を含む検体、検査液を使用すると流路壁の膨潤や溶解により、流路の閉塞や決壊が発生してしまう課題があった。
これらのことから本発明は高疎水性、高機械的強度、人体安全性を備えかつ、耐溶剤性も高くより幅広い検体、検査液を使用可能な応用性の広いマイクロ流路デバイスを提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-52584号公報
【文献】特許第5935153号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/0198684号明細書
【文献】特開2015-131257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高疎水性、高機械的強度、人体安全性を備えかつ、耐溶剤性も高くより応用性の広いマイクロ流路デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、
多孔質基材内に、流路と流路壁とを有するマイクロ流路デバイスであって、
該流路が、該流路壁に挟まれた多孔質基材領域であって、
該流路壁が、アルケンと環状オレフィンとの共重合体である環状オレフィンコポリマーを含むマイクロ流路デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高疎水性、高機械的強度、人体安全性のみならず有機溶剤などに対する耐溶剤性も備えた応用性の広いマイクロ流路デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】COC-Aを多孔質基材S1に浸透させることにより形成されたマイクロ流路デバイスの断面図である。
【
図2】流路パターン画像形成ユニット100の構成図である。
【
図4】流路パターン画像形成ユニット100の概略制御態様を示すブロック図である。
【
図6】COC-AおよびCOC-Bの貯蔵弾性率と損失弾性率の温度依存グラフである。
【
図7】保護層を有するマイクロ流路デバイスの形成フローを示す図である。
【
図8】保護層を有するマイクロ流路デバイスの他の形成フローを示す図である。
【
図9】保護層を有するマイクロ流路デバイスの他の形成フローを示す図である。
【
図10】保護層及びカバー層を有するマイクロ流路デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
本発明においては、多孔質基材内に、環状オレフィンを共重合した環状オレフィンコポリマーを含む材料を浸透させることにより流路壁を形成する。
多孔質基材については後述する。
【0013】
<環状オレフィンコポリマー>
本発明に係る環状オレフィンコポリマー(Cyclic Olefin Copolymer:COC)は、アルケン(非環状オレフィン)と、環状化合物(環状オレフィン)との共重合体である。
アルケンとしては、炭素数が2~12であるものが好ましくは、2~6の低級アルケン(α-オレフィン、広義には非環式オレフィン)であるものがより好ましい。
アルケンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。
アルケンは、1種を単独で使用することも又は2種以上を併用することもできる。
【0014】
環状オレフィンとしては、炭素数が3~17であるものが好ましく、5~12であるものがより好ましく、単環式化合物であってもよく、多環式化合物であってもよい。
環状オレフィンは、架橋構造を有することが好ましい。例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン、テトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキセンなどが挙げられ、ノルボルネンが好ましい。
環状オレフィンは、1又は2つ以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基などが挙げられる。
環状オレフィンは、1種を単独で使用することも又は2種以上を併用することもできる。
【0015】
環状オレフィンコポリマーに含まれるアルケン及び環状オレフィンの構造は、NMRで特定することができる。
【0016】
アルケンと環状オレフィンの含有割合は、アルケン/環状オレフィン=20/1~1/20であることが好ましい。
アルケンと環状オレフィンの含有割合は、NMRで特定することができる。
【0017】
<流路パターン形成ユニット>
図2、
図3および
図4を参照して、流路パターン画像形成ユニット全体の構成について説明する。
図2は流路パターン形成ユニット100の概略構成を示す断面図であり、各構成について簡略的に示している。
図3はプロセスカートリッジPの模式的断面図である。
図4は本実施例における流路パターン形成ユニット100の要部の概略制御態様を示すブロック図である。
【0018】
はじめに、流路パターン形成ユニットの構成、流路パターン形成プロセスと各部材について説明する。
図2、
図3を用いて、流路パターン画像形成プロセスに係わる各部材に関して流路パターン画像形成プロセスの順番に沿って説明する。
流路パターン画像形成ユニット100には、プロセスカートリッジPが収容できる。プロセスカートリッジPは像担持体として感光ドラム11を備えている。感光ドラム11の周囲には、帯電ローラ12、現像装置20、クリーニング部材14が設けられている。帯電ローラ12は、感光ドラム11の表面を帯電させるためのローラ形状の帯電部材である。現像装置20は、感光ドラム11の表面に形成された静電潜像を現像剤としての樹脂粒子により現像する。クリーニング部材14は、感光ドラム11の表面をクリーニングする。流路パターン画像形成に際して必要となる電圧は、帯電高圧電源71、現像高圧電源72、転写高圧電源74によって印加することができ、制御部202(
