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特許7480052リチウムイオン電池用カソード材を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用カソード材を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240430BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240430BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240430BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020545801
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 CA2019050403
(87)【国際公開番号】W WO2019191837
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】62/652,516
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509316442
【氏名又は名称】テスラ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ、フェン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ヤン
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-324524(JP,A)
【文献】特開2002-170562(JP,A)
【文献】特開2016-143539(JP,A)
【文献】特表2008-514537(JP,A)
【文献】国際公開第2010/107084(WO,A1)
【文献】特開2018-016519(JP,A)
【文献】国際公開第2016/075533(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/020768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/00 -10/0587
H01G 11/00 -11/86
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池で使用するためのリチウム混合金属酸化物のカソード活物質を生産する方法であって、
前駆体調製工程では、アルカリ条件下で、選択された金属の粒子を、前記金属の粒子、水溶液及び少なくとも1つの酸化剤を含む混合物を含有する反応システムに添加して、前記金属の粒子の酸化と前駆体の沈殿を同時に行い、それによって前記前駆体及び未反応金属を含むスラリーを形成させ、ここで、前記選択された金属は、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選択される2種以上の金属であり、かつ、前記前駆体調製工程は、pHを8~12に調整することを更に含み
再循環工程では、前記未反応金属を前記スラリーから分離して第一の溶液を形成させて未反応金属を回収し、前記前駆体を前記第一の溶液から分離して第二の溶液を形成させて前駆体を回収し、前記回収した未反応金属及び第二の溶液を直接前記反応システムに再循環させ、並びに
リチウム化工程では、前記回収された前駆体をリチウム含有化合物と混合して最終混合物を生成させ、前記最終混合物を焼成してリチウム混合金属酸化物のカソード活物質を得る、
ことを含む方法。
【請求項2】
前記前駆体調製工程は、温度20℃~前記スラリーの沸点で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pHの調整は、硫酸、硝酸、酢酸、水酸化リチウム又は酸化リチウム、水酸化ナトリウム又は酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は酸化カリウム、及びアンモニアの少なくとも1つを添加することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液は溶解塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶解塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム及びアンモニウムから選択される陽イオンとの、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩及び塩素酸塩から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液は錯化剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記錯化剤はアンモニア及びアンモニウムの混合物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化剤は、空気、酸素、金属硝酸塩若しくは硝酸、又はそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化剤は酸素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化剤は酸素である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記反応システムは少なくとも1つの攪拌タンクを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記再循環工程は、ミリング及び/又は洗浄によって分離された