(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ラパマイシン耐性細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20240430BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240430BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240430BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240430BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240430BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240430BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240430BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240430BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240430BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240430BHJP
【FI】
C12N15/85 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N5/10
A61K35/17
A61P29/00
A61P37/06
C12N15/09 110
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2020560314
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 US2019029118
(87)【国際公開番号】W WO2019210057
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-21
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
【住所又は居所原語表記】1900 Ninth Ave. Seattle, WA 98101 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】シャーレンバーグ,アンドリュー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ローリングス,デイヴィッド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ソマー,カレン
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ホナカー,ユーチ チアン
(72)【発明者】
【氏名】武内 亮
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-543084(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098078(WO,A2)
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7, No.46380,pp.1-13, SUPPL. INFO. pp.1-19
【文献】Chemistry and Biology,2006年,Vol.13,pp.99-107
【文献】Oncogene,2008年,Vol.27,pp.585-595
【文献】J. AM. CHEM. SOC.,2005年,Vol.127,pp.4715-4721
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FK506結合タンパク質(FKBP)ドメインを含む第1の細胞外結合ドメイン、第1の膜貫通ドメインおよび第1のシグナル伝達ドメインを含む第1の化学誘導シグナル伝達複合体(CISC)構成要素をコードする第1のポリヌクレオチド;
FKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインを含む第2の細胞外結合ドメイン、第2の膜貫通ドメインおよび第2のシグナル伝達ドメインを含む第2のCISC構成要素をコードする第2のポリヌクレオチド;および
配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドをコードする第3のポリヌクレオチド
を含むシステムであって、
該第1のCISC構成要素および該第2のCISC構成要素が、ラパマイシン、ラパログ、ラパマイシン代謝物またはIMID系薬物の存在下で二量体化して、シグナル伝達能を有するCISCを形成することを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記第1のポリヌクレオチド、前記第2のポリヌクレオチド、前記第3のポリヌクレオチド、またはそれらの組み合わせを含むベクターを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ベクターが、前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第3のポリヌクレオチドを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ベクターが、前記第2のポリヌクレオチドおよび前記第3のポリヌクレオチドを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記ベクターが、ウイルスを使用しないベクターである、請求項2~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項2~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドが、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドが、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドが、T2098L置換を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドが、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記ラパログが、エベロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP1903もしくはAP23573;または
前記IMID系薬物が、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドもしくはIMID系薬物類似体である、
請求項1~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1のCISC構成要素が第1のヒンジドメインを含み、前記第2のCISC構成要素が第2のヒンジドメインを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1のシグナル伝達ドメインが、IL-2受容体サブユニットγ(IL2Rγ)細胞質内ドメインを含み、前記第2のシグナル伝達ドメインが、IL-2受容体サブユニットβ(IL2Rβ)細胞質内ドメインを含む、
請求項1~14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1のシグナル伝達ドメインが、IL-2受容体サブユニットβ(IL2Rβ)細胞質内ドメインを含み、前記第2のシグナル伝達ドメインが、IL-2受容体サブユニットγ(IL2Rγ)細胞質内ドメインを含む、
請求項1~14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1の細胞外結合ドメインの前記FKBPドメインが、配列番号6に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記第2の細胞外結合ドメインの前記FRBドメインが、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記第1の膜貫通ドメインが、IL2Rγ膜貫通ドメインを含み、前記第2の膜貫通ドメインが、IL2Rβ膜貫通ドメインを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記第1のCISC構成要素が、FKBPドメイン、第1の膜貫通ドメインおよびIL2Rγドメインを含み、ならびに
前記第2のCISC構成要素が、FRBドメイン、第2の膜貫通ドメインおよびIL2Rβドメインを含む、
請求項1~15および19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記第1のCISC構成要素が、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12または配列番号23に示される配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~15および19~20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記第2のCISC構成要素が、配列番号13、配列番号14、配列番号15または配列番号24に示される配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~15および19~21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記第1のCISC構成要素が、配列番号12に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記第2のCISC構成要素が、配列番号13に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~15および19~22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
請求項1に記載の第1のポリヌクレオチド、第2のポリヌクレオチドおよび第3のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項25】
Tリンパ球または前駆T細胞である、請求項24に記載の細胞。
【請求項26】
制御性T細胞である、請求項24または25に記載の細胞。
【請求項27】
FOXP3+制御性T細胞である、請求項24~26のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項28】
CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項24~27のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項29】
疾患または障害の治療または緩和に使用するための、請求項24~28のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項30】
障害が、炎症性疾患、自己免疫疾患、FOXP3関連疾患またはFOXP3関連状態、および/または臓器移植に起因する障害である、請求項29に記載の細胞。
【請求項31】
インビトロまたはエクスビボにおいて遺伝子組換え細胞を作製するための方法であって、請求項1に記載の第1のポリヌクレオチド、第2のポリヌクレオチドおよび第3のポリヌクレオチドを細胞に導入する工程を含む、方法。
【請求項32】
前記細胞が、Tリンパ球または前駆T細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記
遺伝子組換え細胞が、制御性T細胞である、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記
遺伝子組換え細胞が、FOXP3+制御性T細胞である、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
標的ゲノム遺伝子座内の標的配列に相補的なスペーサーを含むガイドRNA(gRNA)、または該gRNAをコードする核酸
を細胞に導入する工程をさらに含み、
ここで前記第1のポリヌクレオチド、第2のポリヌクレオチドおよび第3のポリヌクレオチドからなる群から選択される1つ以上がドナーカセットを含むドナー鋳型に含まれる、請求項31~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記gRNAが、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44および配列番号45のいずれかに示される核酸配列を含む、請求項
36に記載の方法。
【請求項38】
DNAエンドヌクレアーゼまたはDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を細胞に導入する工程をさらに含み、
該DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成された複合体によって、前記細胞の前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの標的化された組み込みが促されるように、前記DNAエンドヌクレアーゼ、前記gRNAおよび前記ドナー鋳型が構成されている、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
ラパマイシンに前記
遺伝子組換え細胞を接触させる工程をさらに含む、請求項31~38のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月27日に出願された「ラパマイシン耐性細胞」という名称の米国仮出願第62/663,562号の優先権の利益を主張するものであり、この出願は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI186WOSEQLISTINGのファイル名で2019年4月25日に作成された約120kbのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
ラパマイシンまたはそれと関連する化合物の存在下において2つの構成要素が1つに合わさった化学誘導シグナル伝達複合体を提供する。この化学誘導シグナル伝達複合体は、細胞内で発現されたネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合タンパク質とともに使用される活性なシグナル伝達複合体であり、宿主細胞にラパマイシン耐性を付与する。
【背景技術】
【0004】
シロリムスという名称でも知られているラパマイシンは、1975年にイースター島(別名ラパヌイ)の土壌試料から発見された細菌の一種、Streptomyces hygroscopicusから単離された複雑な構造のマクロライド系天然産物である(Huang, S. et al. (2003). Cancer Biol. Ther., 2(3):222-232; Abraham, R. T. et al. (1996). Ann. Rev. Immunol., 14:483-510; Pollock, R. et al. (2002). Curr. Opin. Biotechnol., 13(5):459-467; Bayle, J. H. et al. (2006). Chem. Biol., 13(1):99-107)。ラパマイシンは、FKBP12タンパク質(FK506結合タンパク質12)とFRB(FKBP12ラパマイシン結合ドメイン)のヘテロ二量体化を仲介する(Huang, S. et al. (2003). Cancer Biol. Ther., 2(3):222-232)。ラパマイシンは、良好な溶解性、血液脳関門を横断する膜透過性、経口バイオアベイラビリティなどの良好な薬物動態パラメータを有するといった優れた生理学的特性を持つことから(Abraham, R. T. et al. (1996). Ann. Rev. Immunol., 14:483-510)、哺乳動物細胞や生物などの広範囲な用途において低分子二量体化剤として使用されている(たとえばPollock, R. et al. (2002). Curr. Opin. Biotechnol., 13(5):459-467を参照されたい)。
【0005】
CISC(化学誘導性シグナル伝達複合体(chemically induced signaling complex))は、国際特許出願PCT/US2017/065746(この文献は引用によってその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、宿主細胞において2種のキメラタンパク質として共発現するように構成された、複数の構成要素からなる合成タンパク質複合体である。CISCに含まれる2つのキメラタンパク質構成要素は、一方が、ラパマイシン結合複合体の半分を構成する細胞外ドメインであり、これが、ラパマイシン結合複合体の残りの半分を構成する細胞内シグナル伝達複合体に融合されている。CISCをコードする核酸を宿主細胞に送達することによって、この宿主細胞において、ラパマイシンまたはラパマイシン関連化合物の存在によって制御可能な細胞内シグナル伝達を発生させることができる。
【0006】
一方、ラパマイシン誘導性のCISCの二量体化によって細胞内シグナル伝達を惹起させることができるものの、ラパマイシンの存在により宿主細胞の増殖および生存能力が抑制されることから、治療目的および研究目的での使用における有用性が制限されている。したがって、ラパマイシンを介したCISCによる細胞内シグナル伝達の利用が可能であり、宿主細胞の増殖および生存能力に対するラパマイシンまたはラパマイシン関連化合物の悪影響を緩和することが可能な、新規の組成物および方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書において、特に、細胞にラパマイシン耐性を付与するための組成物および方法を提供する。
【0008】
一態様において、
(i)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ、または該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
(ii)細胞の標的ゲノム遺伝子座内の標的配列に相補的なスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)、または該gRNAをコードする核酸;および
(iii)ネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドをコードする核酸配列を含むドナーカセットを含むドナー鋳型
を含むシステムであって、
前記DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成された複合体によって、細胞の前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの標的化された組み込みが促され、前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現することができる遺伝子組換え細胞が作製されるように、前記DNAエンドヌクレアーゼ、前記gRNAおよび前記ドナー鋳型が構成されていることを特徴とするシステムについて述べる。
いくつかの実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼはCas9エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、前記遺伝子組換え細胞における発現のためにコドン最適化されており;前記gRNAをコードする核酸は、前記遺伝子組換え細胞における発現のためにコドン最適化されており;かつ/または前記ドナーカセット内の1つ以上のコード配列は、前記遺伝子組換え細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記ドナー鋳型は、前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの組み込みが相同組換え修復(HDR)によって行われるように構成されている。いくつかの実施形態において、前記ドナー鋳型は、前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの組み込みが非相同末端結合(NHEJ)によって行われるように構成されている。いくつかの実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼまたは該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、リポソームまたは脂質ナノ粒子への内包化により製剤化される。いくつかの実施形態において、前記リポソームまたは前記脂質ナノ粒子は、前記gRNAまたは該gRNAをコードする核酸をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記システムは、前記DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成されたリボ核タンパク質(RNP)複合体をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、ネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、前記ネイキッドなFRBポリペプチドは、配列番号1または配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットは、二量体化により活性化される化学誘導シグナル伝達複合体(dimerization activatable chemical-induced signaling complex:CISC)のポリペプチド要素をコードする1つ以上の核酸配列をさらに含み、
前記CISCのポリペプチド要素は、
(i)第1の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第1のCISC構成要素;
ならびに
(ii)第2の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第2のCISC構成要素
を含み、
第1のCISC構成要素と第2のCISC構成要素が細胞において発現されると、ラパマイシンまたはラパログの存在下で二量体化して、シグナル伝達能を有するCISCを形成することができるように、第1のCISC構成要素および第2のCISC構成要素が構成されている。
【0011】
いくつかの実施形態において、第1の細胞外結合ドメインと第2の細胞外結合ドメインのいずれか一方もしくはその機能性誘導体は、FK506結合タンパク質(FKBP)ドメインもしくはその機能性誘導体を含み、かつ/または他方の細胞外結合ドメインもしくはその機能性誘導体は、FRBドメインもしくはその機能性誘導体を含む。いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素の膜貫通ドメインは、IL-2受容体の膜貫通ドメインを含み、かつ/または第2のCISC構成要素の膜貫通ドメインは、IL-2受容体の膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素のシグナル伝達ドメインと第2のCISC構成要素のシグナル伝達ドメインのいずれか一方もしくはその機能性誘導体は、IL-2受容体サブユニットγ(IL2Rγ)ドメインもしくはその機能性誘導体を含み、かつ/または他方のCISC構成要素のシグナル伝達ドメインもしくはその機能性誘導体は、IL-2受容体サブユニットβ(IL2Rβ)ドメインもしくはその機能性誘導体を含む。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβドメインポリペプチドは切断型である。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβドメインをコードする核酸は、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβドメインは、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記ラパログは、エベロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP1903、AP23573、ならびにこれらの代謝産物および誘導体からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記ネイキッドなFRBドメインをコードする核酸は、前記CISCのポリペプチド要素をコードする1つ以上の核酸配列の下流に位置する。いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットは、(i)前記CISCの各ポリペプチド要素をコードする1つ以上の各核酸配列の間;および/または(ii)前記ネイキッドなFRBドメインをコードする核酸と、それに隣接する前記CISCのポリペプチド要素をコードする核酸配列の間に、自己切断型ポリペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットにコードされている各自己切断型ポリペプチドは、P2A、T2A、E2AおよびF2Aからなる群からそれぞれ独立して選択される。いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットは、該ドナーカセットに含まれる1つ以上のコード配列に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、誘導型プロモーターまたは構成的プロモーターである。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、MNDプロモーターである。いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットは、検出マーカーをコードする核酸をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記検出マーカーは、緑色蛍光タンパク質(GFP)ポリペプチド、mCherryポリペプチド、または低親和性神経成長因子受容体(LNGFR)である。いくつかの実施形態において、前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドをコードする核酸は、小胞体局在シグナルペプチドをコードする核酸を有していない。いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットは、配列番号3に示されるヌクレオチド配列に含まれる核酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記ドナー鋳型はウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0016】
一態様において、細胞のゲノムを編集する方法であって、
(i)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ、または該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
(ii)細胞の標的ゲノム遺伝子座内の標的配列に相補的なスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)、または該gRNAをコードする核酸;および
(iii)ネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドをコードする核酸配列を含むドナーカセットを含むドナー鋳型
を細胞に提供する工程を含み、
前記DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成された複合体によって、細胞の前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの標的化された組み込みが促され、前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現することができる遺伝子組換え細胞が作製されるように、前記DNAエンドヌクレアーゼ、前記gRNAおよび前記ドナー鋳型が構成されていることを特徴とする方法を提供する。
【0017】
一態様において、本明細書に記載の細胞のゲノムを編集する方法に従って調製された遺伝子組換え細胞を提供し、該方法は、
(i)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ、または該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
(ii)細胞の標的ゲノム遺伝子座内の標的配列に相補的なスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)、または該gRNAをコードする核酸;および
(iii)ネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドをコードする核酸配列を含むドナーカセットを含むドナー鋳型
を細胞に提供する工程を含み、
前記DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成された複合体によって、細胞の前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの標的化された組み込みが促され、前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現することができる遺伝子組換え細胞が作製されるように、前記DNAエンドヌクレアーゼ、前記gRNAおよび前記ドナー鋳型が構成されていることを特徴とする。
いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットは、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドを細胞内で発現するように構成されている。いくつかの実施形態において、前記細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前駆T細胞または制御性T細胞(Treg)である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD34+細胞、CD8+細胞またはCD4+細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドをコードする核酸がドナーカセットに含まれていない対照細胞と比較して、ラパマイシンまたはラパログの存在下での増殖が増強されている。いくつかの実施形態において、ラパマイシンまたはラパログの濃度は、0.1nM~100nMまたは約0.1nM~約100nMである。
【0018】
別の一態様において、本明細書で開示された遺伝子組換え細胞を活性化する方法であって、ラパマイシンまたはラパログに前記細胞を接触させる工程を含む方法について述べる。いくつかの実施形態において、前記ラパログは、エベロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP1903、AP23573、ならびにこれらの代謝産物、誘導体および/または組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記細胞と接触させるラパマイシンまたはラパログの濃度は、0.1nM~100nMまたは約0.1nM~約100nMである。いくつかの実施形態において、二量体化により活性化される化学誘導シグナル伝達複合体(dimerization activatable chemical-induced signaling complex:CISC)の構成要素を発現する細胞は、ラパマイシンまたはラパログとの接触後に選択的に拡大増殖される。
【0019】
さらに別の一態様において、混合細胞集団に含まれる本明細書に記載の遺伝子組換え細胞の集団を選択的に拡大増殖させる方法であって、
ラパマイシンまたはラパログに混合細胞集団を接触させる工程を含み、
二量体化により活性化される化学誘導シグナル伝達複合体(dimerization activatable chemical-induced signaling complex:CISC)の構成要素およびネイキッドなFRBドメインを発現する遺伝子組換え細胞のインビトロまたはインビボにおける活性化および拡大増殖が、前記混合細胞集団中のその他の細胞よりも増強されることを特徴とする方法について述べる。
いくつかの実施形態において、前記ラパログは、エベロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP1903、AP23573、ならびにこれらの代謝産物、誘導体および/または組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記混合細胞集団と接触させるラパマイシンまたはラパログの濃度は、0.1nM~100nMまたは約0.1nM~約100nMである。
【0020】
本明細書に記載の態様および実施形態のそれぞれは、これらの実施形態または態様において明示的または明確に除外される場合を除き、組み合わせて使用することができる。
【0021】
本明細書の全体を通して、様々な特許、特許出願およびその他の種類の刊行物(たとえば論文記事や電子データベースの収録内容など)が引用されている。本明細書に引用されたすべての特許、特許出願および刊行物は、いずれも引用によりその全体があらゆる目的で本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】細胞内のネイキッドな「デコイ」FRB(FKBP12ラパマイシン結合ドメイン)を発現するレンチウイルスコンストラクトの概略図である。CISCとともにさらなるネイキッドなFRB*ドメインを発現するコンストラクトを「デコイ-CISC」または「DISC」と命名した。図中のアスタリスクは、この配列が、ラパログであるAP21967およびラパマイシンとの相互作用を可能にする点突然変異を有することを示す(mTORのアミノ酸配列に対するT2098L変異(Bayle, J. H. et al. (2006). Chem. Biol., 13(1):99-107))。
【0023】
【
図2】T細胞におけるネイキッドなFRBの作用機序の仮説を示す概念図である。
【0024】
【
図3】CISCコンストラクトを発現するT細胞とDISCコンストラクトを発現するT細胞を、ラパマイシンまたはラパログAP21967の存在下で培養し、それらの拡大増殖を比較したグラフを示す。DISCコンストラクトは、試験したすべてのラパマイシン用量において、CISCのみのコンストラクトを形質導入した細胞よりも良好にT細胞の拡大増殖を促進する。
【0025】
【
図4】試験した様々な形態のCISCコンストラクトに導入した重要なアミノ酸変化を示す概念図である。4つのペアのFRB-IL2Rβ/FKBP-IL2Rγ受容体タンパク質(V4~V7)をさらに作製した。これらのV4~V7には、PAALスペーサーのアミノ酸配列および/またはGGSリンカーもしくはGGSPリンカーのアミノ酸配列の1つ以上が含まれていた。さらなるスペーサーおよびリンカーのアミノ酸配列は、細胞外のFRB/FKBPドメインとIL2Rβ/IL2Rγドメインの間の境界、またはIL2Rβドメイン内に配置した。
【0026】
【
図5】右側の凡例に示した培地添加剤を添加して数週間培養した場合の、レンチウイルスで形質導入したT細胞の拡大増殖数を示すグラフである。
【0027】
【
図6】ラパマイシン(上パネル)またはラパログAP21967(下パネル)を添加して培養した場合の、レンチウイルスで形質導入したT細胞(mCherry
+細胞のパーセンテージとして読み取り)の経時的な濃縮を示す2つのグラフである。
【0028】
【
図7】DISCコンストラクトまたはμDISCコンストラクトを形質導入し、ラパマイシンで誘導したT細胞の拡大増殖を直接比較するために使用したレンチウイルスコンストラクトの概念図を示す(最初のCISCコンストラクトは参照として含む)。
【0029】
【
図8】グラフに示した濃度のラパマイシンを添加して培養した場合の、レンチウイルスで形質導入したT細胞(mCherry
+)の数を数日間にわたって示したグラフである。
【0030】
【
図9】様々な用量のラパマイシンを添加して9日間培養した後の、レンチウイルスで形質導入したT細胞(mCherry
+細胞のパーセンテージとして読み取り)の濃縮を示すグラフである。
【0031】
【
図10】様々な用量のラパマイシンを添加して21日間培養した後の、レンチウイルスで形質導入した(mCherry
+)細胞数の拡大増殖倍率を示すグラフである。増加倍率は、21日目のmCherry
+細胞数を0日目のmCherry
+細胞数で除することによって算出した。X軸は、左から右に、1nMのラパマイシンで処理した細胞(最初の3つの棒)、5nMのラパマイシンで処理した細胞(4~6番目の棒)、および10nMのラパマイシンで処理した細胞(7~9番目の棒)を示す。
【0032】
【
図11】内在性FOXP3遺伝子にDISCコンストラクトを挿入するための遺伝子編集実験において使用した実験プロトコルの概略図である。内在性FOXP3の上流に、異所性プロモーターにより誘導されるDISC発現を導入するための、AAV6ドナー鋳型(上パネル)、ならびにAAV6により送達されるドナー鋳型およびCRISPR/CAS9 RNPを使用した遺伝子編集操作(下パネル)を示す。gRNA=ガイドRNA;5’HAおよび3’HA=ヒトFOXP3相同アーム。
【0033】
【
図12】制御性T細胞の内在性FOXP3遺伝子にDISCコンストラクトを挿入するための遺伝子編集実験において使用した実験計画を示す概略図である。MNDプロモーターによって、HAタグを付加した内在性FOXP3の上流のDISC/μDISCの発現を誘導している。両末端の5’相同アームおよび3’相同アームは、ヒトFOXP3の相同領域である。
【0034】
【
図13】
図13Aは、DISC(edT
reg)を使用して編集に成功したCD4+T細胞の拡大増殖が改善されるように設計した二相からなる拡大培養プロトコルで使用したAAVコンストラクトの構造を示す略図である。このコンストラクトでは、MNDプロモーターによって、マイクロDISCの細胞表面発現とHAタグ付加FOXP3の細胞内発現が誘導される。
図13Bは、本明細書に記載の二相からなる拡大培養実験の結果をまとめたものであり、第1相拡大培養の細胞の条件をX軸に示す。第2相拡大培養の条件も示す。
【0035】
【0036】
【
図14】
図14Aおよび
図14Bは、編集の10日後および15日後の培養における全細胞に対するμDISC edT
reg細胞数をまとめたグラフである。第0相拡大培養における培養条件をX軸に示す。培養中の全細胞数を白色で示し、編集に成功した細胞(HA+/μDISC+およびFOXP3+)の数を黒色で示す。これらの知見に基づき、左から2番目の条件を、μDISC edT
regの作製に最適な条件として選択した。この条件では、第0相拡大培養中に5ng/mlのIL-2を使用する。
【0037】
【
図15】
図15Aおよび
図15Bは、NSGマウスへの移植の7日後におけるμDISC GFP edT
regの拡大増殖を、ラパマイシンで処置した場合と溶媒で処置した場合とで比較するために行ったフローサイトメトリー実験の結果のまとめを示す。75μLの末梢血試料中におけるGFP+細胞(%)の平均値±s.d(
図15A)およびGFP+細胞数の平均値±s.dをグラフに示す(
図15B)。IR=放射線照射;Rapa=実験期間を通して0.1mg/kgのラパマイシンを2日ごとに腹腔内注射。P値はスチューデントのt検定を使用して得た。各図において、左側の2つの棒は放射線照射したマウスから得た試料を示し、右側の2つの棒は放射線照射をしていないマウスから得た試料を示す。
【0038】
【
図16】
図16Aおよび
図16Bは、NSGマウスへの移植の14日後におけるμDISC GFP edT
regの拡大増殖を、ラパマイシンで処置した場合と溶媒で処置した場合とで比較するために行った実験の結果のまとめを示す。各コホートの代表的なマウスにおいて、ヒトCD45に対する生存率解析用色素(Live/Dead)をプロットしたフローサイトメトリープロット、またはGFPに対して細胞の前方散乱(FCS)をプロットしたフローサイトメトリープロットを
図16Aに示す。
図16Aの右側のグラフは、各コホートの結果のまとめを示す。
図16Bは、75μLの末梢血試料中のGFP+細胞数の平均値±s.dを示す。IR=放射線照射;Rapa=実験期間を通して0.1mg/kgのラパマイシンを2日ごとに腹腔内注射。P値はスチューデントのt検定を使用して得た。
【0039】
【
図17】ラパマイシン処置した場合またはラパマイシンで処置しなかったインビボのレシピエントマウスの末梢血中に経時的に認められたμDISC GFP edT
reg細胞のパーセンテージ(%)およびその数をまとめたものである。プロットはフローサイトメトリーデータをまとめたものであり、各記号は個々のマウスを示し、平均値±s.dを各棒に示す。CD45+CD4+ゲーティングにおけるGFP(%)を上パネルにプロットし、末梢血試料中のGFP+細胞数を下パネルにプロットする。
【0040】
【
図18】インビボの免疫抑制モデルのカプランマイヤー生存曲線を示す。Teff=Tエフェクターのみの群。これらの実験では、すべての群にエフェクターT細胞を投与した。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書では、特に、化学誘導シグナル伝達複合体(CISC)ポリペプチドとともに使用することが意図された組成物および方法であって、たとえば、ラパマイシンまたはラパマイシン関連化合物(たとえばラパログ)による増殖抑制に対する耐性を遺伝子操作された宿主細胞に付与することなどによって、ラパマイシンの作用に付随する宿主細胞への細胞傷害性を起こすことなく、該宿主細胞において、CISCを介したラパマイシン媒介性細胞内シグナル伝達を誘導する組成物および方法について述べる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組成物および方法は、CISCポリペプチドとともに使用することを意図したものであり、このCISCポリペプチドは、複数の構成要素からなる合成タンパク質複合体であり、この合成タンパク質複合体は、宿主細胞において2つのキメラタンパク質として共発現されるように構成されている。国際出願第PCT/US2017/065746号(この文献は引用により本明細書に援用される)に記載のCISCシグナル伝達システムは、様々な治療用途および研究用途に使用されるマクロライド系化合物であるラパマイシンに応答して細胞内シグナル伝達を誘導するように遺伝子操作することができる。CISCに含まれる2つのキメラタンパク質構成要素は、一方が、ラパマイシン結合複合体の半分を構成する細胞外ドメイン(FK506結合タンパク質(FKPB)ドメインおよびFKBPラパマイシン結合(FRB)ドメインのいずれか一方)であり、これが、ラパマイシン結合複合体の残りの半分を構成する細胞内シグナル伝達複合体に融合されている。CISCの細胞外ドメインにラパマイシンが結合することによってCISCヘテロ二量体が形成されると、キメラポリペプチドの細胞内シグナル伝達複合体部分を介して細胞内シグナル伝達が誘導される。
【0042】
CISC発現細胞は有用であるものの、ラパマイシンに曝露されると、ラパログであるAP21967を使用した場合よりも細胞の増殖量が少なくなることが観察されている。FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1(FRAP1)としても知られている哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)は、ヒトではMTOR遺伝子によりコードされるキナーゼである。mTORは、プロテインキナーゼのホスファチジルイノシトール3-キナーゼ関連キナーゼファミリーのメンバーである。mTORは、脂質合成およびmRNAの翻訳などの同化作用を支配する基質をリン酸化し、かつオートファジーなどの異化作用を遅延させることによって細胞増殖を刺激する増殖調節因子である。
【0043】
本出願人は、細胞増殖が抑制されるという問題を克服するためのコンストラクトおよび方法を考案した。
図2に示すように、FKBPドメイン含有タンパク質は、細胞の細胞質中で天然に発現されており、mTORはFRBドメインを含む。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、ラパマイシンとFKBPからなる複合体がmTORのFRBドメインに結合することによって、mTORを介した細胞内シグナル伝達が遮断または低減され、その結果、mRNAの翻訳および細胞の増殖が低下すると考えられる。これを踏まえ、特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本出願の発明者らは、(mTORに結合していない)ネイキッドなFRBタンパク質ドメインを細胞内で発現させ、細胞内ラパマイシンとFKBPからなる複合体にこのネイキッドなFRBタンパク質ドメインを結合させ、それにより、CISC発現細胞の増殖に対するラパマイシンの負の作用を軽減することができるという仮説を立てた。過去の報告では、mTORのネイキッドなFRBドメインを細胞内で発現させると、哺乳動物細胞に対して毒性が発揮されるため、ヒト細胞において、ラパマイシンとFKBPからなる複合体とmTORのFRBドメインの相互作用を細胞内で緩和する手段としては適していない可能性が示されている(Vilella-Bach, M. et al. (1999). J. Biol. Chem., 274(7):4266-4272を参照されたい)。さらに、FRBドメインのT2098L変異(配列の番号付けはmTORのアミノ酸配列に準じる)は、野生型タンパク質と比べてFRBドメインを不安定化し、これにより、細胞内での分解が速くなる。しかし、この変異タンパク質は、ラパマイシンへの結合により安定化される(Stankunas, K. et al. (2003). Mol. Cell., 12(6):1615-1624)。
【0044】
これらの過去の報告とは対照的に、本出願の発明者らは、本明細書で詳しく述べるように、驚くべきことに、CISC発現宿主細胞においてネイキッドな「デコイ」FRB(FRB*)ドメインを細胞内で発現させることによって、ラパマイシンの増殖抑制作用を効果的に軽減することができることを発見した。CISCとともにさらなるネイキッドなFRB*ドメインを発現するコンストラクトを「デコイ-CISC」または「DISC」と命名した。したがって、細胞内で発現されるネイキッドなFRBドメインによりラパマイシン耐性を付与することによって、治療適用および細胞内シグナル伝達経路の研究の両方におけるラパマイシン応答性CISC発現細胞の有用性を向上させることができる。
【0045】
用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。本明細書で引用されたすべての特許、出願、公開出願およびその他の刊行物は、別段の記載がない限り、いずれも引用によりその全体が明示的に本明細書に援用される。本明細書に記載の用語に対して複数の定義がある場合には、別段の記載がない限り、この節に記載の定義を優先するものとする。
【0046】
本明細書において、単数形の「a」、「an」および「the」は、明確な別段の記載がない限り、複数のものを含む。
【0047】
本明細書において「約」という用語は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、たとえば、測定値について述べる場合に使用してもよく、所定値から±20%、±10%、±5%、±1%または±0.1%の変動を含むことを意味してもよい。
【0048】
本明細書において「タンパク質配列」は、タンパク質の一次構造であるアミノ酸のポリペプチド配列を指す。また、本明細書において「上流」は、ポリヌクレオチド上の5’位側の位置、およびポリペプチド上のN末端側に向かった位置を意味する。また、本明細書において「下流」は、ヌクレオチド上の3’位側の位置、およびポリペプチド上のC末端側に向かった位置を意味する。したがって、「N末端」は、ポリペプチド上のN末端側の位置に向かったポリヌクレオチド上のエレメントの位置または特定の位置を指す。
【0049】
「核酸」または「核酸分子」は、ポリヌクレオチドを指し、たとえば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得られる断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかにより得られる断片などが挙げられる。核酸分子は、天然のヌクレオチドモノマー(DNA、RNAなど)、または天然のヌクレオチドの類似体(たとえば、天然のヌクレオチドのエナンチオマー)からなるモノマー、またはこれらの組み合わせから構成されていてもよい。「核酸分子」は、いわゆる「ペプチド核酸」も包含し、これは、ポリアミド主鎖に付加された天然の核酸塩基または修飾核酸塩基を含む。核酸は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。いくつかの実施形態において、融合タンパク質をコードする核酸配列を提供する。いくつかの実施形態において、前記核酸はRNAまたはDNAである。
【0050】
本明細書において「コードする」は、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列が、所定のアミノ酸配列などの別の巨大分子を合成するための鋳型として機能するという特性を指す。したがって、特定の遺伝子に対応するmRNAが転写および翻訳されて、細胞またはその他の生物系においてタンパク質が産生された場合、その遺伝子はこのタンパク質をコードする。
【0051】
「ポリペプチドをコードする核酸配列」には、同じアミノ酸配列をコードするあらゆる縮重ヌクレオチド配列が含まれる。いくつかの実施形態において、融合タンパク質をコードする核酸を提供する。
【0052】
「ベクター」、「発現ベクター」または「コンストラクト」は、細胞に異種核酸を導入するために使用される核酸であり、様々な調節因子を含むことから、細胞において異種核酸を発現させることができる。ベクターとしては、プラスミド、ミニサークル、酵母、およびウイルスゲノムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、ベクターは、プラスミド、ミニサークル、酵母またはウイルスゲノムである。いくつかの実施形態において、前記ベクターはウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、レンチウイルスである。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである(たとえば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11などが挙げられるが、これらに限定されない)。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、大腸菌などの細菌系におけるタンパク質発現用のベクターである。
【0053】
本明細書において「発現」または「タンパク質発現」いう用語は、転写されたRNA分子がタンパク質分子へと翻訳されることを指す。タンパク質発現は、その時間的特性、空間的特性、発生的特性または形態学的特性、および定量的指標または定性的指標によって特徴付けられてもよい。いくつかの実施形態では、単一のタンパク質または複数のタンパク質は、リガンドの存在下で二量体化するような構成(たとえば配置で)で発現される。
【0054】
本明細書において「融合タンパク質」または「キメラタンパク質」は、元は別々のタンパク質または別々のタンパク質の一部分をコードしていた2つ以上の遺伝子を連結することによって作製されたタンパク質である。また、融合タンパク質は別々の2つ以上のタンパク質に由来する特定のタンパク質ドメインから作製することもできる。このような融合遺伝子を翻訳することによって、元の各タンパク質に由来する機能特性を持つ単一のポリペプチドまたは複数のポリペプチドが得られる。組換え融合タンパク質は、生物学的研究または治療に使用される組換えDNA技術により人工的に作製することができる。このような融合タンパク質の作製方法は、当業者に公知である。いくつかの融合タンパク質は、複数のペプチド全体を組み合わせたものであり、したがって、元のタンパク質のすべてのドメインを含み、特にすべての機能ドメインを含むことがある。しかしながら、その他の融合タンパク質、特に天然に存在しないタンパク質は、コード配列の一部のみを組み合わせたものであることから、このようなタンパク質が由来する親遺伝子の元の機能を維持していない。
【0055】
本明細書において「調節エレメント」という用語は、遺伝子調節活性を有するDNA分子、たとえば作動可能に連結された転写可能なDNA分子の転写および/または翻訳に影響を及ぼすことができるDNA分子を指す。プロモーター(たとえば、MNDプロモーター、たとえば、配列番号33の核酸配列を含むMNDプロモーターなどが挙げられるが、これに限定されない)、リーダー、イントロン、転写終結領域などの調節因子は、遺伝子調節活性を有し、生細胞における遺伝子の全体的な発現において不可欠な役割を果たすDNA分子である。したがって、植物において機能する単離された調節エレメント(プロモーターなど)は、遺伝子工学的方法により植物の表現型を修飾するのに有用である。
【0056】
本明細書において「作動可能に連結される」という用語は、第1の分子が第2の分子に結合されることを指し、これらの分子は、第1の分子が第2の分子の機能に対して影響を及ぼすように配置されている。これら2つの分子は、連続した単一の分子の一部であってもよく、隣接していてもよい。たとえば、プロモーターが細胞内の転写可能な目的のDNA分子の転写を調節する場合、このプロモーターは、この転写可能なDNA分子に作動可能に連結されている。
【0057】
