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特許7480019車両情報推定システム、車両情報推定装置、車両情報推定方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】車両情報推定システム、車両情報推定装置、車両情報推定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
G01N29/14
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020179929
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070711
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高峯 英文
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-252520(JP,A)
【文献】特開2020-095534(JP,A)
【文献】特開2020-112396(JP,A)
【文献】特開昭61-256499(JP,A)
【文献】特開平06-028595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0206240(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0078760(US,A1)
【文献】国際公開第2019/167137(WO,A1)
【文献】特開平08-016975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0193825(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G08G 1/00 - G08G 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサと、
前記センサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定部と、
を備え
計測期間中に取得された複数の弾性波を複数のグループに分類する分類部をさらに備え、
前記車両数推定部は、前記グループに含まれる弾性波の数が第1の閾値未満のグループを除いたグループの数を前記車両の台数として推定する車両情報推定システム。
【請求項2】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサと、
前記センサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定部と、
を備え
前記車両数推定部は、計測期間中に取得された複数の弾性波の検出数、又は、前記複数の弾性波それぞれの特徴量を、取得時刻に応じてプロットし、前記プロットに基づく包絡線を検出することによってピークを検出し、検出した前記ピークの数を前記車両の台数として推定する車両情報推定システム。
【請求項3】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサと、
前記センサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定部と、
を備え
前記センサは、複数備えられ、
複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記発生源の密度を表す弾性波源密度分布を生成する分布生成部と、
前記構造物を通過した車両の台数と、比較対象となる構造物で得られた通過した車両の台数との比に基づく補正値を用いて前記弾性波源密度分布を補正する補正部と、
をさらに備える車両情報推定システム。
【請求項4】
前記グループに含まれる弾性波の数が、又は、前記グループの大きさに基づいて前記車両の重量又は前記車両の種別を推定する重量推定部をさらに備える、請求項に記載の車両情報推定システム。
【請求項5】
前記センサは、複数備えられ、
複数のセンサは、前記構造物に、前記車両の進行方向に所定の間隔で設置され、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された前記複数の弾性波の時系列データと、前記複数のセンサの設置間隔とに基づいて前記車両の速度を推定する速度推定部をさらに備える、請求項1からのいずれか一項に記載の車両情報推定システム。
【請求項6】
前記センサによって検出された前記弾性波において、振幅の値が第2の閾値未満の弾性波を除去する除去部をさらに備える、請求項1からのいずれか一項に記載の車両情報推定システム。
【請求項7】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定部、
を備え
計測期間中に取得された複数の弾性波を複数のグループに分類する分類部をさらに備え、
前記車両数推定部は、前記グループに含まれる弾性波の数が第1の閾値未満のグループを除いたグループの数を前記車両の台数として推定する車両情報推定装置。
【請求項8】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定部、
を備え
前記車両数推定部は、計測期間中に取得された複数の弾性波の検出数、又は、前記複数の弾性波それぞれの特徴量を、取得時刻に応じてプロットし、前記プロットに基づく包絡線を検出することによってピークを検出し、検出した前記ピークの数を前記車両の台数として推定する車両情報推定装置。
【請求項9】
前記グループに含まれる弾性波の数が、又は、前記グループの大きさに基づいて前記車両の重量又は前記車両の種別を推定する重量推定部をさらに備える、請求項7に記載の車両情報推定装置。
【請求項10】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定し、
計測期間中に取得された複数の弾性波を複数のグループに分類し、
前記グループに含まれる弾性波の数が第1の閾値未満のグループを除いたグループの数を前記車両の台数として推定する車両情報推定方法。
【請求項11】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定し、
計測期間中に取得された複数の弾性波の検出数、又は、前記複数の弾性波それぞれの特徴量を、取得時刻に応じてプロットし、前記プロットに基づく包絡線を検出することによってピークを検出し、検出した前記ピークの数を前記車両の台数として推定する車両情報推定方法。
【請求項12】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定し、
前記センサが、複数備えられ、