図4)によって制御されている。また、流路パターン画像形成ユニット100は、モータM1(不図示)によってプロセスカートリッジPの感光ドラム11を駆動し、モータM2(不図示)により、プロセスカートリッジPの現像装置20を駆動できる。
【0019】
流路パターン画像形成が始まると、感光ドラム11はモータM1の駆動により
図3中の矢印A方向に回転し、帯電ローラ12は感光ドラム11の回転に従動して
図3中の矢印B方向に回転する。後述の実施例では、感光ドラム11のプロセススピードを150mm/secとした。
感光ドラム11は、OPC、アモルファスセレン、アモルファスシリコン等の感光材料を、アルミニウムやニッケルなどで形成されたシリンダ上のドラム基体上に設けて構成したものである。後述の実施例では、外径20mm、感光材料の厚さは13μmとした。
【0020】
帯電部材たる帯電ローラ12は、導電性の軸芯体(導電性芯金)と導電性ゴム層とからなる単層ローラを用いることができる。そして、電圧印加部である帯電高圧電源71によって、帯電ローラ12には電圧が印加される。次いで、電圧が印加された帯電ローラを感光ドラム11に当接させて、感光ドラム11の表面を一様に帯電する。帯電ローラ12にはDC(直流)電圧が印加されており、放電によって感光ドラム11上を帯電電位Vdで一様に帯電する。尚、後述の実施例では、帯電ローラ12として、外径7.5mm、体積抵抗103~106Ω・cmの単層ローラを用い、直流電圧を印加した。また、感光ドラム表面を-460V(Vd:暗部電位)に一様に帯電した。
【0021】
帯電ローラ12によって感光ドラム11の表面を帯電した後、感光ドラム11の表面には露光ユニット73からレーザ光9が照射される。レーザ光9が照射された感光ドラム11の表面は明部電位であるVlへと表面電位が変化し、静電潜像が形成される。尚、後述の実施例では、Vlを-100Vとした。
図4に示したように、露光ユニット73には、コントローラ200からインターフェース201を介して制御部202に入力され、流路パターン画像処理された流路パターン画像情報の時系列電気デジタル画素信号が入力される。露光ユニット73は、入力する時系列電気デジタル画素信号に対応して変調したレーザ光9を出力するレーザ出力部、回転多面鏡(ポリゴンミラー)、fθレンズ、反射鏡等を有しており、レーザ光9で感光ドラム11の表面を主走査露光する。この主走査露光と、感光ドラム11の回転による副走査とにより、流路パターン画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0022】
<流路パターン画像形成プロセス>
流路パターン画像形成ユニット100は、現像装置20の位置を制御する接離ユニット75を有しており、流路パターン画像形成時と非流路パターン画像形成時で現像装置20の位置を異なる位置に制御することができる。接離ユニット75は、
図4に示した制御部202によって動作を制御される。
現像装置20は感光ドラム11の回転開始後に、感光ドラム11から離間していた現像剤担持体としての現像ローラ23を、感光ドラム11と当接するように接離ユニット75によって移動させる。
【0023】
続いて、現像ローラ23は
図3中の矢印C方向に、供給部材としての供給ローラ24は
図3中の矢印D方向に、それぞれ接続されているモータM2の駆動によって回転を始める。そして、現像ローラ23用の現像高圧電源72から現像ローラ23へ、現像電圧として-300Vの電圧が印加される。そして、感光ドラム11上に形成された静電潜像、すなわち、上記のVl部に対して現像ローラ23によって現像剤(COCを含有する粒子)が供給されて現像される。なお、このときの感光ドラム11表面の移動速度と現像ローラ23表面の移動速度との比(現像ローラ23の表面の移動速度/感光ドラム11表面の移動速度)を現像周速比と呼ぶ。この現像周速比を制御することで、感光ドラム11上に現像される現像剤の量を制御することができる。例えば現像周速比が2.5であれば、現像ローラ23上の現像剤が全て感光ドラム11へ現像した場合、感光ドラム11表面の単位面積当たりの現像剤量は、現像ローラ23表面の単位面積当たりの現像剤量に比べて2.5倍になる。本実施例では多孔質基材S1内部にマイクロ流路壁を形成するのに適した現像剤量を現像できるように現像周速比をモータM2の速度で制御している。
【0024】
現像された現像剤像は、転写高圧電源74によって転写電圧が印加された転写ローラ4との電位差により、記録媒体としての多孔質基材S1に転写される。多孔質基材S1は後述するが、多孔質からなるシート上媒体である。
後述の実施例においては、転写ローラ4として、導電性芯金上に、弾性体であるNBRヒドリンゴムを主成分とし、イオン導電材を用いて抵抗調整を行った半導電性スポンジの弾性層を有するローラを用いた。転写ローラ4の外径は12.5mmで、導電性芯金の外径は6mmとした。また、実施例で用いた転写ローラの抵抗値は、+2000V印加時、下記のとおりであった。
温度23℃/相対湿度50%の常温常湿環境下:1.0×108Ω~3.0×108Ω
温度32℃/相対湿度80%の高温高湿環境下:0.5×108Ω
温度15℃/相対湿度10%の低温低湿環境下:8.0×108Ω
【0025】
