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特許7480086構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/48 20060101AFI20240430BHJP
   G01N 29/14 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
G01N29/48
G01N29/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021047761
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146671
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】高峯 英文
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199544(WO,A1)
【文献】特開2001-264303(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217034(WO,A1)
【文献】特開2017-053756(JP,A)
【文献】特開2017-227549(JP,A)
【文献】特開2020-112396(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051535(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00 - E01D 24/00
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体が通過する面とは異なる面に設置され、構造物を前記物体が通過したことによって発生した弾性波を検出する1以上のセンサと、
前記1以上のセンサによって検出された所定期間分の前記弾性波の特徴量のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価する評価部と、
を備え
前記1以上のセンサが検出する前記弾性波には、前記構造物の劣化によって発生した第1の弾性波と、前記構造物を通過したことに応じて加えられた荷重によって発生した第2の弾性波とが含まれ、
前記評価部は、少なくとも所定期間分の前記第2の弾性波を利用して前記構造物の劣化状態を評価する構造物評価システム。
【請求項2】
記評価部は、前記弾性波の特徴量に基づいて前記第1の弾性波を抽出し、抽出した前記第1の弾性波の特徴量の一定期間の合計値が前記第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価する、
請求項1に構造物評価システム。
【請求項3】
物体が通過する面とは異なる面に設置され、構造物を前記物体が通過したことによって発生した弾性波を検出する1以上のセンサと、
前記1以上のセンサによって検出された所定期間分の前記弾性波の検出数のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価する評価部と、
を備え、
前記1以上のセンサが検出する前記弾性波には、前記構造物の劣化によって発生した第1の弾性波と、前記構造物を通過したことに応じて加えられた荷重によって発生した第2の弾性波とが含まれ、
前記評価部は、前記弾性波の特徴量に基づいて前記第の弾性波を抽出し、抽出した前記第の弾性波の検出数の一定期間の合計値が第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価する、
構造物評価システム。
【請求項4】
前記評価部は、前記合計値をセンサ毎に算出し、前記第一の閾値以下となる前記合計値がある場合には、前記第一の閾値以下となった前記合計値に関連するセンサが設置されている領域を劣化が生じている領域と評価する、
請求項1から3のいずれか一項に構造物評価システム。
【請求項5】
前記評価部は、前記センサ毎の前記合計値を正規化した後に前記第一の閾値と比較する、
請求項1から4のいずれか一項に構造物評価システム。
【請求項6】
前記弾性波の特徴量は、時間に影響するパラメータである、
請求項1から5のいずれか一項に構造物評価システム。
【請求項7】
物体が通過する面とは異なる面に設置され、構造物を前記物体が通過したことによって発生した弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された所定期間分の前記弾性波の特徴量のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価する評価部、
を備え
前記1以上のセンサが検出する前記弾性波には、前記構造物の劣化によって発生した第1の弾性波と、前記構造物を通過したことに応じて加えられた荷重によって発生した第2の弾性波とが含まれ、
前記評価部は、少なくとも所定期間分の前記第2の弾性波を利用して前記構造物の劣化状態を評価する構造物評価装置。
【請求項8】
物体が通過する面とは異なる面に設置され、構造物を前記物体が通過したことによって発生した弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された所定期間分の前記弾性波の特徴量のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価し、
前記1以上のセンサが検出する前記弾性波には、前記構造物の劣化によって発生した第1の弾性波と、前記構造物を通過したことに応じて加えられた荷重によって発生した第2の弾性波とが含まれ、
少なくとも所定期間分の前記第2の弾性波を利用して前記構造物の劣化状態を評価する、
構造物評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁のような構造物の表面にセンサを設置することで、構造物内部で発生する弾性波を検出することができる。さらに、複数のセンサを構造物の表面に設置することで、複数のセンサそれぞれで検出した弾性波の到達時刻の差に基づいて、弾性波の発生源(以下「弾性波源」という)の位置を標定することができる。
【0003】
