(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】冷却液
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20240430BHJP
B60K 11/04 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C09K5/10 F
B60K11/04 G
(21)【出願番号】P 2021005002
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】福井 健二
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-519276(JP,A)
【文献】特開2008-174435(JP,A)
【文献】特表2005-533646(JP,A)
【文献】特開2014-185838(JP,A)
【文献】特開2000-176488(JP,A)
【文献】特開2011-051878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
B01J20/00-20/34
B60K1/00-16/00
C01B33/20-39/54
C02F1/00
G01N1/00-1/44
H01L21/304
B01D15/00-15/42
F25B31/00-31/02
F25B39/00-41/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース液体と、
前記ベース液体中に分散しており、中心細孔直径が5~20nmの範囲内にあり、細孔容量が0.4~1.5ml/gの範囲内にあり、アミノ基濃度が1.5~3.5mmol/gの範囲内にあるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体と
を含有することを特徴とする冷却液。
【請求項2】
前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の細孔容量が0.45~1.5ml/gの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の冷却液。
【請求項3】
前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体のアミノ基濃度が1.55~3.5mmol/gの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却液。
【請求項4】
前記ベース液体が、水と前記水に相溶可能な凝固点降下剤とを含有するものであることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の冷却液。
【請求項5】
前記ベース液体が非イオン系防錆剤を含有するものであることを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の冷却液。
【請求項6】
前記ベース液体中に分散したスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体を更に含有することを特徴とする請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の冷却液。
【請求項7】
所定の電気化学反応に基づいて放電又は充電可能な電池を駆動源とする車両に適用され、少なくとも前記電気化学反応に基づく発熱を除去する冷却液を備えており、
前記冷却液が請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の冷却液であることを特徴とする冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両(主な駆動源として燃料電池や電気バッテリが用いられる車両)等における冷却システムでは、従来から、液状の熱輸送流体(すなわち、冷却液)を用いた熱輸送システムが採用されている。このような冷却システムにおいて、冷却液を長期間使用すると、冷媒熱交換器を構成する部材に付着するフラックスから陰イオンや陽イオンが溶出して冷却液に混入するため、冷却液の絶縁性が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、従来の冷却システムにおいては、システム内にイオン交換器を設置して冷却液に混入したイオンを除去し、冷却液の絶縁性を維持する技術が採用されている(例えば、特開2006-214348号公報(特許文献1))。また、イオンを除去する技術としては、硬度成分を吸着する能力を有するイオン交換膜を用いる技術も知られている(例えば、特開2018-176051号公報(特許文献2))。
【0004】
一方、特開2020-125384号公報(特許文献3)には、導電率が低く、その経時的な上昇も小さい熱輸送媒体として、液状の基材と、前記基材に相溶するオルトケイ酸エステルと、前記基材に分散するイオン吸着材とを含み、前記イオン吸着材が複数の固体粒子で構成され、かつ、前記熱輸送媒体中に存在する陰イオンと陽イオンとの少なくとも一方のイオンを吸着する熱輸送媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-214348号公報
【文献】特開2018-176051号公報
