(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】交番電界によって腫瘍を治療し、推定される細胞サイズに基づいて治療周波数を選択するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20240430BHJP
A61N 1/06 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A61N1/32
A61N1/06
(21)【出願番号】P 2021037816
(22)【出願日】2021-03-09
(62)【分割の表示】P 2018233685の分割
【原出願日】2014-05-06
【審査請求日】2021-03-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パルティ、ヨーラム
(72)【発明者】
【氏名】ディジョン、マタン
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】内藤 真徳
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-78804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/32 - 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交番電界によって腫瘍を適応的に治療するための装置であって、
制御可能な出力周波数を有するAC信号生成器と、
前記腫瘍の治療
で前記装置
を使用している間に、周期的
に前記腫瘍における細胞
のサイズ
を推定し、推定した前記細胞のサイズに基づいて前記AC信号生成器の前記出力周波数を適応的に設定するプロセッサと、
前記腫瘍における細胞を選択的に破壊するために、前記出力周波数の交番電界を前記腫瘍に印加する前記AC信号生成器に作動可能に接続される少なくとも一対の電極とを備える装置。
【請求項2】
前記プロセッサが、癌の種類に基づいて前記腫瘍における前記細胞のサイズを推定する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記腫瘍における前記細胞の電気インピーダンストモグラフィに基づいて前記腫瘍における前記細胞のサイズを推定する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記腫瘍における前記細胞の撮像に基づいて前記腫瘍における前記細胞のサイズを推定する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記撮像が、コンピューター断層撮影法(CT)、磁気共鳴映像法(MRI)及び陽電子射出断層撮影法(PET)から選択される、
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記腫瘍における前記細胞の組織切片に基づいて前記腫瘍における前記細胞のサイズを推定する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
交番電界によって腫瘍を適応的に治療するための装置であって、
制御可能な出力周波数を有するAC信号生成器と、
前記腫瘍の治療
で前記装置
を使用している間に、
前記腫瘍における細胞のサイズを周期的に推定する手段から周期的に受信す
る推定された
前記細胞のサイズに基づいて前記AC信号生成器の前記出力周波数を適応的に設定するプロセッサと、
前記腫瘍における細胞を選択的に破壊するために、前記出力周波数の交番電界を前記腫瘍に印加する前記AC信号生成器に作動可能に接続される少なくとも一対の電極とを備える装置。
【請求項8】
前記細胞のサイズが、少なくとも週に一度推定される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記細胞のサイズが、少なくとも月に一度推定される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記細胞のサイズが、前記腫瘍の履歴に基づいて一定の時間間隔で推定される、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記細胞のサイズが、腫瘍の種類に基づいて一定の時間間隔で推定される、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記AC信号生成器の前記出力周波数が、細胞サイズのスペクトルに基づいて設定される、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記AC信号生成器の前記出力周波数が、平均的な細胞サイズに基づいて設定される、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記プロセッサは、最初に、前記腫瘍における前記細胞の第1のサイズを推定し、前記AC信号生成器の前記出力周波数を、前記腫瘍における前記細胞の前記推定された第1のサイズに基づいて第1の周波数に設定し、次に、前記腫瘍における前記細胞の第2のサイズを推定し、前記AC信号生成器の前記出力周波数を、前記腫瘍における前記細胞の前記推定された第2のサイズに基づいて第2の周波数に設定するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2013年5月6日に提出された、米国仮出願第61/819,717号に対する優先権と、その利点とを主張し、この仮出願はその全体において参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は一般に、腫瘍の長期的な治療において使用される電磁放射線の周波数を最適化するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
