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特許7480006多層継手用受口部材、多層継手及び配管システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】多層継手用受口部材、多層継手及び配管システム
(51)【国際特許分類】
   F16L 47/00 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
F16L47/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020158482
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052227
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】横田 生吹樹
(72)【発明者】
【氏名】湯川 雅己
(72)【発明者】
【氏名】志村 吏士
(72)【発明者】
【氏名】松村 豊正
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-169005(JP,A)
【文献】特開2011-002012(JP,A)
【文献】特開2020-146897(JP,A)
【文献】特開昭51-000562(JP,A)
【文献】特開2010-127377(JP,A)
【文献】特開2004-202811(JP,A)
【文献】特開2016-148413(JP,A)
【文献】特開平07-055084(JP,A)
【文献】特開2019-120404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0121913(US,A1)
【文献】特開平06-147386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部と、前記胴部の一方の開口端から内側に張り出す円環部とを有し、
前記円環部の外面には止水凸部又は止水凹部が形成され、
前記胴部の外面には、1又は2以上の嵌合凸部又は嵌合凹部が形成され、
前記胴部には、前記胴部の管軸方向の長さの中点よりも前記円環部側で、かつ、前記円環部に最も近い前記嵌合凸部又は前記円環部に最も近い前記嵌合凹部よりも前記胴部の他方の開口端側に、ゲート痕が形成されている、多層継手用受口部材。
【請求項2】
硬質塩化ビニル系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及びウレタン系樹脂から選ばれる1種以上を含む樹脂で形成される、請求項1に記載の多層継手用受口部材。
【請求項3】
内部に流路を有する管状の継手本体と、前記継手本体の開口部を囲む2以上の受口部とを有し、
前記継手本体を形成する本体樹脂が前記受口部の受口外層を形成し、
請求項1又は2に記載の多層継手用受口部材が、前記受口部の受口内層を形成している、多層継手。
【請求項4】
前記本体樹脂が、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む、請求項3に記載の多層継手。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の多層継手と、
前記受口部の内部に配置される配管と、を備える配管システムであって、
前記配管は、前記流路に面する配管内層と、外面に位置する配管外層とを少なくとも有し、
前記配管内層は、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む樹脂で形成され、
前記配管外層は、塩化ビニル系樹脂を含み、
前記配管の端面は、前記円環部と当接し、かつ、前記配管外層が前記多層継手用受口部材の内面と当接している、配管システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層継手用受口部材、多層継手及び配管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂配管の接続等には、単一の樹脂を射出成形して構成された単層の樹脂継手が用いられている。樹脂継手としては、様々な機能付与を目的として、異なる種類の樹脂材料を用いて、内層と外層とを有する多層継手が知られている。