【文献】特開2020-125384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の熱輸送流体においては、初期の導電率は低いものの、その経時的な上昇は必ずしも十分に抑制されておらず、未だ改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、陰イオンの吸着能に優れた固体粒子を含有し、イオンによる絶縁性の低下が抑制された冷却液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定の中心細孔直径、細孔容量及びアミノ基濃度を有するアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体が陰イオンの吸着能に優れており、このようなアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体を冷却液に配合することによって、イオンによる絶縁性の低下が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の冷却液は、ベース液体と、前記ベース液体中に分散しており、中心細孔直径が5~20nmの範囲内にあり、細孔容量が0.4~1.5ml/gの範囲内にあり、アミノ基濃度が1.5~3.5mmol/gの範囲内にあるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体とを含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の冷却液においては、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の細孔容量が0.45~1.5ml/gの範囲内にあることが好ましく、また、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体のアミノ基濃度が1.55~3.5mmol/gの範囲内にあることも好ましい。
【0011】
さらに、本発明の冷却液においては、前記ベース液体が、水と前記水に相溶可能な凝固点降下剤とを含有するものであることが好ましく、また、非イオン系防錆剤を含有するものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の冷却液においては、前記ベース液体中に分散したスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体を更に含有することが好ましい。
【0013】
本発明の冷却システムは、所定の電気化学反応に基づいて放電又は充電可能な電池を駆動源とする車両に適用され、少なくとも前記電気化学反応に基づく発熱を除去する冷却液を備えており、前記冷却液が前記本発明の冷却液であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、陰イオンの吸着能に優れた固体粒子を得ることができ、このような固体粒子を配合することによって、イオンによる絶縁性の低下が抑制された冷却液を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フッ化カリウムのモルイオン導電率とイオン濃度との関係を示すグラフである。
【
図2】参照用冷却液の平衡イオン濃度とアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量との関係を示すグラフである。
【
図3】試験例1で測定した導電率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明の冷却液について説明する。本発明の冷却液は、ベース液体と、前記ベース液体中に分散しており、中心細孔直径が5~20nmの範囲内にあり、細孔容量が0.4~1.5ml/gであり、アミノ基濃度が1.5~3.5mmol/gであるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体とを含有するものである。
【0018】
本発明に用いられるベース液体としては特に制限はなく、従来の冷却液に用いられる公知のベース液体(例えば、凝固点が-20℃以下の不凍性の自動車用冷却液)が挙げられるが、中でも、車両用途において冷却液の耐凍結性が向上するという観点から、水と、水に相溶可能な凝固点降下剤とを含有するものが好ましい。さらに、前記凝固点降下剤としては、凝固点降下剤がアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体に吸着されず、耐凍結性と絶縁性とを長期にわたって両立できるという観点から、非イオン系のアルコール類が好ましく、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオールのうちのいずれか1種、又は2種以上の混合物がより好ましい。また、このような凝固点降下剤の含有量は、冷却液の凝固点、水の熱伝達率、冷却液の粘性に応じて適宜設定することができるが、耐凍結性と絶縁性との両立を長期にわたって確実に実現できるという観点から、凝固点降下剤と水との質量比(凝固点降下剤:水)が20:80~50:50となる量が好ましく、25:75~50:50となる量がより好ましい。
【0019】
また、本発明に用いられるベース液体には、非イオン系防錆剤が含まれていることが好ましい。これにより、車両用途において熱交換器等の耐腐食性を向上させることができる。また、腐食が抑制されるため、アルミニウムイオンや銅イオン等の金属イオンの溶出も抑制され、その結果、腐食由来の絶縁性の低下も抑制される。さらに、非イオン系防錆剤は、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体に吸着されないため、フラックス由来の絶縁性の低下と腐食由来の絶縁性の低下の両方を長期にわたって抑制することができる。このような非イオン系防錆剤としては、非イオン系のアゾール類、シリコンエーテル類(加水分解後シラノール)が好ましく、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、オルトケイ酸テトラエチルのうちのいずれか1種、又は2種以上の混合物がより好ましい。
【0020】