生物は細胞分裂によって増殖し、これには組織、細胞培養、微生物(例えば細菌、マイコプラズマ、酵母菌、原生動物および他の単細胞生物など)、菌類、藻類、植物細胞などが含まれる。分裂の過程において、特定の化学的または物理的薬剤に対するこれらの生物の細胞分裂の感度に基づいた方法によって生物の細胞を破壊する、あるいはその増殖を制御することができる。
【0004】
腫瘍、特に悪性または癌性腫瘍は、正常な組織と比べて制御できない程に成長することがよく知られている。このような急速化した成長によって、腫瘍が占める空間はとめどもなく増大し、そこに隣接する組織や器官を損傷させたり破壊したりすることが可能になる。さらに特定の癌は、新たな場所へと転移を広げ、そこで転移性の癌細胞がさらなる腫瘍へと成長する能力によって特徴付けられる。
【0005】
急速な腫瘍の成長、一般には上記に記載するような悪性腫瘍の急速な成長は特に、正常な組織細胞と比べてこのような細胞の細胞分裂の頻度が相対的に高くなった結果である。癌細胞の細胞分裂が際立って頻繁であることは、例えば放射線治療や、様々な化学療法薬の利用などの多くの既存の癌治療の有効性に関する基本原理である。このような治療は、分裂をしている細胞が、分裂しない細胞よりも放射線および化学療法薬に対する感度が高いという事実に基づいている。腫瘍細胞は正常細胞よりもずっと頻繁に分裂するため、放射線治療および/または化学療法によってある程度は腫瘍細胞に選択的に損傷を与えたり破壊したりすることが可能である。放射線、治療剤等に対する実際の細胞の感度はまた、様々な種類の正常または悪性細胞の特有の特徴に依存する。残念なことに多くの場合において、適用される治療剤に対する腫瘍細胞の感度は、多くの種類の正常組織のものと比べて十分に高くないため、既存の癌治療は典型的には正常組織にも有意な損傷を与えるため、このような治療の治療効果を制限する。また特定の種類の腫瘍は、既存の治療方法に全く影響されない。
【0006】
何年もの間、医療目的で電界および電流が使用されてきた。最もの一般的な利用は、それらの間で電位差が維持される一対の導電性電極を利用して電場を印加することによってヒトまたは動物の体内に電流を生成することである。このような電流は、その固有の作用を引き起こす、すなわち興奮組織を刺激するか、またはそれが抵抗として作用するため、体内を流れることによって熱を生成するかのいずれかのために使用される。第1の種類の用途の例には以下の細動除去器、末梢神経および筋肉刺激剤、脳刺激剤などが含まれる。電流は、例えば腫瘍アブレーション、正常に機能しない心臓または脳組織のアブレーション、焼灼術、筋肉のリウマチの痛みおよび他の痛みの緩和などを目的としたデバイスにおいて加熱する目的で利用される。
【0007】
医療目的での電界の別の利用は、電波を放出する供給源、例えばRF波またはマイクロ波供給源などから伝送される高周波数で振動する電界の利用であり、これは、対象(すなわち標的)である身体の一部に向けられる。
【0008】
歴史的に見て医療用途で使用される電界は2種類に分類され、すなわち(1)安定した電界または比較的低い変化率で変化する電界、および身体または組織内に対応する電流を誘発させる低周波数の交番電界と、(2)導電電極を利用してまたは絶縁電極を利用して身体に印加される高周波数の交番電界(1MHzを超える)に分類される。
【0009】
第1の種類の電界は、例えば神経および筋肉を刺激する、心臓のペースを調整するなどに使用されてきた。実際、このような電界は、神経および筋肉繊維、中枢神経(CNS)、心臓などにおいて信号を伝搬するのに本質的に使用される。このような自然発生的な電界の記録は、ECG、EEG、EMG、ERG等に関する基本である。均一な電気特性を有する媒体における電界の強度は単純に、それらの間の距離によって分かれる刺激/記録電極に印加される電圧である。このようにして生成される電流は、オームの法則によって計算することができる。しかしながらこのような電流は、心臓やCNSに対して危険な刺激性の作用を有する可能性があり、潜在的に有害なイオン濃度の変化が生じる場合がある。また、電流が十分に強力な場合、それらは、組織内で過度の加熱を生じさせる場合がある。このような加熱作用は、組織内に消散する力(電圧と電流の生成物)によって計算することができる。
【0010】
このような電界および電流が交番する際、その刺激性の力(例えば神経、筋肉などに対する)は、周波数の逆関数である。10kHzを超える周波数において、電界の刺激力は、ゼロに近づく。このような制限は、電気刺激によって誘発される励起が膜電位変化によって通常もたらされるという事実に起因しており、その割合は、膜の抵抗および静電特性(1ms程の時定数によって)によって制限される。
【0011】
周波数に関係なく、このような電流を誘発する電界が印加される際、それらは、電流によって生じる有害な副作用に関連付けられることが多い。例えばあるマイナスの作用は、器官における多様な「区画」におけるイオン濃度の変化および電気分解の有害な生成物である。
【0012】
歴史的に、中波(およそ50kHz~1MHz)の交番電界は、加熱によるもの以外は生物学的な作用を何ら持たないと考えられていた。しかし、より近年は、特に電界が絶縁電極を介して導電媒体、例えば人体に印加される際にこのような電界の有効性が認識されている。このような状況において、電極は、体内に容量性電流を誘発する。Paltiによる米国特許第7,016,725号、7,089,054号、7,333,852号、7,805,201号および8,244,345号において(これらは各々参照により本明細書に組み込まれる)、ならびにKirsonによる公報(Eilon D.Kirson,et al.,Disruption of Cancer Cell Replication by Alternating Electric Fields,Cancer Res.2004 64:3288-3295)において、このような電界は、癌細胞に限定して影響を及ぼし、他の用途のなかでもとりわけ癌の治療に機能する能力を有するように示されている。このような電界は、TTFieldsとして本明細書で呼ばれる。