現像剤像を転写された多孔質基材S1は、現像剤像を重力方向上側としたまま流路パターン画像形成ユニット外部に排出される。なお、転写ローラ4を通過した後の感光ドラム11は、当接しているクリーニング部材14によって、転写されなかった現像剤を掻き取られる。その後、帯電ローラ12による帯電からのプロセスを再度繰り返すことで、連続的に像形成が行われる。
【0026】
流路パターン画像形成終了後に、現像ローラ23を感光ドラム11から接離手段75によって離間し、後回転動作を行うことで流路パターン画像形成ユニット100内の状態をリセットし、次に流路パターン画像形成を行う際に迅速に印刷できるよう備える。接離手段75によって感光ドラム11から離間した後はモータM2の駆動をOFFすることで現像剤の劣化を抑制することができる。
【0027】
次に、
図4を用いて流路パターン画像形成ユニット100の動作制御を説明する。制御部202は流路パターン画像形成ユニット100の動作を制御する手段であり、各種の電気的情報信号の授受をする。また、各種のプロセス機器やセンサから入力する電気的情報信号の処理、各種のプロセス機器への指令信号の処理を行う。コントローラ200は、ホスト装置との間で各種の電気的な情報の授受をする。また、コントローラ200は、流路パターン画像形成ユニット100の流路パターン画像形成動作を所定の制御プログラムや参照テーブルに従って、インターフェース201を介して制御部202で統括的に制御する。制御部202は、様々な演算処理を行う中心的素子であるCPU155、記憶素子であるROM、RAMなどのメモリ15などを有して構成される。RAMには、センサの検知結果、カウンタのカウント結果、演算結果などが格納され、ROMには制御プログラム、予め実験などにより得られたデータテーブルなどが格納されている。制御部202には、流路パターン画像形成ユニット100における各制御対象、センサ、カウンタなどが接続されている。制御部202は、各種の電気的情報信号の授受や、各部の駆動のタイミングなどを制御して、所定の流路パターン画像形成シーケンスの制御などを行う。例えば、帯電高圧電源71、現像高圧電源72、露光ユニット73、転写高圧電源74、現像周速変更手段76などを制御し、印加される電圧や露光量などを調整している。
【0028】
図2の流路パターン画像形成ユニット100では、制御部202から帯電高圧電源71、現像高圧電源72、露光ユニット73、および転写高圧電源74への接続は記載されていない。しかし、実際には帯電高圧電源71、現像高圧電源72、露光ユニット73、および転写高圧電源74と、制御部202とは接続され、制御部202は各々を制御している。そして、この流路パターン画像形成ユニット100は、ホスト装置からコントローラ200に入力される電気的画像信号に基づいて、多孔質基材S1に流路パターン画像形成を行う。なお、ホスト装置としては、イメージリーダー、パーソナルコンピュータ(以下、パソコンとも記載する。)、ファクシミリ、スマートフォン等が挙げられる。
【0029】
<現像装置>
次に、現像装置の一例として、現像装置20の現像プロセスに係わる部分の構成について
図3を用いて詳細に説明する。
現像装置20は、感光ドラム11との対向位置に開口部を有する現像容器21を備えている。この現像容器21には、通常の電子写真装置で用いられるトナーの代わりに樹脂粒子が収納されている。
【0030】
現像装置20は、現像ローラ23と樹脂粒子供給ローラ24と、を備えている。現像ローラ23は、感光ドラム11上の静電潜像までCOC粒子を担持しながら搬送する役割を担っている。現像ローラ23としては、弾性層の表面に、粗し粒子を分散させた表層を設けたローラを用いることができる。樹脂粒子の搬送性は現像ローラ23の表面粗さによって調整することができる。後述の実施例においては、シリコーンゴムからなる弾性層の表面に、ウレタンゴムをバインダーとして直径10μmの粒子を含有した表層を設けたローラを用いた。表面粗さRaは3.5μmとした。
【0031】
供給ローラ24は、現像ローラ23の表面を摺擦する発泡層を有しており、現像ローラ23に現像容器21内のCOC粒子を供給する役割を担っている。なお、供給ローラ24は現像ローラ23と導通しており電位を等しくしている。また、現像装置20は、現像ローラ23に供給したCOC粒子Aを規制する現像剤規制部材たる現像ブレード25を備えている。
現像ブレード25は、例えば、薄いステンレス鋼(SUS)板を支持板金に支持させたものを用いることができる。現像ブレード25も現像ローラ23と導通しており、電位を等しくしている。後述の実施例においては、現像ブレード25として、厚さ80μmのステンレス鋼(SUS)板が厚さ1mmの支持板金に支持されたものを用いた。現像ブレード25のSUS板の先端を、25~35g/cmの圧力で現像ローラ23と当接させた。当接の方向は、当接部に対して自由端側の先端が現像ローラ23の回転方向上流側に位置するカウンタ方向とした。以上の構成として、現像ブレード25を通過後の現像ローラ23表面に、0.50mg/cm2程度の現像剤がコートされるように制御した。
【0032】
<実施例1>
本実施例では、現像剤として、エチレンと環状オレフィンとを共重合した環状オレフィンコポリマー(ポリプラスチックス(株)製、TMグレード、以下、「COC-A」とも記載する。)から作製した樹脂粒子(以下、「COC粒子A」とも記載する。)を用いた。
この環状オレフィンコポリマーは下記式(1-1)で示される2種類のユニット(エチレンユニットとノルボルネンユニット)を有する。式中x、yの含有割合はモル比で85:15である。尚、式(1-1)は、2種類のユニットが所定の比率で結合していることを表すものであって、ポリエチレン部とポリノルボルネン部とが結合したブロックポリマー状の構成を有することを意味するものではない。
