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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】ポリカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/20 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
C08G64/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020534412
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018084552
(87)【国際公開番号】W WO2019121236
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】17209190.2
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、エジュル
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ、バッハマン
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー、ミヒェレ
(72)【発明者】
【氏名】フェリクス、コック
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05275758(US,A)
【文献】特開平06-100686(JP,A)
【文献】特開2003-040996(JP,A)
【文献】特開2002-226434(JP,A)
【文献】特開2004-018624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの触媒の存在下において相界面法によりポリカーボネートを製造する方法であって、少なくとも1つの触媒の最初の添加直後に、
0.01~20J/kgの混合エネルギーを2~1200秒の時間内に、少なくとも1つの触媒を含む系に導入する工程(c1)と、工程(c1)の後に続く、50~500J/kgの分散エネルギーを0秒超かつ60秒以下の時間で前記触媒含有系に導入する工程(c2)とを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記工程(c1)において、0.01~20J/kgの混合エネルギーを2~700秒の時間内に、少なくとも1つの触媒を含む系に導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
0.01~20J/kgの前記混合エネルギーを、少なくとも1つの静的ミキサーおよび/または少なくとも1つの動的ミキサーによって前記触媒含有系に導入することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法を連続的に実施することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記触媒が、第三級アミンおよび有機ホスフィンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、
(a):有機相が少なくともホスゲンおよび必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含み、水相が少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン、アルカリ金属水酸化物、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含む、有機相と水相との混合物を製造する工程と、
(b):工程(a)で得られた混合物中の、前記ホスゲンと少なくとも1つの前記ジヒドロキシジアリールアルカンとを、少なくとも1つの連鎖停止剤および/または更なるアルカリ金属水酸化物を必要に応じて添加して反応させる工程と、
(c):少なくとも1つの触媒を少なくとも1回添加する工程と
を有し、工程(c)は工程(a)の前および/または工程(b)の後に行う
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c2)が工程(c1)の直後に続くことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)において、少なくとも1つの前記ジヒドロキシジアリールアルカンに対するホスゲンの過剰分が3~20モル%であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの前記触媒を、最初の前記添加において溶液の形態で添加することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの前記触媒の最初の前記添加の直後の温度が35~45℃であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
有機相および水相を含有する系に少なくとも1つの触媒を分配するための、2~1200秒の時間にわたる0.01~20J/kgの混合エネルギーと、その後に続く、0秒超から60秒未満の時間にわたる50~500J/kgの分散エネルギーとの使用であって、
前記有機相が少なくともホスゲンおよび必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含み、前記水相が少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン、アルカリ金属水酸化物、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含む、使用。
【請求項12】
0.01~20J/kgの混合エネルギーを2~700秒の時間内に、少なくとも1つの触媒を含む系に導入する、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの触媒の存在下において相界面法によりポリカーボネートを効率的に製造する方法に関し、ここで、少量の混合エネルギーが、触媒の添加直後に系に導入される。
【背景技術】
【0002】
相界面法によるポリカーボネートの調製は、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、さらに非特許文献4に記載されている。
【0003】
さらに、ポリカーボネートを調製するための相界面法は、例えば、特許文献1にも記載されている。
【0004】