本明細書において、「二量体化した化学誘導シグナル伝達複合体(dimeric chemical-induced signaling complex)」、「二量体化CISC」または「二量体」は、CISCを構成する2つの構成要素を指し、これらの2つの構成要素は、互いに結合して融合タンパク質複合体を形成してもよく、互いに結合せずに融合タンパク質複合体を形成していなくてもよい。「二量体化」とは、たとえばリガンド(たとえばラパマイシン)の結合などに応答して、2つの別々のものが互いに結合して単一のものになるプロセスを指す。いくつかの実施形態では、リガンドまたは薬剤によって二量体化が刺激される。いくつかの実施形態において、「二量体化」はホモ二量体化を指し、すなわち、2つの同一のものが結合して二量体化すること、たとえば、2つの同一のCISC構成要素が結合して二量体化することを指す。いくつかの実施形態では、「二量体化」はヘテロ二量体化を指し、2つの異なるものが結合して二量体化すること、たとえば、2つの異なる別々のCISC構成要素が結合して二量体化することを指す。いくつかの実施形態では、CISC構成要素の二量体化によって、細胞シグナル伝達経路が形成される。いくつかの実施形態では、CISC構成要素の二量体化によって、細胞または細胞集団の選択的な拡大増殖が可能となる。さらなるCISCシステムは、CISCとジベレリンによるCISC二量体化システム、またはSLF-TMPを使用したCISC二量体化システムを含んでいてもよい。その他の化学的に誘導可能な二量体化(CID)システムおよびその構成要素を使用してもよい。
【0058】
本明細書において「化学誘導シグナル伝達複合体(chemical-induced signaling complex)」または「CISC」は、細胞の内部においてシグナルを開始し、その直接的な結果として、リガンドの誘導により二量体化を起こす遺伝子組換え複合体を指す。CISCは、ホモ二量体(2つの同一の構成要素が二量体化したもの)であってもよく、ヘテロ二量体(2つの異なる構成要素が二量体化したもの)であってもよい。したがって、本明細書において「ホモ二量体」という用語は、同一のアミノ酸配列を有する本明細書中に記載の2つのタンパク質構成要素からなる二量体を指す。また、「ヘテロ二量体」という用語は、アミノ酸配列が同一ではない本明細書に記載の2つのタンパク質構成要素からなる二量体を指す。
【0059】
CISCは、本明細書においてさらに詳細に述べるような合成複合体であってもよい。本明細書において「合成」は、天然のものではなく、自然界でも見られない本明細書に記載の複合体、タンパク質、二量体または組成物を指す。いくつかの実施形態において、「IL2R-CISC」は、インターロイキン2受容体の構成要素を含むシグナル伝達複合体を指す。いくつかの実施形態において、「IL2/15-CISC」は、インターロイキン2(IL2)およびインターロイキン15(IL15)によって共有される受容体シグナル伝達サブユニットを含むシグナル伝達複合体を指す。いくつかの実施形態において、「IL7-CISC」は、インターロイキン7受容体の構成要素を含むシグナル伝達複合体を指す。したがって、CISCは、特定のCISCの構成要素を構成する構成要素部分に従って命名してもよい。当業者であれば、化学誘導シグナル伝達複合体の構成要素部分が、CISCへの組み込みに有用な天然または合成の構成要素から構成されていてもよいことを認識できるであろう。したがって、本明細書で提供されるこれらの例は、本発明を限定するものではない。
【0060】
本明細書において「サイトカイン受容体」は、サイトカインを認識してこれに結合する受容体分子を指す。いくつかの実施形態において、サイトカイン受容体は、サイトカイン受容体のアミノ酸配列および/または核酸配列に置換、欠失および/または付加を含む修飾サイトカイン受容体分子(たとえば「サイトカイン受容体のバリアント」)を包含する。したがって、「サイトカイン受容体」という用語は、野生型サイトカイン受容体のみならず、組換えサイトカイン受容体、合成サイトカイン受容体およびサイトカイン受容体のバリアントを包含することが意図される。いくつかの実施形態において、サイトカイン受容体は、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、受容体の構成要素(すなわち受容体の各ドメイン)は、天然のものまたは合成されたものである。いくつかの実施形態において、各ドメインは、ヒト由来のドメインである。
【0061】
本明細書において「FKBP」は、FK506結合タンパク質ドメインである。FKBPは、プロリルイソメラーゼ活性を有するタンパク質ファミリーを指し、シクロフィリンと機能の点で関連しているが、アミノ酸配列の点では類似していない。FKBPは、酵母からヒトを含む多くの真核生物において同定されており、プロリン残基を含むタンパク質のタンパク質フォールディングシャペロンとして機能する。FKBPは、シクロフィリンとともにイムノフィリンファミリーに属する。FKBPは、たとえば、FKBP12を含むとともに、AIP遺伝子、AIPL1遺伝子、FKBP1A遺伝子、FKBP1B遺伝子、FKBP2遺伝子、FKBP3遺伝子、FKBP5遺伝子、FKBP6遺伝子、FKBP7遺伝子、FKBP8遺伝子、FKBP9遺伝子、FKBP9L遺伝子、FKBP10遺伝子、FKBP11遺伝子、FKBP14遺伝子、FKBP15遺伝子、FKBP52遺伝子、および/またはLOC541473遺伝子によってコードされるタンパク質;それらのホモログおよび機能性タンパク質断片を含む。
【0062】
本明細書において「FRB」は、FKBPラパマイシン結合ドメインである。FRBドメインは、FKBPタンパク質とラパマイシンまたはそのラパログと一緒になって三者複合体を形成するように構成されたポリペプチド領域(タンパク質「ドメイン」)である。FRBドメインは、様々な天然のタンパク質中に存在し、ヒトおよびその他の生物種に由来するmTORタンパク質(本明細書中でFRAP、RAPT1またはRAFTとも呼ばれる);Tor1および/またはTor2を含む酵母タンパク質;ならびにカンジダ属のFRAPホモログなどに存在する。FKBPおよびFRBはいずれも、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)のシグナル伝達の主要構成要素である。
【0063】
「ネイキッドなFKBPラパマイシン結合ドメインポリペプチド」または「ネイキッドなFRBドメインポリペプチド」(「FKBPラパマイシン結合ドメインポリペプチド」または「FRBドメインポリペプチド」とも呼ばれる)は、FRBドメインのアミノ酸配列からなるポリペプチドを指すか、あるいはタンパク質のアミノ酸配列の約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約100%がFRBドメインのアミノ酸配列からなるタンパク質を指す。通常、このようなタンパク質は、ラパログであるAP21967またはラパマイシンと結合して相互作用することができる。FRBドメインは、12kDaの可溶性タンパク質として発現させることができる(Chen, J. et al. (1995). Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 92(11):4947-4951)。FRBドメインは4ヘリックスバンドルを形成し、これは球状タンパク質に一般に見られる構造モチーフである。FRBドメイン全体の寸法は、30Å×45Å×30Åであり、4本のヘリックス同士は、シトクロムb562のフォールディングに類似した下側の短いループで連結されている(Choi, J. et al. (1996). Science, 273(5272):239-242)。いくつかの実施形態において、ネイキッドなFRBドメインは、配列番号1のアミノ酸配列(MEMWHEGLEEASRLYFGERNVKGMFEVLEPLHAMMERGPQTLKETSFNQAYGRDLMEAQEWCRKYMKSGNVKDLTQAWDLYYHVFRRISK)または配列番号2のアミノ酸配列(MEMWHEGLEEASRLYFGERNVKGMFEVLEPLHAMMERGPQTLKETSFNQAYGRDLMEAQEWCRKYMKSGNVKDLLQAWDLYYHVFRRISK)を含む。
【0064】
本明細書で述べる「細胞外結合ドメイン」は、複合体を構成するドメインの1つであり、特定の原子または特定の分子に結合するように構成され、細胞の外側に存在するドメインを指す。いくつかの実施形態において、CISCの細胞外結合ドメインは、FKBPドメインまたはその機能性誘導体である。いくつかの実施形態において、細胞外結合ドメインは、FRBドメインまたはその機能性誘導体である。いくつかの実施形態では、細胞外結合ドメインは、リガンドまたは薬剤に結合することにより、2つのCISC構成要素の二量体化を刺激するように構成されている。いくつかの実施形態において、細胞外結合ドメインは、サイトカイン受容体モジュレーターに結合するように構成されている。
【0065】
本明細書において「サイトカイン受容体モジュレーター」は、サイトカイン受容体の下流の標的のリン酸化、サイトカイン受容体に関連するシグナル伝達経路の活性化、および/またはサイトカインなどの特定のタンパク質の発現を調節する薬剤を指す。そのような薬剤は、サイトカイン受容体の下流の標的のリン酸化、サイトカイン受容体に関連するシグナル伝達経路の活性化、および/またはサイトカインなどの特定のタンパク質の発現を、直接的または間接的に調節してもよい。したがって、サイトカイン受容体モジュレーターの例としては、サイトカイン;サイトカインの断片;融合タンパク質;および/またはサイトカイン受容体もしくはその断片に免疫特異的に結合する抗体もしくはその結合部分が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、サイトカイン受容体モジュレーターの例としては、サイトカインまたはその断片に免疫特異的に結合するペプチド、ポリペプチド(たとえば可溶性サイトカイン受容体)、融合タンパク質、および/または抗体もしくはその結合部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書において「活性化する」とは、目的のタンパク質の少なくとも1つの生物学的活性の増強を指す。同様に、「活性化」は、活性が増強した状態にある目的のタンパク質の状態を指す。「活性化可能」は、目的のタンパク質が、シグナル、薬剤、リガンド、化合物または刺激の存在下で活性化可能であることを指す。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二量体は、シグナル、薬剤、リガンド、化合物または刺激の存在下で活性化され、シグナル伝達能を有する二量体になる。本明細書中において「シグナル伝達能を有する」とは、下流のシグナル伝達経路を開始または持続させることができるという二量体の能力または配置を指す。
【0067】
本明細書において「ヒンジドメイン」は、細胞外結合ドメインを膜貫通ドメインに連結し、それによって細胞外結合ドメインに柔軟性を付与してもよいドメインを指す。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインによって細胞外ドメインを細胞膜の近くに配置し、抗体またはその結合断片による認識の可能性を最小限に抑える。いくつかの実施形態では、細胞外結合ドメインは、ヒンジドメインのN末端に位置する。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは天然のものであってもよく、合成されたものであってもよい。
【0068】
本明細書において「膜貫通ドメイン」または「TMドメイン」は、細胞膜などの膜の内部で安定なドメインを指す。「膜貫通スパン」、「膜内在性タンパク質」、および「膜内在性ドメイン」という用語も本明細書で使用される。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインおよび細胞外ドメインは、膜貫通ドメインのN末端に位置する。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、天然のドメインまたは合成されたドメインである。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、IL-2膜貫通ドメインである。
【0069】
本明細書において「シグナル伝達ドメイン」は、細胞(哺乳動物細胞など)の内部のシグナル伝達カスケードに関与する融合タンパク質のドメインまたはCISCの構成要素のドメインを指す。「シグナル伝達ドメイン」は、TCR/CD3複合体のCD3ζ鎖などによって提供される第1のシグナルに加えて、細胞性応答(T細胞応答など)を仲介するシグナルを細胞(T細胞など)に提供するシグナル伝達部分を指し、仲介される細胞性応答としては、活性化、増殖、分化および/またはサイトカイン分泌が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、膜貫通ドメイン、ヒンジドメインおよび細胞外ドメインのN末端側にある。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、合成ドメインまたは天然のドメインである。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、連結された細胞質内シグナル伝達ドメインである。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、サイトカインシグナル伝達ドメインである。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、抗原シグナル伝達ドメインである。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、インターロイキン2受容体γサブユニット(IL2RγまたはIL2Rg)ドメインである。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、インターロイキン2受容体βサブユニット(IL2RβまたはIL2Rb)ドメイン、または切断型IL2Rβドメイン(たとえば配列番号5のアミノ酸配列を含む切断型IL2Rβドメイン)である。いくつかの実施形態において、細胞外結合ドメインに薬剤またはリガンドが結合することにより、CISC構成要素が二量体化し、その結果、シグナル伝達経路が活性化され、シグナル伝達ドメインを介したシグナル伝達が起こる。本明細書において 「シグナル伝達」は、細胞外ドメインにリガンドまたは薬剤が結合することによって、シグナル伝達経路が活性化されることを指す。リガンドまたは薬剤に細胞外ドメインが結合することによって、CISC構成要素が二量体化し、シグナルが活性化される。
【0070】
本明細書において「IL2Rb」または「IL2Rβ」は、インターロイキン2受容体βサブユニットを指す。同様に、「IL2Rg」または「IL2Rγ」は、インターロイキン2受容体γサブユニットを指し、「IL2Ra」または「IL2Rα」はインターロイキン2受容体αサブユニットを指す。IL-2受容体には3つの形態、すなわちα鎖、β鎖およびγ鎖があり、これらは、その他のサイトカインの受容体のサブユニットでもある。IL2RβおよびIL2Rγは、I型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーである。本明細書において「IL2R」は、インターロイキン2受容体を指し、T細胞を介した免疫応答に関与する。IL2Rは、受容体依存性エンドサイトーシス、およびインターロイキン2からの細胞分裂促進性シグナルの伝達に関与する。同様に、「IL-2/15R」は、IL-2およびIL-15によって共有される受容体シグナル伝達サブユニットを指し、αサブユニット(IL2/15RaまたはIL2/15Rα)、βサブユニット(IL2/15RbまたはIL2/15Rβ)またはγサブユニット(IL2/15RgまたはIL2/15Rγ)を含みうる。
【0071】
いくつかの実施形態では、化学誘導シグナル伝達複合体は、2つの構成要素を含むヘテロ二量体化活性化シグナル伝達複合体である。いくつかの実施形態において、第1の構成要素は、ヘテロ二量体化ペアの一方である細胞外結合ドメイン、任意のヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および1つ以上の連結された細胞質内シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2の構成要素は、ヘテロ二量体化ペアのもう一方である細胞外結合ドメイン、任意のヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および1つ以上の連結された細胞質内シグナル伝達ドメインを含む。したがって、いくつかの実施形態では、2種の遺伝子組換えイベントが起こる。いくつかの実施形態において、これら2つのCISC構成要素は、哺乳動物細胞などの細胞において発現される。いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの細胞、または哺乳動物細胞集団などの細胞集団を、ヘテロ二量体化を起こすリガンドまたは因子と接触させ、それによってシグナル伝達を開始させる。いくつかの実施形態において、ホモ二量体化ペアが二量体化し、それによって単一のCISC構成要素が哺乳動物細胞などの細胞において発現され、ホモ二量体化したCISC構成要素がシグナル伝達を開始する。
【0072】
本明細書において「リガンド」または「薬剤」は、所望の生物学的効果を有する分子を指す。いくつかの実施形態において、細胞外結合ドメインがリガンドを認識してこれに結合し、リガンドと2つの結合性CISC構成要素を含む三者複合体を形成する。リガンドとしては、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、翻訳後修飾されたタンパク質、抗体、その結合部分などの(ただしこれらに限定されない)タンパク質性分子;小分子(1000ダルトン未満)、無機化合物または有機化合物;ならびに二本鎖DNAもしくは一本鎖DNA、二本鎖RNAもしくは一本鎖RNA(たとえば、アンチセンスRNA、RNAiなど)、アプタマー、三重らせん核酸分子などの(ただしこれらに限定されない)核酸分子が挙げられるが、これらに限定されない。リガンドは、公知の生物(動物(たとえば哺乳動物(ヒトおよび非ヒト哺乳動物))、植物、細菌、真菌、原生生物およびウイルスが挙げられるが、これらに限定されない)であればどのような生物に由来するものであってもよく、これらから得られたものであってもよく、あるいは合成分子ライブラリーに由来するものであってもよく、これらから得られたものであってもよい。いくつかの実施形態において、リガンドは、タンパク質、抗体もしくはその機能性誘導体、小分子、または薬物である。いくつかの実施形態において、リガンドは、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体(ラパログ)である。いくつかの実施形態において、ラパログとして、たとえば、C7位、C42位および/もしくはC29位のメトキシの脱メチル化、除去もしくは置換;C13位、C43位および/もしくはC28位のヒドロキシの除去、誘導体化もしくは置換;C14位、C24位および/もしくはC30位のケトンの還元、除去もしくは誘導体化;6員ピペコラート環の5員プロリル環による置換;およびシクロヘキシル環上の別の置換もしくはシクロヘキシル環の置換シクロペンチル環による置換のうちの1つ以上の修飾をラパマイシンに対して行ったラパマイシンのバリアントが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態において、ラパログは、エベロリムス、merilimus、ノボリムス、ピメクロリムス、リダホロリムス、タクロリムス、テムシロリムス、ウミロリムス、ゾタロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP23573もしくはAP1903、またはこれらのいずれかの代謝物、誘導体および/もしくは組み合わせである。いくつかの実施形態において、リガンドは、IMID系薬物(たとえば、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドまたはこれらに関連する類似体)である。
【0073】
本明細書において「同時結合」は、2つ以上のCISC構成要素がリガンドに同時に結合し、場合によっては、2つ以上のCISC構成要素が実質的に同時にリガンドに結合して、CISC構成要素とリガンド構成要素を含む複数の構成要素からなる複合体を形成し、その結果、シグナルの活性化がもたらされることを指す。同時結合がなされるには、CISC構成要素が単一のリガンドに空間的に結合するように構成されている必要があり、かつ両方のCISC構成要素が、同じリガンド(の異なる部分)に結合するように構成されている必要がある。
【0074】
本明細書において「選択的な拡大増殖」は、哺乳動物細胞のような所望の細胞、または哺乳動物細胞集団のような所望の細胞集団の拡大増殖能を指す。いくつかの実施形態では、選択的な拡大増殖は、2種の遺伝子が組換えられた純粋な細胞(哺乳動物細胞など)の集団の発生または拡大増殖を指す。二量体化CISCを構成する一方の構成要素は、一方の遺伝子組換えに関与し、もう一方の構成要素は、もう一方の遺伝子組換えに関与する。したがって、ヘテロ二量体化CISCの各構成要素は、各遺伝子組換えと関連している。細胞をリガンドに曝露することによって、所望とする両方の改変を有する細胞(哺乳動物細胞など)のみを選択的に拡大増殖させることが可能になる。したがって、いくつかの実施形態では、リガンドとの接触に対して応答することができる細胞(たとえば哺乳動物細胞)は、ヘテロ二量体化CISCの両方の構成要素を発現する細胞のみである。
【0075】
本明細書において「宿主細胞」は、核酸コンストラクトまたはベクターによる形質転換、トランスフェクションまたは形質導入に感受性を有するあらゆる種類の細胞(たとえば哺乳動物細胞)を含む。いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの宿主細胞は、T細胞または制御性T細胞(Treg)である。本明細書において「T細胞」または「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物から得られたものであってもよく、たとえば、サル、イヌおよびヒトを含む、霊長類またはその他の生物種から得られたものであってもよい。いくつかの実施形態において、前記T細胞は、レシピエント対象と同種(同種であるが別のドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態において、T細胞は自己由来である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、前記T細胞は同系である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの宿主細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記宿主細胞は、CD34+細胞、CD8+細胞またはCD4+細胞である。いくつかの実施形態において、前記宿主細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記宿主細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。本明細書において「細胞集団」は、2種以上の細胞を含む細胞群(哺乳動物細胞群など)を指す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のタンパク質配列または該タンパク質配列をコードする発現ベクターを含む細胞(哺乳動物細胞など)が製造される。
【0076】
本明細書において「細胞傷害性Tリンパ球(CTL)」は、細胞表面上にCD8を発現するTリンパ球(たとえばCD8+T細胞)を指す。いくつかの実施形態において、このような細胞は、たとえば、抗原を経験したことのある「メモリー」T細胞(TM細胞)である。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は、細胞傷害性Tリンパ球である。本明細書において「セントラルメモリー」T細胞(または「TCM」)は、抗原を経験した細胞傷害性Tリンパ球(CTL)であり、ナイーブ細胞と比較して、その表面上にCD62L、CCR-7および/またはCD45ROを発現するが、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているCTLを指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態おいて、前記細胞はセントラルメモリーT細胞(TCM)である。いくつかの実施形態において、セントラルメモリー細胞は、ナイーブ細胞と比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45RO、および/またはCD95の発現が陽性であるが、CD54RAの発現が低下していることがある。本明細書において「エフェクターメモリー」T細胞(または「TEM」)は、抗原を経験したT細胞であり、セントラルメモリー細胞と比較して、その表面上にCD62Lを発現していないか、CD62Lの発現が低下しており、ナイーブ細胞と比較して、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているT細胞を指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態では、前記細胞はエフェクターメモリーT細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターメモリー細胞は、ナイーブ細胞またはセントラルメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/またはCCR7の発現が陰性であり、CD28および/またはCD45RAの発現が陽性または陰性であってもよい。
【0077】
本明細書に記載の「ナイーブ」T細胞は、抗原を経験していないTリンパ球であり、セントラルメモリー細胞またはエフェクターメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/またはCD45RAを発現しており、CD45ROを発現していないTリンパ球を指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞(哺乳動物細胞など)を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞(哺乳動物細胞など)はナイーブT細胞である。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8+Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカーの発現によって特徴付けられ、ナイーブT細胞の表現型マーカーとしては、CD62L、CCR7、CD28、CD127、および/またはCD45RAが挙げられる。
【0078】
本明細書に記載の「エフェクター」T細胞は、抗原を経験した細胞傷害性Tリンパ球であり、セントラルメモリーT細胞またはナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7、および/もしくはCD28を発現していないか、またはCD62L、CCR7、および/もしくはCD28の発現が低下しており、かつグランザイムB陽性および/またはパーフォリンが陽性であるTリンパ球を指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞(哺乳動物細胞など)を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞(哺乳動物細胞など)はエフェクターT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞(哺乳動物細胞など)は、セントラルメモリーT細胞またはナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7および/またはCD28を発現していないか、CD62L、CCR7および/またはCD28の発現が低下しており、かつグランザイムB陽性および/またはパーフォリンが陽性である。
【0079】
本明細書において「形質転換された」または「トランスフェクトされた」とは、コンストラクトなどの外来ポリヌクレオチド分子が導入された細胞(哺乳動物細胞など)、組織、臓器または生物を指す。導入されたポリヌクレオチド分子は、レシピエント細胞(哺乳動物細胞など)、組織、臓器または生物のゲノムDNAに組み込まれてもよく、それによって、導入されたポリヌクレオチド分子が次の子孫に受け継がれてもよい。さらに、「トランスジェニックな」細胞(哺乳動物細胞など)もしくは「トランスジェニックな」生物、または「トランスフェクトされた」細胞(哺乳動物細胞など)もしくは「トランスフェクトされた」生物は、トランスジェニックな細胞もしくは生物またはトランスフェクトされた細胞もしくは生物の子孫を含み、そのようなトランスジェニック生物を親として交配に使用した繁殖計画により作製された子孫を含み、かつ外来ポリヌクレオチド分子の存在により生じた改変表現型を示すものを含む。「トランスジェニック」は、1種以上の異種核酸分子を含む細菌、真菌または植物も指す。
【0080】
本明細書において「形質導入」は、ウイルス(たとえばレンチウイルスまたはアデノ随伴ウイルス)を使用した細胞(哺乳動物細胞など)への遺伝子の導入を指す。
【0081】
本明細書において「対象」または「個体」は、処置、観察または実験の対象となる動物を指す。「動物」には、変温脊椎動物、温血脊椎動物、および魚類、甲殻類、爬虫類などの無脊椎動物、特に哺乳動物が含まれる。「哺乳動物」には、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、霊長動物(サル、チンパンジー、類人猿など)、特にヒトが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0082】
本明細書に記載の「マーカー配列」は、目的のタンパク質を有する細胞(哺乳動物細胞など)または目的のタンパク質を選択または追跡するために使用されるタンパク質をコードする。本明細書に記載の実施形態において、フローサイトメトリーなどの実験において選択可能なマーカー配列を含んでいてもよい融合タンパク質を提供する。
【0083】
本明細書に記載のCISC配列またはその他のポリペプチド配列(たとえば、ネイキッドなFRBドメインポリペプチド配列)に関する「アミノ酸配列同一性(%)」は、候補配列中の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインのそれぞれのアミノ酸残基が、参照配列中の各ドメインのアミノ酸残基と一致しているパーセンテージとして定義され、このアミノ酸配列同一性は、配列同一性(%)の最大値を算出するため、候補配列と参照配列をアラインし、必要に応じてギャップを挿入した後に算出されたものであり、保存的置換は配列同一性の一部として考慮しない。アミノ酸配列同一性(%)を決定するためのアラインメントは、当技術分野の範囲に含まれる様々な方法で行うことができ、たとえば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、Megalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの一般公開されているコンピューターソフトウェアを使用して行うことができる。当業者であれば、アラインメントを測定するのに適切なパラメータを決定することができ、このようなパラメータとしては、比較される複数の配列の全長にわたってアラインメントを最大とするのに必要な任意のアルゴリズムが挙げられる。たとえば、WU-BLAST-2コンピュータープログラム(Altschul, S. F. et al. (1996). Methods in Enzymol., 266:460-480)を用いてアミノ酸配列同一性(%)を算出するには、いくつかの検索パラメータを用いるが、それらのほとんどはデフォルト値に設定される。デフォルト値に設定されないパラメータ(たとえば調整可能なパラメータ)は、overlap span=1、overlap fraction=0.125、word threshold (T) =11およびscoring matrix=BLOSUM62に設定される。CISCの実施形態のいくつかにおいて、CISCは、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含み、各ドメインは、天然ドメインもしくは合成ドメイン、または天然ドメインの変異型もしくは切断型を含む。いくつかの実施形態において、所定のドメインの変異型または切断型は、本明細書で提供する配列に示される配列と、100%、95%、90%もしくは85%の配列同一性、または前記パーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲内の配列同一性(%)を有するアミノ酸配列を含む。
【0084】
本明細書において「CISCのバリアントのポリペプチド配列」または「CISCのバリアントのアミノ酸配列」は、以下で定義するように、本明細書で提供するタンパク質配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性(またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲内のアミノ酸配列同一性(%))を有するタンパク質配列、または特異的に誘導されたその断片、たとえば、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインのタンパク質配列を指す。通常、CISCのバリアントのポリペプチドまたはその断片は、CISCのアミノ酸配列またはそれに由来する断片と、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、少なくとも81%もしくは少なくとも約81%のアミノ酸配列同一性、少なくとも82%もしくは少なくとも約82%のアミノ酸配列同一性、少なくとも83%もしくは少なくとも約83%のアミノ酸配列同一性、少なくとも84%もしくは少なくとも約84%のアミノ酸配列同一性、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、少なくとも86%もしくは少なくとも約86%のアミノ酸配列同一性、少なくとも87%もしくは少なくとも約87%のアミノ酸配列同一性、少なくとも88%もしくは少なくとも約88%のアミノ酸配列同一性、少なくとも89%もしくは少なくとも約89%のアミノ酸配列同一性、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、少なくとも91%もしくは少なくとも約91%のアミノ酸配列同一性、少なくとも92%もしくは少なくとも約92%のアミノ酸配列同一性、少なくとも93%もしくは少なくとも約93%のアミノ酸配列同一性、少なくとも94%もしくは少なくとも約94%のアミノ酸配列同一性、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性、少なくとも96%もしくは少なくとも約96%のアミノ酸配列同一性、少なくとも97%もしくは少なくとも約97%のアミノ酸配列同一性、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも99%もしくは少なくとも約99%アミノ酸配列同一性を有する。バリアントは、天然のタンパク質配列を包含しない。
【0085】
本明細書において「ネイキッドなFRBドメインのバリアントのポリペプチド配列」または「ネイキッドなFRBドメインのバリアントのアミノ酸配列」は、以下で定義するように、本明細書で提供するタンパク質配列(たとえば配列番号1または配列番号2)と、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%、または少なくとも99%もしくは少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性(またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲内のアミノ酸配列同一性(%))を有するタンパク質配列、または特異的に誘導されたその断片、たとえば、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインのタンパク質配列を指す。通常、ネイキッドなFRBドメインのバリアントのポリペプチドまたはその断片は、ネイキッドなFRBドメインのアミノ酸配列またはそれに由来する断片と、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、少なくとも81%もしくは少なくとも約81%のアミノ酸配列同一性、少なくとも82%もしくは少なくとも約82%のアミノ酸配列同一性、少なくとも83%もしくは少なくとも約83%のアミノ酸配列同一性、少なくとも84%もしくは少なくとも約84%のアミノ酸配列同一性、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、少なくとも86%もしくは少なくとも約86%のアミノ酸配列同一性、少なくとも87%もしくは少なくとも約87%のアミノ酸配列同一性、少なくとも88%もしくは少なくとも約88%のアミノ酸配列同一性、少なくとも89%もしくは少なくとも約89%のアミノ酸配列同一性、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、少なくとも91%もしくは少なくとも約91%のアミノ酸配列同一性、少なくとも92%もしくは少なくとも約92%のアミノ酸配列同一性、少なくとも93%もしくは少なくとも約93%のアミノ酸配列同一性、少なくとも94%もしくは少なくとも約94%のアミノ酸配列同一性、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性、少なくとも96%もしくは少なくとも約96%のアミノ酸配列同一性、少なくとも97%もしくは少なくとも約97%のアミノ酸配列同一性、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも99%もしくは少なくとも約99%アミノ酸配列同一性を有する。バリアントは、天然のタンパク質配列を包含しない。
【0086】
本明細書において、請求項の移行句、本体部を問わず、「含む(comprise(s))」および「含んでいる(comprising)」という用語は、オープンエンドの意味を有するものと解釈される。すなわち、これらの用語は、「少なくとも有する」または「少なくとも含んでいる」という表現と同義であると解釈される。「含む」という用語が方法に関わる文脈で用いられる場合、当該方法が、明記された工程を少なくとも含み、さらに別の工程を含んでもよいことを意味する。また、「含む」という用語が化合物、組成物または装置に関わる文脈で用いられる場合、当該化合物、当該組成物または当該装置が、明記された特徴または構成要素を少なくとも含み、さらに別の特徴または構成要素を含んでもよいことを意味する。
【0087】
CISC
前記1つ以上のタンパク質配列は、第1の配列および第2の配列を有していてもよい。いくつかの実施形態において、第1の配列は、第1の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含んでいてもよい第1のCISC構成要素をコードする。いくつかの実施形態において、第2の配列は、第2の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその一部を含んでいてもよい第2のCISC構成要素をコードする。いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素と第2のCISC構成要素は、発現された場合にリガンドの存在下で二量体化するように配置されていてもよい。いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素と第2のCISC構成要素は、発現された場合にリガンドの存在下で同時に二量体化するように配置されていてもよい。
【0088】
いくつかの実施形態において、ヘテロ二量体化する2つのCISC構成要素のタンパク質配列、またはヘテロ二量体化する2つのCISC構成要素をコードする配列を提供する。いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素は、IL2Rγ-CISC複合体である。いくつかの実施形態において、前記IL2Rγ-CISC複合体は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号9のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、前記IL2Rγ-CISC複合体は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号10のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、前記IL2Rγ-CISC複合体は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号11のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、前記IL2Rγ-CISC複合体は、配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号12のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0089】
いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素のタンパク質配列は、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードするタンパク質配列を含む。また、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、第1の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインを含む第1のCISC構成要素のタンパク質配列は、配列番号9、10、11または12に示される配列と、100%、99%、98%、95%、90%、85%もしくは80%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージに含まれるすべての数値および範囲を含む配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0090】
いくつかの実施形態において、第2のCISC構成要素は、IL2Rβを含む複合体である。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβ-CISC複合体は、配列番号13に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号13のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβ-CISC複合体は、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号14のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβ-CISC複合体は、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号15のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβ-CISC複合体は、配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号24のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、第2のCISC構成要素は、IL7Rαを含む複合体である。いくつかの実施形態において、前記IL7Rα-CISC複合体は、配列番号16、17または26に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号16、17または26のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0091】
別の実施形態において、IL2Rβ-CISCは、切断型細胞内IL2Rβドメインまたは切断型細胞内IL2Rβドメインをコードする核酸配列を含む。切断型IL2Rβドメインは、IL2Rγ-CISCタンパク質配列とヘテロ二量体化を形成すると、下流のIL2のシグナル伝達を活性化する能力を保持している。いくつかの実施形態において、切断型IL2Rβは、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む(PAALGKDTIPWLGHLLVGLSGAFGFIILVYLLINCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLLQQDKVPEPASLSLNTDAYLSLQELQ;配列番号5)。いくつかの実施形態において、配列番号5の切断型IL2Rβドメインは、N末端の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸を欠失している。別の実施形態において、切断型細胞内IL2Rβドメインを有するFRB-CISCは、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む(MALPVTALLLPLALLLHAARPILWHEMWHEGLEEASRLYFGERNVKGMFEVLEPLHAMMERGPQTLKETSFNQAYGRDLMEAQEWCRKYMKSGNVKDLLQAWDLYYHVFRRISKPAALGKDTIPWLGHLLVGLSGAFGFIILVYLLINCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSP*WORFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLLQQDKVPEPASLSLNTDAYLSLQELQ;配列番号7)。
【0092】
いくつかの実施形態において、第2のCISC構成要素のタンパク質配列は、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードするタンパク質配列を含む。また、第2のCISC構成要素の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、第2の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメイン(いくつかの実施形態において、切断型IL2Rβシグナル伝達ドメインを含む)を含む第2のCISC構成要素のタンパク質配列は、配列番号5、8、13、14、15、16または17に示される配列と、100%、99%、98%、95%、90%、85%もしくは80%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージに含まれるすべての数値および範囲を含む配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、前記タンパク質配列は、リンカーを含んでもよい。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個のアミノ酸(グリシンなど)を含むか、または多数のアミノ酸(グリシンなど)を含むか、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、前記グリシンスペーサーは、少なくとも3個のグリシンを含む。いくつかの実施形態において、前記グリシンスペーサーは、配列番号18に示される配列(GGGS;配列番号18)、配列番号19に示される配列(GGGSGGG;配列番号19)、配列番号20に示される配列(GGG;配列番号20)、配列番号21に示される配列(GGS;配列番号21)、配列番号22に示される配列(GGSP;配列番号22)、または配列番号31に示される配列(PAAL;配列番号31)を含む。また、配列番号18~22および31をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、シグナル伝達ドメインのN末端に位置し、ヒンジドメインは、膜貫通ドメインのN末端に位置し、リンカーは、ヒンジドメインのN末端に位置し、細胞外結合ドメインは、リンカーのN末端に位置する。
【0094】
いくつかの実施形態において、ホモ二量体化する2つのCISC構成要素のタンパク質配列、またはホモ二量体化する2つのCISC構成要素をコードする配列を提供する。いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素は、IL2Rγ-CISC複合体である。いくつかの実施形態において、前記IL2Rγ-CISC複合体は、配列番号23に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号23のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0095】
いくつかの実施形態において、第1のCISC構成要素のタンパク質配列は、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードするタンパク質配列を含む。また、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、第1の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインを含む第1のCISC構成要素のタンパク質配列は、配列番号23に示される配列と、100%、99%、98%、95%、90%、85%もしくは80%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージに含まれるすべての数値および範囲を含む配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0096】
いくつかの実施形態において、第2のCISC構成要素は、IL2Rβを含む複合体またはIL2Rαを含む複合体である。いくつかの実施形態において、前記IL2Rβ-CISC複合体は、配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号24のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0097】
いくつかの実施形態において、前記IL2Rα-CISC複合体は、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号25のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0098】
いくつかの実施形態において、第2のCISC構成要素のタンパク質配列は、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードするタンパク質配列を含む。また、第2のCISC構成要素の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、第2の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインを含む第2のCISC構成要素のタンパク質配列は、配列番号24または配列番号25に示される配列と、100%、99%、98%、95%、90%、85%もしくは80%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージに含まれるすべての数値および範囲を含む配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0099】
いくつかの実施形態において、前記タンパク質配列は、リンカーを含んでもよい。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個のアミノ酸(グリシンなど)を含むか、または多数のアミノ酸(グリシンなど)を含むか、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、前記グリシンスペーサーは、少なくとも3個のグリシンを含む。いくつかの実施形態において、前記グリシンスペーサーは、配列番号18に示される配列(GGGS;配列番号18)、配列番号19に示される配列(GGGSGGG;配列番号19)、配列番号20に示される配列(GGG;配列番号20)、配列番号21に示される配列(GGS;配列番号21)、配列番号22に示される配列(GGSP;配列番号22)、または配列番号31に示される配列(PAAL;配列番号31)を含む。また、配列番号18~22および31をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、シグナル伝達ドメインのN末端に位置し、ヒンジドメインは、膜貫通ドメインのN末端に位置し、リンカーは、ヒンジドメインのN末端に位置し、細胞外結合ドメインは、リンカーのN末端に位置する。
【0100】
いくつかの実施形態において、ホモ二量体化する2つのCISC構成要素をコードする配列には、リガンドであるAP1903とともにホモ二量体化するFKBP F36Vドメインが組み込まれている。
【0101】
いくつかの実施形態において、ホモ二量体化する単一のCISC構成要素のタンパク質配列、またはホモ二量体化する単一のCISC構成要素をコードする配列を提供する。いくつかの実施形態において、前記単一のCISC構成要素は、IL7Rα-CISC複合体である。いくつかの実施形態において、前記IL7Rα-CISC複合体は、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号26のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0102】
いくつかの実施形態において、前記単一のCISC構成要素は、MPL-CISC複合体である。いくつかの実施形態において、前記MPL-CISC複合体は、配列番号27に示されるアミノ酸配列を含む。また、配列番号27のタンパク質配列をコードする核酸配列も実施形態に含まれる。
【0103】