【0033】
【0034】
<流路パターン>
本実施例においては、流路パターン画像形成ユニット100を用いて、多孔質基材S1上にCOC粒子Aを載せてCOC粒子A像を形成することで、
図5(a)に示す流路パターン80を形成した。
図5(a)における各符号は以下のとおりである。COC粒子A像81、試薬を付着させる試薬部83、検査液を付着させる検査液部84、試薬部83と検査液部84を結ぶ流路82。流路82を挟むCOC粒子A像81の幅L1は4mm、流路82の幅L2は1.5mmである。但し、流路パターンの形状やサイズ等はもちろんこれに限るものではなく、直線や曲線の組み合わせ、分岐を用いた形状であっても良く、流路の幅を変えても良い。
【0035】
曲線や分岐を有する流路パターンの例を
図5(b)に示す。この例においては、試薬を付着させる試薬部85b、85c、85dと検査液を付着させる検査液部85aが流路85eによって接続されている。
【0036】
<加熱プロセス>
流路パターン80が形成された多孔質基材S1は、加熱ユニットによる加熱プロセスを経る。加熱プロセスを経ることによってCOC粒子Aが溶融し、多孔質基材S1へと浸透し、疎水性の壁に囲まれた流路を有するマイクロ流路デバイスが形成される。
加熱温度としては、COC粒子Aが溶融し、多孔質基材S1に対して浸透する温度にする必要がある。本実施例の構成においては140℃以上においてCOC粒子Aは多孔質材S1へ浸透した。
【0037】
加熱時間としては、溶融したCOC粒子Aが多孔質基材S1の厚さ方向に完全に浸透しきる時間が必要であるが、長すぎると必要以上に拡散してしまい、形成した流路パターンに比べ、加熱プロセス後の流路82が細くなってしまう可能性がある。本実施例の構成においては、加熱時間を1~10分とすることによって適度な流路壁が形成できた。
以上を鑑みて、本実施例における加熱条件としては200℃環境において2分間とした。加熱ユニットとしては、オーブン(ヤマト科学(株) 送風定温恒温器 DN610H)を用いた。但し、加熱方式はこれに限らず、遠赤外線ヒータやホットプレート等を用いても良いし、加熱条件もCOC粒子Aや多孔質基材S1の物性に合わせて選択するべきものである。
【0038】
上記の条件における加熱プロセスを
図1(a)、
図1(b)を用いて説明する。
加熱前後のCOC粒子Aを表す図として、
図5中の破線80aの位置における断面概略図を
図1に示す。
図1(a)は加熱前の断面図、
図1(b)は加熱後の断面図である。
流路パターン形成時のCOC粒子Aは、
図1(a)に示す様に、多孔質基材S1の表面に付着しただけの状態であり、流路82となる領域92には樹脂粒子Tが付着していない。この後の加熱によって樹脂粒子T(COC粒子A)が溶融し、溶融した樹脂粒子Tが毛細管現象によって多孔質基材S1内部に浸透する。
200℃、2分間の加熱後には
図1(b)に示す様に、疎水性のCOC粒子Aが多孔質基材S1の厚さ方向に浸透し、溶融後の浸透した樹脂T’に挟まれた流路82が多孔質基材S1内に形成される。
以上の様に、流路パターン画像形成ユニット100と、加熱ユニットとを用いることで、多孔質基材S1内に疎水壁に囲まれた流路を有した、マイクロ流路デバイスを製造できる。
【0039】
図5(a)の流路パターンに基づき作成したマイクロ流路デバイスを用いる場合、例えば試薬部83へ呈色反応を示す薬品を付着させておき、その後に検査液部84へ検査液を付着させる。付着させた検査液は流路82を通って試薬部83まで拡散する。検査装置や検査者においては、その際に生じる呈色反応などを確認すればよい。例えば、血糖値の検査の場合、検査液を血液とし、試薬として、オキシターゼとペルオキシターゼとヨウ化カリウムの混合液を用いることができ、尿酸値の検査の場合、検査液を血液とし、試薬として、ウリカーゼとペルオキシターゼと4-アミノアンチピリンの混合液を用いることができる。
図5(b)の流路パターンに基づき作成したマイクロ流路デバイスの使用例について説明する。試薬部85bに試薬bを付着させ、試薬部85cに試薬cを付着させ、試薬部85dに試薬dを付着させた後、検査液部85aに検査液を付着させる。すると検査液部85aに付着させた検査液は流路85eに浸透していくが、途中で分岐することで、試薬部85bでは試薬bのみと反応し、試薬部85cでは試薬cのみと反応し、試薬部85dでは試薬dのみと反応する。分岐した流路を用いることで複数の試薬に対する反応を同時に検査することができる。また、試薬部85dに向かう部分の流路のように、流路を曲線にすることにより、エッジ部への検査液の溜まりをなくす、或いは低減することができる。
【0040】
<COC粒子A>
本実施例で樹脂粒子の材料として用いたCOC-Aは非常に低い吸水性を示すため、検体や検査液の流路外への染み出し、また高湿度環境下での使用での流路の膨潤といった問題が発生しにくい。また機械的強度が高いため、例えば濾紙のようなデバイス使用時に容易に変形する多孔質基材内に流路を形成しても変形による流路壁の割れなどが起こりにくい。
さらには溶融させて流路壁形状を形成する際に人体に有害な物質も発生しないため人体安全性も高い。
【0041】
<耐溶剤性>
次にCOC-Aの耐溶剤性について説明する。マイクロ流路デバイスは様々な検体や検査液を流路内に毛細管現象で浸透させて利用される。もしも流路壁が検体、もしくは検査液と相溶して膨潤したり、化学変化を起こしたりすると、流路構造が崩れることによって適切な毛細管現象が阻害されたり、検体や検査液の特性が変化してしまったりするため、正しい検査結果を得ることが困難になる。
