(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】改善された熱安定性を示すチタン-アルミニウム-タンタルベースの被覆物
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
C23C14/06 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021148118
(22)【出願日】2021-09-10
(62)【分割の表示】P 2019089963の分割
【原出願日】2013-09-04
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】102012017731.3
(32)【優先日】2012-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507269681
【氏名又は名称】エーリコン・サーフェス・ソリューションズ・アーゲー・プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リヒャルト・ラハバウアー
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト・ホーレルヴェーガー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・マルティン・コラー
(72)【発明者】
【氏名】パウル・ハインツ・マイローファー
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-224688(JP,A)
【文献】特開2010-111952(JP,A)
【文献】特開2002-137120(JP,A)
【文献】特開2012-152852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(1)、及び前記本体の表面の少なくとも一部に堆積された耐摩耗性被覆システム(20)を備えた被覆本体であって、前記耐摩耗性被覆システムは、互いに交互に堆積されたn個のA層(4)及びm個のB層(8)からなるタンタル含有多層膜(10)を含み、n及びmは1より大きい整数であり、前記多層膜(10)は、立方晶構造を示しており、前記B層はタンタルを含み、前記A層は前記B層より高い欠陥密度を示すことを特徴としており、
前記A層
はアーク放電イオンプレーティング技術によって堆積され、前記B層は
高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)技術により堆積され、前記A層及びB層の化学組成は、原子パーセントの係数を含む次の化学式で与えられることを特徴とする、被覆本体。
A層に対しては
Ti
1-xAl
xN
zX
1-zであり、及びB層に対してはMe
2
1-x―yAl
xTa
yN
zX
1-zであり、
ここで
、Me
2はTi、Cr、V、Nb、Zr、Hf、Mo及びWから一つ以上の元素であり、
XはO、C、及びBから一つ以上の元素であり、及び
0.2≦x≦0.7、0.7≦z≦1、0.02≦y≦0.80である。
【請求項2】
前記B層の厚さは、前記A層の厚さより小さく:A1>B1、A2>B2、A3>B3、…An>Bmであることを特徴とする、請求項1に記載の被覆本体。
【請求項3】
前記A層の厚さは、前記B層の厚さより少なくとも15%大きく:A1≧1.15B1、A2≧1.15B2、A3≧1.15B3、…An≧1.15Bmであることを特徴とする、請求項2に記載の被覆本体。
【請求項4】
前記A層及び/または前記B層を堆積することにおいて、反応性物理気相堆積技術が使用されることを特徴とする、請求項1から
3のいずれか一項に記載の被覆本体を製造する方法。
【請求項5】
窒素比率及び/または前記被覆システムのX要素に含まれる元素の少なくとも一つが、反応性気体から、または反応性気体混合物から、前記A層及び/またはB層内にそれぞれ組み込まれることを特徴とする、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記A層及び/またはB層を堆積するためのソース材料として使用される少なくとも一つのターゲットは、粉末冶金技術によって作られることを特徴とする、請求項
4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1から4のいずれかに記載された特徴を有する耐摩耗性被覆システム20に関連しており、特に、例えばトライボロジーシステムで使用されるツール及び要素などの本体の摩擦保護のための使用に関連している。特に、この被覆システムは、高温への暴露の後での良好な硬度及び良好な酸化抵抗を結び付ける。さらに、本発明は、請求項5から8のいずれかに記載された特徴を示す被覆本体1、及び請求項9から14のいずれかに記載された特徴を備えている被覆本体1を製造する方法に関連している。