複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定し、
前記発生源の密度を表す弾性波源密度分布を生成し、
前記構造物を通過した車両の台数と、比較対象となる構造物で得られた通過した車両の台数との比に基づく補正値を用いて前記弾性波源密度分布を補正する車両情報推定方法。
【請求項13】
前記グループに含まれる弾性波の数が、又は、前記グループの大きさに基づいて前記車両の重量又は前記車両の種別を推定する、請求項10に記載の車両情報推定方法。
【請求項14】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定ステップ、
をコンピュータに実行させ
計測期間中に取得された複数の弾性波を複数のグループに分類する分類ステップをさらに実行させ、
前記車両数推定ステップにおいて、前記グループに含まれる弾性波の数が第1の閾値未満のグループを除いたグループの数を前記車両の台数として推定させるためのコンピュータプログラム。
【請求項15】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定ステップ、
をコンピュータに実行させ
前記車両数推定ステップにおいて、計測期間中に取得された複数の弾性波の検出数、又は、前記複数の弾性波それぞれの特徴量を、取得時刻に応じてプロットし、前記プロットに基づく包絡線を検出することによってピークを検出し、検出した前記ピークの数を前記車両の台数として推定させるためのコンピュータプログラム。
【請求項16】
構造物より発生した弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する車両数推定ステップ、
をコンピュータに実行させ
複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定ステップと、
前記発生源の密度を表す弾性波源密度分布を生成する分布生成ステップと、
前記構造物を通過した車両の台数と、比較対象となる構造物で得られた通過した車両の台数との比に基づく補正値を用いて前記弾性波源密度分布を補正する補正ステップと、
をさらに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項17】
前記グループに含まれる弾性波の数が、又は、前記グループの大きさに基づいて前記車両の重量又は前記車両の種別を推定する重量推定ステップをさらに実行させるための請求項14に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両情報推定システム、車両情報推定装置、車両情報推定方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交通による荷重が橋梁のコンクリート床版にかかった際、コンクリート床版内の亀裂の進展や摩擦などによりAE(Acoustic Emission:アコースティック・エミッション)が発生する。荷重がかかる面と異なる面(例えば、床版下面)にAEセンサを設置することで、コンクリート床版内で発生するAEを検出することができる。従来では、コンクリート床版下面にAEセンサを設置し、AEセンサにおいて車両通過に伴い発生する弾性波を検出し、検出された複数の弾性波の発生源の密度に基づいてコンクリート床版の健全性を評価することが行われている。
【0003】
ところで、異なるコンクリート床版の計測結果を比較する場合には、交通量が同じ条件下で得られた計測結果同士を比較することが有効である。例えば、発生源の密度は、長時間計測するほど高くなるため、計測時間が異なると比較できない。さらに、同じ計測時間同士であっても、交通量の多い場所や、交通量の多い時刻での計測の方が弾性波源の密度が高くなる傾向にあるため、条件が異なる計測結果を比較しても有効な結果を得ることができない。そのため、同じ条件で異なる計測結果を比較するために計測対象の場所を走行する車両に関する情報を把握する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/167137号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、異なる計測結果を比較するために計測対象の場所を走行する車両に関する情報を推定することができる車両情報推定システム、車両情報推定装置、車両情報推定方法及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の車両情報推定システムは、センサと、車両数推定部と、分類部を持つ。センサは、構造物より発生した弾性波を検出する。車両数推定部は、前記センサによって検出された前記弾性波を用いて、前記構造物を通過した車両の台数を推定する。分類部は、計測期間中に取得された複数の弾性波を複数のグループに分類する。前記車両数推定部は、前記グループに含まれる弾性波の数が第1の閾値未満のグループを除いたグループの数を前記車両の台数として推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態における車両情報推定システムの構成を示す図である。
図2】車両の通過により検出される弾性波の分布を示す図である。
図3】第1の実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図である。
図4】第1の実施形態における信号処理部が行う台数推定処理の流れを示す図である。
図5】第1の実施形態における通過車両の台数推定の他の手法を説明するための図である。
図6】第2の実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図である。
図7】第2の実施形態におけるセンサを複数列で設置した一例を示す図である。
図8】車両1台分の通過時の弾性波のデータの推移図である。
図9】第3の実施形態における車両情報推定システムの構成を示す図である。
図10】第3の実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図である。
図11】第3の実施形態における構造物評価装置の具体的な処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の車両情報推定システム、車両情報推定装置、車両情報推定方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における車両情報推定システム100の構成を示す図である。車両情報推定システム100は、構造物11を通過した車両12(以下「通過車両」という)に関する情報を推定するシステムである。車両に関する情報は、例えば計測期間内の通過車両の台数、通過車両の重量及び通過車両の速度等である。