一般的に、アルカリ性水溶液または懸濁液中に存在する、ビスフェノールまたは様々なビスフェノール混合物のジナトリウム塩のホスゲン化は、水相に加え、第二の有機相を形成する、不活性有機溶媒または溶媒混合物の存在下で行われる。形成されたオリゴカーボネートは、主に有機相中に存在し、適切な触媒によって縮合されて、有機相に溶解した高分子量ポリカーボネートが得られ、分子量は、適切な連鎖停止剤(例えば、単官能性フェノール)によって制御することができる。有機相は最終的に分離され、ポリカーボネートは様々な処理工程によってそこから単離される。
【0005】
縮合は、通常、界面においてアルカリおよび触媒の存在下で不活性溶媒中で行われる。
【0006】
2つの相の界面で必要な物質移動は、適切な混合によって行われる。一般的に、これは、高い剪断勾配に関連する高分散エネルギーの導入によって達成される。したがって、例えば、特許文献2では、適切な混合装置によってエマルション中に触媒を激しく混合することが有利であり得ることが強調されている。特許文献3の例もこの教示を支持している。ここでは、反応器の初めに触媒の計量地点を有する、螺旋状に巻かれた管型反応器が使用されている。この螺旋状に巻かれた反応器を通じた約5barの圧力降下の時点で、触媒の添加後に約500J/kgの混合エネルギーが系に導入されている。同様の実験設定が特許文献4に記載されている。ここでも、反応器の初めに触媒の計量地点を有する、螺旋状に巻かれた管型反応器が使用されている。
【0007】
しかしながら、高い剪断勾配は、一般的に、その後の精製プロセスにおける不充分な相分離をもたらす。これは、有機相中の含水量の増加、または廃水中の残留モノマー含有量または連鎖停止剤含有量の増加に関連している。
【0008】
プロセスの最適化は、混合の改善や狭い温度およびpHプロファイルの維持、ならびに生成物の単離によって達成されるが、特許文献5、特許文献6、特許文献7および特許文献8に記載されている。ここでは、反応混合物は、触媒の添加後、くびれが設けられた管を通して頻繁に移送され、それにより、連続的に混合および分散されている。例えば、特許文献5の実施例1には、反応混合物を、約602J/kgの総混合エネルギーを消費して、複数のくびれを有する管を通して移送することが記載されている。
【0009】
特に触媒を添加すると、望ましくない二次反応が起こる。触媒を添加すると、反応が大きく加速される。反応が理想的な方法で行われない場合、未反応の(残留)モノマーまたはフェノール類成分が2つの相に残る可能性がある。
【0010】
触媒の添加前に、一般的に連鎖停止剤も混合物に添加する。触媒の添加は、ごく少量のBPAが依然として存在するときは、反応の最後に通常は行われる。それにより、触媒による窒素の望ましくない混入を最小限にすることができる。
【0011】
しかしながら、特に例えば光学用途のための高純度ポリカーボネートの調製に関しては、起こり得る汚染を可能な限り防止することが必要である。さらに、経済性と環境にやさしいプロセス手順とを組み合わせるために、廃水流の汚染がごくわずかであり、したがって廃水流をほとんど精製する必要がないことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第0517044A号
【文献】欧州特許出願公開第0520272A号
【文献】欧州特許出願公開第2098553A号
【文献】国際公開第2015/110447A1号
【文献】欧州特許出願公開第1219589A1号
【文献】欧州特許出願公開第1216981A2号
【文献】欧州特許出願公開第1216982A2号
【文献】欧州特許出願公開第784048A1号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Schnell,“Chemistry and Physics of Polycarbonates”,Polymer Reviews,Volume 9,Interscience Publishers,New York,London,Sydney 1964,pp.33-70
【文献】D.C.Prevorsek,B.T.Debona and Y.Kesten,Corporate Research Center,Allied Chemical Corporation,Morristown,New Jersey 07960,“Synthesis of Poly(ester Carbonate)Copolymers” in Journal of Polymer Science,Polymer Chemistry Edition,Vol.18,(1980),pp.75-90
【文献】D.Freitag,U.Grigo,P.R.Muller,N.Nouverne’,BAYER AG,“Polycarbonates” in Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,Volume 11,Second Edition,1988,pp.651-692
【文献】Dres U.Grigo,K Kircher and P R-Muller“Polycarbonate” in Becker/Braun,Kunststoff~Handbuch,Volume 3/1,Polycarbonate,Polyacetale,Polyester,Celluloseester,Crul Hanser Verlag Munich,Vienna 1992,pp.118-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、先行技術の少なくとも1つの不利な点を改善する、相界面法によるポリカーボネートの製造方法を提供することであった。特に、本発明の目的は、廃水流および/または有機相および/またはポリカーボネート中の未反応の残留モノマーの濃度が極めて低い相界面法によるポリカーボネートの製造方法を提供することであった。したがって、とりわけ、主反応において極めて完全な変換を達成することが目的であった。同様に、それに加えて、水相中のフェノール類成分の残留物を好ましくは最小化することが望ましかった。さらに、上記方法の後続の工程で、エマルションの有機相および水相への良好な分離を確保できることが望ましかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的の少なくとも1つ、好ましくは全てが、本発明によって達成された。驚くべきことに、触媒の添加領域において、触媒の均一な混合と組み合わされた系へのエネルギー入力を削減することによって、水相中のフェノール類成分が本発明に従い減少することが見出された。それに加えて、エマルションは2つの相に極めて良好に分離しうる。
【0016】
2つの相の間の界面での迅速な反応は、界面へのおよび界面からの極めて良好な物質移動を必要とすることが知られている。この理由から、確立された解決策は、激しい混合の結果としてのこの物質移動を確実にするために、高い分散エネルギーを触媒の添加領域に導入することを規定する。さらに、形成される相の微細構造と界面は、同時に高い剪断勾配の影響を受ける。
【0017】
