IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7480020超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ
<>
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図1
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図2
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図3
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図4
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図5
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図6
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図7
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図8
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図9
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図10
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図11
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図12
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図13
  • 特許-超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダ
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/26 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
G01N29/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020179999
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070757
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】吉田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】結城 喬
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
(72)【発明者】
【氏名】千星 淳
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108523(JP,A)
【文献】特開2016-156692(JP,A)
【文献】特開2017-067589(JP,A)
【文献】特開2013-088346(JP,A)
【文献】特開2011-027423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン本体にピン接合するためのピン孔を1つ以上有するタービン翼のフォーク部に対し、超音波素子を複数備えた超音波アレイプローブを、3次元曲面をもつ翼立上り面であるプラットフォーム部に音響媒質を介して設置し探傷するにあたり、
前記ピン孔の長手方向中心部における任意の1点である探傷点と前記プラットフォーム部の所望位置である入射点を通り、その間でフォーク部軸方向側壁に交わらない直線である基準音線を定義するステップと、
前記基準音線と前記プラットフォーム部の成す角である探傷屈折角および前記タービン翼の素材の音速および前記音響媒質の音速からスネルの法則に従って導かれる角度である入射角で前記入射点を起点に前記音響媒質中に伸びる半直線である入射音線を定義するステップと、
前記入射音線との成す角が、所定の角度誤差以内で直交するように、前記超音波アレイプローブの探傷面を配置するプローブ配置位置を求めるステップと
を具備したことを特徴とする超音波探傷用プローブ配置の設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法であって、
前記所定の角度誤差が、用いる超音波が縦波の場合±10°、横波の場合±20°であることを特徴とする超音波探傷用プローブ配置の設計方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法であって、
前記入射音線と、前記超音波アレイプローブの探傷面の交点が、前記超音波アレイプローブの探傷面のうち前記超音波アレイプローブの素子が存在する位置に配置されることを特徴とする超音波探傷用プローブ配置の設計方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法であって、