【0009】
以下の説明では、構造物の一例としてコンクリートで構成された橋梁を例に説明するが、構造物は橋梁に限定される必要はない。構造物は、亀裂の発生または進展、あるいは外的衝撃(例えば雨、人工雨など)に伴い弾性波が発生する構造物であればどのようなものであってもよい。例えば、構造物は、岩盤であってもよい。なお、橋梁は、河川や渓谷等の上に架設される構造物に限らず、地面よりも上方に設けられる種々の構造物(例えば高速道路の高架橋)なども含む。
以下、車両情報推定システム100の具体的な構成について説明する。
【0010】
車両情報推定システム100は、複数のセンサ10-1~10-n(nは1以上の整数)及び信号処理部20を備える。複数のセンサ10-1~10-nそれぞれと信号処理部20とは、有線により通信可能に接続される。なお、以下の説明では、センサ10-1~10-nを区別しない場合にはセンサ10と記載する。
【0011】
センサ10は、構造物11内部から発生する弾性波13を検出する。センサ10は、弾性波13を検出することが可能な位置に設置される。例えば、センサ10は、構造物11に対して荷重がかかる面と異なる面上に設置される。荷重がかかる面が、構造物11の表面(以下「路面」という。)である場合、センサ10は構造物11の側面及び底面のいずれかの面上に設置される。センサ10は、検出した弾性波13を電気信号に変換する。以下の説明では、センサ10が、構造物11の底面に設置されている場合を例に説明する。
【0012】
センサ10には、例えば10kHz~1MHzの範囲に感度を有する圧電素子が用いられる。センサ10は、周波数範囲内に共振ピークをもつ共振型、共振を抑えた広帯域型等の種類があるが、センサ10の種類はいずれでもよい。センサ10が弾性波13を検出する方法は、電圧出力型、抵抗変化型及び静電容量型等があるが、いずれの検出方法でもよい。
【0013】
センサ10に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、構造物11内部で発生する弾性波13を検出する。そして、加速度センサは、センサ10と同様の処理を行うことによって、検出した弾性波13を電気信号に変換する。
【0014】
信号処理部20は、センサ10から出力された電気信号を入力とする。信号処理部20は、入力した電気信号に対して信号処理を行う。信号処理部20が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、パラメータ抽出、通過車両に関する情報の推定等である。信号処理部20は、アナログ回路又はデジタル回路を用いて構成される。デジタル回路は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やマイクロコンピュータにより実現される。デジタル回路は、専用のLSI(Large-Scale Integration)により実現されてもいい。また信号処理部20は、フラッシュメモリ等の不揮発メモリや、取り外し可能なメモリを搭載してもよい。信号処理部20は、車両情報推定装置の一態様である。
【0015】
図1に示すように、構造物11上を車両12が通過した際、車両12のタイヤと路面との接触により、路面に対して荷重がかかる。荷重によるたわみにより、多数の弾性波13が構造物11内に発生する。構造物11下面に設置されたセンサ10は、構造物11内で発生した弾性波を検出することができる。
【0016】
図2は、車両12の通過によりセンサ10で検出される一般的な弾性波の分布を示す図である。図2に示す複数の点25は、計測期間(図2では、0~15秒)内にセンサ10により検出された弾性波を示す。図2を見ると分かるように、車両12が通過するたびに、円26で囲まれるように大量の弾性波が発生している。この大量の弾性波は、比較的短い期間で発生した弾性波である。以下、このように比較的短い期間で発生した弾性波を1イベントに含まれる弾性波とみなすものとする。この比較的短い期間は、例えば車間距離に基づいて定められる。具体的な内容については後述する。ここで、イベントとは、上記のように比較的短い期間で得られた複数の弾性波をひとまとまりとしたグループである。本実施形態においてこの大量の弾性波のひとまとまり(円26で示すひとまとまり)を1つのグループとして数えることで、弾性波のみから通過車両の台数が推定できる。例えば、図2の例では、弾性波のまとまりが12個あるため、12個のグループとして数えることで、計測期間内に12台の車両12が通過したと推定することができる。
【0017】
ここで、グループ毎に、検出される弾性波の振幅の大きさが異なるのは、通過車両の大きさが異なるためである。大型車両であるほど、構造物11にかかる荷重が増える。そのため、振幅が大きく、かつ、多数の弾性波が発生する。このように、図2に示す弾性波の分布を見ることで、通過車両の台数だけでなく、通過車両の大きさ、すなわち重量も推定することができる。
第1の実施形態では、信号処理部20において通過車両の台数を推定する具体的な構成について説明する。
【0018】
図3は、第1の実施形態における信号処理部20の機能を表す概略ブロック図である。信号処理部20は、増幅器201、A/D変換器202、波形整形フィルタ203、ゲート生成回路204、到達時刻決定部205、特徴量抽出部206、データ記録部207、メモリ208、除去部209、イベント抽出部210及び車両数推定部211を備える。
【0019】
増幅器201は、センサ10から出力された弾性波を増幅し、増幅後の弾性波をA/D変換器202に出力する。増幅器201は、例えば弾性波を所定量(例えば、10倍~100倍)増幅する。
A/D変換器202は、増幅された弾性波を量子化してデジタル信号に変換する。A/D変換器202は、デジタル信号を波形整形フィルタ203に出力する。
【0020】
波形整形フィルタ203は、入力されたデジタル信号から所定の帯域外のノイズ成分を除去する。波形整形フィルタ203は、例えばデジタルバンドパスフィルタ(BPF)である。波形整形フィルタ203は、ノイズ成分除去後のデジタル信号(以下「ノイズ除去信号」という。)をゲート生成回路204、到達時刻決定部205及び特徴量抽出部206に出力する。
【0021】
ゲート生成回路204は、波形整形フィルタ203から出力されたノイズ除去信号を入力とする。ゲート生成回路204は、入力したノイズ除去信号に基づいてゲート信号を生成する。ゲート信号は、ノイズ除去信号の波形が持続しているか否かを示す信号である。
【0022】
ゲート生成回路204は、例えばエンベロープ検出器及びコンパレータにより実現される。エンベロープ検出器は、ノイズ除去信号のエンベロープを検出する。エンベロープは、例えばノイズ除去信号を二乗し、二乗した出力値に対して所定の処理(例えばローパスフィルタを用いた処理やヒルベルト変換)を行うことで抽出される。コンパレータは、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0023】