例えば、特許文献1には、内層に樹脂製管部材と接着接合可能な樹脂材料が用いられ、外層に樹脂製管部材の熱伸縮応力を吸収可能な樹脂材料が用いられている多層継手が提案されている。特許文献1の多層継手によれば、熱伸縮による耐疲労破壊強度の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-002012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている多層継手は、インサート成形によって製造することができる。インサート成形では、内層となる受口部材を予め成形し、成形した受口部材を金型のコアに嵌め、続いて受口部材の周囲に外層となる受口部の樹脂材料を注入して受口部材と受口部とを一体化する。
【0005】
しかしながら、受口部を成形する際に、予め成形された受口部材が加熱により変形することがある。受口部材が変形すると、受口部との間に隙間が生じ、この隙間に水が浸入し、止水性が低下する。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、止水性を高められる多層継手用受口部材、多層継手及び配管システムを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]円筒状の胴部と、前記胴部の一方の開口端から内側に張り出す円環部とを有し、前記円環部の外面には止水凸部又は止水凹部が形成され、前記胴部の外面には、1又は2以上の嵌合凸部又は嵌合凹部が形成され、前記胴部には、前記胴部の管軸方向の長さの中点よりも前記円環部側で、かつ、前記円環部に最も近い前記嵌合凸部又は前記円環部に最も近い前記嵌合凹部よりも前記胴部の他方の開口端側に、ゲート痕が形成されている、多層継手用受口部材。
[2]硬質塩化ビニル系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及びウレタン系樹脂から選ばれる1種以上を含む樹脂で形成される、[1]に記載の多層継手用受口部材。
【0008】
[3]内部に流路を有する管状の継手本体と、前記継手本体の開口部を囲む2以上の受口部とを有し、前記継手本体を形成する本体樹脂が前記受口部の受口外層を形成し、[1]又は[2]に記載の多層継手用受口部材が、前記受口部の受口内層を形成している、多層継手。
[4]前記本体樹脂が、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む、[3]に記載の多層継手。
【0009】
[5][3]又は[4]に記載の多層継手と、前記受口部の内部に配置される配管と、を備える配管システムであって、前記配管は、前記流路に面する配管内層と、外面に位置する配管外層とを少なくとも有し、前記配管内層は、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む樹脂で形成され、前記配管外層は、塩化ビニル系樹脂を含み、前記配管の端面は、前記円環部と当接し、かつ、前記配管外層が前記多層継手用受口部材の内面と当接している、配管システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多層継手用受口部材によれば、止水性を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る多層継手の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る多層継手用受口部材の斜視図である。
図3図1のCの領域を拡大した部分断面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る多層継手用受口部材のゲート痕の位置とウェルドラインの位置との関係を示す多層継手用受口部材の斜視図である。
図5】一つの比較例に係る多層継手用受口部材のゲート痕の位置とウェルドラインの位置との関係を示す多層継手用受口部材の斜視図である。
図6】他の比較例に係る多層継手用受口部材のゲート痕の位置とウェルドラインの位置との関係を示す多層継手用受口部材の斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に係る配管システムの部分断面図である。
図8】一つの比較例に係る配管システムの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る多層継手の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の多層継手1は、ソケットと呼ばれる直管の継手である。多層継手1は、円筒状であり、両端に開口部14A、14Bを有する。多層継手1は、内部に流路15を有する管状の継手本体10と、この継手本体10の開口部11A、11Bを囲む2つの受口部12A、12Bとを有する。受口部12A、12Bには、多層継手用受口部材20が一体に設けられている。継手本体10を形成する本体樹脂が受口部12A、12Bの受口外層16A、16Bを形成している。多層継手用受口部材20が、受口部12A、12Bの受口内層17A、17Bを形成している。