前記未反応金属の再活性化をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体調製工程は、連続操作モードかつ定常状態条件下で行われる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記選択された金属の各金属元素を同じ比率で連続的に添加して、前記前駆体の各粒子中に均一な元素分布を有する前記前駆体を生産する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第二の溶液の少なくとも90%を前記反応システムに直接再循環させる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記前駆体と同じ組成を有し、前記前駆体よりも粒径の小さい固体粒子を、前記前駆体調製工程中に前記反応システムに導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記再循環工程で適切な第二の溶液が得られるまで、前記前駆体調製工程で前記水溶液と同じ又は同様の組成を有する人工溶液を使用し、前記反応システムに再循環させる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記回収された前駆体を乾燥させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記リチウム混合金属酸化物のカソード活物質をサイズ減少操作に供する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記リチウム含有化合物は、水酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記最終混合物を600℃~1100℃で焼成する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記リチウム混合金属酸化物のカソード物質を、洗浄、被覆及びその組合せから選択されるさらなる処理に供する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記前駆体調製工程の混合物はシード金属水酸化物粒子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記シード金属水酸化物粒子は、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも1つの金属のイオンを含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用のカソード材を生産する方法に関する。特に、この方法は、現行の工業的方法と比較して排出液が少ない方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なリチウムイオン電池は、エネルギー貯蔵構成要素として多くのデバイスで使用されてきた。これらのデバイスは、携帯電話、ポータブルコンピュータ、充電式の電動工具、ハイブリッド自動車及び電気自動車などを含む。近年、高出力のリチウムイオン電池の需要が、とりわけ、電気自動車の急速な市場成長とともに劇的に増加している。リチウムイオン電池における主要な構成要素は、アノード、カソード及び電解質を含む。充放電サイクルの間、リチウムイオンは、電解質を介してアノード及びカソード活物質の間を往復する。その比容量が乏しいため、そして、その原料及び生産のコストが高いために、カソード活物質は、通常、リチウムイオン電池において最も高価な材料である。したがって、カソード活物質の選択は、リチウムイオン電池の性能を改善させ、コストを下げるために重要である。これは、次の20年で予想される驚異的な成長を考慮すると、自動車の用途に特に当てはまる。
【0003】
現在、主にニッケル、コバルト、マンガン及び/又はアルミニウムを他の必要なドーパントと共に含有するリチウム混合金属酸化物が、高性能のカソード活物質の生産に使用される主な成分である。このような材料の需要及び生産は、著しく増加し続けている。
【0004】
これらの高性能カソード材、例えば、リチウム混合金属酸化物を生産する現行の工業的方法は、2つの主要な工程、すなわち前駆体生産工程及びリチウム化工程を含む。現在の方法では、かかる前駆体生産工程は、水に溶解して水溶液を形成する混合金属硫酸塩の使用で始まる。この溶液を、通常ほぼ水酸化ナトリウム溶液のみからなるアルカリ溶液と撹拌反応器中で混合して共沈反応を行う。この反応は、以下の化学式:
Me(SO1+x/2 + (2+x)NaOH → Me(OH)2+x + (1+x/2)NaSO (1)
(ここで、Me(OH)2+xは反応システムにおいて固体状の所望の前駆体であり、Meは様々な原子価を有する混合金属イオンを表し、xはアニオンとカチオンとの間の電荷均衡をもたらす因数である)
で表すことができる。
【0005】
通常、ろ過操作を行って固体を液体から分離する。次いで、ろ過後に得られた固体前駆体をリチウム含有化合物と混合し、得られた混合物を炉内で焼成して、カソード活物質として使用される最終リチウム混合金属酸化物材を生産する。
【0006】
しかしながら、Me(SO1+x/2及び水酸化ナトリウムの溶解性は乏しいために、これらの共沈工程では、通常、ろ過工程による固体の除去後にかなりの量の硫酸ナトリウム含有溶液が発生する。回収された溶液は硫酸ナトリウムを含むため、反応システムで再利用することができず、流出液として処理する必要がある。
【0007】
