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特許7480096活物質、電極、二次電池、電池パック、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】活物質、電極、二次電池、電池パック、及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20240430BHJP
【FI】
H01M4/485
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021146172
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2023039150
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】村田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 一樹
(72)【発明者】
【氏名】高見 則雄
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169343(JP,A)
【文献】特開2014-209445(JP,A)
【文献】特開2020-149829(JP,A)
【文献】特開2020-047411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブチタン複合酸化物を含んだ結晶粒子を含み、前記結晶粒子中のTi存在比率ATiに対するNb存在比率ANbの比ANb/ATiが2.3≦ANb/ATi≦4.0を満たし、且つ、前記結晶粒子についてのCu-Kα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて8.5°≦2θ≦9.0°に現れるピークαのピーク強度Iαと、12.5°≦2θ≦13.0°に現れるピークβのピーク強度Iβとの強度比Iβ/Iαが、0.1<Iβ/Iα≦2.0の範囲内にある、活物質。
【請求項2】
前記結晶粒子は、前記ピークαが帰属されるA型ニオブチタン複合酸化物相と、前記ピークβが帰属されるB型ニオブチタン複合酸化物相とを含み、前記B型ニオブチタン複合酸化物相の質量割合Mに対する前記A型ニオブチタン複合酸化物相の質量割合Mの質量比率M/Mは0.5≦M/M≦2.5の範囲内にある、請求項1記載の活物質。
【請求項3】
前記ニオブチタン複合酸化物は、Ta,K,及びPから成る群より選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の活物質。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の活物質を含む、電極。
【請求項5】
前記活物質を含有する活物質含有層を含む、請求項4に記載の電極。
【請求項6】
負極と、
正極と、
電解質と
を具備する二次電池であって、
前記負極は、請求項4又は5に記載の電極を含む、二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池を具備する、電池パック。
【請求項8】
通電用の外部端子と、
保護回路と
を更に具備する、請求項7に記載の電池パック。
【請求項9】
複数の前記二次電池を具備し、
前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている、請求項7又は8に記載の電池パック。
【請求項10】
請求項7から9の何れか1項に記載の電池パックを具備する、車両。
【請求項11】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む、請求項10に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、活物質、電極、二次電池、電池パック、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度電池として、リチウムイオン二次電池のような非水電解質二次電池などの二次電池の研究開発が盛んに進められている。非水電解質二次電池などの二次電池は、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の車両用、携帯電話基地局の無停電電源用などの電源として期待されている。そのため、二次電池は、高エネルギー密度に加えて、急速充放電性能、長期信頼性のような他の性能にも優れていることも要求されている。例えば、急速充放電が可能な二次電池は、充電時間が大幅に短縮されるだけでなく、ハイブリッド電気自動車等の車両の動力性能の向上や動力の回生エネルギーの効率的な回収も可能である。
【0003】
急速充放電は、電子及びリチウムイオンが正極と負極との間を速やかに移動できるようになることにより可能になる。しかしながら、カーボン系負極を用いた電池は、急速充放電を繰り返すと、電極上に金属リチウムのデンドライト析出が生じ、内部短絡による発熱や発火の虞があった。
【0004】
そこで、炭素質物の代わりに金属複合酸化物を負極に用いた電池が開発された。中でも、チタン酸化物を負極に用いた電池は、安定的な急速充放電が可能であり、カーボン系負極を用いた場合に比べて寿命も長いという特性を有する。
【0005】
しかしながら、チタン酸化物は炭素質物に比べて金属リチウムに対する電位が高い、すなわち貴である。その上、チタン酸化物は、重量あたりの容量が低い。このため、チタン酸化物を負極に用いた電池は、エネルギー密度が低いという問題がある。
【0006】
例えば、チタン酸化物の電極電位は、金属リチウム基準で約1.5V(vs.Li/Li)であり、カーボン系負極の電位に比べて高い(貴である)。チタン酸化物の電位は、リチウムを電気化学的に挿入脱離する際のTi3+とTi4+の間での酸化還元反応に起因するものであるため、電気化学的に制約されている。また、1.5V(vs.Li/Li)程度の高い電極電位においてリチウムイオンの急速充放電が安定的に行えるという事実もある。従って、エネルギー密度を向上させるために電極電位を低下させることは従来困難であった。
【0007】
一方、単位重量あたりの容量については、二酸化チタン(アナターゼ構造)の理論容量は165mAh/g程度であり、Li4Ti512のようなスピネル型リチウムチタン複合酸化物の理論容量も180mAh/g程度である。他方、一般的な黒鉛系電極材料の理論容量は385mAh/g以上である。このように、チタン酸化物の容量密度はカーボン系負極のものと比較して著しく低い。これは、チタン酸化物の結晶構造中に、リチウムを吸蔵するサイトが少ないことや、構造中でリチウムが安定化し易いため、実質的な容量が低下することによるものである。
【0008】
以上に鑑みて、Ti及びNbを含む新たな電極材料が検討されている。そのようなニオブチタン複合酸化物材料は、高い充放電容量を有すると期待されている。特に、Nb2TiO7で表される複合酸化物は380mAh/gを超える高い理論容量を有する。それ故、ニオブチタン複合酸化物は、Li4Ti512に代わる高容量材料として期待されている。しかし、ニオブチタン複合酸化物は優れた入力性能を示すことに対して、出力性能が低いため、入出力性能のバランスが悪いことが課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-169343号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】M.Gasperin, Journal of Solid State Chemistry 53, pp144-147 (1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高いエネルギー密度を維持しながら、バランスの取れた入出力性能を有し、且つ優れたサイクル寿命性能を示すことができる二次電池を実現することができる活物質および電極、エネルギー密度が高くバランスの取れた入出力性能を有しサイクル寿命性能に優れた二次電池および電池パック、並びに、この電池パックを備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態によれば、ニオブチタン複合酸化物を含んだ結晶粒子を含む活物質が提供される。結晶粒子中のTi存在比率ATiに対するNb存在比率ANbの比ANb/ATiが2.3≦ANb/ATi≦4.0を満たす。尚且つ、結晶粒子についてのCu-Kα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて8.5°≦2θ≦9.0°に現れるピークαのピーク強度Iαと、12.5°≦2θ≦13.0°に現れるピークβのピーク強度Iβとの強度比Iβ/Iαが、0.1<Iβ/Iα≦2.0の範囲内にある。
【0013】
他の実施形態によれば、上記活物質を含む電極が提供される。
【0014】
さらに他の実施形態によれば、負極と正極と電解質とを具備する二次電池が提供される。負極は、上記の電極を含む。
【0015】
ことさら他の実施形態によれば、上記二次電池を具備する電池パックが提供される。
【0016】
また、実施形態によれば、上記電池パックを具備する車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7の結晶構造を示す模式図。
図2図1の結晶構造を他の方向から示す模式図。
図3】透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)観察における測定対象の粒子を概略的に示す平面図。
図4】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
図5図4に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
図6】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
図7図6に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
図8】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
図9】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
図10図9に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図11】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図。
図12】実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一または類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図は実施形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる点があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜設計変更することができる。
【0019】
[第1の実施形態]
第1の実施形態によれば、活物質が提供される。活物質は、ニオブチタン複合酸化物を含んだ結晶粒子を含む。結晶粒子中のTi存在比率ATiに対するNb存在比率ANbの比ANb/ATiが2.3≦ANb/ATi≦4.0の関係を満たす。加えて、結晶粒子についてのCu-Kα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて8.5°≦2θ≦9.0°の範囲内に現れるピークをピークαとし、12.5°≦2θ≦13.0°の範囲内に現れるピークをピークβをとする。ピークαのピーク強度Iαと、ピークβのピーク強度Iβとの強度比Iβ/Iαが、0.1<Iβ/Iα≦2.0の範囲内にある。