いくつかの実施形態において、前記単一のCISC構成要素のタンパク質配列は、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードするタンパク質配列を含む。また、細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインまたはシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列も実施形態に含まれる。いくつかの実施形態において、第1の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインを含む第1のCISC構成要素のタンパク質配列は、配列番号26または配列番号27に示される配列と、100%、99%、98%、95%、90%、85%もしくは80%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲内の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、ホモ二量体化する単一のCISC構成要素をコードする配列には、リガンドであるAP1903とともにホモ二量体化するFKBP F36Vドメインが組み込まれている。
【0105】
ベクター
形質導入および導入遺伝子の発現を効率的に行うために、様々なベクターの組み合わせを構築することができる。いくつかの実施形態において、前記ベクターはウイルスベクターである。別の実施形態において、前記ベクターとして、ウイルスベクターとプラスミドベクターの組み合わせが挙げられる。別のウイルスベクターとして、フォーミーウイルス、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクターおよび/またはレンチウイルスベクターが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記ベクターはレンチウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、フォーミーウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、大腸菌などの細菌系におけるタンパク質発現用のベクターである。別の実施形態において、第1のベクターは、第1の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第1のCISC構成要素をコードすることができ、第2のベクターは、第2の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその一部を含む第2のCISC構成要素をコードすることができる。
【0106】
ベクターは、ベクター中のDNA配列(たとえば、ネイキッドなFRBドメインまたはCISCの構成要素をコードするDNA配列)の発現を誘導するための1つ以上のプロモーターを有していてもよい。「プロモーター」は、特定の遺伝子の転写を開始させるDNA領域である。プロモーターは、遺伝子転写開始部位の近傍に位置していてもよく、同じDNA鎖内の上流(センス鎖の5’領域)に位置していてもよい。プロモーターは、条件誘導型プロモーターであってもよく、構成的プロモーターであってもよい。プロモーターは、細菌細胞におけるタンパク質発現に特異的であってもよく、哺乳動物細胞におけるタンパク質発現に特異的であってもよく、昆虫細胞におけるタンパク質発現に特異的であってもよい。いくつかの実施形態において、融合タンパク質をコードする核酸が提供される場合、該核酸はプロモーター配列をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、細菌細胞、哺乳動物細胞または昆虫細胞におけるタンパク質発現に特異的である。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、条件的プロモーターまたは構成的プロモーターである。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、MNDプロモーター(改変MoMuLV LTRのU3領域と骨髄増殖性肉腫ウイルスのエンハンサーを含む合成プロモーター)である。いくつかの実施形態において、前記MNDプロモーターは、配列番号33の核酸配列を含む。
【0107】
本明細書に記載の「条件的」または「誘導型」は、誘導因子の存在下で遺伝子を発現させるが、誘導因子の非存在下では実質的に遺伝子を発現させないプロモーターなどの核酸コンストラクトを指す。
【0108】
本明細書において「構成的」は、 構成的なプロモーターを含むことから、継続的に産生されるポリペプチドを発現させる核酸コンストラクトを指す。
【0109】
いくつかの実施形態において、前記誘導型プロモーターは、基底レベルでの活性が低い。いくつかの実施形態において、レンチウイルスベクターを用いる場合、発現が誘導されていない細胞における基底レベルでの活性は、細胞において遺伝子の発現が誘導された場合の20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%もしくはこれら以下(ただし0%ではない)、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のパーセンテージである。基底レベルでの活性は、フローサイトメトリーを用いて、誘導因子(たとえば薬物)の非存在下で導入遺伝子(たとえばマーカー遺伝子)の発現量を測定することによって決定することができる。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、マーカータンパク質(mCherryなど)を使用して発現が測定される。
【0110】
いくつかの実施形態において、前記誘導型プロモーターが発現されると、発現が誘導されていない場合や基底レベルでの活性と比べて高い活性を誘導することができる。いくつかの実施形態において、発現が誘導された場合の活性レベルは、発現が誘導されていない場合の2倍、4倍、6倍、8倍、9倍、10倍もしくはそれ以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の倍率である。いくつかの実施形態において、前記誘導型プロモーターの制御下にある導入遺伝子は、トランス活性化因子の非存在下において、10日未満、8日未満、6日未満、4日未満、2日未満もしくは1日未満、またはこれらの期間のいずれか2つによって定義される範囲内の期間でオフの状態となるが、0日ではオフの状態とはならない。
【0111】
いくつかの実施形態において、基底レベルでの活性が低く、高レベルの発現が誘導され、かつ/または短期間でオンとオフとを切り替えることができるように、誘導型プロモーターを設計および/または改変する。
【0112】
いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、配列番号1、2、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16および17のうちの1つ以上に示されるタンパク質配列をコードする核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、配列番号28に示される核酸配列を含む。配列番号28は、配列番号12および配列番号16に示されるタンパク質配列をコードする。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、配列番号29に示される配列番号28のバリアントである。配列番号29は、配列番号10および配列番号14に示されるタンパク質配列をコードする。
【0114】
いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、配列番号30に示される配列番号28のバリアントである。配列番号30は、配列番号11および配列番号15に示されるタンパク質配列をコードする。
【0115】
いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、本明細書で提供されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の核酸配列同一性(またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲内の核酸配列同一性(%))を有する核酸、または特異的に誘導されたその断片を含む。いくつかの実施形態において、前記発現ベクターはプロモーターを含む。いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、融合タンパク質をコードする前記核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターはRNAまたはDNAである。
【0116】
ネイキッドなFRBドメイン
細胞内発現のためのネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態では、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドは、本明細書においてより詳述されている第1のCISC構成要素および第2のCISC構成要素の1つ以上のタンパク質配列とともに共発現される。ネイキッドなFRBドメインポリペプチドは、配列番号1または2に示される配列と100%、99%、98%、95%、90%、85%もしくは80%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージ内に含まれるすべての数値および範囲を含む配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0117】
ゲノム編集用システム
細胞におけるゲノム編集用システムであって、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドをコードし、さらに任意でCISCをさらにコードする核酸を細胞ゲノムへと標的化して組み込むことによって、本明細書に記載のネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現させ、かつ任意で本明細書に記載のCISCを発現させるゲノム編集用システムを提供する。また、本開示は、特に、遺伝子組換え細胞集団の選択的な活性化および/または拡大増殖において使用するためのシステムであって、たとえば、遺伝子組換え細胞が選択的に濃縮された細胞集団を調製するために使用されるシステムを提供する。
【0118】
いくつかの実施形態において、
i)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ、または該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
ii)細胞の標的ゲノム遺伝子座内の標的配列に相補的なスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)、または該gRNAをコードする核酸;および
iii)ネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドをコードする核酸配列を含むドナーカセットを含むドナー鋳型
を含むシステムを提供する。
前記DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成された複合体によって、細胞の前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの標的化された組み込みが促され、前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現することができる遺伝子組換え細胞が作製されるように、前記DNAエンドヌクレアーゼ、前記gRNAおよび前記ドナー鋳型が構成されている。
【0119】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、前記gRNAは、細胞のFOXP3遺伝子座、AAVS1遺伝子座またはTCRa(TRAC)遺伝子座内の配列に相補的なスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号40~57のいずれかに示されるスペーサー配列、または配列番号40~57のいずれかと比較して3個以下のミスマッチを有する前記スペーサー配列のバリアントを含む。
【0120】
本明細書において「Casエンドヌクレアーゼ」または「Casヌクレアーゼ」は、たとえば、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)獲得免疫系と関連したRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ酵素を含むが、これに限定されない。本明細書において「Casエンドヌクレアーゼ」は、天然Casエンドヌクレアーゼおよび組換えCasエンドヌクレアーゼの両方を指す。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、前記Cas DNAエンドヌクレアーゼは、Cas9エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、前記Cas9エンドヌクレアーゼは、化膿レンサ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼ(spCas9)である。いくつかの実施形態において、前記Cas9は、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来のCas9(SluCas9)である。
【0121】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、該システムは、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を含む。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸は、宿主細胞における発現のためにコドンが最適化されている。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸は、ヒト細胞における発現のためにコドンが最適化されている。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸は、DNA(DNAプラスミドなど)である。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸は、RNA(mRNAなど)である。
【0122】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、前記ドナー鋳型は、該システムに含まれる相同組換え修復(HDR)によって、gRNAにより標的化されたゲノム遺伝子座にドナーカセットを組み込むことができるように構成されている。いくつかの実施形態において、標的化されたゲノム遺伝子座の配列に対応する相同アームがドナーカセットを挟んで両側に配置される。いくつかの実施形態において、相同アームの長さは、少なくとも0.2kbまたは少なくとも約0.2kb(たとえば、少なくとも0.3kb、少なくとも0.4kb、少なくとも0.5kb、少なくとも0.6kb、少なくとも0.7kb、少なくとも0.8kb、少なくとも0.9kb、少なくとも1kbもしくは少なくともそれ以上、または少なくとも約0.3kb、少なくとも約0.4kb、少なくとも約0.5kb、少なくとも約0.6kb、少なくとも約0.7kb、少なくとも約0.8kb、少なくとも約0.9kb、少なくとも約1kbもしくは少なくともそれ以上)である。いくつかの実施形態において、相同アームの長さは、少なくとも0.4kbまたは少なくとも約0.4kbであり、たとえば0.45kb、0.6kbまたは0.8kbである。典型的な相同アームとして、配列番号32の配列を有するドナー鋳型に含まれる相同アームがさらに挙げられる。典型的なドナー鋳型として、配列番号3~4、8、28~30、32および37~39の配列を有するドナー鋳型が挙げられる。いくつかの実施形態では、前記ドナー鋳型は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされている。いくつかの実施形態において、前記AAVベクターは、AAV2ベクター、AAV5ベクターまたはAAV6ベクターである。いくつかの実施形態において、前記AAVベクターは、AAV6ベクターである。
【0123】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、前記ドナー鋳型は、非相同末端結合(NHEJ)によって、該システムに含まれるgRNAにより標的化されたゲノム遺伝子座にドナーカセットを組み込むことができるように構成されている。いくつかの実施形態において、ドナーカセットの片側または両側にgRNA標的部位が隣接して配置される。いくつかの実施形態において、ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接して配置される。いくつかの実施形態において、gRNA標的部位は、前記システムに含まれるgRNAの標的部位である。いくつかの実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、前記システムに含まれるgRNAが標的とする細胞ゲノムgRNA標的部位の逆相補鎖である。いくつかの実施形態では、前記ドナー鋳型は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされている。いくつかの実施形態において、前記AAVベクターは、AAV2ベクター、AAV5ベクターまたはAAV6ベクターである。いくつかの実施形態において、前記AAVベクターは、AAV6ベクターである。
【0124】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、前記DNAエンドヌクレアーゼまたは該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、リポソームまたは脂質ナノ粒子への内包化により製剤化される。いくつかの実施形態において、前記リポソームまたは前記脂質ナノ粒子はgRNAをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記リポソームまたは前記脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子である。いくつかの実施形態において、前記システムは、DNAエンドヌクレアーゼおよびgRNAをコードする核酸を含む脂質ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。
【0125】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のシステムのいずれかによれば、前記DNAエンドヌクレアーゼは、gRNAと会合してリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0126】
ゲノム編集
遺伝子編集を利用して宿主細胞または生物を遺伝子組換えする方法であって、本明細書に開示されるネイキッドなFRBドメインポリペプチドのいずれかを発現させ、かつ任意で、本明細書に開示される化学誘導シグナル伝達複合体ポリペプチドを発現させる方法を提供する。いくつかの態様では、遺伝子編集は、CRISPR/Casシステムを使用して行われる。
【0127】
CRISPRエンドヌクレアーゼシステム
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)のゲノム遺伝子座は、多くの原核生物(細菌や古細菌など)のゲノムに見出すことができる。原核生物では、CRISPR遺伝子座は、ウイルスやファージなどの外来侵入物からの原核生物の防御に有用な免疫系の一種として機能する生成物をコードする。CRISPR遺伝子座の機能には3つの段階があり、CRISPR遺伝子座への新たな配列の組み込み、CRISPR RNA(crRNA)の発現、および外来侵入核酸のサイレンシングからなる。5つの種類のCRISPRシステム(たとえば、I型、II型、III型、U型、およびV型)が同定されている。
【0128】
CRISPR遺伝子座には、「反復配列」と呼ばれる短い反復配列が多数含まれている。反復配列は、発現すると、二次ヘアピン構造(たとえばヘアピン)を形成し、かつ/または一定の構造をとっていない一本鎖配列を持つことができる。反復配列は、通常、クラスターとして発生し、生物種間で様々に異なっている。反復配列は、「スペーサー」と呼ばれるユニークな介在配列で一定の間隔が設けられ、反復配列-スペーサー-反復配列という構造を有する遺伝子座が形成される。スペーサーは、既知の外来侵入配列と同一であるか、または高い相同性を有する。スペーサーと反復配列からなるユニットは、crisprRNA(crRNA)をコードし、これがプロセシングされて、スペーサーと反復配列からなるユニットの成熟形態が得られる。crRNAは、標的核酸の標的化に関与する「シード」配列またはスペーサー配列を有する(原核生物に天然の形態では、スペーサー配列は外来侵入物の核酸を標的とする)。スペーサー配列は、crRNAの5’末端または3’末端に位置する。
【0129】
CRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列をさらに有する。Cas遺伝子は、原核生物におけるcrRNA機能の生合成段階および干渉段階に関与するエンドヌクレアーゼをコードする。いくつかのCas遺伝子は、相同的な二次および/または三次構造を有する。
【0130】
ゲノム標的化核酸は、部位指向性ポリペプチド(たとえばCas9などの核酸誘導性ヌクレアーゼ)と相互作用することにより、複合体を形成する。ゲノム標的化核酸(たとえばgRNA)は、部位指向性ポリペプチドを標的核酸に先導する。
【0131】
前述したように、いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドとゲノム標的化核酸は、それぞれ別々に細胞または対象に投与することができる。一方、別のいくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、1つ以上のガイドRNAとあらかじめ複合体化することができ、あるいは部位指向性ポリペプチドは、tracrRNAおよび1つ以上のcrRNAとあらかじめ複合体化することができる。あらかじめ複合体化した材料を次いで細胞または対象に投与することができる。このようなあらかじめ複合体化された材料は、リボ核タンパク質粒子(RNP)として知られている。
【0132】
II型CRISPRシステム
自然界のII型CRISPRシステムにおけるcrRNAの生合成では、トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)が必要とされる。tracrRNAは内在性RNaseIIIによって修飾され、次いでpre-crRNAアレイのcrRNA反復配列にハイブリダイズする。内在性RNaseIIIが、pre-crRNAの切断ために動員される。切断されたcrRNAは、エキソリボヌクレアーゼによりトリミングされ(たとえば、5’末端のトリミング)、成熟形態のcrRNAを生成する。tracrRNAは、crRNAにハイブリダイズしたまま残り、tracrRNAとcrRNAが、部位指向性ポリペプチド(たとえばCas9)と会合する。crRNA-tracrRNA-Cas9複合体では、crRNAがハイブリダイズできる標的核酸へと該複合体がcrRNAにより先導される。crRNAが標的核酸にハイブリダイズすることによって、Cas9が活性化されて、標的核酸を切断する。II型CRISPRシステムにおける標的核酸は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる。実際、PAMは、標的核酸への部位指向性ポリペプチド(たとえばCas9)の結合を促すために必須である。II型システム(NmeniまたはCASS4とも呼ばれる)は、II-A型(CASS4)とII-B型(CASS4a)にさらに細分化される。Jinek, M. et al. (2012). Science, 337(6096):816-821では、RNAでプログラム可能なゲノム編集にCRISPR/Cas9システムが有用であることが示されており、さらに国際特許出願WO 2013/176772では、部位指向性遺伝子編集にCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムを使用した多数の例と適用が記載されている。
【0133】
V型CRISPRシステム
V型のCRISPRシステムは、II型システムとはいくつかの重要な違いがある。たとえば、Cpf1は単鎖RNA誘導性エンドヌクレアーゼであるが、II型システムとは異なり、tracrRNAを欠く。実際、Cpf1と会合したCRISPRアレイは、トランス活性化されたtracrRNAをさらに必要とすることなく、成熟したcrRNAにプロセシングされる。V型CRISPRアレイは、42~44ヌクレオチド長の短い成熟crRNAにプロセシングされ、各成熟crRNAは、19ヌクレオチド長の直接反復配列から始まり、その後に23~25ヌクレオチド長のスペーサー配列が続く。これとは対照的に、II型システムの成熟crRNAでは、20~24ヌクレオチド長のスペーサー配列から始まり、その後に22ヌクレオチド長または約22ヌクレオチド長の直接反復配列が続く。また、Cpf1は、Tリッチのプロトスペーサー隣接モチーフを利用することにより、この短いTリッチPAMの後に続く標的DNAがCpf1-crRNA複合体によって効率的に切断される。これは、II型システムにおいて、標的DNAに続くGリッチのPAMが利用されることとは対照的である。したがって、V型システムはPAMから離れた位置で標的を切断し、II型システムはPAMに隣接する位置で標的を切断する。さらに、II型システムとは対照的に、Cpf1は、ずれた位置でDNA二本鎖を切断することから、4ヌクレオチド長または5ヌクレオチド長の5’末端突出を形成する。これに対して、II型システムによる二本鎖切断では、平滑末端が形成される。Cpf1は、II型システムと同様に、RuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含むと予測されているが、II型システムとは異なり、第2のHNHエンドヌクレアーゼドメインを持たない。
【0134】
部位指向性ポリペプチドまたはDNAエンドヌクレアーゼ
NHEJおよび/またはHDRによる標的DNAの修飾によって、たとえば、変異、欠失、変化、組み込み、遺伝子の修正、遺伝子の置換、遺伝子へのタグ付加、導入遺伝子の挿入、ヌクレオチドの欠失、遺伝子破壊、転座、および/または遺伝子変異が起こりうる。ゲノムDNAへの非天然核酸の組み込みは、ゲノム編集の一例である。
【0135】
部位指向性ポリペプチドは、DNAを切断するためのゲノム編集で使用されるヌクレアーゼである。部位指向性ポリペプチドは、1つ以上のポリペプチド、または該ポリペプチドをコードする1つ以上のmRNAとして細胞または対象に投与することができる。
【0136】
CRISPR/CasシステムまたはCRISPR/Cpf1システムに関して、部位指向性ポリペプチドはガイドRNAに結合し、それによって、ガイドRNAが、部位指向性ポリペプチドが指向される標的DNAの部位を特定する。本明細書に記載のCRISPR/CasシステムまたはCRISPR/Cpf1システムの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、DNAエンドヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼである。本明細書において「Casエンドヌクレアーゼ」または「Casヌクレアーゼ」は、たとえば、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)獲得免疫系と関連したRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ酵素を含むが、これに限定されない。本明細書において「Casエンドヌクレアーゼ」は、天然Casエンドヌクレアーゼおよび組換えCasエンドヌクレアーゼの両方を指す。
【0137】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、複数の核酸切断ドメイン(たとえばヌクレアーゼ部位)を有する。リンカーを介して2つ以上の核酸切断ドメインを連結することができる。いくつかの実施形態において、リンカーは柔軟性のあるリンカーを有する。リンカーの長さは、1アミノ酸長、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20アミノ酸長、21アミノ酸長、22アミノ酸長、23アミノ酸長、24アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、35アミノ酸長、40アミノ酸長、またはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。
【0138】
天然の野生型Cas9酵素は、HNHヌクレアーゼドメインとRuvCドメインの2つのヌクレアーゼドメインを有する。本明細書において「Cas9」は、天然Cas9および組換えCas9の両方を指す。本明細書で想定されるCas9酵素は、HNHヌクレアーゼドメインもしくはHNH様ヌクレアーゼドメイン、および/またはRuvCヌクレアーゼドメインもしくはRuvC様ヌクレアーゼドメインを有する。
【0139】
HNHドメインまたはHNH様ドメインは、McrA様の折り畳みを有する。HNHドメインまたはHNH様ドメインは、2本の逆平行β鎖と1つのαヘリックスを有する。HNHドメインまたはHNH様ドメインは、金属結合部位(たとえば2価カチオン結合部位)を有する。HNHドメインまたはHNH様ドメインは、標的核酸の一本鎖(たとえば、crRNAの標的鎖の相補鎖)を切断することができる。
【0140】
RuvCドメインまたはRuvC様ドメインは、RNaseHの折り畳みまたはRNaseH様の折り畳みを有する。RuvCドメインまたはRNaseHドメインは、RNAとDNAの両方に対する作用など、核酸に基づく多様な一連の機能に関与している。RNaseHドメインは、複数のαヘリックスに囲まれた5本のβ鎖を有する。RuvCドメインもしくはRNaseHドメインまたはRuvC様ドメインもしくはRNaseH様ドメインは、金属結合部位(たとえば、2価カチオン結合部位)を有する。RuvCドメインもしくはRNaseHドメインまたはRuvC様ドメインもしくはRNaseH様ドメインは、標的核酸の一本鎖(たとえば、二本鎖標的DNAの非相補鎖)を切断することができる。
【0141】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、典型的な野生型部位指向性ポリペプチド(たとえば、S.pyogenes由来のCas9、US2014/0068797に記載の配列番号8、またはSapranauskas , R. et al. (2011). Nucl. Acids Res, 39(21): 9275-9282に記載のCas9)、およびその他の様々な部位指向性ポリペプチド)と、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0142】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、典型的な野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえばS.pyogenes由来のCas9(上掲))のヌクレアーゼドメインと、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0143】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、10個の連続するアミノ酸において、野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえば前記のS.pyogenes由来のCas9)と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、10個の連続するアミノ酸において、野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえば前記のS.pyogenes由来のCas9)と、最大でも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドのHNHヌクレアーゼドメインは、10個の連続するアミノ酸において、野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえば前記のS.pyogenes由来のCas9)と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドのHNHヌクレアーゼドメインは、10個の連続するアミノ酸において、野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえば前記のS.pyogenes由来のCas9)と、最大でも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドのRuvC ヌクレアーゼドメインは、10個の連続するアミノ酸において、野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえば前記のS.pyogenes由来のCas9)と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドのRuvCヌクレアーゼドメインは、10個の連続するアミノ酸において、野生型の部位指向性ポリペプチド(たとえば前記のS.pyogenes由来のCas9)と、最大でも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の同一性を有する。
【0144】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、典型的な野生型部位指向性ポリペプチドの修飾形態を有する。典型的な野生型部位指向性ポリペプチドの修飾形態は、部位指向性ポリペプチドの核酸切断活性を低下させる変異を有する。いくつかの実施形態において、典型的な野生型部位指向性ポリペプチドの修飾形態は、典型的な野生型部位指向性ポリペプチド(たとえば、前記のS.pyogenes由来のCas9)の核酸切断活性の90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満の核酸切断活性を有する。また、部位指向性ポリペプチドの修飾形態は、核酸切断活性を実質的に有していない場合がある。部位指向性ポリペプチドが、核酸切断活性を実質的に有していない修飾形態である場合、このような修飾形態を本明細書では「酵素的に不活性」と呼ぶ。
【0145】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドの修飾形態は、(たとえば、二本鎖の標的核酸の糖-リン酸骨格の1つのみを切断することによって)標的核酸上で一本鎖切断(SSB)を誘導することができる変異を有する。いくつかの実施形態において、この変異によって、野生型部位指向性ポリペプチド(たとえば、上記のS.pyogenes由来のCas9)の複数の核酸切断ドメインのうちの1つ以上における核酸切断活性の90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満の核酸切断活性となる。いくつかの実施形態において、前記変異によって、複数の核酸切断ドメインのうちの1つ以上は、標的核酸の相補鎖を切断する能力を保持しながらも、標的核酸の非相補鎖を切断する能力が低下する。いくつかの実施形態において、前記変異によって、複数の核酸切断ドメインのうちの1つ以上は、標的核酸の非相補鎖を切断する能力を保持しながらも、標的核酸の相補鎖を切断する能力が低下する。たとえば、Asp10、His840、Asn854、Asn856などの、典型的な野生型S.pyogenes Cas9ポリペプチドの残基において、複数の核酸切断ドメイン(たとえばヌクレアーゼドメイン)のうちの1つ以上が不活化される変異が生じる。いくつかの実施形態において、変異が誘導される残基は、(たとえば、配列および/または構造のアライメントによって決定した場合)典型的な野生型S.pyogenes由来のCas9ポリペプチドのAsp10残基、His840残基、Asn854残基、およびAsn856残基に対応する。このような変異の例として、D10A、H840A、N854A、またはN856Aが挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、アラニン置換以外の変異が適切であることを理解するであろう。
【0146】
いくつかの実施形態において、D10A変異は、H840A変異、N854A変異およびN856A変異のうちの1つ以上と組み合わせることにより、DNA切断活性を実質的に欠く部位指向性ポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態において、H840A変異は、D10A変異、N854A変異およびN856A変異のうちの1つ以上と組み合わせることにより、DNA切断活性を実質的に欠く部位指向性ポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態において、N854A変異は、H840A変異、D10A変異およびN856A変異のうちの1つ以上と組み合わせることにより、DNA切断活性を実質的に欠く部位指向性ポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態において、N856A変異は、H840A変異、N854A変異およびD10A変異のうちの1つ以上と組み合わせることにより、DNA切断活性を実質的に欠く部位指向性ポリペプチドを生成する。実質的に不活性な1つのヌクレアーゼドメインを有する部位指向性ポリペプチドは、「ニッカーゼ」と呼ばれる。
【0147】
いくつかの実施形態において、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(たとえばCas9)のバリアントを使用して、CRISPRを介したゲノム編集の特異性を高めることができる。たとえば、野生型Cas9は、一般に、標的配列中の特定の約20個のヌクレオチドからなる配列(内在性ゲノム遺伝子座など)とハイブリダイズするように設計された単鎖ガイドRNAによって先導される。しかしながら、ガイドRNAと標的遺伝子座の間では数個のミスマッチは許容されうることから、標的部位で必要とされる相同配列の長さが、たとえば13ntほどの相同配列にまで効率良く短縮され、それによって、CRISPR/Cas9複合体が標的ゲノムの他の場所に結合して二本鎖核酸を切断する可能性が高まる場合がある。これは、オフターゲット切断としても知られている。一方、Cas9のニッカーゼバリアントはそれぞれ1本の鎖のみを切断するため、二本鎖切断を生じるには、一対のニッカーゼが、標的核酸の向かい合った鎖上で近接して結合する必要があり、それによって一対のニックが作製され、二本鎖切断が生じる。これには、2つの別々のガイドRNA(各ニッカーゼにつき1つ)が、標的核酸の向かい合った鎖上で近接して結合する必要がある。この要件に従うと、二本鎖切断を生じるために必要な相同配列の最短長は実質的に2倍になり、その結果、2つのガイドRNA部位は(これらが存在する場合)、二本鎖切断部分を生じることができるほど互いに十分に接近している可能性は低くなることから、二本鎖切断がゲノムのその他の場所で生じる可能性を低減することができる。当技術分野で報告されているように、ニッカーゼは、NHEJよりもHDRを促進するために使用することもできる。所望の変更を効果的に仲介する特定のドナー配列を使用してHDRを行うことにより、選択した変更をゲノムの標的部位に導入することができる。遺伝子編集で使用するための様々なCRISPR/Casシステムの説明は、たとえば、国際特許出願WO2013/176772およびSander, J. D. et al. (2014). Nat. Biotechnol., 32(4):347-355、ならびにこれらの文献で引用されている参考文献に記載されている。
【0148】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチド(たとえば、部位指向性ポリペプチドのバリアント、部位指向性ポリペプチドの変異体、酵素的に不活性な部位指向性ポリペプチド、および/または特定の条件下で酵素的に不活性な部位指向性ポリペプチド)は、核酸を標的とする。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチド(たとえば、エンドリボヌクレアーゼのバリアント、エンドリボヌクレアーゼの変異体、酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ、および/または特定の条件下で酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ)は、DNAを標的とする。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチド(たとえば、エンドリボヌクレアーゼのバリアント、エンドリボヌクレアーゼの変異体、酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ、および/または特定の条件下で酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ)は、RNAを標的とする。
【0149】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、1つ以上の非天然配列を有する(たとえば、部位指向性ポリペプチドは融合タンパク質である)。
【0150】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、核酸結合ドメイン、および2つの核酸切断ドメイン(HNHドメインおよびRuvCドメインなど)を有する。
【0151】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、および2つの核酸切断ドメイン(HNHドメインおよびRuvCドメインなど)を有する。
【0152】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、および2つの核酸切断ドメインを有し、該核酸切断ドメインの一方または両方が、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9のヌクレアーゼドメインと少なくとも50%のアミノ酸同一性を有する。
【0153】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、2つの核酸切断ドメイン(たとえばHNHドメインおよびRuvCドメインなど)、および非天然配列(たとえば核移行シグナル)または部位指向性ポリペプチドを非天然配列に連結するリンカーを有する。
【0154】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、および2つの核酸切断ドメイン(たとえばHNHドメインおよびRuvCドメインなど)を有し、該核酸切断ドメインの一方または両方に、これらのヌクレアーゼドメインの切断活性を少なくとも50%低下させる変異を有する。
【0155】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、細菌(たとえばS.pyogenes)に由来するCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、および2つの核酸切断ドメイン(たとえばHNHドメインおよびRuvCドメインなど)を有し、該ヌクレアーゼドメインの一方の10番目のアスパラギン酸に変異を有し、かつ/または該ヌクレアーゼドメインの一方の840番目のヒスチジンに変異を有し、この変異によって該ヌクレアーゼドメインの切断活性が少なくとも50%低下する。
【0156】
いくつかの実施形態において、1つ以上の部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)は、2つのニッカーゼを含み、これらは協働してゲノム内の特定の遺伝子座に1つの二本鎖切断を生じ、あるいは、1つ以上の部位指向性ポリペプチドは、4つのニッカーゼを含み、これらは協働してゲノム内の特定の遺伝子座に2つの二本鎖切断を生じる。あるいは、1つの部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)は、ゲノムの特定の遺伝子座において1つの二本鎖切断に作用する。
【0157】
いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ゲノムの編集に使用することができる。このような実施形態のいくつかにおいて、部位指向性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当技術分野で標準的な方法に従って、目的の標的DNAを含む細胞における発現のためにコドン最適化されている。たとえば、目的とする標的核酸がヒト細胞内に存在する場合、Cas9をコードするポリヌクレオチドをヒトのコドンに対して最適化し、これを使用してCas9ポリペプチドを作製することが想定される。
【0158】
Cas遺伝子/ポリペプチドおよびプロトスペーサー隣接モチーフ
典型的なCRISPR/Casポリペプチドとして、Fonfara, I. et al. (2014). Nucl. Acids Res., 42(4):2577-2590(この文献は引用により本明細書に援用される)の
図1に示されるCas9ポリペプチドが挙げられる。CRISPR/Cas遺伝子の命名システムは、Cas遺伝子が発見されて以来、大幅に改訂が重ねられている。Fonfaraら(2014)による
図5で、様々な生物種に由来するCas9ポリペプチド用のPAM配列が示されている。
【0159】
核酸
ゲノム標的化核酸またはガイドRNA
本開示は、関連するポリペプチド(たとえば、部位指向性ポリペプチドまたはDNAエンドヌクレアーゼ)の活性を標的核酸内の特定の標的配列(たとえば目的の遺伝子)に指向させることができるゲノム標的化核酸を提供する。いくつかの実施形態において、前記ゲノム標的化核酸は、RNAである。本明細書では、ゲノム標的化RNAを「ガイドRNA」または「gRNA」と呼ぶ。ガイドRNAは、目的の標的核酸配列にハイブリダイズするスペーサー配列とCRISPR反復配列を少なくとも有する。II型のシステムでは、gRNAは、tracrRNA配列と呼ばれる第2のRNAをさらに有する。II型ガイドRNA(gRNA)は、CRISPR反復配列とtracrRNA配列が互いにハイブリダイズして二本鎖を形成する。V型ガイドRNA(gRNA)では、CRISPR反復RNA(crRNA)が二本鎖を形成する。いずれのシステムにおいても、部位特異的ポリペプチドに前記二本鎖が結合して、ガイドRNAと部位特異的ポリペプチドの複合体が形成される。このゲノム標的化核酸は、部位特異的ポリペプチドと会合することによって、形成される複合体に標的特異性を付与する。したがって、このゲノム標的化核酸は、部位特異的ポリペプチドの活性に指向性を付与する。
【0160】
いくつかの実施形態において、前記ゲノム標的化核酸は、二分子ガイドRNAである。いくつかの実施形態において、ゲノム標的化核酸は、単一分子ガイドRNAである。二分子ガイドRNAは2本のRNA鎖を有する。第1の鎖は、5’末端から3’末端の方向に、任意のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、およびCRISPR最小反復配列を有する。第2の鎖は、(CRISPR最小反復配列に相補的な)tracrRNA最小配列、3’tracrRNA配列、および任意のtracrRNA伸長配列を有する。II型システムの単分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’末端から3’末端の方向に、任意のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、CRISPR最小反復配列、単分子ガイドリンカー、tracrRNA最小配列、3’tracrRNA配列、および任意のtracrRNA伸長配列を有する。任意で設けられるtracrRNA伸長配列は、ガイドRNAにさらなる機能(たとえば、安定性)を付与するエレメントを有していてもよい。単分子ガイドリンカーは、CRISPR最小反復配列とtracrRNA最小配列を連結して、ヘアピン構造を形成する。任意で設けられるtracrRNA伸長配列は、1つ以上のヘアピンを有する。V型システムの単分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’末端から3’末端の方向に、CRISPR最小反復配列とスペーサー配列を有する。
【0161】
一例として、CRISPR/Cas/Cpf1システムで使用されるガイドRNA、またはその他のより小さなRNAは、当技術分野で公知の後述する化学的手段によって容易に合成することができる。化学的合成手順は継続的に拡充されているが、ポリヌクレオチドの長さが約100ヌクレオチド長を大幅に超えるため、高速液体クロマトグラフィー(PAGEなどのゲルを使用しないHPLC)などの手順による前記RNAの精製は難しくなる傾向がある。長いRNAの作製に使用されるアプローチの1つとして、2個以上の分子を作製して、後からこれらを連結する方法が挙げられる。Cas9エンドヌクレアーゼまたはCpf1エンドヌクレアーゼをコードするRNAなどの、非常に長いRNAは容易に酵素的に作製することができる。RNAの化学合成および/または酵素的作製の工程中またはその後に様々なRNA修飾を導入することができ、たとえば、当技術分野で報告されているように、安定性を高める修飾、自然免疫応答の可能性もしくはその程度を低減する修飾、および/またはその他の属性を高める修飾が挙げられる。
【0162】
スペーサー伸長配列
ゲノムを標的とした核酸の実施形態のいくつかにおいて、スペーサー伸長配列は、活性を調節し、安定性を付与し、かつ/またはゲノムを標的とした核酸を修飾するための場所を提供することができる。また、スペーサー伸長配列は、オンターゲット活性もしくはオフターゲット活性または特異性を調節することができる。いくつかの実施形態において、スペーサー伸長配列を提供する。スペーサー伸長配列の長さは、1ヌクレオチド長を超える長さ、5ヌクレオチド長を超える長さ、10ヌクレオチド長を超える長さ、15ヌクレオチド長を超える長さ、20ヌクレオチド長を超える長さ、25ヌクレオチド長を超える長さ、30ヌクレオチド長を超える長さ、35ヌクレオチド長を超える長さ、40ヌクレオチド長を超える長さ、45ヌクレオチド長を超える長さ、50ヌクレオチド長を超える長さ、60ヌクレオチド長を超える長さ、70ヌクレオチド長を超える長さ、80ヌクレオチド長を超える長さ、90ヌクレオチド長を超える長さ、100ヌクレオチド長を超える長さ、120ヌクレオチド長を超える長さ、140ヌクレオチド長を超える長さ、160ヌクレオチド長を超える長さ、180ヌクレオチド長を超える長さ、200ヌクレオチド長を超える長さ、220ヌクレオチド長を超える長さ、240ヌクレオチド長を超える長さ、260ヌクレオチド長を超える長さ、280ヌクレオチド長を超える長さ、300ヌクレオチド長を超える長さ、320ヌクレオチド長を超える長さ、340ヌクレオチド長を超える長さ、360ヌクレオチド長を超える長さ、380ヌクレオチド長を超える長さ、400ヌクレオチド長を超える長さ、1000ヌクレオチド長を超える長さ、2000ヌクレオチド長を超える長さ、3000ヌクレオチド長を超える長さ、4000ヌクレオチド長を超える長さ、5000ヌクレオチド長を超える長さ、6000ヌクレオチド長を超える長さ、もしくは7000ヌクレオチド長を超える長さ、またはそれ以上のヌクレオチド長を超える長さであってもよい。スペーサー伸長配列の長さは、1ヌクレオチド長もしくは約1ヌクレオチド長、5ヌクレオチド長もしくは約5ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長もしくは約10ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長もしくは約15ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長もしくは約20ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長もしくは約25ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長もしくは約30ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長もしくは約35ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長もしくは約40ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長もしくは約45ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長もしくは約50ヌクレオチド長、60ヌクレオチド長もしくは約60ヌクレオチド長、70ヌクレオチド長もしくは約70ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長もしくは約80ヌクレオチド長、90ヌクレオチド長もしくは約90ヌクレオチド長、100ヌクレオチド長もしくは約100ヌクレオチド長、120ヌクレオチド長もしくは約120ヌクレオチド長、140ヌクレオチド長もしくは約140ヌクレオチド長、160ヌクレオチド長もしくは約160ヌクレオチド長、180ヌクレオチド長もしくは約180ヌクレオチド長、200ヌクレオチド長もしくは約200ヌクレオチド長、220ヌクレオチド長もしくは約220ヌクレオチド長、240ヌクレオチド長もしくは約240ヌクレオチド長、260ヌクレオチド長もしくは約260ヌクレオチド長、280ヌクレオチド長もしくは約280ヌクレオチド長、300ヌクレオチド長もしくは約300ヌクレオチド長、320ヌクレオチド長もしくは約320ヌクレオチド長、340ヌクレオチド長もしくは約340ヌクレオチド長、360ヌクレオチド長もしくは約360ヌクレオチド長、380ヌクレオチド長もしくは約380ヌクレオチド長、400ヌクレオチド長もしくは約400ヌクレオチド長、1000ヌクレオチド長もしくは約1000ヌクレオチド長、2000ヌクレオチド長もしくは約2000ヌクレオチド長、3000ヌクレオチド長もしくは約3000ヌクレオチド長、4000ヌクレオチド長もしくは約4000ヌクレオチド長、5000ヌクレオチド長もしくは約5000ヌクレオチド長、6000ヌクレオチド長もしくは約6000ヌクレオチド長、もしくは7000ヌクレオチド長もしくは約7000ヌクレオチド長、またはそれ以上のヌクレオチド長であってもよい。スペーサー伸長配列の長さは、1ヌクレオチド長未満、5ヌクレオチド長未満、10ヌクレオチド長未満、15ヌクレオチド長未満、20ヌクレオチド長未満、25ヌクレオチド長未満、30ヌクレオチド長未満、35ヌクレオチド長未満、40ヌクレオチド長未満、45ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、60ヌクレオチド長未満、70ヌクレオチド長未満、80ヌクレオチド長未満、90ヌクレオチド長未満、100ヌクレオチド長未満、120ヌクレオチド長未満、140ヌクレオチド長未満、160ヌクレオチド長未満、180ヌクレオチド長未満、200ヌクレオチド長未満、220ヌクレオチド長未満、240ヌクレオチド長未満、260ヌクレオチド長未満、280ヌクレオチド長未満、300ヌクレオチド長未満、320ヌクレオチド長未満、340ヌクレオチド長未満、360ヌクレオチド長未満、380ヌクレオチド長未満、400ヌクレオチド長未満、1000ヌクレオチド長未満、2000ヌクレオチド長未満、3000ヌクレオチド長未満、4000ヌクレオチド長未満、5000ヌクレオチド長未満、6000ヌクレオチド長未満、7000ヌクレオチド長未満、またはそれ以上のヌクレオチド長未満であってもよい。いくつかの実施形態において、スペーサー伸長配列の長さは、10ヌクレオチド長未満である。いくつかの実施形態において、スペーサー伸長配列の長さは、10~30ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、スペーサー伸長配列の長さは、30~70ヌクレオチド長である。