【0013】
上記に列記した参考文献は、癌細胞を限定して損傷させる交番電界の効力が周波数に依存することを証明しており、また最適な周波数は種々の細胞の種類に関して異なることも証明している。よって例えば、悪性黒色腫細胞に関する最適な周波数は100kHzであり、多形性膠芽腫に関しては200kHzである。このような違いは、Kirson(Kirson ED,Dbaly V,Tovarys F,et al.Alternating electric fields arrest cell proliferation in animal tumor models and human brain tumors.Proc Natl Acad Sci U.S.A.2007;104:10152‐10157を参照)による別の公報に示されるように細胞サイズの差から生じることがさらに証明された。よって癌の各々の種類に関して、治療は、特定の最適な周波数で提供されることが好ましい。
【0014】
治療に使用される周波数は、
図1に描かれる腫瘍細胞(細胞質分裂における)の分裂において極性粒子に及ぼされる最大の電気力に基づいてKirson(Kirson ED,Dbaly V,Tovarys F,et al.Alternating electric fields arrest cell proliferation in animal tumor models and human brain tumors.Proc Natl Acad Sci U S A.2007;104:10152‐10157を参照)によって計算される細胞のサイズと、最適な治療周波数との反比例関係に基づいている。実験により決定した最適な治療周波数と、黒色腫および膠腫における細胞サイズの組織測定値は、十分理にかなって計算された曲線上にあたることに留意されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第7,016,725号
【文献】米国特許第7,089,054号
【文献】米国特許第7,333,852号
【文献】米国特許第7,805,201号
【文献】米国特許第8,244,345号
【非特許文献】
【0016】
【文献】Eilon D.Kirson,et al.,Disruption of Cancer Cell Replication by Alternating Electric Fields,Cancer Res.2004 64:3288-3295
【文献】Kirson ED,Dbaly V,Tovarys F,et al.Alternating electric fields arrest cell proliferation in animal tumor models and human brain tumors.Proc Natl Acad Sci U.S.A.2007;104:10152-10157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記に記載した以前の手法の1つの欠点は、腫瘍の治療を通して単一の固定された周波数を使用することである。治療の開始時点では周波数は最適であり得るが、以前の手法は、治療が進む際に腫瘍における細胞がサイズを変える場合があるという可能性を考慮しなかった。したがって以前の手法は、治療の過程を通して腫瘍に向けられる放射線の周波数を最適化しない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本明細書に記載される実施形態は、特定の種類の癌に関する治療の過程において、平均的な細胞サイズが一定のままではない場合があるという発明者等の認識に基づいてPaltiおよびKirsonの進歩に対して二次的な改良を与える。その結果、経時的に生じる細胞サイズの予測される変化に適合するように、治療において経時的に周波数を最適化することによって治療の効果を改善することができる。
【0019】
TTFieldsによって癌治療を最適化するための装置および関連する方法が提供される。最適化は、治療の過程における様々な時点で、交流電界の周波数を個々の患者における特有の腫瘍に関して臨床的に最適な値に調節することによって達成される。方法の基本原理は、誘電泳動力を含めた電界力によって細胞成分に及ぼされる最大の力が、細胞サイズと周波数の両方に依存するという事実である。その結果、所定の期間の任意の所与の時点において特有の腫瘍の細胞サイズに依存する最適な治療周波数が存在する。さらに細胞サイズは経時的に変化するため、周波数を、細胞サイズの変化を補正するように変化させることで最も有効な治療を維持すべきである。
【0020】
一態様において、本発明は、交番電界(alternating electric field)によって腫瘍を適応的に治療するための方法を特徴とする。方法は、腫瘍に対して第1の周波数を有する交番電界を印加するステップを含む。方法はさらに、第1の周波数を有する交番電界が印加される間、計測された電流に基づいて腫瘍のインピーダンスを判定するステップを含む。これに加えて、方法は、判定されたインピーダンスに基づいて腫瘍における細胞のサイズを推定するステップを含む。方法はまた、推定された細胞のサイズに基づいて第2の周波数を選択するステップを含む。さらに方法は、第2の周波数で腫瘍に交番電界を印加することで腫瘍を治療するステップを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、方法は、所定の期間にわたって待つステップを含む。方法はさらに、第3の周波数を有する交番電界を腫瘍に印加するステップを含む。方法はさらに、第3の周波数を有する交番電界が印加される間、計測された電流に基づいて腫瘍の第2のインピーダンスを判定するステップを含む。方法はさらに、判定された第2のインピーダンスに基づいて腫瘍における細胞の第2のサイズを推定するステップを含む。