前記タービン翼の前記ピン孔は、車軸側最外周に位置し、かつ軸方向両端に位置することを特徴とする超音波探傷用プローブ配置の設計方法。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法であって、
前記タービン翼のフォーク部の中心をとおるフォーク部中心面と、前記プラットフォーム部の交わる座標よりも、前記入射点が車軸の軸方向外側へ配置されていることを特徴とする超音波探傷用プローブ配置の設計方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法であって、
前記基準音線が、フォーク部周方向側壁に1回以上反射して形成されることを特徴とする超音波探傷用プローブ配置の設計方法。
【請求項7】
タービン本体にピン接合するためのピン孔を1つ以上有するタービン翼のフォーク部に対し、超音波素子を複数備えた超音波アレイプローブを、3次元曲面をもつ翼立上り面であるプラットフォーム部に音響媒質を介して設置し探傷するタービン翼の検査方法であって、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法によって求めた前記プローブ配置位置に、前記超音波アレイプローブの探傷面を配置して探傷を行う
ことを特徴とするタービン翼の検査方法。
【請求項8】
請求項7に記載のタービン翼の検査方法であって、
前記超音波アレイプローブから生ぜられる超音波を用いて、前記超音波アレイプローブが正対している前記プラットフォーム部の、前記超音波アレイプローブからの距離、前記超音波アレイプローブに対する傾き、形状の1つ以上を取得し、求めた前記プローブ配置位置に前記超音波アレイプローブが配置されているか否かを判定することを特徴とするタービン翼の検査方法。
【請求項9】
タービン本体にピン接合するためのピン孔を1つ以上有するタービン翼のフォーク部に対し、超音波素子を複数備えた超音波アレイプローブを、3次元曲面をもつ翼立上り面であるプラットフォーム部に音響媒質を介して設置し探傷する前記タービン翼の検査に用いるプローブホルダであって
前記超音波アレイプローブ及び前記音響媒質を保持し、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の超音波探傷用プローブ配置の設計方法によって求めた前記プローブ配置位置に、前記超音波アレイプローブの探傷面を配置可能に構成された
ことを特徴とするプローブホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷試験は、非破壊で構造材の表面および内部の健全性を確認できる技術であり、様々な分野で欠かせない検査技術となっている。小型の超音波送受信用圧電素子を並べ、圧電素子ごとにタイミング(遅延時間)をずらして超音波発信することにより任意の波形を形成できるフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)などは、所定の角度しか超音波を発信できない単眼プローブに比べて複雑形状に対応できる可能性があり、作業工数低減の観点からも広く使われてきている。
【0003】
主に火力や原子力といった大型発電機器のタービンは、大型ロータに羽根が植え込まれた構造となっている。長期間の使用による、疲労き裂や応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)と言った、安全に大きな影響を与える欠陥は確実に早い段階で検出しなければならない。特に最終段落のような大型翼は、羽根のルート部をフォーク状としてタービンに植え込み、ピンで固定するタイプが安全性の観点から多く使われている。その場合、最外周のピン周りに欠陥が集中するため、当該部分を確実に検査する必要がある。
【0004】
タービン翼の検査は、確実を期すのであれば全数をロータから抜き取り、一つ一つをMT(磁粉探傷試験)やPT(浸透探傷試験)などの表面検査技術で検査しなければならない。しかし、その場合点検に多くの時間を要すること、分解による新たな不具合の発生などデメリットが少なくない。そこで、タービンに羽根を植え込んだまま検査する手法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、電子スキャンが可能なフェーズドアレイUT技術の特長を生かして、1点に設置したセンサを用いてフォーク翼を植え込んだまま検査する手法を提案している。しかし、植え込んだ状態で露出しているフォーク翼表面部は、曲率を有する部分が大半を占めている。タング部など、平面状の部位は存在するが限定的であり、入射点を平面部に限ると超音波の到達範囲が大きく制限される。当該文献では、平面以外の部分から超音波を照射する特段の工夫について記されておらず、上述したピン孔最外周全域の検査には不十分であるといえる。
【0006】
曲面形状に対応したタービン翼検査技術として、特許文献2および特許文献3が挙げられる。どちらの文献とも、プローブをフレキシブルな構造にすることと、柔軟な接触媒質を使用することで、タービン翼表面の曲率部への適用が可能な旨記されている。しかし、あくまでプローブを曲面に設置させるための方法であり、曲面の影響をうけて屈折する音場の対策や、タービン翼を検査する上で必須となる位置決め方法について記載が十全にされているとは言いがたく、タービン翼検査技術としては不十分である。