さらに、前駆体材に正しい物性を提供するのを助けるために、一般に、反応システムにキレート剤としてアンモニアを添加する。その結果、流出液は、塩(例えば、ほとんどの場合、硫酸ナトリウム)に加えて、アンモニア、アンモニウム、溶解した重金属、小さな固体粒子なども含有する可能性がある。通常、この流出液を処理してアンモニア及び硫酸ナトリウムを除去しなければならず、その後、環境に排出するか又は反応システムに再循環することができる。この流出液処理は、かなりの量のエネルギー消費を伴い、非常にコストがかかる。さらに、硫酸ナトリウムは、その工業的用途及び需要に限りがあるために、一般に、流出液の処理後の固体廃棄物とみなされ、したがって、付加価値をほとんど又は全く提供しない。
【0008】
現在、流出液の発生を回避しようとするいくつかの方法が提案されている。例えば、2016年に特許付与された中国特許第104409723号明細書は、リチウムイオン電池におけるカソード活物質の生産のために、リチウム混合金属酸化物を使用する電気化学的調製方法を開示している。この方法によると、純粋なニッケル、コバルト及びマンガン金属を原料として使用し、グリーン電気化学合成法を使用し(常温及び常圧で)電気分解を利用してニッケル、コバルト及びマンガン塩化合物を合成している。三元アノード材(LiNiCoMn、(式中、xは0より大きく1未満であり、yは0より大きく0.8未満であり、zは0より大きく1未満であり、x+y+zは1に等しい))は、リチウム付加反応、混合物の噴霧乾燥、及び高温処理を行った後に得ることができる。この特許の記載によると、開示された電気化学的調製方法は、従来の方法と比較して、原料のコスト及びエネルギー消費を低減し、工程を単純化し、環境汚染を低減し、製品性能を改善させるために使用することができる。
【0009】
このように、この方法によって採用される電気化学合成技術は、環境に優しい化学プロセスを提供することを意図し、この方法では、純粋な金属が(不純物の導入されていない)アノード材として使用され、その結果、ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオンの濃度制御性及び高い純度を実質的に保証することができる。また、環境への廃水についてのゼロ・エミッションが主張され、廃水をほとんど伴わない連続的な大規模生産方法を実現することができる。しかしながら、かかる方法では有機酸、例えば、酢酸及びクエン酸が使用されるので、焼成操作中にかなりの量の二酸化炭素が発生し、最終生成物の品質(例えば、生成物の密度)が問題となる可能性がある。また、システム中に存在する水を蒸発させるために、噴霧乾燥操作中にかなりのエネルギー消費が必要となることが予想される。
【0010】
同様の方法は、中国特許出願公開第102219265号明細書(2011)に見出されており、ここでは、有機酸の代わりに硝酸を使用し、制御可能な雰囲気中において熱分解を高温で行う。
【0011】
著しい流出液の発生を伴わずに、リチウムイオン電池用のリチウム混合金属酸化物を製造する別の方法は、Ching-Hsiang Chen et al. in their paper in the Journal of Power Sources 146; 626-629 (2005)に記載されている「ゾル-ゲル」法である。このアプローチでは、クエン酸をキレート剤として使用するゾル-ゲル法によって、層状LiNiCo1-2xMn粉末を合成する。化学量論量の酢酸リチウム、酢酸マンガン、並びに酢酸ニッケル及び硝酸コバルトが、前駆体を調製するために使用される出発材料として選択される。全ての塩を適量の蒸留水に溶解し、連続的にかき混ぜながらクエン酸を滴下する。全ての塩が溶解した後、溶液の温度を80~90℃に上げ、透明な粘性ゲルが形成されるまでかき混ぜ続ける。かかるゲルを120℃で2時間真空乾燥して前駆体粉末を得る。前駆体粉末を酸素流中、450℃で4時間分解し、微粉末に粉砕し、酸素流通条件下、900℃で12時間焼成する。加熱及び冷却速度を毎分2℃に維持する。
【0012】
この方法では、かなりの量の水を蒸発させる必要があり、加えて、有機酸及び/又は硝酸塩が焼成に関与し、焼成中に分解されなければならないため、エネルギー消費が大きく、最終物質の密度は低いと予想される。
【0013】
さらに、Huaquan Lu et al. in Solid State Ionics; 249-250, (2013), 105-111においても、有機塩と硝酸塩との混合物の代わりに硝酸塩のみを使用したゾル-ゲル法によるリチウム混合金属酸化物の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法は、従前のゾル-ゲル法と実質的に同じ問題がある。
【0014】
これらの課題に対処するには、電池用、特にリチウムイオン電池用のカソード材の生産方法であって、リチウム混合金属酸化物を製造するための現在知られている方法に由来する上述の流出液の課題を改善及び/又は解決する方法を提供することが有利であり、本発明の目的である。このように、流出液の発生がほとんど又は全くない好適な方法を提供することが望ましい。すなわち、この所望の方法によると、反応からの実質的には液体全体を、いかなる有意な処理も伴わずに、反応システムに完全に再循環させるか、又は再循環させることができるシステムが提供される。さらに、この所望の方法では、最終高温処理/焼成工程中に、水を蒸発させ、及び/又は有機物若しくは硝酸塩を分解する必要性がほとんど又は全くない。
【発明の概要】
【0015】
上述の利点並びにそれに固有の他の目的及び目標は、以下に説明のとおり、本発明の方法によって少なくとも部分的又は完全に提供される。
【0016】
第1の側面において、本発明は、リチウムイオン二次電池に使用するためのカソード活物質としてのリチウム混合金属酸化物を生産する化学的プロセスを提供する。かかるプロセスは、2つの主要な工程、すなわち、前駆体を作るための湿式プロセス、及び最終カソード材を製造するための、「リチウム化」と呼ばれる固相反応を含む。
【0017】
本発明の方法では、好ましくは大部分が金属状である原料を、水性反応システムに導入する。金属と反応させてこれにより金属水酸化物を形成するために、少なくとも1つの酸化剤、例えば、酸素、硝酸塩、硝酸などを水性反応システムに導入する。