本発明に用いられる球状シリカ系メソ多孔体はアミノ基を含有するものである。本発明の冷却液においては、このアミノ基によって、冷却液に混入した陰イオンが捕獲され、導電率の上昇が抑制され、絶縁性の低下が抑制される。
【0021】
本発明において、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体におけるアミノ基濃度は、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の単位質量あたり、1.5~3.5mmol/gの範囲内にある。アミノ基濃度が前記下限未満になると、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体のイオン吸着容量が少なくなるため、陰イオンの吸着能が十分に発現せず、冷却液の絶縁性の低下が十分に抑制されない。他方、アミノ基濃度が前記上限を超えると、細孔内の空隙が減少し、イオンの移動が制限されるため、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体のイオン吸着容量が減少し、冷却液の絶縁性の低下が十分に抑制されない。さらに、イオン吸着容量が増大して陰イオンの吸着能が向上するという観点から、アミノ基濃度の下限としては、1.55mmol/g以上が好ましく、1.6mmol/g以上がより好ましい。また、細孔内のイオンの移動が制限されないという観点から、アミノ基濃度の上限としては、3.45mmol/g以下が好ましく、3.4mmol/g以下がより好ましい。なお、このようなアミノ基濃度は、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体を熱重量分析し、150~500℃の温度範囲における重量減少量から求めることができる。
【0022】
また、本発明において、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径は、5~20nmの範囲内にある。中心細孔直径が前記下限未満になると、水和した陰イオンが細孔内に入りにくく、細孔内のアミノ基によって陰イオンが捕獲されにくくなるため、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体による陰イオンの吸着量が少なくなり、冷却液の絶縁性の低下が十分に抑制されない。他方、中心細孔直径が前記上限を超えると、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の見かけの粒子体積が増大し、冷却液の流動性が低下する。さらに、水和した陰イオンが細孔内に入りにやすくなることにより、陰イオンの吸着量が増加し、冷却液の絶縁性の低下が十分に抑制されるという観点から、中心細孔直径の下限としては、5.2nm以上が好ましく、5.5nm以上がより好ましい。また、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の見かけの粒子体積が減少し、冷却液の流動性が保持されるという観点から、中心細孔直径の上限としては、19nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましい。なお、本発明において、中心細孔直径とは、細孔容量(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔分布曲線)において、最大のピークを示した細孔直径を意味する。
【0023】
さらに、本発明において、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の細孔容量は、0.4~1.5ml/gの範囲内にある。細孔容量が前記下限未満になると、細孔内に入る水和した陰イオンの量が少なくなり、細孔内のアミノ基によって陰イオンが捕獲されにくくなるため、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体による陰イオンの吸着量が少なくなり、冷却液の絶縁性の低下が十分に抑制されない。他方、細孔容量が前記上限を超えると、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の見かけの粒子体積が増大し、冷却液の流動性が低下する。さらに、細孔内に入る水和した陰イオンの量が多くなるため、イオン吸着量が増加し、冷却液の絶縁性の低下が十分に抑制されるという観点から、細孔容量の下限としては、0.42ml/g以上が好ましく、0.45ml/g以上がより好ましい。また、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の見かけの粒子体積が減少し、冷却液の流動性が保持されるという観点から、細孔容量の上限としては、1.4ml/g以下が好ましく、1.3ml/g以下がより好ましい。
【0024】
また、本発明において、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の平均粒子径は、10~3000nmの範囲内にあることが好ましく、30~2500nmの範囲内にあることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲内にあるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体は、陰イオンに比べて流動性が低いため、陰イオンを吸着することによって、陰イオンが単独で流動している場合に比べて、冷却液の導電率を低下させることができ、冷却液の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。また、平均粒子径が前記範囲内にあるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体を含有する冷却液は、冷却システム内の流路で目詰まりが起こりにくい。