方法はさらに、推定された第2の細胞のサイズに基づいて第4の周波数を選択するステップを含む。方法はさらに、第4の周波数で腫瘍に交番電界を印加することで腫瘍を治療するステップを含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、方法はさらに、少なくとも1週間の期間にわたって待つステップを含む。いくつかの実施形態において、方法はさらに、腫瘍のサイズ、形状、種類または位置を判定するステップを含む。いくつかの実施形態において、方法はさらに、コール-コールプロット(Cole-Cole plot)に基づいた細胞のサイズの推定を含む。いくつかの実施形態において、方法はさらに、CT、MRIまたはPETによって腫瘍を撮像し、過剰な血液または嚢胞液を持たない腫瘍の部分の位置を突き止めるステップと、位置を突き止めた部分の測定されたインピーダンスに基づいて細胞のサイズを推定するステップとを含む。
【0023】
別の態様において、本発明は、電磁放射線によって腫瘍を適応的に治療するための装置に関する。装置は、腫瘍のインピーダンスを測定するための電気インピーダンストモグラフィデバイス(electrical impedance tomography device)を含んでおり、電気インピーダンストモグラフィデバイスは、測定された腫瘍のインピーダンスから腫瘍における細胞のサイズを判定することができるような周波数を使用する。装置はまた、制御可能な出力周波数を有するAC信号生成器を含む。装置はまた、測定された腫瘍のインピーダンスに基づいて腫瘍における細胞のサイズを推定し、推定された腫瘍の細胞のサイズに基づいてAC信号生成器の周波数を設定するためのプロセッサを含む。装置はまた、腫瘍における細胞を選択的に破壊するために交番電界が腫瘍に印加されるように、AC信号生成器に作動可能に接続された少なくとも一対の電極を含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、腫瘍における細胞のサイズは、コール-コールプロットに基づいて判定される。いくつかの実施形態において、装置はさらに、過剰な血液または嚢胞液を持たない腫瘍の部分の位置を突き止めるように構成されたCT、MRIまたはPET撮像デバイスを含んでおり、この場合電気インピーダンストモグラフィデバイスは、位置を突き止めた部分のインピーダンスのみを測定する。いくつかの実施形態において、電気インピーダンストモグラフィデバイスは、周期的なインピーダンス測定を行うように構成される。いくつかの実施形態において、インピーダンスの測定の周期は、少なくとも1週間である。いくつかの実施形態において、インピーダンスの測定の周期は、少なくとも1ヶ月である。いくつかの実施形態において、インピーダンスの測定の周期は、腫瘍の履歴(history)に基づいている。いくつかの実施形態において、インピーダンスの測定の周期は、腫瘍の種類に基づいている。いくつかの実施形態において、AC信号生成器の周波数は、細胞サイズのスペクトルに基づいて設定される。いくつかの実施形態において、AC信号生成器の周波数は、平均的な細胞サイズに基づいて設定される。いくつかの実施形態において、プロセッサは、データベースルックアップテーブル(database look-up table)に基づいて腫瘍における細胞のサイズを算出する。
【0025】
さらに別の態様において、本発明は、交番電界によって腫瘍を適応的に治療するための方法に関する。方法は、腫瘍における細胞の第1のサイズを判定するステップを含む。方法はまた、判定された第1のサイズに基づいて第1の周波数を選択するステップを含む。方法はまた、第1の周波数で腫瘍に交番電界を印加することによって腫瘍を治療するステップを含む。方法はまた、所定の期間にわたって待ち、その後腫瘍における細胞の第2のサイズを判定するステップを含む。方法はまた、判定された第2のサイズに基づいて第2の周波数を選択するステップを含む。方法はまた、第2の周波数で腫瘍に交番電界を印加することによって腫瘍を治療するステップを含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、方法はさらに、第1のサイズおよび第2のサイズが腫瘍の生検材料(腫瘍生検標本、tumor biopsy)に基づいて判定されるステップを含む。いくつかの実施形態において、方法はさらに、判定された第2のインピーダンスに基づいて第2の治療パラメータ(treatment parameter)を選択するステップを含む。方法はさらに、選択された第2の治療パラメータに従って患者に治療を施すステップを含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、方法はさらに、判定されたインピーダンスまたは判定された第2のインピーダンスに基づいて患者の細胞の集合における細胞のサイズを推定するステップを含む。方法はさらに、推定された細胞のサイズに基づいて治療パラメータを選択するステップを含む。いくつかの実施形態において、医療的治療は、化学療法である。いくつかの実施形態において、医療的治療は、手術または療法である。いくつかの実施形態において、療法は、音響療法、薬物療法、放射線療法または栄養療法である。
【0028】
上記に記載した本発明の利点は、さらなる利点と共に、添付の図面と併せて以下の記載を参照することによってより適切に理解することができる。図面は、必ずしも縮尺通りではなく、本発明の原理を例示する際に代わりに強調が一般に置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の例示の実施形態による細胞半径と最適な治療周波数との計算された関係のグラフである。
【
図2】
図2は、本発明の例示の実施形態による時間(h)における時間に対してグラフ化されたピコリットル(pL)での細胞体積を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の例示の実施形態による正常な胸部と、腫瘍がある胸部とを示す画像である。