【0018】
操作において、反応システムは、通常、少なくとも1つの撹拌混合タンク及び/又は反応器を含み、このタンク及び/又は反応器において、反応物及び結果として生じた生成物の水性スラリーが混合される。スラリーの一部を取り出し、好ましくは、未反応の原料金属をスラリーから取り出し、反応器に再循環させる。この点に関して、酸化された金属水酸化物から未反応の金属原料を取り出し、再循環させるために、タンク又は反応器には、必要な場合、磁選装置などの分離装置を取り付けることができる。未反応の金属を再循環させた後、残ったスラリーに対して固液分離操作を行う。ろ過後のろ液を、好ましくは、さらなる反応のために反応システムに再循環させる。固体を前駆体材として回収する。次いで、回収した前駆体材をリチウム化段階に供する。
【0019】
反応システムを開始させるために、好ましくは、回収した前駆体材と実質的に同じ又は類似の所望の金属水酸化物組成を有する人工「シード」を調製し、反応の始動に使用することができることに留意されたい。
【0020】
また、所望のろ液と同じ又は類似の組成を有する人工溶液を調製し、好適なろ液がろ過システムから生成されるまで、反応の始動に使用することもできる。
【0021】
リチウム化段階において、上記で生産された固体の前駆体材を、リチウム含有化合物及び必要に応じて他のドーパントと混合し、次いで焼成処理を行うことによって、最終カソード活物質を得る。この後に、必要ならば追加の表面処理、及び任意の追加の焼成処理(所望であれば)を行うことができる。
【0022】
したがって、その好ましい形態において、本発明は、リチウムイオン電池の生産に使用するためのカソード活物質としてのリチウム混合金属酸化物を生産するプロセスであって、当該プロセスは、以下の2つの主要な工程、すなわち、前駆体調製工程及びリチウム化工程を含むプロセスを提供する、
A)当該前駆体調製工程では、固体状の金属を、好ましくは酸素、金属硝酸塩及び硝酸、又はこれらの組合せから選択される、少なくとも1つの酸化剤、及び必要に応じてシード混合金属水酸化物粒子を含有する水溶液が含まれる反応器である撹拌反応システムに添加して、当該金属の酸化をアルカリ条件下で行い、
全体の酸化反応は、以下の式:
xMe + yMe’(NO + zHNO + (0.25xm-2yn-2z)O + (0.5xm+2yn+z)HO → MeMe’(OH)(xm+yn) + (yn+z)NH
(ここで、
Meはニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属を表し、
Me’はニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも1つの金属のイオンを表し、
MeMe’(OH)(xm+yn)は前駆体を表し、
x及びyはそれぞれMe及びMe’のモル分率であり、mは当該前駆体におけるMeのモル加重平均化学原子価であり、nは反応物におけるMe’のモル加重平均化学原子価であり、zは当該反応システムに導入されたHNOのモル分率であり、
xm≧8yn+8zであり、x+y=1であり、1≧x>0であり、y≧0、z≧0である)
によって表され、
当該酸化反応からの合成スラリーを当該反応器から取り出し、未反応金属を当該スラリーから除去して当該反応システムに再循環させ、その後、固液分離を行い、回収された固体は回収された前駆体として使用し、液体を好ましくはいかなる処理も行わずに直接当該反応システムに再循環させ、並びに
B)当該リチウム化工程では、当該回収された前駆体をリチウム含有化合物及び必要に応じて他のドーパントと混合して最終混合物を生成し、続いて当該最終混合物を焼成してカソード活物質を得る。
【0023】
結果として、本発明は流出液の発生がほとんどないか又は全くない、リチウム混合金属酸化物を製造するプロセスを提供する。すなわち、本発明は、反応からの実質的には液体全体を、いかなる流出液処理も行わずに、反応システムに完全に再循環させる、又は再循環させることができるシステムを提供する。
【0024】
さらに、最終高温処理中及び/又は焼成プロセスにおいて、水を蒸発させる及び/又は有機酸若しくは硝酸塩を分解する必要性がほとんど又は全くない。
【0025】
付加的特徴において、本発明のプロセスはバッチプロセスで行うことができるが、かかるプロセスは実質的連続プロセスで行うのに特によく適していることに注目することができる。
【0026】
第2の側面において、本発明はまたカソード材前駆体を提供し、ここで、本発明の好適なカソード材前駆体は、上記のプロセスによって生産され、特に、これらの粒子は、明細書に記載の方法で、好ましくは連続プロセスで、好ましくは一段階反応システムで生産される。本発明はまた、明細書に記載のプロセスによって生産される場合の最終カソード活物質、及びそこから生産されるカソードをもたらす。
【0027】
第3の側面において、本発明は電池も提供し、ここで、かかる電池のカソードは、本発明に関して上述した方法によって生産される。
【0028】
本発明のプロセスを、添付の図面に関連して、例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のプロセスを用いて生産された前駆体材のSEM画像である。
図2図2は、本発明のプロセスを用いて生産された前駆体材のXRDスペクトルである。
図3図3は、本発明のプロセスを用いて生産された最終カソード活物質のハーフセル試験における充放電曲線のグラフである。
図4図4は、本発明のプロセスのある好ましい態様を示すプロセスブロック図である。 図面において、同様の参照番号は同様の要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
