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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】細胞培養用足場材料及び細胞培養用容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240430BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20240430BHJP
   C08F 261/12 20060101ALI20240430BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240430BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C08F265/06
C08F261/12
C12N5/071
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020524924
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014012
(87)【国際公開番号】W WO2020203768
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019068404
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 博貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 雄太
(72)【発明者】
【氏名】石井 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】新井 悠平
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 聡
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-220581(JP,A)
【文献】特開平10-231373(JP,A)
【文献】特開2019-004745(JP,A)
【文献】特開2006-314285(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050746(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022000(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021999(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖と、グラフト鎖とを有する合成樹脂を含み、
前記合成樹脂が、ポリビニルアセタール骨格を有し、
前記グラフト鎖が、下記式(2)又は下記式(3)で表される多座水素結合性基を側鎖に有する、細胞培養用足場材料。
【化1】

前記式(2)中、R は芳香族環骨格又は脂環式骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、A 及びA は、それぞれアミノ基又は水酸基を表し、*は前記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。A 及びA は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化2】

前記式(3)中、R は芳香族環骨格又は脂環式骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、R はホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、窒素原子、又は金属原子を表し、A 及びA は、それぞれアミノ基又は水酸基を表し、*は前記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。A 及びA は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【請求項2】
前記多座水素結合性基が、水酸基を1個以上有する、請求項1に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項3】
前記多座水素結合性基が、水酸基を2個以上有する、請求項1又は2に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項4】
前記多座水素結合性基が、カテコール骨格、フェニレンジアミン骨格、フェニルボロン酸骨格、及びナフタレンボロン酸骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項5】
前記合成樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂と、前記多座水素結合性基を有するモノマーとのグラフト共重合体であるか、又は、前記合成樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂と、前記多座水素結合性基を有するモノマーと、前記多座水素結合性基を有するモノマー以外のモノマーとのグラフト共重合体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項6】
動物由来の原料を実質的に含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項7】
前記合成樹脂の全構造単位100モル%中、前記多座水素結合性基を有する構造単位の割合が、1モル%以上、30モル%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項8】
容器本体と、
請求項1~のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料とを備え、
前記容器本体の表面上に、前記細胞培養用足場材料が配置されている、細胞培養用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、細胞を培養するために用いられる細胞培養用足場材料に関する。また、本発明は、上記細胞培養用足場材料を用いた細胞培養用容器に関する。
【背景技術】
【0002】

学術分野、創薬分野及び再生医療分野等の研究開発において、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が用いられている。動物細胞を培養するために用いられる足場材料として、ラミニン及びビトロネクチン等の接着タンパク質、並びにマウス肉腫由来のマトリゲル等の天然高分子材料が用いられている。
【0003】

また、下記の特許文献1~3に示すように合成樹脂を用いた足場材料も知られている。
【0004】

下記の特許文献1には、ポリビニルアセタール化合物からなる成形物又は該ポリビニルアセタール化合物と水溶性多糖類とからなる成形物からなり、該ポリビニルアセタール化合物のアセタール化度が20~60モル%である細胞培養用担体が開示されている。
【0005】

また、下記の特許文献2には、第1の繊維ポリマー足場材を含み、該第1の繊維ポリマー足場材の繊維が整列されている組成物(足場材料)が開示されている。この繊維ポリマーの材料として、脂肪族ポリエステル等が用いられている。
【0006】

また、下記の特許文献3には、多能性幹細胞の未分化性を維持するための細胞培養方法であって、ポリロタキサンブロック共重合体で被覆された表面を有する培養器上で該多能性幹細胞を培養する工程を含む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】

【文献】特開2006-314285号公報
【文献】WO2007/090102A1
【文献】特開2017-023008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】

動物細胞の培養では、細胞塊を足場材料に播種して培養することがある。足場材料として天然高分子材料を用いることで、播種後の細胞の定着性を高めることができる。しかしながら、天然高分子材料は、高価であったり、天然由来物質であるためロット間のばらつきが大きかったり、動物由来の成分による安全上の懸念があったりする。
【0009】

一方、特許文献1~3に記載のような合成樹脂を用いた足場材料は、天然高分子材料を用いた足場材料と比べて、安価であり、ロット間のばらつきが小さく、かつ安全性に優れる。しかしながら、特許文献1~3に記載のような従来の合成樹脂を用いた足場材料では、合成樹脂と細胞との親和性が低かったり、親水性が高い合成樹脂が用いられているために該合成樹脂が過度に膨潤したりして、播種した細胞塊が培養中に足場材料から剥離しやすく、細胞の定着性が低いという問題がある。
【0010】

本発明の目的は、細胞の定着性に優れる細胞培養用足場材料を提供することである。また、本発明は、上記細胞培養用足場材料を用いた細胞培養用容器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】

本発明の広い局面によれば、主鎖と、グラフト鎖とを有する合成樹脂を含み、前記グラフト鎖が、下記式(1)で表される多座水素結合性基を側鎖に有する、細胞培養用足場材料が提供される。
【0012】

【化1】
【0013】

前記式(1)中、Rは炭素数が50以下である基を表し、Aはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、iは自然数を表し、nは2以上、4以下の整数を表し、*は前記グラフト鎖を構成する他の原子との結合位置を表す。Aは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0014】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記多座水素結合性基が、下記式(2)、下記式(3)又は下記式(4)で表される多座水素結合性基である。
【0015】

【化2】
【0016】

前記式(2)中、Rは環状骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、A及びAは、それぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、*は前記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。A及びAは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0017】

【化3】
【0018】

前記式(3)中、Rは環状骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、Rはホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、窒素原子、又は金属原子を表し、A及びAは、それぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、*は前記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。A及びAは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0019】