弾性波の伝搬経路に損傷がある場合、弾性波の伝搬が妨げられる。降雨時の雨滴による路面への衝突のように空間的に一様に付与される衝撃を構造物の表面に与えて対面に設置されたセンサによって弾性波を検出した場合、内部に損傷を有する領域では弾性波源の密度が低下して観測される。このような特性を利用して、構造物内部の損傷を検出することができる。しかしながら、従来では弾性波の到達時刻が把握できない場合には、弾性波源の位置を標定することができず、構造物内部の損傷を検出できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/217034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、より簡便な方法で構造物の劣化状態を評価することができる構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の構造物評価システムは、1以上のセンサと、評価部とを持つ。1以上のセンサは、物体が通過する面とは異なる面に設置され、構造物を前記物体が通過したことによって発生した弾性波を検出する。評価部は、前記1以上のセンサによって検出された所定期間分の前記弾性波の特徴量のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、前記構造物に劣化が生じていると評価する。前記1以上のセンサが検出する前記弾性波には、前記構造物の劣化によって発生した第1の弾性波と、前記構造物を通過したことに応じて加えられた荷重によって発生した第2の弾性波とが含まれる。前記評価部は、少なくとも所定期間分の前記第2の弾性波を利用して前記構造物の劣化状態を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】構造物に設置したセンサで検出される弾性波の一例を示す図。
図2】第1の実施形態における構造物評価システムの構成を示す図。
図3】第1の実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図。
図4】第1の実施形態におけるAFEの機能を表す概略ブロック図。
図5】第1の実施形態における制御部の機能を表す概略ブロック図。
図6】第1の実施形態における構造物評価システムの処理の流れ示すシーケンス図。
図7】従来技術で示した手法と、第1の実施形態における手法との比較図。
図8】第2の実施形態における処理を説明するための図。
図9】突発型の弾性波と連続型の弾性波との関係を示す図。
図10】第3の実施形態における第1の分離手法を説明するための図。
図11】第3の実施形態における第2の分離手法を説明するための図。
図12】第3の実施形態における第3の分離手法を説明するための図。
図13】第3の実施形態における第4の分離手法を説明するための図。
図14】弾性波の特徴量の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を、図面を参照して説明する。
【0009】
(概要)
実施形態における構造物評価システムは、より簡便な方法で構造物の劣化状態を評価することができるシステムである。具体的には、構造物評価システムでは、構造物を物体(例えば、車両)が通過したことによって発生した弾性波を、構造物に設置した1以上のセンサで検出し、1以上のセンサによって検出された弾性波の一定期間分の検出数又は特徴量の合計値に基づいて構造物の劣化状態を評価する。これにより、従来のように、弾性波源の位置標定を行わずに構造物の劣化状態を評価することができる。
【0010】
構造物に設置したセンサで検出される弾性波には、突発型の弾性波(第1の弾性波)と、連続型の弾性波(第2の弾性波)とがある。図1は、構造物に設置したセンサで検出される弾性波の一例を示す図である。図1(A)は突発型の弾性波の波形の一例を表し、図1(B)は連続型の弾性波の波形の一例を表す。突発型の弾性波は、連続型の弾性波に比べて持続時間が短い。一般的に、突発型の弾性波は、構造物内部の劣化によって発生する。構造物内部の劣化によって発生した弾性波とは、例えば構造物が劣化した瞬間(き裂進展)に発生した弾性波や、構造物が劣化したことによってできた傷(例えば、き裂等)が揺れてこすれる等して発生した弾性波を含む。連続型の弾性波は、例えば橋梁において構造物(コンクリート床版)の上部(路面)を車両が通過する場合に発生する。すなわち、連続型の弾性波は、構造物の路面の通過に伴う持続的な荷重が加わることによって発生する。なお、これは一例であり、突発型の弾性波や連続型の弾性波はその他の条件でも発生する。
【0011】
突発型の弾性波であれば、従来のように弾性波の到達時刻を検出して弾性波源の位置標定が可能である。しかし、連続型の弾性波では、突発型の弾性波も含む様々な弾性波が重畳されているため弾性波の到達時刻を検出することができない。そのため、従来では、連続型の弾性波はノイズとして除去されていた。そこで、実施形態における構造物評価システムでは、少なくとも連続型の弾性波を利用して構造物の劣化状態を評価する手法について説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態における構造物評価システム100の構成を示す図である。構造物評価システム100は、構造物11の健全性の評価に用いられる。以下の説明において、評価とは、ある基準に基づいて構造物11の健全性の度合い、すなわち構造物11の劣化状態を決定することを意味する。なお、以下の説明では、構造物11の一例としてコンクリートで構成された橋梁を例に説明するが、構造物11は橋梁に限定される必要はない。構造物11は、亀裂の発生または進展、あるいは外的衝撃(例えば雨、人工雨など)に伴い弾性波13が発生する構造物であればどのようなものであってもよい。例えば、構造物11は、岩盤であってもよい。なお、橋梁は、河川や渓谷等の上に架設される構造物に限らず、地面よりも上方に設けられる種々の構造物(例えば高速道路の高架橋)なども含む。
【0013】
構造物11の劣化状態の評価に影響を及ぼす損傷としては、例えば亀裂、空洞、土砂化等の弾性波13の伝搬を妨害する構造物11内部の損傷がある。ここで、亀裂には、縦方向の亀裂、横方向の亀裂及び斜め方向の亀裂等が含まれる。縦方向の亀裂とは、センサが設置されている構造物11の面に垂直な方向に生じている亀裂である。横方向の亀裂とは、センサが設置されている構造物11の面に水平な方向に生じている亀裂である。斜め方向の亀裂とは、センサが設置されている構造物11の面に水平及び垂直以外の方向に生じている亀裂である。土砂化とは、主にアスファルトとコンクリート床版の境界部でコンクリートが土砂状に変化する劣化である。