水溶液中又は湿性条件下における金属の酸化のような腐食プロセスにより、金属酸化物又は水酸化物を形成できることが周知である。この原理は、純粋な金属から前駆体水酸化物材を生産するために本発明の第1の工程において使用され、この工程では、金属腐食/酸化反応及び共沈反応が同時に、好ましくは同じ反応器内で起こる。全体の反応は以下の式:
xMe + yMe’(NO + zHNO + (0.25xm-2yn-2z)O + (0.5xm+2yn+z)HO → MeMe’(OH)(xm+yn) + (yn+z)NH
(ここで、
Meはニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1つの、好ましくは固体状の、金属を表し、
Me’はニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも1つの金属の、好ましくはイオンを表し、
MeMe’(OH)(xm+yn)は前駆体を表し、
x及びyはそれぞれMe及びMe’のモル分率であり、mは当該前駆体におけるMeのモル加重平均化学原子価であり、nは反応物におけるMe’のモル加重平均化学原子価であり、zは当該反応システムに導入されたHNOのモル分率であり、
xm≧8yn+8zであり、x+y=1であり、1≧x>0であり、y≧0、z≧0である)
で示される。
【0031】
酸素は、使用される場合、通常、反応中にいかなる重要な副産物も生成しないので、酸化剤として好ましい。純粋な酸素源からの酸素、及び/又は、例えば空気中の酸素のように他のガスに含まれる酸素を供給することができる。
【0032】
いくつかの金属硝酸塩は、酸素と容易に反応しない金属元素用の酸化剤として、又は、均一に混合するための撹拌中若しくは金属の磁選のような処理操作中に簡単に処理されない金属元素用の酸化剤として含まれてもよい。
【0033】
金属硝酸塩の共沈反応を制御するために、硝酸を追加の酸化剤として使用することができる。硝酸塩及び硝酸が使用される場合、アンモニアが唯一の副産物である。しかし、かかる反応において生産されるアンモニアは気体であるため、操作中に反応システム内に滞留することはない。したがって、前駆体を製造するための上述の湿式プロセスでは、固液分離が起こった後の液体に追加の又は新たな化学物質が加えられることはない。このように、全体の反応に悪影響を及ぼすことなく、少なくとも75%まで、より好ましくは少なくとも90%まで、さらにより好ましくは100%まで、液体を反応システムに直接再循環させることができる。
【0034】
発生したアンモニアを、他の産業、例えば肥料産業のための有用な化学物質又は前駆体として回収することができる。
【0035】
反応器の条件に応じて他の酸化剤を使用してもよい。
【0036】
ばらつきのない特性を有する高品質の生成物を得るために、本明細書に記載の反応を連続モードで操作することが好ましく、このモードでは反応は定常状態条件に達する。これにより、結果として得られる組成物がより良好に制御される。1つの好ましいアプローチにおいて、反応システム中の液体と同一又は類似の組成を有する人工溶液を調製し、反応の始動のために使用し、固液分離操作から生じる液体が人工溶液と類似するまで使用する。
【0037】
反応スラリーのpHは、好ましくは、7.5~13、より好ましくは、8~12である。好ましくは、硫酸、硝酸若しくは酢酸から選択されるいずれかの酸を添加することによって、及び/又は、水酸化リチウム若しくは酸化リチウム、水酸化ナトリウム若しくは酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくは酸化カリウム、若しくはアンモニアから選択されるアルカリ性物質を添加することによって、溶液のpHを調整することができる。好ましくは、反応混合物に、酸、例えば、硫酸若しくは硝酸を添加することによって、及び/又はアルカリ性物質、例えば、水酸化リチウム若しくは水酸化ナトリウムを添加することによってpH調整を行う。一般に、pH値が低いと共沈生成物の低品質を引き起こす恐れがある一方、pH値が高いと腐食反応中に金属の不動態化を引き起こす恐れがあることに留意すべきである。
【0038】
好ましい反応温度は、20℃~反応スラリーの沸点、より好ましくは20℃~100℃である。さらにより好ましくは、反応温度は30℃~80℃である。
【0039】
反応システムの許容可能な導電率を維持することも、腐食/酸化反応の制御に重要である可能性がある。したがって、反応スラリーは、好ましくは、導電性のための電解質を形成するために溶解塩も含有するとよい。これらの塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム及びアンモニウムから選択される陽イオンとの塩、例えば、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、塩素酸塩などを含んでもよい。かかる塩は、通常、そして好ましくは、液固分離後に回収された再循環液体で再使用が可能である。
【0040】
反応スラリーは、溶解した錯化剤、例えば、アンモニアとアンモニウムとの混合物も含有する可能性があり、この錯化剤は、水溶液中の金属イオンとキレートを形成することができる。これらの錯化剤又はキレート剤の全体的な機能は、好ましくは、共沈生成物の特性を制御すること、及び/又は腐食反応に対して金属をより活性にすることである。
【0041】
カソード材を生産する方法は、例えば磁選工程によってスラリーから回収された未反応の原料金属を「再活性化」することができる工程も含み得る。これは、液固分離工程で得られた、通常pHが低下した液体を用いて、これらの物質をミリング及び/又は洗浄することを含み得る。
【0042】
さらに、かかる方法は、前駆体と同じか又は同様の組成を有するが前駆体よりも粒径の小さい固体粒子を、反応の始め及び/又は反応の途中に反応システムに導入する工程も含み得る。
【0043】