ゲート生成回路204は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上となった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していることを示す第1のゲート信号を到達時刻決定部205及び特徴量抽出部206に出力する。一方、ゲート生成回路204は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値未満になった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していないことを示す第2のゲート信号を到達時刻決定部205及び特徴量抽出部206に出力する。
【0024】
到達時刻決定部205は、波形整形フィルタ203から出力されたノイズ除去信号と、ゲート生成回路204から出力されたゲート信号とを入力とする。到達時刻決定部205は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたノイズ除去信号を用いて、弾性波到達時刻を決定する。到達時刻決定部205は、決定した弾性波到達時刻を時刻情報としてデータ記録部207に出力する。到達時刻決定部205は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。弾性波到達時刻は、弾性波の取得時刻に相当する。
【0025】
特徴量抽出部206は、波形整形フィルタ203から出力されたノイズ除去信号と、ゲート生成回路204から出力されたゲート信号とを入力とする。特徴量抽出部206は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたノイズ除去信号を用いて、ノイズ除去信号の特徴量を抽出する。特徴量抽出部206は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。特徴量は、ノイズ除去信号の特徴を示す情報である。
【0026】
特徴量は、例えば波形の振幅[mV]、波形の立ち上がり時間[usec]、ゲート信号の持続時間[usec]、ゼロクロスカウント数[times]、波形のエネルギー[arb.]、周波数[Hz]及びRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値等である。特徴量抽出部206は、抽出した特徴量に関するパラメータをデータ記録部207に出力する。特徴量抽出部206は、特徴量に関するパラメータを出力する際に、特徴量に関するパラメータにセンサIDを対応付ける。センサIDは、構造物11に設置されているセンサ10を識別するための識別情報を表す。
【0027】
波形の振幅は、例えばノイズ除去信号の中で最大振幅の値である。波形の立ち上がり時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始からノイズ除去信号が最大値に達するまでの時間T1である。ゲート信号の持続時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線をノイズ除去信号が横切る回数である。
【0028】
波形のエネルギーは、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。周波数は、ノイズ除去信号の周波数である。RMS値は、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗して平方根により求めた値である。
【0029】
データ記録部207は、センサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを入力とする。データ記録部207は、入力したセンサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを含む弾性波データをメモリ208に記録する。例えば、データ記録部207は、取得した順に弾性波データをメモリ208に記録してもよいし、時刻情報に基づいて弾性波データを時系列順にメモリ208に記録してもよい。
【0030】
メモリ208は、1以上の弾性波データを記憶する。メモリ208は、例えばデュアルポートRAM(Random Access Memory)である。1つの弾性波データは、1つの弾性波により得られるデータである。
【0031】
除去部209は、メモリ208に記憶されている弾性波データを読み出し、読み出した弾性波のうち、振幅の値が閾値未満の弾性波データを除去する。例えば、除去部209は、振幅の値が50dB未満の弾性波データを除去する。一方で、除去部209は、読み出した弾性波のうち、振幅の値が閾値以上の弾性波データをイベント抽出部210に出力する。なお、閾値は、適宜設定されてもよい。このように振幅の低いものを除去することで、センサ10によって検出された小さいノイズを除去し、個々の車両12の分離性を向上させることができる。例えば、図2に示すように振幅の値が50dB未満の弾性波データを除去することで、グループ毎の分離が可能になり、通過車両の台数の推定精度を向上させることができる。以下、振幅の値が閾値未満の弾性波データを低振幅の弾性波データと記載する。
【0032】
イベント抽出部210(分類部)は、除去部209から出力された複数の弾性波データの中から1イベントにおける弾性波データを抽出する。具体的には、イベント抽出部210は、弾性波の取得時刻に応じて、複数の弾性波データを複数のグループに分類することによって、複数の弾性波データの中からイベント毎の弾性波データを抽出する。イベント抽出部210は、抽出したイベント毎の弾性波データを車両数推定部211に出力する。
【0033】
車両数推定部211は、イベント抽出部210によって出力されたイベント毎の弾性波データを用いて通過車両の台数を推定する。より具体的には、車両数推定部211は、イベント数(グループ数)を計算し、計算した結果を通過車両の台数として推定する。このように、車両数推定部211は、複数のセンサ10それぞれによって検出された複数の弾性波を用いて通過車両の台数を推定する。
【0034】
図4は、第1の実施形態における信号処理部20が行う台数推定処理の流れを示す図である。図4に示す処理は、台数推定処理の実行指示がなされた場合に実行される。なお、図4の処理開始時には、メモリ208には計測期間内に検出された複数の弾性波データが記憶されているものとする。