以下、構造物評価システム100の具体的な構成について説明する。
【0014】
構造物評価システム100は、複数のセンサ10-1~10-n(nは1以上の整数)、信号処理部20及び構造物評価装置30を備える。複数のセンサ10-1~10-nそれぞれと信号処理部20とは、有線により接続される。信号処理部20と構造物評価装置30との間は、有線又は無線により接続される。なお、以下の説明では、センサ10-1~10-nを区別しない場合にはセンサ10と記載する。
【0015】
図2に示すように、構造物11上を車両12が通過した際、車両12のタイヤと路面との接触により、路面に対して荷重がかかる。荷重によるたわみにより、多数の弾性波13が構造物11内に発生する。構造物11下面に設置されたセンサ10は、構造物11内で発生した弾性波13を検出することができる。
【0016】
センサ10は、構造物11内部から発生する弾性波13を検出する。例えば、センサ10は、構造物11を車両12が通過したことによって発生した弾性波13を検出する。構造物11を通過したことによって発生した弾性波13には、突発型の弾性波と、連続型の弾性波とが含まれる。例えば、構造物11を通過したことによって構造物11に荷重がかかると、構造物11内部の損傷から発生する持続時間の短い突発型の弾性波、路面から発生する持続時間の短い弾性波、路面から発生する持続時間の長い弾性波等の弾性波13が発生する。構造物11内部の損傷から発生する持続時間の短い突発型の弾性波と、路面から発生する持続時間の短い弾性波とは突発型の弾性波に分類され、路面から発生する持続時間の長い弾性波は連続型の弾性波に分類される。以下の説明では、構造物11を車両12が通過するものとして説明する。
【0017】
センサ10は、弾性波13を検出することが可能な位置に設置される。例えば、センサ10は、構造物11に対して荷重がかかる面と異なる面上に設置される。荷重がかかる面が、構造物11の路面である場合、センサ10は構造物11の側面及び底面のいずれかの面上に設置される。センサ10は、検出した弾性波13を電気信号に変換する。以下の説明では、センサ10が、構造物11の底面に設置されている場合を例に説明する。
【0018】
センサ10には、例えば10kHz~1MHzの範囲に感度を有する圧電素子が用いられる。センサ10としてより好適なものは、100kHz~200kHzに感度を有する圧電素子である。センサ10は、周波数範囲内に共振ピークをもつ共振型、共振を抑えた広帯域型等の種類があるが、センサ10の種類はいずれでもよい。センサ10が弾性波13を検出する方法は、電圧出力型、抵抗変化型及び静電容量型等があるが、いずれの検出方法でもよい。センサ10は、増幅器を内蔵していてもよい。
【0019】
センサ10に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、台車1において発生した弾性波13を検出する。加速度センサは、センサ10と同様の処理を行うことによって、検出した弾性波13を電気信号に変換する。
【0020】
信号処理部20は、センサ10から出力された電気信号を入力とする。信号処理部20は、入力した電気信号に対して信号処理を行う。信号処理部20が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等である。信号処理部20は、信号処理により得られた弾性波13の特徴量のデータを送信データとして構造物評価装置30に出力する。
【0021】
信号処理部20は、アナログ回路又はデジタル回路を用いて構成される。デジタル回路は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やマイクロコンピュータにより実現される。不揮発型のFPGAを用いることで、待機時の消費電力を抑えることができる。デジタル回路は、専用のLSI(Large-Scale Integration)により実現されてもいい。信号処理部20は、フラッシュメモリ等の不揮発メモリや、取り外し可能なメモリを搭載してもよい。
【0022】
構造物評価装置30は、信号処理部20から送信された送信データを用いて、構造物11の劣化状態を評価する。
【0023】
構造物評価装置30は、通信部31、制御部32、記憶部33及び表示部34を備える。
【0024】
通信部31は、信号処理部20から送信された送信データを受信する。通信部31は、受信した送信データを制御部32に出力する。
【0025】
制御部32は、構造物評価装置30全体を制御する。制御部32は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部32は、プログラムを実行することによって、取得部321及び評価部322として機能する。
【0026】
取得部321及び評価部322の機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGAなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0027】
取得部321及び評価部322の機能の一部は、予め構造物評価装置30に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが構造物評価装置30にインストールされることで実現されてもよい。
【0028】
取得部321は、各種情報を取得する。例えば、取得部321は、通信部31によって受信された送信データを取得する。例えば、信号処理部20と構造物評価装置30とが無線により通信している場合、取得部321は通信インタフェースとして機能し、信号処理部20との間で無線通信を行うことによって送信データを取得する。例えば、信号処理部20と構造物評価装置30とが有線により通信している場合、取得部321は通信インタフェースとして機能し、信号処理部20との間で有線通信を行うことによって送信データを取得する。取得部321は、取得した送信データを記憶部33に保存する。
【0029】