したがって、好ましくは、各粒子の内部に均一な元素分布を有する、先行技術のものと組成的に類似したカソード材前駆体の粒子を生成するために、本発明のプロセスを使用することができ、このプロセスでは、金属は、一段階反応システムにおいて定常連続プロセスで添加される。しかしながら、各粒子の内部に不均一な元素分布を有する粒子、例えば、多段階反応システムにおけるカソード材前駆体の、組成的勾配のついた又は層状の粒子を、異なる時間に異なる金属を添加することによって生産するためにかかるプロセスを応用することができる。このような多段階システムにおいて、各段階では、機能毎に異なる組成を有する物質の層を堆積することができる。例えば、カソード材粒子のコア領域は、より高い容量のためにニッケルリッチとすることができる一方、表面領域は、リチウムイオン電池に見られる電解質との安定した界面のためにマンガン、マグネシウム、又はアルミニウムリッチであってもよい。
【0044】
したがって、かかるプロセスは、金属を常時同じ比率で連続的に添加して各粒子中に均一な元素分布を有する前駆体を生産するか、又は各粒子中に不均一な元素分布を有する前駆体を生産するために、金属を経時的に異なる比率で連続的に添加するシステムを提供する。
【0045】
本発明において生産される最終的なカソード活物質は、それゆえ、前駆体化合物をリチウム含有化合物と混合し、焼成反応を実施することによって最終的に得られ、その後、必要に応じて表面処理を行うことができる。このプロセスは、通常、リチウム化と呼ばれ、このリチウム化プロセスは、通常、最終物質の組成に応じて、好ましくは600℃~1100℃の固相反応として行われる。リチウム化反応工程では、酸化条件もプロセスの一部として必要であるかもしれない。酸化剤として、好ましくは空気、酸素及び硝酸塩を使用する。
【0046】
ほとんどの用途では、好ましくは、結晶水を伴う又は伴わない水酸化リチウム、及び炭酸リチウムをリチウム源として使用する。
【0047】
リチウム化後、リチウム化工程中に形成された目の粗い凝集体を破壊するために、サイズ減少操作で軽い破砕/ミリングを必要とする可能性がある。次いで、物質の表面を安定化させるために、必要に応じた表面処理、例えば、余分な水酸化リチウム/炭酸リチウム及び他の不純物を除去するための洗浄、並びに被覆が必要とされるか又は所望されることがある。したがって、カソード材を焼成後さらなる処理に供することができ、このようなさらなる処理は、余分なリチウム及び他の不必要な不純物を除去するための洗浄、並びに電池生産中及び/又は電池使用中に当該カソード材の性能を向上させるためのカソード材の被覆を含む。必要又は所望であれば、さらなる焼成工程を行ってもよい。
【0048】
その構造、構成、使用及び操作方法に関して、本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、そのさらなる目的及び利点とともに、以下の実施例からより良く理解され、本発明の好ましい態様はこれより実施例としてのみ説明される。
【0049】
しかしながら、実施例及び図面は、例示及び説明のみを目的とし、本発明の範囲を定義することを意図しないことがはっきりと理解される。また、とりわけ明記しない限り、明細書に記載の特徴は全て、任意の組合せで、上記の側面のいずれかと組み合わせてもよいことを理解されたい。
【実施例
【0050】
本発明の好ましい態様に従って、本発明のプロセス及び結果として得られる物質の性質を以下の実施例に記載する。
【0051】
実施例1
図4において10として概説される生産プロセスに従って、1.1Lの水溶液を調製し、撹拌システム及び加熱システムを有する2Lの反応容器に移した。かかる水溶液は、電解質として1モルの硫酸ナトリウム及び錯化剤として50mLの28%アンモニア溶液を含有する。この溶液を60℃に加熱し、約750rpmで撹拌した。約150gの混合金属水酸化物粉末をシード成分として反応容器に添加した。ここで、金属水酸化物粉末は、主に水酸化ニッケル及び非常に少量の水酸化コバルト(金属モル重量比で5%未満のコバルト)を含有する。
【0052】
アンモニア及び水酸化ナトリウムを反応容器に添加することにより、水溶液のpHを10.5に調整した。87gのニッケル金属粉末及び13gのコバルト金属粉末も反応容器に添加した。約60分後、約7.2gのニッケル粉末及び1.08gのコバルト粉末を60分毎に反応容器にさらに添加した。これにより、この反応のための原料が形成される。
【0053】
また、酸化剤として酸素を毎分約26.5mLで反応容器に連続的に導入した。
【0054】
1時間毎に反応容器内のスラリーを約50mL回収し、金属水酸化物から未反応の磁性原料金属を分離するために、この回収したスラリーを磁選プロセスに供した。分離された未反応の磁性原料金属を反応容器に戻した。次いで、残ったスラリーから非磁性固体をろ過し、水で洗浄した。残ったろ液を全て洗浄水と共に反応容器に戻した。
【0055】
次に、ろ過工程で得た固体を、本発明で使用するための前駆体として、約100℃で約5時間乾燥させた。
【0056】
以上の操作を100時間連続して繰り返した。定常状態条件に達した後、最後の24時間の操作からの乾燥固体物質を良好な前駆体材の試料として回収した。回収された前駆体材の粒径D50は約10μmであった。回収された前駆体材のタップ密度は、約2.1g/cmであり、走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、図1に示されるように、微細な一次粒子を有する球状粒子を示した。
【0057】
分析の結果は、生成物の組成が、最終的に、Ni:Co=0.87:0.13の目標元素モル比で定常状態に達したことを示した。
【0058】
エネルギー分散型X線を用いた走査型電子顕微鏡分析(SEM/EDX)による、回収した物質の断面検査は、全ての対象金属元素が各前駆体粒子の内部に均一に分布していることを示した。図2に示されるように、X線回折(XRD)スペクトルの結果も、得られた生成物が単一相であることを示した。