【化4】
【0020】

前記式(4)中、Rは鎖状骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、A及びAは、それぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、*は前記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。A及びAは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0021】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記多座水素結合性基が、前記式(2)又は前記式(3)で表される多座水素結合性基である。
【0022】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記多座水素結合性基が、アミノ基、カルボキシル基、及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を2個以上有する。
【0023】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記多座水素結合性基が、カテコール骨格、フェニレンジアミン骨格、フェニルボロン酸骨格、ナフタレンボロン酸骨格、グリセロール骨格、エチレングリコール骨格、及びグリシン誘導体骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格を有する。
【0024】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記細胞培養用足場材料は、動物由来の原料を実質的に含まない。
【0025】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記合成樹脂の全構造単位100モル%中、前記多座水素結合性基を有する構造単位の割合が、1モル%以上、30モル%以下である。
【0026】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記合成樹脂が、ポリビニルアルコール誘導体又はポリ(メタ)アクリル酸エステル誘導体である。
【0027】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記合成樹脂が、ポリビニルアセタール骨格又はポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する。
【0028】

本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記合成樹脂が、ポリビニルアセタール骨格を有する。
【0029】

本発明の広い局面によれば、容器本体と、上述した細胞培養用足場材料とを備え、前記容器本体の表面上に、前記細胞培養用足場材料が配置されている、細胞培養用容器が提供される。
【発明の効果】
【0030】

本発明によれば、細胞の定着性に優れる細胞培養用足場材料を提供することができる。また、本発明によれば、上記細胞培養用足場材料を用いた細胞培養用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】

図1図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明に係る細胞培養用足場材料を用いて細胞を培養した場合に、細胞の定着性が向上する推定メカニズムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】

以下、本発明の詳細を説明する。
【0033】

(多座水素結合性基)

本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞を培養するために用いられる。本発明に係る細胞培養用足場材料は、グラフト鎖の側鎖に下記式(1)で表される多座水素結合性基(以下、「多座水素結合性基」と略記することがある)を有する合成樹脂を含む。上記多座水素結合性基とは、2以上の水素結合を形成可能な基である。
【0034】

【化4】

上記式(1)中、Rは炭素数が50以下である基を表し、Aはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、iは自然数を表し、nは2以上、4以下の整数を表し、*は上記グラフト鎖を構成する他の原子との結合位置を表す。上記式(1)中、Aは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】

上記式(1)中、Rは環状骨格を有する基であってもよく、鎖状骨格を有する基であってもよい。細胞の定着性をより一層高める観点から、上記式(1)中、Rは環状骨格を有する基であることが好ましい。
【0036】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)中、Rの炭素数は、好ましくは45以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。
【0037】

上記式(1)中、Aはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基である。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)中、Aは、アミノ基、カルボキシル基、及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であることが好ましく、アミノ基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であることがより好ましく、水酸基であることがさらに好ましい。
【0038】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)で表される多座水素結合性基は、アミノ基、カルボキシル基、及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を1個以上有することが好ましく、2個以上有することがより好ましい。本発明の効果を更に一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)で表される多座水素結合性基は、アミノ基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を1個以上有することが好ましく、水酸基を1個以上有することがより好ましく、水酸基を2個以上有することがさらに好ましい。
【0039】

上記式(1)中、nは2以上、4以下の整数である。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)中、nは、好ましくは2又は3であり、より好ましくは2である。したがって、上記多座水素結合性基は、Aを2個又は3個有することが好ましく、2個有することがより好ましい。
【0040】

また、本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)中、任意のAと、その隣りのAとの間に存在する原子数は、好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、さらに好ましくは2個又は1個である。
【0041】

なお、上記式(1)中、任意のAと、その隣りのAとの間に存在する原子数とは、これら2個のAを最短で結ぶ原子数を意味する。例えば、任意のAと、その隣りのAとの間に存在する原子数が2個であるとは、一方のAが結合している原子と、他方のAが結合している原子とが結合していることを意味する。また、例えば、任意のAと、その隣りのAとの間に存在する原子数が1個であるとは、一方のAと他方Aとが、同一の原子に結合していることを意味する。
【0042】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(1)で表される多座水素結合性基は、下記式(2)、下記式(3)又は下記式(4)で表される多座水素結合性基であることが好ましく、下記式(2)又は下記式(3)で表される多座水素結合性基であることがより好ましい。
【0043】

【化5】

上記式(2)中、Rは環状骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、A及びAは、それぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、*は上記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。上記式(2)中、A及びAは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0044】

上記式(2)中、Rとしては、例えば、芳香族環を有する基及び脂肪族環を有する基等が挙げられる。なお、脂肪族環は、環の一部に二重結合を有していてもよい。
【0045】

上記芳香族環を有する基としては、例えば、フェニル骨格を有する基、ナフチル骨格を有する基及びアントリル骨格を有する基等が挙げられる。細胞との接着性を高める観点から、上記芳香族環を有する基は、フェニル骨格を有する基又はナフチル骨格を有する基であることが好ましく、フェニル骨格を有する基であることがより好ましい。
【0046】

上記脂肪族環を有する基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。細胞との接着性を高める観点から、上記脂肪族環を有する基は、シクロペンチル基又はシクロへキシル基であることが好ましい。
【0047】

また、本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(2)中、AとAとの間に存在する原子数は、好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、さらに好ましくは2個である。
【0048】

なお、上記式(2)中、AとAとの間に存在する原子数とは、AとAとを最短で結ぶ原子数を意味する。例えば、AとAとの間に存在する原子数が2個であるとは、Aが結合している原子と、Aが結合している原子とが結合していることを意味する。
【0049】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(2)中、A及びAは、Rの環状骨格を構成する2つの隣り合う原子にそれぞれ結合していることが特に好ましい。
【0050】

上記式(2)で表される多座水素結合性基としては、例えば、カテコール骨格を有する基、フェニレンジアミン骨格を有する基等が挙げられる。細胞の定着性を高める観点から、上記式(2)で表される多座水素結合性基は、カテコール骨格を有する基であることが好ましい。
【0051】

【化6】

上記式(3)中、Rは環状骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、Rはホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、窒素原子、又は金属原子を表し、A及びAは、それぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、*は上記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。上記式(3)中、A及びAは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0052】