【0020】
係る活物質は、電池用活物質であり得る。該活物質は、例えば、リチウムイオン電池や非水電解質電池等の二次電池の電極に用いられる電極活物質であり得る。より具体的には、活物質は、例えば、二次電池の負極に用いられる負極活物質であり得る。
【0021】
上記活物質は、Nb2TiO7で表される複合酸化物を電極材料に用いた電池と同様の高いエネルギー密度を維持しながら、バランスの取れた入出力性能を有し、且つ優れたサイクル寿命性能を示すことができる二次電池を実現できる。その理由を、以下に説明する。
【0022】
係る活物質は、Nb2TiO7型の結晶相と、Nb10Ti229型の結晶相とを含む。以後、前者のNb2TiO7型の結晶相をA型ニオブチタン複合酸化物相と呼び、後者のNb10Ti229型の結晶相をB型ニオブチタン複合酸化物相と呼ぶことがある。活物質は、下記式(1)で表されるNb元素及びTi元素の存在比率を満たし、かつ下記式(2)で表されるピーク強度比を満たす:
2.3≦ANb/ATi≦4.0 (1)
0.1<Iβ/Iα≦2.0 (2)
式(1)中、ANbはNb存在比率、ATiはTi存在比率をそれぞれ示し;
式(2)中、IαはCu-Kα線をX線源とする広角X線回折法による回折スペクトルにおいて、2θが8.5°≦2θ≦9.0°である範囲内に現れるピークαの最大強度のピーク強度、Iβは上記回折スペクトルにおいて2θが12.5°≦2θ≦13.0°である範囲内に現れるピークβの最大強度のピーク強度をそれぞれ示す。
【0023】
活物質についてのX線回折スペクトルにおけるピークαは、A型ニオブチタン複合酸化物相(Nb2TiO7型の結晶相A)に帰属される。スペクトルにおけるピークβは、B型ニオブチタン複合酸化物相(Nb10Ti229型の結晶相B)に帰属される。
【0024】
活物質において、各結晶粒子内にA型ニオブチタン複合酸化物相およびB型ニオブチタン複合酸化物相が混在する。結晶粒子中のA型ニオブチタン複合酸化物相およびB型ニオブチタン複合酸化物相の混合比が、下記式(3)を満たすことが望ましい:
0.5≦M/M≦2.5 (3)
式(3)中、Mは結晶粒子中のA型ニオブチタン複合酸化物相の質量割合、Mは結晶粒子中のB型ニオブチタン複合酸化物相の質量割合をそれぞれ示す。
【0025】
Nb2TiO7型の結晶相であるA型ニオブチタン複合酸化物相を説明する。
【0026】
実施形態に係る活物質が含むA型ニオブチタン複合酸化物相の代表組成としては、Nb2TiO7が挙げられる。ニオブチタン複合酸化物の組成はこれに限定されないが、空間群C2/mの対称性を持ち、非特許文献1(Journal of Solid State Chemistry 53, pp144-147 (1984))に記載の原子座標を有する結晶構造を有することが好ましい。
【0027】
ニオブチタン複合酸化物は、主に単斜晶型の結晶構造を示す。その例として、単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造の模式図を図1及び図2に示す。
【0028】
図1に示すように、単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造は、金属イオン101と酸化物イオン102が骨格構造部分103を構成している。金属イオン101の位置には、NbイオンとTiイオンとがNb:Ti=2:1の比でランダムに配置されている。この骨格構造部分103が三次元的に交互に配置されることで、骨格構造部分103同士の間に空隙部分104が存在する。この空隙部分104がリチウムイオンのホストとなる。リチウムイオンは、この結晶構造中に0モルから最大で5.0モルまで挿入され得る。従って、リチウムイオンが0~5.0モル挿入された場合の組成は、LixNb2TiO7(0≦x≦5)と表すことができる。
【0029】
図1において、領域105及び領域106は、[100]方向と[010]方向に2次元的なチャネルを有する部分である。それぞれ図2に示すように、単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造には、[001]方向に空隙部分107が存在する。この空隙部分107は、リチウムイオンの伝導に有利なトンネル構造を有しており、領域105と領域106とを繋ぐ[001]方向のイオン伝導経路となる。このイオン伝導経路が存在することによって、リチウムイオンは領域105と領域106を行き来することが可能となる。また、ニオブチタン複合酸化物は、1.5V(対Li/Li+)程度のリチウム挿入電位を有する。それ故、ニオブチタン複合酸化物を活物質として含む電極は、安定した繰り返し急速充放電が可能な電池を実現できる。
【0030】
更に、上記の結晶構造は、リチウムイオンが空隙部分104に挿入されたとき、骨格を構成する金属イオン101が3価に還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。ニオブチタン複合酸化物においては、Tiイオンが4価から3価へ還元されるだけでなく、Nbイオンが5価から3価へと還元される。このため、活物質重量あたりの還元価数が大きい。それ故、多くのリチウムイオンが挿入されても結晶の電気的中性を保つことが可能である。このため、4価カチオンだけを含む酸化チタンのような化合物に比べて、エネルギー密度が高い。また、A型ニオブチタン複合酸化物相(Nb2TiO7型相)は、後述するB型ニオブチタン複合酸化物相(Nb10Ti229型相)と比較して重量エネルギー密度に優れている。これは、Nb10Ti229型の結晶相が含む1モル当たりのNb原子の数が多い、つまり1モル当たりの重量が大きいためである。
【0031】
次に、Nb10Ti229型の結晶相であるB型ニオブチタン複合酸化物相について説明する。
【0032】
B型ニオブチタン複合酸化物相の基本的な骨格構造は図1及び図2に示した、単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造と類似構造である。リチウムイオンが空隙部分104に挿入されたとき、骨格を構成する金属イオン101が3価に還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。Nb10Ti229型の結晶相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LiyNb10Ti229(0≦y≦22)と表すことができる。
【0033】
ニオブを多く含むNb10Ti229型の結晶相は、Nb2TiO7型の結晶相と比較して、Nbイオンが5価から3価へと還元される量が多くなる。このため、活物質1モルあたりの還元価数が大きい。それ故、多くのリチウムイオンが挿入されても結晶の電気的中性を保つことが可能である。従って、B型ニオブチタン複合酸化物相は、A型ニオブチタン複合酸化物相に比べてリチウムイオンが挿入された場合に結晶構造をより安定的に保つことができる。これにより、リチウムイオンの拡散が速く、急速充放電を繰り返しても寿命を延ばすことができる。即ち、入出力性能およびサイクル寿命性能に優れる。
【0034】
一方、Nb10Ti229型の結晶相の活物質重量あたりの還元価数は、Nb2TiO7型の結晶相と比較して小さい。つまり、B型ニオブチタン複合酸化物相は、1モルあたりの重量が大きいため、重量エネルギー密度はA型ニオブチタン複合酸化物相に劣る。
【0035】
したがって、B型ニオブチタン複合酸化物相(Nb10Ti229型相)は結晶中のリチウムイオンの動きを高速化することができ、A型ニオブチタン複合酸化物相(Nb2TiO7型相)は重量エネルギー密度を高めることができる。それ故、B型ニオブチタン複合酸化物相とA型ニオブチタン複合酸化物相とが同一粒子内で各々に均一に分布することで、これらの性能を両立することができる。
【0036】
ここでいう両者の相の均一な分布とは、活物質の一次粒子内にそれぞれの相の間の境目などが見られない状態を指す。何れの結晶相についても分布が均一な結晶粒子では、粒子内で各相が分子レベル又は原子レベルで平均化した状態にあり得る。同一粒子内でNb10Ti229型とNb2TiO7型との結晶相の相互貫入点などの境界点、即ち結晶相の偏りが存在する場合、異なる結晶相間のリチウムイオンの授受が律速になる。特にリチウム脱離(放電)において、格子体積の変動から格子のマッチングにずれが生じやすくなり、リチウムイオンの移動が妨げられやすい。
【0037】
上述したとおり、実施形態に係る活物質が含むニオブチタン複合酸化物の結晶粒子は、上記式(1):2.3≦ANb/ATi≦4.0で表されるNb元素及びTi元素の存在比率を満たし、且つ式(2):0.1<Iβ/Iα≦2.0で表されるピーク強度比を満たすX線回折スペクトルを示す。活物質は、複数の上記結晶粒子を含んだバッチ、例えば、粉末状の活物質であり得るが、各々の結晶粒子は何れも上記式(1)及び式(2)を各々満たす。
【0038】
式(1)中の記号ANb/ATiは、結晶粒子中に含まれるTi存在比率ATiに対するNb存在比率ANbのモル比である。2.3以上のANb/ATi比は、B型ニオブチタン複合酸化物相(Nb10Ti229型の結晶相)が安定的に生成されていることを示す。Nb10Ti229型の結晶相が安定的に生成されていることで、高い入出力性能を示すことができる。4.0以下のANb/ATi比は、A型ニオブチタン複合酸化物相(Nb2TiO7型の結晶相)が安定的に生成されていることを示す。Nb2TiO7型の結晶相が安定的に生成されていることで、高いエネルギー密度を示すことができる。
【0039】
ピーク強度Iαは、X線回折スペクトルにおける(Nb2TiO7型の)A型ニオブチタン複合酸化物相に帰属されるピークαのピーク強度(ピーク高さ)である。このピークαとは、後述の広角X線回折法により測定されるスペクトルにおける2θが8.5°≦2θ≦9.0°の範囲内で最大のピーク強度を有するピークである。
【0040】
ピーク強度Iβは、X線回折スペクトルにおける(Nb10Ti229型の)B型ニオブチタン複合酸化物相に帰属されるピークβのピーク強度(ピーク高さ)である。このピークβとは、後述の広角X線回折法により測定されるスペクトルにおける2θが12.5°≦2θ≦13.0°の範囲内で最大のピーク強度を有するピークである。
【0041】
上述したとおり、活物質の結晶粒子中にA型ニオブチタン複合酸化物相とB型ニオブチタン複合酸化物相とが均一に分布することにより、活物質は向上した入出力性能およびサイクル性能を示す。0.1を超えるピーク強度比Iβ/Iαは、B型ニオブチタン複合酸化物相の結晶性が良好であることを意味する。ピーク強度比Iβ/Iαが0.1以下である場合は、Nb10Ti229型相の結晶性が著しく低いことを意味する。また、0.1を上回り2.0以下の範囲内にあるピーク強度比Iβ/Iαは、A型およびB型(Nb2TiO7型およびNb10Ti229型)のニオブチタン複合酸化物相が共存し、且つ粒子内に均一に分布していることを示唆している。対して、ピーク強度比Iβ/Iαが2.0より大きい場合は、活物質粒子中でA型相およびB型相が粒子内に均一に分布していないことを示唆している。これは、粒子中に各相の明確な境界や偏りがある場合、後述の広角X線回折法においては粒子配向の影響が現れ、得られるスペクトルでは前述のピーク強度比の範囲から逸脱するためである。
【0042】