【背景技術】
【0002】
窒化チタンアルミニウム(TiAlN)被覆物は、ツール及び要素の摩擦保護に対して定着した被覆物である。一般的に、TiAlN被覆物は、物理的気相堆積(PVD)技術によって基板上に堆積される。その摩擦抵抗特性及び熱安定性の非常に良好な組み合わせのため、TiAlN被覆物システムはよく研究されてきた。この種の被覆物の熱安定性におけるAl含有物の影響に特別な注意が払われてきた。
【0003】
さらに、他の元素が基本的にドープされたTiAlNベースの被覆物の多くの変更がよく研究された。全てのこれらのドープされたTiAlN被覆物は確定的な応用に対して任意の利点を有している。
【0004】
多くの現在の文献においては、タンタルでドープされたドーピングTiAlN被覆物によって達成され得る利点を報告している。例えば、特許文献1では、被覆物が(TiaAlbTac)Nの組成(a+b+c=1;0.3≦b≦0.75;0.001≦c≦0.30)を有する少なくとも一つの被覆層、及び(TidAleTafMg)Nの組成(d+e+f+g=1;0.50≦e≦0.70;0≦f≦0.25、及びMは、Si、V、Bからなる群から選択された一つ以上の元素であり、Siに対しては0.0005≦g≦0.10;Vに対しては0.001≦g≦0.25;及びBに対して0.00005≦g≦0.01)を有する少なくとも一つの被覆層を備えた被覆ツールを開示している。さらに、同じ特許文献において、Al(30から75原子%)、Ta(0.1から30原子%)、及び残余のTiからなる、ツールを被覆するためのスパッタリングターゲットを開示している。さらに、Al、Ta、Ti、及び少なくともSi、V、またはBからなる、ツールを被覆するためのスパッタリングターゲットを開示している。
【0005】
単層または多層の被覆システムを備えた類似のTi-Al-Ta-Nが、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、及び特許文献13において開示されている。
【0006】
しかしながら、全てのこれらの進展及び研究にも関わらず、改善の必要がさらにある。
【0007】
特に、切削ツールの保護及び切削性能を増大させるために、現在の要求を満たすことのできる強靭性及び熱安定性の十分に良好な組み合わせを達成するための課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7521132号明細書
【文献】国際公開第2009/003206号
【文献】国際公開第2009/105024号
【文献】欧州特許出願公開第2096811号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1722009号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1378304号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1400609号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1452621号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1378304号明細書
【文献】特許第7331410号公報
【文献】特許第7026386号公報
【文献】特許第6330347号公報
【文献】特開2007-015071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な課題は、非常に良好な強靭性と熱安定性を同時に結び付ける被覆システムを提供することである。好ましくは、この被覆システムは、高温への暴露の後での良好な硬度及び良好な酸化抵抗を結び付けている。さらに、その製造方法を提供することが本発明の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による、互いに交互に堆積されたA層及びB層からなるタンタル含有多層膜10を含む耐摩耗性被覆システム20を示している
【
図2】本発明により使用された被覆パラメータを示している。
【
図3】単層被覆物(モノリシックに成長した被覆物)の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【
図4】単層被覆物(モノリシックに成長した被覆物)の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【
図5】単層被覆物(モノリシックに成長した被覆物)の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【
図6】多層構造を有する被覆の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【