【
図4】
図4は、本発明の例示の実施形態による腫瘍と、周辺組織の画像である。
【
図5】
図5は、本発明の例示の実施形態による組織における細胞の幾何学的モデル表現を示す画像である。
【
図6】
図6は、本発明の例示の実施形態によるPCICモデルと同等のRC回路を示す線図である。
【
図7】
図7は、本発明の例示の実施形態による多様な異なる周波数に関する細胞直径に対してグラフ化されたインピーダンスの実部を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の例示の実施形態による多様な異なる周波数に関する細胞直径に対してグラフ化されたインピーダンスの実部を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の例示の実施形態による多様な様々な細胞直径に関する周波数に対してグラフ化されたインピーダンスの実部と、虚部とを示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の例示の実施形態によるコール-コールプロットを示すグラフである。
【
図11】
図11は、本発明の例示の実施形態による、腫瘍の治療の過程において治療周波数を調節するための一実施形態による方法を例示するフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の例示の実施形態による、治療の過程において腫瘍の治療周波数を調節するための装置の線図である。
【
図13】
図13は、計算で使用されるパラメータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好ましい実施形態において、腫瘍における細胞のサイズは、TTFieldsを利用して治療過程を通して判定される。TTFieldsの周波数はこのとき、判定された細胞サイズに基づいて最適化される。細胞サイズを判定する1つの方法は(
図11におけるステップ1120)、まずインピーダンス測定値を取得し、その後これらのインピーダンス測定値を使用して細胞サイズを算出することである。腫瘍のインピーダンスは、例えば生体内MRI電気インピーダンストモグラフィ(MREIT)によって、または 「逆電気インピーダンストモグラフィ」と呼ばれる場合もある以下の新規の腫瘍インピーダンス推定法によって判定することができ、これは以下のように行われる。
【0031】
インピーダンス推定の最初の段階において、CT、MRI、PETまたは等価な身体/組織撮像は、その正常な周辺領域において患者の腫瘍で行われる。この画像は、特有の身体マーカーに対して腫瘍の位置、サイズ、形状などを判定する役目をする。
【0032】
次に、周辺領域と併せて腫瘍の電気インピーダンストモグラフィ(EIT)が、従来の手段によって行われる。よく知られるように、標準的なEITは、適切な電極によって関連領域において身体に対して選択された周波数の交番電界を印加し、補助電極を利用して表面電位分布を測定することによって行われる。このような情報に基づいて、
図3に示されるように選択された領域のインピーダンスの3D画像が構築される。この種の手順は、スキャンされた領域に腫瘍があるかどうか(正常な周辺環境と異なるインピーダンスを有する領域によって特徴付けられる)を判断するために通常行われる。このような測定が「逆電気インピーダンストモグラフィ」の体系において行われる際、標準的な交番電界/電流周波数は、細胞サイズの判定に最も適したものによって置き換えられる。
【0033】
EIS/EITが、対象の体積全体を通して空間電気特性に基づいて対象のインピーダンスマップを生成することに留意することが重要である。電流が対象に投入される際、オームの法則により電圧降下は、対象が受動的な電気特性を有する限り、対象のインピーダンスに比例することになる。EISにおいて、既知の電流が表面に投入され、電圧が、対象の表面上のいくつかの地点(電極)において測定される。結果として生じる画像の解像度は、電極の数に左右される。低インピーダンスの領域は典型的には、より大きな強度(より白い)を有する領域としてEISマップに現れる。表面における体積の電気特性の測定は、これらのマップから得られる。EITによって腫瘍を検出するように設計されたデバイスの一例は、Siemens TS2000である。
【0034】
一実施形態において、「逆の過程」は、以下のように行われる。上記のステージ1において、腫瘍の有無および位置が、CT、MRI、PETなどを使用して確立される。このようにして得られた腫瘍の座標が、EIT画像を構築するプロセッサに提供されることで、それは、
図4に描かれるように選択された腫瘍領域において計算された平均インピーダンス値を提供することになる。
【0035】
特有の腫瘍領域のインピーダンス値は、これより後に取得されるそれに続く値と比較するために登録される。インピーダンスは、EITにおいて使用される交番電界周波数の関数であることに留意されたい。選択された腫瘍領域のインピーダンスはこのとき、利用可能であれば、電気インピーダンスと、関連する腫瘍の細胞サイズ曲線またはテーブルに基づいて、あるいはそうでなければ、幾何学的または正六面体の中の角柱セル(PCIC)モデルに基づく計算に基づいて平均細胞サイズまたは細胞サイズのスペクトルに変換される。
【0036】
図1は、腫瘍細胞の分裂において(細胞質分裂における)極性粒子に及ぼされる最大電気力に基づいて計算された細胞半径(μm)と、最適な治療周波数(kHz)との計算された関係104を含むグラフ100を示している。
図1はまた、膠腫108と、黒色腫(メラノーマ)112に関する実験により決定した治療周波数も示している。実験により決定した最適な治療周波数と、黒色腫および膠腫における細胞サイズの組織測定は、十分に理にかなって計算された曲線上にあることに留意されたい。
【0037】