本発明の方法では、驚くべきことに、この確立された手順とは反対に、比較的低い混合エネルギー、およびそれに加えて低い剪断速度を用いて触媒を均一に混合すると、反応の選択性が高くなることが見出された。この方法は、さらに、エマルションが後続の工程でより容易に分離可能であり、また最終的には望ましくない成分(例えば(残留)モノマーおよび/またはフェノール類成分)が水相および有機相の両方で減少するという利点も提供する。これにより、第一に、水相および有機相、ならびに生成したポリカーボネートの後処理のコストが大幅に低下する。第二に、これはまた、使用される出発物質がより完全に反応することを意味し、このより高い収率によって出発物質(例えばホスゲンおよびビスフェノールA)の損失が減少する(選択性の向上)。
【0018】
したがって、本発明は、少なくとも1つの触媒の存在下において相界面法によりポリカーボネートを製造する方法を提供し、少なくとも1つの触媒の任意の最初の添加直後に、0.01~20J/kgの混合エネルギーを2~1200秒の時間内に、少なくとも1つの触媒を含む系に導入することを特徴とする。
【0019】
本発明の文脈において、0.01~20J/kgの範囲の混合エネルギーの導入は、相が互いにほとんど混合しないことを意味する。これは、0J/kgを超える混合エネルギーが常に導入されることを意味する。0.01~20J/kgの混合エネルギーの導入は、均一化が起こることを好ましくは意味する。これは、同時の分散を伴わずに起こることが特に好ましい。当業者は、25℃でのPC溶液の密度1.22g/cm3に基づいて、J/kgをW/m3に変換することができる。均一化および分散という用語は、当業者に知られている。「均一化」という用語は、組成物の個々の成分の濃度が、水相または有機相の任意の体積要素内で本質的に同じである状態が求められること、好ましくは維持されることを望ましくは意味する。ここで、「本質的に」という用語は、任意の体積要素における組成物の個々の成分の濃度の偏差が5%以下、好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下であることを望ましくは意味する。さらに、水相と有機相との間の相界面が非常に小さいことが好ましい。同様に、「分散」という用語は、水相と有機相とから構成されるエマルションの形成を好ましくは意味し、水相および有機相は、ポリカーボネートの製造のための更なる成分をさらに含むことができる。そのようなエマルションの例は、水中油型エマルションまたは油中水型エマルションである。このエマルションは、安定であることが好ましい。これは、少なくとも30分間はそれが目に見えて脱混合しないことを意味する。したがって、均一化は、相のうちの1つにおける任意の溶解した物質の濃度勾配がなく、非常に小さな相界面が相間に存在することによって、分散と区別されることが好ましい。本発明によれば、20J/kgより大きい混合エネルギーは、分散エネルギーであることが好ましい。
【0020】
混合エネルギーは、特に好ましくは0.4~20J/kg、より好ましくは2~10J/kg、とりわけ好ましくは4~6J/kgである。
【0021】
当業者は、反応器が特定されれば、対応する剪断速度を計算することができる。
【0022】
本発明によれば、示された混合エネルギーは平均である。これは、混合エネルギーのより高い値またはより低い値が好ましくは除外されないことを意味する。これらは、短時間だけ任意に発生することもある。本発明によれば、反応器の系全体にわたって平均をとることが好ましい。この理由のため、それぞれの境界域または内部での混合エネルギーが計算に含まれる。
【0023】
本発明によれば、低混合エネルギーに起因する相界面のサイズが、第一に、水相と有機相との後の分離に相当有利であることが見出された。それに加えて、本発明の方法によって未反応モノマーの濃度が低く保たれる結果として、そのような分離がさらに簡単になることも見出された。特にビスフェノールAは、ポリカーボネートの製造における標準的なモノマーであるが、乳化剤として作用しえることが知られている。この意味で、それは、水相と有機相とから構成されるエマルションを安定化させる。モノマーの変換の向上とともに選択性の向上が本発明に従って達成されることにより、エマルションを安定化させるモノマーが少なくて済む。これにより、水相と有機相との分離が簡略化される。本発明によれば、これはまた、とりわけ、有機相中の水性液滴および/または水相中の有機液滴の濃度の低下を意味する。
【0024】
本発明による低混合エネルギーは、触媒の任意の最初の添加直後に(添加後直ちに)導入される。ここで、「直ちに」という用語は、対応する反応器が、連続系において、1秒以内に混合エネルギーを触媒含有体積要素に導入するような態様で触媒を添加するように構成されることを好ましくは意味する。これは、本発明によれば、非常に短いパイプを介した、本発明による混合エネルギーを達成する反応器と触媒導入位置との接続が除外されないことを意味する。バッチ系の場合、これは、混合エネルギーが既に供給されている系に触媒を導入し、触媒を含む体積要素が1秒以内にこの混合エネルギーを受けることを好ましくは意味する。
【0025】
「少なくとも1つの触媒の任意の最初の添加後」という本発明による規定は、異なる時間に触媒を複数回添加することがあり得ることを好ましくは意味する。これは、例えば、連続プロセスでは、プロセス中に触媒を導入できる複数の個所があることを意味する。バッチプロセスでは、添加は異なる時点で行うことができる。触媒の種々の添加の場合、同一の触媒および/または触媒混合物、あるいは異なる触媒および/または触媒混合物が各添加で加えられる。いずれの場合でも、最初の添加は、常に、触媒を全く初めて系に導入するときの添加である。本発明によれば、この時点で低混合エネルギーを導入する。しかしながら、0.01~20J/kgの混合エネルギーは、好ましくは、少なくとも1つの触媒の各添加の直後に導入することができる。
【0026】
本発明の方法は、少なくとも1つの触媒を1回のみ添加することを包含することが好ましい。ここでは、触媒が1つしかないことが特に好ましい。
【0027】
本発明に従って使用される少なくとも1つの触媒は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N-アルキルピペリジン(N-エチルピペリジン、N-メチルピペリジンまたはN-i/n-プロピルピペリジン)等の第三級アミン、および有機ホスフィンからなる群から選択できる。少なくとも1つの触媒は、トリエチルアミンおよび/またはエチルピペリジンであることが特に好ましい。
【0028】