例えば医療検査での血糖値検査では検査薬として酸性の過酸化水素水が利用される。また食品添加物検査では発色剤としてアルカリ性を示す亜硝酸ナトリウムや乳化剤としての利用されるエステル系化合物を検体とすることがある。このようにペーパーマイクロ分析デバイスは酸性、アルカリ性、エステル系を含め様々な溶剤を検体、検査液として使用することが求められるため、これらの溶剤に対して耐溶剤性を持つことが幅広い応用性を持つ分析デバイスのために重要である。
【0042】
表1に、COC-A及びその他の樹脂材料の耐溶剤性の結果を示す。
温度23℃、相対湿度50%の条件下において、各樹脂ペレット(直径3.5インチ、厚さ1mm)を各溶剤に完全に浸漬させて1時間浸し、ペレットが溶解または明らかな膨張が見られた場合をNGとした。
【0043】
【0044】
UV硬化インクはアクリル樹脂系のUV硬化インクであり、より具体的には下記のとおりである。
光ラジカル重合性モノマーであるアクリル酸オクタデシルと、光ラジカル重合性オリゴマーである1,10-ビス(アクリロイルオキシ)デカンの混合物からなるものである。
【0045】
COC-Aは、酸やアルカリのみならず、アルコール、ケトン、エステルなど幅広い溶剤に対して耐性を有しており、多様な検体、検査液に対応した応用性の高いマイクロ流路デバイスとして利用可能である。
【0046】
<疎水性>
各樹脂のペレット(直径3.5インチ、厚さ1mm)を作成し、温度23℃の蒸留水に24時間浸したときの各樹脂の質量の変化を吸水率として表2に示す。
【0047】
【表2】
表2に示すように、COC-Aは一般的な流路壁材料と比較しても高い疎水性を持つ。
【0048】
以上の特徴を有したCOC-Aを用いてCOC粒子Aを作製する方法について記載する。COC粒子AはCOC-Aの樹脂ペレットを粉砕し、体積平均粒径が6μmとなるように分級した後に熱球形化した粒子である。表面には外添剤として粒径10nmの疎水性シリカ微粒子を1.6質量%外添している。COC粒子A表面を外添剤で被膜することで、負帯電性能を向上し、かつCOC粒子A間に微小な間隙を設けることができ、流動性を向上させることで安定した流路パターン画像形成を達成している。なお、外添剤に用いるシリカ微粒子は疎水化処理をしていることと、外添量が微量であることより、最終的にマイクロ流路デバイスとして使用する際の流路には影響しない。但し、外添量や外添する物質はこれに限るものではなく、用いる現像剤担持体や現像剤規制部材等の現像装置構成に応じて適宜選択して良い。
【0049】
<多孔質基材>
多孔質基材S1としては、適度な空隙率と親水性を示すものが好適である。多孔質構造としては、連泡並びに網目(ナノファイバー等)状の構造等のものが良く、濾紙、普通紙、上質紙、水彩紙、ケント紙、合成紙、合成樹脂多孔質フィルム、布地、繊維製品、などが挙げられる。これらの中でも、高い空隙率と良好な親水性を有する点から、濾紙が好ましい。
空隙率は、目的に応じて適宜選択することができるが、20%~90%が好ましい。空隙率が、上記範囲である場合、基材としての強度と試料液の浸透性との両立が良好となる。
【0050】
親水性は、試料液として血液、尿、唾液のような、水を含む生体液が、基材内に拡散することを可能にするために必要な性質である。
多孔質基材の平均厚さは、0.01mm~0.3mmのものが一般的に用いられる。平均厚さが、0.01mm以上あれば、基材としての強度が適当である。平均厚さが0.3mm以下であれば、COCの浸透が容易であり、流路壁の形成が容易となる。但し、平均厚さは用途に応じて選択すればよく、0.6mm程度の厚いものを使用する場合がある。
【0051】
多孔質基材の空孔に樹脂を浸透させて、空孔を樹脂で埋めることで流路壁(疎水壁)が形成されるため、漏れや染み出しが抑制された流路とするためには、多孔質基材の空孔が樹脂で十分に埋められていることが好ましい。
本実施例においては多孔質基材S1として、太さ20μmのセルロース繊維からなる坪量が異なる3種類の多孔質基材S1-1、S1-2、S1-3の濾紙を用いた。詳細を表3に示す。
見掛け密度(g/cm3)は、(坪量/厚さ×1000)、空隙率(%)は、((真密度-見掛け密度)/真密度×100)として計算した。
【0052】
【0053】
<耐折り曲げ性評価>
上記多孔質基材S1-1~S1-3に、COC粒子Aを用いて、
図5(a)の流路パターンで、流路壁部におけるCOC量が2.0mg/cm
2となるように形成したマイクロ流路デバイスを用いて耐折り曲げ性評価を行った。
図5(a)の破線80aの位置でマイクロ流路デバイスを2つ折りに曲げて、上から500g(荷重面積24mm×24mm)の重りをおき、折り曲げた部分において重りを10往復させた。折り曲げ部分を開いて、流路部の破損の有無を裸眼で確認した後、水を流路に浸透させて染み出しを評価した。COC粒子Aで形成したマイクロ流路デバイスは、破損、染み出しとも確認されなかった。
【0054】
<COCの粘弾性特性>
流路を形成する際に用いるCOCは、所定の粘弾性特性(貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’)を有することが好ましい。
貯蔵弾性率G’は、物体の弾性を表しており、低い程一定荷重に対する変形が大きいことを表す。つまり、貯蔵弾性率G’が低いということは、多孔質基材S1に対して毛細管現象による浸透力が働いた時に、より浸透しやすいことを表している。
【0055】