上記式(3)中、上記金属原子としては、白金原子及びアルミニウム原子等が挙げられる。
【0053】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(3)中、Rは、ホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、又は窒素原子であることが好ましく、ホウ素原子であることがより好ましい。
【0054】

上記式(3)で表される多座水素結合性基としては、例えば、フェニルボロン酸骨格を有する基、ナフタレンボロン酸骨格を有する基等が挙げられる。細胞の定着性を高める観点から、上記式(3)で表される多座水素結合性基は、フェニルボロン酸骨格を有する基であることが好ましい。
【0055】

【化7】

上記式(4)中、Rは鎖状骨格を有しかつ炭素数が50以下である基を表し、A及びA、それぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、又はチオール基を表し、*は上記グラフト鎖を構成する他の原子との結合部位を表す。上記式(4)中、A及びAは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0056】

上記式(4)中、Rは、直鎖である鎖状骨格を有する基であってもよく、分岐鎖を有する鎖状骨格を有する基であってもよい。上記Rとしては、例えば、炭素数が50以下であるアルキル基が挙げられる。
【0057】

また、本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記式(4)中、AとAとの間に存在する原子数は、好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、さらに好ましくは2個である。
【0058】

なお、上記式(4)中、AとAとの間に存在する原子数とは、AとAとを最短で結ぶ原子数を意味する。例えば、AとAとの間に存在する原子数2個であるとは、Aが結合している原子と、Aが結合している原子とが結合していることを意味する。
【0059】

上記式(4)で表される多座水素結合性基としては、例えば、グリセロール骨格を有する基、エチレングリコール骨格を有する基、グリシン誘導体骨格(末端の炭素にカルボキシル基とアミノ基が結合している構造)を有する基等が挙げられる。
【0060】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記多座水素結合性基は、環状骨格を有することが好ましい。上記環状骨格としては、芳香族環骨格、及び脂環式骨格等が挙げられる。該脂環式骨格は二重結合を有しない飽和脂環式骨格であってもよく、二重結合を有する不飽和脂環式骨格であってもよい。また、上記環状骨格は、該環状骨格を構成する原子に、炭素原子以外の原子を含んでいてもよい。
【0061】

上記環状骨格を構成している原子の数は、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上、好ましくは40個以下、より好ましくは30個以下である。
【0062】

本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記多座水素結合性基は、カテコール骨格、フェニレンジアミン骨格、フェニルボロン酸骨格、ナフタレンボロン酸骨格、グリセロール骨格、エチレングリコール骨格、及びグリシン誘導体骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格を有することが好ましい。
【0063】

上記多座水素結合性基が環状骨格を有する場合に、水素結合性官能基(A)は、該環状骨格を構成する原子に直接結合していてもよく、直接結合していなくてもよい。
【0064】

上記多座水素結合性基が環状骨格を有する場合に、上記多座水素結合性基は、環状骨格に直接結合した水素結合性官能基を有するか、又は、環状骨格に1個の原子を介して結合した水素結合性官能基を有することが好ましい。この場合には、本発明の効果を更に効果的に発揮することができる。
【0065】

(合成樹脂X)

本発明に係る細胞培養用足場材料は、主鎖と、グラフト鎖とを有し、上記グラフト鎖が上記式(1)で表される多座水素結合性基を側鎖に有する合成樹脂(以下、「合成樹脂X」と記載することがある)を含む。したがって、本発明に係る細胞培養用足場材料は、合成樹脂Xを含む。合成樹脂Xは、複合樹脂であってもよい。上記合成樹脂Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、上記合成樹脂Xは、上記多座水素結合性基を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0066】

上記多座水素結合性基は、グラフト鎖の主鎖に直接結合していてもよく、グラフト鎖の主鎖に他の基を介して結合していてもよい。
【0067】

合成樹脂Xは、例えば、以下の(1)又は(2)の方法により合成することができる。
【0068】

(1)主鎖のポリマーに対して、多座水素結合性基を有するモノマー、又は、多座水素結合性基を有するモノマーと多座水素結合性基を有さないモノマーとの混合モノマーをグラフト重合させる方法。
【0069】

(2)主鎖のポリマーに対して、側鎖に多座水素結合性基を有するポリマーを縮合等によって枝状に結合させる方法。
【0070】

上記多座水素結合性基を有するモノマー及び上記多座水素結合性基を有さないモノマーとしては、ビニル化合物、(メタ)アクリルモノマー及びマレイミド化合物等が挙げられる。上記モノマーは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。合成樹脂Xを合成する際には、上記式(1)で表される多座水素結合性基を有するモノマーを、少なくとも1種用いることが好ましい。
【0071】

上記多座水素結合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、イミノ基、及びチオール基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の官能基を2個以上有するモノマー等が挙げられる。このような多座水素結合性基を有するモノマーとしては、例えば、ドーパミンアクリルアミド、4-メタクリルアミドフェニルボロン酸、グリセロールモノメタクリレート、DL-2-アリルグリシン、ビニルカテコール、3-メタクリルアミドフェニルボロン酸、2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0072】

本発明に係る細胞培養用足場材料は、上記多座水素結合性基を有する合成樹脂Xを含むので、該多座水素結合性基と細胞(例えば、膜タンパク質、リン脂質、糖鎖、糖タンパク質、細胞外マトリックス及び接着タンパク質)とを良好に水素結合させることができ、かつ該水素結合の数を多くすることができる。そのため、本発明では、合成樹脂Xと細胞との親和性が高められ、その結果、細胞が細胞培養用足場材料から剥離しにくく、細胞の定着性を高めることができる。
【0073】