係る活物質は、上記式(3):0.5≦MA/MB≦2.5を更に満たすことが望ましい。質量比率MA/MBが0.5以上であると、活物質中に含まれる容量密度に優れるA型ニオブチタン複合酸化物相の相対的な量が多い。そのため、活物質容量が大きくなり、高いエネルギー密度が得られやすい。質量比率MA/MBが2.5以下に留まると、活物質中に含まれるリチウムイオンの拡散に優れるB型ニオブチタン複合酸化物相の相対的な量が多いため、優れた入出力性能が得られやすい。また、質量比率MA/MBが0.5以上2.5以下である方が、粒子内の各相の分布に偏りが生じにくい。
【0043】
以上の通り、実施形態に係る活物質は、Nb2TiO7型の結晶相Aと、Nb10Ti229型の結晶相Bとを含み、結晶粒子中のNb元素及びTi元素存在比が2.3≦ANb/ATi≦4.0の関係にあり、且つX線回折によればピーク強度比0.1<Iβ/Iα≦2.0の関係を満たすため、高いエネルギー密度を維持しながら、バランスの取れた入出力性能を有し、且つ優れたサイクル寿命性能を示すことができる二次電池を実現することができる。そして結晶相A及び結晶相Bの質量比率MA/MBが0.5≦MA/MB≦2.5の場合には、より安定的に均一な結晶相が得られる。
【0044】
実施形態に係る活物質は、Ta,K,及びPから成る群より選択される1以上の添加元素を含んでいてもよい。活物質が含む添加元素の総量は、ニオブチタン複合酸化物に対してモル比率で5000ppm以下であることが好ましい。より好ましい添加量は、200ppm以上3000ppm以下の範囲である。活物質がTaを含む場合、結晶の安定性を高めることができる。活物質がK及びPから成る群より選択される少なくとも1つを含む場合、融点を低下させて結晶性を高めることができる。
【0045】
次に、実施形態に係る活物質についての形態、粒子径、及び比表面積を説明する。
【0046】
<形態>
実施形態に係る活物質(ニオブチタン複合酸化物)の形態は、特に限定されない。ニオブチタン複合酸化物は、例えば、一次粒子の形態をとることもできるし、一次粒子が凝集してなる二次粒子の形態をとることもできる。ニオブチタン複合酸化物の粒子は、一次粒子と、二次粒子との混合物でもよい。
【0047】
ニオブチタン複合酸化物の粒子は、表面に炭素含有層を有していてもよい。炭素含有層は、一次粒子の表面に付着していてもよいし、二次粒子の表面に付着していてもよい。或いは、ニオブチタン複合酸化物の粒子は、表面に炭素含有層が付着した一次粒子が凝集してなる二次粒子を含んでいてもよい。このような二次粒子は、一次粒子間に炭素が存在しているため、優れた導電性を示すことができる。このような二次粒子を含む態様は、活物質含有層がより低い電気抵抗を示すことができるので、好ましい。
【0048】
係る活物質は、上述したニオブチタン複合酸化物の粒子や粉末からなる材料であり得る。該ニオブチタン複合酸化物が活物質の50質量%以上100質量%以下を占めることが望ましい。
【0049】
<粒子径>
ニオブチタン複合酸化物の一次粒子又は二次粒子である活物質粒子の平均粒子径は特に制限されない。活物質粒子の平均粒子径は、例えば0.1μm以上50μm以下の範囲内にある。平均粒子径は、必要とされる電池性能に応じて変化させることができる。例えば、急速充放電性能を高めるためには、平均粒子径を1.0μm以下とすることが好ましい。このようにすると、結晶中のリチウムイオンの拡散距離を小さくすることができるため、急速充放電性能を高めることができる。平均粒子径は、例えばレーザー回折法によって求めることができる。
【0050】
<BET比表面積>
実施形態に係る活物質のBET(Brunauer, Emmett, Teller)比表面積は、特に制限されない。しかしながら、BET比表面積は、2.5m2/g以上、200m2/g未満であることが好ましい。
【0051】
比表面積が2.5m2/g以上であれば、電解質との接触面積を確保することができ、良好な放電レート性能が得られやすく、また充電時間を短縮できる。一方、比表面積が200m2/g未満であれば、電解質との反応性が高くなり過ぎず、寿命性能を向上させることができる。また、後述する電極の製造に用いる、活物質を含むスラリーの塗工性を良好なものにすることができる。
【0052】
ここで、比表面積の測定には、粉体粒子表面に吸着占有面積が既知である分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法を用いる。最も良く利用されるのが不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法である。このBET法は、単分子層吸着理論であるLangmuir理論を多分子層吸着に拡張した、比表面積の計算方法として最も有名な理論であるBET理論に基づく方法である。これにより求められた比表面積のことを、BET比表面積と称する。
【0053】
<製造方法>
本実施形態に係る活物質は、以下の方法により製造することができる。
【0054】
出発原料として、Nb25粒子およびTiO2粒子を準備する。上述した添加元素Ta,K,及び/又はPを添加する場合は、これら添加元素の酸化物、例えば、Ta25粒子、K2CO3粒子、及び/又はH3PO4粒子を更に準備する。
【0055】
出発原料である酸化物粒子を混合する。このとき、混合した出発原料にてモル比が、Nb25:TiO2=1:1よりもNbリッチとなるように混合する。出発原料におけるNb25とTiO2とのモル比は、具体的にはNb25:TiO2=1.15:1以上2.0:1以下の範囲であることが好ましい。出発原料中のモル比がこの範囲内にあると、得られる活物質において、結晶粒子中のTi存在比率ATiに対するNb存在比率ANbの比ANb/ATiで表すNb元素およびTi元素存在比が2.3≦ANb/ATi≦4.0を満たすため、各結晶相が安定的に形成されるためである。
【0056】
混合した出発原料を用いて固相法による合成を行う。固相法によって合成するにあたり、まず、原料の混合物をボールミルで1時間以上10時間以下に亘り混合する。その後、本焼成の前に仮焼成(第1の焼成)を行う。仮焼成は600℃以上1100℃以下の温度で1時間以上12時間以下に亘り行うことが望ましい。仮焼成を行うことにより、原料粉末に吸着している微量な不純物成分(例えば、水や有機物など)を除去することができる。仮焼成は省略してもよい。
【0057】
本焼成(第2の焼成)は、900℃以上1200℃以下の温度で1時間以上10時間以下に亘り行うことが好ましい。950℃以上1050℃以下の温度で2.5時間以上3.5時間以下に亘り焼成することがより好ましい。焼成温度を900以上1200℃以下の範囲にしてNbとTiとの反応を抑制することで、Nb2TiO7型相とNb10Ti229型相の核となる結晶相を分離生成する。この焼成によりそれぞれの結晶相における結晶性を高めることができるが、この段階では、例えば、特許文献1(特開2019-169343号公報)と同様に、同一粒子内でNb10Ti229型相とNb2TiO7型相の相互貫入点などの境界点すなわち結晶相の偏りが存在する。
【0058】
本焼成の後、高温熱処理を行う。高温熱処理(第3の焼成)では、1425℃以上1500℃以下の温度で、0.5時間以上2時間以下に亘り加熱処理を行うことが好ましい。1450℃以上1475℃以下の温度で、0.5時間以上1時間以下に亘り加熱処理することがより好ましい。加熱処理後、急冷する。加熱処理温度を1425℃以上1500℃以下の温度の範囲とすることで、活物質粒子内で融点の低いNb10Ti229型相が先に液化し、Nb2TiO7型相の間隙に入り込むことで、結晶相の偏りが解消されるようになる。同様に、Nb2TiO7型相も熱振動により粒子内の分散が促進されて相互貫入点などの明確な境界点が無くなり、各結晶相が粒子内に均一に分散される。その結果、得られる活物質は、Nb2TiO7型の結晶相Aと、Nb10Ti229型の結晶相Bとを含み、上述した式(1):2.3≦ANb/ATi≦4.0で表されるNb元素及びTi元素の存在比率を満たし、且つそのX線粉末スペクトルは上述した式(2):0.1<Iβ/Iα≦2.0で表されるピーク強度比を満たす。
【0059】
更に、得られる活物質が含む結晶粒子において、Nb2TiO7型の結晶相AとNb10Ti229型の結晶相Bとの質量比率が、上述した式(3):0.5≦MA/MB≦2.5を満たし得る。
【0060】
900℃よりも低い温度で本焼成を行った場合はNbとTiとの反応が進行しにくく、原料酸化物が残留する。また、1200℃を超える温度で本焼成を行うと、Nb元素とTi元素の拡散が早く進行するために、一次粒子内でNb2TiO7型相とNb10Ti229型相の混在相を形成せず、目的外の不純物相が生成しやすくなる。
【0061】
1425℃より低い温度で高温熱処理を行った場合、Nb10Ti229型相の溶融状態や、熱振動による移動が十分ではなく、粒子内に均一な分布を持つ結晶相を得ることができない。また、1500℃よりも高い温度で高温熱処理を行った場合、Nb2TiO7型相とNb10Ti229型相両方が同時に液化する。その結果、Nb元素とTi元素の拡散が著しく進行するために、一次粒子内でA型ニオブチタン複合酸化物相(Nb2TiO7型の結晶相)とB型ニオブチタン複合酸化物相(Nb10Ti229型の結晶相)との混在相を形成せず、目的外の不純物相が生成しやすくなる。
【0062】
<測定方法>
以下、活物質の測定方法を説明する。具体的には、粉末X線回折測定および透過型電子顕微鏡‐エネルギー分散型X線分光法による観察を説明する。
【0063】
測定する対象の活物質が電池に含まれている場合は、例えば、次に説明する方法により測定試料を電池から取り出す。
【0064】
まず、活物質の結晶状態を把握するために、活物質からリチウムイオンが完全に離脱した状態にする。例えば、活物質が負極において用いられている場合、電池を完全に放電状態にする。例えば、電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧又は電池電圧が1.0Vに到達するまで放電させることを複数回繰り返し、放電時の電流値が定格容量の1/100以下となるようにすることで、電池を放電状態にすることができる。放電状態でも残留したリチウムイオンが存在することもある。
【0065】
次に、アルゴンを充填したグローブボックス中で電池を分解して電極を取り出す。次いで、取り出した電極を適切な溶媒で洗浄する。洗浄用の溶媒としては、例えば、エチルメチルカーボネートなどを用いることができる。電極の洗浄が不十分であると、電極中に残留したリチウムイオンの影響で、炭酸リチウムやフッ化リチウムなどの不純物相が混入することがある。その場合は測定雰囲気を不活性ガス中で行える気密容器を用いるとよい。
【0066】
<粉末X線回折測定>
活物質の粉末X線回折(X-Ray Diffraction;XRD)測定は、例えば、次のように行うことができる。
【0067】
まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。平均粒子径はレーザー回折法によって求めることができる。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、試料の充填不足によりひび割れ、空隙等がないように注意する。次いで、外部から別のガラス板を使い、充分に押し付けて平滑化する。この際、充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu-Kα線を用いてX線回折(XRD)パターンを取得する。
【0068】
なお、本測定では試料の粒子形状により粒子の配向が大きくなることを利用して、粒子内の結晶相の分散状態を確認する。そのため、配向性の影響を緩和することが知られているガラスキャピラリ等を用いた回転式試料台による測定や、結晶配向の各種補正を行わない。このような測定を行うと結晶配向に関する情報が除かれるため、上記式(2)に係るピーク強度比を求めることができない。
【0069】