評価部322は、取得部321によって取得された送信データに基づいて構造物11の劣化状態を評価する。具体的には、評価部322は、記憶部33に記憶されている一定期間分の送信データを用いて、センサ毎の弾性波13の検出数の合計値を算出する。評価部322は、センサ毎の弾性波13の検出数の合計値が閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価する。例えば、評価部322は、弾性波13の検出数の合計値が閾値以下であるセンサ10が設置されている周辺の領域に損傷があると評価する。評価部322は、信号処理部20と同じ端末内でにあってもよく、外部のサーバーやパーソナルコンピュータで実現されてもよい。
【0030】
記憶部33は、取得部321によって取得された送信データと、センサ位置情報とを記憶する。センサ位置情報には、センサIDに対応付けてセンサ10の設置位置に関する情報が含まれる。センサ位置情報は、例えば構造物11上における緯度、経度の情報であってもよいし、構造物11の特定位置からの水平方向および垂直方向の距離など等の情報であってもよい。記憶部33は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0031】
表示部34は、制御部32の制御に従って情報を表示する。例えば、表示部34は、評価部322の評価結果を表示する。表示部34は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部34は、画像表示装置を構造物評価装置30に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部34は、特定結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0032】
図3は、第1の実施形態における信号処理部20の機能を表す概略ブロック図である。信号処理部20は、複数のAFE(Analog Front End)21、制御部22、通信部23及び電源供給部24を備える。
【0033】
AFE21は、センサ10から出力された電気信号に対してフィルタ処理及びアナログデジタル変換処理を行う。AFE21は、フィルタ処理及びアナログデジタル変換処理後の電気信号を制御部22に出力する。
【0034】
制御部22は、信号処理部20全体を制御する。制御部22は、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。例えば、制御部22は、AFE21から出力された電気信号に基づいて送信データを生成する。
通信部23は、制御部22によって生成された送信データを構造物評価装置30に送信する。
【0035】
電源供給部24は、各機能部に電力を供給する。具体的には、電源供給部24は、AFE21、制御部22及び通信部23に対して電力を供給する。電源供給部24は、外部の電源、一次電池、二次電池、太陽電池、エネルギーハーベスタ等から供給される電力を受ける部である。
【0036】
図4は、第1の実施形態におけるAFE21の機能を表す概略ブロック図である。AFE21は、受信部211、第1フィルタ212、アナログデジタル変換部213及び第2フィルタ214で構成される。
【0037】
受信部211は、センサ10から送信された電気信号を受信する。受信部211は、受信した電気信号を第1フィルタ212に出力する。
【0038】
第1フィルタ212は、受信部211によって受信された電気信号からノイズを除去する。例えば、第1フィルタ212は、電気信号から特定周波数帯以外の周波数帯をノイズとして除去する。第1フィルタ212は、例えば、バンドパスフィルタである。第1フィルタ212は、ノイズ除去後のアナログ信号(以下「ノイズ除去アナログ信号」という。)をアナログデジタル変換部213に出力する。
【0039】
アナログデジタル変換部213は、第1フィルタ212から出力されたノイズ除去アナログ信号を量子化することによって、アナログ信号からデジタル信号に変換する。アナログデジタル変換部213は、デジタル信号を第2フィルタ214に出力する。
【0040】
第2フィルタ214は、アナログデジタル変換部213から出力されたデジタル信号からノイズを除去する。第2フィルタ214は、ノイズを除去するためのフィルタである。第2フィルタ214は、ノイズ除去後のデジタル信号(以下「ノイズ除去デジタル信号」という。)を制御部22に出力する。
以下の説明では、AFE21において行われる処理を前処理と記載する。
【0041】
図5は、第1の実施形態における制御部22の機能を表す概略ブロック図である。制御部22は、プログラムを実行することによって、イベント信号生成部221、特徴量抽出部222及び送信データ生成部223として機能する。イベント信号生成部221、特徴量抽出部222及び送信データ生成部223を実現するためのプログラムは、出荷時に信号処理部20にインストールされていてもよいし、別途インストールされてもよい。
【0042】
イベント信号生成部221は、第2フィルタ214から出力されたノイズ除去デジタル信号を入力する。イベント信号生成部221は、入力したノイズ除去デジタル信号の波形が持続しているか否かを示すゲート信号を生成する。イベント信号生成部221は、例えばエンベロープ検出器及びコンパレータにより実現される。エンベロープ検出器は、ノイズ除去デジタル信号のエンベロープを検出する。エンベロープは、例えば、ノイズ除去デジタル信号を二乗し、二乗した出力値に対して所定の処理(例えばローパスフィルタを用いた処理やヒルベルト変換)を行うことで抽出される。コンパレータは、ノイズ除去デジタル信号のエンベロープが所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0043】
イベント信号生成部221は、ノイズ除去デジタル信号のエンベロープが所定の閾値以上となった場合、ノイズ除去デジタル信号の波形が持続していることを示す第1のゲート信号を特徴量抽出部222に出力する。第1のゲート信号が出力された場合には、イベントが発生したことを表す。一方、イベント信号生成部221は、ノイズ除去デジタル信号のエンベロープが所定の閾値未満になった場合、ノイズ除去デジタル信号の波形が持続していないことを示す第2のゲート信号を特徴量抽出部222に出力する。第2のゲート信号が出力された場合には、イベントが終了したことを表す。イベント発生の検知、すなわちエンベロープが所定の閾値以上となったか否かの判定には、ChangeFinderやAIC(Akaike's Information Criterion)等が用いられてもよい。