また、本発明に係る細胞培養用足場材料は、従来の天然高分子を用いた細胞足場材料と比べて、安価であり、ロット間のばらつきが小さく、安全性に優れる。
【0074】

図2は、本発明に係る細胞培養用足場材料を用いて細胞を培養した場合に、細胞の定着性が向上する推定メカニズムを説明するための模式図である。
【0075】

図2に示すように、細胞10は、細胞膜上に膜タンパク質及び糖鎖を有する化合物等の水素結合を形成可能な物質11を有する。また、本発明に係る細胞培養用足場材料20は、上記多座水素結合性基を有する合成樹脂Xを含む。細胞を細胞培養用足場材料20の表面に播種すると、上記多座水素結合性基と、細胞膜に存在する膜タンパク質及び糖鎖との間で、1つの多座水素結合性基あたり、2以上の水素結合30が形成される。これによって、上記多座水素結合性基を介して、細胞10と細胞培養用足場材料20との間に強固な結合が形成される。従って、細胞と細胞培養用足場材料との接着性が向上し、その結果、細胞の定着性が向上するものと考えられる。
【0076】

また、本発明では、合成樹脂Xがグラフト鎖の側鎖に上記多座水素結合性基を有するので、細胞との接着性が向上しやすくなる。このメカニズムの詳細は不明であるが、同一のグラフト鎖に配置された複数の上記多座水素結合性基がクラスターを形成し、上記多座水素結合性基を介して、細胞と細胞培養用足場材料との間に強固な水素結合を形成するためと考えられる。
【0077】

上記合成樹脂Xとしては、ポリオレフィン誘導体、ポリエーテル誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、ポリエステル誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル誘導体、エポキシ樹脂誘導体、ポリアミド誘導体、ポリイミド誘導体、ポリウレタン誘導体、ポリカーボネート誘導体、セルロース誘導体、及びポリペプチド誘導体等が挙げられる。
【0078】

本発明の効果を効果的に発揮させる観点からは、上記合成樹脂Xは、ポリビニルアルコール誘導体又はポリ(メタ)アクリル酸エステル誘導体であることが好ましい。上記ポリビニルアルコール誘導体は、少なくともビニルアルコールをモノマーとして用いて合成される合成樹脂である。上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル誘導体は、少なくともアクリル酸エステルをモノマーとして用いて合成される合成樹脂である。
【0079】

上記ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアセタール骨格を有する樹脂であることが好ましい。
【0080】

したがって、合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格又はポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有することが好ましい。この場合に、合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格を有する樹脂であってもよく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する樹脂であってもよく、ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格との双方を有する樹脂であってもよい。
【0081】

本発明の効果を効果的に発揮させる観点からは、合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格を有する樹脂であるか、又はポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する樹脂であることが好ましい。合成樹脂Xは、少なくともポリビニルアセタール骨格を有する樹脂であることが好ましい。
【0082】

合成樹脂Xの全構造単位100モル%中、上記多座水素結合性基を有する構造単位の割合(上記多座水素結合性基を有する構造単位の含有率)は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。上記割合が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。上記多座水素結合性基を有する構造単位は、例えば、多座水素結合性基を有するモノマーに由来する構造単位である。
【0083】

上記多座水素結合性基を有する構造単位の割合は、H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定することができる。
【0084】

細胞培養用足場材料100重量%中、上記合成樹脂Xの含有量は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは100重量%(全量)である。したがって、上記細胞培養用足場材料は、合成樹脂Xであることが最も好ましい。上記合成樹脂Xの含有量が上記下限以上であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。
【0085】

<ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂X>

細胞培養用足場材料は、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂Xを含むことが好ましい。
【0086】

本明細書において、「ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂X」を、「ポリビニルアセタール樹脂X」と記載することがある。
【0087】

したがって、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格及び多座水素結合性基を有する樹脂である。
【0088】

ポリビニルアセタール樹脂Xは、側鎖にアセタール基と、アセチル基と、水酸基とを有する。また、ポリビニルアセタール樹脂Xは、多座水素結合性基を有する。
【0089】

ポリビニルアセタール樹脂Xを合成する際には、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化する工程を少なくとも備える。
【0090】

ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)の平均重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは500以上、特に好ましくは1500以上、好ましくは6000以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2500以下である。上記平均重合度が上記下限以上であると、液体培地による膨潤を効果的に抑えることができるため、細胞培養用足場材料の強度を良好に維持することできる。そのため、細胞増殖性を高めることができる。また、上記平均重合度が上記上限以下であると、取扱性を高めることができ、細胞培養用足場材料の成形性を高めることができる。
【0091】

ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは10000以上、好ましくは600000以下である。ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2000以上、好ましくは1200000以下である。また、ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)において、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、好ましくは2.0以上、好ましくは40以下である。上記Mn、上記Mw、上記Mw/Mnが上記下限以上及び上記上限以下であると、細胞培養用足場材料の強度を高めることができる。
【0092】

ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)のアセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合にはブチラール化度)は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、細胞の定着性をより高めることができ、細胞が効率よく増殖する。上記アセタール化度が上記上限以下であると、溶剤への溶解性を良好にすることができる。
【0093】

上記ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは0.0001モル%以上、好ましくは5モル%以下である。
【0094】

上記ポリビニルアセタール樹脂X、又は、ポリビニルアセタール樹脂(多座水素結合性基を有するモノマー重合前)の水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは10モル%以上、好ましくは80モル%以下、より好ましくは60モル%以下である。
【0095】

上記ポリビニルアセタール樹脂X、又は、多座水素結合性基を有するモノマー重合前のポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度、アセチル化度(アセチル基量)及び水酸基量は、H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定することができる。
【0096】

上記ポリビニルアセタール樹脂Xは、例えば、以下の(1)又は(2)の方法により合成することができる。(1)ポリビニルアセタール樹脂に、多座水素結合性基を有するモノマー、又は、多座水素結合性基を有するモノマーと多座水素結合性基を有さないモノマーとの混合モノマーをグラフト重合させる方法。(2)ポリビニルアセタール樹脂に、側鎖に多座水素結合性基を有するポリマーを縮合等によって枝状に結合させる方法。
【0097】

アセタール化度、水酸基量及びアセチル基量等の含有率の調整が容易であることから、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルアセタール樹脂と、多座水素結合性基を有するモノマーとのグラフト共重合体であることが好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルアセタール樹脂と、多座水素結合性基を有するモノマーと、上記多座水素結合性基を有するモノマー以外のモノマーとのグラフト共重合体であることがより好ましい。この場合、ポリビニルアセタール樹脂Xに含まれる多座水素結合性基と細胞とが結合しやすくなるため、細胞の定着性をより高めることができる。
【0098】