電池から取り出した電極が含む活物質を測定する場合は、洗浄した電極を、粉末X線回折装置のホルダーの面積と同程度の面積となるように切断して測定試料とする。この試料を直接ガラスホルダーに貼り付けて測定を行う。
【0070】
このとき、金属箔などの電極基板に由来するピークの位置を予め測定しておく。また、導電剤や結着剤などの他の成分のピークも予め測定しておく。基板のピークと活物質のピークとが重なる場合、基板から活物質が含まれる層(例えば、後述する活物質含有層)を剥離して測定に供することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。活物質を含む層を物理的に剥離しても良いが、溶媒中で超音波をかけると剥離しやすい。超音波処理を行った場合、溶媒を揮発させることで、電極材料粉末(活物質、導電剤、バインダーを含む)を回収することができる。回収した電極材料粉末を、例えば、リンデマンガラス製キャピラリ等に充填して測定することで、活物質の粉末X線回折測定を行うことができる。なお、超音波処理を行って回収した電極材料粉末は、粉末X線回折測定以外の各種分析に供することもできる。
【0071】
粉末X線回折測定の装置としては、例えば、Rigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:
X線源:Cuターゲット
出力:45kV、200mA
ソーラスリット:入射及び受光共に5°
ステップ幅(2θ):0.01deg
スキャン速度:2deg/分
半導体検出器:D/teX Ultra 250
試料板ホルダー:平板ガラス試料板ホルダー(厚さ0.5mm)
測定範囲:5°≦2θ≦90°。
【0072】
その他の装置を使用する場合は、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行って、上記装置によって得られる結果と同等のピーク強度、半値幅及び回折角の測定結果が得られる条件を見つけ、その条件で試料の測定を行う。
【0073】
XRD測定の条件は、リートベルト解析に適用できるXRDパターンを取得できる条件とする。リートベルト解析用のデータを収集するには、具体的にはステップ幅が回折ピークの最小半値幅の1/3-1/5となるようにし、最強度反射のピーク位置における強度が5000cps以上となるように適宜、測定時間またはX線強度を調整する。
【0074】
得られる回折パターンを用いて、リートベルト解析を実行することで2つの結晶相の質量混合比率M/Mを決定することができる。
【0075】
また、得られる回折ピークにおいて、2θが8.5°≦2θ≦9.0°の範囲内で最大のピーク強度を有するピークをピークαとして、そのピーク強度Iαを決定する。また、当該回折ピークにおいて2θが12.5°≦2θ≦13.0°の範囲内で最大のピーク強度を有するピークをピークβとして、そのピーク強度Iβを決定する。そして、そこからピーク強度比Iβ/Iαを算出する。
【0076】
<透過型電子顕微鏡‐エネルギー分散型X線分光法による観察>
透過型電子顕微鏡‐エネルギー分散型X線分光法(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;TEM-EDS)での観察によると、混相を有する材料における各粒子内の結晶相の分布を確認することができる。
【0077】
透過型電子顕微鏡観察にあたっては、対象とする試料粉体を樹脂などに埋め込み、機械研磨及びイオンミリングなどで検体内部を削り出すことが望ましい。また、対象とする試料が電極体でも同様の処理を行うことができる。例えば、電極のまま樹脂に埋め込み、所望の箇所を観察することもできるし、電極から集電体(金属箔)を剥離し、導電剤やバインダーが混在した電極粉末として観察することもできる。このようにすることで、2つの結晶相が粒子内でどのように分布しているかを知ることができる。
【0078】
図3を参照しながら具体例を以下に説明する。図3は測定対象の粒子を概略的に示す平面図である。まず、測定対象とする粒子の重心点を粒子の中心とみなす。次に、粒子の中心と粒子表面の任意の点とを結んだ直線上で等間隔に5点の測定点を設定する。それぞれの測定点に直交する領域の3点における粒子部の多波干渉像を調べ、電子線回折パターンの観測をする。この観測によりその測定点に含まれる結晶構造を知ることができる。例えば、電子線回折パターンをあらかじめシミュレーションすることで、Nb2TiO7型相と、Nb10Ti229型相、並びに、それ以外の相の各々の分布を把握しやすくすることができる。更に、結晶中に含まれる添加元素をEDS分析によって検出することができる。TEM像上にマッピングすることにより、その分布状態も確認することができる。例えば、粒子における異なる領域にてそれぞれ配置されるNb2TiO7型相とNb10Ti229型相とを区別できたり、少なくとも何れかの結晶相の分布に偏りが見られたりする場合は、均一な分布は得られていないものと判断する。対して、粒子中でNb2TiO7型相についての均一な分布が観察されると同時にNb10Ti229型相についても均一な分布が観察され、相互貫入点などの境目や相の偏在が確認されない場合は、A型ニオブチタン複合酸化物相とB型ニオブチタン複合酸化物相とが何れも結晶粒子内で均一に分布していると判断できる。
【0079】
第1の実施形態に係る活物質は、ニオブチタン複合酸化物を含んだ結晶粒子を含む。結晶粒子中のTi存在比率ATiに対するNb存在比率ANbの比ANb/ATiが2.3≦ANb/ATi≦4.0を満たし、且つ、結晶粒子についてのCu-Kα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおける8.5°≦2θ≦9.0°に現れるピークαのピーク強度Iαと、12.5°≦2θ≦13.0°に現れるピークβのピーク強度Iβとの強度比Iβ/Iαが、0.1<Iβ/Iα≦2.0の範囲内にある。この活物質は、優れた重量エネルギー密度を示し、入出力性能のバランスが良く、サイクル寿命性能が高い二次電池を実現することができる。
【0080】
[第2の実施形態]
第2の実施形態によると、電極が提供される。係る電極は、第1の実施形態に係る活物質を含む。
【0081】
この電極は、第1の実施形態に係る活物質を電池用活物質として含む電池用電極であり得る。電池用電極としての電極は、例えば、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含む負極であり得る。
【0082】
係る電極は、集電体と活物質含有層とを含むことができる。活物質含有層は、集電体の片面又は両面に形成され得る。第1の実施形態に係る活物質は、例えば、活物質含有層に含有される。活物質含有層は、活物質に加え、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
【0083】
活物質含有層は、第1の実施形態に係る活物質の粉末や粒子を単独で含んでもよく、第1の実施形態に係る活物質の粉末や粒子を2種以上含んでもよい。さらに、第1の実施形態に係る活物質を1種の粉末や粒子又は2種以上の粉末や粒子と、更に1種又は2種以上の他の活物質の粉末や粒子とを混合した混合物を含んでもよい。第1の実施形態に係る活物質と他の活物質との総質量に対する第1の実施形態に係る活物質の含有割合が50質量%以上100質量%以下であることが望ましい。
【0084】
例えば、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含む場合は、他の活物質の例には、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+zTi37、0≦z≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+zTi512、0≦z≦3)、単斜晶型二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、及び直方晶型(orthorhombic)チタン複合酸化物の粉末や粒子が挙げられる。また、他の活物質として、粒子内の結晶相が単相である単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の粉末や粒子を用いることができる。
【0085】
上記直方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM12-bTi6-cM2d14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つである。M2はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。直方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti614(0≦a≦6)が挙げられる。
【0086】
上記単相である単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の粒子の例として、LieTi1-fM3fNb2-gM4g7+δで表される化合物の単相粒子が挙げられる。ここで、M3は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M4は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦e≦5、0≦f<1、0≦g<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LieNb2TiO7(0≦e≦5)が挙げられる。
【0087】
単相である単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の粒子の他の例として、LieTi1-fM5f+gNb2-g7-δで表される化合物の単相粒子が挙げられる。ここで、M5は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦e≦5、0≦f<1、0≦g<2、-0.3≦δ≦0.3である。
【0088】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素含有層を設けたり電子導電性無機材料コートを施したりしてもよい。また、導電剤を用いると共に活物質表面に炭素や導電性材料を被覆することで、活物質含有層の集電性能を向上させることもできる。
【0089】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0090】
活物質含有層中の活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、電極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、電極を二次電池の負極として用いる場合は、活物質(負極活物質)、導電剤及び結着剤を、それぞれ、68質量%以上96質量%以下、2質量%以上30質量%以下及び2質量%以上30質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ30質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0091】
活物質表面を炭素や導電性材料で被覆する場合、被覆材量は導電剤量に含めたものとみなすことができる。炭素または導電性材料による被覆量は、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。この範囲の被覆量であれば、集電性能と電極密度を高められる。
【0092】