【0163】
いくつかの実施形態において、スペーサー伸長配列は、別の部分(たとえば、安定性制御配列、エンドリボヌクレアーゼ結合配列、リボザイムなど)を有する。いくつかの実施形態において、前記別の部分は、核酸を標的とする核酸の安定性を減少または増加させる。いくつかの実施形態において、前記別の部分は、転写ターミネーターセグメント(たとえば転写終結配列)である。いくつかの実施形態において、前記別の部分は真核細胞において機能する。いくつかの実施形態において、前記別の部分は原核細胞において機能する。いくつかの実施形態において、前記別の部分は、真核細胞および原核細胞の両方において機能する。適切な部分の例としては、5’末端キャップ(たとえば、7-メチルグアニル酸キャップ(m7G));リボスイッチ配列(たとえば、制御下での安定化させたり、かつ/または制御下においてタンパク質もしくはタンパク質複合体によるアクセスを可能にするもの);dsRNA二本鎖(たとえば、ヘアピン)を形成する配列;RNAを細胞レベル以下の場所(たとえば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化する配列;追跡を可能とする修飾または配列(たとえば、蛍光分子への直接結合、蛍光検出を容易にする部分への結合、蛍光検出を可能にする配列など);および/またはタンパク質(たとえば、転写活性化因子、転写抑制因子、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAメチル基分解酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどの、DNAに作用するタンパク質)の結合部位を提供する修飾または配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0164】
スペーサー配列
スペーサー配列は、目的の標的核酸内の配列にハイブリダイズする。ゲノム標的化核酸のスペーサーは、ハイブリダイゼーション(たとえば塩基対合)を介して配列特異的に標的核酸と相互作用する。したがって、スペーサーのヌクレオチド配列は、目的の標的核酸の配列に応じて変動する。
【0165】
本明細書に記載のCRISPR/Casシステムにおいて、スペーサー配列は、このシステムで使用されるCas酵素(たとえばCas9酵素)において、PAMの5’末端側に位置する標的核酸にハイブリダイズするように設計される。スペーサーは、標的配列と完全に一致する場合もあれば、ミスマッチを有する場合もある。各Cas酵素は、標的DNAを認識する特定のPAM配列を有する。たとえば、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9は、標的核酸において、配列5’-NRG-3’(Rは、AまたはGを示し、Nは、スペーサー配列によって標的化される標的核酸配列の3’末端に隣接する任意のヌクレオチドである)を有するPAMを認識する。
【0166】
いくつかの実施形態において、標的核酸配列は、20個のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、標的核酸は、20個未満のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、標的核酸は、20個を超えるヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、標的核酸は、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、少なくとも20個、少なくとも21個、少なくとも22個、少なくとも23個、少なくとも24個、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくともそれ以上の個数のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、標的核酸は、最大でも5個、最大でも10個、最大でも15個、最大でも16個、最大でも17個、最大でも18個、最大でも19個、最大でも20個、最大でも21個、最大でも22個、最大でも23個、最大でも24個、最大でも25個、最大でも30個、または最大でもそれ以上の個数のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、標的核酸配列は、PAMの1番目のヌクレオチドの5’末端側に隣接する20個の塩基を有する。たとえば、5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNRG-3’を有する配列において、標的核酸は、これらのNに相当する配列を有し(ここでNは任意のヌクレオチドである)、下線を引いた配列NRG(RはGまたはAである)は、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)に由来するCas9 PAMである。いくつかの実施形態において、化膿レンサ球菌(S.p.)由来のCas9によって認識される配列として本開示の組成物および方法で使用されるPAM配列は、NGGである。
【0167】
いくつかの実施形態において、標的核酸にハイブリダイズするスペーサー配列の長さは、少なくとも6ヌクレオチド長(nt)または少なくとも約6ヌクレオチド長(nt)である。スペーサー配列の長さは、少なくとも6ntもしくは少なくとも約6nt、少なくとも10ntもしくは少なくとも約10nt、少なくとも15ntもしくは少なくとも約15nt、少なくとも18ntもしくは少なくとも約18nt、少なくとも19ntもしくは少なくとも約19nt、少なくとも20ntもしくは少なくとも約20nt、少なくとも25ntもしくは少なくとも約25nt、少なくとも30ntもしくは少なくとも約30nt、少なくとも35ntもしくは少なくとも約35nt、または少なくとも40ntもしくは少なくとも約40nt、6nt~80ntもしくは約6nt~約80nt、6nt~50ntもしくは約6nt~約50nt、6nt~45ntもしくは約6nt~約45nt、6nt~40ntもしくは約6nt~約40nt、6nt~35ntもしくは約6nt~約35nt、6nt~30ntもしくは約6nt~約30nt、6nt~25ntもしくは約6nt~約25nt、6nt~20ntもしくは約6nt~約20nt、6nt~19ntもしくは約6nt~約19nt、10nt~50ntもしくは約10nt~約50nt、10nt~45ntもしくは約10nt~約45nt、10nt~40ntもしくは約10nt~約40nt、10nt~35ntもしくは約10nt~約35nt、10nt~30ntもしくは約10nt~約30nt、10nt~25ntもしくは約10nt~約25nt、10nt~20ntもしくは約10nt~約20nt、10nt~19ntもしくは約10nt~約19nt、19nt~25ntもしくは約19nt~約25nt、19nt~30ntもしくは約19nt~約30nt、19nt~35ntもしくは約19nt~約35nt、19nt~40ntもしくは約19nt~約40nt、19nt~45ntもしくは約19nt~約45nt、19nt~50ntもしくは約19nt~約50nt、19nt~60ntもしくは約19nt~約60nt、20nt~25ntもしくは約20nt~約25nt、20nt~30ntもしくは約20nt~約30nt、20nt~35ntもしくは約20nt~約35nt、20nt~40ntもしくは約20nt~約40nt、20nt~45ntもしくは約20nt~約45nt、20nt~50ntもしくは約20nt~約50nt、または20nt~60ntもしくは約20nt~約60ntであってもよい。いくつかの実施形態において、スペーサー配列は20ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、スペーサーは19ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、スペーサーは18ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、スペーサーは17ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、スペーサーは16ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、スペーサーは15ヌクレオチド長である。
【0168】
いくつかの実施形態において、スペーサー配列と標的核酸の間の相補性(%)は、少なくとも30%もしくは少なくとも約30%、少なくとも40%もしくは少なくとも約40%、少なくとも50%もしくは少なくとも約50%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、少なくとも97%もしくは少なくとも約97%、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%、少なくとも99%もしくは少なくとも約99%、または少なくとも100%である。いくつかの実施形態において、スペーサー配列と標的核酸の間の相補性(%)は、最大でも30%もしくは最大でも約30%、最大でも40%もしくは最大でも約40%、最大でも50%もしくは最大でも約50%、最大でも60%もしくは最大でも約60%、最大でも65%もしくは最大でも約65%、最大でも70%もしくは最大でも約70%、最大でも75%もしくは最大でも約75%、最大でも80%もしくは最大でも約80%、最大でも85%もしくは最大でも約85%、最大でも90%もしくは最大でも約90%、最大でも95%もしくは最大でも約95%、最大でも97%もしくは最大でも約97%、最大でも98%もしくは最大でも約98%、最大でも99%もしくは最大でも約99%、または最大でも約100%である。いくつかの実施形態において、スペーサー配列と標的核酸の間の相補性(%)は、標的核酸の相補鎖の標的配列の6個の連続する5’最末端ヌクレオチドにおいて100%である。いくつかの実施形態において、スペーサー配列と標的核酸の間の相補性(%)は、20個または約20個の連続するヌクレオチドにおいて少なくとも60%である。いくつかの実施形態において、スペーサー配列の長さと標的核酸の長さは、1~6ヌクレオチド長の差があってもよく、この差は1個または複数個のバルジと見なすことができる。
【0169】
いくつかの実施形態において、スペーサー配列は、コンピュータープログラムを使用して設計または選択される。コンピュータープログラムは変数を使用することができ、このような変数として、たとえば、予測される融解温度、二次構造の形成、予測されるアニーリング温度、配列同一性、ゲノムコンテキスト、クロマチンのアクセス性、GC比(%)、ゲノム発生頻度(たとえば、同一または類似の配列において、ミスマッチ、挿入または欠失により発生した1つ以上の位置における変化など)、メチル化状態、SNPの存在などが挙げられる。
【0170】
CRISPRの最小反復配列
いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列は、参照CRISPR反復配列(たとえばS.pyogenes由来のcrRNA)と少なくとも30%もしくは少なくとも約30%、少なくとも40%もしくは少なくとも約40%、少なくとも50%もしくは少なくとも約50%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、または少なくとも100%の配列同一性を有する配列である。
【0171】
いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列は、細胞においてtracrRNAの最小配列にハイブリダイズすることができるヌクレオチドを有する。CRISPRの最小反復配列とtracrRNAの最小配列は、二本鎖を形成し、たとえば、塩基対二本鎖構造を形成する。CRISPRの最小反復配列とtracrRNAの最小配列は一緒になって、部位指向性ポリペプチドに結合する。CRISPRの最小反復配列の少なくとも一部は、tracrRNAの最小配列にハイブリダイズする。いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列の少なくとも一部は、tracrRNAの最小配列と少なくとも30%もしくは少なくとも約30%、少なくとも40%もしくは少なくとも約40%、少なくとも50%もしくは少なくとも約50%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、または少なくとも100%の相補性を有する。いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列の少なくとも一部は、tracrRNAの最小配列と最大でも30%もしくは最大でも約30%、最大でも40%もしくは最大でも約40%、50%もしくは最大でも約50%、最大でも60%もしくは最大でも約60%、最大でも65%もしくは最大でも約65%、最大でも70%もしくは最大でも約70%、最大でも75%もしくは最大でも約75%、最大でも80%もしくは最大でも約80%、最大でも85%もしくは最大でも約85%、90%もしくは最大でも約90%、最大でも95%もしくは最大でも約95%、または最大でも100%の相補性を有する。
【0172】
CRISPRの最小反復配列の長さは、7ヌクレオチド長~100ヌクレオチド長または約7ヌクレオチド長~約100ヌクレオチド長である。たとえば、CRISPRの最小反復配列の長さは、7ヌクレオチド長(nt)~50ntもしくは約7nt~約50nt、7nt~40ntもしくは約7nt~約40nt、7nt~30ntもしくは約7nt~約30nt、7nt~25ntもしくは約7nt~約25nt、7nt~20ntもしくは約7nt~約20nt、7nt~15ntもしくは約7nt~約15nt、8nt~40ntもしくは約8nt~約40nt、8nt~30ntもしくは約8nt~約30nt、8nt~25ntもしくは約8nt~約25nt、8nt~20ntもしくは約8nt~約20nt、8nt~15ntもしくは約8nt~約15nt、15nt~100ntもしくは約15nt~約100nt、15nt~80ntもしくは約15nt~約80nt、15nt~50ntもしくは約15nt~約50nt、15nt~40ntもしくは約15nt~約40nt、15nt~30ntもしくは約15nt~約30nt、または15nt~25ntもしくは約15nt~約25ntである。いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列の長さは約9ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列の長さは約12ヌクレオチド長である。
【0173】
いくつかの実施形態において、CRISPRの最小反復配列は、少なくとも6個、7個または8個の連続するヌクレオチドからなる配列において、参照CRISPR最小反復配列(たとえばS.pyogenes由来の野生型crRNA)と少なくとも60%または少なくとも約60%の同一性を有する。たとえば、CRISPRの最小反復配列は、少なくとも6個、7個または8個の連続するヌクレオチドからなる配列において、参照CRISPR最小反復配列と少なくとも65%もしくは少なくとも約65%の同一性、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%の同一性、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%の同一性、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%の同一性、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%の同一性、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%の同一性、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%の同一性、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%の同一性、少なくとも99%もしくは少なくとも約99%の同一性、または少なくとも100%の同一性を有する。
【0174】
tracrRNAの最小配列
いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列は、参照tracrRNA配列(たとえばS.pyogenes由来の野生型tracrRNA)と少なくとも30%もしくは少なくとも約30%、少なくとも40%もしくは少なくとも約40%、少なくとも50%もしくは少なくとも約50%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、または少なくとも100%の配列同一性を有する配列である。
【0175】
いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列は、細胞においてCRISPRの最小反復配列にハイブリダイズすることができるヌクレオチドを有する。tracrRNAの最小配列とCRISPRの最小反復配列は、二本鎖を形成し、たとえば、塩基対二本鎖構造を形成する。tracrRNAの最小配列とCRISPRの最小反復配列は一緒になって、部位指向性ポリペプチドに結合する。tracrRNAの最小配列の少なくとも一部は、CRISPRの最小反復配列にハイブリダイズすることができる。いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列は、CRISPRの最小反復配列と少なくとも30%もしくは少なくとも約30%、少なくとも40%もしくは少なくとも約40%、少なくとも50%もしくは少なくとも約50%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、または少なくとも100%の相補性を有する。
【0176】
tracrRNAの最小配列の長さは、7ヌクレオチド長~100ヌクレオチド長または約7ヌクレオチド長~約100ヌクレオチド長である。たとえば、tracrRNAの最小配列の長さは、7ヌクレオチド長(nt)~50ntもしくは約7nt~約50nt、7nt~40ntもしくは約7nt~約40nt、7nt~30ntもしくは約7nt~約30nt、7nt~25ntもしくは約7nt~約25nt、7nt~20ntもしくは約7nt~約20nt、7nt~15ntもしくは約7nt~約15nt、8nt~40ntもしくは約8nt~約40nt、8nt~30ntもしくは約8nt~約30nt、8nt~25ntもしくは約8nt~約25nt、8nt~20ntもしくは約8nt~約20nt、8nt~15ntもしくは約8nt~約15nt、15nt~100ntもしくは約15nt~約100nt、15nt~80ntもしくは約15nt~約80nt、15nt~50ntもしくは約15nt~約50nt、15nt~40ntもしくは約15nt~約40nt、15nt~30ntもしくは約15nt~約30nt、または15nt~25ntもしくは約15nt~約25ntであってもよい。いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列の長さは約9ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列の長さは約12ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列は、Jinek, M. et al. (2012). Science, 337(6096):816-821に記載の23~48ntのtracrRNAからなる。
【0177】
いくつかの実施形態において、tracrRNAの最小配列は、少なくとも6個、7個または8個の連続するヌクレオチドからなる配列において、参照tracrRNA最小配列(たとえばS.pyogenes由来の野生型tracrRNA)と少なくとも60%または少なくとも約60%の同一性を有する。たとえば、tracrRNAの最小配列は、少なくとも6個、7個または8個の連続するヌクレオチドからなる配列において、参照tracrRNA最小配列と少なくとも65%もしくは少なくとも約65%の同一性、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%の同一性、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%の同一性、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%の同一性、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%の同一性、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%の同一性、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%の同一性、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%の同一性、少なくとも99%もしくは少なくとも約99%の同一性、または少なくとも100%の同一性を有する。
【0178】
いくつかの実施形態において、CRISPR RNA最小配列とtracrRNA最小配列により形成される二本鎖は、二重らせん構造を有する。いくつかの実施形態において、CRISPR RNA最小配列とtracrRNA最小配列により形成される二本鎖は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、もしくは少なくともそれ以上の個数のヌクレオチド、または少なくとも約1個、少なくとも約2個、少なくとも約3個、少なくとも約4個、少なくとも約5個、少なくとも約6個、少なくとも約7個、少なくとも約8個、少なくとも約9個、少なくとも約10個、もしくは少なくともそれ以上の個数のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、CRISPR RNA最小配列とtracrRNA最小配列により形成される二本鎖は、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、最大でも6個、最大でも7個、最大でも8個、最大でも9個、最大でも10個、もしくは最大でもそれ以上の個数のヌクレオチド、または最大でも約1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、最大でも6個、最大でも7個、最大でも8個、最大でも9個、最大でも10個、もしくは最大でもそれ以上の個数のヌクレオチドを有する。
【0179】
いくつかの実施形態において、前記二本鎖はミスマッチを有する(たとえば、二本鎖に含まれる2本の鎖は100%の相補性を有さない)。いくつかの実施形態において、前記二本鎖は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、もしくは少なくとも5個または少なくとも約1個、少なくとも約2個、少なくとも約3個、少なくとも約4個、もしくは少なくとも約5個のミスマッチを有する。いくつかの実施形態では、前記二本鎖は、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、もしくは最大でも5個、または最大でも約1個、最大でも約2個、最大でも約3個、最大でも約4個、もしくは最大でも約5個のミスマッチを有する。いくつかの実施形態において、前記二本鎖は2個以下のミスマッチを有する。
【0180】
3’tracrRNA配列
いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列は、参照tracrRNA配列(たとえばS.pyogenes由来のtracrRNA)と少なくとも30%もしくは少なくとも約30%、少なくとも40%もしくは少なくとも約40%、少なくとも50%もしくは少なくとも約50%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%、または少なくとも100%の配列同一性を有する配列を有する。
【0181】
いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列の長さは、6ヌクレオチド長~100ヌクレオチド長または約6ヌクレオチド長~約100ヌクレオチド長である。たとえば、3’tracrRNA配列の長さは、6ヌクレオチド長(nt)~50ntもしくは約6nt~約50nt、6nt~40ntもしくは約6nt~約40nt、6nt~30ntもしくは約6nt~約30nt、6nt~25ntもしくは約6nt~約25nt、6nt~20ntもしくは約6nt~約20nt、6nt~15ntもしくは約6nt~約15nt、8nt~40ntもしくは約8nt~約40nt、8nt~30ntもしくは約8nt~約30nt、8nt~25ntもしくは約8nt~約25nt、8nt~20ntもしくは約8nt~約20nt、8nt~15ntもしくは約8nt~約15nt、15nt~100ntもしくは約15nt~約100nt、15nt~80ntもしくは約15nt~約80nt、15nt~50ntもしくは約15nt~約50nt、15nt~40ntもしくは約15nt~約40nt、15nt~30ntもしくは約15nt~約30nt、または15nt~25ntもしくは約15nt~約25ntであってもよい。いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列の長さは、約14ヌクレオチド長である。
【0182】
いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列は、少なくとも6個、7個または8個の連続するヌクレオチドからなる配列において、参照3’tracrRNA配列(たとえばS.pyogenes由来の野生型3’tracrRNA配列)と少なくとも60%または少なくとも約60%の同一性を有する。たとえば、3’tracrRNA配列は、少なくとも6個、7個または8個の連続するヌクレオチドからなる配列において、参照3’tracrRNA配列(たとえばS.pyogenes由来の野生型3’tracrRNA配列)と少なくとも60%もしくは少なくとも約60%の同一性、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%の同一性、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%の同一性、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%の同一性、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%の同一性、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%の同一性、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%の同一性、少なくとも95%もしくは少なくとも約95%の同一性、少なくとも98%もしくは少なくとも約98%の同一性、少なくとも99%もしくは少なくとも約99%の同一性、または少なくとも100%の同一性を有する。
【0183】
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、2つ以上の二本鎖領域(たとえば、ヘアピン、ハイブリダイズした領域)を有する。いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列は、2つの二本鎖領域を有する。
【0184】
いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列は、ステムループ構造を有する。いくつかの実施形態において、3’tracrRNAのステムループ構造は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個または少なくともそれ以上の個数のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、3’tracrRNAのステムループ構造は、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、最大でも6個、最大でも7個、最大でも8個、最大でも9個、最大でも10個または最大でもそれ以上の個数のヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、ステムループ構造は機能性部分を有する。たとえば、ステムループ構造は、アプタマー、リボザイム、タンパク質と相互作用するヘアピン、CRISPRアレイ、イントロン、またはエキソンを有していてもよい。いくつかの実施形態において、ステムループ構造は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個もしくは少なくともそれ以上の個数、または少なくとも約1個、少なくとも約2個、少なくとも約3個、少なくとも約4個、少なくとも約5個、もしくは少なくともそれ以上の個数の機能性部分を有する。いくつかの実施形態において、ステムループ構造は、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個もしくは最大でもそれ以上の個数、または最大でも約1個、最大でも約2個、最大でも約3個、最大でも約4個、最大でも約5個もしくは最大でもそれ以上の個数の機能性部分を有する。
【0185】
いくつかの実施形態において、3’tracrRNA配列のヘアピンは、Pドメインを有する。いくつかの実施形態において、ヘアピン上の前記Pドメインは、二本鎖領域を有する。
【0186】
tracrRNA伸長配列
いくつかの実施形態において、ガイドRNAが単一分子ガイドまたは二分子ガイドである場合、tracrRNA伸長配列を提供する。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、1ヌクレオチド長~400ヌクレオチド長または約1ヌクレオチド長~約400ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、1ヌクレオチド長を超える長さ、5ヌクレオチド長を超える長さ、10ヌクレオチド長を超える長さ、15ヌクレオチド長を超える長さ、20ヌクレオチド長を超える長さ、25ヌクレオチド長を超える長さ、30ヌクレオチド長を超える長さ、35ヌクレオチド長を超える長さ、40ヌクレオチド長を超える長さ、45ヌクレオチド長を超える長さ、50ヌクレオチド長を超える長さ、60ヌクレオチド長を超える長さ、70ヌクレオチド長を超える長さ、80ヌクレオチド長を超える長さ、90ヌクレオチド長を超える長さ、100ヌクレオチド長を超える長さ、120ヌクレオチド長を超える長さ、140ヌクレオチド長を超える長さ、160ヌクレオチド長を超える長さ、180ヌクレオチド長を超える長さ、200ヌクレオチド長を超える長さ、220ヌクレオチド長を超える長さ、240ヌクレオチド長を超える長さ、260ヌクレオチド長を超える長さ、280ヌクレオチド長を超える長さ、300ヌクレオチド長を超える長さ、320ヌクレオチド長を超える長さ、340ヌクレオチド長を超える長さ、360ヌクレオチド長を超える長さ、380ヌクレオチド長を超える長さ、または400ヌクレオチド長を超える長さである。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、20ヌクレオチド長~5000ヌクレオチド長以上または約20ヌクレオチド長~約5000ヌクレオチド長以上である。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、1000ヌクレオチド長を超える。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、1ヌクレオチド長未満、5ヌクレオチド長未満、10ヌクレオチド長未満、15ヌクレオチド長未満、20ヌクレオチド長未満、25ヌクレオチド長未満、30ヌクレオチド長未満、35ヌクレオチド長未満、40ヌクレオチド長未満、45ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、60ヌクレオチド長未満、70ヌクレオチド長未満、80ヌクレオチド長未満、90ヌクレオチド長未満、100ヌクレオチド長未満、120ヌクレオチド長未満、140ヌクレオチド長未満、160ヌクレオチド長未満、180ヌクレオチド長未満、200ヌクレオチド長未満、220ヌクレオチド長未満、240ヌクレオチド長未満、260ヌクレオチド長未満、280ヌクレオチド長未満、300ヌクレオチド長未満、320ヌクレオチド長未満、340ヌクレオチド長未満、360ヌクレオチド長未満、380ヌクレオチド長未満、400ヌクレオチド長未満またはそれ以上の個数未満である。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、1000ヌクレオチド長未満であってもよい。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、10ヌクレオチド長未満である。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、10~30ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列の長さは、30~70ヌクレオチド長である。
【0187】
いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列は、機能性部分(たとえば、安定性制御配列、リボザイム、またはエンドリボヌクレアーゼ結合配列)を有する。いくつかの実施形態において、前記機能性部分は、転写ターミネーターセグメント(たとえば転写終結配列)である。いくつかの実施形態において、前記機能性部分の全長は、10ヌクレオチド長(nt)~100ヌクレオチド長もしくは約10nt~約100nt、10nt~20ntもしくは約10nt~約20nt、20nt~30ntもしくは約20nt~約30nt、30nt~40ntもしくは約30nt~約40nt、40nt~50ntもしくは約40nt~約50nt、50nt~60ntもしくは約50nt~約60nt、60nt~70ntもしくは約60nt~約70nt、70nt~80ntもしくは約70nt~約80nt、80nt~90ntもしくは約80nt~約90nt、90nt~100ntもしくは約90nt~約100nt、15nt~80ntもしくは約15nt~約80nt、15nt~50ntもしくは約15nt~約50nt、15nt~40ntもしくは約15nt~約40nt、15nt~30ntもしくは約15nt~約30nt、または15nt~25ntもしくは約15nt~約25ntである。いくつかの実施形態において、前記機能性部分は真核細胞において機能する。いくつかの実施形態において、前記機能性部分は原核細胞において機能する。いくつかの実施形態において、前記機能性部分は、真核細胞および原核細胞の両方において機能する。
【0188】
tracrRNA伸長配列の適切な機能性部分の例として、3’末端ポリアデニル化テール;リボスイッチ配列(たとえば、制御下での安定化させたり、かつ/または制御下においてタンパク質もしくはタンパク質複合体によるアクセスを可能にするもの);dsRNA二本鎖(たとえば、ヘアピン)を形成する配列;RNAを細胞レベル以下の場所(たとえば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化する配列;追跡を可能とする修飾または配列(たとえば、蛍光分子への直接結合、蛍光検出を容易にする部分への結合、蛍光検出を可能にする配列など);および/またはタンパク質(たとえば、転写活性化因子、転写抑制因子、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAメチル基分解酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどの、DNAに作用するタンパク質)の結合部位を提供する修飾または配列が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列は、プライマー結合部位または分子インデックス(たとえば、バーコード配列)を有する。いくつかの実施形態において、tracrRNA伸長配列は、1つ以上のアフィニティータグを有する。
【0189】
バルジ
いくつかの実施形態では、CRISPR RNA最小配列とtracrRNA最小配列により形成される二本鎖に「バルジ」が存在する。バルジは、前記二本鎖内のヌクレオチド非対合領域である。いくつかの実施形態において、バルジは、部位特異的ポリペプチドへの前記二本鎖の結合に寄与する。バルジは、二本鎖の一方に、非対合配列5’-XXXY-3’を有し(Xは任意のプリン塩基であり、Yは、反対鎖のヌクレオチドとゆらぎ塩基対を形成しうるヌクレオチドを有する)、二本鎖のもう一方に非対合ヌクレオチド領域を有する。二本鎖の各鎖にある非対合ヌクレオチドの数は異なる場合がある。
【0190】
一例では、前記バルジは、該バルジを形成しているCRISPR最小反復鎖上に非対合プリン塩基(たとえばアデニン)を有する。いくつかの実施形態において、前記バルジは、該バルジを形成しているtracrRNA最小配列鎖上に非対合配列5’-AAGY-3’を有する(Yは、CRISPR最小反復鎖上のヌクレオチドとゆらぎ塩基対を形成しうるヌクレオチドを有する)。
【0191】
いくつかの実施形態において、二本鎖を形成するCRISPR最小反復鎖側のバルジは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくともそれ以上の個数の非対合ヌクレオチドを有する。二本鎖を形成するCRISPR最小反復鎖側のバルジは、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、または最大でもそれ以上の個数の非対合ヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、二本鎖を形成するCRISPR最小反復鎖側のバルジは、1個の非対合ヌクレオチドを有する。
【0192】
いくつかの実施形態において、二本鎖を形成するtracrRNA最小配列側のバルジは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、または少なくともそれ以上の個数の非対合ヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、二本鎖を形成するtracrRNA最小配列側のバルジは、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、最大でも6個、最大でも7個、最大でも8個、最大でも9個、または最大でも10個、または最大でもそれ以上の個数の非対合ヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、二本鎖を形成する第2の鎖上(たとえば二本鎖を形成するtracrRNA最小配列側上)のバルジは、4個の非対合ヌクレオチドを有する。
【0193】
いくつかの実施形態において、バルジは、少なくとも1個のゆらぎ塩基対を有する。いくつかの実施形態において、バルジは、1個以下のゆらぎ塩基対を有する。いくつかの実施形態において、バルジは、少なくとも1個のプリンヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、バルジは、少なくとも3個のプリンヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、バルジ配列は、少なくとも5個のプリンヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、バルジ配列は、少なくとも1個のグアニンヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、バルジ配列は、少なくとも1個のアデニンヌクレオチドを有する。
【0194】
ヘアピン
様々な実施形態において、3’tracrRNA配列中のtracrRNA最小配列の3’末端側に1つ以上のヘアピンが存在する。
【0195】
いくつかの実施形態において、前記ヘアピンは、CRISPR最小反復配列とtracrRNA最小配列からなる二本鎖の最後の対合ヌクレオチドから3’末端側の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個もしくは少なくともそれ以上の個数、または少なくとも約1個、少なくとも約2個、少なくとも約3個、少なくとも約4個、少なくとも約5個、少なくとも約6個、少なくとも約7個、少なくとも約8個、少なくとも約9個、少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個もしくは少なくともそれ以上の個数のヌクレオチドから始まる。いくつかの実施形態において、前記ヘアピンは、CRISPR最小反復配列とtracrRNA最小配列からなる二本鎖の最後の対合ヌクレオチドから3’末端側の最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、最大でも6個、最大でも7個、最大でも8個、最大でも9個、最大でも10個もしくは最大でもそれ以上の個数、または最大でも約1個、最大でも約2個、最大でも約3個、最大でも約4個、最大でも約5個、最大でも約6個、最大でも約7個、最大でも約8個、最大でも約9個、最大でも約10個、もしくは最大でもそれ以上の個数のヌクレオチドから始まってもよい。
【0196】
いくつかの実施形態において、前記ヘアピンは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個もしくは少なくともそれ以上の個数、または少なくとも約1個、少なくとも約2個、少なくとも約3個、少なくとも約4個、少なくとも約5個、少なくとも約6個、少なくとも約7個、少なくとも約8個、少なくとも約9個、少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個もしくは少なくともそれ以上の個数の連続したヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態において、前記ヘアピンは、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個、最大でも6個、最大でも7個、最大でも8個、最大でも9個、最大でも10個、もしくは最大でも15個もしくは最大でもそれ以上の個数、または最大でも約1個、最大でも約2個、最大でも約3個、最大でも約4個、最大でも約5個、最大でも約6個、最大でも約7個、最大でも約8個、最大でも約9個、最大でも約10個、最大でも約15個もしくは最大でもそれ以上の個数の連続したヌクレオチドを有する。
【0197】
いくつかの実施形態において、ヘアピンは、CCジヌクレオチド(たとえば、2個の連続したシトシンヌクレオチド)を有する。
【0198】
いくつかの実施形態では、ヘアピンは、二本鎖ヌクレオチド(たとえば、ヌクレオチドが互いにハイブリダイズしたヘアピンヌクレオチド)を有する。たとえば、ヘアピンは、3’tracrRNA配列のヘアピン二本鎖中に、GGジヌクレオチドにハイブリダイズするCCジヌクレオチドを有する。
【0199】
1つ以上のヘアピンは、部位特異的ポリペプチドのガイドRNA相互作用領域と相互作用することができる。
【0200】
いくつかの実施形態では、2つ以上のヘアピンが存在し、いくつかの実施形態では、3つ以上のヘアピンが存在する。
【0201】
単一分子ガイドのリンカー配列
いくつかの実施形態において、単一分子ガイド核酸のリンカー配列の長さは、3ヌクレオチド長~100ヌクレオチド長または約3ヌクレオチド長~約100ヌクレオチド長である。Jinek, M. et al. (2012). Science, 337(6096):816-821では、たとえば、4個のヌクレオチドからなる単純な「テトラループ」(-GAAA-)が使用された。前記リンカーの長さは、たとえば、3ヌクレオチド長(nt)~90ntもしくは約3nt~約90nt、3nt~80ntもしくは約3nt~約80nt、3nt~70ntもしくは約3nt~約70nt、3nt~60ntもしくは約3nt~約60nt、3nt~50ntもしくは約3nt~約50nt、3nt~40ntもしくは約3nt~約40nt、3nt~30ntもしくは約3nt~約30nt、3nt~20ntもしくは約3nt~約20nt、または3nt~10ntもしくは約3nt~約10ntである。たとえば、前記リンカーの長さは、3nt~5ntもしくは約3nt~約5nt、5nt~10ntもしくは約5nt~約10nt、10nt~15ntもしくは約10nt~約15nt、15nt~20ntもしくは約15nt~約20nt、20nt~25ntもしくは約20nt~約25nt、25nt~30ntもしくは約25nt~約30nt、30nt~35ntもしくは約30nt~約35nt、35nt~40ntもしくは約35nt~約40nt、40nt~50ntもしくは約40nt~約50nt、50nt~60ntもしくは約50nt~約60nt、60nt~70ntもしくは約60nt~約70nt、70nt~80ntもしくは約70nt~約80nt、80nt~90ntもしくは約80nt~約90nt、または90nt~100ntもしくは約90nt~約100ntであってもよい。いくつかの実施形態において、単一分子ガイド核酸のリンカーの長さは、4~40ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、前記リンカーの長さは、少なくとも100ヌクレオチド長もしくは少なくとも約100ヌクレオチド長、少なくとも500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約500ヌクレオチド長、少なくとも1000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約1000ヌクレオチド長、少なくとも1500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約1500ヌクレオチド長、少なくとも2000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約2000ヌクレオチド長、少なくとも2500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約2500ヌクレオチド長、少なくとも3000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約3000ヌクレオチド長、少なくとも3500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約3500ヌクレオチド長、少なくとも4000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約4000ヌクレオチド長、少なくとも4500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約4500ヌクレオチド長、少なくとも5000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約5000ヌクレオチド長、少なくとも5500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約5500ヌクレオチド長、少なくとも6000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約6000ヌクレオチド長、少なくとも6500ヌクレオチド長もしくは少なくとも約6500ヌクレオチド長、もしくは少なくとも7000ヌクレオチド長もしくは少なくとも約7000ヌクレオチド長、または少なくともそれ以上のヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、前記リンカーの長さは、最大でも100ヌクレオチド長もしくは最大でも約100ヌクレオチド長、最大でも500ヌクレオチド長もしくは最大でも約500ヌクレオチド長、最大でも1000ヌクレオチド長もしくは最大でも約1000ヌクレオチド長、最大でも1500ヌクレオチド長もしくは最大でも約1500ヌクレオチド長、最大でも2000ヌクレオチド長もしくは最大でも約2000ヌクレオチド長、最大でも2500ヌクレオチド長もしくは最大でも約2500ヌクレオチド長、最大でも3000ヌクレオチド長もしくは最大でも約3000ヌクレオチド長、最大でも3500ヌクレオチド長もしくは最大でも約3500ヌクレオチド長、最大でも4000ヌクレオチド長もしくは最大でも約4000ヌクレオチド長、最大でも4500ヌクレオチド長もしくは最大でも約4500ヌクレオチド長、最大でも5000ヌクレオチド長もしくは最大でも約5000ヌクレオチド長、最大でも5500ヌクレオチド長もしくは最大でも約5500ヌクレオチド長、最大でも6000ヌクレオチド長もしくは最大でも約6000ヌクレオチド長、最大でも6500ヌクレオチド長もしくは最大でも約6500ヌクレオチド長、もしくは最大でも7000ヌクレオチド長もしくは最大でも約7000ヌクレオチド長、またはそれ以上のヌクレオチド長である。
【0202】
リンカーは、様々な配列を有することができるが、いくつかの実施形態において、リンカーは、ガイドRNAのその他の部分との相同性を備えた広範な領域を有する配列を持たず、これは、このような相同性を有する広範な領域が存在すると、ガイドRNAのその他の機能性領域を妨害しうる分子内結合が起こることがあるからである。Jinek, et al. (2012). Science, 337(6096):816-821では、4個のヌクレオチドからなる単純な配列-GAAA-が使用されたが、より長い配列などのその他の様々な配列も同様に使用することができる。
【0203】
いくつかの実施形態において、前記リンカー配列は機能性部分を有する。たとえば、前記リンカー配列は、アプタマー、リボザイム、タンパク質と相互作用するヘアピン、タンパク質結合部位、CRISPRアレイ、イントロン、エキソンなどの、1種以上の特徴を有していてもよい。いくつかの実施形態において、前記リンカー配列は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個もしくは少なくともそれ以上の個数、または少なくとも約1個、少なくとも約2個、少なくとも約3個、少なくとも約4個、少なくとも約5個、もしくは少なくともそれ以上の個数の機能性部分を有する。いくつかの実施形態において、前記リンカー配列は、最大でも1個、最大でも2個、最大でも3個、最大でも4個、最大でも5個もしくは最大でもそれ以上の個数、または最大でも約1個、最大でも約2個、最大でも約3個、最大でも約4個、最大でも約5個もしくは最大でもそれ以上の個数の機能性部分を有する。
【0204】
ドナーDNAまたはドナー鋳型
DNAエンドヌクレアーゼなどの部位指向性ポリペプチドは、核酸(たとえばゲノムDNA)に二本鎖切断または一本鎖切断を導入することができる。二本鎖切断により、細胞に内在するDNA修復経路(たとえば、相同性依存的修復(HDR)、非相同末端結合、代替非相同末端結合(A-NHEJ)またはマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ))を刺激することができる。NHEJは、相同鋳型を必要とせずに、切断された標的核酸を修復することができる。これによって、切断部位の標的核酸に小さな欠失または挿入(indel)が生じることがあり、遺伝子発現の破壊または変化がもたらされる場合がある。相同性依存的修復(HDR)は相同組換え(HR)としても知られ、相同修復鋳型またはドナーが利用可能な場合に発生することがある。
【0205】
相同ドナー鋳型は、標的核酸の切断部位を挟んで隣接する配列と相同な配列を有する。一般に、姉妹染色分体は、修復鋳型として細胞により利用される。一方、ゲノム編集を目的とした修復鋳型は、プラスミド、二重鎖オリゴヌクレオチド、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、またはウイルス核酸などの外来性核酸として提供されることが多い。外来性ドナー鋳型では、一般に、隣り合う相同領域の間にさらなる核酸配列(導入遺伝子など)または修飾(1個もしくは複数個の塩基の変化または欠失など)を導入することによって、該さらなる核酸配列または変更された核酸配列が標的遺伝子座に組み込まれるようにする。MMEJは、小さな欠失と挿入が切断部位で起こりうるという点でNHEJと類似した遺伝的結果が得られる。MMEJは、切断部位を挟んで隣接する数個の塩基対からなる相同配列を利用することにより、所望の末端結合DNA修復結果を得るものである。場合によっては、ヌクレアーゼの標的領域において予測される短い相同配列(マイクロホモロジー)の分析に基づいて、得られる見込みのある修復結果を予測できる場合もある。