多層継手1は、例えば、インサート成形品であり、継手本体10は、単一の樹脂(本体樹脂)で形成されている。受口部12A、12Bにおいて、多層継手用受口部材20が形成する層を受口内層17A、17Bとし、本体樹脂が形成する層を受口外層16A、16Bとする。
【0013】
多層継手1は、受口部12Aの開口部14Aから見て、継手本体10と受口部12Aとの境界に、流路15に向けて突出する段部13Aを有する。多層継手1は、受口部12Bの開口部14Bから見て、継手本体10と受口部12Bとの境界に、流路15に向けて突出する段部13Bを有する。
多層継手1の管軸O1は、受口部12Aの開口部14Aから、受口部12Bの開口部14Bに向かう方向に延びている。受口部12A、12Bの管軸は、多層継手1の管軸O1と一致している。
【0014】
図2に示すように、多層継手用受口部材20は、円筒状の胴部21と、胴部21の一方の開口端22aから内側に張り出す円環部23とを有する。円環部23は、継手本体10と受口部12A、12Bとの境界に位置し、多層継手1の段部13A又は13Bの表面を形成している。多層継手用受口部材20は、管軸O2を有する。管軸O2は、胴部21の一方の開口端22aから、他方の開口端22bに向かう方向に延びている。
【0015】
円環部23の外面には、止水凸部24と止水凹部25とが形成されている。止水凸部24は、円環部23の開口部を周回している。止水凹部25は、止水凸部24の外縁を周回している。
多層継手1を形成する際、止水凸部24が本体樹脂に食い込み、本体樹脂が止水凹部25に入り込むことで、流路15を通流する水が、円環部23と本体樹脂との境目に浸入するのを防止できる。
【0016】
胴部21の外面には、2以上の嵌合凸部26と、2以上の嵌合凹部27とが形成されている。嵌合凸部26は、胴部21の外面を周回している。嵌合凹部27は、胴部21の外面を周回している。円環部23に最も近い嵌合凸部を嵌合凸部26aとする。円環部23に最も近い嵌合凹部を嵌合凹部27aとする。
胴部21の外面には、樹脂注入部の痕となるゲート痕Gが形成されている。ゲート痕Gは、胴部21の管軸O2方向の長さL20の中点Mよりも、円環部23側で、かつ、嵌合凸部26a又は嵌合凹部27aよりも胴部21の他方の開口端22b側に、形成されている。
ゲート痕Gが形成される位置について、図3を用いて説明する。
【0017】
図3は、図1のCの領域を拡大した部分断面図である。
図3に示すように、受口部12Aでは、継手本体10を形成する本体樹脂が受口外層16Aを形成している。多層継手用受口部材20が、受口部12Aの受口内層17Aを形成している。円環部23は、本体樹脂と接している。胴部21の内面は、受口部12Aの内面を形成している。胴部21の外面は、本体樹脂と接している。胴部21の外面には、4つの嵌合凸部26a、26b、26c、26dと、4つの嵌合凹部27a、27b、27c、27dと、が形成されている。
ゲート痕Gは、円環部23から二番目に近い嵌合凹部27bの位置に形成されている。円環部23に最も近い嵌合凹部27aと、円環部23に最も近い嵌合凸部26aとの境界をKとする。境界Kと中点Mとの間の領域をSとすると、ゲート痕Gは、領域Sの中に形成される。
【0018】
領域Sの管軸O2方向の長さをLとすると、ゲート痕Gが形成される位置の境界Kからの距離Lは、Lの90%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。距離Lが上記上限値以下であると、後述するように、多層継手1の止水性をより高められる。距離Lは、小さいほど好ましく、下限値は、長さLの0%超であり、例えば、長さLの1%が挙げられる。
【0019】
多層継手用受口部材20の口径R20は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、20~300mmが好ましく、30~200mmがより好ましく、40~100mmがさらに好ましい。多層継手用受口部材20の口径R20が上記下限値以上であると、受口部12A又は12Bと一体に形成しやすい。多層継手用受口部材20の口径R20が上記上限値以下であると、多層継手用受口部材20の強度をより高められる。
なお、多層継手用受口部材20の口径R20は、胴部21の他方の開口端22b側の開口部の内径をいう。
【0020】