【0025】
このようなアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体は、例えば、従来公知の球状シリカ系メソ多孔体の製造方法において、有機アルコキシシランの一部をアミノ基を有する有機アルコキシシランに置換えて共重合させたり、或いは、従来公知の球状シリカ系メソ多孔体を調製した後、この球状シリカ系メソ多孔体にアミノ基を有する有機アルコキシシランを反応させたりすることによって製造することができる。このとき、使用する界面活性剤の種類を変更したり、環状炭化水素等の拡張剤を使用したりすることによって、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径や細孔容量を制御することができる。また、アミノ基を有する有機アルコキシシランの量を調整することによって、アミノ基濃度を制御することができる。
【0026】
本発明の冷却液は、このようなアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体が前記ベース液体に分散したものである。本発明の冷却液において、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の濃度は、0.1~15質量%の範囲内にあることが好ましく、0.2~12質量%の範囲内にあることがより好ましい。アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体の濃度が前記範囲内にある冷却液は、長期間使用しても導電率が上昇しにくく、絶縁性が維持されており、また、冷却システム内の流路で目詰まりが起こりにくい。
【0027】
また、本発明の冷却液には、前記ベース液体中に分散したスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体が含まれていることが好ましい。このような冷却液においては、冷却液に混入した陽イオンが前記スルホン酸基によって捕獲され、導電率の上昇が更に抑制され、絶縁性の低下が更に抑制される。
【0028】
前記スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径は、1~20nmの範囲内にあることが好ましく、1.1~19nmの範囲内にあることがより好ましく、1.2~18nmの範囲内にあることが更に好ましい。前記スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径が前記範囲内にあると、陽イオンが細孔内に入りやすく、細孔内のスルホン酸基によって陽イオンが捕獲されやすいため、スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体による陽イオンの吸着量が多くなり、冷却液の絶縁性の低下が更に抑制される。
【0029】
また、前記スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の細孔容量は、0.1~1.5ml/gの範囲内にあることが好ましく、0.15~1.4ml/gの範囲内にあることがより好ましく、0.2~1.3ml/gの範囲内にあることが更に好ましい。前記スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の細孔容量が前記範囲内にあると、細孔内に入る陽イオンの量が多くなり、細孔内のスルホン酸基によって陽イオンが捕獲されやすいため、スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体による陽イオンの吸着量が多くなり、冷却液の絶縁性の低下が更に抑制される。
【0030】
さらに、前記スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の平均粒子径は、10~3000nmの範囲内にあることが好ましく、30~2500nmの範囲内にあることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲内にあるスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体は、陽イオンに比べて流動性が低いため、陽イオンを吸着することによって、陽イオンが単独で流動している場合に比べて、冷却液の導電率を低下させることができ、冷却液の絶縁性の低下を更に抑制することが可能となる。また、平均粒子径が前記範囲内にあるスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体を含有する冷却液は、冷却システム内の流路で目詰まりが起こりにくい。
【0031】
このようなスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体は、例えば、従来公知の球状シリカ系メソ多孔体の製造方法において、有機アルコキシシランの一部をメルカプト基を有する有機アルコキシシランに置換えて共重合させた後、前記メルカプト基をスルホン酸基に変換したり、或いは、従来公知の球状シリカ系メソ多孔体を調製した後、この球状シリカ系メソ多孔体にメルカプト基を有する有機アルコキシシランを反応させた後、前記メルカプト基をスルホン酸基に変換したりすることによって製造することができる。このとき、使用する界面活性剤の種類を変更したり、環状炭化水素等の拡張剤を使用したりすることによって、スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径や細孔容量を制御することができる。
【0032】