図7】多層構造を有する被覆の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【
図8】多層構造を有する被覆の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【
図9】本発明による互いに交互に堆積した層A及び層Bを備えた多層膜から得られたX線スペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の主な目的は、
図1に概略的に描かれたように、互いに交互に堆積されたA層4、A1、A2、A3、...An及びB層8、B1、B2、B3、...Bmからなるタンタル含有多層膜10を含む耐摩耗性被覆システム20を提供することによって達成される。多層膜10は立方晶構造を示し、A層はB層より高い欠陥密度を示している。
【0012】
特に、B層がタンタルを含むときに良好な結果が得られる。
【0013】
本発明者は多層被覆物の異なる組み合わせを分析し、及び単層被覆物と比較した。
【0014】
実験(実験についての詳細な情報は
図2から
図8において提供されている)に対して、窒化チタンアルミニウム及び窒化チタンアルミニウムタンタル単層被覆物(本発明の内容においてはモノリシックな被覆として参照される)は、合金ターゲットからのアーク放電イオンプレーティングによって堆積された。実験に対して、Ti
0.5Al
0.5、Ti
0.45Al
0.45Ta
0.1、及びTi
0.3Al
0.6Ta
0.1の化学成分を有する合金ターゲットが使用された。
【0015】
さらに、A層及びB層を含む多層被覆システムが堆積された。実験に対して、A層は、化学成分Ti0.5Al0.5を有するチタンアルミニウム複合ターゲットから堆積されると同時に、B層は、化学成分Ta0.75Al0.25を有するタンタルアルミニウム複合ターゲットから堆積された。
【0016】
欠陥密度を変化させるために、二つの異なるPVD技術:アーク放電イオンプレーティング及びマグネトロンスパッタリングイオンプレーティングが使用された。使用された被覆パラメータが
図2に示されている。
【0017】
アーク放電イオンプレーティング堆積技術だけを使用する、層A及びBにおいて異なる欠陥密度を得るための他の可能な方法は、例えば、各々の場合においてコイル電流を調節することである。
【0018】
高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)技術を層A及びBの欠陥密度を測定するために使用することができる。
【0019】
好ましくは、A層及びB層の化学組成は原子パーセントの係数を含む以下の化学式によって与えられる。
【0020】
A層に対して、Me1
1-xAlxNzX1-z、及びB層に対して、Me2
1-x―yAlxTayNzX1-z。
【0021】
Me1はTi、Cr、V、Ta、Nb、Zr、Hf、Mo、Si及びWから一つ以上の元素であり、
Me2はTi、Cr、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Si及びWから一つ以上の元素であり、
XはO、C、及びBから一つ以上の元素であり、
0.2≦x≦0.7、0.7≦z≦1、0.02≦y≦0.80である。
【0022】
A1>B1、A2>B2、A3>B3、…An>Bmのように、B層の厚さがA層の厚さより小さいとき、より良好な熱安定性が観測された。
【0023】
好ましくは、本発明による被覆本体1はPVD技術を用いて被覆される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、被覆システム20は、アーク放電イオンプレーティング技術によって堆積される。
【0025】
本発明の被覆システム20のさらに好ましい実施形態において、A層4はアーク放電イオンプレーティング技術によって堆積され、及びB層はスパッタリング技術によって堆積される。
【0026】
さらに、本発明は、本発明による被覆システム20で被覆された本体1を製造する方法に関連している。
【0027】
本発明の一つの実施形態において、被覆本体1は、物理気相堆積技術によって被覆される。
【0028】
本発明による方法の好ましい実施形態において、使用される物理気相堆積技術は、アーク放電イオンプレーティング堆積技術であり、好ましくは反応性アーク放電イオンプレーティング堆積技術である。
【0029】
層A及びBにおける所望の欠陥密度を調節するための、本発明による方法のさらに好ましい実施形態において、コイル電流がそれに応じて調節される。
【0030】
本発明による方法のもう一つのさらに好ましい実施形態において、使用された物理気相堆積技術は、スパッタリング、または例えば、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)、特に反応性マグネトロンスパッタリング堆積(rsd)技術などの高電離マグネトロンスパッタリング技術である。