【0007】
また、それらの問題を解決する手段として特許文献4が提案されている。しかしながら、特許文献4は、プローブホルダの基本構成を主体とし、効果的な探傷条件に関しては記されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4694576号公報
【文献】特許第4412281号公報
【文献】特許第4121462号公報
【文献】特許第6300225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の技術では、タービン翼を植え込んだまま曲率のある表面から超音波を入射して欠陥の発生しやすいピン孔周りを精度良く検査することが困難であった。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたもので、その目的は、タービン翼を植え込んだまま曲率のある表面から超音波を入射して欠陥の発生しやすいピン孔周りを精度良く検査することのできる超音波探傷用プローブ配置の設計方法及びタービン翼の検査方法並びにプローブホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の超音波探傷用プローブ配置の設計方法は、タービン本体にピン接合するためのピン孔を1つ以上有するタービン翼のフォーク部に対し、超音波素子を複数備えた超音波アレイプローブを、3次元曲面をもつ翼立上り面であるプラットフォーム部に音響媒質を介して設置し探傷するにあたり、前記ピン孔の長手方向中心部における任意の1点である探傷点と前記プラットフォーム部の所望位置である入射点を通り、その間でフォーク部軸方向側壁に交わらない直線である基準音線を定義するステップと、前記基準音線と前記プラットフォーム部の成す角である探傷屈折角および前記タービン翼の素材の音速および前記音響媒質の音速からスネルの法則に従って導かれる角度である入射角で前記入射点を起点に前記音響媒質中に伸びる半直線である入射音線を定義するステップと、前記入射音線との成す角が、所定の角度誤差以内で直交するように、前記超音波アレイプローブの探傷面を配置するプローブ配置位置を求めるステップとを具備している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の構成を示す図。
図2】第1実施形態の要部構成を示す図。
図3】タービン翼の構成を示す図。
図4】タービン翼の要部構成を示す図。
図5】タービン翼の構成を示す図。
図6】第1実施形態の構成を説明するための図。
図7】第1実施形態の構成を説明するための図。
図8】第1実施形態の構成を説明するための図。
図9】第1実施形態の他の構成を説明するための図。
図10】第1実施形態の構成を説明するための図。
図11】第1実施形態のプローブホルダの構成を示す図。
図12】第2実施形態の構成を示す図。
図13】第2実施形態の構成を説明するための図。
図14】第2実施形態の構成を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態は、一般的にフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)と呼ばれる超音波探傷法をベースとする。フレキシブル構造だったり局部水浸だったりといった特別な性能をもたない超音波アレイプローブを用い、曲面であるタービン翼表面との間を弾性媒質で充填することで複雑形状部の検査を可能とする。また、特殊なタービン翼形状を対象とするため、フォーク翼における探傷したい部位を定義し、翼表面から効果的に超音波を入射させるためのプローブ配置を設計する手段を提案する。なお、一般的なフェーズドアレイ等の複数の圧電素子を用いることによる超音波の送受信遅延制御による探傷方法の詳細は、例えば、「超音波による欠陥寸法測定 -非破壊検査の新しい展開- 共立出版」等の文献に記載されている。
【0015】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。
【0016】
第1実施形態では、図1及び図2に示すように、検査対象へ超音波を送受信する圧電素子をN個(N:自然数)並べて構成される超音波アレイプローブ1と、超音波アレイプローブ1と検査対象であるタービン翼20のプラットフォーム部22との間を音響的にカップリングする音響媒質12と、タービン翼20のタング部23等を基準とした設置面を有し、超音波アレイプローブ1と音響媒質12を一緒に把持したまま検査対象に設置できるプローブホルダ13と、制御演算手段10とを具備している。
【0017】
上記制御演算手段10は、超音波アレイプローブ1に任意波形の電位差を印加可能な電位差印加手段2と、超音波アレイプローブ1における圧電素子の1つまたは複数に電位差を印加できるようにする切り替え手段3と、1つの圧電素子から得られた信号を個別に離散化してデジタル受信超音波波形を得るAD変換手段4と、1圧電素子ごともしくは複数の圧電素子の信号が足し合された波形のデジタル超音波波形データを伝送して記録する伝送記録手段5と、所定の探傷屈折角および深さに焦点をあわせて遅延時間を計算する遅延時間計算手段7と、切り替え手段3において、電位差印加のタイミングを任意に調整できる遅延手段11と、1圧電素子ごとのデジタル超音波波形データから駆動素子のデジタル超音波波形を抽出して遅延時間にしたがって時間軸移動して加算もしくは加算平均して合成信号を得る信号合成手段8と、合成信号を2次元もしくは3次元の画像にして表示する表示手段9と、を具備している。