【0059】
実施例2
実施例1と同様に、約1.2Lの水溶液を調製し、2Lの反応容器に移した。かかる水溶液は、約1Mの硝酸アンモニウム及び0.5Mの硝酸ナトリウムを含有する。この溶液を約60℃に加熱しながら、約700rpmで撹拌した。温度調節器及びJ型熱電対と一体化された加熱マントルによって温度を維持した。次いで、反応容器にアンモニアを添加し、水溶液のpHを60℃で約10.0に調整した。
【0060】
約135gのニッケル金属粉末及び15gの金属コバルト粉末を反応容器に添加した。さらに、約150gの混合金属水酸化物粉末も、水酸化ニッケル及び水酸化コバルトとして反応容器に添加した。ここで、混合金属水酸化物粉末は、おおよそ0.9:0.1の原子比でニッケル及びコバルトを含有する。
【0061】
約60分後、7.2gのニッケル金属粉末及び0.8gのコバルト金属粉末を1時間ごとに反応容器に添加した。さらに、約2%のアルミニウムも、水酸化アルミニウムを68%硝酸に溶解することによって調製した硝酸アルミニウムの形態で添加した。硝酸及び酸素も、それぞれ0.04ml/分及び18ml/分で反応容器に同時に導入した。
【0062】
100mlのスラリー試料を回収することによって、試料採取を3時間毎に行った。磁選を行い、磁性部分を反応容器に戻した。非磁性部分をろ過し、蒸留水で洗浄し、ろ液を全ての洗浄水と共に反応容器に戻した。
【0063】
ろ過後の固体ケーキを、前駆体として約100℃で約6時間乾燥させた。
【0064】
上記の試料採取操作を100時間連続的に繰り返し、最後の24時間の操作から回収した乾燥固体を前駆体材の良好な試料として使用した。分析結果は、生成物の組成が、Ni:Co:Al=0.865:0.097:0.038の目標原子比で定常状態に達したことを示した。
【0065】
実施例3
約6gの水酸化リチウム一水和物を選択し、乳鉢を用いて手作業で粒状化して粒子のサイズを小さくした。次いで、この粒状化した水酸化リチウム一水和物約1gを、実施例1において回収した前駆体材2gと混合し、混合物をアルミナるつぼに移した。混合物を管状炉内で焼成した。焼成中、常時、酸素を毎分約220mLで管状炉に供給した。
【0066】
毎分10℃で800℃まで温度を上昇させた。800℃で10時間保持し、次いで、毎分約5℃で下降させた。焼成処理後に回収された固体を、凝集を破壊するために手作業で粒状化し、次いで、この物質を、約5℃の冷水約30mLを含有するビーカーに入れた。約2分間かき混ぜた後、混合物を素早くろ過し、回収した固体をアルミナるつぼに入れ、再び管状炉内で約710℃で5時間焼成した。結果として得られた焼成固体組成物を最終カソード活生成物として回収した。
【0067】
実施例4
実施例3において回収した最終カソード活生成物をカソード活物質として使用し、リチウム金属箔をアノード活物質として使用して、コイン型電池ハーフセル試験を行った。90%の最終カソード活性生成物、6%のカーボンブラック及び4%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる成分を用いてカソード電極を調製した。試験で使用した電解質は、エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/エチルメチルカーボネート(EMC)(EC/DEC/EMC体積比は1:1:1)を溶媒とする1M LiPFである。初回充電及び初回放電の電圧は、0.05C(1C=150mAh/g)で3V~4.3Vであった。
【0068】
図3は、試験の初回サイクルの充放電曲線を示す。初回放電の容量は、約88%のクーロン効率で約192mAh/gであった。
【0069】
したがって、本発明によると、上述の目標、目的及び利点を完全に満たす、プロセス、製品及び電池が提供されることは明らかである。本発明の特定の態様を説明してきたが、その代替例、改変例及び変形例が当業者に示唆され得ること、並びに本明細書は、特許請求の範囲内に入るような代替例、改変例及び変形例を全て包含することを意図していることが理解される。
以下に、本願の出願当初の請求項を実施の態様として付記する。
[1] リチウムイオン電池の生産に使用するためのカソード活物質としてのリチウム混合金属酸化物を生産するプロセスであって、当該プロセスは、以下の2つの主要な工程、すなわち、前駆体調製工程及びリチウム化工程を含むプロセス、
A)前記前駆体調製工程では、固体状の金属を、好ましくは酸素、金属硝酸塩及び硝酸、又はこれらの組合せから選択される、少なくとも1つの酸化剤、及び必要に応じてシード混合金属水酸化物粒子を含有する水溶液が含まれる反応器である撹拌反応システムに添加して、前記金属の酸化をアルカリ条件下で行い、
全体の酸化反応は、以下の式:
xMe + yMe’(NO + zHNO + (0.25xm-2yn-2z)O + (0.5xm+2yn+z)H O → Me Me’ (OH) (xm+yn) + (yn+z)NH
(ここで、
Meはニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属を表し、
Me’はニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも1つの金属のイオンを表し、
Me Me’ (OH) (xm+yn) は前駆体を表し、
x及びyはそれぞれMe及びMe’のモル分率であり、mは前記前駆体におけるMeのモル加重平均化学原子価であり、nは反応物におけるMe’のモル加重平均化学原子価であり、zは前記反応システムに導入されたHNO のモル分率であり、
xm≧8yn+8zであり、x+y=1であり、1≧x>0であり、y≧0、z≧0である)
によって表され、