損失弾性率G’’は、物体の粘度を表しており、高い程粘性が高いこと(粘り気が強い状態)を表している。粘性が高いとは、流体の速度が流れの中の各点で異なるとき、速度をならして一様にしようとする性質が強いことを表している。つまり、損失弾性率G’’が高いということは、COCが多孔質基材S1に浸透する際に周囲の樹脂と同じ速度で移動しようとするため、多孔質S内での浸透ムラが少ない、即ち、滲みにくいことを表している。多孔質基材の温度ムラや多孔質の孔のサイズムラ等によって、毛管力にもムラができ、流路パターンが滲んでしまう場合がある。そのため、定着プロセスの温度において、高い粘性を有しており、滲みにくい状態であることが好ましい。
【0056】
つまり、流路壁形成用の樹脂としては、定着プロセスの温度領域において、多孔質基材S1へ浸透する貯蔵弾性率G’でありながら、滲みが抑制される損失弾性率G’’であるような溶融状態となる樹脂が好ましい。しかしながら、一般的な樹脂材料においては、浸透可能な貯蔵弾性率G’を示す温度においては、損失弾性率G”が低くなりすぎてしまい、逆に、滲みが抑制される損失弾性率G”を示す温度においては、貯蔵弾性率G’が高くなりすぎてしまう。この点において、COCは優れており、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’とが共に好適な値となるような温度領域を有する。詳細な物性に関しては後述するが、COC-Aは、200℃において、貯蔵弾性率G’が0.4Paと低く、損失弾性率G’’が10Paと高く、好適な溶融特性を有している。
【0057】
次に、加熱プロセスで、溶融した樹脂が多孔質基材S1へ速やかに滲みなく浸透できるために必要な粘弾性特性を、
図6を用いて説明する。
図6(a)の実線は温度を変化させた時のCOC粒子Aの貯蔵弾性率G’であり、
図6(a)の点線は温度を変化させた時のCOC粒子Aの損失弾性率G’’の値である。
弾性率の測定にあたっては、まずCOC粒子Aを外径20mmのペレット成形用ダイスにセットし、加圧器で15tonの荷重を加え、加圧後のペレット厚さが1mmになる様にCOC粒子A量を調整してペレットを作製した。次に作製したペレット(直径20mm、厚さ1mm)を回転型粘弾性測定装置 AR-G2(TA Instruments社製)の下部プレートと上部プレートの間に固定する。上部プレートから1Hzの周期で10Paのせん断応力を印加し、その際の応答としてのせん断応力との位相差から貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’、を算出した。以上の測定をプレート間の温度を2℃/minの速度で変化させながら70℃~200℃の間で測定した。
【0058】
まず
図6(a)の実線に示す貯蔵弾性率G’を見ると、COC粒子Aは温度上昇と共にガラス転移点Tgを超えて溶融し、貯蔵弾性率G’が急速に小さくなり、130℃において14Paを下回り、200℃において0.4Paとなる。貯蔵弾性率G’が小さくなると、前述したように多孔質基材S1による毛細管現象によって多孔質基材S1の内部へと浸透するようになる。本実施例の構成においては貯蔵弾性率G’が14Pa以下となる130℃以上においてCOCが多孔質基材S1へ浸透したため、加熱プロセスにおける温度は130℃以上で行うことが好ましい。
【0059】
一方、
図6(a)の点線に示す損失弾性率G’’も温度の上昇と共に値は小さくなるが、200℃において凡そ10Paと粘性が高い状態である。損失弾性率G’’は10Pa以上であれば十分に滲みを小さく抑えられるため、損失弾性率G’’の観点では加熱プロセスにおける温度は200℃以下が好ましい。
【0060】
つまり、この場合、加熱プロセスにおける加熱温度は、130℃から200℃の範囲内であることが好ましい。多孔質基材に樹脂が浸透し始める温度や滲みにくくなる温度は、多孔質基材の材料や空隙の状態、樹脂の材料や物性、更に、多孔質基材と樹脂との組み合わせによって変わるため、実際に使用する構成に合わせて適宜調整すべきである。加熱温度を変更して流路形成をした試験の結果を表4に示す。
【0061】
【0062】
表4に示されるように、COC粒子Aを用いた場合、加熱温度130℃、200℃で良好な流路が形成されが、加熱温度120℃では、貯蔵弾性率G’が高いので、多孔質基材への浸透が不十分であり、流路の形成は困難であった。
【0063】
<まとめ>
以上説明した様に、本発明によれば、COC-Aによって作製されたマイクロ流路は高疎水性、高機械的強度、人体安定性、高耐溶剤性を示し、幅広い検体、検査薬を使用可能な応用性の広いマイクロ流路デバイスを実現できる。
なお、COCは本実施例において用いられたものに限定されない。
また、基材として、紙や布等の材料を用いることによって、低コストでかつ無電環境での使用が可能であり、持ち運びや廃棄が容易で、メンテナンスも不要なマイクロ流路デバイスを実現できる。
【0064】
なお、本実施例においては電子写真方式によって多孔質基材S1上にCOC粒子像を形成したが、流路パターン画像の形成方式はこれに限る物ではない。電子写真方式に比べると生産性は劣るが、例えば熱転写方式によって多孔質基材S1上にCOC粒子像を作製しても良い。その場合においても、下記の条件を満たす加熱プロセスを経ることで、COCに囲まれた流路が形成されたマイクロ流路デバイスを得ることができる。
条件:毛細管現象により溶融した樹脂が浸透する程度に貯蔵弾性率G’が低く、滲みが発生しない程度に損失弾性率G’’が高い。
【0065】
<実施例2>
実施例1で用いたCOC-Aの代わりに、COC-B(ポリプラスチックス(株)製のCOC:8007F-600グレード)を用いた。