【0018】
ここで、プローブホルダ13の構造や超音波アレイプローブ1の固定方法等は例であり、図1図2に示される形状のものに限られるものではない。
【0019】
超音波アレイプローブ1とは、セラミクス製や複合材料、またはそれ以外の圧電効果により超音波を発生することが出来る圧電素子や高分子フィルムによる圧電素子、又はそれ以外の超音波を発生できる手段と、超音波をダンピングするダンピング材と、超音波の発振面に取り付けられた前面板と、いずれかの構成もしくはその組み合わせからなる構成とし、一般的に超音波探触子と称されるものとする。
【0020】
本実施形態では、圧電素子が2次元的に配列された、一般的にマトリクスアレイプローブと呼ばれるもので説明する。しかし、超音波アレイプローブ1はこれに限定されるものではなく、例えば、圧電素子を直線状の1次元に配列したリニアアレイプローブ、リニアアレイプローブの奥行き方向に圧電素子を不均一な大きさで分割した1.5次元アレイプローブ、リング状の圧電素子が同心円状に配列されたリングアレイプローブの圧電素子を周方向で分割した分割型リングアレイプローブ、圧電素子が不均一に配置された不均一アレイプローブ、円弧の周方向位置に素子を配置した円弧状アレイプローブ、球面の表面に素子を配置した球状アレイプローブ等の他、他形状の超音波アレイプローブでもよい。
【0021】
また、これらのアレイプローブを、種類を問わずに複数組合せて使用してもよく、所謂ピッチキャッチ、TOFD、タンデム探傷等を行ってもよい。また上記のアレイプローブはコーキングやパッキングにより気中、水中を問わず利用できるものも含まれる。また、フレキシブル構造をもつプローブや部分水浸構造をもつプローブはそれ自体が必須ではないものの、それらの使用には何ら問題はない。
【0022】
超音波アレイプローブの設置に際しては、指向性の高い角度で超音波を測定対象へ入射するために楔を利用することもある。楔は、超音波が伝播可能で音響インピーダンスが把握できている等方材が好ましい。例えば、アクリル、ポリイミド、ゲル、その他高分子などがあり、もちろん上述の例以外も適用することができる。
【0023】
また、楔内の多重反射波が探傷結果に影響を与えないように楔内外にダンピング材を配置したり、山型の波消し形状を設けたり、多重反射低減手段を有する場合もある。本説明において超音波アレイプローブから測定対象へ超音波を入射させる際に楔の記載を省略している場合もある。
【0024】
また、楔は後述する音響媒質12と組み合わせて使用してもよい。音響媒質12は、超音波を伝搬できる媒質であり、それ単体で上述の楔と同じ働きをすることもできるし、楔と組合せて用いてもよい。音響媒質12は、超音波アレイプローブ1から照射された超音波を測定対象であるタービン翼20のフォーク部21へ伝搬させる役割を有し、人間の手で容易に弾性変形しうる柔らかさを備えるものとする。例えば、ハイドロゲルや超音波減衰の少ないゴム、こんにゃくなどでもよい。もちろん上述の例以外も適用することができる。
【0025】
音響媒質12の形状は、基本的に押し付けによってある程度は変化するものであるため、測定対象の形状にあわせて作りこむ必要はないが、測定対象表面が複雑形状をもつのであれば、たとえばその凹凸面を転写した形状に大まかな加工がなされていると、より密着する効果が得られやすい。なお、本説明において超音波プローブから測定対象へ超音波を入射させる際に音響媒質12の記載を省略している場合もある。
【0026】
音響媒質12の接触面には、音響媒質12そのものが密着性をもつため液体の接触媒質を使用する必要はないが、必要に応じて使用することを妨げない。その際は、例えば水、グリセリン、マシン油、ひまし油など一般的に超音波探傷向け接触媒質といわれるものが用いられる。
【0027】
図3及び図4に検査対象であるタービン翼の構成を示す。検査対象は、車軸に植え込まれるルート部がフォーク状になったフォークタイプのタービン翼20を想定する。フォーク部21は、タービン軸方向に向かって複数のくし型突起部が連なって構成されており、少なくとも2本以上の突起部が存在する。フォーク部21をとめるピン30の通るピン孔が、全ての突起部を貫くように軸方向へ向けて一直線に加工されている。これをピン孔部24とする。
【0028】
ルート部下端が車軸半径中心に最も近く、ルート部上部にいくにつれ車軸外周部となる。なお、フォーク部21は軸方向の両端(外フォーク)とそれ以外(中フォーク)で周方向位置が変わっている。外フォークには1つのフォーク部21に半割れ(半円形)のピン孔が6か所存在し、中フォークには1つのフォーク部21に円形のピン孔が3か所存在することになる。
【0029】
軸方向最外部のフォークよりさらに外側に爪状の突起が存在し、その最外端面をタング部23と呼称する。タング部23の上端面からブレードの立ち上がりにかけて連続的に形状が変化する部分をプラットフォーム部22と呼称する。