【0044】
特徴量抽出部222は、イベント信号生成部221から出力されたゲート信号及び第2フィルタ214から出力されたノイズ除去デジタル信号を入力する。特徴量抽出部222は、入力したゲート信号及びノイズ除去デジタル信号に基づいて、信号の波形が継続しているときの特徴量をノイズ除去デジタル信号から抽出する。特徴量は、例えば波形の振幅[mV]、波形の立ち上がり時間[usec]、ゲート信号の持続時間[usec]、到達時刻、ゼロクロスカウント数[times]、波形のエネルギー[arb.]、周波数[Hz]及びRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値等である。
【0045】
特徴量抽出部222は、抽出した特徴量に関するパラメータを送信データ生成部223に出力する。特徴量抽出部222は、特徴量に関するパラメータを出力する際に、特徴量に関するパラメータにセンサIDを対応付ける。センサIDは、構造物11に設置されているセンサ10を識別するための識別情報を表す。これにより、特徴量に関するパラメータが、どのセンサ10により検出された弾性波13の特徴量であるのかを特定することができる。
【0046】
波形の振幅は、例えばノイズ除去信号の中で最大振幅の値である。波形の立ち上がり時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始からノイズ除去信号が最大値に達するまでの時間T1である。ゲート信号の持続時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。到達時刻は、弾性波13の到達時刻である。到達時刻は、不図示の水晶発振器などのクロック源から出力されるクロックと、イベント信号生成部221から出力された第1のゲート信号とに基づいて決定される。例えば、到達時刻は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたクロックを用いて、弾性波13の到達時刻が決定される。
【0047】
ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線をノイズ除去信号が横切る回数である。波形のエネルギーは、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。周波数は、ノイズ除去信号の周波数である。RMS値は、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗して平方根により求めた値である。
【0048】
送信データ生成部223は、特徴量抽出部222から出力されたセンサIDを対応付けた特徴量を入力とする。送信データ生成部223は、入力したセンサIDを対応付けた特徴量を含む送信データを生成する。送信データ生成部223は、生成した送信データを通信部23に出力する。
【0049】
図6は、第1の実施形態における構造物評価システム100の処理の流れ示すシーケンス図である。なお、図6の処理開始時には、車両12の通過に伴い発生した弾性波13がセンサ10によって検出されているものとする。
【0050】
AFE21は、センサ10から送信された電気信号に対して前処理を行う(ステップS101)。具体的には、AFE21は、電気信号に対して、フィルタ処理及びアナログデジタル変換処理を行う。AFE21は、ノイズ除去デジタル信号を制御部22に出力する。制御部22は、AFE21から出力されたノイズ除去デジタル信号を入力として、ノイズ除去デジタル信号から特徴量を抽出する(ステップS102)。ここで、特徴量抽出部222は、イベント信号生成部221により第1のゲート信号が出力されている場合にのみノイズ除去デジタル信号から特徴量を抽出する。一方、特徴量抽出部222は、イベント信号生成部221により第2のゲート信号が出力された場合にはノイズ除去デジタル信号から特徴量を抽出しない。
【0051】
特徴量抽出部222は、抽出した特徴量にセンサIDを対応付けて送信データ生成部223に出力する。送信データ生成部223は、特徴量抽出部222から出力された特徴量を含む送信データを生成する(ステップS103)。送信データには、特徴量及びセンサIDが含まれる。送信データ生成部223は、生成した送信データを通信部23に出力する。通信部23は、送信データ生成部223から出力された送信データを構造物評価装置30に送信する(ステップS104)。信号処理部20によって送信データが生成される度に、信号処理部20から構造物評価装置30に送信データが送信されてもよいし、一定期間分の送信データがまとめて構造物評価装置30に送信されてもよい。
【0052】
構造物評価装置30の通信部31は、信号処理部20から送信された送信データを受信する。取得部321は、通信部31によって受信された送信データを取得する。取得部321は、取得した送信データを記憶部33に記録する(ステップS105)。評価部322は、所定期間経過したか否かを判定する(ステップS106)。例えば、評価部322は、送信データが受信されたある時点から所定期間が経過したか否かを判定する。
【0053】
所定期間経過していない場合(ステップS106-NO)、構造物評価装置30は所定期間経過するまでの間、信号処理部20から送信データが送信される度にステップS105の処理を繰り返し実行する。
【0054】
一方、所定期間経過した場合(ステップS106-YES)、評価部322は記憶部33から所定期間分の送信データを取得する。評価部322は、取得した所定期間分の送信データを用いて、構造物11の劣化状態を評価する(ステップS107)。具体的には、まず評価部322は、所定期間分の送信データをセンサIDに基づいてセンサ10毎に分類する。次に、評価部322は、センサ10毎に分類した送信データを用いて、弾性波13の検出数の合計値をセンサ10毎に算出する。1つの送信データが1つの弾性波13の検出数に相当する。評価部322は、算出したセンサ10毎の合計値と、閾値とを比較する。評価部322は、センサ毎の合計値が全て閾値より高い場合には、構造物11に劣化が生じていないと評価する。一方、評価部322は、センサ10毎の合計値のいずれかが閾値以下である場合には、閾値以下となった合計値に関連するセンサ10が設置されている領域を劣化が生じている領域と評価する。