【0031】
好ましくは、少なくともいくつかの場合において、本発明による方法は、層A及び/またはBの堆積のために、粉末冶金技術により作られた少なくとも一つのターゲット(ソース材料)の使用を含む。
【0032】
本発明のさらなる実施形態において、被覆システム20は、多層膜10に加えて少なくとも一つ以上の層、例えば、一つ以上の接着促進層2、及び/または多層膜10の上に堆積された一つ以上の層12を含む。少なくとも一つの層12は、例えば、摩擦減少特性及び/または特に色特性を有する頂部層であり得る。
【0033】
本発明の一つの好ましい実施形態において、A層及びB層の一つ一つの厚さが、好ましくは3nmから300nmであり、より好ましくは3nmから100nmである。窒素及び/またはXを構成する少なくとも一つの元素(もし与えられる場合)が、好ましくは反応性ガスから多層膜10に組み込まれている。
【0034】
図3から5は、単層被覆物(モノリシックに成長した被覆物)の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示していると同時に、
図6から8は、多層構造を有する被覆の特性を特徴付け及び分析するために実施された実験的試験の結果を示している。
【0035】
図5及び
図8において走査型電子顕微鏡で観測され、また酸化挙動を研究するための、特徴付けられた被覆物の元素組成の分析によって検出されるCrN層が、分析のための試料を準備するために酸化工程の後で堆積された。
【0036】
図4及び7に示された硬度及びX線回析(XRD)スペクトルが、被覆物の熱安定性を分析するために各アニーリング工程の後、室温で測定された。
【0037】
堆積の後でモノリシックに成長したTi0.54Al0.46N及びTi0.45Al0.36Ta0.19N被覆物のXRDスペクトルを分析すると、それらは立方晶構造を示しており、同時に、Ti0.31Al0.50Ta0.19N被覆物はすでに立方晶/六方晶(c/w)混合相構造を示していることが観測された。しかしながら、多層構造のTiAlN/TaAlNを有する堆積した全ての被覆物は、堆積後に立方晶構造を示し(XRDスペクトルによる)、これらの両者は、アーク放電蒸発技術(TiAlNarc/TaAlNarc)を用いて堆積され、及びアーク放電/スパッタ・ハイブリッド技術(TiAlNarc/TaAlNrsd)を用いて堆積された。これらの実験に対して、TiAlNarc/TaAlNarc被覆物は、そのTaAlN層がTaAlN層よりも高い欠陥密度を有している多層被覆物を得るために堆積されなかった。しかし、TiAlNarc/TaAlNrsdの場合において、TiAlN層より低い欠陥密度を有するTaAlN層を製造することを目的とした。
【0038】
熱安定性に関して、多層Ti
0.5Al
0.5arc/Ta
0.75Al
0.25arc被覆物は、アニーリング工程の後で測定した硬度を考慮すると(
図7の左側下に示したように)、時効硬化のふるまいに関して最大の熱安定性を示したが、
図8の左側に示したように酸化抵抗に関して悪い熱安定性を示した。これらの被覆物は、850℃で20時間の間で完全に酸化された。別の方法では、モノリシックに成長したTi
0.45Al
0.36Ta
0.19N被覆物及びハイブリッドに堆積したTi
0.5Al
0.5arc/Ta
0.75Al
0.25rsd多層被覆物は、同様の良好な熱安定性を示した。アニーリング工程の後で測定した硬度に関して、これらの種類の被覆物の両方が、(
図4及び
図7の右側下に示したように)比較的良好な時効硬化の振る舞いを示し、及び(
図5及び
図8の右側に示したように)酸化抵抗に関して非常に良好な熱安定性を示した。
【0039】
結晶性PVD堆積層は、実質的に、二つ以上の(一般的には数個)の結晶粒子を備えた多結晶層である。結晶粒子の成長方法は、所望の層形態をもたらす。異なる形態は、異なる欠陥の量を備えることによって特徴付けられる。
【0040】
本発明の内容における欠陥密度との用語は、特に、A層またはB層の内側の粒界相の決められた面積または体積に含まれる欠陥に対応する面積または体積を参照している。
【0041】
本発明の内容における欠陥密度は、不規則な粒界相の個々の相比率から生じる、微細な点欠陥、線欠陥、及び面欠陥(例えば、空孔、割れ目、転位、積層欠陥)、と必然的に結びつける。本発明による層A及び層Bの欠陥密度は、例えば、X線回析(XRD)及び/または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて評価され得る。
【0042】
例として、TiAlNからなり、微粒子構造を示す約1マイクロメートル厚さのA層、TiAlTaNからなり、柱状粒子構造を示す約1マイクロメートル厚さのB層、及び前で述べた種類のいくつかのA層及びB層を含む約1マイクロメートル厚さの多層膜が、X線技術を用いて観察された。得られたX線スペクトルが