【0206】
したがって、場合によっては、相同組換えを使用して、標的核酸の切断部位に外来性のポリヌクレオチド配列が挿入される。本明細書では、外来性ポリヌクレオチド配列をドナーポリヌクレオチド(またはドナー、ドナー配列またはドナー鋳型)と呼ぶ。いくつかの実施形態において、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部、ドナーポリヌクレオチドのコピー、またはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部が、標的核酸の切断部位に挿入される。いくつかの実施形態において、ドナーポリヌクレオチドは、外来性ポリヌクレオチド配列であり、たとえば、天然では標的核酸の切断部位に存在しない配列である。
【0207】
二本鎖切断が起こる細胞の核内に外来性DNA分子が十分な濃度で供給されると、NHEJ修復プロセスにおいて外来性DNAが二本鎖切断部位に挿入されるため、ゲノム内に安定に維持することができ、たとえば、ゲノムに永続的に付加されることになりうる。このような外来性DNA分子を、いくつかの実施形態ではドナー鋳型と呼ぶ。ドナー鋳型が、必要に応じて、プロモーター、エンハンサー、ポリA配列および/またはスプライスアクセプター配列などの関連する調節配列とともに、目的の遺伝子または目的のゲノム部位のコード配列を含む場合、ゲノムに組み込まれたコピーから目的の遺伝子が発現され、細胞が生きている間はこの遺伝子が永続的に発現されうる。さらに、ドナーDNA鋳型から組み込まれたコピーは、細胞が分裂するときに娘細胞に伝達されうる。
【0208】
二本鎖切断部位の両側のDNA配列と相同性を有する隣接したDNA配列(相同アームと呼ばれる)を含むドナーDNA鋳型が十分な濃度で存在する場合、このドナーDNA鋳型はHDR経路を介して組み込むことができる。相同アームは、ドナー鋳型と二本鎖切断部位の両側の配列の間での相同組換えの基質として作用する。これによって、二本鎖切断部位の両側の配列が未修飾ゲノムの配列から変更されていないドナー鋳型を、エラーを起こすことなく挿入することが可能になる。
【0209】
HDRによる編集用に提供されるドナーは非常に多様であるが、一般に、意図する編集用の配列と、これを挟んで両側に位置する短いまたは長い相同アームとを含むことから、ゲノムDNAへのアニーリングが可能になる。導入された遺伝子変化部位に隣接する相同領域は、30bp以下であってもよく、あるいはプロモーターやcDNAなどを含んでいてもよい数キロベースのカセットと同程度に大きいものであってもよい。一本鎖オリゴヌクレオチドドナーおよび二本鎖オリゴヌクレオチドドナーをいずれも使用することができる。これらのオリゴヌクレオチドのサイズは、100nt未満~数kb以上にも及ぶが、より長いssDNAを生成して使用することもできる。PCRアンプリコン、プラスミド、ミニサークルなどの二本鎖ドナーを使用することが多い。一般に、AAVベクター(ただし、本明細書に開示される遺伝子編集方法はAAVベクターに限定されない)はドナー鋳型の送達に非常に効果的な手段であることが分かっているが、個々のドナーにパッケージングする際の限界は5kb未満である。ドナーの活発な転写によりHDR率が3倍に増加したことから、プロモーターを含めることで変換を増加可能であることが示されている。逆に、ドナーのCpGメチル化は、遺伝子発現とHDR率を低下させる場合がある。
【0210】
いくつかの実施形態において、たとえば、トランスフェクション、ナノ粒子、マイクロインジェクション、ウイルスによる形質導入などの様々な方法によって、ドナーDNAを単独であるいはヌクレアーゼと一緒に導入することができる。いくつかの実施形態では、ドナーDNAとヌクレアーゼを連結する様々な方法を使用して、HDRにおけるドナーの利用性を高めることができる。このような方法の例としては、ドナーをヌクレアーゼに結合させる方法、ドナーおよびヌクレアーゼの近傍に結合するDNA結合タンパク質に結合させる方法、またはDNA末端結合もしくはDNA修復に関与するタンパク質に結合させる方法などが挙げられる。
【0211】
NHEJまたはHDRによるゲノム編集に加えて、NHEJ経路とHRの両方を使用した部位指向性遺伝子挿入を行うことができる。このような併用手法は、イントロン/エキソンの境界を含む可能性のある特定の状況で適用可能である。NHEJは、イントロンでのライゲーションに効果的であることが実証可能であるが、一方、エラーのないHDRはコード領域により適している場合がある。
【0212】
部位指向性ポリペプチドまたはDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸
いくつかの実施形態において、前述を踏まえれば、前記ゲノム編集方法および前記組成物において、部位指向性ポリペプチドまたはDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸配列(またはオリゴヌクレオチド)を使用することができる。部位指向性ポリペプチドをコードする核酸配列は、DNAであってもよく、RNAであってもよい。部位指向性ポリペプチドをコードする核酸配列がRNAである場合、このRNA は、gRNA配列に共有結合することができるか、別個の配列として存在することができる。いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドまたはDNAエンドヌクレアーゼのペプチド配列を、これらの核酸配列の代わりに使用することができる。
【0213】
遺伝子編集ベクター
別の一態様において、本開示は、本開示のゲノム標的化核酸をコードするヌクレオチド配列を有する核酸、本開示の部位指向性ポリペプチド、および/または本開示の方法の実施形態を実施するために必要な任意の核酸もしくはタンパク質分子を提供する。いくつかの実施形態において、このような核酸は、ベクター(たとえば組換え発現ベクター)である。
【0214】
本発明において想定される発現ベクターとして、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、レトロウイルス(たとえば、マウス白血病ウイルス;脾臓壊死ウイルス;およびラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、乳癌ウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクター)に基づくウイルスベクター、ならびにその他の組換えベクターが挙げられるが、これらに限定されない。真核生物の標的細胞に対しての使用が想定されるその他のベクターとして、pXT1ベクター、pSG5ベクター、pSVK3ベクター、pBPVベクター、pMSGベクター、およびpSVLSV40ベクター(ファルマシア)が挙げられるが、これらに限定されない。真核生物の標的細胞に対しての使用が想定されるさらなるベクターとして、pCTx-1ベクター、pCTx-2ベクター、およびpCTx-3ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。その他のベクターでも、宿主細胞と適合性がある限り使用することができる。
【0215】
いくつかの実施形態において、ベクターは、1つ以上の転写制御エレメントおよび/または翻訳制御エレメントを有する。利用する宿主/ベクターシステムに応じて、構成的プロモーター、誘導型プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどの、様々な適切な転写制御エレメントおよび翻訳制御エレメントを発現ベクターにおいて使用することができる。いくつかの実施形態において、ベクターは、ウイルス配列またはCRISPR機構の構成要素またはその他のエレメントを不活化する自己不活化ベクターである。
【0216】
適切な真核生物プロモーター(たとえば、真核生物細胞において機能するプロモーター)の例として、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)の最も初期のチミジンキナーゼプロモーター、初期SV40、後期SV40、レトロウイルス由来のロングターミナルリピート(LTR)、ヒト伸長因子1プロモーター(EF1)、ニワトリβアクチンプロモーター(CAG)にサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーを融合させたハイブリッドコンストラクト、マウス幹細胞ウイルスプロモーター(MSCV)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1遺伝子座プロモーター(PGK)、およびマウスメタロチオネインIが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実施形態において、前記プロモーターはMNDプロモーター(たとえば配列番号33の核酸配列を含むMNDプロモーター)である。
【0217】
Casエンドヌクレアーゼとともに使用されるガイドRNAなどの小型RNAを発現させるために、たとえばU6やH1などのRNAポリメラーゼIIIプロモーターなどの様々なプロモーターが有益である場合がある。このようなプロモーターの使用を容易にする説明およびパラメータは当技術分野で知られており、新たな情報およびアプローチが常時報告されている。たとえば、Ma, H. et al. (2014). Mol. Ther. - Nucleic Acids 3, e161, doi:10.1038/mtna.2014.12を参照されたい。
【0218】
発現ベクターは、翻訳開始および転写終了のためのリボソーム結合部位をさらに含むことができる。また、発現ベクターは、発現を増幅するための適切な配列を含むことができる。さらに、発現ベクターは、部位指向性ポリペプチドに融合されていることから、融合タンパク質の一部として発現される非天然タグ(たとえば、ヒスチジンタグ、ヘマグルチニンタグ、緑色蛍光タンパク質など)をコードするヌクレオチド配列を含むことができる。
【0219】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、誘導型プロモーター(たとえば、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン制御性プロモーター、ステロイド制御性プロモーター、金属制御性プロモーター、エストロゲン受容体制御性プロモーターなど)である。いくつかの実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーター(たとえば、CMVプロモーター、またはUBCプロモーター)である。いくつかの実施形態において、プロモーターは、空間的に制限されるプロモーターおよび/または時間的に制限されるプロモーター(たとえば、組織特異的プロモーター、細胞種特異的プロモーターなど)である。いくつかの実施形態において、宿主細胞において発現される少なくとも1つの遺伝子がゲノムに挿入された後、このゲノムに存在する内在性プロモーターの制御下で発現される場合、ベクターは、この遺伝子のためのプロモーターを含まない。
【0220】
いくつかの実施形態において、前記ベクターは、CISCの1つ以上の構成要素(たとえば、切断型ILR2β細胞内シグナル伝達ドメインを含むCISCポリペプチドなどの、本明細書に開示されるCISCポリペプチドのいずれか)をコードする1つ以上の核酸配列を含む。また、本明細書に開示される遺伝子編集ベクターは、本明細書に開示されるネイキッドなFRBドメインポリペプチドのいずれかをコードする核酸配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記ベクターは配列番号3の核酸配列を含む。さらなる実施形態では、前記ベクターは配列番号8の核酸配列を含む。
【0221】
ゲノム標的化核酸と部位指向性ポリペプチドの複合体
ゲノム標的化核酸は、部位指向性ポリペプチド(たとえばCas9などの核酸誘導性ヌクレアーゼ)と相互作用することにより、複合体を形成する。ゲノム標的化核酸(たとえばgRNA)は、部位指向性ポリペプチドを標的核酸に先導する。
【0222】
前述したように、いくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドとゲノム標的化核酸は、それぞれ別々に細胞または対象に投与することができる。一方、別のいくつかの実施形態において、部位指向性ポリペプチドは、1つ以上のガイドRNAとあらかじめ複合体化することができ、あるいは部位指向性ポリペプチドは、tracrRNAおよび1つ以上のcrRNAとあらかじめ複合体化することができる。あらかじめ複合体化した材料を細胞または対象に投与することができる。このようなあらかじめ複合体化された材料は、リボ核タンパク質粒子(RNP)として知られている。
【0223】
ネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよび/またはCISC構成要素を発現する細胞の作製方法
本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、宿主細胞(たとえば哺乳動物細胞(たとえばリンパ球)にタンパク質配列または発現ベクターを導入することによって、ラパマイシンにより調節されるサイトカインのシグナル伝達を誘導し、かつ/または二量体化CISC構成要素と細胞内に発現されるネイキッドなFRBドメインポリペプチドとを発現する細胞を選択的に拡大増殖させることが望ましい場合がある。たとえば、二量体化CISCは、リガンドと接触すると、CISC構成要素が導入された細胞においてサイトカインのシグナル伝達を可能とし、細胞(哺乳動物細胞など)の内部でシグナルを伝達することができ、これに対して、細胞内で発現されるネイキッドなFRBドメインポリペプチドは、ラパマイシンの有害作用に対する耐性を細胞に付与することができる。さらに、本明細書に記載の2つの特定の遺伝子組換えイベント(たとえば、CRISPR/Casシステムを介した遺伝子組換えイベント)を起こした細胞のみが選択されるように、細胞(哺乳動物細胞など)の選択的な拡大増殖を制御することができる。このような細胞の調製は、本開示を踏まえ、当業者であれば容易に理解できる公知の技術に従って行うことができる。
【0224】
いくつかの実施形態において、CISCを有する細胞(哺乳動物細胞など)を作製する方法を提供し、この細胞は、二量体化CISCと細胞内で発現されたネイキッドなFRBドメインポリペプチドとを発現する。この方法は、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つに記載のタンパク質配列または本明細書に記載の実施形態に記載の発現ベクターを細胞(哺乳動物細胞など)に送達する工程を含むことができる。いくつかの実施形態において、前記タンパク質配列は、第1の配列および第2の配列を含む。別の実施形態において、前記タンパク質配列は、第1の配列、第2の配列、第3の配列および第4の配列を含む。いくつかの実施形態において、第1の配列は、第1の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、長さが最適化された所定長のリンカー、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインを含む第1のCISC構成要素をコードする。いくつかの実施形態において、第2の配列は、第2の細胞外結合ドメイン、ヒンジドメイン、長さが最適化された所定長のリンカー、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインを含む第2のCISC構成要素をコードする。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、1アミノ酸長、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長もしくは15アミノ酸長またはこれらの長さのいずれか2つによって定義される範囲内の長さである。いくつかの実施形態において、前記シグナル伝達ドメインは、インターロイキン2のシグナル伝達ドメイン、たとえば、IL2Rβ(切断型IL2Rβなど)またはIL2Rγドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記細胞外結合ドメインは、ラパマイシンまたはラパログに結合する結合ドメインであり、たとえば、FKBPもしくはFRBまたはそれらの機能性誘導体である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD8+細胞またはCD4+細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はB細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は神経幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はNK細胞である。
【0225】
遺伝子組換え細胞および遺伝子組換え細胞集団
一態様において、本開示は、細胞のゲノムを編集して、遺伝子組換え細胞を作製する方法を提供する。いくつかの態様において、遺伝子組換え細胞集団を提供する。したがって、遺伝子組換え細胞は、ゲノム編集(たとえばCRISPR/Casシステムを使用したゲノム編集)によって導入された少なくとも1つの遺伝子組換えを有する細胞を含む。いくつかの実施形態において、前記遺伝子組換え細胞は、遺伝子組換えされたリンパ球、たとえば、ヒトCD4+T細胞などのT細胞である。ネイキッドなFRBドメインポリペプチドをコードし、かつ任意でCISCをコードする核酸が組み込まれた遺伝子組換え細胞が、本明細書において想定される。
【0226】
本明細書に記載の組成物は、本明細書に記載のタンパク質配列または発現ベクターを含む遺伝子組換え宿主細胞(たとえば哺乳動物細胞)を提供する。したがって、二量体化CISCと細胞内に発現されるネイキッドなFRBドメインを発現するための細胞(哺乳動物細胞など)が提供され、この細胞は、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つによるタンパク質配列または本明細書に記載の実施形態のいずれか1つによる発現ベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、細菌細胞または哺乳動物細胞、たとえばリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は大腸菌である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、タンパク質の発現が可能な昆虫細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はリンパ球である。
【0227】
いくつかの実施形態において、前記宿主細胞は前駆T細胞または制御性T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は幹細胞、たとえば造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はNK細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD34+Tリンパ球、CD8+Tリンパ球および/またはCD4+Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞はB細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は神経幹細胞である。
【0228】
いくつかの実施形態において、前記宿主細胞はCD8+ T細胞傷害性リンパ球であり、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞またはバルクCD8+T細胞を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記細胞はCD4+ヘルパーTリンパ球であり、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞またはバルクCD4+T細胞を含んでいてもよい。
【0229】
前記リンパ球(Tリンパ球)は、公知の技術によって回収することができ、フローサイトメトリーおよび/または免疫磁気選択のような、抗体との親和性結合などの公知の技術によって濃縮または除去することができる。濃縮工程および/または除去工程を行った後、当業者であれば容易に理解できる公知の技術またはその変法によって所望のTリンパ球をインビトロで拡大増殖させることができる。いくつかの実施形態において、前記T細胞は対象から得られた自家T細胞である。
【0230】
たとえば、所望のT細胞集団またはT細胞亜集団は、増殖前のTリンパ球集団をインビトロの培地に添加し、次いで、非分裂末梢血単核細胞(PBMC)などのフィーダー細胞を該培地に添加し(たとえば、添加後の細胞集団において、拡大培養開始時の最初の集団中の各Tリンパ球1個あたり、少なくとも5個、10個、20個、または40個またはそれ以上のPBMCフィーダー細胞が含まれるような比率になるようにフィーダー細胞を加える)、該培地を(たとえばT細胞数を十分に拡大増殖させることができる時間にわたって)インキュベートすることによって拡大増殖させることができる。前記非分裂フィーダー細胞は、γ線が照射されたPBMCフィーダー細胞を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、細胞分裂を防ぐため、3000~3600radのγ線を前記PBMCに照射する。いくつかの実施形態において、前記PBMCの細胞分裂を防ぐため、3000rad、3100rad、3200rad、3300rad、3400rad、3500rad、もしくは3600radのγ線、またはこれらの数値のいずれかからなる2つの端点の間の任意の放射線値のγ線を前記PBMCに照射する。T細胞またはフィーダー細胞を培地に添加する順序は必要に応じて入れ替えてもよい。通常、Tリンパ球の増殖に適した温度などの条件下で培養物をインキュベートすることができる。ヒトTリンパ球を増殖させるための温度としては、たとえば、通常、少なくとも25℃もしくは少なくとも約25℃、少なくとも30℃もしくは少なくとも約30℃、または少なくとも37℃もしくは少なくとも約37℃である。いくつかの実施形態において、ヒトTリンパ球を増殖させるための温度は、約22℃、約24℃、約26℃、約28℃、約30℃、約32℃、約34℃、約36℃もしくは約37℃、またはこれらの数値のいずれかからなる2つの端点の間のその他の任意の温度である。
【0231】
Tリンパ球を単離し、拡大増殖を行う前または拡大増殖を行った後に、細胞傷害性Tリンパ球およびヘルパーTリンパ球をそれぞれ、ナイーブT細胞亜集団、メモリーT細胞亜集団、およびエフェクターT細胞亜集団にソーティングすることができる。
【0232】
CD8+細胞は、標準的な方法を使用して得ることができる。いくつかの実施形態において、CD8+細胞は、ナイーブCD8+細胞、セントラルメモリーCD8+細胞およびエフェクターメモリーCD8+細胞のそれぞれに関連する細胞表面抗原を特定することによって、これらのCD8+細胞にさらにソーティングされる。いくつかの実施形態において、メモリーT細胞は、CD8+末梢血リンパ球由来のCD62L+サブセットおよびCD62L-サブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8抗体および抗CD62L抗体で染色した後に、CD62L-CD8+画分およびCD62L+CD8+画分にソーティングされる。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーTCMの表現型マーカーの発現は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、および/またはCD127を含み、グランザイムBは陰性であるか、低発現を示す。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーT細胞は、CD45RO+、CD62L+および/またはCD8+のT細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターTEは、CD62L、CCR7、CD28、および/またはCD127が陰性であり、グランザイムBおよび/またはパーフォリンが陽性である。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8+Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカーの発現によって特徴付けられ、ナイーブT細胞の表現型マーカーとしては、CD62L、CCR7、CD28、CD3、CD127および/またはCD45RAが挙げられる。
【0233】
CD4+ヘルパーT細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を同定することによって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、およびエフェクター細胞にソーティングされる。CD4+リンパ球は、標準的な方法によって得ることができる。いくつかの実施形態において、ナイーブCD4+Tリンパ球は、CD45RO-、CD45RA+、CD62L+および/またはCD4+のT細胞である。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーCD4+細胞は、CD62L+および/またはCD45RO+である。いくつかの実施形態において、エフェクターCD4+細胞は、CD62L-および/またはCD45RO-である。
【0234】
哺乳動物細胞などの細胞および哺乳動物細胞集団などの細胞集団のいずれであっても、これらの細胞または細胞集団が2つの異なる遺伝子組換えイベントを起こしたか否かということに基づいて、拡大増殖させるために選択される。いくつかの実施形態において、前記遺伝子組換えイベントは、CRISPR/Casシステムを介して行われる。いくつかの実施形態において、前記遺伝子組換えイベントは、CRISPR/Cas9システムを介して行われる。哺乳動物細胞などの細胞または哺乳動物細胞集団などの細胞集団が1種以下の遺伝子組換えイベントを起こした場合、リガンドを添加しても二量体化は起こらない。しかし、哺乳動物細胞などの細胞または哺乳動物細胞集団などの細胞集団が2種の遺伝子組換えイベントを起こした場合、リガンドを添加すると、CISC構成要素が二量体化し、続いてシグナル伝達カスケードが発生する。したがって、哺乳動物細胞などの細胞または哺乳動物細胞集団などの細胞集団は、リガンドとの接触に対する応答性に基づいて選択してもよい。いくつかの実施形態において、リガンドの添加量は、0.01nM、0.02nM、0.03nM、0.04nM、0.05nM、0.06nM、0.07nM、0.08nM、0.09nM、0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1.0nM、1.5nM、2.0nM、2.5nM、3.0nM、3.5nM、4.0nM、4.5nM、5.0nM、5.5nM、6.0nM、6.5nM、7.0nM、7.5nM、8.0nM、8.5nM、9.0nM、9.5nM、10nM、11nM、12nM、13nM、14nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nM、50nM、55nM、60nM、65nM、70nM、75nM、80nM、85nM、90nM、95nM、もしくは100nM、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の濃度であってもよい。
【0235】
いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの細胞または哺乳動物細胞集団などの細胞集団は、シグナル伝達経路の結果として発現されるマーカーに基づいて、二量体化CISCが陽性であり、細胞内に発現されるネイキッドなFRBドメインポリペプチドが陽性であると判断してもよい。したがって、細胞集団が二量体化CISCについて陽性であるか否かは、表面マーカーに特異的な抗体およびアイソタイプを一致させたコントロール抗体による染色を使用したフローサイトメトリーによって判定してもよい。いくつかの実施形態において、前記マーカーは蛍光タンパク質または発光タンパク質であり、たとえばGFPまたはmCherryである。いくつかの実施形態において、前記マーカーは低親和性神経成長因子受容体(LNGFR)である。
【0236】
いくつかの実施形態において、前記細胞は生殖細胞ではない。
【0237】
細胞の内部においてシグナルを活性化させる方法
いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの細胞の内部においてシグナルを活性化させる方法を提供する。この方法は、本明細書に記載の細胞(哺乳動物細胞など)を提供する工程を含んでいてもよく、この細胞は、本明細書に記載のタンパク質配列または本明細書に記載の発現ベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、本明細書に記載の二量体化CISCをコードするタンパク質配列、または本明細書に記載の発現ベクターを発現させる工程さらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、細胞(哺乳動物細胞など)をリガンドと接触させる工程を含み、これによって、第1のCISC構成要素と第2のCISC構成要素の二量体化が誘導され、その結果、細胞の内部へシグナルが伝達される。いくつかの実施形態において、前記リガンドはラパマイシンまたはラパログである。いくつかの実施形態において、二量体化を誘導するためリガンドの有効量として、0.01nM、0.02nM、0.03nM、0.04nM、0.05nM、0.06nM、0.07nM、0.08nM、0.09nM、0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1.0nM、1.5nM、2.0nM、2.5nM、3.0nM、3.5nM、4.0nM、4.5nM、5.0nM、5.5nM、6.0nM、6.5nM、7.0nM、7.5nM、8.0nM、8.5nM、9.0nM、9.5nM、10nM、11nM、12nM、13nM、14nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nM、50nM、55nM、60nM、65nM、70nM、75nM、80nM、85nM、90nM、95nM、もしくは100nM、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の濃度のリガンドが提供される。
【0238】
いくつかの実施形態において、シグナル伝達複合体の化学的誘導のための本明細書に記載の方法において使用されるリガンドまたは薬剤として、ラパマイシンが挙げられる(その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む)。ラパマイシンとしては、シロリムス(Rapamune(登録商標))、(3S,6R,7E,9R,10R,12R,14S,15E,17E,19E,21S,23S,26R,27R,34aS)-9,10,12,13,14,21,22,23,24,25,26,27,32,33,34,34a-ヘキサデカヒドロ-9,27-ジヒドロキシ-3-[(1R)-2-[(1S,3R,4R)-4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル]-1-メチルエチル]-10,21-ジメトキシ-6,8,12,14,20,26-ヘキサメチル-23,27-エポキシ-3H-ピリド[2,1-c][1,4]オキサアザシクロヘントリアコンチン-1,5,11,28,29(4H,6H,31H)-ペントン)を挙げることができる。また、エベロリムスが挙げられ、エベロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。エベロリムスとしては、RAD001、Zortress、サーティカン、アフィニトール、Votubia、42-O-(2-ヒドロキシエチル)ラパマイシン、(1R,9S,12S,15R,16E,18R,19R,21R,23S,24E,26E,28E,30S,32S,35R)-1,18-ジヒドロキシ-12-[(2R)-1-[(1S,3R,4R)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メトキシシクロヘキシル]プロパン-2-イル]-19,30-ジメトキシ-15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ[30.3.1.04,9]ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-2,3,10,14,20-ペントンを挙げることができる。また、merilimusが挙げられ、merilimusは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。merilimusとしては、SAR943、42-O-(テトラヒドロフラン-3-イル)ラパマイシン(Merilimus-1);42-O-(オキセタン-3-イル)ラパマイシン(Merilimus-2)、42-O-(テトラヒドロピラン-3-イル)ラパマイシン(Merilimus-3)、42-O-(4-メチル、テトラヒドロフラン-3-イル)ラパマイシン、42-O-(2,5,5-トリメチル、テトラヒドロフラン-3-イル)ラパマイシン、42-O-(2,5-ジエチル-2-メチル、テトラヒドロフラン-3-イル)ラパマイシン、42-O-(2H-ピラン-3-イル、テトラヒドロ-6-メトキシ-2-メチル)ラパマイシン、または42-O-(2H-ピラン-3-イル、テトラヒドロ-2,2-ジメチル-6-フェニル)ラパマイシンを挙げることができる)。また、ノボリムスが挙げられ、ノボリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。ノボリムスとしては、16-O-デメチルラパマイシンを挙げることができる。また、ピメクロリムスが挙げられ、ピメクロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。ピメクロリムスとしては、Elidel(登録商標)、(3S,4R,5S,8R,9E,12S,14S,15R,16S,18R,19R,26aS)-3-((E)-2-((1R,3R,4S)-4-クロロ-3-メトキシシクロヘキシル)-1-メチルビニル)-8-エチル-5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,26,26a-ヘキサデカヒドロ-5,19-エポキシ-3H-ピリド(2,1-c)(1,4)オキサアザシクロトリコシン-1,17,20,21(4H,23H)-テトロン、33-エピ-クロロ-33-デスオキシアスコマイシンを挙げることができる。また、リダホロリムスが挙げられ、リダホロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。リダホロリムスとしては、AP23573、MK-8669、デホロリムス、(1R,9S,12S,15R,16E,18R,19R,21R,23S,24E,26E,28E,30S,32S,35R)-12-((1R)-2-((1S,3R,4R)-4-((ジメチルホスフィノイル)オキシ)-3-メトキシシクロヘキシル)-1-メチルエチル)-1,18-ジヒドロキシ-19,30-ジメトキシ15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ(30.3.1.04,9)ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-2,3,10,14,20-ペントンを挙げることができる。また、タクロリムスが挙げられ、タクロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。タクロリムスとしては、FK-506、フジマイシン、プログラフ(登録商標)、Advagraf(登録商標)、プロトピック、3S-[3R*[E(1S*,3S*,4S*)],4S*,5R*,8S*,9E,12R*,14R*,15S*,16R*,18S*,19S*,26aR*5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a-ヘキサデカヒドロ-5,19-ジヒドロキシ-3-[2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル)-1-メチルエテニル]-14,16-ジメトキシ-4,10,12,18-テトラメチル-8-(2-プロペニル)-15,19-エポキシ-3H-ピリド[2,1-c][1,4]オキサアザシクロトリコシン-1,7,20,21(4H,23H)-テトロン一水和物を挙げることができる。また、テムシロリムスが挙げられ、テムシロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。テムシロリムスとしては、CCI-779、CCL-779、トーリセル(登録商標)、(1R,2R,4S)-4-{(2R)-2-[(3S,6R,7E,9R,10R,12R,14S,15E,17E,19E,21S,23S,26R,27R,34aS)-9,27-ジヒドロキシ-10,21-ジメトキシ-6,8,12,14,20,26-ヘキサメチル-1,5,11,28,29-ペンタオキソ-1,4,5,6,9,10,11,12,13,14,21,22,23,24,25,26,27,28,29,31,32,33,34,34a-テトラコサヒドロ-3H-23,27-エポキシピリド[2,1-c][1,4]オキサアザシクロヘントリアコンチン-3-イル]プロピル}-2-メトキシシクロヘキシル 3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロパノアートを挙げることができる。また、ウミロリムスが挙げられ、ウミロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。ウミロリムスとしては、Biolimus、Biolimus A9、BA9、TRM-986、42-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシンを挙げることができる。また、ゾタロリムスが挙げられ、ゾタロリムスは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。ゾタロリムスとしては、ABT-578、(42S)-42-デオキシ-42-(1H-テトラゾール-1-イル)-ラパマイシンを挙げることができる。また、C20-メタリルラパマイシンが挙げられ、C20-メタリルラパマイシンは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。C20-メタリルラパマイシンとしては、C20-Marapを挙げることができる。また、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシンが挙げられ、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシンは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシンとしてはC16-iRapを挙げることができる。また、AP21967が挙げられ、AP21967は、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。AP21967としては、C-16-(S)-7-メチルインドールラパマイシンを挙げることができる。また、ミコフェノール酸ナトリウムが挙げられ、ミコフェノール酸ナトリウムは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。ミコフェノール酸ナトリウムとしては、セルセプト(登録商標)、Myfortic、(4E)-6-(4-ヒドロキシ-6-メトキシ-7-メチル-3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-イル)-4-メチルヘキサ-4-エン酸を挙げることができる。また、塩酸ベニジピンが挙げられ、塩酸ベニジピンは、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。塩酸ベニジピンとしては、コニールを挙げることができる。また、AP1903が挙げられ、AP1903は、その類似体、誘導体および薬学的に許容される塩を含む。AP1903としては、rimiducid、[(1R)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)-1-[3-[2-[2-[[2-[3-[(1R)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)-1-[(2S)-1-[(2S)-2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)ブタノイル]ピペリジン-2-カルボニル]オキシプロピル]フェノキシ]アセチル]アミノ]エチルアミノ]-2-オキソエトキシ]フェニル]プロピル] (2S)-1-[(2S)-2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)ブタノイル]ピペリジン-2-カルボキシレートを挙げることができる。さらに、これらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0239】
いくつかの実施形態において、前記方法に使用されるリガンドは、ラパマイシンまたはラパログであり、たとえば、エベロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP23573もしくはAP1903、またはこれらの代謝物、誘導体および/もしくはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。さらなる有用なラパログとして、たとえば、C7位、C42位および/もしくはC29位のメトキシの脱メチル化、除去もしくは置換;C13位、C43位および/もしくはC28位のヒドロキシの除去、誘導体化もしくは置換;C14位、C24位および/もしくはC30位のケトンの還元、除去もしくは誘導体化;6員ピペコラート環の5員プロリル環による置換;および/またはシクロヘキシル環上の別の置換もしくはシクロヘキシル環の置換シクロペンチル環による置換のうちの1つ以上の修飾をラパマイシンに対して行ったラパマイシンのバリアントが挙げられる。さらなる有用なラパログとして、ノボリムス、ピメクロリムス、リダホロリムス、タクロリムス、テムシロリムス、ウミロリムスもしくはゾタロリムス、またはこれらの誘導体、代謝物および/もしくはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、リガンドは、IMID系薬物(たとえば、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドまたはこれらに関連する類似体)である。
【0240】
いくつかの実施形態において、細胞(哺乳動物細胞など)の内部におけるシグナルの検出は、シグナル伝達経路の結果であるマーカーを検出する方法により達成することができる。したがって、たとえば、ウエスタンブロット、フローサイトメトリー、またはその他のタンパク質検出方法もしくはタンパク質定量方法によって、細胞(哺乳動物細胞など)におけるAktまたはその他のシグナル伝達マーカーの量を測定することによって、シグナルを検出してもよい。検出用のマーカーとして、たとえば、JAK、Akt、STAT、NF-κ、MAPK、PI3K、JNK、ERKもしくはRas、または細胞のシグナル伝達イベントの指標となるその他の細胞シグナル伝達マーカーを挙げることができる。
【0241】
いくつかの実施形態において、シグナルの伝達は、サイトカインのシグナル伝達に影響を与える。いくつかの実施形態において、シグナルの伝達は、IL2Rのシグナル伝達に影響を与える。いくつかの実施形態において、シグナルの伝達は、サイトカイン受容体の下流の標的のリン酸化に影響を与える。いくつかの実施形態において、シグナルを活性化する方法は、CISC発現細胞(哺乳動物細胞など)の増殖を誘導し、それに付随して非CISC発現細胞の増殖を抑制する。
【0242】
細胞においてシグナル伝達が発生するには、サイトカイン受容体が二量体化やヘテロ二量体化するだけでなく、これらのサイトカイン受容体が、構造変化を起こすように適切な配置になければならない(Kim,M.J.et al.(2007).J.Biol.Chem.,282(19):14253-14261)。したがって、適切なシグナル伝達を発生させるためには、シグナル伝達ドメインが正しい立体構造配置で二量体化することが望ましく、その理由として、単に受容体が二量体化またはヘテロ二量体化するだけでは、受容体を活性化させることができないことが挙げられる。本明細書に記載の化学誘導シグナル伝達複合体は、通常、下流のシグナル伝達イベントが起こるように正しい方向にある。
【0243】
細胞集団の選択的拡大増殖方法
いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの細胞からなる集団を選択的に拡大増殖させる方法を提供する。いくつかの実施形態において、この方法は、本明細書に記載の細胞(哺乳動物細胞など)を提供する工程を含んでいてもよく、この細胞は、本明細書に記載のタンパク質配列または本明細書に記載の発現ベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、本明細書に記載のネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよび/もしくは二量体化CISCをコードするタンパク質配列、または本明細書に記載の発現ベクターを発現させる工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、細胞(哺乳動物細胞など)をリガンドと接触させる工程を含み、これによって、第1のCISC構成要素と第2のCISC構成要素の二量体化が誘導され、その結果、細胞の内部へシグナルが伝達される。いくつかの実施形態において、前記リガンドは、ラパマイシンまたはラパログである(たとえば、本明細書に開示されるラパマイシンまたはラパログ化合物のいずれかである)。いくつかの実施形態において、二量体化を誘導するために提供されるリガンドの有効量は、0.01nM、0.02nM、0.03nM、0.04nM、0.05nM、0.06nM、0.07nM、0.08nM、0.09nM、0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1.0nM、1.5nM、2.0nM、2.5nM、3.0nM、3.5nM、4.0nM、4.5nM、5.0nM、5.5nM、6.0nM、6.5nM、7.0nM、7.5nM、8.0nM、8.5nM、9.0nM、9.5nM、10nM、11nM、12nM、13nM、14nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nM、50nM、55nM、60nM、65nM、70nM、75nM、80nM、85nM、90nM、95nM、もしくは100nM、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の濃度である。
【0244】
いくつかの実施形態において、使用されるリガンドは、ラパマイシンまたはラパログであり、たとえば、エベロリムス、CCI-779、C20-メタリルラパマイシン、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン、C16-iRap、AP21967、ミコフェノール酸ナトリウム、塩酸ベニジピン、AP23573もしくはAP1903、またはこれらの代謝物、誘導体および/もしくはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。さらなる有用なラパログとして、たとえば、C7位、C42位および/もしくはC29位のメトキシの脱メチル化、除去もしくは置換;C13位、C43位および/もしくはC28位のヒドロキシの除去、誘導体化もしくは置換;C14位、C24位および/もしくはC30位のケトンの還元、除去もしくは誘導体化;6員ピペコラート環の5員プロリル環による置換;および/またはシクロヘキシル環上の別の置換もしくはシクロヘキシル環の置換シクロペンチル環による置換のうちの1つ以上の修飾をラパマイシンに対して行ったラパマイシンのバリアントが挙げられる。さらなる有用なラパログとして、ノボリムス、ピメクロリムス、リダホロリムス、タクロリムス、テムシロリムス、ウミロリムスもしくはゾタロリムス、またはこれらの誘導体、代謝物および/もしくはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0245】
いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞などの細胞からなる集団の選択的な拡大増殖は、2つの異なる遺伝子組換えイベント(たとえば、CRISPR/Cas9システムを介した遺伝子組換え)が起こった場合にのみに起こる。これらの遺伝子組換えイベントの一方は、二量体化学誘導シグナル伝達複合体の一方の構成要素であり、他方の遺伝子組換えイベントは、二量体化学誘導シグナル伝達複合体の他方の構成要素である。これらの両方のイベントが細胞集団(哺乳動物細胞集団など)において起こると、化学誘導シグナル伝達複合体の構成要素がリガンドの存在下で二量体化し、活性な化学誘導シグナル伝達複合体が得られ、細胞の内部でシグナルが発生する。
【0246】
ゲノムの編集方法
いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法を提供し、より具体的には、i)細胞の細胞質内においてネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現させ、任意でii)二量体化により活性化される化学誘導シグナル伝達複合体(CISC)の1つ以上のポリペプチド要素を発現させるための細胞ゲノムの編集方法であって、シグナル伝達能を有するCISCが、細胞の生存および/または増殖を促進するシグナル伝達経路において刺激シグナルを発生することができることを特徴とする方法を提供する。
【0247】
一態様において、細胞のゲノムを編集する方法であって、
i)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ、または該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
ii)細胞の標的ゲノム遺伝子座内の標的配列に相補的なスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)、または該gRNAをコードする核酸;および
iii)ネイキッドなFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインポリペプチドをコードする核酸配列を含むドナーカセットを含むドナー鋳型
を細胞に提供する工程を含み、
前記DNAエンドヌクレアーゼと前記gRNAの会合により形成された複合体によって、細胞の前記標的ゲノム遺伝子座への前記ドナーカセットの標的化された組み込みが促され、前記ネイキッドなFRBドメインポリペプチドを発現することができる遺伝子組換え細胞が作製されるように、前記DNAエンドヌクレアーゼ、前記gRNAおよび前記ドナー鋳型が構成されていることを特徴とする方法を提供する。
【0248】
一態様において、細胞のゲノムを編集する方法であって、a)目的の遺伝子またはゲノム配列に指向性のgRNA、b)本明細書に記載の実施形態のいずれかによるRNA誘導型ヌクレアーゼ(RGEN)または該RGENをコードする核酸、c)ネイキッドなFRBドメインをコードする核酸、ならびにd)i)第1の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第1のCISC構成要素と、i)第2の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第2のCISC構成要素とをコードする核酸を含む1つ以上のドナー鋳型を細胞に提供する工程を含み、第1のCISC構成要素および第2のCISC構成要素が、T細胞により発現された場合に、リガンド(たとえばラパマイシン)の存在下で二量体化して、下流のシグナル(たとえば生存シグナルまたは増殖シグナル)を発生させることができるシグナル伝達能を有するCISCを生じるように構成(たとえば配置)されていることを特徴とする方法を提供する。いくつかの実施形態において、CISC構成要素の一方は、切断型IL2Rβ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0249】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の細胞のゲノムを編集する方法によれば、1つ以上の核酸が、第1の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第1のCISC構成要素と;i)第2の細胞外結合ドメインまたはその機能性誘導体、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、およびシグナル伝達ドメインまたはその機能性誘導体を含む第2のCISC構成要素とをコードし、第1のCISC構成要素および第2のCISC構成要素をコードする1つ以上の前記核酸が、1つ以上のベクターにおいて発現される。前記細胞外結合ドメインは、タンパク質を細胞外空間に標的化する小胞体シグナル配列をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、配列番号3、8、28、29および30の1つ以上に示される核酸配列を含む。