胴部21の管軸O2方向の長さL20は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、10~100mmが好ましく、20~80mmがより好ましく、30~60mmがさらに好ましい。胴部21の管軸O2方向の長さL20が上記下限値以上であると、配管との接合強度をより高められる。胴部21の管軸O2方向の長さL20が上記上限値以下であると、多層継手用受口部材20の強度をより高められる。
【0021】
多層継手用受口部材20の肉厚T20は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、1.0~30mmが好ましく、1.5~20mmがより好ましく、2.0~10mmがさらに好ましい。多層継手用受口部材20の肉厚T20が上記下限値以上であると、多層継手用受口部材20の強度をより高められる。多層継手用受口部材20の肉厚T20が上記上限値以下であると、多層継手用受口部材20をより軽量にできる。
なお、本明細書において「肉厚」とは、その部材の最も薄い位置での厚さ(最小肉厚)をいうもとする。
【0022】
多層継手用受口部材20の円環部23の幅L23は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、1~20mmが好ましく、2~15mmがより好ましく、3~10mmがさらに好ましい。多層継手用受口部材20の円環部23の幅L23が上記下限値以上であると、多層継手1の止水性をより高められる。多層継手用受口部材20の円環部23の幅L23が上記上限値以下であると、多層継手用受口部材20の強度をより高められる。
なお、円環部23の幅L23は、胴部21の内面からの幅をいう。
【0023】
円環部23の肉厚T23は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、1~20mmが好ましく、2~15mmがより好ましく、3~10mmがさらに好ましい。円環部23の肉厚T23が上記下限値以上であると、円環部23の強度をより高められる。円環部23の肉厚T23が上記上限値以下であると、多層継手用受口部材20をより軽量にできる。
【0024】
多層継手1の継手本体10の管軸O1方向の長さL10は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、20~500mmが好ましく、30~400mmがより好ましく、40~300mmがさらに好ましい。継手本体10の管軸O1方向の長さL10が上記下限値以上であると、継手本体10を成形しやすい。継手本体10の管軸O1方向の長さL10が上記上限値以下であると、多層継手1の強度をより高められる。
【0025】
多層継手1の受口部12Aの管軸O1方向の長さL12Aは、多層継手用受口部材20の胴部21の管軸O2方向の長さL20と同様である。
多層継手1の受口部12Bの管軸O1方向の長さL12Bは、多層継手用受口部材20の胴部21の管軸O2方向の長さL20と同様である。
【0026】
継手本体10の肉厚T10は、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、2~40mmが好ましく、3~30mmがより好ましく、4~20mmがさらに好ましい。継手本体10の肉厚T10が上記下限値以上であると、多層継手1の強度をより高められる。継手本体10の肉厚T10が上記上限値以下であると、本体樹脂の使用量を節約できる。
【0027】
受口外層16Aの肉厚T16Aは、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、2.0~30mmが好ましく、2.5~20mmがより好ましく、3.0~15mmがさらに好ましい。受口外層16Aの肉厚T16Aが上記下限値以上であると、受口部12Aの強度をより高められる。受口外層16Aの肉厚T16Aが上記上限値以下であると、本体樹脂の使用量を節約できる。
受口外層16Bの肉厚T16Bは、受口外層16Aの肉厚T16Aと同様である。
【0028】
段部13Aの高さH13Aは、多層継手1の用途に応じて適宜決定され、例えば、3~50mmが好ましく、5~40mmがより好ましく、10~30mmがさらに好ましい。段部13Aの高さH13Aが上記下限値以上であると、配管を固定しやすい。段部13Aの高さH13Aが上記上限値以下であると、受口部12Aの強度をより高められる。
なお、段部13Aの高さH13Aは、継手本体10の外面から受口部12Aの外面までの高さをいう。
段部13Bの高さは、段部13Aの高さH13Aと同様である。
【0029】