図9に示されている。
【0043】
観察された層AのX線スペクトルは、広域XRD信号52<2シータ<60°で特徴付けられている。本発明による一般的な単層Aは、主要な(002)配向を示しているべきである。これに対して、観察した層BのX線スペクトルは、層Aと比べて粒界相の低い量、及びそれ故に本発明の内容において低欠陥密度の現れである、同じ2シータ範囲におけるXRD信号が無いことで特徴付けられている。
【0044】
認識された(realized)X線実験によると、観察された層Aの構造は、ナノメートルサイズの粒子(<15nmの粒子サイズ)を備えており、及びそれ故に欠陥に富んだ粒界相比率を示している。
【0045】
図9にも示されるように、本発明による互いに交互に堆積した層A及び層Bを含む多層膜からの一般的なXRDパターンは、主要な(002)配向を示し、さらに、ある程度の粒界信号を示した。
【0046】
A層及びB層のそれぞれの厚さは、上で述べた好ましい実施形態によって制限されず、例えばいくつかの応用に対して、3nmから3000nmまたは3nmから500nmであり得る。
【0047】
いくつかの応用に対するA層のそれぞれの厚さは、好ましくは、(多層アーキテクチャを形成する)A層と交互に堆積された、それに対応するB層のそれぞれの厚さより少なくとも15%大きく、すなわち、A1層の厚さ≧1.15B1層の厚さ、A2層の厚さ≧1.15B2層の厚さ、…An層の厚さ≧1.15Bm層の厚さである。
【0048】
本発明のさらに好ましい実施形態において、A層のそれぞれの厚さは、A層と交互に堆積される、それに対応するB層のそれぞれの厚さより少なくとも25%大きい。
【0049】
本発明のもう一つの好ましい実施形態において、A層のそれぞれの厚さは、A層と交互に堆積される、それに対応するB層のそれぞれの厚さより30%から50%大きい。
【0050】
考案をまとめると、本発明による耐摩耗性被覆システム(20)は、互いに交互に積層したn個のA層(4)及びm個のB層(8)からなるタンタル含有多層膜(10)を含み、ここで、n及びmは1より大きい整数であり、多層膜(10)は立方晶構造を示しており、B層はタンタルを備えており、A層はB層より高い結晶密度を示していることを特徴としている。
【0051】
被覆システムにおけるA及びB層の化学組成は、好ましくは、原子パーセントの係数を含む以下の化学式で与えられる。
【0052】
A層に対して、Me1
1-xAlxNzX1-zであり、及びB層に対して、Me2
1-x―yAlxTayNzX1-zである。
【0053】
Me1はTi、Cr、V、Ta、Nb、Zr、Hf、Mo、Si及びWから一つ以上の元素であり、
Me2はTi、Cr、V、Nb、Zr、Hf、Mo、Si及びWから一つ以上の元素であり、
XはO、C、及びBから一つ以上の元素であり、
0.2≦x≦0.7、0.7≦z≦1、0.02≦y≦0.80である。
【0054】
B層の厚さは好ましくはA層の厚さより小さい:A1>B1、A2>B2、A3>B3、…An>Bm。
【0055】
好ましくは、A層の厚さはB層の厚さより少なくとも15%大きい:A1≧1.15B1、A2≧1.15B2、A3≧1.15B3、…An≧1.15Bm。
【0056】
本発明はまた、本体(1)及び本体(1)の表面の少なくとも一部に堆積され得る本発明の被覆システム(20)を備えている被覆本体を開示している。
【0057】
本発明による被覆本体に備えられた被覆システム(20)の多層膜(10)は好ましくはPVD技術によって堆積される。
【0058】
多層膜(10)のB層は、マグネトロンスパッタリングイオンプレーティング技術または高電離マグネトロンスパッタリング技術によって堆積され得る。
【0059】
A層は、アーク放電イオンプレーティング技術によって堆積され得る。
【0060】
本発明による被覆本体を製造する好ましい方法は、PVD技術による基板上へのA層及び/またはB層の堆積を含む。
【0061】
好ましくは、反応性物理気相堆積技術がA層及び/またはB層を堆積することに使用される。
【0062】
好ましくは、窒素比率及び/またはX要素に含まれる少なくとも一つの元素が、反応性気体から、または反応性気体混合物から、A層及び/またはB層内にそれぞれ組み込まれる。
【0063】
多層膜(10)、すなわち、A層及びB層は共に、アーク放電イオンプレーティング技術によって堆積され得る。
【0064】
この場合に、層A及びBにおける所望の欠陥密度が、それに対応するコイル電流を調節することによって調節され得る。
【0065】
好ましくは、A層及び/またはB層を堆積するためのソース材料として使用される少なくとも一つのターゲットは、粉末冶金技術によって作られる。
【符号の説明】
【0066】
1 被覆本体
2 接着促進層
4 層
8 層
10 多層膜
12 少なくとも一つの層
20 被覆システム