集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位において電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、活物質が負極活物質として用いられる場合は、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0093】
また、集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0094】
電極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、電極を作製する。
【0095】
或いは、電極は、次の方法により作製してもよい。まず、活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、電極を得ることができる。
【0096】
第2の実施形態に係る電極は、第1の実施形態に係る活物質を含んでいる。そのため、第2の実施形態に係る電極は、エネルギー密度が高く、入力性能と出力性能とのバランスが取れており、優れたサイクル寿命性能を示す二次電池を実現することができる。
【0097】
[第3の実施形態]
第3の実施形態によると、負極と、正極と、電解質とを含む二次電池が提供される。この二次電池の負極は、第2の実施形態に係る電極を含む。つまり、第3の実施形態に係る二次電池の負極は、第1の実施形態に係る活物質を電池用活物質として含んだ電極を含む。
【0098】
第3の実施形態に係る二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。負極、正極及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
【0099】
また、第3の実施形態に係る二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
【0100】
さらに、第3の実施形態に係る二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0101】
第3の実施形態に係る二次電池は、例えばリチウムイオン二次電池であり得る。また、二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池を含む。
【0102】
以下、負極、正極、電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
【0103】
1)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極集電体及び負極活物質含有層は、それぞれ、第2の実施形態に係る電極が含むことのできる集電体及び活物質含有層であり得る。負極活物質含有層は、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含む。
【0104】
負極の詳細のうち、第2の実施形態について説明した詳細と重複する部分は、省略する。
【0105】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上3.5g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.5g/cm3以上2.9g/cm3以下であることがより好ましい。
【0106】
負極は、例えば、第2の実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
【0107】
2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0108】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、或いは2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0109】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y≦1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0110】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0111】
電池の電解質として常温溶融塩を用いる場合、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、又はこれらの混合物を含む正極活物質を用いることが好ましい。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、サイクル寿命を向上させることができる。常温溶融塩の詳細については、後述する。
【0112】
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒子径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒子径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0113】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの挿入・脱離サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0114】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0115】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0116】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0117】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0118】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0119】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0120】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0121】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0122】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0123】
正極は、例えば、正極活物質を用いて、第2の実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
【0124】
3)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であることが好ましい。
【0125】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO2F)2;LiFSI)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0126】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0127】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
【0128】
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0129】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0130】
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
【0131】
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
【0132】
或いは、非水電解質の代わりに、液状水系電解質又はゲル状水系電解質を電解質として用いることができる。液状水系電解質は、溶質として、例えば、下記電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される。ゲル状水系電解質は、液状水系電解質と上記高分子材料とを複合化することにより調製される。水系溶媒としては、水を含む溶液を用い得る。水を含む溶液とは、純水であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0133】
水系電解質にて用いることのできる電解質塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はこれらの混合物が挙げられる。
【0134】
リチウム塩として、例えば、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(LiNO3)、酢酸リチウム(CH3COOLi)、シュウ酸リチウム(Li224)、炭酸リチウム(Li2CO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(LiTFSI;LiN(SO2CF3)2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI;LiN(SO2F)2)、及びリチウムビスオキサレートボラート(LiBOB:LiB[(OCO)2]2)などを用いることができる。
【0135】
ナトリウム塩としては、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及びナトリウムトリフルオロメタンスルホニルアミド(NaTFSA)などを用いることができる。
【0136】
水系電解質におけるリチウムイオン又はナトリウムイオンのモル濃度は、3mol/L以上であることが好ましく、6mol/L以上であることが好ましく、12mol/L以上であることが好ましい。水系電解質を用いた場合に、負極にて水系溶媒の電気分解反応が起こり、自己放電や水素発生が生じ得る。水系電解質中のリチウムイオン又はナトリウムイオンの濃度が高いと、負極での水系溶媒の電気分解が抑制されやすく、負極からの水素発生が少ない傾向にある。
【0137】
また、リチウム塩やナトリウム塩以外に塩化亜鉛や硫酸亜鉛といった亜鉛塩を水系電解質に添加しても良い。このような化合物を水系電解質に添加することで、第1の実施形態に係る活物質を負極に用いた電池にて、該負極において亜鉛含有被覆層および/又は酸化型亜鉛含有領域が形成され得る。これら亜鉛を含有する部材は、それらが形成された負極における水素発生を抑える効果を発揮する。
【0138】
4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0139】
5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0140】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0141】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0142】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0143】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0144】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0145】
6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi挿入脱離電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0146】