少なくとも1つの触媒の任意の最初の添加は、ホスゲン化の前に、しかし好ましくはホスゲンの導入後に、行うことができる。触媒の導入は、neatで、不活性溶媒(好ましくはポリカーボネート合成における有機相または有機相のうちの1つ)中において、あるいは水溶液として、行うことができる。第三級アミンを触媒として使用する場合、それらは、例えば、酸、好ましくは鉱酸、特に塩酸とのアンモニウム塩として水溶液に導入することができる。複数の触媒を使用する場合、または触媒の総量のうち一部の量を導入する場合、異なる導入方法を、異なる箇所または異なる時間に採用することもできる。使用される触媒の総量は、使用されるモノフェノールのモルに対して、0.0001~1.0モル%、好ましくは0.001~0.2モル%の範囲である。本発明の方法は、任意の最初の添加の場合は、少なくとも1つの触媒を溶液の形態で添加することを特徴とすることが好ましい。ここで、溶液は、好ましくは、少なくとも1つの溶媒中の少なくとも1つの触媒の均一な混合物である。触媒は、塩化メチレン、クロロベンゼンまたはこれら2つの混合物に溶解していることが特に好ましい。ここでは、溶媒を基準として2~10%からなる混合物が好ましい。系中の触媒の分布が良好になり、本発明による効果をさらに良好に達成できるため、少なくとも1つの触媒を溶液の形態で添加することが有利であることが見出された。
【0029】
少なくとも1つの触媒の任意の最初の添加直後の温度が35~45℃であることが有利であることが見出された。このようにして、触媒によってもたらされる窒素の混入を低減することができる。
【0030】
本発明による低混合エネルギーは、2~1200秒、特に好ましくは60~700秒の時間内に印加される。
【0031】
混合エネルギーは、少なくとも1つの静的ミキサーおよび/または少なくとも1つの動的ミキサーによって触媒含有系に導入されることが好ましい。複数の静的ミキサーおよび/または動的ミキサーを使用する場合、これらは直列に接続することができる。
【0032】
好ましい実施形態では、0.01~20J/kg、特に好ましくは0.4~20J/kgを、少なくとも1つの静的ミキサーによって、1~100秒、特に好ましくは2~25秒の時間にわたって触媒含有系に導入する。
【0033】
同様に好ましい実施形態では、0.01~20J/kg、特に好ましくは0.4~20J/kgを、少なくとも1つの動的ミキサーによって、60~1200秒、特に好ましくは120~700秒の時間にわたって触媒含有系に導入する。動的ミキサーは、好ましくは攪拌槽である。
【0034】
本発明によれば、少なくとも1つの触媒の添加直後における高い剪断速度の回避を確保しなければならない。上記のように、当業者は、所与の反応器の系の剪断速度を計算することができる。
【0035】
静的ミキサーとして、当業者に知られている全てのタイプを使用することが可能である。ブレードリングミキサー等の乱流系装置と、例えば螺旋状のもしくは櫛状に交差したまたはハニカムグリッド状の曲がりくねった構造、あるいは微細構造化されたミキサー等の層流領域で機能する装置との両方が好ましい。静的ミキサーの場合、ミキサーの形状、流量および圧力降下を選択することで、過度に高い剪断応力を非常に簡単に回避できる。適切な選択は、当業者の知識および技能の範囲内にある。剪断応力が非常に低い静的ミキサーの極端な例として、乱流が発生する空のチューブもありえる。
【0036】
動的ミキサーは、好ましくは、攪拌槽およびポンプからなる群から選択される。当業者に知られているように、攪拌槽を使用する場合、剪断応力は、攪拌機の形状、バッフリング、および攪拌機の回転速度の選択によって制限することができる。例えば、プロペラスターラーは、2つのバッフルを有する装置で使用できる。しかしながら、傾斜ブレードスターラーまたはディスクスターラー等の他の撹拌機の形状も使用できる。ポンプは、動的ミキサーとしても機能することができる。例えば、遠心力ポンプの場合、剪断応力は、ポンプローターの周速度と、ローターおよびハウジング間の間隙幅との選択によって影響を受ける可能性がある。
【0037】
本発明によれば、上記方法は、連続的に実施することが好ましい。本発明の効果は、既存の連続プラントで簡単な方法で有利に得られる。これらは、しばしば触媒を系に導入するための分散機を有し、そこで溶液は、非常に小さな液滴が形成されるようにオリフィス板の小さな穴を通してポンプで送られる。本発明の効果は、これらの穴を単に拡大して混合エネルギーを低減することにより、既存のプラントにおいて簡単な方法で実現することができる。
【0038】
さらに、本発明の方法は、
(a):有機相が少なくともホスゲンおよび必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含み、水相が少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン、アルカリ金属水酸化物、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含む、有機相と水相との混合物を製造する工程と、
(b):(a)で得られた混合物中の、ホスゲンと少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンとを、少なくとも1つの連鎖停止剤および/または更なるアルカリ金属水酸化物を必要に応じて添加して反応させる工程と、
(c):少なくとも1つの触媒を少なくとも1回添加する工程と
を有し、工程(c)は工程(a)の前および/または工程(b)の後に行う
ことを特徴とすることが好ましい。
【0039】
工程(a)における2つの相(水相および有機相)の分散は、好ましくは、設置されたチューブオリフィス、静的ミキサー、分散機および/または例えばポンプによって実現され得る。反応は、好ましくは、逆混合がほとんどないプラグフローで行う。したがって、これは、例えば、管型反応器で行う。
【0040】
分散機によって、有機相を水相に分散させるか、または水相を有機相に分散させると、水中油型分散体または油中水型分散体を製造することができる。油という用語は有機相を指す。水中油型分散体は、分散工程で製造することが好ましい。有機相は、分散機によって水相中に連続的に分散させることが好ましい。
【0041】
水中油型分散体は、定義により、水が外(連続)相を形成し、油が内(分散)相を形成する分散体であり、つまり、油滴が水中に分散している。それ故に、油中水型分散体は、油が外相を形成し、水が内相を形成する分散体である。
【0042】
有機相は、1つ以上の溶媒を含有する。
【0043】
適切な溶媒は、芳香族および/または脂肪族の塩素化炭化水素、好ましくは、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンおよびクロロベンゼン、ならびにこれらの混合物である。しかしながら、ベンゼン、トルエン、m-/p-/o-キシレン等の芳香族炭化水素、またはアニソール等の芳香族エーテルを、単独で、混合して、または塩素化炭化水素に加えて、もしくは塩素化炭化水素と混合して使用することも可能であり、ジクロロメタンおよびクロロベンゼン、ならびにこれらの混合物が好ましい。本発明の方法の別の実施形態は、ポリカーボネートを溶解しないが部分的にのみ膨潤させる溶媒を使用する。したがって、ポリカーボネートに対する非溶媒を溶媒と組み合わせて使用することも可能である。その場合、水相に溶解する溶媒、例えばテトラヒドロフラン、1,3-もしくは1,4-ジオキサンまたは1,3-ジオキソランも、溶媒パートナー(solvent partner)が第二の有機相を形成する場合、溶媒として使用することができる。