【0055】
このように第1の実施形態における評価部322は、突発型の弾性波と、連続型の弾性波とを特に区別しないで評価に用いている。評価部322は、評価結果を出力する(ステップS108)。例えば、評価部322は、評価結果をコンター図として表してもよい。
【0056】
路面から発生した弾性波13が構造物11内部を伝わって、下面まで伝搬したとき、構造物11内部に大きな損傷が発生していた場合、弾性波13の進行が遮られたり、弾性波13が迂回することで減衰する。このため、損傷が生じている直下のセンサ10には弾性波13が到達しにくくなる。そのため、ある車両が通過した際に発生する弾性波13の検出数をカウントすることで位置標定なしにセンサ10直上の劣化状態を評価することができる。複数のセンサ10を構造物11に設置し、センサ10毎の検出数の大小を、配置したセンサ10の位置で補間することでゾーン標定ができる。
【0057】
図7は、従来技術で示した手法を用いて位置標定を行った結果として得られた弾性波源分布と、第1の実施形態における手法を用いて得られた評価結果とを比較した図である。図7(A)は従来技術で得られる弾性波源分布を表し、図7(B)は第1の実施形態における手法を用いて得られたコンター図を表す。図7(A)においては中央の領域R1内で弾性波源が標定されていない。図7(B)においても同様に中央の領域R2内で弾性波13の検出数が少ないことが示されている。この結果から、図7(A)及び図7(B)の中央の領域は、大きな損傷が生じていると評価される。実施形態における手法では、従来のように大量にあるノイズを扱う点は同じであるが、位置標定を行わずとも従来の手法と同精度の結果が得られている。さらに、実施形態における手法では、位置標定を行わないため、イベントごとの時間関係など複雑な処理がなくなり、効率的な処理が可能になる。
【0058】
以上のように構成された構造物評価システム100によれば、構造物11を通過したことによって発生した弾性波13を検出する1以上のセンサ10と、1以上のセンサ10によって検出された所定期間分の弾性波13の検出数のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価する評価部322と、を備える。これにより、位置標定なしに構造物11の劣化状態を評価することができる。そのため、より簡便な方法で構造物11の劣化状態を評価することが可能になる。
【0059】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、突発型の弾性波と連続型の弾性波とを区別せずに、センサで検出された弾性波の数に基づいて構造物の劣化状態を評価する構成について説明した。第2の実施形態では、弾性波から得られる特徴量を利用して、突発型の弾性波の影響を抑制しつつ、連続型の弾性波を用いた評価を行う構成について説明する。
【0060】
構造物11を通過したことによって発生した弾性波13には、構造物11内部の損傷から発生する持続時間の短い突発型の弾性波、路面から発生する持続時間の短い弾性波、路面から発生する持続時間の長い弾性波(連続型の弾性波)が含まれている。この中で持続時間の短い弾性波は、構造物11内部の損傷から発生した弾性波13との区別が難しい。一方で、持続時間の長い弾性波は、路面から発生した弾性波であると判断が可能である。したがって、時間に影響する特徴量を用いることによって、路面で発生した弾性波13を識別することができる。ここで、時間に影響する特徴量としては、例えば持続時間、立ち上がり時間やエネルギー等のパラメータを用いることができる。
【0061】
AE(Acoustic Emission)法の場合、損傷による弾性波13の迂回などによる振幅の減衰を検出することで劣化判断が可能である。しかし、持続時間の長い弾性波13が含まれているため、様々な弾性波13が重畳しやすくなり、1イベントの減衰を検出することが困難である。一方で、時間に影響する特徴量の合計値を算出すると、連続型の弾性波に重きが置かれ、突発型の弾性波は誤差の範囲に落ち着く。例えば、持続時間の合計値を算出すると、連続型の弾性波は比較的持続時間が長いため評価結果に影響を与えることになるが、突発型の弾性波は持続時間が短いために評価結果に影響を与える可能性が少ないといえる。そのため、時間に影響する特徴量を使用する劣化評価は、連続型の弾性波の判断だけではなく、ノイズに対しても一定の効果があるといえる。そこで、第2の実施形態では、所定期間に発生した弾性波13の合計持続時間(持続時間の合計値)又は合計エネルギー(エネルギーの合計値)をセンサ10毎に算出することで、突発型の弾性波の影響を抑制しつつ、連続型の弾性波を利用した評価を行うことができる。
【0062】
第2の実施形態におけるシステム構成は、第1の実施形態と同様である。第1の実施形態との差異は、評価部322が行う処理が異なる点である。以下、相違点について説明する。
評価部322は、センサ10によって検出された所定期間分の弾性波13の特徴量のセンサ10毎の合計値が閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価する。より具体的には、評価部322は、合計値をセンサ10毎に算出し、閾値以下となる合計値がある場合には、閾値以下となった合計値に関連するセンサ10が設置されている領域を劣化が生じている領域と評価する。
【0063】
図8は、第2の実施形態における処理を説明するための図である。図8(A)は所定期間分の弾性波13を用いたセンサ10毎の検出数の合計値を表す図である。図8(B)は所定期間分の弾性波13を用いたセンサ10毎の持続時間の合計値を表す図である。図8(A)に示すように、円R3で示されるデータはセンサ10(CH4)の検出数の合計値を表し、円R4で示されるデータはセンサ10(CH11)の検出数の合計値を表す。検出数の合計値で評価する場合、センサ10(CH4)の周辺では劣化が生じていないと評価されることになる。
【0064】
それに対して、図8(B)に示すように、円R5で示されるデータはセンサ10(CH4)の持続時間の合計値を表し、円R6で示されるデータはセンサ10(CH11)の持続時間の合計値を表す。持続時間の合計値で評価すると、検出数の影響を減らし、連続型の弾性波を利用した評価を行うことができる。