【0030】
フォーク部21は、ピン孔部24を除くと段差のついた4角柱がベースとなっており、4つの側面を持つ。ピン孔の軸とほぼ直交する位置にある2側面をフォーク部軸方向側壁27、ピン孔の軸とほぼ平行になっている側の2側面をフォーク部周方向側壁28とする。
【0031】
図5に翼の三面図を示す。先ず平面図について説明する。描かれる三日月形状はブレード断面の形状を表しており、三日月外周部にあたる部分を背側、その半対面を腹側と定義する。軸方向左側にあたる、三日月の端面がなまっている側を蒸気入り口側。反対側を蒸気出口側と定義する。蒸気入り口側、出口側ともタング部23と最外部のフォークが腹側に平行移動した構造となっている。
【0032】
次に、側面図について説明する。図中右側方向が正面図のフォーク下端面に向かう方向である。図中に丸で示されているのが、ピン孔部24である。図中、フォークを表す線が二重の構造となっているが、これは上述のとおり外フォークが腹側に平行移動していることが原因である。
【0033】
次に、超音波探傷用プローブ配置の設計方法について説明する。図6は、外フォークにおける超音波アレイプローブ1の設置位置設計方法の座標を示す図である。図5と同様に、左図を正面図、右図を側面図として示す。フォーク部21を貫通するピン孔に対し、その両端面にかからない位置をピン孔長手方向中心部25と定義する。ここで、両端面からピン孔長手方向中心部25までの距離は任意でよい。また、ピン孔長手方向中心部25は体積的な領域であり、ピン孔部24の表面に限定されるものではない。ただし構造上、欠陥26が発生し得る部分を含んで決定されることが好ましい。ピン孔長手方向中心部25としては、例えば、ピン孔の軸方向中心部から±5mm程度の領域とすることが好ましい。
【0034】
ここからは、設計に必要な超音波の伝搬パスの求め方について説明する。本実施形態では探傷したい領域である、ピン孔長手方向中心部25からプラットフォーム部22にある入射点Iを通り、音響媒質12を通って超音波アレイプローブ1の探傷面Psに到達する音線を追っていく方法で設計を行う。なお、説明のために測定対象から逆解析的に逆引きする順序としたが、プローブ座標から先に決定して、音線を追っていく順解析的な順序で設計を行ってもよい。
【0035】
ピン孔長手方向中心部25における任意の一点を探傷点42と定義する。ここで、探傷点42を通りプラットフォーム部22に到達する直線を基準音線40と定義したときに、基準音線40とプラットフォーム部22の交点が入射点Iとなる。この基準音線40が、入射点Iからフォーク部21に入射したときの音線となる。入射点Iから音響媒質12に伝搬する音線が入射音線41となる。図6の正面図に示されるように、基準音線40は、フォーク部21の軸方向側壁には交わらないよう設定する。
【0036】
入射音線41の角度は、図7に示すように、スネルの法則により以下に示す式から算出することができる。ここで計算に用いるのは、タービン翼材質内音速Vt、音響媒質内音速Vw、基準音線と入射点におけるプラットフォーム部の成す角である探傷屈折角βであり、入射角であるαを求めることができる。なお、βおよびαはプラットフォーム部において入射点が外接する平面の垂線との成す角によって定められる。
sinα/sinβ=Vw/Vt 式1
sinα=(Vw/Vt)sinβ 式2
α=arcsin[(Vw/Vt)sinβ] 式3
【0037】
入射角αで伸びた入射音線41は超音波アレイプローブ探傷面の平面をあらわすPs(図8)と交わり、その交点は入射音線41と超音波アレイプローブ探傷面の交点Pt、Ptにおけるなす角は、入射音線と超音波アレイプローブ探傷面のなす角θpとなる。このとき、θpの値が所望の誤差範囲で90°となるように超音波アレイプローブの設置角度であるPsを設計する。
【0038】
ここで、θpに許容される誤差は任意に設定できるが、用いる超音波が縦波であれば±10°程度、横波であれば±20°程度であることが好ましく、用いる超音波が縦波であれば±5°程度、横波であれば±10°であることがさらに好ましい。また、ここでは角度であるθpのみに言及しているが、超音波アレイプローブ1を中心に音場が構成されることを鑑みた場合、交点Ptの座標は超音波アレイプローブ探傷面の中心に近いほどよく、少なくとも超音波アレイプローブ1の探傷面のうち超音波素子Eの存在する面Peの範囲内であることが好ましい。
【0039】
以上のように、本実施形態の超音波探傷用プローブ配置の設計方法は、基準音線40を定義するステップと、入射音線41を定義するステップと、入射音線41との成す角が、所定の角度誤差以内で直交するように、超音波アレイプローブ1の探傷面を配置するプローブ配置位置を求めるステップとを具備している。
【0040】
基準音線40は、入射点Iに到達するまでに直線であることが望ましいが、例えば図9に示すように、フォーク部周方向側壁28などで折り返す経路を通ってもよい。なお、上述したようにプローブ座標から先に決定して、音線を追っていく順解析的な順序で設計を行う場合は、Pt、αおよびIが先んじて決定され、βが演算によって得られる。そこで得られた基準音線40とピン孔長手方向中心部25が重畳している座標の中から探傷点42を決定することとなる。
【0041】