本発明の冷却液において、前記スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の濃度は、0.1~15質量%の範囲内にあることが好ましく、0.2~12質量%の範囲内にあることがより好ましい。スルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体の濃度が前記範囲内にある冷却液は、長期間使用しても導電率が上昇しにくく、絶縁性が維持されており、また、冷却システム内の流路で目詰まりが起こりにくい。
【0033】
次に、本発明の冷却システムについて説明する。本発明の冷却システムは、所定の電気化学反応に基づいて放電又は充電可能な電池を駆動源とする車両に適用され、少なくとも前記電気化学反応に基づく発熱を除去する冷却液を備えており、前記冷却液が前記本発明の冷却液からなる冷却システムである。
【0034】
本発明の冷却システムにおいて、前記電池としては、所定の電気化学反応に基づいて放電又は充電可能な電池であれば特に制限はなく、例えば、燃料電池、リチウムイオン電池(LIB)、全固体電池等が挙げられる。また、発熱を除去する方法としては、冷却液が流通可能な熱交換部を介して電池を冷却する方法が好ましい。このような本発明の冷却システムにおいては、絶縁性を長期間担保可能な前記本発明の冷却液を備えているため、例えば、車両のライフサイクルにおいて、冷却液の交換回数を少なくすることが可能となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子及びスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子は以下の方法により調製した。
【0036】
(調製例A1)
先ず、水946.32gとメタノール1440gとの混合溶液に、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)11.49g(0.033mol)と1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液13.68ml(水酸化ナトリウム0.5472g(0.014mol))とを添加した。得られた溶液に、シリカ原料としてテトラメトキシシラン(TMOS)7.92g(0.052mol)を添加し、攪拌して完全に溶解させた後、さらに攪拌を継続したところ、約80秒後に白色の粉末が析出し始めた。その後、室温で8時間攪拌を継続した後、14時間静置した。析出した白色粉末をろ過と脱イオン水による洗浄とを3回繰り返して精製し、白色の多孔体前駆体粒子を得た。
【0037】
次に、この多孔体前駆体粒子3gを、メシチレン(拡張剤:環状炭化水素)6.75gを含む、水90mlとエタノール90mlとの混合溶液に添加し、オートクレーブ中、80℃で7日間の水熱処理を行った。得られた固体粒子をろ過により回収し、45℃に設定した熱風乾燥機中で3日間乾燥した後、550℃で6時間焼成することにより前記界面活性剤を含む有機成分を除去して球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0038】
次に、この球状シリカ系メソ多孔体粒子3.5gと脱水トルエン350mlと3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)9.4gとを混合した後、90℃で15時間加熱した。得られた固体粒子をろ過により回収し、トルエンで洗浄した後、45℃に設定した熱風乾燥機中で3日間乾燥して、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0039】
このアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の窒素吸着等温線を、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP-MINI」)を用いて測定し、得られた窒素吸脱着等温線に基づいて、BJH法により中心細孔直径を算出し、窒素吸着等温線のP/P0=0.95における吸着量から細孔容量を算出したところ、中心細孔直径は5.9nmであり、細孔容量は0.76ml/gであった。また、前記アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子について熱重量分析を行い、150~500℃の温度範囲における重量減少量からアミノ基濃度を求めたところ、1.62mmol/gであった。
【0040】
(調製例A2)
球状シリカ系メソ多孔体粒子の量を2.5gに、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)の量を11.7gに変更した以外は調製例A1と同様にして、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0041】
このアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の中心細孔直径、細孔容量及びアミノ基濃度を調製例A1と同様にして求めたところ、中心細孔直径は5.9nmであり、細孔容量は0.49ml/gであり、アミノ基濃度は3.10mmol/gであった。
【0042】
(調製例A3)
先ず、水400gとメタノール400gとの混合溶液にヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)3.52g(0.011mol)を添加し、恒温水槽中で25℃に保持しながら攪拌して溶解させた。得られた溶液に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2.28ml(水酸化ナトリウム0.0912g(0.00228mol))を添加した後、シリカ原料として、予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)と3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)との混合物(モル比9/1)2.69g(0.0174mol)を添加し、攪拌して完全に溶解させた後、さらに攪拌を継続したところ、数分後に白色の粒子が析出し始め、溶液が白濁した。その後、室温で8時間攪拌を継続した後、14時間静置した。析出した白色粒子をろ過した後、水に再分散させた。この操作を2回繰返した後、得られた粒子を45℃で14時間乾燥させ、アミノ基含有シリカと前記界面活性剤との球状複合粒子を得た。