【0065】
以上のように構成された第2の実施形態における構造物評価システム100では、構造物11を通過したことによって発生した弾性波13を検出するセンサ10と、センサ10によって検出された所定期間分の弾性波13の特徴量のセンサ10毎の合計値が閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価する評価部322と、を備える。これにより、従来では、ノイズとして削除されていた連続型の弾性波を利用して構造物11の劣化状態を評価することができる。
【0066】
さらに、第2の実施形態における構造物評価システム100において、弾性波13の特徴量は、時間に影響するパラメータが用いられる。時間に影響するパラメータを用いることによって、センサ10によって検出された弾性波13のうち、連続型の弾性波に重み付けすることができる。これにより、突発型の弾性波の影響を抑制して、連続型の弾性波に基づく劣化状態の評価が可能になる。
【0067】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、センサから得られた弾性波の特徴量によって連続型の弾性波を抽出し、抽出した連続型の弾性波を用いて構造物の劣化状態を評価する。第1の実施形態及び第2の実施形態との差分は、第3の実施形態では構造物の劣化状態の評価に連続型の弾性波を利用して、突発型の弾性波を利用しないようにフィルタリングを行う点である。
【0068】
図9は、突発型の弾性波と連続型の弾性波との関係を示す図である。図9では、横軸を持続時間とし、縦軸を振幅のピークとした例を示している。図9における円SE内の点は突発型の弾性波の分布を表し、図9における円LE内の点は連続型の弾性波の分布を表す。図1で説明したように、突発型の弾性波は持続時間が短く、連続型の弾性波は突発型の弾性波よりも持続時間が長い。そのような特徴を加味すると、第2の実施形態に示した時間に影響する特徴量を利用することで、突発型の弾性波と、連続型の弾性波とを分離して利用することができる。
【0069】
第3の実施形態における構造物評価装置30は、信号処理部20から得られた複数の送信データの中から、時間に影響する特徴量を利用して連続型の弾性波に対応する送信データを抽出する。これにより、連続型の弾性波を用いた劣化状態の評価が可能になる。
【0070】
次に、時間に影響する特徴量を利用して、突発型の弾性波と、連続型の弾性波とを分離する手法について説明する。
【0071】
(第1の分離手法)
図10は、第1の分離手法を説明するための図である。図10には、横軸を持続時間とし、縦軸を検出数とした場合の弾性波のグラフが示されている。図10では、時間に影響する特徴量として持続時間を用いているが、エネルギーや立ち上がり時間であってもよい。構造物評価装置30は、例えば、グラフ中から分離の基準となる値(以下「基準値」という)を検出し、検出した基準値における持続時間以上の持続時間の弾性波に対応する送信データを、連続型の弾性波に対応する送信データとして抽出する。図10では、基準値としてP1又はP2が示されている。ここで、基準値の位置は、予め定められていてもよいし、グラフの変化に基づいて検出してもよい。グラフの変化に基づいて検出する場合、グラフにおける下降傾向から上昇傾向へと変化した位置を基準値とすればよい。なお、センサ10毎の変化点ではなく、過去のデータやセンサ間で比較した一番小さい変化点、一番大きい変化点又は切片等の固定した値を基準として使用してもよい。
【0072】
(第2の分離手法)
図11は、第2の分離手法を説明するための図である。図11には、横軸を持続時間とし、縦軸を検出数とした場合の弾性波の頻度分布が示されている。図11では、時間に影響する特徴量として持続時間を用いているが、エネルギーや立ち上がり時間であってもよい。構造物評価装置30は、図11に示すように、平均、中央値、検出数を対数で表した頻度分布を用いた平均又は中央値を基準値として使用してもよい。
【0073】
(第3の分離手法)
図12は、第3の分離手法を説明するための図である。図12には、横軸を持続時間とし、縦軸を振幅とした場合の弾性波の分布が示されている。図12では、時間に影響する特徴量として持続時間を用いているが、エネルギーや立ち上がり時間であってもよい。構造物評価装置30は、図12に示すグラフに主成分分析を使用して送信データを分離してもよい。図12(A)から図12(F)は主成分分析を用いた処理の流れを示している。図12(A)の横軸と縦軸の値を正規化すると図12(B)に示す状態になる。図12(B)では、主成分分析により新たな2軸A1,A2を作成した状態を示している。図12(B)に示した軸A2を横軸、軸A1を縦軸となるように、図12(B)の図を回転すると図12(C)となる。図12(C)において、正の部分と負の部分とで色を変えると、図12(D)となる。図12(D)の状態から、図12(B)と同じ軸に戻すと図12(E)となる。そして、図12(E)の横軸と縦軸の値を、図12(A)と同じ値に戻すと図12(F)の状態になる。このように、主成分分析を用いて送信データを、突発型の弾性波の送信データと、連続型の弾性波の送信データとに分離することができる。
【0074】
(第4の分離手法)
図13は、第4の分離手法を説明するための図である。図13では、図12(A)と同様の図を用いている。第4の分離手法として、図13に示すように、k-means法を使用して送信データを分離してもよい。
【0075】
(第5の分離手法)
第5の分離手法として、あらかじめ抽出し突発型の弾性波のサンプルと、連続型の弾性波のサンプルとを教師データとして、SVM(Support Vector Machine)のような教師付き学習を行って生成した学習済みモデルを使用して、記憶部33に記憶されている送信データを、突発型の弾性波の送信データと、連続型の弾性波の送信データとに分離してもよい。なお、特徴量ではなく、弾性波の波形そのものを学習した学習済みモデルを利用して、連続型の弾性波を抽出してもよい。
【0076】