除去部209は、メモリ208に記憶されている弾性波データを取得する(ステップS101)。例えば、除去部209は、メモリ208に記憶されている複数の弾性波データを時系列順に取得する。除去部209は、取得した弾性波データのうち低振幅の弾性波データを除去する(ステップS102)。除去部209は、振幅の値が閾値以上の弾性波データをイベント抽出部210に出力する。
【0035】
イベント抽出部210は、除去部209から弾性波データが得られると、1つのイベント抽出を開始する(ステップS103)。まず、イベント抽出部210は、除去部209から出力された弾性波データを取得する(ステップS104)。次に、イベント抽出部210は、取得した弾性波データと、1つ前に取得した弾性波データとの取得時刻の間隔がT以上開いているか否かを判定する(ステップS105)。Tは、予め設定される値であり、例えば数百mm秒である。なお、処理開始時には、1つ前の弾性波データが無いため、その場合にはイベント抽出部210は取得時刻の間隔がT以上開いていないと判定する。
【0036】
Tは、車間距離に基づいて設定されてもよい。具体的には、間隔Tの最大値は、車間距離と、車両速度と、車両12の通過後の弾性波発生が収まるまでの時間とに応じて設定されてもよい。車両は、一般的に路面を走行する際、前を走行している車両と一定の間隔をあけて走行する。これにより、車両間にある程度距離が開く。そのため、1台の車両が通過して、後ろの車両が通過するまでに多少の時間がある。そのため、同一のセンサ10において、1台の車両が通過したことにより発生した弾性波と、2台目の車両が通過したことにより発生した弾性波との取得時刻にはある程度の差ができる。そこで、一般的に想定される車間距離に応じて間隔Tを設定することで他の車両の通過により発生した弾性波を同一のグループに含めないことができる。
【0037】
取得時刻の間隔がT以上開いていない場合(ステップS105-NO)、イベント抽出部210は弾性波データを1つのイベントに含める(ステップS106)。その後、ステップS104の処理が実行される。
一方、取得時刻の間隔がT以上開いている場合(ステップS105-YES)、イベント抽出部210は1つのイベント抽出を終了する(ステップS107)。
【0038】
イベント抽出部210は、イベント抽出部210から出力された1イベントの情報に含まれる弾性波データの数がM以上であるか否かを判定する(ステップS108)。Mは、予め設定される値であり、例えば5である。Mの値は、ノイズを除去するために設定される値である。1イベントの情報に含まれる弾性波データの数がM未満である場合(ステップS108-NO)、イベント抽出部210は抽出した1イベントの情報に含まれる弾性波データを削除する。これは、1イベントの情報に含まれる弾性波データの数がM未満である場合には、ノイズの可能性があるためである。
【0039】
1イベントの情報に含まれる弾性波データの数がM以上である場合(ステップS108-YES)、イベント抽出部210は抽出した1イベントの情報を車両数推定部211に出力する。その後、イベント抽出部210は、終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS110)。終了条件は、イベントの抽出を終了するための条件である。例えば、終了条件は、計測期間内に取得された弾性波データが終了することであってもよいし、計測期間が経過したことであってもよい。終了条件を満たす場合(ステップS110-YES)、車両数推定部211はイベント抽出部210から出力された1イベントの情報に基づいて通過車両の台数を推定する(ステップS111)。具体的には、車両数推定部211は、1イベントの情報の総数を、通過車両の台数として推定する。
【0040】
終了条件を満たさない場合(ステップS110-NO)、信号処理部20はステップS103以降の処理を繰り返し実行する。このステップS103からステップS110までの処理が繰り返し実行されることで複数のイベント抽出が行われる。すなわち、複数のグループが抽出されることになる。
【0041】
以上のように構成された車両情報推定システム100によれば、センサ10によって検出された弾性波を用いて、構造物11を通過した車両の台数を推定する。そのため、異なる計測結果を比較するために計測対象の場所を走行する車両に関する情報を推定することができる。これにより、異なる構造物11で計測された弾性波データ同士を、通過車両の台数により正規化することで比較することができる。
【0042】
第1の実施形態の変形例について説明する。
上述した実施形態では、信号処理部20が、イベントの数に応じて通過車両の台数を推定する構成を示した。これに対して、信号処理部20は、他の手法を用いて通過車両の台数を推定してもよい。このように構成される場合、信号処理部20は、イベント抽出部210を備えなくてもよい。信号処理部20は、図5に示すように、一定時間当たりのヒット数の推移に基づいて通過車両の台数を推定してもよい。ヒット数とは、センサ10による弾性波の検出回数を表す。すなわち、1つのセンサ10で弾性波が1回検出されると1ヒットとなる。図5において、縦はヒット数を表し、横軸は時間を表す。車両数推定部211は、除去部209から出力された複数の弾性波データを用いて、弾性波の取得時刻に応じたヒット数の推移を表すグラフを生成する。その後、車両数推定部211は、生成したグラフにおいて包絡線を検出し、検出した包絡線のピークをカウントすることで通過車両の台数を推定する。
図5に示すグラフは、図2に比べると精度は劣化するものの、おおよその台数は推定することができる。
【0043】
信号処理部20は、弾性波から得られる他の特徴量を用いてヒット数と同様に通過車両の台数を推定するように構成されても良い。この場合も、信号処理部20は、イベント抽出部210を備えなくてもよい。他の特徴量は、弾性波から得られる特徴であり、例えば、振幅、振幅やエネルギーの時間当りの総和(時間当りの積分値)等である。ここで、時間当りの総和は、計測時間の総和ではなく、計測時間内のある時間(例えば、0.1秒)毎に得られた特徴量の総和である。この場合、車両数推定部211は、弾性波から得られる特徴量の推移を表すグラフ(横軸を時間、縦軸を特徴量)を生成して、生成したグラフにおいて包絡線を検出し、検出した包絡線のピークをカウントすることで通過車両の台数を推定する。例えば、特徴量として時間当りの総和が用いられる場合、車両数推定部211は、計測時間内において時間当りに得られる総和の値を取得する。車両数推定部211は、取得した総和の値を用いてグラフを生成し、生成したグラフにおいて包絡線を検出し、検出した包絡線のピークをカウントすることで通過車両の台数を推定する。この際生成されるグラフの横軸は時間であり、縦軸は時間あたりに得られる総和の値となる。