【0250】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の細胞のゲノムを編集する方法によれば、前記RNA誘導型ヌクレアーゼ(RGEN)は、Cas1エンドヌクレアーゼ、Cas1Bエンドヌクレアーゼ、Cas2エンドヌクレアーゼ、Cas3エンドヌクレアーゼ、Cas4エンドヌクレアーゼ、Cas5エンドヌクレアーゼ、Cas6エンドヌクレアーゼ、Cas7エンドヌクレアーゼ、Cas8エンドヌクレアーゼ、Cas9エンドヌクレアーゼ(Csn1およびCsx12としても知られている)、Cas100エンドヌクレアーゼ、Csy1エンドヌクレアーゼ、Csy2エンドヌクレアーゼ、Csy3エンドヌクレアーゼ、Cse1エンドヌクレアーゼ、Cse2エンドヌクレアーゼ、Csc1エンドヌクレアーゼ、Csc2エンドヌクレアーゼ、Csa5エンドヌクレアーゼ、Csn2エンドヌクレアーゼ、Csm2エンドヌクレアーゼ、Csm3エンドヌクレアーゼ、Csm4エンドヌクレアーゼ、Csm5エンドヌクレアーゼ、Csm6エンドヌクレアーゼ、Cmr1エンドヌクレアーゼ、Cmr3エンドヌクレアーゼ、Cmr4エンドヌクレアーゼ、Cmr5エンドヌクレアーゼ、Cmr6エンドヌクレアーゼ、Csb1エンドヌクレアーゼ、Csb2エンドヌクレアーゼ、Csb3エンドヌクレアーゼ、Csx17エンドヌクレアーゼ、Csx14エンドヌクレアーゼ、Csx10エンドヌクレアーゼ、Csx16エンドヌクレアーゼ、CsaXエンドヌクレアーゼ、Csx3エンドヌクレアーゼ、Csx1エンドヌクレアーゼ、Csx15エンドヌクレアーゼ、Csf1エンドヌクレアーゼ、Csf2エンドヌクレアーゼ、Csf3エンドヌクレアーゼ、Csf4エンドヌクレアーゼ、およびCpf1エンドヌクレアーゼ、ならびにこれらの機能性誘導体からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記RGENはCas 9である。いくつかの実施形態において、前記RGENをコードする核酸は、リボ核酸(RNA)配列である。いくつかの実施形態において、前記RGENをコードするRNA配列は、共有結合を介して第1のgRNAまたは第2のgRNAに連結されている。いくつかの実施形態において、細胞に提供する前に、前記RGENと第1のgRNAおよび/または第2のgRNAとをあらかじめ複合体化させ、RNP複合体を形成させる。いくつかの実施形態において、前記RGENを第1のgRNAおよび/または第2のgRNAとあらかじめ複合体化する際のモル比は、各gRNA:RGEN=1:1~20:1である。
【0251】
標的化組み込み
いくつかの実施形態において、本明細書において提供される方法によって、宿主ゲノム中の特定の位置に、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドまたはその機能性誘導体をコードする配列を組み込むことができ、この方法を「標的化組み込み」と呼ぶ。いくつかの実施形態において、配列特異的なヌクレアーゼ、たとえば部位特異的なポリペプチド、たとえばDNAエンドヌクレアーゼ(たとえば、Cas9などの核酸誘導型ヌクレアーゼ)を使用した標的化組み込みによって、ゲノムDNA中に二本鎖切断を生じさせることができる。
【0252】
いくつかの実施形態において使用されるCRISPR-Casシステムは、多数のゲノム標的を迅速にスクリーニングすることにより、最適なCRISPR-Casの設計を同定することができるという利点を有する。CRISPR-Casシステムは、関連するCasヌクレアーゼ(たとえばCas9ヌクレアーゼ)をDNA中の特定の配列に標的化することができる単鎖ガイドRNA(sgRNA)と呼ばれるRNA分子を使用する。この標的化は、約20bpのsgRNAの標的化配列とゲノムの配列の間でワトソン-クリック塩基対合が形成されることによって起こる。sgRNAが標的部位に結合すると、Casヌクレアーゼが、ゲノムDNAの両方の鎖を切断して二本鎖切断を作製する。特定のDNA配列を標的とするsgRNAの設計に必要とされる唯一の要件として、ゲノム配列に相補的なsgRNA配列の3’末端において、標的配列はプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含んでいなければならない。Cas9ヌクレアーゼの場合、PAM配列はNRG(Rは、AまたはGであり、Nは任意の塩基である)、またはより制約があるPAM配列NGGである。したがって、20bpの配列がPAMモチーフに隣接するようにin silicoで設計することによって、ゲノムの任意の領域を標的とするsgRNA分子を設計することができる。真核生物のゲノムのPAMモチーフは、平均してわずか15bpに生じる。しかし、in silicoでの方法により設計されたsgRNAは、細胞において様々な効率で二本鎖切断を作製するため、in silicoでの方法を使用して作製された一連のsgRNA分子の切断効率を予測することはできない。sgRNAはインビトロで迅速に合成することができるため、特定のゲノム領域においてsgRNA配列となりうるあらゆる配列を迅速にスクリーニングすることが可能となり、最も効率的な切断をもたらすsgRNAを同定することができる。一般に、特定のゲノム領域内の一連のsgRNAを細胞において試験する場合、切断効率が0~90%となる。in silicoで使用されるアルゴリズムおよび研究室での実験を使用して、特定のsgRNAのオフターゲット作用を測定することができる。大部分の真核ゲノムでは、sgRNAの20bpの認識配列に対する完全なマッチングは、1回のみ起こることがほとんどであるが、sgRNAに対して1つ以上の塩基対ミスマッチを生じる別の部位がゲノム中に多数存在する。これらの部位は様々な頻度で切断され、ミスマッチの数またはその位置に基づいてその頻度を予測することは難しい。in silicoでの解析により同定されなかったさらなるオフターゲット部位での切断が起こることもある。したがって、関連する細胞種において多数のsgRNAをスクリーニングし、最も有利なオフターゲットプロファイルを有するsgRNAを同定することは、治療目的での使用に最適なsgRNAを選択するに当たり極めて重要である。有利なオフターゲットプロファイルは、実際のオフターゲット部位の数やこれらの部位における切断頻度だけではなく、これらの部位のゲノム中での位置も考慮に入れて決定される。たとえば、機能的に重要な遺伝子(特にがん遺伝子またはがん抑制遺伝子)の近傍またはその内部に存在するオフターゲット部位は、既知の機能を有さない遺伝子内領域の部位よりも不利であると考えられる。したがって、最適なsgRNAの同定は、生物のゲノム配列のin silico解析だけでは予測することができず、実験を必要とする。in silico解析は、試験の対象となるガイドの絞り込みには有用であるが、高頻度でオンターゲットな切断を生じるガイドを予測したり、オフターゲット作用が低い所望のガイドを予測したりすることはできない。実験データからは、目的のゲノム領域(たとえばフィブリノゲンαのイントロン1)と完全なマッチングによるsgRNAの切断効率は、切断が生じない場合から90%を超える切断が生じる場合まで様々な結果となり、いかなる公知のアルゴリズムによっても予測不可能であることが示されている。特定のsgRNAがCas酵素による切断を促進する能力は、ゲノムDNAの特定の部位へのアクセス性と関連し、このアクセス性は、その部位のクロマチン構造により決定されうる。分化した静止細胞中のゲノムDNAの大部分は、高度に凝集したヘテロクロマチン中に存在するが、活発に転写される領域は、Casタンパク質のようなタンパク質などの大きい分子が容易にアクセスできることが知られているよりオープンなクロマチン状態に存在する。DNAの一部の特定の領域は、活発に転写される遺伝子内であっても、転写因子またはその他の調節タンパク質の結合の有無により、その他の領域よりもアクセスが容易である。ゲノム内、特定のゲノム遺伝子座内またはゲノム遺伝子座の特定の領域内において特定の部位を予測することは不可能であり、したがって、関連する細胞種において実験により決定する必要がある。特定の部位が挿入可能な部位として選択された場合、たとえば、実験の有無にかかわらず、選択された部位の上流または下流の数個のヌクレオチドを移動させることによって、選択された部位にいくつかの変更を加えることができる。
【0253】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法において使用することができるgRNAは、細胞のFOXP3遺伝子座、AAVS1遺伝子座またはTCRa(TRAC)遺伝子座内の配列に相補的なスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法において使用することができるgRNAは、配列番号40~57のいずれか1つのヌクレオチド配列に示される1つ以上のスペーサー配列を含むか、配列番号40~57のいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも85%もしくは少なくとも約85%のヌクレオチド配列同一性を有するスペーサー配列の誘導体を含む。
【0254】
核酸の修飾
いくつかの実施形態において、本明細書で詳しく説明し、当技術分野でも知られているように、細胞に導入されるポリヌクレオチドは、たとえば、活性、安定性もしくは特異性の増強、送達の変更、宿主細胞の自然免疫応答の低減またはその他の増強のための、個別または組み合わせて利用可能な1つ以上の修飾を有する。
【0255】
特定の実施形態において、修飾されたポリヌクレオチドは、CRISPR/Cas9/Cpf1システムにおいて使用され、この場合、細胞に導入されるガイドRNA(単一分子ガイドまたは二分子ガイド)および/またはCasエンドヌクレアーゼまたはCpf1エンドヌクレアーゼをコードするDNAもしくはRNAは、以下で説明および図示するように修飾することができる。このような修飾ポリヌクレオチドをCRISPR/Cas9/Cpf1システムで使用して、1つ以上のゲノム遺伝子座を編集することができる。
【0256】
このような一例としての用途を目的として(ただしこれに限定されない)CRISPR/Cas9/Cpf1システムを使用する際に、ガイドRNAを修飾することにより、該ガイドRNAを含むCRISPR/Cas9/Cpf1ゲノム編集複合体の形成または安定性を向上させることができるが、この複合体は、単一分子ガイドまたは二分子ガイドとCasエンドヌクレアーゼまたはCpf1エンドヌクレアーゼから形成されてもよい。別の方法では、ガイドRNAを修飾することにより、ゲノム編集複合体とゲノム内の標的配列の間の相互作用の開始、安定性または動態を向上させることができ、これは、たとえばオンターゲット活性を増強するために使用することができる。別の方法では、ガイドRNAを修飾することにより、特異性を向上させてもよく、たとえば、他の部位での効果(オフターゲット)と比較した場合の、オンターゲット部位における相対的なゲノム編集率を向上させることができる。
【0257】
別の方法として、あるいは前記に加えて、たとえば、細胞中に存在するリボヌクレアーゼ(RNase)による分解に対するガイドRNAの耐性を修飾により向上させることによって、ガイドRNAの安定性を向上させることができ、その結果、細胞におけるガイドRNAの半減期を延長することができる。ガイドRNAの半減期を延長する修飾は、エンドヌクレアーゼを生成するために翻訳される必要があるRNAを使用してCasエンドヌクレアーゼまたはCpf1エンドヌクレアーゼが細胞に導入されて編集が行われる実施形態において特に有用でありうるが、この理由として、エンドヌクレアーゼをコードするRNAと同時に導入されるガイドRNAの半減期が延長されることを利用して、ガイドRNAとコードされたCasまたはCpf1エンドヌクレアーゼが細胞内で共存する時間を延長することができることが挙げられる。
【0258】
別の方法として、あるいは前記に加えて、細胞に導入されたRNAが自然免疫応答を誘導する可能性またはその程度を低減するために修飾を利用することができる。本明細書において後述し、当技術分野でも知られているように、このような免疫応答は、低分子干渉RNA(siRNA)などのRNA干渉(RNAi)に関して十分に評価されており、RNAの半減期の短縮および/またはサイトカインもしくは免疫応答に関連するその他の因子の誘導に関連する傾向がある。
【0259】
細胞に導入されるエンドヌクレアーゼをコードするRNAに1種以上の修飾を加えることも可能であり、このような修飾として、RNAの安定性を向上させる修飾(細胞内に存在するRNAseによる分解を増加させる修飾など)、生成物(たとえばエンドヌクレアーゼ)の翻訳を増強する修飾、および/または細胞に導入されたRNAが自然免疫応答を誘導する可能性またはその程度を低減させる修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0260】
前述した修飾やその他の修飾などの様々な修飾を組み合わせて同様に使用することができる。たとえば、CRISPR/Cas9/Cpf1の場合、ガイドRNAに1種以上の修飾を加えることができ(前記で例示したものを含む)、かつ/またはCasエンドヌクレアーゼをコードするRNAに1種以上の修飾を加えることができる(前記で例示したものを含む)。
【0261】
一例として、CRISPR/Cas9/Cpf1システムで使用されるガイドRNA、またはその他のより小さなRNAは、当技術分野で公知かつ後述するように、化学的手段によって容易に合成することができ、それにより様々な修飾を容易に組み込むことができる。化学的合成手順は継続的に拡充されているが、ポリヌクレオチドの長さが約100ヌクレオチド長を大幅に超えるため、高速液体クロマトグラフィー(PAGEなどのゲルを使用しないHPLC)などの手順による前記RNAの精製は難しくなる傾向がある。化学修飾された長いRNAの作製に使用されるアプローチの1つとして、2個以上の分子を作製して、後からこれらを連結する方法が挙げられる。Cas9エンドヌクレアーゼをコードするRNAなどの、非常に長いRNAは容易に酵素的に作製することができる。酵素的に作製されたRNAでは、通常、利用可能な修飾の種類は少なくなるが、たとえば、当技術分野で報告され、後述するように、安定性を高める修飾、自然免疫応答の可能性もしくはその程度を低減する修飾、および/またはその他の属性を高める修飾をそれでもなお使用することができ、新たな種類の修飾が常に開発されている。
【0262】
一例として、様々な種類の修飾、特に、より小さいRNAの化学合成において頻繁に使用される修飾は、糖の2’位が修飾された1つ以上のヌクレオチドであってもよく、いくつかの実施形態において、2’-O-アルキル修飾ヌクレオチド、2’-O-アルキル-O-アルキル修飾ヌクレオチド、または2’-フルオロ修飾ヌクレオチドであってもよい。いくつかの実施形態において、RNAの修飾として、ピリミジンのリボースにおける2’-フルオロ修飾、2’-アミノ修飾もしくは2’O-メチル修飾、脱塩基残基、またはRNAの3’末端の逆位塩基が挙げられる。このような修飾は常法によりオリゴヌクレオチドに組み込まれ、これらのオリゴヌクレオチドは、特定の標的に対して2’-デオキシオリゴヌクレオチドよりも高いTm(たとえばより高い標的結合親和性)を有することが示されている。
【0263】
様々なヌクレオチド修飾およびヌクレオシド修飾をオリゴヌクレオチドに組み込むことによって、ヌクレアーゼ消化に対する該オリゴヌクレオチドの耐性を天然のオリゴヌクレオチドよりも高くできることが示されている。これらの修飾オリゴヌクレオチドは、非修飾オリゴヌクレオチドより長時間にわたりインタクトなまま残存する。修飾オリゴヌクレオチドの具体例としては、修飾された骨格を有する修飾オリゴヌクレオチドが挙げられ、たとえば、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホネート、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルによる糖間結合、または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環による糖間結合を有する修飾オリゴヌクレオチドが挙げられる。一部のオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート骨格を有するオリゴヌクレオチドおよびヘテロ原子骨格を有するものであり、特に、CH2-NH-O-CH2骨格、CH骨格、-N(CH3)-O-CH2骨格(メチレン(メチルイミノ)骨格すなわちMMI骨格として知られている)、CH2-O-N(CH3)-CH2骨格、CH2-N(CH3)-N(CH3)-CH2骨格およびO-N(CH3)-CH2-CH2骨格(天然のホスホジエステル骨格はO-P-O-CHとして表される);アミド骨格(De Mesmaeker, A. et al. (1995). Acc. Chem. Res., 28:366-374参照);モルホリノ骨格構造(SummertonおよびWeller、米国特許第5,034,506号明細書参照);ペプチド核酸(PNA)骨格(オリゴヌクレオチドのホスホジエステル骨格がポリアミド骨格により置換されており、ヌクレオチドはポリアミド骨格のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している;Nielsen,P.E.et al.(1991).Science,254(5037):1497-1500)参照)を有する。リン含有結合としては、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’アルキレンホスホネートとキラルホスホネートを有するメチルアルキルホスホネートおよびその他のアルキルホスホネート、ホスフィナート、3’-アミノホスホロアミデートとアミノアルキルホスホロアミデートを有するホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、通常の3’-5’結合を有するボラノホスフェート、これらの2’-5’結合類似体、ならびに隣接するヌクレオシド単位のペアが3’-5’結合と5’-3’結合で連結されているか、2’-5’結合と5’-2’結合で連結された逆転極性を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。米国特許第3,687,808号明細書;米国特許第4,469,863号明細書;米国特許第4,476,301号明細書;米国特許第5,023,243号明細書;米国特許第5,177,196号明細書;米国特許第5,188,897号明細書;米国特許第5,264,423号明細書;米国特許第5,276,019号明細書;米国特許第5,278,302号明細書;米国特許第5,286,717号明細書;米国特許第5,321,131号明細書;米国特許第5,399,676号明細書;米国特許第5,405,939号明細書;米国特許第5,453,496号明細書;米国特許第5,455,233号明細書;米国特許第5,466,677号明細書;米国特許第5,476,925号明細書;米国特許第5,519,126号明細書;米国特許第5,536,821号明細書;米国特許第5,541,306号明細書;米国特許第5,550,111号明細書;米国特許第5,563,253号明細書;米国特許第5,571,799号明細書;米国特許第5,587,361号明細書;および米国特許第5,625,050を参照されたい。
【0264】
モルホリノに基づくオリゴマー化合物は、Braasch, D. A. et al. (2002). Biochemistry, 41(14):4503-4510; Genesis, Volume 30, Issue 3, (2001); Heasman, J. (2002). Dev. Biol., 243(2):209-214; Nasevicius, A. et al. (2000). Nat. Genet. , 26(2):216-220; Lacerra, G. et al. (2000). Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 97(17):9591-9596;および1991年7月23日に発行された米国特許第5,034,506号に記載されている。
【0265】
シクロヘキセニル核酸を含むオリゴヌクレオチドミメティックは、Wang, J. et al. (2000). J. Am. Chem. Soc. , 122(36):8595-8602に記載されている。
【0266】
リン原子を含まない修飾オリゴヌクレオチド骨格は、短鎖アルキルヌクレオシド間結合または短鎖シクロアルキルヌクレオシド間結合、異種ヘテロ原子を有するアルキルヌクレオシド間結合またはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1つ以上の短鎖ヘテロ原子ヌクレオシド間結合または短鎖ヘテロ環式ヌクレオシド間結合によって形成された骨格を有する。このような骨格として、さらに、(その一部がヌクレオシドの糖部分から形成された)モノホリノ結合を有する骨格;シロキサン骨格;スルフィド骨格、スルホキシド骨格およびスルホン骨格;ホルムアセチル骨格およびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチル骨格およびメチレンチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファマート骨格;メチレンイミノ骨格およびメチレンヒドラジノ骨格;スルホナート骨格およびスルホンアミド骨格;アミド骨格;ならびに構成要素としてN、O、SおよびCH2が混在しているその他の骨格を有するものが挙げられる。米国特許第5,034,506号;米国特許第5,166,315号;米国特許第5,185,444号;米国特許第5,214,134号;米国特許第5,216,141号;米国特許第5,235,033号;米国特許第5,264,562号;米国特許第5,264,564号;米国特許第5,405,938号;米国特許第5,434,257号;米国特許第5,466,677号;米国特許第5,470,967号;米国特許第5,489,677号;米国特許第5,541,307号;米国特許第5,561,225号;米国特許第5,596,086号;米国特許第5,602,240号;米国特許第5,610,289号;米国特許第5,602,240号;米国特許第5,608,046号;米国特許第5,610,289号;米国特許第5,618,704号;米国特許第5,623,070号;米国特許第5,663,312号;米国特許第5,633,360号;米国特許第5,677,437号;および米国特許第5,677,439号を参照されたい(これらの文献は引用によって本明細書に援用される)。
【0267】
1つ以上の置換された糖部分が含まれていてもよく、たとえば、OH、SH、SCH3、F、OCN、OCH3、OCH3O(CH2)nCH3、O(CH2)nNH2、またはO(CH2)nCH3(nは1~10または1~約10である);C1~C10の低級アルキル、アルコキシアルコキシ、置換された低級アルキル、アルカリール、またはアラルキル;Cl;Br;CN;CF3;OCF3;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;SOCH3;SO2CH3;ONO2;NO2;N3;NH2;ヘテロシクロアルキル;ヘテロシクロアルカリール;アミノアルキルアミノ;ポリアルキルアミノ;置換されたシリル;RNA切断基;レポーター基;インターカレーター;オリゴヌクレオチドの薬物動態特性を向上させる基;またはオリゴヌクレオチドの薬物動態学的特性を向上させる基および類似した特性を有するその他の置換基のうちの1つが2’位に含まれていてもよい。いくつかの実施形態において、修飾として、2’-メトキシエトキシ(2’-O-(2-メトキシエチル)としても公知の2’-O-CH2CH2OCH3)が挙げられる(Martin, P. et al. (1995). Helv. Chim. Acta, 78(2):486-504)。その他の修飾としては、2’-メトキシ(2’-O-CH3)、2’-プロポキシ(2’-OCH2CH2CH3)および2’-フルオロ(2’-F)が挙げられる。類似した修飾をオリゴヌクレオチド上のその他の位置に付加してもよく、特に、3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位および5’末端ヌクレオチドの5’位に付加してもよい。また、オリゴヌクレオチドは糖ミメティックを有していてもよく、たとえば、ペントフラノシル基の代わりにシクロブチルを有していてもよい。
【0268】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合(骨格など)はいずれも新たな基で置換されている。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために保持される。このようなオリゴマー化合物の1つとしての、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているオリゴヌクレオチドミメティックは、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる。PNA化合物において、オリゴヌクレオチドの糖骨格は、たとえばアミノエチルグリシン骨格などのアミド含有骨格と置換されている。核酸塩基は保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合されている。PNA化合物の調製についての教示が記載された代表的な米国特許明細書として、米国特許第5,539,082号;米国特許第5,714,331号;および米国特許第5,719,262号が挙げられるが、これらに限定されない。PNA化合物についてのさらなる教示は、Nielsen, P. E. et al. (1991). Science, 254(5037):1497-1500に記載されている。
【0269】
いくつかの実施形態において、ガイドRNAは、さらにあるいは別法として、核酸塩基(当技術分野において単に「塩基」と呼ばれることが多い)による修飾または置換を含みうる。本明細書において「非修飾」または「天然」の核酸塩基としては、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)が挙げられる。修飾核酸塩基としては、天然の核酸において稀にしか見られないか、一時的にしか見られない核酸塩基が挙げられ、たとえば、ヒポキサンチン、6-メチルアデニン、5-メチルピリミジン、特に5-メチルシトシン(5-メチル-2’デオキシシトシンとも呼ばれ、当技術分野において5-Me-Cと記載されることが多い)、5-ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMCおよびゲントビオシル(gentobiosyl)HMC;ならびに合成核酸塩基、たとえば、2-アミノアデニン、2-(メチルアミノ)アデニン、2-(イミダゾリルアルキル)アデニン、2-(アミノアルキルアミノ)アデニン、またはその他のヘテロ置換アルキルアデニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ブロモウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、8-アザグアニン、7-デアザグアニン、N6(6-アミノヘキシル)アデニン、および2,6-ジアミノプリンが挙げられる。Kornberg, A. et al. (1980). DNA Replication (2nd ed., pp.75-77). San Francisco, CA: W. H. Freeman & Co.; Gebeyehu, G. et al. (1987). Nucl Acids Res. , 15(11):4513-4534.当技術分野において公知の「ユニバーサル」塩基、たとえばイノシンが含まれていてもよい。5-Me-Cによる置換は、核酸二本鎖の安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi, Y. S. (1993). Antisense Research and Applications, (pp. 276-278). Crooke, S. T . and Lebleu, B., (Eds.), Boca Raton, FL: CRC Press)、塩基置換の実施形態である。
【0270】
いくつかの実施形態において、修飾核酸塩基としては、その他の合成核酸塩基および天然核酸塩基が挙げられ、たとえば、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチル誘導体およびその他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピル誘導体およびその他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよび5-ハロシトシン、5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシン、6-アゾウラシル、6-アゾシトシンおよび6-アゾチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロアデニンおよび8-ハログアニン、8-アミノアデニンおよび8-アミノグアニン、8-チオールアデニンおよび8-チオールグアニン、8-チオアルキルアデニンおよび8-チオアルキルグアニン、8-ヒドロキシルアデニンおよび8-ヒドロキシルグアニンならびにその他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロウラシルおよび5-ハロシトシン、特に、5-ブロモウラシルおよび5-ブロモシトシン、5-トリフルオロメチルウラシルおよび5-トリフルオロメチルシトシンならびにその他の5-置換ウラシルおよび5-置換シトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニン、ならびに3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンが挙げられる。
【0271】
さらに、核酸塩基として、米国特許第3,687,808号に開示されているもの;Kroschwitz, J. (1990). Concise Encyclopedia of Polymer Science And Engineering, (pp. 858-859) New York, NY:Wileyに開示されているもの;Englisch, U. et al. (1991). Angewandte Chemie International Edition, 30(6):613-722に開示されているもの;およびSanghvi, Y. S. (1993). Chapter 15, Antisense Research and Applications, (pp. 289-302), Crooke, S. T. and Lebleu, B. (Eds), Boca Raton, FL:CRC Pressに開示されているものが挙げられる。これらの核酸塩基のうち特定のものは、本開示のオリゴマー化合物の結合親和性を向上させるのに特に有用である。このような核酸塩基として、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、N-2置換プリン、N-6置換プリンおよびO-6置換プリン、2-アミノプロピルアデニンを有する核酸塩基、5-プロピニルウラシルを有する核酸塩基および5-プロピニルシトシンを有する核酸塩基が挙げられる。5-メチルシトシンによる置換は、核酸二本鎖の安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi, Y. S. (1993). Antisense Research and Applications, (pp. 276-278). Crooke, S. T . and Lebleu, B., (Eds.), Boca Raton, FL: CRC Press)、塩基置換の実施形態であり、特に2’-O-メトキシエチル糖修飾と組み合わせた場合に核酸二本鎖の安定性がさらに増加する。修飾核酸塩基は、米国特許第3,687,808号;米国特許第4,845,205号;米国特許第5,130,302号;米国特許第5,134,066号;米国特許第5,175,273号;米国特許第5,367,066号;米国特許第5,432,272号;米国特許第5,457,187号;米国特許第5,459,255号;米国特許第5,484,908号;米国特許第5,502,177号;米国特許第5,525,711号;米国特許第5,552,540号;米国特許第5,587,469号;米国特許第5,596,091号;米国特許第5,614,617号;米国特許第5,681,941号;米国特許第5,750,692号;米国特許第5,763,588号;米国特許第5,830,653号;米国特許第6,005,096号;および米国特許出願第2003/0158403号に記載されている。
【0272】
いくつかの実施形態において、エンドヌクレアーゼをコードするmRNA(もしくはDNA)および/またはガイドRNAは、オリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞による取り込みを増強する1つ以上の部分または共役体に化学的に連結されている。そのような部分として、コレステロール部分などの脂質部分(Letsinger, R. L. et al. (1989). Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 86(17):6553-6556);コール酸(Manoharan, M. et al. (1994). Bioorg. Med. Chem. Let., 4(8):1053-1060);チオエーテル、たとえばヘキシル-Sトリチルチオール(Manoharan, M. et al. (1992). Ann. N. Y. Acad. Sci. , 660(1):306-309; and Manoharan, M. et al. (1993). Bioorg. Med. Chem. Let., 3(12):2765-2770);チオコレステロール(Oberhauser, B. et al. (1992). Nucl. Acids Res., 20(3):533-538);脂肪鎖、たとえばドデカンジオール残基、ウンデシル残基(Kabanov, A. V. et al. (1990). FEBS Lett. , 259(2):327-330 and Svinarchuk, F. P. et al. (1993). Biochimie, 75(1-2):49-54));リン脂質、たとえばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロール、1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホン酸トリエチルアンモニウム(Manoharan et al. (1995). Tetrahedron Lett. , 36(21):3651-3654 and Shea, R. G. et al. (1990). Nucl. Acids Res., 18(13):3777-3783);ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(Manohoran, M. et al. (1995). Nucleos. Nucleot. Nucl., 14(3-5): 969-973);アダマンタン酢酸(Manoharan, M. et al. (1995). Tetrahedron Lett., 36(21):3651-3654);パルミチル部分(Mishra, R. K. et al. (1995). Biochim. Biophys. Acta, 1264(2):229-237);またはオクタデシルアミン部分またはヘキシルアミノ-カルボニル-t-オキシコレステロール部分(Crooke, S. T. et al. (1996). J. Pharmacol. Exp. Ther., 277(2):923-937)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、米国特許第4,828,979号;米国特許第4,948,882号;米国特許第5,218,105号;米国特許第5,525,465号;米国特許第5,541,313号;米国特許第5,545,730号;米国特許第5,552,538号;米国特許第5,578,717号;米国特許第5,580,731号;米国特許第5,580,731号;米国特許第5,591,584号;米国特許第5,109,124号;米国特許第5,118,802号;米国特許第5,138,045号;米国特許第5,414,077号;米国特許第5,486,603号;米国特許第5,512,439号;米国特許第5,578,718号;米国特許第5,608,046号;米国特許第4,587,044号;米国特許第4,605,735号;米国特許第4,667,025号;米国特許第4,762,779号;米国特許第4,789,737号;米国特許第4,824,941号;米国特許第4,835,263号;米国特許第4,876,335号;米国特許第4,904,582号;米国特許第4,958,013号;米国特許第5,082,830号;米国特許第5,112,963号;米国特許第5,214,136号;米国特許第5,082,830号;米国特許第5,112,963号;米国特許第5,214,136号;米国特許第5,245,022号;米国特許第5,254,469号;米国特許第5,258,506号;米国特許第5,262,536号;米国特許第5,272,250号;米国特許第5,292,873号;米国特許第5,317,098号;米国特許第5,371,241号;米国特許第5,391,723号;米国特許第5,416,203号;米国特許第5,451,463号;米国特許第5,510,475号;米国特許第5,512,667号;米国特許第5,514,785号;米国特許第5,565,552号;米国特許第5,567,810号;米国特許第5,574,142号;米国特許第5,585,481号;米国特許第5,587,371号;米国特許第5,595,726号;米国特許第5,597,696号;米国特許第5,599,923号;米国特許第5,599,928号;および米国特許第5,688,941号も参照されたい。
【0273】
いくつかの実施形態において、糖およびその他の部分は、タンパク質およびヌクレオチド含有複合体(たとえばカチオン性のポリソームおよびリポソーム)を特定の部位に標的化するために使用することができる。たとえば、アシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)を介して、肝細胞を標的とした移入を行うことができる。たとえば、Hu, J. et al. (2014). Protein Pept. Lett. , 21(10):1025-1030を参照されたい。当技術分野において公知のシステムおよび常に開発されているその他のシステムを使用して、本発明において使用される生体分子および/またはその複合体を目的とする特定の標的細胞に標的化することができる。
【0274】
いくつかの実施形態において、これらの標的化部分または共役体は、第1級ヒドロキシル基または第2級ヒドロキシル基などの官能基に共有結合により結合された共役基を含んでいてもよい。本開示の共役基としては、インターカレーター、レポーター分子、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、オリゴマーの薬物動態学的特性を増強する基、およびオリゴマーの薬物動態特性を増強する基が挙げられる。典型的な共役基としては、コレステロール、脂質、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸類、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、および色素が挙げられる。本開示において薬物動態学的特性を増強する基としては、取り込みを向上させ、分解に対する耐性を増強し、かつ/または標的核酸との配列特異的なハイブリダイゼーションを強化する基が挙げられる。本開示において薬物動態特性を増強させる基としては、本開示の化合物の取り込み、分布、代謝または排出を向上させる基が挙げられる。代表的な共役基は、1992年10月23日に出願された国際特許出願PCT/US92/09196号明細書、および米国特許第6,287,860号明細書(これらの文献はいずれも引用により本明細書に援用される)に開示されている。共役部分としては、コレステロール部分やコール酸などの脂質部分;たとえば、ヘキシル-5-トリチルチオールやチオコレステロールなどのチオエーテル;たとえば、ドデカンジオールやウンデシル残基などの脂肪族鎖;たとえば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールもしくは1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホン酸トリエチルアンモニウムなどのリン脂質;ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖;またはアダマンタン酢酸、パルミチル部分、またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分が挙げられるが、これらに限定されない。たとえば、米国特許第4,828,979号;米国特許第4,948,882号;米国特許第5,218,105号;米国特許第5,525,465号;米国特許第5,541,313号;米国特許第5,545,730号;米国特許第5,552,538号;米国特許第5,578,717号;米国特許第5,580,731号;米国特許第5,580,731号;米国特許第5,591,584号;米国特許第5,109,124号;米国特許第5,118,802号;米国特許第5,138,045号;米国特許第5,414,077号;米国特許第5,486,603号;米国特許第5,512,439号;米国特許第5,578,718号;米国特許第5,608,046号;米国特許第4,587,044号;米国特許第4,605,735号;米国特許第4,667,025号;米国特許第4,762,779号;米国特許第4,789,737号;米国特許第4,824,941号;米国特許第4,835,263号;米国特許第4,876,335号;米国特許第4,904,582号;米国特許第4,958,013号;米国特許第5,082,830号;米国特許第5,112,963号;米国特許第5,214,136号;米国特許第5,082,830号;米国特許第5,112,963号;米国特許第5,214,136号;米国特許第5,245,022号;米国特許第5,254,469号;米国特許第5,258,506号;米国特許第5,262,536号;米国特許第5,272,250号;米国特許第5,292,873号;米国特許第5,317,098号;米国特許第5,371,241号;米国特許第5,391,723号;米国特許第5,416,203号;米国特許第5,451,463号;米国特許第5,510,475号;米国特許第5,512,667号;米国特許第5,514,785号;米国特許第5,565,552号;米国特許第5,567,810号;米国特許第5,574,142号;米国特許第5,585,481号;米国特許第5,587,371号;米国特許第5,595,726号;米国特許第5,597,696号;米国特許第5,599,923号;米国特許第5,599,928号および米国特許第5,688,941号を参照されたい。
【0275】
化学合成がそれほど容易ではなく、一般に酵素合成により製造される長いポリヌクレオチドも様々な手段により修飾することができる。このような修飾として、たとえば、特定のヌクレオチド類似体の導入、分子の5’末端もしくは3’末端における特定の配列もしくはその他の部分の組み込み、およびその他の修飾が挙げられる。一例として、Cas9をコードするmRNAは約4kbの長さであり、インビトロ転写により合成することができる。mRNAへの修飾は、たとえば、(たとえば、細胞内での分解に対する耐性を増加させることにより)その翻訳もしくは安定性を増加させるため、または、外来性RNAの導入後、特に、Cas9をコードする外来性RNAなどの長いRNAの導入後の細胞に観察されることが多い自然免疫応答を惹起する傾向を低減するために適用されうる。
【0276】
このような修飾が当技術分野において多数報告されており、たとえば、ポリAテール、5’キャップ類似体(たとえばAnti Reverse Cap Analog(ARCA)またはm7G(5’)ppp(5’)G(mCAP))、5’ 非翻訳領域(UTR)または3’非翻訳領域(UTR)の修飾、修飾塩基の使用(たとえば、シュードUTP、2-チオ-UTP、5-メチルシチジン-5’-三リン酸(5-メチル-CTP)またはN6-メチル-ATP)、および5’末端リン酸を除去するためのホスファターゼ処理が挙げられる。これら修飾およびその他の修飾は当技術分野において公知であり、RNAの新たな修飾が常に開発されている。
【0277】
修飾RNAを提供している商業供給業者が多数存在し、たとえば、TriLink Biotech社、AxoLabs社、Bio-Synthesis社、Dharmacon社などがある。TriLinkにより記載されているように、たとえば、5-メチル-CTPは、ヌクレアーゼの安定性の増加、翻訳の増加またはインビトロで転写されたRNAとの自然免疫受容体の相互作用の低減などの望ましい特徴を付与するために使用することができる。5-メチルシチジン-5’-三リン酸(5-メチル-CTP)、N6-メチル-ATP、ならびにシュードUTPおよび2-チオ-UTPも、以下で引用されるKormann et al.(2011)and Warren et al.(2010)による刊行物に示されているように、培養およびインビボにおいて翻訳を増強しつつ、自然免疫刺激を低減できることが示されている。
【0278】
インビボで送達される化学修飾mRNAは、治療効果の向上を達成するために使用できることが示されている。たとえば、Kormann, M. S. D. et al. (2011). Nat. Biotechnol., 29:154-157を参照されたい。このような修飾は、たとえば、RNA分子の安定性の増加および/またはその免疫原性の低下に使用することができる。シュードU、N6-メチル-A、2-チオ-U、5-メチル-Cなどの化学修飾の使用に関しては、ウリジン残基およびシチジン残基の4分の1のみを、それぞれ2-チオ-Uおよび5-メチル-Cで置換することによって、マウスにおいてtoll様受容体(TLR)を介したmRNAの認識を有意に減少できることが見出された。これらの修飾を使用して、自然免疫系の活性化を低減することにより、インビボでのmRNAの安定性および寿命を効果的に向上させることができる。たとえば、Kormann et al. (2011)を参照されたい。
【0279】
ウイルスに対する自然応答を迂回するように設計された修飾を組み込んだ合成メッセンジャーRNAを反復投与すると、分化したヒト細胞を多能性に初期化できることも示されている。たとえば、Warren, L. et al. (2010). Cell Stem Cell, 7(5):618-630を参照されたい。主に初期化タンパク質として作用するこのような修飾mRNAは、様々な種類のヒト細胞の初期化の効率的な手段でありうる。このような細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)と呼ばれ、5-メチル-CTP、シュードUTP、またはAnti Reverse Cap Analog(ARCA)を組み込んで酵素的に合成されたRNAは、細胞の抗ウイルス応答を効果的に回避するために使用できることが見出された。たとえば、Warrenら(2010)を参照されたい。
【0280】
当技術分野において報告されているポリヌクレオチドのその他の修飾としては、たとえば、ポリAテールの使用、5’キャップ類似体の付加(たとえばm7G(5’)ppp(5’)G(mCAP))、5’ 非翻訳領域(UTR)または3’非翻訳領域(UTR)の修飾、および5’末端リン酸を除去するためのホスファターゼ処理が挙げられ、新たなアプローチが常に開発されている。
【0281】
本明細書において使用される修飾RNAの作製に適用可能な様々な組成物および技術は、低分子干渉RNA(siRNA)などのRNA干渉(RNAi)の修飾に関連して開発されている。mRNA干渉を介したsiRNAの遺伝子サイレンシングに対する効果は通常一過性であることから、反復投与を必要とすることがあるため、インビボにおいて特に問題が生じる。さらに、siRNAは二本鎖RNA(dsRNA)であり、哺乳動物細胞は、多くの場合にウイルス感染症の副産物として生じることの多いdsRNAを検出および中和するように進化した免疫応答を有する。したがって、PKR(dsRNA応答性キナーゼ)などの哺乳動物酵素があり、dsRNAに対して細胞応答を仲介できるレチノイン酸誘導遺伝子I(RIG-I)なども挙げることができ、dsRNAに応答してサイトカインの誘導を惹起できるToll様受容体(たとえば、TLR3、TLR7、およびTLR8)も挙げられる。たとえば、Angart, P. et al. (2013). Pharmaceuticals, 6(4):440-468; Kanasty, R. L. et al. (2012). Mol. Ther., 20(3):513-524; Burnett, J. C. et al. (2011). Biotechnol. J., 6(9):1130-1146; Judge, A. D. (2008). Hum. Gene Ther., 19(2):111-124による総説、およびこれらの文献で引用されている参考文献も参照されたい。
【0282】
以下の文献で報告されているように、非常に様々な修飾が開発されており、RNAの安定性の増強、自然免疫応答の抑制、および/またはヒト細胞へのポリヌクレオチドの導入に関連して有用でありうるその他の利点の達成に適用されている。たとえば、Whitehead, K. A. et al. (2011). Ann. Rev.Chem. Biomolec. Eng., 2:77-96;Gaglione, M. et al. (2010). Mini Rev. Med. Chem., 10(7):578-595;Chernolovskaya, E. L. et al. (2010). Curr. Opin. Mol Ther., 12(2):158-167;Deleavey, G. G. et al. (2009). Curr. Protoc. Nucleic Acid Chem., 39(1):16.3.1-16.3.22;Behlke, M. A. (2008). Oligonucleotides, 18(4):305-319;Fucini, R. V. et al. (2012). Nucleic Acid Ther., 22(3):205-210;Bremsen, J. B. et al. (2012). Front. Genet., 3:154.による総説を参照されたい。
【0283】
前述のように、修飾RNAを提供している商業供給業者が多数存在し、修飾RNAの多くは、siRNAの有効性を向上させるために設計された修飾に特化している。文献に報告されている様々な知見に基づいて様々なアプローチが提供されている。たとえば、Dharmacon社は、Kole, R. (2012). Nat. Rev. Drug Disc., 11(2):125-140により報告されているように、硫黄による非架橋酸素の置換(ホスホロチオエート(PS))を大規模に使用してsiRNAのヌクレアーゼ耐性を向上させていることを述べている。また、リボースの2’位の修飾は、二本鎖の安定性(Tm)を増加させつつ、ヌクレオチド間リン酸結合のヌクレアーゼ耐性を向上させることが報告されており、この修飾は、免疫活性化からの保護も提供することが示されている。忍容性の高い小さな置換基による2’-置換(2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-ヒドロ)と適度なPS骨格修飾を併用すると、Soutschek, J. et al. (2004). Nature, 432:173-178により報告されているように、インビボでの適用において高度に安定なsiRNAが得られる。2’-O-メチル修飾は、Volkov, A. A. et al. (2009). Oligonucleotides, 19:191-202により報告されているように、安定性の向上に効果的であることが報告されている。自然免疫応答の誘導の低減に関して、2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-ヒドロで特定の配列を修飾することによって、サイレンシング活性を大幅に保持しながら、TLR7/TLR8との相互作用を抑制することが報告されている。たとえば、Judge, A. D. et al. (2006). Mol. Ther., 13:494-505; and Cekaite, L. et al. (2007). J. Mol. Biol., 365(1):90-108を参照されたい。2-チオウラシル、シュードウラシル、5-メチルシトシン、5-メチルウラシル、およびN6-メチルアデノシンなどの別の修飾も、TLR3、TLR7、およびTLR8により仲介される免疫作用を最小限に抑えることが示されている。たとえば、Kariko, K. et al. (2005). Immunity, 23(2):165-175を参照されたい。
【0284】
当技術分野において公知であり、商業的に利用可能なものとして、様々な共役体を使用して、本明細書において使用されるポリヌクレオチド(RNAなど)の送達および/または細胞による取り込みを増強でき、このような共役体として、たとえば、コレステロール、トコフェロールおよび葉酸、脂質、ペプチド、ポリマー、リンカー、ならびにアプタマーが挙げられる。たとえば、Winkler, J. (2013). Ther. Deliv., 4(7):791-809による総説、およびこの文献で引用されている参考文献も参照されたい。
【0285】
送達
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法で使用される核酸分子、たとえば、本開示のゲノム標的化核酸および/または部位指向性ポリペプチドをコードする核酸は、細胞への送達用の送達担体の内部またはその表面にパッケージされる。想定される送達担体として、ナノスフェア、リポソーム、量子ドット、ナノ粒子、ポリエチレングリコール粒子、ヒドロゲル、およびミセルが挙げられるが、これらに限定されない。当技術分野で報告されているように、様々な標的化部分を使用して、このような担体と所望の細胞種または位置との選択的な相互作用を増強することができる。
【0286】
本開示の複合体、ポリペプチドまたは核酸の細胞への導入は、ウイルスもしくはバクテリオファージの感染、トランスフェクション、接合、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)を介したトランスフェクション、DEAE-デキストランを介したトランスフェクション、リポソームを介したトランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、またはナノ粒子を介した核酸送達などにより行うことができる。