【0044】
工程(a)の有機相は、少なくとも1つの溶媒だけでなく、少なくともホスゲン、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤も含有する。
【0045】
有機相は、混合物の製造前に、必要とされるホスゲンの全部または一部を含有する。有機相は、混合物の製造前に、使用されるホスゲンの過剰分を含めて、必要とされる全ホスゲンを含むことが好ましい。ホスゲンの有機相への導入は、気体または液体の形態で達成することができる。少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンに対する、工程(a)で使用されるホスゲンの過剰分は、好ましくは3~20モル%、特に好ましくは5~18モル%、非常に特に好ましくは7.5~15.0モル%である。
【0046】
分子量を調整するために、フェノールもしくはアルキルフェノール、特にフェノール、p-tert-ブチルフェノール、イソオクチルフェノール、クミルフェノール、これらのクロロ炭酸エステル、もしくはモノカルボン酸の酸塩化物、またはこれらの連鎖停止剤の混合物などの1つ以上の単官能性連鎖停止剤を有機相へ添加することが、工程(a)において必要であり得る。しかしながら、そのような連鎖停止剤は、ホスゲンもしくはクロロ炭酸の末端基が反応混合物中に依然として存在する限り、または連鎖停止剤として酸塩化物およびクロロ炭酸エステルを用いる場合は、形成されるポリマーにおける充分なフェノール性末端基が利用可能である限り、合成中の任意の時点で添加することもできる。例えば、少なくとも1つの連鎖停止剤を工程(b)で添加することもできる。
【0047】
連鎖停止剤は、工程(c)の直前に添加することが好ましい。これは、ホスゲンがもはや存在しないが少なくとも1つの触媒がまだ導入されていない箇所または時点で行うことが好ましく、すなわち、それらは、少なくとも1つの触媒の前に、少なくとも1つの触媒とともに、または並行して、そこに導入することができる。連鎖停止剤は、溶融物、アルカリ性水溶液、または反応に使用される有機溶媒の溶液として、導入することができる。連鎖停止剤の溶液は、使用される有機溶媒のものであることが好ましく、その結果、連鎖停止剤は、反応性の酸塩化物末端基の付近の有機相に導入される。
【0048】
本発明の方法の特に好ましい実施形態では、フェノールを連鎖停止剤として使用する。フェノールは、工程(c)の前に、少なくとも1つの有機溶媒と、5~40重量%、好ましくは10~25重量%の濃度のフェノールとを含有する溶液の形態で使用することが望ましい。この実施形態において、水相は、反応(すなわち、工程(b))の終わりにおいて11.3~11.6のpHに設定することが好ましい。フェノールの添加およびpHの11.3~11.6への設定は、触媒の添加前に行うことが好ましい。
【0049】
工程(a)の水相は、少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン、アルカリ金属水酸化物、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含有する。
【0050】
適切なジヒドロキシジアリールアルカンは、好ましくは一般式(I)のものである。
HO-Z-OH (I)
式(I)中、Zは、炭素原子を6~30個有し、1つ以上の芳香族基を含む二価の有機基である。本発明の方法で使用できるそのような化合物の例は、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシビフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、α,α’-ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、ならびにこれらのアルキル化、環アルキル化および環ハロゲン化化合物等のジヒドロキシジアリールアルカンである。好ましいジヒドロキシジアリールアルカンは、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA(BPA))、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(ビスフェノールM)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2, 4-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,3-ビス[2-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシンおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)である。特に好ましいジヒドロキシジアリールアルカンは、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA(BPA))、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)である。
【0051】
本発明の目的のために、アルカリ金属水酸化物は、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはこれらの混合物であり、特に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0052】
同様に、上記連鎖停止剤の少なくとも1つは、工程(a)の水相中に存在することもできる。
【0053】
工程(a)の水相は、水相の総重量に対して、好ましくは1~30重量%、特に好ましくは3~25重量%、非常に特に好ましくは8~17重量%のジヒドロキシジアリールアルカンを含有する。ここで、ジヒドロキシジアリールアルカンの合計に関するこの水溶液の濃度は、アルカリ金属塩としてではなく、遊離のジヒドロキシジアリールアルカンとして計算される。
【0054】
本発明の方法の工程(b)において、少なくとも1つの連鎖停止剤および/または更なるアルカリ金属水酸化物を必要に応じて添加して、ホスゲンは、工程(a)で得られた混合物中の少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンと反応する。
【0055】
この工程においても、上記連鎖停止剤および/または上記アルカリ金属水酸化物を好ましく添加することができる。
【0056】