図2は、所定の時間(h)における時間に対してグラフ化されたピコリットル(pL)での細胞体積のグラフ200を示している。
図2は、TTFieldsに曝されたA2780ヒト卵巣癌細胞株の細胞培養において細胞サイズがどのように経時的に変化し得るかを示している。このケースにおいて、治療の最初の72時間では、細胞体積は増加することが分かる。例えば、
図2は、TTFieldsに曝されていない細胞に関して(曲線204)、細胞体積はおおよそ一定のままであり、約2pLの値を有することを示している。加えて、
図2は、TTFieldsに曝された細胞に関して(曲線201~203)、細胞体積は、約72時間の過程にわたって約2pLの値から約3pLの値まで増加することを示している。同様に、生体内での長期の治療において、細胞体積の変化が異なる場合がある。例えば、TTFieldによる2年間にわたる治療において3つのGBM生検材料を有するある患者において、組織片は、細胞体積が30%縮小したことを示した。このような時間による体積の変化を鑑みて、周波数調節手順は、好ましくは固有の患者における腫瘍の種類および腫瘍の履歴に応じて、治療の過程において繰り返されることが好ましい(例えば数週間毎または数ヶ月毎に)。
【0038】
図3は、正常な胸部304の画像300と、腫瘍を有する胸部の画像308とを示している。画像304および308は、X線、コンピューター断層撮影法(CT)、磁気共鳴映像法(MRI)、陽電子射出断層撮影法(PET)または等価なものによって取得することができる。胸部の腫瘍312は、白い染みとして画像308内に現れる。画像308は、腫瘍312の形状、サイズ、種類および位置を示す。
【0039】
図4は、周辺領域と併せた腫瘍の電気インピーダンストモグラフィ(EIT)画像のグラフ400であり、位置(m)に対してグラフ化された撮像領域の導電率(S/m)を示している。腫瘍は、グラフの矩形領域404内に位置している。
【0040】
図5は、組織内の細胞の幾何学的モデル表現500を示している。Gimsaを受けて(A unified resistor-capacitor model for impedance,dielectrophoresis,electrorotation,and induced transmembrane potential.Gimsa J,Wachner D.Biophys J.1998 Aug;75(2):1 107‐16.)、組織は、基本の正六面体504としてモデル化することができ、その場合、各々の基本正六面体504には、プリズム状の幾何学形状の基本細胞508が埋め込まれる。モデル表現500は、正六面体における角柱セルモデル(PCIC)と呼ばれる場合もある。幾何学的モデル500は、正六面体の中央面に対してミラー対称であり得る。
【0041】
図6は、PCICモデルと等価であるRC回路600(すなわち、抵抗とキャパシタとを含む回路)を示しており、これは正六面体における角柱セル(prismatic cell)の半分に相当する。同質の媒体、iに関して、これは以下の組織/細胞要素、すなわち細胞内媒体、細胞外媒体および外側細胞膜を含んでおり、そのインピーダンスは、対応するインピーダンスを有する並列RC回路としてモデル化され(
図6)、
【0042】
【0043】
この場合Li、Aiおよびσi
*はそれぞれ、電流に平行な長さ、電流に直交する領域および媒体iの複素伝導率(complex conductivity)である。
【0044】
複素伝導率は、
【0045】
【0046】
としてモデル化することができる。
【0047】
等価回路RCは、細胞内媒体603、細胞外媒体601および外側細胞膜602を含む同質の媒体をモデル化するのに使用することができる。
図5に示されるものなど幾何学的モデルが正六面体の中央面上でミラー対称であるケースでは、等価回路の半分のみのインピーダンスを解明するだけでよく、全体のインピーダンスは、計算されたもののちょうど2倍である。
【0048】
図7~
図9は、インピーダンス測定において使用される1kHzから1MHzの間の電磁周波数の範囲に関して構成細胞の細胞直径の関数としてのインピーダンスの実部と虚部のグラフを示している。
図7は、多様な電磁周波数に関して細胞直径に対してグラフ化されたインピーダンスの実成分のグラフ700を示す。例えば、曲線701、702、703、704、705、706、707、708、709、710、711、712、713、714、715、716、717、718および719は、1kHz、2kHz、3kHz、4kHz、6kHz、9kHz、13kHz、18kHz、26kHz、38kHz、55kHz、78kHz、113kHz、162kHz、234kHz、336kHz、483kHz、695kHzおよび1000kHzの電磁周波数にそれぞれ相当する。
図8は、多様な電磁周波数に関して細胞直径に対してグラフ化されたインピーダンスの虚成分のグラフ800を示す。例えば曲線801、802、803、804、805、806、807、808、809、810、811、812、813、814、815、816、817、818および819は、1kHz、2kHz、3kHz、4kHz、6kHz、9kHz、13kHz、18kHz、26kHz、38kHz、55kHz、78kHz、113kHz、162kHz、234kHz、336kHz、483kHz、695kHzおよび1000kHzの電磁周波数にそれぞれ相当する。
図9は、構成細胞の周波数が異なる細胞直径に対してグラフ化されたインピーダンスの実部と虚部両方のグラフ900を示す。例えば、曲線901、902、903、904、905、906、907、908、909、910および911は、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、13μm、16μm、19μm、22μmおよび25μmの細胞直径それぞれに関するインピーダンスの実部に相当する。加えて、曲線912、913、914、915、916、917、918、919、920、921および922は、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、1μm、16μm、19μm、22μmおよび25μmのそれぞれの細胞直径に関するインピーダンスの虚部に相当する。