【0043】
次に、この球状複合粒子0.5gをエタノール50mlに分散させ、塩酸0.5mlを添加した後、60℃のオイルバス中で3時間攪拌して前記界面活性剤を抽出した。得られた粒子をエタノールで十分に洗浄した後、45℃で24時間乾燥して、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0044】
このアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の中心細孔直径、細孔容量及びアミノ基濃度を調製例A1と同様にして求めたところ、中心細孔直径は2.0nmであり、細孔容量は0.42ml/gであり、アミノ基濃度は1.53mmol/gであった。
【0045】
(調製例A4)
多孔体前駆体粒子の量を2gに変更し、メシチレンを含む、水とエタノールとの混合溶液の代わりにドコシルトリメチルアンモニウムクロリド(純度80%)6.06gとメシチレン(拡張剤:環状炭化水素)4.5gとを含む、水60mlとエタノール60mlとの混合溶液を用いた以外は調製例A1と同様にして、球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0046】
この球状シリカ系メソ多孔体粒子2.5gを用いた以外は調製例A2と同様にして、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0047】
このアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の中心細孔直径、細孔容量及びアミノ基濃度を調製例A1と同様にして求めたところ、中心細孔直径は5.9nmであり、細孔容量は0.26ml/gであり、アミノ基濃度は3.97mmol/gであった。
【0048】
(調製例A5)
テトラメトキシシランと3-アミノプロピルトリメトキシシランとの混合物の代わりにテトラメトキシシラン(TMOS)と3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(AEAPTMS)との混合物(モル比95/5)2.70g(0.0174mol)を用いた以外は調製例A3と同様にして、アミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0049】
このアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の中心細孔直径及び細孔容量を調製例A1と同様にして求めたところ、中心細孔直径は2.0nmであり、細孔容量は0.62ml/gであり、アミノ基濃度は1.43mmol/gであった。
【0050】
(調製例B1)
球状シリカ系メソ多孔体粒子の量を2.5gに、3-アミノプロピルトリメトキシシランの代わりに3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)4.8gを用いた以外は調製例A1と同様にして、メルカプト基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0051】
このメルカプト基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を過酸化水素300mlに添加し、50℃で5時間加熱することによりメルカプト基をスルホン酸基に変換してスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0052】
このスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の中心細孔直径及び細孔容量を調製例A1と同様にして求めたところ、中心細孔直径は6.9nmであり、細孔容量は1.11ml/gであった。
【0053】
(調製例B2)
先ず、水400gとメタノール400gとの混合溶液にヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)3.52g(0.011mol)を添加し、恒温水槽中で25℃に保持しながら攪拌して溶解させた。得られた溶液に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2.28ml(水酸化ナトリウム0.0912g(0.00228mol))を添加した後、シリカ原料として、予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)と3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)との混合物(モル比9/1)2.72g(0.0174mol)を添加し、攪拌して完全に溶解させた後、さらに攪拌を継続したところ、数分後に白色の粒子が析出し始め、溶液が白濁した。その後、室温で8時間攪拌を継続した後、14時間静置した。析出した白色粒子をろ過した後、水に再分散させた。この操作を2回繰返した後、得られた粒子を45℃で14時間乾燥させ、メルカプト基含有シリカと前記界面活性剤との球状複合粒子を得た。
【0054】
次に、この球状複合粒子0.5gをエタノール50mlに分散させ、塩酸0.5mlを添加した後、60℃のオイルバス中で3時間攪拌して前記界面活性剤を抽出した。得られた粒子をエタノールで十分に洗浄した後、45℃で24時間乾燥して、メルカプト基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0055】