前記酸化反応からの合成スラリーを前記反応器から取り出し、未反応金属を前記スラリーから除去して前記反応システムに再循環させ、その後、固液分離を行い、回収された固体は回収された前駆体として使用し、液体を好ましくはいかなる処理も行わずに直接前記反応システムに再循環させ、並びに
B)前記リチウム化工程では、前記回収された前駆体をリチウム含有化合物及び必要に応じて他のドーパントと混合して最終混合物を生成し、続いて前記最終混合物を焼成してカソード活物質を得る。
[2] 前記前駆体調製工程における反応条件は、反応中スラリーのpHを7.5~13とし、温度を20℃~前記スラリーの沸点とすることを含む、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[3] 前記溶液に、硫酸、硝酸若しくは酢酸から選択されるいずれかの酸を添加することによって、及び/又は、水酸化リチウム若しくは酸化リチウム、水酸化ナトリウム若しくは酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくは酸化カリウム、若しくはアンモニアから選択されるアルカリ性物質を添加することによって前記溶液の前記pHを調整する、[2]に記載のカソード材を生産する方法。
[4] 前記水溶液は導電性を増大させるために溶解塩も含有する、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[5] 前記溶解塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム及びアンモニウムから選択される陽イオンとの、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩及び塩素酸塩から選択される、[4]に記載のカソード材を生産する方法。
[6] 前記水溶液は、前記水溶液中の前記金属イオンとキレートを形成する錯化剤も含有する、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[7] 前記錯化剤はアンモニア及びアンモニウムの混合物を含む、[6]に記載のカソード材を生産する方法。
[8] 前記酸化剤は、空気、酸素、金属硝酸塩若しくは硝酸、又は同時に使用される2つ以上の酸化剤の組合せである、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[9] 前記酸化剤は酸素である、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[10] 前記酸素は他のガスに含有されている、[9]に記載のカソード材を生産する方法。
[11] 前記前駆体調製工程における前記反応システムは少なくとも1つの攪拌タンクを含む、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[12] 前記固液分離工程からの液体を用いたミリング及び/又は洗浄によって前記未反応金属を再活性化する、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[13] 前記前駆体調製工程における反応を連続操作モードで定常状態条件下で操作する、[1]~[12]のいずれか1つに記載のカソード材を生産する方法。
[14] 前記金属を常時同じ比率で連続的に添加して各粒子中に均一な元素分布を有する前駆体を生産するか、又は前記金属を経時的に異なる比率で連続的に添加して各粒子中に不均一な元素分布を有する前駆体を生産する、[13]に記載のカソード材を生産する方法。
[15] 前記固液分離後に回収された液体の少なくとも90%を前記反応システムに直接再循環させる、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[16] 前記前駆体と同じか又は同様の組成を有するが前記前駆体よりも粒径の小さい固体粒子を、反応の始め及び/又は反応中に前記反応システムに導入する、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[17] 前記液体と同じ又は同様の組成を有する人工溶液を調製し、適切なろ液がろ過システムから生成されるまで反応の始動のために使用し、次いで前記反応システムに再循環させる、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[18] 前記固体を乾燥させて前記前駆体を得ること、前記前駆体をリチウム含有化合物と混合すること、この混合物を焼成すること、及びこれによりカソード活物質を得ることをさらに含む、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[19] 前記得られたカソード活物質をサイズ減少操作に供する、[18]に記載のカソード材を生産する方法。
[20] 前記リチウム含有化合物は結晶水を伴う又は伴わない水酸化リチウム、及び炭酸リチウムである、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[21] 前記最終混合物を600℃~1100℃で焼成する、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[22] カソード材を焼成後さらなる処理に供し、前記さらなる処理は、余分なリチウム及び不純物を除去するための洗浄、並びに電池生産中及び/又は電池使用中に前記カソード材の性能を向上させるための前記カソード材の被覆を含む、[1]に記載のカソード材を生産する方法。
[23] [1]~[22]のいずれか1つに記載のプロセスに従って製造された、リチウムイオン二次電池用カソード活物質として使用するためのリチウム混合金属酸化物。
[24] カソード材としてリチウム金属酸化物を含むリチウム二次電池であって、前記カソード材は[1]~[22]のいずれか1つに記載のプロセスに従って製造された混合金属酸化物であるリチウム二次電池。
図1
図2
図3
図4