図10は、構成細胞の多様な異なる細胞直径に関してインピーダンスの虚部に対してグラフ化されたインピーダンスの実部のグラフ1000を示す。例えば曲線1001、1002、1003、1004、1005、1006、1007、1008、1009、1010および1011は、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、13μm、16μm、19μm、22μmおよび25μmの細胞直径にそれぞれ相当する。曲線1001から1011はさらに、構成細胞に印加される電磁周波数に関する情報を含んでいる。右から左に、周波数は、一番右寄りの約100Hzから曲線の時計周りの方向に沿って、一番左寄りの約1MHzまで増大する。
図10に示されるコール-コールプロットは、
図7~
図9に示されるデータに基づいて構築することができる。
【0049】
腫瘍のインピーダンスがひとたび分かると、
図7~
図9を使用して細胞サイズを推理することができる。PCICブロックの配列のインピーダンスは、すなわちIMPは、
【0050】
【0051】
によって、PCICブロックのインピーダンス、すなわちimpから容易に演繹することができる。
【0052】
この場合Dは、組織(または腫瘍の)正六面体の側部長であり、aは、PCICブロックの側部長である。
図7~
図9は、インピーダンストモグラフィにおいて使用すべき好ましい周波数が存在することを示すことに留意することが重要である。そこから分かるように、例えば約30kHzの周波数までの
図7においてインピーダンス(実成分)と細胞サイズの曲線は、1つのピークを有する。すなわち同一インピーダンス(数式に対して2つの関連する解)を有する複数の細胞サイズが存在し、実際のサイズについて曖昧さを残す。しかしながらより高い周波数に関して、曲線は単調であり、各々のインピーダンス値に対する固有の解/サイズが存在する。したがってインピーダンストモグラフィは好ましくは、固有の細胞サイズを提供する周波数において行われるべきである。細胞サイズがひとたび判定されると、
図1に描かれるものなどの曲線に基づいて最適な治療周波数を決定することができる。
図7~
図9に提示される計算に関して、組織(または腫瘍の)の基本の正六面体は1mmのサイズを有するように選択されることに留意されたい。
図7から
図9に示される計算で使用される他のパラメータは、
図13に示されるように表1に見いだすことができる。代替の実施形態において、
図10からのデータを使用して、ひとたびインピーダンスが判定されば細胞サイズを推測することができる。
【0053】
図10は、インピーダンス測定値に基づいて細胞のサイズを判定するのに利用することができるコール-コールプロットを示す。コール-コールプロットは、細胞直径の関数として構成細胞のインピーダンススペクトルを示す。腫瘍の細胞サイズ、壊死の領域、嚢胞、または血管新生のレベルが時間と共に変化する場合、腫瘍内の流体または血液の体積の変化から生じるインピーダンスの変化によって潜在的な誤差が取り込まれる場合があることに留意されたい。これは2つの経路に沿って修正することができる。流体(血液、嚢胞液)の体積が十分に大きい場合、それはCTおよびインピーダンストモグラフィ画像によって検出することができるため、演算のために影響を受けていない領域を選択することができる。あるいは、細胞の大半の細胞膜が、静電性と抵抗性の両方を有する、すなわち実成分と、虚成分とを有し、流体および血液が、適切な近似に対して主に抵抗性の要素であるという事実に基づいて修正を行うことができる。ここで、修正は、インピーダンストモグラフィによって判定される腫瘍のインピーダンス値からのコール-コールプロット(
図10に提示される例を参照されたい)の構築に基づいている。本発明者らのケースにおいて、このような測定は、インピーダンストモグラフィの最適な周波数要件ではなく、組織に対するコール-コールプロットの要件によって要求される範囲の周波数において実施される。腫瘍の血液含有量の変化は、主にコール-コールプロットの抵抗性の局面において反映される。腫瘍と、腫瘍を囲む組織とのインピーダンスの比を利用することで、正確性を加えることができる。
【0054】
図11は、電磁放射線によって腫瘍を適応的に治療するための方法を示している。方法は、細胞サイズを判定するステップを含む(ステップ1110)。細胞サイズは、まず従来の撮像方法、CT、MRIまたはPETなどによって腫瘍の位置を突き止めることによって判定することができる。細胞サイズはまた、特定の患者から採取した腫瘍の生検材料によって得られた検体でできた組織切片から判定することもできる。細胞サイズはまた、関与する癌の種類に基づいて予測することもできる。腫瘍の位置を突き止めた後、周辺領域と併せて腫瘍の逆電気インピーダンストモグラフィ(IEIT)を行うことができる。よく知られるように、標準的なEITは、適切な電極によって関連する領域において選択された周波数の交番電界を身体に印加し、補助電極を利用して表面電位分布を測定することによって行われる。
【0055】
この情報に基づいて、
図4に示されるように選択された領域のインピーダンスの3D画像が構築される。この種の手順は、スキャンした領域に腫瘍(正常な周辺環境と異なるインピーダンスを有する領域によって特徴付けられる)があるかどうかを判断するために通常行われる。このような測定が、IEITの体系において行われる際、標準的な交番電界/電流周波数は、細胞サイズの判定に最も適したものによって置き換えらえる。
図7から
図10は、IEITを行うのに適した例示の周波数を示している。
【0056】
例えば、