このメルカプト基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を過酸化水素30mlに添加し、50℃で5時間加熱することによりメルカプト基をスルホン酸基に変換してスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を得た。
【0056】
このスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の中心細孔直径及び細孔容量を調製例A1と同様にして求めたところ、中心細孔直径は1.5nmであり、細孔容量は0.27ml/gであった。また、酸性度を滴定により求めたところ、0.72mmolH+/gであった。
【0057】
(実施例1)
カリウムイオンとフッ化物イオンが冷却液中に存在する状態を再現するために、濃度50質量%のエチレングリコール水溶液50mlにフッ化カリウム1.8mgを添加して溶解させた。得られた水溶液を25℃に保持し、塩基性粒子として調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:5.9nm、細孔容量:0.76ml/g、アミノ基濃度:1.62mmol/g)と酸性粒子として調製例B2で得られたスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:1.5nm、細孔容量:0.27ml/g)とをそれぞれ表1に示す粒子濃度となるように添加し、得られた冷却液を攪拌しながら、直ちに、導電率検出器(横河電機株式会社製「パーソナルSCメータSC72-00-J-AA、検出器:SC-72SN-11-AA)を用いて冷却液の導電率の測定を開始し、さらに導電率の経時的な変化を測定した。
【0058】
測定開始時の導電率及びイオン吸着完了後の定常状態での導電率から、
図1に示すフッ化カリウムのモルイオン導電率とイオン濃度との関係(日本化学会編、化学便覧 基礎編第I分冊 改訂5版、丸善出版、2004年2月、第13章 電気化学)に基づいて、測定開始時のイオン濃度(初期イオン濃度)及び定常状態でのイオン濃度(平衡イオン濃度)を求め、これらの差から定常状態でのイオン吸着量を求めた。さらに、この定常状態でのイオン吸着量をアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の添加質量で除してアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量を求めた。その結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の代わりに塩基性粒子として調製例A2で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:5.9nm、細孔容量:0.49ml/g、アミノ基濃度:3.10mmol/g)を用い、この塩基性粒子と前記酸性粒子とをそれぞれ表1に示す粒子濃度となるように添加した以外は実施例1と同様にして冷却液を調製して導電率を測定し、定常状態でのイオン濃度(平衡イオン濃度)及びアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量を求めた。その結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の代わりに塩基性粒子として調製例A3で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:2.0nm、細孔容量:0.42ml/g、アミノ基濃度:1.53mmol/g)を用い、この塩基性粒子と前記酸性粒子とをそれぞれ表1に示す粒子濃度となるように添加した以外は実施例1と同様にして冷却液を調製して導電率を測定し、定常状態でのイオン濃度(平衡イオン濃度)及びアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量を求めた。その結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の代わりに塩基性粒子として調製例A4で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:5.9nm、細孔容量:0.26ml/g、アミノ基濃度:3.97mmol/g)を用い、この塩基性粒子と前記酸性粒子とをそれぞれ表1に示す粒子濃度となるように添加した以外は実施例1と同様にして冷却液を調製して導電率を測定し、定常状態でのイオン濃度(平衡イオン濃度)及びアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量を求めた。その結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子の代わりに塩基性粒子として調製例A5で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:2.0nm、細孔容量:0.62ml/g、アミノ基濃度:1.43mmol/g)を用い、この塩基性粒子と前記酸性粒子とをそれぞれ表1に示す粒子濃度となるように添加した以外は実施例1と同様にして冷却液を調製して導電率を測定し、定常状態でのイオン濃度(平衡イオン濃度)及びアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量を求めた。その結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4)