信号処理部20は、時間当たりの総和以外でも、例えば、図2のような個々の特徴量(例えば、振幅等)の値をプロットしたグラフの包絡線を抽出したものを用いても良い。車両数推定部211は、得られたグラフからピークを検出してカウントすることで通過車両の台数を推定することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、通過車両の台数に加えて、通過車両の重量及び速度を推定する構成について説明する。第2の実施形態では、車両情報推定システム100に備えられるセンサ10は、2以上である。
図6は、第2の実施形態における信号処理部20aの機能を表す概略ブロック図である。信号処理部20aは、増幅器201、A/D変換器202、波形整形フィルタ203、ゲート生成回路204、到達時刻決定部205、特徴量抽出部206、データ記録部207、メモリ208、除去部209、イベント抽出部210、車両数推定部211、重量推定部212及び速度推定部213を備える。
信号処理部20aは、重量推定部212及び速度推定部213を新たに備える点で信号処理部20と構成が異なる。信号処理部20aは、他の構成については信号処理部20と同様である。そのため、信号処理部20a全体の説明は省略し、重量推定部212及び速度推定部213について説明する。
【0045】
重量推定部212は、イベント抽出部210によって出力されたイベント毎の弾性波データの数に基づいて通過車両の重さを推定する。イベントに含まれる弾性波データ数は、通過車両の重量が大きいほど多くなる。そのため、イベント内の弾性波データ数を指標として、通過車両の重量、及び、構造物11の計測箇所への負荷を推定することができる。重量推定部212は、弾性波データ数と、車両の重量とを対応付けた第1のテーブルを保持し、1イベントの情報に含まれる弾性波データ数に対応する重量の値を通過車両の重量と推定する。さらに、重量推定部212は、重量が大きいほど通過車両による構造物11の計測箇所への負荷が高いと推定してもよい。なお、重量推定部212は、弾性波データ数と、車両の種別(大型車、中型車等)とを対応付けた第2のテーブルを保持し、1イベントの情報に含まれる弾性波データ数に対応する車両の種別の値を通過車両の種別と推定してもよい。
【0046】
速度推定部213は、複数のセンサ10それぞれによって検出された複数の弾性波の時系列データと、複数のセンサ10の設置間隔とに基づいて通過車両の速度を推定する。速度推定部213の具体的な推定方法について図7及び図8を用いて説明する。
【0047】
図7には、構造物11に設置された複数のセンサ10の配置例が示されている。図7に示す例では、センサ10-1~10-18が、構造物11の下面であって、車両12の進行方向に6列18個設置されている。各センサ10の枝番は、センサの使用しているチャネルを表す。すなわち、各センサ10は、異なるチャネルを使用している。車両12の進行方向のセンサ間隔はDである。車両1台分の通過時の弾性波のデータを図8に示す。図8に示すように、車両12が各センサ10の真上に来たと推測されるタイミングで、各センサ10で検出される弾性波がピークを持っており、ピークが順次、次の列のセンサ10へ移行していくのが見て取れる。図8に示す弾性波のデータより、各センサ10列で得られたピークのタイミングを取得し、そのピークの推移が、車両12の通行として妥当なタイミングを持っているかを確認することにより、各イベントが車両12通過によるものかを判断することができ、通過車両の台数推定の精度を上げることができる。速度推定部213は、センサ10列の設置間隔と、ピークの推移速度とに基づいて通過車両の速度を推定する。
【0048】
以上のように構成された第2の実施形態における車両情報推定システム100によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
さらに、第2の実施形態における車両情報推定システム100では、通過車両の台数推定に加えて、他の通過車両に関する情報を推定することができる。このように、通過車両の重量や通行速度を指標として導入することにより、更に精密な比較が可能となる。
【0049】
第2の実施形態の変形例について説明する。
第2の実施形態における車両情報推定システム100は、第1の実施形態と同様に変形されてもよい。
車両数推定部211は、重量推定部212からイベント毎に推定された重量の情報を取得し、特定の重量範囲の通過車両の台数を推定するように構成されてもよい。
【0050】
上記の実施形態では、重量推定部212が、1イベントの情報に含まれる弾性波の数に応じて通過車両の重量を推定する構成を示した。重量推定部212は、1イベントの情報に含まれる弾性波データの大きさに基づいて通過車両の重量を推定するように構成されてもよい。ここで、1イベントの情報に含まれる弾性波データの大きさとは、例えば弾性波の特徴量のピークの値や、ヒット数のピークの値である。弾性波の特徴量が振幅であれば振幅の最大値がピークの値であり、弾性波の特徴量が振幅やエネルギーの時間当りの総和であれば時間当りの総和の値がピークの値となる。となる。このように構成される場合、重量推定部212は、弾性波の特徴量又はヒット数のピークの値と、車両の重量とを対応付けた第3のテーブルを保持し、1イベントの情報に含まれる弾性波の特徴量又はヒット数のピークの値に対応する重量の値を通過車両の重量と推定する。重量推定部212は、弾性波の特徴量又はヒット数のピークの値と、車両の種別とを対応付けた第4のテーブルを保持し、1イベントの情報に含まれる弾性波の特徴量又はヒット数のピークの値に対応する車両の種別の値を通過車両の種別と推定してもよい。
【0051】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、推定された通過車両の台数を用いて、計測結果を補正し、異なる計測結果と比較する構成について説明する。第3の実施形態において計測結果とは、弾性波の発生源である弾性波源の密度が表された弾性波源密度分布を表すものとする。異なる計測結果とは、同じ構造物11の別の箇所で得られた計測結果であってもよいし、異なる構造物11で得られた計測結果であってもよい。
【0052】
図9は、第3の実施形態における車両情報推定システム100bの構成を示す図である。
車両情報推定システム100bは、複数のセンサ10-1~10-n(第3の実施形態においては、nは3以上の整数)、信号処理部20b及び構造物評価装置30を備える。複数のセンサ10それぞれと信号処理部20bとは、有線により通信可能に接続される。信号処理部20bと構造物評価装置30とは、有線により通信可能に接続される。
【0053】
第3の実施形態では、信号処理部20に代えて信号処理部20bが備えられ、構造物評価装置30が新たに追加されている。
信号処理部20bは、基本的な処理は第1の実施形態と同様である。信号処理部20bは、イベントの情報と、イベント毎の通過車両の台数の情報とを含む送信データを生成し、生成した送信データを構造物評価装置30に送信する。
【0054】