7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上4.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0147】
次に、第3の実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0148】
図4は、第3の実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図5は、図4に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0149】
図4及び図5に示す二次電池100は、図4に示す電極群1と、図4及び図5に示す袋状外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0150】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0151】
図4に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、図5に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0152】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、図5に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0153】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
【0154】
図4に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0155】
第3の実施形態に係る二次電池は、図4及び図5に示す構成の二次電池に限らず、例えば図6及び図7に示す構成の電池であってもよい。
【0156】
図6は、第3の実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。図7は、図6に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0157】
図6及び図7に示す二次電池100は、図6及び図7に示す電極群1と、図6に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
【0158】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0159】
電極群1は、図7に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0160】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0161】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図7に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0162】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0163】
第3の実施形態に係る二次電池は、第2の実施形態に係る電極を含んでいる。つまり第3の実施形態に係る二次電池は、第1の実施形態に係る活物質を含む電極を含んでいる。そのため、第3の実施形態に係る二次電池は、エネルギー密度が高く、入力性能と出力性能とのバランスが取れており、優れたサイクル寿命性能を示すことができる。
【0164】
[第4の実施形態]
第4の実施形態によると、組電池が提供される。第4の実施形態に係る組電池は、第3の実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0165】
第4の実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0166】
次に、第4の実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0167】
図8は、第4の実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図8に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第3の実施形態に係る二次電池である。
【0168】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図8の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0169】
5つの単電池100a~100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a~100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0170】
第4の実施形態に係る組電池は、第3の実施形態に係る二次電池を具備する。従って、エネルギー密度が高く、入力性能と出力性能とのバランスが取れており、優れたサイクル寿命性能を示すことができる。
【0171】
[第5の実施形態]
第5の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第4の実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第4の実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第3の実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0172】
第5の実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0173】
また、第5の実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0174】
次に、第5の実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0175】
図9は、第5の実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図10は、図9に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0176】
図9及び図10に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0177】
図9に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0178】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0179】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第3の実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、図10に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0180】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0181】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0182】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0183】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0184】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0185】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0186】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0187】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0188】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0189】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0190】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0191】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0192】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子350の正側端子352と負側端子353としてそれぞれ用いてもよい。
【0193】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0194】
第5の実施形態に係る電池パックは、第3の実施形態に係る二次電池又は第4の実施形態に係る組電池を備えている。従って、エネルギー密度が高く、入力性能と出力性能とのバランスが取れており、優れたサイクル寿命性能を示すことができる。
【0195】
[第6の実施形態]
第6の実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第5の実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0196】
第6の実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構(Regenerator:再生器)を含んでいてもよい。
【0197】
第6の実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0198】
第6の実施形態に係る車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0199】
第6の実施形態に係る車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0200】
次に、第6の実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0201】
図11は、第6の実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0202】
図11に示す車両400は、車両本体40と、第5の実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図11に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0203】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0204】
図11では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0205】
次に、図12を参照しながら、第6の実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0206】