上記多座水素結合性基を有するモノマーとしては、上述したモノマーが挙げられる。
【0099】

上記多座水素結合性基を有するモノマー以外のモノマーとしては、多座水素結合性基を有さないビニル化合物等が挙げられる。
【0100】

上記多座水素結合性基を有さないビニル化合物としては、エチレン、アリルアミン、ビニルピロリドン、無水マレイン酸、マレイミド、イタコン酸、多座水素結合性基を有さない(メタ)アクリル酸、ビニルアミン及び多座水素結合性基を有さない(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。上記多座水素結合性基を有さないビニル化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、ポリビニルアセタール樹脂と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体については、後述する。
【0101】

<ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂X>

細胞培養用足場材料は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂Xを含むことが好ましい。
【0102】

本明細書において、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂X」を、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂X」と記載することがある。
【0103】

したがって、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格及び多座水素結合性基を有する樹脂である。
【0104】

上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、(メタ)アクリル酸エステルと、上記多座水素結合性基を有するモノマーとを重合することにより得られる。なお、上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記多座水素結合性基を有するモノマーと、(メタ)アクリル酸エステル及び多座水素結合性基を有するモノマーの双方とは異なるモノマーとを共重合した樹脂であってもよい。
【0105】

上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール類、及び(メタ)アクリル酸ホスホリルコリン等が挙げられる。
【0106】

上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びイソテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0107】

なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~3のアルコキシ基及びテトラヒドロフルフリル基等の置換基で置換されていてもよい。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、メトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
【0108】

上記(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0109】

上記(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、フェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0110】

上記(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(3-(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、3-(メタ)アクリロイル-2-オキサゾリジノン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、及び6-(メタ)アクリルアミドヘキサン酸等が挙げられる。
【0111】

上記(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール類としては、例えば、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、エトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、及びヒドロキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0112】

上記(メタ)アクリル酸ホスホリルコリンとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられる。
【0113】

上記多座水素結合性基を有するモノマーとしては、上述したモノマーが挙げられる。
【0114】

上記(メタ)アクリル酸エステル及び多座水素結合性基を有するモノマーの双方とは異なるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、エチレン、ビニルエステル等が挙げられる。
【0115】

なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
【0116】

ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xの数平均分子量(Mn)は、好ましくは100以上、好ましくは200000以下である。ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100以上、好ましくは200000以下である。
【0117】

<ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂X>

細胞培養用足場材料は、ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xを含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する複合樹脂であることが好ましい。
【0118】

上記ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格及び多座水素結合性基を有する樹脂である。
【0119】

上記ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xは、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂Xの合成方法及びポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xの合成方法を適宜組み合わせることにより合成することができる。
【0120】

ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xは、上述したポリビニルアセタール樹脂に上述した(メタ)アクリル酸エステルがグラフト共重合された合成樹脂Xであることが好ましい。
【0121】

ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xの数平均分子量(Mn)は、好ましくは10000以上、好ましくは600000以下である。ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2000以上、好ましくは1200000以下である。また、ポリビニルアセタール骨格とポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格とを有する合成樹脂Xにおいて、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、好ましくは2.0以上、好ましくは40以下である。上記Mn、上記Mw、上記Mw/Mnが上記下限以上及び上記上限以下であると、細胞培養用足場材料の強度を高めることができる。
【0122】

合成樹脂X以外のポリマー:

上記細胞培養用足場材料は、合成樹脂X以外のポリマーを含んでいてもよい。該ポリマーとしては、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース、及びポリペプチド等が挙げられる。
【0123】

本発明の効果を効果的に発揮させる観点からは、合成樹脂X以外のポリマーの含有量は少ないほどよい。上記細胞培養用足場材料100重量%中、該ポリマーの含有量は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0重量%(未含有)である。したがって、細胞培養用足場材料は、合成樹脂X以外のポリマーを含まないことが最も好ましい。
【0124】

本発明に係る細胞培養用足場材料は、動物由来の原料を実質的に含まないことが好ましい。動物由来の原料を実質的に含まないことにより、ロット間のばらつきが少なく、コスト、安全性に優れる細胞培養用足場材料を提供することができる。なお、「動物由来の原料を実質的に含まない」とは、細胞培養用足場材料中における動物由来の原料が、3重量%以下であることを意味する。本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞培養用足場材料中における動物由来の原料が、1重量%以下であることが好ましく、0重量%であることがより好ましい。すなわち、上記細胞培養用足場材料は、細胞培養用足場材料中に動物由来の原料を含まないことがより好ましい。
【0125】

(細胞培養用足場材料の他の詳細)

本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞を培養するために用いられる。本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞を培養する際の該細胞の足場として用いられる。
【0126】

上記細胞としては、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が挙げられる。また、上記細胞としては、体細胞、幹細胞、前駆細胞及び分化細胞等が挙げられる。上記体細胞は、癌細胞であってもよい。
【0127】

上記幹細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞、胚性がん細胞、胚性生殖幹細胞、及びmGS細胞等が挙げられる。
【0128】

上記細胞培養用足場材料の形状は特に限定されない。上記細胞培養用足場材料の形状は、膜状であっても、粒子状であってもよい。膜状には、フィルム状、シート状が含まれる。
【0129】

上記細胞培養用足場材料は、細胞の二次元培養(平面培養)、三次元培養又は浮遊培養に用いられることが好ましく、二次元培養(平面培養)に用いられることがより好ましい。
【0130】

また、上記細胞培養用足場材料は、該細胞培養用足場材料と、多糖類とを含む細胞培養用担体(媒体)として用いることもできる。上記多糖類は、特に限定されず、従来公知の多糖類を用いることができる。上記多糖類は、水溶性多糖類であることが好ましい。
【0131】