構造物評価装置30は、通信部31、制御部32、記憶部33及び表示部34を備える。
通信部31は、信号処理部20bから出力された送信データを受信する。
制御部32は、構造物評価装置30全体を制御する。制御部32は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部32は、プログラムを実行することによって、取得部321、位置標定部322、分布生成部323、補正部324及び評価部325として機能する。
【0055】
取得部321、取得部321、位置標定部322、分布生成部323、補正部324及び評価部325の機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGAなどのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0056】
取得部321、位置標定部322、分布生成部323、補正部324及び評価部325の機能の一部は、予め構造物評価装置30に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが構造物評価装置30にインストールされることで実現されてもよい。
【0057】
取得部321は、各種情報を取得する。例えば、取得部321は、通信部31によって受信された送信データを取得する。取得部321は、取得した送信データを記憶部33に保存する。
位置標定部322は、センサ位置情報と、送信データそれぞれに含まれるセンサID及び時刻情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う。
【0058】
センサ位置情報には、センサIDに対応付けてセンサ10の設置位置に関する情報が含まれる。センサ位置情報は、例えば緯度および経度、あるいは構造物11の基準となる位置からの水平方向および垂直方向の距離などのセンサ10の設置位置に関する情報を含む。位置標定部322は、センサ位置情報を予め保持している。センサ位置情報は、位置標定部322が弾性波源の位置標定を行う前であればどのタイミングで位置標定部322に記憶されてもよい。
【0059】
センサ位置情報は、記憶部33に記憶されていてもよい。この場合、位置標定部322は、位置標定を行うタイミングで記憶部33からセンサ位置情報を取得する。弾性波源の位置の標定には、カルマンフィルタ、最小二乗法などが用いられてもよい。位置標定部322は、計測期間中に得られた弾性波源の位置情報を分布生成部323に出力する。
【0060】
分布生成部323は、位置標定部322から出力された複数の弾性波源の位置情報を入力とする。分布生成部323は、入力した複数の弾性波源の位置情報を用いて、弾性波源分布を生成する。弾性波源分布は、弾性波源の位置が示された分布を表す。より具体的には、弾性波源分布は、横軸を通行方向の距離とし、縦軸を幅方向の距離として、評価対象となる構造物11を表した仮想的なデータ上において弾性波源の位置を示す点が示された分布である。分布生成部323は、弾性波源分布を用いて弾性波源密度分布を生成する。例えば、分布生成部323は、弾性波源の位置をコンター図で表すことによって弾性波源密度分布を生成する。
【0061】
補正部324は、通過車両の台数と、比較対象となる構造物で得られた通過車両の台数比較台数との比に基づく補正値を用いて弾性波源密度分布を補正する。
【0062】
評価部325は、補正後の弾性波源密度分布と、比較対象となる構造物で得られた弾性波源密度分布とを用いて各構造物11の劣化状態を評価する。例えば、評価部325は、補正後の弾性波源密度分布と、比較対象となる構造物で得られた弾性波源密度分布とを比較して、損傷している割合を算出してもよい。評価部325は、弾性波源の密度が閾値以上の領域を健全な領域と評価し、弾性波源の密度が閾値未満の領域を損傷領域と評価する。評価部325は、各弾性波源密度分布で損傷領域の割合を算出してもよい。
【0063】
記憶部33は、取得部321によって取得された送信データ及び計測結果を記憶する。記憶部33は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。記憶部33には、比較対象となる構造物11で事前に取得された送信データ及び計測結果が記憶されていてもよい。
【0064】
表示部34は、評価部325の制御に従って評価結果を表示する。表示部34は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部34は、画像表示装置を構造物評価装置30に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部34は、評価結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0065】
図10は、第3の実施形態における信号処理部20bの機能を表す概略ブロック図である。信号処理部20bは、増幅器201、A/D変換器202、波形整形フィルタ203、ゲート生成回路204、到達時刻決定部205、特徴量抽出部206、データ記録部207、メモリ208、除去部209、イベント抽出部210、車両数推定部211、送信データ生成部214及び出力部215を備える。
信号処理部20bは、送信データ生成部214を新たに備える点で信号処理部20と構成が異なる。信号処理部20bは、他の構成については信号処理部20と同様である。そのため、信号処理部20b全体の説明は省略し、送信データ生成部214について説明する。
【0066】
送信データ生成部214は、イベント抽出部210から出力されたイベントの情報と、車両数推定部211から出力されたイベント毎の通過車両の台数の情報とを含む送信データを生成する。送信データ生成部214は、生成した送信データを出力部307に出力する。
出力部307は、送信データ生成部214から出力された送信データを構造物評価装置30に逐次出力する。
【0067】
次に、第3の実施形態における構造物評価装置30の具体的な処理について図11を用いて説明する。図11は、第3の実施形態における構造物評価装置30の具体的な処理を説明するための図である。
図11(A)及び図11(B)は、2つの異なる計測結果である。図11(A)及び図11(B)は、ともに1時間の計測により得られた弾性波のデータから導出した弾性波源密度分布である。ここでは、図11(A)及び図11(B)に示す弾性波源密度分布はそれぞれ、車両情報推定システム100bにおける構造物評価装置30において導出されているものとする。弾性波源密度分布において密度が低いほど、弾性波伝搬を妨げるようなひび割れ等の劣化が進んでいると考えられる。得られた弾性波データを同じ基準で弾性波源密度分布として表示すると、図11(B)の方が図11(A)に比べて密度が大幅に低い。そのため、構造物評価装置30において評価を行った場合、図11(B)における構造物11の方が図11(A)における構造物11に比べて劣化が進んでいると評価されることになる。