多層継手用受口部材20は、樹脂製である。多層継手用受口部材20を形成する樹脂としては、硬質塩化ビニル系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。多層継手用受口部材20を形成する樹脂としては、インサート成形時の加熱による変形が生じにくいことから、硬質塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂が好ましく、硬質塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂がより好ましい。
多層継手用受口部材20を形成する樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
多層継手用受口部材20は、射出成形により製造される。射出成形の際、多層継手用受口部材20の原料となる第一の樹脂組成物を樹脂注入部(ゲート)から金型に注入する。第一の樹脂組成物は金型内を流動し、ゲートから最も遠い位置で会合し、ウェルドラインが形成される。ウェルドラインとは、樹脂組成物が最も冷えてから会合した部分であり、他の領域に比べ強度が弱い。インサート成形時に継手本体10及び受口外層16A、16Bを形成する本体樹脂の樹脂組成物がこのウェルドラインと接すると、熱により変形や割れが生じるおそれがある。このため、ウェルドラインが円環部23に近い位置にあると、円環部23と本体樹脂との境目に隙間ができ、この隙間から水が漏洩して止水性が低下するおそれがある。
本発明は、ウェルドラインを円環部23から遠ざけて、多層継手1の止水性を高めたものである。以下、ゲート痕の位置とウェルドラインの位置との関係を、図面を用いて説明する。
【0031】
図4は、多層継手用受口部材20aのゲート痕の位置とウェルドラインの位置との関係を示す斜視図である。多層継手用受口部材20aは、ゲート痕の位置が異なる以外は、多層継手用受口部材20と同じ構成を有する。図4では、ゲート痕G1が、多層継手用受口部材20aの一方の開口端22aの近くに位置する。ゲート痕G1に対応する位置にあるゲートから金型に注入された第一の樹脂組成物は、矢印F1の向きに流動し、ゲート痕G1から最も遠い位置で会合し、ウェルドラインWL1が形成される。ウェルドラインWL1は、多層継手用受口部材20aの他方の開口端22bに近い位置に形成される。このため、ウェルドラインWL1が熱により変形や割れを生じても、円環部23と本体樹脂との境目からの漏水を抑制でき、止水性を高められる。
【0032】
図5に示すように、多層継手用受口部材20bでは、ゲート痕G2の位置が胴部21の管軸O2方向の中点Mの位置にある。多層継手用受口部材20bは、ゲート痕の位置が異なる以外は、多層継手用受口部材20と同じ構成を有する。ゲート痕G2に対応する位置にあるゲートから金型に注入された第一の樹脂組成物は、矢印F2aの向きに流動し、ゲート痕G2から最も遠い位置で会合し、ウェルドラインWL2aが形成される。また、ゲート痕G2に対応する位置にあるゲートから金型に注入された第一の樹脂組成物は、矢印F2bの向きに流動し、ゲート痕G2から最も遠い位置で会合し、ウェルドラインWL2bが形成される。ウェルドラインWL2aは、多層継手用受口部材20bの一方の開口端22aに近い位置(すなわち、円環部23の近傍)に形成される。ウェルドラインWL2bは、多層継手用受口部材20bの他方の開口端22bに近い位置に形成される。ウェルドラインWL2bのみが形成されれば、円環部23と本体樹脂との境目からの漏水を抑制でき、止水性を高められる。しかし、多層継手用受口部材20bでは、ウェルドラインWL2aが形成されるため、円環部23と本体樹脂との境目から水が漏洩して、止水性が低下するおそれがある。このため、ゲート痕G2の位置は、胴部21の管軸O2方向の中点M付近にないことが好ましい。
【0033】
図6に示すように、多層継手用受口部材20cでは、ゲート痕G3の位置が胴部21の他方の開口端22bに近い位置にある。多層継手用受口部材20cは、ゲート痕の位置が異なる以外は、多層継手用受口部材20と同じ構成を有する。ゲート痕G3に対応する位置にあるゲートから金型に注入された第一の樹脂組成物は、矢印F3の向きに流動し、ゲート痕G3から最も遠い位置で会合し、ウェルドラインWL3が形成される。ウェルドラインWL3は、多層継手用受口部材20cの一方の開口端22aに近い位置(すなわち、円環部23の近傍)に形成される。このため、円環部23と本体樹脂との境目から水が漏洩して止水性が低下するおそれがある。よって、ゲート痕G3の位置は、胴部21の他方の開口端22bに近い位置にないことが好ましい。
【0034】
次に、インサート成形時の継手本体10を形成する本体樹脂の樹脂組成物の流れについて説明する。
図7は、配管システム100における受口部12A近傍の部分断面図である。