また、上記細胞培養用足場材料は、繊維本体と、該繊維本体の表面上に配置された細胞培養用足場材料とを備える細胞培養用繊維として用いることもできる。この場合、細胞培養用足場材料は、繊維本体の表面に塗布されていることが好ましく、塗布物であることが好ましい。この細胞培養用繊維では、繊維本体中に細胞培養用足場材料が存在していてもよい。例えば、繊維本体を液状の細胞培養用足場材料に含浸したり、練り込んだりすることにより細胞培養用足場材料を繊維本体中に存在させることができる。幹細胞は、一般に、平面構造には接着しにくく、線維状構造などの立体構造には接着しやすい性質を有するため、細胞培養用繊維は、幹細胞の三次元培養に好適に用いられる。幹細胞のなかでも、脂肪幹細胞の三次元培養により好適に用いられる。
【0132】

上記細胞培養用足場材料における合成樹脂は、架橋されていてもよい。架橋された合成樹脂を含む細胞培養用足場材料は、水膨潤性が効果的に抑制され、強度を高めることができる。架橋剤を用いることにより、合成樹脂を架橋させることができる。
【0133】

(細胞培養用容器)

本発明に係る細胞培養用容器は、容器本体と、上述した細胞培養用足場材料とを備え、上記容器本体の表面上に、該細胞培養用足場材料が配置されている。
【0134】

図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を模式的に示す断面図である。
【0135】

細胞培養用容器1は、容器本体2と、細胞培養用足場材料3とを備える。容器本体2の表面2a上に細胞培養用足場材料3が配置されている。容器本体2の底面上に細胞培養用足場材料3が配置されている。細胞培養用容器1に液体培地を添加し、また、細胞塊等の細胞を細胞培養用足場材料3の表面に播種することで、細胞を平面培養することができる。
【0136】

なお、容器本体は、第1の容器本体の底面上にカバーガラス等の第2の容器本体を備えていてもよい。第1の容器本体と第2の容器本体とは分離可能であってもよい。この場合、第2の容器本体の表面上に、該細胞培養用足場材料が配置されていてもよい。
【0137】

上記容器本体として、従来公知の容器本体(容器)を用いることができる。上記容器本体の形状および大きさは特に限定されない。
【0138】

上記容器本体としては、1個又は複数個のウェル(穴)を備える細胞培養用プレート、及び細胞培養用フラスコ等が挙げられる。上記プレートのウェル数は特に限定されない。該ウェル数としては、特に限定されないが、例えば、2、4、6、12、24、48、96、384等が挙げられる。上記ウェルの形状としては、特に限定されないが、真円、楕円、三角形、正方形、長方形、五角形等が挙げられる。上記ウェル底面の形状としては、特に限定されないが、平底、丸底、凹凸等が挙げられる。上記容器本体の材質は特に限定されないが、樹脂、金属及び無機材料が挙げられる。
【実施例
【0139】

以下に実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0140】

細胞培養用足場材料の材料として、以下の合成樹脂X1~X15、Y1~Y4を用意した。合成樹脂X1~X15に用いた多座水素結合性基を有するモノマーの詳細を、表1に示す。
【0141】

【表1】
【0142】

なお、得られた合成樹脂における構造単位の含有率は、合成樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解した後、H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定した。合成樹脂が有する各構造単位の含有率を表2~4に示した。なお、表中、多座水素結合性基の含有率は、多座水素結合性基を有する構造単位の割合である。
【0143】

合成樹脂X1:合成例X1

攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度250、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルブチラール樹脂を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%になるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルブチラール樹脂(平均重合度250、アセタール化度(ブチラール化度)71モル%、水酸基量28モル%、アセチル基量1モル%)を得た。
【0144】

このポリビニルブチラール樹脂95重量部を、20重量%の溶液となるようにテトラヒドロフランに溶解させ、開始剤としてイルガキュア184を0.1重量部及びドーパミンアクリルアミド5重量部を添加し、グラフト重合を行うことで、合成樹脂X1を得た。
【0145】

得られた合成樹脂X1は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X1において、平均重合度250、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量38モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度60モル%、多座水素結合性基の含有率1モル%であった。
【0146】

合成樹脂X2:合成例X2

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から90重量部に変更したこと、及びドーパミンアクリルアミドの配合量を5重量部から10重量部に変更したこと以外は、合成例X1と同様にして、合成樹脂X2を得た。
【0147】

得られた合成樹脂X2は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X2において、平均重合度250、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量37モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度59モル%、多座水素結合性基の含有率3モル%であった。
【0148】

合成樹脂X3:合成例X3

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から80重量部に変更したこと、及びドーパミンアクリルアミドの配合量を5重量部から20重量部に変更したこと以外は、合成例X1と同様にして、合成樹脂X3を得た。
【0149】

得られた合成樹脂X3は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X3において、平均重合度250、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量36モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度57モル%、多座水素結合性基の含有率7モル%であった。
【0150】

合成樹脂X4:合成例X4

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から90重量部に変更したこと、及びグラフト重合する際に、ドーパミンアクリルアミド5重量部と、N-(4-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド5重量部とを用いたこと以外は、合成例X1と同様にして、合成樹脂X4を得た。
【0151】

得られた合成樹脂X4は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X4において、平均重合度250、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量38モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度59モル%、多座水素結合性基の含有率2モル%であった。
【0152】

合成樹脂X5:合成例X5

ドーパミンアクリルアミド5重量部に代えて、4-メタクリルアミドフェニルボロン酸5重量部を用いたこと以外は、合成例X1と同様にして、合成樹脂X5を得た。
【0153】

得られた合成樹脂X5は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてボロン酸骨格(フェニルボロン酸骨格)を有する基を有する。合成樹脂X5において、平均重合度250、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量38モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度60モル%、多座水素結合性基の含有率1モル%であった。
【0154】

合成樹脂X6:合成例X6

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から90重量部に変更したこと、及び4-メタクリルアミドフェニルボロン酸の配合量を5重量部から10重量部に変更したこと以外は、合成例X5と同様にして、合成樹脂X6を得た。
【0155】