本発明によれば、ホスゲンと少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンとの反応は、工程(a)と同じくらい早く起こり得て、その結果、工程(a)および(b)は、時間的に互いに容易に分けることができない。それにも関わらず、工程(a)は時間的に常に工程(b)の前に行われる。一実施形態では、工程(b)は、工程(a)と重複するにも関わらず、それでもなおより長く実施でき、その結果、以降の工程(b)のみが(工程(a)とさらに重複することなく)行われる。
【0057】
工程(a)および/または工程(b)において、1つ以上の分岐剤または分岐剤混合物を必要に応じて合成に添加することができる。しかしながら、そのような分岐剤は、通常は連鎖停止剤の前に添加する。例えば、トリスフェノール、第四級フェノール、トリカルボン酸またはテトラカルボン酸の酸塩化物、あるいはポリフェノールまたは酸塩化物の混合物が分岐剤として使用される。
【0058】
フェノール性ヒドロキシル基を3つ以上有する分岐化合物の例は、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタンである。
【0059】
分岐剤として適切な他の三官能性化合物の例は、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌルおよび3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドールである。特に好ましい分岐剤は、3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドールおよび1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタンである。
【0060】
工程(b)の間、オリゴカーボネートの形成が起こる。先行技術によれば、これは、例えば、ポンプ循環式反応器で行われる。例えば、欧州特許出願公開第1249463A1号、米国特許出願公開第2004/0158026A1号、米国特許第6,613,868B2号を参照。このポンプ循環式反応器では、導入されたホスゲンと同様に導入された少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン(好ましくはビスフェノールA)のジナトリウム塩との混合(工程(a))、および最初のオリゴマー化工程(工程(b))を行うことができる。形成されたクロロホルメート基は、存在するフェノキシド末端基と反応して、異なる末端基(フェノキシドもしくはクロロホルメートまたはこの2つの混合種)を含む成長しているオリゴマーを形成する。水相と有機相とのエマルションは、充分な混合または分散エネルギーの導入によって形成される。混合物中に内在するモノマー、好ましくはBPAは、ここではさらに乳化剤として作用する。
【0061】
工程(b)は、アルカリ媒体中で行われる。この工程は、発熱反応である。本発明によれば、それは、好ましくは-5℃~100℃、特に好ましくは15℃~80℃、非常に特に好ましくは25℃~65℃の温度範囲で行う。溶媒または溶媒混合物によっては、過圧下で作業する必要がある場合がある。反応は、使用する反応器に応じて、異なる圧力で行うことができる。例えば、反応は、好ましくは、0.5~20bar(絶対)の圧力で行うことができる。
【0062】
本発明による工程(c)では、少なくとも1つの触媒を少なくとも1回添加する。上記のように、それぞれ同一のもしくは異なる触媒または触媒混合物を複数回添加することができる。ここで、工程(c)は、工程(a)の前および/または工程(b)の後に行われる。工程(a)が工程(b)と重複する一実施形態では、それにもかかわらず、工程(a)は時間的に常に工程(b)の前に行い、その結果、工程(c)の時系列を明確に決定することができる。
【0063】
工程(c)を工程(a)の前に行う場合、少なくとも1つの触媒が有機相の一部であることが好ましい。
【0064】
工程(c)は、特に好ましくは工程(b)の後に、特に好ましくは工程(b)の直後に行う。
【0065】
本発明によれば、「少なくとも1つの触媒を含む系」が時々言及される。この系は、少なくとも1つの触媒の添加の時点に応じて異なり得る。例えば、少なくとも1つの触媒を工程(a)の前に添加する場合、系は、それを工程(b)の後に添加する場合とは異なる組成を有する。これは、工程(a)の前はオリゴカーボネートがまだ存在しないが、工程(b)の後には存在するためである。したがって、当業者は、添加の時点に基づいてこの系を決定することができる。「少なくとも1つの触媒を含む系」は、本発明による工程(b)の結果としての反応混合物であることが特に好ましい。
【0066】
さらに、0.01J/kg超から20J/kgの混合エネルギーを2秒から1200秒以下の時間にわたって導入する工程(c1)の後に、50~500J/kgの分散エネルギーを0秒超から60秒で触媒含有系に導入する更なる工程(c2)が続くことを特徴とする本発明の方法が好ましい。工程(c1)は、本発明に従い触媒を添加する上記工程であることが好ましい。より低い混合エネルギー入力の段階の後に、より大きな混合エネルギー入力の段階が続くことが有利であることが見出された。特に、このプロセス手順により、ポリカーボネート中のモノマーの残留含有量をさらに低減できることが見出された。工程(c2)にも関わらず、有機相と水相とは驚くほど容易に分離できる。
【0067】
工程(c2)では、50~500J/kg、好ましくは100~400J/kg、特に好ましくは200~380J/kgの分散エネルギーを系に導入する。この導入は、0秒超から60秒、好ましくは0.5~30秒、特に好ましくは1~20秒の時間にわたって行われる。分散エネルギーは、先行技術に記載されており、そして当業者に知られている方法によって導入することが好ましい。分散エネルギーの導入は、遠心力ポンプおよび/またはギアポンプによって達成することが非常に特に好ましい。
【0068】
この実施形態では、工程(c2)が工程(c1)の直後に続くことが特に好ましい。同様に、工程(c2)は工程(c1)後の25秒以下の時間に行うことが好ましい。この間、混合物は、例えば、工程(c1)から工程(c2)にパイプを介して移送することができる。
【0069】
本発明によれば、少量のジヒドロキシジアリールアルカン(モノマー)を驚くべきことに含む混合物が、工程(a)~(c)が行われた後に得られる。これは、本発明の方法により、選択性および収率を向上できることを示している。それに加えて、このようにして得られた混合物は先行技術による混合物とは異なる混合状態を有するが、これは、ジヒドロキシジアリールアルカンの量が減少して乳化剤が少なくなり、よって有機相と水相との異なる分布が生じるからである。さらに、残留ジヒドロキシジアリールアルカンの分布は先行技術とは異なるが、これは、先行技術ではその大部分が有機相に存在する一方、本発明ではその大部分が水相に存在するためである。