図7に示すように、本発明の配管システム100は、多層継手1と、多層継手用受口部材20と、配管30とを有する。図7において、多層継手用受口部材20は、受口部12Aの受口外層16Aと、嵌合凸部26a、26b、26c、26d及び嵌合凹部27a、27b、27c、27dを介して嵌合している。配管30は、受口部12Aの内部に配置されている。配管30の流路及び多層継手1の流路15を水(排水)が通流する。段部13Aの近傍において、止水凸部24が本体樹脂に食い込み、本体樹脂が止水凹部25に入り込むことで、流路15を通流する水が、円環部23と本体樹脂との境目に浸入することを防止できる。
【0035】
インサート成形時に、本体樹脂の樹脂組成物は、継手本体10の側から受口部12Aの開口部14Aの側へと流入する。矢印Fは、本体樹脂の樹脂組成物の流動方向を表す。段部13Aの近傍では、受口部12Aの開口部14Aに向けて流動する本体樹脂の樹脂組成物が高温(例えば、100~180℃)の状態で流動している。このため、段部13Aでは、止水凸部24及び止水凹部25が熱にさらされ、多層継手用受口部材20は、加熱による影響を受けやすい。多層継手用受口部材20は、胴部21の管軸O2方向の長さL20の中点Mよりも円環部23側で、かつ、円環部23に最も近い嵌合凸部26a又は円環部23に最も近い嵌合凹部27aよりも胴部21の他方の開口端22b側に、ゲート痕Gを有する。このため、多層継手用受口部材20のウェルドラインは、円環部23から離れた他方の開口端22bの側に形成される。よって、多層継手1は、ウェルドラインの変形や割れによる円環部23と本体樹脂との境目からの漏水を抑制でき、止水性を高められる。
なお、ゲート痕Gが円環部23に最も近い嵌合凹部27a又は円環部23に最も近い嵌合凸部26aに形成されると、円環部23と本体樹脂との境目に隙間ができやすく、流路15内の水が浸入し、止水性が低下する。このため、ゲート痕Gは、円環部23に最も近い嵌合凹部27a又は円環部23に最も近い嵌合凸部26aよりも胴部21の他方の開口端22b側に形成されることが好ましい。
【0036】
一方、図8に示すように、ゲート痕Gが、胴部21の他方の開口端22bの側にある多層継手用受口部材20cの場合(この配管システムを100b、多層継手を1bとする。)、ウェルドラインは、胴部21の一方の開口端22aに近い位置に形成される。このため、ウェルドラインに加熱による変形や割れが生じると、円環部23と本体樹脂との境目から流路15内の水が浸入し、受口部12Aの受口内層17Aと受口外層16Aとの界面に水の道40が形成され、漏水が発生する。このため、ゲート痕Gは、胴部21の管軸O2方向の長さL20の中点Mよりも円環部23側に形成されることが好ましい。
【0037】
ゲート痕Gの位置は、多層継手用受口部材20を成形する際の金型に設けるゲートの位置によって調整できる。
【0038】
継手本体10及び受口外層16A、16Bは、樹脂製である。継手本体10及び受口外層16A、16Bを形成する樹脂(すなわち、本体樹脂)としては、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、オレフィン系樹脂等が挙げられる。本体樹脂としては、耐衝撃性、耐薬品性に優れる観点から、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂が好ましい。
本体樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
配管30は、流路に面する配管内層31と、外面に位置する配管外層32とを少なくとも有することが好ましい。配管30が配管内層31と配管外層32とを有することで、配管30に種々の機能を付与できる。
【0040】
配管30の肉厚T30は、配管30の用途に応じて適宜決定され、例えば、2~30mmが好ましく、3~20mmがより好ましく、4~15mmがさらに好ましい。配管30の肉厚T30が上記下限値以上であると、配管30の強度をより高められる。配管30の肉厚T30が上記上限値以下であると、多層継手1との接合強度をより高められる。
【0041】
配管内層31の肉厚T31は、配管30の用途に応じて適宜決定され、例えば、1~15mmが好ましく、2~12mmがより好ましく、3~10mmがさらに好ましい。配管内層31の肉厚T31が上記下限値以上であると、配管内層31に種々の機能を付与しやすい。配管内層31の肉厚T31が上記上限値以下であると、配管外層32に種々の機能を付与しやすい。
【0042】
配管外層32の肉厚T32は、配管30の用途に応じて適宜決定され、例えば、1~20mmが好ましく、2~15mmがより好ましく、3~10mmがさらに好ましい。配管外層32の肉厚T32が上記下限値以上であると、配管外層32に種々の機能を付与しやすい。配管外層32の肉厚T32が上記上限値以下であると、配管内層31に種々の機能を付与しやすい。