実際の探傷においては、図10に示すようにフォーク部の中心を通り、フォーク部軸方向側壁27とほぼ平行となる面をフォーク部中心面29としたときに、フォーク部中心面29とプラットフォーム部22の交わる領域(線)よりも外側に入射点Iが設置されることが好ましい。
【0042】
超音波アレイプローブ1は、遅延時間を制御することにより任意の角度に超音波ビームを形成できることが特徴だが、プローブ直下を0°としたときにその角度が大きくなる条件でビームを形成しようとするほど有効開口が低減し、ビーム形成能力が低下する。そのため、所望の探傷性能が得られない場合がある。本実施形態を適用することで好適な条件での超音波アレイプローブ設置が可能となり、十分な探傷感度を得られることが期待できる。
【0043】
プローブホルダは、上記設計思想に基づいて設計されたもの、および設計時に上記思想に基づいていなくとも結果的に上記設計思想に基づいた設計に当てはまっているもので、超音波アレイプローブ1、音響媒質12の一部または全部に接しながら、タービン翼のフォーク部まで超音波を伝送できるように、超音波アレイプローブ1、音響媒質12を保持する機能を有するものを示す。
【0044】
この時、基準として平坦部であるタング部23等にも押し付けられるようにして安定化させる構造を有してもよいし、設置後にプローブの位置および角度の1つ以上を変更できるような調整機構を有していてもよい。また、図11に示すように、音響媒質12の変形にあわせて、変形を受容するような逃がし部(逃がし空間)を設けたり、一部を開放したりすることでその逃がし部にかえる構造をとってもよい。
【0045】
上記の方法により、超音波探傷用プローブ配置の設計を行い、タービン翼の検査を行うことにより、タービン翼を植え込んだまま曲率のある表面から超音波を入射して欠陥の発生しやすいピン孔周りを精度良く検査することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態を用いて設計された超音波アレイプローブ配置が、実際に設置されたときに妥当な配置となっているかを判定する手段を有する例である。
【0047】
タービン翼のプラットフォーム部は最終的には人間の手仕上になる場合が多く、同段落に存在する翼が確実に単一形状になっているとは限らない。そのため、図面のみを基にした設計をそのまま用いたり、複数の異なるタービン翼のプラットフォーム部で探傷を行ったりする場合は、そのタービン翼に対して必ずしも適切な配置となっていない可能性がある。そこで、超音波アレイプローブ1と正対しているプラットフォーム部22の形状を計測し、それを評価することで適切な配置となっているかを判定することが可能となる。
【0048】
第2実施形態は、第1実施形態の構成を基本としており、図12に示すように、第1実施形態の構成に加えて、対象表面形状計測手段6および、判定手段14を有する。対象表面形状計測手段6は、図13に示すように、超音波アレイプローブ1から照射される超音波Uがプラットフォーム部22の表面から反射してくる飛行時間を用いて求めてもよいし、例えば開口合成法のように画像化した結果からプロファイルを求めてもよい。あるいは、超音波を用いずレーザやカメラ等光学的な手段でもよいし、リミットスイッチ等機械的な接触による手段でもよい。
【0049】
判定手段14は、適切に設置されているときに想定されるプラットフォーム部22の表面形状と、対象表面形状計測手段6から得られた形状が比較できる機能を有していればよく、PC等にプログラムとしてその機能を持たせてもよい。
【0050】
図14に表面形状測定結果の例を示す。左図は適切な配置に超音波アレイプローブ1が設置された場合の測定結果であるのに対し、右図は配置が適切でないために異なる測定形状が得られているものであり、この形状から適切な配置でないことが判定できるものである。
【0051】
本機能を用いることで、例えば、図面と異なるアズビルド形状のタービン翼向けに形状の違いを設計へフィードバックしたり、ひと段落分連続してプラットフォーム部22からUTを行う場合に、翼ごとに微調整を行って最適な配置を実現したりといった運用が期待できる。なお、対象表面形状計測手段6は、超音波アレイプローブ1が正対しているプラットフォーム部22までの距離、超音波アレイプローブ1に対する傾き、および形状の1つ以上を取得することにより、微調整を行うことができる。
【0052】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1……超音波アレイプローブ、2……電位差印加手段、3……切り替え手段、4……AD変換手段、5……伝送記録手段、6……対象表面形状計測手段、7……遅延時間計算手段、8……信号合成手段、9……表示手段、10……制御演算手段、11……遅延手段、12……音響媒質、13……プローブホルダ、14……判定手段、20……タービン翼、21……フォーク部、22……プラットフォーム部、23……タング部、24……ピン孔部、25……ピン孔長手方向中心部、26……欠陥、27……フォーク部軸方向側壁、28……フォーク部周方向側壁、29……フォーク部中心面、30……ピン、40……基準音線、41……入射音線、42……探傷点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14