【0287】
実施形態において、ガイドRNAポリヌクレオチド(RNAまたはDNA)および/またはエンドヌクレアーゼポリヌクレオチド(RNAまたはDNA)は、当技術分野で公知のウイルスを使用した送達担体またはウイルスを使用しない送達担体によって送達することができる。別法として、単一または複数のエンドヌクレアーゼポリペプチドは、エレクトロポレーションまたは脂質ナノ粒子などの、当技術分野で公知のウイルスを使用した送達担体またはウイルスを使用しない送達担体によって送達することができる。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、1つ以上のポリペプチドとして、単独で送達することができ、あるいは1つ以上のガイドRNAとあらかじめ複合体化して送達することができ、またはtracrRNAおよび1つ以上のcrRNAとあらかじめ複合体化して送達することができる。
【0288】
実施形態において、ポリヌクレオチドは、ウイルスを使用しない送達担体によって送達することができ、このようなウイルスを使用しない送達担体として、ナノ粒子、リポソーム、リボ核タンパク質、正帯電ペプチド、小分子RNAコンジュゲート、アプタマー-RNAキメラ、およびRNA融合タンパク質複合体が挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスを使用しない送達担体のいくつかの具体例は、Peer, D. et al. (2011). Gene Ther., 18: 1127-1133に記載されている(この文献は、その他のポリヌクレオチドの送達にも有用な、siRNA用の非ウイルス送達担体に焦点を当てている)。
【0289】
実施形態において、ガイドRNA、sgRNA、およびエンドヌクレアーゼをコードするmRNAなどのポリヌクレオチドは、脂質ナノ粒子(LNP)によって細胞または対象に送達することができる。
【0290】
ウイルスを使用しない核酸送達法が動物モデルとヒトの両方で試験されているが、最もよく開発されたシステムは脂質ナノ粒子である。脂質ナノ粒子(LNP)は、一般に、イオン化可能なカチオン性脂質と3種以上のさらなる構成要素で構成されており、このさらなる構成要素は、通常、コレステロール、DOPE、および脂質含有ポリエチレングリコール(PEG)である。カチオン性脂質は、正に帯電した核酸に結合して、核酸を分解から保護する稠密な複合体を形成することができる。マイクロ流体システムを通過する際に、各構成要素が自己集合して50~150nMのサイズの粒子を形成し、カチオン性脂質と複合体化したコアに核酸が封入されて、脂質二重層様構造に囲まれる。エンドサイトーシス後、LNPはエンドソームに存在する。封入された核酸は、カチオン性脂質のイオン化可能な性質によって、エンドソームを脱出する。これにより、核酸が細胞質に送達され、コードされたタンパク質へとmRNAが翻訳される。したがって、いくつかの実施形態において、Cas9をコードするmRNAおよびgRNAをLNPに封入し、静脈内注射することによって、これら両方の構成要素が効率的に細胞に送達される。エンドソームからの脱出後、Cas9 mRNAはCas9タンパク質に翻訳され、gRNAと複合体を形成することができる。いくつかの実施形態において、Cas9タンパク質配列に核局在化シグナルを含めることによって、Cas9タンパク質/gRNA複合体の核内移行が促進される。別法として、小さなgRNAは核膜孔複合体を通過し、核内のCas9タンパク質と複合体を形成する。gRNA/Cas9複合体が核内に入ると、ゲノムをスキャンして相同な標的部位を探し、ゲノム内の所望の標的部位で選択的に二本鎖切断を作製する。インビボでのRNA分子の半減期は一般に短く、数時間から数日程度である。同様に、タンパク質の半減期も短い傾向があり、数時間から数日程度である。したがって、いくつかの実施形態において、LNPを使用したgRNAおよびCas9 mRNAの送達は、gRNA/Cas9複合体の一過性に過ぎない発現および活性をもたらすことができる。これは、オフターゲット切断の頻度を低減するという利点を提供することができ、したがって、いくつかの実施形態において遺伝毒性のリスクを最小限に抑えることができる。LNPは一般にウイルス粒子よりも免疫原性が低い。多くのヒトではAAVに対して免疫性を既に有しているが、LNPに対する既存の免疫性はない。さらに、LNPに対する適応免疫反応が発生する可能性は低く、LNPの反復投与が可能になる。
【0291】
LNPにおいて使用するため、いくつかの種類のイオン化可能なカチオン性脂質が開発されている。このようなものとして、C12-200(Love, K. T. et al. (2010). Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A., 107(5):1864-1869)、MC3、LN16、MD1などが挙げられる。LNPの1つのタイプでは、GalNac部分がLNPの外側に付加されており、アシアロ糖タンパク質受容体を介して取り込むためのリガンドとして機能する。これらのカチオン性脂質のいずれかを使用して、gRNAおよびCas9 mRNAを細胞に送達するためのLNPが製剤化される。
【0292】
いくつかの実施形態において、LNPは、1000nm未満、500nm未満、250nm未満、200nm未満、150nm未満、100nm未満、75nm未満、50nm未満または25nm未満の直径を有する粒子を指す。あるいは、ナノ粒子のサイズは、1~1000nm、1~500nm、1~250nm、25~200nm、25~100nm、35~75nmまたは25~60nmの範囲であってもよい。
【0293】
LNPは、カチオン性脂質、アニオン性脂質、または中性脂質から作製することができる。融合性リン脂質であるDOPEや膜構成要素であるコレステロールなどの中性脂質は、トランスフェクション活性とナノ粒子の安定性を高めるための「ヘルパー脂質」としてLNPに含めることができる。カチオン性脂質の制限事項として、安定性の低さと急速なクリアランスにより有効性が低いこと、および炎症反応または抗炎症反応が発生することが挙げられる。また、LNPは、疎水性脂質、親水性脂質、または疎水性脂質と親水性脂質の両方を有することができる。
【0294】
当技術分野で公知の脂質またはその組み合わせであれば、どのようなものであってもLNPの作製に使用することができる。LNPの作製に使用される脂質の例としては、DOTMA、DOSPA、DOTAP、DMRIE、DC-コレステロール、DOTAP-コレステロール、GAP-DMORIE-DPyPEおよびGL67A-DOPE-DMPE-ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。カチオン性脂質の例としては、98N12-5、C12-200、DLin-KC2-DMA(KC2)、DLin-MC3-DMA(MC3)、XTC、MD1および7C1が挙げられる。中性脂質の例としては、DPSC、DPPC、POPC、DOPEおよびSMが挙げられる。PEG修飾脂質の例としては、PEG-DMG、PEG-CerC14およびPEG-CerC20が挙げられる。
【0295】
実施形態において、複数種の脂質を任意のモル数比で組み合わせてLNPを作製することができる。さらに、単一または複数のポリヌクレオチドと単一または複数の脂質を様々なモル比で組み合わせてLNPを作製することもできる。
【0296】
実施形態において、部位指向性ポリペプチドとゲノム標的化核酸は、それぞれ別々に細胞または対象に投与することができる。一方、部位指向性ポリペプチドは、1つ以上のガイドRNAとあらかじめ複合体化することができ、あるいはtracrRNAおよび1つ以上のcrRNAとあらかじめ複合体化することができる。あらかじめ複合体化した材料を次いで細胞または対象に投与することができる。このようなあらかじめ複合体化された材料は、リボ核タンパク質粒子(RNP)として知られている。
【0297】
RNAは、別のRNAまたはDNAと特定の相互作用を形成することができる。この特性は多くの生物学的プロセスで利用されているが、核酸が豊富な細胞環境において無差別な相互作用が起こるリスクも伴う。この問題の解決策の1つとして、RNAをエンドヌクレアーゼとあらかじめ複合体化させたリボ核タンパク質粒子(RNP)を形成させることが挙げられる。RNPの別の利点として、分解からのRNAの保護がある。
【0298】
いくつかの実施形態において、RNPに含まれるエンドヌクレアーゼは、修飾されていてもよく、修飾されていなくてもよい。同様に、gRNA、crRNA、tracrRNAまたはsgRNAも、修飾されていてもよく、修飾されていなくてもよい。様々な修飾が当技術分野で知られており、これらを使用することができる。
【0299】
エンドヌクレアーゼとsgRNAを、通常、1:1のモル比で組み合わせることができる。別法として、エンドヌクレアーゼ、crRNAおよびtracrRNAを、通常、1:1:1のモル比で組み合わせることができる。しかしながら、様々なモル比を用いてRNPを作製することができる。
【0300】
遺伝子編集要素は、いくつかの機構を介して細胞の核に送達することができる。これらの機構は、通常、ウイルス送達および非ウイルス送達に分類することができる。様々な適用において、ウイルス送達と非ウイルス送達の組み合わせを使用することができる。
【0301】
いくつかの実施形態において、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して送達を行うことができる。送達するポリヌクレオチド、rep遺伝子およびcap遺伝子を含むようにパッケージ化されるAAVゲノムとヘルパーウイルスの機能を細胞に提供するためのrAAV粒子の作製に適した方法、技術およびシステムは当技術分野で知られている。rAAVの作製には、通常、rAAVゲノム、このrAAVゲノムから分離された(たとえば内部には含まれない)AAV rep遺伝子およびcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルスの機能を単一の細胞内に(本明細書においてパッケージング細胞と呼ぶ)存在させる必要がある。rAAVを作製するための一般的なアプローチとして、一過性のトランスフェクション、昆虫バキュロウイルスの二重感染、および昆虫バキュロウイルスの単感染が挙げられる。これらに関するさらなる情報は、たとえば、Ayuso, E. et al. (2010). Curr. Gene Ther., 10(6):423-436;Mietzsch, M. et al. (2014). Hum. Gene Ther., 25(3):212-222;Mietzsch, M. et al. (2015). Hum. Gene Ther., 26(10):688-697;およびMietzsch, M. et al. (2017). Hum. Gene Ther. Method, 28(1):15-22に記載されている。
【0302】
通常、AAV rep遺伝子およびcap遺伝子は、組換えウイルスを作製することが可能などのような血清型のAAVに由来するものであってもよく、rAAVのゲノム内のITRとは異なる血清型のAAVに由来するものであってもよく、AAVの血清型としては、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13およびAAV rh.74が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、様々な天然血清型および/または合成血清型のウイルスを使用して特定の種類の組織を標的としてもよい。シュードタイプ化したrAAVの作製については、たとえば、国際特許出願WO01/83692に開示されている。表1Aに、選択したいくつかのAAVのAAV血清型とGenbankアクセッション番号を示す。
【表1】
【0303】
いくつかの実施形態において、パッケージング細胞を作製する方法は、AAV粒子の作製に必要なすべての構成要素を安定して発現する細胞株を作製することを含む。たとえば、AAV rep遺伝子およびcap遺伝子を持たないrAAVゲノムと、このrAAVゲノムとは別個AAV rep遺伝子およびcap遺伝子と、ネオマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーとを有する単一のプラスミド(または複数のプラスミド)を細胞のゲノムに組み込む。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski, R. J. et al. (1982). Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 79(6):2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin, C. A. et al. (1983). Gene, 23(1):65-73)、または直接的な平滑末端ライゲーション(Senapathy, P. (1984). J. Biol. Chem., 259:4661-4666)などの手法によって、細菌プラスミドに導入される。次いで、パッケージング細胞株を、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点として、細胞を選択可能であり、細胞はrAAVの大量生産に適していることが挙げられる。好適な別の方法の例として、プラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを使用して、rAAVゲノムならびに/またはrep遺伝子およびcap遺伝子をパッケージング細胞に導入する方法が挙げられる。
【0304】
rAAVの製造の一般的な原則は、たとえば、Carter, B. J. (1992). Curr. Opin. Biotechnol., 3(5):533-539;およびMuzyczka, M. (1992). Curr. Topics Microbial. Immunol., 158:97-129においてレビューされている。様々なアプローチは、Tratschin, J. D. et al. (1984). Mol. Cell. Biol., 4(10):2072-2081;Hermonat, P. L. et al. (1984). Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81(2):6466-6470;Tratschin, J. D. et al. (1985). Mo1. Cell. Biol., 5(11):3251-3260;McLaughlin, S. K. et al. (1988). J. Virol. , 62(6):1963-1973;Lebkowski, J. S. et al. (1988). Mol. Cell. Biol., 8(10):3988-3996. Samulski, R. J. et al. (1989). J. Virol., 63(9):3822-3828);米国特許第5,173,414号;WO 95/13365およびこれに対応する米国特許第5,658.776号;WO 95/13392;WO 96/17947;PCT/US98/18600;WO 97/09441(PCT/US96/14423);WO 97/08298(PCT/US96/13872);WO 97/21825(PCT/US96/20777);WO 97/06243(PCT/FR96/01064);WO 99/11764;Perrin, P. et al. (1995) Vaccine, 13(13):1244-1250;Paul, R. W. et al. (1993). Hum. Gene Ther., 4(5):609-615; Clark, K. R. et al. (1996) Gene Ther., 3(12):1124-1132;米国特許第5,786,211号;米国特許第5,871,982号;ならびに米国特許第6,258,595号に記載されている。
【0305】
AAVベクターの血清型を標的細胞種に一致させることができる。たとえば、後述する典型的な細胞種は、本明細書に記載の血清型のAAVを形質導入することができる。たとえば、肝臓組織/肝臓細胞に適したAAVベクターの血清型として、AAV3、AAV5、AAV8およびAAV9が挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、処置を受ける集団または個体において免疫原性の低い血清型のAAVが選択される。
【0306】
アデノ随伴ウイルスベクターに加えて、その他のウイルスベクターを使用することもできる。このようなウイルスベクターとして、レンチウイルス、アルファウイルス、エンテロウイルス、ペスチウイルス、バキュロウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バールウイルス、パポバウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルス、および単純ヘルペスウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0307】
いくつかの実施形態において、Cas9 mRNA、フィブリノゲンα遺伝子の1つまたは2つの遺伝子座を標的とするsgRNA、およびドナーDNAは、それぞれ別々に脂質ナノ粒子への内包化により製剤化されるか、これらのすべてが一緒に1つの脂質ナノ粒子への内包化により製剤化されるか、これらのすべてが一緒に2つ以上の脂質ナノ粒子への内包化により製剤化される。
【0308】
いくつかの実施形態において、Cas9 mRNAは、脂質ナノ粒子への内包化により製剤化され、一方、sgRNAおよびドナーDNAは、AAVベクターに組み込まれて送達される。いくつかの実施形態において、Cas9 mRNAおよびsgRNAは一緒に脂質ナノ粒子への内包化により製剤化され、一方、ドナーDNAは、AAVベクターに組み込まれて送達される。
【0309】
Cas9ヌクレアーゼをDNAプラスミドとして、mRNAとして、またはタンパク質として送達することもできる。ガイドRNAを同じDNAから発現させることができ、あるいはRNAとして送達することもできる。このRNAを化学的に修飾して、その半減期を変更または向上し、かつ/または免疫応答が起こる可能性またはその程度を低下させることができる。エンドヌクレアーゼタンパク質は、送達前にgRNAと複合体化することもできる。ウイルスベクターにより、効率的な送達が可能となる。スプリット型のCas9およびCas9のより小さなオーソログは、HDR用ドナーと同様に、AAVにパッケージングすることができる。また、これらの構成要素のそれぞれを送達することができる様々な非ウイルス性の送達方法が存在し、非ウイルス性送達方法とウイルス性送達方法を併用することができる。たとえば、ナノ粒子を使用してタンパク質とガイドRNAを送達し、AAVを使用してドナーDNAを送達することができる。
【0310】
治療的処置用のゲノム編集構成要素の送達に関連するいくつかの実施形態では、少なくとも2つの構成要素、すなわち配列特異的ヌクレアーゼ(たとえば部位指向性ポリペプチド、たとえばDNAエンドヌクレアーゼ、たとえば核酸誘導性ヌクレアーゼなど)とDNAドナー鋳型が、形質転換を受ける細胞(たとえばリンパ球)の核内に送達される。いくつかの実施形態において、前記ドナーDNA鋳型は、リンパ球指向性アデノ随伴ウイルス(AAV)にパッケージされている。いくつかの実施形態において、前記AAVは、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV5、AAV6およびAAV-DJの血清型から選択される。いくつかの実施形態において、AAVにパッケージされたDNAドナー鋳型が、末梢静脈注射によって対象(たとえば患者)に最初に投与され、続いて配列特異的ヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)が投与される。AAVにパッケージされたドナーDNA鋳型を最初に送達することの利点は、送達されたドナーDNA鋳型が、形質導入された細胞の核内で安定して維持され、これによって次の配列特異的ヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)の投与が可能になり、ゲノムに二本鎖切断が作製されて、HDRまたはNHEJによるDNAドナーの組み込みが行われることが挙げられる。いくつかの実施形態において、配列特異的ヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)は、所望の治療効果を発揮するのに十分なレベルで、導入遺伝子の標的化組み込みを促進するために必要とされる時間だけ、標的細胞において活性を維持することが望ましい。配列特異的ヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)が細胞内で長期間にわたり活性を維持する場合、これによって、オフターゲット部位での二本鎖切断の頻度が増加することになる。通常、オフターゲット切断の頻度は、オフターゲット切断効率にヌクレアーゼが活性な時間を掛けた関数である。mRNAおよびこれから翻訳されたタンパク質は細胞内で短命であるため、配列特異的ヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)をmRNAの形態で送達すると、数時間から数日間の範囲でヌクレアーゼ活性の持続時間が短くなる。したがって、ドナー鋳型を既に含む細胞に配列特異的ヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)を送達すると、オフターゲットな組み込みに対する標的化された組み込みの比率を可能な限り高くできると予想される。さらに、AAVを介した末梢静脈内注射後による細胞の核内へのドナーDNA鋳型の送達には時間がかかり、通常約1~14日を要し、この理由は、ウイルスが細胞に感染し、エンドソームを回避し、核へと移行し、宿主細胞の構成要素により一本鎖AAVゲノムから二本鎖DNA分子へと変換されなければならないからである。したがって、少なくともいくつかの実施形態において、ヌクレアーゼ要素は通常約1~3日間活性であることから、核へのドナーDNA鋳型の送達は、CRISPR-Cas要素を供給する前に完了させておく。
【0311】
いくつかの実施形態において、配列特異的なヌクレアーゼ(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)は、フィブリノゲンα遺伝子のイントロン1内のDNA配列に指向性のsgRNAとCas9ヌクレアーゼから構成されるCRISPR-Cas9である。いくつかの実施形態において、Cas9ヌクレアーゼは、1つ以上の核局在化シグナル(NLS)に作動可能に融合されたCas9タンパク質をコードするmRNAとして送達される。いくつかの実施形態において、sgRNAおよびCas9 mRNAは、脂質ナノ粒子にパッケージされて細胞に送達される。いくつかの実施形態において、脂質ナノ粒子はC12-200脂質を含む(Love, K. T. et al. (2010). Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A., 107(5):1864-1869)。いくつかの実施形態において、LNPにパッケージされるsgRNAとCas9 mRNAの比率は、マウスにおいてインビボでDNAの切断を最大にする場合、1:1(質量比)である。別の実施形態では、LNPにパッケージされるsgRNAとCas9 mRNAの質量比を変えることができ、たとえば、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、もしくは2:1、またはこれらとは逆の比率である。いくつかの実施形態において、Cas9 mRNAとsgRNAは別々のLNP製剤にパッケージされ、Cas9 mRNA含有LNPは、sgRNA含有LNPを送達する約1時間前~約8時間前に対象に送達され、これによりsgRNAの送達前にCas9 mRNAが翻訳される時間を最適化することができる。
【0312】
いくつかの実施形態において、gRNAおよびCas9 mRNAを封入したLNP製剤(「LNP-ヌクレアーゼ製剤」)は、AAVにパッケージしたDNAドナー鋳型を既に投与した対象(たとえば患者)に投与される。いくつかの実施形態において、LNP-ヌクレアーゼ製剤は、AAV-ドナーDNA鋳型を投与してから1日~28日以内、7日~28日以内または7日~14日以内に対象に投与される。AAV-ドナーDNA鋳型を投与してからLNP-ヌクレアーゼ製剤を送達するのに効果的なタイミングは、当技術分野において公知の技術、たとえば、マウスやサルなどの動物モデルにおいて行われた研究を使用して決定することができる。
【0313】
いくつかの実施形態において、DNAドナー鋳型は、非ウイルス送達方法を使用して対象(たとえば患者)の細胞に送達される。一部の対象(概ね30%)は、最も一般的に使用される血清型のAAVに対する中和抗体を既に保有していることから、AAVによる効果的な遺伝子送達が妨げられてしまうが、非ウイルス送達方法を使用することによって、より多くの対象を治療することができる。いくつかの非ウイルス送達方法が当分野において公知である。特に、脂質ナノ粒子(LNP)は、動物およびヒトに静脈注射することによって、封入されたカーゴを細胞の細胞質に効率的に送達できることが知られている。これらのLNPは、受容体を介したエンドサイトーシスにより細胞に活発に取り込まれる。
【0314】
いくつかの実施形態において、ドナー鋳型の核局在化を促進するため、プラスミドの核局在化を促進することができるDNA配列、たとえば、シミアンウイルス40(SV40)の複製起点および初期プロモーターからなる366bpの領域をドナー鋳型に付加することができる。細胞タンパク質に結合するその他のDNA配列も、DNAの核内移行を向上させるために使用することができる。
【0315】
いくつかの実施形態において、導入された目的のタンパク質(たとえばFVIII)をコードする配列の発現量または活性は、AAV-ドナーDNA鋳型を投与後、(たとえばgRNAとCas9ヌクレアーゼまたはCas9ヌクレアーゼをコードするmRNAを含む)LNP-ヌクレアーゼ製剤の初回投与後に、対象(たとえば患者)の血液中で測定される。目的のタンパク質の量が疾患の治癒に不十分な場合、たとえば、目的のタンパク質の量が正常値の少なくとも5~50%であるという結果が得られた場合、特に目的のタンパク質の量が正常値の5~20%であるという結果が得られた場合、フィブリノゲンα遺伝子のイントロン1部位へのさらなる標的化された組み込みを促すために、LNP-ヌクレアーゼ製剤の2回目または3回目の投与を行ってもよい。目的のタンパク質の所望とする治療量を達成するため、LNP-ヌクレアーゼ製剤を複数回投与することが可能か否かは、当技術分野で公知の技術、たとえば、マウスモデルやサルモデルなどの動物モデルを使用した試験を使用して試験し、最適化してもよい。
【0316】
いくつかの実施形態において、i)ドナーカセットを含むAAV-ドナーDNA鋳型およびii)LNP-ヌクレアーゼ製剤を対象に投与する工程を含む本明細書に記載の方法のいずれかによれば、LNP-ヌクレアーゼ製剤の対象への初回投与は、AAV-ドナーDNA鋳型を対象に投与してから1日~28日以内に行われる。いくつかの実施形態において、LNP-ヌクレアーゼ製剤の対象への初回投与は、ドナーDNA鋳型が標的細胞の核内へと送達されるのに十分な時間が経過した後に行われる。いくつかの実施形態において、LNP-ヌクレアーゼ製剤の対象への初回投与は、標的細胞の核内において一本鎖AAVゲノムが二本鎖DNA分子へと変換されるのに十分な時間が経過した後に行われる。いくつかの実施形態において、LNP-ヌクレアーゼ製剤の初回投与を行った後、LNP-ヌクレアーゼ製剤をさらに1回以上(たとえば2回、3回、4回、5回またはそれ以上の回数)投与する。いくつかの実施形態において、前記ドナーカセットの標的化された組み込みが標的量に達するまで、かつ/または前記ドナーカセットの発現が標的量に達するまで、LNP-ヌクレアーゼ製剤を1回以上対象に投与する。いくつかの実施形態において、前記方法は、LNP-ヌクレアーゼ製剤の各回の投与後に、前記ドナーカセットの標的化された組み込み量および/またはドナーカセットの発現量を測定する工程、ならびに前記ドナーカセットの標的化された組み込みが標的量に達しておらず、かつ/または前記ドナーカセットの発現の標的量が達成されていない場合に、LNP-ヌクレアーゼ製剤をさらに1回以上投与する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記1回以上のLNP-ヌクレアーゼ製剤のさらなる投与のうち、少なくとも1回の投与量は初回投与量と同じである。いくつかの実施形態において、前記1回以上のLNP-ヌクレアーゼ製剤のさらなる投与のうち、少なくとも1回の投与量は初回投与量よりも少ない。いくつかの実施形態において、前記1回以上のLNP-ヌクレアーゼ製剤のさらなる投与のうち、少なくとも1回の投与量は初回投与量よりも多い。
【0317】
治療的アプローチ
一態様において、本明細書に記載の方法のいずれかに従って編集された細胞を用いた養子細胞療法により対象を治療するための遺伝子療法アプローチを提供する。たとえば、いくつかの実施形態において、前記障害または前記健康状態は、自己免疫疾患(たとえばIPEX症候群)または臓器移植に起因する障害(たとえばGVHD)であり、前記編集された細胞はTregの表現型を有する。いくつかの実施形態において、前記遺伝子療法アプローチは、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよびCISCをコードする配列を含む核酸を、対象の関連する種類の細胞のゲノムに組み込み、それによって、たとえば、前記障害または前記健康状態の1つ以上の症状を長期間にわたり緩和するような安定な治療を提供し、かつ/または前記障害または前記健康状態の根治もしくは緩和を提供する。いくつかの実施形態において、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよびCISCをコードする配列が組み込まれる遺伝子療法アプローチの対象となる細胞種は、リンパ球細胞、たとえばCD4+T細胞である。
【0318】
いくつかの実施形態において、エクスビボの細胞を用いた治療法は、対象から単離されたリンパ球細胞、たとえば、臍帯血に由来する自家CD4+T細胞を使用して実施される。次に、本明細書に記載のシステム、組成物および方法を使用して、細胞の染色体DNAが編集される。最後に、編集された細胞が前記対象に移植される。
【0319】
エクスビボ細胞療法によるアプローチの利点の1つとして、投与前に治療薬の包括的な分析を実施できることがある。ヌクレアーゼを使用した治療法は常にある程度のオフターゲット効果が付随する。エクスビボで遺伝子修正を行うことにより、移植前に修正された細胞集団の特性を網羅的に確認することができる。本開示の態様は、修正された細胞のゲノム全体のシーケンシングを行い、オフターゲットな切断が存在する場合、このオフターゲットな切断が、対象へのリスクが最小限となるゲノム位置にあることを確認することを含む。さらに、クローン集団などの特定の細胞の集団は、移植前に単離することができる。
【0320】
このような方法の別の一実施形態は、インビボでの治療法である。この方法では、本明細書に記載のシステム、組成物および方法を使用して、対象における細胞の染色体DNAが修正される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、リンパ球細胞であり、たとえばCD4+細胞、たとえばT細胞である。
【0321】
インビボ遺伝子治療の利点の1つは、治療薬の製造と投与が容易なことである。同じ治療的アプローチおよび治療法を使用して、1つ以上の対象、たとえば、同一または類似の遺伝子型またはアレルを有する多数の対象を治療することができる。対照的に、エクスビボでの細胞療法では、通常、対象自身の細胞を使用し、対象自身の細胞を単離し、遺伝子操作した後、同じ対象に戻す。
【0322】
別の実施形態は、炎症性疾患または自己免疫疾患などのFOXP3関連疾患またはFOXP3関連状態の抑制または治療において使用するための、本明細書に記載の方法のいずれか1つによってゲノム編集された遺伝子組換え細胞に関する。さらなる実施形態は、本明細書に記載の方法のいずれか1つによってゲノム編集された遺伝子組換え細胞の、医薬品としての使用に関する。
【0323】
対象への細胞の移植
いくつかの実施形態において、本開示のエクスビボでの方法は、このような方法を必要とする対象にゲノム編集された細胞を移植することを含む。この移植工程は、当技術分野で公知の移植方法であれば、どのような方法を使用しても行うことができる。たとえば、遺伝子組換え細胞を、対象の血液中に直接注射することができ、あるいはその他の方法で対象に投与することができる。
【0324】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、「投与」を含むが、この用語は、「導入」および「移植」と同じ意味で使用することができ、本明細書に開示される方法は、所望の単一の効果または複数の効果が得られるように、導入された細胞の少なくとも一部を所望の部位に局在化させることができる方法または経路によって、遺伝子組換えされた治療用細胞を対象に投与することを含む。治療用細胞またはそれらから分化した子孫細胞は、移植された細胞の少なくとも一部またはその構成要素の少なくとも一部が生存し続けることが可能な対象の体内の所望の部位への送達が可能な好適な経路を介して投与することができる。対象に投与した後の細胞の生存能力は、数時間という短い時間(たとえば24時間~数日間)から数年間さらには対象の一生涯(たとえば長期生着)であってもよい。
【0325】
本明細書に記載の治療用細胞が予防目的で提供される場合、該治療用細胞は、治療を受ける疾患または状態の何らかの症状が発症する前に対象に投与することができる。したがって、いくつかの実施形態において、遺伝子組換え幹細胞集団の予防的投与は、前記疾患または前記状態の症状の発症の予防に使用される。
【0326】
いくつかの実施形態において、遺伝子組換え幹細胞が治療目的で提供される場合、該遺伝子組換え幹細胞は、疾患または状態の症状または徴候が発症した際に(またはその後に)、たとえば疾患や状態の発症時に提供される。
【0327】
本明細書に記載の様々な実施形態において使用される治療用細胞(たとえばゲノム編集された幹細胞)の有効量は、少なくとも102個、少なくとも5×102個、少なくとも103個、少なくとも5×103個、少なくとも104個、少なくとも5×104個、少なくとも105個、少なくとも2×105個、少なくとも3×105個、少なくとも4×105個、少なくとも5×105個、少なくとも6×105個、少なくとも7×105個、少なくとも8×105個、少なくとも9×105個、少なくとも1×106個、少なくとも2×106個、少なくとも3×106個、少なくとも4×106個、少なくとも5×106個、少なくとも6×106個、少なくとも7×106個、少なくとも8×106個、少なくとも9×106個、またはこれらの倍数量であってもよい。治療用細胞は、1人以上のドナーに由来するものであってもよく、自家由来のものであってもよい。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、治療用細胞は、該治療用細胞の投与を必要とする対象に投与する前に培養により拡大増殖される。
【0328】
実施形態において、特定の方法または経路によって治療用細胞組成物(たとえば本明細書に記載の細胞のいずれかによる複数の細胞を含む組成物)を対象に送達することにより、該細胞組成物の少なくとも一部を所望の部位に局在させることができる。細胞組成物は、対象において有効な治療となる適切な経路であれば、どのような経路で投与することもでき、たとえば、細胞組成物の投与によって、該組成物の少なくとも一部(たとえば少なくとも1×104個の細胞)が、対象体内の所望の部位に一定期間にわたり送達できる。投与方法として、注射、点滴、点滴注入および経口摂取が挙げられる。「注射」には、静脈内注射、筋肉内注射、動脈内注射、髄腔内注射、脳室内注射、関節包内注射、眼窩内注射、心臓内注射、皮内注射、腹腔内注射、経気管注射、皮下注射、表皮下注射、関節内注射、被膜下注射、クモ膜下注射、脊髄内注射、脳脊髄内注射および胸骨内注射ならびに点滴が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、投与経路は静脈内経路である。細胞の送達では、注射または点滴による投与を行うことができる。
【0329】
一実施形態では、細胞は全身投与され、言い換えれば、治療用細胞集団は、標的部位や、標的組織または標的臓器に直接投与されるのではなく、対象の循環系に入り、代謝およびその他の同様のプロセスを受ける。
【0330】
疾患または状態の治療用組成物を使用した治療法の有効性は、熟練した臨床医によって決定することができる。しかしながら、疾患の徴候、症状またはマーカーのいずれか1つまたはそのすべてが改善または緩和された場合に、治療が有効であると見なされる。また、入院または医療的介入の必要性による評価から、個体の悪化が止まったことを判断することによっても有効性を測定することができる(たとえば、疾患の進行が停止するか、少なくとも遅くなる)。これらの指標を測定する方法は、当業者に知られており、かつ/または本明細書に記載されている。治療は、個体または動物(一例としてヒトまたは哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない)における疾患のあらゆる治療を含み、(1)疾患の抑制、たとえば症状の進行の停止もしくは遅延、または(2)疾患の緩和、たとえば症状の退行の誘導、および(3)症状の発症の予防もしくは症状の発症の可能性の低下を含む。
【0331】
組成物
一態様において、本開示は、本明細書で開示された方法を実施するための組成物を提供する。組成物は、ゲノム標的化核酸(たとえばgRNA);部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)または該部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;および本明細書で開示される方法による所望の遺伝子組換えを達成するために挿入されるポリヌクレオチド(たとえばドナー鋳型)のうちの1つ以上を含むことができる。
【0332】
いくつかの実施形態において、組成物は、ゲノム標的化核酸(たとえばgRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0333】
いくつかの実施形態において、組成物は、部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0334】
いくつかの実施形態において、組成物は、ゲノムに挿入されるポリヌクレオチド(たとえばドナー鋳型)を含む。
【0335】
いくつかの実施形態において、組成物は、(i)ゲノムを標的とする核酸(たとえばgRNA)をコードするヌクレオチド配列、および(ii)部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)、または該部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0336】
いくつかの実施形態において、組成物は、(i)ゲノムを標的とする核酸(たとえばgRNA)をコードするヌクレオチド配列、および(ii)ゲノムに挿入されるポリヌクレオチド(たとえばドナー鋳型)を含む。
【0337】
いくつかの実施形態において、組成物は、(i)部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)、または該部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および(ii)ゲノムに挿入されるポリヌクレオチド(たとえばドナー鋳型)を含む。
【0338】
いくつかの実施形態において、組成物は、(i)ゲノムを標的とする核酸(たとえばgRNA)をコードするヌクレオチド配列、(ii)部位指向性ポリペプチド(たとえばDNAエンドヌクレアーゼ)、または該部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および(iii)ゲノムに挿入されるポリヌクレオチド(たとえばドナー鋳型)を含む。
【0339】
前記組成物のいずれかの実施形態のいくつかでは、該組成物は、単一分子ガイドを使用したゲノム標的化核酸を有する。前記組成物のいずれかの実施形態のいくつかでは、該組成物は、二分子ガイドを使用したゲノム標的化核酸を有する。前記組成物のいずれかの実施形態のいくつかでは、該組成物は、二分子ガイドまたは単一分子ガイドを2つ以上有する。いくつかの実施形態において、前記組成物は、核酸を標的とする核酸をコードするベクターを有する。いくつかの実施形態において、前記ゲノム標的化核酸は、DNAエンドヌクレアーゼ、特にCas9である。
【0340】
いくつかの実施形態において、組成物は、ゲノム編集、特にネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよびCISCをコードする配列の細胞ゲノムへの挿入に使用することができる1つ以上のgRNAを含むことができる。前記1つ以上のgRNAは、内在性FOXP3遺伝子上のゲノム部位、内在性FOXP3遺伝子内のゲノム部位、または内在性FOXP3遺伝子の近傍のゲノム部位を標的とすることができる。したがって、いくつかの実施形態において、前記1つ以上のgRNAは、FOXP3遺伝子上のゲノム配列に相補的なスペーサー配列、FOXP3遺伝子内のゲノム配列に相補的なスペーサー配列、またはFOXP3遺伝子の近傍のゲノム配列に相補的なスペーサー配列を有することができる。
【0341】
いくつかの実施形態において、組成物用のgRNAは、配列番号40~57に示されるスペーサー配列、ならびに配列番号40~57のいずれか1つと少なくとも50%または少なくとも約50%、少なくとも55%もしくは少なくとも約55%、少なくとも60%もしくは少なくとも約60%、少なくとも65%もしくは少なくとも約65%、少なくとも70%もしくは少なくとも約70%、少なくとも75%もしくは少なくとも約75%、少なくとも80%もしくは少なくとも約80%、少なくとも85%もしくは少なくとも約85%、少なくとも90%もしくは少なくとも約90%、または少なくとも95%もしくは少なくとも約95%の同一性または相同性を有するバリアントのうちのいずれか1つから選択されるスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態において、キット用のgRNAのバリアントは、配列番号40~57のいずれか1つと少なくとも85%または少なくとも約85%の相同性を有するスペーサー配列を含む。
【0342】
いくつかの実施形態において、組成物用のgRNAは、ゲノム中の標的部位に相補的なスペーサー配列を有する。いくつかの実施形態において、前記スペーサー配列は、15塩基長~20塩基長である。いくつかの実施形態において、前記スペーサー配列とゲノム配列の間の相補性は、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または少なくとも約100%である。
【0343】
いくつかの実施形態において、組成物は、DNAエンドヌクレアーゼもしくは該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、および/またはネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよびCISCをコードする核酸配列を有するドナー鋳型を有しうる。いくつかの実施形態において、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよびCISCをコードする前記核酸配列は、配列番号3~4、8、28~30、32および37~39に示される配列と、少なくとも70%または少なくとも約70%の配列同一性を有し、たとえば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくともそれ以上、または少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは少なくともそれ以上の配列同一性を有する。いくつかの実施形態において、ネイキッドなFRBドメインポリペプチドおよびCISCをコードする前記核酸配列は、配列番号32に示される配列と、少なくとも70%または少なくとも約70%の配列同一性を有し、たとえば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくともそれ以上、または少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは少なくともそれ以上の配列同一性を有する。いくつかの実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。いくつかの実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAまたはRNAである。
【0344】
いくつかの実施形態において、キット用の核酸の1つ以上は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、gRNAは、AAVベクターにコードすることができる。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、AAVベクターにコードすることができる。いくつかの実施形態において、ドナー鋳型は、AAVベクターにコードすることができる。いくつかの実施形態において、2つ以上の核酸を単一のAAVベクターにコードすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNA配列を単一のAAVベクターにコードすることができる。
【0345】
いくつかの実施形態において、組成物は、リポソームまたは脂質ナノ粒子を有することができる。したがって、いくつかの実施形態において、前記組成物のどのような化合物(たとえば、DNAエンドヌクレアーゼまたは該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、gRNAおよびドナー鋳型)であっても、リポソームまたは脂質ナノ粒子に内包化して製剤化することができる。いくつかの実施形態において、そのような化合物の1つ以上は、共有結合または非共有結合を介してリポソームまたは脂質ナノ粒子と結合している。いくつかの実施形態において、前記化合物のいずれかは、別々または一緒にリポソームまたは脂質ナノ粒子に内包化することができる。したがって、いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼまたは該DNAエンドヌクレアーゼをコード化する核酸、gRNAおよびドナー鋳型のそれぞれは、別々にリポソームまたは脂質ナノ粒子に内包化して製剤化される。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、gRNAと一緒にリポソームまたは脂質ナノ粒子に内包化して製剤化される。いくつかの実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼまたは該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、gRNAおよびドナー鋳型は、一緒にリポソームまたは脂質ナノ粒子に内包化して製剤化される。
【0346】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、1種以上のさらなる試薬をさらに有し、このようなさらなる試薬は、緩衝液、細胞にポリペプチドまたはポリヌクレオチドを導入するための緩衝液、洗浄緩衝液、コントロール試薬、コントロールベクター、コントロールRNAポリヌクレオチド、インビトロでDNAからポリペプチドを作製するための試薬、シーケンシング用アダプターなどから選択される。緩衝液は、安定化緩衝液、再構築用緩衝液、希釈緩衝液などであってもよい。いくつかの実施形態において、組成物は、オンターゲットな結合の促進または増強、エンドヌクレアーゼによるDNAの切断、または標的化特異性の向上に使用される1つ以上の構成要素をさらに含むことができる。
【0347】
いくつかの実施形態において、組成物の構成要素のいずれかは、特定の投与方法および剤形に応じて、担体、溶媒、安定剤、アジュバント、希釈剤などの薬学的に許容される添加剤とともに製剤化される。実施形態において、ガイドRNA組成物は、通常、生理学的に適合性のあるpHを達成するように製剤化され、生理学的に適合性のあるpHは、製剤および投与経路に応じて、3~11もしくは約3~約11、または3~7もしくは約3~約7の範囲である。いくつかの実施形態において、前記pHは、pH5.0~pH8の範囲またはpH約5.0~pH約8の範囲に調整される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、本明細書に記載の少なくとも1種の化合物の治療有効量と、1種以上の薬学的に許容される添加剤とを有する。場合によって、前記組成物は、本明細書に記載の化合物の組み合わせを有することができ、または細菌増殖の処置または予防に有用な第2の有効成分(たとえば、抗菌剤または抗微生物剤が挙げられるが、これらに限定されない)を含むことができ、または本開示の試薬の組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態において、gRNAは、1種以上の別の核酸、たとえば、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸および/またはドナー鋳型とともに製剤化される。別法として、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸およびドナー鋳型は、それぞれ別々にまたは別の核酸と組み合わせて、gRNA製剤について前述した方法で製剤化される。
【0348】
好適な添加剤として、たとえば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸コポリマー、不活性ウイルス粒子などの、代謝の進行が緩慢な巨大分子を含む担体分子が挙げられる。その他の典型的な添加剤として、酸化防止剤(たとえばアスコルビン酸が挙げられるが、これに限定されない)、キレート剤(たとえばEDTAが挙げられるが、これに限定されない)、炭水化物(たとえばデキストリン、ヒドロキシアルキルセルロース、およびヒドロキシアルキルメチルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない)、ステアリン酸、液体(たとえば油、水、生理食塩水、グリセロール、およびエタノールが挙げられるが、これに限定されない)、湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝物質などが挙げられる。
【0349】
いくつかの実施形態において、組成物の化合物のいずれか(たとえば、DNAエンドヌクレアーゼまたは該DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、gRNAおよびドナー鋳型)は、化学的トランスフェクション(たとえばリポフェクション)またはエレクトロポレーションなどのトランスフェクションにより細胞に送達することができる。いくつかの実施形態において、細胞に提供する前に、DNAエンドヌクレアーゼをgRNAとあらかじめ複合体化させ、リボ核タンパク(RNP)複合体を形成することができる。いくつかの実施形態において、前記RNP複合体は、トランスフェクションにより細胞に送達される。このような実施形態において、前記ドナー鋳型は、トランスフェクションにより細胞に送達される。
【0350】
いくつかの実施形態において、「組成物」は、エクスビボでの治療法で使用される治療用細胞を含む治療用組成物を指す。
【0351】
実施形態において、治療用組成物は、細胞組成物と生理学的に許容される担体とを含み、有効成分として該組成物中に溶解または分散される本明細書に記載の少なくとも1種のさらなる生物活性剤を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、治療用組成物は、治療目的で哺乳動物またはヒト対象に投与する場合、免疫原性が所望される場合を除き、実質的に免疫原性を有さない。
【0352】
通常、本明細書に記載の遺伝子組換え治療用細胞は、薬学的に許容される担体を含む懸濁液として投与される。当業者であれば、細胞組成物に使用される薬学的に許容される担体は、対象に送達される細胞の生存能力を実質的に阻害するような量の緩衝液、化合物、凍結保存剤、防腐剤またはその他の薬剤を含まないことを理解できるであろう。細胞を含む製剤は、たとえば、細胞膜の完全性を維持させる浸透圧緩衝液を含んでいてもよく、場合によっては、投与時に細胞の生存能力を維持するか、細胞の生着を増強するための栄養素を含んでいてもよい。このような製剤および懸濁液は、当業者に知られており、かつ/または日常的な実験を使用して、本明細書に記載に従って前駆細胞との使用に適合させることができる。
【0353】
いくつかの実施形態において、細胞組成物は、乳化操作によって細胞の生存能力に悪影響が及ばない限り、乳化することができ、あるいはリポソーム組成物として提供することができる。細胞およびその他の有効成分は、本明細書に記載の治療方法での使用に適した量で、薬学的に許容されかつ有効成分と適合性のある1種以上の添加剤と混合することができる。
【0354】
細胞組成物に含まれるさらなる薬剤として、細胞組成物中の構成要素の薬学的に許容される塩が挙げられる。薬学的に許容される塩として、たとえば塩酸やリン酸などの無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸により形成される酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基で形成される)が挙げられる。また、遊離カルボキシル基で形成される塩は、たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、鉄水酸化物などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
【0355】
生理学的に許容される担体は当技術分野でよく知られている。典型的な液体担体は、有効成分および水以外の材料を含まない滅菌水溶液、または生理学的pH値のリン酸ナトリウムなどの緩衝液もしくは生理食塩水、またその両方を含む滅菌水溶液(リン酸緩衝生理食塩水など)である。さらに、水性担体は、1種類以上の緩衝塩、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの塩、デキストロース、もしくはポリエチレングリコールまたはその他の溶質を含むことができる。また、液体組成物は、水に加えて別の液相を含んでいてもよく、あるいは水を除去して別の液相を含んでいてもよい。このような別の液相の例として、グリセリン、綿実油などの植物油、および水-油乳剤が挙げられる。特定の障害または状態の治療に有効な細胞組成物に使用される活性化合物の量は、その障害または状態の特性に応じて異なり、公知の臨床技術によって決定することができる。