調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を使用せず、調製例B1で得られたスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:6.9nm、細孔容量:1.11ml/g)を粒子濃度が0.5質量%となるように添加した以外は実施例1と同様にして冷却液を調製して導電率を測定したが、導電率は変化せず、イオンの吸着は起こらなかった。
【0064】
〔イオン吸着容量比の算出〕
上記のようにして求めたイオン吸着容量は平衡イオン濃度に依存するため、実施例1~2及び比較例1~4で得られた冷却液のイオン吸着容量を、基準となる冷却液(以下、「参照用冷却液」という)のイオン吸着容量に対する比に換算し、このイオン吸着容量比で陰イオン吸着能を評価した。
【0065】
すなわち、先ず、濃度50質量%のエチレングリコール水溶液50mlにフッ化カリウムを種々の濃度で溶解させ、得られた水溶液を25℃に保持し、塩基性粒子として調製例A5で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:2.0nm、細孔容量:0.62ml/g、アミノ基濃度:1.43mmol/g)と酸性粒子として調製例B2で得られたスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:1.5nm、細孔容量:0.27ml/g)とをそれぞれの粒子濃度が0.25質量%(合計の粒子濃度が0.5質量%)となるように添加し、種々のフッ化カリウム濃度の参照用冷却液を調製した。これらの参照用冷却液について、実施例1と同様にして導電率を測定し、定常状態でのイオン濃度(平衡イオン濃度)Cとアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量Wとの関係を求めた。その結果を
図2に示す。
図2に示した結果から、参照用冷却液における平衡イオン濃度C[mmol/L]とイオン吸着容量W[g/g]との関係は下記式:
W=C/(52.321×C+10.739)
で表されることがわかった。
【0066】
次に、実施例1~2及び比較例1~4で得られた各冷却液について、上記式に基づいて、表1に示した平衡イオン濃度における参照用冷却液のアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子単位質量当たりのイオン吸着容量を求め、この参照用冷却液のイオン吸着容量に対する実施例1~2及び比較例1~4で得られた冷却液のイオン吸着容量の比を求めた。その結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1に示したように、中心細孔直径、細孔容量及びアミノ基濃度が所定の範囲内にあるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を含有する冷却液(実施例1~2)においては、中心細孔直径が所定の範囲より小さいアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を含有する冷却液(比較例1、3)、細孔容量が所定の範囲より小さいアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を含有する冷却液(比較例2)、アミノ基濃度が所定の範囲より小さいアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を含有する冷却液(比較例3)、並びに、アミノ基を有しない球状シリカ系メソ多孔体粒子を含有する冷却液(比較例4)に比べて、球状シリカ系メソ多孔体粒子のイオン吸着容量が大きいことがわかった。したがって、実施例1~2で得られた冷却液においては、比較例1~4で得られた冷却液に比べて、球状シリカ系メソ多孔体粒子の陰イオン吸着能が優れているため、イオンによる絶縁性の低下が抑制されることが明らかとなった。
【0069】
(試験例1)
濃度50質量%のエチレングリコール水溶液50mlにフッ化カリウム1.8mgを添加して溶解させ、フラックスから生成したカリウムイオンとフッ化物イオンが存在する状態を再現したベース液体を調製した。このベース液体を25℃に保持し、塩基性粒子として調製例A1で得られたアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:5.9nm、細孔容量:0.76ml/g、アミノ基濃度:1.62mmol/g)と酸性粒子として調製例B2で得られたスルホン酸基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子(中心細孔直径:1.5nm、細孔容量:0.27ml/g)とを、塩基性粒子濃度が0.09質量%、酸性粒子濃度が0.91質量%となるように添加し、得られた冷却液を攪拌しながら、直ちに、導電率検出器(横河電機株式会社製「パーソナルSCメータSC72-00-J-AA、検出器:SC-72SN-11-AA)を用いて冷却液の導電率の測定を開始し、さらに導電率の経時的な変化を測定した。その結果を
図3に示す。
【0070】
図3に示したように、中心細孔直径、細孔容量及びアミノ基濃度が所定の範囲内にあるアミノ基含有球状シリカ系メソ多孔体粒子を含有する冷却液は、測定開始後すぐに導電率が低下し、その後、導電率が低く維持され、イオンによる絶縁性の低下が抑制されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明によれば、陰イオンの吸着能に優れた固体粒子を得ることができ、このような固体粒子を配合することによって、イオンによる絶縁性の低下が抑制された冷却液を得ることが可能となる。
【0072】
したがって、本発明の冷却液は、長期間にわたって絶縁性に優れているため、電動車両(主な駆動源として燃料電池や電気バッテリが用いられる車両)、スーパーコンピューター、サーバー、発電所等における冷却システムに用いられる冷却液として有用である。