図14は、弾性波の特徴量の関係を示す図である。図14(A)は横軸を持続時間、縦軸を振幅のピークとした場合の弾性波の分布を表す。図14(B)は横軸を持続時間、縦軸を立ち上がり時間とした場合の弾性波の分布を表す。図14(C)は横軸を立ち上がり時間、縦軸をエネルギーとした場合の弾性波の分布を表す。図14(D)は横軸を持続時間、縦軸をエネルギーとした場合の弾性波の分布を表す。図14(E)は横軸を立ち上がり時間、縦軸を振幅のピークとした場合の弾性波の分布を表す。図14(F)は横軸を振幅のピーク、縦軸をエネルギーとした場合の弾性波の分布を表す。図14(A)~図14(F)に示すように、立ち上がり時間対エネルギー(図14(C))、持続時間対エネルギー(図14(D))、立ち上がり時間対ピーク振幅(図14(E))等を用いても分離できることが示されている。
【0077】
第3の実施形態におけるシステム構成は、第1の実施形態と同様である。第1の実施形態との差異は、評価部322が行う処理が異なる点である。以下、相違点について説明する。
評価部322は、弾性波13の特徴量に基づいて連続型の弾性波に対応する送信データを抽出し、抽出した送信データに含まれる弾性波13の特徴量の一定期間の合計値が閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価する。ここで、評価部322は、弾性波13の特徴量に基づいて連続型の弾性波に対応する送信データを抽出する際に、上述した第1の分離手法から第5の分離手法のいずれかの手法を用いる。
【0078】
例えば、評価部322は、所定期間分の送信データをセンサIDに基づいてセンサ10毎に分類する。次に、評価部322は、センサ毎に分類した送信データの中から、上記のいずれかの分離手法を用いて、弾性波13の特徴量に基づいて連続型の弾性波に対応する送信データを抽出する。評価部322は、抽出した送信データを用いて、弾性波13の特徴量の合計値をセンサ10毎に算出する。評価部322は、算出したセンサ毎の合計値と、閾値とを比較する。評価部322は、センサ毎の合計値が全て閾値より高い場合には、構造物11に劣化が生じていないと評価する。一方、評価部322は、センサ10毎の合計値のいずれかが閾値以下である場合には、閾値以下となった合計値に関連するセンサ10が設置されている領域を劣化が生じている領域と評価する。
【0079】
なお、評価部322は、抽出した送信データに含まれる弾性波13の検出数の一定期間の合計値が閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価してもよい。
【0080】
以上のように構成された第3の実施形態における構造物評価システム100では、時間に影響を与える特徴量によって、所定期間分の弾性波13の中から連続型の弾性波を抽出し、抽出した連続型の弾性波の特徴量のセンサ10毎の合計値が閾値以下である場合に、構造物11に劣化が生じていると評価する。これにより、連続型の弾性波を利用して構造物11の劣化状態を評価することができる。
【0081】
(第1の実施形態から第3の実施形態に共通する変形例)
評価部322は、センサ10毎の合計値を正規化した後に閾値と比較するように構成されてもよい。例えば、評価部322は、センサ10毎の合計値を車両数で正規化してもよい。このように構成されることによって、合計値を車両数で正規化し、例えば、1台あたりの平均値にすることで違う期間やほかの橋梁と比較が行いやすくなる。
【0082】
構造物評価装置30が備える各機能部は、一部又は全てが別の筺体に備えられていてもよい。例えば、表示部34が別の筺体に備えられてもよい。このように構成される場合、制御部32は、評価結果を別の筺体に送信する。そして、別の筺体に備えられる表示部34は、評価結果を表示する。このように構成されることによって、構造物評価装置30の製造コストを抑えることができる。
【0083】
信号処理部20と、構造物評価装置30とは一体化されて構成されてもよい。
【0084】
制御部32は、出力制御部を備えてもよい。出力制御部は、出力部を制御して、評価結果及び位置標定結果を出力する。ここで、出力部には、通信部及び印刷部が含まれる。出力部が通信部である場合、出力制御部は通信部を制御して、評価結果及び位置標定結果を他の装置に送信する。また、出力部が印刷部である場合、出力制御部は印刷部を制御して、評価結果及び位置標定結果を印刷する。構造物評価装置30は、通信部及び印刷部の一部又は全てを備えて上記の動作を実行してもよい。
【0085】
上記の説明では、構造物11を通過する物体が車両12である場合を例に説明した。構造物11を通過する物体は、車両12に限定される必要はない。構造物11を通過する物体は、構造物11に荷重を与えつつ、構造物11を通過する物体であればよい。例えば、構造物11を通過する物体は、人力による手押し車両であってもよいし、永続的に信号を入力できるロードスイーパーのようなブラシ付き車両であってもよいし、ドローンのような飛行体であってもよい。飛行体を用いる場合、構造物11に荷重を与える方法は、路面への打撃だけではなく、逆にしたパターン(例えば、センサ10の設置場所と衝撃を付与する場所を逆にしたパターン)、構造物11の側面とその反対の側面などであってもよい。
【0086】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、構造物を通過したことによって発生した弾性波を検出する1以上のセンサと、1以上のセンサによって検出された所定期間分の弾性波の特徴量のセンサ毎の合計値が第一の閾値以下である場合に、構造物に劣化が生じていると評価する評価部と、を持つことにより、より簡便な方法で構造物の劣化状態を評価するができる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
10、10-1~10-n…センサ,20…信号処理部,21…AFE,22…制御部,23…通信部,24…電源供給部,31…通信部,32…制御部,33…記憶部,34…表示部,211…受信部,212…第1フィルタ,213…アナログデジタル変換部,214…第2フィルタ,221…イベント信号生成部,222…特徴量抽出部,223…送信データ生成部,321…取得部,322…評価部
図1
図2
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図5
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図10
図11
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