図12は、第6の実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。図12に示す車両400は、電気自動車である。
【0207】
図12に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0208】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図12に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0209】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0210】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a~300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a~200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a~200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0211】
組電池200a~200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第3の実施形態に係る二次電池である。組電池200a~200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0212】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a~301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a~200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0213】
電池管理装置411と組電池監視装置301a~301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a~301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0214】
組電池監視装置301a~301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a~200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0215】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば図12に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a~200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a~200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0216】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0217】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0218】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0219】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0220】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0221】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0222】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0223】
第6の実施形態に係る車両は、第5の実施形態に係る電池パックを搭載している。従って、高性能であり、且つ信頼性の高い車両を提供することができる。
【0224】
[実施例]
以下、実施例に基づいて上記実施形態をさらに詳細に説明する。
【0225】
<合成方法>
(実施例1)
ニオブチタン複合酸化物を、以下に説明する固相合成法により合成した。
【0226】
先ず、Nb25粒子とTiO2粒子を準備した。目的の結晶相が得られるように、Nb25とTiO2のモル比が1.7:1となるようにそれぞれの粒子を秤量し、乾式ボールミルによる混合を1時間行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で12時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。仮焼成後、得られた粉末を白金坩堝に入れ、1050℃で3時間に亘り本焼成(第2の焼成)を行った。本焼成後、粉末を再び乾式ボールミルで3時間粉砕したのち、1475℃の温度で1時間に亘り高温熱処理(第3の焼成)を行った。次いで、再び乾式ボールミルにて1時間粉砕し、実施例1の活物質を得た。
【0227】
(実施例2~5)
原料のNb25粒子とTiO2粒子のモル比について、表1に記載の所定の割合で原料を混合したことを除いて、実施例1に記載の方法と同様の合成により、実施例2~5の活物質を得た。
【0228】
(実施例6)
原料のNb25粒子とTiO2粒子のモル比について、表1に記載の所定の割合で原料を混合したうえで、高温熱処理(第3の焼成)の条件を1500℃で2時間に変更したことを除いて、実施例1に記載の方法と同様の合成により、実施例6の活物質を得た。
【0229】
(実施例7~8)
原料のNb25粒子とTiO2粒子のモル比について、表1に記載の所定の割合で原料を混合したことを除いて、実施例1に記載の方法と同様の合成により、実施例7~8の活物質を得た。
【0230】
(実施例9)
Nb25粒子とTiO2粒子を準備した。目的の結晶相が得られるように、Nb25とTiO2のモル比が1.5:1となるようにそれぞれの粒子を秤量し、乾式ボールミルによる混合を30分間行った。次に、得られた粉末全体量に対してTa元素が200ppm(モル比)となるように、Ta25粒子を添加し、再び乾式ボールミルにて30分間混合した。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で12時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。仮焼成後、得られた粉末を白金坩堝に入れ1050℃で3時間に亘り本焼成(第2の焼成)を行った。本焼成後、粉末を再び乾式ボールミルで3時間粉砕したのち、1475℃の温度で1時間に亘り高温熱処理(第3の焼成)を行った。次いで、再び乾式ボールミルにて1時間粉砕し、実施例9の活物質を得た。
【0231】
(実施例10~12)
Ta元素、K元素、及びP元素の量が表1に記載の所定の割合となるように添加粒子(Ta25,K2CO3,H3PO4)を原料と混合したことを除いて、実施例9に記載の方法と同様の合成により、実施例10~12の活物質を得た。
【0232】
(比較例1)
ニオブチタン複合酸化物を、以下に説明する固相合成法により合成した。
【0233】
先ず、Nb2TiO7が得られるように、Nb25粒子とTiO2粒子を準備した。目的の結晶相が得られるように、Nb25とTiO2のモル比が1:1となるようにそれぞれの粒子を秤量し、乾式ボールミルによる混合を行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で12時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。仮焼成後、得られた粉末を白金坩堝に入れ1200℃で5時間に亘り本焼成(第2の焼成)を行った。本焼成後、粉末をめのう乳鉢で粉砕混合し、25μmのメッシュのふるいを通して粗粒を取り除き、Nb2TiO7相を得た。得られたニオブチタン複合酸化物はNb2TiO7相単相の一次粒子のみを含んでいた。
【0234】
次に、Nb10Ti229相が得られるように、Nb25粒子とTiO2粒子のモル比を2.5:1とすることを除いて、上記Nb2TiO7相の合成と同様の方法で固相合成法を行った。得られたニオブチタン複合酸化物はNb10Ti229相単相の一次粒子のみを含んでいた。
【0235】
Nb2TiO7相単相の一次粒子に対して0.5wt%の重量割合でNb10Ti229相単相の一次粒子を混合して、比較例1に係る活物質を得た。
【0236】
(比較例2)
比較例1に記載の方法により、Nb2TiO7相単相の一次粒子およびNb10Ti229相単相の一次粒子を合成した。Nb2TiO7相単相の一次粒子に対して50wt%の重量割合でNb10Ti229相単相の一次粒子を混合して、比較例2に係る活物質を得た。
【0237】
(比較例3)
出発原料として平均粒子径が25μmのNb25粒子と、平均粒子径が1.0μmのTiO2粒子とを準備した。このNb25とTiO2のモル比が1.5:1となるようにそれぞれの粒子を秤量し、乾式ボールミルによる混合を行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で12時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。仮焼成後、得られた粉末を白金坩堝に入れ1000℃で5時間に亘り本焼成(第2の焼成)を行った。本焼成後、粉末をめのう乳鉢で粉砕混合し、25μmのメッシュのふるいを通して粗粒を取り除き、比較例3に係る混相の活物質粒子を合成した。
【0238】
(比較例4)
ニオブチタン複合酸化物を、以下に説明する固相合成法により合成した。
【0239】
先ず、Nb25粒子とTiO2粒子を準備した。目的の結晶相が得られるように、Nb25とTiO2のモル比が1.25:1となるようにそれぞれの粒子を秤量し、乾式ボールミルによる混合を1時間行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で12時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。仮焼成後、得られた粉末を白金坩堝に入れ1050℃で3時間に亘り本焼成(第2の焼成)を行った。本焼成後、粉末を再び乾式ボールミルで3時間粉砕したのち、高温熱処理(第3の焼成)を、1600℃の温度で2時間に亘り高温熱処理(第3の焼成)を行ったのち、再び乾式ボールミルにて1時間粉砕し、比較例4の活物質を得た。
【0240】
(比較例5)
原料のNb25粒子とTiO2粒子との混合割合を、Nb25とTiO2のモル比が2.2:1となるように変更したことを除いて、実施例1に記載の方法と同様の合成により、比較例5の活物質を得た。
【0241】
<粉末X線回折測定およびピーク強度比Iβ/Iαの算出>
実施例1~12及び比較例1~5で得られた活物質粉末について、サンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件で、第1の実施形態において説明した粉末X線回折測定を行った。得られた回折スペクトルにて観察されたピークα及びピークβについて、上述した式(2):0.1<Iβ/Iα≦2.0に対応するピーク強度比Iβ/Iαを算出した。
【0242】
<TEM-EDS観察>
TEM-EDSにより、実施例1~12及び比較例1~5で得られた活物質粉末を観察し、一次粒子中に単相または混相を有する材料における各結晶の分布を確認した。
【0243】
各例におけるニオブチタン複合酸化物の合成条件および各種測定結果を、下記表1にまとめる。