【0070】
したがって、本発明は、更なる態様において、ポリカーボネートを含有する、有機相と水相との混合物であって、相界面法によるポリカーボネートの製造方法によって得られる混合物を提供し、上記方法は、
(a):有機相が少なくともホスゲンおよび必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含み、水相が少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン、アルカリ金属水酸化物、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含む、有機相と水相との混合物を製造する工程と、
(b):(a)で得られた混合物中の、ホスゲンと少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンとを、少なくとも1つの連鎖停止剤および/または更なるアルカリ金属水酸化物を必要に応じて添加して反応させる工程と、
(c):少なくとも1つの触媒を少なくとも1回添加する工程と、ここで、工程(c)は工程(a)の前および/または工程(b)の後に、好ましくは工程(b)の後に行い、
(d):工程(b)の後に、または工程(c)を工程(b)の後に行う場合は工程(c)の後に、ポリカーボネートを含有する、有機相と水相との混合物を与える工程と
を有し、
工程(c)における少なくとも1つの触媒の任意の最初の添加直後に、0.01~20J/kgの混合エネルギーを2~1200秒の時間にわたって、少なくとも1つの触媒を含む系に導入することを特徴とする。
【0071】
相界面法によるポリカーボネートの製造方法は、本発明の上記方法に相当することが好ましい。有機相と水相との本発明による混合物は、未反応の出発物質および/または少なくとも1つの触媒を含むことが好ましい。
【0072】
更なる態様では、本発明は、以下によって得られる有機相も提供する。
(e)ポリカーボネートを含有する、工程(d)で得られた有機相と水相との本発明による混合物からの有機相の分離。
【0073】
上記のように、分離されたこの有機相は、残留ジヒドロキシジアリールアルカンを驚くほどほとんど含有しない。これにより、有機相の後処理を、特に効率的に(例えば迅速かつ経済的に)行うことができるようになる。有機相は、少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンを好ましくは20mg/kg未満、特に好ましくは15mg/kg未満、非常に特に好ましくは13kg/mg未満含有する。
【0074】
本発明による有機相は、有機相の総重量に対して、重量平均分子量Mwが45000g/molより大きいポリカーボネートを好ましくは12~22重量%含み、有機相の総重量に対して、重量平均分子量Mwが45000g/mol以下のポリカーボネートを好ましくは12~40重量%、特に好ましくは15~30重量%含む。高濃度の場合、溶液を加熱する必要がある場合がある。
【0075】
さらに、有機相と少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカンを20mg/kg未満、特に好ましくは15mg/kg未満、非常に特に好ましくは10kg/mg未満含有する水相との本発明による混合物から、本発明による有機相から分離される水相が好ましい。
【0076】
工程(e)での分離のために、クロロ炭酸エステルを多くとも痕跡量、好ましくは2ppm未満含む完全に反応した反応混合物は、相分離のために沈降させることが好ましい。アルカリ性水相は、全部または一部を水相としてポリカーボネート合成に必要に応じて戻すか、または溶媒および触媒成分を分離し、必要に応じてポリカーボネート合成に再循環する廃水処理に送る。後処理の別の変形では、有機不純物、特に溶媒およびポリマー残留物を分離し、例えば水酸化ナトリウムを添加することにより必要に応じて特定のpHに設定した後に、塩を分離し、例えば、水相を必要に応じてポリカーボネート合成に戻しながら、クロロアルカリ電解に供給することができる。
【0077】
ポリカーボネートを含む本発明による有機相は、汚染を除去するために、当業者に知られている様々な方法でアルカリ性の、イオン性のまたは触媒的方法によって、続いて精製することができる。
【0078】
本発明による有機相は、沈降槽、攪拌槽、コアレッサーもしくはセパレーターの通過またはこれらの手段の組合せ(能動的または受動的混合要素を使用する1つ以上の分離工程において適切な状況下で必要に応じて水を加えることができる)により必要に応じて補助された、1つ以上の沈降処理の後でも、微細液滴としてのアルカリ性水相または触媒の部分を通常は依然として含む。しかしながら、これらの部分は、先行技術の対応する相におけるものよりも小さい。このアルカリ性水相をおおよそ除去した後、有機相を希酸、鉱酸、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸および/またはスルホン酸で1回以上洗浄することができる。水性鉱酸、特に塩酸、亜リン酸、リン酸またはこれらの酸の混合物が好ましい。これらの酸の濃度は、好ましくは0.001~50重量%、好ましくは0.01~5重量%の範囲であるべきである。さらに、有機相は、脱イオン水または蒸留水で繰り返し洗浄することができる。個々の洗浄工程の後に、沈降槽、攪拌槽、コアレッサーもしくはセパレーターまたはこれらの手段の組合せを用いて、必要に応じて水相の一部と一緒に、分散した有機相を除去する。ここで、洗浄水は、洗浄工程の間に、能動的または受動的混合要素を必要に応じて使用して導入することができる。これらの洗浄工程の間、または洗浄後に、酸を、好ましくはポリマー溶液がベースとする溶媒の溶液として、必要に応じて添加することができる。ここでは、塩化水素ガス、リン酸または亜リン酸を使用することが好ましく、これらは混合物として必要に応じて使用することもできる。このようにして得られた精製ポリカーボネート溶液は、最後の分離操作後に、水を好ましくは5重量%以下、好ましくは1重量%未満、非常に特に好ましくは0.5重量%未満含むべきである。
【0079】
ポリカーボネートは、当業者に既知の工程により、本発明によるこの有機相から単離することができる。このポリカーボネートは、重量平均分子量Mwが15000~200000g/molであることが好ましい。本特許出願に示されている平均分子量は、溶離液としての塩化メチレン中におけるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Waters「混床式」カラム)によって測定される重量平均(Mw)である(Mwが31000g/molのBPAホモポリカーボネート標準を使用)。
【0080】