多孔質基材内の流路壁が、可塑成分を更に含有することが好ましい。可塑成分は、結晶性樹脂、ワックス及びオイルからなる群から選択される少なくとも1つの成分であることが好ましい。可塑成分の貯蔵弾性率が、環状オレフィンコポリマーの貯蔵弾性率よりも低いことが好ましい。
実施例2では、COC-B:100質量部当たり、50質量部の可塑成分(パラフィンワックスHNP-51(日本精蝋(株)))を混錬し、混錬樹脂を得た。この混錬樹脂を用いて、実施例1と同様にして、樹脂粒子(COC粒子B)を得た。
【0066】
COC-B単独では、貯蔵弾性率G’が14Pa以下となる温度領域が300℃までには存在しないが、可塑成分としてパラフィンワックスを混合することで、貯蔵弾性率G’が14Pa以下となる温度領域が存在するようになる。具体的には、
図6(b)に示す粘弾性を有した樹脂粒子となった。この場合、195℃から300℃の範囲で、貯蔵弾性率が14Pa以下、かつ損失弾性率が10Pa以上を満たす状態になる。
【0067】
一般的に、溶解度パラメータ(以下、SP値)の近い材料同士は、親和性が高く、よく混ざり合う。COCのSP値と可塑成分のSP値との差の絶対値が3.5以下であることが好ましい。COCに対するSP値の差が3.5以下であるような可塑成分を用いることによって、好適に粘弾性を制御することができる。SP値は、Fedors法で求めることができる。尚、本実施例の組み合わせにおいては、SP値の差の絶対値は、1.56である。
【0068】
COC粒子Bを用いて、加熱プロセスにおける加熱温度を230℃として、実施例1と同様にして、多孔質基材上に
図5(a)の流路パターンとなる流路壁の形成を行った。表5に示されるように、COC粒子Bを用いた場合も、多孔質基材S1に滲みなく浸透し、良好な流路壁が形成された。
【0069】
【0070】
また、COCと可塑成分とを併用した場合には、割れにくい特性が発揮されるようになる。そのため、COC粒子Bを用いて形成した流路壁は、変形時においても割れが生じにくくなる。可塑成分と併用する場合に用いるCOCとしては、COC単独で用いる場合に比べて、相対的に高温で軟化するCOCが用いられる。このようなCOCは、一般的に破断するまでの変形率(破断伸び率)が大きいため、COCと可塑成分とを併用して形成した流路壁は割れが生じにくくなると考えられる。
【0071】
<耐久性評価>
マイクロ流路デバイスとしての耐久性を、耐ひび割れ性に着目して評価した。
所定の直径を有する金属製の円筒に、作成した流路パターンを巻き付けた後、巻き付けた状態を維持したまま流路パターンの両端の各々を4.9Nの力で引っ張り、流路パターンにひび割れ(クラック)が発生したかを裸眼で観察する。円筒の直径を徐々に小さくしていき、流路パターンにひび割れがみられるまで繰り返し評価をする。
【0072】
実施例2で作成した厚み0.08mmのマイクロ流路デバイスにおいては、直径4mmの円筒に対する巻き付けまではひび割れがみられず、直径3mmの円筒に対する巻き付けにおいて、初めてひび割れが確認された。また、実施例1で用いたCOC粒子Aを用いて同様に製造した厚み0.08mmのマイクロ流路デバイスでは、直径13mmの円筒に対する巻き付けまではひび割れがみられず、直径12mmの円筒に対する巻き付けにおいて、初めてひび割れが観察された。尚、COC-Aの破断伸び率は1.3、COC-Bの破断伸び率は4.5である。
【0073】
<実施例3>
実施例3では、COCを用いて形成された流路を覆う保護層を設けたマイクロ流路デバイスを製造する。保護層とは、流路壁の間にある流路部分を覆うためのカバーである。これにより、流路を閉じた系にすることができ、試料液の乾燥を防ぐことや、試料液が手に付着するのを防止でき、安全性の向上が期待できる。
【0074】
本実施例では、保護層は、アルケンと環状オレフィンとの共重合体である環状オレフィンコポリマーを含む。そして、流路壁を形成する材料と保護層を形成する材料とを同一材料とした。つまり、流路壁に含まれる環状オレフィンコポリマーと保護層に含まれる環状オレフィンコポリマーとは、同じ環状オレフィンコポリマーである。
流路壁を形成する材料と保護層を形成する材料とが同一材料である場合、流路壁と保護層との密着性が向上し、密閉度の高い流路デバイスとなる。同一の材料において、流路壁と保護層とをもつマイクロ流路デバイス作る場合は、保護層と流路壁とを形成するプロセスを分けて行う。
実施例3では、支持基材として片面にカバーフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム;東レ株式会社製、ルミラーS10、厚み50μm)を接着した多孔質基材を用いた。カバーフィルムを接着することにより、接着した側における、乾燥や汚染などを抑制することができる。カバーフィルムの平均厚みは、強度とフレキシブル性の両立の観点から、0.01mm以上0.5mm以下が好ましい。
【0075】
カバーフィルムの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば以下のものが挙げられる。ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、セルロースアセテートなど。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好ましい。
【0076】
先ず、多孔質基材S1のカバーフィルム(PETフィルム)Fを接着していない面に、実施例1と同様にして、樹脂粒子T(COC粒子A)を載せて、溶融・浸透させ、