得られた合成樹脂X6は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてボロン酸骨格(フェニルボロン酸骨格)を有する基を有する。合成樹脂X6において、平均重合度250、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量37モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度59モル%、多座水素結合性基の含有率3モル%であった。
【0156】

合成樹脂X7:合成例X7

平均重合度1700、ブチラール化度63モル%、水酸基量34モル%、アセチル化度3モル%のポリビニルブチラール樹脂を用いたこと以外は、合成例X1と同様にして、合成樹脂X7を得た。
【0157】

得られた合成樹脂X7は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X7において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量34モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度62モル%、多座水素結合性基の含有率1モル%であった。
【0158】

合成樹脂X8:合成例X8

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から90重量部に変更したこと、及びドーパミンアクリルアミドの配合量を5重量部から10重量部に変更したこと以外は、合成例X7と同様にして、合成樹脂X8を得た。
【0159】

得られた合成樹脂X8は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X8において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量33モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度62モル%、多座水素結合性基の含有率2モル%であった。
【0160】

合成樹脂X9:合成例X9

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から80重量部に変更したこと、及びドーパミンアクリルアミドの配合量を5重量部から20重量部に変更したこと以外は、合成例X7と同様にして、合成樹脂X9を得た。
【0161】

得られた合成樹脂X9は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてカテコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X9において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量32モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度60モル%、多座水素結合性基の含有率5モル%であった。
【0162】

合成樹脂X10:合成例X10

ドーパミンアクリルアミド5重量部に代えて、グリセリンモノメタクリレート5重量部を用いたこと以外は、合成例X7と同様にして、合成樹脂X10を得た。
【0163】

得られた合成樹脂X10は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてエチレングリコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X10において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量34モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度62モル%、多座水素結合性基の含有率1モル%であった。
【0164】

合成樹脂X11:合成例X11

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から90重量部に変更したこと、及びグリセリンモノメタクリレートの配合量を5重量部から10重量部に変更したこと以外は、合成例X10と同様にして、合成樹脂X11を得た。
【0165】

得られた合成樹脂X11は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてエチレングリコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X11において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量33モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度61モル%、多座水素結合性基の含有率3モル%であった。
【0166】

合成樹脂X12:合成例X12

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から80重量部に変更したこと、及びグリセリンモノメタクリレートの配合量を5重量部から20重量部に変更したこと以外は、合成例X7と同様にして、合成樹脂X12を得た。
【0167】

得られた合成樹脂X12は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてエチレングリコール骨格を有する基を有する。合成樹脂X12において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量32モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度59モル%、多座水素結合性基の含有率6モル%であった。
【0168】

合成樹脂X13:合成例X13

グリセリンモノメタクリレート10重量部に代えて、DL-2-アリルグリシン10重量部に変更したこと以外は、合成例X11と同様にして、合成樹脂X13を得た。
【0169】

得られた合成樹脂X13は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてアミノ基とカルボキシル基を有する。合成樹脂X13において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量33モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度60モル%、多座水素結合性基の含有率4モル%であった。
【0170】

合成樹脂X14:合成例X14

ドーパミンアクリルアミド5重量部に代えて、4-メタクリルアミドフェニルボロン酸5重量部を用いたこと以外は、合成例X7と同様にして、合成樹脂X14を得た。
【0171】

得られた合成樹脂X14は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてボロン酸骨格(フェニルボロン酸骨格)を有する基を有する。合成樹脂X14において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量33モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度62モル%、多座水素結合性基の含有率2モル%であった。
【0172】

合成樹脂X15:合成例X15

ポリビニルブチラール樹脂の配合量を95重量部から90重量部に変更したこと、及び4-メタクリルアミドフェニルボロン酸の配合量を5重量部から10重量部に変更したこと以外は、合成例X14と同様にして、合成樹脂X15を得た。
【0173】

得られた合成樹脂X15は、ポリビニルアセタール骨格(ポリビニルブチラール骨格)を有し、また、多座水素結合性基としてボロン酸骨格(フェニルボロン酸骨格)を有する基を有する。合成樹脂X15において、平均重合度1700、多座水素結合性基を有さない構造単位における水酸基量33モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度61モル%、多座水素結合性基の含有率3モル%であった。
【0174】

合成樹脂Y1:合成例Y1

攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度250、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルブチラール樹脂を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%となるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルブチラール樹脂である合成樹脂Y1を得た。
【0175】

得られた合成樹脂Y1は、平均重合度250、水酸基量57モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度40モル%であった。
【0176】

合成樹脂Y2:合成例Y2

酢酸ビニルモノマーをメタノールに溶解させ、開始剤を添加しながら65℃、5時間攪拌させ、重合した。得られた酢酸ビニルポリマー溶液に水酸化ナトリウム水溶液(10%)を添加し、60分間けん化反応を行った。オーブンにて乾燥させ、合成樹脂Y2を得た。
【0177】

得られた合成樹脂Y2は、平均重合度1000、水酸基量98モル%、アセチル基量2モル%であった。
【0178】

合成樹脂Y3:合成例Y3

攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度250、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルブチラール樹脂を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%になるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、合成樹脂Y3を得た。
【0179】

得られた合成樹脂Y3は、平均重合度250、水酸基量28モル%、アセチル基量1モル%、アセタール化度71モル%であった。
【0180】

合成樹脂Y4:合成例Y4

攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルブチラール樹脂を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%となるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルブチラール樹脂である合成樹脂Y4を得た。
【0181】

得られた合成樹脂Y4は、平均重合度1700、水酸基量34モル%、アセチル基量3モル%、アセタール化度63モル%であった。
【0182】

(実施例1~6及び比較例1~4)

細胞培養用容器の作製:

表2に示す合成樹脂1重量部をブタノール19重量部に溶解させた。得られた溶液150μLを、エアダスターで除塵したφ22mmのカバーガラス(松浪社製「22丸No.1」)の表面上に吐出し、スピンコーターを用いて2000rpm、20秒回転させた後、60℃で60分間加熱して、表面が平滑な樹脂膜(細胞培養用足場材料)を得た。得られた樹脂膜とカバーガラスとの積層体を、φ22mmのポリスチレンディッシュに配置することにより細胞培養用容器を得た。
【0183】

なお、比較例1では、ポリスチレンディッシュ自体を細胞培養用容器として用いた。
【0184】

細胞塊の播種及び培養:

以下の液体培地及びROCK(Rho結合キナーゼ)特異的阻害剤を用意した。
【0185】

TeSR E8培地(STEM CELL社製)

ROCK-Inhibitor(Y27632)
【0186】

得られた細胞培養用容器にリン酸緩衝生理食塩水1mLを加えて37℃のインキュベーター内で1時間静置後、細胞培養用容器からリン酸緩衝生理食塩水を除去した。
【0187】

φ35mmディッシュにコンフルエント状態になったh-iPS細胞252G1のコロニーを配置し、0.5mMエチレンジアミン/リン酸緩衝溶液1mLを加え、室温で2分静置した。エチレンジアミン/リン酸緩衝溶液を除去した後、液体培地1mLでピペッティングすることにより50μm~200μmの大きさに砕かれた細胞塊を得た。得られた細胞塊(細胞数1.0×10cells)を上記の細胞培養用容器にクランプ播種した。
【0188】

播種時は1.5mLの液体培地と、終濃度が10μMとなるようにROCK特異的阻害剤とを細胞培養用容器に添加した。また、37℃及びCO濃度5%のインキュベーター内で培養を行った。24時間毎に、液体培地を1mL除去し、ROCK特異的阻害剤を添加していない新鮮な液体培地を1mL加えることで培地交換を行った。
【0189】

(評価)

(1)細胞塊の定着性

播種から24時間毎の培地交換の後に、顕微鏡で写真を撮影した。得られた顕微鏡写真から、播種した細胞塊が、細胞培養用足場材料から剥離するまでの日数を確認した。
【0190】

<細胞塊の定着性の判定基準>

○○○:培養開始後、5日目以降に細胞塊の剥離が生じる

○○:培養開始後、4日目に細胞塊の剥離が生じる

○:培養開始後、3日目に細胞塊の剥離が生じる

×:培養開始後、1、2日目に細胞塊の剥離が生じる
【0191】

詳細及び結果を下記の表2に示す。
【0192】

【表2】
【0193】
(実施例7~9、参考例10~13、実施例14,15及び比較例5~7)
細胞培養用容器の作製:
表3,4に示す合成樹脂1重量部をブタノール19重量部に溶解させた。得られた溶液150μLを、エアダスターで除塵したφ22mmのカバーガラス(松浪社製「22丸No.1」)の表面上に吐出し、スピンコーターを用いて2000rpm、20秒回転させた後、60℃で60分間加熱して、表面が平滑な樹脂膜(細胞培養用足場材料)を得た。得られた樹脂膜とカバーガラスとの積層体を、φ22mmのポリスチレンディッシュに配置することにより細胞培養用容器を得た。
【0194】

細胞の播種及び培養:

以下の液体培地及び添加剤を用意した。液体培地であるMesenCult-ACF Plus Mediumに終濃度が1Xとなるように、MesenCult-ACF Plus 500X Supplement及びL-Glutamine 200mmol/L(100X)を加えた。
【0195】

MesenCult-ACF Plus Medium(Stemcell technologies社製)

MesenCult-ACF Plus 500X Supplement(Stemcell technologies社製)

L-Glutamine 200mmol/L(100X)(富士フイルム和光純薬社製)
【0196】

以下の細胞を間葉系幹細胞(MSC)として用意した。MSCを含む骨髄間質細胞をMSC用培地で馴化し、MSCの陽性マーカー(CD73、CD90、CD105)が95%以上、MSCの陰性マーカー(CD14、CD34、CD45)が5%未満の純度である細胞をMSCとして使用した。
【0197】

Human Bone Marrow Stromal Cells Derived in ACF Medium(Stemcell technologies社製)
【0198】

得られた細胞培養用容器にリン酸緩衝生理食塩水1mLを加えて37℃のインキュベーター内で1時間静置後、細胞培養用容器からリン酸緩衝生理食塩水を除去した。
【0199】

φ35mmディッシュにコンフルエント状態になったMSCを配置し、ACF Enzymatic Dissociation Solution(Stemcell technologies社製)2mLを加え、37℃及びCO濃度5%のインキュベーター内で3分静置した。さらに、ACF Enzyme Inhibition Solution(Stemcell technologies社製)2mLを加えた。300rpmで8分間遠心後、上清を除去して、液体培地で懸濁し細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液(細胞数8.0×10cells)を上記の細胞培養用容器に播種した。
【0200】

播種時は1.5mLの液体培地を細胞培養用容器に添加した。また、37℃及びCO濃度5%のインキュベーター内で培養を行った。
【0201】

(評価)

(1)細胞の定着性

播種から1日後、3日後、4日後、5日後に、顕微鏡で写真を撮影した。得られた顕微鏡写真から、播種した細胞が、細胞培養用足場材料に接着し、増殖する日数を確認した。
【0202】

<細胞の定着性の判定基準>

○○○:培養開始後、1日目に細胞が接着し、4日目を超えても接着及び増殖を維持する

○○:培養開始後、1日目に細胞が接着し、3日目まで接着及び増殖を維持する

○:培養開始後、1日目に細胞が接着し、3日目を超えても接着を維持する(増殖はしない)

×:培養開始後、1日目に細胞が接着せず剥離が生じる
【0203】

詳細及び結果を下記の表3,4に示す。
【0204】
【表3】

【0205】
【表4】
【符号の説明】
【0206】

1…細胞培養用容器

2…容器本体

2a…表面

3…細胞培養用足場材料

10…細胞

11…水素結合を形成可能な物質

20…細胞培養用足場材料

30…水素結合
図1
図2