本発明によれば、ポリカーボネートという用語は、ホモポリカーボネートおよびコポリカーボネートの両方を包含する。本発明によりホモポリカーボネートを製造する場合、本発明の方法ではジヒドロキシジアリールアルカンを1つのみ使用するが、本発明によりコポリカーボネートを製造する場合、複数のジヒドロキシジアリールアルカンを使用する。
【0081】
本発明の方法は、連続式またはバッチ式で、好ましくは連続式で実施することができる。したがって、反応それ自体、好ましくは工程(b)は、攪拌槽、管型反応器、ポンプ循環式反応器もしくは攪拌槽のカスケードまたはこれらの組合せで行うことができ、合成混合物が完全に反応したときのみ、すなわち、合成混合物がホスゲンまたはクロロ炭酸エステルの加水分解性塩素をもはや含まないときのみ、上記混合要素の使用によって、水相および有機相が好ましくは分離することが確保される。触媒を添加するための装置の本発明による好ましい実施形態は、上述した。
【0082】
本発明の更なる態様は、少なくとも1つの触媒を有機相および水相を含有する系に分配するための、2~1200秒の時間、0.01~20J/kgの混合エネルギーの使用を提供する。ここで、有機相は、少なくともホスゲンおよび必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含み、水相は、少なくとも1つのジヒドロキシジアリールアルカン、アルカリ金属水酸化物、および必要に応じて少なくとも1つの連鎖停止剤を含む。
【0083】
詳細に上述したように、そのような少量の混合エネルギーが、上記方法において、選択性、収率および相の分離性に関する向上をもたらすことは驚くべきことであった。上記好適例の全てが、本発明の使用に適用される。
【0084】
0.01~20J/kgの混合エネルギーを2~1200秒の時間にわたって導入する工程(c1)の後に、50~500J/kgの分散エネルギーを0秒超から60秒未満で触媒含有系に導入する更なる工程(c2)が続くことを特徴とする本発明の使用が特に好ましい。同様に、工程(c2)は工程(c1)の直後に続くことが好ましい。
【実施例
【0085】
以下では、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA、BPA)をジヒドロキシジアリールアルカンとして使用し、有機相の溶媒は、塩化メチレン約50重量%とモノクロロベンゼン50重量%との混合物である。全ての例において、GPC(Waters「混床式」カラム、塩化メチレン中、Mwが31000g/molのBPAホモポリカーボネート標準を使用)で測定した、重量平均分子量が25000~26000g/molのポリカーボネートを製造した。
【0086】
実施例は、実験室プラントで行った。ここでは、示されている混合要素によって系に様々な混合エネルギーを導入した。記載している装置は、いずれの場合も、6mmのテフロンチューブによって互いに接続した。
【0087】
個々の方法の工程のための装置として、以下を使用した:
連続的な室内実験を、ポンプ、必要に応じて静的ミキサー、および必要に応じて攪拌反応器の組合せで行った。全ての実験で、70.1g/hのガス状ホスゲンをTピースにおいて772g/hの有機溶媒(1:1 塩化メチレン/クロロベンゼン)に-7℃で溶解させた。最終的に15重量%ポリカーボネート溶液が得られるように溶媒の量を計算した。連続的に導入されたホスゲン溶液を、更なるTピースにおいて、30℃に予熱された912g/hの15重量%アルカリ性BPA水溶液(BPAのモルあたりNaOHを2モル)と接触させた。このBPA溶液は、ステンレス鋼フィルターを介してホスゲン溶液に分散させた(孔径60μm、方法の工程(a))。
【0088】
反応混合物を、ホスゲンが反応ポンプの終端で完全に反応するまで、25℃に維持したFink HMR040混合ポンプに移送した。このポンプの後、3.29g/hの連鎖停止剤としてのp-tert-ブチルフェノールを上記と同じ溶媒混合物における3重量%濃度溶液として導入し、この反応混合物を、反応系の終端のpHが約11.5になるように、53.95g/hの32重量%濃度水酸化ナトリウム溶液と25℃で更なるHMR040ポンプでさらに反応させた(方法の工程(b))。
【0089】
標準的な手順として、Ismatecの少なくとも2つのギアポンプ(Idexマイクロポンプ、ポンプあたり約75J/Kgの特定の混合エネルギー)が常に互いに続いており、続いてテフロンチューブでTピースにおいて0.679g/hの触媒(クロロベンゼンに溶解した10重量%N-エチルピペリジン)が導入された。このテフロンチューブの下流では、表1に示す混合要素が、示されている順序で続いた。これは、例えば、静的ミキサーまたは攪拌槽が続くことができることを意味する(方法の工程(c1))。比較例では、上記ギアポンプのみが続いた(表1参照)。いくつかの例では、方法の工程(c1)の示された混合要素の後に、表1に示された順序で更なる混合要素が続いた(方法の工程(c2))。
【0090】
いくつかの実験では、滞留時間が25秒であり、圧力降下が約50mbarである(約5J/kgの特定の混合エネルギー)、ステンレス鋼内部を備えたガラス製静的ミキサーを、方法の工程(c)で使用した(表1参照)。
【0091】
他の実験では、滞留時間が600秒であり、ステンレス鋼製バッフルを様々な箇所に備え、オーバーフローモードで運転されるガラス製撹拌槽を、方法の工程(c)で使用した(表1参照)。この攪拌槽は、標準のIKA実験室用攪拌機(約2.5J/kgの特定の混合エネルギー)を備える。
【0092】
全体として、有機溶液中の156gのポリカーボネートを連続的に得て、上記反応からの水相とともに、これらの相を分離するために相分離槽に移送した。ポリカーボネート溶液を10重量%HClで洗浄し、残留モノマーを蒸発させないために室温、大気圧下で乾燥した。上記反応からの水相は、それ以上後処理せずにそのまま分析した。
【0093】
相分離後、以下の値を測定した。有機相中および水相中の両方のBPA含有量を、アセトニトリル/水中の高速液体クロマトグラフィーで測定した。ここでは、Zorbax SB18 4.6*50mm、3.5μmカラムを使用した。
【0094】
【表1】
【0095】
表で使用されている略語の説明:
cat:触媒の添加である。
-(ハイフン):直接続く混合要素を表す。
SV:上記の攪拌槽を表す。
GP:上記のギアポンプを表す。
SM:上記の静的ミキサーを表す。
【0096】
表1から分かるように、触媒の添加直後に(実験1~3)、最初に混合エネルギーを低くし、次いで分散エネルギーを大きくするという方法の手順の変更により、逆の順序(比較1~3に示すように、最初に分散エネルギーを高くし、次いで混合エネルギーを低くする)と比較して、水相中および有機相中の両方のBPAの総含有量が減少する。これは、反応の選択性を高めることができたことを示している。それに加えて、相中に存在するBPAが少ない場合、BPAは乳化剤として機能するため、これらの分離が簡単になることも分かる。