図5(a)の流路パターンとなるように流路壁を形成した(
図7(a)~(b))。
次いで、
図5(a)における流路82を覆う位置に、流路パターン画像形成プロセスを経させてCOC粒子Aを載せた(
図7(c))。次いで、120℃で2分間の加熱を行った。この温度では、COC-Aが十分には溶融しないため、多孔質基材内の流路は維持される。一方、多孔質基材表面に載せられたCOC粒子Aは基材内に浸透することなく、表面で溶融する。その結果、流路をカバーするように保護層701が形成される(
図7(d))。
【0077】
図7(a)~(d)に示す例では、多孔質基材の一方の面に支持基体としてカバーフィルムFを接着し、他方の面に保護層701を形成した。このようにして、流路壁で挟まれて形成される流路の一方の表面側部分に保護層が形成されており、他方の表面が支持基体で覆われているマイクロ流路デバイスを得ることができる。
なお、多孔質基材のいずれの面にもカバーフィルムFを接着せず、
図7(c)に示す第二の形成プロセス及び
図7(d)に示す第二の加熱プロセスと同様のプロセスを経て、両面ともにCOCを用いて保護層701を形成してもよい(
図7(e))。
また、本実施例では、流路壁を形成する樹脂と保護層を形成する樹脂とを同じ樹脂としたが、異なる樹脂であってもよい。異なる樹脂とする場合、水の影響を防ぐため、第二の疎水性の樹脂を用いることが好ましい。
疎水性の樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0078】
<実施例4>
実施例3においては、多孔質基材の表面に保護層を形成したが、流路の上部に天井を設けるようにして保護層を形成することもできる。実施例4では、そのようなマイクロ流路デバイスを製造する。
先ず、実施例1と同様にして、多孔質基材S1にCOC粒子Aを載せて、溶融・浸透させ、
図5(a)の流路パターンとなるように流路壁801を形成した(
図8(a)~(b))。
【0079】
次いで、
図5(a)における流路部802の上に、流路パターン画像形成プロセスを経させてCOC粒子Aを載せた(
図8(c))。次いで、120℃で30秒間の加熱を行った。この加熱時間では、COC粒子Aは溶融するが、十分な浸透が起こらないため、流路部802の上部にのみ保護層803が形成される(
図8(d))。加熱時間は、用いる材料や形成する保護層の厚さに合わせて、適宜調整することができる。
実施例4では、保護層803の厚さに応じて加熱時間を変更したが、流路部に載せるCOC粒子の載り量を少なくして、浸透量を減らすことで、保護層を形成することもできる(
図9)。例えば、
図9(a)に示すように、流路を形成する部分に載せるCOC粒子の載り量を、流路壁を形成する部分に載せるCOC粒子の載り量の(1/4)~(1/3)程度とし、十分に加熱する。そのようにすることによって
図9(b)に示すように、流路壁801と保護層803とが形成される。保護層803は流路壁801の厚さの(1/4)程度の厚さを有し、保護層803の下方が流路部802となる。
【0080】
<実施例5>
本実施例では、検査液部の表面に、印字率を下げたカバー層を設けたマイクロ流路デバイスを製造する。上記の実施例における保護層は印字率100%のベタ画像として形成したが、検査液部の表面にカバー層を設ける場合には、印字率10~90%の範囲で適宜調整する。検査液部の表面にカバー層を設けることによって、検査液が検査液部に流入する量を制御することができる。検査液の流入量を大きく下げたい場合には、カバー層の印字率を高くし、わずかに下げたい場合には、カバー層の印字率を低くすればよい。
検査液部にカバー層を設けたマイクロ流路デバイスの具体例を以下に記載する。
【0081】
先ず、実施例1と同様の条件で、
図5(b)の流路パターンのマイクロ流路デバイスを製造した。
次いで、実施例3において保護層を形成する工程と同様にして、
流路を覆うように印字率100%で保護層320を形成するために必要な量のCOC粒子を載せ、
検査液部310cを覆うように、印字率50%のカバー層311cを形成するために必要な量のCOC粒子を載せ、
検査液部310bを覆うように、印字率80%のカバー層311bを形成するために必要な量のCOC粒子を載せた。
その後、120℃で2分間の加熱を行い、多孔質基材の表面に保護層320及びカバー層311b~311cを形成し、マイクロ流路デバイスを完成させた。
【0082】
このマイクロ流路デバイスは、検査液が多量に必要な場合には、検査液部310dから検査液を付着させ、それに対して少ない量、例えば、半分程度の検査液の流入量にしたい場合は、検査液部310cから付着させるといった使い方ができる。
検査液部310cに印字したカバー層311cのパターンが印字率50%のパターンなら、検査液部310cに流入する検査液の量は滴下した検査液の量の半分となる。
また、検査液部310bに印字したカバー層311bのパターンが印字率80%のパターンなら、検査液部310bに流入する検査液の量は滴下した検査液の量の20%程度となる。
【符号の説明】
【0083】
4‥転写ローラ
P ‥プロセスカートリッジ
11‥感光ドラム
12‥帯電ローラ
14‥クリーニングブレード
15‥メモリ
20‥現像装置
21‥現像容器
23‥現像ローラ
24‥樹脂粒子供給ローラ
25‥現像ブレード
71‥帯電高圧電源
72‥現像高圧電源
73‥露光ユニット
74‥転写高圧電源
75‥接離手段
80‥流路パターン
81‥COC樹脂粒子A像
82‥流路
83‥試薬部
84‥検査液部
100‥流路パターン画像形成ユニット