【0068】
図11(C)及び(D)は、それぞれの弾性波の時系列データを一部抜粋したグラフを示す。具体的には、図11(C)は図11(A)における構造物11において得られた弾性波の時系列データを示し、図11(D)は図11(B)における構造物11において得られた弾性波の時系列データを示す。図11(C)及び(D)を見ると、図11(C)の方が図11(D)に比べて車両の通過が多いことが分かる。信号処理部20bにおいて、それぞれの計測期間の通過車両の総台数を推定すると、図11(C)で879台、図11(D)で100台となった。したがって、同じ基準で比較するには、それぞれの弾性波源密度分布を車両台数で割る等の処理を行い、基準を揃える必要がある。図11の例では、図11(A)を基準とし、図11(B)に対して、通過車両数比である879/100を乗じて補正を行った。図11(B)の補正後の分布が図11(F)である。図11(E)に示す弾性波源密度分布と、図11(F)に示す弾性波源密度分布とを比較すると、どちらも同程度の弾性波源の密度が得られており、同程度の劣化度合と判断できる。
【0069】
車両情報推定システム100bの処理の流れの一例について説明する。ここでは、第1の構造物11に設置されるセンサ10(以下「第1のセンサ」という)と、第2の構造物11に設置されるセンサ10(以下「第2のセンサ」という)とが異なるものとする。
第1のセンサは、計測期間の間、検出された弾性波を信号処理部20bに出力する。信号処理部20bは、第1のセンサから計測期間中に得られた弾性波を用いて通過車両の台数を推定する。そして、信号処理部20bは、イベントの情報と、イベント毎の通過車両の台数の情報とを含む第1の送信データを生成し、生成した第1の送信データを構造物評価装置30に送信する。
【0070】
第2のセンサは、計測期間の間、検出された弾性波を信号処理部20bに出力する。信号処理部20bは、第2のセンサから計測期間中に得られた弾性波を用いて通過車両の台数を推定する。そして、信号処理部20bは、イベントの情報と、イベント毎の通過車両の台数の情報とを含む第2の送信データを生成し、生成した第2の送信データを構造物評価装置30に送信する。
【0071】
構造物評価装置30の取得部321は、第1の送信データ及び第2の送信データを記憶部33に記憶させる。位置標定部322は、センサ位置情報と、第1の送信データに含まれるセンサID及び時刻情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う。分布生成部323は、位置標定部322から出力された複数の弾性波源の位置情報に基づいて第1の弾性波源分布を生成する。分布生成部323は、生成した第1の弾性波源分布を用いて第1の弾性波源密度分布を生成する。
【0072】
位置標定部322は、センサ位置情報と、第2の送信データに含まれるセンサID及び時刻情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う。分布生成部323は、位置標定部322から出力された複数の弾性波源の位置情報に基づいて第2の弾性波源分布を生成する。分布生成部323は、生成した第2の弾性波源分布を用いて第2の弾性波源密度分布を生成する。補正部324は、第1の送信データに含まれる通過車両の台数と、第2の送信データに含まれる通過車両の台数との比に基づく補正値を算出する。例えば、補正部324は、第1の送信データに含まれる通過車両の台数を、第2の送信データに含まれる通過車両の台数で除算した値を補正値として算出する。補正部324は、算出した補正値で第2の弾性波源密度分布を補正する。具体的には、補正部324は、第2の弾性波源密度分布の各画素値に対して、算出した補正値を乗算することで補正する。評価部325は、第1の弾性波源密度分布と、第2の弾性波源密度分布とを表示部34に表示させる。
【0073】
以上のように構成された第3の実施形態における車両情報推定システム100bによれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
さらに、第3の実施形態における車両情報推定システム100bでは、通過車両の台数に基づいて弾性波源密度分布を補正することができる。これにより、通過台数等の条件が異なる場所同士を比較する際に、評価基準を合わせることができる。そのため、同じ条件で異なる計測結果を比較することができる。
【0074】
第3の実施形態の変形例について説明する。
第3の実施形態における車両情報推定システム100bは、第1の実施形態と同様に変形されてもよい。
車両情報推定システム100bは、第2の実施形態のように重量推定部212及び速度推定部213を備えてもよい。
【0075】
第1の実施形態~第3の実施形態に共通する変形例について説明する。
上記の各実施形態では、弾性波データを一度メモリ208に記憶させ、推定処理の実行指示がなされた場合に実行される構成を示したが、リアルタイムに推定処理を実行するように構成されてもよい。このように構成される場合、除去部209は、メモリ208に弾性波データが記録される度に読み出す。弾性波データを読み出した後の処理は、図4に示す処理と同様であるため省略する。
【0076】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、構造物より発生した複数の弾性波を検出する複数のセンサ10と、複数のセンサ10それぞれによって検出された複数の弾性波を用いて、構造物の通過車両の台数を推定する車両数推定部211とを持つことにより、異なる計測結果を比較するために交通状態を推定することができる。
【0077】
上述した実施形態における信号処理部20が行う一部の処理(例えば、車両数推定部211が行う台数推定処理、重量推定部212が行う重量推定処理及び速度推定部213が行う速度推定処理)をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
10-1~10-n…センサ,20、20a、20b…信号処理部,30…構造物評価装置,31…通信部,32…制御部,33…記憶部,34…表示部,201…増幅器,202…A/D変換器,203…波形整形フィルタ,204…ゲート生成回路,205…到達時刻決定部,206…特徴量抽出部,207…データ記録部,208…メモリ,209…除去部,210…イベント抽出部,211…車両数推定部,212…重量推定部,213…速度推定部,214…送信データ生成部,321…取得部,322…位置標定部,323…分布生成部,324…補正部,325…評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11