【0043】
配管内層31を形成する樹脂としては、フッ素系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、オレフィン系樹脂等が挙げられる。配管内層31がこれらの樹脂で形成されていると、配管30は、耐衝撃性、耐薬品性に優れる。
配管外層32を形成する樹脂としては、塩化ビニル系樹脂が挙げられる。配管外層32を形成する樹脂が塩化ビニル系樹脂であると、当接する多層継手用受口部材20と接合しやすい。このため、配管システム100の止水性をより高められる。
【0044】
配管30の端面は、円環部23と当接する。このとき、配管内層31の端面と継手本体10とが当接する。また、配管外層32と受口部材20とが当接する。配管内層31と継手本体10とは、同じ種類の樹脂で形成されている。また、配管外層32と多層継手用受口部材20とは、同じ種類の樹脂で形成されている。このため、配管30の端面と、多層継手1との間に隙間ができにくく、流路15を通流する水の浸入を抑制できる。その結果、配管システム100の止水性をより高められる。
【0045】
本実施形態の多層継手用受口部材20は、胴部21の一方の開口端22aから内側に張り出す円環部23を有する。円環部23の外面には、止水凸部24又は止水凹部25が形成されている。このため、止水凸部24が本体樹脂に食い込み、本体樹脂が止水凹部25に入り込むことにより、流路15を通流する水を止水できる。その結果、多層継手1の止水性をより高められる。
本実施形態の多層継手用受口部材20は、胴部21の外面に、2以上の嵌合凸部26及び嵌合凹部27が形成されている。このため、多層継手用受口部材20と本体樹脂との接着力をより高められる。その結果、多層継手1の止水性をより高められる。
本実施形態の多層継手用受口部材20は、胴部21の管軸O2方向の長さL20の中点Mよりも円環部23側で、かつ、円環部23に最も近い嵌合凹部27a又は円環部23に最も近い嵌合凸部26aよりも胴部21の他方の開口端22b側に、ゲート痕Gを有する。このため、多層継手用受口部材20のウェルドラインは、円環部23と本体樹脂との境目から離れた胴部21の他方の開口端22bの側に形成される。その結果、円環部23と本体樹脂との境目に隙間ができにくく、多層継手1の止水性をより高められる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
上述の実施形態では、多層継手用受口部材20の胴部21の外面には、2以上の嵌合凸部26及び嵌合凹部27が形成されている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、胴部の外面に形成される嵌合凸部又は嵌合凹部は、1つであってもよい。多層継手用受口部材と本体樹脂との接着力をより高められる観点から、胴部の外面に形成される嵌合凸部又は嵌合凹部は、2以上であることが好ましい。
上述の実施形態では、ゲート痕Gは、嵌合凹部に形成されている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、ゲート痕Gが嵌合凸部に形成されていてもよい。多層継手用受口部材と本体樹脂との界面に水の道が形成されにくいことから、ゲート痕Gは、嵌合凹部に形成されていることが好ましい。
上述の実施形態では、多層継手として、直管(ソケット)について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、多層継手は、曲管(エルボ)であってもよく、T字管(チーズ)や、Y字管、開口部を4つ以上有する継手であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1,1b 多層継手
10 継手本体
11A,11B 継手本体の開口部
12A,12B 受口部
13A,13B 段部
14A,14B 受口部の開口部
15 流路
16A,16B 受口外層
17A,17B 受口内層
20,20a,20b,20c 多層継手用受口部材
21 胴部
22a 一方の開口端
22b 他方の開口端
23 円環部
24 止水凸部
25 止水凹部
26,26a,26b,26c,26d 嵌合凸部
27,27a,27b,27c,27d 嵌合凹部
30 配管
31 配管内層
32 配管外層
100,100b 配管システム
O1,O2 管軸
M 胴部の管軸方向の長さの中点
G,G1,G2,G3 ゲート痕
F 本体樹脂の樹脂組成物の流動方向
F1,F2a,F2b,F3 第一の樹脂組成物の流動方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8