図7を参照すると、IEITによって細胞サイズを判定する際、38kHzの周波数(曲線711に相当する)が好ましい可能性がある。方法はまた、判定された細胞サイズに基づいて周波数を設定するステップを含む(ステップ1120)。周波数は、
図1に描かれるものなどの曲線に基づいて選択することができる。治療周波数の調節は好ましくは、治療の初期設定の前に行われ、この実施形態に従って治療中に再調節が継続され、その期間は、数ヶ月、さらには数年である場合もある。方法はまた、新たな治療周波数を使用して、一定の時間間隔にわたって腫瘍を治療するステップを含む(ステップ1130)。いくつかの実施形態において、治療周波数は、順を追ってまたは同時に腫瘍に印加することができる2つ以上の周波数を含む場合がある。周波数の最初の設定は好ましくは、ステップ1110においてまず腫瘍細胞の平均サイズおよび細胞サイズのスペクトルを判定または推定することによって選択される。
【0057】
最初のサイズは好ましくは、特定の患者から採取した腫瘍の生検材料によって得られた検体でできた組織切片から判定される。しかし、それは、癌の種類に基づいた予測を使用して、または
図7から
図9に関連して記載されるインピーダンス手法を使用して設定される場合もある。好適な時間間隔(例えば、数週間または数ヶ月)が経過した後、治療を継続する決断が行われる(ステップ1140)。治療を継続すべきである場合、過程はステップ1110に戻り、ここで次に細胞サイズの判定がなされる。そうでなければ、治療の調節は終了する。腫瘍の細胞サイズは好ましくは、周期的に、例えば1~3ヶ月毎に、好ましくは以下の(1)腫瘍の生検材料、(2)特有の手順によって判定される患者の腫瘍インピーダンスに対する細胞サイズに関する本明細書に記載される新規のアルゴリズム、または(3)データベースルックアップテーブルの3つの手法のうちの1つまたは複数を利用して推定される。細胞サイズが変化した場合、治療電界周波数は、ステップ1120においてこれに従って調節される。新たな治療周波数がその後ステップ1130において使用される。
【0058】
図12は、異なる周波数を有するTTFieldsを患者に印加することができるシステムのブロック図である。システムの中核は、AC信号生成器1200であり、その出力は、少なくとも一対の電極E1まで接続される。好ましくは、少なくとも一対の追加の電極E2もまた、信号生成器の追加の出力まで接続される。信号は好ましくは、特許7,805,201号に記載されるように異なる対の電極に順に印加されることで、電界の方向を切り換える。
【0059】
AC信号生成器1200は、生成される信号の周波数を変える制御装置を有する。いくつかの実施形態において、この制御装置は、信号生成器内に構築されるつまみと同じくらい簡素であり得る。しかしより好ましくは、AC信号生成器1200は、制御入力に到達する信号に応答するように設計され、周波数制御装置1202は、好適な信号(例えばアナログまたはデジタル信号)をAC信号生成器1200の制御入力に送信し、所望される周波数で出力を生成するように信号生成器に命令する。周波数制御装置1202は、測定または推定された細胞直径に基づいてAC信号生成器1200に周波数を送信することができる。細胞直径は、組織測定によってまたはIEITによって判定することができる。
【0060】
ひとたび細胞直径が判定されると、最適な治療周波数を決定することができる。周波数制御装置1202はこのとき、AC信号生成器1200に制御信号を送信して、AC信号生成器の周波数を最適な治療周波数に設定することができる。周波数制御装置1202にプロセッサを結合させることで、測定または推定された細胞直径に基づいて最適な治療周波数を選択する過程を自動化することができる。プロセッサは、測定または推定された細胞サイズに関する情報を受信し、その後、受信した情報に基づいて最適な治療周波数を決定することができる。最適な治療周波数を決定した後、プロセッサは、周波数制御装置1202がAC信号生成器1200に信号を送信するようにさせる制御信号を周波数制御装置1202に送信することができ、この信号がAC信号生成器に最適な治療周波数を出力させる。
【0061】
これまで記載された実施形態はよって、TTFieldsによって腫瘍を適応的に治療することに焦点を合わせているが、本発明は、より広範な意味合いを有する。種々の実施形態において、IEITは、患者の細胞の集合のインピーダンスを測定するのに使用される場合がある。この場合、判定された患者の細胞の集合のインピーダンスを使用して治療のパラメータを調節することができる。治療は、手術、あるいは化学療法、放射線療法、薬物療法または栄養療法などの療法であり得る。いくつかの実施形態において、患者の細胞の判定されたインピーダンスを使用して、患者の細胞の集合における細胞のサイズを推定することができる。治療のパラメータはこのとき、推定された細胞サイズに基づいて調節することができる。
【0062】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載する目的であり、発明の概念を限定することは意図されていない。用語第1、第2、第3などは、多様な要素、構成要素、領域、層および/またはセクションを記述するのに本明細書で使用されるが、これらの要素、構成要素、領域、層および/またはセクションは、このような用語によって限定されるべきではないことが理解されるであろう。このような用語は単に、ある要素、構成要素、領域、層またはセクションを別の要素、構成要素、領域、層またはセクションと区別するのに使用される。よって、以下で考察される第1の要素、構成要素、領域、層またはセクションは、本出願の教示から逸脱せずに第2の要素、構成要素、領域、層またはセクションと呼ばれる場合もある。
【0063】
本発明の概念は、その例示の実施形態を参照して特に上記に示され記載されてきたが、以下の特許請求の範囲によって記載され定義される本発明の概念の精神および範囲から逸脱せずに形態および詳細において様々な変更がなされる場合があることは当業者によって理解されるであろう。