【0356】
キットおよびシステム
本明細書において提供および記載される細胞、発現ベクターおよびタンパク質配列と、これらを製造および使用するための説明書を含むキットおよびシステムを提供する。したがって、たとえば、本明細書に記載のタンパク質配列、本明細書に記載の発現ベクター、および/または本明細書に記載の細胞のうちの1つ以上を含むキットを提供する。また、ラパマイシン耐性細胞の内部へと選択的にシグナルを活性化させるシステムであって、本明細書に記載の細胞を含み、該細胞が、本明細書に記載の発現ベクターを含み、該発現ベクターが、本明細書に記載のタンパク質配列をコードする核酸を含むことを特徴とするシステムを提供する。
【0357】
いくつかの実施形態は、本明細書に記載のゲノム編集用のCRISPR/Casシステムの1つ以上の構成要素を含むキットを提供する。
【0358】
いくつかの実施形態において、キットは、たとえばゲノム編集または細胞療法などの所望の目的のために、キット内の別の組成物と同時または連続して投与することができる1つ以上のさらなる治療剤を有していてもよい。
【0359】
いくつかの実施形態において、キットは、キットの各構成要素を使用して前記方法を実施するための説明書をさらに含んでいてもよい。前記方法を実施するための説明書は、通常、適切な記録媒体に記録される。たとえば、前記説明書は、紙やプラスチックなどの基材に印刷されていてもよい。前記説明書は、前記キットまたはその構成要素を入れた容器のラベル(たとえば包装または副包装に貼付されたラベル)に記載された添付文書として前記キット中に含まれていてもよい。また、前記説明書は、適切なコンピューター可読記憶媒体(たとえばCD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブなど)上の電子記憶データファイルとして含まれていてもよい。場合によっては、実際の説明書がキットに含まれておらず、リモートソースから(インターネットなどを介して)説明書を取得するための手段を提供することができる。この実施形態の一例として、説明書を閲覧および/またはダウンロードすることが可能なウェブアドレスを含むキットが挙げられる。説明書と同様に、該説明書を入手するための前記手段は、適切な基材上に記録することができる。
【0360】
本明細書で使用されている複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
【0361】
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(たとえば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(たとえば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。
【0362】
第1の態様から第11の態様で述べた実施形態の特徴はいずれも、本明細書に記載のあらゆる態様および実施形態に適用可能である。さらに、第1の態様から第11の態様において述べた実施形態の特徴はいずれも、その一部または全体がそれぞれ独立して、本明細書に記載のその他の実施形態とどのようにでも組み合わせることができ、たとえば、1つ、2つ、3つまたはそれ以上の実施形態の全体またはその一部を組み合わせてもよい。さらに、第1の態様から第11の態様において述べた実施形態の特徴はいずれも、その他の態様または実施形態において任意の特徴として採用してもよい。典型的な様々な実施形態および実施例に関して様々な特徴、態様および機能を述べてきたが、個々の実施形態で述べた様々な特徴、態様および機能は、それらが記載された特定の実施形態における適用に限定されず、また、具体的な実施形態が記載されているかどうか、具体的な特徴が本発明の実施形態の一部として提示されているかどうかにかかわらず、個々の実施形態に記載した様々な特徴、態様および機能は、本願の別の実施形態の1つ以上に適用するために、単独で使用してもよく、様々に組み合わせて使用してもよい。したがって、本発明の範囲は、前述した典型的な実施形態によって限定されるものではない。
【0363】
本明細書に記載の実施例および実施形態は、説明のみを目的としたものである。これらの実施例および実施形態を様々に修正したり変更したりできることが当業者に示唆されており、これらの修正および変更は、本願の要旨および範囲ならびに添付の請求項の範囲に含まれる。本明細書に引用された出版物、特許および特許出願は、いずれも参照によりその全体があらゆる目的で本明細書に援用される。
【0364】
本明細書で提供した開示に関するいくつかの実施形態を、以下の実施例によってさらに説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0365】
別段の記載がない限り、本発明は、当業者によく知られている分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学および免疫学における従来の技術を使用して実施される。このような技術は、Sambrook, J., & Russell, D. W. (2012).;Molecular Cloning: A Laboratory Manual (4th ed.). Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory and Sambrook, J., & Russel, D. W. (2001).;Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.). Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory (jointly referred to herein as "Sambrook"); Ausubel, F. M. (1987).Current Protocols in Molecular Biology New York, NY: Wiley (including supplements through 2014);Mullis, K. B., Ferre, F. & Gibbs, R. (1994).PCR: The Polymerase Chain Reaction, Boston: Birkhauser Publisher; Harlow, E., & Lane, D. (1999).Antibodies: A Laboratory Manual (2nd ed.). New York, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press; Beaucage, S. L. et al. (2000).Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, New York, NY: Wiley, (including supplements through 2014); and Makrides, S. C. (2003).Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells Amsterdam, NL: Elsevier Sciences B.V.).などの文献において十分に説明されている。
【0366】
実施例1:DISCコンストラクトの作製および特性評価
本実施例は、宿主細胞の細胞質内においてネイキッドな「デコイ」FRBドメインを細胞内で発現させるための、CISCをコードするレンチウイルスコンストラクトの作製および試験について述べる。
【0367】
IL-2のシグナルを調節するためのCISC含有レンチウイルスコンストラクトを、CISCキメラ受容体タンパク質の3’側に位置するさらなるネイキッドなFRB*ドメインで改変した(
図1)。CISCとともにネイキッドなFRB*ドメインをさらに発現するコンストラクトを「デコイ-CISC」または「DISC」と命名した。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、ネイキッドなFRBドメインは、ラパマイシンへの結合に対してmTORの内在性FRBドメインと競合し、その結果、ラパマイシンの作用に付随する細胞傷害性を宿主細胞に対して起こすことなく、CISCを介したラパマイシン媒介性細胞内シグナル伝達を生じ、それによって、細胞増殖が抑制されるという問題を克服することができると考えられる。
【0368】
図2に示すように、FKBPドメイン含有タンパク質は、細胞の細胞質内で天然に発現されており、mTORはFRBドメインを含んでいる。ラパマイシンの不在下では、CISCサブユニットは二量体化せず、細胞内mTORは通常のシグナル伝達を行う(左パネル)。ラパマイシンの存在下では、CISCサブユニットが二量体化し、細胞内シグナルを伝達するが、mTORシグナルが抑制され、細胞増殖が制限される(中央パネル)。ネイキッドなFRBドメインが共発現されたDISC細胞においても、ラパマイシンにより誘導された二量体化によって細胞内シグナルが伝達されるが、細胞内で発現されたネイキッドなFRBポリペプチドおよび内在性FKBPポリペプチドが細胞内ラパマイシンに結合するため、mTORタンパク質の多くは通常どおりにシグナルを伝達することができる。
【0369】
次に、新規DISCコンストラクトが、ネイキッドな細胞内FRBドメインを発現しないCISCコンストラクトと比較して、宿主細胞の増殖および生存能力の維持に対してどのように機能するのかを調べるために試験を行った。簡潔に述べると、単離したCD4+T細胞を61時間かけて活性化し、単離した細胞の総数を1.9×107個まで増やした。次に、24ウェルディッシュにおいて、ビーズの非存在下で4μg/mlの硫酸プロタミンを加えてレンチウイルスによる形質導入を行った(1ウェルあたり500μL中100万個の細胞、10μlのコンストラクト#1272(CISCのみのコンストラクト)または10μlのDN-1272(DISCを含むコンストラクト))(2ウェル/LV)。スピノキュレーションを800×g、32℃で30分間行った。5時間インキュベーションした後、培地(1.5mL)を加えた。形質導入したT細胞を、サイトカイン(IL-2 50ng/ml、IL-7 5ng/mlおよびIL-15 5ng/ml)の存在下において37℃で48時間インキュベートし、形質導入効率を検証した。次に、24ウェルディッシュに入れた2mLの培地中に100万個/ウェルの密度で播種した。次に、ラパマイシン(0.1nM、1 nMもしくは10nM)、ラパログAP21967(100nM)またはIL-2(50ng/mL)でT細胞を処理し、2日ごとに培地を交換した。この実験では、培地のみの「無処理」群も含めた。次に、T細胞の生存能力とmCherryの陽性シグナルを評価した。
【0370】
図3に示すように、ラパマイシンの存在下では、DISCを発現するT細胞は、すべての用量において、CISCを発現するT細胞よりも良好に拡大増殖する。この結果から、ラパマイシンまたはラパマイシン関連化合物が宿主細胞の増殖および生存能力に与える負の作用をDISCコンストラクトによって緩和できることが示され、これによって、DISCコンストラクトの概念が実証された。CISCコンストラクトおよびDISCコンストラクトはいずれも、ラパログが内在性mTorに結合しないため、ラパログAP21967の存在下においても同様に良好な拡大増殖が認められた。
【0371】
実施例2:DISCの改変されたCISC構成要素
本実施例では、DISCコンストラクトのCISC構成要素の改変された受容体タンパク質の作製について述べる。コンピューターを使用したタンパク質のモデリングでは、DISCコンストラクトのCISC構成要素の2つの受容体タンパク質間の間隔が空いていると最適ではない可能性が予測されている。したがって、キメラ受容体タンパク質の特定のセクション(たとえば、細胞外ドメインと膜貫通ドメインの間の境界)の長さを変更することによって、増殖シグナルを増加させることができるか否かについて試験するためにさらなるコンストラクトをいくつか作製した。
【0372】
様々なアミノ酸を付加してバージョン4~7(V4~V7)を作製し、これらがラパマイシンの存在下でT細胞の拡大増殖を改善するか否かを確認した。4つのペアのFRB-IL2Rβ/FKBP-IL2Rγ受容体タンパク質(V4~V7)をさらに作製した。これらのV4~V7には、PAALスペーサーのアミノ酸配列および/またはGGSリンカーもしくはGGSPリンカーのアミノ酸配列の1つ以上が含まれていた。さらなるスペーサーおよびリンカーのアミノ酸配列は、細胞外のFRB/FKBPドメインとIL2Rβ/IL2Rγドメインの間の境界、またはIL2Rβドメイン内に配置した(
図4)。標準的なDISCであるV3は、FRB、FKBP、IL2RβおよびIL2Rγを有する。V4は、FRB、FKBP、IL2RβおよびIL2Rγを有し、IL2RβのN末端にPAALスペーサーを有する。V5は、FRB、FKBP、IL2Rβ、IL2Rγ、GGSリンカーおよびPAALスペーサーを有し、IL2RβのN末端にリンカーおよびPAALスペーサーが配置されている。V6は、FRB、FKBP、IL2Rβ、IL2Rγ、PAALスペーサーおよびGGSPリンカーを有し、IL2RβのN末端にPAALスペーサーが配置されており、IL2RγのN末端にGGSPリンカーが配置されている。V7は、FRB、FKBP、IL2RβおよびIL2Rγを有し、IL2RβがGGSリンカーおよびPAALスペーサーを有し、IL2RγがGGSPリンカーを含んでいる。
【0373】
新規なDISCコンストラクト(V4~V7)を構築後、これらのDISCコンストラクトが、実施例1に記載の最初に作製したDISCコンストラクトと比較して、ラパマイシンの存在下で細胞増殖および生存能力を改善するか否かを調べるために試験を行った。初代ヒトT細胞においてこれらの新規DISC構造を試験するために使用した操作のタイムラインは以下のとおりである。PBMC3を解凍し、その約24時間後にCD4細胞の単離とCD3/CD28ビーズによる刺激を行った。約61時間後にビーズを除去した。レンチウイルスを用いたスピノキュレーションを全量500μLにて800×gで行い、サイトカインを添加した培地1.5mLを加えた。形質導入細胞を、(1)1nMのラパマイシン、(2)50ng/mLのIL-2、(3)100nMのAP21967および(4)処理なしの4つの処理コホートに分割し、2日後、4日後、11日後、15日後および20日後に、フローサイトメトリーによるmCherryの共発現と総細胞数の計数によって形質導入細胞の増殖をモニターした。
【0374】
ラパマイシンで処理した48時間後にT細胞の拡大増殖を測定したフローサイトメトリー試験の結果を以下の表1に示す。mCherryを共発現した細胞のパーセンテージを示し、この結果から、各コホートにおけるコンストラクトの形質導入効率が同程度であったことが示された。以下の表1Bに示すように、最初に作製したDISCコンストラクト(V3)と比べて、改変したDISCコンストラクトはいずれも同程度の形質導入効率を示した。
【0375】
【0376】
同様に、
図5に例示するように、1nMのラパマイシンで処理してから20日後まで、すべての時点において、すべてのバージョンのDISCで同じ細胞数が観察された。さらに、
図6に詳しく示すように、レンチウイルスで形質導入したT細胞をラパマイシンまたはラパログで処理して培養した場合の濃縮率(%)を経時的に測定したところ、mCherry
+細胞のパーセンテージは、IL-2処理コントロールまたは非処理(NT)コントロールと比べて、すべてのLV処理群において同程度であったことが示された。したがって、本実施例では、改変DISCコンストラクトの試験したすべてのバージョンが、形質導入効率、細胞の増殖および拡大増殖、ならびに形質導入細胞の濃縮に関して同程度に機能したことが示された。
【0377】
実施例3:μDISCコンストラクトの作製および特性評価
遺伝子編集で生じうる問題の1つとして、送達ベクター(たとえばウイルス)にパッケージにすることが可能な物資の量に制限があることが挙げられる。本実施例では、ラパマイシンを用いた処理により増殖を制御するために、T細胞に組換え導入されるCISC結合ペアの一方のIL2Rβ細胞質内要素の改変について述べる。行った改変は、ラパマイシンに結合後のヘテロ二量体化に応答して下流のIL2のシグナル伝達イベントを活性化する能力が保持されたIL2Rβドメイン切断である。
【0378】
この改変は、宿主細胞へのCISC構成要素および/またはDISC構成要素の送達に使用されるウイルスにパッケージする必要のある遺伝物質の量を削減する目的で行った。この改変は、IL2Rβ内の必須のシグナル伝達ドメインが同定されている過去の報告に基づいて行った(Lord, J. D. et al. (2000). J. Immunol., 164(5):2533-2541、この文献は引用により本明細書に援用される)。次に、この情報を使用して、IL2Rβドメインから非必須アミノ酸を欠失させた。この切断型IL2Rβドメインと実施例1に記載の細胞内で発現されるネイキッドなFRBドメインを組み込んで作製したコンストラクトを「マイクロDISC」または「μDISC」と呼ぶ(
図7)。
【0379】
次に、最初に作製したCISCコンストラクト、実施例1のDISCコンストラクトおよびμDISCコンストラクトを細胞に形質導入し、ラパマイシンで処理した後の、T細胞の拡大増殖を誘導するそれぞれの能力を調べるために試験を行った。初代ヒトT細胞において新規μDISCコンストラクトを試験するために使用した操作のタイムラインは以下のとおりである。PBMCを解凍し、その約2時間後にCD4細胞の単離とCD3/CD28ビーズによる刺激を行った。約24時間後にビーズを除去した。V3 CISC、V3 DICSおよびV3 μDISCをコンストラクトとして使用したレンチウイルスによる形質導入を約100万個の細胞に対して行った。次に、形質導入細胞を約1日拡大増殖させ、(1)1nMのラパマイシン、(2)5nMのラパマイシン、(3)10nMのラパマイシンの3つの処理コホートに分割した。処理ごとに約40万個の細胞を使用した。フローサイトメトリーによるmCherryの共発現と総細胞数の計数によって形質導入細胞の増殖をモニターした。
【0380】
ウイルス形質導入効率を以下の表2に示す。DISCコンストラクトで形質導入したT細胞およびμDISCコンストラクトで形質導入したT細胞において、10nMのラパマイシンの存在下で、同程度のウイルス形質導入効率が観察された。mCherryを共発現した細胞のパーセンテージを示し、この結果から、各コホートにおけるコンストラクトの形質導入効率が同程度であったことが示された。
【表3】
【0381】
図8は、使用したすべてのラパマイシン濃度において、μDISCコンストラクトで形質導入したT細胞が、DISCコンストラクトの全長を形質導入したT細胞の拡大増殖よりもわずかに少なかったものの、同様に拡大増殖したことを示す。この結果から、μDISCコンストラクトは、T細胞の増殖および拡大増殖に十分なIL2Rシグナルを提供することが示された。
【0382】
図9に示すように、DISCレンチウイルスコンストラクトで処理した細胞およびCISCレンチウイルスコンストラクトで処理した細胞を9日間培養したところ、mCherry
+細胞のパーセンテージは同程度となった。μDISCコンストラクトを形質導入したT細胞では、mCherry
+のパーセンテージがわずかに少なかったものの(μDISCコンストラクトで約80%に対し、DISCコンストラクトまたはCISCコンストラクトで約90%)、高度に濃縮されていた。
図10は、様々な用量のラパマイシンを添加して21日間培養した後の、LVで形質導入した(mCherry
+)細胞数の拡大増殖倍率を示す。したがって、本実施例では、μDISCコンストラクトで形質導入した細胞において、ラパマイシンを介したT細胞の拡大増殖は同程度となった。このμDISCは、遺伝子導入実験または治療的処置に使用されるウイルスに、さらなる遺伝子エレメントまたはマーカーをパッケージするためのさらなるスペースを有するというさらなる利点がある。
【0383】
実施例4:FOXP3遺伝子座にDISCコンストラクトを標的化組み込みした細胞の作製および特性評価
本実施例は、CD4+T細胞の内在性FOXP3(フォークヘッドボックスP3)遺伝子座の上流に、DISCおよびプロモーターをコードするコンストラクトをノックインするための遺伝子編集技術の使用について説明する。
図11は、この実験で使用した実験プロトコルを概略的に示す。簡潔に述べると、FOXP3のエキソン1の5’側の遺伝子座に特異的なガイドRNA(gRNA)を含むCRISPR/CAS9リボ核タンパク質を、FOXP3遺伝子編集用のアデノ随伴ウイルス6(AAV6)ドナー鋳型と組み合わせて使用した。このgRNAは、配列番号58の配列を有するスペーサーを含んでいた。内在性FOXP3の上流でDISCの発現を誘導するため、異所性MNDプロモーターを導入した。FOXP3の発現は、N末端のヘマグルチニン(HA)エピトープタグおよび核局在化配列とインフレームになるように設計し、キメラタンパク質を産生させた。
【0384】
以下の表3に示すように、ラパマイシンまたはAP21967を含む培養において、前述のDISCを発現する編集されたT
reg細胞を選択的に拡大増殖させた。本実験では、培地のみ、またはIL-2、ラパマイシンもしくはラパログAP21967を添加してT細胞を培養した後、APC標識抗HAタグおよびPE標識抗FOXP3+で細胞を標識した。各コホートにおけるダブルポジティブ細胞(HA-FOXP3を発現)のパーセンテージを以下に示す。
【表4】
【0385】
さらに、以下の表4に示すように、制御性T細胞マーカーの存在を分析したところ、DISCを発現する編集されたT
reg細胞は、FOXP3、CTLA、LAG3およびICOSを発現し、CD25を比較的高発現し、かつCD127を比較的低発現するというT細胞マーカーの発現が認められたことから、T
reg細胞に予想される表現型に一致した表現型を有していた。各コホートにおける、シングルポジティブ細胞(T細胞マーカーのみを発現)およびダブルポジティブ細胞(T細胞マーカーおよびFOXP3を発現)のパーセンテージを以下に示す。
【表5】
【0386】
次に、実施例3に記載のμDISCコンストラクトまたはDISCコンストラクトを挿入した
図12に示すコンストラクトを使用して、CD4+T細胞の内在性遺伝子を編集した。この実験では、MNDプロモーターによって、HAタグを付加した内在性FOXP3遺伝子の上流のDISC/μDISCの発現を誘導した。
【0387】
以下の表5に示すように、μDISCで編集したT
reg細胞およびDISCで編集したT
reg細胞は、ラパマイシンの存在下で同程度に選択的に濃縮されている。予想したとおり、IL-2または培地のみでは、HA-FOXP3発現画分は濃縮されなかった。表5に、各コホートにおけるダブルポジティブ細胞(DISC/μDISCおよびHA-FOXP3を発現する編集された細胞)のパーセンテージを示す。
【表6】
【0388】
これらのデータから、DISCコンストラクトおよびμDISCコンストラクトはいずれも、T細胞の遺伝子編集と、ラパマイシンの存在に依存した該遺伝子編集T細胞の拡大増殖に使用できることが示された。
【0389】
実施例5:DISC細胞の拡大増殖の最適化
本実施例は、DISCコンストラクトを使用して、同じ培養物中の未編集細胞よりもedTreg細胞を選択的に拡大増殖させた実験について述べる。この実験は、ラパマイシンにより濃縮された集団が得られると、T細胞の拡大増殖が増強されることを原理とした。通常、DISC FOXP3 AAVドナー鋳型を使用して初代ヒトCD4+T細胞の編集を行うと、編集に成功した細胞(DISC edTreg)と編集されていない細胞の混合細胞集団が得られる。培養においてFOXP3発現Treg細胞は、通常のT細胞よりもゆっくりと増殖する。したがって、IL-2の存在下では、混合培養中のTreg細胞のパーセンテージは急速に減少する。ラパマイシンの存在下かつIL-2の非存在下で混合細胞集団を培養すると、編集された細胞を濃縮することができる。一方、TCRシグナルが存在しないと、総細胞数の増加は緩慢となる。したがって、拡大増殖中に抗CD3/CD28ビーズを加えることによって、TCRシグナルを発生させると有用であると考えられる。しかし、編集後にビーズを添加すると、培養物中に存在する未編集細胞も活性化してIL-2が分泌される可能性があり、したがって、組換えIL-2を含まない培地中でラパマイシン処理によりDISC edTregを選択できるという利点がなくなる。この状況下では、FOXP3を発現しない細胞は、FOXP3を発現するDISC edTregよりも早く増殖する。したがって、DISC edTregの数および濃縮率(%)を最適化するためにいくつかの試験を行った。以下で詳述するように、この最適化試験は、二相からなる拡大培養プロトコルおよび三相からなる拡大培養プロトコルの2種のプロトコルを使用して行った。
【0390】
二相からなる拡大培養プロトコル
二相からなる拡大培養プロトコルでは、細胞の拡大増殖を二相で行った。第1相拡大培養では、回復培地中でIL-2(50ng/mL)の存在下または非存在下でラパマイシンによる選択を試験し、その後の第2相拡大培養では、抗CD3/CD28ビーズを添加し、培地からIL-2を除去した。通常、50μg/mLのIL-2および抗ヒトCD3/CD28ビーズを添加したT細胞培地中でヒトPBMCを培養し、-4日目にCD4 T細胞を単離する。-1日目に、CD3/CD28ビーズを除去した。第1相拡大培養(0~9日目)において、CRISPR/Cas9 RNPおよびAAV6を使用して遺伝子編集を行った(典型的なコンストラクトは
図13Aに示す)。後述する3つの拡大増殖コホートに細胞を分割した。2日目にフローサイトメトリーにより、遺伝子編集を評価した。9日目に、さらに2つの拡大増殖コホートに細胞を分割し、ビーズおよびCD3/CD28抗体による刺激を試験した。第2相拡大培養(16日目)の完了後、フローサイトメトリーにより、編集された細胞の濃縮および拡大増殖を評価した。
【0391】
この実験では、μDISC(短縮されたIL2Rβ配列とHAタグを融合したFOXP3)を発現するコンストラクトを使用した。この実験で使用したAAVコンストラクトの構造を
図13Aに示す。このコンストラクトでは、MNDプロモーターによって、マイクロDISCの細胞表面発現とHAタグ付加FOXP3の細胞内発現が誘導される。
【0392】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、第1相拡大培養では、ラパマイシンの存在下においてDISC edTreg/μDISC edTregの選択的な濃縮が促進されることによって、編集された細胞が未編集細胞を打ち負かすことが可能になり、その後の第2相拡大培養において、CD3/CD28による刺激によりDISC edTreg数が拡大すると考えられる。通常、第1相拡大培養は、相同性依存的修復(HDR)、DISCの発現、エレクトロポレーションからの回復、およびCD4+T細胞の拡大培養を含む。(1)50ng/mLのIL-2とラパマイシンのコホート;(2)50ng/mLのIL-2とラパログのコホート;および(3)IL-2なしのラパマイシンのコホートにおいて、回復培地中でのIL-2(50ng/mL)の存在下または非存在下でラパマイシンまたはラパログを試験した。
【0393】
第2相拡大培養では、2回目のCD3/CD28刺激によって、DISC edTregの数が向上するのかを試験した。(1)無添加(ビーズも抗体もなし)のコホート;(2)T細胞エキスパンダービーズを添加したコホート;および(3)可溶性CD3/CD8抗体を添加したコホートを試験して、CD3/CD28エキスパンダービーズと可溶性抗CD3/CD28抗体を比較した。この実験では、培地の半量を除去し、3日目、6日目、8日目、10日目、13日目および15日目に、2倍の濃度のラパマイシン、ラパログまたはIL-2を含む同じ量の培地を補充した。
【0394】
この実験の結果を
図13Bに示す。この結果では、フローサイトメトリーでHA+FOXP3+細胞を読み取って測定したところ、第2相拡大培養中にビーズで刺激した細胞は、総細胞数が最も多くなり、μDISC edT
reg細胞の数も最も多くなったことが観察された。可溶性抗体を用いた刺激でも拡大増殖が増強されたが、その程度は少なかった。第1相拡大培養の培地中にIL-2が存在すると、最終的に得られる細胞数が増加したが、編集された細胞よりも未編集細胞の数が多くなったため、第1相においてIL2の量を制限することが重要であった。最も高いパーセンテージのμDISC edT
regが示されたコホートでは、ビーズ刺激条件に十分な量の細胞がなかったため、第1相拡大培養中にIL-2を添加しなかったが、第2相拡大培養中にビーズで刺激した。これらの実験から、以下の結論が導き出された。(1)ビーズを用いた拡大培養前に、培地中のIL-2量を制限することによって、μDISC edT
regの濃縮が増強される可能性がある。(2)編集後にIL-2を添加すると総細胞収率が上昇した。(3)抗CD3/CD28ビーズは、可溶性CD3抗体と可溶性CD28抗体を使用した場合や刺激なしの場合よりも、細胞の拡大増殖を増強した。
【0395】
三相からなる拡大培養プロトコル
三相の拡大培養プロトコルは、編集直後にIL-2を完全に排除するのではなく、IL-2の量を制限することによって濃縮および細胞収率を向上できるか否かを試験することを目的として設計した。前述した二相からなる拡大培養プロトコルとは異なり、編集直後に短い期間のさらなる拡大培養相(第0相拡大培養;0~3日目)が行われる三相からなる拡大培養プロトコルを設計し、様々な量のIL-2(またはラパマイシンもしくはラパログのみ)を含む培地中で細胞を回復させ、DISCを発現させた。第0相拡大培養後に回収した細胞をG-Rexフラスコに移し、ラパマイシンの存在下で拡大増殖させて(第1相拡大培養;3~10日目)DISC edT
regを濃縮し、その後、抗CD3/CD28ビーズを添加した(第2相拡大培養;10~15日目)。
図13Aに示したものと同じAAVコンストラクトをこの実験で使用した。
【0396】
3日目に、抗FOXP3および抗HAタグで細胞内染色した後(HAタグは、FOXP3とインフレームで融合させて融合タンパク質とした)、フローサイトメトリーを行ったところ、編集後の第0相拡大培養におけるIL-2の濃度とμDISC edT
reg細胞のパーセンテージに直接相関が認められた。以下の表6に結果を示す。編集に成功した細胞は、HA+FOXP3+である(Q2参照)。天然のHA-FOXP3+tT
regおよび/またはFOXP3の発現がアップレギュレートされた活性化T細胞も示す(Q1参照)。
【表7】
【0397】
編集率とIL-2の量の直接相関が観察されたことから、編集後の3日間にわたる拡大培養相(第0相)においてIL-2シグナルがHDRの結果を改善したことが示された。さらに、この時点において、IL-2の非存在下でのラパマイシンは、編集率を回復させないことが観察された。
【0398】
第1相拡大培養後(10日目)、編集に成功した細胞をフローサイトメトリーで評価した。第1相拡大培養後(10日目)のμDISC edT
regの濃縮を示したフローサイトメトリーの結果を以下の表7に示す。
【表8】
【0399】
編集に成功した細胞であるHA+FOXP3+細胞をQ2の列に示す。天然のHA-FOXP3+tTregは、第0相拡大培養において、細胞に50ng/mLのIL-2を添加した場合にのみ確認される(mock編集も含む)。10日目のフローサイトメトリーでは、第0相拡大培養中に高用量のIL-2を添加して培養した細胞は、DISC edTregの濃縮が少ないことが示され、これは恐らく、ある程度のIL-2含有培地が第0相拡大培養から第1相拡大培養の培地に持ち越されたことによると考えられる。この実験では、培養工程全体を通して、ラパマイシンまたはラパログAP21967の存在下で培養した細胞は、最も高い濃縮率を示した。
【0400】
第2相拡大培養の完了後の15日目に実施したフローサイトメトリーの結果を以下の表8に示す。ここでは、第2相拡大培養後のμDISC edT
regの濃縮率が示されている。
【表9】
【0401】
IL-2コホートおよびラパマイシンコホートにおいて、第2相拡大培養後に濃縮の改善が認められたが、第0相拡大培養中に高用量のIL-2の存在下で培養した細胞は、DISC edTregの濃縮は少ないまま留まり、第0相拡大培養中にラパマイシンまたはラパログAP21967の存在下で培養した細胞は、15日目でも最も高い濃縮率を示した。
【0402】
図14Aおよび
図14Bに示したように、第1相拡大培養後(編集後10日目)および第2相拡大培養後(編集後15日目)に細胞数を計数したところ、第0相拡大培養の培地中に50ng/mLのIL-2を添加した場合にFOXP3+が編集されたHA+細胞(ここではμDISC+として示す)の数が最も多くなったことが示された。しかし、この条件では、未編集細胞に対する濃縮率(%)が最も低くなった。第0相拡大培養において5ng/mLのIL-2の存在下で細胞を培養した場合、μDISC edT
regの数はわずかに少なくなったが、μDISC edT
reg集団は、全細胞のほぼ70%を占めていた。したがって、第0相拡大培養において5ng/mLのIL-2を使用すると、μDISC edT
reg細胞の総純度を著しく低下させることなく、μDISC edT
regの総収率が最も良好に最適化されたと結論付けられた。
【0403】
μDISC FOXP3 cDNA edT
reg
に対する三相拡大培養プロトコルの使用
次の実験では、たとえばIPEX(免疫制御異常、多内分泌腺症、腸疾患およびX連鎖性を特徴とする症候群)を有する対象の治療に適用できる可能性のある別の編集用rAAV6ドナーコンストラクトを使用して、同様の三相拡大培養プロトコルを試験した。この実験で使用したrAAV6ドナーコンストラクトは、N末端からC末端の方向に、HAタグ-FOXP3 cDNA-μDISCをコードする配列を含んでいた。この挿入コンストラクトは、組み込まれた後、HA-FOXP3 cDNA融合タンパク質とμDISCを発現するように設計されたものである。短い期間のさらなる拡大培養相(第0相拡大培養;0~3日目)を編集の直後に行うようにプロトコルを設計して、細胞を回復させ、DISCを発現させた。第0相拡大培養後に回収した細胞をG-Rexフラスコに移し、10nMラパマイシンの存在下で拡大増殖させて、編集された細胞を選択して(第1相拡大培養;3~10日目)、DISC edTregを濃縮し、その後、2回目の刺激用の抗ヒトCD3/CD28を添加した(第2相拡大培養;10~17日目)。この実験では、細胞収率を改善するため、第2相拡大培養を17日目まで延長した。
【0404】
前述の三相プロトコルを使用したところ、未編集細胞の拡大増殖よりもμDISC FOXP3 cDNA edTregの拡大増殖が多くなることが認められた。具体的には、3日目から17日目までの培養によって、17日目の時点で編集細胞の数が26倍に拡大し、編集細胞の濃縮率が約78%となった(データ示さず)。また、実験開始時の編集率は約10%であったことが観察され、これは、この検討においてパッケージされたAAVドナーのサイズが大きかったことを反映している可能性があった。
【0405】
最適化されたDISC拡大培養法を使用した細胞の拡大増殖の統合
次に、前記で検討した最適化された三相拡大培養プロトコルを使用して、臨床用AAVドナー候補を編集および拡大増殖に関して試験した。この試験は、三相拡大培養プロトコルの実施後に、未編集細胞の拡大増殖と比較することによって、DISC edTregの拡大増殖率を測定する目的で設計した。この実験のAAVドナーは、複数の自己免疫に使用できるように設計し、DISCエレメントの全長と内在性FOXP3を上流のMNDプロモーターの制御下に配置した。内在性FOXP3に融合されたHAタグを有するAAVドナー(AAVドナー鋳型#3187;配列番号38)、または内在性FOXP3にHAタグが融合されていないAAVドナー(AAVドナー鋳型#3195;配列番号39)を使用した。これらのAAVドナーを使用して編集すると、上流のMNDプロモーターの制御下でのDISCエレメントの全長の発現と内在性FOXP3の発現が認められた。最初の試験ベクター(AAVドナー鋳型#3187;試験1)は、内在性FOXP3に融合されたHAタグを含むAAVコンストラクトを利用しており、これに続く3つの試験(試験2、試験3および試験4)では、臨床的意義がより高いものとして、HAタグを持たないAAVドナー(AAVドナー鋳型#3195)を使用した。この実験では、短い期間のさらなる拡大培養相(第0相拡大培養;0~3日目;5ng/mLのIL-2の存在下)を編集の直後に行うようにプロトコルを設計して、細胞を回復させ、DISCを発現させた。第0相拡大培養後に回収した細胞をG-Rexフラスコに移し、10nMラパマイシンの存在下で拡大増殖させて、編集された細胞を選択して(第1相拡大培養;3~10日目)、DISC edTregを濃縮し、その後、フローサイトメトリーを実施し、抗CD3/CD28ビーズを添加した(第2相拡大培養;10~17日目;10nMのラパマイシンの存在下)。第2相拡大培養完了後の17日目に、フローサイトメトリーを実施して細胞を計数し、凍結した。
【0406】
3日目からビーズを用いた活性化の開始時まで(10~13日目)の編集された細胞(HAタグありまたはなし)の平均拡大増殖倍率は2±1.6倍であり、ビーズ活性化期間中の平均拡大増殖倍率(10~13日目から16~20日目までの平均拡大増殖倍率)は、20.5±5.9倍であったことが示された(2人のドナーを使用した4つの実験の平均値±s.d)(データ示さず)。3日目の開始時の編集率(たとえばFOXP3+P2A+ダブルポジティブ細胞のパーセンテージ)が前述の実験の約2倍といった高い編集率であったことから、これらの実験では、第3相拡大培養の完了後に測定した生細胞ゲートにおいて、一貫して非常に高純度(93.5±2.4%)の最終産物が得られた。
【0407】
実施例6:インビボにおけるμDISC GFP edT
reg
の拡大増殖または生存に対するラパマイシンの効果
本実施例では、μDISCコンストラクトを発現するedT
reg細胞のインビボでの拡大増殖能をラパマイシン処理により試験するために行った実験について述べる。組換えT細胞または拡大培養した天然のT
regは、患者の体内で十分に拡大増殖しないことが多いため、前述の概念は重要である。また、たとえば、いくつかの感染症の症例では、T
regの拡大増殖が望ましくない状況もある。したがって、本明細書で提供されるT
regの特徴を有した組換え細胞の有用な特徴の1つは、インビボで拡大増殖を制御できることである。免疫不全NOD-scid-IL2RgNULL(NSG)マウスにヒト細胞を移植したヒト化マウスモデルを使用して、インビボにおいてラパマイシンがμDISC edT
regの数を増加させることができるか否かを調べるために実験を行った。これらの実験では、μDISCおよび内在性FOXP3の発現がMNDプロモーターによりシス作用性に誘導されるAAVドナーを使用して細胞の編集を行った。このAAVドナー鋳型には、内在性FOXP3のN末端にGFP融合タンパク質が組み込まれていた。GFPで標識されたFOXP3融合タンパク質を使用することにより、インビボの細胞試料中の遺伝子編集細胞の検出を容易とした。この検討で使用した三相拡大培養プロトコルでは、-4日目に、50ng/mLのIL-2の存在下で抗CD3/CD28エキスパンダービーズを添加してCD4+細胞を培養した。-1日目にビーズを除去した。編集直後、5ng/mLのIL-2の存在下で第0相拡大培養(0~3日目)を実施した。さらに、この実験で使用した三相拡大培養プロトコルでは、第0相拡大培養のフローサイトメトリーを実施するタイミングは2日目とした。第0相拡大培養後に回収した細胞をG-Rexフラスコに移し、10nMラパマイシンの存在下で拡大増殖させて、編集された細胞を選択して(第1相拡大培養;3~9日目)、DISC edT
regを濃縮し、その後、フローサイトメトリーを実施し、抗CD3/CD28ビーズを添加した(第2相拡大培養;9~16日目;10nMのラパマイシンの存在下)。2日目、9日目、12日目および16日目にフローサイトメトリーを実施して、編集されたGFP+FOXP3+細胞の拡大増殖をモニターした。以下の表9に示すように、16日目までに最終細胞産物において80%を超えるGFP+編集細胞が観察され、編集細胞の拡大増殖は20倍を超えた。
【表10】
【0408】
第2相拡大培養の完了後の16日目に、後述するように細胞を使用して静脈注射を行った。
【0409】
ラパマイシン結合タンパク質を飽和させるため、NSGマウスをラパマイシンであらかじめ処置してから、血清中にラパマイシンを投与した。以下の表10に示すように、マウスのうちの何匹かには放射線を照射して(放射線照射=200cGy)、インビボの免疫抑制アッセイにおいて使用される放射線照射を模倣した。
【表11】
【0410】
次に、以下の基本手順に従って、μDISC GFP edTreg(またはmock編集した細胞)を静脈内注射した。-4日目から、0.1mg/kgのラパマイシンの腹腔内注射(i.p.)を開始し、21日目まで1日おきに注射を行った。0日目に、放射線照射を行い、μDISC edTregを静脈内注射した。末梢血試料を採取して、ラパマイシン濃度の測定(2日目)またはフローサイトメトリー(7日目、14日目、21日目および28日目)により試験を行い、GFP+edTreg細胞を含む移入したヒトT細胞の表現型およびその数を追跡した。
【0411】
ラパマイシンで処置した場合と溶媒で処置した場合とでμDISC GFP edT
regの拡大増殖を比較するため、NSGマウスへの移植後7日目に採取した末梢血におけるフローサイトメトリーの結果を以下の表11に示す(ゲーティング:hCD45+hCD4+生細胞)。以下の結果では、各コホートの代表的なマウスにおけるヒトT細胞マーカーとGFP+を示している。
【表12】
【0412】
NSGマウスへの移植の7日後におけるμDISC GFP edT
regの拡大増殖を、ラパマイシンで処置した場合と溶媒で処置した場合とで比較するために行ったフローサイトメトリー実験の結果を、さらに
図15Aおよび
図15Bにもまとめる。これらの図のグラフでは、75μLの末梢血試料中におけるGFP+細胞のパーセンテージの平均値±s.d(
図15A)およびGFP+細胞数の平均値±s.d(
図15B)を示す。
【0413】
マウスへの細胞移入から14日後に採取した末梢血におけるフローサイトメトリーの結果を
図16Aおよび
図16Bに示す。14日目に、末梢血試料中のヒトCD45、ヒトCD4、ヒトCD127およびヒトCD25を染色した。両日とも、ヒトCD45+CD4+細胞の大部分はGFP+であった。7日目のプロットでは、T
regに予想されたとおり、GFP+細胞はCD25+CD127-であった。血清試料中のGFP+細胞のパーセンテージおよびGFP+細胞数は、マウスをラパマイシンで処置した場合の方が高かった。
【0414】
これらのマウスにおける末梢血中のμDISC GFP edT
regレベルの追跡を継続して週1回行い、合計で4週間にわたり行った。得られたGFP+細胞のパーセンテージおよびその数を
図17のグラフにまとめた。この実験から、ラパマイシンで処置したマウスは、各時点でμDISC GFP edT
regレベルが高く、細胞移入の2~3週間後にピークを示すと結論付けられた。放射線照射により細胞数がわずかに増加したが、これは恐らく、養子移入されたヒトedT
reg細胞に対するマウス細胞による抗原提示がより多く行われていたことによると考えられる。
【0415】
以上のことから、この検討(たとえば表9~11および
図17に示したデータ)の結果から、DISCプラットフォームバージョンを発現するedT
regは、ラパマイシンを使用してインビボで拡大増殖できることが明確に示された。この結果から、これらのコンストラクトおよび方法は治療に使用することができ、たとえば、このプラットフォームは、自己免疫疾患の治療のための、DISCを発現するedT
reg製剤のインビボでの拡大増殖および補助に有用であるという直接的な証拠が得られた。
【0416】
実施例7:インビボにおけるμDISC GFP edT
reg
拡大増殖または生存に対するラパマイシンの効果の試験
本実施例では、(本発明者らの三相拡大培養プロトコルにおいて概説した細胞製剤の製造工程の一部として)ラパマイシンの存在下でインビトロにおいて拡大増殖させたDISC edT
regが、インビボにおいて機能(たとえばエフェクターT細胞の免疫応答の抑制)を発揮できるか否かを試験した。この試験を行うために本発明者らが使用したモデルでは、最小限の放射線照射を行ったNSGマウスにヒトCD4エフェクターT細胞を注入し、このヒトT細胞を介したマウス組織に対する広範な炎症反応を起こした。この炎症反応はマウスのMHC-IIの発現に依存していることから、このモデルは、移植片対宿主病などで起こる同種T細胞応答を模倣していることが示唆された。天然の自家胸腺由来T
reg製剤および新規edT
reg製剤は、この免疫応答を抑制できることが過去に報告されている。これを踏まえ、本実験で使用するAAVドナー鋳型は、遺伝子編集に成功した細胞の追跡が可能となるHAエピトープをN末端に含むFOXP3融合タンパク質が産生されるように設計した。このAAVドナー鋳型は、MNDプロモーターの誘導により、HAタグ付加FOXP3タンパク質の上流にDISCエレメントを有するカセットを発現した(DISC HA ki edT
regと略称する;ki=ノックイン)。相同組換え修復(HDR)が起こると、このカセットはFOXP3遺伝子座に挿入され、MNDプロモーターを介してDISCと内在性FOXP3の両方を発現する。以下のようにして、三相拡大培養プロトコルを使用して、ヒトT細胞の編集および拡大増殖を行った。-4日目に、50ng/mLのIL-2の存在下で抗CD3/CD28エキスパンダービーズを添加してCD4+細胞を培養した。-1日目にビーズを除去した。編集直後、5ng/mLのIL-2の存在下で第0相拡大培養(0~3日目)を実施した。第0相拡大培養後に回収した細胞をG-Rexフラスコに移し、10nMラパマイシンの存在下で拡大増殖させて、編集された細胞を選択して(第1相拡大培養;3~10日目)、DISC edT
regを濃縮し、その後、フローサイトメトリーを実施し、抗CD3/CD28ビーズを添加した(第2相拡大培養;9~16日目;10nMのラパマイシンの存在下)。第2相拡大培養の完了後の16日目に、細胞を回収し、凍結した。以下の表12に示すように、14日目にフローサイトメトリーを行ったところ、細胞製剤が拡大増殖し、3日目から14日目までHA+FOXP3+細胞が18.4倍に増加し、最終的な細胞の純度は90%を超えたことが示された。
【表13】
【0417】
インビボにおいてDISC HA ki edT
regが、活性化されたCD4エフェクターT細胞を抑制できるか否かを試験するために、さらなる実験を行った。様々なNSGマウスコホートの詳細を以下の表13に示し、静脈内注射による養子移入によってT細胞集団を送達したことを示す。機能的に活性なedT
regのポジティブコントロールとして、LNGFR edT
regを使用した。これらの編集T細胞は、細胞表面上にLNGFRエピトープタグを発現し、FOXP3 cDNAは、このモデルにおいて免疫抑制性であることが過去に示されている。
【表14】
【0418】
この実験において使用した基本手順は以下のとおりである。放射線照射したレシピエントNSGマウスに、静脈内注射によりDISC HA ki edTregまたはmock編集細胞を注入した。3日(edTregを生着させる期間)経過後に、静脈内投与注射によりCD4エフェクターT細胞を送達した。体重の追跡とGvHD症状の採点により、最長で59日間にわたりマウスをモニターした。あらかじめ定義した人道的なエンドポイント(たとえば20%を超える体重減少など)に達した場合、マウスを安楽死させた。
【0419】
mock編集細胞をエフェクターT細胞とともに投与したマウスでは、最も重篤な結果が示され、45日以内にこのコホートのすべてのマウスが死に至った。このコホートは、mock編集細胞がマウス抗原に対して増殖性炎症反応も惹起することから、エフェクターT細胞のみを投与したマウスよりも重篤な状態となった。LNGFRを発現するedT
reg(本発明者らの研究室の別のグループによって免疫抑制性であることが確認されているポジティブコントロール細胞)を投与したマウスまたはDISC HA ki edT
regを投与したマウスでは、Tエフェクターのみの群や、Tエフェクターを投与したmock edT
reg群よりも生存率が改善し、DISC HA ki edT
regを含むedT
regがTエフェクターによる炎症を抑制したことが示された。これらの知見を合わせると、DISCコンストラクトを含むedT
regは、インビボにおいてT
reg様の機能活性を示しうることが明確に示され、このことから、自己免疫疾患の治療法において、編集された同様のT
reg製剤として使用できることが裏付けられた。インビボの免疫抑制モデルのカプランマイヤー生存曲線を
図18に示す。
【0420】
実施例8:抗P2A抗体染色またはddPCRを使用したDISC edT
reg
のHDR率の評価
編集細胞を検出するための抗P2A染色
この実施例では、編集細胞に標識されたエピトープタグや蛍光タンパク質に依存せずに、DISC edTregを追跡でき、かつ混合集団中の編集に成功した細胞の割合を測定できる臨床的に意義のある方法の開発について述べる。GFPやHAなどのタグを使用することによって、培養物またはインビボにおいて編集細胞を高感度かつ定量的に検出することができるが、このようなタグは、タグ自体に対する免疫応答を仲介したり、かつ/またはFOXP3の機能を抑制する可能性があることから、臨床用の細胞製剤において使用すべきではない。
【0421】
本発明者らが開発した新規細胞追跡方法では、P2Aリボソームスキップペプチドの細胞内染色を利用している。AAVドナー配列に複数のP2A配列を組み込んで、DISCエレメントのコード配列とFOXP3開始配列のコード配列とを分離した。相同組換え修復(HDR)により編集した細胞では、P2Aのペプチド配列の一部が、編集細胞のDISCエレメントのC末端に導入される。この実験では、Novus Biologicals社から入手可能な市販のP2A抗体(CGDVEENPGに対するクローン3H4)も使用した。細胞内染色に使用するため、抗P2Aモノクローナル抗体を蛍光色素で標識した。以下の表14に示すように、mock編集細胞の一部はFOXP3を発現したが(この混合細胞集団に含まれる胸腺T
regはFOXP3を発現するため、この結果は予想されたものであった)、P2A抗体でもHAタグ抗体でも染色されなかった。この実験では、編集の3日後に細胞を染色して、細胞内のFOXP3、HAタグおよびP2Aペプチドを検出した。HAタグを含まないAAVドナー鋳型#3195で編集した細胞は、FOXP3およびP2Aの発現量がいずれも高かった。HAタグを導入したAAVドナー鋳型#3187で編集した細胞では、P2A+FOXP3+細胞およびHA+FOXP3+細胞の量が同程度となり、P2A染色とHA染色の間で直接相関があることが示された。したがって、P2A染色を利用することによって、作製されたedT
regの経時的評価および/またはインビボにおけるedT
regの追跡を行うことができる。以下の表14に、各コホートにおけるダブルポジティブ細胞(P2A-FOXP3またはHA-FOXP3を発現)のパーセンテージを示す。
【表15】
【0422】
分子レベルで相同組換え修復(HDR)イベントを定量するためのddPCRアッセイ
臨床用の細胞製剤では、たとえばフローサイトメトリーなどで測定された目的の遺伝子を発現する細胞の割合(%)と、DNAレベルで測定された相同組換え修復イベントの発生率(%)との間の相関性を検証することは有用である。これが有用となる一例として、FOXP3の発現は、遺伝子編集を行わなくても、TCRを刺激することによりエフェクターT細胞においてアップレギュレートされることがあり、さらに、「オフターゲットな」二本鎖切断に挿入されたAAV鋳型もP2A標識タンパク質を発現する可能性があることが挙げられる。これを踏まえ、本発明者らは、混合細胞集団中で相同組換え修復(HDR)イベントを起こしたFOXP3遺伝子のパーセンテージを定量するための高感度な方法を開発した。この節では、ゲノムDNA試料中のHDRイベントを定量するために開発したデジタルドロップレットPCR(ddPCR)アッセイについて説明する。バイオ・ラッド社製のQX200ドロップレットデジタルPCRシステムとバイオ・ラッド社製のddPCR Supermix for probesを使用して標的遺伝子座内のHDRの成功を検出することが可能なプライマーおよびプローブセットを設計した。使用したPCR配列およびプローブプライマーの配列を以下の表15に示す。アニール温度は63℃とした。
【表16】
【0423】
編集の10日後の時点で、P2A抗体染色で測定したフローサイトメトリーの結果に対するddPCRの相対値として算出したHDR率の結果を以下の表16にまとめた。
【表17】
【0424】
これらの実験では、AAV3195(編集1~9)もしくはAAV3187による編集またはmock編集の10日後に、独立した9つのフローサイトメトリー試料を評価し、FOXP3とP2Aの細胞内染色を示した。各コホートにおけるダブルポジティブ細胞(P2A-FOXP3を発現)のパーセンテージを以下に示す。これと並行して細胞からゲノムDNAを単離し、ddPCRアッセイを行った。ddPCRアッセイの結果も示す。フローサイトメトリーで評価した陽性細胞とddPCR値の間で密接な相関性が観察された(たとえば、編集1において、ddPCRで68.9%に対してフローサイトメトリーで61.3%)。したがって、インビトロでDISC edTregの割合を追跡するための第2のアッセイとしてddPCRを使用することができ、この方法は、フローサイトメトリーによるP2A染色とよく相関する。
【0425】
本開示の特定の実施形態を開示してきたが、添付の請求項の真の要旨および範囲内において様々な変更および組み合わせが可能であり、これらが想定される。したがって、本明細書において提供された要約および開示そのものに制限されない。
【0426】
配列
本開示において開示した配列に加えて、説明を目的として提供された本開示の代表的な様々な実施形態において言及または使用された以下の配列を提供する。
【表18-1】
【表18-2】
【表18-3】
【表18-4】
【表18-5】
【表18-6】
【表18-7】
【表18-8】
【表18-9】
【表18-10】
【表18-11】
【表18-12】
【表18-13】
【表18-14】
【表18-15】
【表18-16】
【表18-17】
【表18-18】
【配列表】