【0244】
合成条件としては、原料(Nb25及びTiO2)の混合割合(モル比)、並びに高温熱処理(第3の焼成)における焼成温度および焼成時間を示す。実施例9~12ではNb25及びTiO2に加えTa25、K2CO3、及びH3PO4の1以上を加えたが、少量であったため表1では省略している。また、比較例1~2では、Nb2TiO7相単相の粒子およびNb10Ti229単相の粒子を各々個別に合成したため、原料の混合割合は2通り表記している。何れも上段はNb2TiO7相の粒子の合成、下段はNb10Ti229相の粒子の合成の際の原料割合を示す。
【0245】
測定結果としては、粉末X線回折測定により求められた結晶相、結晶相の割合(質量比)、結晶相に基づいて算出されたTi存在比率に対するNb存在比率の比(ANb/ATi)、及び式(2)により算出されるピーク強度比Iβ/Iα;並びにTEM-EDS観察により確認した各結晶の分布を示す。結晶相については、A型ニオブチタン複合酸化物相を“Nb2TiO7”と表記し、B型ニオブチタン複合酸化物相を“Nb10Ti229”とそれぞれ表記する。また、これらの相の粉末中の割合は、百分率で表記する質量割合とともに、後者に対する前者の質量比率M/Mで示す。実施例9~12については、添加したTa,K,及びPの添加量をさらに示す。
【0246】
【表1】
【0247】
表1が示すとおり、実施例1~12の何れの活物質粉末においても、A型ニオブチタン複合酸化物相(Nb2TiO7型相)及びB型ニオブチタン複合酸化物相(Nb10Ti229型相)が各一次粒子に共存しており、上述した式(1):2.3≦ANb/ATi≦4.0、及び式(2):0.1<Iβ/Iα≦2.0の両方を満たしていた。また、それら実施例のうち実施例1~7及び9~12では、上述した式(3):0.5≦M/M≦2.5も満たしていた。加えて、実施例1~12では、A型ニオブチタン複合酸化物相およびB型ニオブチタン複合酸化物相の何れの結晶相も、各一次粒子において均一に分布していた。
【0248】
これに対し比較例1~5の活物質粉末は、何れも式(1)及び(2)少なくとも一方を満たしていなかった。さらに、比較例1及び2では、何れの一次粒子にもNb2TiO7相単相またはNb10Ti229相単相のみ含んでいたため、活物質粉末全体としては、これら2相に分離した状態にあったといえる。比較例3ではTEM-EDSにより、一次粒子の中心側にNb2TiO7相が集中し、粒子表面側にNb10Ti229相が多く存在する、偏在した不均一な分布が確認された。比較例4の活物質粉末についてはピーク強度比Iβ/Iαの値が小さいX線回折スペクトルが観察されたため、低い結晶性が得られたことが確認された。比較例5では、B型ニオブチタン複合酸化物相の割合(質量比)が多くなり過ぎてしまった。
【0249】
<電気化学測定>
先ず、各例で得られたニオブチタン複合酸化物粉末100質量部、導電剤としてアセチレンブラック10質量部、及び、カーボンナノファイバー5質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)10質量部を、N-メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーを得た。このスラリーを厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の片面に塗布し、乾燥後プレスすることにより電極密度(集電体を除いた活物質含有層の密度)2.4g/cm3の電極を作製した。
【0250】
次に、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:2で混ぜた混合溶媒に、LiPF支持塩を1mol/Lの濃度で溶解させることにより電解液を調製した。
【0251】
得られた電極を作用極とし、対極及び参照極をLi金属とし、電解液を用いた三電極式ビーカーセルを作製して電気化学性能を評価した。
【0252】
本電気化学測定において、この測定用の三電極式ビーカーセルでは、リチウム金属を対極としているため、実施例および比較例の活物質を用いた電極の電位は対極に比して貴となる。そのため、各作用極は正極として作動する。即ち、実施例および比較例に係る電極を負極として用いたときとは充放電の定義が反対になる。ここで、混乱を避けるため、本電気化学測定では、電極にリチウムイオンが挿入される方向を充電、脱離する方向を放電という呼称で統一する。なお、本実施形態の活物質は、公知の正極材料と組み合わせることで負極として作動する。
【0253】
作製した電気化学測定セルを、金属リチウム電極基準で1.0V~3.0V(vs. Li/Li+)の電位範囲で充放電させた。充放電電流値を0.2C(時間放電率)とし、室温にて0.2C放電容量の確認を行った。0.2C放電容量の値は、エネルギー密度の指標となる。
【0254】
次に、電池の入出力性能及びサイクル寿命性能を調べるために、実施例1~12及び比較例1~5で得られた活物質粉末を使用して、後述の手順で非水電解質電池(定格容量1000mAh)を作製した。
【0255】
(負極の作製)
実施例1~12及び比較例1~5で得られた活物質粉末100質量部、導電剤としてアセチレンブラック10質量部、及び、カーボンナノファイバー5質量部、結着剤としてPVdF10質量部を、NMPに加えて混合してスラリーを得た。このスラリーを厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、真空下130℃で12時間に亘り乾燥して積層体を得た。その後、活物質含有層(集電体を除く)の密度が2.4g/cm3となるように積層体を圧延して負極を得た。
【0256】
(正極の作製)
市販のコバルト酸リチウム(LiCoO2)に、導電剤としてアセチレンブラックを5質量%の割合で混合して、混合物を得た。次に、この混合物をNMP中に分散して、分散液を得た。この分散液に、結着剤としてのPVdFをコバルト酸リチウムに対して5質量%の割合で混合し、正極スラリーを調製した。このスラリーを、ブレードを用いて、12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布した。これを真空下130℃で12時間乾燥して積層体を得た。その後、活物質含有層(集電体を除く)の密度が2.2g/cm3となるように積層体を圧延して正極を得た。
【0257】
(電極群の作製)
以上のようにして作製した正極と負極とを、これらの間にポリエチレン製セパレータを挟んで積層し、積層体を得た。次いで、この積層体を捲回し、更にプレスすることにより、扁平形状の捲回型電極群を得た。この電極群に正極端子及び負極端子を接続した。
【0258】
(非水電解質の調製)
混合溶媒として、EC及びDECの混合溶媒(体積比1:1)を準備した。この溶媒中に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1Mの濃度で溶解させた。かくして、非水電解質を調製した。
【0259】
(非水電解質電池の組み立て)
以上のようにして作製した電極群を、アルミニウムを含んだラミネートフィルム製の電池用外装部材に入れた。外装部材内に非水電解質を注入した後、ヒートシールで封口することで非水電解質電池を作製した。
【0260】
(充放電試験)
得られたラミネート型電池を用いて、入出力試験を行った。セルの充電状態を定格容量の半分まで充電してSOC 50%としたのち、セル電圧で1.5V~3.0Vの範囲で、10Cレート、10秒間のパルス入出力性能を測定した。この際に得られた入力値(W)と出力値(W)について、出力値を入力値で除することで、入出力性能のバランスを計算した。この値が1.0に近いほど、入出力性能のバランスが取れた理想的なセルであるといえる。
【0261】
次に、45℃で加速寿命試験を行った。寿命試験には、セル電圧で1.5V~3.0Vの電位範囲で、充放電電流値を0.2C(時間放電率)として、300サイクル繰り返し充放電を行い(充電及び放電で1サイクルとする)、300サイクル後の放電容量維持率を調べた。300サイクル後の放電容量を初回放電容量で除して100を掛けることにより、初回放電容量を100%とした場合のサイクル容量維持率(%)を算出した。
【0262】
電気化学測定の結果を、下記表2にまとめる。具体的には、各例に係る活物質粉末で作製した作用極を用いた三電極式ビーカーセルによる0.2C放電容量の値、並びに、各々の活物質粉末で作製した負極を用いた非水電解質電池による入出力試験および寿命試験の結果を示す。入出力試験および寿命試験の結果は、即ち、それぞれ入出力性能のバランス(出力/入力性能比率)及び300サイクル後の容量維持率(= [300サイクル後の放電容量/初回放電容量]×100%)である。
【0263】
【表2】
【0264】
表2が示すとおり、実施例1~12に係る活物質粉末についての電気化学測定(0.2C放電容量、出力/入力性能比率、及びサイクル容量維持率)の結果は、何れも良好だった。これらの結果から、実施例1~12に係る活物質粉末は、エネルギー密度が高く、入出力性能のバランスが取れており、尚且つサイクル寿命性能に優れていることがわかる。詳細には、実施例1~12では、比較例1~5についてのそれと同程度以上のエネルギー密度(0.2C放電容量)を維持しつつ、入出力性能(出力/入力性能比率)がよりバランス良く、サイクル寿命性能(サイクル容量維持率)がより優れていた。
【0265】
以上説明した少なくとも1つの実施形態および実施例によれば、活物質が提供される。活物質は、ニオブチタン複合酸化物を含む。当該活物質では、Ti存在比率ATiに対するNb存在比率ANbの比ANb/ATiが2.3≦ANb/ATi≦4.0を満たし、且つCu-Kα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて8.5°≦2θ≦9.0°に現れるピークαのピーク強度Iαと、12.5°≦2θ≦13.0°に現れるピークβのピーク強度Iβとの強度比Iβ/Iαが、0.1<Iβ/Iα≦2.0の範囲内にある。係る活物質は、高いエネルギー密度を維持しながら、バランスの取れた入出力性能を有し、且つ優れたサイクル寿命性能を示すことができる二次電池を実現することができる。また、係る活物質により、そのような性能を示す二次電池を実現できる電極、そのような性能を示す二次電池および電池パック、並びに、この電池パックが搭載された車両を提供することができる。
【0266】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0267】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極活物質含有層、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、21…バスバー、22…正極側リード、23…負極側リード、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、100…二次電池、101…金属イオン、102…酸化物イオン、103…骨格構造部分、104…空隙部分、107…空隙部分、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a…配線、343a…配線、350…通電用の外部端子、352…正側端子、353…負側端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、416…電流検出部、417…負極入力端子、418…正極入力端子、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。
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